(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187150
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置とそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
B41J2/175 141
B41J2/175 121
B41J2/175 201
B41J2/175 171
B41J2/175 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095005
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】熱田 朋尚
(72)【発明者】
【氏名】井利 潤一郎
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA26
2C056KB13
2C056KB26
2C056KB37
2C056KC11
(57)【要約】
【課題】液体収容部から液体吐出部へ液体を安定して良好に供給できる液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッド1が、液体を吐出する吐出口11を有する液体吐出部4と、一端が開口している液体収容部5と、液体収容部5の内部に挿入されており液体を保持可能な保持部材13と、液体吐出部4と液体収容部5とを接続する液体流路16と、液体流路16の、液体収容部5側の端部に配置されているフィルター15と、液体収容部5の開口部に固定されている蓋部材14と、を有する。蓋部材14の液体収容部5側の面の、保持部材13を介してフィルター15と対向する位置に、当該面のうち液体収容部5側に突出する突出長さが最も大きく保持部材13に当接する押圧用突出部24が設けられている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口を有する液体吐出部と、一端が開口している液体収容部と、前記液体収容部の内部に挿入されており液体を保持可能な保持部材と、前記液体吐出部と前記液体収容部とを接続する液体流路と、前記液体流路の、前記液体収容部側の端部に配置されているフィルターと、前記液体収容部の開口部に固定されている蓋部材と、を有し、
前記蓋部材の前記液体収容部側の面の、前記保持部材を介して前記フィルターと対向する位置に、当該面のうち前記液体収容部側に突出する突出長さが最も大きく前記保持部材に当接する押圧用突出部が設けられていることを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
液体を吐出する吐出口を有する液体吐出部と、一端が開口している液体収容部と、前記液体収容部の内部に挿入されており液体を保持可能な保持部材と、前記液体吐出部と前記液体収容部とを接続する液体流路と、前記液体流路の、前記液体収容部側の端部に配置されているフィルターと、前記液体収容部の開口部に固定されている蓋部材と、を有し、
前記蓋部材の前記液体収容部側の面の、前記保持部材を介して前記フィルターと対向する位置に、前記液体収容部側に突出して前記保持部材に当接する押圧用突出部が設けられており、
前記保持部材の前記押圧用突出部と当接する部分は、前記押圧用突出部に押圧されて圧縮されており、圧縮量が前記保持部材の他の部分よりも大きいことを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記保持部材の前記押圧用突出部と当接する部分は、前記押圧用突出部による押圧方向の寸法が、他の部分の前記押圧方向の寸法よりも2±0.2mmだけ小さくなっている、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記液体吐出ヘッドの使用状態において、前記液体吐出部と前記液体収容部とは鉛直方向の上下に並んで位置し、前記液体流路は鉛直方向上方から下方に向けて延びており、前記液体収容部の鉛直方向の上端が開口しており、前記押圧用突出部は鉛直方向下方に向けて突出している、請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記蓋部材の前記液体収容部側の面には前記押圧用突出部とリブとが設けられており、前記押圧用突出部は、前記リブよりも、前記液体収容部側に突出する突出長さが大きい、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記押圧用突出部の前記液体収容部側に突出する突出長さは、前記リブの前記液体収容部側に突出する突出長さよりも2±0.2mmだけ大きい、請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記液体流路には、前記フィルターに対向する位置に液体導入溝が設けられている、請求項1から6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記保持部材は繊維吸収体である、請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、液体タンクと、前記液体吐出ヘッドと前記液体タンクとを接続するチューブと、を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
前記チューブと前記蓋部材とを接続させる流路接続部材をさらに有し、
前記流路接続部材には、液体流通用開口を有する液体流通用突出部が設けられ、
前記液体流通用開口には中空の弾性部材が挿入され、
前記蓋部材には、前記弾性部材の内部に挿入されて、前記液体流通用開口および前記弾性部材と協働して前記液体収容部へ液体を供給するための液体流通用突起が設けられている、請求項9に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
液体を吐出する吐出口を有する液体吐出部と、一端が開口している液体収容部と、前記液体吐出部と前記液体収容部とを接続する液体流路と、前記液体収容部の開口部に固定されている蓋部材と、を有している液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記液体流路の前記液体収容部側の端部にフィルターを配置するステップと、前記フィルターを配置するステップの後に、前記液体収容部の内部に、液体を保持可能な保持部材を挿入するステップと、前記保持部材を挿入するステップの後に、前記液体収容部の開口部に蓋部材を固定するステップと、を含み、
前記蓋部材を固定することにより、前記蓋部材の前記液体収容部側の面のうち前記液体収容部側に突出する突出長さが最も大きい押圧用突出部を前記フィルターの直上に位置させ、前記押圧用突出部を前記保持部材に当接させて前記保持部材を押圧して圧縮させる、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記蓋部材を固定するステップにおいて、前記蓋部材の前記液体収容部側の面に前記押圧用突出部とともに設けられたリブが前記保持部材に当接し、
前記リブが前記液体収容部側に突出する突出長さよりも、前記押圧用突出部が前記液体収容部側に突出する突出長さが大きい、請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記保持部材を挿入するステップと前記蓋部材を固定するステップとの間に、前記液体収容部に液体を注入するステップをさらに含む、請求項11または12に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記蓋部材を固定するステップにおいて、前記押圧用突出部によって前記保持部材を押圧して圧縮させることにより、前記保持部材が保持している液体を滲み出させて前記フィルターに供給する、請求項13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記蓋部材を固定するステップの後に、前記吐出口から吸引力を加えるステップをさらに含み、
前記吐出口から吸引力を加えるステップにおいて、前記保持部材が保持している液体を、前記フィルターおよび前記液体流路を介して前記液体吐出部に導く、請求項13または14に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
請求項11から15のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法の各ステップと、
前記液体吐出ヘッドと液体タンクとをチューブによって接続するステップと、を含むことを特徴とする液体吐出装置の製造方法。
【請求項17】
前記液体吐出ヘッドと前記液体タンクとを接続するステップにおいて、前記チューブと前記蓋部材とを、流路接続部材を介して接続し、
前記流路接続部材に設けられた、液体流通用開口を有する液体流通用突出部と、前記液体流通用開口に挿入された中空の弾性部材と、前記蓋部材に設けられて前記弾性部材の内部に挿入された液体流通用突起とによって前記液体収容部へ液体を供給させる、請求項16に記載の液体吐出装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置とそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクなどの液体を吐出する液体吐出ヘッドは、液体を吐出する液体吐出部と、液体吐出部に供給する液体を収容する液体収容部と、液体収容部と液体吐出部とを連通する液体流路と、を有している。特許文献1に記載された構成では、液体収容部は上端が開口した中空の箱状であり、内部に液体を保持する保持部材が挿入された状態で、上方から蓋部材が取り付けられて、開口部が塞がれている。液体流路の液体収容部側の端部にフィルターが配置されており、フィルターは保持部材と接している。蓋部材の液体収容部側の面には、液体収容部内の保持部材に当接するリブが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された構成では、蓋部材のリブが保持部材を押圧することにより、液体収容部の保持部材から液体吐出部に効率よく液体が供給される。特に、蓋部材のリブが保持部材を押圧している状態で液体吐出部の吐出口から吸引することにより、保持部材が保持している液体は、フィルターおよび液体流路を介して液体吐出部へ円滑に供給される。しかし、表面張力が大きい液体や粘度が高い液体などが用いられる場合には、蓋部材のリブによる保持部材の押圧と吐出口からの吸引とを行っても効率良く液体を液体吐出部に供給できない場合がある。
【0005】
そこで本発明は、上記の事情に鑑み、液体収容部から液体吐出部へ液体を安定して良好に供給できる液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置とそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口を有する液体吐出部と、一端が開口している液体収容部と、前記液体収容部の内部に挿入されており液体を保持可能な保持部材と、前記液体吐出部と前記液体収容部とを接続する液体流路と、前記液体流路の、前記液体収容部側の端部に配置されているフィルターと、前記液体収容部の開口部に固定されている蓋部材と、を有し、前記蓋部材の前記液体収容部側の面の、前記保持部材を介して前記フィルターと対向する位置に、当該面のうち前記液体収容部側に突出する突出長さが最も大きく前記保持部材に当接する押圧用突出部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
液体収容部から液体吐出部へ液体を安定して良好に供給できる液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置とそれらの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の液体吐出ヘッドを含む液体吐出装置の斜視図である。
【
図2】
図1に示す液体吐出装置の液体供給経路を示す模式的な断面図である。
【
図3】
図1に示す液体吐出装置の液体吐出ヘッドの要部を示す拡大断面図である。
【
図4】
図3に要部を示す液体吐出ヘッドと流路接続部材とを示す分解断面図である。
【
図5】(a)は
図4に示す液体吐出ヘッドの上面側から見た斜視図、(b)はその蓋部材の下面側から見た斜視図である。
【
図7】(a)は保持部材を省略した液体収容部を示す平面図、(b)は(a)のB部分の拡大斜視図、(c)はB部分のフィルターを省略した拡大斜視図である。
【
図8】(a)~(f)は
図4に示す液体吐出ヘッドの製造方法の各工程を順番に示す断面図である。
【
図9】(a)は
図8に示す液体吐出ヘッドのフィルター周辺の拡大断面図、(b)~(c)は(a)のC部分の液体の流れを順番に示す拡大断面図である。
【
図10】
図9(a)に示す液体吐出ヘッドの蓋部材が固定される前であってフィルターが変形した状態のフィルター周辺の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面に基づいて説明する。
[液体吐出装置の基本構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド1を含む液体吐出装置2の、外装を外して内部構造を示す斜視図である。
図2は、液体吐出装置2の、液体吐出ヘッド1を含む液体供給経路を模式的に示す断面図である。
図3は液体吐出ヘッド1の要部を示す拡大断面図である。液体吐出装置2は、シリアルスキャン方式の記録装置であり、キャリッジモータおよびその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構により、ガイド軸に沿って主走査方向(X方向)に往復移動可能なキャリッジ3を有する。キャリッジ3には、液体吐出部4と、液体吐出部4に液体(インク)を供給する液体収容部5と、を有する液体吐出ヘッド1が搭載されている。液体吐出装置本体の内部に固定されている液体収容容器(液体タンク)7に、可撓性のチューブ8の一端が接続され、チューブ8の他端は、キャリッジ3の上部に設けられている流路接続部材9に接続されている。液体吐出ヘッド1の液体収容部5が、流路接続部材9に接続されている。従って、液体吐出ヘッド1がキャリッジ3に装着された状態(液体吐出ヘッド1の使用状態)で、液体吐出ヘッド1は、流路接続部材9およびチューブ8を介して液体タンク7と連通する。
【0010】
本実施形態において、液体吐出ヘッド1から液体を吐出して記録を行う紙等の記録媒体10(
図3参照)は、プラテンおよび搬送ローラによって、キャリッジ3の主走査方向に直交する副走査方向(Y方向)に搬送される。
【0011】
この液体吐出装置2では、液体吐出ヘッド1を搭載したキャリッジ3を主走査方向に移動させつつ、プラテン上に位置する記録媒体の記録領域に向かって液体吐出部4の吐出口11(
図3参照)から液体を吐出する。この液体吐出動作と、1回走査分の記録範囲に対応する距離だけ記録媒体10を副走査方向に搬送する搬送動作とを繰り返し行う。これにより、記録媒体10上に順次液体を吐出して、文字や画像や模様等の記録を行う。液体吐出による記録が行われている間に、液体タンク7に収容された液体が、チューブ8を通して液体吐出ヘッド1の液体収容部5に供給される。
【0012】
[液体タンク]
液体吐出装置本体に固定された液体タンク7は、液体収容室25とバッファ室26とを有している。液体収容室25は、バッファ室26と連通する連通開口27を除いて密閉されている。液体収容室25は、内部に繊維吸収体等の保持部材を有しておらず、大量の液体を貯留している。液体収容室25の鉛直方向の最下部付近に連結管28が取り付けられ、連結管28はチューブ8に接続されている。液体収容室25の内部は、連結管28とチューブ8とを介して、流路接続部材9に接続されている。バッファ室26には、外気と連通する外気連通孔31が設けられている。液体収容室25とバッファ室26とは、連通開口27を介して連通している。従って、液体タンク7の液体収容室25に貯留された液体は、連結管28、チューブ8、流路接続部材9を介して、液体吐出ヘッド1の液体収容部5に供給される。液体タンク7の環境温度の上昇や環境圧力の低下が生じたら、液体収容室25の内部の液体がバッファ室26に流入することにより、液体収容室25の温度および圧力の変動を抑える。
【0013】
[液体吐出ヘッド]
液体吐出ヘッド1は液体吐出部4と液体収容部5とを有している。液体吐出部4には、
図3に拡大して模式的に示すように、複数の吐出口11と、複数の吐出口11にそれぞれ連通する複数の圧力室12と、圧力室12にそれぞれ連通する内部流路6とが形成されている。液体吐出部4の各圧力室12には、液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子(例えば発熱素子(電気熱変換体)22)が配置されている。液体吐出ヘッド1がキャリッジ3に装着された状態(液体吐出ヘッド1の使用状態)で、液体吐出部4と液体収容部5とは鉛直方向の上下に並んで位置している。吐出口11は、液体吐出ヘッド1が記録装置本体に取り付けられた状態で鉛直方向の最下部に設けられている。
【0014】
図4に示される通り、液体収容部5は、上端(液体吐出ヘッド1の使用状態における鉛直方向の上端)が開口した中空の箱状である。液体収容部5の内部に、一定量の液体を保持可能な保持部材(例えば繊維吸収体や多孔体等)13が挿入され、開口部の上方から蓋部材14が取り付けられて、開口部が塞がれている。液体収容部5と液体吐出部4とは液体流路16によって接続されている。液体流路16は、液体吐出ヘッド1の使用状態で鉛直方向上方から下方に向けて延びている。液体流路16の液体収容部5側の端部には、液体吐出部4にゴミが混入しないようにするためのフィルター15が配置され、フィルター15は保持部材13と接している。液体収容部5は、液体吐出部4の吐出口11に通じる液体流路16に、フィルター15を介して連通している。
【0015】
液体吐出装置本体に固定された液体タンク7から、チューブ8および流路接続部材9を介して、液体吐出ヘッド1の液体収容部5に供給された液体は、保持部材13に保持される。保持部材13に保持されている液体が、フィルター15を通過して液体流路16を流れ、液体吐出部4に流入する。液体吐出部4に流入した液体は、内部流路6を通って圧力室12に到達する。この状態で、図示しない配線を介して発熱素子22に電気信号が供給されると、発熱素子22が熱エネルギーを発生させることにより、圧力室12内の液体が加熱されて膜沸騰により発泡する。この発泡エネルギーによって、吐出口11から外部に液滴が吐出される。なお、エネルギー発生素子として、発熱素子22の代わりに圧電素子等が用いられてもよい。
【0016】
[液体供給経路]
図2に示す液体タンク7から液体吐出ヘッド1へ繋がる液体供給経路において、外気と接する部分は、液体吐出ヘッド1の液体吐出部4の吐出口11と、液体タンク7の連通開口27のみである。液体吐出ヘッド1を液体吐出装置本体に取り付けた状態において、液体吐出部4は、液体タンク7の水位よりも高い位置に配置される。従って、液体吐出部4の吐出口11の位置と、液体タンク7の連通開口27の位置との間の水頭差によって、液体吐出部4の内部に負圧が生じ、液体吐出部4の吐出口11から液体が落下しないように液体吐出部4の内部に液体が保持される。液体タンク7の液体収容室25の内部で液体の液面がどのような位置にあっても、液体吐出部4の内部に一定の負圧を保つことが可能である。
【0017】
液体吐出部4の吐出口11から液体の吐出が継続して行われると、液体吐出ヘッド1内の負圧が大きくなる。液体吐出部4の内部の負圧が、液体タンク7から液体吐出ヘッド1までの液体の経路の流抵抗と連通開口27におけるメニスカス力との和よりも大きくなると、連通開口27から液体収容室25へ外気が供給される。それにより、液体タンク7からチューブ8を介して液体吐出ヘッド1に液体が供給される。その結果、液体吐出ヘッド1内の負圧が緩和され、液体吐出前の状態に戻り、液体吐出部4の内部の負圧が一定に保たれる。この一連の動作が繰り返されて、液体吐出装置2の液体タンク7から液体吐出ヘッド1の液体収容部5へ液体が供給され続ける。
【0018】
[液体吐出ヘッドと流路接続部材の接続部]
図4に、液体吐出ヘッド1と、液体吐出ヘッド1に接続される流路接続部材9との分解断面図が示されている。流路接続部材9は、液体吐出ヘッド1側に向かって突出する複数の突出部17,18を有している。流路接続部材9の複数の突出部17,18はいずれも中空のパイプ状であり、位置決め用開口17aを有する位置決め用突出部17と、液体流通用開口18aを有する液体流通用突出部18とを含む。液体流通用突出部18の液体流通用開口18aの内部には、中空のチューブ状の弾性部材19が挿入されている。
【0019】
流路接続部材9が接続される液体吐出ヘッド1の蓋部材14には、液体収容部5の外側に向かう方向(接続される流路接続部材9に向かう方向)に突出する複数のピン状の突起20,21を有している。蓋部材14の複数の突起20,21は、位置決め用突起20と、液体流通用突起21とを含む。位置決め用突起20は、位置決め用突出部17の位置決め用開口17aに嵌合して、流路接続部材9は蓋部材14に対して精度良く位置決めされる。液体流通用突起21は、液体流通用突出部18の液体流通用開口18aの内部の弾性部材19の中空部に挿入される。図示しないが、弾性部材19の内周面と液体流通用突起21の外周面との間の隙間を液体が流通可能であり、この隙間を通過した液体が、液体収容部5の内部に供給され、保持部材13に保持される。すなわち、流路接続部材9の液体流通用開口18aと、蓋部材14の液体流通用突起21とが協働して、液体収容部5へ液体を供給する。液体流通用突起21の外周面の外側に弾性部材19が位置しているため、弾性部材19の内周面と液体流通用突起21の外周面との間の隙間は外部に対してシールされている。こうして、液体吐出ヘッド1の内部は、液体吐出部4の吐出口11と、蓋部材14の液体流通用突起21の外周面の外側の隙間とを除いて密閉された状態である。それにより、流路接続部材9から液体吐出ヘッド1の液体収容部5への液体の供給を良好に行うことができる。
【0020】
[蓋部材]
図5(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッド1の上面側から見た斜視図であり、
図5(b)はその液体吐出ヘッド1の蓋部材14の下面側から見た斜視図である。
図6は
図5(a)のA-A線断面図である。
図7(a)は保持部材13を省略した液体収容部5を示す平面図、
図7(b)は
図7(a)のB部分の拡大斜視図、
図7(c)はB部分のフィルターを省略した拡大斜視図である。
図5に示す本実施形態の液体吐出ヘッド1は、3種類(3色)の液体がそれぞれ収容される3つの液体収容部5を有している。各液体収容部5にはそれぞれ保持部材13が挿入されている。液体収容部5の筐体5aの上端面(液体吐出ヘッド1のキャリッジ3への搭載状態における鉛直方向の上端面)に、蓋部材14が溶着されている。蓋部材14には、3つの液体収容部にそれぞれ対応する3つの液体流通用突起21と、2つの位置決め用突起20が設けられている。また、蓋部材14の内面(液体収容部5側の面)には、液体収容部5内の保持部材(繊維吸収体)13に当接するリブ23が設けられている。蓋部材14のリブ23は、蓋部材14が液体収容部5の筐体5aの端面に溶着された状態で、保持部材13を鉛直方向下方に向けて押圧する。
【0021】
さらに、位置決め用突起20の外周部に、蓋部材14の内面から、液体収容部5側、すなわち保持部材13側(液体吐出ヘッド1の使用状態における鉛直方向下方)へ突出する押圧用突出部24が設けられている。押圧用突出部24は、リブ23と同様に保持部材13に接しており、リブ23よりも保持部材13側(鉛直方向下方)への突出長さが大きい。一例としては、リブ23と押圧用突出部24との突出長さの差は2±0.2mmである。すなわち、押圧用突出部24の液体収容部5側に突出する突出長さは、リブ23の液体収容部5側に突出する突出長さよりも2±0.2mmだけ大きい。このように押圧用突出部24はリブ23よりも突出長さが大きいため、保持部材13をより強く押圧する。一例としては、保持部材13の、押圧用突出部24と当接する部分は、押圧用突出部24による押圧方向(
図6の上下方向)の寸法が、他の部分の押圧方向の寸法よりも2±0.2mmだけ小さくなっている。
【0022】
図6,
図7(a)に示すように、保持部材13を内包する液体収容部5は、フィルター15を介して、液体流路16および液体吐出部4に接続されている。
図7(b),
図7(c)に示すように、フィルター15は、座面29およびフィルター受け30に固定されて、液体流路16の液体収容部5側の端部に位置している。液体流路16には、フィルター15に対向する位置の一部が切り欠かれて液体導入溝16aが設けられている。液体収容部5と液体吐出部4とは、フィルター15が配置されている位置において液体が流通するように接続されている。保持部材13とフィルター15とが互いに密着していると、保持部材13からフィルター15を介して液体流路16および液体吐出部4へ液体が効率的に供給される。従って、保持部材13に保持された液体を液体吐出部4に確実に供給するためには、保持部材13とフィルター15とが互いに圧接された状態を維持することが求められる。蓋部材14の内面のリブ23が保持部材13をフィルター15側(鉛直方向下方)へ押圧することが、保持部材13とフィルター15との圧接に寄与する。しかし、リブ23が保持部材13を押圧する位置と、保持部材13がフィルター15に圧接する位置とは、平面的に見てずれているため、力の伝達効率が高くない。そこで、本実施形態では、蓋部材14の内面の、保持部材13を介してフィルター15と対向する位置、すなわち使用状態におけるフィルター15の直上の位置に、リブ23よりも突出長さが大きい押圧用突出部24が設けられている。従って、蓋部材14と保持部材13との接触個所のうち、フィルター15の直上の位置において、保持部材13が最も強い力で下方、すなわちフィルター15側へ押圧される。それにより、保持部材13とフィルター15とが確実に密着し、保持部材13からフィルター15を介して液体流路16および液体吐出部4へ液体がより確実に効率良く供給される。液体流路16に液体導入溝16aが設けられていることによって、フィルター15から液体流路16を介して液体吐出部4へ流入する液体の流れがより円滑になる。
【0023】
[液体吐出ヘッドの製造方法]
次に、本実施形態において、液体吐出ヘッドを製造して液体を充填する方法について、
図8~
図10を参照して説明する。
図8(a)に示すように、液体吐出ヘッドの液体収容部5の上端が開放されている状態で、液体流路16の液体収容部5側の端部にフィルター15を取り付ける。一例としては、コンスタントヒーターによる熱溶着によって座面29およびフィルター受け30(
図7(b),
図7(c)参照)にフィルター15を取り付ける。
図8(b)に示すように、液体収容部5の内部に保持部材(例えば繊維吸収体)13を挿入する。
図8(c)に示すように、液体収容部5に所定量の液体を注入する。
図8においては、保持部材13の、液体を保持している部分のドット模様を高密度にすることによって、液体を保持していない部分と区別して示している。
図8(d)~
図8(e)に示すように、液体収容部5の上端の開口部の端面(筐体5aの上端面)に蓋部材14を固定する。一例としては、振動溶着によって蓋部材14を取り付ける。この時、液体がフィルター15を介して液体流路16および液体吐出部4へ流入する。
図8(f)に示すように、液体吐出部4の吐出口11の形成面をキャップ32でキャッピングして、図示しないポンプで吸引力を加えることにより、液体流路16および液体吐出部4に液体を十分に充填させる。
【0024】
図8(d)~
図8(e)に示すように液体収容部5の上端の開口部の端面に蓋部材14を固定する工程について、より詳細に説明する。
図9(a)は、蓋部材14が溶着された直後のフィルター15周辺の拡大断面図である。
図9(b)~
図9(c)は
図9(a)のC部分の液体の流れを順番に示す拡大断面図である。
図8(c)に示すように、液体収容部5に液体が注入されて保持部材13の少なくとも一部が液体を保持している状態で、
図8(d)~
図8(e)に示すように液体収容部5の上端の開口部の端面に蓋部材14を固定する。蓋部材14の内面のリブ23と押圧用突出部24が保持部材13に当接して保持部材13を下方(フィルター15および液体流路16側)に向けて押圧して圧縮する。保持部材13に保持されている液体は、
図9(b),
図9(c)の矢印で示すようにフィルター15に浸透していく。圧縮された保持部材13から滲み出した液体はフィルター15に保持され、保持部材13から滲み出した液体の量が増えると、フィルター15が液体で飽和状態になる。フィルター15が液体で飽和状態になった後に、液体が保持部材13からさらに滲み出すと、フィルター15からその下方の液体流路16の液体導入溝16aに進入する。
【0025】
特に、本実施形態では、フィルター15の直上に位置する押圧用突出部24が他のリブ23よりも突出長さが大きいため、保持部材13はフィルターの直上の位置において最も大きな押圧力を受け、最も大きく圧縮される。すなわち、保持部材13の、押圧用突出部24と当接する部分は、押圧用突出部24による圧縮量が保持部材13の他の部分よりも大きい。このように保持部材13がフィルター15に向けて押圧されるため、保持部材13によってフィルター15が押圧されて液体流路16の端面に密着する。フィルター15が液体流路16の端面に密着していると、両者の間に毛管力が発生し、液体は液体流路16の方へ引っ張られる。その結果、フィルター15内に飽和状態で存在している液体は、メニスカスを破って液体流路16内に進入する。蓋部材14が液体収容部5に固定された時点で、液体流路16および液体吐出部4の内部に液体が進入することで、それらの内部の濡れ性が向上する。そのことは、後で回復動作を行う際の空気の流入の予防につながる。
【0026】
仮に、フィルター15の直上に、他のリブ23よりも突出長さが大きい押圧用突出部24が設けられていない場合には、リブ23が保持部材13を押圧する力と、フィルター15とは、平面的な位置が一致しない。従って、力の損失があり、保持部材13からフィルター15および液体流路16へ液体を進入させる効率が低い。それに対し、本実施形態では、フィルター15の直上に、他のリブ23よりも突出長さが大きい押圧用突出部24が設けられているため、押圧用突出部24が保持部材13を押圧する力と、フィルター15とは、平面的な位置が一致する。従って、押圧用突出部24が保持部材13を押圧する力は、保持部材13からフィルター15および液体流路16へ液体を進入させるために直接作用し、保持部材13からフィルター15および液体流路16へ液体を進入させる効率が非常に良い。
【0027】
本実施形態では、位置決め用突起20の外周部に、蓋部材14の内面から保持部材13側へ、他のリブ23よりも大きく突出する押圧用突出部24が設けられている。しかし、そのような形状には限定されない。リブ状の部材などいかなる形態の突出部であっても、蓋部材14の内面において保持部材13に接する部分のうち、保持部材13側への突出長さが最も大きい突出部(押圧用突出部24)が、フィルター15の直上に設けられていることが重要である。
【0028】
このように押圧用突出部24を有する構成では、表面張力が大きい液体や粘度が高い液体を液体収容部5の保持部材13からフィルター15を介して液体流路16へ初めて流通させる際であっても、円滑に供給することができる。それにより、保持部材13を押圧しつつ吐出口11から吸引を行う際に、液体中への空気の流入を抑え、液体吐出部4へ供給される液体中に気泡が発生しにくい状態にすることができる。液体吐出ヘッドの回復処理を良好に行うことができ、吐出不良を抑えることができる。また、液体中から除去すべき気泡が生じにくく、1回の吸引で十分な回復処理が行われる可能性が高いため、複数回の吸引によって液体の消費量の増加を生じるおそれが小さい。
【0029】
なお、
図10に示すように、フィルター15が反るように変形して、液体導入溝16aの内周端面には接しておらず、液体導入溝16aから離れた位置で液体収容部5の上面に接している場合であっても、本実施形態の構成は有効である。
図10に示す状態から、フィルター15の直上に位置する突出長さが大きい押圧用突出部24が保持部材13を強く押圧することで、保持部材13とフィルター15は密着し、さらにフィルター15は液体導入溝16aの端面の近傍で密着する。その結果、
図8,9に示す例と実質的に同様に、保持部材13からフィルター15および液体流路16へ液体を効率良く進入させることができる。このような効果は、フィルター15の直上に、最も突出長さが大きい押圧用突出部24が設けられていることによって実現する。
【0030】
液体収容部5を構成する筐体5aの製造誤差のばらつきによって、フィルター15が配置される座面29やフィルター受け30(
図7(b),
図7(c)参照)の高さが変動して、液体導入溝16aの近傍でフィルター15が座面29に接し難くなる場合がある。そのような場合にも、前述した通り、フィルター15の直上に位置する突出長さが大きい押圧用突出部24が保持部材13を強く押圧することで、保持部材13がフィルター15に密着し、さらにフィルター15が液体導入溝16aの近傍で端面に密着する。その結果、保持部材13からフィルター15および液体流路16へ液体を効率良く進入させることができる。
【0031】
このように、本実施形態によると、フィルター15の反りや変形や成形誤差に影響されずに、保持部材13からフィルター15および液体流路を介して液体吐出部4に効率良く液体を進入させることができる。そして、液体吐出部4への液体供給の安定性が向上する。
【0032】
複数の種類の液体のうち表面張力が大きい液体や粘度の高い液体を収容する液体収容部5において、フィルター15の直上に、突出長さが最も大きい押圧用突出部24を設けると特に効果的である。それにより、本実施形態の液体吐出ヘッド1では、表面張力が大きい液体や粘度の高い液体を用いることができ、吐出する液体の選択肢が拡がる。
【0033】
また、本実施形態によると、吐出口11から安定して液体を吸引でき、泡が流入しにくいため、吐出不良を削減できるとともに、回復動作時に必要以上に液体を消費することが防げる。
【符号の説明】
【0034】
1 液体吐出ヘッド
4 液体吐出部
5 液体収容部
11 吐出口
13 保持部材
14 蓋部材
15 フィルター
16 液体流路
24 押圧用突出部