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  • 特開-電力変換装置のゲート駆動回路 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187101
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】電力変換装置のゲート駆動回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20221212BHJP
   H03K 17/12 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094924
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小山 孝
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB02
5H740BB08
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM18
5J055AX07
5J055AX55
5J055AX65
5J055BX16
5J055CX07
5J055DX09
5J055DX42
5J055DX48
5J055DX52
5J055DX73
5J055DX83
5J055EX04
5J055EY29
5J055EZ07
5J055EZ09
5J055FX05
5J055FX12
5J055FX13
5J055FX19
5J055GX01
5J055GX02
(57)【要約】
【課題】並列接続された半導体素子のスイッチング動作時の電流アンバランスを抑制することができる電力変換装置のゲート駆動回路を提供する。
【解決手段】並列接続された半導体素子1、2を同時に駆動する駆動回路10と、駆動回路10と半導体素子1、2の各ゲートの間に各々接続されたゲート抵抗11、12と、駆動回路10と半導体素子1、2の各エミッタの間に各々接続されたエミッタ抵抗13、14と、前記ゲート抵抗11、12の各両端間電圧と、前記エミッタ抵抗13、14の各両端間電圧に基づいて、半導体素子1、2の各ゲート電流を各々補正するゲート電流補正回路21、22とを備えた。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回路を構成し、スイッチング制御がなされる半導体素子を、並列接続された第1の半導体素子および第2の半導体素子で構成した電力変換装置において、
前記第1の半導体素子および第2の半導体素子を同時に駆動する駆動回路と、
前記駆動回路と第1の半導体素子のゲートの間、前記駆動回路と第2の半導体素子のゲートの間に各々接続され、半導体素子のスイッチングスピードを調整するゲート抵抗と、
前記駆動回路と第1の半導体素子のエミッタの間、前記駆動回路と第2の半導体素子のエミッタの間に各々接続され、前記各ゲート抵抗と同一定数を有するエミッタ抵抗と、
前記各ゲート抵抗の各々の両端間電圧と、前記各エミッタ抵抗の各々の両端間電圧に基づいて、前記第1の半導体素子および第2の半導体素子の各ゲート電流を各々補正するゲート電流補正回路と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置のゲート駆動回路。
【請求項2】
前記ゲート電流補正回路は、前記ゲート抵抗の両端間電圧とエミッタ抵抗の両端間電圧の差を検出する電圧差検出回路と、前記電圧差検出回路の出力側に接続され、前記ゲート抵抗の定数をゲインとする増幅器と、前記増幅器の出力の極性を反転する極性反転器と、前記極性反転器の出力信号によりオン、オフ制御され、前記ゲート電流を増加させるか否かを切り換える電圧制御スイッチと、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置のゲート駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列接続された複数の電力用半導体素子を備えた電力変換装置に係り、特に電力用半導体素子の電流をバランスさせる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
並列接続された複数の半導体素子の電流をバランスさせる技術は、従来、例えば特許文献1、2、3に記載のものが提案されていた。特許文献1(特許文献1の図2)では、電流センスエミッタ付のIGBTを使用し、センスエミッタに接続したセンス抵抗を介してメインエミッタに流れる電流(主電流)を検出し、並列接続されたIGBTの主電流差に応じてゲート、エミッタ間に接続したFETをオン・オフ側に制御することにより、主電流をバランスさせている。
【0003】
また、電流センスエミッタ付きIGBTとセンス抵抗の組み合わせを電流センスエミッタなしIGBT(一般的なIGBT)とシャント抵抗を組み合わせても同様の効果が得ることができる。
【0004】
また、特許文献2(特許文献2の図1)では、ゲート駆動回路と半導体素子間に対向する互いに逆向きのコイルを設けることにより、半導体素子間に流れる横流を用いてゲート端子電圧に帰還をかけることで主電流をバランスさせている。
【0005】
また、特許文献3(特許文献3の図1)では、並列接続されたIGBTのエミッタとゲート電源回路の0V端子間にインピーダンス手段を接続することでIGBT間に流れる横流を抑制し、エミッタ線に過大な電流が発生した際のゲート過電圧をツェナーダイオードで抑制するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09-289442号公報
【特許文献2】特開2017-46385号公報
【特許文献3】特開2018-11096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は電流センスエミッタ付IGBTを使用する必要があり汎用的ではない。また、外付けにシャント抵抗を組み合わせる方法は、主電流によるシャント抵抗の発熱が課題となる。
【0008】
特許文献2は、付加するコイルの極性の向きが通常のスイッチング動作を妨げる方向に作用するため、スイッチングスピード低下に伴う半導体素子の発熱増加が懸念される。
【0009】
特許文献3は、並列接続した半導体素子の電流アンバランスに起因する素子間の横流は抑制することは可能だが、電流アンバランスそのものを抑制することはできない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、並列接続された半導体素子のスイッチング動作時の電流アンバランスを抑制することができる電力変換装置のゲート駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1に記載の電力変換装置のゲート駆動回路は、
主回路を構成し、スイッチング制御がなされる半導体素子を、並列接続された第1の半導体素子および第2の半導体素子で構成した電力変換装置において、
前記第1の半導体素子および第2の半導体素子を同時に駆動する駆動回路と、
前記駆動回路と第1の半導体素子のゲートの間、前記駆動回路と第2の半導体素子のゲートの間に各々接続され、半導体素子のスイッチングスピードを調整するゲート抵抗と、
前記駆動回路と第1の半導体素子のエミッタの間、前記駆動回路と第2の半導体素子のエミッタの間に各々接続され、前記各ゲート抵抗と同一定数を有するエミッタ抵抗と、
前記各ゲート抵抗の各々の両端間電圧と、前記各エミッタ抵抗の各々の両端間電圧に基づいて、前記第1の半導体素子および第2の半導体素子の各ゲート電流を各々補正するゲート電流補正回路と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の電力変換装置のゲート駆動回路は、請求項1において、
前記ゲート電流補正回路は、前記ゲート抵抗の両端間電圧とエミッタ抵抗の両端間電圧の差を検出する電圧差検出回路と、前記電圧差検出回路の出力側に接続され、前記ゲート抵抗の定数をゲインとする増幅器と、前記増幅器の出力の極性を反転する極性反転器と、前記極性反転器の出力信号によりオン、オフ制御され、前記ゲート電流を増加させるか否かを切り換える電圧制御スイッチと、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
(1)請求項1、2に記載の発明によれば、ゲート・エミッタ間にインダクタ(バランスコア)を付加することによるスイッチングスピードの減少や、大電流が流れる主回路部にシャント抵抗を装着することによる発熱の懸念がなく、半導体素子のしきい値電圧差によって生じる電流アンバランスを抑制することが可能となる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、第1の半導体素子と第2の半導体素子の各しきい値電圧の差に起因して第1の半導体素子と第2の半導体素子のオンタイミングがずれた場合、第1の半導体素子および第2の半導体素子のエミッタどうしを結ぶ共通接続線および各エミッタと前記駆動回路を結ぶ各エミッタ線に横流が流れるが、この横流はエミッタ電流とゲート電流の差となって流れる。
【0014】
このため、請求項2に記載の発明によれば、エミッタ抵抗の両端間電圧とゲート抵抗の両端間電圧の差分に基づいて、遅れてオンした側の半導体素子のゲート電流を増加させることができ、これによってターンオン動作が促進されて、電流アンバランスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態例による電力変換装置のゲート電流補正回路の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、並列接続された電力用半導体素子間のゲート線に流れる横流を利用することによりスイッチング動作時の電流アンバランスを改善するように構成した。
【0017】
図1に、実施形態例による電力変換装置のゲート電流補正回路を示す。図1は、インバータなどの電力変換装置における、例えばブリッジ接続された半導体素子のうち1個の半導体素子を、並列接続した2個の半導体素子1、2(第1の半導体素子、第2の半導体素子)で構成し、それら2個の半導体素子1、2のしきい値電圧差によって生じる電流アンバランスを抑制するブロックを示している。
【0018】
図1において、10は半導体素子1、2を同時に駆動する駆動回路であり、半導体素子1、2の各ゲートをオン、オフ制御させるゲート信号を、正側端からゲート抵抗11を介して半導体素子1のゲートに供給し、正側端からゲート抵抗12を介して半導体素子2のゲートに供給する。
【0019】
半導体素子1のエミッタと駆動回路10の負側端の間にはエミッタ抵抗13が接続され、半導体素子2のエミッタと駆動回路10の負側端の間にはエミッタ抵抗14が接続されている。
【0020】
ゲート抵抗11と半導体素子1のゲートの共通接続点には、半導体素子1、2間のエミッタ電流に流れる横流を推定し、その横流に対応した電圧値に応じて半導体素子1のゲート電流を補正するゲート電流補正回路21が接続されている。
【0021】
ゲート抵抗12と半導体素子2のゲートの共通接続点には、半導体素子1、2間のエミッタ電流に流れる横流を推定し、その横流に対応した電圧値に応じて半導体素子2のゲート電流を補正するゲート電流補正回路22が接続されている。
【0022】
ゲート電流補正回路21内の31は、半導体素子1のエミッタ電圧(ve1)(エミッタ抵抗13の両端間電圧)とゲート抵抗11の両端間電圧(vpg1)の電圧差を検出する電圧差検出回路であり、例えばve1を正入力としvpg1を負入力とするコンパレータで構成されている。
【0023】
32は、電圧差検出回路31で検出された電圧差をゲート抵抗倍する(ゲート抵抗11、12の定数をゲインとする)増幅器である。
【0024】
33は、増幅器32の出力の極性を反転する極性反転器である。
【0025】
34は、極性反転器33の出力信号によりオン、オフ制御され、半導体素子1のゲート電流ig1を増加させるか否かを切り換える電圧制御スイッチであり、オン時には制御電源Vpからの電流をゲート電流ig1に加算するように構成されている。
【0026】
ゲート電流補正回路22は、図示省略しているがゲート電流補正回路21と同様の電圧差検出回路31、増幅器32、極性反転器33、電圧制御スイッチ34を備えており、電圧差検出回路31は半導体素子2のエミッタ電位(ve2)(エミッタ抵抗14の両端間電圧)とゲート抵抗12の両端間電圧(vpg2)の電圧差を検出し、電圧制御スイッチ34は、半導体素子2のゲート電流ig2を増加させるか否かを切り換え、オン時には制御電源Vpからの電流をゲート電流ig2に加算するように構成されている。
【0027】
尚、ゲート抵抗11、12およびエミッタ抵抗13、14は半導体素子1、2のスイッチングスピードを調整するものであり、各々の定数(抵抗値R)は同一に設定されている。
【0028】
また、通常のゲート抵抗11、12のみを装着する場合の1/2の定数とすることで、半導体素子1、2のスイッチングスピードを減少させることなく動作させることが可能となる。
【0029】
図中のLsは主回路の寄生インダクタンスを示している。
【0030】
図1の構成において、半導体素子1、2のしきい値電圧vth1、vth2に差があると、電流アンバランスが発生し主回路の寄生インダクタンス(Ls)により、半導体素子1、2間に横流が発生する。例えば、しきい値電圧の関係がvth1>vth2の場合、半導体素子2が先にオンするためスイッチング遷移中のエミッタ電位の関係はve1<ve2となり横流電流の経路は点線となる。
【0031】
すなわち、半導体素子1、2のエミッタどうしを結ぶ共通接続線および各エミッタと駆動回路を結ぶ各エミッタ線に点線の矢印の方向で横流が流れる。
【0032】
このとき、半導体素子1のゲート電流(ig1)、エミッタ電流(ie1)と横流電流(icL)の関係は、
cL=ie1-ig1…(1)
となる。
【0033】
ここで、ゲート抵抗Rg、ゲート抵抗電位差(vpg)、エミッタ抵抗(Re)、エミッタ抵抗電位差(ve1)とするとゲート電流(ig1)、エミッタ電流(ie1)は、
g1=vpg/Rg…(2)
e1=ve1/Re…(3)
である。
【0034】
前記ゲート抵抗とエミッタ抵抗を同一の定数(R)とすると、(1)式は、
cL=ie1-ig1=(ve1/Re)-(vpg/Rg)=(ve1-vpg)/R…(4)
となり、ゲート電流補正回路21の増幅器32の出力には横流(icL)に応じた電圧が検出される。
【0035】
点線で示す横流電流の経路より、ve1は負極性、ve2は正極性であるため、
ゲート電流補正回路21の増幅器32の出力は負極性、ゲート電流補正回路22の増幅器32の出力は正極性となる。半導体素子1に着目すると、遅れてオンしているため、ゲート電流を加算する方向に作用させるために極性反転器33にて極性を正に反転させ、電圧制御スイッチ34をオン制御している。これにより、横流電流に応じてゲート電流を加算させることで、半導体素子1のターンオン動作が促進されるため、電流アンバランスを抑制することが可能となる。
【0036】
なおこのとき、ゲート電流補正回路22側では、増幅器32の出力が正であり、極性反転器33の反転により電圧制御スイッチ34はオフ状態とされる。
【0037】
以上のように本実施形態例によれば、従来技術のように、ゲート・エミッタ間にインダクタ(バランスコア)を付加することによるスイッチングスピードの減少や、大電流が流れる主回路部にシャント抵抗を装着することによる発熱の懸念がなく、半導体素子のしきい値電圧差によって生じる電流アンバランスを抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1…第1の半導体素子
2…第2の半導体素子
10…駆動回路
11、12…ゲート抵抗
13、14…エミッタ抵抗
21、22…ゲート電流補正回路
31…電圧差検出回路
32…増幅器
33…極性反転器
34…電圧制御スイッチ
図1