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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187124
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】水素生成セル
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20221212BHJP
   B01J 27/045 20060101ALI20221212BHJP
   B01J 23/10 20060101ALI20221212BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J27/045 M
B01J23/10 M
C01B3/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094971
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】籔内 真
(72)【発明者】
【氏名】高松 大郊
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直人
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02B
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169BB04B
4G169BB06B
4G169BC13B
4G169BC40B
4G169BC50B
4G169BC74B
4G169BC75B
4G169BD08B
4G169CC33
4G169DA05
4G169HA02
4G169HB01
4G169HB10
4G169HC02
4G169HC29
4G169HD13
4G169HE09
(57)【要約】
【課題】p型半導体やn型半導体を作り分けることなく、空間的に電荷分離が促される構造を作ることによって電子と正孔を分離し再結合を抑制することが可能な光触媒の技術を提供する。
【解決手段】半導体からなる光触媒と、水媒体と、を有する水素生成セルにおいて、光触媒に対して電位勾配を形成する強誘電体が、光触媒に面して設置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなる光触媒と、水媒体と、を有する水素生成セルにおいて、 前記光触媒に対して電位勾配を形成する強誘電体が、前記光触媒に面して設置されている、ことを特徴とする水素生成セル。
【請求項2】
請求項1において、
前記光触媒及び前記強誘電体の組を複数有する、ことを特徴とする水素生成セル。
【請求項3】
請求項1において、
前記強誘電体が室温で磁化を持つマルチフェロイックである、ことを特徴とする水素生成セル。
【請求項4】
請求項1において、
前記強誘電体の強誘電ドメインが周期的に分極反転しており、それぞれ電位勾配の向きが異なる、ことを特徴とする水素生成セル。
【請求項5】
請求項1において、
前記強誘電体と前記光触媒とがピラー構造である、ことを特徴とする水素生成セル。
【請求項6】
水媒体を貯える筐体と、
前記水媒体内に設けられた光触媒電極と、を有し、
前記光触媒電極は、
半導体からなる光触媒層と、
前記光触媒層に対して電位勾配を形成する強誘電体層と、を含み、
前記強誘電体層は、前記光触媒層に面して設置される、水素生成セル。
【請求項7】
請求項6において、
前記光触媒層と前記強誘電体層は、前記光触媒層と前記強誘電体層の組を複数有する多層構造とされている、水素生成セル。
【請求項8】
請求項6において、
前記光触媒電極は、
基板と、
前記基板の上に設けられた前記強誘電体層の複数と、
前記複数の強誘電体層の上に接して設けられた前記光触媒層の複数を有し、
1つの強誘電体層とこの1つの強誘電体層の上に接して設けられた1つの光触媒層がピラー構造とされている、水素生成セル。
【請求項9】
請求項6において、
前記強誘電体層は、周期的に分極が反転した複数の強誘電ドメインを有し、
前記光触媒層は、前記複数の強誘電ドメインにより、周期的に異なる電位勾配を受ける、水素生成セル。
【請求項10】
請求項6において、
前記光触媒電極は、
基板と、
前記基板の上に形成された電極層と、を有し、
前記強誘電体層は、前記電極層の上に接して形成される、水素生成セル。
【請求項11】
請求項6において、
前記光触媒電極は、
基板と、
前記基板の上に形成された第1電極層および第2電極層と、を有し、
前記強誘電体層は、前記基板の上に形成され、かつ、前記第1電極層と前記第2電極層との間に形成され、
前記強誘電体層は、前記第1電極層および前記第2電極層により電場を与えられる、水素生成セル。
【請求項12】
請求項11において、
前記第1電極層と前記第2電極層のそれぞれは、平面視において、櫛型の電極を構成する、水素生成セル。
【請求項13】
請求項6において、
前記強誘電体層が室温で磁化を持つマルチフェロイック材料により構成される、水素生成セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成セルに関し、特に、光エネルギーに誘起される反応により、水の分解による水素を製造するための水素生成セルに適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題解決に向けてCO2排出量削減のためさまざまな対策が行われている。その中でも太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーを利用したCO2排出がない発電の利用促進が求められている。しかしながら、再生可能エネルギーは自然エネルギーによる発電であるため、時間帯、季節、地域によって発電量が大幅に変化するため、変動が大きいという特徴がある。このような変動の大きなエネルギーを高効率に利用するためには、エネルギー変動を調整する機能やシステムが必要不可欠となる。
【0003】
近年、電力のようなエネルギーを一時的にガスとして貯蔵するPower to Gas(P2G)が注目を集めている。ガスの中でも水素は燃焼の際に水のみを生成するため、CO2を全く排出しない完全なクリーンエネルギー源として注目されている。そのため、水と太陽光エネルギーから水素を作り出し、水素としてエネルギーを貯蔵可能な光触媒が注目されている。このような光触媒に関する提案として、特許文献1~3などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/164191号
【特許文献2】特開2008-104899号公報
【特許文献3】特開2017-155332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下に説明する技術は、公知とされた技術ではなく、本願発明者により検討された技術である。
【0006】
光触媒は、紫外光を吸収するバンドギャップが大きな半導体の方が酸化還元反応力が強くなるが、エネルギーが太陽光に占める割合の大きな可視光や近赤外を十分に利用できれば、太陽光の利用効率が上げることができるため、適切なバンドギャップの材料を利用する必要がある。また、光照射によって生成した電子・正孔対は水の分解に使われるよりも早く再結合することもあるため、電子と正孔を効率的に分離し、再結合を抑制する必要もある。
【0007】
水分解光触媒として、p型半導体とn型半導体を接合したpn接合型の光触媒が検討されている。太陽電池では電子と正孔を効率的に分離するためにp型半導体とn型半導体の接合を作ることによって電子と正孔を空間的に分離しやすい構造を作る。このようなpn接合を作るためには適切なドーピングを行うことによってp型とn型の半導体を作り分ける必要がある。しかしながら、酸化物半導体などの材料の場合、p型半導体にすることが困難な材料もあり、p型を得られない場合がある。構造的に安定している酸化物半導体はn型になりやすい傾向があるため、pn接合を形成可能な材料を見出すことが難しかった。
【0008】
本発明の課題は、p型半導体やn型半導体を作り分けることなく、空間的に電荷分離が促される構造を作ることによって電子と正孔を分離し再結合を抑制することが可能な光触媒を用いた水素生成セルを提供することにある。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0011】
一実施の形態によれば、半導体からなる光触媒と、水媒体と、を有する水素生成セルにおいて、光触媒に対して電位勾配を形成する強誘電体が、光触媒に面して設置されている。
【発明の効果】
【0012】
上記一実施の形態によれば、光エネルギーを、水の分解反応等の目的とする反応に有効に利用することができる光触媒を用いた水素生成セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施の形態に係る光触媒電極の第1の構成例を示す断面図である。
図2図2は、強誘電体の分極と電界の関係を示す図である。
図3図3は、実施の形態に係る光触媒電極の第2の構成例を示す断面図である。
図4図4は、実施の形態に係る光触媒電極の第3の構成例を示す断面図である。
図5図5は、実施の形態に係る光触媒電極の第4の構成例を示す断面図である。
図6A図6Aは、実施の形態に係る光触媒電極の第5の構成例を示す平面図である。
図6B図6Bは、図6Aの領域Bを示す斜視図である。
図6C図6Cは、図6AのC-C線に沿う光触媒電極の断面図である。
図7A図7Aは、周期的に分極が反転した複数の強誘電ドメインを有する強誘電体層を示す図である。
図7B図7Bは、実施の形態に係る光触媒電極の第6の構成例を示す平面図である。
図8図8は、図7Bの光触媒電極の形成方法を説明する図である。
図9図9は、実施の形態に係る水素生成セルの概念的な構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態、および、実施例について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明を省略することがある。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0015】
(実施の形態)
実施の形態を説明する前に、まず、光触媒反応による水の分解反応について説明する。
【0016】
光触媒反応による水の分解反応や太陽電池による水の電気分解反応は、全体として以下の反応式(1)によって表される。
【0017】
H2O → H2+1/2O2 (1)
触媒表面では、式(2)および式(3)に表されるような水素生成と酸素生成がそれぞれ別々に起こる。
【0018】
2H+2e- → H (2)
H0 → 2H+2e-+1/2O (3)
光触媒特性を示す半導体は、バンドギャップ以上のエネルギーの光を吸収すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起されることで電子と正孔とが生成される。生成した電子と正孔がそれぞれ水の分解などを引き起こすことができる。
【0019】
光触媒は、紫外光を吸収するバンドギャップが大きな半導体の方が酸化還元反応力が強くなるがエネルギーが太陽光に占める割合の大きな可視光や近赤外を十分に利用できれば、太陽光の利用効率が上げることができるため、適切なバンドギャップの材料を利用する必要がある。また、光照射によって生成した電子・正孔対は水の分解に使われるよりも早く再結合することもあるため、電子と正孔を効率的に分離し、再結合を抑制する必要もある。
【0020】
先に述べたように、太陽電池では電子と正孔を効率的に分離するためにp型半導体とn型半導体の接合を作ることによって電子と正孔を空間的に分離しやすい構造を作る。このようなpn接合を作るためには適切なドーピングを行うことによってp型とn型の半導体を作り分ける必要がある。しかしながら、酸化物半導体などの材料の場合、p型半導体にすることが困難な材料もあり、p型を得られない場合がある。
【0021】
本発明では、p型やn型半導体を作り分けることなく、空間的に電荷分離が促される構造を作ることによって電子と正孔を分離し再結合を抑制する。また、励起した電子と正孔が利用される半導体表面積を増やすことによって水素製造に利用される水や二酸化炭素を還元して燃料となる化合物の反応効率を上げる。これにより、光エネルギーを、水の分解反応等の目的とする反応に有効に利用することができる光触媒半導体を用いた水素生成セルを提供できる。
【0022】
より具体的には、本発明では、薄膜やバルクの光触媒半導体に光を照射して生成したキャリアの再結合を抑止して、水分解による水素および酸素の生成効率を向上することを可能にする構造を提供する。このため、一例では、自発分極した強誘電体材料と光触媒効果を発現する半導体材料を積層させる。強誘電体材料により、光触媒半導体に実効的な電場を印加し(つまり、光触媒半導体に対して電位勾配を形成し)、電子と正孔の空間的分離を促し、キャリアの再結合を抑制する。これにより、強誘電体近傍における光触媒の効果を向上させることができる。p型半導体とn型半導体を分けて材料形成する必要がなくなり、電子と正孔との再結合をしにくくすることができるので、安定した水素生成セルを提供できる。
【0023】
以下、図面を用いて、実施の形態を説明する。
【0024】
図1は、実施の形態に係る光触媒電極の第1の構成例を示す断面図である。図2は、強誘電体の分極と電界の関係を示す図である。
【0025】
水素生成セルに用いる光触媒電極1は、図1に示すように、基板10と、基板10の上面に接して設けられた電極20と、電極20の上面に接して設けられた強誘電体層30と、強誘電体層30の上面に接して設けられた半導体光触媒層40と、半導体光触媒層40の表面に付着した状態の助触媒50と、を有する。なお、光触媒電極1において、助触媒50は必須の構成ではないが、助触媒50を設けることで、光触媒の反応速度を向上させることができる。
【0026】
基板10は、例えば、石英により構成することができる。電極(電極層とも言う)20は、例えば、Pt(プラチナ) により構成することができる。電極20は、電極層と言い換えることもできる。
【0027】
強誘電体層30は、例えば、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、LiNbO3, LiTaO3、YbFe2O4などを用いることにより構成することができる。また、強誘電体層30には、Pb3TeMn3P2O14のような室温で磁化を有するマルチフェロイック材料を用いることもできる。マルチフェロイック材料を用いることによって磁場によって電気分極の方向を制御することができる。
【0028】
半導体光触媒層40は、例えば、ATa2O6(A:Sr,Ba), Sr2Nb2O7, Sr2Ta2O7, ATa2O6(A:Ca,Sr,Ba), K3Ta3Si2O13, ATaO3(A:Li,Na,K), AgTaO3, NaTaO3, K2LnTa5O15, K3Ta3B2O12, Cs2Nb4O11, Ba5Nb4O15, ATa3O8(A:Rb,Cs), Cs4Ta10O27, Cs6Ta16O43, ZnS, NaInS2, SrTiO3, AgGaS2, CuGaS2, CuInS2-AgInS2-ZnS, CuInS2-AgInS2, A2Ti2O7(A:Sc,Y,La), SnNb2O6, BiVO4, Bi2MoO6, Bi2WO6, AgNbO3, Ag3VO4, Ag0.5Pr0.5TiO3, TiO2, PbMoO4:Cr, SrTiO3:Ir, SnNb2O6などから選択した1つの材料を用いることにより構成することができる。また、これらの材料の酸素の一部を窒素や硫黄を置換した材料を半導体光触媒層40に用いることができる。ここに記載した材料は一例であり、これ以外の半導体材料も半導体光触媒層40に用いることができる。
【0029】
助触媒50は、Pt(プラチナ)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)やCr(クロム)などが含まれる。
【0030】
図1に示すように、強誘電体層30と半導体光触媒層40とを積層して構成する。これにより、強誘電体層30が半導体光触媒層40に面して設置される。強誘電体層30は電極20から電場を印可することによって分極の方向を変えることができる。図1に示すように、強誘電体層30は、基板10の上面に対して垂直方向(この例では、上向き方向)の電気分極35とされている。一般的に強誘電体の電気分極35と電界の関係は、図2に示すように、ヒステリシス特性を持つ。電界を印可して分極方向をそろえると、自発的に分極35した状態が維持される。このような材料を使うことによって近接する半導体光触媒層40に電場がかかる。強誘電体層30により、半導体光触媒層40に実効的な電場を印加し、つまり、半導体光触媒層40に対して電位勾配を形成し、電子と正孔の空間的分離を促し、キャリアの再結合を抑制する。これにより、強誘電体層30の近傍の半導体光触媒層40における光触媒の効果を向上させることができる。
【0031】
水素生成セルの中に貯えられた水媒体に、光触媒電極1を漬けて、光触媒電極1に、例えば、太陽光を照射する。半導体光触媒層40は光照射によりキャリア(電子と正孔)を生成する。ここで、強誘電体層30は電気的に分極しており、電気的分極によって半導体光触媒層40に電場(電位勾配)がかかる。これにより、光照射によって生成される電子と正孔が半導体光触媒層40内で空間的に電荷分離され、電子と正孔の再結合が抑制される。半導体光触媒層40内において空間的に電荷分離された電子と正孔が高効率に水媒体の分解反応を起こし、水素や酸素を生成する。
【0032】
図3は、実施の形態に係る光触媒電極の第2の構成例を示す断面図である。図3に示す光触媒電極1Aが図1の光触媒電極1と異なる点は、光触媒電極1Aにおいて、半導体光触媒層40の上側に、強誘電体層30A、半導体光触媒層40A、強誘電体層30B、半導体光触媒層40Bがこの順で多層に積層されている点である。強誘電体層(30、30A、30B)と半導体光触媒層(40、40A、40B)を多層に積層することによって、半導体光触媒層(40、40A、40B)と強誘電体層(30、30A、30B)の界面を増やすことができる。半導体光触媒層と強誘電体層の界面の近傍では電荷の偏りができるため、強誘電体層(30、30A、30B)の分極35の方向に応じて電子もしくは正孔の片方のみが集まる。そのため、界面近傍では特に空間的に電荷が分離される。したがって、図3の光触媒電極1Aにおける電子もしくは正孔の量は、図1の光触媒電極1のそれと比較して、多くできる。
【0033】
このように、強誘電体層(30、30A、30B)と半導体光触媒層(40、40A、40B)との組が複数組設けられているので、光照射によって励起した電子と正孔が利用される半導体光触媒層(40、40A、40B)の表面積(界面の面積)を増やすことができる。これによって、水素製造に利用される化合物の反応効率を上げることができる。
【0034】
図4は、実施の形態に係る光触媒電極の第3の構成例を示す断面図である。図4に示す光触媒電極1Bが図1の光触媒電極1と異なる点は、光触媒電極1Bにおいて、電極20、強誘電体層30および半導体光触媒層40がピラー構造70とされて、複数のピラー構造70が基板10の上面(表面)に形成されている点である。半導体光触媒層40の上面には、助触媒50が設けられてもよい。図4では、6つのピラー構造70は設けられている例が示されるが、ピラー構造70の数はこれに限定されない。ピラー構造70にすることによって、半導体光触媒層40が水媒体などの溶媒に接する面積(半導体光触媒層40の側面の面積)がピラー構造70の数の分だけ増える。これにより、水素製造に利用される反応が起こる頻度を増やすことができる。
【0035】
図5は、実施の形態に係る光触媒電極の第4の構成例を示す断面図である。図5に示す光触媒電極1Cが図1の光触媒電極1と異なる点は、光触媒電極1Cにおいて、強誘電体層30Cが基板10の上面(表面)に接して形成されている点と、強誘電体層30Cが第1電極(電極層)20Aと第2電極(電極層)20Bの間に形成されている点とである。強誘電体層30Cの電気分極36は電極20Aと電極20Bとにより印加される電界の方向に従い、基板10の上面に平行な方向(水平方向)となる。このように、強誘電体層30Cと電極20A、20Bとが基板10の上面に接触しても良い。強誘電体層30Cを2つの電極20A、20Bにより挟む構造にすることによって、電極20A、20Bにより強誘電体層30Cに外部から電場を与え、強誘電体層30Cの分極方向を制御することができる。
【0036】
図5の2つの電極20A、20Bは、図6Aに示すように、平面視において、2つの櫛型の第1電極20CA、第2電極20CBとすることができる。図6Aは、実施の形態に係る光触媒電極の第5の構成例を示す平面図である。図6Bは、図6Aの領域Bを示す斜視図である。図6Cは、図6AのC-C線に沿う光触媒電極の断面図である。図6A図6Cに示す光触媒電極1Dでは、2つの櫛型の第1電極20CA、第2電極20CBにより強誘電体層30C1、30C2に電場を与えることができる。これにより、図6Cに示すように、強誘電体層30C1、30C2の分極方向を制御することができる。図6Cの一例では、強誘電体層30C1の分極35Aの方向であり、強誘電体層30C2の分極35Bの方向は、分極35Aの方向と180度異なっている。このように、分極方向をそろえた強誘電体層30C1、30C2を作ることができる。
【0037】
なお、図6A図6Cの光触媒電極1Dの構成において、強誘電体層30C1と強誘電体層30C1の上に形成される半導体光触媒層40をすべて削除するか、または、強誘電体層30C2と強誘電体層30C2の上に形成される半導体光触媒層40をすべて削除することによって、同一の分極方向にその分極方向をそろえた強誘電体層(30C2、または、30C1)を構成できる。半導体光触媒層40の上面には、助触媒50が設けられてもよい。
【0038】
図1の強誘電体層30は、周期的に分極が反転した複数の強誘電ドメインを有する構成とされて良い。図7Aは、周期的に分極が反転した複数の強誘電ドメインを有する強誘電体層を示す図である。図7Bは、実施の形態に係る光触媒電極の第6の構成例を示す平面図である。図8は、図7Bの光触媒電極の形成方法を説明する図である。
【0039】
図7Aに示すように、強誘電体層30Dは、周期的に分極が反転した複数の強誘電ドメインDM1、DM2を有する(分極反転構造)。図7Bに示すように、光触媒電極1Eは、電極20と半導体光触媒層40の間に設けられる。このように、強誘電ドメインDM1、DM2が周期的に180°反転した構造をとることによって、強誘電ドメインDM1、DM2の上部に接した半導体光触媒層40は周期的に異なる電界(電位勾配)を受け、強誘電ドメインDM1、DM2の配置に従って規則的に電子や正孔(ホール)が分離される。つまり、このような構造の強誘電ドメインDM1、DM2上に半導体光触媒層40を配置することによって、空間的に電子とホールを分離し、電子とホールの再結合を抑制することができる。強誘電体層30Dは、強誘電体であるニオブ酸リチウムのような材料で構成することができる。
【0040】
図8に示すように、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)製の強誘電体層30Dの上部に、複数のストライプ状の電極60を作成し、電圧Vを印可することによって、周期的に分極が180°反転した強誘電ドメインDM1、DM2を作ることができる。この後、複数のストライプ状の電極60が除去されて、強誘電体層30Dの上部に接する半導体光触媒層40が形成される。これにより、図7Bに示した光触媒電極1Eが形成できる。なお、図示しないが、複数のストライプ状の電極60を除去せずに、複数のストライプ状の電極60の上および複数のストライプ状の電極60の間に露出する強誘電体層30Dの上部に、半導体光触媒層40を形成して、光触媒電極を形成してもよい。
【0041】
図9は、実施の形態に係る水素生成セルの概念的な構成例を示す図である。図9に示すように、水素生成セル100は、水媒体(HO)を貯えることが可能な筐体101を有する。筐体101内に水媒体を導入するための導入口102と、筐体101内から水媒体を導出するための導出口104と、筐体101内から水素および酸素を取り出すためのガス排出口106とが、筐体101に設けられている。筐体101の一部は、太陽光110を透過できるガラスなどの透明材料によって透明窓が設けられている。また、筐体101内には、複数の光触媒電極1が備えられている。筐体101には、光触媒電極1の電極20に接続された配線(不図示)が設けられている。配線により強誘電体層30に電場を印加して強誘電体層30の分極を制御する。
【0042】
筐体101内に水媒体を導入して、複数の光触媒電極1を水媒体内に入れる。複数の光触媒電極1を水媒体内に入れた状態で、複数の光触媒電極1に太陽光110を照射すると、光触媒反応による水の分解反応が発生し、ガス排出口106から水素および酸素を取り出ることができる。ここで、光触媒電極1は、上記実施の形態で説明した光触媒電極1A、1B、1C、1Dまたは1Eに置き換えることができる。
【0043】
次に、光触媒電極の製造方法の一例を説明する。
【0044】
(製造方法1:図1の光触媒電極1)
石英製の基板10を準備する。基板10の主面の上に、Pt製の電極20を形成する。電極20は、例えば、Ptを50nmの膜厚で蒸着して形成する。電極20の上に、強誘電体層30を形成する。強誘電体層30は、例えば、BaTiO3薄膜を300nmの膜厚でスパッタリングを行い形成する。その後、強誘電体層30の上に、半導体光触媒層40を形成する。半導体光触媒層40は、例えば、YとTiと硫黄と酸素が2:2:2:5の比率で含有するターゲットをスパッタリングし、Y2Ti2O5S2半導体膜を300nm程度の膜厚で形成する。これにより、基板10/電極20/強誘電体層30/半導体光触媒層40の積層構造が形成できる。
【0045】
(製造方法2:図3の光触媒電極1A)
石英製の基板10を準備する。基板10の主面の上に、Pt製の電極20を形成する。電極20は、例えば、Ptを50nmの膜厚で蒸着して形成する。電極20の上に、強誘電体層30を形成する。強誘電体層30は、例えば、BaTiO3薄膜を10nmの膜厚でスパッタリングを行い形成する。
その後、強誘電体層30の上に、半導体光触媒層40を形成する。半導体光触媒層40は、例えば、YとTiと硫黄と酸素が2:2:2:5の比率で含有するターゲットをスパッタリングし、Y2Ti2O5S2半導体膜を10nm程度の膜厚で形成する。次に、強誘電体層であるBaTiO3薄膜と半導体光触媒層であるY2Ti2O5S2半導体膜とを10周期積層(BaTiO3/ Y2Ti2O5S2×10組)する。これにより、基板10/電極20/強誘電体層30/半導体光触媒層40の多層積層構造が形成できる。
【0046】
(製造方法3:図4の光触媒電極1B)
石英製の基板10を準備する。基板10の主面の上に、フォトレジストを塗布する。フォトレジストに、1μm間隔をあけて1μm正方形のパターンが並んだアレイ構造をフォトニックリソグラフィでパターニングする。つまり、ピラー構造70を形成したい部分が除去されるように、フォトレジストをパターニングする。フォトレジストが除去された部分には、基板10の主面が1μm正方形のパターンで露出することになる。その後、フォトレジストの上および露出した基板10の主面の上に、Pt製の電極20を形成する。電極20は、例えば、Ptを50nmの膜厚で蒸着して形成する。電極20の上に、強誘電体層30を形成する。強誘電体層30は、例えば、BaTiO3薄膜を10nmの膜厚でスパッタリングを行い形成する。その後、強誘電体層30の上に、半導体光触媒層40を形成する。半導体光触媒層40は、例えば、YとTiと硫黄と酸素が2:2:2:5の比率で含有するターゲットをスパッタリングし、Y2Ti2O5S2半導体膜を10nm程度の膜厚で形成する。次に、強誘電体層であるBaTiO3薄膜と半導体光触媒層であるY2Ti2O5S2半導体膜とを10周期積層(BaTiO3/ Y2Ti2O5S2×10組)する。これにより、基板10/電極20/強誘電体層30/半導体光触媒層40の多層積層構造が形成できる。その後、リフトオフを行うことによってフォトレジストを除去する。これにより、ピラー構造70が形成できる。
【0047】
なお、強誘電体層30/半導体光触媒層40の10周期の多層積層構造が不要な場合は、電極20の上に、強誘電体層30を形成する際において、BaTiO3薄膜を300nmの膜厚でスパッタリングを行い形成する。その後、強誘電体層30の上に、半導体光触媒層40を形成する。半導体光触媒層40は、例えば、YとTiと硫黄と酸素が2:2:2:5の比率で含有するターゲットをスパッタリングし、Y2Ti2O5S2半導体膜を300nm程度の膜厚で形成する。その後、リフトオフを行うことによってフォトレジストを除去する。
【0048】
(製造方法4:図7Bの光触媒電極1E)
石英製の基板10を準備する。基板10の主面の上に、Pt製の電極20を形成する。電極20は、例えば、Ptを50nmの膜厚で蒸着して形成する。電極20の上に、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)製の強誘電体層30Dを形成する。強誘電体層30Dは、周期的に180°反転した分極を有する強誘電ドメイン(DM1、DM2)を形成する(図8参照)。強誘電体層30Dの上部に、半導体光触媒層40を形成する。半導体光触媒層40は、例えば、Y2Ti2O5S2膜をスパッタリングで100nm程度の膜厚で形成する。これにより、光触媒電極1Eが形成できる。
【0049】
(製造方法5:水素生成セル100)
製造方法1で作成した図1の光触媒電極1をIrO2コロイド分散溶液につけて、その後、真空中で乾燥させる。これにより、半導体光触媒層40の上に、助触媒としてのIrO2をつける。水素生成セル100中の水媒体内に、助触媒を設けた光触媒電極1を配置し、太陽光を照射する。これにより、水素の発生を確認できた。
【0050】
上記製造方法の説明では、半導体光触媒層40の材料として、Y2Ti2O5S2についての実施例を記したが、その他、ATa2O6(A:Sr,Ba), Sr2Nb2O7, Sr2Ta2O7, ATa2O6(A:Ca,Sr,Ba), K3Ta3Si2O13, ATaO3(A:Li,Na,K), AgTaO3, NaTaO3:La, NaTaO3:A(A:Ca,Sr,Ba), K2LnTa5O15, K3Ta3B2O12, Cs2Nb4O11, Ba5Nb4O15, ATa3O8(A:Rb,Cs), Cs4Ta10O27, Cs6Ta16O43, ZnS, NaInS2, SrTiO3, AgGaS2, CuGaS2, CuInS2-AgInS2-ZnS, CuInS2-AgInS2, SnNb2O6, BiVO4, Bi2MoO6, Bi2WO6, AgNbO3, Ag3VO4, Ag0.5Pr0.5TiO3, TiO2, PbMoO4:Cr, A2Ti2O7(A:Sc,Y,La), SnNb2O6などの材料系を母材料としてドーピングを行った材料系でも良い。また、この中の材料に限られる必要はない。また、強誘電体層30に関しても同様で、BaTiO3だけでなく自発的に分極する材料であれば良い。
【0051】
以上、発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1、1A、1B、1C、1D、1E:光触媒電極
10:基板
20、20A、20B、20CA、20CB:電極
30、30A、30B、30C、30C1、30C2、30D:強誘電体層
35:分極
40:半導体光触媒層
50:助触媒
60:ストライプ状電極
70:ピラー構造
100:水素生成セル
101:筐体
102:導入口
104:導出口
106:ガス排出口
110:太陽光
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9