(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187233
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】イオン伝導性微粒子
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20221212BHJP
H01M 8/1016 20160101ALN20221212BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M8/1016
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095144
(22)【出願日】2021-06-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山中 菜緒
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【テーマコード(参考)】
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
5G301CD01
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG12
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】イオン伝導性を担うイオン伝導性基の溶出を抑制可能なイオン伝導性微粒子を提供する。
【解決手段】イオン伝導性微粒子は、基材粒子と、イオン伝導性基と、シランカップリング剤と、を備える。イオン伝導性基は、基材粒子の表面に担持される。イオン伝導性基は、イオン伝導性を担う。シランカップリング剤は、基材粒子の表面に担持される。イオン伝導性基の含有量に対するシランカップリング剤の含有量の比は、0.10以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材粒子と、
前記基材粒子の表面に担持され、イオン伝導性を担うイオン伝導性基と、
前記基材粒子の表面に担持されたシランカップリング剤と、
を備え、
前記イオン伝導性基の含有量に対する前記シランカップリング剤の含有量の比は、0.10以上である、
イオン伝導性微粒子。
【請求項2】
前記イオン伝導性基の含有量に対する前記シランカップリング剤の含有量の比は、0.50以下である、
請求項1に記載のイオン伝導性微粒子。
【請求項3】
前記基材粒子は、Si、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つを含む金属酸化物である、
請求項1又は請求項2に記載のイオン伝導性微粒子。
【請求項4】
前記イオン伝導性基は、プロトン伝導性である、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のイオン伝導性微粒子。
【請求項5】
前記イオン伝導性基は、硫酸を含有する、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のイオン伝導性微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を含む電気化学セル、エレクトロクロミック表示素子、センサーなどの電気化学素子では、イオン伝導性微粒子が広く用いられている。
【0003】
特許文献1は、イオン伝導性微粒子を提案する。特許文献1のイオン伝導性微粒子は、基材微粒子の表面に、イオン解離性の基と、フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団を含有する改質基と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のイオン伝導性微粒子において、イオン解離性の基が溶出して、イオン伝導性が低下する場合がある。
【0006】
本発明は、イオン伝導性を担うイオン伝導性基の溶出を抑制可能なイオン伝導性微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るイオン伝導性微粒子は、基材粒子と、イオン伝導性基と、シランカップリング剤と、を備える。イオン伝導性基は、基材粒子の表面に担持される。イオン伝導性基は、イオン伝導性を担う。シランカップリング剤は、基材粒子の表面に担持される。イオン伝導性基の含有量に対するシランカップリング剤の含有量の比は、0.10以上である。
【0008】
イオン伝導性基の含有量に対するシランカップリング剤の含有量の比が0.10以上であれば、イオン伝導性基の溶出を抑制することができる。
【0009】
好ましくは、イオン伝導性基の含有量に対するシランカップリング剤の含有量の比は、0.50以下である。この場合、イオン伝導性が低下するのを抑制できる。
【0010】
好ましくは、基材粒子は、Si、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つを含む金属酸化物である。
【0011】
好ましくは、イオン伝導性基は、プロトン伝導性である。
【0012】
好ましくは、イオン伝導性基は、硫酸を含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イオン伝導性を担うイオン伝導性基の溶出を抑制可能なイオン伝導性微粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態によるイオン伝導性微粒子の模式図である。
【
図2】本実施形態によるイオン伝導性微粒子の表面の構成を示す模式図である。
【
図3】本実施形態によるイオン伝導性微粒子の表面の別の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[イオン伝導性微粒子10]
本実施形態に係るイオン伝導性微粒子10は、燃料電池を含む電気化学セル、エレクトロクロミック表示素子、センサーなどの電気化学素子の構成材料として用いられるものであり、特に、固体電解質用途に好適である。
【0016】
図1に示すように、イオン伝導性微粒子10は、基材粒子2と、イオン伝導性基3と、シランカップリング剤4と、を備える。イオン伝導性微粒子10は、プロトン伝導性である。イオン伝導性微粒子10は、一つの結晶子によって構成される単結晶体であってもよいが、典型的には、複数の結晶子によって構成される多結晶体である。
【0017】
[基材粒子2]
基材粒子2は、担体である。基材粒子2は、5nm~60nmであるのが好ましい。基材粒子2の素材は特に限定されないが、例えば、金属酸化物である。基材粒子2は、強酸性(Ph3未満)において溶出しないことが好ましい。
【0018】
基材粒子2が金属酸化物である場合、基材粒子2は、Si、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0019】
基材粒子2は、SiO2(シリカ)、TiO2(チタニア)、SnO2(二酸化スズ)、SnO(酸化スズ)、ZrO2(ジルコニア)、ZrSiO4(ジルコン)、Zr(WO4)2(タングステン酸ジルコニウム)、WO3(酸化タングステン)、Al2(WO4)3(タングステン酸アルミニウム)などであることが挙げられるが、これに限られない。基材粒子2は、異なる金属酸化物を2種以上含んでもよい。
【0020】
[イオン伝導性基3]
イオン伝導性基3は、基材粒子2の表面に担持される。イオン伝導性基3は、イオン伝導性を担う。イオン伝導性基3は、プロトン伝導性である。
【0021】
図2では、基材粒子2の表面にイオン伝導性基3が担持された状態が図示されている。
図2では、基材粒子2としてTiO
2が例示され、イオン伝導性基3としてスルホン酸基が例示されている。ただし、
図2では、シランカップリング剤4を省略している。
【0022】
イオン伝導性基3は、硫酸を含有する。硫酸としては、H2SO4及びその化合物に限られず、SO、S2O3、SO2、SO3、S2O7、SO4、これらの酸化イオウを含む化合物(酸、塩等)、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0023】
[シランカップリング剤4]
シランカップリング剤4は、基材粒子2の表面に担持される。より具体的には、シランカップリング剤4は、もともと基材粒子2の表面に存在していたカップリング用の官能基(以下、カップリング用官能基という)にシランカップリング剤4の原子団が結合することにより、基材粒子2の表面に担持される。
【0024】
図3では、基材粒子2の表面にシランカップリング剤4が担持された状態が図示されている。
【0025】
カップリング用官能基は、ヒドロキシ基(OH)である。シランカップリング剤4と結合できる基材粒子2の表面の官能基は、ヒドロキシ基(OH)を有する官能基であれば、ヒドロキシ基(OH)に限定されない。シランカップリング剤4と反応できる基材粒子2の表面の官能基は、例えば、カルボキシ基(COOH)、スルホン酸基(SO3H)、エポキシ基などである。ここで、エポキシ基とは、3員環の環状エーテル構造を含む基をいう。
【0026】
カップリング用官能基に、シランカップリング剤4が有する加水分解性基が反応し、シランカップリング剤4の原子団が、カップリング用官能基を介して、基材粒子2の表面に担持される。シランカップリング剤4の原子団はシランカップリング剤4の加水分解性基以外の官能基であり、疎水性である。そのため、シランカップリング剤4の原子団を担持した基材粒子2の表面が疎水性になり、イオン伝導性基3の溶出を抑制する。
【0027】
カップリング用官能基と、シランカップリング剤4が有する官能基と、が反応する際の種類は、特に限定されるものではないが、ヒドロキシ基(OH)間の脱水縮合反応や、エステル化反応などである。
【0028】
シランカップリング剤4とは、分子中に加水分解性基とそれ以外の原子団とを有する化合物である。シランカップリング剤4の一般式は以下の通りである。
【化1】
【0029】
(RO)nは、加水分解性基である。加水分解性基とは、珪素原子に直結し、加水分解反応及び/又は縮合反応によってシロキサン結合を生じ得る置換基をいう。加水分解性基としては、例えば、ヒドロキシ基(OH)、又は、加水分解でヒドロキシ基(OH)を生成するハロゲン基(Clなど)、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。加水分解性基が炭素原子を有する場合、その炭素数は6以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。特に、炭素数4以下のアルコキシ基又は炭素数4以下のアルケニルオキシ基が好ましい。さらに、炭素数2以下のアルコキシ基又は炭素数4以下のアルケニルオキシ基が好ましい。
【0030】
R’は任意の基である。R’は、ROと同じでもよい。したがって、R’についての説明は、上記加水分解性基についての説明と同様である。
【0031】
Xは、上記のシランカップリング剤4の原子団である。シランカップリング剤4の原子団は、有機反応性基である。有機反応性基は、疎水性である。そのため、基材粒子2の表面にシランカップリング剤4の原子団が導入されると、イオン伝導性微粒子10の表面が疎水化される。これにより、イオン伝導性微粒子10の表面に水が近づきにくくなり、イオン伝導性基3の溶出が抑制される。
【0032】
有機反応性基としては、ビニル基、エポキシ基(脂環式エポキシ基、グリシジル基)、メタクリル基、アクリル基、スチリル基、アミノ基、ジアミノ基、メルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0033】
有機反応性基は、パーフルオロアルキル基を有してもよい。有機反応性基がパーフルオロアルキル基を有していれば、フッ素系の電解質膜の支持体との親和性がさらに高まる。これにより、イオン伝導性微粒子10と、電解質膜の支持体と、の密着性がさらに高まり、両者の界面に水が入り込みにくくなる。パーフルオロアルキル基としては、トリフルオロプロピル基、デカフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0034】
シランカップリング剤4としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等が挙げられる。この中でも反応性の点から、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤が好ましい。
【0035】
[イオン伝導性基3の含有量に対するシランカップリング剤4の含有量の比]
イオン伝導性基3の含有量に対するシランカップリング剤4の含有量の比(以下、単に含有量比、ともいう)は、0.10以上である。含有量比が0.10以上であれば、イオン伝導性微粒子10の表面において、シランカップリング剤4の原子団が十分に存在する。そのため、イオン伝導性微粒子10の表面が十分に疎水化される。その結果、イオン伝導性微粒子10の表面に水が入り込みにくくなり、イオン伝導性基3の溶出を抑制できる。含有量比は、好ましくは0.15以上であり、さらに好ましくは0.20以上である。
【0036】
含有量比は、好ましくは、0.50以下である。含有量比が0.50以下であれば、イオン伝導性微粒子10の表面にシランカップリング剤4の原子団が適度に存在する。この場合、シランカップリング剤4の原子団がイオン伝導性基3を取り囲んでしまうことがなく、イオン伝導性基3のイオン伝導性を十分に保つことができる。含有量比は、さらに好ましくは0.40以下であり、より好ましくは0.30以下である。
【0037】
含有量比は、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて測定する。具体的には、以下のとおりである。XPSスペクトルにおいて、イオン伝導性基3及びシランカップリング剤4を特徴づける原子を選択する。例えば、イオン伝導性基3が硫酸を含有する場合、イオン伝導性基3を特徴づける原子は、硫黄原子である。シランカップリング剤4を特徴づける原子は、珪素原子である。イオン伝導性微粒子10の表面における硫黄原子、珪素原子、及び、炭素原子の内殻準位からの光電子スペクトルを測定する。X線源にはAlKα線(10mA、15kV、Pass energy 40eV)を用いる。得られた光電子スペクトルにおいて、炭素原子の1s軌道に由来するC1sピークのピークトップが284.5eVに位置するよう結合エネルギーの補正を行う。XPSワイドスキャン分析において、光電子スペクトルにおけるピーク面積、検出感度係数及び原子量から、イオン伝導性微粒子10の表面におけるイオン伝導性基3の含有量(モル%)に対するシランカップリング剤4の含有量(モル%)の比を求める。
【0038】
[イオン伝導性微粒子10の製造方法]
次に、イオン伝導性微粒子10の製造方法の一例として、基材粒子2にTiO2を用いる場合について説明する。
【0039】
まず、TiOSO4(硫酸チタニル)水溶液を調整する。TiOSO4の濃度は、例えば0.4質量%以上15質量%以下とする。
【0040】
次に、TiOSO4水溶液を加熱することによって加水分解する。これによって、表面に硫酸根が残留したTiO2粒子が得られる。このTiO2粒子は、多量の水を含んでいることから含水酸化チタンと呼ばれる。
【0041】
次に、得られた含水酸化チタンを洗浄した後に乾燥(40℃~60℃、4時間~24時間)させることによって硫酸修飾TiO2粒子を得る。
【0042】
次に、硫酸修飾TiO2粒子をエージングする。エージング処理の条件は特に限定されないが、例えば、温度80℃~90℃、湿度80%RH~98%RHの高温高湿環境下に硫酸修飾TiO2粒子を5時間~24時間放置することによって行われる。
【0043】
エージングした硫酸修飾TiO2粒子と、シランカップリング剤4と、を反応させる。これにより、シランカップリング剤4のモノマーまたはオリゴマーが、基材粒子2の表面にあるヒドロキシ基-OH基とヒドロキシ基間の脱水縮合反応によって縮合する。この結果、連結基として-O-Si-結合が形成され、連結基を介してシランカップリング剤4の原子団が基材粒子2の表面に担持される。
【0044】
エージングした硫酸修飾TiO2粒子と、シランカップリング剤4と、を反応させる方法は特に限定されないが、なるべくシランカップリング剤4と水とを反応させない方法を用いる。シランカップリング剤4と水とを反応させないことにより、シランカップリング剤4をなるべく自己縮合させないことが可能である。自己縮合とは、次のような反応である。シランカップリング剤4を水と反応させると、モノマーのシランカップリング剤4が、加水分解により有機トリシラノールに変化する。有機トリシラノールの一部は互いに縮合してオリゴマーに変化する。これがシランカップリング剤4の自己縮合である。モノマーのシランカップリング剤4が基材粒子2の表面に担持すると、基材粒子2の表面が過度に疎水化されることがない。そのため、イオン伝導性が低下しにくい。したがって、シランカップリング剤4は、なるべく自己縮合させないことが好ましい。
【0045】
エージングした硫酸修飾TiO2粒子と、シランカップリング剤4と、を反応させる方法は、ビーズミルに入れて反応させる方法や、超音波による反応等が挙げられる。ビーズミルにより処理することで、ビーズミルにより処理された粒子は、ビーズの衝突力により粒子が一次粒子に解れ、一次粒子の状態でシランカップリング剤処理されることで、粒子に対して均一な処理が可能となる。
【0046】
ビーズミルでの処理は、周速5~15m/sで粘度の低下が確認できるまで継続する。分散の際はガラスビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ等のメディアビーズを使用することができる。ビーズ径は0.015~0.5mmである。好ましくは0.03~0.1mmである。
【0047】
シランカップリング剤4の添加量は、硫酸修飾TiO2粒子に対して1~30質量%が好ましく、さらには5~20質量%が好ましい。
【0048】
硫酸修飾TiO2粒子とシランカップリング剤4の反応は、任意に触媒を添加しても良い。
【0049】
触媒としては、特に限定されないが、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジメチルスズジネオデカノエート、ビス(2-エチルヘキサン酸)スズ等のスズ系化合物;2-エチルヘキサン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛等の亜鉛化合物;2-エチルヘキサン酸チタン、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトナート)等のチタン化合物;2-エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト等のコバルト化合物;2-エチルヘキサン酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス等のビスマス化合物;ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、2-エチルヘキサン酸ジルコニル、ナフテン酸ジルコニル等のジルコニウム化合物;アミン化合物等が挙げられる。
【0050】
以上の工程により、イオン伝導性微粒子10が完成する。
【0051】
[実施形態の変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0052】
(変形例1)
上記実施形態では、基材粒子2は、金属酸化物であったが、特にこれに限定されない。基材粒子2は例えば、カーボンクラスター、無定形炭素微粒子などであってもよい。
【0053】
(変形例2)
上記実施形態では、イオン伝導性基3は、硫酸を含有したが、特にこれに限定されない。イオン伝導性基3は例えば、ヒドロキシ基(OH)、スルホン酸基(SO3H)、カルボキシ基(COOH)、ホスホノ基(PO(OH)2)、リン酸二水素エステル基(O-PO(OH)2)、ホスホノメタノ基(CH(PO(OH)2))、ジホスホノメタノ基(C(PO(OH)2)2)、ホスホノメチル基(CH2(PO(OH)2))、ジホスホノメチル基(CH(PO(OH)2)2)、及び、ホスフィン基(PHO(OH))からなる群の中から選ばれた1種以上の基であってもよい。
【0054】
(変形例3)
上記実施形態では、イオン伝導性微粒子10は、プロトン伝導性であったが、特にこれに限定されない。イオン伝導性微粒子10は、水酸化物イオン伝導性でもよい。
【実施例0055】
以下において、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0056】
(試験番号1~11のサンプルの作製)
まず、硫酸チタニルを水に溶解して調製したTiOSO4水溶液(濃度3.2質量%)を80℃で1時間加熱することによって含水酸化チタンを作製した。
【0057】
次に、含水酸化チタンを洗浄した後に乾燥(60℃、16時間)させることによって硫酸修飾TiO2粒子を得た。
【0058】
次に、硫酸修飾TiO2粒子(一次粒子径10~20nm)20gに対し、表1に記載のシランカップリング剤4を0.1~5g、及びメチルエチルケトン78g配合し、ビーズミル条件周速8m/sにて30分処理し回収した。なお、その他の条件は、試験番号1~11においてすべて同じとした。
【0059】
(含有量比の測定)
試験番号1~11のイオン伝導性微粒子10を用いて、XPSにより含有量比を測定した。具体的には、含有量比は、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて測定する。具体的には、以下のとおりとした。X線光電子分光装置(AXIS NOVA、KRATOS社製)を用いて、イオン伝導性微粒子10の表面における硫黄原子、珪素原子、及び、炭素原子の内殻準位からの光電子スペクトルを測定した。X線源にはAlKα線(10mA、15kV、Pass energy 40eV)を用いた。得られた光電子スペクトルにおいて、炭素原子の1s軌道に由来するC1sピークのピークトップが284.5eVに位置するよう結合エネルギーの補正を行った。XPSワイドスキャン分析において、光電子スペクトルにおけるピーク面積、検出感度係数及び原子量から、イオン伝導性微粒子10の表面におけるイオン伝導性基3の含有量(モル%)に対するシランカップリング剤4の含有量(モル%)の比を求めた。求めた含有量比を表1に示す。なお、含有量比は、添加するシランカップリング剤4の配合量を調整することにより調整した。
【0060】
(プロトン伝導性の低下率の測定)
まず、試験番号1~11のイオン伝導性微粒子10を用いて冷間等方圧プレス(3000kgf/cm2)で圧粉体を形成した後、JISR1661(ファインセラミックスイオン伝導体の導電率測定方法)に従って、測定用の電気化学セルを作製した。
【0061】
次に、Bio-logic社製のインピーダンスアナライザーVMP-300を用いて、交流インピーダンス法により温度80℃、湿度80%における電気化学セルの初期プロトン伝導度を測定した。
【0062】
次に、電気化学セルを80℃、80%RHの環境下にさらに100時間経過させた後、Bio―logic社製のインピーダンスアナライザーVMP-300を用いて、交流インピーダンス法により80℃における電気化学セルの100hr経過後のプロトン伝導度を測定した。
【0063】
プロトン伝導度の低下率を表1にまとめて示す。プロトン伝導度の低下率とは、初期プロトン伝導度をa、100hr経過後のプロトン伝導度をbとしたときに、次の式(1)で定義される値である。
プロトン伝導度の低下率=(初期プロトン伝導度a-100hr経過後のプロトン伝導度b)/初期プロトン伝導度a×100 (1)
【0064】
【0065】
(試験結果)
表1に示すように、試験番号2~11では、含有量比が0.10以上であった。そのため、試験番号1よりもプロトン伝導度の低下率が低かった。つまり、プロトン伝導性の低下を抑制できた。このような結果が得られたのは、含有量比が適切であったため、イオン伝導性基3の溶出を抑制できたからである。
【0066】
試験番号2~7及び9~11ではさらに、含有量比が0.50以下であった。そのため、初期プロトン伝導度が、試験番号8よりも高かった。
【0067】
一方、試験番号1では、含有量比が0.10未満であった。そのため、イオン伝導性基3の溶出を抑制できず、プロトン伝導性が低下した。