(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187081
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61D 17/06 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
B61D17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094893
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直茂
(72)【発明者】
【氏名】木野村 晃
(72)【発明者】
【氏名】大澤 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴之
(57)【要約】
【課題】
前面妻構体に衝撃力が加わったときに発生する反力を緩和することが可能な鉄道車両を提供すること。
【解決手段】
台枠11と、台枠11の軌道方向の端部に立設される前面妻構体12と、台枠11の枕木方向の両端部に立設される側構体13と、を有する鉄道車両1であって、前面妻構体12は、鉄道車両1の先頭面をなす妻板121と、妻板121を支える妻柱122とからなり、側構体13は、鉄道車両1の側面をなす側板131と、軌道方向に並び、側板を支える複数の側柱132と、からなる鉄道車両1において、側柱132のうちの、最も前面妻構体12に近い位置に配置される隅柱132Aが、妻柱122よりも鉄道車両1の後方側であって、妻板121の枕木方向の端部と、側板131の軌道方向の前面妻構体12側の端部と、が交わる角部22から所定の距離をもった位置に配置されていること。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台枠と、前記台枠の軌道方向の端部に立設される前面妻構体と、前記台枠の枕木方向の両端部に立設される側構体と、を有する鉄道車両であって、前記前面妻構体は、鉄道車両の先頭面をなす妻板と、前記妻板を支える妻柱とからなり、前記側構体は、鉄道車両の側面をなす側板と、軌道方向に並び、前記側板を支える複数の側柱と、からなる鉄道車両において、
前記側柱のうちの、最も前記前面妻構体に近い位置に配置される隅柱が、前記妻柱よりも鉄道車両の後方側であって、前記妻板の枕木方向の端部と、前記側板の軌道方向の前記前面妻構体の側の端部と、が交わる角部から所定の距離をもった位置に配置されていること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記所定の距離は、100mmから200mmの間であること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄道車両において、
前記隅柱と、前記角部との間に、平板状の補強リブが、鉄道車両の高さ方向に複数並んで設けられていること、
を特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台枠と、台枠の軌道方向の端部に立設される前面妻構体と、台枠の枕木方向の両端部に立設される側構体と、を有する鉄道車両であって、前面妻構体は、鉄道車両の先頭面をなす妻板と、妻板を支える妻柱とからなり、側構体は、鉄道車両の側面をなす側板と、軌道方向に並び、側板を支える複数の側柱と、からなる鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車体は、特許文献1にも開示されるように、床面をなす台枠と、台枠の軌道方向の両端部に立設されることで車体の先頭部または連結部をなす妻構体(以下、車体の先頭部をなす妻構体を前面妻構体とする)と、台枠の枕木方向の両端部に立設されることで車体の側面をなす側構体と、妻構体および側構体の上端部に配置されることで車体の屋根をなす屋根構体とにより6面体をなすように構成される。
【0003】
このような鉄道車両は、例えば、
図5に示す鉄道車両6のように、前面妻構体62が、鉄道車両6の先頭面をなす妻板621と、妻板621を支える妻柱622とからなる。妻板621は、妻板621の枕木方向の中央部に、鉄道車両6の内部と外部を連通する貫通路のための開口部621aが設けられ、さらに、開口部621aを挟むようにして、一対の窓開口621bが設けられている。窓開口621bは、窓ガラスがはめ込まれ、窓として用いられる。また、一対の妻柱622が、妻板621の開口部621aを挟むようにして配置され、妻板621の車体の内方側の面に溶接されている。
【0004】
また、側構体63は、鉄道車両6の側面をなす側板631と、軌道方向に並び、側板631を支える複数の側柱632とからなる。なお、側柱632のうち、前面妻構体62に近い位置に配置される側柱632を隅柱632Aとし、その他を側柱632Bとする。
【0005】
隅柱632Aは、妻板621の枕木方向の端部と、側板631の軌道方向の前面妻構体62側の端部とが交わる角部64に配置されており、側板631の車体内方側の面だけでなく、妻板621の車体内方側の面にも結合されている。これにより、妻柱622と隅柱632Aとは、枕木方向に一列に並んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には次のような問題があった。
例えば、鉄道車両6が通過する直前の踏切内に大型トラックが侵入し、当該大型トラックに鉄道車両6が正面から衝突するという事故が発生したとする。大型トラックの荷台は、鉄道車両6の台枠11よりも高い位置に位置していることが多いため、
図6(a)に示すように、衝突の衝撃力Fが、前面妻構体62に負荷されることがある。台枠11よりも高い位置で前面妻構体62に衝撃力Fが負荷されると、妻柱622と隅柱632Aとは、枕木方向に一列に並んでいるため、
図6(b)に示すように、衝撃力Fによって、妻柱622と隅柱632Aとが同時に変形され、瞬間的に大きい反力が発生し、車体の破壊を招く他、鉄道車両6に乗っている乗客、乗務員に強い衝撃(加速度)が加わり、負傷するおそれがあった。
【0008】
衝撃力Fにより瞬間的に大きい反力が発生することを防止するためには、妻柱622と隅柱632Aの強度を従来のものよりも下げ、変形しやすくすることで衝撃力Fを吸収することが考えられる。しかし、妻柱622と隅柱632Aの強度を下げると、前面妻構体62に衝撃力Fが負荷されたときの、前面妻構体62や側構体63の変形量が増大し、乗務員室のサバイバルゾーンの確保が困難となってしまうため、採用できない。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、前面妻構体に衝撃力が加わったときに発生する反力を緩和することが可能な鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の鉄道車両は、次のような構成を有している。
(1)台枠と、台枠の軌道方向の端部に立設される前面妻構体と、台枠の枕木方向の両端部に立設される側構体と、を有する鉄道車両であって、前面妻構体は、鉄道車両の先頭面をなす妻板と、妻板を支える妻柱とからなり、側構体は、鉄道車両の側面をなす側板と、軌道方向に並び、側板を支える複数の側柱と、からなる鉄道車両において、側柱のうちの、最も前面妻構体に近い位置に配置される隅柱が、妻柱よりも鉄道車両の後方側であって、妻板の枕木方向の端部と、側板の軌道方向の前面妻構体の側の端部と、が交わる角部から所定の距離をもった位置に配置されていること、を特徴とする。
【0011】
(1)に記載の鉄道車両によれば、妻柱と隅柱とが、軌道方向に距離を持って配置されることになるため、障害物に衝突した場合など、前面妻構体に衝撃力が加わったときに、妻柱が衝撃を受けるタイミングと隅柱が衝撃を受けるタイミングをずらすことができる。つまり、妻柱と隅柱との間をクラッシャブルゾーンとすることができるため、前面妻構体に加わる衝撃を吸収することができ、発生する反力のピーク値を緩和することができる。
【0012】
また、妻柱が衝撃を受けるタイミングと隅柱が衝撃を受けるタイミングをずらすことで衝撃力を吸収するため、妻柱と隅柱の強度を従来のものよりも下げる必要がなく、乗務員室のサバイバルゾーンの確保も容易となる。
【0013】
(2)(1)に記載の鉄道車両において、所定の距離は、100mmから200mmの間であること、を特徴とする。
【0014】
(2)に記載の鉄道車両によれば、車体の強度を十分に保ちつつ、クラッシャブルゾーンを確保することが可能である。
【0015】
クラッシャブルゾーンが大きいほど衝撃力の吸収が容易となる。しかし、クラッシャブルゾーンを大きくするために、隅柱を、妻板の枕木方向の端部と、側板の軌道方向の前面妻構体の側の端部と、が交わる角部から、あまりに距離を置いて配置してしまうと、角部から隅柱までの間の側板の支えを十分に行えなくなり、車体自体の強度不足となるおそれがある。そこで、角部と隅柱との距離を100mmから200mmの間とすることで、車体の強度を十分に保ちつつ、クラッシャブルゾーンを確保することが可能となる。
【0016】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両において、隅柱と、角部との間に、平板状の補強リブが、鉄道車両の高さ方向に複数並んで設けられていること、を特徴とする。
【0017】
(3)に記載の鉄道車両によれば、隅柱と、角部との間に、平板状の補強リブが、鉄道車両の高さ方向に複数並んで設けられているため、角部から隅柱までの間の側板の支えを十分に行いつつ、クラッシャブルゾーンを確保することが可能となる。また、補強リブの板厚、断面寸法、設ける個数を調整することで、衝突時のエネルギーの吸収量や、発生する反力を好ましい値に調整する設計が容易となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鉄道車両によれば、前面妻構体に衝撃力が加わったときに発生する反力を緩和することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】
図2のBB断面図である。(a)は、衝撃力により前面妻構体が変形される前の状態を表し、(b)は衝撃力により前面妻構体が変形された様子を表す。
【
図4】鉄道車両の変形例を表す図であり、
図2に対応する図である
【
図5】従来技術に係る鉄道車両の断面図であり、
図2に対応する図である。
【
図6】
図5のCC断面図である。(a)は、衝撃力により前面妻構体が変形される前の状態を表し、(b)は衝撃力により前面妻構体が変形された様子を表す。
【
図7】本発明係る前面妻構体に衝撃力が加わった場合に発生する反力と、従来技術に係る前面妻構体に衝撃力が加わった場合に発生する反力を比較したグラフである。
【
図8】(a)および(b)は、妻柱の断面形状の変形例を表す図である。
【
図9】(a)および(b)は、妻柱の断面形状の変形例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る鉄道車両の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の実施形態に係る鉄道車両1の側面図である。
図1に示されるように、鉄道車両1の車体2は、床面をなす台枠11と、台枠11の軌道方向の一方の端部に立設されることで車体2の先頭部をなす前面妻構体12と、台枠11の他方の端部に立設されることで車体2の連結部をなす連妻構体15と、台枠11の枕木方向の両端部に立設されることで車体2の側面をなす側構体13と、前面妻構体12,連妻構体15および側構体13の上端部に配置されることで車体2の屋根をなす屋根構体14とにより6面体をなすように構成される。そして、車体2は、枕ばね18を介して車輪17を備えた台車16によって支持されている。側構体13には、乗務員室に通じる乗務員乗降口20A、客室に通じる乗客乗降口20Bおよび窓20Cが設けられている。また、台枠11の軌道方向の両端部には、前面妻構体12および連妻構体15よりも車両長手方向の外方に突出するように連結器19が設けられており、隣接する鉄道車両同士を連結することが可能である。
【0022】
図2は、
図1のAA断面図である。なお、乗務員室や客室などの内部構造は省略している。
【0023】
前面妻構体12は、鉄道車両1の先頭面をなす妻板121と、妻板121を車体2の内方側から支える妻柱122とからなる。
【0024】
妻板121は、炭素鋼あるいはステンレス鋼やアルミ合金などの金属製である。妻板121の枕木方向の中央部には、鉄道車両1の内部と外部を連通する貫通路のための開口部121aが設けられ、さらに、開口部121aを挟むようにして、一対の窓開口121bが設けられている。窓開口121bは、窓ガラスがはめ込まれ、窓として用いられる。
【0025】
妻柱122は、炭素鋼あるいはステンレス鋼やアルミ合金などの金属製であり、平板状の材料を角筒状の断面を構成するようにプレス成型し、溶接などで組立てたものである。一対の妻柱122が、妻板121の開口部121aを挟むようにして配置され、妻板121の車体2の内方側の面に溶接されている。
【0026】
このような前面妻構体12は、台枠11に対して略直角に立設され、妻柱122の台枠11側の端部が、不図示の接手板を介して台枠11の上面に溶接されることで、台枠11に結合される。
【0027】
側構体13は、鉄道車両1の側面をなす側板131と、側板131を車体2の内方側から支える側柱132とからなる。
【0028】
側板131および側柱132は、炭素鋼あるいはステンレス鋼やアルミ合金などの金属製である。側柱132は、平板状の材料を角筒状の断面を構成するようにプレス成型し、溶接などで組立てたものである。側柱132は、鉄道車両1の軌道方向に沿って複数本設けられており、側板131の車体2の内方側の面に溶接されている。
【0029】
ここで、複数の側柱132のうち、最も前面妻構体12に近い位置に配置される側柱132を隅柱132Aとし、隅柱132A以外の側柱132を側柱132Bとする。
図2に示される隅柱132Aと、側柱132Bは、例えば、乗務員乗降口20A(
図1参照)を挟むようにして配置されている。
【0030】
隅柱132Aは、妻板121の枕木方向の端部と、側板131の軌道方向の前面妻構体12側の端部とが交わる角部22から、所定の距離を持った位置に配置されており、妻柱122よりも、鉄道車両1の後方側に位置している。なお、所定の距離とは、100mmから200mmの間であることが望ましい。
【0031】
このような側構体13は、台枠11に対して略直角に立設され、隅柱132Aや側柱132Bの台枠11側の端部が、不図示の接手板を介して台枠11の上面に溶接されることで、台枠11に結合される。
【0032】
また、隅柱132Aと角部22との間には、補強リブ21が横架されている。補強リブ21は平板状に形成されており、鉄道車両1の高さ方向に複数並んで設けられている(
図3(a)参照)。角部22と隅柱132Aの距離を大きく取った場合、側板131の厚みによっては、角部22から隅柱132Aまでの間の側板131の支えが不十分となるおそれがあるが、補強リブ21を用いることにより、角部22から隅柱132Aまでの間の側板131の支えを十分に行うことが可能となる。
【0033】
以上のような構成を有する鉄道車両1の作用・効果について説明する。
図3(a)は、
図2のBB断面図である。
図3(b)は、
図2のBB断面図であって、前面妻構体12に衝撃力Fが負荷され、変形された状態を表す図である。
【0034】
例えば、鉄道車両1が通過する直前の踏切内に大型トラックが侵入し、当該大型トラックに鉄道車両1が正面から衝突するという事故が発生したとする。大型トラックの荷台は、鉄道車両の台枠11よりも高い位置に位置していることが多いため、
図3(a)に示すように、衝突の衝撃力Fが、前面妻構体12に負荷されることがある。
【0035】
従来技術に係る鉄道車両6において、
図6(a)に示すように、台枠11よりも高い位置で前面妻構体62に衝撃力Fが負荷されると、妻柱622と隅柱632Aとは、枕木方向に一列に並んでいるため、
図6(b)に示すように、衝撃力Fによって、妻柱622と隅柱632Aとが同時に変形される。妻柱622と隅柱632Aとが同時に変形されると、瞬間的に大きい反力が発生し、車体の破壊を招く他、鉄道車両6に乗っている乗客、乗務員に強い衝撃(加速度)が加わり、負傷するおそれがあった。
【0036】
一方、本実施形態に係る鉄道車両1においては、
図3(a)に示すように、台枠11よりも高い位置で前面妻構体12に衝撃力Fが負荷されたとしても、
隅柱132Aが妻柱122よりも鉄道車両1の後方側に配置されているため、妻柱122が衝撃を受けるタイミングと隅柱132Aが衝撃を受けるタイミングをずらすことができる。つまり、妻柱122と隅柱132Aとの間をクラッシャブルゾーンとすることができるため、前面妻構体12に加わる衝撃力Fを吸収することができ、発生する反力を緩和することができる。
【0037】
また、従来技術に係る鉄道車両6において、衝撃力Fにより瞬間的に大きい反力が発生することを防止するためには、妻柱622と隅柱632Aの強度を下げ、変形しやすくすることで衝撃力Fを吸収することが考えられるが、変形領域が大きくなることで乗務員室のサバイバルゾーンが狭くなり、乗務員の危険が増大するため、採用し難い。一方で、本実施形態に係る鉄道車両1においては、妻柱122が衝撃を受けるタイミングと隅柱132Aが衝撃を受けるタイミングをずらすことで衝撃力Fを吸収するため、妻柱122と隅柱132Aの強度を従来のものよりも下げる必要がない。したがって、
図3(b)に示すように、衝撃力Fにより、鉄道車両1の内方側へ変形する前面妻構体12を、隅柱132Aが受け止めることができる。これにより、隅柱132Aよりも鉄道車両1の後方側が、乗務員室のサバイバルゾーンとなる。
【0038】
図7は、本実施形態に係る前面妻構体12に衝撃力Fが加わった場合に発生する反力と、従来技術に係る前面妻構体62に衝撃力Fが加わった場合に発生する反力を比較したグラフである。横軸が時間を示しており、時点t0は衝撃力Fが加わった最初の瞬間である。縦軸が反力を示している。
【0039】
従来技術における反力を表すのは、破線で示す波形7である。先述の通り、妻柱622と隅柱632Aとは、枕木方向に一列に並んでいるため、衝撃力Fによって、妻柱622と隅柱632Aとが同時に変形される。これにより、前面妻構体62に衝撃力Fが加わった時点t0から時点t2までの間で、ピーク値F1まで急激に反力が生じていることが分かる。
【0040】
本実施形態における反力を表すのは、実線で示す波形3である。先述の通り、隅柱132Aが妻柱122よりも鉄道車両1の後方側に配置されているため、妻柱122が衝撃を受けるタイミングと隅柱132Aが衝撃を受けるタイミングがずれることとなる。これにより、まず、前面妻構体12に衝撃力Fが加わった時点t0から時点t1までの間で、まず第1ピーク値F2として、妻柱122に衝撃が加わるときの反力が生じる。そして、妻柱122が変形することによりエネルギー吸収が行われて応力が低下する。さらに、その後の時点t3において、第2ピーク値F3として、隅柱132Aに衝撃が加わるときの反力が生じる。このようにピーク値が発生するタイミングをずらすことで、反力が分散されるのであり、第1ピーク値F2、第2ピーク値F3ともに、従来技術におけるピーク値F1よりも低い値となる。
【0041】
次に、変形例としての鉄道車両8について、
図4を用いて説明する。
図4は、本実施形態に係る鉄道車両の変形例を示す図であり、
図2に対応する断面図である。
【0042】
前面妻構体52は、鉄道車両8の先頭面をなす妻板521と、妻板521を鉄道車両8の内方側に溶接された妻柱522とからなる。
【0043】
妻板521は、鉄道車両1の妻板121と異なり、2か所で折り曲げられており、妻板521の枕木方向中央部が、その他の部位よりも鉄道車両8の前方へ突出して形成されている。妻板521の枕木方向の中央部には、鉄道車両8の内部と外部を連通する貫通路のための開口部521aが設けられ、さらに、開口部521aを挟むようにして、窓として用いられる一対の窓開口521bが設けられている。そして、一対の角筒状の妻柱522は、妻板521の開口部521aを挟むようにして配置されている。
【0044】
側構体53は、鉄道車両8の側面をなす側板531と、側板531を鉄道車両8の内方側に溶接された側柱532とからなる。ここで、複数の側柱532のうち、最も前面妻構体52に近い位置に配置される側柱532を隅柱532Aとし、隅柱532A以外の側柱532を側柱532Bとする。
【0045】
隅柱532Aは、妻板521の枕木方向の端部と、側板531の軌道方向の前面妻構体52側の端部とが交わる角部55から、所定の距離を持った位置に配置されており、妻柱522よりも、鉄道車両8の後方側に位置している。なお、所定の距離とは、100mmから200mmの間であることが望ましい。
【0046】
また、隅柱532Aと角部55との間には、補強リブ54が横架されている。補強リブ54は平板状に形成されており、
図3(a)に示される補強リブ21と同様に、鉄道車両8の高さ方向に複数並んで設けられている。
【0047】
以上のような構成を有する鉄道車両8によっても、前面妻構体52に衝撃力Fが負荷されたとしても、隅柱532Aが妻柱522よりも鉄道車両8の後方側に配置されているため、妻柱522が衝撃を受けるタイミングと隅柱532Aが衝撃を受けるタイミングをずらすことができる。つまり、妻柱522と隅柱532Aとの間をクラッシャブルゾーンとすることができるため、前面妻構体52に加わる衝撃力Fを吸収することができ、発生する反力を緩和することができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の鉄道車両によれば、
(1)台枠11と、台枠11の軌道方向の端部に立設される前面妻構体12(52)と、台枠11の枕木方向の両端部に立設される側構体13(53)と、を有する鉄道車両1(8)であって、前面妻構体12(52)は、鉄道車両1(8)の先頭面をなす妻板121(521)と、妻板121(521)を支える妻柱122(522)とからなり、側構体13(53)は、鉄道車両1(8)の側面をなす側板131(531)と、軌道方向に並び、側板を支える複数の側柱132(532)と、からなる鉄道車両1(8)において、側柱132(532)のうちの、最も前面妻構体12(52)に近い位置に配置される隅柱132A(532A)が、妻柱122(522)よりも鉄道車両1(8)の後方側であって、妻板121(521)の枕木方向の端部と、側板131(531)の軌道方向の前面妻構体12(52)の側の端部と、が交わる角部22(55)から所定の距離をもった位置に配置されていること、を特徴とする。
【0049】
(1)に記載の鉄道車両1(8)によれば、妻柱122(522)と隅柱132A(532A)とが、軌道方向に距離を持って配置されることになるため、障害物に衝突した場合など、前面妻構体12(52)に衝撃力が加わったときに、妻柱122(522)が衝撃を受けるタイミングと隅柱132A(532A)が衝撃を受けるタイミングをずらすことができる。つまり、妻柱122(522)と隅柱132A(532A)との間をクラッシャブルゾーンとすることができるため、前面妻構体12(52)に加わる衝撃を吸収することができ、発生する反力のピーク値を緩和することができる。
【0050】
また、妻柱122(522)が衝撃を受けるタイミングと隅柱132A(532A)が衝撃を受けるタイミングをずらすことで、衝撃力を吸収するため、妻柱122(522)と隅柱132A(532A)の強度を従来のものよりも下げる必要がないため、乗務員室のサバイバルゾーンの確保も容易となる。
【0051】
(2)(1)に記載の鉄道車両1(8)において、所定の距離は、100mmから200mmの間であること、を特徴とする。
【0052】
(2)に記載の鉄道車両1(8)によれば、車体2の強度を十分に保ちつつ、クラッシャブルゾーンを確保することが可能である。
【0053】
クラッシャブルゾーンが大きいほど衝撃力の吸収が容易となる。しかし、クラッシャブルゾーンを大きくするために、隅柱132A(532A)を、妻板121(521)の枕木方向の端部と、側板131(531)の軌道方向の前面妻構体12(52)側の端部と、が交わる角部22(55)から、あまりに距離を置いて配置してしまうと、角部22(55)から隅柱132A(532A)までの間の側板131(531)の支えを十分に行えなくなり、車体2自体の強度不足となるおそれがある。そこで、角部22(55)と隅柱132A(532A)との距離を100mmから200mmの間とすることで、車体2の強度を十分に保ちつつ、クラッシャブルゾーンを確保することが可能となる。
【0054】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両1(8)において、隅柱132A(532A)と、角部22(55)との間に、平板状の補強リブ21(55)が、鉄道車両1(8)の高さ方向に複数並んで設けられていること、を特徴とする。
【0055】
(3)に記載の鉄道車両1(8)によれば、隅柱132A(532A)と、角部22(55)との間に、平板状の補強リブ21(55)が、鉄道車両1(8)の高さ方向に複数並んで設けられているため、角部22(55)から隅柱132A(532A)までの間の側板131(531)の支えを十分に行いつつ、クラッシャブルゾーンを確保することが可能となる。また、補強リブ21(55)の板厚、断面寸法、設ける個数を調整することで、衝突時のエネルギーの吸収量や、発生する反力を好ましい値に調整する設計が容易となる。
【0056】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、妻板121は、貫通路のための開口部121aを有しているが、鉄道車両は貫通路を有さないこととし、妻板が開口部を有さないこととしても良い。
【0057】
また、妻柱は、必ずしも断面が閉じた四角形の角筒状である必要はない。例えば、
図8(a)に示す妻柱123Aのようなコの字状の断面や、
図8(b)に示す妻柱123Bのようなハット型の断面を有するものとし、妻板121と結合されることでコの字状またはハット型の断面の開いている箇所が塞がれ、閉じた四角形を構成するようにしても良い。これら
図8(a),(b)に示す妻柱123A,123Bの断面形状は、側柱も適用可能である。
【0058】
さらには、
図9(a)に示す妻柱124AのようなL字状の断面として、その1辺を妻板121と結合するものとしても良い。また、L字状の断面とする場合は、
図9(b)に示す妻柱124Bのように、L字を構成する辺の端点を妻板121に突き当て、結合するものとしても良い。さらに、
図10に示す妻柱124Cのようなコの字状の断面や、
図11に示す妻柱124DのようなZ字状の断面とし、その1辺のみを妻板121と結合するものとしても良い。これら
図9~11に示す妻柱124A,124B,124C,124Dの断面形状は、側柱にも適用可能である。
【0059】
加えて、妻構体と側構体の区分は、最終的に車体が組み立てられた状態に基づいていることが本質であり、組み立てられる前の部品単体の組み立て順序には任意性がある。例えば、
図4では、角部55を境として、鉄道車両8の前方を妻構体52とし、後方を側構体53と説明しているが、必ずしもこれに限定されるものでない。例えば、妻柱522と隅柱532Aとが、軌道方向に距離を持って配置されているため、側構体の側板が、隅柱532Aの角で、鉄道車両の前方側と後方側とで分割されて構成されるものとし、車体の組み立て時には、その前方側は妻構体として組立てられ、後方側は側構体として組み立てられる構成としても良い。
【符号の説明】
【0060】
1 鉄道車両
11 台枠
12 前面妻構体
13 側構体
22 角部
121 妻板
122 妻柱
131 側板
132A 隅柱