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特開2022-187208リンドープ金属酸化物光触媒体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187208
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】リンドープ金属酸化物光触媒体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20221212BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20221212BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20221212BHJP
   B01J 27/14 20060101ALI20221212BHJP
   B01J 27/195 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/04 102
B01J37/10
B01J27/14 M
B01J27/195 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095101
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】栗崎 敏
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓二
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA04B
4G169BA21C
4G169BA48A
4G169BB08C
4G169BC17C
4G169BC18C
4G169BC21C
4G169BC22C
4G169BC23C
4G169BC25C
4G169BC26C
4G169BC31C
4G169BC32C
4G169BC35C
4G169BC36C
4G169BC40C
4G169BC43C
4G169BC44C
4G169BC50C
4G169BC51C
4G169BC52C
4G169BC54C
4G169BC55C
4G169BC56A
4G169BC56B
4G169BC56C
4G169BC59C
4G169BC60C
4G169BD01C
4G169BD04C
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BD07C
4G169BD12C
4G169BE06C
4G169BE08C
4G169BE26C
4G169BE27C
4G169CA05
4G169CA10
4G169CA15
4G169DA05
4G169EC27
4G169FA01
4G169FB05
4G169FB30
4G169FC02
4G169FC04
4G169HA01
4G169HA12
4G169HB01
4G169HB06
4G169HB10
4G169HC02
4G169HD03
4G169HE05
(57)【要約】
【課題】リンがドープされた金属酸化物光触媒体を簡単に得ることができる、リンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属アルコキシド、金属ハライド、金属サルフェートおよび金属アセチルアセトナートからなる群から選択される1種以上の金属化合物と、アルコール可溶性ホスフィン化合物と、アルコール溶媒と、を含む混合液を調製する工程(S1)と、前記工程(S1)で調製した前記混合液を加水分解し、リンドープ金属酸化物前駆体を得る工程(S2)と、前記リンドープ金属酸化物前駆体を焼成する工程(S3)と、を有する、リンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコキシド、金属ハライド、金属サルフェートおよび金属アセチルアセトナートからなる群から選択される1種以上の金属化合物と、アルコール可溶性ホスフィン化合物と、アルコール溶媒と、を含む混合液を調製する工程(S1)と、
前記工程(S1)で調製した前記混合液を加水分解し、リンドープ金属酸化物前駆体を得る工程(S2)と、
前記リンドープ金属酸化物前駆体を焼成する工程(S3)と、を有する、リンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
【請求項2】
前記アルコール可溶性ホスフィン化合物が、下記一般式(I)で表される、請求項1に記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
【化1】
一般式(I)において、
Pは3価のリン原子であり、
1、R2、R3はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であり、R1、R2、R3の少なくとも1つは、極性基を有するアルキル基、極性基を有するアリール基、または、極性基を有するヘテロアリール基である。
【請求項3】
前記金属化合物の金属元素が、Ti、Ta、Zn、Ga、Ge、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Hf、W、Pb、Bi、Ce、PrおよびLuからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1または2に記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
【請求項4】
前記金属化合物が、金属アルコキシドおよび/または金属ハライドである、請求項1から3のいずれかに記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物が、金属アルコキシドであり、
前記工程(S1)において、前記金属化合物と、前記アルコール可溶性ホスフィン化合物と、前記アルコール溶媒と、酸とを混合し、前記混合液を調製する、請求項1から4のいずれかに記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
【請求項6】
工程(S3)で得られたリンドープ金属酸化物と、前記リンドープ金属酸化物とは異なる金属酸化物とを混合し、焼成する工程(S4)を有する、請求項1から5のいずれかに記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法により製造されるリンドープ金属酸化物光触媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンドープ金属酸化物光触媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物の多く(金属カチオンの電子状態でd軌道に電子がない(d0)もしくは電子がすべてうまっている(d10)もの)は、紫外光を吸収して、表面に吸着した有機物を酸化分解する光触媒能を持つ可能性を有している。従来、太陽光の有効利用や室内灯利用推進の立場から、金属酸化物光触媒体のかかる光触媒能の性能をより一層向上させるために、金属酸化物光触媒体に金属・非金属元素類をドープさせて、より長波長の光を吸収させることが試みられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1や非特許文献1には、酸化チタン光触媒体に金属元素や非金属元素(窒素、炭素等)をドープさせて可視光に応答させる方法が開示されている。
【0004】
リンドープ酸化チタンはリン酸のみを用いて合成され、吸収域は酸化チタンとほぼ変わらないと報告されていた。酸素の一部をリンに置換したリンドープ酸化チタンは可視光を吸収するようになるとの理論予想(非特許文献2)がされていた。
【0005】
本発明者らは、ホスフィン化合物を用いたリンドープ酸化チタンの合成に成功し、非金属元素をドープした酸化チタン光触媒体およびその製造方法を開示している。特許文献2において、リン化チタンなどのチタン化合物を酸化チタン前駆体に混合して合成された光触媒体およびその製造方法を開示している。
【0006】
また、本発明者らは、特許文献3において、窒化チタンなどのチタン化合物を、チタンテトラアルコキシド、チタンテトラハライド、チタンオキシサルフェート(TiOSO4)ならびにチタンオキシアセチルアセトナートから選ばれる少なくとも1種のチタン化合物と溶媒中で混合した後、加熱処理して非金属元素をドープした酸化チタン光触媒体を得る酸化チタン光触媒体の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-319423号公報
【特許文献2】特開2009-28626号公報
【特許文献3】特許第5364928号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Takeshi Morikawa et al, Band-Gap Narrowing of Titanium Dioxide by Nitrogen Doping, Japanese Journal of Applied Physics, Part 2, 2001, Vol. 40, No. 6A, p.L561-L563
【非特許文献2】Kesong Yang et al, Understanding Photocatalytic Activity of S- and P-Doped TiO2 under Visible Light from First-Principles, The Journal of Physical Chemistry C, 2007, vol. 111, No.51, p.18985-18994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、窒素や炭素をドープさせた酸化チタン光触媒体は、光触媒活性が不十分であるという短所があった。
【0010】
特許文献2の方法は、固体であるリン化チタンなどのチタンと固体である酸化チタン前駆体との固体同士の混合であるため、均一に混合するのに長い時間と多大の労力が必要であった。その結果、得られる光触媒体の品質にばらつきが生じる可能性があった。
【0011】
特許文献3の方法は、窒素雰囲気下での合成操作を多く含むため、大量生産には向かないという欠点があった。
【0012】
かかる状況下、本発明の目的は、リンがドープされた金属酸化物光触媒体を簡単に得ることができる、リンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 金属アルコキシド、金属ハライド、金属サルフェートおよび金属アセチルアセトナートからなる群から選択される1種以上の金属化合物と、アルコール可溶性ホスフィン化合物と、アルコール溶媒と、を含む混合液を調製する工程(S1)と、前記工程(S1)で調製した前記混合液を加水分解し、リンドープ金属酸化物前駆体を得る工程(S2)と、前記リンドープ金属酸化物前駆体を焼成する工程(S3)と、を有する、リンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
<2> 前記アルコール可溶性ホスフィン化合物が、下記一般式(I)で表される、前記<1>に記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
【化1】
一般式(I)において、Pは3価のリン原子であり、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であり、R1、R2、R3の少なくとも1つは、極性基を有するアルキル基、極性基を有するアリール基、または、極性基を有するヘテロアリール基である。
<3> 前記金属化合物の金属元素が、Ti、Ta、Zn、Ga、Ge、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Hf、W、Pb、Bi、Ce、PrおよびLuからなる群から選択される1種以上を含む、前記<1>または<2>に記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
<4> 前記金属化合物が、金属アルコキシドおよび/または金属ハライドである、前記<1>から<3>のいずれかに記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
<5> 前記金属化合物が、金属アルコキシドであり、前記工程(S1)において、前記金属化合物と、前記アルコール可溶性ホスフィン化合物と、前記アルコール溶媒と、酸とを混合し、前記混合液を調製する、前記<1>から<4>のいずれかに記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
<6> 工程(S3)で得られたリンドープ金属酸化物と、前記リンドープ金属酸化物とは異なる金属酸化物とを混合し、焼成する工程(S4)を有する、前記<1>から<5>のいずれかに記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のリンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法により製造されるリンドープ金属酸化物光触媒体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単にリンがドープされた金属酸化物光触媒を得ることができる。また、本発明によれば、ドープしていない化合物の吸収域より長波長領域においても光を吸収することができる優れた光触媒機能を持つリンドープ金属酸化物光触媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試料AとST01の吸収スペクトルである。
図2】光触媒活性の評価における、可視光照射時間に対するメチレンブルー量をプロットした図である。
図3】光触媒活性の評価における、可視光照射時間に対するアズールB量をプロットした図である。
図4】試料BとTa25の吸収スペクトルである。
図5】光触媒活性の評価における、可視光照射時間に対するメチレンブルー量をプロットした図である。
図6】試料CとST01の吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、以下において、「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0018】
<リンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法>
本発明は、金属アルコキシド、金属ハライド、金属サルフェートおよび金属アセチルアセトナートからなる群から選択される1種以上の金属化合物と、アルコール可溶性ホスフィン化合物と、アルコール溶媒と、を含む混合液を調製する工程(S1)と、前記工程(S1)で調製した前記混合液を加水分解し、リンドープ金属酸化物前駆体を得る工程(S2)と、前記リンドープ金属酸化物前駆体を焼成する工程(S3)と、を有する、リンドープ金属酸化物光触媒体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。なお、「金属酸化物光触媒体」とは、バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光により光触媒活性を示す金属酸化物を意味する。
【0019】
本発明者らは、アルコール可溶性ホスフィン化合物をアルコールに溶かし、特定の金属化合物を加え、液相中で混合した後、加水分解、加熱処理することによって、リンが簡易にドープされ、かつ、ドープしていない化合物に比べて、より長波長領域においても光を吸収し優れた光触媒機能を持つ金属酸化物光触媒体を得ることができることを見出して、本発明に至った。
【0020】
本発明の製造方法の特徴は、リンドープ金属酸化物前駆体を得るために、アルコール可溶性ホスフィン化合物およびアルコール溶媒を用いることである。得られるリンドープ金属酸化物前駆体は、大気中でも安定であるため、大気中で反応を行うことができ、簡単に大量合成することができる。
【0021】
また、このような製造方法とすることにより、多くの金属酸化物光触媒体へ簡便にリンをドープできる。その結果、本来の吸収域より長波長領域の光を吸収し、新たな吸収域で光触媒活性を示す可能性が高い金属酸化物光触媒体を簡単に得ることができる。
【0022】
例えば、紫外光だけでなく、可視光に対しても効率的に応答できるリンドープ金属酸化物光触媒体も簡単に製造することができる。太陽光において、紫外光が占める割合は6%以下であり、可視光が占める割合は約40%であるため、金属酸化物光触媒体が、より長波長の光に反応できることは、太陽光の有効利用の立場からとても意義がある。また、室内灯使用の立場でも可視光の利用が必要となるので大きな意味がある。
【0023】
[工程(S1)]
工程(S1)は、金属アルコキシド、金属ハライド、金属サルフェートおよび金属アセチルアセトナートからなる群から選択される1種以上の金属化合物と、アルコール可溶性ホスフィン化合物と、アルコール溶媒と、を含む混合液を調製する工程である。
【0024】
(金属化合物)
金属化合物は、金属アルコキシド、金属ハライド、金属サルフェートおよび金属アセチルアセトナートからなる群から選択される。
【0025】
金属化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。2種以上の金属化合物を用いる場合、それぞれの金属化合物の金属元素は同一であっても、異なるものであってもよい。金属元素の異なる2種以上の金属化合物を用いる場合は、同種類の金属化合物を用いてもよいし、異なる種類の金属化合物を用いてもよい。例えば、金属元素の異なる2種以上の金属アルコキシドを用いたり、金属アルコキシドと、当該金属アルコキシドとは異なる金属元素の金属ハライドとを併用したりすることができる。金属元素の異なる2種以上の金属化合物を用いることで、複数元素の金属を含む複合酸化物が得られる。
【0026】
例えば、チタンテトラアルコキシド、チタンテトラハライド、チタンオキシサルフェートおよびチタンオキシアセチルアセトナートからなる群から選択される1種以上を含む金属化合物を用いることができる。
【0027】
入手のしやすさや、反応の進行のしやすさ等の観点からは、金属化合物は、金属アルコキシドおよび/または金属ハライドが好ましく、金属アルコキシドまたは金属ハライドがより好ましい。
【0028】
金属化合物の金属元素は、光触媒活性の観点から、Ti、Ta、Zn、Ga、Ge、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Hf、W、Pb、Bi、Ce、PrおよびLuからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。Ti、Ta、Zn、Ga、Ge、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Hf、W、Pb、Bi、Ce、PrおよびLuからなる群から選択されるいずれかを含むことがより好ましく、Taおよび/またはTiを含むことがさらに好ましい。
【0029】
また、本発明の製造方法により、ペロブスカイト型の金属酸化物光触媒体を得ることができる。例えば、第1の金属化合物として、金属アルコキシド、金属ハライド、金属サルフェートおよび金属アセチルアセトナートからなる群から選択され、Ti、Ta、Zn、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cd、Hf、およびWからなる群から選択されるいずれかの金属元素を含む金属化合物を用いる。第2の金属化合物として、金属アルコキシド、金属ハライド、金属サルフェートおよび金属アセチルアセトナートからなる群から選択され、Na、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択されるいずれかの金属元素を含む金属化合物とを用いる。このような第1の金属化合物および第2の金属化合物を用いて、本発明の製造方法を行うことで、リンドープされたペロブスカイト酸化物の光触媒体を得ることができる。
【0030】
(金属アルコキシド)
金属アルコキシドは、金属原子にアルコキシ基が少なくとも1つ結合した化合物である。金属アルコキシドは、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。金属アルコキシドは、金属原子に結合する置換基の少なくとも1つがアルコキシ基であればよく、金属原子にアルキル基やアリール基、ハロゲン原子などのアルコキシ基以外が結合していてもよい。好ましくは、金属原子に結合する置換基の2以上がアルコキシ基である。金属原子に結合するアルコキシ基が複数の場合、複数のアルコキシ基は、それぞれ同一であっても、異なるものであってもよいが、同一であることが好ましい。
【0031】
金属アルコキシドを構成する金属原子(M)は、Ti、Ta、Zn、Ga、Ge、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Hf、W、Pb、Bi、Ce、PrおよびLuからなる群から選択されるいずれかが好ましい。
【0032】
金属アルコキシドを構成するアルコキシ基は、アルキル基が酸素原子に結合した置換基であり、-OR(Rはアルキル基を表す)で表される置換基である。アルコキシ基を構成するアルキル基(R)は、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数2~5のアルキル基がより好ましい。また、アルコキシ基を構成するアルキル基(R)は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピル基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0033】
金属アルコキシドは、より好ましくは、下記一般式(1)で表される、金属原子に結合する置換基の全てがアルコキシ基である化合物である。
【0034】
【化2】
【0035】
一般式(1)において、Mは、Ti、Ta、Zn、Ga、Ge、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Hf、W、Pb、Bi、Ce、Pr、およびLuからなる群から選択されるいずれかであり、TaまたはTiが好ましく、Tiがより好ましい。Rは上記の通りであり、アルキル基を表す。pはMの価数を表す。
【0036】
一般式(1)においてpが2以上の整数の場合、Rで表されるアルキル基は、それぞれ独立して選択でき、それぞれ同一であっても、異なるものであってもよい。pが2以上の整数の場合、Rは、同一であることが好ましい。
【0037】
一般式(1)で表される金属アルコキシドとしては、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド等が挙げられる。
【0038】
(金属ハライド)
金属ハライド(金属ハロゲン化物)は、金属原子(M)にハロゲン原子(X)が少なくとも1つ結合した化合物である。金属ハライドは、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。金属ハライドは、金属原子に結合する置換基の少なくとも1つがハロゲン原子(X)であればよいが、金属原子に結合する置換基の全てがハロゲン原子(X)である化合物が好ましい。金属原子に結合するハロゲン原子(X)が複数の場合、複数のハロゲン原子(X)は、それぞれ同一であっても、異なるものであってもよいが、同一であることが好ましい。
【0039】
金属ハライドを構成する金属原子(M)は、金属アルコキシドと同様である。金属ハライドを構成するハロゲン原子(X)としては、Cl、Br、F、Iが挙げられ、Clが好ましい。
【0040】
金属ハライドは、より好ましくは、下記一般式(2)で表される、金属に結合する置換基の全てがハロゲン原子である化合物である。
【0041】
【化3】
【0042】
一般式(2)において、Mは、一般式(1)と同様である。Xは、Cl、Br、F、またはIを表す。qはMの価数を表す。
【0043】
一般式(2)においてqが2以上の整数の場合、Xは、それぞれ独立して選択でき、それぞれ同一であっても、異なるものであってもよい。qが2以上の整数の場合、Xは、同一であることが好ましい。
【0044】
一般式(2)で表される金属ハライドとしては、例えば、チタンテトラクロライド、チタンテトラブロマイド、チタンテトラフルオライド等が挙げられる。
【0045】
(金属サルフェート)
金属サルフェートは、金属原子(M)とサルフェート(SO4)を有する化合物である。金属サルフェートを構成する金属原子(M)は、金属アルコキシドと同様である。金属サルフェートは、金属オキシ硫酸塩や水和物であってもよく、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。金属サルフェートとしては、例えば、チタンオキシサルフェート等が挙げられる。
【0046】
(金属アセチルアセトナート)
金属アセチルアセトナートは、金属原子とアセチルアセトナート(CH3COCHCOCH3、acac)を有する化合物である。金属アセチルアセトナートを構成する金属原子(M)は、金属アルコキシドと同様である。金属アセチルアセトナートは、金属オキシアセチルアセトナートであってもよく、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。金属アセチルアセトナートとしては、例えば、チタンオキシアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0047】
(アルコール可溶性ホスフィン化合物)
アルコール可溶性ホスフィン化合物は、リン原子に、同一または少なくとも一部が異なる3つの置換基が結合した化合物である。アルコール可溶性ホスフィン化合物は、リン原子を1つ含むものであっても、リン原子を複数含むものであってもよい。
【0048】
また、アルコール可溶性ホスフィン化合物は、アルコールに溶解できるものであればよい。例えば、アルコール可溶性ホスフィン化合物1gをアルコール中に入れ、20±5℃で5分ごとに30秒間振り混ぜて30分以内に溶解させるときに必要なアルコールの量が、10000mL未満であるものを用いることができ、1000mL未満であるものが好ましく、100mL未満であるものがより好ましい。
【0049】
アルコール可溶性ホスフィン化合物は、一般的に、リン原子に結合する置換基の少なくとも1つが、極性基を有する置換基である。極性基としては、カルボキシル基や、ヒドロキシ基、アルデヒド基等が挙げられる。これらの極性基は、後述する通り、アルキル基等を介してリン原子に結合することができる。
【0050】
アルコール可溶性ホスフィン化合物は、下記一般式(I)で表されることが好ましい。
【0051】
【化4】
【0052】
一般式(I)において、Pは3価のリン原子である。
【0053】
一般式(I)において、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であり、R1、R2、R3の少なくとも1つは、極性基を有するアルキル基、極性基を有するアリール基、または、極性基を有するヘテロアリール基である。
【0054】
1、R2、R3で表されるアルキル基は、炭素数1~8であることが好ましく、炭素数1~5であることがより好ましい。また、直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であっても、環状アルキル基(シクロアルキル基)であってもよい。アルキル基は置換基を有してもよく、置換基としては、アリール基やヘテロアリール基、極性基などが挙げられる。
【0055】
1、R2、R3で表されるアリール基は、炭素数6~20であることが好ましく、フェニル基や、ナフチル基等が挙げられる。アリール基は置換基を有してもよく、置換基としては、アルキル基やヘテロアリール基、極性基などが挙げられる。
【0056】
1、R2、R3で表されるヘテロアリール基は、炭素数3~20であることが好ましく、ピリジル基や、フリル基、チエニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基は置換基を有してもよく、置換基としては、アルキル基やアリール基、極性基などが挙げられる。
【0057】
1、R2、R3の少なくとも1つは、極性基を有するものである。R1、R2、R3の少なくとも1つは、カルボキシル基を有するアルキル基、カルボキシル基を有するアリール基、カルボキシル基を有するヘテロアリール基、ヒドロキシ基を有するアルキル基、ヒドロキシ基を有するアリール基、ヒドロキシ基を有するヘテロアリール基、アルデヒド基を有するアルキル基、アルデヒド基を有するアリール基、および、アルデヒド基を有するヘテロアリール基からなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0058】
一般式(I)において、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、または、置換もしくは無置換のアリール基であり、かつ、R1、R2、R3の少なくとも1つは、カルボキシル基を有するアルキル基、カルボキシル基を有するアリール基、ヒドロキシ基を有するアルキル基、ヒドロキシ基を有するアリール基、アルデヒド基を有するアルキル基、および、アルデヒド基を有するアリール基からなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0059】
また、一般式(I)において、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアリール基であり、かつ、R1、R2、R3の少なくとも1つは、カルボキシル基を有するアリール基、ヒドロキシ基を有するアリール基、および、アルデヒド基を有するアリール基からなる群から選択されるいずれかであることがより好ましい。
【0060】
アルコール可溶性ホスフィン化合物としては、例えば、ジフェニルホスフィノ安息香酸等が挙げられる。
【0061】
アルコール可溶性ホスフィン化合物と金属化合物との混合比率は、特に限定されず、光触媒体の用途や求める特性等に応じて適宜選択できる。金属化合物に対するアルコール可溶性ホスフィン化合物の割合が多すぎると、得られる金属酸化物に欠陥が多くなり、光触媒活性が低下することがあるため、金属化合物に対するアルコール可溶性ホスフィンのモル比(アルコール可溶性ホスフィンのモル数/金属化合物のモル数)は、0.15以下が好ましく、0.10以下がより好ましく、0.06以下がさらに好ましい。また、金属化合物に対するアルコール可溶性ホスフィン化合物の割合が少なすぎると、リンがドープされにくくなり、得られる金属酸化物における光触媒活性向上の効果が得られにくくなる。そのため、金属化合物に対するアルコール可溶性ホスフィンのモル比は、0.01以上が好ましく、0.015以上がより好ましく、0.02以上がさらに好ましい。
【0062】
(アルコール溶媒)
アルコール溶媒としては、炭素数1~8の1価アルコールが好ましく、炭素数1~5の1価アルコールがより好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられ、エタノールまたは2-プロパノールがより好ましい。
【0063】
アルコール溶媒は、市販のアルコールをそのまま用いることができる。アルコール溶媒は、純度が95質量%以上や98質量%以上の低純度のアルコールを用いてもよいし、実質的にアルコールからなる高純度のアルコールを用いてもよい。
【0064】
(混合)
混合順に特に限定はないが、アルコール溶媒へのアルコール可溶性ホスフィン化合物の溶解が不十分で懸濁状態の場合、反応が進みにくくなると考えられるため、アルコール可溶性ホスフィン化合物をアルコール溶媒に溶解させた後、金属化合物と混合することが好ましい。
【0065】
調製される混合液は、金属化合物と、アルコール可溶性ホスフィン化合物と、アルコール溶媒と、を含む。混合液に対する、金属化合物とアルコール可溶性ホスフィン化合物とアルコール溶媒との合計の質量比は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、混合液は、金属化合物、アルコール可溶性ホスフィン化合物およびアルコール溶媒以外のその他の成分を含んでもよい。混合液は、後述する通り、酸を含んでよい。また、その他の成分として、キレート剤などを含んでよい。例えば、金属元素によっては、その金属化合物(例えば、金属アルコキシド)の加水分解速度が大きいため、急激な反応を抑えるために、アセチルアセトン・酢酸のようなキレート剤を混合し、キレート剤の金属への配位による立体障害で加水分解速度を減少させてもよい。
【0066】
(酸)
工程(S2)で加水分解をより効率的に進行させるため、工程(S1)は、金属化合物とアルコール可溶性ホスフィン化合物とアルコール溶媒と酸を含む混合液を調製する工程とすることが好ましく、アルコール可溶性ホスフィン化合物と酸をアルコール溶媒に溶解させた後、金属化合物と混合することがより好ましい。
【0067】
また、酸を用いることで、金属とリンとの反応がより促進される。例えば、Ti化合物と、カルボキシ基等の極性基を有するアルコール可溶性ホスフィン化合物を用いるとき、酸を添加することで、「-COO-」から「-COOH」となって、チタンと結合しにくくなり、リンとチタンの結合が促進され、焼成後の化合物に関して吸収域の長波長シフトができると考えられる。
【0068】
中でも、金属化合物が金属アルコキシドを含むときは、金属化合物と、アルコール可溶性ホスフィン化合物と、アルコール溶媒と、酸とを混合し、混合液を調製することが好ましい。
【0069】
酸は、特に限定されるものではないが、例えば、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、フッ酸(HF)、ヨウ化水素酸(HI)等のハロゲン化水素酸、硝酸等の酸を用いることができる。
【0070】
酸の量は、特に限定されるものではなく、酸や金属化合物の種類、工程(S2)の加水分解の際の溶液の量等に応じて適宜調整すればよい。酸の量は、工程(S2)の加水分解の際の溶液の量に対して調整することが好ましい。工程(S2)の加水分解した溶液(水を混合した後の溶液)に対する酸の量は、0.00001mol/L以上が好ましく、0.0001mol/L以上、0.001mol/L以上、0.003mol/L以上の順に数値が大きい程より好ましい。また、工程(S2)の加水分解した溶液(水を混合した後の溶液)に対する酸の量は、10mol/L以下が好ましく、5mol/L、1mol/L、0.5mol/L以下の順に数値が小さい程より好ましい。
【0071】
なお、金属ハライドは、合成反応中に酸を生成することができるため、酸を別に添加することによる効果は小さい。そのため、金属化合物が金属ハライドを含むときは、酸を添加せずに、アルコール可溶性ホスフィン化合物をアルコール溶媒に溶解させた後、金属ハライドと混合し、混合液を調製することが好ましい。
【0072】
[工程(S2)]
工程(S2)は、工程(S1)で調製した混合液を加水分解して、リンドープ金属酸化物前駆体を得る工程である。
【0073】
工程(S2)では、加水分解時間等を考慮して、通常、混合液と水を混合して加水分解させる。工程(S1)で調製した混合液と混合する水の量は、金属化合物の種類等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、混合液中の金属化合物に対する水のモル比(水のモル数/混合液中の金属化合物のモル数)は、3倍以上や10倍以上、20倍以上、30倍以上などとすることができる。また、混合液中の金属化合物に対する水のモル比は、1000倍以下や500倍以下、100倍以下などとすることができる。
【0074】
加水分解の温度や時間は、金属化合物の種類や水の量等に応じて適宜調整され、特に限定されない。例えば、15~100℃や15~30℃などで加水分解を行うことができる。また、加水分解の時間は、例えば、10分~10時間や10分~8時間、15分~5時間などとすることができる。
【0075】
加水分解反応後、溶媒(混合液中のアルコール溶媒や、混合した水)を除去することで、リンドープ金属酸化物前駆体を得ることができる。溶媒の除去は公知の方法を採用することができる。例えば、加水分解後の混合液を加熱や、減圧、ろ過することで、溶媒を除去することができる。また、加水分解した後の溶液を中和し、ろ過するなどしてもよい。
【0076】
また、工程(S2)において、溶媒を除去後に、加熱乾燥させることが好ましい。これにより、ゲル化がさらに促進され、また、リンドープ源であるアルコール可溶性ホスフィン化合物が取り込まれ、工程(S3)において、効率的にリンがドープされる。加熱温度に特に限定はないが、水を蒸発させるために100℃よりも高い温度にすることが好ましく、例えば、105~150℃や110~120℃などとすることができる。また、加熱時間も特に限定はなく、1~10時間や、1~5時間などとすることができる。
【0077】
[工程(S3)]
工程(S2)で得られたリンドープ金属酸化物前駆体を焼成する工程である。工程(S2)で得たリンドープ金属酸化物前駆体を焼成することで、リンドープ金属酸化物の結晶を得ることができる。得られたリンドープ金属酸化物は、金属酸化物光触媒体として用いることができる。
【0078】
焼成温度(加熱結晶化温度)や焼成時間(加熱結晶化時間)は、リンドープ金属酸化物前駆体が加熱結晶化される限り、特に限定されるものでない。焼成温度や時間を調整することによって、光触媒体の特性(光触媒活性、表面積等)を制御することができる。焼成温度は、例えば、100℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。また、焼成温度は、1000℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましい。焼成時間は、例えば、10分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上がより好ましい。また、焼成時間は、5時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。
【0079】
[工程(S4)]
また、本発明の製造方法は、工程(S3)で得られたリンドープ金属酸化物と、前記リンドープ金属酸化物とは異なる金属酸化物(別の金属酸化物)とを混合して、焼成する工程(S4)を有してもよい。これにより、2種以上の金属を含む複合酸化物の光触媒体を得ることができる。工程(S4)における焼成の温度は、400℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましい。また、工程(S4)における焼成の温度の上限は1300℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましい。
【0080】
例えば、工程(S1)における金属化合物として、Ti、Ta、Zn、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Cd、Hf、およびWからなる群から選択されるいずれかの金属化合物を用い、工程(S4)における別の金属酸化物として、Na酸化物、Ca酸化物、Sr酸化物、Ba酸化物およびLa酸化物からなる群から選択されるいずれかを用いることができる。また、工程(S1)における金属化合物として、Na、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択されるいずれかの金属化合物を用い、工程(S4)における別の金属酸化物として、Ti酸化物、Ta酸化物、Zn酸化物、V酸化物、Cu酸化物、Y酸化物、Zr酸化物、Nb酸化物、Mo酸化物、Ag酸化物、Cd酸化物、Hf酸化物、およびW酸化物からなる群から選択されるいずれかを用いることができる。
【0081】
より具体的には、工程(S1)の金属化合物としてTiの金属化合物を用い、工程(S3)でリンドープTi酸化物を得た後、工程(S4)においてリンドープTi酸化物とSr酸化物と混合して、焼成することで、ペロブスカイト酸化物の一つであるSrTiO3を得ることができる。なお、上記の通り、工程(S1)において、Tiの金属化合物とSrの金属酸化物を用いる方法でもSrTiO3を得ることができる。
【0082】
また、工程(S3)で得られたリンドープ金属酸化物の金属に対して、助触媒となる金属源を数%程度となるように用いることで、リンドープ金属酸化物の表面や内部に、助触媒となる金属イオンやその酸化物が担持された金属酸化物光触媒体を得ることができる。
【0083】
[金属酸化物光触媒体]
本発明の製造方法により得られる金属酸化物光触媒体は、例えば、リンドープTi酸化物、リンドープTa酸化物、リンドープZn酸化物、リンドープGa酸化物、リンドープGe酸化物、リンドープV酸化物、リンドープCu酸化物、リンドープY酸化物、リンドープZr酸化物、リンドープNb酸化物、リンドープMo酸化物、Ag酸化物、リンドープCd酸化物、リンドープIn酸化物、リンドープSn酸化物、リンドープSb酸化物、リンドープHf酸化物、リンドープW酸化物、リンドープPb酸化物、リンドープBi酸化物、リンドープCe酸化物、リンドープPr酸化物などである。
【0084】
また、本発明の製造方法により、ペロブスカイト構造のリンドープ金属酸化物光触媒体を得ることもできる。なお、ペロブスカイト酸化物とは、一般的に、ABO3(Aは、希土類、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、Bは遷移金属である)に近い組成式で表されるものであり、SrTiO3、LaTiO3、La2Ti27、NaTaO3、Ba5Ta415、NaNbO3、CaNbO3などが知られている。本発明の製造方法により、リンドープSrTiO3、リンドープLaTiO3、リンドープLa2Ti27、リンドープNaTaO3、リンドープBa5Ta415、リンドープNaNbO3、リンドープCaNbO3などを得ることもできる。
【0085】
また、助触媒となる金属のイオンやその酸化物が、リンドープ金属酸化物の表面や内部に担持された金属酸化物光触媒体を得ることができる。例えば、Cr、V、Fe、Ru、Rh、Zn、Pt、Ni、Cu、Pd、Ag、およびAuからなる群から選択される1種以上のイオンやその酸化物が、リンドープ金属酸化物の表面や内部に担持された金属酸化物光触媒体を得ることができる。
【0086】
本発明の製造方法により得られるリンドープ金属錯体光触媒体は、未ドープの光触媒体本来の吸収する光領域ばかりではなく、より長波長領域においても吸収を示し、新たな吸収域でも優れた光触媒機能をもつ。例えば、リンドープ酸化チタンは、リンがドープされていない未ドープの酸化チタンに比べて、紫外光領域(360nm~400nm)だけでなく、400nm~500nmの可視光領域を含むより広い領域(360~600nm)の吸光度も大きい。そのため、可視光領域の光の利用効率も高いものとなる。リン酸ドープ酸化亜鉛についても、同様に、可視光領域の光の利用効率の向上が期待できる。
【0087】
一般に、光触媒体を用いて有害物質を分解するには、バンドギャップ以上の光が必要である。本発明の製造方法で得られるリンドープ金属酸化物光触媒体は、金属によっては、紫外光のほかに可視光も利用することができるので、ブラックライト、ハロゲンランプ、水銀灯のほか、キセノンランプ、タングステンランプ、蛍光灯、太陽光などを用いることもできる。
【0088】
リンドープ金属酸化物光触媒体は、必要に応じて、溶液(水や水-有機混合溶媒)中に懸濁した状態や、プラスチック、ガラス、金属、陶器、紙、布などの表面に保持された状態で用いることができる。さらに、リンドープ金属酸化物光触媒体は、酸化チタン、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム等の公知の光触媒体の1種もしくは複数種と組み合わせて用いることもできる。
【実施例0089】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
金属化合物としてチタンテトライソプロポキシド(Tiアルコキシド)を用い、アルコール可溶性ホスフィン化合物として4-ジフェニルホスフィノ安息香酸を用い、アルコール溶媒として2-プロパノールを用いた。なお、4-ジフェニルホスフィノ安息香酸の溶解性について調べたところ、4-ジフェニルホスフィノ安息香酸1gに対して、20±5℃で5分ごとに30秒間振り混ぜて30分以内に溶解させるときに必要な2-プロパノールの量は約50mLであった。
【0091】
[工程(S1)]
4-ジフェニルホスフィノ安息香酸0.0002molと塩酸1mLを2-プロパノール3mLに溶かしたものと、チタンテトライソプロポキシド0.01molを2-プロパノール1mLに溶かしたものを混合し15分間撹拌した。なお、塩酸の量は、工程(S2)で超純水5mLを加えたあとの液に対して、0.003mol/Lになるように2-プロパノールで調製した。
【0092】
[工程(S2)]
工程(S1)の後、撹拌させながら超純水5mLを一滴ずつ滴下した。超純水を滴下後さらに15分間撹拌した。得られた懸濁液よりエバポレーションで溶液を留去してから超純水を入れ振って洗浄した。液を留去して回収後、110℃で3時間乾燥した。
【0093】
[工程(S3)]
乾燥した粉末を電気炉に入れ、窒素ガスを流しながら475℃で2時間焼成した。焼成後薄黄色の粉末(試料A)が得られた。
【0094】
[吸収スペクトルの評価]
UV-vis spectrophotometer V-570(日本分光製)を用いて、得られた試料Aの吸収スペクトルを測定した。固体試料の反射測定から吸収スペクトル(図1)を求めたところ、市販のアナターゼ型酸化チタンST01(石原産業製)の吸収が400nm以下の紫外光を吸収するのに対し、リンをドープした試料Aは紫外光のほかに400nm以上の可視光も広い波長域で吸収することがわかった。
【0095】
[光触媒活性の評価]
実施例1で得られた試料Aおよび市販のアナターゼ型酸化チタンST01(石原産業製)の光触媒活性を以下の方法で比較した。
光触媒体90mgをメチレンブルー10μM水溶液100mLに加えた。マグネチックスターラーで攪拌しながら、この溶液に可視光(420~600nm)を照射した。可視光の波長域は、500ワットキセノンランプ(ウシオ電機製)とY-45フィルター(東芝製)と硫酸銅水溶液を組み合わせて選択した。所定時間ごとに溶液から一定量を採取し、遠心分離後、上澄み液をHPLC(検出波長:620nm)で測定した。その結果、ST01溶液と比べて、試料Aの溶液ではメチレンブルー量が明確に減少した(図2)うえ、反応生成物であるアズールBが顕著に検出された(図3)ので、試料A(リンドープ酸化チタン)が可視光下光触媒活性を有すことがわかった。
【0096】
<実施例2>
金属化合物としてペンタエトキシタンタル(Taアルコキシド)を用い、アルコール可溶性ホスフィン化合物として4-ジフェニルホスフィノ安息香酸を用い、アルコール溶媒として2-プロパノールを用いた。
【0097】
[工程(S1)]
4-ジフェニルホスフィノ安息香酸0.00008molと塩酸1mLを2-プロパノール1mLに溶かしたものと、ペンタエトキシタンタル0.004molを2-プロパノール18mLに溶かしたものを混合し15分間撹拌した。なお、塩酸の量は水を加えたあとの液に対して、0.01mol/Lになるように2-プロパノールで調製した。
【0098】
[工程(S2)]
その後撹拌させながら超純水5mLを一滴ずつ滴下した。超純水を滴下後さらに2時間撹拌した。得られた懸濁液をろ過してから、ろうとの上から数回超純水を入れ洗浄した。回収後、110℃で3時間乾燥した。
【0099】
[工程(S3)]
乾燥した粉末を電気炉に入れ、窒素ガスを流しながら700℃で2時間焼成した。焼成後灰色の粉末(試料B)が得られた。
【0100】
[吸収スペクトルの評価]
UV-vis spectrophotometer V-570(日本分光製)を用いて、得られた試料Bの吸収スペクトルを測定した。固体試料の反射測定から吸収スペクトル(図4)を求めたところ、市販のTa25(純正化学製)の吸収に対し、試料Bはより長波長の光を吸収することがわかった。
【0101】
[光触媒活性の評価]
実施例2で得られた試料Bおよび市販の酸化タンタルTa25(純正化学製)の光触媒活性を以下の方法で比較した。
光触媒体90mgをメチレンブルー10μM水溶液100mLに加えた。マグネチックスターラーで攪拌しながら、この溶液に可視光(400~600nm)を照射した。可視光の波長域は、500ワットキセノンランプ(ウシオ電機製)とY-43フィルター(東芝製)と硫酸銅水溶液を組み合わせて選択した。所定時間ごとに溶液から一定量を採取し、遠心分離後、上澄み液をHPLC(検出波長:620nm)で測定した。その結果、Ta25溶液と比べて、試料Bの溶液ではメチレンブルー量が明確に減少した(図5)。
【0102】
<実施例3>
金属化合物として塩化チタン(Tiハライド)を用い、アルコール可溶性ホスフィン化合物として4-ジフェニルホスフィノ安息香酸を用い、アルコール溶媒として2-プロパノールを用いた。
【0103】
[工程(S1)]
4-ジフェニルホスフィノ安息香酸0.0002molを2-プロパノール3mLに溶かしたものに、塩化チタン0.01molを加え15分間撹拌した。
【0104】
[工程(S2)]
その後撹拌させながら超純水10mLを一滴ずつ滴下しさらに15分間撹拌した。液にNaOH1mol/L水溶液を加えていき、液がpH試験紙でpH5になったことを確認後、沈殿物をろ過した。ろうとの上から超純水を繰り返し流して洗浄した。ろ液に硝酸銀を入れ白く濁らない状態になったら洗浄をやめた。白く濁るのは塩化銀生成のため、白く濁らなくなったとき固体から塩素を十分に流し出し終えたと判断できる。固体を回収後、110℃で3時間乾燥した。
【0105】
[工程(S2)]
乾燥した粉末を電気炉に入れ、窒素ガスを流しながら475℃で2時間焼成した。焼成後薄黄色の粉末(試料C)が得られた。
【0106】
[吸収スペクトルの評価]
UV-vis spectrophotometer V-570(日本分光製)を用いて、得られた試料Cの吸収スペクトルを測定した。固体試料の反射測定から吸収スペクトル(図6)を求めたところ、市販のアナターゼ型酸化チタンST01(石原産業製)の吸収が400nm以下の紫外光を吸収するのに対し、リンをドープした試料Cは紫外光のほかに400nm以上の可視光も広い波長域で吸収することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の製造方法によれば、未ドープのものより長波長の光を吸収して反応するリンドープ金属酸化物光触媒体を簡単に製造することができ、産業上有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6