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特開2022-187242樹脂組成物、音響部材、超音波トランスデューサ、超音波探触子、および超音波診断装置
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  • 特開-樹脂組成物、音響部材、超音波トランスデューサ、超音波探触子、および超音波診断装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187242
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、音響部材、超音波トランスデューサ、超音波探触子、および超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20221212BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
A61B8/00
H04R17/00 330J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095163
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川路 宗矩
(72)【発明者】
【氏名】小島 良和
(72)【発明者】
【氏名】森田 聖和
【テーマコード(参考)】
4C601
5D019
【Fターム(参考)】
4C601EE10
4C601EE14
4C601EE16
4C601GB25
4C601GB31
5D019AA18
5D019AA26
5D019FF04
5D019GG01
5D019GG06
(57)【要約】
【課題】粒子を均一に分散させることができ、さらに硬化物のショート耐性、切断加工性、生産効率を高めることができる、樹脂組成物と、上記樹脂組成物の硬化物を含む超音波トランスデューサ、音響部材、超音波探触子および超音波診断装置を提供すること。
【解決手段】上記樹脂組成物は、超音波探触子に用いられる音響部材の製造に用いられる樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と、前記熱硬化性樹脂に分散された、2種類以上の粒子と、を含み、前記2種類以上の粒子は、前記熱硬化性樹脂よりも密度が大きい、金属粒子以外の粒子である重粒子と、前記熱硬化性樹脂よりも密度が小さい軽粒子と、を含み、前記樹脂組成物の硬化物の全体積に対する、前記重粒子および前記軽粒子の含有量の合計は、10体積%以上である、樹脂組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子に用いられる音響部材の製造に用いられる樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂と、
前記熱硬化性樹脂に分散された、2種類以上の粒子と、を含み、
前記2種類以上の粒子は、
前記熱硬化性樹脂よりも密度が大きい、金属粒子以外の粒子である重粒子と、
前記熱硬化性樹脂よりも密度が小さい軽粒子と、を含み、
前記樹脂組成物の硬化物の全体積に対する、前記重粒子および前記軽粒子の含有量の合計は、10体積%以上である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記軽粒子は、前記重粒子よりも、体積基準の粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)が小さい、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記重粒子は、密度が3.5g/cm以上7.2g/cm以下の粒子である、
請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記重粒子は、絶縁体または半導体を材料とする粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
硬化物のガラス転移温度は80℃以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記重粒子は、体積基準の粒度分布における累積値が10%となる粒径(d10)が0.5μm以上であり、前記累積値が90%となる粒径(d90)が22.5μm以下である粒子を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記軽粒子は、体積基準の粒度分布における累積値が10%となる粒径(d10)が0.5μm以上であり、前記累積値が90%となる粒径(d90)が22.5μm以下である粒子を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
超音波トランスデューサに用いられる音響部材であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む、音響部材。
【請求項9】
前記硬化物の超音波の伝搬方向の厚みが10μm以上である、請求項8に記載の音響部材。
【請求項10】
前記硬化物の超音波の伝搬方向の厚みが3000μm以下である、請求項8または9に記載の音響部材。
【請求項11】
超音波トランスデューサの音響整合層である、請求項8~10のいずれか一項に記載の音響部材。
【請求項12】
超音波トランスデューサのバッキング材である、請求項8~10のいずれか一項に記載の音響部材。
【請求項13】
超音波探触子に用いられる超音波トランスデューサであって、請求項8~12のいずれか一項に記載の音響部材を含む、超音波トランスデューサ。
【請求項14】
請求項13に記載の超音波トランスデューサを含む、超音波探触子。
【請求項15】
請求項14に記載の超音波探触子を含む、超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、音響部材、超音波トランスデューサ、超音波探触子、および超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探触子は、超音波診断装置に接続され、または超音波診断装置と通信可能に構成されたものを、体表に当てるか、または、体内へ挿入するという簡単な操作で、生体組織の形状および動きなどを診断画像として得るために用いられる。
【0003】
超音波探触子は、超音波を送受信する圧電材と、生体に密着させる音響レンズと、を有し、これらの間に音響整合層が配置され、圧電材に対して生体と反対側にバッキング材が配置されている。音響整合層は、超音波が、圧電材から音響レンズにかけて、音響インピーダンスの差を小さくするように変化させるための部材である。音響整合層により、超音波が圧電材と生体との間で反射しにくくなり、診断画像の精度を向上させることができる。また、バッキング材は、圧電材から、生体とは反対側に送波される超音波を減衰させるための部材である。このような音響整合層やバッキング材として、様々なものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、圧電板上に高さ寸法を一定とした一対の制限材を設けて上記制限材と同一材の溶融樹脂を塗布し、上記溶融樹脂を上面から押圧して形成させた、音響整合層が開示されている。特許文献1によれば、制限材を設けてこれと同一材の溶融樹脂を押圧することにより、音響整合層の厚みが均一でバラツキが小さく、経済性に優れ、超音波探触子の送受波特性を良好とすることができる、とされている。
【0005】
また、特許文献2には、圧電振動子の共振周波数fと反共振周波数fとの間の周波数のλ/4(λは該周波数に対応する波長)に設定された厚みの板状体が、圧電振動子に貼着され、液状樹脂を塗布して固化させた固体樹脂層が放射面側に形成された、音響整合層が開示されている。特許文献2では、音響整合層を多層構造とし、上記固体樹脂層を、1層目となる上記板状体による帯域特性を補正するように研磨することで、帯域特性を良好とし、かつ超音波探触子の生産性を良好にすることができる、とされている。
【0006】
さらに、エポキシ樹脂などの樹脂材料に粒子を混合させることで、音響整合層やバッキング材の音響インピーダンスを調整できることが知られている。
【0007】
例えば、特許文献3には、25~45重量%のタングステン粒子と、15~35重量%のシリコーン粒子と、40~60重量%のエポキシとを含む、音響減衰材料を有する、超音波トランスデューサ装置が開示されている。特許文献3では、タングステン粒子とシリコーン粒子とが、音響減衰材料に含まれることで、音響減衰度を維持しつつ、音響インピーダンスを低下させることができた、とされている。
【0008】
また、特許文献4には、複数の第1の重粒子および複数の第2の軽粒子が投入されたマトリクス材料を含む複合材料を含み、上記複数の第1の重粒子は、上記複数の第2の軽粒子は、上記複数の第1の重粒子および上記マトリクス材料の所望の複合体密度の約100%から約200%の間の密度を有する、整合層が開示されている。特許文献4では、重粒子および軽粒子を整合層に含ませ、重粒子の含有量を調整することで、音響インピーダンスを制御できる、とされている。また、特許文献4では、マトリクス材料として、エポキシ樹脂を用い、これを室温で硬化させている。また、特許文献4では、重粒子としてはタングステン粒子、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)粒子、金粒子および白金粒子を用いるとされており、軽粒子としては炭化ケイ素粒子およびアルミナ粒子を用いるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-115893号公報
【特許文献2】特開平03-172096号公報
【特許文献3】特開2005-177479号公報
【特許文献4】特開2012-235524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3および特許文献4に記載されているような、タングステン粒子は、樹脂材料よりも密度が大きい。そのため、樹脂材料を硬化させるために加熱すると、熱硬化する前に樹脂の粘度が低下するため、粒子が沈降しやすくなることがある。粒子が沈降すると、粒子が整合層内で均一に分散せず、粒子の存在が多い領域と、粒子の存在が少ない領域とで、音響インピーダンスのバラツキが生じてしまうおそれがある。また、タングステン粒子は金属粒子であるため、硬化物の切断加工性が低下するおそれがある。
【0011】
また、タングステンは、金属としては電気抵抗が大きい材料ではあるが、超音波探触子の出力向上や使用電圧の高電圧化に対応させようとすると、ショートしてしまうおそれがある。
【0012】
また、特許文献4に記載されているように、樹脂材料を室温で硬化させようとすると、樹脂の粘度低下を抑制できる一方で、硬化するまでの時間が長くなり、生産効率が低下してしまう。そして、複数の第1の重粒子および複数の第2の軽粒子はそれぞれ、マトリクス材料(樹脂材料)よりも密度が大きいため、整合層内で粒子の沈降が生じてしまうおそれがある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、粒子を均一に分散させた硬化物を得ることができ、さらに硬化物のショート耐性、切断加工性、生産効率を高めることができる、樹脂組成物と、上記樹脂組成物の硬化物を含む音響部材、超音波トランスデューサ、超音波探触子および超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、超音波探触子に用いられる音響部材の製造に用いられる樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と、前記熱硬化性樹脂に分散された、2種類以上の粒子と、を含み、前記2種類以上の粒子は、前記熱硬化性樹脂よりも密度が大きい、金属粒子以外の粒子である重粒子と、前記熱硬化性樹脂よりも密度が小さい軽粒子と、を含み、前記樹脂組成物の硬化物の全体積に対する、前記重粒子および前記軽粒子の含有量の合計は、10体積%以上である。
【0015】
また、上記課題を解決するための、本発明の一実施形態に係る音響部材は、超音波トランスデューサに用いられる音響部材であって、上記樹脂組成物の硬化物を含む、音響部材である。
【0016】
また、上記課題を解決するための、本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサは、上記音響部材を含む、超音波トランスデューサである。
【0017】
また、上記課題を解決するための、本発明の一実施形態に係る超音波探触子は、上記超音波トランスデューサを含む、超音波探触子である。
【0018】
また、上記課題を解決するための、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置は、上記超音波探触子を含む、超音波診断装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、粒子を均一に分散させた硬化物を得ることができ、硬化物のショート耐性、切断加工性、生産効率を高めることができる、樹脂組成物と、上記樹脂組成物の硬化物を含む音響部材および超音波探触子および超音波診断装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る、超音波トランスデューサの全体構造の一例を示す断面図である
図2図2は、超音波診断装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0022】
1.樹脂組成物
本発明は、後述する超音波トランスデューサに含まれる音響部材に使用するための樹脂組成物に関する。本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、前記熱硬化性樹脂に分散された、2種類以上の粒子と、を含む。
【0023】
1-1.熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂は、加熱により硬化する樹脂である。熱硬化性樹脂の例には、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、などが含まれる。これらのうち、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含むことで、超音波探触子の洗浄時における耐薬品性を高めつつ、硬化時に樹脂組成物が収縮することによる、樹脂組成物の硬化物(以下、単に「硬化物」という。)の反り変形や破断を生じにくくすることができる。さらに、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含むことで、硬化物における音速や音響インピーダンスを調整しやすくすることができ、硬化物を音響整合層として用いたとき、超音波の伝搬損失を生じにくくさせることができる。また、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含むことで、これらの特性に加え、超音波トランスデューサの製造時における、環境の温度変化による硬化物の膨張、および、超音波トランスデューサの使用時における、圧電材の発熱による、硬化物の膨張を抑制することができる。これにより、硬化物の膨張による、圧電材の破損を生じにくくすることができる。
【0024】
エポキシ樹脂の例には、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型のエポキシ樹脂を含むグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、
ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂などのグリシジルエステル型エポキシ樹脂、
芳香族アミン型エポキシ樹脂、トリグリシジル-p-アミノフェノールといったアミノフェノール型エポキシ樹脂などのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、
フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのビフェニルノボラックエポキシ樹脂
リン変性エポキシ樹脂、液晶性エポキシ樹脂ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、シアヌル酸型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂および長鎖脂肪族型エポキシ樹脂などが含まれる。
エポキシ樹脂の市販品の例としては、jER828(三菱ケミカル株式会社製)などが含まれる。
【0025】
これらのうち、樹脂組成物の保存安定性を高める観点から、エポキシ樹脂は、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、またはグリシジルアミン型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0026】
ウレタン樹脂の例には、公知のポリウレタン樹脂を用いることができる。ポリウレタン樹脂を構成するポリオール化合物としては、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール(ポリジエン系ポリオールを水素添加したポリオールを含む。)、ポリブタジエン系ポリオール、ポリイソプレン系ポリオール、アクリル樹脂系ポリオールなどがある。
【0027】
シリコーン樹脂の例には、室温硬化型シリコーンゴム、加熱硬化型シリコーンゴム、縮合反応型シリコーンゴムパウダー、付加反応型シリコーンゴムなどが含まれる。具体的には、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン、有機樹脂変性シリコーンレジン、さらに、メトキシ基やエトキシ基などのアルコキシ基とエポキシ基、メタクリル基、メルカプト基といった反応性官能基を有するシリコーンオリゴマー、などが含まれる。
【0028】
熱硬化性樹脂は、主剤と硬化剤とを硬化時に混合する2液型であってもよいし、1液型であってもよい。
【0029】
熱硬化性樹脂(2液型であるときは主剤)の、25℃における粘度は、特に限定されないが、1Pa・s以上30Pa・s以下であることが好ましく、8Pa・s以上20Pa以下であることがより好ましく、12Pa・s以上15Pa・s以下であることがさらに好ましい。1Pa・s以上であると、樹脂組成物の加熱時(硬化時)に、後述する重粒子および軽粒子が、いずれも沈降しにくくなり、30Pa・s以下であると、本発明の樹脂組成物の、超音波探触子の圧電材への塗布性を高めることができる。なお、本明細書中において、「塗布性」は、圧電材などの基材に対する樹脂組成物の塗布のしやすさを意味する。また、上記粘度は、複数の熱硬化性樹脂を混合することにより調整してもよいし、エポキシ樹脂希釈剤などの反応性希釈剤を添加して調整してもよいし、溶剤を添加して調整してもよい。ただし、重粒子または軽粒子の凝集を抑制したり、塗布後の乾燥の手間を少なくして生産効率を高めたりする観点からは、熱硬化性樹脂は、反応性希釈剤または溶剤を含まないことが好ましい。上記粘度は、回転粘度計、振動粘度計などで測定することができる。本実施の形態では、レオメータ(Anton Paar社製、MCR102)によって、上記粘度は測定される。
【0030】
熱硬化性樹脂の硬化前の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、150以上50000以下であることが好ましく、200以上30000以下であることがより好ましい。上記範囲にあることで、上記重量平均分子量(Mw)が150以上であると、硬化前の熱硬化性樹脂が揮発することをより抑制し、硬化物の耐久性を高めることができる。また、上記重量平均分子量(Mw)が50000以下であると、熱硬化性樹脂の粘度を高めすぎずに、樹脂組成物の塗布性をより高めることができる。上記重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でポリスチレンを標準として測定される。
【0031】
熱硬化性樹脂の硬化前の密度は、後述する重粒子より小さく、軽粒子よりも大きければ、特に限定されない。音響インピーダンスを調整しやすくする観点から、熱硬化性樹脂の密度は、1.0g/cm以上1.4g/cm以下であることが好ましく、1.1g/cm以上1.3g/cm以下であることがより好ましい。熱硬化性樹脂の密度が1.0g/cm以上であることで、超音波トランスデューサにおける超音波の反射を抑制するのに、より十分な音響インピーダンスを得ることができる。熱可塑性樹脂の密度が1.4g/cm以下であることで、樹脂組成物の硬化物内における音速が低下することによる、音響インピーダンスの低下をより十分に抑制することができる。また、熱硬化性樹脂の硬化前の密度が、1.1g/cm以上1.3g/cm以下であると、熱硬化性樹脂に含まれる粒子のうち、より多くの粒子が干渉沈降を生じさせることができるため、熱硬化性樹脂中により分散しやすくなる。
【0032】
本実施の形態において、硬化剤は、50℃以上200℃以下の温度で加熱されることにより、熱硬化性樹脂と架橋反応を起こし、熱硬化性樹脂を硬化させる。
【0033】
熱硬化性樹脂のうち、エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤の例には、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、イミダゾリウム塩系硬化剤、トリアンジントリチオール系硬化剤、チオール系硬化剤、酸無水物系硬化剤などが含まれる。
【0034】
アミン系硬化剤の例には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、2,2‘ジメチル-4,4’メチレンビス(シクロへキシルアミン)4,4‘-メチレンビス(2-メチルシクロヘキサンアミン)、3,3‘-ジメチル-ジアミノジシクロヘキシルメタンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、N-アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、などの環状脂肪族ポリアミン、m-キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォンなどの芳香族アミン、ポリアミド樹脂、ピペリジン、N,N-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリスジメチルアミノメチルフェノールなどが含まれる。
【0035】
イミダゾール系硬化剤の例には、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチルー4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、などのイミダゾール類、などが含まれる。
【0036】
イミダゾリウム塩系硬化剤の例には、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテートなどが含まれる。
【0037】
チオール系硬化剤の例には、1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオールなどの、炭化水素型チオール系硬化剤、
3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、3,4-ジメトキシブタン-1,2-ジチオールなどの、エーテル型チオール系硬化剤、
1,3-ジメルカプト-2-プロパノール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノールなどの、アルコール型チオール型硬化剤、
などが含まれる。
【0038】
酸無水物系硬化剤の例には、無水フタル酸、無水トリメリット酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、およびメチルヘキサヒドロフタル酸などが含まれる。
【0039】
これらのうち、硬化剤は、耐熱性および耐薬品性をより高める観点からは、アミン系硬化剤またはイミダゾール系硬化剤が好ましい。アミン系硬化剤の市販品の例には、jERキュア113(三菱ケミカル株式会社製)が含まれる。イミダゾール系硬化剤の例には、キュアゾール2E4MZ、キュアゾール1B2MZ(いずれも四国化成工業株式会社製)が含まれる。
【0040】
ウレタン樹脂を硬化させる硬化剤としては、イソシアネート化合物を用いることができる。イソシアネート化合物は、分子中に2個以上のイソシアネート基を持つ化合物である。イソシアネート化合物の例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、シクロヘキサンジイソシアネート、リジンエステルジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート(LDI)、ウンデカントリイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、および上記イソシアネート化合物の重合体、誘導体、変性体、水素添加体等などが含まれる。
【0041】
硬化剤の含有量は、特に限定されない。熱硬化性樹脂の市販品を用いる場合は、各製品に規定された量を用いることができる。
【0042】
熱硬化性樹脂の硬化後のガラス転移温度Tg1は、特に限定されないが、80℃以上200℃以下であることが好ましく、100℃以上180℃以下であることがより好ましい。上記Tg1が80℃以上であると、樹脂組成物のガラス転移温度Tg1を高めることができるため、樹脂組成物を塗布させるときに、樹脂組成物が硬化してしまうことを抑制することができる。さらに、上記Tg1が100℃以上であると、硬化物の耐薬品性を、より高めることができる。上記Tg1が200℃以下であると、樹脂組成物が硬化するまでにかかる時間を、短縮させることができる。さらに、上記Tg1が180℃以下であることで、硬化後に、温度が常温に戻るまでの温度差が低くなるため、樹脂組成物と、樹脂組成物が塗布された基板との線膨張係数の差による反り変形を生じにくくさせることができる。上記ガラス転移温度は、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて、温度の昇降速度を10℃/min、昇温範囲を0℃から150℃までとする昇温・冷却条件によって測定される。
【0043】
1-2.粒子
本実施の形態に係る樹脂組成物は、2種類以上の粒子を含む。上記2種類以上の粒子は、上記熱硬化性樹脂よりも密度が大きい重粒子と、上記熱硬化性樹脂よりも密度が小さい軽粒子と、を含む。
【0044】
特許文献4に記載された発明では、2種類以上の粒子を樹脂中に混合させているが、これらの粒子の密度がいずれも樹脂の密度よりも大きいため、熱硬化する際に熱硬化性樹脂の粘度が低下したときに、上記粒子がいずれも沈降しやすくなり、加熱している間の粒子の沈降が顕著に生じてしてしまう。沈降が生じると、硬化物内において、粒子が偏って存在することになる。そのため、上記硬化物を超音波探触子の音響部材として用いたときに、粒子の存在が多い領域と、粒子の存在が少ない領域とで、音響インピーダンスにバラツキが生じてしまうおそれがある。
【0045】
また、密度が樹脂よりも小さい粒子のみを含ませると、熱硬化の際に粒子が浮上してしまい、樹脂中で粒子が偏って存在してしまう。そのため、沈降する場合と同様に、整合層内の音響インピーダンスにバラツキが生じてしまう。
【0046】
これに対し、上記樹脂組成物では、樹脂よりも密度が大きい粒子と、樹脂よりも密度が小さい粒子とを、樹脂中に含ませて、樹脂中で干渉沈降を起こさせている。これにより、加熱時の粒子の沈降を抑制し、硬化物中の粒子の分散性を高めることができる。
【0047】
干渉沈降は、同時に沈降しつつある他の粒子の影響を受けながら沈降する現象である。干渉沈降が起きると、粒子の沈降速度は、ほかの粒子の影響を受けないで沈降するときの沈降速度に比べて、遅くなる。本発明に係る樹脂組成物は、樹脂中において、重粒子は沈降しようとするが、軽粒子は浮上しようとするため、互いの粒子が干渉し合い、粒子の沈降および浮上が起こりにくくなる。そのため、粒子が沈降および浮上により粒子の存在の多少にバラツキが生じる前に、樹脂を硬化させることができ、硬化物中における、粒子の分散性を高めやすくなる。
【0048】
また、特許文献4のように、熱硬化性樹脂を室温で硬化させると、加熱による硬化に比べて、熱硬化性樹脂の粘度が低下しにくく、粒子の沈降を抑制することができる。しかしながら、熱硬化性樹脂が硬化するまでにかかる時間が、加熱して硬化するときよりも長くなってしまい、生産効率が低下する問題があった。
【0049】
これに対して、上記樹脂組成物では、上述したように、加熱時の粒子の沈降を抑制することができるため、粒子の沈降を抑制しつつ、加熱による硬化を行うことができる。室温で硬化させるよりも硬化するまでの時間を短縮して、生産効率を向上させることができる。
【0050】
1-2-1.重粒子
重粒子は、熱硬化性樹脂よりも密度が大きい、金属粒子以外の粒子である。
【0051】
樹脂組成物において、重粒子は1種類のみ含まれていてもよく、2種類以上含まれていてもよい。樹脂組成物の粘度を調整しやすくする観点からは、2種類以上含まれることが好ましい。
【0052】
特許文献3のように、タングステン粒子などの金属粒子を用いると、金属粒子の展延性により、硬化させた樹脂組成物の切断しようとすると、刃の目詰まりや、刃こぼれ、および硬化物の変形が生じ、切断加工性が低下してしまうおそれがある。また、金属粒子が持つ電気伝導性により、音響部材のショート耐性を低下させてしまうおそれもある。タングステンは、金属としては電気抵抗が大きい材料ではあるが、超音波探触子の出力向上や使用電圧の高電圧化に対応するため、超音波探触子に用いる音響部材には、従来よりも高いショート耐性が要求されている。
【0053】
また、金属は表面自由エネルギーが比較的大きいため、表面自由エネルギーが比較的小さい樹脂との親和性が低い。そのため、タングステン粒子などの金属粒子は樹脂組成物中で沈降しやすいと考えられる。これに対し、金属以外の無機材料は、表面自由エネルギーが比較的小さく、そのため金属以外の無機材料の粒子は、金属粒子よりも沈降しにくいと考えられる。
【0054】
そのため、重粒子を金属粒子以外の粒子とすることで、切断加工性およびショート耐性を、それぞれ高めることができる。さらに、重粒子として、金属以外の粒子を用いることで、粒子の表面エネルギーを低くし、熱硬化性樹脂との分散性を高めることができる。
【0055】
このような重粒子の材料の例には、フェライト、酸化タングステン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウムなどが含まれる。これらのうち、重粒子の材料は、熱硬化性樹脂中における分散性をより高める観点から、金属酸化物であることが好ましく、樹脂組成物の硬化物に対する切断加工性をより高める観点から、フェライトまたは酸化タングステンであることがより好ましく、フェライトであることがさらに好ましい。
【0056】
ショート耐性をより高める観点から、重粒子は絶縁体または半導体であることが好ましい。絶縁体の例としては、フェライト、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウムなどが含まれる。半導体の例としては、酸化タングステン、などが含まれる。なお、本明細書において粒子が「絶縁体または半導体である」とは、当該粒子の体積抵抗率が0.1Ω・cm以上であることを意味する。また、粒子が「絶縁体」であるとは、当該粒子の体積抵抗率が、10Ω・cm以上であることを意味する。
【0057】
重粒子の密度は、熱硬化性樹脂よりも大きければ、特に限定されないが、熱硬化性樹脂の密度に対して、2倍以上9倍以下であることが好ましく、3倍以上7倍以下であることがより好ましい。2倍以上であると、樹脂組成物の密度をより高めて、所望の音響インピーダンスに調整しやすくすることができ、3倍以上であると、樹脂組成物の密度をさらに高めて、所望の音響インピーダンスにより調整しやすくすることができる。9倍以下であると、より重粒子の沈降が生じにくくなり、7倍以下であると、さらに重粒子の沈降が生じにくくなる。
【0058】
このような条件を満たしやすくする観点から、重粒子は、密度が3.0g/cm以上10.0g/cm以下であることが好ましく、3.5g/cm以上7.2g/cm以下であることが好ましく、4.0g/cm以上7.0g/cm以下であるであることがより好ましく、4.0g/cm以上6.0g/cm以下であることがさらに好ましい。3.5g/cm以上であることで、より軽粒子との干渉沈降を生じやすくさせることができ、7.2g/cm以下であると、より重粒子が沈降しにくくなる。
【0059】
重粒子の形状は、特に限定されず、球形であってもよく、不定形であってもよい。重粒子を沈降させにくくする観点から、重粒子は、不定形の粒子を含むことが好ましい。不定形の粒子は、同質量の球形粒子に比べて表面積が大きくなり、粒子どうしが接触しやすい。そのため、重粒子が不定形粒子を含むことで、軽粒子との接触による、干渉沈降がより起きやすくなる。これにより、粒子の沈降が生じにくくなる。なお、本明細書において、「不定形の粒子」とは、表面に凹凸を有する粒子のことを意味し、例えば、真球度が0.9以下である粒子である。重粒子が不定形であるか否かは、例えば、SEMによる観察画像によって、判別することができる。
【0060】
重粒子の粒径は、特に限定されないが、重粒子は、粒径が0.1μm以上25.0μm以下である粒子を含むことが好ましく、0.5μm以上22.5μm以下である粒子を含むことがより好ましく、0.8μm以上20.0μm以下である粒子を含むことがより好ましい。粒子を含む樹脂の粘度と、粒子の比表面積とは、正の相関があることから、重粒子が、上記粒径が0.1μm以上である粒子を含むことで、重粒子の比表面積の総和を小さくして、樹脂組成物の粘度を調整しやすくすることができるため、樹脂組成物の塗布性をより高めることができる。また、上記粒径が25.0μm以下である粒子を含むことで、樹脂組成物の硬化物に対する切断加工性をより高めることができる。また、重粒子が、上記粒径が上記範囲にある粒子を含むことで、硬化物の音響インピーダンスを調整しやすくすることができる。上記粒径および粒度分布は、樹脂組成物の硬化物を切断し、断面を撮影した画像を画像処理して測定される。
【0061】
樹脂組成物の硬化物を、音響整合層として用いる場合、重粒子の粒径は、超音波トランスデューサの中心周波数に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、音響整合層の超音波の伝搬方向の厚さは、波長の1/4の大きさで設定されるとき、重粒子の粒径は、上記厚さよりも小さいことが好ましい。具体的には、周波数10MHzの超音波の、音響整合層における音速が2500m/secの場合、音響整合層の超音波の伝搬方向の厚さは、62.5μmで設定される。このとき、樹脂組成物(音響整合層)に含まれる重粒子の粒径は62.5μm以下であることが好ましい。超音波を減衰させにくくする観点から、重粒子は、上記測定方法により得られる、体積基準の粒度分布における累積値が90%となる粒径(d90)が、超音波の波長の1/8以下であることが好ましい。これにより、重粒子が超音波を吸収または散乱させることを、より抑制することができるため、超音波を減衰させにくくすることができる。
【0062】
樹脂組成物の硬化物をバッキング材として用いるとき、重粒子は、上記測定方法により得られる、体積基準の粒度分布における累積値が10%となる粒径(d10)が、超音波の波長の1/8以上である粒子を含むことが好ましい。重粒子が、上記粒径(d10)が、超音波の波長の1/8以上である粒子を含むと、バッキング材中で、重粒子が超音波を吸収し、または散乱させやすくなるため、超音波を減衰させやすくすることができる。
【0063】
重粒子は、上記測定方法により得られる、体積基準の粒度分布における累積値が10%となる粒径(d10)が0.5μm以上であり、上記累積値が90%となる粒径(d90)が22.5μm以下である粒子を含むことが好ましい。重粒子が、d10が0.5μm以上である粒子を含むことで、樹脂組成物の塗布性をより高めることができ、d90が22.5μm以下である粒子を含むことで、樹脂組成物の硬化物に対する切断加工性をより高めることができる。また、重粒子が上記のような粒度分布を有する粒子を含むことで、硬化物の音響インピーダンスを調整しやすくすることができる。上記観点から、d10が0.8μm以上であり、d90が20.0μm以下である粒子を含むことがより好ましく、d10が1.0μm以上であり、d90が18.0μm以下である粒子を含むことがさらに好ましい。
【0064】
重粒子の、上記測定方法により得られる、体積基準の体粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)は、特に限定されないが、重粒子は、上記d50が22.5μm以下である粒子を含むことが好ましく、0.5μm以上22.5μm以下である粒子を含むことが好ましく、0.8μm以上20.0μm以下である粒子を含むことがより好ましく、1.0μm以上15.0μm以下である粒子を含むことがさらに好ましく、1.0μm以上14.0μm以下である粒子を含むことが特に好ましい。上記d50が0.5μm以上である粒子を含むことで、樹脂組成物の塗布性をより高めることができ、22.5μm以下である粒子を含むことで、樹脂組成物の硬化物に対する切断加工性をより高めることができる。また、重粒子が、上記d50が上記範囲にある粒子を含むことで硬化物の音響インピーダンスを調整しやすくすることができる。樹脂組成物の硬化物を、音響整合層として用いる場合、超音波を減衰させにくくする観点から、重粒子は、d50が22.5μm以下の粒子を含むことが好ましい。
【0065】
重粒子の含有量は、特に限定されないが、硬化させた樹脂組成物の全体積に対して、1体積%以上30体積%以下であることが好ましく、5体積%以上20体積%以下であることがより好ましく、5体積%以上15体積%以下であることがさらに好ましい。上記含有量が1体積%以上であると、軽粒子との干渉沈降を生じさせやすくすることができ、30体積%以下であると、重粒子を沈降しにくくさせることができる。
【0066】
1-2-2.軽粒子
軽粒子は、熱硬化性樹脂よりも密度が小さい粒子である。このような軽粒子の材料の例には、シリコーンゴム、中空ガラスビーズなどが含まれる。樹脂組成物の硬化物をバッキング材として用いる場合、軽粒子の材料は、超音波を減衰させやすくする観点から、有機材料であることが好ましい。上記有機材料の例には、シリコーンゴムなどが含まれる。
【0067】
樹脂組成物において、軽粒子は1種類のみ含まれていてもよく、2種類以上含まれていてもよい。樹脂組成物の粘度を調整しやすくする観点からは、2種類以上含まれることが好ましい。
【0068】
軽粒子の密度は、熱硬化性樹脂よりも小さければ、特に限定されないが、熱硬化性樹脂の密度に対して、0.4倍以上1倍未満であることが好ましく、0.8倍以上1倍未満であることがより好ましい。0.4倍以上であると、より軽粒子が樹脂組成物内で浮上しにくくなり、0.8倍以上であると、さらに軽粒子が樹脂組成物内で浮上しにくくなる。また、1倍未満であると、所望の音響インピーダンスに調整しやすくすることができる。
【0069】
このような条件を満たしやすくする観点から、軽粒子は、密度が0.5g/cm以上1.2g/cm以下である粒子を含むことが好ましく、0.8g/cm以上1.2g/cm以下である粒子を含むことがより好ましい。0.5g/cm以上である粒子を含むことで、より軽粒子が樹脂組成物内で浮上しにくくなり、1.2以下g/cmであると、より重粒子との干渉沈降を生じやすくさせることができる。
【0070】
軽粒子の形状は、特に限定されず、球形であってもよく、不定形であってもよい。軽粒子の表面積を増加させ、軽粒子を沈降させにくくする観点から、軽粒子は、不定形の粒子を含むことが好ましい。不定形の粒子は、同質量の球形粒子に比べて表面積が大きくなり、粒子どうしが接触しやすい。そのため、軽粒子が不定形粒子を含むことで、重粒子との接触による、干渉沈降がより起きやすくなる。これにより、粒子の沈降が生じにくくなる。重粒子が不定形であるか否かは、例えば、SEMによる観察画像によって、判別することができる。
【0071】
軽粒子の粒径は、特に限定されないが、軽粒子は、粒径が0.1μm以上25.0μm以下である粒子を含むことが好ましく、0.5μm以上22.5μm以下である粒子を含むことがより好ましく、0.8μm以上20.0μm以下である粒子を含むことがさらに好ましい。粒径が0.1μm以上である粒子を含むことで、樹脂組成物の塗布性をより高めることができ、25.0μm以下である粒子を含むことで、樹脂組成物の硬化物に対する切断加工性をより高めることができる。また、軽粒子が、粒径が上記範囲にある粒子を含むことで、音響インピーダンスを調整しやすくすることができる。上記粒径は、樹脂組成物の硬化物を切断し、断面を撮影した画像を画像処理して測定される。
【0072】
樹脂組成物の硬化物を、音響整合層として用いる場合、超音波を減衰させにくくする観点から、軽粒子は、上記測定方法により得られる、体積基準の粒度分布における累積値が90%となる粒径(d90)が、超音波の波長の1/8以下であることが好ましい。これにより、軽粒子が超音波を吸収または散乱させることを、より抑制することができるため、超音波を減衰させにくくすることができる。
【0073】
樹脂組成物の硬化物をバッキング材として用いるとき、軽粒子は、上記測定方法により得られる、体積基準の粒度分布における累積値が10%となる粒径(d10)が、超音波の波長の1/8以上である粒子を含むことが好ましい。軽粒子が、上記粒径(d10)が、超音波の波長の1/8以上である粒子を含むと、バッキング材中で、重粒子が超音波を吸収し、または散乱させやすくなるため、超音波を減衰させやすくすることができる。
【0074】
軽粒子は、上記測定方法により得られる、体積基準の粒度分布における累積値が10%となる粒径(d10)が0.5μm以上であり、上記累積値が90%となる粒径(d90)が22.5μm以下である粒子を含むことが好ましい。軽粒子が、d10が0.5μm以上である粒子を含むことで、樹脂組成物の塗布性をより高め、d90が22.5μm以下である粒子を含むことで、樹脂組成物の硬化物に対する切断加工性をより高めることができる。また、軽粒子が上記のような粒度分布を有する粒子を含むことで、硬化物の音響インピーダンスを調整しやすくすることができる。上記観点から、d10が0.8μm以上であり、d90が20.0μm以下である粒子を含むことがより好ましく、d10が1.0μm以上であり、d90が18.0μm以下である粒子を含むことがさらに好ましい。
【0075】
軽粒子の、上記測定方法により得られる体積基準の粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)は、特に限定されないが、軽粒子は、上記d50が、22.5μm以下である粒子を含むことが好ましく、0.5μm以上22.5μm以下である粒子を含むことがより好ましく、0.8μm以上20.0μm以下である粒子を含むことがより好ましく、1.0μm以上15.0μm以下である粒子を含むことさらにが好ましく、1.0μm以上14.0μm以下である粒子を含むことが特に好ましい。上記d50が0.5μm以上ある粒子を含むことで、樹脂組成物の塗布性をより高めることができ、22.5μm以下である粒子を含むことで、樹脂組成物の硬化物に対する切断加工性をより高めることができる。また、軽粒子が、d50が上記範囲にある粒子を含むことで、音響インピーダンスを調整しやすくすることができる。
【0076】
軽粒子は、重粒子よりも、体積基準の粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)が小さい粒子を含むことが好ましく、上記d50が小さいことがより好ましい。ここで、「軽粒子が、重粒子よりも、d50が小さい粒子を含む」とは、軽粒子が、材料が異なる複数種の粒子を含むとき、これらのうち少なくとも1種の粒子のd50が、重粒子全体のd50よりも小さいことを意味する。また、「軽粒子は、重粒子よりも、d50が小さい」とは、軽粒子全体を対象としたd50が、重粒子全体を対象としたd50よりも小さいことを意味する。軽粒子のd50が重粒子よりも小さいことで、硬化物を音響整合層として用いる場合に、軽粒子の材料が、超音波を減衰させやすい有機材料であっても、超音波を減衰させにくくすることができる。
【0077】
また、軽粒子の上記d50が重粒子の上記d50よりも小さいことで、重粒子の沈降をより十分に抑制することができる。これは、粒子の比表面積と粒子を含む溶媒(熱硬化性樹脂)の粘度とが正の相関を有するためである。具体的には、粒子の粒径が小さくなると、粒子の比表面積が大きくなり、これに伴い粒子を含む樹脂の粘度が増加するため、軽粒子の上記d50を重粒子よりも小さくすることで、干渉沈降を生じさせつつ、熱硬化性樹脂の粘度を増加させることができる。これにより、重粒子の沈降をより十分に抑制することができる(「粉体工学会誌 Vol.27 No.3(1990),粒子の分散・凝集と濃厚スラリー挙動,荒川」参照)。
【0078】
また、軽粒子の上記d50が重粒子の上記d50よりも小さいことで、樹脂組成物の硬化物の表面に凹凸が形成されることを抑制して、外観品質をより高めることができる。これについて理由は定かではないが、軽粒子が重粒子よりも小さい場合、重粒子によって軽粒子の浮上をより抑制することができ、軽粒子を樹脂組成物の表面に配向させにくくして、凹凸の形成を抑制できると考えられる。
【0079】
軽粒子の含有量は、特に限定されないが、硬化させた樹脂組成物の全体積に対して、1体積%以上30体積%以下であることが好ましく、5体積%以上20体積%以下であることがより好ましく、7体積%以上20体積%以下であることがさらに好ましい。上記含有量が1体積%以上であると、重粒子との干渉沈降を生じさせやすくすることができ、30体積%以下であると、軽粒子を浮上しにくくさせることができる。
【0080】
軽粒子の含有量は、重粒子の含有量に対して、0.3倍以上3倍以下であることが好ましい。これらの比率を調整することで、重粒子と軽粒子とに、干渉沈降を生じさせやすくして、樹脂中における粒子の分散性をより高めることもできる。
【0081】
本実施形態における樹脂組成物の硬化物の全体積に対する、重粒子および軽粒子の含有量の合計は、10体積%以上である。10体積%以上であることで、硬化物の音響インピーダンスを調整しやすくすることができ、重粒子と軽粒子とが十分に干渉沈降を生じさせて、分散性を高めることができる。また、10体積%以上であることで、粒子の総比表面積を大きくして樹脂組成物の粘度を増加させることで、粒子を沈降させにくくすることができる。重粒子および軽粒子の含有量の合計は、10体積%以上50体積%以下であることが好ましく、15体積%以上35体積%以下であることがより好ましい。重粒子および軽粒子の含有量の合計が50体積%以下であることで、樹脂組成物の粘度が過度に上昇することを抑制し、流動性を確保できるため、圧電材に塗布しやすくなる。また、上記重粒子および軽粒子の含有量の合計は、音響部材の音響インピーダンスが後述する範囲になるように調整すればよい。上記含有量は、樹脂組成物の硬化物を切断し、断面に含まれる重粒子および軽粒子の量を、撮影した画像を画像処理して測定して算出してもよいし、SEM-EDXなどを用いて、組成分析を行うことで算出してもよい。
【0082】
本実施の形態では、重粒子および軽粒子の含有量と、樹脂組成物の硬化物の音響インピーダンスとの関係について、検量線を作成することで、所望の音響インピーダンスを得ることができる、重粒子および軽粒子の含有量を決定することができる。
【0083】
なお、重粒子および軽粒子は、分散性をより高めるために、表面処理されていてもよい。このような表面処理の方法の例には、公知のシランカップリング剤を含む溶液(プライマー)により処理する方法や、プラズマ処理する方法などが含まれる。
【0084】
1-2-3.樹脂組成物の物性
本実施の形態に係る樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度Tg2は、特に限定されないが、80℃以上であることが好ましい。上記ガラス転移温度Tg2が80℃以上であると、樹脂組成物を塗布させるときに、樹脂組成物が硬化してしまうことを抑制することができる。さらに、上記Tg2が100℃以上であると、硬化物の耐薬品性を、より高めることができる。上記Tg2が200℃以下であると、樹脂組成物が硬化するまでにかかる時間を、短縮させることができる。さらに、上記Tg2が180℃以下であることで、硬化後に、温度が常温に戻るまでの温度差が低くなるため、樹脂組成物と、樹脂組成物が塗布された基板との線膨張差を少なくすることができるため、硬化物を冷却する際に生じる、反り変形を生じにくくさせることができる。樹脂組成物のガラス転移温度は、上述した、熱硬化性樹脂のガラス転移温度と同様にして測定される。
【0085】
本実施の形態に係る樹脂組成物は、上記熱硬化性樹脂と、上記重粒子と、上記軽粒子とを、混合して製造することができる。これらを混合する方法は、特に限定されないが、樹脂組成物に気泡が含まれにくくする観点からは、真空中で撹拌を行うことが好ましい。混合を行う際は、樹脂組成物の急激な昇温を抑制する観点から、冷却しながら撹拌させてもよい。
【0086】
2.音響部材
本発明の一実施形態に係る音響部材は、超音波探触子に用いられる音響部材であって、上記樹脂組成物の硬化物を含む。
【0087】
本実施の形態において、音響部材は、超音波探触子の音響整合層であってもよく、バッキング材であってもよく、これら以外の用途に用いられるものであってもよい。
【0088】
本実施の形態に係る音響部材の音響インピーダンスは、1.7MRayls以上15.0MRayls以下であることが好ましく、2.5MRayls以上4.5MRayls以下であることがより好ましい。上記範囲にあることで、音響部材の音響インピーダンスと、超音波探触子の音響レンズの音響インピーダンスとの差を小さくし、超音波を反射させにくくすることができる。本実施の形態では、樹脂組成物中に、重粒子と軽粒子とを含む2種類以上の粒子が含まれることで、音響部材の音響インピーダンスを、粒子の沈降や浮上を抑制しつつ、上記範囲に調整することができる。
【0089】
本実施形態に係る音響部材は、上記樹脂組成物を基材に塗布したものを硬化させて製造してもよく、ブロック体に成型したものを硬化させて製造してもよい。
【0090】
上記樹脂組成物を塗布する時における、上記樹脂組成物の粘度は、1Pa・s以上500Pa・s以下であることが好ましく、2Pa・s以上150Pa・s以下であることがより好ましい。上記粘度が1Pa・s以上であることで、粒子の沈降をより抑制することができ、500Pa・s以下であることで、塗布性をより向上させることができる。上記粘度は、熱硬化性樹脂、重粒子、および軽粒子の含有量をそれぞれ調整することや、樹脂組成物を塗布するときの温度を制御することによって、調整することができる。
【0091】
上記樹脂組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、公知の方法から適宜選択することができる。上記樹脂組成物を塗布する方法の例には、インクジェット塗布法、ダイコー法、バーコート法、ブレード塗布法、スクリーン印刷などが含まれる。
【0092】
上記樹脂組成物を塗布するときの温度は、特に限定されず、塗布する方法や目的に応じて適宜設定される。例えば、ブレード塗布法を用いる場合は、樹脂組成物の粘度が1Pa・s以上500Pa・s以下となる温度に対して±5℃以内となるようにコーターの温度を調整して塗布を行うことが好ましく、樹脂組成物の粘度が2Pa・s以上150Pa・s以下となる温度に対して±5℃以内となるようにコーターの温度を調整して塗布を行うことがより好ましい。このようにすることで、音響部材の、超音波の伝搬方向の厚みを、例えば、10μm以上500μm以下に調整することができる。
【0093】
また、塗布性をより向上させる観点からは、上記温度は、常温(25℃)よりも高く、樹脂組成物の硬化温度よりも低いことが好ましい。上記温度が常温よりも高いことで、樹脂組成物の粘度を低下させて、樹脂組成物を塗布させやすくすることができ、硬化温度よりも低いことで、塗布中に樹脂組成物が硬化することを抑制することができる。
【0094】
上記樹脂組成物を塗布する基材は、特に限定されないが、例えば圧電材である。
【0095】
あるいは、簡易的に清掃等の手入れを行う観点から、硬化して製造された音響部材を、離型することができる基材であることが好ましい。このような基材を用いることによって、例えば、一部に微細加工が施された整合層の上に、別の整合層を貼り合わせるような場合において、これらの整合層を、積層体ごと基板から脱着することができ、音響部材の手入れや交換を簡易的に行うことができる。このような基材の例には、テフロンを含む基材などが含まれる(テフロンはケマーズ社の登録商標)。
【0096】
なお、本実施の形態に係る音響部材は、上記樹脂組成物とは組成が異なる樹脂組成物を含み、機能が異なる音響部材の上に塗布してもよい。これにより、接着剤を用いずに、種々の音響部材を積層させることができるため、接着剤による超音波の減衰を生じにくくすることができる。
【0097】
また、上記音響部材は、ブロック体に成型されてもよい。ブロック体に成型する方法は、例えば、以下の手順に沿って行われる。
【0098】
(1)厚さ3mmのシリコーンゴム板を100mm角の大きさに型抜きし、型抜きされたシリコーンゴム板を、表面を撥水処理したガラス板に載せる。(2)次いで、シリコーンゴム板の型抜きされた部分に、上記樹脂組成物を流し込む。(3)上記ガラス板とは別に用意した、表面を撥水処理したガラス板を上から被せる。(4)(3)で作成したものを加熱し、樹脂組成物を硬化させた後、硬化物をシリコーンから離型する。
【0099】
音響部材の、超音波の伝搬方向の厚みは、上記樹脂組成物を塗布して製造した場合、10μm以上であることが好ましい。上記厚みが、10μm以上であると、音響部材の音響インピーダンスを上記範囲に調整しやすくすることができる。上記観点から音響部材の、超音波の伝搬方向の厚みは、10μm以上500μm以下であることが好ましく、15μm以上300μm以下であることがより好ましい。上記厚みが500μm以下であると、塗布した樹脂組成物が、重力の影響による型崩れが生じにくくなる。
【0100】
また、樹脂組成物をブロック体で成型させて音響部材を製造する場合、上記厚みは3000μm以下であることが好ましい。上記厚みが3000μm以下であると、樹脂組成物の熱硬化時に、樹脂内部に均一に熱が伝わりやすくなるため、硬化時における樹脂組成物内の粒子の分散性を高めることができる。そのため、音響インピーダンスを所望の範囲に調整しやすくすることができる。上記観点から音響部材の、超音波の伝搬方向の厚みは、100μm以上3000μm以下であることが好ましい。上記厚みが100μm以上であると、樹脂組成物の硬化物を離型するときに、上記硬化物が破損することを抑制することができる。
【0101】
3.超音波トランスデューサ
3-1.超音波トランスデューサの構成
本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサは、超音波探触子に用いられる超音波トランスデューサであって、上記音響部材を含む。
【0102】
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサ100の全体構造の一例を示す断面図である。
【0103】
図1に示されるように、超音波トランスデューサ100は、バッキング材110と、電気端子取り出し部120と、圧電材130と、音響整合層140と、音響レンズ150と、を有する。以下、各構成について図面を参照しながら説明する。
【0104】
3-1-1.バッキング材
本実施の形態では、バッキング材110は、上記音響部材を含む。また、バッキング材110は、後述の電気端子取り出し部120や、圧電材130などを支持するための部材であって、圧電材130から背面側に向かう超音波を減衰させるための部材として機能する。
【0105】
本実施の形態では、バッキング材110が一層で構成されているが、バッキング材110は、複数の層で構成されていてもよい。
【0106】
バッキング材110の、超音波の伝搬方向の厚みは、その材料や、超音波トランスデューサが発振する超音波の波長等に応じて適宜選択される。
【0107】
3-2.電気端子取り出し部
電気端子取り出し部120は、圧電材130に信号電極160a、160bを介して信号を伝えたり、圧電材130から信号電極160a、160bを介して信号を受信したりするための部材である。当該電気端子取り出し部120は、上記バッキング材110と後述の圧電材130との間に配置される。また外部の電源や診断装置等と電気的に接続される。
【0108】
3-3.圧電材
圧電材130は、電気取り出し部120上(本実施の形態では、信号電極160aを介した電気端子取り出し部120上)に配置され、超音波を送受信する機能を有する。
【0109】
圧電材130が発振する超音波の中心周波数は、特に限定されないが、例えば、1MHz以上20MHz以下である。
【0110】
圧電材130の、超音波の伝搬方向の厚みは、超音波トランスデューサの種類や、超音波トランスデューサが発振する周波数に応じて適宜選択されるが、例えば50μm以上400μm以下である。
【0111】
上記圧電材130の例には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系等の圧電セラミック;マグネシウム酸ニオブ酸鉛・チタン酸鉛固溶体(PMN-PT)、亜鉛酸ニオブ酸鉛・チタン酸鉛固溶体(PZN-PT)等の圧電単結晶;およびこれらの材料と高分子材料を複合した複合圧電材;などが含まれる。
【0112】
また、圧電材130の両面に配置される複数の信号電極160aおよび160bは、圧電材130に電圧を印加するための電極である。信号電極160aおよび160bは、上述の電気端子取り出し部120と電気的に接続され、かつ十分に圧電材130との間で信号を授受可能であれば特に制限されず、例えば金や銀、銅等からなる層とすることができる。
【0113】
なお、本実施の形態において、超音波トランスデューサは、超音波を送受信する圧電材130を有するが、超音波送信用の圧電材と、超音波受信用の圧電材とを有していてもよい。これらの圧電材は、積層して配置されてもよいし、並列に配置されてもよい。省スペース化の観点から、これらの圧電材は、積層して配置されていることが好ましい。
【0114】
3-4.音響整合層
本実施の形態では、音響整合層140は、上記音響部材を含む。音響整合層140は、圧電材130上(本実施の形態では、圧電材130の信号電極160b上)に配置される層であり、圧電材130と音響レンズ150との間の音響特性を整合させるための層である。音響整合層140は、一層で構成されていてもよいが、通常、音響インピーダンスが異なる複数層から構成される。音響整合層の層数は特に制限されず、2層以上であることが好ましく、4層以上であることがより好ましい。図1に示すように、本実施の形態では、音響整合層140が、第1の音響整合層140a、第2の音響整合層140b、第3の音響整合層140cおよび第4の音響整合層140dを含む積層体である。
【0115】
音響整合層140を構成する各層の音響インピーダンスは、各層を構成する上記樹脂組成物の、熱硬化性樹脂、重粒子、および軽粒子の種類や量を変更することで、各層の音響インピーダンスを調整できる。なお、各音響整合層140a、140b、140cは、同一の樹脂組成物を含む層であってもよく、異なる樹脂組成物を含む層であってもよい。さらに、各層の厚みは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0116】
各音響整合層の、超音波の伝搬方向の厚みは、特に限定されない。音響インピーダンスを所望の範囲に調整しやすくする観点から、上記厚みは、超音波の波長の1/4の大きさであることが好ましいことが知られているが、音響整合層の層数が2層以上である場合は、各層の厚みが超音波の波長の1/8以上1/4以下であることがより好ましい。これにより、圧電材が振動を停止してから、超音波を受信するまでの時間(残響時間)を短くし、かつ、受信する超音波の感度の低下や信号強度の低下を生じにくくさせることができる。このような条件を満たしやすくする観点から、音響整合層の上記厚みは、それぞれ、10μm以上500μm以下であることが好ましく、15μm以上500μm以下がより好ましく、15μm以上250μm以下であることがさらに好ましい。
【0117】
3-5.音響レンズ
音響レンズ150は、圧電材130から送波された超音波を集束させるための部材である。図1に示すように、本実施の形態では、音響レンズ150は、図1のY方向に延材し、かつZ方向に突出するシリンドリカル型の音響レンズである。X方向に垂直な断面の形状は全て同一である。また、当該音響レンズ150では、各圧電材料130aが発振する超音波をZ方向に集束させて超音波トランスデューサ100の外部に出射させる。
【0118】
音響レンズ150は、被検査対象、例えば生体に適した音響特性を有する材料で構成されている。例えば、音響レンズ150は、シリコーンゴム等、被検査対象に比較的近い音響インピーダンスを有する材料で構成されることが好ましい。
【0119】
3-2.超音波トランスデューサの製造方法
上述の超音波トランスデューサの製造方法は特に限定されず、上述の構造とすることが可能であればよい。以下にその一例を示すが、これに限定されない。
【0120】
本実施の形態における、超音波トランスデューサの製造方法は、圧電材130の背面側にバッキング材110を形成する工程と、圧電材130上に音響整合層140を形成する工程と、音響整合層140と音響レンズ160とを貼り合わせる工程と、を有する。
【0121】
3-2-1.バッキング材を形成する工程
本工程では、圧電材130の、超音波を送信する方向に対して背面側の面に、バッキング材110を形成する。
【0122】
本実施の形態では、上記樹脂組成物をブロック体に成型したものを、圧電材130の背面側に接着させてバッキング材110を形成する。上記樹脂組成物をブロック体に成型する方法は、上述の音響部材について説明した方法と同様の方法であってもよい。上記樹脂組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、公知の方法から適宜選択することができる。上記樹脂組成物を塗布する方法の例には、インクジェット塗布法、ダイコー法、バーコート法、ブレード塗布法、スクリーン印刷などが含まれる。
【0123】
なお、形成されたバッキング材110を離型することができるような基材に、上記樹脂組成物を塗布し、上記基材を圧電材130に接着させて、圧電材130の背面側にバッキング材110を形成してもよい。
【0124】
また、圧電材130の背面側の面に、上記樹脂組成物を塗布した後に、上記樹脂組成物を硬化させて、バッキング材110を形成してもよい。
【0125】
上記樹脂組成物を硬化させる方法は、特に限定されない。樹脂組成物の硬化収縮を抑制する観点から、樹脂組成物のガラス転移温度よりも低い温度で仮硬化させてから、ガラス転移温度よりも高い温度で加熱硬化させることが好ましい。
【0126】
3-2-2.音響整合層を接着する工程
本工程では、圧電材130の、超音波を送信する方向の面に、音響整合層140を形成する。
【0127】
本実施の形態では、本工程は、以下の手順で行うことができる。
【0128】
(1)基板上に上記樹脂組成物を塗布した後、上記樹脂組成物を硬化させ、(2)硬化させた樹脂組成物を、基板から離型し、(3)硬化物が圧電材130に配置可能な大きさになるように切断した後、(4)圧電材130に硬化物を接着する。
【0129】
上記(1)において、音響整合層140が、複数の音響整合層の積層体であるときは、上記硬化した樹脂組成物の上に、さらに未硬化の樹脂組成物を塗布し、硬化させる工程を繰り返して行う。また、上記樹脂組成物を塗布する基板は、硬化物を離型することができるものであれば、特に限定されない。上記樹脂組成物を塗布する方法は、バッキング材を形成する工程と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0130】
上記のように、硬化した樹脂組成物の上に、直接塗布し硬化することによって、音響整合層の層間に接着剤などの接着部材を使用せずに音響整合層を形成することができる。これにより、接着剤と整合層との接着界面において、接着剤と整合層との音響インピーダンスの差に起因する超音波の伝搬ロスをより低減することができる。
【0131】
上記(3)において、硬化物を切断する方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0132】
上記(4)において、硬化物を圧電材130に接着する方法は、特に限定されず、例えば公知の接着剤を用いて接着することができる。
【0133】
なお、本実施の形態では、圧電材130に直接樹脂組成物を塗布し、その後硬化させて、音響整合層を形成してもよい。
【0134】
また、上記樹脂組成物をブロック体に成型したものを、圧電材130の、超音波を送信する方向の面に接着させてもよい。
【0135】
3-2-3.音響整合層と音響レンズとを貼り合わせる工程
本工程では、整合層140上に音響レンズ160を貼り合わせる。音響レンズを貼り合わせる方法は、特に制限されず、公知の接着剤によって接着してもよいし、接着層140を間に配置させて接着させてもよい。
【0136】
4.超音波探触子および超音波診断装置
上述の超音波トランスデューサは、例えば図2に示すような、超音波探触子10や、超音波診断装置1等に使用できる。超音波診断装置1は、上述の超音波トランスデューサ100を備えた超音波探触子10、本体部11、コネクタ部12およびディスプレイ13等を備える。
【0137】
超音波探触子10は、上記超音波トランスデューサ(不図示)を含んでいればよく、コネクタ部12に接続されたケーブル14を介して本体部11と接続される。
【0138】
本体部11からの電気信号(送信信号)は、ケーブル14を通じて超音波探触子10の圧電材に送信される。この送信信号は、圧電材によって超音波に変換され、被検査対象内に送波される。送波された超音波は被検査対象内で反射される。そして、当該反射波の一部が圧電材によって受波され、電気信号(受信信号)に変換され、本体部11に送信される。受信信号は、超音波診断装置1の本体部11において画像データに変換されディスプレイ13に表示される。
【0139】
上述の実施の形態の超音波トランスデューサを備える超音波診断装置では、指向性が高く、正確な診断を行うことが可能となる。さらに、上述の超音波トランスデューサは、強度が高く、落下による衝撃等にも耐えられることから、様々な分野の超音波診断装置に使用できる。
【実施例0140】
1.音響部材の製造
本実施例において、樹脂組成物の硬化物(以下、音響部材という。)の製造に用いるものを以下に示した。
【0141】
1-1.熱硬化性樹脂
1-1-1.主剤
・エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社、jER828、密度:1.17g/cm、粘度:12.0Pa・s以上15.0Pa・s以下)
【0142】
1-1-2.硬化剤
エポキシ樹脂硬化剤1(三菱ケミカル株式会社、jERキュア113、硬化開始温度152℃)
エポキシ樹脂硬化剤2(三菱ケミカル株式会社、ST12、硬化温度75℃)
【0143】
1-3.重粒子
・フェライト粉1(Mn-ZnFerrite系粒子、密度:4.9g/cm
・フェライト粉2(JFEケミカル株式会社、KNI-106、密度:5.15g/cm)
・酸化タングステン粉(株式会社アライドマテリアル、F1-WO3、密度:7.2g/cm)
・タングステン粉1(日本新金属株式会社、W-5、密度:19.3g/cm)
・タングステン粉2(日本新金属株式会社、W-2KD、密度:19.3g/cm)
【0144】
1-4.軽粒子
・シリコーンゴムパウダー(信越化学工業株式会社、KMP-605、密度:0.99g/cm)
【0145】
主材の粘度は、上記粘度は、レオメータ(Anton Paar社製、MCR102)を用いて測定した。
【0146】
重粒子および軽粒子の粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を使用することによって、測定した。測定によって得られた粒度分布をもとに、重粒子および軽粒子のd10、d50、d90をそれぞれ算出した。
【0147】
以下、実験1~15で樹脂組成物を製造し、塗布した。なお、以下に示す、重粒子および軽粒子の「体積部」は、硬化した樹脂組成物の体積に対する体積を意味する。なお、表1、表2は実験1~15の条件をまとめたものである。
【0148】
<実験1>
エポキシ樹脂主剤と、エポキシ樹脂硬化剤1と、体積基準の粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)が5.5μm以上6.4μm以下になるように分級処理したフェライト粉1と、シリコーンゴムパウダーとを、ディスポカップに投入し、真空撹拌装置(株式会社シンキー、ARV-310)を用いて十分混合した。このとき、硬化後に得られる硬化物の全体積に対する重粒子および軽粒子の含有量(以下、体積充填率という。)について、フェライト粉1が10.0%、シリコーンゴムパウダーが5.0%となるように混合した。混合の際、含有する粒子同士が擦れ合うことで生じる撹拌熱を抑制するため、ディスポカップを徐冷しながら撹拌させ、樹脂組成物1を得た。
【0149】
上記体積充填率は、記含有量は、樹脂組成物の硬化物を切断し、断面に含まれる重粒子および軽粒子の量を、撮影した画像を画像処理して測定して算出した。
【0150】
撹拌後、得られた樹脂組成物1を、アプリケータ(コーティングテスター株式会社製)を用いて厚みが50μmとなるように表面を撥水処理したガラス基板に塗布した。厚みの調整は、アプリケータのブレード部と上記ガラス基板との間の幅を変化させて行った。このとき、樹脂組成物の粘度が14Pa・sとなるように、温度を調整しながら、塗布を行った。
【0151】
<実験2>
フェライト粉1を、フェライト粉2に変更した以外は、実験1と同様にして、得られた樹脂組成物2を塗布した。
【0152】
<実験3>
フェライト粉1の体積充填率を12.5%、シリコーンゴムパウダーの体積充填率を12.5%に変更した以外は、実験1と同様にして、樹脂組成物3を塗布した。
【0153】
<実験4>
フェライト粉1を酸化タングステン粉に変更した以外は、実験1と同様にして、樹脂組成物4を塗布した。
【0154】
<実験5>
フェライト粉1の体積充填率を1.5%、シリコーンゴムパウダーの定積充填率を8.5%に変更した以外は、実験1と同様にして、樹脂組成物5を塗布した。
【0155】
<実験6>
フェライト粉1の体積充填率を5.0%、シリコーンゴムパウダーの体積充填率を10.0%用いた以外は、実験1と同様にして、樹脂組成物6を塗布した。
【0156】
<実験7>
フェライト粉1の体積充填率を11.5%、シリコーンゴムパウダーの体積充填率を13.5%に変更した以外は、実験1と同様にして、樹脂組成物7を塗布した。
【0157】
<実験8>
フェライト粉1の体積充填率を19.0%、シリコーンゴムパウダーの体積充填率を16.0%に変更した以外は、実験1と同様にして、樹脂組成物8を塗布した。
【0158】
<実験9>
音響部材の厚みが10μmとなるように塗布した以外は、実験6と同様にして、樹脂組成物9を塗布した。
【0159】
<実験10>
厚さ3mmのシリコーンゴム板を100mm角の大きさに型抜きし、型抜きされたシリコーンゴム板を、表面を撥水処理したガラス板に載せた。次いで、シリコーンゴム板の型抜きされた部分に、実験1で得られた樹脂組成物を流し込んだ。そして、上記ガラス板とは別に用意した、表面を撥水処理したガラス板を上から被せた。
【0160】
<実験11>
フェライト粉1の体積充填率を5.0%、シリコーンゴムパウダーの体積充填率を1.0%に変更した以外は、実験1を同様にして、樹脂組成物11を塗布した。
【0161】
<実験12>
エポキシ樹脂主剤と、エポキシ樹脂硬化剤2とを含む熱硬化性樹脂と、体積基準の粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)が5.5μm以上6.4μm以下になるように分級処理した、フェライト粉1とを、ディスポカップに投入し、真空撹拌装置(株式会社シンキー、ARV-310)を用いて十分混合した。フェライト粉1は、体積充填率が3.0%となるように混合した。混合の際、含有する粒子同士が擦れ合うことで生じる撹拌熱を抑制するため、ディスポカップを徐冷しながら撹拌させ、樹脂組成物12を得た。
【0162】
撹拌後、得られた樹脂組成物11を、アプリケータ(コーティングテスター株式会社製)を用いて厚みが50μmとなるように表面を撥水処理したガラス基板に塗布し、樹脂組成物を塗布した。このとき、樹脂組成物の粘度が14Pa・sとなるように、温度を調整しながら、塗布を行った。
【0163】
<実験13>
エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤1とを含む熱硬化性樹脂を用いたこと以外は、実験13と同様にして、樹脂組成物を塗布した。
【0164】
<実験14>
フェライト粉1を体積充填率が10.0%となるタングステン粉1に変更し、シリコーンゴムを5.0体積部さらに加えた以外は、実験11と同様にして、樹脂組成物14を塗布した。
【0165】
<実験15>
タングステン粉1をタングステン粉2に変更した以外は、実験13と同様にして、樹脂組成物15を塗布した。
【0166】
1-5.硬化
上記実験1~15の条件下で、塗布または成形した樹脂組成物1~15を、恒温槽に入れ、40℃、60℃、80℃、100℃の環境下で、それぞれ、仮硬化させた。仮硬化時間は、40℃の環境下では12時間以上、60℃の環境下では6時間、80℃の環境下では4時間、100℃の環境下では2時間、とした。その後、それぞれの仮硬化温度にて、得られた仮硬化物を、150℃の環境下で4時間加熱硬化を行い、音響部材1~15を製造した。
【0167】
2.評価
<沈降評価>
得られた音響部材について、仮硬化を行った温度ごとに、断面観察を行い、重粒子および軽粒子の沈降の有無を、以下の基準に沿って評価した。
○ 粒子の沈降が確認されない
× 粒子の沈降が確認され、使用に不適な状態
【0168】
<生産速度>
音響部材の生産速度について、熱硬化性樹脂、重粒子および軽粒子の配合を開始してから、上記沈降評価が○となる最も高い硬化温度における加熱硬化が完了するまでの時間を、「音響部材を製造するまでにかかる時間」とし、以下の基準に沿って、評価した。
○ 最終硬化プロセスまでかかる時間が8時間未満
△ 最終硬化プロセスまでかかる時間が8時間以上12時間未満
× 最終硬化プロセスまでかかる時間が12時間以上
【0169】
<切断性>
音響部材を、ダイシングソー(株式会社ディスコ製、(DAD3350))と、幅25μmのダイシングブレードとを用いて、切断距離10mmとして、50μm間隔で200回分切断し、以下の基準に沿って評価した。
○ 切断中に、音響部材に変形が生じない
× 切断中に、音響部材に変形が生じ、正しく切断できない
【0170】
<ショート耐性>
音響部材を音響整合層として、超音波プローブに組みこんだものを動作させ、ショート耐性について、以下の基準に沿って評価した。
○ 問題なく、正常に動作する
× ショートによる動作不良が起きる
【0171】
<音響インピーダンス>
音響部材における音速cを、JIS Z2353-2003に記された方法に従い、シングアラウンド式音速測定装置(超音波工業株式会社製、UVM-2)を用いて、25℃の条件下で測定した。次いで、密度測定装置(AG245、メトラー・トレド社製)を用いて音響部材の密度ρを測定した。なお、上記密度測定装置は、以下の式(1)により、音響部材の密度ρを算出する。式(1)において、Aは、大気中の音響部材の質量、Bは置換液中の音響部材の質量、ρは置換液の密度、ρは空気の密度、である。本実施例では、置換液は純水を用いた。得られた、音速cと密度ρをもとに、以下の式(2)によって音響インピーダンスZを算出した。
ρ=(A/(A-B))(ρ-ρ)+ρ (1)
Z=ρc (2)
【0172】
<ガラス転移点>
示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて、試料3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目の加熱時には室温(25℃)から、2回目の加熱時には0℃から、10℃/minの昇温速度でそれぞれ200℃まで昇温して、150℃を5分間保持した。冷却時には、10℃/minの降温速度で200℃から0℃まで降温して、0℃の温度を5分間保持する。2回目の加熱時に得られた測定曲線においてベースラインのシフトを観察し、シフトする前のベースラインの延長線と、ベースラインのシフト部分の最大傾斜を示す接線との交点をガラス転移点(Tg)とする。リファレンスとして、空のアルミニウム製パンを用いる。
【0173】
〈総合評価〉
音響部材の外観を目視で観察した結果と、上記沈降評価、生産速度、切断性、およびショート耐性の総合評価を以下の基準に沿って評価した。
○ 音響部材の表面に凹凸が確認されず、沈降評価、生産速度、切断性、ショート耐性の評価うち×が1つ以下である
△ 音響部材の表面に凹凸が確認されるが、品質上問題無く、沈降評価、生産速度、切断性、ショート耐性の評価うち×が1つ以下である
× 音響部材の表面に、品質上好ましくない程度に凹凸が確認される、もしくは、沈降評価、生産速度、切断性、ショート耐性の評価うち×が2つ以上ある
【0174】
【表1】
【0175】
【表2】
【0176】
【表3】
【0177】
【表4】
【0178】
音響部材1~10では、各仮硬化温度において、粒子の沈降が確認されず、音響部材11~14よりも良好な結果を示した。これは、重粒子と軽粒子とを含む、樹脂組成物において、干渉沈降が起き、粒子の沈降を生じにくくさせたためであると考えられる。また、実験1、3~10では、音響部材の外観を含めた総合評価がより良好であった。軽粒子のd50が重粒子のd50よりも小さいことで、音響部材の外観品質を向上させることができたためであると考えられる。
【0179】
他方、音響部材11では、重粒子および軽粒子の総体積充填率が10%未満であるため、重粒子と軽粒子とが干渉沈降を生じにくかったことによるものと考えられる。音響部材12、13では、重粒子のみを含み、軽粒子を含まない樹脂組成物を用いたため、干渉沈降が起きず、粒子が沈降してしまったと考えられる。特に、音響部材13に含まれる硬化剤は、硬化温度が高いため、硬化するまでに時間がかかるため、硬化する前に沈降が生じやすくなったと考えられる。また、音響部材14では、音響部材15よりも、樹脂組成物に含まれるタングステン粒子の比表面積が小さいため、樹脂組成物の粘度が下がったため、音響部材15よりも沈降が生じやすくなったと考えられる。
【0180】
また、音響部材1~10では、切断性、ショート耐性においても、音響部材14、15よりも良好な結果を示した。これは、重粒子が金属粒子以外の粒子であることで、刃こぼれを生じにくくし、電気を通しにくくさせることができたためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明に係る樹脂組成物は、粒子を均一に分散させた硬化物を得ることができ、硬化物のショート耐性、切断加工性、生産効率を高めることができる。そのため、上記樹脂組成物を硬化させた音響部材は、例えば、超音波診断の分野などにおいて有用である。
【符号の説明】
【0182】
10 超音波診断装置
11 本体部
12 コネクタ部
13 ディスプレイ
14 ケーブル
100 超音波トランスデューサ
100a 超音波プローブ
110 バッキング材
120 電極端子取り出し部
130 圧電材
140 音響整合層
140a 第1の音響整合層
140b 第2の音響整合層
140c 第3の音響整合層
140d 第4の音響整合層
150 音響レンズ
160a、160b 信号電極
図1
図2