(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187175
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04537 20160101AFI20221212BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20221212BHJP
【FI】
H01M8/04537
H01M8/04858
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095048
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】北村 伸之
(72)【発明者】
【氏名】梅原 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】金子 智彦
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AB29
5H127DB68
5H127DB89
5H127DC89
(57)【要約】
【課題】適切に燃料電池の交流インピーダンスを計測することができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】制御部は、n相のスイッチのON・OFF制御を行い、制御部は、コイルの電流値をモニタリングし、前記制御部は、n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させ、前記制御部は、n相の前記スイッチのデューティ比を周期的に増減させながら操作し、燃料電池の電流波形及び電圧波形から前記燃料電池の交流インピーダンスを測定し、前記制御部は、所定の条件1を満たすと判定したときに、前記デューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくすることを特徴とする燃料電池システム。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
前記燃料電池システムは、燃料電池と、当該燃料電池の出力電圧の昇圧及び降圧からなる群より選ばれる少なくとも一種を行うコンバータと、を備え、
前記コンバータは、n(nは2以上の整数)相のコイルが互いに磁気結合されているリアクトルと、前記コイルそれぞれに接続されるn相のスイッチと、制御部と、を備え、
前記制御部は、n相の前記スイッチのON・OFF制御を行い、
前記制御部は、前記コイルの電流値をモニタリングし、
前記制御部は、n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させ、
前記制御部は、n相の前記スイッチのデューティ比を周期的に増減させながら操作し、前記燃料電池の電流波形及び電圧波形から前記燃料電池の交流インピーダンスを測定し、
前記制御部は、下記条件1を満たすと判定したときに、前記デューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくすることを特徴とする燃料電池システム。
条件1:n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させたときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり且つ1相の前記コイルに流れる電流値がゼロに維持されている時に他の少なくとも1相のコイルに接続された前記スイッチがONからOFFに切り替わる運転条件である。
【請求項2】
前記制御部は、n相の前記スイッチをそれぞれ(360/n)°の位相差で動作させる請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記燃料電池の交流インピーダンスを測定する直前の各前記コイルを流れる電流波形から、前記条件1を満たすか否か判定する、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記コイルの電流値の振幅が通常の振幅となるようにn相の前記スイッチのデューティ比を増減させたときに、測定される前記コイルの電流値の振幅が期待値よりも小さい時に前記条件1を満たすと判定する、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御部は、n=2であり、且つ、互いに磁気結合された2相の前記スイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相の前記スイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)であり、且つ、式(A)または式(B)のいずれか一方を満たす時に前記条件1を満たすと判定する、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
式(A):D<{(1/2)(L-M)(VH-VL)}/(LVL+MVL-MVH)
式(B):D<(1/2){1-(VL/VH)}
[式(A)及び式(B)中、Lは前記リアクトルの自己インダクタンス、Mは前記リアクトルの相互インダクタンス、VHは前記コンバータの出口電圧、VLは前記コンバータの入口電圧、Dはデューティ比(-)である。]
【請求項6】
前記制御部は、コンバータの入口電圧及び出口電圧と、前記スイッチのデューティ比と、前記コイルの電流値との関係を示すデータ群を予め記憶し、
前記制御部は、前記条件1を満たすと判定したときに、前記データ群を参照してn相の前記スイッチのデューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくする、請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記燃料電池の交流インピーダンス測定要求の有無を確認し、
前記制御部は、前記燃料電池の交流インピーダンス測定要求が有ることを確認した場合に、前記条件1を満たすか否か判定し、
前記制御部は、前記条件1を満たすと判定したときに、n相の前記スイッチのデューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくし、前記燃料電池の交流インピーダンスを測定する、請求項1~6のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両等の車両に車載されて用いられるシステムに備えられるコンバータに関して種々の研究がなされている。様々な電子機器等に用いられるDC/DCコンバータには、リアクトル、スイッチ、ダイオードおよびコンデンサ等から構成される回路がよく用いられる。DC/DCコンバータは、スイッチのON/OFF信号によって、リアクトルに流れる電流の増加や減少を制御する。
例えば特許文献1では、燃料電池スタックの交流インピーダンスを精度よく計測する燃料電池システムが開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、燃料電池のインピーダンスを補機の負荷変動の影響を受けずに高い精度で測定することができる、車両に搭載される燃料電池システムが開示されている。
【0004】
また、特許文献3では、簡便な装置と構成で短時間に精度の高いインピーダンスを算出するインピーダンス計測方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献4では、デッドタイムが設けられている双方向昇降圧コンバータを用いて、燃料電池のインピーダンスを測定するための交流を燃料電池に精度よく印加する燃料電池システムが開示されている。
【0006】
また、特許文献5では、電源が供給する電力の電圧変換を行う変換部に対する制御安定性を維持しつつ、電源の状態を検知可能な電源装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-098134号公報
【特許文献2】特開2014-232681号公報
【特許文献3】特開2013-145692号公報
【特許文献4】特開2014-235781号公報
【特許文献5】特開2017-153242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
燃料電池の運転状態を最適に制御するための指標の一つとして、燃料電池の交流インピーダンスが用いられている。コンバータは、燃料電池の出力電圧をスイッチング素子(スイッチ)によるスイッチング動作によって昇降圧制御する。コンバータには、デューティ比変動に対する応答性能低下領域が存在することが知られている。このような応答性能低下領域で燃料電池の交流インピーダンスを計測すると、コンバータによる燃料電池への高周波信号の重畳精度が低下するので、交流インピーダンス計測精度が著しく低下してしまうという不都合が生じる。
コンバータの小型化をねらいとして、同一コア上で複数のコイルを磁気結合させた磁気結合リアクトルを備えた磁気結合コンバータの導入が選択肢として考えられる。磁気結合コンバータでは、リアクトルのコアの磁気飽和を緩和し出力電流リプルを低減するため、磁気結合されたコイルどうしを、同じデューティ比で位相差が等間隔になるよう交互にスイッチングすることが一般的である。磁気結合リアクトルは、燃料電池の低出力時にはコイルを流れる電流がゼロになる時間を含む不連続モードでの動作となる。
本研究者らは、電流が断続する不連続モードでの動作時に、磁気結合リアクトル特有の現象である相互インダクタンスによる他のコイルからの負電流で疑似的なスイッチオン状態となり、スイッチのオフからオンへの制御がスムーズに切り替わらず、デューティ比を変化させても燃料電池の出力電流値が変化しない状態となる、「不感帯」が存在することを新たに発見した。不感帯においては、デューティ比を変化させて交流インピーダンス測定のための交流信号を印加しようとしても、上記のように燃料電池の出力電流値がほとんど変化しないため、適切に燃料電池の交流インピーダンスを計測することができない。これは上記特許文献1の応答性能低下領域に相当するものであるが、交流インピーダンスを計測しない時間帯又は交流インピーダンスを計測できない時間帯が頻繁に生じることで、燃料電池の運転状態を最適に制御できない虞がある。
【0009】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、適切に燃料電池の交流インピーダンスを計測することができる燃料電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の燃料電池システムは、燃料電池システムであって、
前記燃料電池システムは、燃料電池と、当該燃料電池の出力電圧の昇圧及び降圧からなる群より選ばれる少なくとも一種を行うコンバータと、を備え、
前記コンバータは、n(nは2以上の整数)相のコイルが互いに磁気結合されているリアクトルと、前記コイルそれぞれに接続されるn相のスイッチと、制御部と、を備え、
前記制御部は、n相の前記スイッチのON・OFF制御を行い、
前記制御部は、前記コイルの電流値をモニタリングし、
前記制御部は、n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させ、
前記制御部は、n相の前記スイッチのデューティ比を周期的に増減させながら操作し、前記燃料電池の電流波形及び電圧波形から前記燃料電池の交流インピーダンスを測定し、
前記制御部は、下記条件1を満たすと判定したときに、前記デューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくすることを特徴とする燃料電池システム。
条件1:n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させたときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり且つ1相の前記コイルに流れる電流値がゼロに維持されている時に他の少なくとも1相のコイルに接続された前記スイッチがONからOFFに切り替わる運転条件である。
【0011】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、n相の前記スイッチをそれぞれ(360/n)°の位相差で動作させてもよい。
【0012】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、前記燃料電池の交流インピーダンスを測定する直前の各前記コイルを流れる電流波形から、前記条件1を満たすか否か判定してもよい。
【0013】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、前記コイルの電流値の振幅が通常の振幅となるようにn相の前記スイッチのデューティ比を増減させたときに、測定される前記コイルの電流値の振幅が期待値よりも小さい時に前記条件1を満たすと判定してもよい。
【0014】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、n=2であり、且つ、互いに磁気結合された2相の前記スイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相の前記スイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)であり、且つ、式(A)または式(B)のいずれか一方を満たす時に前記条件1を満たすと判定してもよい。
式(A):D<{(1/2)(L-M)(VH-VL)}/(LVL+MVL-MVH)
式(B):D<(1/2){1-(VL/VH)}
[式(A)及び式(B)中、Lは前記リアクトルの自己インダクタンス、Mは前記リアクトルの相互インダクタンス、VHは前記コンバータの出口電圧、VLは前記コンバータの入口電圧、Dはデューティ比(-)である。]
【0015】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、コンバータの入口電圧及び出口電圧と、前記スイッチのデューティ比と、前記コイルの電流値との関係を示すデータ群を予め記憶し、
前記制御部は、前記条件1を満たすと判定したときに、前記データ群を参照してn相の前記スイッチのデューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくしてもよい。
【0016】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、前記燃料電池の交流インピーダンス測定要求の有無を確認し、
前記制御部は、前記燃料電池の交流インピーダンス測定要求が有ることを確認した場合に、前記条件1を満たすか否か判定し、
前記制御部は、前記条件1を満たすと判定したときに、n相の前記スイッチのデューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくし、前記燃料電池の交流インピーダンスを測定してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示の燃料電池システムによれば、適切に燃料電池の交流インピーダンスを計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、昇圧コンバータ及び周辺部品を有する燃料電池システムの回路構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、入力電圧Vfcが200V、出力電圧Vhが350Vで昇圧比を一定とし、互いに磁気結合された2相のコイルを駆動させて、デューティ比を徐々に増加させたときの、リアクトルの各コイルに流れる平均電流値(単相平均電流値)の電流変化を表した図である。
【
図3】
図3は、不感帯が発生する領域での、磁気結合された2相のコイルそれぞれの電流波形を示す図である。
【
図4】
図4は、互いに磁気結合された2相のコイルを駆動させて、各相それぞれに振幅±3Aの270Hzのサイン波を重畳し、直流負荷電流を5~25Aの範囲でスイープした時の電流波形を示した図である。
【
図5】
図5は、U相とV相の2相磁気結合昇圧回路の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、U相とV相の2相磁気結合降圧回路の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、U相とV相の2相磁気結合昇降圧回路の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、昇圧コンバータのリアクトルのコイルに流れる電流が連続モードの場合の電流波形の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、昇圧コンバータのリアクトルのコイルに流れる電流が不連続モードの場合の電流波形の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、磁気結合コンバータにおけるスイッチのデューティ比とリアクトルのコイルに流れる単相平均電流値との関係の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、不連続モードにおける不感帯発生領域を示す図である。
【
図12】
図12は、n相磁気結合リアクトルを備えるコンバータを含む燃料電池システムにおける燃料電池の交流インピーダンス測定をするときの制御の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、2相磁気結合リアクトルを備えるコンバータを含む燃料電池システムにおける燃料電池の交流インピーダンス測定をするときの制御の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、n相磁気結合リアクトルを備えるコンバータを含む燃料電池システムにおける燃料電池の交流インピーダンス測定をするときの制御の別の一例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、n相磁気結合リアクトルを備えるコンバータを含む燃料電池システムにおける燃料電池の交流インピーダンス測定をするときの制御の別の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の燃料電池システムは、燃料電池システムであって、
前記燃料電池システムは、燃料電池と、当該燃料電池の出力電圧の昇圧及び降圧からなる群より選ばれる少なくとも一種を行うコンバータと、を備え、
前記コンバータは、n(nは2以上の整数)相のコイルが互いに磁気結合されているリアクトルと、前記コイルそれぞれに接続されるn相のスイッチと、制御部と、を備え、
前記制御部は、n相の前記スイッチのON・OFF制御を行い、
前記制御部は、前記コイルの電流値をモニタリングし、
前記制御部は、n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させ、
前記制御部は、n相の前記スイッチのデューティ比を周期的に増減させながら操作し、前記燃料電池の電流波形及び電圧波形から前記燃料電池の交流インピーダンスを測定し、
前記制御部は、下記条件1を満たすと判定したときに、前記デューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくすることを特徴とする燃料電池システム。
条件1:n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させたときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり且つ1相の前記コイルに流れる電流値がゼロに維持されている時に他の少なくとも1相のコイルに接続された前記スイッチがONからOFFに切り替わる運転条件である。
【0020】
本開示においては、磁気結合リアクトル特有の現象である不感帯が発生する運転条件において、その他の運転条件よりも狙いの電流振幅値が大きくなるようにデューティ比を増減させることで、実電流にも振幅を与えることができ、適切に交流インピーダンス測定を行う。
コンバータのスイッチのデューティ比とリアクトル電流との関係は線形ではなく、運転条件により傾きが異なる。<条件1>に該当する場合には、傾きの差を考慮し、関係式における電流の振幅がより大きくなるように切り替える。具体的には、磁気結合されたn相は、各相が不感帯を跨いで電流が増減するように、
図2に示すような不感帯電流間隔よりも大きい振幅で電流を増減させるよう、
図10、
図2等のデューティ比/電流特性曲線に基づいてデューティ比を増減させてもよい。
上記構成のように不感帯が発生する電流間隔を超えて電流が振幅するようにデューティを制御することで、不感帯が発生する領域であっても、確実に電流を増減させてサイン波を重畳させることができ、適切に交流インピーダンスを測定することができる。
一般に、電流を増減させると、燃料電池システムからの要求に対して燃料電池の出力が過剰または不足し、過不足分をバッテリが補填することになる。ところが、バッテリの充放電により、バッテリが劣化し寿命が短くなるため、電流の増減は最小限としたい。そのため、交流インピーダンス測定するために与えるデューティ比の振幅を、運転条件が<条件1>の時のみ、他の運転条件の場合よりも大きくすることにより、バッテリ劣化を抑制しながら、適切にインピーダンス測定を実施できる。
【0021】
図1は、昇圧コンバータ及び周辺部品を有する燃料電池システムの回路構成の一例を示す図である。
図1に示す燃料電池システムは、例えば車両に搭載され、外部負荷50として車両の駆動用モータがインバータを介して接続されている。また、図示していないが、燃料電池10及び昇圧コンバータ20と並列して、バッテリを備えていても良い。燃料電池10の出力電力は、昇圧コンバータ20により昇圧された後、さらにインバータにより直流から交流に変換され、モータに供給される。
昇圧コンバータ20は、互いに並列に接続された6相の昇圧回路を備える。
図1では、昇圧回路を6相備える構成を示しているが、相数は特に限定されない。
昇圧回路は、リアクトル21、電流センサ22、スイッチ23、ダイオード24、コンデンサ25を備える。昇圧回路は、入力電圧センサ、出力電圧センサを備えていてもよい。
6相の昇圧回路のうち、2相ずつが1つのリアクトル21のコアを共用し互いに磁気結合することができる。各昇圧回路において、スイッチ23がONされるとリアクトル21を流れる電流は増加し、スイッチ23がOFFされるとリアクトル21を流れる電流は減少し、電流がゼロに到達した場合にはゼロが維持される。電流センサ22は、リアクトル21を流れる電流値を取得する。
制御部が、スイッチ23をON/OFF制御することにより、コンバータ20での昇圧比、及び燃料電池10からの出力電流値を制御する。
燃料電池10の出力電力は、車両の要求(速度、加速度、積載量、及び、道路の勾配等)によって大きく変化し、それに応じて出力電流も大きく変化する。燃料電池10の出力電流が大きい場合、その電流を1つの昇圧回路に流すと、発熱が増大して電力変換効率が低下する。また、大電流に耐えうる昇圧回路に小さい電流しか流さない場合にも、損失が増大し、電力変換効率が低下する。そこで、昇圧コンバータ20は複数相の昇圧回路(
図1に示す例では6相)を備え、昇圧コンバータ20は、燃料電池10の出力電流値に応じて駆動する相数を切り替える。例えば、燃料電池10の出力電流値が0~150Aの時は2相で駆動し、150~300Aの時は4相で駆動し、300~600Aの時は6相で駆動する。昇圧回路は、流れる電流によって効率が異なり、駆動相数を変えることで、各電流域でそれぞれ最適な効率で運転することができる。
【0022】
燃料電池システムは、燃料電池と、コンバータと、を備える。
【0023】
燃料電池は単セルを1つのみ有するものであってもよく、単セルを複数個積層した燃料電池スタックであってもよい。
【0024】
コンバータは、燃料電池の出力電圧の昇圧及び降圧からなる群より選ばれる少なくとも一つを行う。コンバータは、昇圧コンバータであってもよく、降圧コンバータであってもよく、昇降圧コンバータであってもよい。
コンバータは、DC/DCコンバータであってもよい。
コンバータは、n(nは2以上の整数)相のコイルが互いに磁気結合されているリアクトルと、コイルそれぞれに接続されるn相のスイッチと、制御部と、を備える。コンバータは、ダイオード、電流センサ、フォトカプラ、及び、コンデンサ等を備えていてもよい。
【0025】
リアクトルは、コイル及びコアを有する。
コアには、n(nは2以上の整数)相のコイルが巻回されていてもよい。nは2以上であればよく、上限は特に限定されず、10以下であってもよく、5以下であってもよく、4以下であってもよく、3以下であってもよい。
リアクトルが有するコア及びコイルは、従来公知のコンバータに用いられているコア及びコイルを採用してもよい。
本開示においては、1つの独立したコイルが巻回されたコアを有するリアクトルを非磁気結合リアクトルと称する。本開示においては、非磁気結合リアクトルを備えるコンバータを非磁気結合コンバータと称する。本開示においては、2以上の独立したコイルが巻回されたコアを有するリアクトルを磁気結合リアクトルと称する。本開示においては、磁気結合リアクトルを備えるコンバータを磁気結合コンバータと称する。
本開示において独立したコイルとは、1つ以上の渦巻部と、2つの端子部を備えるコイルを意味する。
【0026】
スイッチ(スイッチング素子)としては、IGBT、及び、MOSFET等であってもよい。
ダイオードは、従来公知のコンバータに用いられているダイオードを採用してもよい。
【0027】
電流センサは、リアクトルのコイルを流れる電流値(リアクトル電流値という場合がある)を取得することができるものであれば、特に限定されず、従来公知の電流計等を用いることができる。
【0028】
制御部は、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)等であってもよい。ECUは、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力バッファとを含んで構成される。
【0029】
制御部は、リアクトルのコイルに流れる電流値を電流センサからの信号により検出し、コイルの電流値をモニタリングしてもよい。
【0030】
制御部は、n相のスイッチのON・OFF制御を行う。制御部は、磁気結合されたn相のスイッチを一定の周波数で動作させてもよい。
制御部は、スイッチへのON指令とOFF指令とを周期的に切り替えることにより、スイッチのON・OFF制御を行う。これにより燃料電池からの出力電流値を制御してもよい。
本開示において、スイッチングの周期(スイッチング周期)とは、スイッチがオフからオンに切り替わった時点から、再度スイッチがオフからオンに切り替わる時点までの期間を意味する。
【0031】
制御部は、n相のスイッチをそれぞれ異なる位相で動作させる。制御部は、n相のスイッチをそれぞれ同じデューティ比で動作させてもよい。制御部は、n相のスイッチをそれぞれわずかにデューティ比が異なるように動作させてもよい。
制御部は、n相のスイッチを、それぞれ(360/n)°の位相差で動作させてもよい。
【0032】
制御部は、下記条件1を満たすと判定したときに、デューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくする。
条件1:n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させたときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり且つ1相の前記コイルに流れる電流値がゼロに維持されている時に他の少なくとも1相のコイルに接続された前記スイッチがONからOFFに切り替わる運転条件である。
【0033】
[不感帯の説明]
「不感帯」とは、コンバータのPWMデューティ比を増減させても、リアクトルのコイルに流れる平均電流値がほとんど変化しない領域を指す。磁気結合の相互インダクタンスによる負電流が原因で、2相磁気結合の単方向昇圧(降圧)回路ではデューティ比が50%以下(D≦0.5)の不連続モード領域の一部に現れる。
図2は、入力電圧Vfcが200V、出力電圧Vhが350Vで昇圧比を一定とし、互いに磁気結合された2相のコイルを駆動させて、デューティ比を徐々に増加させたときの、リアクトルの各コイルに流れる平均電流値(単相平均電流値)の電流変化を表した図である。
図2において、コイルの自己インダクタンスは96.4μHであり、コイルの相互インダクタンスは62.7μHであり、スイッチの駆動周波数は20kHzとした。
リアクトルのコイルに流れる平均電流値を算出する状態方程式(後述)によれば、
図2の破線で示したように、デューティ比が増加するにつれてリアクトルのコイルに流れる平均電流値も単調増加するはずだが、実際には実線で示したように、階段状に電流が増加する特性を示し、点線で囲まれた部分に、デューティ比を増加させてもリアクトルのコイルに流れる平均電流値が増加しない「不感帯」が存在する。リアクトルのコイルに流れる平均電流値が上記不感帯にある場合、デューティ比を変化させても、リアクトルのコイルに流れる平均電流値すなわち燃料電池の出力電流値が変化せず、適切に燃料電池の交流インピーダンスを測定することができない。
【0034】
図3は、不感帯が発生する領域での、磁気結合された2相のコイルそれぞれの電流波形を示す図である。
図3では、U相の電流をL1、V相の電流をL2と表記している。
時刻t0からt1までの間、V相のスイッチはONであり、徐々にL2電流が増大する。一方、U相のスイッチはOFFであり、L1電流は0に維持されている。時刻t1において、V相のスイッチがONからOFFに切り替わったことにより、V相のL2電流が減少に転じる。ここで、U相のスイッチはOFFに維持されたままであるが、時刻t1以降、V相の相互作用によりU相に流れるL1電流は、減少と増加が交互に現れる。
ここで、例えば時刻t2のように、U相のL1電流が増加しているときにU相のスイッチをONしても、既に電流が増加しているため、スイッチONの信号は認識されない。その後、時刻t3のようにU相のL1電流が減少するタイミングになって初めてU相のスイッチONが認識され、その後U相のスイッチがOFFされるまでL1電流が増加する。スイッチONの信号が認識されないタイミングと認識されるタイミングが交互に現れるため、
図2のように、不感帯が繰り返し現れることになる。
なお、前述したように、磁気結合されている一方の相のコイルの電流値が0であるときに、他方の相のスイッチがONからOFFに切り替わると、一方の相のコイルに電流の増減が生じ、その結果不感帯が現れる。
したがって、条件1の通り、n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で駆動したときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり且つ磁気結合されている一方の相のコイルの電流値が0に維持されているときに、他方の相のスイッチがONからOFFに切り替わるような運転条件の時に、不感帯が発生すると言える。
【0035】
図4は、互いに磁気結合された2相のコイルを駆動させて、各相それぞれに振幅±3Aの270Hzのサイン波を重畳し、直流負荷電流を5~25Aの範囲でスイープした時の電流波形を示した図である。
図4においては、
図2と同様に、入力電圧Vfcが200V、出力電圧Vhが350Vで昇圧比を一定とし、コイルの自己インダクタンスは96.4μHであり、コイルの相互インダクタンスは62.7μHであり、スイッチの駆動周波数は20kHzとした。
図4の場合、デューティ比とリアクトルのコイルに流れる平均電流値との関係は
図2に示す破線に沿っていると考えられているため、破線に沿ってデューティ比を振幅させる。ところが、上述したように、実際には電流値の変化は
図2に示す実線のように階段状であるため、
図2に点線で示す不感帯においてデューティ比を増減させても電流は変化せず、
図4の点線で示すように、電流にサイン波重畳が出来ない領域があり、その領域では燃料電池の交流インピーダンスの計測ができない。なお、
図4の点線で示す特定領域で直流負荷の急変動が発生した場合、燃料電池の出力応答が遅れバッテリ等の負荷上昇が発生する場合もある。
図4を考慮して、制御部は、コイルの電流値の振幅が通常の振幅となるようにn相のスイッチのデューティ比を増減させたときに、測定される前記コイルの電流値の振幅が期待値よりも小さい時に条件1を満たすと判定してもよい。コイルの電流値の振幅が期待値よりも小さい時は、サイン波を重畳していない状態に相当し、不感帯に突入していると判定することができる。
【0036】
図5は、U相とV相の2相磁気結合昇圧回路の一例を示す図である。
図5において、V
Lは入力電圧(昇圧前電圧)、I
Lは入力電流、V
Hは出力電圧(昇圧後電圧)、I
Hは出力電流、Dはダイオード、Sはスイッチ、Mは相互インダクタンス、Lは自己インダクタンス、rは内部抵抗を示す。
式(1)は電流Iベクトルの状態方程式である。この状態方程式を解くことにより、
図2中において破線で示した電流曲線を得ることができる。式(1)における電圧Vベクトルは、表1のように表される。表1は、式(1)における電圧Vベクトルと不感帯発生条件(斜線部分)を示す。
図5及び式(1)のMで表される磁気結合の相互インダクタンスによる負電流が原因で、2相磁気結合の単方向昇圧(降圧)回路では表1の斜線部分に示すように、両相のスイッチがオフの状態、つまり180°位相差駆動でデューティ比が50%未満(D<0.5)の不連続モード領域の一部に不感帯が現れる。メカニズムは式(1)を表1の条件で時間に沿って解くことで得られるように、両相のスイッチがオフの状態で片方のコイルに流れる電流が0Aかつ、もう一方のコイルに流れる電流が正である場合に、0A側のコイルに相互インダクタンスによる起電圧が発生し負電流を生じる。その後、負電流が増加することでコイルの起電力がなくなり、じきに減少に転じるが、0Aに戻るまでの期間は表1の斜線部分のようにスイッチが疑似的なON状態となるため、負電流側スイッチがONでもOFFでも電流波形に影響を与えることができず制御不感帯となる。
なお、例えば、U相とV相とW相の3相磁気結合昇圧回路の場合の不感帯発生条件は、3相すべてのスイッチがOFFで、I
U>0、I
V≦0、I
W≦0の場合や、I
U>0、I
V>0、I
W≦0の場合等が想定される。
【0037】
【0038】
【0039】
図6は、U相とV相の2相磁気結合降圧回路の一例を示す図である。
図7は、U相とV相の2相磁気結合昇降圧回路の一例を示す図である。
昇圧回路だけでなく、降圧回路や昇降圧回路においても昇圧回路と同様に電流制御不感帯の問題があり、不感帯が発生する条件1の運転条件においてデューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくすることにより、適切に燃料電池の交流インピーダンスを計測することができる。なお、不連続モードを持たない双方向回路については、不感帯は存在しないと考えられる。
【0040】
[連続モード、不連続モードの説明]
図8は、昇圧コンバータのリアクトルのコイルに流れる電流が連続モードの場合の電流波形の一例を示す図である。
図9は、昇圧コンバータのリアクトルのコイルに流れる電流が不連続モードの場合の電流波形の一例を示す図である。
図8に示すように、昇圧コンバータのリアクトルのコイルに流れる電流(リアクトル電流)はスイッチング動作に伴って三角波となり、三角波の中央値が平均リアクトル電流(以下、平均電流と記載する)である。ここで、Dutyを減らして平均電流を下げていくと、三角波の最下点が0Aに達する。ここからさらに平均電流を下げると、昇圧コンバータは片方向の回路であるため、
図9に示すように、リアクトル電流がゼロとなる期間が発生し始める。このようにコンバータのリアクトルのコイルに流れる電流がゼロとなる期間を有する動作を、不連続モードと呼び、リアクトルのコイルに流れる電流がゼロとなる期間を有さない動作を、連続モードと呼ぶ。
【0041】
条件により異なるケースを想定し、制御部は、コンバータの入口電圧及び出口電圧と、スイッチのデューティ比と、コイルの電流値との関係を示すデータ群を予め記憶してもよい。
制御部は、条件1を満たすと判定したときに、前記データ群を参照してn相のスイッチのデューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくしてもよい。
図10は、磁気結合コンバータにおけるスイッチのデューティ比とリアクトルのコイルに流れる単相平均電流値との関係の一例を示す図である。
コンバータの出力電圧(VH)を一定としたときに、コンバータへの入力電圧(VL)、デューティ比に応じてリアクトルのコイルに流れる平均電流値が定まり、一般にデューティ比を増加させると、リアクトルのコイルに流れる平均電流値も増加する。
制御部は、
図10に示すような特性を記憶したマップ(データ群)を備え、燃料電池の交流インピーダンスを測定する際に、リアクトルに流れるコイルの平均電流値が所定の振幅で増減するように、デューティ比を増減させてもよい。デューティ比の振幅は、
図10に示すグラフの傾きを考慮して、決定してもよい。本開示においては、不感帯が発生する条件1の運転条件において電流の振幅が他の運転条件よりも大きくなるように、デューティ比を大きな振幅で増減させてもよい。例えば、コンバータへの入力電圧(VL)=20V,リアクトルに流れるコイルの平均電流値が9Aのとき、条件1に該当しないと判断できれば、燃料電池の交流インピーダンスを測定する際に、電流の振幅が±3A程度となるように、すなわちコイルの電流値が6A~12Aの間で振幅するように、デューティ比を例えば23~33%(D=0.23~0.33)の範囲で増減させればよい。一方、不感帯が発生する条件1の運転条件では、電流の振幅が±5A程度となるよう、すなわちコイルの電流値が4A~14Aの間で振幅するように、デューティ比を例えば14~38%(D=0.14~0.38)の範囲で増減させてもよい。
図10に示すように、デューティ比とコイルの電流値の傾きは運転条件により異なるため、
図10を参照して適切なデューティ比の振幅を選択しながら、コイルを流れる電流にサイン波を重畳させる。
【0042】
図11は、不連続モードにおける不感帯発生領域を示す図である。
本研究者らは2相(ずつ)が磁気結合された、L>Mである昇圧コンバータにおいて、条件1を満足し、不感帯が発生するのは、不感帯発生領域として斜線で囲われた領域であることを知見した。
なお、Lはリアクトルの自己インダクタンス、Mは相互インダクタンスであり、それぞれリアクトルの物性値により決定される固有な値である。VLは昇圧コンバータの入口電圧(昇圧前電圧)、VHは昇圧コンバータの出口電圧(昇圧後電圧)である。
2相磁気結合(n=2)の場合、2相を駆動する位相は異なっていればよく、位相差は180°であってもよい。2相を駆動する位相が異なっている場合、不連続モードであってデューティ比が50%未満(D<0.5)であれば、磁気結合されている一方の相のコイルの平均電流値が0に維持されているときに、他方の相のスイッチがONからOFFに切り替わる運転条件になる。
制御部は、精度良く不感帯が発生する運転条件を判定する観点から、2相磁気結合(n=2)の場合は、
図11に示す不感帯発生領域の条件である「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比(D)が50%未満(D<0.5)であり、且つ、下記式(A)又は式(B)のいずれか一方を満たす」と判定した場合に、条件1を満たすと判定してもよい。
式(A):D<{(1/2)(L-M)(V
H-V
L)}/(LV
L+MV
L-MV
H)
式(B):D<(1/2){1-(V
L/V
H)}
[式(A)及び式(B)中、Lはリアクトルの自己インダクタンス、Mはリアクトルの相互インダクタンス、V
Hはコンバータの出口電圧、V
Lはコンバータの入口電圧、Dはデューティ比(-)である。]
2相(ずつ)が磁気結合された場合には、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)である」ことが条件1の内の一つになる。
一方、n相(ずつ)が磁気結合され、互いに磁気結合されたn相をそれぞれ(360/n)°の位相差で駆動したときの条件1は、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)である」の条件の代わりに「互いに磁気結合されたn相のスイッチをそれぞれ(360/n)°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、n相のスイッチのデューティ比が(100-100/n)%未満」になる。
【0043】
[交流インピーダンスの測定]
制御部は、n相のスイッチのデューティ比を周期的に増減させながら操作し、燃料電池の電流波形及び電圧波形から燃料電池の交流インピーダンスを測定する。
【0044】
制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定要求の有無を確認してもよい。そして、制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定要求が有ることを確認した場合に、条件1を満たすか否か判定してもよい。燃料電池の交流インピーダンス測定要求が有るときだけ条件1を満たすか否か判定することで、制御を簡素化することができる。
一方、制御部は、条件1を満たすと判定したときに、燃料電池の交流インピーダンス測定要求の有無を確認してもよい。そして、制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定要求が有ることを確認した場合に、n相の前記スイッチのデューティ比を増減させる振幅を、その他の運転条件と比較して大きくし、燃料電池の交流インピーダンスを測定してもよい。条件1を満たすときだけ燃料電池の交流インピーダンス測定要求が有るか否か判定することで、制御を簡素化することができる。
【0045】
制御部は、燃料電池の電解質膜の状態やガス供給の状態を把握するため、燃料電池の運転中に所定の頻度で、燃料電池の交流インピーダンス測定を実施する。
制御部は、コンバータのPWMデューティ比を周期的に増減させながらスイッチングし、ある周波数成分を含んだ負荷電流をかけたときの、燃料電池の出力電圧及び出力電流値を一波長以上時系列波形データとして取得し、その波形データを離散フーリエ変換し、電圧信号の離散フーリエ変換結果を電流信号の離散フーリエ変換結果で除算することにより燃料電池の交流インピーダンスを算出する。
不連続モードと呼ばれる低負荷領域では、デューティ比を増大させると、リアクトルのコイルを流れる平均電流値も増大する。
上記燃料電池の交流インピーダンスを取得するため、例えば、出力電流値の振幅が±3A程度のサイン波になるよう、デューティ比を制御しても良い。
なお、燃料電池の出力電圧値は、燃料電池スタック全体の電圧を取得しても良いし、各単セルの電圧を取得しても良い。燃料電池スタック全体の電圧値を用いれば、燃料電池スタック全体の交流インピーダンスを取得でき、単セル毎の電圧値を用いれば、単セル毎の交流インピーダンスを取得できる。
また、複数の単セル毎(例えば、2単セル毎、4単セル毎など)に電圧を取得すると任意の単セルブロック毎の交流インピーダンスを取得できる。
単セル面積が数百cm2程度の場合、発電中に取得する交流インピーダンスの200Hz以上の成分は主に電解質膜のプロトン移動抵抗や接触抵抗を表し、数10Hzの成分は、ガス拡散抵抗を表す。
なお、本開示における燃料電池の交流インピーダンスの測定方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができ、例えば特開2008-098134に記載の方法と同様の方法であってもよい。
【0046】
(典型例)
図12は、n相磁気結合リアクトルを備えるコンバータを含む燃料電池システムにおける燃料電池の交流インピーダンス測定をするときの制御の一例を示すフローチャートである。
制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求があるか否か判定する。制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求がないと判定したときは、制御を終了するか又は現状のデューティ比を増減させる振幅を維持してもよい。一方、制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求があると判定したときは、コイルの電流値をモニタリングし、条件1として「n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させたときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり且つ1相の前記コイルに流れる電流値がゼロに維持されている時に他の少なくとも1相のコイルに接続された前記スイッチがONからOFFに切り替わる運転条件である」を満たしているか否か判定する。制御部は、条件1を満たしていないと判定したときは、現状のデューティ比を増減させる振幅を維持しながら燃料電池の交流インピーダンス測定を行う。一方、制御部は、条件1を満たしていると判定したときは、n相の前記スイッチのデューティ比を増減させる振幅を、現状の運転条件と比較して大きくし、燃料電池の交流インピーダンス測定を行う。例えば、現状の運転条件が、狙いの電流振幅値がAとなるように、デューティ比を増減させていた場合、制御部は、条件1を満たしていると判定したときは、狙いの電流振幅値がAよりも大きいB(B>A)となるように、デューティ比を増減させる振幅を、現状の運転条件と比較して大きくしてもよい。また、デューティ比D、入口電圧VL、出口電圧VHに応じて、変更する狙いの電流振幅を設定してもよい。
【0047】
(具体例)
2相磁気結合(n=2)の場合は、制御部は、上記した「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)であり、且つ、式(A)又は式(B)のいずれか一方を満たす」と判定した場合に、条件1を満たすと判定してもよい。
図13は、2相磁気結合リアクトルを備えるコンバータを含む燃料電池システムにおける燃料電池の交流インピーダンス測定をするときの制御の一例を示すフローチャートである。
制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求があるか否か判定する。制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求がないと判定したときは、制御を終了するか又は現状のデューティ比を増減させる振幅を維持してもよい。一方、制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求があると判定したときは、コイルの電流値をモニタリングし、条件1として、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流(駆動する相)が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)であり、且つ、式(A)又は式(B)のいずれか一方を満たす」か否か判定する。制御部は、条件1を満たしていないと判定したときは、狙いの電流振幅値がAとなるように、現状のデューティ比を増減させる振幅を維持しながら燃料電池の交流インピーダンス測定を行う。一方、制御部は、条件1を満たしていると判定したときは、狙いの電流振幅値がB(B>A)となるように、2相のスイッチのデューティ比を増減させる振幅を、現状の運転条件と比較して大きくし、燃料電池の交流インピーダンスの測定を行う。
【0048】
図13に示す例においては、燃料電池システムの運転中に、前述の不感帯が発生する領域に突入した状態で、燃料電池の交流インピーダンスの測定を実施するときに、他の条件で交流インピーダンスの計測を実施する時と比較して、
図10のマップ上で電流値の振幅が大きくなるように、デューティ比を振幅させてもよい。電流値の振幅幅は、
図2における電流の段差以上の値とすることにより、不感帯の発生領域であっても、確実に電流に振幅を与えることができ、燃料電池の交流インピーダンス測定が可能になる。
図11に示すように「不感帯が発生する領域」は、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)であり、且つ、式(A)又は式(B)のいずれか一方を満たす」ときであるため、例えば
図11に示す不感帯が発生する領域に運転条件が移行するタイミングで、狙いの電流振幅が小さい運転モードから、狙いの電流振幅が大きい運転モードに移行してもよい。
なお、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)」の条件を満たさない場合は、狙いの電流振幅が小さい状態とすることにより、バッテリの充放電の程度を小さくして、バッテリの寿命が短くなることを抑制することができる。
不感帯が発生する条件1を満たすか否かを判定する手段は上記に限定されず、例えば入力電圧及びデューティ比に応じて、不感帯に該当する範囲を定義しておき、入力電圧及びデューティ比が不感帯に該当する範囲に突入または近づいたことを示すときに、条件1を満たすと判定してもよい。
上述のように、不感帯に該当する範囲を予め定義しておき、その範囲に進入したときにデューティ比の振幅を切り替えることにより、燃料電池の交流インピーダンスを取得したいときに速やかに交流インピーダンスを取得することができる。
【0049】
図13では、狙いの電流振幅を大きくする条件1として、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)であり、且つ、式(A)または式(B)のいずれか一方を満たす」ときとしたが、「式(A)または式(B)のいずれか一方を満たすとき」の条件を除外しても良い。
すなわち、条件1として、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)である」ときとしてもよい。この場合、例えば燃料電池への要求出力が減少し、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%以上(D≧0.5)から、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)に移行するタイミングで、2相のスイッチのデューティ比の振幅を切り替えてもよい。
図11に示すように、式(A)及び式(B)によって電流振幅を大きくする範囲から除外される領域は大きくない。従って、「式(A)または式(B)のいずれか一方を満たすとき」の条件を除外しても、バッテリの寿命増加に与える影響は限定的と考えられる。一方、「式(A)または式(B)のいずれか一方を満たすとき」の条件を除外することによって制御が簡素化されつつ、適切に燃料電池の交流インピーダンスの測定を行うことができる。
なお、変形例として、条件1として、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)、且つ、式(A)を満たすとき」又は、「互いに磁気結合された2相のスイッチをそれぞれ180°の位相差で動作させたときに、コイルを流れる電流が不連続モードであり、且つ、2相のスイッチのデューティ比が50%未満(D<0.5)、且つ、式(B)を満たすとき」としてもよい。
【0050】
(変形例1)
上述の通り、制御部は、コイルの電流値の振幅が通常の振幅となるようにn相のスイッチのデューティ比を増減させたときに、測定される前記コイルの電流値の振幅が期待値よりも小さい時に条件1を満たすと判定してもよい。
図14は、n相磁気結合リアクトルを備えるコンバータを含む燃料電池システムにおける燃料電池の交流インピーダンス測定をするときの制御の別の一例を示すフローチャートである。
図14では、制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求があるか否か判定する。制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求がないと判定したときは、制御を終了するか又は現状のデューティ比を増減させる振幅を維持してもよい。一方、制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求があると判定したときは、通常の電流値の振幅(狙いの電流振幅値がA)となるようにデューティ比を増減させる。そして、制御部は、条件1として、「コイルの電流値の振幅が通常の電流値の振幅となるようにn相のスイッチのデューティ比を増減させたときに、測定される(実際の)コイルの電流値の振幅が期待値よりも小さい」の条件を満たすか否か判定する。制御部は、測定されるコイルの電流値の振幅が期待値よりも小さいときに、コイルの電流値の振幅が狙いの電流振幅値B(B>A)となるように、デューティ比を増減させる振幅を現状の運転条件と比較して大きくして、燃料電池の交流インピーダンスを測定する。一方、制御部は、測定されるコイルの電流値の振幅が期待値通りであるときは、現状のデューティ比を増減させる振幅を維持しながら燃料電池の交流インピーダンスを測定する。
この場合、通常の電流値の振幅となるようにデューティ比を増減させ、実際の電流値の振幅が期待値よりも小さいときに、不感帯に突入したと判断することができる。
上述のように、実際の電流値の振幅により不感帯に突入しているか否かを判断することにより、例えば製品のばらつき等により不感帯の領域が通常とずれていた場合であっても、適切にデューティ比を切り替えて、燃料電池の交流インピーダンスを取得することができる。
【0051】
(変形例2)
制御部は、燃料電池の交流インピーダンスを測定する直前の各コイルを流れる電流波形から、条件1を満たすか否か判定してもよい。
図15は、n相磁気結合リアクトルを備えるコンバータを含む燃料電池システムにおける燃料電池の交流インピーダンス測定をするときの制御の別の一例を示すフローチャートである。
図15では、制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求があるか否か判定する。制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求がないと判定したときは、制御を終了するか又は現状のデューティ比を増減させる振幅を維持してもよい。一方、制御部は、燃料電池の交流インピーダンス測定の要求があると判定したときは、燃料電池の交流インピーダンスを測定する直前の各コイルを流れる電流波形を取得する。そして、制御部は、取得した電流波形から、条件1として「n相の前記スイッチをそれぞれ異なる位相で動作させたときに、前記コイルを流れる電流が不連続モードであり且つ1相の前記コイルに流れる電流値がゼロに維持されている時に他の少なくとも1相のコイルに接続された前記スイッチがONからOFFに切り替わる運転条件である」か否かを判定する。そして、制御部は、条件1を満たすと判定したときは、狙いの電流振幅値がB(B>A)となるように、デューティ比を増減させる振幅をその他の運転条件と比較して大きくする。一方、制御部は、条件1を満たしていないと判定したときは、狙いの電流振幅値がAとなるように、現状のデューティ比を増減させる振幅を維持しながら燃料電池の交流インピーダンス測定を行う。
燃料電池の交流インピーダンスを測定する直前の各コイルを流れる電流波形は、例えばスイッチ周期の1つ前における電流波形であってもよい。スイッチ周期は例えば30kHz程度であり、周期の1つ前であっても運転条件は概ね同じであり、
図11における不感帯発生領域も同じであると考えられ、精度良く条件1を満たすか否か判定することができる。
【符号の説明】
【0052】
10:燃料電池
20:昇圧コンバータ
21:リアクトル
22:電流センサ
23:スイッチ
24:ダイオード
25:コンデンサ
50:外部負荷