(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187303
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】蛇行制御装置
(51)【国際特許分類】
B21B 37/68 20060101AFI20221212BHJP
B21B 37/58 20060101ALI20221212BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20221212BHJP
B21B 37/72 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B21B37/68 Z
B21B37/58 B
B21B37/00 261C
B21B37/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095273
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 山河
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA06
4E124BB03
4E124BB18
4E124CC01
4E124EE01
4E124EE15
4E124GG05
(57)【要約】
【課題】連続式圧延機が連続して素材を圧延しても、ウェッジ品質を保ちながら安定した通板を実現するように制御することができる蛇行制御装置を提供する。
【解決手段】蛇行制御装置は、初期蛇行量、最終蛇行量、複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値、及び圧延情報を用いる複数の圧延スタンドそれぞれの圧延モデルに基づいて、複数の圧延スタンドそれぞれを通過した後の素材尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量を予測する予測演算部と、予測演算部が予測した素材尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量に基づいて、複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新する設定値更新部と、設定値更新部が更新した圧下レベリング設定値それぞれに基づいて、複数の圧延スタンドの圧下レベリングをそれぞれ制御する複数の圧下レベリング制御部とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材を通過させて順次に圧下力をかける複数の圧延スタンドを備えた連続式圧延機による素材の蛇行を制御する蛇行制御装置において、
圧延前の素材の蛇行量である初期蛇行量、全ての前記圧延スタンドにより圧延された素材の蛇行量である最終蛇行量、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値、及び圧延プロセスの設定を特定する圧延情報を用いる複数の前記圧延スタンドそれぞれの圧延モデルに基づいて、複数の前記圧延スタンドそれぞれを通過した後の素材尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量を予測する予測演算部と、
前記予測演算部が予測した素材尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量に基づいて、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新する設定値更新部と、
前記設定値更新部が更新した圧下レベリング設定値それぞれに基づいて、複数の前記圧延スタンドの圧下レベリングをそれぞれ制御する複数の圧下レベリング制御部と
を有することを特徴とする蛇行制御装置。
【請求項2】
前記設定値更新部は、
複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を時系列又は圧延距離系列の圧下レベリング設定パターンとするように、所定の終了条件を満たすまで前記予測演算部が予測した蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を繰り返して、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新し、
前記圧下レベリング制御部は、
前記設定値更新部が更新した圧下レベリング設定パターン、時間、及び素材の入側速度に基づいて、前記圧延スタンドの圧下レベリングを制御すること
を特徴とする請求項1に記載の蛇行制御装置。
【請求項3】
前記設定値更新部は、
圧下レベリング設定値を一定値として、所定の終了条件を満たすまで前記予測演算部が予測した蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を繰り返し、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新すること
を特徴とする請求項1に記載の蛇行制御装置。
【請求項4】
前記設定値更新部は、
複数の前記圧延スタンドそれぞれに対して上流側から順に、前記予測演算部が予測する最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材尾端部の所定点の蛇行量が0になるように、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新すること
を特徴とする請求項1に記載の蛇行制御装置。
【請求項5】
前記設定値更新部は、
複数の前記圧延スタンドそれぞれに対して上流側から順に、所定の終了条件を満たすまで前記予測演算部が予測する最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材尾端部の所定点の蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を行い、評価結果に基づいて複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新すること
を特徴とする請求項1に記載の蛇行制御装置。
【請求項6】
前記圧延モデルの調整に用いる学習値を記憶する学習値記憶部と、
前記学習値記憶部が記憶する学習値を更新する学習値更新部と
をさらに有し、
複数の前記圧下レベリング制御部は、
複数の前記圧延スタンドから時系列又は圧延距離系列の圧下レベリング実績パターンをそれぞれ取得し、
前記予測演算部は、
前記初期蛇行量、前記最終蛇行量、複数の前記圧下レベリング制御部が取得した圧下レベリング実績パターンそれぞれ、前記圧延情報、及び前記学習値記憶部が記憶する学習値を用いる複数の前記圧延スタンドそれぞれの圧延モデルに基づいて、複数の前記圧延スタンドそれぞれを通過した後の素材尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量を予測し、
前記学習値更新部は、
前記予測演算部が予測した最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材の蛇行量と、前記最終蛇行量とを用いて前記学習値記憶部が記憶する学習値を更新すること
を特徴とする請求項1に記載の蛇行制御装置。
【請求項7】
前記学習値更新部は、
前記予測演算部が予測した最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材の蛇行量と、前記最終蛇行量とを用いた評価関数による評価を繰り返して、所定の終了条件を満たすまで複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する学習値を更新すること
を特徴とする請求項6に記載の蛇行制御装置。
【請求項8】
前記学習値更新部は、
前記予測演算部が予測する最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材尾端部の所定点の蛇行量と、前記最終蛇行量との誤差が0となるように学習値を更新すること
を特徴とする請求項6に記載の蛇行制御装置。
【請求項9】
前記学習値更新部は、
前記圧延スタンドと他の前記圧延スタンドとの間で素材の蛇行量を検出するスタンド間蛇行量検出部が検出した蛇行量と、前記予測演算部が予測した蛇行量とを評価関数により評価し、評価結果に基づく所定の終了条件を満たすまで学習値を更新すること
を特徴とする請求項6に記載の蛇行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛇行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の圧延スタンドを備える例えば熱間仕上圧延機などの連続式圧延機においては、圧延中の素材(圧延材)の幅方向中心が圧延ロールの幅方向中心からずれて、連続式圧延機の作業側又は駆動側の方向に移動する蛇行現象が知られている。
【0003】
連続式圧延機では、圧延材は、任意の圧延スタンドを通過したときに、1つ下流の圧延スタンドによって圧延されて、尾端に後方張力がなくなる。このとき、圧延材は、圧延スタンド入側では左右(作業側と駆動側)の伸び差によって尾端が回転し、圧延ロール直下では幅方向に移動して尾端に蛇行現象が生じる。
【0004】
圧延ロール直下では、圧延材が蛇行した側の荷重が増大することにより、蛇行した側で圧延機の弾性変形が大きくなり、蛇行した側の圧延ロールの間隙が開き、板厚が厚くなる。その結果、圧延材の左右の伸び差は拡大し、蛇行をさらに助長する。
【0005】
圧延スタンド出側では、蛇行した圧延材は、湾曲して下流の圧延スタンドに進入していく。連続式圧延機では、各圧延スタンドにおいて蛇行現象が生じる得るため、急激に蛇行が進行し得る。蛇行した圧延材は、圧延スタンド入側に設置されたサイドガイドに尾端が衝突すると、折れ曲がり、そのまま圧延されて絞り込みが生じる。絞り込みは、圧延ロールを損傷させ、ロール交換などの作業中断を招くため、生産効率を低下させる。
【0006】
圧延機に対する従来の蛇行制御技術は、圧延差荷重や圧延スタンド間に設置されたカメラにより検出した蛇行量に基づいて圧下レベリングをダイナミックに制御する方法と、過去の圧延結果に基づいて圧下レベリングを事前に設定する方法に大別される。
【0007】
圧下レベリングをダイナミックに制御する方法としては、古くは圧延差荷重を、近年ではスタンド間に設置されたカメラを用いて蛇行を検出又は推定し、フィードバック計算によって圧下レベリングを制御する方法が一般的である。
【0008】
例えば、特許文献1には、圧延差荷重を基に状態オブザーバで圧延材の蛇行量と入側角度を推定し、蛇行量と蛇行量の積分値と入側角度と圧下レベリングを変数とする評価関数を最小にするように圧下レベリングを制御する最適レギュレータを用いた方法が提案されている。
【0009】
また、蛇行を引き起こす圧延材の左右の伸び差は、圧延スタンド入側と出側のウェッジ率(作業側と駆動側の板厚の差をウェッジ、ウェッジを板厚で割ったものをウェッジ率と呼ぶ)の変化で生じるため、ウェッジ率の変化に着目して蛇行の抑止を図る制御方法も提案されている。
【0010】
例えば、特許文献2には、最終の圧延スタンド出側でウェッジを計測して、各圧延スタンドに対しては、計測されたウェッジ率と等しくなるように圧下レベリングを制御し、ウェッジを低減しながら蛇行を抑止する方法が提案されている。
【0011】
圧下レベリングを事前に設定する方法として、例えば、特許文献3には、各圧延スタンドの圧下レベリングとキャンバ量(先尾端に対するボディの曲がり量をキャンバ量と呼ぶ)の関係に基づいて、当該材(圧下レベリング設定の対象とする圧延材)と先行材(直前に圧延した圧延材)について各圧延スタンドの圧下レベリング修正量を計算し、その差で圧下レベリングを設定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5790636号公報
【特許文献2】特許第6044194号公報
【特許文献3】特許第3664068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載された方法では、圧下レベリングが出側ウェッジを変えて、ウェッジ率が変化することによって蛇行を低減させる方向に圧延材を回転させる。
【0014】
しかし、変えられた出側ウェッジは、1つ下流の圧延スタンドから見た入側ウェッジである。1つ下流の圧延スタンドが圧延材を圧延するときには、低減した蛇行を元に戻す方向の回転を生じさせる。
【0015】
そのため、上流の圧延スタンドからの影響又は下流の圧延スタンドへの影響を考慮しなければ、圧延スタンド全体としての蛇行制御は不安定となり得る。
【0016】
また、特許文献2に記載された方法では、圧延材長手方向でウェッジ率が均一でない場合、最終の圧延スタンド出側で計測されるウェッジ率と各圧延スタンドの圧延ロール直下に位置する圧延材のウェッジ率が異なるため、効果的な制御がなされない可能性がある。
【0017】
圧延材の尾端部に注目すると、フィードバック制御により安定化させる時間又は圧延材長さも十分でないため、蛇行は抑止できない。また、ウェッジ率は、板厚とウェッジの比率であるから、板厚が厚い上流の圧延スタンドでは、大きな圧下レベリングが要求される。その場合、装置の機械制約によって、十分に圧下レベリングを制御できずに目標とするウェッジ率を達成できない。結果として、下流の圧延スタンドとウェッジ率が一致せずに蛇行が生じるおそれがある。
【0018】
また、特許文献3に記載された方法では、各圧延スタンドの圧下レベリングをキャンバ量に対して独立に決定しており、上流の圧延スタンドが下流の圧延スタンドに与える影響を考慮できない。また、尾端における蛇行現象では、時間又は圧延距離に対して蛇行が指数的に発展し、各圧延スタンドで蛇行及びウェッジが干渉する。
【0019】
より正確な予測のためには、圧延モデルを用いて圧延スタンドごとに圧延後の蛇行及びウェッジを明示的に求め、時間又は圧延距離による発展を模擬することが望ましい。
【0020】
また、上述した従来技術では、利用するモデルや変数間の影響係数テーブルを圧延結果に基づいて自動的に修正する手段を持たず、経時的変化に対応できない恐れや手動によるモデル調整を繰り返す必要がある。
【0021】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、連続式圧延機が連続して素材を圧延しても、ウェッジ品質を保ちながら安定した通板を実現するように制御することができる蛇行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、素材を通過させて順次に圧下力をかける複数の圧延スタンドを備えた連続式圧延機による素材の蛇行を制御する蛇行制御装置において、圧延前の素材の蛇行量である初期蛇行量、全ての前記圧延スタンドにより圧延された素材の蛇行量である最終蛇行量、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値、及び圧延プロセスの設定を特定する圧延情報を用いる複数の前記圧延スタンドそれぞれの圧延モデルに基づいて、複数の前記圧延スタンドそれぞれを通過した後の素材尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量を予測する予測演算部と、前記予測演算部が予測した素材尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量に基づいて、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新する設定値更新部と、前記設定値更新部が更新した圧下レベリング設定値それぞれに基づいて、複数の前記圧延スタンドの圧下レベリングをそれぞれ制御する複数の圧下レベリング制御部とを有することを特徴とする。
【0023】
また、本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、好適には、前記設定値更新部が、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を時系列又は圧延距離系列の圧下レベリング設定パターンとするように、所定の終了条件を満たすまで前記予測演算部が予測した蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を繰り返して、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新し、前記圧下レベリング制御部が、前記設定値更新部が更新した圧下レベリング設定パターン、時間、及び素材の入側速度に基づいて、前記圧延スタンドの圧下レベリングを制御することを特徴とする。
【0024】
また、本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、好適には、前記設定値更新部が、圧下レベリング設定値を一定値として、所定の終了条件を満たすまで前記予測演算部が予測した蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を繰り返し、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、好適には、前記設定値更新部が、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対して上流側から順に、前記予測演算部が予測する最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材尾端部の所定点の蛇行量が0になるように、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、好適には、前記設定値更新部が、複数の前記圧延スタンドそれぞれに対して上流側から順に、所定の終了条件を満たすまで前記予測演算部が予測する最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材尾端部の所定点の蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を行い、評価結果に基づいて複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新することを特徴とする。
【0027】
また、本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、好適には、前記圧延モデルの調整に用いる学習値を記憶する学習値記憶部と、前記学習値記憶部が記憶する学習値を更新する学習値更新部とをさらに有し、複数の前記圧下レベリング制御部が、複数の前記圧延スタンドから時系列又は圧延距離系列の圧下レベリング実績パターンをそれぞれ取得し、前記予測演算部が、前記初期蛇行量、前記最終蛇行量、複数の前記圧下レベリング制御部が取得した圧下レベリング実績パターンそれぞれ、前記圧延情報、及び前記学習値記憶部が記憶する学習値を用いる複数の前記圧延スタンドそれぞれの圧延モデルに基づいて、複数の前記圧延スタンドそれぞれを通過した後の素材尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量を予測し、前記学習値更新部が、前記予測演算部が予測した最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材の蛇行量と、前記最終蛇行量とを用いて前記学習値記憶部が記憶する学習値を更新することを特徴とする。
【0028】
また、本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、好適には、前記学習値更新部が、前記予測演算部が予測した最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材の蛇行量と、前記最終蛇行量とを用いた評価関数による評価を繰り返して、所定の終了条件を満たすまで複数の前記圧延スタンドそれぞれに対する学習値を更新することを特徴とする。
【0029】
また、本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、好適には、前記学習値更新部が、前記予測演算部が予測する最下流の前記圧延スタンドを通過した後の素材尾端部の所定点の蛇行量と、前記最終蛇行量との誤差が0となるように学習値を更新することを特徴とする。
【0030】
また、本発明の一態様にかかる蛇行制御装置は、好適には、前記学習値更新部が、前記圧延スタンドと他の前記圧延スタンドとの間で素材の蛇行量を検出するスタンド間蛇行量検出部が検出した蛇行量と、前記予測演算部が予測した蛇行量とを評価関数により評価し、評価結果に基づく所定の終了条件を満たすまで学習値を更新することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、連続式圧延機が連続して素材を圧延しても、ウェッジ品質を保ちながら安定した通板を実現するように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】一実施形態にかかる圧延システムの構成例を模式的に示す側面図である。
【
図2】一実施形態にかかる蛇行制御装置の構成例及びその周辺の構成を例示する図である。
【
図3】第1動作例の設定ステップにおいて蛇行制御装置が繰り返し計算を行う処理を示すフローチャートである。
【
図4】蛇行制御装置の第1動作例における圧下レベリング設定パターンを模式的に示す図である。
【
図5】第1動作例の学習ステップにおいて蛇行制御装置が繰り返し計算を行う処理を示すフローチャートである。
【
図6】蛇行制御装置の第3動作例における圧延時の張力状態を模式的に示す図である。
【
図7】蛇行制御装置の第3動作例における圧延後の圧延材の各位置での特徴を模式的に示す図である。
【
図8】圧延システムの変形例における蛇行制御装置の構成例及びその周辺の構成を例示する図である。
【
図9】学習ステップにおいて蛇行制御装置が繰り返し計算を行う処理を示すフローチャートである。
【
図10】蛇行制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を用いて圧延システムの一実施形態について説明する。
図1は、一実施形態にかかる圧延システム100の構成例を模式的に示す側面図である。
図1に示すように、圧延システム100は、例えば連続式圧延機10、蛇行制御装置20、及びセットアップ装置30を有する。
【0034】
複数段の連続式圧延機10が備える圧延スタンドF
1、F
2、・・・、F
Nは、圧延材(素材)1を順次に通過させ、圧延材1に対してそれぞれ圧下力をかける。Nは、2以上の自然数である。つまり、圧延材1は、圧延スタンドF
1、F
2、・・・、F
Nを順次に通過するように移動(
図1において左側から右側へ移動)し、所定の板厚に圧延される。
【0035】
各圧延スタンドFi(1≦i≦N)は、上下2本のワークロール11と、上下2本のバックアップロール12を備え、バックアップロール12の作業側と駆動側それぞれに設けられた圧下装置(図示せず)によって上下のワークロール11の間隙を調整可能にされている。
【0036】
圧下制御部13は、蛇行制御装置20から圧下レベリング設定値を取得し、圧下装置による圧下レベリング(作業側と駆動側の圧下量の差)を取得した圧下レベリング設定値に変更する。また、圧下制御部13は、圧下装置による実際の圧下レベリングを時系列又は圧延距離系列の圧下レベリング実績パターンとして蛇行制御装置20(後述する圧下レベリング制御部23)へ出力する。
【0037】
初期蛇行量検出部2は、圧延スタンドF1よりも上流側に設置されており、圧延前の圧延材1の蛇行量である初期蛇行量を検出し、検出した初期蛇行量を蛇行制御装置20に対して出力する。例えば、初期蛇行量検出部2は、連続式圧延機10の幅方向中心位置に対する圧延材1の幅方向中心位置の偏差を初期蛇行量として検出する。
【0038】
最終蛇行量検出部3は、圧延スタンドFNよりの下流側に設置されており、全ての圧延スタンドにより圧延された圧延材1の蛇行量である最終蛇行量を検出し、検出した最終蛇行量を蛇行制御装置20に対して出力する。最終蛇行量検出部3は、連続式圧延機10の幅方向中心位置に対する圧延材1の幅方向中心位置の偏差を最終蛇行量として検出する。なお、最終蛇行量検出部3が設置される位置は、連続式圧延機10の出側に限定されず、他の下流工程に設置されてもよい。
【0039】
蛇行制御装置20は、セットアップ装置30から入力される圧延情報、初期蛇行量検出部2から入力される初期蛇行量、及び最終蛇行量検出部3から入力される最終蛇行量に基づいて、各圧延スタンドの圧下レベリング設定値を計算し、圧下制御部13それぞれに対して出力する。
【0040】
次に、一実施形態にかかる蛇行制御装置20の構成例について説明する。
図2は、一実施形態にかかる蛇行制御装置20の構成例及びその周辺の構成を例示する図である。以下、上述した構成と実質的に同一の構成には同一の符号を付すこととする。
【0041】
蛇行制御装置20は、予測演算部21、設定値更新部22、N個の圧下レベリング制御部23、学習値更新部24、及び学習値記憶部25を備える。
【0042】
予測演算部21は、圧延前の圧延材1の蛇行量である初期蛇行量、全ての圧延スタンドにより圧延された圧延材1の蛇行量である最終蛇行量、複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値、及び圧延プロセスの設定を特定する圧延情報を用いる複数の圧延スタンドそれぞれの圧延モデルに基づいて、複数の圧延スタンドそれぞれを通過した後の圧延材1の尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量を予測する。
【0043】
また、予測演算部21は、初期蛇行量、最終蛇行量、複数の圧下レベリング制御部23が取得した圧下レベリング実績パターンそれぞれ、圧延情報、及び学習値記憶部25が記憶する学習値を用いる複数の圧延スタンドそれぞれの圧延モデルに基づいて、複数の圧延スタンドそれぞれを通過した後の圧延材1の尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量を予測する機能を有する。
【0044】
設定値更新部22は、予測演算部21が予測した圧延材1の尾端部それぞれの蛇行量及びウェッジ量に基づいて、複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新する。
【0045】
また、設定値更新部22は、複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を時系列又は圧延距離系列の圧下レベリング設定パターンとするように、所定の終了条件を満たすまで予測演算部21が予測した蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を繰り返して、複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新する機能を有する。
【0046】
また、設定値更新部22は、圧下レベリング設定値を一定値として、所定の終了条件を満たすまで予測演算部21が予測した蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を繰り返し、複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新する機能を有する。
【0047】
また、設定値更新部22は、複数の圧延スタンドそれぞれに対して上流側から順に、予測演算部21が予測する最下流の圧延スタンドを通過した後の圧延材1の尾端部の所定点の蛇行量が0になるように、複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新する機能を有する。
【0048】
また、設定値更新部22は、複数の圧延スタンドそれぞれに対して上流側から順に、所定の終了条件を満たすまで予測演算部21が予測する最下流の圧延スタンドを通過した後の圧延材1の尾端部の所定点の蛇行量及びウェッジ量に基づく評価関数による評価を行い、評価結果に基づいて複数の圧延スタンドそれぞれに対する圧下レベリング設定値を更新する機能を有する。
【0049】
圧下レベリング制御部23は、設定値更新部22が更新した圧下レベリング設定値それぞれに基づいて、複数の圧延スタンドの圧下レベリングをそれぞれ制御する。
【0050】
また、圧下レベリング制御部23は、設定値更新部22が更新した圧下レベリング設定パターン、時間、及び圧延材1の入側速度に基づいて、圧延スタンドの圧下レベリングを制御する機能を有する。
【0051】
学習値更新部24は、学習値記憶部25が記憶する圧延モデルの調整に用いる学習値を更新する。
【0052】
また、学習値更新部24は、予測演算部21が予測した最下流の圧延スタンドを通過した後の圧延材1の蛇行量と、最終蛇行量とを用いて学習値記憶部25が記憶する学習値を更新する機能を有する。
【0053】
また、学習値更新部24は、予測演算部21が予測した最下流の圧延スタンドを通過した後の圧延材1の蛇行量と、最終蛇行量とを用いた評価関数による評価を繰り返して、所定の終了条件を満たすまで複数の圧延スタンドそれぞれに対する学習値を更新する機能を有する。
【0054】
また、学習値更新部24は、予測演算部21が予測する最下流の圧延スタンドを通過した後の圧延材1の尾端部の所定点の蛇行量と、最終蛇行量との誤差が0となるように学習値を更新する機能を有する。
【0055】
次に、蛇行制御装置20が備える各部の機能及び動作を詳細に説明する。蛇行制御装置20の動作は、設定ステップ、制御ステップ、及び学習ステップを含む。
【0056】
設定ステップでは、蛇行制御装置20は、圧延材1の尾端が初期蛇行量検出部2を通過した後に動作を開始し、設定値更新部22が圧下レベリング設定値を演算し、演算結果を圧下レベリング制御部23へ出力して動作を終了する。
【0057】
制御ステップでは、蛇行制御装置20は、各圧延スタンドそれぞれに対して異なるタイミングで制御を行う。
【0058】
例えば、圧延スタンドF1に対応する圧下レベリング制御部23は、圧延材1の尾端から距離Ltの位置が圧延スタンドF1のワークロール11直下を通過した後に動作を開始する。そして、圧下レベリング制御部23は、圧下レベリング設定値又は圧下レベリング設定パターンに従って、圧下制御部13を操作(制御)し、圧延材1の尾端が圧延スタンドF1のワークロール11直下を通過した後に動作を終了する。
【0059】
圧延スタンドFj(2≦j≦N)に対応する圧下レベリング制御部23は、圧延材1の尾端が1つ上流の圧延スタンドFj-1を通過後、圧下レベリングの変更を開始する。
【0060】
学習ステップでは、蛇行制御装置20は、圧延材1の尾端が最終蛇行量検出部3を通過した後に動作を開始し、学習値更新部24が学習値を更新する演算を行い、演算結果を学習値記憶部25に記憶させて動作を終了する。
【0061】
(第1動作例)
図3は、設定ステップにおいて蛇行制御装置20が繰り返し計算を行う処理を示すフローチャートである。なお、
図3に示した破線枠内は、予測演算部21が行う処理を示している。
【0062】
設定ステップ開始時に設定値更新部22が予測演算部21に対して読込命令を出すと、予測演算部21は、セットアップ装置30から圧延情報を取得し、初期蛇行量検出部2から初期蛇行量yc0を取得し、学習値記憶部25から学習値を読み込んで、各圧延スタンドの圧延モデルの各係数を算出する(S100)。
【0063】
圧延モデルの各係数は、入力や現在の状態が未来の状態に与える影響係数である。圧延モデルには、例えば、下式(1)~(5)に示す状態空間モデルで表される動力学モデルが用いられる。
【0064】
【0065】
ここで、kは、圧延スタンドFiの動作開始を表す値1から動作終了を表す値Miまでインクリメントする媒介変数である。
【0066】
(2)式の出力ベクトルziは、(4)式で表され、ワークロール11直下の蛇行量とウェッジ量とからなる。入力ベクトルuiは、(5)式で表され、(2)式で計算された1つ上流の圧延スタンドFi-1の出力ベクトルzi-1と、圧延スタンドFiの圧下レベリング設定値δSiとからなる。
【0067】
ただし、最上流に位置する圧延スタンドF1の場合、zi-1には、初期蛇行量yc0を代入し、初期ウェッジ量は0を仮定する。
【0068】
ここで、圧下レベリング設定パターンδS
iは、
図4に示す媒介変数kで変化する圧下レベリング設定値である。
【0069】
なお、(1)式の状態方程式は、時間で発展する微分方程式又は差分方程式に限定されず、圧延距離で発展する微分方程式又は差分方程式を採用してもよい。圧延距離で発展する状態方程式の場合、搬送によるむだ時間及び入側速度の時間変化を回避し、状態空間モデルを線形化できる利点がある。
【0070】
ここで、学習値は、定常的なモデル化誤差を考慮して、例えば(2)式右辺に加算するベクトルで与えてもよい。また、圧延モデルは、動力学モデルに限定されず、線形モデルなどでもよい。
【0071】
設定値更新部22は、各圧延スタンドの圧下レベリング初期設定値δSini,1、δSini,2、・・・、δSini,Nを予測演算部21に入力し、予測命令を出す(S102)。初期設定値は、例えば、各圧延スタンドで定常部の任意の区間の圧下レベリング実績パターンの平均値を与える。
【0072】
予測演算部21は、予測命令を受け、入力条件と圧延モデルに基づいて圧延スタンドF1から順次に圧延モデルを用いて演算を行い、各圧延スタンドでの圧延後の蛇行量yc1、yc2、・・・、ycN及びウェッジ量δh1、δh2、・・・、δhNを設定値更新部22に出力する(S104)。
【0073】
設定値更新部22は、取得した各圧延スタンドの圧延後の蛇行量及び最終圧延スタンド圧延後のウェッジ量を評価する(S106)。設定値更新部22は、例えば、評価に下式(6)に示す評価関数を用いる。
【0074】
【0075】
そして、設定値更新部22は、評価値が終了条件を満たすか否かを判定する。終了条件は、例えば、前回と今回の評価値が予め設定した値以下となるか否かで判断される条件であるとする(S108)。
【0076】
設定値更新部22は、終了条件を満たしていない場合、各圧延スタンドの圧下レベリング設定パターンδS1、δS2、・・・、δSNを評価値に基づいて更新し、予測演算部21に対して再び予測命令を出す(S110)。
【0077】
評価値に基づく更新は、例えば、最適化手法でよく知られている準ニュートン法などで計算することによって可能である。
【0078】
そして、蛇行制御装置20は、所定の終了条件を満たすまで予測、評価、更新を繰り返し計算して各圧延スタンドの圧下レベリング設定パターンδS1、δS2、・・・、δSNを決定する。
【0079】
なお、繰り返し計算には、圧下装置の機械リミットを考慮して、制約付きの最適化又は(6)式に圧下レベリングに関するペナルティ項を加えてもよい。
【0080】
設定値更新部22は、決定した圧下レベリング設定パターンを各圧延スタンドに対応する圧下レベリング制御部23に出力する。
【0081】
圧延スタンドFiに対応する圧下レベリング制御部23は、設定ステップで取得した圧下レベリング設定パターンを記憶しておき、制御ステップ開始時に、圧下レベリング設定値δSi[1]を読み出す。
【0082】
そして、圧下レベリング制御部23は、制御開始からの経過時間又は圧延距離を計算しながら、圧下レベリング設定パターンδSi[1]、δSi[2]、・・・、δSi[Mi]で圧下制御部13を順次操作する。
【0083】
なお、圧下装置の応答遅れ又は動特性を考慮して、圧下制御部13の順次操作を早めるか、動特性の伝達関数を基にしたフィルタで補償してもよい。
【0084】
図5は、学習ステップにおいて蛇行制御装置20が繰り返し計算を行う処理を示すフローチャートである。なお、
図5に示した破線枠内は、予測演算部21が行う処理を示している。
【0085】
各圧延スタンドに対応する圧下レベリング制御部23は、学習ステップ開始時に、圧下制御部13から時系列又は圧延距離系列の圧下レベリング実績パターンδS1、δS2、・・・、δSNを取得し、学習値更新部24に対して出力する。
【0086】
学習値更新部24は、セットアップ装置30から圧延情報を取得し、圧下レベリング制御部23から圧下レベリング実績パターンを取得した後、初期蛇行量検出部2から初期蛇行量yc0を、最終蛇行量検出部3から最終蛇行量ycMを、学習値記憶部25から学習値を取得し、予測演算部21に読込命令を出す。
【0087】
さらに、学習値更新部24は、圧下レベリング制御部23から取得した圧下レベリング実績パターンを予測演算部21に入力し、予測命令を出す。
【0088】
予測演算部21は、まず、読込命令を受け、学習値記憶部25から学習値を取得し、取得した学習値とセットアップ装置30から入力される圧延情報とから、各圧延スタンドの圧延モデルの各係数を算出する(S200)。
【0089】
ただし、予測演算部21は、2回目以降の読込命令では、学習値記憶部25から学習値を取得する代わりに、学習値更新部24から与えられる学習値を用いる。
【0090】
次に、予測演算部21は、予測命令を受け、入力条件と圧延モデルに基づいて圧延スタンドF1から順次に圧延モデルを用いて演算を行い、予測した圧延スタンドFNでの圧延後の蛇行量ycNを学習値更新部24に出力する(S202)。
【0091】
学習値更新部24は、取得した圧延スタンドFNでの圧延後の蛇行量ycNと、対応する圧延材位置で測定された最終蛇行量ycMとを用いて予測誤差を評価する(S204)。例えば、学習値更新部24は、下式(7)に示した評価関数を評価に用いる。
【0092】
【0093】
そして、学習値更新部24は、評価値が終了条件を満たすか否かを判定する。終了条件は、例えば、前回と今回の評価値が予め設定した値以下となるか否かで判断される条件であるとする(S206)。
【0094】
学習値更新部24は、終了条件を満たしていない場合、学習値を評価値に基づいて更新して、予測演算部21に入力し、再び読込命令及び予測命令を出す(S208)。
【0095】
評価値に基づく更新は、例えば、最適化手法でよく知られている準ニュートン法などで計算することによって可能である。
【0096】
そして、蛇行制御装置20は、所定の終了条件を満たすまで予測、評価、更新を繰り返して計算することにより、学習値を決定する。
【0097】
最後に、学習値更新部24は、上述したように決定した学習値と、初めに取得した学習値とを按分し、最終的な学習値として学習値記憶部25が記憶している学習値を更新する。このように、蛇行制御装置20は、今回の圧延結果に対して最適な学習値を求める。
【0098】
(第2動作例)
蛇行制御装置20の第2動作例では、上述した第1動作例における圧下レベリング設定パターンの代わりに、制御ステップ中で一定の圧下レベリング設定値とする。
【0099】
動力学モデルは、(5)式を下式(8)に変更する。
【0100】
【0101】
設定値更新部22は、設定ステップにおいて、第1動作例で述べた各圧延スタンドの圧下レベリング設定パターンδS1、δS2、・・・、δSNの決定と同様にして、圧下レベリング設定値δS1、δS2、・・・、δSNを決定し、各圧延スタンドの圧下レベリング制御部23に出力する。
【0102】
圧延スタンドFiに対応する圧下レベリング制御部23は、制御ステップ開始時に、設定値更新部22から取得した圧下レベリング設定値δSiにしたがって、圧延スタンドFiの圧下制御部13を制御する。なお、圧下装置の応答遅れを考慮して、圧下制御部13の操作開始を早めてもよい。
【0103】
(第3動作例)
蛇行制御装置20の第3動作例では、第1動作例で述べた設定ステップにおける繰り返し計算を上流の圧延スタンドから順に行うことによって計算コストを小さくする。
【0104】
図6は、蛇行制御装置20の第3動作例における圧延時の張力状態を模式的に示す図である。
図6においては、圧延スタンドF
1からF
3までを例として、連続式圧延機10の各圧延スタンドにより後方張力なしで圧延される圧延材1の区間が示されている。
【0105】
圧延材1は、上流から下流に向けて圧延されるにつれて、入側板厚Hiと出側板厚hiの比Hi/hiで表される伸び率λiで伸びる。つまり、圧延材1は、尾端の位置に応じて、各圧延スタンドにより圧延されるときの張力状態が異なる。
【0106】
まず、各圧延スタンドにより後方張力なしで圧延される区間(
図6中の斜線区間)は、圧延スタンドF
2以降では尾端からLまでであり、圧延スタンドF
1では尾端からLtまでとする。
【0107】
次に、圧延スタンドF
1入側の長さLtは、出側で長さがλ
1×Ltへ伸びるため、圧延スタンドF
2入側で尾端からλ
1×Ltの位置から、尾端からLの位置までの区間(
図6中横線区間)は、後方張力ありで圧延される。
【0108】
同様に、圧延スタンドF
2により後方張力なしで圧延される尾端からLの区間(
図6中の斜線区間)もλ
2×Lへ伸びるため、圧延スタンドF
3入側で尾端からλ
2×Lの位置から、尾端からLの位置までの区間(
図6中横線区間)は、後方張力ありで圧延される。
【0109】
その結果、圧延材1の各位置で各圧延スタンドによる張力状態が変化する。なお、ここでは圧延スタンドF3までについて説明したが、圧延スタンドFNまで同様の現象が繰り返される。
【0110】
図7は、蛇行制御装置20の第3動作例における圧延後の圧延材1の各位置での特徴(張力状態)を模式的に示す図である。圧延スタンド数は上述したNである。区間1~区間Nは、圧延後の圧延材1の各位置を各圧延スタンドで圧延されるときの張力状態に着目して区分したものである。
【0111】
区間iは、圧延スタンドF1~Fiにより後方張力なしで圧延される。したがって、区間iの蛇行量は、圧延スタンドF1~Fiの圧下レベリングの影響によるものであり、圧延スタンドFi+1~FNの圧下レベリングの影響は無視できる。
【0112】
上記の関係を鑑みた結果、圧延スタンドF1の圧下レベリング設定値δS1は、予測演算部21が予測した圧延スタンドFNによる圧延後の蛇行量ycNに対し、区間1と区間2の境界の位置でycNを0にするよう決定されればよい。つまり、設定値更新部22は、決定した圧下レベリング設定パターンδS1に更新する処理を行い、再び予測命令を出す。
【0113】
ここで、予測演算部21は、後方張力ありで圧延される圧延スタンドでは、ウェッジ率の変化によって回転が生じないものとして、(2)式を(9)式に変更して予測する。
【0114】
【0115】
したがって、区間1については、圧延スタンドF2以降では後方張力ありで圧延されるため、各圧延スタンドの蛇行量の予測値はyc1=yc2=・・・=ycNとなる。
【0116】
なお、制御ステップ開始前の圧延スタンドの圧下レベリングは、第1動作例で述べた圧下レベリング初期設定値を与える。
【0117】
次に、圧延スタンドF2の圧下レベリング設定値δS2は、圧延スタンドFNによる圧延後の蛇行量ycNに対し、区間2と区間3の境界の位置でycNを0にするよう決定されればよい。設定値更新部22は、同様の手順で上流の圧延スタンドから順に圧下レベリング設定値δS1、・・・、δSNを決定する。
【0118】
(第4動作例)
蛇行制御装置20の第4動作例では、第3動作例で述べた設定ステップにおける繰り返し計算を上流の圧延スタンドから順に行い、最終圧延スタンドによる圧延後のウェッジ量も考慮して圧下レベリング設定値を決定することによりウェッジ品質を改善する。
【0119】
設定値更新部22は、圧延スタンドFiの圧下レベリングδSiについて、圧延材1の区間iと区間i+1の境界の位置に注目して、予測演算部21が予測した最終圧延スタンドによる圧延後の蛇行量とウェッジ量を(10)式の評価関数を用いて評価する。
【0120】
【0121】
そして、蛇行制御装置20は、所定の終了条件を満たすまで圧延スタンドFiの圧下レベリング設定値δSiを変更し、再予測を繰り返して決定する。なお、iは、1からNまでの順とする。
【0122】
例えば、i=3の場合には、設定値更新部22は、圧下レベリング設定値δS1,δS2については既に決定済みの設定値、圧下レベリング設定値δS4~δSNについては初期設定値を予測演算部21に入力する。
【0123】
(第5動作例)
蛇行制御装置20の第5動作例では、第1動作例で述べた学習ステップにおける繰り返し計算を上流の圧延スタンドから順に行うことによって計算コストを小さくする。例えば、学習値更新部24は、予測演算部21が予測した蛇行量と、検出された蛇行量の誤差を区間1から順に使用して、圧延スタンドF1から順に学習値を求める。
【0124】
圧延スタンドF1の学習値は、予測演算部21が予測した圧延スタンドFNによる圧延後の蛇行量ycNに対して、区間1と区間2の境界の位置の蛇行量がycMと一致するよう決定されればよい。そして、学習値更新部24は、決定した圧延スタンドF1の学習値を更新し、再び読込命令及び予測命令を出す。
【0125】
次に、圧延スタンドF2の学習値は、圧延スタンドFNによる圧延後の蛇行量ycNに対して、区間2と区間3の境界の位置の蛇行量がycMと一致するよう決定されればよい。そして、学習値更新部24は、同様の手順で上流の圧延スタンドから順に学習値を決定する。最後に、学習値更新部24は、上述のとおり決定した各圧延スタンドの学習値と、初めに取得した学習値とを按分し、最終的な学習値として学習値記憶部25が記憶している学習値を更新する。
【0126】
このように、蛇行制御装置20は、設定値更新部22が更新した圧下レベリング設定値それぞれに基づいて、複数の圧延スタンドの圧下レベリングをそれぞれ制御するので、連続式圧延機10が連続して圧延材1を圧延しても、ウェッジ品質を保ちながら安定した通板を実現するように制御することができる。
【0127】
次に、圧延システム100の変形例について説明する。
図8は、圧延システム100の変形例(圧延システム100a)における蛇行制御装置20aの構成例及びその周辺の構成を例示する図である。
【0128】
圧延システム100aは、例えば所定の圧延スタンド間に1つ以上のスタンド間蛇行量検出部4を有する点が圧延システム100(
図1,2参照)と異なる。例えば、圧延システム100aは、圧延スタンドF
i-1と圧延スタンドF
iの間に、スタンド間蛇行量検出部4が1つ設置されている。なお、スタンド間蛇行量検出部4の設置個所は、圧延スタンドF
1~F
Nのいずれのスタンド間でもよい。また、スタンド間蛇行量検出部4の設置個数は、最大でN-1である。
【0129】
そして、蛇行制御装置20aは、スタンド間蛇行量検出部4が検出したスタンド間蛇行量を用いて、圧延モデルの精度を向上させるように学習値を決定する。
【0130】
例えば、学習値更新部24aは、スタンド間蛇行量検出部4が検出した蛇行量と、予測演算部21が予測した蛇行量とを評価関数により評価し、評価結果に基づく所定の終了条件を満たすまで学習値を更新する機能も有する。
【0131】
上述した蛇行制御装置20の第1動作例では、予測演算部21が初期蛇行量yc0から圧延スタンドFNによる圧延後の蛇行量ycNまでを予測し、学習値更新部24aが蛇行量ycNと最終蛇行量ycMを一致させるように学習値を計算した。
【0132】
この場合、上流の圧延スタンドの圧延モデルの誤差が下流へ伝播し、下流の圧延スタンドの予測に影響を与えるおそれがある。
【0133】
蛇行制御装置20aは、スタンド間蛇行量検出部4が圧延スタンドFi-1と圧延スタンドFiの間に設置されている場合、圧延スタンドF1~Fi-1を上流側、圧延スタンドFi~FNを下流側に分割して学習値の更新を繰り返し計算する。
【0134】
スタンド間蛇行量検出部4が検出したF
i-1-F
i間蛇行量をy
siと表す。F
i-1-F
i間蛇行量y
siは、圧延スタンドF
iにおいて後方張力ありで圧延された圧延材1の位置、例えば、
図7における区間i-1を用いて、圧延スタンドF
i-1による圧延後の蛇行量y
ci-1と比較される。
【0135】
図9は、学習ステップにおいて蛇行制御装置20aが繰り返し計算を行う処理を示すフローチャートである。繰り返し計算では、まず、上流側の圧延スタンドF
1~F
i-1について、圧延スタンドF
i-1による圧延後の蛇行量y
ci-1と、対応する圧延材1の位置で測定されたF
i-1-F
i間蛇行量y
siとを用いて第1動作例と同様に学習値を更新する(上流側処理:S300~S308)。
【0136】
ここでは、評価関数は、下式(7)から下式(11)に変更して用いられる。
【0137】
【0138】
ここで、Fi-1-Fi間蛇行量ysiを、事前に圧延スタンドFi-1の媒介変数kに対応するように線形補間でリサンプリングし、圧延スタンドFi-1のワークロール11直下と蛇行量検出位置の距離と、圧延スタンドFi-1-Fi間の搬送速度に基づいてシフトさせておく。
【0139】
評価する区間は、圧延スタンドFi-1に関する圧延モデルにおいて、区間i-2と区間i-1の境界に対応するk=1から、区間i-1と区間iの境界に対応するk=Mi-1’までであり、Mi-1’は下式(12)によって計算される。ここで、Int()は小数点以下を切り捨てる関数である。なお、区間0は定常部を意味する。
【0140】
【0141】
そして、学習値更新部24aは、上流側の圧延スタンドF1~Fi-1に対して上述したように得られた学習値を用いて、下流側の圧延スタンドに対する学習値を求める。学習値更新部24aは、下流側の圧延スタンドFi~FNについて、圧延スタンドFNによる圧延後の蛇行量ycNと、最終蛇行量ycMとを用いて第1動作例と同様に学習値を更新する。最後に、学習値更新部24aは、上述のとおり決定した各圧延スタンドの学習値と、初めに取得した学習値とを按分し、最終的な学習値として学習値記憶部25が記憶している学習値を更新する(下流側処理:S400~S408)。
【0142】
このように、蛇行制御装置20aは、予測演算部21が予測した最下流の圧延スタンドを通過した後の圧延材1の蛇行量と、最終蛇行量とを用いて学習値記憶部25が記憶する学習値を更新するので、経時的変化が生じ得るなかで連続式圧延機10が連続して圧延材1を圧延しても、ウェッジ品質を保ちながら安定した通板を実現するように制御することができる。
【0143】
次に、蛇行制御装置20(又は蛇行制御装置20a)のハードウェア構成例について説明する。
図10は、蛇行制御装置20(又は蛇行制御装置20a)が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。蛇行制御装置20内の各部は、機能の一部を示し、各機能は処理回路により実現される。
【0144】
一態様として、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ91と、少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0145】
処理回路がプロセッサ91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。また、ソフトウェア及びファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。
【0146】
プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0147】
処理回路が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。そして、各機能は、当該処理回路によって実現される。
【0148】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0149】
1・・・圧延材、2・・・初期蛇行量検出部、3・・・最終蛇行量検出部、4・・・スタンド間蛇行量検出部、10・・・連続式圧延機、11・・・ワークロール、12・・・バックアップロール、13・・・圧下制御部、20,20a・・・蛇行制御装置、21・・・予測演算部、22・・・設定値更新部、23・・・圧下レベリング制御部、24,24a・・・学習値更新部、25・・・学習値記憶部、30・・・セットアップ装置、91・・・プロセッサ、92・・・メモリ、93・・・ハードウェア、100,100a・・・圧延システム、F1~FN・・・圧延スタンド