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特開2022-18707異常検知システム及び冷凍機、並びに異常検知方法、並びに異常検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018707
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】異常検知システム及び冷凍機、並びに異常検知方法、並びに異常検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20220120BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20220120BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
F25B49/02 570Z
F25B1/00 101F
G05B23/02 302V
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122016
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 友基
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 智
(72)【発明者】
【氏名】松倉 紀行
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達男
(72)【発明者】
【氏名】森田 克明
(72)【発明者】
【氏名】池田 龍司
(72)【発明者】
【氏名】岡 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】長原 健一
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223FF03
3C223FF12
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF35
3C223FF52
3C223GG01
(57)【要約】
【課題】異常検知の精度を向上させることのできる異常検知システム及び冷凍機、並びに異常検知方法、並びに異常検知プログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】異常検知システムは、冷凍機11の運転データを取得する取得部と、運転データが未学習データである場合に、運転データに基づいて、冷凍機11の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する作成部と、モデルにより推定した運転状態の推定値と、運転状態に対応する実測値とを比較して、運転データが外れ値か否かを判定する判定部と、運転データが外れ値でないと判定された場合に、モデルに基づいて、冷凍機11の異常検知を行う異常検知部とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象機器の運転データを取得する取得部と、
前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する作成部と、
前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する判定部と、
前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う異常検知部と、
を備える異常検知システム。
【請求項2】
前記判定部は、前記推定値及び前記実測値の誤差と、許容誤差範囲とに基づいて、前記運転データが外れ値か否かを判定する請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項3】
前記許容誤差範囲は、前記実測値の計測誤差に基づいて設定される請求項2に記載の異常検知システム。
【請求項4】
予め複数の運転モードが設定されており、前記運転データに基づいて前記対象機器の前記運転モードを特定するモード特定部を備え、
前記作成部は、特定された前記運転モードに対応して前記モデルを作成し、
前記異常検知部は、特定された前記運転モードに対応して作成された前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う請求項1から3のいずれか1項に記載の異常検知システム。
【請求項5】
前記運転モードは、停止状態、アイドリング状態、負荷状態が第1所定値未満である低負荷状態、負荷状態が前記第1所定値以上であり、前記第1所定値よりも大きな値に設定された第2所定値未満である運転状態、及び負荷状態が前記第2所定値以上である高負荷状態の少なくともいずれか2つである請求項4に記載の異常検知システム。
【請求項6】
前記対象機器は、熱媒としてブラインを用いた冷凍機であり、
前記運転モードは、停止状態、アイドリング状態、前記冷凍機は運転しており、圧縮機で圧縮されたガスの一部を前記圧縮機の入口側へバイパスするホットガスバイパス弁が開となっている状態、前記冷凍機は運転しており前記ホットガスバイパス弁が閉となっている状態、及び前記冷凍機は運転しており、前記ホットガスバイパス弁が閉となっており、前記冷凍機から出力される冷水の目標温度が0℃より大きい状態の少なくともいずれか2つである請求項4に記載の異常検知システム。
【請求項7】
圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮した冷媒を凝縮させる凝縮器と、
凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、
膨張された冷媒を蒸発させ、冷水を冷却する蒸発器と、
請求項1から6のいずれか1項に記載の異常検知システムと、
を備える冷凍機。
【請求項8】
対象機器の運転データを取得する工程と、
前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する工程と、
前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する工程と、
前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う工程と、
を有する異常検知方法。
【請求項9】
対象機器の運転データを取得する処理と、
前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する処理と、
前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する処理と、
前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う処理と、
をコンピュータに実行させるための異常検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検知システム及び冷凍機、並びに異常検知方法、並びに異常検知プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱源システムでは冷凍機が用いられている(例えば特許文献1)。冷凍機において異常が発生すると他設備へ影響を及ぼす可能性があるため、運転状態の監視が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5244420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷凍機の異常検知のためにモデル(疑似冷凍機モデル)を用いる場合には、冷凍機の正常な運転状態に基づいてモデル作成を行う必要がある。作成されたモデルが、冷凍機の正常な運転状態でない運転データに基づいてしまう場合には、モデルの再現精度が低下し、異常検知を正確に行うことができない可能性がある。なお、前述のようなモデルによる異常検知精度の低下は、冷凍機に限定されず起こり得る。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、異常検知の精度を向上させることのできる異常検知システム及び冷凍機、並びに異常検知方法、並びに異常検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様は、対象機器の運転データを取得する取得部と、前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する作成部と、前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する判定部と、前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う異常検知部と、を備える異常検知システムである。
【0007】
本開示の第2態様は、対象機器の運転データを取得する工程と、前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する工程と、前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する工程と、前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う工程と、を有する異常検知方法である。
【0008】
本開示の第3態様は、対象機器の運転データを取得する処理と、前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する処理と、前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する処理と、前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う処理と、をコンピュータに実行させるための異常検知プログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、異常検知の精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係る熱源システムの概略構成を示す図である。
図2】本開示の一実施形態に係るターボ冷凍機の具体的構成を示す図である。
図3】本開示の一実施形態に係る異常検知システムのハードウェア構成の一例を示した図である。
図4】本開示の一実施形態に係る異常検知システムが備える機能を示した機能ブロック図である。
図5】本開示の一実施形態に係る許容誤差範囲の例を示す図である。
図6】本開示の一実施形態に係る異常検知処理のフローチャートを示した図である。
図7】本開示の一実施形態に係る運転モード特定処理のフローチャートを示した図である。
図8】本開示の一実施形態に係る運転モード特定処理のフローチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示に係る異常検知システム及び冷凍機、並びに異常検知方法、並びに異常検知プログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、異常検知の対象機器として冷凍機を一例として説明するが、対象機器については冷凍機に限定されず様々な機器を対象とすることが可能である。例えば、発電機等の機器に対しても適用することが可能である。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態に係る熱源システム1の概略構成を示す図である。熱源システム1は、例えばビルや工場設備に設置される。熱源システム1は、空調機やファンコイル等の外部負荷3に供給する冷水に対して冷熱を与えるターボ冷凍機11、ターボ冷凍機12、ターボ冷凍機13を備えている。ターボ冷凍機11、ターボ冷凍機12、ターボ冷凍機13は、外部負荷3に対して並列に設置されている。なお、ターボ冷凍機の設置数は3台に限定されない。
【0013】
冷水流れからみた各ターボ冷凍機11,12,13の上流側には、それぞれ、冷水を圧送する冷水ポンプ21、冷水ポンプ22、冷水ポンプ23が設置されている。冷水ポンプ21、冷水ポンプ22、冷水ポンプ23によって、リターンヘッダ32からの冷水が各ターボ冷凍機11,12,13へと送られる。
【0014】
サプライヘッダ31には、各ターボ冷凍機11,12,13において得られた冷水が集められるようになっている。サプライヘッダ31に集められた冷水は、外部負荷3に供給される。外部負荷3にて空調等に供されて昇温した冷水は、リターンヘッダ32に送られる。冷水は、リターンヘッダ32において分岐され、各ターボ冷凍機11,12,13に送られる。
【0015】
サプライヘッダ31とリターンヘッダ32との間には、バイパス弁34を有するバイパス管33が設けられている。
【0016】
本開示の手法は、ターボ冷凍機のサイクルに依らず適用可能である。ターボ冷凍機の一例として、2段圧縮2段膨張サブクールサイクルの構成を図2に示す。図2は、ターボ冷凍機11、12、13の具体的構成の一例を示す図である。図2では、ターボ冷凍機11の具体的構成を示しているが、ターボ冷凍機12やターボ冷凍機13についても同様の構成である。熱媒としては不凍液(ブライン)が用いられている場合について説明するが、熱媒としてはブラインに限定されない。なお、図2の構成は一例であり、冷凍機であれば他の構成を適用することも可能である。そして、ターボ冷凍機には、後述する異常検知システム50が適用される。
【0017】
図2におけるターボ冷凍機11は、2段圧縮2段膨張サブクールサイクルの構成となっている。なお、図2に示す構成は一例であり他の構成を採用することもできる。すなわち、図2の構成に限定されない。ターボ冷凍機11は、冷媒を圧縮する圧縮機60と、圧縮機60によって圧縮された高温高圧のガス冷媒を凝縮する凝縮器62と、凝縮器62にて凝縮された液冷媒に対して過冷却を与えるサブクーラ63と、サブクーラ63からの液冷媒を膨張させる高圧膨張弁(膨張弁)64と、高圧膨張弁64に接続されるとともに圧縮機60の中間段および低圧膨張弁(膨張弁)65に接続される中間冷却器67と、低圧膨張弁65によって膨張させられた液冷媒を蒸発させる蒸発器66とを備えている。
【0018】
圧縮機60は、遠心式の2段圧縮機であり、インバータ70によって回転数制御された電動モータ72によって駆動されている。インバータ70は、制御盤74によってその出力が制御されている。圧縮機60の冷媒吸入口には、吸入冷媒流量を制御するインレットガイドベーン(以下「IGV」という。)79が設けられており、ターボ冷凍機11の容量制御が可能となっている。
【0019】
凝縮器62には、凝縮冷媒圧力を計測するための凝縮冷媒圧力センサPCが設けられている。
サブクーラ63は、凝縮器62の冷媒流れ下流側に、凝縮された冷媒に対して過冷却を与えるように設けられている。サブクーラ63の冷媒流れ下流側直後には、過冷却後の冷媒温度を計測する温度センサTsが設けられている。
凝縮器62及びサブクーラ63には、これらを冷却するための冷却伝熱管80が挿通されている。冷却水流量は流量計FL2により、冷却水出口温度は温度センサTcoutにより、冷却水入口温度は温度センサTcinにより計測されるようになっている。冷却水は、図示しない冷却塔において外部へと排熱された後に、再び凝縮器62及びサブクーラ63へと導かれるようになっている。
【0020】
中間冷却器67には、中間圧力を計測するための圧力センサPMが設けられている。
蒸発器66には、蒸発圧力を計測するための圧力センサPEが設けられている。蒸発器66において吸熱されることによって定格温度の冷水が得られる。蒸発器66には、外部負荷3へ供給される冷水を冷却するための冷水伝熱管82が挿通されている。冷水流量は流量計FL1により、冷水出口温度は温度センサToutにより、冷水入口温度はTinにより計測されるようになっている。
凝縮器62の気相部と蒸発器66の気相部との間には、ホットガスバイパス管76が設けられている。そして、ホットガスバイパス管76内を流れる冷媒の流量を制御するためのホットガスバイパス弁78が設けられている。ホットガスバイパス弁78によってホットガスバイパス流量を調整することにより、IGV79では制御が十分でない非常に小さな領域の容量制御が可能となっている。すなわち、負荷が小さいとき(冷やすものがないとき等)に蒸発器66の温度(圧力)が下がりすぎたり、圧縮機60に液冷媒が吸引されてしまうことを防ぎ、冷凍回路を安定化させることができる。
【0021】
異常検知システム50は、冷凍機に対して異常検知を行う。後述するように、冷凍機の正常な運転状態が推定可能なモデル(疑似冷凍機モデル)を用いて異常判定を行う。本実施形態では、数式モデル(説明変数と係数とで目的変数が表される数式モデル)を用いる場合を説明するが、モデルは数式である場合に限定されない。
【0022】
図3は、本実施形態に係る異常検知システム50のハードウェア構成の一例を示した図である。
図3に示すように、異常検知システム50は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、例えば、CPU111と、CPU111が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)112と、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)113と、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)114と、ネットワーク等に接続するための通信部115とを備えている。なお、大容量記憶装置としては、ソリッドステートドライブ(SSD)を用いることとしてもよい。これら各部は、バス118を介して接続されている。
【0023】
また、異常検知システム50は、キーボードやマウス等からなる入力部や、データを表示する液晶表示装置等からなる表示部などを備えていてもよい。
【0024】
なお、CPU111が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM112に限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。
【0025】
後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式でハードディスクドライブ114等に記録されており、このプログラムをCPU111がRAM113等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROM112やその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0026】
図4は、異常検知システム50が備える機能を示した機能ブロック図である。図4に示されるように、異常検知システム50は、取得部51と、モード特定部52と、作成部53と、判定部54と、異常検知部55とを備えている。
【0027】
取得部51は、冷凍機の運転データを取得する。運転データとは、冷凍機の運転状態を表す所定のパラメータの値である。このため、冷凍機には、所定の運転データを取得可能なように、計測器等が予め設置されている。なお、運転状態を示すものであれば、計測値だけでなく、冷凍機に対する指令値等を用いることも可能である。
【0028】
運転データは、例えば、各弁の開度情報や、蒸発飽和温度、冷水出口温度、蒸発器圧力(蒸発圧力)、中間冷却器圧力(中間圧力)、凝縮器圧力(凝縮冷媒圧力)、冷凍機負荷率等である。なお、運転データは、冷凍機の構成や、後述する冷凍機のモデルなどに応じて適宜選定され、上記に限定されない。
【0029】
モード特定部52は、予め複数の運転モードが設定されており、運転データに基づいて冷凍機の運転モードを特定する。運転モードとは、冷凍機に運転状態を複数の状態に区分したものである。
【0030】
例えば、運転モードは、Inactive状態、Idle状態、Low Load状態、Active状態、及びHigh Load状態とすることができる。なお、運転状態としては、Inactive状態、Idle状態、Low Load状態、Active状態、及びHigh Load状態の少なくともいずれか2つを用いることとしてもよい。すなわち、複数の運転モードが予め設定されており、運転データに基づいて1つの運転モードが選択される。
【0031】
Inactive状態とは、停止状態である。すなわち、Inactive状態は、冷凍機が運転しておらず停止している状態である。
【0032】
Idle状態とは、アイドリング状態である。すなわち、Idle状態は、軽負荷のため圧縮機60が動いていない状態である。換言すると、Idle状態は、稼働のための待機状態である。
【0033】
Low Load状態とは、冷凍機は運転しており(圧縮機60が動作しており)、圧縮機60で圧縮されたガスの一部を圧縮機60の入口側へバイパスするホットガスバイパス弁78が開となっている状態である。すなわち、Low Load状態は、冷凍機が運転しているものの負荷状態が低く、ホットガスバイパス弁78が開となっている場合の状態である。
【0034】
Active状態とは、冷凍機は運転しておりホットガスバイパス弁78が閉となっている状態である。すなわち、Active状態は、冷凍機が運転しており負荷状態が低くないため、ホットガスバイパス弁78が閉となっている場合の状態である。
【0035】
High Load状態とは、冷凍機は運転しており、ホットガスバイパス弁78が閉となっており、冷凍機から出力される冷水の目標温度が0℃より大きい状態である。すなわち、High Load状態は、冷凍機が運転しており負荷状態が低くないため、ホットガスバイパス弁78が閉となっている場合であり、冷凍機から出力される冷水の目標温度が0℃より大きい状態である。特にHigh Load状態は、ブライン機特有の運転状態である。熱媒としてブラインを用いる場合には、冷水の目標温度を0℃以下に設定することができる。このため、ブライン機では、2点仕様を採用することができる。2点仕様では、目標温度が2つ設定されており切り替え可能とされる。例えば、目標温度が-5℃と7℃の2点設定される。そして、通常運転時では目標温度を-5℃として運転を行うが、負荷が増加した場合に目標温度を7℃へ切り替えて運転を行う。すなわち、High Load状態は、ブライン機特有の運転状態である。
【0036】
このように複数の運転モードが設定されており、モード特定部52は、運転データに基づいて、冷凍機の現在の運転状態に対応する運転モードを特定する。運転データは、冷凍機の現在の運転状態を表すデータであるため、対応する運転モードを特定することができる。なお、運転モードの特定にあたっては、取得した運転データから運転モードの判別を行うこととしてもよいし、判別がしやすいように取得した運転データに基づいて所定の状態量(運転モードが判別可能な値)を算出し、状態量に基づいて運転モードの判別を行うこととしてもよい。
【0037】
運転モードの特定方法の具体例については後述する。運転モードが特定されると、特定された運転モードは、作成部53へ出力される。
【0038】
なお、運転モードは、負荷状態に基づいて区分けすることとしてもよい。例えば、運転モードは、停止状態、アイドリング状態、負荷状態が第1所定値未満である低負荷状態、負荷状態が第1所定値以上であり、第1所定値よりも大きな値に設定された第2所定値未満である運転状態、及び負荷状態が第2所定値以上である高負荷状態(過負荷状態)としてもよい。なお、このように運転モードが設定された場合に、少なくともいずれか2つを用いることとしてもよい。すなわち、複数の運転モードが予め設定されており、運転データに基づいて1つの運転モードが選択される。
【0039】
作成部53は、取得した運転データが未学習データである場合に、運転データに基づいて、冷凍機の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する。具体的には、特定された運転モードに対応して、すでに学習済の運転データ(以下、「学習済データ」という)を取得する。学習済データは、各運転モードに対応したモデルにおいて既に学習が行われた(モデルへの反映が完了した)データであり、運転モード毎に保存されている。
【0040】
このため、作成部53では、特定された運転モードに対応する学習済データを取得し、新たに取得した運転データとの比較を行う。モデルには、学習対象範囲が設定されている。学習対象範囲とは、モデルの学習に用いる運転データの範囲である。そして、学習対象範囲は、所定の小領域に分割されている(例えば、50領域)。例えば、学習対象範囲は、設定したフルスケールを設定個数で等分割される。そして、各小領域に所定個数(例えば20個)のデータが入ることが可能とされる。すなわち、モデルの学習に用いた学習済データは対応する小領域のデータ数としてカウントされ、小領域の学習済データ数が所定個数に達すると、該小領域は学習済領域となる。なお、学習済データ数が所定個数に達していない小領域は、未学習領域となる。
【0041】
作成部53は、運転モードに対応する学習済データを取得し、該運転モードにおいて未学習領域があるか否かを判定する。そして、未学習領域がある場合に、新たに取得した運転データが、未学習領域に対応したデータであるか否かを判定する。
【0042】
新たに取得した運転データが未学習領域に対応したデータである場合には、新たに取得した運転データが初回学習であるか否かを判定する。すなわち、新たに取得したデータが、未学習領域の学習済データとが一致していないか否かが判定される。これにより、新たに取得したデータが、現在の運転モードにおいて、まだモデルに反映されていないデータであることが判定される。
【0043】
そして、新たに取得した運転データが初回学習である場合には、該運転データを、モデルに反映(フィッティング)させる。このようにして、作成部53は、特定された運転モードに対応してモデルを作成(更新)する。
【0044】
作成部53においてモデルが作成(更新)されると、判定部54における処理が行われる。
【0045】
判定部54は、モデルにより推定した運転状態の推定値と、運転状態に対応する実測値とを比較して、運転データが外れ値か否かを判定する。推定値及び実測値は、等しいパラメータに対応した値となる。
【0046】
具体的には、判定部54は、推定値及び実測値の誤差と、許容誤差範囲とに基づいて、運転データが外れ値か否かを判定する。図5は、許容誤差範囲の例を示す図である。図5では、縦軸を実測値(センサー値)とし、横軸を推定値(モデル予測値)としており、実測値及び推定値を各軸とする平面領域において許容誤差範囲が設定されている。縦軸を実測値とし横軸を推定値としているため、実測値と推定値が一致する場合には、平面上において45°傾斜の線(図5のL1)上に、実測値と推定値とを組合せた点が位置する。しかしながら、計測器等には計測誤差があるため、スケールファクタ誤差(傾き誤差)とバイアス誤差(切片の誤差)を加味して、て45°傾斜の線(図5のL1)を含むように、許容誤差範囲が設定される。すなわち、許容誤差範囲は、実測値の計測誤差に基づいて設定される。
【0047】
このように、判定部54は、推定値及び実測値により表される平面上の点が、許容誤差範囲内であるか否かを判定する。推定値及び実測値により表される平面上の点が、許容誤差範囲内でない場合には、モデルに反映した新しく取得した運転データが正常状態の運転状態を示すものではない可能性が高いため、該運転データを外れ値(異常値)とする。例えば、運転データの取得のための計測器が故障している場合や、冷凍機の運転状態が異常状態となっている場合に、運転データが外れ値となる。
【0048】
運転データが外れ値となる場合には、該運転データをモデルに反映すると、モデルが正常状態における冷凍機の運転状態を示すことができない場合がある。このため、運転データが外れ値となる場合には、新しく取得した運転データを反映していないモデル(既に作成済のモデル)を用いて異常判定を行い、運転データが外れ値とならない場合には、新しく取得した運転データを反映したモデルを用いて異常判定を行う。
【0049】
異常検知部55は、運転データが外れ値でないと判定された場合に、モデル(該運転データを反映したモデル)に基づいて、冷凍機の異常検知を行う。異常検知部55は、特定された運転モードに対応したモデルに基づいて、冷凍機の異常検知を行う。
【0050】
異常検知部55では、モデルにより推定した運転状態と、該運転状態の実測値との偏差を算出し、異常検知を行う。例えば、該偏差が閾値以上である場合に、冷凍機において異常が発生していると判定する。また、モデルにより推定した運転状態と、該運転状態の実測値とに基づいて異常の度合い(どれくらい異常なのかを示し異常値)により異常検知を行うこととしてもよい。また、モデルを用いて複数の運転状態を推定することが可能であれば、各運転状態に対応して異常値を算出し、総合して(例えば異常値の合計を算出して)異常検知を行うこととしてもよい。
【0051】
次に、上述の異常検知システム50による異常検知処理の一例について図6を参照して説明する。図6は、本実施形態に係る異常検知処理の手順の一例を示すフローチャートである。図6に示すフローは、例えば、冷凍機の監視を開始している場合において所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0052】
まず、冷凍機から運転データを取得する(S101)。
【0053】
次に、運転データに基づいて状態量を算出する(S102)。状態量とは、運転データに基づいて算出される運転モードを判別可能な値であり、運転データをそのまま用いて運転モードを判別可能であればS102は省略することとしてもよい。
【0054】
次に、運転モードの特定を行う(S103)。S103では、予め設定された複数の運転モード(Inactive状態、Idle状態、Low Load状態、Active状態、及びHigh Load状態)のうち、現在の冷凍機の運転状態に対応する運転モードが特定される。
【0055】
次に、特定された運転モードに対応する学習済データを取得する(S104)。モデルに反映された運転データは、運転モード毎に学習済データとして保存されており、運転モードが特定されることで、対応する学習済データが取得される。
【0056】
次に、新たに取得した運転データが、未学習領域に対応したデータであるか否かを判定する(S105)。新たに取得した運転データが、未学習領域に対応したデータでない場合(S105のNO判定)には、学習済みのモデルを取得する(S106)。S106で取得される学習済みのモデルとは、図6のフローの前回以前の実行時に作成されたモデルであり、新たしく取得された運転データは反映されていない。
【0057】
新たに取得した運転データが、未学習領域に対応したデータである場合(S105のYES判定)には、新たに取得した運転データが初回学習であるか否かを判定する(S107)。新たに取得した運転データが初回学習でない場合(S107のNO判定)には、学習済みのモデルを取得する(S108)。
【0058】
新たに取得した運転データが初回学習である場合(S107のYES判定)には、新しく取得した運転データを反映してモデルを作成する(S109)。すなわち、S109では、新しく取得した運転データに基づいて、運転モードに対応するモデルの更新が行われる。
【0059】
次に、モデルにより推定した運転状態の推定値と、運転状態に対応する実測値とを比較して、新しく取得した運転データが外れ値であるか否かを判定する(S110)。新しく取得した運転データが外れ値である場合(S110のYES判定)には、S106を実行する。
【0060】
新しく取得した運転データが外れ値でない場合(S110のNO判定)には、新しく取得した運転データを反映したモデル(S109で作成したモデル)を、異常検知に使用するモデルとして設定しモデルを更新する(S111)。
【0061】
そして、モデルに基づいて異常検知を行う(S112)。なお、異常検知については、例えば、モデルにより推定した運転状態と、該運転状態の実測値とに基づいて異常の度合い(どれくらい異常なのかを示し異常値)により異常検知を行うこととしてもよい。また、モデルを用いて複数の運転状態を推定することが可能であれば、各運転状態に対応して異常値を算出し、総合して(例えば異常値の合計を算出して)異常検知を行うこととしてもよい。
【0062】
このように処理が行われることによって、運転モードに対応して異常検知が行われる。また、外れ値となる運転データが反映されていないモデルを用いて異常検知を行うことが可能となる。
【0063】
次に、上述の異常検知システム50による運転モード特定処理の一例について図7及び図8を参照して説明する。図7及び図8は、本実施形態に係る運転モード特定処理の手順の一例を示すフローチャートである。図7及び図8に示すフローは、例えば、S103を実行する場合に開始される。図8は、図7のフローの続きを示している。運転データには、図7のフローを実行するために必要な情報が含まれているものとする。
【0064】
まず、軽故障のフラグF1が1であるか否かを判定する(S201)。例えば、軽故障の判断処理により軽故障のフラグF1が1となる。
【0065】
軽故障のフラグF1が1である場合(S201のYES判定)には、軽故障が発生しているとし(S202)、処理を終了する。処理を終了する場合には、S104以降の処理は実行されない。
【0066】
軽故障のフラグF1が1でない場合(S201のNO判定)には、冷凍機が運転中であることを表すフラグF2が0であるか否かを判定する(S203)。フラグF2は、冷凍機が運転した場合に1となる。
【0067】
冷凍機が運転中であることを表すフラグF2が0である場合(S203のYES判定)には、ホットガスバイパス弁78の開度HGBPが全開であり、かつ、低圧膨張弁65の開度EX1が全開であり、かつ、高圧膨張弁64の開度EX2が全開であるか否かを判定する(S204)。S204においてYES判定である場合には、モード継続時系列数C1が閾値CT1以上であるか否かを判定する(S205)。モード継続時系列数C1とは、同運転モードがどれほど連続するかの数え値となる。なお、後述するモード継続時系列数C2からC5もC1と同様である。
【0068】
モード継続時系列数C1が閾値CT1以上である場合(S205のYES判定)には、運転モードをInactive状態と特定し(S206)、S104を実行する。
【0069】
モード継続時系列数C1が閾値CT1以上でない場合(S205のNO判定)には、再度S205が実行される。すなわち、モード継続時系列数C1が時間経過とともに増加し、YES判定となるまでS205が実行される。
【0070】
S204においてNO判定である場合には、蒸発器圧力(Epp)が0より大きく、かつ、中間冷却器圧力(Mpp)が0より大きく、かつ、凝縮器圧力(Cpp)が0より大きいか否かを判定する(S207)。S207がYES判定である場合には、遷移運転であるとし(S208)、処理を終了する。処理を終了する場合には、S104以降の処理は実行されない。遷移運転とは、いずれかの運転モードに移り変わる途中の状態である。
【0071】
S207がNO判定である場合には、データ欠損であるとし(S209)、処理を終了する。処理を終了する場合には、S104以降の処理は実行されない。データ欠損とは、必要な運転データが空である可能性がある状態である。
【0072】
冷凍機が運転中であることを表すフラグF2が0でない(すなわち1である)場合(S203のNO判定)には、ホットガスバイパス弁78の開度HGBPが全開であり、かつ、低圧膨張弁65の開度EX1が全開であり、かつ、高圧膨張弁64の開度EX2が全開であるか否かを判定する(S210)。S210においてYES判定である場合には、モード継続時系列数C2が閾値CT2以上であるか否かを判定する(S211)。なお、S210のYES判定では、圧縮機60は動いていない状態であることが推定され、Idle状態の可能性があることを判定することができる。なお、Idle状態の特定方法については、S210の判定に限定されず、他の方法を採用することとしてもよい。
【0073】
モード継続時系列数C2が閾値CT2以上である場合(S211のYES判定)には、運転モードをIdle状態と特定し(S212)、S104を実行する。
【0074】
モード継続時系列数C2が閾値CT2以上でない場合(S211のNO判定)には、再度S211が実行される。すなわち、モード継続時系列数C2が時間経過とともに増加し、YES判定となるまでS211が実行される。
【0075】
S210においてNO判定である場合には、ホットガスバイパス弁78の開度HGBPが全開でなく、かつ、低圧膨張弁65の開度EX1が全開でなく、かつ、高圧膨張弁64の開度EX2が全開でないか否かを判定する(S213)。S213でNO判定である場合には、遷移運転であるとし(S214)、処理を終了する。処理を終了する場合には、S104以降の処理は実行されない。
【0076】
S213でYES判定である場合には、ホットガスバイパス弁78の開度HGBPが全閉であるか否かを判定する(S215)。ホットガスバイパス弁78の開度HGBPが全閉でない場合(S215のNO判定)には、モード継続時系列数C3が閾値CT3以上であるか否かを判定する(S216)。
【0077】
モード継続時系列数C3が閾値CT3以上である場合(S216のYES判定)には、運転モードをLow Load状態と特定し(S217)、S104を実行する。
【0078】
モード継続時系列数C3が閾値CT3以上でない場合(S216のNO判定)には、再度S216が実行される。すなわち、モード継続時系列数C3が時間経過とともに増加し、YES判定となるまでS216が実行される。
【0079】
ホットガスバイパス弁78の開度HGBPが全閉である場合(S215のYES判定)には、冷水の媒体の種類Bが水ではなく、かつ、設定冷水出口温度(冷水の目標温度)Etoが0℃より大きいか否かを判定する(S218)。S218においてNO判定である場合には、モード継続時系列数C4が閾値CT4以上であるか否かを判定する(S219)。
【0080】
モード継続時系列数C4が閾値CT4以上である場合(S219のYES判定)には、運転モードをActive状態と特定し(S220)、S104を実行する。
【0081】
モード継続時系列数C4が閾値CT4以上でない場合(S219のNO判定)には、再度S219が実行される。すなわち、モード継続時系列数C4が時間経過とともに増加し、YES判定となるまでS219が実行される。
【0082】
S218においてYES判定である場合には、モード継続時系列数C5が閾値CT5以上であるか否かを判定する(S221)。
【0083】
モード継続時系列数C5が閾値CT5以上である場合(S221のYES判定)には、運転モードをHigh Load状態と特定し(S222)、S104を実行する。
【0084】
モード継続時系列数C5が閾値CT5以上でない場合(S221のNO判定)には、再度S221が実行される。すなわち、モード継続時系列数C5が時間経過とともに増加し、YES判定となるまでS221が実行される。
【0085】
このように、運転モードが特定される。特に上記フローでは、冷凍機に設けた弁の開度情報に基づいて運転モードを特定する場合を示しているが、各運転モードを判別することができれば、上記フローに限定されない。
【0086】
次に、モデルの具体的例を説明する。
【0087】
前述の通り、モデルは、冷凍機の所定の運転状態を推定可能な疑似モデルである。このため、異常検知の対象の運転状態に応じて様々なモデルを採用可能である。また、モデルの方式についても、冷凍機の所定の運転状態を推定可能であれば数式モデル等の様々な表現形式のモデルを使用することが可能である。
【0088】
例えば、冷凍機のモデルは、数式モデルで表すと、説明変数と、目的変数と、係数とを用いて表される。具体的には、蒸発器圧力を推定対象の運転状態(目的変数)とすると、Inactive状態の運転モードに対応したモデルは、以下の式(1)として表される。
【0089】
【数1】
【0090】
式(1)において、Eppは蒸発器圧力であり、Mppは中間冷却器圧力であり、Cppは凝縮器圧力である。そして、p´及びp´は、それぞれ係数となる。すなわち、式(1)では、Epp、Mpp、Cpp、を運転データとして係数であるp´及びp´が回帰的に決定されること(フィッティングされること)で、運転データに適応するモデルが生成される。そして、Mpp、Cppが入力されること、Eppとして蒸発器圧力を推定可能となる。
【0091】
また、Idle状態、Low Load状態、Active状態、及びHigh Load状態のそれぞれに対応したモデルは、以下の式(2)及び式(3)として表される。
【0092】
【数2】
【0093】
【数3】
【0094】
式(2)及び式(3)において、TTは蒸発飽和温度であり、Etoは冷水出口温度であり、Lは冷凍機負荷率であり、f(TT)は、蒸発飽和温度から飽和蒸発圧力を求める関数である。そして、p、p、p、及びpは、それぞれ係数となる。
【0095】
すなわち、式(2)及び式(3)では、Epp、TT、Eto、Lを運転データとして係数であるp、p、p、及びpが回帰的に決定されること(フィッティングされること)で、運転データに適応するモデルが生成される。
【0096】
なお、p、p、p、及びpは、各運転モードのそれぞれに対応した運転データに対応してフィッティングが行われるため、各運転モードのそれぞれに対応した値となる。すなわち、式(2)及び式(3)は、Idle状態、Low Load状態、Active状態、及びHigh Load状態の運転モード毎にp、p、p、及びpが異なるため、各運転モードに対応してモデルとなる。
【0097】
そして、運転モードに対応した係数に基づく式(2)及び式(3)に対して、TT、Eto、Lが入力されること、Eppとして蒸発器圧力を推定可能となる。
【0098】
なお、式(1)から式(3)は、モデルの一例を示しており、本実施形態におけるモデルは上記に限定されない。
【0099】
本実施形態では、各運転モードに対応して処理を行うこととしたが、運転モードを判別せず、モデルを作成して処理(例えば外れ値判定)を行うことも可能である。
【0100】
以上説明したように、本実施形態に係る異常検知システム及び冷凍機、並びに異常検知方法、並びに異常検知プログラムによれば、冷凍機から取得した運転データが未学習データである場合に、運転データに基づいてモデルを作成する。そして、作成したモデルを用いた運転状態の推定値と、実測値とを比較して、モデル作成に用いた運転データが外れ値(異常値)であるか否かを判定する。そして、運転データが外れ値でないと判定された場合に、作成したモデルにより冷凍機の異常検知が行われる。これによって、未学習である運転データが取得された場合に、運転データが外れ値か否かを判定し、外れ値でない運転データに基づくモデルを用いて異常検知を行うことができる。このため、異常検知の精度を向上させることができる。
【0101】
また、運転データに基づいて冷凍機の運転モードを特定し、特定された運転モードに対応してモデルが作成されて異常検知に用いられる。このため、異常検知の精度を向上させることが可能となる。
【0102】
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。
【0103】
以上説明した各実施形態に記載の異常検知システム及び冷凍機、並びに異常検知方法、並びに異常検知プログラムは例えば以下のように把握される。
本開示に係る異常検知システム(50)は、対象機器の運転データを取得する取得部(51)と、前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する作成部(53)と、前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する判定部(54)と、前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う異常検知部(55)と、を備える。
【0104】
本開示に係る異常検知システム(50)によれば、対象機器から取得した運転データが未学習データである場合に、運転データに基づいてモデルを作成する。そして、作成したモデルを用いた運転状態の推定値と、実測値とを比較して、モデル作成に用いた運転データが外れ値(異常値)であるか否かを判定する。そして、運転データが外れ値でないと判定された場合に、作成したモデルにより対象機器の異常検知が行われる。これによって、未学習である運転データが取得された場合に、運転データが外れ値か否かを判定し、外れ値でない運転データに基づくモデルを用いて異常検知を行うことができる。このため、異常検知の精度を向上させることができる。
【0105】
本開示に係る異常検知システム(50)は、前記判定部(54)は、前記推定値及び前記実測値の誤差と、許容誤差範囲とに基づいて、前記運転データが外れ値か否かを判定することとしてもよい。
【0106】
本開示に係る異常検知システム(50)によれば、推定値と実測値との誤差に基づくことによって、運転データが外れ値であるか否かを判定することができる。
【0107】
本開示に係る異常検知システム(50)は、前記許容誤差範囲は、前記実測値の計測誤差に基づいて設定されることとしてもよい。
【0108】
本開示に係る異常検知システム(50)によれば、許容誤差範囲が実測値の計測誤差に基づいて設定されることによって、より効果的に外れ値の判定処理を行うことが可能となる。
【0109】
本開示に係る異常検知システム(50)は、予め複数の運転モードが設定されており、前記運転データに基づいて前記対象機器の前記運転モードを特定するモード特定部(52)を備え、前記作成部(53)は、特定された前記運転モードに対応して前記モデルを作成し、前記異常検知部(55)は、特定された前記運転モードに対応して作成された前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行うこととしてもよい。
【0110】
本開示に係る異常検知システム(50)によれば、運転データに基づいて対象機器の運転モードを特定し、特定された運転モードに対応してモデルが作成されて異常検知に用いられる。このため、異常検知の精度を向上させることが可能となる。
【0111】
本開示に係る異常検知システム(50)は、前記運転モードは、停止状態、アイドリング状態、負荷状態が第1所定値未満である低負荷状態、負荷状態が前記第1所定値以上であり、前記第1所定値よりも大きな値に設定された第2所定値未満である運転状態、及び負荷状態が前記第2所定値以上である高負荷状態の少なくともいずれか2つであることとしてもよい。
【0112】
本開示に係る異常検知システム(50)によれば、運転モードとして、停止状態、アイドリング状態、低負荷状態、運転状態、及び高負荷状態の少なくともいずれか2つが設定されるため、負荷状況に対応して運転モードを区分することができる。すなわち、複数の運転モードが予め設定されており、運転データに基づいて1つの運転モードが選択される。
【0113】
本開示に係る異常検知システム(50)は、前記対象機器は、熱媒としてブラインを用いた冷凍機であり、前記運転モードは、停止状態、アイドリング状態、前記冷凍機は運転しており、圧縮機(60)で圧縮されたガスの一部を前記圧縮機(60)の入口側へバイパスするホットガスバイパス弁(78)が開となっている状態、前記冷凍機は運転しており前記ホットガスバイパス弁(78)が閉となっている状態、及び前記冷凍機は運転しており、前記ホットガスバイパス弁(78)が閉となっており、前記冷凍機から出力される冷水の目標温度が0℃より大きい状態の少なくともいずれか2つであることとしてもよい。
【0114】
本開示に係る異常検知システム(50)によれば、運転モードとして、停止状態、アイドリング状態、冷凍機は運転しており、ホットガスバイパス弁(78)が開となっている状態、冷凍機は運転しておりホットガスバイパス弁(78)が閉となっている状態、及び冷凍機は運転しており、ホットガスバイパス弁(78)が閉となっており、冷凍機から出力される冷水の目標温度が0℃より大きい状態の少なくともいずれか2つが設定されるため、冷凍機の運転状態の変化に対応して運転モードを区分することができる。すなわち、複数の運転モードが予め設定されており、運転データに基づいて1つの運転モードが選択される。
【0115】
本開示に係る冷凍機は、圧縮機(60)と、前記圧縮機(60)で圧縮した冷媒を凝縮させる凝縮器(62)と、凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、膨張された冷媒を蒸発させ、冷水を冷却する蒸発器(66)と、上記の異常検知システム(50)と、を備える。
【0116】
本開示に係る異常検知方法は、対象機器の運転データを取得する工程と、前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する工程と、前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する工程と、前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う工程と、を有する。
【0117】
本開示に係る異常検知プログラムは、対象機器の運転データを取得する処理と、前記運転データが未学習データである場合に、前記運転データに基づいて、前記対象機器の所定の運転状態を推定可能なモデルを作成する処理と、前記モデルにより推定した前記運転状態の推定値と、前記運転状態に対応する実測値とを比較して、前記運転データが外れ値か否かを判定する処理と、前記運転データが外れ値でないと判定された場合に、前記モデルに基づいて、前記対象機器の異常検知を行う処理と、をコンピュータに実行させる。
【符号の説明】
【0118】
1 :熱源システム
3 :外部負荷
11~13 :ターボ冷凍機(冷凍機)
21~23 :冷水ポンプ
31 :サプライヘッダ
32 :リターンヘッダ
33 :バイパス管
34 :バイパス弁
50 :異常検知システム
51 :取得部
52 :モード特定部
53 :作成部
54 :判定部
55 :異常検知部
60 :圧縮機
62 :凝縮器
63 :サブクーラ
64 :高圧膨張弁(膨張弁)
65 :低圧膨張弁(膨張弁)
66 :蒸発器
67 :中間冷却器
70 :インバータ
72 :電動モータ
74 :制御盤
76 :ホットガスバイパス管
78 :ホットガスバイパス弁
79 :インレットガイドベーン(IGV)
80 :冷却伝熱管
82 :冷水伝熱管
111 :CPU
112 :ROM
113 :RAM
114 :ハードディスクドライブ
115 :通信部
118 :バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8