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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187213
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】熱処理方法および熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20220101AFI20221212BHJP
   H01L 21/26 20060101ALI20221212BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G01J5/00 101C
H01L21/26 T
H01L21/26 J
H01L21/26 G
H01L21/265 602B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095107
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】戸部 龍太
(72)【発明者】
【氏名】北澤 貴宏
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AC01
2G066AC20
2G066BA08
2G066BC07
(57)【要約】
【課題】簡易な構成でフラッシュ光照射時の基板の温度を測定することができる熱処理方法および熱処理装置を提供する。
【解決手段】温度測定の対象となる半導体ウェハーの斜め上方に上部放射温度計25が設けられる。上部放射温度計25は、光を受光したときに起電力を発生させる光起電力素子28を備える。光起電力素子28は、高速応答性と低周波域における良好なノイズ特性とを併せ持つ。光起電力素子28は冷却することなく常温でも十分な感度を得ることができるため、上部放射温度計25には冷却のための機構が不要である。上部放射温度計25には、光チョッパを設ける必要がなく、微分回路を設ける必要もないため、上部放射温度計25は、簡易な構成でハロゲンランプによる予備加熱時およびフラッシュ光照射時の双方において半導体ウェハーの表面温度を測定することができる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法であって、
チャンバー内に基板を収容する収容工程と、
連続点灯ランプからの光照射によって前記基板を予備加熱する予備加熱工程と、
前記基板の表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、
を備え、
光起電力素子を備えた第1放射温度計によって前記基板の温度を測定することを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理方法において、
前記予備加熱工程の実行中に、前記基板の表面の温度を前記第1放射温度計によって測定するとともに前記基板の裏面の温度を放射率校正済みの第2放射温度計によって測定し、前記第2放射温度計によって測定された前記基板の温度に基づいて前記第1放射温度計に設定された放射率を校正することを特徴とする熱処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の熱処理方法において、
前記第1放射温度計は、
第1のサンプリング間隔にてデータ取得を行う第1測定モードと、
前記第1のサンプリング間隔よりも短い第2のサンプリング間隔にてデータ取得を行う第2測定モードと、
を並列して実行して前記基板の温度を測定することを特徴とする熱処理方法。
【請求項4】
請求項3記載の熱処理方法において、
前記第2測定モードにて取得されたデータのうち、データの値が所定の閾値に到達した時点の前後にわたる一定期間に取得されたデータを温度変換することを特徴とする熱処理方法。
【請求項5】
請求項4記載の熱処理方法において、
前記第1測定モードにて取得された全てのデータを温度変換することを特徴とする熱処理方法。
【請求項6】
請求項5記載の熱処理方法において、
前記第1測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値に前記第2測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値を補間して表示部に表示することを特徴とする熱処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記光起電力素子から出力された信号に対してデジタルフィルタを用いた処理を行うことを特徴とする熱処理方法。
【請求項8】
請求項7記載の熱処理方法において、
前記予備加熱工程と前記フラッシュ加熱工程とでは異なるデジタルフィルタを用いることを特徴とする熱処理方法。
【請求項9】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処置装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、
前記基板の表面にフラッシュ光を照射して前記基板をフラッシュ加熱するフラッシュランプと、
光起電力素子を備えて前記基板の温度を測定する第1放射温度計と、
を備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項10】
請求項9記載の熱処理装置において、
前記基板の温度を測定する第2放射温度計をさらに備え、
前記予備加熱の実行中に、前記第1放射温度計が前記基板の表面の温度を測定するとともに放射率校正済みの前記第2放射温度計が前記基板の裏面の温度を測定し、前記第2放射温度計によって測定された前記基板の温度に基づいて前記第1放射温度計に設定された放射率を校正することを特徴とする熱処理装置。
【請求項11】
請求項9または請求項10記載の熱処理装置において、
前記第1放射温度計は、
第1のサンプリング間隔にてデータ取得を行う第1測定モードと、
前記第1のサンプリング間隔よりも短い第2のサンプリング間隔にてデータ取得を行う第2測定モードと、
を並列して実行して前記基板の温度を測定することを特徴とする熱処理装置。
【請求項12】
請求項11記載の熱処理装置において、
前記第2測定モードにて取得されたデータのうち、データの値が所定の閾値に到達した時点の前後にわたる一定期間に取得されたデータを温度変換する温度変換部をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項13】
請求項12記載の熱処理装置において、
前記温度変換部は、前記第1測定モードにて取得された全てのデータを温度変換することを特徴とする熱処理装置。
【請求項14】
請求項13記載の熱処理装置において、
前記第1測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値に前記第2測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値を補間して表示する表示部をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項15】
請求項9から請求項14のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記光起電力素子から出力された信号に対してデジタルフィルタを用いた処理を行うことを特徴とする熱処理装置。
【請求項16】
請求項15記載の熱処理装置において、
前記予備加熱と前記フラッシュ加熱とでは異なるデジタルフィルタを用いることを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハー等の薄板状精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法および熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するフラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0003】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。
【0004】
このようなフラッシュランプアニールは、極短時間の加熱が必要とされる処理、例えば典型的には半導体ウェハーに注入された不純物の活性化に利用される。イオン注入法によって不純物が注入された半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射すれば、当該半導体ウェハーの表面を極短時間だけ活性化温度にまで昇温することができ、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
フラッシュランプアニールに限らず、半導体ウェハーの熱処理においては、ウェハー温度の管理が重要であり、そのためには熱処理中の半導体ウェハーの温度を正確に測定する必要がある。特に、フラッシュランプアニールでは、フラッシュ光照射時に急激に変化する半導体ウェハーの表面温度を正確に測定することが重要となる。特許文献1には、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーの表面温度を放射温度計によって測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-238779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サーモパイルのような熱型検出素子では、フラッシュ光照射時に急激に昇降する半導体ウェハーの表面温度の温度変化に追従できないため、従来よりフラッシュ光が照射される半導体ウェハーの表面温度を測定する放射温度計は量子型検出素子である光導電型素子を備えている。しかし、光導電型素子は、低周波域のSN比が悪く、かつ、高感度を得るために氷点下(例えば、-25℃)に冷却することが必要である。光導電型素子を氷点下にまで冷却しても素子を収容する温度計筐体は室温であるため、放射温度計全体としての熱バランスは悪くなる。このため、温度計筐体からの背景光と測定光とを分離するための光チョッパを設ける必要があるが、そうすると温度測定システムが大型化および複雑化することとなる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成でフラッシュ光照射時の基板の温度を測定することができる熱処理方法および熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、チャンバー内に基板を収容する収容工程と、連続点灯ランプからの光照射によって前記基板を予備加熱する予備加熱工程と、前記基板の表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、を備え、光起電力素子を備えた第1放射温度計によって前記基板の温度を測定することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理方法において、前記予備加熱工程の実行中に、前記基板の表面の温度を前記第1放射温度計によって測定するとともに前記基板の裏面の温度を放射率校正済みの第2放射温度計によって測定し、前記第2放射温度計によって測定された前記基板の温度に基づいて前記第1放射温度計に設定された放射率を校正することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る熱処理方法において、前記第1放射温度計は、第1のサンプリング間隔にてデータ取得を行う第1測定モードと、前記第1のサンプリング間隔よりも短い第2のサンプリング間隔にてデータ取得を行う第2測定モードと、を並列して実行して前記基板の温度を測定することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明に係る熱処理方法において、前記第2測定モードにて取得されたデータのうち、データの値が所定の閾値に到達した時点の前後にわたる一定期間に取得されたデータを温度変換することを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項4の発明に係る熱処理方法において、前記第1測定モードにて取得された全てのデータを温度変換することを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項5の発明に係る熱処理方法において、前記第1測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値に前記第2測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値を補間して表示部に表示することを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項1から請求項6のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記光起電力素子から出力された信号に対してデジタルフィルタを用いた処理を行うことを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項7の発明に係る熱処理方法において、前記予備加熱工程と前記フラッシュ加熱工程とでは異なるデジタルフィルタを用いることを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処置装置において、基板を収容するチャンバーと、前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、前記基板の表面にフラッシュ光を照射して前記基板をフラッシュ加熱するフラッシュランプと、光起電力素子を備えて前記基板の温度を測定する第1放射温度計と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項10の発明は、請求項9の発明に係る熱処理装置において、前記基板の温度を測定する第2放射温度計をさらに備え、前記予備加熱の実行中に、前記第1放射温度計が前記基板の表面の温度を測定するとともに放射率校正済みの前記第2放射温度計が前記基板の裏面の温度を測定し、前記第2放射温度計によって測定された前記基板の温度に基づいて前記第1放射温度計に設定された放射率を校正することを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、請求項9または請求項10の発明に係る熱処理装置において、前記第1放射温度計は、第1のサンプリング間隔にてデータ取得を行う第1測定モードと、前記第1のサンプリング間隔よりも短い第2のサンプリング間隔にてデータ取得を行う第2測定モードと、を並列して実行して前記基板の温度を測定することを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、請求項11の発明に係る熱処理装置において、前記第2測定モードにて取得されたデータのうち、データの値が所定の閾値に到達した時点の前後にわたる一定期間に取得されたデータを温度変換する温度変換部をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
また、請求項13の発明は、請求項12の発明に係る熱処理装置において、前記温度変換部は、前記第1測定モードにて取得された全てのデータを温度変換することを特徴とする。
【0022】
また、請求項14の発明は、請求項13の発明に係る熱処理装置において、前記第1測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値に前記第2測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値を補間して表示する表示部をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
また、請求項15の発明は、請求項9から請求項14のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記光起電力素子から出力された信号に対してデジタルフィルタを用いた処理を行うことを特徴とする。
【0024】
また、請求項16の発明は、請求項15の発明に係る熱処理装置において、前記予備加熱と前記フラッシュ加熱とでは異なるデジタルフィルタを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1から請求項8の発明によれば、光起電力素子を備えた第1放射温度計によって基板の温度を測定するため、光起電力素子には光チョッパを設ける必要がなく、簡易な構成でフラッシュ光照射時の基板の温度を測定することができる。
【0026】
特に、請求項3の発明によれば、第1放射温度計は、第1のサンプリング間隔および第2のサンプリング間隔にてデータ取得を行うため、予備加熱工程およびフラッシュ加熱工程の双方にて適切にデータ取得を行うことができる。
【0027】
特に、請求項6の発明によれば、第1測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値に第2測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値を補間して表示部に表示するため、予備加熱工程からフラッシュ加熱工程にかけての基板の温度変化を高精度に描くことができる。
【0028】
特に、請求項7の発明によれば、光起電力素子から出力された信号に対してデジタルフィルタを用いた処理を行うため、予備加熱工程およびフラッシュ加熱工程の双方で共通のハードウェアによって信号処理を行うことができる。
【0029】
請求項9から請求項16の発明によれば、光起電力素子を備えて基板の温度を測定する第1放射温度計を備えるため、光起電力素子には光チョッパを設ける必要がなく、簡易な構成でフラッシュ光照射時の基板の温度を測定することができる。
【0030】
特に、請求項11の発明によれば、第1放射温度計は、第1のサンプリング間隔および第2のサンプリング間隔にてデータ取得を行うため、予備加熱およびフラッシュ加熱の双方にて適切にデータ取得を行うことができる。
【0031】
特に、請求項14の発明によれば、第1測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値に第2測定モードにて取得されたデータを温度変換した温度値を補間して表示する表示部を備えるため、予備加熱からフラッシュ加熱にかけての基板の温度変化を高精度に描くことができる。
【0032】
特に、請求項15の発明によれば、光起電力素子から出力された信号に対してデジタルフィルタを用いた処理を行うため、予備加熱およびフラッシュ加熱の双方で共通のハードウェアによって信号処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係る熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
図2】保持部の全体外観を示す斜視図である。
図3】サセプタの平面図である。
図4】サセプタの断面図である。
図5】移載機構の平面図である。
図6】移載機構の側面図である。
図7】複数のハロゲンランプの配置を示す平面図である。
図8】上部放射温度計および下部放射温度計の機能ブロック図である。
図9図1の熱処理装置における処理動作の手順を示すフローチャートである。
図10】短周期モードにて取得されたデータからの一部抽出を説明するための図である。
図11】表示部に表示された温度プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである(本実施形態ではφ300mm)。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0036】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0037】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0038】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0039】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0040】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0041】
さらに、チャンバー側部61には、貫通孔61aおよび貫通孔61bが穿設されている。貫通孔61aは、後述するサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの上面から放射された赤外光を上部放射温度計25の赤外線センサー29に導くための円筒状の孔である。一方、貫通孔61bは、半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を下部放射温度計20の赤外線センサー24に導くための円筒状の孔である。貫通孔61aおよび貫通孔61bは、それらの貫通方向の軸がサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの主面と交わるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。貫通孔61aの熱処理空間65に臨む側の端部には、上部放射温度計25が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化カルシウム材料からなる透明窓26が装着されている。また、貫通孔61bの熱処理空間65に臨む側の端部には、下部放射温度計20が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化バリウム材料からなる透明窓21が装着されている。
【0042】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は処理ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、処理ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。処理ガスとしては、例えば窒素(N)等の不活性ガス、または、水素(H)、アンモニア(NH)等の反応性ガス、或いはそれらを混合した混合ガスを用いることができる(本実施形態では窒素ガス)。
【0043】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、処理ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0044】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0045】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0046】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0047】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。図3は、サセプタ74の平面図である。また、図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0048】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0049】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0050】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0051】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0052】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0053】
また、図2および図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、下部放射温度計20が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、下部放射温度計20が開口部78およびチャンバー側部61の貫通孔61bに装着された透明窓21を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して当該半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0054】
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0055】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0056】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0057】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0058】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0059】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0060】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0061】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0062】
また、図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0063】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0064】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0065】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0066】
図1に示すように、チャンバー6には、上部放射温度計(第1放射温度計)25および下部放射温度計(第2放射温度計)20の2つの放射温度計が設けられている。図8は、上部放射温度計25および下部放射温度計20の機能ブロック図である。上部放射温度計25は、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの斜め上方に設置され、当該半導体ウェハーWの上面の温度を測定する。上部放射温度計25は、赤外線センサー29および温度測定ユニット27を備える。赤外線センサー29は、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの上面から放射された赤外光を受光する。上部放射温度計25の赤外線センサー29は、フラッシュ光が照射された瞬間の半導体ウェハーWの上面の急激な温度変化に対応できるように、光起電力素子28を内蔵している。光起電力素子28は、光を受光したときに光電効果によって起電力を発生させる素子であり、例えばInSb(インジウムアンチモン)にて形成されている。光起電力素子28は、受光する赤外光の発光体の温度が高くなるほど高い起電力を発生させる。
【0067】
従来の光導電型素子では特に低周波域でのSN比が悪かったのに対して、光起電力素子28は低周波域でも良好な雑音特性を示す。すなわち、光起電力素子28を採用した上部放射温度計25は、高速応答性と低周波域における良好なノイズ特性とを併せ持つ。また、光導電型素子は高感度を得るために氷点下への冷却を必要としていたが、赤外線センサー29が(図1に示すように)チャンバー側部61に設けられることから、光導電型素子の周辺の温度が熱処理を実行させることで上昇し、光導電型素子の冷却が不十分な場合があった。光導電型素子の冷却が不十分だと、上部放射温度計25が半導体ウェハーWの上面の温度を測定できなくなり、熱処理装置1が稼働できなくなる場合もあった。これに対し、光起電力素子28には冷却することなく常温(10~60℃)でも十分な感度を得ることができる素子がある。このため、常温でも駆動する光起電力素子28を備えた上部放射温度計25においては全体が概ね常温で良好な熱バランスを維持しており、従来の光導電型素子に比較してゼロ点ドリフトを最小限に抑制することができ、光チョッパを設ける必要がなくなる。また、常温駆動する光起電力素子28は、冷却のためのペルチェ素子や冷却にともなう結露を防止するための機構が不要であるため、チップ化して小型化することが可能である。その結果、光起電力素子28を採用した上部放射温度計25の大型化および複雑化を抑制することができる。このことは、設置空間に制限の多いフラッシュランプアニール装置に上部放射温度計25を搭載するのに有利となる。
【0068】
温度測定ユニット27は、増幅回路101、A/Dコンバータ102、温度変換部103、プロファイル作成部105および記憶部107を備える。赤外線センサー29が半導体ウェハーWから放射された赤外光を受光することによって光起電力素子28に生じた起電力の信号は増幅回路101に出力される。増幅回路101は、赤外線センサー29から出力された起電力信号を増幅してA/Dコンバータ102に伝達する。A/Dコンバータ102は、増幅回路101によって増幅された起電力信号をデジタル信号に変換する。
【0069】
温度変換部103およびプロファイル作成部105は、温度測定ユニット27に搭載されたCPU(図示省略)が所定の処理プログラムを実行することによって実現される機能処理部である。温度変換部103は、A/Dコンバータ102から出力された信号、つまり赤外線センサー29が受光した赤外光の強度を示す信号に所定の演算処理を行って温度に変換する。温度変換部103によって求められた温度が半導体ウェハーWの上面の温度である。
【0070】
また、プロファイル作成部105は、温度変換部103によって取得された温度データを順次に記憶部107に蓄積することによって、半導体ウェハーWの上面の温度の時間変化を示す温度プロファイル108を作成する。記憶部107としては、磁気ディスクやメモリ等の公知の記憶媒体を用いることができる。なお、温度プロファイルの作成については後にさらに詳述する。
【0071】
一方、下部放射温度計20は、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの斜め下方に設けられ、当該半導体ウェハーWの下面の温度を測定する。下部放射温度計20は、赤外線センサー24および温度測定ユニット22を備える。赤外線センサー24は、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から開口部78を介して放射された赤外光を受光する。下部放射温度計20の赤外線センサー24は、上部放射温度計25のような高速測定に対応していなくても良いため、受光素子として例えばサーモパイルを備える。赤外線センサー24は、受光に応答して生じた信号を温度測定ユニット22に出力する。温度測定ユニット22は、図示を省略するA/Dコンバータおよび温度変換回路等を備えており、赤外線センサー24から出力された赤外光の強度を示す信号を温度に変換する。温度測定ユニット22によって求められた温度が半導体ウェハーWの下面の温度である。
【0072】
下部放射温度計20および上部放射温度計25は、熱処理装置1全体のコントローラである制御部3と電気的に接続されており、下部放射温度計20および上部放射温度計25によってそれぞれ測定された半導体ウェハーWの下面および上面の温度は制御部3に伝達される。制御部3は、熱処理装置1に設けられた種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0073】
また、制御部3には表示部34および入力部33が接続されている。制御部3は、表示部34に種々の情報を表示する。熱処理装置1のオペレータは、表示部34に表示された情報を確認しつつ、入力部33から種々のコマンドやパラメータを入力することができる。入力部33としては、例えばキーボードやマウスを用いることができる。表示部34としては、例えば液晶ディスプレイを用いることができる。本実施形態においては、表示部34および入力部33として、熱処理装置1の外壁に設けられた液晶のタッチパネルを採用して双方の機能を併せ持たせるようにしている。
【0074】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0075】
次に、熱処理装置1における処理動作について説明する。図9は、熱処理装置1における処理動作の手順を示すフローチャートである。以下に説明する半導体ウェハーWの処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0076】
まず、半導体ウェハーWの処理に先立って給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0077】
また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。なお、熱処理装置1における半導体ウェハーWの熱処理時には窒素ガスが熱処理空間65に継続的に供給されており、その供給量は処理工程に応じて適宜変更される。
【0078】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される(ステップS1)。このときには、半導体ウェハーWの搬入にともなって装置外部の雰囲気を巻き込むおそれがあるが、チャンバー6には窒素ガスが供給され続けているため、搬送開口部66から窒素ガスが流出して、そのような外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0079】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0080】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、被処理面である表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0081】
半導体ウェハーWが石英にて形成された保持部7のサセプタ74によって水平姿勢にて下方より保持された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される(ステップS2)。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの下面に照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0082】
ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度は下部放射温度計20によって測定される。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、下部放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。下部放射温度計20は、半導体ウェハーWの予備加熱時にハロゲンランプHLの出力を制御するための制御用温度センサーとしての役割を有する。
【0083】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、下部放射温度計20によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0084】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。
【0085】
予備加熱が実行されて半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に維持されている間に、上部放射温度計25の放射率校正が実行される(ステップS3)。上部放射温度計25の放射率校正は下部放射温度計20の温度測定値に基づいて実行される。予め、下部放射温度計20の放射率は正確に校正されている。下部放射温度計20の放射率校正は例えば熱電対付きウェハーを用いて行われる。具体的には、熱電対付きウェハーをハロゲンランプHLからの光照射によって一定温度に加熱しつつ、その熱電対付きウェハーの表面温度を熱電対によって測定するとともに裏面の温度を下部放射温度計20によって測定する。そして、下部放射温度計20によって測定された温度が熱電対によって測定された温度と一致するように、下部放射温度計20の放射率が校正される。このようにして正確に校正された放射率が下部放射温度計20に設定される。
【0086】
予備加熱中に半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に維持されているときに、半導体ウェハーWの表面の温度を上部放射温度計25によって測定するとともに、半導体ウェハーWの裏面の温度を下部放射温度計20によって測定する。予備加熱段階では、半導体ウェハーWの表裏面に温度差が生じることはなく、表面温度と裏面温度とは一致している。従って、上部放射温度計25によって測定された半導体ウェハーWの表面温度が下部放射温度計20によって測定された裏面温度と一致するように、上部放射温度計25の放射率が校正される。そして、校正された放射率が上部放射温度計25に設定される。これにより、処理対象となっている半導体ウェハーWの表面の放射率が上部放射温度計25に設定されることとなり、上部放射温度計25に設定された放射率を正確に校正することができる。
【0087】
上部放射温度計25の放射率校正が完了した後、上部放射温度計25による温度測定が開始される(ステップS4)。上部放射温度計25は、半導体ウェハーWの表面から放射された赤外光を受光し、当該表面の温度を測定する。本実施形態の上部放射温度計25は、長周期モード(第1測定モード)および短周期モード(第2測定モード)の2つのサンプリングレート(サンプリング間隔)のモードにてデータ取得を行う。データ取得とは、上部放射温度計25の赤外線センサー29が光起電力素子28に生じた起電力の信号を取得することである。長周期モードでは、例えば50ミリセカンド(20Hz)のサンプリングレートにてデータ取得を行う。一方、短周期モードでは、長周期モードでのサンプリングレートよりも短いサンプリングレート、例えば0.04ミリセカンド(25kHz)のサンプリングレートにてデータ取得を行う。上部放射温度計25は、これら長周期モードと短周期モードとを並列して実行する。すなわち、上部放射温度計25は、0.04ミリセカンドのサンプリングレートでデータ取得を行いつつ、50ミリセカンドのサンプリングレートでもデータ取得を行うのである。
【0088】
2つのモードのうち、長周期モードにて50ミリセカンドのサンプリングレートで取得されたデータ(起電力の信号)については全て温度変換部103にて温度値に逐次変換される。一方、短周期モードにて0.04ミリセカンドのサンプリングレートで取得されたデータについては、サンプリングレートが極めて短いため、全てを温度変換部103にて温度値に逐次変換することは処理が追いつかない。このため、短周期モードにて取得されたデータについては一旦温度測定ユニット27の記憶部107等に格納し、それらの一部を抽出して温度変換部103が温度値に変換するのであるが、これについてはさらに後述する。
【0089】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時点でフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う(ステップS5)。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0090】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃以上の処理温度T2まで上昇した後、急速に下降する。
【0091】
予備加熱からフラッシュ加熱にかけて継続して上部放射温度計25による半導体ウェハーWの表面温度の測定が行われている。予備加熱段階では、ハロゲンランプHLによる半導体ウェハーWの昇温レートはフラッシュ加熱の昇温レートに比較して顕著に小さく、半導体ウェハーWの表面温度の変化も緩やかであるため、長周期モードによる温度測定が好適である。これに対して、フラッシュ加熱時には、半導体ウェハーWの表面温度が瞬間的に急激に上昇するため、長周期モードでは表面温度の最高到達温度を捉えられない可能性もあり、短周期モードによる温度測定が好適である。
【0092】
上述したように、上部放射温度計25は、長周期モードと短周期モードとを並列して実行している。これらのうち長周期モードにて取得された全てのデータは温度変換部103によって温度値に変換される。これにより、予備加熱時の半導体ウェハーWの表面温度が上部放射温度計25によって測定されることとなる。
【0093】
一方、短周期モードにて取得されたデータについては、全てが温度値に変換されず、一部が温度変換部103によって温度値に変換される。短周期モードはフラッシュ加熱時以外では不要であるため、短周期モードにて取得されたデータからフラッシュ加熱前後の一部データを抽出する必要がある。図10は、短周期モードにて取得されたデータからの一部抽出を説明するための図である。図10には、短周期モードにて取得されて記憶部107等に蓄積されている起電力のデータを取得された時刻に沿って時系列に描いている。上部放射温度計25の光起電力素子28に生じる起電力は、測定対象である半導体ウェハーWの表面温度が高くなるほど高くなる。すなわち、フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWの表面温度が急激に高くなると上部放射温度計25によって取得される起電力のデータの値も高くなる。
【0094】
本実施形態においては、起電力のデータに抽出のトリガーとなる閾値Vtを設定している。閾値Vtは、例えばフラッシュ光照射前の予備加熱時における予備加熱温度T1に対応する起電力値に所定のマージンを加算した値とすれば良い。予備加熱温度T1は、処理レシピより既知であるため、その予備加熱温度T1から起電力値に換算することは可能である。図10の例では、時刻t1に取得された起電力のデータが閾値Vtに到達している。短周期モードにて取得されたデータのうち、データの値が閾値Vtに到達した時刻t1よりも20ミリセカンド前から100ミリセカンド後までの120ミリセカンドの期間のデータが抽出される。短周期モードのサンプリングレートは0.04ミリセカンドであるため、3000点のデータが抽出されることとなる。そして、温度変換部103は、短周期モードにて取得されたデータから抽出された120ミリセカンドの期間の3000点のデータを温度値に変換する。このように、短周期モードにて取得されたデータのうち、データの値が所定の閾値Vtに到達した時刻t1の前後にわたる一定期間に取得されたデータのみを温度変換することにより、フラッシュ加熱時の半導体ウェハーWの表面温度の変化が上部放射温度計25によって的確に測定されることとなる。
【0095】
続いて、プロファイル作成部105が予備加熱からフラッシュ加熱にかけての半導体ウェハーWの表面温度の時間変化を示す温度プロファイル108を作成する(ステップS6)。半導体ウェハーWの表面温度は上部放射温度計25によって測定されている。上部放射温度計25は、長周期モードおよび短周期モードの2つのモードにて半導体ウェハーWの表面温度を測定している。長周期モードのサンプリングレートは50ミリセカンドであるため、長周期モードはハロゲンランプHLからの光照射による半導体ウェハーWの予備加熱時の温度変化に追従するには十分であるとともに、半導体ウェハーWの温度変化の全体像を捉えるには好適である。しかし、長周期モードのみでは、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下のフラッシュ光照射による半導体ウェハーWのフラッシュ加熱時の瞬間的な温度変化には追従できない。すなわち、長周期モードで取得されたデータを温度変換した温度値のみで温度プロファイル作成しても、特にフラッシュ加熱時の半導体ウェハーWの温度変化を精密に描くことはできない。このため、フラッシュ加熱時の半導体ウェハーWの表面温度はサンプリングレートが0.04ミリセカンドの短周期モードによって測定している。
【0096】
プロファイル作成部105は、長周期モードにて取得されたデータを温度変換した温度値をベースとし、それに短周期モードにて取得されたデータを温度変換した温度値を補間(合成)して温度プロファイル108を作成している。これにより、温度プロファイル108においては、フラッシュ加熱時の半導体ウェハーWの表面温度の温度変化も精密に描くことができ、予備加熱からフラッシュ加熱にかけての半導体ウェハーWの温度変化を高精度に描くことができる。
【0097】
次に、制御部3が作成された温度プロファイル108を表示部34に表示する(ステップS7)。図11は、表示部34に表示された温度プロファイル108を示す図である。温度プロファイル108は、1つの上部放射温度計25によって予備加熱からフラッシュ加熱にかけての半導体ウェハーWの表面温度の温度変化を測定して得られたものである。また、温度プロファイル108は、長周期モードにて取得されたデータを温度変換した温度値に短周期モードにて取得されたデータを温度変換した温度値を補間して得られたものであり、フラッシュ加熱時の半導体ウェハーWの表面温度の急激な温度変化も適切に描いている。
【0098】
フラッシュ加熱処理が終了した後、所定時間経過後にハロゲンランプHLが消灯する。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1から急速に降温する。降温中の半導体ウェハーWの温度は下部放射温度計20によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、下部放射温度計20の測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットによりチャンバー6から搬出され、半導体ウェハーWの加熱処理が完了する(ステップS8)。
【0099】
本実施形態においては、光起電力素子28を内蔵した上部放射温度計25によって半導体ウェハーWの表面温度を測定している。既述したように、従来のウェハー表面温度を測定する放射温度計に設けられた光導電型素子では低周波域でのSN比が悪いことに加えて氷点下への冷却が必要であったため、光チョッパを設ける必要があった。ところが、マイクロセカンドオーダーの高速チョッピングを実現するには大型ブレードを高速回転させる必要があり、実用的でないばかりでなく、温度測定システムが著しく大型化することとなる。このため、実際には光チョッパを設ける代わりに微分回路を設けてフラッシュ光照射時の急峻な温度変化を検出していた。微分回路を設けると、ハロゲンランプHLからの光照射によって緩やかな温度変化を示す予備加熱時の温度測定を行うことはできなかった。
【0100】
光起電力素子28を備えた上部放射温度計25であれば、低周波域においても良好なSN比を得ることができ、かつ常温で使用することができる。このため、上部放射温度計25には、光チョッパを設ける必要がなくなるとともに、微分回路を設ける必要もない。微分回路が無ければ、温度変化の緩やかな予備加熱時の半導体ウェハーWの温度測定を行うことも可能となる。従って、光起電力素子28を備えた上部放射温度計25を用いることにより、簡易な構成でハロゲンランプHLからの光照射による予備加熱時およびフラッシュランプFLからのフラッシュ光照射時の双方において半導体ウェハーWの表面温度を測定することができる。
【0101】
また、本実施形態においては、フラッシュ光照射前の予備加熱時に下部放射温度計20を用いて上部放射温度計25の放射率校正を行っている。フラッシュ光照射時には半導体ウェハーWの表面の急激な温度上昇に起因して半導体ウェハーWに反りや振動が生じて正確な測定が行えなくおそれがある。フラッシュ光照射前に上部放射温度計25の放射率校正を行うようにすれば、ウェハー反りや振動の影響を受けることなく、下部放射温度計20および上部放射温度計25によって半導体ウェハーWの温度測定を行って上部放射温度計25の放射率を適切に校正することが可能となる。
【0102】
また、本実施形態においては、上部放射温度計25が長周期モードおよび短周期モードの2つのサンプリングレートにてデータ取得を行っている。長周期モードは、温度変化の緩やかなハロゲンランプHLによる半導体ウェハーWの予備加熱時に好適である。一方、短周期モードは、温度変化の急峻なフラッシュランプFLによる半導体ウェハーWのフラッシュ加熱時に好適である。すなわち、上部放射温度計25が長周期モードおよび短周期モードを実行してデータ取得を行うことにより、予備加熱時およびフラッシュ加熱時の双方に適切に対応した半導体ウェハーWの温度測定を行うことが可能となる。
【0103】
また、上部放射温度計25は、共通のハードウェアを用いて予備加熱時およびフラッシュ加熱時の双方にて半導体ウェハーWの温度測定を行っている。予備加熱時とフラッシュ加熱時とでは赤外線センサー29から出力される信号の周波数帯域や信号強度が全く異なるため、本来はそれぞれに対してハードウェアを最適化して良好なSN比を得る必要がある。本実施形態では予備加熱時およびフラッシュ加熱時の双方にて赤外線センサー29から出力される信号を共通のハードウェアによって処理するために、温度変換部103にデジタルフィルタ104を組み込んでいる(図8)。すなわち、光起電力素子28を内蔵する赤外線センサー29から出力された起電力の信号をA/Dコンバータ102によって変換したデジタル信号に対してデジタルフィルタ104を用いた処理を行っている。アナログフィルタの場合、フィルタ特性を変更するためにはハードウェア全体を変更する必要があるが、デジタルフィルタであれば同じハードウェアに組み込むソフトウェアを変更することによって異なるフィルタ特性を得ることができる。本実施形態では、共通のハードウェアに組み込むソフトウェアを変更することによって、予備加熱時とフラッシュ加熱時とで異なる特性のデジタルフィルタ104で処理してそれぞれにて良好なSN比を得ることができる。具体的には、例えば、ハロゲンランプHLを用いた予備加熱時にはデジタルフィルタ104としてIIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いるとともに、フラッシュランプFLを用いたフラッシュ加熱時にはデジタルフィルタ104としてFIR(Finite Impulse Response)フィルタを採用している。
【0104】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、上部放射温度計25に光起電力素子28を備えていたが、下部放射温度計20に光起電力素子28を備えるようにしても良い。光起電力素子28は予備加熱時およびフラッシュ加熱時の双方で測定が可能であるため、光起電力素子28を備えた下部放射温度計20を用いてハロゲンランプHLによる予備加熱時に半導体ウェハーWの裏面の温度測定を行うようにしても良い。
【0105】
また、上記実施形態においては、長周期モードのサンプリングレートが50ミリセカンドで短周期モードのサンプリングレートが0.04ミリセカンドであったが、これに限定されるものではなく、それぞれのサンプリングレートは適宜の値とすることができる。長周期モードおよび短周期モードのそれぞれのサンプリングレートは、ハロゲンランプHLからの光照射による半導体ウェハーWの昇温速度およびフラッシュ光の照射時間等の処理条件に応じて適宜に設定すれば良い。
【0106】
また、上記実施形態においては、短周期モードでのデータ抽出のトリガーとなる閾値Vtを予備加熱温度T1に対応する起電力値に所定のマージンを加算した値としていたが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すような時系列に描いた起電力のデータにおいて、現在時(任意の時点)よりもx秒(xは任意の値であり、例えば50ミリセカンド)だけ前の起電力値に所定のマージンを加算した値を閾値Vtとしても良い。このことは、起電力値の傾きが所定値を超えることをデータ抽出のトリガーとすることと同義である。予備加熱温度T1に対応する起電力値に所定のマージンを加算した値を閾値Vtとした場合には、例えば予備加熱時の温調のオーバーシュート等によってトリガーを誤検知するおそれがあるが、現在時よりもx秒だけ前の起電力値に所定のマージンを加算した値を閾値Vtとすればそのような誤検知を防止することができる。或いは、フラッシュランプFLが発光する数秒前に制御部3がフラッシュ光照射を実行するための信号を発するのであるが、その信号が発せられた時点での起電力値に所定のマージンを加算した値を閾値Vtとしても良い。さらには、当該フラッシュ光照射を実行するための信号が発せられた時点から所定時間のデータを温度変換するようにしても良い。
【0107】
また、上記実施形態においては、デジタルフィルタ104として予備加熱時にはIIRフィルタを用い、フラッシュ加熱時にはFIRフィルタを用いていたが、これに限定されるものではなく、例えば状態空間フィルタなどを採用するようにしても良い。
【0108】
また、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの上方に複数の上部放射温度計25を設けるようにしても良い。複数の上部放射温度計25の測定位置は互いに異なる。複数の上部放射温度計25のそれぞれは光起電力素子28を備える。この場合、複数の上部放射温度計25のうちの1つについて上記実施形態と同様に下部放射温度計20の温度測定値に基づいて放射率校正を行い、その校正された放射率を他の上部放射温度計25に反映させるようにしても良い。放射率校正の対象となる上部放射温度計25による半導体ウェハーWの表面の温度測定位置と下部放射温度計20による半導体ウェハーWの裏面の温度測定位置とは半導体ウェハーWを挟んで対称な位置とするのが好ましい。このようにすれば、半導体ウェハーWの面内温度分布に起因した放射率校正の誤差を最小限に抑制することができる。また、全ての上部放射温度計25について、視野面積や角度等の測定条件は一致させることが好ましい。複数の上部放射温度計25を設けることにより、半導体ウェハーWの表面の複数点の温度を測定して多点制御が可能となる。
【0109】
また、上記実施形態においては、光起電力素子28をInSbにて形成していたが、これに限定されるものではなく、光起電力素子28をInAsSb(インジウムヒ素アンチモン)またはInAs(インジウムヒ素)を用いて形成するようにしても良い。
【0110】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0111】
また、上記実施形態においては、1秒以上連続して発光する連続点灯ランプとしてフィラメント方式のハロゲンランプHLを用いて基板を所定温度に維持する加熱処理を行っていたが、これに限定されるものではなく、ハロゲンランプHLに代えて放電型のアークランプ(例えば、キセノンアークランプ)またはLEDランプを連続点灯ランプとして用いて加熱処理を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0112】
1 熱処理装置
3 制御部
4 ハロゲン加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
20 下部放射温度計
25 上部放射温度計
27 温度測定ユニット
28 光起電力素子
33 入力部
34 表示部
63 上側チャンバー窓
64 下側チャンバー窓
65 熱処理空間
74 サセプタ
101 増幅回路
102 A/Dコンバータ
103 温度変換部
104 デジタルフィルタ
105 プロファイル作成部
107 記憶部
108 温度プロファイル
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
W 半導体ウェハー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11