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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187138
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】繊維樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 39/24 20060101AFI20221212BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20221212BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20221212BHJP
   B29C 70/48 20060101ALI20221212BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20221212BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
B29C39/24
B29C39/10
B29C70/06
B29C70/48
B29C70/68
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094991
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180169
【氏名又は名称】株式会社KADO
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 茂則
(72)【発明者】
【氏名】青山 優太
(72)【発明者】
【氏名】大崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 泰成
(72)【発明者】
【氏名】松本 佳晃
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AC05
4F204AD16
4F204AD17
4F204AD23
4F204AG03
4F204EA03
4F204EB01
4F204EB11
4F204EF05
4F204EF27
4F204EK13
4F204EK17
4F205AA36
4F205AC05
4F205AD16
4F205AD17
4F205AD23
4F205AG03
4F205HA06
4F205HA12
4F205HA27
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA44
4F205HB01
4F205HB11
4F205HF05
4F205HG01
4F205HK04
4F205HK05
(57)【要約】
【課題】効率的に成形を行うことができる繊維樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維を含む積層体10に対して、樹脂を含浸させてなる繊維樹脂成形体100の製造方法であって、加熱した積層体10を、上型20と下型30とからなる予備成形型1で押圧して予備成形する予備成形工程と、一対の成形型50を型閉じしてなる成形空間Sに予備成形された積層体10を配し、成形空間Sに樹脂を射出して積層体10に樹脂を含浸させる本成形工程と、を含み、予備成形工程では、上型20に設けられた賦形体25で、積層体10の端部10Aを下型30に設けられた凸部31に押し付けることで、積層体10の端部10Aを凸部31に沿って曲げ加工すること。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含むシート材に対して、樹脂を含浸させてなる繊維樹脂成形体の製造方法であって、
加熱した前記シート材を、上型と下型とからなる予備成形型で押圧して予備成形する予備成形工程と、
一対の成形型を型閉じしてなる成形空間に予備成形された前記シート材を配し、前記成形空間に樹脂を射出して前記シート材に樹脂を含浸させる本成形工程と、を含み、
前記予備成形工程では、前記上型に設けられた賦形体で、前記シート材の端部を前記下型に設けられた凸部に押し付けることで、前記シート材の前記端部を前記凸部に沿って曲げ加工することを特徴とする繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記予備成形工程では、膜状の前記賦形体を前記シート材の前記端部に被せて前記凸部に押し付けることを特徴とする請求項1に記載の繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記予備成形工程では、前記賦形体を引っ張って伸長させる引張部を、前記凸部において前記上型に対向する面とは反対側の面側まで回り込ませて、前記シート材の前記端部を前記凸部に押し付けることを特徴とする請求項2に記載の繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記予備成形工程では、前記上型において入れ子状に設けられた吸着部を前記上型の成形面から前進させて前記シート材に吸着させ、前記シート材を前記下型に対向する位置に移動させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記予備成形工程では、貼設された貼設賦形体に前記シート材を載置し、前記上型を前記シート材に押し付けて吸着させ、前記シート材を前記下型に対向する位置に移動させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の繊維樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維樹脂成形体の製造方法として、特許文献1に記載のものが知られている。具体的には、特許文献1では、ドライヤーなどの加熱装置を用いて、基材の一部に熱風を吹き付けて加熱する加熱工程と、成形型の成形面に形成された複数の吸引孔で基材を吸引することで、加熱した部分を成形面の形状に倣う形状に成形する成形工程と、を備える繊維樹脂成形体(樹脂成形体)の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-132202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の製造方法では、加熱工程及び成形工程の一連の工程を行うに際し、手間と時間がかかる。また、加熱した基材の一部を成形面の形状に成形する際に、基材に均等に力が加わらず、基材の内部の構造を潰してしまう可能性が考えられる。その場合、例えば成形された基材に樹脂を射出して含浸させようとしても、うまく含浸しない虞がある。一方、加熱した基材を移動して成形型の成形面に載置する際等には、精確に位置決めができることが望ましい。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、効率的に成形を行うことができる繊維樹脂成形体の製造方法を提供することを目的の一つとする。また、内部構造を潰さないように成形を行うことができる繊維樹脂成形体の製造方法を提供することを目的の一つとする。さらに、精確に位置決めしつつ成形を行うことができる繊維樹脂成形体の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維を含むシート材に対して、樹脂を含浸させてなる繊維樹脂成形体の製造方法であって、加熱した前記シート材を、上型と下型とからなる予備成形型で押圧して予備成形する予備成形工程と、一対の成形型を型閉じしてなる成形空間に予備成形された前記シート材を配し、前記成形空間に樹脂を射出して前記シート材に樹脂を含浸させる本成形工程と、を含み、前記予備成形工程では、前記上型に設けられた賦形体で、前記シート材の端部を前記下型に設けられた凸部に押し付けることで、前記シート材の前記端部を前記凸部に沿って曲げ加工することに特徴を有する。
【0007】
このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、予備成形工程において、賦形体が凸部に密着する形で弾性変形しつつ、シート材の端部を凸部に押し付けることができるので、加熱されたシート材が冷える前に、シート材の端部を均等な力で一気に曲げることができる。そして、シート材の端部に局所的な力が加わりにくいので、シート材の内部構造を潰すことなくその端部を凸部に沿って曲げることができる。これにより、本成型工程において樹脂がシート材に好適に含浸することができる。
【0008】
また、前記予備成形工程では、膜状の前記賦形体を前記シート材の前記端部に被せて前記凸部に押し付けることとすることができる。このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、膜状の賦形体が、凸部との間にシート材の端部を挟んで凸部に対しさらに密着することができる。これにより、例えば、凸部の突出高さが比較的高い場合(例えば、シート材の端部を、長さが比較的長いU字状に成形する場合)であっても、シート材の端部を好適に凸部に沿って曲げることができる。
【0009】
また、前記予備成形工程では、前記賦形体を引っ張って伸長させる引張部を、前記凸部において前記上型に対向する面とは反対側の面側まで回り込ませて、前記シート材の前記端部を前記凸部に押し付けることとすることができる。このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、膜状の賦形体が、凸部において上型に対向する面とは反対側の面側まで回り込んで密着することができるので、シート材の端部の末端まで好適に曲げることができる。
【0010】
また、前記予備成形工程では、前記上型において入れ子状に設けられた吸着部を前記上型の成形面から前進させて前記シート材に吸着させ、前記シート材を前記下型に対向する位置に移動させることとすることができる。このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、シート材を安定して上型に吸着させて、下型に対向する位置にスムーズに移動させることができ、シート材の位置決めを精確に行うことができる。
【0011】
また、前記予備成形工程では、貼設された貼設賦形体に前記シート材を載置し、前記上型を前記シート材に押し付けて吸着させ、前記シート材を前記下型に対向する位置に移動させることとすることができる。このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、シート材を上型に好適に吸着させて下型に対向する位置にスムーズに移動させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、効率的に成形を行うことができる繊維樹脂成形体の製造方法を提供することが可能となる。また、内部構造を潰さないように成形を行うことができる繊維樹脂成形体の製造方法を提供することが可能となる。さらに、精確に位置決めしつつ成形を行うことができる繊維樹脂成形体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る予備成形工程において、加熱した積層体を吸着する工程を示す図
図2】上型に吸着した積層体を下型に対向する位置に移動させる工程を示す図
図3】上型を下型に近接させる工程を示す図
図4】上型を下型にさらに近接させて、ブロックを前進させる工程を示す図
図5】ブロックを回動させる工程を示す図
図6】上型を下型から離間させる工程を示す図
図7】本成形工程において、積層体に樹脂を含浸させる工程を示す図
図8】実施形態2に係る予備成形工程において、加熱した積層体を吸着する工程を示す図
図9】押型に吸着した積層体を下型に対向する位置に移動させる工程を示す図
図10】上型を下型に近接させる工程を示す図
図11】実施形態3に係る予備成形工程において、上型を下型に近接させる工程を示す図
図12】賦形体を凸部に近接させる工程を示す図
図13】実施形態4に係る予備成形工程において、貼設賦形体の上方に上型を移動させる工程を示す図
図14】貼設賦形体に上型を押し付けて積層体を吸着する工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1から図7によって説明する。本実施形態では、自動車(乗物)の車室に設けられる乗物用シートを構成する繊維樹脂成形体の製造方法について例示する。繊維樹脂成形体は、図1に示すように、コア材と、コア材の表裏面にそれぞれ重ねられるシート状の繊維材と、からなるサンドイッチ構造をなした積層体(シート材)10に、後述する本成形工程において熱硬化性樹脂が含浸して硬化したものとされる。コア材は、独立気泡構造を有するアクリル樹脂等の合成樹脂製(発泡樹脂製)とされる。繊維材の素材としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の織物、その他の織布、又はフェルト材等の不織布を採用することができる。このようなコア材と繊維材とが接着剤等で接着することで、積層体10を構成している。積層体10は、加熱されることで軟化するものとされる。
【0015】
繊維樹脂成形体の製造方法は、大別すると、加熱したシート材10を予備成形型1で押圧して予備成形する予備成形工程と、一対の成形型50(図7参照)を型閉じしてなる成形空間Sに予備成形されたシート材10を配し、成形空間Sに熱硬化性樹脂を射出してシート材10に樹脂を含浸させる本成形工程と、を含む。図2に示すように、予備成形型1は、可動型としての上型20(押型と呼ばれることもある)と、固定型としての下型30と、からなる。上型20は、例えばロボットアーム等の図示しない移動装置に取り付けられており、その位置や傾きを変位させることが可能な構成とされる。上型20の素材としては、樹脂製または金属製のものを採用でき、好ましくはシリコンゴム等の樹脂製のものを採用することができる。下型30の素材としては、樹脂製または金属製のものを採用でき、好ましくはアルミニウム等の金属製のものを採用することができる。
【0016】
上型20は、当該上型20の大部分を構成する本体部21と、本体部21に入れ子状に設けられた吸着部22と、本体部21の側方に取り付けられたシリンダ23と、シリンダ23のロッド23Aに取り付けられたブロック(引張部)24と、を備える。吸着部22は、本体部21の成形面(下型30に対向する面)21A側において、下型30側の方向に前進又は後退可能に設けられており、下型30に対向する面としての吸引面22A側から気体を吸引することが可能な構成とされる。シリンダ23は、ロッド23Aを下型30側の方向に前進又は後退させることにより、伸長又は収縮することが可能な構成とされる。尚、シリンダ23としては、電動シリンダ、油圧シリンダ、又は空圧シリンダを採用することができる。ブロック24は、シリンダ23のロッド23Aの先端に取り付けられており、ロッド23Aの変位に伴って前進又は後退することができる。図5に示すように、ブロック24は、ロッド23Aの先端においてモータ等の駆動により後述する凸部31の裏側面31Bに回り込む形で回動することが可能とされる。ブロック24の素材としては、上型20と同じくシリコンゴム等の樹脂製のものや、アルミニウム等の金属を採用してもよい。
【0017】
図2に示すように、下型30は、複数の窪部32と、複数の窪部32の上側部分から上方に突出した凸部31を備える。凸部31は、上型20に対向する面としての表側面31Aと、表側面31Aの裏側の面(凸部31において上型20に対向する表側面31Aとは反対側の面)をなす裏側面31Bと、を備える。上型20の本体部21の成形面21Aにおいて、凸部31の表側面31Aに対向する対向面21Cには、弾性及び伸張性を有する膜状の賦形体25が取り付けられている。賦形体25は、一方の端部が対向面21Cに取り付けられ、他方の端部がブロック24に取り付けられている。賦形体25の素材としては、シリコンゴム等の樹脂製のものを採用することができる。図4及び図5示すように、賦形体25は、前進して回動するブロック24に引っ張られて、伸長することができる。尚、賦形体25は、例えば薄板状であってもよく、ブロック24の前進や回動に伴って伸長することができる形状であればよい。
【0018】
図1に示すように、予備成形工程では、まず、積層体10をホットプレート2で加熱して軟化させる。そして、上型20を積層体10の上方に移動し、吸着部22を前進させて積層体10に吸引面22Aを密着させる。この状態で、吸引面22Aから気体を吸引することで、積層体10を吸引しつつ吸着部22に吸着させる。次に、図2に示すように、吸着部22に吸着されて持ち上げられた積層体10が、下型30の成形面30Aに対向する位置となるように、上型20を移動する。そして、図3に示すように、上型20を下型30に近接させて、吸着部22を積層体10と共に下型30の成形面30Aに押し付ける。このとき、積層体10の下側の部分が下型30の成形面30Aの下部によって曲げられる。
【0019】
続いて、図4に示すように、吸着部22を、その吸引面22Aが上型20の成形面21Aと面一となる位置まで後退させつつ、上型20を下型30にさらに近接させることで、積層体10を、上型20の成形面21Aと下型30の成形面30Aとよって押圧する。これにより、積層体10は、上型20の成形面21Aと下型30の成形面30Aの形に倣う形に成形される。例えば、積層体10の上側部分は、複数の窪部32に押圧されることで、段状に曲げられる。
【0020】
ここで、賦形体25で積層体10の端部10Aを凸部31に押し付けることで、積層体10の端部10Aを凸部31に沿って曲げ加工する。具体的には、シリンダ23を伸長してブロック24を前進することにより、膜状の賦形体25を、ブロック24で上型20が下型30に近接する方向と同じ方向に引っ張って伸長させる。賦形体25は、積層体10の端部10Aの末端を超える位置まで伸長されて、端部10Aを覆う形となる。このとき、31B側から積層体10の端部10A側に向けてドライヤー等を用いて熱風を吹き付けてもよい。
【0021】
そして、図5に示すように、ロッド23Aの先端においてブロック24を凸部31の裏側面31Bに回り込ませる形で回動させて、伸長した賦形体25を積層体10の端部10Aに被せて凸部31に押し付ける。このとき、ブロック24を回動させたままロッド23Aを後退させ、凸部31の裏側面31B側をブロック24で加圧してもよい。積層体10の端部10Aは、賦形体25とブロック24によって凸部31に押し付けられることにより、凸部31の形に倣う形となるように曲げられる。図6に示すように、所定時間経過後、上記手順を遡るようにブロック24を動作させ、シリンダ23を収縮させる。そして、上型20を下型30から離間させることで、端部10AがU字状に成形(予備成形)された積層体10を得る。
【0022】
図7に示すように、本成形工程では、一対の成形型50を用いて積層体10に熱硬化性樹脂(以下、単に樹脂と呼ぶ)を含浸させて繊維樹脂成形体100を成形する。一対の成形型50は、上型51と上型51に対向する位置に配された下型52とからなる。上型51を下型52に近接させて型閉じしたときに、その間に設けられる空間が成形空間Sとされる。上型51には、成形空間Sに樹脂を射出する射出装置53が設けられている。樹脂としては、例えば、主剤と硬化剤とからなる二液混合型のエポキシ樹脂を採用することができる。
【0023】
予備成形された2つの積層体10と別の積層体11とを一対の成形型50を型閉じしてなる成形空間Sに配置する。このとき、2つの積層体10の端部10Aとは反対側の反対端部10Bに、別の積層体11の両端部が重畳するように配置する。その後、射出装置53から成形空間Sに樹脂を射出することで、成形空間Sに樹脂が充満し、積層体10,11に樹脂が含浸する。積層体10,11に含浸した樹脂が硬化した後に、上型51を下型52から離間させることにより、2つの積層体10と別の積層体11とを含む繊維樹脂成形体100を得る。尚、繊維樹脂成形体100には、ウレタンフォーム等の素材からなり弾性を有するパッドや、繊維樹脂成形体100及びパッドを覆う布製のカバー部材が取り付けられる。これら繊維樹脂成形体100、パッド、及びカバー部材が、乗物用シートを構成する。積層体10の端部10Aに樹脂が含浸してなる成形体端部100Aは、カバー部材が引っ掛けられる部分とされる。
【0024】
続いて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、繊維を含む積層体10に対して、樹脂を含浸させてなる繊維樹脂成形体100の製造方法であって、加熱した積層体10を、上型20と下型30とからなる予備成形型1で押圧して予備成形する予備成形工程と、一対の成形型50を型閉じしてなる成形空間Sに予備成形された積層体10を配し、成形空間Sに樹脂を射出して積層体10に樹脂を含浸させる本成形工程と、を含み、予備成形工程では、上型20に設けられた賦形体25で、積層体10の端部10Aを下型30に設けられた凸部31に押し付けることで、積層体10の端部10Aを凸部31に沿って曲げ加工する、繊維樹脂成形体100の製造方法を示した。
【0025】
このような繊維樹脂成形体100の製造方法によると、予備成形工程において、賦形体25が凸部31に密着する形で弾性変形しつつ、積層体10の端部10Aを凸部31に押し付けることができるので、加熱された積層体10が冷える前に、積層体10の端部10Aを均等な力で一気に曲げることができる。そして、積層体10の端部10Aに局所的な力が加わりにくいので、積層体10の内部構造を潰すことなくその端部10Aを凸部31に沿って曲げることができる。これにより、本成型工程において樹脂が積層体10に好適に含浸することができる。
【0026】
また、予備成形工程では、膜状の賦形体25を積層体10の端部10Aに被せて凸部31に押し付ける。このような繊維樹脂成形体100の製造方法によると、膜状の賦形体25が、凸部31との間に積層体10の端部10Aを挟んで凸部31に対しさらに密着することができる。これにより、例えば、凸部31の突出高さが比較的高い場合(積層体10の端部10Aを、長さが比較的長いU字状に成形する場合)であっても、積層体10の端部10Aを好適に凸部31に沿って曲げることができる。
【0027】
また、予備成形工程では、賦形体25を引っ張って伸長させるブロック24を、凸部31において上型20に対向する面31Aとは反対側の面31B側まで回り込ませて、積層体10の端部10Aを凸部31に押し付ける。このような繊維樹脂成形体100の製造方法によると、膜状の賦形体25が、凸部31において上型20に対向する面31Aとは反対側の面31B側まで回り込んで密着することができるので、積層体10の端部10Aの末端まで好適に曲げることができる。
【0028】
また、予備成形工程では、上型20において入れ子状に設けられた吸着部22を上型20の成形面21Aから前進させて積層体10に吸着させ、積層体10を下型30に対向する位置に移動させる。このような繊維樹脂成形体100の製造方法によると、積層体10を安定して上型20に吸着させて、下型30に対向する位置にスムーズに移動させることができ、積層体10の位置決めを精確に行うことができる。
【0029】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図8及びから図10によって説明する。尚、本実施形態では、上記実施形態と同じ部位には、同一の符号を用い、構造、工程、作用及び効果について重複する説明は省略する。図8に示すように、下型130は、下型130を固定する固定台103に設けられている。固定台103には、下型130の他に、ホットプレート102が設けられている。上型112は、電動、油圧、又は空圧によって下型130(固定台103)に対し上下方向に移動可能とされている。上型112には、ホットプレート102の上方と下型130の上方との間を水平方向にスライドして移動可能に設けられた押型120が設けられている。押型120と下型130は、積層体10を予備成形する一対の予備成形型101とされる。押型120の構成は、上記実施形態1で示した上型20と同様の構成とする。
【0030】
予備成形工程では、まず、積層体10をホットプレート102で加熱して軟化させる。そして、押型120をホットプレート102の上方に移動し、吸着部22を前進させて積層体10を吸着する。次に、図9に示すように、吸着部22に吸着されて持ち上げられた積層体10が、下型130の成形面30Aに対向する位置となるように、押型120を水平方向にスライドして移動する。
【0031】
次に、図10に示すように、上型112を下型130に近接させることにより、下型130の上方に移動した押型120を下型130に近接させて、積層体10を、押型120の成形面21Aと下型130の成形面30Aとよって押圧する。これにより、積層体10は、押型120の成形面21Aと下型130の成形面30Aの形に倣う形に成形される。そして、ブロック24により引っ張られて伸長した賦形体25で積層体10の端部10Aを凸部31に押し付けることで、積層体10の端部10Aを凸部31に沿って曲げ加工し、端部10AがU字状に成形(予備成形)された積層体10を得る。
【0032】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3を図11および図12によって説明する。尚、本実施形態では、上記実施形態と同じ部位には、同一の符号を用い、構造、工程、作用及び効果について重複する説明は省略する。一対の予備成形型201のうち、上型220の本体部21の側方であって下型30の凸部31に対向する位置には、弾性を有する賦形体225が取り付けられている。賦形体225は、電動、油圧、又は空圧によって上下方向にスライドすることで変位可能に設けられている。賦形体225は、下型30の凸部31の形に倣う形で窪んだ凹部225Aを備える。上型220が下型30に近接し、賦形体225が下方にスライドすると、凹部225Aは、凸部31を覆う形で凸部31に嵌合する。尚、賦形体225の素材としては、シリコンゴム等の樹脂製のものを採用することができる。
【0033】
図11に示すように、予備成形工程では、吸着部22に吸着した積層体10を下型30に対向する位置に移動させ、上型220を下型30に近接させることで、積層体10を、上型220の成形面と下型30の成形面とよって押圧する。ここで、賦形体225で積層体10の端部10Aを凸部31に押し付けることで、積層体10の端部10Aを凸部31に沿って曲げ加工する。具体的には、図12に示すように、賦形体225を下型30側に向かって下方にスライドさせ、その凹部225Aと下型30の凸部31との間に積層体10の端部10Aを挟んで凸部31に押し付ける。積層体10の端部10Aは、賦形体225によって凸部31に押し付けられることにより、凸部31の形に倣う形となるように曲げられる。所定時間経過後、上記手順を遡るように賦形体225を動作させる。そして、上型220を下型30から離間させることで、端部10AがU字状に成形(予備成形)された積層体10を得る。
【0034】
<実施形態4>
次に、本発明の実施形態4を図13および図14によって説明する。尚、本実施形態では、上記実施形態と同じ部位には、同一の符号を用い、構造、工程、作用及び効果について重複する説明は省略する。一対の予備成形型のうちの上型320は、気体を吸引することが可能な複数の吸着部322を備える。吸着部322は、上型320の側方に設けられており、上型320の成形面320Aには設けられていない。一方、積層体10を加熱するホットプレート302は、固定台303に固定されたバネ304の上側に設けられており、その位置が上下方向に変位可能な構成とされている。ホットプレート302の上側には、シリコンゴム等を素材とする膜状の賦形体である貼設賦形体305が貼設されている。
【0035】
予備成形工程では、まず、積層体10を貼設賦形体305に載置し、積層体10を貼設賦形体305の下方からホットプレート302で加熱して軟化させる。このとき、ホットプレート302が貼設賦形体305を上方にわずかに押し上げていてもよい。続いて、上型320を貼設賦形体305の上方に移動し、図15に示すように、貼設賦形体305に押し付ける。このとき、ホットプレート302を固定するバネ304が収縮し、貼設賦形体305の張力で積層体10が上型320の成形面320Aに押し付けられるまで、上型320を貼設賦形体305に向けて押し付ける。そして、複数の吸着部322で積層体10の外周側を吸着し、積層体10を持ち上げる。この状態で、積層体10が、上記実施形態に示した下型(例えば、下型30)に対向する位置となるように、上型320を移動する。
【0036】
このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、積層体10を上型320に好適に吸着させて下型に対向する位置にスムーズに移動させることができる。また、吸着部322が上型320の側方に設けられているため、吸着した積層体10の内部側が吸着されず(内部側において気体の吸引が生じず)、積層体10が加熱されて軟化した状態を保ちやすくなるので、好適である。
【0037】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0038】
(1)上記実施形態では、ブロックは、モータ等の駆動によりロッドの先端で回動可能な構成としたが、これに限られない。例えば、上記実施形態におけるシリンダ(第1シリンダとする)の先端において当該第1シリンダとは別の第2シリンダが設けられ、ブロックは、第1シリンダと第2シリンダとの2段階の伸長によって回動することなく凸部の裏側面に回り込む構成であってもよい。
【0039】
(2)上記実施形態では、積層体をホットプレートに載置して加熱することとしたが、これに限られない。例えば、積層体をIRヒータ等で炙るようにして加熱してもよい。その場合、積層体を上型の吸着部に吸着させた後に、IRヒータで炙って加熱し、下型の上方に移動させてもよい。
【0040】
(3)上記実施形態では、上型は、ロボットアーム等の図示しない移動装置に取り付けられているものとしたが、これに限られない。例えば、上型は、ホットプレートの上方と下型の上方との間を振り子状に揺動可能な揺動部の先端に取り付けられていてもよい。その場合、人力で揺動部を揺動させて上型を移動させてもよい。
【0041】
(4)上記実施形態では、繊維樹脂成形体は、乗物用シートを構成するものとしたが、これに限られない。例えば、繊維樹脂成形体は、ドアトリムのアッパーボードやインストルメントパネル等、その他の乗物用内装材を構成するものであってもよい。また、繊維樹脂成形体は、自動車に提供されるものに限られず、種々の乗物において提供されるものであってもよい。例えば、繊維樹脂成形体は、地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの乗物に提供されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1,101,201…予備成形型、10…積層体(シート材)、20,120,220,320…上型(押型)、22,322…吸着部、24…ブロック(引張部)、25,225…賦形体、30,130…下型、31…凸部、50…成形型、100…繊維樹脂成形体、S…成形空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14