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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187221
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】車両用サイドバイザー
(51)【国際特許分類】
   B60J 3/00 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
B60J3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095121
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 駿
(72)【発明者】
【氏名】土井 恭平
(72)【発明者】
【氏名】吉村 幸祐
(57)【要約】
【課題】車両の走行中にサイドバイザーの外面を流れる空気流に起因する風切り音を抑制できる車両用サイドバイザーを提供する。
【解決手段】車体のAピラー7に対応する傾斜領域9a及びルーフ8に対応する水平領域9bからなるサイドバイザー9を、左フロントドア1の窓枠4の上部に装着し、窓枠4への固定箇所を固定端9cとし、固定端9cから左側方且つ下方に延びた下端部を開放端9dとする。サイドバイザー9の外面の長手方向全体に亘ってフィン12-#1~12-#10を列設し、各フィン12-#1~12-#10を、開放端9d側に位置する上流部12fから固定端9c側に位置する下流部12rに向けて、後方且つ斜め上方へと延びる突条をなすように形成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のサイドドアの窓枠の上部に取り付けられ、前記窓枠に固定された固定端から外側方且つ下方の開放端へと延びる断面形状をなして、前記窓枠の上部を外側方から覆う車両用サイドバイザーにおいて、
前記サイドバイザーの外面に、外側方に突出され、前記開放端側に位置する上流部から前記固定端側に位置する下流部に向けて、前記車両の後方且つ斜め上方へと延びる突条をなすフィンを形成したことを特徴とする車両用サイドバイザー。
【請求項2】
前記フィンは、前記サイドバイザーの長手方向に間隔をおいて複数列設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用サイドバイザー。
【請求項3】
前記サイドドアの窓枠は、前記車両のフロントピラーに沿って後方且つ上方へと延びる傾斜枠、及び前記傾斜枠の後端から前記車両のルーフに沿って後方へと延びる水平枠を有し、
前記サイドバイザーは、前記窓枠の傾斜枠と対応する傾斜領域、及び前記窓枠の水平枠と対応する水平領域からなり、
前記フィンは、少なくとも前記傾斜領域に形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用サイドバイザー。
【請求項4】
前記フィンは、前記傾斜領域及び前記水平領域の全体に亘って前記サイドバイザーの長手方向に複数列設されると共に、前記水平領域における隣り合う前記フィン同士の離間距離に比較して、前記傾斜領域における隣り合うフィン同士の離間距離が縮小して設定されている
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用サイドバイザー。
【請求項5】
前記フィンの上流部は、前記サイドバイザーの開放端の近傍に位置している
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の車両用サイドバイザー。
【請求項6】
前記フィンの上流部は、外側方から見て先鋭形状をなしている
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の車両用サイドバイザー。
【請求項7】
前記フィンは、外側方から見て前記下流部の向きが、同下流部の位置に対応する前記フロントピラーの箇所またはルーフの箇所における接線の延びる方向に近づくよう、前記フィンの車両後方への傾きが前記上流部から前記下流部に向かうに従って次第に大きくなる湾曲形状とされている
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の車両用サイドバイザー。
【請求項8】
前記フィンは、車両の前方かつ上方に面する第1面と、車両の後方かつ下方に面する第2面とで断面が略三角形状に形成された突条であり、
前記第1面は、前記サイドバイザーの外面から外側方斜め後方に向かって傾斜した面を成し、
前記第2面は、前記サイドバイザーの外面から前記第1面の外側端に向かって略直角に延びる面を成している
ことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の車両用サイドバイザー。
【請求項9】
前記フィンの下流部は、同下流部の位置に対応する前記フロントピラーの箇所または前記ルーフの箇所における接線に沿って切り取られた平坦な形状をなす下流平面部が形成されている
ことを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の車両用サイドバイザー。
【請求項10】
前記サイドバイザーは、前記固定端から外側方且つ下方へと湾曲面が延び、前記湾曲面の下端から下方へと平坦面が延び、前記平坦面の下端を前記開放端とした断面形状をなし、
前記フィンの下流部は、前記サイドバイザーの前記湾曲面の下端の近傍に位置され、
前記第1面の前記下流部の近傍の個所は、車両前後方向から見て断面が前記サイドバイザーの前記湾曲面から滑らかに連続している
ことを特徴とする請求項8に記載の車両用サイドバイザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サイドバイザーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の車両用サイドバイザーとして、例えば特許文献1には、キャブオーバ型トラックのサイドドアに装着されるものが開示されている。サイドバイザーは、主としてサイドドアの窓枠の上部を覆う第1覆い部、その下方に配設された第2覆い部、及び第1及び第2覆い部の間を覆い、前部に2つの通孔が設けられた第3覆い部からなり、第3覆い部の2つの通孔の下縁からは、それぞれリブが後方に向けて略水平に延びている。
【0003】
トラックの走行中においてサイドバイザーの外面には前方から後方に向かう空気流が発生する。窓ガラスを下降させると、キャブ内の空気が窓ガラスの上縁とサイドバイザーとの間の開口及び2つの通孔を通ってそれぞれ外部に排出される。このとき各リブは各通孔から外部に吸い出された空気を整流する作用を奏し、各通孔からの空気はサイドバイザーの表面及び各リブに沿って後方へとスムーズに流れることで風切り音が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-189831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の車両用サイドバイザーは、キャブ内から通孔を通って外部に排出される空気流に起因する風切り音は低減できるものの、サイドバイザーの外面を流れる空気流に起因する風切り音を抑制することはできなかった。
端的に述べるとサイドバイザーは、サイドドアの窓枠の上部に固定された固定端から外側方且つ下方に位置する開放端へと延びる断面形状をなしている。結果としてサイドバイザーの開放端は、窓ガラスから外側方に離間して間隙を形成している。
【0006】
一方、走行中の車両が受ける走行風は、ボンネット、ルーフ、左右のフェンダー等の車体外面に沿って流れる。このような走行風は、サイドバイザーの外面において固定端から後方に流れつつ、外面の形状に倣って外側方且つ下方にも向かう斜め方向の空気流を生起する。空気流がサイドバイザーの開放端に到達すると、開放端から内側方、より詳しくは、開放端と窓ガラスとの間に形成された間隙内へと回り込み、大きな渦を形成して風切り音を発生させてしまう。
【0007】
特許文献1の車両用サイドバイザーのリブは通孔から後方に向けて延びているため、キャブ内から外部に排出される空気を案内することはできるが、上記のようなサイドバイザーの開放端での空気流の回り込みを抑制することはできない。よって、従来から抜本的な風切り音の対策が要望されていた。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両の走行中にサイドバイザーの外面を流れる空気流に起因する風切り音を抑制することができる車両用サイドバイザーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の車両用サイドバイザーは、車両のサイドドアの窓枠の上部に取り付けられ、窓枠に固定された固定端から外側方且つ下方の開放端へと延びる断面形状をなして、窓枠の上部を外側方から覆う車両用サイドバイザーにおいて、サイドバイザーの外面に、外側方に突出され、開放端側に位置する上流部から固定端側に位置する下流部に向けて、車両の後方且つ斜め上方へと延びる突条をなすフィンを形成したことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
その他の態様として、フィンが、サイドバイザーの長手方向に間隔をおいて複数列設されていてもよい(請求項2)。
その他の態様として、サイドドアの窓枠が、車両のフロントピラーに沿って後方且つ上方へと延びる傾斜枠、及び傾斜枠の後端から車両のルーフに沿って後方へと延びる水平枠を有し、サイドバイザーが、窓枠の傾斜枠と対応する傾斜領域、及び窓枠の水平枠と対応する水平領域からなり、フィンが、少なくとも傾斜領域に形成されていてもよい(請求項3)。
【0010】
その他の態様として、フィンが、傾斜領域及び水平領域の全体に亘ってサイドバイザーの長手方向に複数列設されると共に、水平領域における隣り合うフィン同士の離間距離に比較して、傾斜領域における隣り合うフィン同士の離間距離が縮小して設定されていてもよい(請求項4)。
その他の態様として、フィンの上流部が、サイドバイザーの開放端の近傍に位置していてもよい(請求項5)。
【0011】
その他の態様として、フィンの上流部が、外側方から見て先鋭形状をなしていてもよい(請求項6)。
その他の態様として、フィンが、外側方から見て下流部の向きが、下流部の位置に対応するフロントピラーの箇所またはルーフの箇所における接線の延びる方向に近づくよう、フィンの車両後方への傾きが上流部から下流部に向かうに従って次第に大きくなる湾曲形状とされていてもよい(請求項7)。
【0012】
その他の態様として、フィンが、車両の前方かつ上方に面する第1面と、車両の後方かつ下方に面する第2面とで断面が略三角形状に形成された突条であり、第1面が、サイドバイザーの外面から外側方斜め後方に向かって傾斜した面を成し、第2面が、サイドバイザーの外面から第1面の外側端に向かって略直角に延びる面を成していてもよい(請求項8)。
【0013】
その他の態様として、フィンの下流部が、下流部の位置に対応するフロントピラーの箇所またはルーフの箇所における接線に沿って切り取られた平坦な形状をなす下流平面部が形成されていてもよい(請求項9)。
その他の態様として、サイドバイザーが、固定端から外側方且つ下方へと湾曲面が延び、湾曲面の下端から下方へと平坦面が延び、平坦面の下端を開放端とした断面形状をなし、フィンの下流部が、サイドバイザーの湾曲面の下端の近傍に位置され、第1面の下流部の近傍の個所が、車両前後方向から見て断面がサイドバイザーの湾曲面から滑らかに連続していてもよい(請求項10)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用サイドバイザーによれば、車両の走行中にサイドバイザーの外面を流れる空気流に起因する風切り音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の乗用車用サイドバイザーが装着された左フロントドアを示す斜視図である。
図2】左フロントドアの窓枠と共にサイドバイザーを示す左側面図である。
図3】サイドバイザーに形成されたフィンを示す図2のa部詳細図である。
図4】車両の走行中に従来技術のサイドバイザーの外面を流れる空気流を示す左フロントドアの窓枠の左側面図である。
図5】サイドバイザーの傾斜領域と平行領域とで隣り合うフィンの離間距離を異にした別例を示す図2に対応する図である。
図6】フィンの下流部に下流平面部を形成した別例を示す図3に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、乗用車用のフロント側のサイドドア(以下、フロントドアと称する)に装着されるサイドバイザーに具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の乗用車用サイドバイザーが装着された左フロントドアを示す斜視図、図2は左フロントドアの窓枠と共にサイドバイザーを示す左側面図である。以下の説明では、車両を基準として前後、左右及び上下方向を規定する。また、左右のサイドバイザーは左右対称の同一形状をなすため、以下、左側のサイドバイザーについて説明し、右側のサイドバイザーについては説明を省略する。
【0017】
これらの図に示すように、左フロントドア1は、プレス成型したアウタパネル1a及びインナパネル1bを接合してなり、図示しない車体の左側の乗降口に対してヒンジにより開閉可能に連結されている。左フロントドア1の外側面にはサイドミラー2及びドアノブ3が設けられ、上部は窓枠4が形成されて昇降可能な窓ガラス5により開閉されるようになっている。
【0018】
窓枠4は、左フロントドア1の前部に装着された三角状の装飾板6を起点として、車体のAピラー7(フロントピラー)に沿って後方且つ上方へと延びる傾斜枠4a、傾斜枠4aの後端から車体のルーフ8に沿って後方へと延びる水平枠4b、及び水平枠4bの後端から下方へと延びる垂直枠4cからなる。サイドバイザー9は窓枠4の上部、即ち傾斜枠4a及び水平枠4bに取り付けられ、左側方視においてAピラー7とルーフ8との境界で屈曲した形状をなしている。以下、窓枠4の傾斜枠4aに対応するサイドバイザー9の箇所を傾斜領域9a、水平枠4bに対応する箇所を水平領域9bと称する。例えばサイドバイザー9は合成樹脂材料を射出成型して一体的に製作され、両面テープ10(図3に示す)等で窓枠4に固定されている。
【0019】
図3はサイドバイザー9に形成されたフィンを示す図2のa部詳細図である。なお同図では、サイドバイザー9の部分的な左側面視が示されると共に、左側面視に対する関係を明確にすべくX-X断面及びY-Y断面についても示されている。
サイドバイザー9を垂直方向に切ったときの断面形状(例えば、X-X断面)は、サイドバイザー9の長手方向の位置に応じて次第に変化しているものの、互いに近似する形状をなしている。例えば、X-X断面に示すようにサイドバイザー9は、窓枠4の水平枠4bに対して両面テープ10により固定された箇所を固定端9cとし、この固定端9cから左側方且つ下方に位置する開放端9dへと延びる断面形状をなし、窓枠4の上部を左側方から覆っている。
【0020】
詳しくは、サイドバイザー9の固定端9cからは湾曲断面をなす湾曲面9eが左側方且つ下方へと延び、湾曲面9eの下端からは直線断面をなす平坦面9fが下方へと延び、平坦面9fの下端には右側方に屈曲した開放端9dが形成されている。結果としてサイドバイザー9の開放端9dは窓ガラス5から左側方に離間し、この間隙を経て、窓ガラス5を下降させたときに車室内内の空気が外部に排出される。
【0021】
図4は車両の走行中にサイドバイザーの外面を流れる空気流を示す左フロントドアの窓枠の左側面図であり、このサイドバイザーは、本発明が適用されていない従来技術、例えば特許文献1のサイドバイザーに相当するものである。説明を理解し易くするために、実施形態と同一の部材番号を付して説明すると、走行中の車両が受ける走行風により、図4中に矢印で示すようにサイドバイザー9の外面には、固定端9cから後方に流れつつ、外面の形状に倣って外側方且つ下方にも向かう斜め方向の空気流Fair1が生起される。
【0022】
このような空気流Fair1がサイドバイザー9の開放端9dに到達すると、開放端9dから右側方、詳しくは、開放端9dと窓ガラス5との間に形成された間隙内へと回り込み、サイドバイザー9の開放端9dに大きな渦を形成してしまう。このときの渦は、サイドバイザー9の長手方向全体(詳しくは、傾斜領域9aの前端から水平領域9bの後端まで)に亘って位相が揃った大きな渦として形成されるため、大きな風切り音を発生させてしまう。
【0023】
以上の現象を鑑みて本発明者は、開放端9dへの空気流Fair1の回り込みを抑制かつ位相を崩すためにサイドバイザー9の外面にフィンを設ける対策を見出し、その詳細を以下に説明する。
図2に示すように本実施形態では、サイドバイザー9の外面の長手方向全体に亘って、計10個のフィン12-#1~12-#10が等間隔をおいて列設されており、各フィン12-#1~12-#10はサイドバイザー9の射出成型の際に平坦面9f上に一体形成されている。詳細については後述するが、各フィン12-#1~12-#10の形状(姿勢や大きさ)はサイドバイザー9の長手方向において次第に変化している。
【0024】
以下、前側から6個目のフィン12-#6を代表として説明する。図2,3に二点鎖線に示すように、車体のAピラー7とルーフ8とは大きな曲率の弧を描いて滑らかに連続しており、このようなAピラー7及びルーフ8において各フィン12-#1~12-#10の前後位置に対応する箇所(例えば、フィン12-#6には図3中のP箇所)の接線tanLを基準として、それぞれのフィン12-#1~12-#10の形状が設定されている。その意図は、Aピラー7やルーフ8に沿った走行風がサイドバイザー9上に流れ込むため、Aピラー7及びルーフ8のtanLを基準とすれば、開放端9dでの空気流Fair1の回り込みを的確に抑制可能かつ上流から下流にかけて位相を崩す(後述)ことが可能なフィン12-#1~12-#10の形状を設定できる、という観点に基づくものである。
【0025】
図3中にX-X断面で示すように、フィン12-#6はサイドバイザー9の外面、詳しくは左側方に面した平坦面9f上に突設されている。また左側面視において、フィン12-#6は、サイドバイザー9の開放端9d側から固定端9c側に向けて、車両の後方且つ斜め上方へと延びる突条をなすと共に、上方に山なり形状となっている。以下の説明では、フィン12-#6の車両前方かつ上方に面した箇所を上面12a(第1面)、車両後方かつ下方に面した箇所を下面12b(第2面)、開放端9d側に位置する端部を上流部12f、固定端9c側に位置する端部を下流部12rと称する。
【0026】
また、フィン12-#6の前後位置に対応するAピラー7の箇所Pでの接線tanLを基準として、接線tanLと直交する方向のフィン12-#6の寸法を上下長L1と称し、接線tanLに沿った方向のフィン12-#6の寸法を前後長L2と称する。また、接線tanLと直交する方向の平坦面9fの寸法を上下幅Wと称し、隣り合うフィン12-#5,12-#7との間隔を離間距離L0と称する。またX-X断面において、平坦面9fからのフィン12-#6の高さを突出高さHと称する。
【0027】
図3に示すようにフィン12-#6の形状は、以下の条件を満足するように形成されている。
1)左側方視において、上流部12fが平坦面9fの下端近傍、換言すると開放端9dの近傍に位置している。
2)左側方視において、上流部12fが先鋭形状をなしている。
3)左側方視において、接線tanLに対する上流部12fの角度θ1が30°に設定されている。これにより、フィン12-#6のおよその姿勢が定まる。
4)左側方視のA部詳細において、下流部12rが接線tanLに対して滑らかに連続する形状をなしている。詳しくは、フィン12-#6は、左側方から見て下流部12rの向きが、下流部12rの位置に対応するAピラー7の箇所Pにおける接線tanLの延びる方向に近づくよう、フィン12-#6の車両後方12-#6への傾きが上流部12rから下流部12fに向かうに従って次第に大きくなる(上方に山なりの)湾曲形状とされている。
5)X-X断面において、下流部12rが平坦面9fに対して角度θ2をなし、これにより形成された斜状平面部12cが湾曲面9eから滑らかに連続している。
6)左側方視において、下流部12rが平坦面9fの上端よりも下方位置にとどまり、結果として、平坦面9fの上下幅Wに対してフィン12-#6の上下長L1が占める割合が90%に設定されている。
【0028】
なお、条件3)の上流部12fの角度θ1、及び条件6の上下長L1が定まることにより、前後長L2についても自ずと定まり、結果としてフィン12-#6の全体的な大きさも定まる。
7)左側方視において、隣り合うフィン12-#5との離間距離L0、及び隣り合うフィン12-#7との離間距離L0が、前後長L2の50%に設定されている。なお、サイドバイザー9の長手方向で平坦面9fの上下幅Wが変化しているため、隣り合うフィン12-#1~12-#10同士の前後長L2が多少異なる場合もある。そこで、例えばフィン12-#6とフィン12-#5とで前後長L2が異なる場合には、何れか一方の前後長L2、或いは双方の平均値等に基づき離間距離L0を決定する。
8)Y-Y断面において、上面12aの断面形状が、平坦面9fから円弧状に立ち上がる円弧断面を成している。このため上面12aは、サイドバイザー9の外面から外側方斜め後方に向かって傾斜した面を成している。
9)Y-Y断面において、下面12bの断面形状が、平坦面9fから直角に立ち上がる直角断面を成している。このため下面12bは、サイドバイザー9の外面から上面12aの外側端に向かって略直角に延びる面を成している。
【0029】
そして、これらの上面12a及び下面12bにより、フィン12-#6は、その断面が略三角形状に形成された突条を成している。
10)X-X断面において、平坦面9fからの突出高さHが、上流部12f及び下流部12rを除いて長手方向の全領域で5mm~15mm程度に設定されている。
なお、以上はフィン12-#6の形状に関する説明であったが、他のフィン12-#1~12-#5、12-#7~12-#10の形状についても同様に設定されている。
【0030】
次に、以上のように構成された乗用車用のサイドバイザー9による風切り音の抑制作用について説明する。
走行中の車両が受ける走行風は、ボンネット、Aピラー7、ルーフ8、左右のフェンダー等の車体外面に沿って流れ、サイドバイザー9の外面においては、図4に基づき述べたように、固定端9cから後方且つ外側方へと向かう斜め方向の空気流Fair1を生起する。本実施形態のサイドバイザー9に備えられた各フィン12-#1~12-#10は、このような空気流Fair1の流れ方向を変更することで風切り音を抑制している。以下、この風切り音の抑制作用を、図3中に示された前側から5個目のフィン12-#5を例に挙げて説明するが、他のフィン12-#1~12-#4,12-#6~12-#10も同様の作用を奏する。
【0031】
フィン12-#5は、図3中のY-Y断面で示すように、サイドバイザー9の外面で突条をなすように形成されている。このため空気流Fair1の一部は、図3中に矢印Fair2で示すように、上面12aからフィン12-#5を乗り越えて下面12bへと流れ、小さな渦を形成しながら下面12bに沿って後方へと流れる空気流Fair2に変換される。即ち、空気流Fair2に変換されることで、空気流Fair1がサイドバイザー9の開放端9dに到達する事態が防止される。
【0032】
また、空気流Fair1の一部は、フィン12-#5を乗り越えることなく、その上面12aの上方を経て空気流Fair1’として後方へと受け流される。従って、この空気流Fair1’についても、サイドバイザー9の開放端9dに到達する事態が防止される。
また、残りの空気流Fair1は、フィン12-#5の上流部12fの前側の領域、即ち、フィン12-#4の下流部12rとの間の軸間距離L0に相当する領域を通過し、空気流Fair1”としてサイドバイザー9の開放端9dに到達する。このような空気流Fair1”は、隣り合うフィン12-#1~12-#10の間でそれぞれ発生し、サイドバイザー9の長手方向全体において、各フィン12-#1~12-#10により互いに分断された状態で開放端9dに到達し、個々に小さな渦を発生させる。
【0033】
図4に基づき説明したフィンを備えない従来技術では、同一方向の空気流Fair1がサイドバイザー9の開放端9dで一斉に回り込むことにより、サイドバイザー9の前後方向全体に亘って位相が揃った大きな渦を発生させ、大きな風切り音の要因になる。
これに対して本実施形態では、空気流Fair1がフィン12-#1~12-#10により分流されて、空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”を発生させるが、その内の空気流Fair2及び空気流Fair1’はサイドバイザー9の開放端9dに到達しない。そして空気流Fair2については、フィン12-#1~12-#10の下面12bに沿って後方へと流れる際に小さな渦を形成するものの、渦が小さいが故に発生する風切り音も小さい。
【0034】
また、空気流Fair1”はサイドバイザー9の開放端9dに到達するが、各フィン12-#1~12-#10の間を通過する過程で、サイドバイザー9の長手方向全体において互いに分断されている。分断された各空気流Fair1”は開放端9dで個々に小さな渦を発生させるが、渦が小さいが故に発生する風切り音も小さい。
以上のように空気流Fair1’は渦をほとんど形成せず、空気流Fair2及び空気流Fair1”により形成される渦はごく小さく、フィンを備えない従来技術のようなサイドバイザー9の前後方向全体に亘って位相が揃った大きな渦には成り得ない。従って、仮に渦に起因して風切り音が生じたとしても、従来技術で発生する風切り音より小さなものとなる。
【0035】
以上が本実施形態のサイドバイザー9による基本的な風切り音の抑制作用であり、その作用をより顕著に得るために上記条件1)~10)が設定されている。但し、条件1)~10)は付加的な要件であり必ずしも適用する必要はなく、例えば、全ての条件を満足しない場合も本発明に含まれるものとする。
以下、各条件1)~10)により得られる作用を説明する。
【0036】
条件1)、条件6)及び条件10)により、フィン12-#1~12-#10がサイドバイザー9の平坦面9f上に形成され、平坦面9fの下端から十分な上下長L1(上下幅Wの90%相当)を有すると共に、長手方向に均等な突出高さHを有する。走行風とほぼ平行な平坦面9fは空気流の剥離等が発生し難く、十分な長さを有し且つ長手方向に均等な突出高さHを有するフィン12-#1~12-#10は、走行風を円滑に案内して良好に空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”を生起できる。
【0037】
なお、例えば平坦面9f上のフィン12-#1~12-#10の上流部12fの位置を変更したり、フィン12-#1~12-#10の上下長L1を変更したりしてもよい。また、フィン12-#1~12-#10の突出高さHを変更したり、突出高さHをフィン12-#1~12-#10の長手方向で変化させたりしてもよい。
また、条件2)により、フィン12-#1~12-#10の上流部12fが先鋭形状をなしていると、走行風を案内して空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”を生起するきっかけを作り易く、ひいては良好な空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”の生起に貢献する。
【0038】
また、条件4)により、フィン12-#1~12-#10の下流部12rが接線tanLに対して滑らかに連続し、条件5)により、フィン12-#1~12-#10の下流部12rに形成された斜状平面部12cがサイドバイザー9の湾曲面9eから滑らかに連続している。これにより、フィン12-#1~12-#10の下面12bに沿って流れる空気流Fair2、及び上面12aに沿って流れる空気流Fair1’は、それぞれ大きく乱れることなく下流部12rから剥離し、この点も良好な空気流Fair2及び空気流Fair1’の生起に貢献する。
【0039】
また、条件8)により、フィン12-#1~12-#10の上面12aが円弧断面をなしていると、空気流Fair2が上面12aを経てフィン12-#1~12-#10を乗り越える際の流れが円滑になり、この点も良好な空気流Fair2の生起に貢献する。
また、条件9)により、フィン12-#1~12-#10の下面12bが直角断面をなしていると、フィン12-#1~12-#10を乗り越えた空気流Fair2が下面12bから剥離し易くなり、この点も良好な空気流Fair2の生起に貢献する。
【0040】
また、条件3)により、Aピラー7やルーフ8の接線tanLを基準として、フィン12-#1~12-#10の上流部12fが所定角度θ1( =30°)に設定されている。車両の走行中には、Aピラー7やルーフ8に沿った走行風が空気流Fair1としてサイドバイザー9上に流れ込むため、サイドバイザー9の外面への空気流Fair1の流入方向はAピラー7やルーフ8の角度に依存する。従って、Aピラー7やルーフ8の接線tanLを基準として定めた角度θ1=30°は、適切な空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”を生起するために好適な角度であり、好適なフィン12-#1~12-#10の姿勢であると見なせる。従って、適切な空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”を形成して、風切り音の抑制作用を最大限に得ることができる。なお、フィン角度θ1は30°に限るものではなく変更可能である。
【0041】
また、条件7)により、隣り合うフィン12-#1~12-#10同士の離間距離L0が、フィン12-#1~12-#10の前後長L2の50%に設定されている。離間距離L0を減少させるとフィン12-#1~12-#10の配置は次第に粗から密に変化し、それに応じてフィン12-#1~12-#10の個数、ひいては空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”の数が増加する。そして、大きな離間距離L0によりフィン配置が粗になっている場合に、十分な風切り音の抑制効果が得られないことは無論、離間距離L0の縮小によりフィン配置が過剰に密になった場合にも、所期の空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”の流れを達成できずに風切り音の抑制効果がかえって低下してしまう。フィン12-#1~12-#10の前後長L2を基準として適切な離間距離L0を定めることにより、過不足のない空気流Fair2、空気流Fair1’及び空気流Fair1”を生起して風切り音の抑制に役立てることができる。
【0042】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、乗用車のフロントドア1に装着されるサイドバイザー9に具体化したが、これに限るものではない。例えば、乗用車のリア側のサイドドア用のサイドバイザーに適用してもよいし、或いは、特許文献1に記載されているAピラーがほとんど傾斜していないキャブオーバ型トラックのサイドドア用のサイドバイザーに適用してもよい。
【0043】
また上記実施形態では、サイドバイザー9の長手方向の全体に亘って等間隔をおいてフィン12-#1~12-#10を列設したが、これに限るものではない。例えばフロントドア1用のサイドバイザー9では、Aピラー7に対応する傾斜領域9aで空気流の回り込みが顕著に発生し、特にサイドバイザー9の最前部で空気流の回り込みにより渦が発生すると、その渦が後方へと次第に成長して大きな風切り音を発生させてしまう。そこで、以下に述べるようにサイドバイザー9上にフィン12-#1~12-#10を配置してもよい。
a)図5に示すように、サイドバイザー9の傾斜領域9aでは複数のフィン12-#1~12-#10の配置を密に設定(離間距離L0を縮小)し、水平領域9bでは複数のフィン12-#11~12-#14の配置を粗に設定(離間距離L0を拡大)してもよい。
b)図示はしないが、サイドバイザー9の前部から後部に亘って複数のフィン12-#1~12-#10の配置を密から粗に連続的に変化(離間距離L0を連続的に拡大)させてもよい。
c)図示はしないが、傾斜領域9aだけに複数のフィン12-#1~12-#10を列設してもよい。
d)図示はしないが、サイドバイザー9の傾斜領域9aの最前部だけに単一のフィン12-#1を設けてもよい。
【0044】
また上記実施形態では、条件4)に基づき、フィン12-#1~12-#10の下流部12rを接線tanLに対して滑らかに連続させたが、これに限るものではない。例えば図6に示すように、フィン12-#1~12-#10の下流部12rを接線tanLに沿って切り取ることにより、平坦な形状をなす下流平面部12dを形成してもよい。条件4)と同じく、フィン12-#1~12-#10の上面12aに沿って生起された空気流Fair2及び空気流Fair1’を大きく乱すことなく、フィン12-#1~12-#10の下流部12rから円滑に剥離させることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 左フロントサイドドア
4 窓枠
4a 傾斜枠
4b 水平枠
7 Aピラー(フロントピラー)
8 ルーフ
9 サイドバイザー
9a 傾斜領域
9b 水平領域
9c 固定端
9d 開放端
9e 湾曲面
9f 平坦面
12-#1~12-#14 リブ
12a 上面(第1面)
12b 下面(第2面)
12f 上流部
12r 下流部
12c 斜状平面部
12d 下流平面部
L1 フィンの上下長
L2 フィンの前後長
L0 離間距離
W 平坦面の上下幅
tanL 接線
図1
図2
図3
図4
図5
図6