(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187105
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】触媒層付き電解質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20221212BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221212BHJP
H01M 8/1058 20160101ALI20221212BHJP
H01M 8/1053 20160101ALI20221212BHJP
H01M 8/1025 20160101ALI20221212BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M8/1058
H01M8/1053
H01M8/1025
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094930
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新宅 有太
(72)【発明者】
【氏名】南林 健太
(72)【発明者】
【氏名】松井 一直
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA02
5H126BB06
5H126FF01
5H126FF03
5H126FF05
5H126GG18
5H126HH04
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】電解質膜上に触媒層を均一に塗布形成することができる触媒層付き電解質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】電解質膜の少なくとも一方の面に触媒インクを塗布し乾燥して触媒層を形成する触媒層付き電解質膜の製造方法であって、前記電解質膜が炭化水素系高分子電解質を含み、前記電解質膜の厚みが40μm以上でかつ前記触媒層の厚みの3.0倍以上である、触媒層付き電解質膜の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の少なくとも一方の面に触媒インクを塗布および乾燥して触媒層を形成する触媒層付き電解質膜の製造方法であって、前記電解質膜が炭化水素系高分子電解質を含み、前記電解質膜の厚みが40μm以上でかつ前記触媒層の厚みの3.0倍以上である、触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記触媒層の厚みが1~25μmである、請求項1に記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記触媒層が少なくとも触媒粒子と高分子電解質とを含み、前記高分子電解質に対する前記触媒粒子の質量比(触媒粒子の質量/高分子電解質の質量)が2.1以上である、請求項1または2に記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記電解質膜が多孔質基材を含む、請求項1~3のいずれかに記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質基材がメッシュ織物である、請求項4に記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項6】
前記電解質膜が、多孔質基材と炭化水素系高分子電解質とを含む複合層の片面または両面に、多孔質基材を含まず炭化水素系高分子電解質を含む層を有する複合電解質膜である、請求項1~5のいずれかに記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記複合電解質膜の厚みを100%とするとき、前記複合層の厚みの比率が10~90%である、請求項6に記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項8】
前記炭化水素系高分子電解質層の厚みが各々3μm以上である、請求項6または7に記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記電解質膜の一方の面に剥離可能な支持体を有し、前記電解質膜の前記支持体とは反対面に触媒インクを塗布する、請求項1~8のいずれかに記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【請求項10】
前記炭化水素系高分子電解質がポリエーテルケトン系ポリマーである、請求項1~9のいずれかに記載の触媒層付き電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層付き電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子形燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池のキーマテリアルであり、近年ではさらに、固体高分子電解質膜型水電解装置や電気化学式水素ポンプといった水素インフラ関連機器への適用についても検討が進んでいる。
【0003】
高分子電解質膜を上記電気化学装置に適用するに際し、電解質膜と触媒層を接合した部材が利用される。このような部材の例としては、電解質膜の表面に触媒層を形成した触媒層付き電解質膜(CCM)が代表である。
【0004】
電解質膜に触媒層を積層する方法としては、従来から転写方式が一般的に知られている。すなわち、転写用基材に触媒層が積層された触媒層転写シートと電解質膜とを重ねて熱圧着して電解質膜上に触媒層を転写する方式である。この転写方式は、均一な厚さでひび割れの少ない触媒層が形成可能であるが、一方、触媒層を一旦転写用基材上に形成させるために、工程数や副資材が増加しコストが高くなるという課題がある。
【0005】
電解質膜に触媒層を積層する他の方法として、電解質膜に触媒層用分散液(触媒インク)を塗布する方式が知られている(例えば、特許文献1~2参照)。塗布方式は、転写方式に比べて工程が簡便であり、特殊な設備を必要としないため、経済的および工業的に好ましい方式であるといえる。また、塗布方式は、転写方式に比べて電解質膜と触媒層との密着性が得られやすいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-87306号公報
【特許文献2】特開2007-184140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電解質膜上に触媒インクを塗布すると、電解質膜が触媒インク中の溶媒を吸収して膨潤あるいは乾燥収縮することによって、触媒層にしわやひび割れが発生するという課題があり、これらの課題は上記した特許文献の技術では十分に抑制することができなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、電解質膜上に触媒層を均一に塗布形成することができる触媒層付き電解質膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の触媒層付き電解質膜の製造方法は、上記目的を達成するために、以下のような構成を採る。すなわち、
電解質膜の少なくとも一方の面に触媒インクを塗布および乾燥して触媒層を形成する触媒層付き電解質膜の製造方法であって、前記電解質膜が炭化水素系高分子電解質を含み、前記電解質膜の厚みが40μm以上でかつ前記触媒層の厚みの3.0倍以上である、触媒層付き電解質膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、触媒層付き電解質膜を製造するにあたって、電解質膜上に触媒層を均一に塗布形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の触媒層付き電解質膜の製造に用いることができる製造装置の一例の概略構成を示す側面図である。
【
図2】転写方式に用いられる製造装置の一例の概略構成を示す側面図である。
【
図3】転写方式に用いられる製造装置の一例の概略構成を示す側面図である。
【
図4】本発明の触媒層付き電解質膜の製造に用いることができる製造装置の一例の概略構成を示す側面図である。
【
図5】電解質膜の製造に用いることができる製造装置の一例の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は以下の実施態様に限定されるものではなく、本発明の目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0013】
本発明の触媒層付き電解質膜の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ということがある)は、炭化水素系高分子電解質を含む電解質膜の少なくとも一方の面に触媒インクを塗布および乾燥して触媒層を形成する製造方法であり、電解質膜の厚みが40μm以上でかつ触媒層の厚みの3.0倍以上であることを特徴とする。本発明における電解質膜の厚みおよび触媒層の厚みは、それぞれ乾燥厚みを意味する。
【0014】
電解質膜の厚みを40μm以上とすることにより、電解質膜上に塗布される触媒インクに含まれる溶媒の絶対的な吸収容量が増大する。また、電解質膜の厚みを触媒層の厚みの3.0倍以上とすることにより、上記溶媒の相対的な吸収容量が増大する。これらの作用によって、しわやひび割れの発生が抑制されて均一な触媒層が形成されると考えられる。
【0015】
また、炭化水素系高分子電解質は、触媒インクに対する膨潤性や寸法変化が、例えば、従来から一般的に知られているフッ素系高分子電解質に比べて、一般的に低い傾向にある。このことも触媒層の均一な塗布形成に寄与していると考えられる。
【0016】
一方、触媒層は、一般的に触媒粒子と高分子電解質を含み、高分子電解質としてフッ素系高分子電解質が一般的に使用されている。炭化水素系高分子電解質を含む電解質膜は、フッ素系高分子電解質を含む電解質膜に比べて、触媒層との密着性が劣る傾向にあるが、電解質膜上に触媒層を塗布形成することによって密着性の向上が期待できる。
【0017】
つまり、炭化水素系高分子電解質を含む電解質膜に対し触媒層の塗布形成を行うことは、
膨潤の抑制という有利な点を活かして、電解質膜と触媒層との密着性が劣るという不利な点を改善することができるものである。
【0018】
[電解質膜]
本発明における電解質膜は、厚みが40μm以上であり、かつ触媒層の厚みの3.0倍以上である。溶媒の絶対的な吸収容量を増大させるという観点から、電解質膜の厚みは、50μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、70μm以上がさらに好ましく、85μm以上が特に好ましい。一方、加工性や材料コストの観点から、電解質膜の厚みは、250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、180μm以下が特に好ましい。
【0019】
電解質膜の厚みが250μmを超えると、以下に示すとおり、副資材のコスト増や生産効率低下の要因となることがある。つまり、電解質膜の製造方法として、後述するように、ロール・ツー・ロール方式で連続的に製膜用基材に塗布、乾燥して製造する方法が好ましく用いられる。このとき、電解質膜の厚みが250μmを超えると、乾燥収縮によるカールの発生を抑制するために製膜用基材の厚みを電解質膜の厚みより大幅に、例えば2倍以上に厚くする必要があり、副資材のコスト増や巻き取り径の増大による生産効率低下の要因となる。
【0020】
また、触媒インクに対する溶媒の相対的な吸収容量を増大させるという観点から、電解質膜の厚みは触媒層の厚みの5.0倍以上が好ましく、6.0倍以上がより好ましく、8.0倍以上が特に好ましい。この倍率の上限は、特に限定されないが、70.0倍以下が好ましい。
【0021】
本発明における電解質膜は、単一層で構成されていてもよいし、複数層の積層構成であってもよいし、多孔質基材を含む複合膜(以下、複合膜である場合を「複合電解質膜」という)であってもよい。複数層の積層構成としては、炭化水素系高分子電解質を含む層と、同じく炭化水素系高分子電解質を含むがその種類や含有量が異なる層や、炭化水素系高分子電解質以外の電解質を含む層などとの積層構成が挙げられる。
【0022】
多孔質基材を含む複合電解質膜は、例えば、多孔質基材に炭化水素系高分子電解質を含浸することによって製造することができる。複合電解質膜は、多孔質基材を含まない電解質膜に比べて触媒インクに対する膨潤が抑制されるので触媒層の塗布形成に有利であり、本発明における電解質膜として好適である。
【0023】
また、上記複合電解質膜は、多孔質基材を含まない電解質膜に比べて、膜の表面粗さが通常大きくなる。表面粗さが比較的大きい電解質膜に触媒層を積層する場合、塗布方式の方が転写方式より有利である。塗布方式は電解質膜上に塗布された触媒インクが電解質膜の表面形状に追従し比較的均一な触媒層が形成されやすいが、転写方式は電解質膜の表面形状によって圧着ムラが生じやすく均一な転写が行われないことがある。つまり、本発明の製造方法は、上記複合電解質膜に触媒層を塗布形成するのに好適である。
【0024】
上記複合電解質膜の構成としては、多孔質基材と炭化水素系高分子電解質とを含む複合層の片面または両面に炭化水素系高分子電解質層を有する構成、すなわち、「炭化水素系高分子電解質層/複合層」の構成、または「炭化水素系高分子電解質層/複合層/炭化水素系高分子電解質層」の構成が好ましい。ここで、炭化水素系高分子電解質層は多孔質基材を含まず炭化水素系高分子電解質を含む層である。
【0025】
複合層における炭化水素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質層における炭化水素系高分子電解質とは、同種であっても異種であってもよく、また2つの炭化水素系高分子電解質層における炭化水素系高分子電解質も同種であっても異種であってもよい。
【0026】
このような構成の電解質膜、すなわち、多孔質基材を含まない炭化水素系高分子電解質層が最外層を構成する電解質膜は、触媒層の塗布形成および触媒層との密着性に有利である。
【0027】
複合電解質膜における複合層の厚み比率は、複合電解質膜の厚みを100%として、10~90%が好ましく、20~80%がより好ましく、30~70%が特に好ましい。ここで、複合層の厚みは多孔質基材の厚みを意味する。複合層の具体的な厚みとしては、20~47μmの範囲が好ましく、25~45μmの範囲がより好ましく、30~43μmの範囲が特に好ましい。また、炭化水素系高分子電解質層の厚みは、各々3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。また、各炭化水素系高分子電解質膜の厚みは、各々45μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、35μm以下が特に好ましい。
【0028】
上記複合層を構成する多孔質基材の形態としては、織布、不織布、多孔質フィルム、メッシュ織物等が挙げられる。多孔質基材の材質としては、例えば、炭化水素系高分子を主成分とする炭化水素系多孔質基材、フッ素系高分子を主成分とするフッ素系多孔質基材などが挙げられる。
【0029】
炭化水素系高分子としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリベンズオキサゾール(PBO)、ポリベンズチアゾール(PBT)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミドスルホン(PIS)などが挙げられる。
【0030】
フッ素系高分子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。
【0031】
多孔質基材は電解質膜の強度を補強するという役目があり、本発明における電解質膜のように厚みが40μm以上と比較的厚い電解質膜を補強するという観点から、強度が比較的高い多孔質基材が好ましく、その観点からメッシュ織物が好ましい。メッシュ織物は、当該分野で従来から一般的に使用されている多孔質基材に比べて、繊維径が比較的大きく、強度が高いものを比較的容易に製造することができる。メッシュ織物の厚み(紗厚)は、20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上が特に好ましい。厚み(紗厚)の上限は、複合電解質膜の厚みの90%以下が好ましい。メッシュ織物を構成する繊維の材質としては、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンが好ましい。
【0032】
本発明における電解質膜は、炭化水素系高分子電解質を含有する。炭化水素系高分子電解質は、イオン性基を含有する炭化水素系高分子であり、炭化水素系高分子としては、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。上記芳香環は、炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環を含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。
【0033】
芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。炭化水素骨格は、これらの構造のうち複数の構造を有していてもよい。これらのなかでも、芳香族炭化水素系ポリマーとして特にポリエーテルケトン骨格を有するポリマー、すなわちポリエーテルケトン系ポリマーが最も好ましい。
【0034】
上記イオン性基としては、カチオン交換能あるいはアニオン交換能のいずれかを有するイオン性基であればよい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アンモニウム基、ホスホニウム基、アミノ基が好ましく用いられる。中でも、水電解性能が優れていることから、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、原料コストの点からスルホン酸基が最も好ましい。また、イオン性基はポリマー中に2種類以上含むことができる。
【0035】
上記芳香族炭化水素系ポリマーとしては、さらに、イオン性基を含有するセグメント(イオン性セグメント)と、イオン性基を含有しないセグメント(非イオン性セグメント)とをそれぞれ有するブロック共重合体が好ましい。ここで、セグメントとは、特定の性質を示す繰り返し単位からなる共重合体ポリマー鎖中の部分構造であって、分子量が2,000以上のものを表すものとする。上記ブロックコ共重合体を用いることで、発電性能、水素生成効率、物理的耐久性が向上する。
【0036】
上記ブロック共重合体としては、下記のようなイオン性基を含有する構成単位(S1)を含むセグメントと、イオン性基を含有しない構成単位(S2)を含むセグメントとを含有するポリエーテルケトン系ブロック共重合体が特に好ましく用いることができる。
【0037】
【0038】
一般式(S1)中、Ar1~Ar4は任意の2価のアリーレン基を表し、Ar1および/またはAr2はイオン性基を含有し、Ar3およびAr4はイオン性基を含有しても含有しなくても良い。Ar1~Ar4は任意に置換されていても良く、互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。
【0039】
【0040】
一般式(S2)中、Ar5~Ar8は任意の2価のアリーレン基を表し、任意に置換されていても良いが、イオン性基を含有しない。Ar5~Ar8は互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。
【0041】
ここで、Ar1~Ar8として好ましい2価のアリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、「フェニレン基」としてはベンゼン環と他の構成単位との結合部位を有する箇所によりo-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基の3種類があり得るが、本明細書において特に限定しない場合はこれらの総称として用いる。「ナフチレン基」や「ビフェニレン基」など、その他の2価のアリーレン基についても同様である。
【0042】
Ar1~Ar8は、好ましくはフェニレン基とイオン性基を含有するフェニレン基、最も好ましくはp-フェニレン基とイオン性基を含有するp-フェニレン基である。また、Ar5~Ar8はイオン性基以外の基で置換されていてもよいが、無置換である方がプロトン伝導性、化学的安定性、物理的耐久性の点でより好ましい。
【0043】
触媒層の均一な塗布形成には、前述したように、電解質膜の溶媒に対する絶対的および相対的な吸収容量を大きくすることが好ましいが、一方、電解質膜の溶媒の吸収性を適度な範囲に調整することが好ましい。この観点から、電解質膜に含まれる炭化水素系高分子電解質のイオン交換容量(IEC)は、1.60~2.50meq/gの範囲が好ましく、1.65~2.30meq/gの範囲がより好ましく、1.70~2.10meq/gの範囲が特に好ましい。炭化水素系高分子電解質のイオン交換容量は、ポリマー中のイオン性基、例えばスルホン酸基の密度を制御することによって調整することができる。また、触媒インクに対する膨潤性を抑制するという観点から、上記イオン交換容量は小さい方が好ましく、2.30meq/g以下が好ましく、2.20meq/g以下がより好ましく、2.10meq/g以下が特に好ましい。
【0044】
電解質膜に含まれる炭化水素系高分子電解質としては、前述したように、ポリエーテルケトン系ポリマーが好ましく、ポリエーテル系ブロック共重合体がさらに好ましい。上記ポリエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテル系ブロック共重合体を含む電解質膜は、触媒インクの対する膨潤性が抑制される傾向にあり、触媒層の塗布形成に有利である。
【0045】
また、上記ポリエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテル系ブロック共重合体の重量平均分子量は、25万以上が好ましく、30万以上がより好ましく、35万以上が特に好ましい。重量平均分子量の上限は150万程度である。このような重量平均分子量が大きい上記ポリマーまたは上記ブロック共重合体を含む電解質膜は、触媒インクに対する膨潤性が抑制される傾向にあり、触媒層の塗布形成に有利である。
【0046】
つまり、本発明の製造方法に用いられる電解質膜に含まれる炭化水素系高分子電解質の特に好ましい形態は、重量平均分子量が35万以上で、イオン交換容量が1.70~2.10meq/gの範囲である、ポリエーテルケトン系ブロック共重合体である。
【0047】
電解質膜は、本発明の効果を阻害しない範囲で各種添加剤、例えば、界面活性剤、ラジカル捕捉剤、過酸化水素分解剤、非電解質ポリマー、エラストマー、フィラーなどを含有することができる。
【0048】
電解質膜の製造方法としては、基材上に電解質の溶液または分散液を塗布し乾燥する方法、溶融押出成形する方法など、公知の方法を採用することができる。以下、電解質の溶液または分散液を総称して「電解質溶液」という。上記製造方法の中でも、基材上に電解質溶液を塗布し乾燥する製造方法が好適である。電解質膜の製造方法の詳細については、後述する。以下、電解質膜の製造に用いられる基材を製膜用基材という。
【0049】
製膜用基材としては、公知のポリマーフィルムを用いることができる。ポリマーフィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、耐薬品性、耐熱性、価格の観点から、ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。製膜用基材は、最終的には剥離除去されるものであり、必要に応じ離型処理が施されていてもよい。製膜用基材の厚みは、電解質膜の厚みが40μm以上と比較的厚膜であることから、搬送性やカール性の観点から、150μm以上が好ましく、175μm以上がより好ましく、210μm以上が特に好ましい。上記製膜用基材の厚みは、加工性や中間製品質量の観点から500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。
【0050】
複合電解質膜の製造方法としては、例えば、製膜用基材上に塗布された電解質溶液の上に多孔質基材を貼り合わせて含浸させ、さらに、多孔質基材上に電解質溶液を塗布し、乾燥する方法が挙げられる。
【0051】
また、高分子電解質としては、イオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成している状態のものが用いられる場合は、製膜用基材上に電解質膜を形成した後、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換するための酸処理を施すことが好ましい。ここで、酸処理方法としては公知の方法を用いることができる。
【0052】
[触媒層]
触媒層の厚みは、ガス拡散性や耐久性の観点から、1~25μmであることが好ましく、2~20μmであることがより好ましく、3~15μmであることが特に好ましい。
【0053】
触媒層は、一般的に、触媒粒子と高分子電解質を含む層である。高分子電解質としては、イオン性基含有フッ素系高分子電解質や前述のイオン性基含有炭化水素系高分子電解質を用いることができるが、ガス拡散性の観点から、イオン性基含有フッ素系高分子電解質が好ましい。
【0054】
上記イオン性基含有フッ素系高分子電解質において、フッ素系高分子とは、ポリマー中のアルキル基および/またはアルキレン基の水素の大部分または全部がフッ素原子に置換されたものを意味する。イオン性基含有フッ素系高分子電解質としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンホスホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン-g-スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド-パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性や化学的安定性など観点からパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーが好ましく、かかるポリマーとして、例えば、“ナフィオン”(登録商標)(ケマーズ社製)、“フレミオン”(登録商標)(AGC(株)製)および“アシプレックス”(登録商標)(旭化成(株)製)などの市販品を挙げることができる。
【0055】
触媒粒子としては、一般的に、白金族元素(白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム)、鉄、鉛、金、銀、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、又は酸化物、複酸化物等が用いられ、また、上記金属を担持した炭素粒子(触媒担持炭素粒子)や上記金属を担持した金属酸化物(触媒担持金属酸化物粒子)も一般的に用いられる。上記炭素粒子としては、微粒子状で導電性を有し、触媒との反応により腐食、劣化しないものであれば特に限定されることはないが、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、およびフラーレン粒子が使用できる。上記触媒担持金属酸化物としては、微粒子状で導電性を有し、触媒との反応により腐食、劣化しないものであれば特に限定されることはないが、チタン、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、錫、アンチモン、セリウム、ホルミウム、タンタル、タングステン、ビスマスの酸化物やITOが使用できる。上記触媒粒子の平均粒子径は、0.5nm以上20nm以下が好ましく、1nm以上5nm以下がより好ましい。
【0056】
アノード触媒層とカソード触媒層とは同一材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。触媒層付き電解質膜を水電解式水素発生装置に適用する場合は、アノード触媒層とカソード触媒層とは異なる材料で構成することが好ましい。例えば、アノード触媒層は、触媒粒子としてイリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどの貴金属あるいはそれらの合金、酸化物、複酸化物、またはこれらの貴金属や合金、酸化物複酸化物を担持した酸化チタンを用いることが好ましい。カソード触媒層は、触媒粒子として白金担持炭素粒子を用いることが好ましい。
【0057】
触媒層において、高分子電解質の含有量に対する触媒粒子の含有量の質量比(触媒粒子の質量/高分子電解質の質量)は、1.0~20.0の範囲が好ましく、1.5~18.0の範囲がより好ましく、2.1~15.0の範囲がさらに好ましく、3.0~13.0の範囲が特に好ましい。
【0058】
例えば、水電解式水素発生装置に触媒層付き電解質膜を適用する場合、アノード触媒層における上記質量比は、2.1~20.0の範囲が好ましく、3.0~15.0の範囲がより好ましく、3.0~13.0の範囲が特に好ましい。一方、カノード触媒層における上記質量比は、1.0~10.0の範囲が好ましく、1.5~7.0の範囲がより好ましく、1.8~5.0の範囲が特に好ましい。
【0059】
上記質量比が比較的大きい触媒層の積層は、塗布方式の方が転写方式より有利である。上記質量比が大きい場合、すなわち、バインダーとして機能する高分子電解質の質量比が小さい場合であっても、塗布方式では比較的均一な触媒層を形成することができるが、転写方式では均一な転写が行われないことがある。すなわち、本発明の製造方法は、上記質量比が比較的大きい場合、具体的には、上記質量比が2.1以上の場合に好適である。
【0060】
つまり、触媒層における触媒粒子と高分子電解質との含有比率(触媒粒子の質量/高分子電解質の質量)が、2.1以上の場合、さらに3.0以上の場合、特に5.0以上の場合に、本発明の製造方法は好適である。
【0061】
触媒粒子の付着量は、0.05~10mg/cm2の範囲が適当であり、0.1~7mg/cm2の範囲が好ましく、0.2~5mg/cm2の範囲がより好ましい。高分子電解質の付着量は、0.01~5mg/cm2の範囲が適当であり、0.05~3mg/cm2の範囲が好ましく、0.1~1mg/cm2の範囲がより好ましい。
【0062】
[触媒インク]
本発明の製造方法に用いられる触媒インクは、前述の触媒層を構成する成分が溶媒に分散あるいは溶解した溶液である。溶媒としては、特に限定されず、当該技術分野で公知の溶媒を用いることができる。例えば、水、アルコール類(例えば、タノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトン等)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等)、グリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルおよび3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、等が挙げられる。
【0063】
溶媒としては、二種以上の溶媒を含む混合溶媒が好ましい。混合溶媒としては、例えば、水とアルコールを含む混合溶媒が挙げられる。アルコールとしては、炭素数4以下の低級アルコールが好ましい。低級アルコールを含む溶媒を用いることによって、触媒インク塗布後の乾燥速度が速くなるという利点がある。一方、触媒インク製造時に触媒粒子と低級アルコールが接触することで、触媒の活性により発火する危険があり、この問題を回避するために、水と低級アルコールとの混合溶媒とすることが好ましい。
【0064】
全溶媒に対する水の含有量は、10~95質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、25~70質量%が特に好ましい。
【0065】
また、水の含有量は、触媒粒子の総量に対して1~20質量倍が好ましく、5~15質量倍がより好ましい。アルコール類の含有量は、触媒粒子の総量に対して、3~15質量倍が好ましく、5~10質量倍がより好ましい。
【0066】
上記混合溶媒は、さらに、水およびアルコール以外の他の溶媒を含むことができる。他の溶媒としては、グリコール類が好ましい。
【0067】
触媒インクは、触媒粒子を分散させるための分散剤を含有することができる。分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を挙げることができる。これらの中でも、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0068】
触媒インクにおける固形分濃度は、電解質膜上に触媒層を均一に形成するという観点から、3~30質量%の範囲が好ましく、5~20質量%の範囲がより好ましく、7~15質量%の範囲が特に好ましい。
【0069】
触媒インクにおける触媒粒子と高分子電解質との含有比率(触媒粒子の質量/高分子電解質の質量)が比較的大きい場合、すなわち、上記含有比率が2.1以上の場合、さらに3.0以上の場合、特に5.0以上の場合に、本発明の製造方法は好適である。
【0070】
触媒インクの調製方法は、特に限定されず、当該技術分野で公知の方法を用いることができる。例えば、(i)触媒粒子を水に混錬し、アルコールを加えて撹拌し、高分子電解質溶液(分散液)を加えて再度撹拌を行った後、分散装置で分散する方法、(ii)触媒粒子を水に混錬し、高分子電解質溶液(分散液)を加えて撹拌し、アルコールを加えて再度撹拌を行った後、分散装置で分散する方法、などが挙げられる。
【0071】
上記分散装置としては、例えば、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、プラネタリーミキサー、ディゾルバー、超音波分散装置、混練脱泡装置などが挙げられる。
【0072】
触媒インクは、本発明の効果を阻害しない範囲で、可塑剤、安定剤、密着助剤、保水剤、着色剤等の添加剤を含有することができる。
【0073】
[触媒層付き電解質膜の製造方法]
本発明の触媒層付き電解質膜の製造方法(本発明の製造方法)は、電解質膜の少なくとも一方の面に触媒インクを塗布し乾燥して触媒層を形成する製造方法である。触媒インクは、電解質膜上に直接あるいは他の層を介して塗布することができるが、直接に塗布することが好ましい。他の層を介在させる場合、他の層は極薄膜であることが好ましく、具体的には1μm以下が適当であり、0.5μm以下が好ましい。
【0074】
触媒インクの塗布方法としては、特に限定されず、公知の塗布方式を用いることができる。例えば、例えば、ディップコート法、リバースコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイレクトロールコート法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法、スピンコート法、エクストルージョンコート法、カーテンコート法等が挙げられる。これらの中でも、被塗布物(電解質膜)に接触せず、予め所定の塗布量になるように供給量が制御できる塗布方式、いわゆる、非接触型の前計量塗布方式が好ましく、かかる塗布方式としてダイコート法、エクストルージョンコート法、カーテンコート法など挙げられ、これらの中でもダイコート法が特に好ましい。
【0075】
電解質膜上に塗布された触媒インクの乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、自然乾燥、真空乾燥、加熱乾燥などが挙げられる。これらの中でも、加熱乾燥が乾燥速度や設備の観点から好ましい。加熱乾燥の方法としては、例えば、熱風などの熱媒体を送風する方法、ヒーターや赤外線を用いるオーブン方式などが挙げられる。乾燥温度は、40~170℃の範囲が適当であり、50~150℃の範囲が好ましく、60~130℃の範囲がより好ましい。
【0076】
触媒層付き電解質膜(CCM:Catalyst Coated Membrane)は、燃料電池や水電解式水素発生装置などの電気化学用途に適用される場合は、通常、電解質膜の両面に触媒層が積層されたものが用いられる。例えば、電解質膜の一方の面にアノード触媒層、他方の面にカソード触媒層が積層されている。
【0077】
本発明の製造方法を用いた触媒層付き電解質膜の製造方法としては、電解質膜の一方の面に本発明の製造方法で触媒層を積層し、他方の面には本発明の製造方法以外の方法で触媒層を積層する方法、電解質膜の両面にそれぞれ本発明の製造方法で触媒層を積層する方法が挙げられる。
【0078】
以下、電解質膜の一方の面に触媒層が積層された触媒層付き電解質膜を「CCM1」、電解質膜の両面に触媒層が積層された触媒層付き電解質膜を「CCM2」ということがあり、後述の
図1~
図4における「CCM1」および「CCM2」なる表記も上記と同義である。
【0079】
本発明の製造方法は、ロール・ツー・ロール方式で行うことが好ましい。かかる製造方法は、例えば、長尺ロール状の電解質膜を連続的に、巻き出し、搬送し、触媒インクを塗布し、乾燥して、ロール状に巻き取る製造方法であり、例えば、
図1の製造装置が例示できる。以下、触媒層が積層される前の電解質膜を「PEM」ということがある。
【0080】
図1において、供給ロール11から巻き出されPEMは、塗布手段12で触媒インクが塗布され、乾燥手段13で乾燥されてCCM1となる。製造されたCCM1が巻取ロール14でロール状に巻き取られる。塗布手段12としては、ダイコータが使用されている。
【0081】
電解質膜(PEM)は、一方の面に剥離可能な支持体が積層されていることが好ましい。以下、電解質膜の一方の面に支持体が積層された電解質膜を「支持体付き電解質膜」ということがある。この支持体付き電解質膜を用いる場合は、支持体が積層された面とは反対面、すなわち、電解質膜が露出した面に触媒インクが塗布される。
【0082】
上記支持体付き電解質膜としては、前述の電解質膜の製造方法、すなわち、製膜用基材上に電解質溶液を塗布し乾燥する製造方法で得られた「製膜用基材付き電解質膜」をそのまま使用してもよいし、または製膜用基材付き電解質膜から製膜用基材を剥離し、別の基材に貼り替えたものを使用してもよい。ここで、別の基材としては、前述の製膜用基材と同様のポリマーフィルムを用いることができる。
【0083】
別の基材に貼り替える場合は、前述したように、製膜用基材は厚みが比較的厚い基材が使用されることから、中間製品(製膜用基材付き電解質膜)の質量やロール状物の巻き径が大きくなり、触媒層形成工程における生産性が低下する場合があるので、別の基材としては製膜用基材の厚みより小さい基材を用いることが好ましい。別の基材の厚みは、120μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下が特に好ましい。上記別の基材の厚みは、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、35μm以上が特に好ましい。別の基材は、電解質膜の製膜用基材とは反対面に積層してもよいし、製膜用基材を剥離した面に積層してもよい。
【0084】
別の基材は、電解質膜を積層する面に、適度な密着性を得るための処理、例えば、加熱処理、アンカー処理、粘着層の積層などを施すことが好ましい。これらの中でも、粘着層の積層されたものが好ましい。つまり、別の基材としては、基材の一方の面に粘着層が積層された「粘着フィルム」が好ましい。粘着フィルムは、保護フィルムとして一般に市販されているものを用いることができる。例えば、日東電工(株)製のE-MASKシリーズ、藤森工業(株)製のマスタックシリーズ、パナック(株)のパナプロテクトシリーズなどが挙げられる。
【0085】
以下、支持体付き電解質膜の支持体を「第1の支持体」ということがある。また、後述の触媒層付き電解質膜(CCM1)の触媒層側に積層される支持体を「第2の支持体」ということがある。第2の支持体としては、前述の第1の支持体と同様のポリマーフィルムや粘着フィルムを用いることができるが、粘着フィルムが好ましい。第2の支持体の厚みは、20~120μmの範囲が好ましく、30~100μmの範囲がより好ましく、35~80μmの範囲が特に好ましい。
【0086】
本発明の製造方法を用いた触媒層付き電解質膜(CCM2)の製造方法について、具体的に説明する。上記製造方法として、下記の(I)および(II)の形態が挙げられる。すなわち、
(I)アノード触媒層とカソード触媒層のどちらか一方の触媒層を本発明の製造方法で積層し、他方の触媒層を本発明の製造方法以外の方法で積層する形態。
(II)アノード触媒層とカソード触媒層のいずれも本発明の製造方法で積層する形態。
【0087】
以下、アノード触媒層、カソード触媒層を、順不同で、第1の触媒層、第2の触媒層という。すなわち、電解質膜に先に積層する触媒層を第1の触媒層、後で積層する触媒層を第2の触媒層という。また、第1の触媒層を形成するための触媒インクを第1の触媒インク、第2の触媒層を形成するための触媒インクを第2の触媒インクという。
【0088】
上記(I)および(II)の形態について、電解質膜として支持体付き電解質膜を用いた形態を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0089】
上記(I)の形態について詳細に説明する。本発明の製造方法以外の触媒層の積層方法としては、転写方式や塗布方式が挙げられるが、転写方式が好ましい。転写方式とは、触媒層転写シートの触媒層と電解質膜とを貼り合わせて熱圧着する方式である。触媒層転写シートは、転写用基材に触媒インクを塗布し乾燥して触媒層を形成したものである。転写用基材としては、前述の製膜用基材と同様のポリマーフィルムを用いることができる。転写用基材の厚みは、20~120μmの範囲が好ましく、30~100μmの範囲がより好ましく、35~80μmの範囲が特に好ましい。
【0090】
上記(I)の形態において、本発明の製造方法と転写方式はどちらを先に実施してもよいが、本発明の製造方法を先に実施するのが好ましい。本発明の製造方法を実施した後、転写方式を実施することによって、本発明の製造方法で積層された触媒層も含めて一括して熱圧着することで、密着性のさらなる向上が期待できる。
【0091】
まず、本発明の製造方法を先に実施する形態について説明する。
【0092】
本発明の製造方法は、前述の
図1の製造装置を用いて実施することができる。すなわち、供給ロール11から巻き出されPEMは、塗布手段12で第1の触媒インクが塗布され、乾燥手段13で乾燥されて第1の触媒層が形成されてCCM1となる。製造されたCCM1が巻取ロール14でロール状に巻き取られる。
【0093】
次に、転写用基材に第2の触媒層が積層された触媒層転写シートを用いた転写方式でCCM1に第2の触媒層が積層される。上記転写方式をロール・ツー・ロール方式で実施する製造装置として、
図2の製造装置が例示できる。
【0094】
図2において、供給ロール21から巻き出されたCCM1は、支持体剥離部26で第1の支持体S1が剥離され、支持体貼合部27で第2の支持体S2がCCM1の第1の触媒層側に貼り合わされ、熱圧着部23で、供給ロール22から巻き出された触媒層転写シートDCと接合され、転写用基材剥離部25で転写用基材TFが剥離されて製造されたCCM2が巻取ロール24でロール状に巻き取られる。
【0095】
支持体剥離部26は、一対の剥離ロール26a、26bと支持体巻取ロール26cで構成され、支持体貼合部27は、一対の貼合ロール27a、27bと支持体供給ロール27cで構成され、転写用基材剥離部25は、一対の剥離ロール25a、25bと転写用基材巻取ロール25cで構成されている。熱圧着部23は、一対の熱圧着ロール23a、23bで構成されているが、これに限定されず、例えば、国際公開第2017/086304号に記載されているダブルベルトプレス方式を用いることができる。
【0096】
上記形態において、CCM1の搬送方向に対して、支持体貼合部27を支持体剥離部26より前(上流側)に配置してもよいし、転写用基材TFは剥離せずにCCM2と一緒に巻き取ってもよいし、また、第2の支持体S2を熱圧着部23から巻取ロール24までの間で剥離してもよい。また、支持体剥離部26と支持体貼合部27のどちらか一方または両方を
図1の乾燥手段13から巻取ロール14までの間に配置してもよい。
【0097】
上記形態において、本発明の製造方法および転写方式を一つの製造ラインで1パスにて連続的に行うことができる。すなわち、本発明の製造方法が完了した後、巻き取らずに連続的に転写方式を実施して、ロール状に巻き取る製造方法である。かかる製造方法を実施する装置としては、
図1の巻取ロール14と
図2の供給ロール21を取り外して連結した装置を用いることができる。
【0098】
上記形態において、支持体貼合部27で第2の支持体S2がCCM1の第1の触媒層側に貼り合わされているが、第2の支持体は必ずしも貼り合わす必要はない。本発明における電解質膜として、前述の複合電解質膜を用いた場合、特に多孔質基材としてメッシュ織物を含む複合電解質膜を用いた場合は、第2の支持体を貼り合わさなくとも、上記転写工程を実施することができる。
【0099】
次に、上記(I)の別の形態、すなわち、転写方式を先に実施し、後で本発明の製造方法を実施する形態について説明する。この形態は、
図3の製造装置を用いて転写方式を実施し、次いで、
図1の製造装置を用いて本発明の製造方法を実施することができる。
【0100】
図3において、供給ロール31から巻き出されたPEMは、熱圧着部33で、供給ロール32から巻き出された触媒層転写シートDCと接合され、支持体剥離部36で第1の支持体S1が剥離されてCCM1となる。製造されたCCM1が巻取ロール34でロール状に巻き取られる。ここで、触媒層転写シートDCは、転写用基材に第1の触媒層が積層されたものである。
【0101】
第1の支持体S1は、剥離せずにCCM1と一緒に巻き取ってもよく、この場合は、次工程で本発明の製造方法を実施するときに、触媒インクを塗布するまでに剥離する。また、触媒層転写シートの転写用基材DCは熱圧着部33から巻取ロール34までの間に剥離してもよいが、剥離せずに第2の支持体として活用することが好ましい。
【0102】
支持体剥離部36は、一対の剥離ロール36a、36bと支持体巻取ロール36cで構成され、熱圧着部33は、一対の熱圧着ロール33a、33bで構成されている。熱圧着部33は上記構成に限定されず、例えば、国際公開第2017/086304号に記載されているダブルベルトプレス方式を用いることができる。
【0103】
次に、
図1の製造装置を用いて本発明の製造方法を実施する。すなわち、供給ロール11から巻き出されCCM1は、塗布手段12で第2の触媒インクが塗布され、乾燥手段13で乾燥されてCCM2となる。製造されたCCM2が巻取ロール14でロール状に巻き取られる。
【0104】
上記形態において、転写方式および本発明の製造方法を一つの製造ラインで1パスにて連続的に行うことができる。すなわち、転写方式でPEMの一方の面に第1の触媒層を積層して製造されたCCMを巻き取らずに連続的に本発明の製造方法を実施して、ロール状に巻き取る製造方法である。かかる製造方法を実施する装置としては、
図3の巻取ロール34と
図1の供給ロール11を取り外して連結した装置を用いることができる。
【0105】
上記(II)の態様、すなわち、電解質膜の両面にそれぞれ本発明の製造方法を用いて触媒層を積層する形態について説明する。
【0106】
第1の形態は、CCM1を製造する第1の工程を完結した後に、第2の工程でCCM2を製造する形態である。第1の工程は、
図1の製造装置を用いて、PEM(支持体付き電解質膜)の第1の支持体とは反対面に第1の触媒インクを塗布し、乾燥して第1の触媒層を形成してCCM1を製造し、ロール状に巻き取る。第2の工程は、
図1の製造装置を用いて、CCM1の他方の面(第1の触媒層とは反対面)に第2の触媒インクを塗布し、乾燥して第2の触媒層を形成してCCM2を製造し、ロール状に巻き取る。
【0107】
上記形態において、第1の支持体は、第1の工程の中に
図3の支持体剥離部36と同様の装置を設置して剥離してもよいし、または、第2の工程の中に
図2の支持体剥離部26と同様の装置を設置して剥離してもよい。また、第2の工程でCCM1の他方の面に第2の触媒インクを塗布するまでに、CCM1の第1の触媒層側に第2の支持体を積層してもよく、このために第1の工程または第2の工程の中に
図2の支持体貼合部27を設置してもよい。本発明における電解質膜として、前述の複合電解質膜を用いた場合、特に多孔質基材としてメッシュ織物を含む複合電解質膜を用いた場合は、第2の支持体を貼り合わさなくとも、上記第2の工程を実施することができる。
【0108】
第2の形態は、一つの製造ラインで1パスにて連続的にCCM1とCCM2を製造する形態である。この形態に用いられる製造装置の一例として
図4が例示できる。
【0109】
図4において、供給ロール41から巻き出されPEM(支持体付き電解質膜)の第1の支持体とは反対面に第1の塗布手段42aで第1の触媒インクが塗布される。次いで、第1の乾燥手段43aで乾燥されて第1の触媒層が形成されることでCCM1が製造される。その後、支持体剥離部46で第1の支持体S1が剥離され、支持体貼合部47でCCM1の第1の触媒層側に第2の支持体S2が貼り合わされる。さらに、CCM1の第1の触媒層とは反対面に第2の塗布手段42bで第2の触媒インクが塗布され、第2の乾燥手段43bで乾燥されて第2の触媒層が形成されることでCCM2が製造される。製造されたCCM2が巻取ロール44でロール状に巻き取られる。
【0110】
支持体剥離部46は、一対の剥離ロール46a、46bと支持体巻取ロール46cで構成され、支持体貼合部47は、一対の貼合ロール47a、47bと支持体供給ロール47cで構成されている。また、CCM1の搬送方向に対して、支持体貼合部47を支持体剥離部46より前(上流側)に配置してもよい。また、上記形態において、CCM2は巻取ロール44で巻き取られる前に熱圧着されてもよい。熱圧着手段としては、
図2の熱圧着部23と同様の装置を用いることができる。
【0111】
上記形態において、支持体貼合部47で第2の支持体S2がCCM1の第1の触媒層側に貼り合わされているが、第2の支持体は必ずしも貼り合わす必要はない。本発明における電解質膜として、前述の複合電解質膜を用いた場合、特に多孔質基材としてメッシュ織物を含む複合電解質膜を用いた場合は、第2の支持体を貼り合わさなくとも、上記塗布工程を実施することができる。
【0112】
上記(I)および(II)の形態を工程毎に簡潔にまとめると以下のようになる。すなわち、
[1]電解質膜の一方の面に第1の支持体が積層された支持体付き電解質膜の第1の支持体とは反対面に、本発明の製造方法を実施して第1の触媒層を積層してCCM1を製造する工程(A1)、
CCM1から第1の支持体を剥離する工程(A2)
CCM1と、転写用基材に第2の触媒層が積層された触媒層転写シートとを熱圧着してCCM1の第1の触媒層とは反対面に第2の触媒層を積層する工程(A3)
を含む、CCM2の製造方法。
【0113】
上記製造方法において、CCM1の第1の触媒層が積層された面に第2の支持体を貼り合わせる工程(A4)を上記工程(A1)と工程(A3)の間に配置することができる。
【0114】
[2]電解質膜の一方の面に第1の支持体が積層された支持体付き電解質膜と、転写用基材に第1の触媒層が積層された触媒層転写シートとを熱圧着して、支持体付き電解質膜の第1の支持体とは反対面に第1の触媒層を積層してCCM1を製造する工程(B1)
CCM1から第1の支持体を剥離する工程(B2)
CCM1の第1の触媒層とは反対面に、本発明の製造方法を実施して第2の触媒層を積層する工程(B3)
を含む、CCM2の製造方法。
【0115】
[3]電解質膜の一方の面に第1の支持体が積層された支持体付き電解質膜の第1の支持体とは反対面に、本発明の製造方法を実施して第1の触媒層を積層してCCM1を製造する工程(C1)、
CCM1から第1の支持体を剥離する工程(C2)
CCM1の第1の触媒層とは反対面に、本発明の製造方法を実施して第2の触媒層を積層する工程(C3)
を含む、CCM2の製造方法。
【0116】
上記製造方法において、CCM1の第1の触媒層が積層された面に第2の支持体を貼り合わせる工程(C4)を上記工程(C1)と工程(C3)の間に配置することができる。
【0117】
[電解質膜の製造方法]
本発明の製造方法に用いられる好適な電解質膜の製造方法について、前述した複合電解質膜の製造方法の一実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。電解質膜の製造は、ロール・ツー・ロール方式の製造方法で行うことが好ましく、ロール・ツー・ロール方式の製造装置として、例えば、
図5の製造装置が例示できる。
【0118】
図5において、供給ロール51から巻き出された製膜用基材(第1の支持体)S1の一方の面に第1の塗布手段52aで炭化水素系高分子電解質を含む第1の電解質溶液が塗布される。次いで、その塗布面に、供給ロール55から巻き出された多孔質基材PSが貼り合わされ、多孔質基材PSに第1の電解質溶液が含浸される。続いて、多孔質基材PSに第2の塗布手段52bで炭化水素系高分子電解質を含む第2の電解質溶液が塗布され、乾燥手段53で乾燥されて電解質膜PEMが製造される。製造されたPEMは巻取ロール54でロール状に巻き取られる。
【0119】
塗布手段として、特に限定されず、公知の塗布方式を用いることができる。例えば、ディップコート法、リバースコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイレクトロールコート法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法、スピンコート法、エクストルージョンコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0120】
第1の電解質溶液の多孔質基材への含浸は、実質的に、製膜用基材S1に塗布された第1の電解質溶液と多孔質基材S1が接触してから第2の塗布手段までの含浸区間Lで行われる。含浸区間Lは、含浸時間が2~100秒、好ましくは5~50秒、特に好ましくは、15~30秒となるように設計される。
【0121】
上記した第1の電解質溶液と第2の電解質溶液とは、組成が同一であってもよいし、異なっていてもよい。組成が異なる形態としては、例えば、炭化水素系高分子電解質の種類や濃度が異なる形態、炭化水素系高分子電解質以外の必要に応じて添加される成分、例えば、ラジカル捕捉剤、過酸化水素分解剤、界面活性剤などの成分の有無や添加量が異なる形態が挙げられる。
【0122】
炭化水素系高分子電解質をプロトン化するための酸処理が必要な場合は、
図5の製造ラインにおいて、乾燥手段53から巻取ロール54までの間に、酸処理を施すための手段、例えば、酸処理槽、水洗槽および乾燥手段を設置して、電解質膜の製造に続いて連続的に酸処理を行うことができる。また、電解質膜の製造後に別の工程で酸処理を施してもよい。酸処理装置としては、例えば、特開2011-194593号公報、国際公開第2017/141710号に記載の装置を用いることができる。
【0123】
上記電解質膜の製造方法を工程毎に簡潔にまとめると以下のようになる。すなわち、
製膜用基材(第1の支持体)に炭化水素系高分子電解質を含む第1の電解質溶液が塗布する工程(P1)、
1の電解質溶液が塗布された面に多孔質基材を貼り合わす工程(P2)
多孔質基材に第1の電解質溶液を含浸させる工程(P3)
多孔質基材に炭化水素系高分子電解質を含む第2の電解質溶液が塗布する工程(P4)
乾燥する工程(P5)
をこの順に実施する、電解質膜の製造方法。
【0124】
電解質膜に酸処理を施す必要がある場合は、上記工程(P1)から(P2)を実施した後に、酸処理する工程(P6)、水洗する工程(P7)、乾燥する工程(P8)、を含む。
【0125】
また、製膜用基材を別の基材に貼り替える場合は、上記の乾燥する工程(P5)または乾燥する工程(P8)の後に、電解質膜から製膜用基材を剥離する工程(P9)、別の基材を電解質膜に貼り合わす工程(P10)、を含み、上記工程(P9)と工程(P10)は順不同で実施する。また、別の基材は、電解質膜の製膜用基材とは反対面に貼り合わされてもよいし、製膜用基材が剥離された面に貼り合わされてもよい。別の基材の厚みは、製膜用基材の厚みより小さいことが好ましい。また、別の基材は、粘着フィルムであることが好ましい。
【0126】
[適用例]
本発明の製造方法で得られた触媒層付き電解質膜は、例えば、電気化学用途に適用することができる。電気化学用途としては、例えば、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解式水素発生装置、電気化学式水素圧縮装置等が挙げられる。これらの中でも水電解式水素発生装置が最も好ましい。
【0127】
触媒層付き電解質膜を電気化学用途に適用する場合は、触媒層付き電解質膜の両面にガス拡散層(ガス拡散電極)を配置した、いわゆる、膜電極接合体が用いられる。具体的には、触媒層付き電解質膜のアノード触媒層側にアノードガス拡散層、カソード触媒層側にカソードガス拡散層がそれぞれ配置・接合されたものである。
【0128】
ガス拡散層は、一般に、ガス透過性および電子伝導性を有する部材で構成されており、例えば、カーボン多孔質体や金属多孔質体が挙げられる。カーボン多孔質体としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンメッシュ、カーボン不織布等が挙げられる。金属多孔質体としては、金属メッシュ、発泡金属、金属織物、金属焼結体等が挙げられる。この金属としては、例えば、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケル-クロム合金、銅およびその合金、銀、アルミ合金、亜鉛合金、鉛合金、チタン、ニオブ、タンタル、鉄、ステンレス、金、白金等が挙げられる。
【0129】
ガス拡散層には、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理や、水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理や、抵抗を下げるための炭素粉末の添加等を行うこともできる。また、ガス拡散層には、触媒層付電解質膜側に、少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマーを含む導電性中間層を設けることもできる。特に、ガス拡散層が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで、触媒溶液がガス拡散層にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0130】
ガス拡散層の厚みは、50~1000μmが好ましく、100~700μmがより好ましく、150~500μmが特に好ましい。
【0131】
アノードガス拡散層とカソードガス拡散層とは同一材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。膜電極接合体を水電解式水素発生装置に適用する場合は、アノードガス拡散層とカソードガス拡散層とは異なる材料で構成されていることが好ましい。例えば、アノードガス拡散層は金属多孔質体で構成され、カソードガス拡散層はカーボン多孔質体で構成されることが好ましい。
【実施例0132】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各種測定方法および評価方法は次の通りである。
【0133】
(1)ポリマーの分子量の測定
ポリマー溶液の数平均分子量及び重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー(株)製HLC-8022GPCを用いた。また、GPCカラムとして東ソー(株)製TSK gel SuperHM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用いた。N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
【0134】
(2)イオン交換容量(IEC)の測定
中和滴定法により測定した。測定は3回実施し、その平均値を取った。
【0135】
プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。なお、上記電解質膜は、炭化水素系高分子電解質の溶液を支持体上に塗布乾燥して製膜(厚みは約10μm)したものである。
【0136】
上記電解質膜に5質量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。イオン交換容量(IEC)は下記式により求めた。
【0137】
IEC(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)
(3)電解質膜および触媒層の厚みの測定
下記条件に従い、触媒層付き電解質膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた画像から電解質膜および触媒層の厚みを測定した。
装置:電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)S-4800(日立ハイテクノロジーズ製)
加速電圧:2.0kV
前処理:BIB法にて作製した断面試料にPtコートして測定した。
BIB法:アルゴンイオンビームを使用した断面試料作製装置。試料直上に遮蔽板を置き、その上からアルゴンのブロードイオンビームを照射してエッチングを行うことで観察面・分析面(断面)を作製する。
【0138】
また、複合電解質膜における複合層および炭化水素系高分子電解質層の厚みについても、上記方法で測定した。
【0139】
(4)触媒層の観察
電解質膜上に塗布され乾燥されて形成された触媒層を透過光と反射光で目視観察し、以下の基準で評価した。
A(最良):しわ、クラックおよび濃淡ムラがいずれも確認されない。
B(良):しわ、クラックおよび濃淡ムラの中の一つが確認されるが軽微である。
C(可):しわ、クラックおよび濃淡ムラの中の二つが確認されるが軽微である。
D(不良):しわ、クラックおよび濃淡ムラのすべてが確認されるか、あるいはそれらの少なくとも一つが明確に確認される。
【0140】
[ポリエーテル系ブロック共重合体の合成]
<ブロック共重合体b1の合成>
[合成例1]
(下記一般式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成)
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mLフラスコに、4,4′-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み溶解した。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温し、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランと0.2%の4,4′-ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0141】
【0142】
[合成例2]
(下記一般式(G2)で表されるジソジウム-3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジフルオロベンゾフェノンの合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬(株)試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩(NaCl)200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、下記化学式(G2)で示されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。
【0143】
【0144】
[合成例3]
(下記一般式(G3)で表される非イオン性オリゴマーa1の合成)
攪拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、合成例1で得たK-DHBP25.83g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)を入れた。窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mLとトルエン100mLを加え、160℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去し、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールで再沈殿精製を行い、非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は10,000であった。
【0145】
攪拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、上記非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体20.0g(2mmol)を入れた。装置内を窒素置換した後、NMP100mL及びシクロヘキサン30mLを加え、100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサンを除去した。さらに、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を加え、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿精製を行い、下記一般式(G3)で示される非イオン性オリゴマーa1(末端:フルオロ基)を得た。数平均分子量は11,000であった。
【0146】
【0147】
[合成例4]
(下記一般式(G4)で表されるイオン性オリゴマーa2の合成)
撹拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、合成例1で得たK-DHBP12.9g(50mmol)、4,4’-ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン40.1g(95mmol)、および18-クラウン-6 17.9g(和光純薬(株)、82mmol)を入れ、窒素置換後、NMP300mL及びトルエン100mLを加え、150℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去し、170℃で6時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿精製を行い、下記一般式(G4)で示されるイオン性オリゴマーa2(末端:OM基)を得た。数平均分子量は21,000であった。なお、式(G4)において、Mは、NaまたはKを表す。またnは、正の整数を表す。
【0148】
【0149】
[合成例5]
(ブロック共重合体b1の合成)
撹拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2,000mLのSUS製重合装置に、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:OM基)を21g(1mmol)入れ、窒素置換した。その後、NMP100mL、シクロヘキサン30mLを加え、100℃で脱水した後、昇温してシクロヘキサンを除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端:フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールへの再沈殿精製により、ブロック共重合体b1を得た。重量平均分子量は35万であった。このブロック共重合体b1のイオン交換容量は、2.10meq/gであった。
<ブロック共重合体b2の合成>
[合成例6]
(上記一般式(G3)で表される非イオン性基オリゴマーa3の合成)
合成例3において、4,4'-ジフルオロベンゾフェノンの仕込量を21.4g(アルドリッチ試薬、98mmol)に変えた以外は、合成例3と同様の方法で、非イオン性オリゴマーa3の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa3の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は20,000であった。さらに、合成例3の非イオン性基オリゴマーa1お末端ヒドロキシ体に変えて、非イオン性基オリゴマーa3の末端ヒドロキシ体を40.0g(2mmol)仕込む以外は、合成例3と同様の方法で、上記式(G3)で示される非イオン性オリゴマーa3(末端:フルオロ基)の合成を行った。数平均分子量は21,000であった。
【0150】
[合成例7]
(上記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa4の合成)
前記合成例4において、ジソジウム-3,3'-ジスルホネート-4,4'-ジフルオロベンゾフェノンの仕込量を41.4g(98mmol)、ビスフェノールをK-DHBPの25.8g(100mmol)に変えた以外は、合成例4と同様の方法で、上記式(G4)で示されるイオン性基オリゴマーa4(末端:OM基)を得た。数平均分子量は26,000であった。
【0151】
[合成例8]
(ブロック共重合体b2の合成)
合成例5において、イオン性基オリゴマーa2(末端:OM基)に変えてイオン性基オリゴマーa4(末端:OM基)を26g(1mmol)入れ、非イオン性基オリゴマーa1(末端:フルオロ基)に変えて非イオン性基オリゴマーa3(末端:フルオロ基)を21g(1mmol)入れた以外は、合成例5と同様の方法で、ブロック共重合体b2を得た。重量平均分子量は38万であった。このブロック共重合体b2のイオン交換容量は、1.90meq/gであった。
【0152】
[多孔質基材(メッシュ織物)]
国際公開第2019/188960号の製造例1で製造した液晶ポリエステル繊維からなるメッシュ織物を用いた。
【0153】
[電解質溶液s1の作製]
20質量部のブロック共重合体b1を80質量部のNMPに添加して撹拌機で20,000rpmで1時間撹拌して、ポリマー濃度が20質量%の透明な溶液を調製した。この溶液をガラス繊維フィルターで加圧ろ過して、電解質溶液s1を作製した。
【0154】
[電解質溶液s2の作製]
20質量部のブロック共重合体b2を80質量部のNMPに添加して撹拌機で20,000rpmで1時間撹拌して、ポリマー濃度が20質量%の透明な溶液を調製した。この溶液をガラス繊維フィルターで加圧ろ過して、電解質溶液s2を作製した。
【0155】
[電解質膜PEM1の製造]
厚みが250μmのPETフィルムに電解質溶液s1を乾燥厚みが50μmとなるように塗布し、150℃で乾燥し、さらに50℃、10質量%の硫酸水溶液に25分間浸漬して酸処理を施し、水洗し、乾燥して、電解質膜PEM1を製造した。この電解質膜は支持体付き電解質膜で、電解質膜の厚みは50μmであった。
【0156】
[電解質膜PEM2の製造]
厚みが125μmのPETフィルムに電解質溶液s1を乾燥厚みが30μmとなるように塗布したこと以外は、上記PEM1と同様にして電解質膜PEM2を製造した。この電解質膜は支持体付き電解質膜で、電解質膜の厚みは30μmであった。
【0157】
[電解質膜PEM3の製造]
図5の製造装置を用いて、厚みが250μmのPETフィルムに電解質溶液s1を塗布し、多孔質基材(メッシュ織物)を貼り合わせて含浸させ、多孔質基材に電解質溶液s1を塗布し、乾燥し、さらに、50℃、10質量%の硫酸水溶液に25分間浸漬して酸処理を施し、水洗し、乾燥して、電解質膜PEM3を製造した。この電解質膜は支持体付き電解質膜(複合電解質膜)であり、この複合電解質膜の構成は、PETフィルム側から、炭化水素系高分子電解質層1(厚み8μm)/複合層(厚み35μm)/炭化水素系高分子電解質層2(厚み7μm)で、電解質膜の合計厚みは50μmであった。
【0158】
[電解質膜PEM4の製造]
図5の製造装置を用いて、厚みが350μmのPETフィルムに電解質溶液s1を塗布し、多孔質基材(メッシュ織物)を貼り合わせて含浸させ、多孔質基材に電解質溶液s1を塗布し、乾燥し、さらに、50℃、10質量%の硫酸水溶液に25分間浸漬して酸処理を施し、水洗し、乾燥して、電解質膜PEM4を製造した。この電解質膜は支持体付き電解質膜(複合電解質膜)であり、この複合電解質膜の構成は、PETフィルム側から、炭化水素系高分子電解質層1(厚み33μm)/複合層(厚み35μm)/炭化水素系高分子電解質層2(厚み32μm)で、電解質膜の合計厚みが100μmであった。
【0159】
[電解質膜PEM5の製造]
図5の製造装置を用いて、厚みが350μmのPETフィルムに電解質溶液s1を塗布し、多孔質基材(メッシュ織物)を貼り合わせて含浸させ、多孔質基材に電解質溶液s1を塗布し、乾燥し、さらに、50℃、10質量%の硫酸水溶液に25分間浸漬して酸処理を施し、水洗し、乾燥して、電解質膜PEM5を製造した。この電解質膜は支持体付き電解質膜(複合電解質膜)であり、この複合電解質膜の構成は、PETフィルム側から、炭化水素系高分子電解質層1(厚み43μm)/複合層(厚み35μm)/炭化水素系高分子電解質層2(厚み42μm)で、電解質膜の合計厚みが120μmであった。
【0160】
[電解質膜PEM6の製造]
図5の製造装置を用いて、厚みが350μmのPETフィルムに電解質溶液s2を塗布し、多孔質基材(メッシュ織物)を貼り合わせて含浸させ、多孔質基材に電解質溶液s2を塗布し、乾燥し、さらに、50℃、10質量%の硫酸水溶液に25分間浸漬して酸処理を施し、水洗し、乾燥して、電解質膜PEM6を製造した。この電解質膜は支持体付き電解質膜(複合電解質膜)であり、この複合電解質膜の構成は、PETフィルム側から、炭化水素系高分子電解質層1(厚み25μm)/複合層(厚み35μm)/炭化水素系高分子電解質層2(厚み25μm)で、電解質膜の合計厚みが85μmであった。
【0161】
[触媒インクC1の調製]
・触媒粒子:Umicore社製のIrO2触媒Elyst Ir75 0480(Ir含有率75%)を10質量部
・フッ素系高分子電解質:ケマーズ(Chemours)(株)製の“Nafion”(登録商標)品番D2020(電解質と水と1-プロパノールの質量比が20:34:46の分散液)を固形分換算で1質量部
・溶媒:水と1-プロピルアルコールとの質量比4:6の混合溶媒
上記の触媒粒子と高分子電解質を溶媒中でビーズミルを用いて分散して、固形分濃度が10質量%の触媒インクC1(アノード触媒インク)を調製した。この触媒インクC1を用いて得られる触媒層は、高分子電解質に対する前記触媒粒子の質量比(触媒粒子の質量/高分子電解質の質量)が10である。
【0162】
[触媒インクC2の調製]
・触媒粒子:田中貴金属工業(株)製白金触媒担持炭素粒子TEC10E50E(白金担持率50質量%)を10質量部
・フッ素系高分子電解質:ケマーズ(Chemours)(株)製の“Nafion”(登録商標)品番D2020(電解質と水と1-プロパノールの質量比が20:34:46の分散液)を固形分換算で5質量部
・溶媒:水と1-プロピルアルコールとの質量比4:6の混合溶媒
上記の触媒粒子と高分子電解質を溶媒中でビーズミルを用いて分散して、固形分濃度が10質量%の触媒インクC2(カノード触媒インク)を調製した。この触媒インクC2を用いて得られる触媒層は、高分子電解質に対する前記触媒粒子の質量比(触媒粒子の質量/高分子電解質の質量)が2である。
【0163】
[実施例1]
図1の製造装置を用いて、電解質膜PEM1のPETフィルムとは反対面に触媒インクC1を塗布し、130℃で乾燥して、電解質膜の一方の面に第1の触媒層が積層された触媒層付き電解質膜(CCM1)を製造した。この触媒層の厚みは10μmであった。
【0164】
[比較例1、2および実施例2~5]
電解質膜の種類および触媒層の厚みを表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして触媒層付き電解質膜を製造した。
【0165】
[実施例11]
実施例3で得られた触媒層付き電解質膜(CCM1)からPETフィルムを剥離し、
図1の製造装置を用いて、CCM1の第1の触媒層とは反対面に触媒インクC2を乾燥厚みが10μmとなるように、塗布し、130℃で乾燥して、第2の触媒層を積層して、触媒層付き電解質膜(CCM2)を製造した。この第2の触媒層の厚みは10μmであった。この第2の触媒層の観察結果は、「A」であった。
【0166】
[実施例12]
実施例3で得られた触媒層付き電解質膜(CCM1)からPETフィルムを剥離し、CCM1の第1の触媒層の面に粘着フィルム(日東電工(株)製の“E-MASK”(登録商標):品番RP207(基材厚み38μm、粘着層厚み21μm))を貼り合わせ、
図1の製造装置を用いて、CCM1の第1の触媒層とは反対面に触媒インクC2を乾燥厚みが10μmとなるように、塗布し、130℃で乾燥して、第2の触媒層を積層して、触媒層付き電解質膜(CCM2)を製造した。この第2の触媒層の厚みは10μmであった。この第2の触媒層の観察結果は、「A」であった。
【0167】
[評価]
実施例および比較例で得られた触媒層付き電解質膜の構成および触媒層の観察結果を表1に示す。
【0168】