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特開2022-187094水素混焼用電子制御装置及び水素混合割合制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187094
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】水素混焼用電子制御装置及び水素混合割合制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20221212BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20221212BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
F02D45/00 368
F02D19/08 Z
F02D19/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094910
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】助川 義寛
(72)【発明者】
【氏名】熊野 賢吾
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AB01
3G092AB09
3G092HB01Z
3G092HC01Z
3G092HF01Z
3G384AA16
3G384DA42
3G384DA44
3G384FA29Z
(57)【要約】
【課題】水素を一部燃料とする多種燃料が供給されるエンジンを燃焼状態の異常に応じた制御が可能な水素混焼用電子制御装置を提供する。
【解決手段】水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18の燃焼タイミングを検出する燃焼タイミング検出部21と、燃焼タイミングと、第一燃料供給装置が供給する炭化水素燃料の供給量、及び第二燃料供給装置が供給する第二燃料の供給量から演算した第二燃料供給割合とに基づいて、エンジン18で発生する異常の種類を定めた異常状態を検出する異常状態検出部24と、異常状態に対応する制御モードを決定して、制御モードに基づき第二燃料供給装置が供給する水素の供給量を制御し、エンジン18を制御するエンジン制御コントローラ11に制御モードを出力する制御モード決定部25と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素燃料を第一燃料としてエンジンに供給する第一燃料供給装置と、水素を一部含む燃料を第二燃料として前記エンジンに供給する第二燃料供給装置とを有する水素混焼用のエンジンの燃焼室で混焼する水素の混合割合を制御する水素混焼用電子制御装置であって、
前記エンジンの燃焼タイミングを検出する燃焼タイミング検出部と、
前記燃焼タイミングと、前記第一燃料供給装置が供給する前記炭化水素燃料の供給量、及び前記第二燃料供給装置が供給する前記第二燃料の供給量から演算した第二燃料供給割合とに基づいて、前記エンジンで発生する異常の種類を定めた異常状態を検出する異常状態検出部と、
前記異常状態に対応する制御モードを決定して、前記制御モードに基づき前記第二燃料供給装置が供給する前記水素の供給量を制御し、前記エンジンを制御するエンジン制御コントローラに前記制御モードを出力する制御モード決定部と、を備える
水素混焼用電子制御装置。
【請求項2】
前記異常状態検出部は、前記第二燃料の供給割合閾値に対する前記第二燃料の供給割合の大小と、前記第二燃料の供給割合に対する正常な燃焼タイミングを基準とした燃焼タイミング閾値から求められる前記燃焼タイミングの遅延又は過早とに基づいて、前記エンジンで発生する一又は複数の異常状態を異常モードとして判定する異常モード判定部を有する
請求項1に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの回転数、前記エンジンのトルク、前記エンジンに機械的に接続された発電機の回転数、前記発電機の電圧、前記発電機の電流、前記発電機のトルク、前記エンジンの水温、前記エンジンの吸気温度、前記第一燃料の種類、及び前記第二燃料の種類のうちの少なくとも一つ以上に基づいて、前記供給割合閾値及び前記燃焼タイミング閾値を決定する閾値決定部を備える
請求項2に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項4】
前記エンジンが定常運転されており、前記第二燃料の供給割合が前記供給割合閾値未満、かつ前記燃焼タイミング閾値以上となる前記燃焼タイミングの遅延が発生した場合であって、前記第二燃料の供給割合が前記供給割合閾値以上、かつ前記燃焼タイミング閾値以上となる前記燃焼タイミングの遅延が発生していないことを前記異常モードとして前記異常モード判定部が判定した場合に、前記制御モード決定部は、前記第二燃料供給装置に前記第二燃料の供給量を増加させる制御を実施するための前記制御モードを決定する
請求項3に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項5】
前記エンジンが定常運転されており、前記第二燃料の供給割合が前記供給割合閾値以上、かつ前記燃焼タイミング閾値未満となる前記燃焼タイミングの過早が発生した場合であって、前記第二燃料の供給割合が前記供給割合閾値未満、かつ前記燃焼タイミング閾値未満となる前記燃焼タイミングの過早が発生していないことを前記異常モードとして前記異常モード判定部が判定した場合に、前記制御モード決定部は、前記第二燃料供給装置に前記第二燃料の供給量を減少させる制御、及び前記第一燃料の噴射装置の噴射時期を遅らせる制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための前記制御モードを決定する
請求項3に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項6】
前記異常状態検出部は、前記エンジンの気筒毎に前記異常状態を判定する気筒別異常判定部を有する
請求項3に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項7】
前記エンジンが定常運転されており、前記燃焼タイミング閾値以上となる前記燃焼タイミングの遅延が発生したことを前記異常モードとして前記異常モード判定部が判定した場合であって、前記気筒別異常判定部により全ての前記気筒で異常の発生が検出された場合には、前記制御モード決定部は、前記第一燃料の噴射時期を早める制御を実施するための前記制御モードを決定し、
前記気筒別異常判定部により一部の前記気筒で異常の発生が検出された場合には、前記制御モード決定部は、前記第一燃料供給装置から供給される前記第一燃料の種類を切り替える制御、及び前記第一燃料の噴射装置の異常のフラグを立てる制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための前記制御モードを決定する
請求項6に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項8】
前記燃焼タイミング検出部は、過去に検出された前記燃焼タイミングの時系列データに基づいて、前記燃焼タイミングの変化率を演算する燃焼タイミング変化率演算部を有する
請求項3に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項9】
前記エンジンが定常運転されており、前記燃焼タイミング閾値未満となる前記燃焼タイミングの過早が発生したことを前記異常モードとして前記異常モード判定部が判定した場合であって、前記燃焼タイミングの変化率が、前記閾値決定部により決定された変化率閾値以上である場合には、前記制御モード決定部は、前記第二燃料供給装置からの前記第二燃料の供給を停止する制御、及び、前記第二燃料供給装置にメンテナンス必要通知を出力する制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための前記制御モードを決定する
請求項8に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項10】
前記エンジンが定常運転されており、前記燃焼タイミング閾値未満となる前記燃焼タイミングの過早が発生した場合であって、前記燃焼タイミングの変化率が、前記閾値決定部により決定された変化率閾値未満であることを前記異常モードとして前記異常モード判定部が判定した場合には、前記制御モード決定部は、前記第一燃料供給装置から供給される前記第一燃料の種類を切り替える制御、前記第二燃料供給装置からの前記第二燃料の供給を停止する制御、及び、前記エンジンのメンテナンス必要通知を出力する制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための前記制御モードを決定する
請求項8に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項11】
前記エンジンが変動運転されており、前記第二燃料の供給割合が変化する途中で、前記燃焼タイミング閾値以上となる前記燃焼タイミングの遅延が発生し、又は前記燃焼タイミング閾値未満となる前記燃焼タイミングの過早が発生したことを前記異常モードとして前記異常モード判定部が判定した場合、前記制御モード決定部は、前記第一燃料供給装置から供給される前記第一燃料の種類を切り替える制御、及び、前記エンジンのメンテナンス必要通知を出力する制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための前記制御モードを決定する
請求項3に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項12】
前記燃焼タイミング検出部は、前記エンジンの回転変化を検出するエンジン回転センサから出力される情報、及び前記エンジンのカムシャフトの回転変化を検出するカムセンサから出力される情報のうち、少なくともいずれか一つ以上の前記情報を用いて前記燃焼タイミングを検出する
請求項1~11のいずれか一項に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項13】
前記第二燃料の供給割合と、前記エンジンに機械的に接続された発電機の電力出力、前記エンジンの排熱から回収された熱量、及び前記エンジンの異常状態若しくは制御状態を、再生可能エネルギーを制御するエネルギーマネージメントシステムとの通信で送受信する
請求項1~11に記載の水素混焼用電子制御装置。
【請求項14】
炭化水素燃料を第一燃料としてエンジンに供給する第一燃料供給装置と、水素を一部含む燃料を第二燃料として前記エンジンに供給する第二燃料供給装置とを有する水素混焼用のエンジンの燃焼室で混焼する水素の混合割合を制御する水素混合割合制御方法であって、
前記エンジンの燃焼タイミングを検出する処理と、
前記燃焼タイミングと、前記第一燃料供給装置が供給する前記炭化水素燃料の供給量、及び前記第二燃料供給装置が供給する前記第二燃料の供給量から演算した第二燃料供給割合に基づいて、前記エンジンで発生する異常の種類を定めた異常状態を検出する処理と、
検出された前記異常状態に対応する制御モードを決定して、前記制御モードに基づき前記第二燃料供給装置が供給する前記水素の供給量を制御し、前記エンジンを制御するエンジン制御コントローラに前記制御モードを出力する処理と、を含む
水素混合割合制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素混焼用電子制御装置及び水素混合割合制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の使用を削減するための脱炭素システムとして、再生可能エネルギーで生成した水素を活用した水素混焼のエンジンシステムが発電用、コジェネレーション向けなどで検討されている。水素は燃焼速度が従来の炭化水素燃料の約7倍以上であることから、水素の供給を調整することで熱効率を向上することが可能である。
【0003】
その一方で、水素の供給量によって燃焼タイミングなどの燃焼状態が大きく変化し、バックファイア、アフターファイア、プレイグニション、ノッキングといった異常燃焼が発生するケースがある。このような異常燃焼が発生すると、場合によってはエンジンが故障するケースがある。また、水素は燃焼性の高い燃料であるが、他の炭化水素燃料と同様に可燃範囲があり、可燃範囲を外れると燃え切らない未燃の水素がエンジンの外に排出される。未燃水素の存在は、熱効率が低下することにつながる。水素を含む混合気の燃焼を促進するための技術は、特許文献1及び2に開示されている。
【0004】
特許文献1には、水素と炭化水素系燃料の2種類の燃料とするエンジンの制御方法について記載されている。例えば、特許文献1には、「第一吸気ポートから気筒へ流入するガスよりも第二吸気ポートから気筒へ流入するガスがより多く当たる位置に点火プラグを設けることにより、第一吸気ポートから流入した水素が温度の高い点火プラグに接触することを抑制できる。」と記載されている。
【0005】
特許文献2には、ガス燃料とディーゼル燃料の2種類を燃料とするエンジンの制御方法について記載されている。例えば、特許文献2には、「制御装置は、エンジン内に異常が発生したと判定した場合は、ディーゼルモードに瞬時に切り替える制御を行い、ディーゼルモードに瞬時に切り替えた後の液体燃料の供給量をエンジン回転数とエンジン負荷に基づいて求める」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-188990号公報
【特許文献2】特開2020-23975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に記載された方法を用いることで、燃焼室内で局所的に熱くなる点火プラグとの接触確率を減らし、水素燃焼時の異常燃焼を減らすことが可能であると考えられていた。しかし、水素供給量の変化や吸気温度、湿度といった環境条件が変わった際や、運転条件及びエンジンの燃焼室内の状態の経時変化が発生した際には、異常燃焼を回避するのが難しいケースがある。また、炭化水素と水素が別の噴射弁で供給されることから、炭化水素燃料と水素が均一に混ざりにくくなり、低温条件では未燃水素が発生しやすくなる。以上のことから、特許文献1では水素による異常燃焼や未燃水素の排出を抑制することが難しいケースが存在する。
【0008】
また、特許文献2に記載された方法では、ECU(Electronic Control Unit)がエンジンのトルクや燃焼トルクに相当する平均有効圧力から異常燃焼と判定した場合において、ガス燃料の供給をストップし、ディーゼル燃料だけのディーゼル燃焼モードに切り替えることで、環境変化の影響を考慮した燃焼の切り替え制御が可能であると考えられていた。しかし、特許文献2に記載された方法では、正確なトルク情報が必要であるので、エンジンの異常燃焼を判定する精度が低くなってしまう。また、ECUが平均有効圧力を把握するためには筒内圧センサが必要であることから、燃焼状態を検出するために、筒内圧センサを設置する分だけ大きなコストがかかる。また、エンジン内に異常が発生した際にECUが切り替える燃焼モードはディーゼル燃焼モードのみであり、異常時のガス燃料とディーゼル燃料の比率について、特許文献2に記載されていない、そのため、ガス燃料でエンジンを運転可能な範囲が狭くなるという課題があった。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、水素混焼用のエンジンの異常状態を正しく検出して、エンジンに供給する水素の混合割合を適切に制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る水素混焼用電子制御装置は、炭化水素燃料を第一燃料としてエンジンに供給する第一燃料供給装置と、水素を一部含む燃料を第二燃料としてエンジンに供給する第二燃料供給装置とを有する水素混焼用のエンジンの燃焼室で混焼する水素の混合割合を制御する。
この水素混焼用電子制御装置は、エンジンの燃焼タイミングを検出する燃焼タイミング検出部と、燃焼タイミングと、第一燃料供給装置が供給する炭化水素燃料の供給量、及び第二燃料供給装置が供給する第二燃料の供給量から演算した第二燃料供給割合に基づいて、エンジンで発生する異常の種類を定めた異常状態を検出する異常状態検出部と、異常状態に対応する制御モードを決定して、制御モードに基づき第二燃料供給装置が供給する水素の供給量を制御し、エンジンを制御するエンジン制御コントローラに制御モードを出力する制御モード決定部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、筒内圧センサを設けなくても、水素混焼用のエンジンの燃焼異常を検出することが可能であるため、低コストで水素を一部燃料とする多種燃料のエンジンの運用が可能となる。また、エンジンの異常状態に応じた最適な制御を行えるため、最大限の水素をエンジンに供給できる。さらに、エンジンの異常状態が解消するので、エンジンを長期運転することが可能になる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係るエンジンシステムの概略図である。
図2】本発明の一実施の形態に係るエンジンシステムで用いられる燃料の物性値を表す一覧表である。
図3】本発明の一実施の形態に係る水素混焼用電子制御装置の内部構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施の形態に係るエンジンの燃焼圧波形の100サイクル平均の例を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る1サイクル毎の燃焼圧波形の例を示す図である。
図6】本発明の一実施の形態に係るエンジンの燃焼状態の異常判定を行い、エンジンを安全に制御するための処理の例を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施の形態に係るエンジンシリンダ、クランク軸、電磁ピックアップ及びコントローラの配置例を示す図である。
図8】本発明の一実施の形態に係る直列4気筒エンジンにおける回転速度の変化の例を示す図である。
図9】本発明の一実施の形態に係る回転速度のピークタイミングと燃焼重心タイミングとの関係を示す図である。
図10】本発明の一実施の形態に係る異常状態検出部によって行われるエンジンの異常判定の方法を示す図である。
図11】本発明の一実施の形態に係るエンジンの異常モード及び制御モードの対応関係を示す一覧表である。
図12】本発明の一実施の形態に係るエネルギー需給と水素供給可能量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、エンジンシステム20の概略図である。このエンジンシステム20には、水素を燃料の一部に用いるエンジン18が構成される。
【0015】
エンジンシステム20では、インジェクタ4(燃料噴射装置の一例)により、第一燃料である炭化水素燃料が燃焼室2内に直接噴射される。ピストン1の圧縮により燃焼室2に供給された第一燃料が高温及び高圧になり、第一燃料が自己着火燃焼することでピストン1にトルクが発生する。ピストン1の上下運動がクランク軸17の回転運動に変換される。クランク軸17には、発電機50が接続され、クランク軸17の回転に伴い発電機50が発電する。
【0016】
エンジン18の吸気管には、スロットルバルブ3が設けられており、エンジン制御コントローラ11によりスロットルバルブ3の開度が調整されることで、吸気管から燃焼室2に吸気される空気量が変化する。スロットルバルブ3の開度は、不図示の開度センサにより検出され、エンジン制御コントローラ11に出力される。
【0017】
ここで、第一燃料及び第二燃料について、図2を参照して説明する。
図2は、エンジンシステム20で用いられる燃料の物性値を表す一覧表である。
図2では、軽油(JIS規格の1号)、A重油(JIS規格の1種)、バイオディーゼル、バイオオイルについて、引火点[K]、沸点[K]、30℃における燃料の動粘度[mm/s]、セタン価が示されている。
【0018】
燃焼室2に直接噴射される第一燃料は、例えば、軽油、重油、バイオディーゼル燃料(BDF:Bio Diesel Fuel(登録商標))、バイオオイル燃料、合成燃料のいずれかである。バイオディーゼル燃料は、再生可能な生物由来の有機性資源(バイオマス)を原料とする動粘度が低い燃料である。バイオオイル燃料は、バイオディーゼル燃料と同じく有機性資源を原料とする燃料であるが、ほぼ未加工なのでバイオディーゼル燃料よりも動粘度が高い。合成燃料とは、水素とCOから生成された炭化水素燃料である。
【0019】
エンジンシステム20は、少なくとも2種類の第一燃料を貯留する燃料タンク14,15を備える。燃料タンク14(高粘度燃料タンクの一例)には、例えば、動粘度の高い、重油、バイオオイル燃料等が貯留される。一方、燃料タンク15(低粘度燃料タンクの一例)には、燃料タンク14に貯留された第一燃料よりも動粘度の低い、例えば、軽油、バイオディーゼル燃料等が貯留される。
【0020】
そして、エンジンシステム20は、燃料タンク14,15のいずれかを切り替えてインジェクタ4に第一燃料を供給する切り替え部16を備える。切り替え部16の切り替え動作は、水素混焼用電子制御装置12の指示により制御される。切り替え動作の実施情報は、水素混焼用電子制御装置12からエンジン制御コントローラ11へ通知される。そして、切り替え部16は、第一燃料の供給元(燃料タンク14,15のいずれか)を切り換える。例えば、エンジン18を通常使用する際は、切り替え部16は、燃料タンク14から供給される第一燃料をインジェクタ4に出力する。そして、エンジン18に異常が発生した場合、切り替え部16は、第一燃料の供給元を燃料タンク14から燃料タンク15に切り替え、燃料タンク15から第一燃料を取り出してインジェクタ4に供給する。インジェクタ4は、炭化水素燃料を第一燃料としてエンジン(エンジン18)に供給する第一燃料供給装置の一例である。
【0021】
このエンジンシステム20では、第二燃料であるガス燃料がエンジン18の吸気管に流量調整装置6により供給され、空気と混合された状態で燃焼室2に供給される。燃焼室2では、第一燃料と第二燃料が混合される。そして、燃焼室2内で第一燃料の自己着火燃焼により、第二燃料と空気の予混合気が加熱され、第二燃料が燃焼する。このような第一燃料及び第二燃料の燃焼を、「デュアル燃焼」と呼んで以下に説明する。
【0022】
第二燃料は、水素を一部燃料とするガスであり、例えば、水素リッチガス、水素が一部含まれる天然ガス、水素が一部含まれるバイオガス、水素が一部含まれる合成ガス、アンモニア、改質ガスのいずれかである。改質ガスとは、天然ガス、バイオガス、エタノールなどのバイオ燃料、アンモニア、合成燃料のいずれかを改質したガスである。水素生成装置5は、水を水素と酸素に分解する電気分解装置、又は、触媒が挿入された改質器のいずれかである。水素生成装置5と流量調整装置6は、水素を一部含む燃料を第二燃料としてエンジン(エンジン18)に供給する第二燃料供給装置の一例として用いられる。
【0023】
水素生成装置5が電気分解装置の場合、水素生成装置5に供給される電気は、太陽光発電や風力発電といった発電システム(図示略)から得られる再生可能エネルギーにより生成される電気が活用される。水素生成装置5が改質器の場合、改質器には炭化水素系燃料、又はアンモニアが供給され、改質器にはエンジン18の排気熱、冷却水熱のいずれか一つ以上が供給される。
【0024】
水素混焼用電子制御装置12は、改質器に電気を供給して、改質器を動作させてもよい。また、水素生成装置5と流量調整装置6の間に水素貯蔵装置があってもよい(図省略)。水素貯蔵装置とは、水素用のタンク、水素吸蔵合金、又は有機ハイドライドのいずれかであり、水素生成装置5が生成した水素を貯蔵し、流量調整装置6からの要求により水素を取り出すことができる。水素貯蔵装置として水素吸蔵合金、有機ハイドライドを使用する場合は、エンジン18の排気熱、冷却水熱のいずれか一つ以上が水素吸蔵合金、有機ハイドライドに供給される。
【0025】
エンジン制御コントローラ11は、エンジン18の回転タイミングを検出するエンジン回転センサ7とカム回転センサ8を備える。エンジン制御コントローラ11は、エンジン回転センサ7とカム回転センサ8の検出結果に基づいてインジェクタ4から噴射される第二燃料の噴射タイミングを制御する。さらに、エンジン制御コントローラ11は、エンジン18の回転数、トルク、排気中の酸素濃度センサ10の信号を基に、第二燃料の噴射タイミング制御を制御する。第二燃料の一部には水素が含まれる。このため、第二燃料と空気の予混合気は、量論比率よりも空気過剰な割合、つまり高空気過剰率条件においても、デュアル燃焼が成立する。そのため、従来のディーゼル燃焼用のエンジン18の吸気に第二燃料を追加することでデュアル燃焼が成立する。
【0026】
水素混焼用電子制御装置12は、上述した第一燃料供給装置と、第二燃料供給装置とを有する水素混焼用のエンジン(エンジン18)の燃焼室(燃焼室2)で混焼する水素の混合割合を制御する装置である。水素混焼用電子制御装置12は、エンジン回転センサ7とカム回転センサ8の検出結果に基づいてエンジン18の燃焼タイミングを検出する。そして、水素混焼用電子制御装置12は、検出したエンジン18の燃焼タイミングに基づいて流量調整装置6及び水素生成装置5を制御し、エンジン18に供給する水素供給の流量を制御する。
【0027】
エネルギーマネージメントシステム13は、エンジンシステム20とは別に設けられており、再生可能エネルギーを含むエネルギーと、エンジンシステム20で用いられる燃料エネルギーとの全体のエネルギーを管理する。例えば、エネルギーマネージメントシステム13は、太陽光発電システム等で発電される再生可能エネルギーと、水素混焼用電子制御装置12が制御するエンジンシステム20の燃料エネルギーとの全体を管理する。このため、一つのエネルギーマネージメントシステム13は、複数のエンジンシステム20のエネルギーを管理することが可能である。例えば、エンジン制御コントローラ11及び水素混焼用電子制御装置12は、工場に設けられており、エネルギーマネージメントシステム13は、同じ工場又はクラウド上に設けられている。このため、エネルギーマネージメントシステム13は、互いに離れた場所に設置されるエンジン制御コントローラ11及び水素混焼用電子制御装置12のエネルギーを管理することもできる。
【0028】
水素混焼用電子制御装置12は、エネルギーマネージメントシステム13との間で各種の情報を通信する機能を有している。そして、水素混焼用電子制御装置12は、第二燃料の供給割合と、エンジン(エンジン18)に機械的に接続された発電機(発電機50)の電力出力、エンジン(エンジン18)の排熱から回収された熱量、及びエンジン(エンジン18)の異常状態若しくは制御状態を、再生可能エネルギーを制御するエネルギーマネージメントシステム(エネルギーマネージメントシステム13)との通信で送受信する。ここで、第二燃料の供給割合[%]は、[(第二燃料の発熱量)/(エンジン18に供給される全燃料の発熱量)×100]で表される値である。
【0029】
例えば、水素混焼用電子制御装置12は、エネルギーマネージメントシステム13のエネルギーの需給バランスを基に、水素生成装置5及び流量調整装置6を制御する。また、水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18に既設の各種のセンサ類19(後述する図3を参照)が検出したエンジン18の状態、及びエンジン制御の実施内容をエネルギーマネージメントシステム13に通信する。エネルギーマネージメントシステム13は、水素混焼用電子制御装置12から得た情報に基づいて、水素生成計画を策定することが可能となる。
なお、水素混焼用電子制御装置12をエンジン制御コントローラ11の内部に実装してもよい。
【0030】
図3は、水素混焼用電子制御装置12の内部構成例を示すブロック図である。
【0031】
水素混焼用電子制御装置12は、燃焼タイミング検出部21、記憶部22、閾値決定部23、異常状態検出部24、及び制御モード決定部25を備える。
【0032】
燃焼タイミング検出部(燃焼タイミング検出部21)は、エンジン(エンジン18)の燃焼タイミングを検出する。例えば、燃焼タイミング検出部21は、センサ類19から入力する検出結果に基づいて燃焼タイミングを検出する。センサ類19は、既存のエンジン18に設けられる各種のセンサであり、図1に示したエンジン回転センサ7とカム回転センサ8,9の他、スロットルバルブ3の開度センサ等も含む。カム回転センサ8は、吸気バルブに取り付けられた吸気カムの回転を検出し、カム回転センサ9は、排気バルブに取り付けられた排気カムの回転を検出する。そして、燃焼タイミング検出部(燃焼タイミング検出部21)は、エンジン(エンジン18)の回転変化を検出するエンジン回転センサ(エンジン回転センサ7)から出力される情報、及びエンジン(エンジン18)のカムシャフトの回転変化を検出するカムセンサ(カム回転センサ8)から出力される情報のうち、少なくともいずれか一つ以上の情報を用いて燃焼タイミングを検出する。
【0033】
そして、本実施の形態に係るエンジンシステム20では、エンジン18に新たなセンサを追加しなくてよい。燃焼タイミング検出部21が検出した燃焼タイミングは、記憶部22に燃焼タイミング時系列データ22aとして書き込まれる。燃焼タイミング時系列データ22aは、燃焼タイミング検出部21が検出した過去の燃焼タイミングを時系列で保存するデータである。
【0034】
燃焼タイミング検出部21は、燃焼タイミング変化率演算部21aを備える。
燃焼タイミング変化率演算部(燃焼タイミング変化率演算部21a)は、過去に検出された燃焼タイミングの時系列データ(燃焼タイミング時系列データ22a)に基づいて、燃焼タイミングの変化率を演算する。
【0035】
記憶部22には、燃焼タイミング検出部21が検出した燃焼タイミングが時系列で記憶される。このように時系列で記憶された燃焼タイミングが、燃焼タイミング時系列データ22aとしてまとめられる。
また、記憶部22には、閾値決定部23により決定された、第二燃料の供給割合閾値及び燃焼タイミング閾値が閾値22bとして記憶される。供給割合閾値及び燃焼タイミング閾値は、後述する図10に示す関係式に応じて決定される。
【0036】
閾値決定部23は、異常状態検出部24がエンジン18の異常状態を判定するための基準となる閾値(後述する図10に示す閾値X、X、Y、Y)を決定する。閾値決定部23は、閾値を決定するために、エンジン制御コントローラ11から入力されるエンジン制御情報を用いる。エンジン制御情報として、例えば、エンジン回転数、エンジン18のトルク、エンジン18の水温、エンジン18の吸気温度、第一燃料の種類、第二燃料の種類などがある。そして、閾値決定部(閾値決定部23)は、エンジン(エンジン18)の回転数、エンジン(エンジン18)のトルク、エンジン(エンジン18)に機械的に接続された発電機(発電機50)の回転数、発電機(発電機50)の電圧、発電機(発電機50)の電流、発電機(発電機50)のトルク、エンジン(エンジン18)の水温、エンジン(エンジン18)の吸気温度、第一燃料の種類、及び第二燃料の種類のうちの少なくとも一つ以上に基づいて、第二燃料の供給割合閾値及び燃焼タイミング閾値を決定する。
【0037】
異常状態検出部(異常状態検出部24)は、燃焼タイミングと、第一燃料供給装置が供給する炭化水素燃料の供給量、及び第二燃料供給装置が供給する第二燃料の供給量から演算した第二燃料供給割合と、に基づいて、エンジン(エンジン18)で発生する異常の種類を定めた異常状態を検出する。燃焼タイミングは、燃焼タイミング検出部21により検出され、第一燃料及び第二燃料の供給量は、エンジン18に既設のセンサ類19から入力される。そして、異常状態検出部(異常状態検出部24)は、第二燃料の供給割合閾値に対する第二燃料の供給割合の大小と、第二燃料の供給割合に対する正常な燃焼タイミング(図10に示す関係式Yの値)を基準とした燃焼タイミング閾値から求められる燃焼タイミングの遅延又は過早とに基づいて、エンジン(エンジン18)で発生する一又は複数の異常状態を異常モードとして判定する異常モード判定部24aを有する。異常状態検出部24が検出したエンジン18の異常状態の検出結果は、後述する図10図11に示すように異常領域番号で表される。そして、異常領域番号が制御モード決定部25に出力される。
【0038】
異常状態検出部24は、エンジン18の状態が正常状態又は異常状態のいずれであるかを検出する。後述する図10に示すように、本実施の形態では、第二燃料の供給割合(X)に対して、複数の閾値(X、X)が設定され、第二燃料の供給割合に応じて変化する燃焼重心タイミングを算出するための式(Y)に対して複数の閾値(Y、Y)が設定され、これらの閾値が記憶部22から読み出される。燃焼重心は、燃焼質量割合が50%となる燃焼位相を表し、燃焼重心タイミングは、燃焼重心となるタイミングを表す。
【0039】
そして、第二燃料の供給割合に対して算出された燃焼重心タイミング(Y)が、閾値(Y、Y)の範囲内であれば、エンジン18が正常状態であると判断する。一方、燃焼重心タイミング(Y)が、閾値(Y、Y)の範囲外であれば、エンジン18が異常状態であると判断する。図10に示すように、エンジン18の異常状態は、第二燃料の供給割合に対する燃焼重心タイミングが閾値(Y)以上であるか、又は、閾値(Y)未満であるかといった燃焼重心タイミングに依存する2つの異常種類と、第二燃料の供給割合が閾値(X)未満、閾値(X)以上閾値(X)未満、閾値(X)以上の3つの異常種類とで分けられた6つの異常領域に分類可能である。そして、6つの異常領域は、「1」~「6」の異常領域番号で識別される。
【0040】
異常状態検出部24は、異常モード判定部24aに加えて、気筒別異常判定部24bを備える。
異常モード判定部24aは、エンジン18の異常状態が、図10に示す異常領域番号で表される異常モードのいずれに該当するかを判定する。異常モードとは、異常領域番号ごとに特定されるエンジン18で発生した異常の内容を表す。ここで、異常状態検出部24が有する異常モード判定部24aは、予め記憶部に記憶されたマップ情報と、記憶部22から読み出した閾値22bに基づいて、異常モードを判定する。
【0041】
気筒別異常判定部(気筒別異常判定部24b)は、エンジン(エンジン18)の気筒毎に異常状態を判定する。このため、気筒別異常判定部24bは、全気筒で異常が発生したか、又は一部の気筒だけで異常が発生したかを判定できる。異常が発生した気筒ごとに、異常モード判定部24aで異常状態が判定される。
【0042】
制御モード決定部(制御モード決定部25)は、異常状態検出部24により検出された異常状態に対応する制御モードを決定して、制御モードに基づき第二燃料供給装置が供給する水素の供給量を制御し、エンジン(エンジン18)を制御するエンジン制御コントローラ(エンジン制御コントローラ11)に制御モードを出力する。そして、エンジン制御コントローラ11及び水素混焼用電子制御装置12は、制御モードに従って、第一燃料及び第二燃料の供給量を制御する。エンジン制御コントローラ11は、制御モードに従ってエンジン18を動作させるための各種のアクチュエータを制御する。例えば、エンジン制御コントローラ11は、切り替え部16を制御して、燃料タンク14又は15から供給される第一燃料の種類を切り替えたり、第一燃料の噴射時期を制御したりする。水素混焼用電子制御装置12は、水素生成装置5を制御して水素生成量を増減したり、流量調整装置6を制御して水素流量の調整を行ったりする。制御モードの詳細については、後述する図11にて説明する。
【0043】
また、制御モード決定部25は、エネルギーマネージメントシステム13にも制御モードを送信する。この際、エネルギーマネージメントシステム13には異常状態検出部24から異常モードの判定結果が出力されてもよい。エネルギーマネージメントシステム13は、制御モード決定部25から受信した制御モードに基づいて、現在のエンジン18の制御状態及び異常状態を管理する。
【0044】
図4は、エンジン18の燃焼圧波形の100サイクル平均の例を示す図である。図4の横軸はクランク角[deg.ATDC]を示し、縦軸は筒内圧[MPa]を示す。
【0045】
図4では、エンジン18に供給される全燃料中の水素の割合である水素混合割合を0%、20%、40%、55%、60%に変えて測定された燃焼圧の100サイクル平均が燃焼圧波形として示される。従来の水素を用いないエンジン18の燃焼圧波形は、水素混合割合が0%で表される。そして、水素混合割合が0%と20%の燃焼圧波形は、ほぼ重なって表されている。
【0046】
図4より、水素混合割合が高くなるにつれ、燃焼圧力が早いタイミングで立ち上がり、最大圧力が高くなると共に、最大圧力のタイミングが早期化することが分かる。また水素混合割合が55%と60%では、燃焼圧波形が大きく異なることが分かる。このように燃焼圧波形が異なるのは、水素混合割合が60%では、100サイクル中に異常燃焼が起きているサイクルが含まれることに起因する。
【0047】
図5は、1サイクル毎の燃焼圧波形の例を示す図である。図5の横軸は時間を示し、縦軸は燃焼圧を示す。
【0048】
図5の上部には、水素混合割合が60%における1サイクル毎の燃焼圧波形の例が示される。そして、図5の燃焼圧波形の左端の矩形枠30に含まれる燃焼圧波形の拡大図を図5の下部に示す。図4に示したように、水素混合割合が60%になると異常燃焼が起きているサイクルが多くなる。
【0049】
図5の下部に示される燃焼圧波形の頂部31は、水素混合割合が、異常燃焼が起きやすくなる所定値以上で発生したノッキング時における燃焼圧力波形の特徴を示している。水素混合割合が所定値以上になると、このような燃焼が起こる確率が高くなる。また、エンジン18に供給される空気の温度やエンジン18の冷却水の温度が高いほど、ノッキングが発生する確率が高くなる。その他の異常燃焼として、燃焼室2内の温度の高い部材に接触した際に発生する熱面着火についても、ノッキング発生確率の上昇と同様に、水素混合割合、吸入空気温度、冷却水温度が高い条件で発生しやすくなる。
【0050】
これらの異常燃焼がエンジン18で起こると、エンジン制御コントローラ11は、エンジン18の燃焼タイミングを正常範囲内で制御できないために、エンジン18の熱効率が悪化してしまう。さらに、燃焼室2内の圧力の立ち上がりタイミングが高くなったり、高周波数の圧力脈動が発生したりすることでエンジン18が故障するケースもある。そこで、水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18が故障する前に、水素の供給量を小さくするといった調整制御を実施する必要がある。
【0051】
こういったエンジン18の異常燃焼は、外気温度の変化といった環境条件やエンジン18の過渡的な変化時に発生するケースがある。そこで、エンジン制御コントローラ11及び水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18の燃焼をリアルタイムに検出し、燃焼異常が起こっていないかを把握する必要がある。
【0052】
また、別の課題として、第二燃料の供給量が少なく、かつ水素混合割合が低い場合には供給した水素を含む第二燃料の一部が燃焼室2で燃焼せず、エンジン18外にそのまま排気されるケースがある。このケースでは、図4に示した水素混合割合が0%と20%を比較したように燃焼圧力波形に変化が見られない結果となっている。このような条件では水素を含む第二燃料が燃焼に寄与しないため、エンジン18の熱効率が低下する。また、未燃水素がエンジン18の外に排出されることで、安全上の問題も発生する。
【0053】
そして、水素が未燃焼のまま排出されるケースは、水素混合割合が低い条件で発生しやすい。水素は炭化水素燃料に比べて空気過剰条件で燃焼しやすい成分であるが、吸入する水素と吸入空気の混合気の空気過剰率が8~10以上になると可燃範囲外の条件になる。そのため、第二燃料の供給量が少ないケースで水素が未燃焼のまま排出されてしまう。
【0054】
また、低水素混合割合時の燃焼性については、外気温度や冷却水温度によって、未燃水素が排出される閾値となる水素混合割合が変化する。さらにエンジン18の回転数、トルクといったエンジン18の運転条件によって、吸入空気の過給圧力や温度も変化することから、エンジン18の運転条件によっても、その閾値となる水素の混合割合が変化する。こういったことから、燃焼状態をリアルタイムに検出し、燃焼室2に供給される水素の燃焼性を把握する必要がある。
【0055】
そこで、本願の発明者は、水素を一部燃料とする水素混焼用のエンジン18において、水素による異常燃焼回避や水素の未燃焼を抑制するために、図6に示す制御フローを発明した。
図6は、エンジン18の燃焼状態の異常判定を行い、エンジン18を安全に制御するための処理の例を示すフローチャートである。図6に示す処理は、水素混焼用電子制御装置12で行われる水素混合割合制御方法の一例を示す。
【0056】
始めに、燃焼タイミング検出部21は、エンジン18の燃焼状態をリアルタイムに検出する(S1)。そこで、燃焼タイミング検出部21は、センサ類19から入力した各種の検出結果に基づき、エンジン18の燃焼状態として、サイクルごとの燃焼タイミングを検出する。この際、燃焼タイミング変化率演算部21aが、記憶部22から燃焼タイミング時系列データ22aを読み出し、燃焼タイミング変化率を演算することができる。そして、燃焼タイミング検出部21は、燃焼状態の検出結果を異常状態検出部24に出力する。
【0057】
次に、異常状態検出部24は、エンジン18の異常判定を実施する(S2)。ここでは、異常状態検出部24が、センサ類19が検出した第二燃料の供給割合と、燃焼タイミング検出部21により検出された燃焼重心タイミングと、閾値決定部23が決定した閾値とに基づいて、エンジン18の異常有無を判定することができる。異常状態検出部24がエンジン18の異常なしと判定した場合(S2の異常なし)、再びステップS1に戻って、図6の処理を繰り返す。
【0058】
一方、異常状態検出部24がエンジン18の異常ありと判定した場合(S2の異常あり)、異常モード判定部24aが、第二燃料の供給割合と、燃焼重心タイミングと、閾値とに基づいて、異常モードを決定する(S3)。異常モードは、エンジン18の燃焼状態が異常領域番号のいずれに含まれるかによって決定される。1つの異常モードには、複数の異常領域番号が含まれることがある。そして、異常モード判定部24aが判定した異常モードを制御モード決定部25に出力する。
【0059】
制御モード決定部25は、異常モード判定部24aにより判定された異常モードに応じた制御モードを決定する(S4)。そして、制御モード決定部25は、決定した制御モードに応じて水素生成装置5及び流量調整装置6、並びにエンジン制御コントローラ11の制御を行う。このため、水素生成装置5、流量調整装置6及びエンジン制御コントローラ11は、エンジン18の燃焼が正常状態となるように制御モードに従って協調動作する。
【0060】
図6に示した処理のステップS1における燃焼状態の検知方法について、図7を参照して説明する。
図7は、エンジンシリンダ41、クランク軸17、電磁ピックアップ及びコントローラの配置例を示す図である。図中に示す4本のエンジンシリンダ41には、「1」~「4」の数値を付している。
【0061】
本実施の形態に係る燃焼状態の検知方法では、既存のエンジン回転センサ7とカム回転センサ8を活用する。ピストン1及びカムは、クランク軸17の回転に応じて変位する。エンジン回転センサ7は、クランク軸17の回転角を検出する電磁ピックアップを用いる。
【0062】
そして、エンジン制御コントローラ11及び水素混焼用電子制御装置12は、エンジン回転センサ7が検出したクランク軸17の回転角と、カム回転センサ8が検出したカムの回転に応じて出力されるパルスの立ち上がり又は立下りエッジをトリガとして、エンジン18の回転速度を取得する。
【0063】
次に、エンジン18の回転速度の変化の様子について、図8を参照して説明する。
図8は、直列4気筒エンジンにおける回転速度の変化の例を示す図である。図8の横軸はクランク角度を示し、縦軸は回転速度を示す。
【0064】
エンジン18の1サイクルであるクランク角度720degの間に、回転速度が複数の山と谷の振幅を持って変化する。このため、エンジン回転センサ7が設置されているクランク軸17に接続されているエンジン18の気筒数と同数の振幅が1サイクル内(クランク角度0~720°)で発生する。図中には、回転速度の変化の様子が気筒ごとに振られた位相番号1~4(位相#1~#4と表記)と共に示されている。
【0065】
上述したようにエンジン制御コントローラ11は、カム回転センサ8から出力されるパルスの立上り又は立下りエッジを基に振幅の位置を把握することができる。そして、エンジン制御コントローラ11は、カム回転センサ8から出力されるエッジに基づいて、エンジン回転センサ7のエッジカウント数で気筒を判別することが可能である。気筒の判別結果は、エンジン制御コントローラ11から水素混焼用電子制御装置12に入力され、例えば、閾値決定部23による閾値の決定、又は気筒別異常判定部24bによる気筒別の異常判定に用いられる。エンジン制御コントローラ11は、このエッジカウント数から各気筒の回転速度のピーク位置を把握することができる。ピーク位置は、回転速度の最大値、又は最小値のどちらでもよい。
【0066】
図8に示すように、回転速度は、エンジン18の燃焼によるトルク変化によって変化する。また、水素混合割合によって回転速度変化のタイミングが変わる。具体的には水素混合割合が高くなると、図中に白抜き矢印で示すように、燃焼による熱発生の重心が進角化する。
【0067】
ここで、回転速度と燃焼重心の関係について、図9を参照して説明する。
図9は、回転速度のピークタイミングと燃焼重心タイミングとの関係を示す図である。図9の横軸は回転速度のピークタイミングを示し、縦軸は燃焼重心のタイミングを示す。そして、図中には、決定係数Rが0.99であることが示される。図9に示す回転速度のピークタイミングは、図8に示した回転速度のピーク位置の値に該当する。
【0068】
図9に示すように、回転速度のピークタイミングと燃焼重心タイミングとは線形関係になる。このため、図3に示した燃焼タイミング検出部21は、回転速度のピークタイミングを把握することで、水素を含む第二燃料の供給割合の変化に伴う燃焼重心のタイミング変化を把握することができる。
【0069】
なお、エンジン18に燃焼圧力センサを装着(図に未記載)してもよい。この場合、燃焼タイミング検出部21は、燃焼圧力センサが検出した燃焼圧に応じて出力される圧力信号と、エンジン回転センサ7及びカム回転センサ8の検出結果とを用いて燃焼重心タイミングを把握することができる。
【0070】
次に、エンジン18の異常判定の方法について、図10図11を参照して説明する。
図10は、異常状態検出部24が検出するエンジン18の異常領域番号の例を示す図である。
図11は、エンジン18の運転条件、位相判定結果、異常領域番号、異常モード及び制御モードの対応関係を示す一覧表である。
【0071】
異常状態検出部24の異常モード判定部24aは、燃焼タイミング検出部21が回転速度のピークタイミングから推定した燃焼重心タイミングYと、第二燃料の供給割合Xの関係との関係に基づいて、異常燃焼を異常領域1~6に分類して異常モードを判定する。以下、記号の説明とそれぞれの関係式を示す。
Y=f(X,N,T)
=f(T,N,T,T,F,F
=f(T,N,T,T,F,F
=f(T,N,T,T,F,F,X)
=f(T,N,T,T,F,F,X)
Y:燃焼重心タイミング
X:第二燃料の供給割合
,X:異常モード判定の第二燃料割合の閾値
,Y:異常モード判定の燃料重心タイミングの閾値
T:エンジン18のトルク、発電機50のトルク、又は、電流値
N:エンジン18の回転数、発電機50の回転数、又は、電圧値
:エンジン18の水温
:エンジン18の吸気温度
:第一燃料の種類
:第二燃料の種類
【0072】
図10には、第二燃料の供給割合(X)と、燃焼重心タイミング(Y)との関係がグラフで示される。ここでは、閾値X、X、関係式Y=f(X)の所定値より遅いタイミング又は早いタイミングで、異常領域1~6が設定される。ここで、第二燃料の供給割合(X)の閾値X、Xは異常判定の閾値である。
【0073】
図3に示した閾値決定部23が、エンジン回転数(N)、エンジン18のトルク(T)、エンジン18の水温(T)、エンジン18の吸気温度(T)、第一燃料の種類(F)、第二燃料の種類(F)を用いて閾値X、Xを決定する。閾値決定部23は、エンジン回転数の代わりに、クランク軸17に機械的に接続された発電機50の回転数又は電圧値を用いて閾値X、Xを決定してもよい。また、閾値決定部23は、エンジン18のトルクの代わりに、エンジン18のクランク軸17に機械的に接続された発電機のトルク又は電流値を用いて閾値X、Xを決定してもよい。
【0074】
燃焼重心のタイミング(Y)が正常時であれば、関係式Yは、第二燃料の供給割合(X)、エンジン18の回転数N、エンジン18のトルクTの関数Y=f(X,N,T)で表される。このため、異常状態検出部24は、関数Yの値から閾値Y以上の遅角(遅延)、又は閾値Y未満の進角(過早)が発生した場合、燃焼状態が異常と判定する。閾値Y,Yは、エンジン回転数(N)、エンジン18のトルク(T)、エンジン18の水温(T)、エンジン18の吸気温度(T)、第一燃料の種類(F)、第二燃料の種類(F),第二燃料の供給割合(X)によって決定される。
【0075】
図中に示す異常領域1,3,5は、燃焼重心タイミングが、関係式Y=f(X)で表された燃焼重心のタイミング(Y)に閾値Yを加えたタイミングよりも遅い異常を表す。逆に、図中に示す異常領域2,4,6では、燃焼重心タイミングが、燃焼重心のタイミング(Y)から閾値Yを減じたタイミングよりも早い異常を表す。
【0076】
そこで、図11に示すように、異常モード判定部24aは、エンジン運転条件、位相判定結果、及び異常領域番号に基づいて、異常モードを判定し、制御モード決定部25は、異常モードを基に制御モードを決定する。以下に説明するエンジン運転条件として、定常運転又は変動運転がある。また、位相判定結果として、位相遅角異常又は位相進角異常がある。
以下、各異常モードと、異常モードに対応する制御モードの例について、図11を参照して順に説明する。
【0077】
<定常運転時:異常領域1のみ発生>
例えば、エンジン18の回転数や負荷が数秒間にわたって安定しているエンジンシステム20の定常運転時に、異常状態検出部24により燃焼タイミングの異常が判定される場合がある。このようにエンジン(エンジン18)が定常運転されており、第二燃料の供給割合が供給割合閾値未満、かつ燃焼タイミング閾値以上となる燃焼タイミングの遅延が発生した場合であって、第二燃料の供給割合が供給割合閾値以上、かつ燃焼タイミング閾値以上となる燃焼タイミングの遅延が発生していないことを異常モードとして異常モード判定部(異常モード判定部24a)が判定した場合に、制御モード決定部(制御モード決定部25)は、第二燃料供給装置に第二燃料の供給量を増加させる制御を実施するための制御モードを決定する。
【0078】
例えば、制御モード決定部25は、流量調整装置6により第二燃料の供給量を調整することで、異常モード判定部24aが異常領域番号を把握する。そこで、図11に示す異常領域番号の抽出及び異常モードの判定処理では、制御モード決定部25が、例えば、第二燃料の供給割合(X)を10~70%で変化させ、第二燃料の各供給割合に対する燃焼重心タイミング(Y)における異常モードを判定する。
【0079】
ここで、異常モード判定部24aが、異常領域1のみの異常を判定した場合は、異常領域3,5では異常が発生していないので、異常モードが第二燃料の失火であると特定できる。つまり、異常モード判定部24aは、燃焼タイミングが所定より遅角化したのは第二燃料の失火が原因であると特定できる。
【0080】
第二燃料の失火は、例えば、エンジン18の吸気温度が低いこと、吸気中の湿度(水分量)が大きくなること、第二燃料中の水素混合割合が減少すること、又は不活性ガスの割合が増加したことのいずれかで発生する。第二燃料の失火が発生した場合、制御モード決定部25は、第二燃料の供給量を増加する制御を行う。この制御により、エンジン18に供給される混合気の空気過剰率が低くなって、水素を含む第二燃料が可燃範囲に入るので、失火を防止でき、正常燃焼モードに復帰することができる。
【0081】
<定常運転時:異常領域1,3,5で発生>
エンジン(エンジン18)が定常運転されており、燃焼タイミング閾値以上となる燃焼タイミングの遅延が発生したことを異常モードとして異常モード判定部(異常モード判定部24a)が判定した場合であって、気筒別異常判定部(気筒別異常判定部24b)により全ての気筒で異常の発生が検出された場合には、制御モード決定部(制御モード決定部25)は、第一燃料の噴射時期を早める制御を実施するための制御モードを決定する。また、気筒別異常判定部(気筒別異常判定部24b)により一部の気筒で異常の発生が検出された場合には、制御モード決定部(制御モード決定部25)は、第一燃料供給装置から供給される第一燃料の種類を切り替える制御、及び第一燃料の噴射装置(インジェクタ4)の異常のフラグを立てる制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための制御モードを決定する。制御モード決定部25が第一燃料の種類を切り替える制御は、全気筒に対して行われる。
【0082】
このようにエンジン18の回転数や負荷が安定している定常運転時に、異常状態検出部24が燃焼タイミングの異常を判定した場合であって、かつ、気筒別異常判定部24bが全気筒で異常領域1,3,5の発生を確認する場合がある。このような異常は、第二燃料の水素濃度低下が原因となる。そこで、制御モード決定部25は、第一燃料の噴射時期を進角化する制御を実施する。
【0083】
また、気筒別異常判定部24bが一部の気筒で異常領域1,3,5の発生を確認した場合は、異常が発生した気筒において第一燃料のインジェクタ噴射異常が発生したことになる。具体的には第一燃料のインジェクタ4が所定の噴射タイミングで所定の噴射量を噴射できていないときに発生する異常である。
【0084】
このような異常は、インジェクタ4の先端にデポジットがつくことで発生するほか、インジェクタ4の内部材料の劣化などで発生する。そこで、制御モード決定部25は、第一燃料の切り替えを実施する。具体的には、制御モード決定部25は、現在使用中の第一燃料に対し、低粘度系燃料、低沸点系燃料、及び低含酸素燃料のいずれか一つ以上の特性の燃料へ切り替える。例えば、第一燃料としてバイオオイル燃料を使用していた場合、制御モード決定部25は、BDF、合成燃料、軽油のいずれかへ切り替える。また、例えば、第一燃料としてBDFや合成燃料を使用していた場合、制御モード決定部25は、軽油へ切り替える。エンジン18で用いられる第一燃料を、切り替え前の燃料より低粘度、低沸点系の燃料にすることでインジェクタ4から噴射された噴霧の微粒化、蒸気化が促進され、インジェクタ4の先端へのデポジットが発生しづらくなる。
【0085】
また、切り替え前後の第一燃料の同噴射時期を比較すると、切り替え後の第一燃料の粘度が切り替え前の第一燃料の粘度より低くなるので、切り替え後の第一燃料の燃焼速度が高まり、第一燃料の燃焼温度を高めることができる。その他、第一燃料を低含酸素燃料へ切り替えると、燃料の単位体積当たりの発熱量を高めることができるので、第一燃料の同噴射時期において、エンジン18に供給される第一燃料の熱量増加のタイミングが早期化する。これにより燃焼タイミングが早まり、切り替え後の第一燃料の燃焼温度を高めることができる。このように切り替え後の第一燃料の燃焼温度を高めることができるとインジェクタ4の先端へのデポジットの発生が抑制される。また、インジェクタ4の先端に現有しているデポジットを燃焼して低減することが可能となる。
【0086】
なお、第一燃料を切り替えた後においても同異常モード(異常領域1,3,5で発生する異常)が発生する場合、異常状態検出部24は、インジェクタ異常のフラグを立てる。そして、異常状態検出部24は、ユーザへインジェクタ4の異常発生を通知すると共に、エンジン制御コントローラ11、エネルギーマネージメントシステム13にもインジェクタ4の異常発生を通知する。
【0087】
<定常運転時:異常領域2,4,6で発生>
エンジン18の回転数や負荷が安定している定常運転時に、異常状態検出部24が燃焼タイミングの異常を判定した場合であって、かつ、気筒別異常判定部24bが全気筒で異常領域2,4,6の発生を確認した場合がある。この場合、図3に示した燃焼タイミング検出部21が、タイミングの異常が長期の経時変化で発生したか、又は短期の過渡的変化で発生したかを過去の時系列データにて確認する。具体的には、燃焼タイミング検出部21の燃焼タイミング変化率演算部21aが、燃焼タイミング時系列データ22aを参照して、燃焼タイミングの変化率を演算する。そして、燃焼タイミング変化率演算部21aは、燃焼タイミングの変化率が所定未満の場合、(1)長期の経時変化と判定し、燃焼タイミングの変化率が所定以上の場合は、(2)短期の過渡的変化と判定する。
【0088】
(1)長期の経時変化
燃焼タイミングが長期の経時変化となるのは、燃焼室2内や排気経路に不純物等の蓄積に起因するエンジン18内の実圧縮比が高くなることが原因として挙げられる。具体的には、エンジン18を所定期間運転するとオイル起因の無機化合物であるアッシュが、エンジン18内のピストン1や排気管に徐々に蓄積される。また、燃焼の燃え残りであるデポジットがインジェクタ4や排気バルブなどに蓄積される。これらのアッシュやデポジットがエンジン18に蓄積されることで、実圧縮比が高くなり、それが原因で燃焼タイミングが早くなって、タイミング進角の異常が発生する。
【0089】
そこで、エンジン(エンジン18)が定常運転されており、燃焼タイミング閾値未満となる燃焼タイミングの過早が発生した場合であって、燃焼タイミングの変化率が、閾値決定部(閾値決定部23)により決定された変化率閾値以上(長期の経時変化)であることを異常モードとして異常モード判定部(異常モード判定部24a)が判定した場合には、制御モード決定部(制御モード決定部25)は、第二燃料供給装置からの第二燃料の供給を停止する制御、及び、第二燃料供給装置にメンテナンス必要通知を出力する制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための制御モードを決定する。例えば、制御モード決定部25は、(A)第一燃料の切り替え制御、又は(B)第二燃料の供給量制御を実施する。制御モード決定部25による(A)第一燃料の切り替え制御、又は(B)第二燃料の供給量制御は、全気筒に対して行われる。
【0090】
上記の制御を行っても、タイミング進角の異常が回避されない場合は、異常状態検出部24は、ユーザへタイミング進角の異常を通知すると共に、エンジン制御コントローラ11、エネルギーマネージメントシステム13にもタイミング進角の異常を通知する。
【0091】
(A)第一燃料の切り替え制御
第一燃料の切り替え制御の場合、制御モード決定部25は、現在使用中の第一燃料に対し、低粘度系燃料、低沸点系燃料、低含酸素燃料のいずれか一つ以上の特性の燃料へ切り替える。具体的にはバイオオイル燃料の場合はBDF、合成燃料、軽油のいずれかへ切り替える。また、例えば、第一燃料としてBDFや合成燃料を使用していた場合、制御モード決定部25は、軽油へ切り替える。
【0092】
制御モード決定部25がエンジン18で用いられる第一燃料を、切り替え前の燃料より低粘度、低沸点系燃料に切り替えることでインジェクタ4から噴射された噴霧の微粒化、蒸気化が促進される。このため、切り替え前後の第一燃料の同噴射時期において、切り替え後の第一燃料の自己着火のタイミングが早期化し、燃焼温度が高まる。また、第一燃料を低含酸素燃料へ切り替えると、燃料の単位体積当たりの発熱量を高めることができるので、第一燃料が同噴射時期において、エンジン18に供給される第一燃料の熱量増加のタイミングが早期化する。このように切り替え後の第一燃料の燃焼タイミングが早まり、燃焼温度を高めることができると、アッシュやデポジットの発生が抑制される。また、インジェクタ4の先端に現有しているデポジットを燃焼して低減することが可能となる。
【0093】
(B)第二燃料の供給量制御
第二燃料の供給量制御の場合、制御モード決定部25は、燃焼重心タイミングの経時変化と第二燃料の供給割合との関係を見て、燃焼重心タイミングの変化率が低い第二燃料の供給割合を選定する。そして、異常状態検出部24は、燃焼タイミング変化率演算部21aが演算した燃焼重心タイミングの時系列の変化率が所定を超えた場合に、エンジン18のメンテナンス通知を実施する。具体的には、異常状態検出部24は、ユーザに対してエンジン18を停止し、エンジン18のオーバホールを実施するよう注意喚起する。
【0094】
(2)短期の過渡的変化
燃焼タイミング変化率演算部21aが、燃焼タイミングの変化を短期の過渡的変化と判定した場合、燃焼タイミングの変化は、第二燃料の成分異常が原因で発生する。例えば、第二燃料の水素濃度が所定以上、又は、第二燃料中に酸素が混入した場合に、燃焼タイミングの変化が発生する。
【0095】
(シール材料などの経年劣化による異常発生)
例えば、水素生成装置5が電気分解装置の場合、水素生成装置5は、電力により水から水素と酸素を発生させるシステムである。酸素と水素は別の部屋で生成させるが、部屋の境目のシール材料などに経年劣化などが発生すると、水素中に酸素が混入する。第二燃料中に酸素が混入すると燃焼室2中の酸素濃度が増加するために燃焼速度が上昇し、結果的に燃焼重心タイミングが所定よりも早期化する。
【0096】
そこで、エンジン(エンジン18)が定常運転されており、燃焼タイミング閾値未満となる燃焼タイミングの過早が発生した場合であって、燃焼タイミングの変化率が、閾値決定部により決定された変化率閾値未満(短期の過渡的変化)であることを異常モードとして異常モード判定部(異常モード判定部24a)が判定した場合には、制御モード決定部(制御モード決定部25)は、第一燃料供給装置から供給される第一燃料の種類を切り替える制御、第二燃料供給装置からの第二燃料の供給を停止する制御、及び、エンジン(エンジン18)のメンテナンス必要通知を出力する制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための制御モードを決定する。例えば、制御モード決定部25は、燃焼タイミング変化率演算部21aが演算した燃焼重心タイミングの変化率が所定を超えた場合に、第二燃料の供給を停止する制御を実施する。そして、異常状態検出部24は、水素生成装置5の保守、メンテナンスを実施するようユーザに通知する。
【0097】
(第二燃料の成分異常による異常発生)
ただし、酸素と水素の部屋の境目に設けたシール材料などの経年劣化ではなく、短期間(過渡的)に異常領域2,4,6に示す異常が発生した場合、第二燃料の成分異常が発生したことになる。このような異常は、例えば、第二燃料中の水素濃度が所定より高くなった場合、又は第二燃料中に酸素が混入した場合に起こる事象である。
【0098】
例えば、水素生成装置5が水の電気分解装置であって、水の電気分解装置に異常が発生した場合、水素生成装置5が生成した水素中に酸素が混合した混合気がエンジン18に供給される。酸素は燃焼速度を高めるため、燃焼重心タイミングが早くなる結果、異常領域2,4,6に示す異常が発生する。このような異常が発生した場合、制御モード決定部25は、第二燃料の供給を停止し、水素供給装置の保守、メンテナンスを実施する必要がある。
【0099】
なお、水素生成装置5として水の電気分解装置を例示したが、水素生成装置5として改質器が用いられる場合に所定以上の水素が発生した場合においても、第二燃料供給の異常フラグが立つ。そこで、制御モード決定部25は、改質器における制御を、水の電気分解装置における上述した制御と同様に実施する。
【0100】
<定常運転時:異常領域6で発生>
異常モード判定部24aは、エンジン18の回転数や発電負荷が安定している定常運転時に燃焼タイミング検出部21が燃焼タイミングの異常を判定した場合であって、かつ、気筒別異常判定部24bが全気筒で異常領域6の発生を確認した場合は、ノッキングや早期着火といった異常燃焼が発生する異常モードと判定する。このようにエンジン(エンジン18)が定常運転されており、第二燃料の供給割合が供給割合閾値以上、かつ燃焼タイミング閾値未満となる燃焼タイミングの過早が発生した場合であって、第二燃料の供給割合が供給割合閾値未満、かつ燃焼タイミング閾値未満となる燃焼タイミングの過早が発生していないことを異常モードとして異常モード判定部(異常モード判定部24a)が判定した場合に、制御モード決定部(制御モード決定部25)は、第二燃料供給装置に第二燃料の供給量を減少させる制御、及び第一燃料の噴射装置の噴射時期を遅らせる制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための制御モードを決定する。
【0101】
第二燃料中の水素の供給割合が高いと、燃焼室2内の熱い部品に触れた水素の早期着火が発生するケースがある。また、第一燃料の燃焼によって第二燃料の混合気が着火するが、第二燃料の水素混合割合が高いと、混合気が自己着火燃焼し、ノッキングが発生するケースがある。上記のように異常燃焼が発生した際、制御モード決定部25は、例えば、ノッキングの際に第二燃料の割合を減らすこと、及び第一燃料の噴射時期を遅角化することのうち、いずれか一つ以上の制御を実施することでノッキングを回避できる。また、早期着火が発生した際、制御モード決定部25は、第二燃料の割合を減らすことで、燃焼室における水素混合割合を減らす制御モードにより、早期着火を回避できる。
【0102】
<変動運転時:いずれかの領域で発生>
例えば、数秒以内でエンジン回転数、発電機50の発電負荷、及び第二燃料の供給量のうち、いずれか一つ以上が変化しているエンジンシステム20の変動運転時において、いずれかの領域で発生する異常は、第一燃料の噴射制御の応答性が低いことに起因する。そこで、異常モード判定部24aは、このような異常を、第一燃料の燃料噴射系の異常と判定する。第一燃料の燃料噴射系は、例えば、燃料のフィルタ、燃料配管の目詰まりや燃料ポンプの異常で、燃料の噴射圧力の調整の応答性が低下し、その結果、燃焼タイミングの異常が発生したことになる。
【0103】
そこで、エンジン(エンジン18)が変動運転されており、第二燃料の供給割合が変化する途中で、燃焼タイミング閾値以上となる燃焼タイミングの遅延が発生し、又は燃焼タイミング閾値未満となる燃焼タイミングの過早が発生したことを異常モードとして異常モード判定部(異常モード判定部24a)が判定した場合、制御モード決定部(制御モード決定部25)は、第一燃料供給装置から供給される第一燃料の種類を切り替える制御、及び、エンジン(エンジン18)のメンテナンス必要通知を出力する制御のうち、少なくともいずれか一つ以上の制御を実施するための制御モードを決定する。制御モード決定部25が第一燃料の種類を切り替える制御は、全気筒に対して行われる。
【0104】
例えば、変動運転時に異常が発生した際は、制御モード決定部25が、第一燃料に対し、低粘度系燃料、低沸点系燃料、及び低含酸素燃料のいずれか一つ以上の特性の燃料へ切り替える。例えば、第一燃料としてバイオオイル燃料を使用していた場合、制御モード決定部25は、BDF、合成燃料、軽油のいずれかへ切り替える。また、例えば、第一燃料としてBDFや合成燃料を使用していた場合、制御モード決定部25は、軽油へ切り替える。エンジン18で用いられる第一燃料を、切り替え前の燃料より低粘度、低沸点系の燃料にすることで燃料ポンプによる吐出量制御の応答性が高くなり、燃料の噴射圧力の調整の応答性が向上する。
【0105】
また、第一燃料を、低含酸素燃料へ切り替えると、燃料の単位体積当たりの発熱量を高めることができるので、燃料ポンプからの吐出量を低減でき、結果的に燃料の噴射圧力の調整の応答性を向上することができる。また、低含酸素燃料とすることで燃料配管途中のシール材料の劣化抑制や燃料ポンプ周辺の不純物の発生を抑制することができ、その結果、燃料の噴射圧力調整の応答性の低下を抑制できる。
【0106】
上記のように制御モード決定部25が、第一燃料の切り替えを実施した後においても所定の期間に同じ異常モードが発生する場合は、異常状態検出部24は、燃料噴射系異常のフラグを立てて、ユーザへ燃料噴射系の異常発生を通知すると共に、エンジン制御コントローラ11、エネルギーマネージメントシステム13にも燃料噴射系の異常発生を通知する。
【0107】
このため、エンジン18に異常が発生したことが検出されると、保守モードへの移行が行われる。保守モードとは、エンジン18を安全に運転するための運転モードである。例えば、異常状態検出部24がエンジン故障のメンテナンスをユーザに通知する処理、制御モード決定部25がエンジン18への水素供給をカットする処理、及び制御モード決定部25がエンジン出力を低くする処理のうち、少なくとも一つの処理が保守モードで行われる。
【0108】
(エネルギーマネージメントシステムの動作)
ここで、エネルギーマネージメントシステム13の制御動作について説明する。
上述したように水素混焼用電子制御装置12は、再生可能エネルギーを含むエネルギーマネージメントシステム13と情報を通信する機能を有している。そして、水素混焼用電子制御装置12は、エネルギーマネージメントシステム13のエネルギーの需給バランスを基にして、流量調整装置6及び水素生成装置5、切り替え部16、エンジン18のトルク、回転数、発電機50のトルクまたは電流値、回転数を制御する。
【0109】
図12は、エネルギー需給と水素供給可能量との関係を示す図である。図12の横軸は、時間を表す。
【0110】
図12の上部にエネルギー需給グラフを示すように、太陽光発電などの天気に左右される再生可能エネルギー(実線)は、発電量が変動することから、エネルギー需要(破線)よりも多く発電するケースがある。そして、エネルギー需要よりも多く発電された再生可能エネルギーが余剰電力となる時間帯があるので、水素生成装置5を用いて余剰電力から水素を発生させる。そのため、図12の下部に示す水素供給可能量のグラフに示すように、余剰電力が大きいほど、水素の供給可能量が多くなる。
【0111】
水素混焼用電子制御装置12は、エンジンシステム20の状態や制御の実施内容をエネルギーマネージメントシステム13に通信することで、エンジン18側で受け入れ可能な水素の量(「水素受け入れ可能量」と呼ぶ)が決まる。エネルギーマネージメントシステム13は、エネルギー需給バランスで決定される水素供給可能量と、エンジン18側での水素受け入れ可能量とに基づいて、水素生成装置5が生成する水素の水素生成量を決定することができる。
【0112】
以上説明した一実施の形態に係る水素混焼用電子制御装置12では、エンジン18に装着された既存のセンサ類19が検出した情報に基づいて、リアルタイムに燃焼重心タイミングを検出して、エンジン18の異常発生時には、各種の燃焼異常モードを判定する。そして、判定した異常モードに基づいて、エンジンシステム20を制御するための制御モードを決定する。制御モードは、水素の混合割合を調整する制御の他、保守モードへの移行制御など燃焼状態に応じた多種の制御手法を実施する。例えば、水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18に供給する水素の量を減少したり、エンジン18の出力を低くしたりする。この場合、水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18に負担を掛けず、エンジン18への水素供給量を最大限高くする。そして、水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18を効率的に制御し、エンジン18の長期間使用を可能とすることができる。
【0113】
また、エンジン18の異常が発生した場合、水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18のメンテナンス必要通知をユーザに出力する。このため、ユーザは、エンジン18の点検、オーバホール等を実施することができ、エンジン18の異常を早期に解決することができる。
【0114】
エンジン18の燃焼状態の判定は、エンジンシステム20に既設されているセンサ類19が検出した情報が用いられる。このため、エンジン18を加工して、新たに筒内圧センサを取り付けるといった作業が不要となる。また、燃焼室2内に筒内圧センサを設けないので、燃焼室2内で劣化した筒内圧センサを交換する作業も発生しない。
【0115】
また、燃焼タイミング検出部21が検出する燃焼タイミングは、燃焼質量割合が50%となる燃焼位相を表す燃焼重心タイミングに限らなくてもよい。燃焼タイミング検出部21は、任意の燃焼タイミングを検出し、閾値決定部23は、任意の燃焼タイミングに基づいて閾値を決定してもよい。
【0116】
[変形例]
上述した実施の形態に係るエンジンシステム20は。例えば工場内に設置される定置式のエンジンシステムとしたが、車両に搭載されるエンジンシステムとしてもよい。また、エンジン制御ユニット(ECU)に、エンジンシステム20を適用する形態としてもよい。
【0117】
また、図10に示した関係式、供給割合閾値及び燃焼タイミング閾値は、機械学習によって求められてもよい。そして、あるエンジンシステム20で機械学習された関係式、供給割合閾値及び燃焼タイミング閾値が、他のエンジンシステム20にも適用されることで、エネルギーマネージメントシステム13が管理する複数のエンジンシステム20の性能を向上することができる。
【0118】
また、図10では、異常1~異常6を表す6つの異常領域を設けたが、異常の内容をより細分化してもよいし、大きく分けてもよい。例えば、供給割合閾値を1つ設定することで、4つの異常領域を設けることができる。異常領域を大まかに分けることで、エンジン18の制御を早めることができる。また、供給割合閾値を3つ設定することで、8つの異常領域を設けることができる。異常領域を細分化することで、エンジン18をより細かく制御することができる。
【0119】
なお、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するためにシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、本実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0120】
1…ピストン、2…燃焼室、4…インジェクタ、5…水素生成装置、6…流量調整装置、11…エンジン制御コントローラ、12…水素混焼用電子制御装置、13…エネルギーマネージメントシステム、14,15…燃料タンク、16…切り替え部、18…エンジン、20…エンジンシステム、21…燃焼タイミング検出部、21a…燃焼タイミング変化率演算部、22…記憶部、22a…燃焼タイミング時系列データ、22b…閾値、23…閾値決定部、24…異常状態検出部、24a…異常モード判定部、24b…気筒別異常判定部、25…制御モード決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12