(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187310
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】膵がん化学療法における副作用発生リスクの予測を補助する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20221212BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20221212BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20221212BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095283
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】恒富 亮一
(72)【発明者】
【氏名】兼定 航
(72)【発明者】
【氏名】井岡 達也
(72)【発明者】
【氏名】硲 彰一
(72)【発明者】
【氏名】永野 浩昭
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA08
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】膵がんに対する化学療法において、副作用の発生リスクを予測するための簡便かつ効率的な手段を提供すること。
【解決手段】被検者から採取された生体試料中のゲノムDNA上に存在する、
(a)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
(b)R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
(c)EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
の(a)~(c)のいずれかの一塩基多型を分析し、当該一塩基多型における遺伝子型を判定し、判定した遺伝子型に基づいて、膵がんに対する化学療法を行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取された生体試料中のゲノムDNA上に存在する、
(a)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
(b)R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
(c)EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
の(a)~(c)のいずれかの一塩基多型を分析し、当該一塩基多型における遺伝子型を判定し、判定した遺伝子型に基づいて、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助する方法。
【請求項2】
前記APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型が、
(a’)配列番号1に記載されたAPCDD1L遺伝子をコードする塩基配列の186番目の塩基においてリファレンス型がアデニンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型であり、
前記R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型が、
(b’)配列番号2に記載されたR3HCC1遺伝子をコードする塩基配列の919番目の塩基においてリファレンス型がグアニンであり、バリアント型がアデニンである一塩基多型であり、
前記EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型が、
(c’)配列番号3に記載されたEDEM3遺伝子をコードする塩基配列の2459番目の塩基においてリファレンス型がチミンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型である、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型においてヘテロ若しくはバリアント型をホモとして有している場合、前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型においてバリアント型をホモとして有している場合、又は前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型においてバリアント型をホモとして有している場合には、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが高いとの予測を補助し、前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型においてリファレンス型をホモとして有している場合、前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型においてヘテロ若しくはリファレンス型をホモとして有している場合、又は前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型においてリファレンス型をホモとして有している場合には、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが低いとの予測を補助することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
副作用が、好中球減少であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
(a)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型、(b)R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型、又は(c)EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型の(a)~(c)のいずれかの一塩基多型を含む連続する5~50塩基の領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測の補助に用いるためのプローブセット。
【請求項6】
前記APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型が、
(a’)配列番号1に記載されたAPCDD1L遺伝子をコードする塩基配列の186番目の塩基においてリファレンス型がアデニンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型であり、
前記R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型が、
(b’)配列番号2に記載されたR3HCC1遺伝子をコードする塩基配列の919番目の塩基においてリファレンス型がグアニンであり、バリアント型がアデニンである一塩基多型であり、
前記EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型が、
(c’)配列番号3に記載されたEDEM3遺伝子をコードする塩基配列の2459番目の塩基においてリファレンス型がチミンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型である、
ことを特徴とする請求項5記載のプローブセット。
【請求項7】
前記(a)若しくは(a’)におけるリファレンス型に対応するリファレンス型プローブと、当該一塩基多型におけるバリアント型に対応するバリアント型プローブ、前記(b)若しくは(b’)におけるリファレンス型に対応するリファレンス型プローブと、当該一塩基多型におけるバリアント型に対応するバリアント型プローブ、又は前記(c)若しくは(c’)におけるリファレンス型に対応するリファレンス型プローブと、当該一塩基多型におけるバリアント型に対応するバリアント型プローブとを含む、
ことを特徴とする請求項5又は6記載のプローブセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵がんに対して化学療法を行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵がんは極めて予後不良ながん種である。現在の膵がん化学療法はmFOLFIRINOX(5-フルオロウラシル+ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチン)療法又はGEM/nab-PTX(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)療法が標準となっている。FOLFIRINOX療法の方が奏効率に優れるとされているが、副作用頻度の点から本邦では用量等を改変したレジメンであるmodified FOLFIRINOX(以下、「mFOLFIRINOX」ともいう)療法でさえ選択は約10%にとどまる。mFOLFIRINOX療法の副作用予測を治療前に可能にすることで、個々のがん患者にあった適切な抗がん剤治療、いわゆる個別化医療を提供し、膵がん予後改善を図ることが望まれている。
【0003】
すでに個別化医療の一部は実用化されている。例えば、消化器がん等に対する所定の抗がん剤の投与においては、その副作用や効果の有無を遺伝子検査により予測し、治療方針の決定に役立てられている。イリノテカンの副作用については、UGT1A1遺伝子における多型との相関が認められており、当該医薬品の添付文書にも、UGT1A1遺伝子多型(*6ホモ,*28ホモ、コンパウンドヘテロ)症例は4/5(80%)が好中球減少(G3以上)を示し、それ以外のUGT1A1遺伝子多型症例(10/50(20%)での上記副作用)に対してオッズ比は15であり、使用にあたって十分注意するよう記載されている。しかしながら、UGT1A1遺伝子多型(*28,*6)に基づいて非ハイリスクとされる患者群においても、依然としてイリノテカンによる副作用が見られる。本発明者らは、かかる課題に対して取り組んで、ゲノムDNA上に存在するAPCDD1L遺伝子、R3HCC1遺伝子、MKKS遺伝子、EDEM3遺伝子、又はACOX1遺伝子をコードする領域における所定の一塩基多型を分析し、バリアント型をホモとして有しているか、リファレンス型をホモとして有しているか、又はヘテロとして有しているかを判定し、イリノテカンによる副作用の発生リスクの予測を補助する方法を開示した(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、膵がんに対するmFOLFIRINOX療法は、上記イリノテカンを含むためにUGT1A1遺伝子多型に応じて投与量を決定することが推奨されているが、依然として副作用頻度が高く、欧米での積極的利用とは対照的に本邦でmFOLFIRINOX療法を選択するのは限定的であるのが現状である。また、現在までに膵がんに対するmFOLFIRINOX療法における副作用を事前に予測する方法として実用化されているのは、UGT1A1遺伝子多型の測定のみであるが、非ハイリスクとされる患者群においても、副作用が見られるのが現状である。
【0005】
また、UGT1A1*28は欧米で頻度が高いものの日本での頻度は低く、逆に*6は欧米で頻度が低いものの日本での頻度が高い等、遺伝子多型頻度には人種間の差が見られることから、欧米での報告だけでなく、本邦での症例を用いての解析が必要である。実際、本発明が対象とするR3HCC1における遺伝子多型はアジア人に偏りが見られることが知られている。
【0006】
こうしたなかで、奏効率に優れるとされる膵がんに対するmFOLFIRINOX療法の副作用予測を治療前に可能にすることで、mFOLFIRINOX療法の安全性を向上し、膵がん予後改善をもたらすことが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/132736号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
膵がんに対する化学療法において、個々の患者での副作用の発生リスクの予測を可能として、個々のがん患者に適切な抗がん剤による治療、いわゆる個別化医療が求められている。そこで、本発明の課題は、膵がんに対する化学療法において、特定の遺伝子をコードする塩基配列の所定の領域における一塩基多型を分析することにより副作用の発生リスクを予測するための簡便かつ効率的な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、APCDD1L遺伝子、R3HCC1遺伝子、又はEDEM3遺伝子をコードする領域における一塩基多型がmFOLFIRINOX療法による副作用の発生リスクの予測を補助する因子であることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕被検者から採取された生体試料中のゲノムDNA上に存在する、
(a)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
(b)R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
(c)EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
の(a)~(c)のいずれかの一塩基多型を分析し、当該一塩基多型における遺伝子型を判定し、判定した遺伝子型に基づいて、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助する方法。
〔2〕前記APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型が、
(a’)配列番号1に記載されたAPCDD1L遺伝子をコードする塩基配列の186番目の塩基においてリファレンス型がアデニンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型であり、
前記R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型が、
(b’)配列番号2に記載されたR3HCC1遺伝子をコードする塩基配列の919番目の塩基においてリファレンス型がグアニンであり、バリアント型がアデニンである一塩基多型であり、
前記EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型が、
(c’)配列番号3に記載されたEDEM3遺伝子をコードする塩基配列の2459番目の塩基においてリファレンス型がチミンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型である、
ことを特徴とする上記〔1〕記載の方法。
〔3〕前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型においてヘテロ若しくはバリアント型をホモとして有している場合、前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型においてバリアント型をホモとして有している場合、又は前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型においてバリアント型をホモとして有している場合には、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが高いとの予測を補助し、前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型においてリファレンス型をホモとして有している場合、前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型においてヘテロ若しくはリファレンス型をホモとして有している場合、又は前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型においてリファレンス型をホモとして有している場合には、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが低いとの予測を補助することを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕副作用が、好中球減少であることを特徴とする上記〔1〕~〔3〕のいずれか記載の方法。
〔5〕(a)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型、(b)R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型、又は(c)EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型の(a)~(c)のいずれかの一塩基多型を含む連続する5~50塩基の領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測の補助に用いるためのプローブセット。
〔6〕前記APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型が、
(a’)配列番号1に記載されたAPCDD1L遺伝子をコードする塩基配列の186番目の塩基においてリファレンス型がアデニンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型であり、
前記R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型が、
(b’)配列番号2に記載されたR3HCC1遺伝子をコードする塩基配列の919番目の塩基においてリファレンス型がグアニンであり、バリアント型がアデニンである一塩基多型であり、
前記EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型が、
(c’)配列番号3に記載されたEDEM3遺伝子をコードする塩基配列の2459番目の塩基においてリファレンス型がチミンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型である、
ことを特徴とする上記〔5〕記載のプローブセット。
〔7〕前記(a)若しくは(a’)におけるリファレンス型に対応するリファレンス型プローブと、当該一塩基多型におけるバリアント型に対応するバリアント型プローブ、前記(b)若しくは(b’)におけるリファレンス型に対応するリファレンス型プローブと、当該一塩基多型におけるバリアント型に対応するバリアント型プローブ、又は前記(c)若しくは(c’)におけるリファレンス型に対応するリファレンス型プローブと、当該一塩基多型におけるバリアント型に対応するバリアント型プローブとを含む、
ことを特徴とする上記〔5〕又は〔6〕記載のプローブセット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、膵がんに対するmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンにおいて、副作用の発生リスクの予測を補助することが可能となる。かかる方法を用いて個々の患者での副作用を予測することで、膵がん患者により奏効率の高い治療の選択機会を提供することや、個々の膵がん患者に適切な抗がん剤による治療、いわゆる個別化医療を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(副作用の発生リスクの予測を補助する方法)
本明細書における膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助する方法は、
被検者から採取された生体試料中のゲノムDNA上に存在する、
(a)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
(b)R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
(c)EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型;
の(a)~(c)のいずれかの一塩基多型を分析し、当該一塩基多型における遺伝子型を判定し、判定した遺伝子型に基づいて、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助する方法であり、以下、「本件副作用の発生リスクの予測を補助する方法」ともいう。
【0013】
上記FOLFIRINOX療法とは、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン塩酸塩水和物(CPT-11)、及びオキサリプラチン(L-OHP)の3種類の抗がん剤に5-FUの増強剤であるl-ロイコボリン(レボホリナートカルシウム:l-LV)とを併用投与する化学療法であり、膵がんに対する標準治療のひとつである。かかるFOLFIRINOX療法の実施形態の1つとしては、
(1)85mg/m2(体表面積)のオキサリプラチンの点滴投与を2時間
(2)次いで200mg/m2(体表面積)のロイコボリンの点滴投与を2時間、及び前記ロイコボリンの静脈内注入から30分後に180mg/m2(体表面積)のイリノテカンの点滴投与を90分
(3)次いで400mg/m2(体表面積)の5-FU静脈内注射、次いで2400mg/m2(体表面積)の5-FU持続静脈内注射を46時間
の(1)~(3)を1サイクルとし、このサイクルを2週間毎に繰り返す治療を挙げることができる。
【0014】
また、mFOLFIRINOX療法の実施形態としては、上記(2)においてイリノテカンの投与量を150mg/m2(体表面積)に減量し、かつ(3)において400mg/m2(体表面積)の5-FUの静脈内注射を除去した以下の(1)~(3’)を1サイクルとし、このサイクルを2週間毎に繰り返す治療を挙げることができる。
(1)85mg/m2(体表面積)のオキサリプラチンの点滴投与を2時間
(2’)次いで200mg/m2(体表面積)のロイコボリンの点滴投与を2時間、及び前記ロイコボリンの静脈内注入から30分後に150mg/m2(体表面積)のイリノテカンの点滴投与を90分
(3’)次いで2400mg/m2(体表面積)の5-FU持続静脈内注射を46時間
【0015】
上記FOLFIRINOX療法又はmFOLFIRINOX療法の改変レジメンとして、オキサリプラチンの投与量を、50~85、65、又は50mg/m2(体表面積)に減量してもよく、イリノテカンの投与量を、90~150、90、又は120mg/m2(体表面積)に減量してもよく5-FUの投与量を、1200~2400、1200、1800mg/m2(体表面積)に減量してもよい。
【0016】
上記FOLFIRINOX療法、mFOLFIRINOX療法及びそれらの改変レジメンにおける各薬剤の投与量は、「“治癒切除不能な膵癌を適応とする併用化学療法(FOLFIRINOX法)の使用に当たっての留意事項について” 平成25年12月20日付、薬食審査発1220第7号、厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知:URL www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb9751&dataType=1&pageNo=1」やOzakiらの論文(Cancer Chemotherapy and Pharmacology volume 81, pages1017-1023 (2018))を参考に調整可能である。
【0017】
被検者から採取された生体試料としては、被検者のゲノムDNAを含むものであれば特に制限されず、被検者から採取された血液及びこれに由来する血液関連試料(血液、血清及び血漿等)、リンパ液、汗、涙、唾液、尿、糞便、腹水及び髄液等の体液、ならびに細胞、組織又は臓器の破砕物及び抽出液等を挙げることができ、血液関連試料を好適に挙げることができる。
【0018】
被検者から採取した生体試料からゲノムDNAを抽出する抽出手段としては、特に限定されず、前記生体試料から直接的にDNA成分を分離し、精製して回収できる手段であることが好ましい。
【0019】
上記(a)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型としては、Chr.20:58470611 on Build GRCh38として示されるゲノム上の位置における遺伝子多型であり、NCBIアクセッション番号 NM_153360.2(更新日 2019年5月4日)の417番目の塩基における一塩基多型、具体的には、(a’)配列番号1に記載されたAPCDD1L遺伝子をコードする塩基配列の186番目の塩基においてリファレンス型がアデニンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型であることが好ましい。なお、上記rs1980576における「rs」はNCBI SNP データベース(www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)のリファレンス番号である。以下、本発明においては、特定の一塩基多型を、上記NCBI SNP データベースのrs番号で記載する場合がある。
【0020】
上記(b)R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型としては、Chr.8:23291427 on Build GRCh38として示されるゲノム上の位置における遺伝子多型であり、NCBIアクセッション番号 NM_001136108.2(更新日 2018年10月21日)の1003番目の塩基における一塩基多型、具体的には、(b’)配列番号2に記載されたR3HCC1遺伝子をコードする塩基配列の919番目の塩基においてリファレンス型がグアニンであり、バリアント型がアデニンである一塩基多型であることが好ましい。
【0021】
上記(C)EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型としては、Chr.1:184694403 on Build GRCh38として示されるゲノム上の位置における遺伝子多型であり、NCBIアクセッション番号 NM_025191.3(更新日 2018年6月23日)の2720番目の塩基における一塩基多型、(c’)配列番号3に記載されたEDEM3遺伝子をコードする塩基配列の2459番目の塩基においてリファレンス型がチミンであり、バリアント型がグアニンである一塩基多型であることが好ましい。
【0022】
本明細書において、「連鎖不平衡」とは、生物の集団において、複数の遺伝子座の対立遺伝子又は遺伝的マーカー(多型)の間にランダムでない相関が見られる、すなわちそれらの特定の組合せ(ハプロタイプ)の頻度が有意に高くなる集団遺伝学的な現象を意味し、「遺伝的連鎖」とは、特定の対立遺伝子の組合せが、メンデルの独立の法則に従わずに親から子へ一緒に遺伝する遺伝学的現象を意味する。
【0023】
本明細書において、副作用としては特に制限されないが、好中球減少、白血球減少、下痢、嘔吐、全身倦怠感、食欲不振、脱毛等を挙げることができ、好中球減少を好適に挙げることができる。
【0024】
本明細書において、一塩基多型を分析する方法としては、公知の一塩基多型を分析する方法を用いることができ、リアルタイムPCR法、ダイレクトシーケンシング法、TaqMan(登録商標)PCR法、インベーダー(登録商標)法、ルミネックス(登録商標)法、クエンチングプライマー/プローブ(QP)法、MALDI-TOF法、分子ビーコン法等を挙げることができる。具体的には、被検者(通常、ヒト被検者をさす)から採取した生体試料のゲノムDNAを鋳型とする増幅反応によって測定対象の一塩基多型部位を含む核酸断片を、プライマーを用いてPCRで増幅し、得られた核酸断片と、リファレンス型及びバリアント型に対応する一対のプローブとのハイブリダイゼーションを検出する方法や、上記PCR増幅過程において、該一塩基多型部位に特異的なプローブ又はプライマーを用いることで、リファレンス型及びバリアント型を検出する方法を挙げることができる。
【0025】
(プローブセット)
本明細書における、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測の補助に用いるためのプローブセットとしては、(a)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型、(b)R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型、又は(c)EDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型の(a)~(c)のいずれかの一塩基多型を含む連続する5~50塩基の領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測の補助に用いるためのプローブセットであればよく、以下、「本件プローブセット」ともいう。
【0026】
上記本件プローブセットにおいて用いるプローブは、分析対象の一塩基多型部位を含む連続する5~50塩基、好ましくは10~40塩基、より好ましくは15~30塩基の配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドからなるプローブを挙げることができる。また、プローブとしてLocked Nucleic Acid(LNA)等の人工核酸を用いて合成したオリゴプローブを用いることで、短い塩基でも特異的にハイブリダイズするプローブとすることが可能となる。
【0027】
ストリンジェントな条件下としては、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、6×SSC(1.5M NaCl,0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)や、3×SSC/0.3×SDSを含む溶液中で54℃にてハイブリッドを形成させた後、洗浄液A(10×SSC/1%SDS溶液)、洗浄液B(20×SSC)及び洗浄液C(5×SSC)で順次洗浄するような条件(特開2011-250726号公報参照)等を挙げることができる。
【0028】
また、上記プローブは、担体上に固定して用いてもよく、担体としては、平面状の基板やビーズ状の球状担体を挙げることができ、具体的には、特開2011-250726号公報に記載された担体を挙げることができる。また、リファレンス型を検出するプローブとバリアント型を検出するプローブとを同一の担体に固定してもよいし、異なる担体に固定してもよい。
【0029】
上記プローブを用いて一塩基多型を分析する際に用いるプライマーとしては、ゲノムDNAを鋳型として、分析対象の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも5塩基を核酸断片として増幅することができるオリゴヌクレオチドからなるプライマーであればよく、APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型部位、R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型部位、又はEDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型部位を含む連続する少なくとも5塩基、好ましくは10~500塩基、より好ましくは20~200塩基、さらに好ましくは50~100塩基を増幅することができるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを挙げることができる。
【0030】
また、分析対象の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも5塩基を増幅する際に、あらかじめ標識したプライマーを用いるか、増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として用いることで、増幅した配列を識別することが可能となる。標識物質としては特に限定されないが、放射性同位元素、蛍光色素、又はジゴキシゲニン(DIG)やビオチン等の有機化合物等を挙げることができる。
【0031】
上記プローブ又はプライマーは、例えば、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することができる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置等を使用することができる。
【0032】
増幅した核酸断片が標識を有する場合、標識を検出することで各プローブにハイブリダイズした核酸断片を測定することができる。例えば、蛍光色素を標識として使用した場合には、当該蛍光色素に由来する蛍光強度を測定することによって、プローブにハイブリダイズした核酸断片を測定することができる。具体的には、リファレンス型を検出するプローブにハイブリダイズした核酸断片と、バリアント型を検出するプローブにハイブリダイズした核酸断片との比を算出するには、リファレンス型を検出するプローブにおける標識を検出したときの出力値と、バリアント型を検出するプローブにおける標識を検出したときの出力値とから算出することができる。
【0033】
より具体的に、バリアント型に対応するプローブにハイブリダイズした核酸断片に由来する強度値を、バリアント型に対応するプローブにハイブリダイズした核酸断片に由来する強度値及びリファレンス型に対応するプローブにハイブリダイズした核酸断片に由来する強度値の平均値で除算することで判定値を算出することができる。この判定値は、核酸断片に含まれるバリアント型の存在量を正規化した値に近似する。よって、当該判定値の高さによって、被検者における一塩基多型を分析しバリアント型をホモとして有しているか、リファレンス型をホモとして有しているか、又はヘテロとして有しているかを判別することができる。
【0034】
当該判定値を使用する場合、被検者における一塩基多型を分析してバリアント型をホモとして有しているか、リファレンス型をホモとして有しているか、又はヘテロとして有しているかを判別するため、予め二段階の閾値(閾値A及び閾値B)を設定することが好ましい。なお、ここで、閾値A及び閾値Bは、(閾値A>閾値B)の関係を有しているものとする。すなわち、上述のように算出された判定値が閾値Aを超えるとバリアント型をホモとして有していると判断し、当該判定値が閾値A以下であり閾値Bを超えるとヘテロとして有していると判断し、当該判定値が閾値B以下であるとリファレンス型をホモとして有していると判断できる。
【0035】
これら閾値A及び閾値Bは、上述した一塩基多型について設定する。閾値A及び閾値Bの設定方法としては、特に限定されないが、予め遺伝子型が判別している試料を用いて上述のように判定値を算出し、上記バリアント型をホモとして有している場合、リファレンス型をホモとして有している場合、又はヘテロとして有している場合についてそれぞれ確率密度を正規分布として算出する方法を挙げることができる。このとき、確率密度が互いに重なる交点(確率密度の大小が入れ替わる位置で、それぞれの極大値の間)を求め、また、上記バリアント型をホモとして有している場合、リファレンス型をホモとして有している場合、又はヘテロとして有している場合それぞれ平均値を求める。そして、バリアント型をホモとして有している場合とヘテロとして有している場合の閾値としては、(バリアント型をホモとして有している場合の平均値とヘテロとして有している場合の平均値)の平均値と交点の平均値として算出することができる。同様にヘテロとして有している場合とリファレンス型をホモとして有している場合の閾値としては、(ヘテロとして有している場合の平均値とリファレンス型をホモとして有している場合の平均値)の平均値と交点の平均値として算出することができる。
【0036】
上記方法でAPCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型、R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型、若しくはEDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型、又は当該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型を分析し、バリアント型をホモとして有しているか、リファレンス型をホモとして有しているか、又はヘテロとして有しているかを判定することで、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助することができる。たとえば、予め膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生が生じた患者と生じなかった患者におけるAPCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される一塩基多型、R3HCC1遺伝子におけるrs2272761で特定される一塩基多型、若しくはEDEM3遺伝子におけるrs9425343で特定される一塩基多型、又は該一塩基多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある一塩基多型との関係を調べる。次に、対象となる患者の一塩基多型を調べ、予め調べた患者のデータと比較することで、対象となる患者において膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助することができる。
【0037】
具体的には、前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型においてヘテロ若しくはバリアント型をホモとして有している場合、前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型においてバリアント型をホモとして有している場合、又は前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型においてバリアント型をホモとして有している場合には、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが高いとの予測を補助し、前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型においてリファレンス型をホモとして有している場合、前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型においてヘテロ若しくはリファレンス型をホモとして有している場合、又は前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型においてリファレンス型をホモとして有している場合には、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが低いとの予測を補助することができる。
【0038】
さらに、上記(a)~(c)の2種以上、あるいは3種以上、上記(a’)~(c’)の2種以上、あるいは3種以上を組み合わせての一塩基多型において、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが低いとの予測を補助してもよい。
【0039】
本件プローブセットには、上記プローブを含んでいれば特に制限されないが、上記プライマーや、一塩基多型を分析するための緩衝液、酵素等の試薬や、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが低いとの予測を補助するための説明書を含んでもよい。
【0040】
また、本発明の他の実施態様としては、以下を含む。
被検者から採取された生体試料中のゲノムDNA上に存在する一塩基多型における遺伝子型を分析する試薬の、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測の補助に用いるためのプローブセットの製造における応用であって、前記一塩基多型が、前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型;前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型;前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型;のいずれかであって、前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型においてヘテロ若しくはバリアント型をホモとして有している場合、前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型においてバリアント型をホモとして有している場合、又は前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型においてバリアント型をホモとして有している場合には、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが高いとの予測を補助し、前記(a)若しくは(a’)の一塩基多型においてリファレンス型をホモとして有している場合、前記(b)若しくは(b’)の一塩基多型においてヘテロ若しくはリファレンス型をホモとして有している場合、又は前記(c)若しくは(c’)の一塩基多型においてリファレンス型をホモとして有している場合には、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクが低いとの予測を補助する、応用。
【実施例0041】
(解析対象)
膵がんmFOLFIRINOX療法を行った30症例(UGT1A1遺伝子多型によるイリノテカン副作用ハイリスク症例、すなわち*6ホモ,*28ホモ,コンパウンドヘテロ症例は除外)の末梢血よりゲノムDNAを調製した。なお、いずれの症例も日本人である。
(ゲノムDNAの調製)
ゲノムDNAは、EDTA含有チューブに採取した被検者の末梢血を用い、ヨウ化ナトリウム法(Wang et al., Nucleic Acids Res 34:195-201(2014))に基づいて調製した。調製したDNAは、1mM EDTA・2Naを含む10mM Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、使用するまで、4℃又は-20℃で保存した。
【0042】
APCDD1L遺伝子をコードする領域の一塩基多型rs1980576、R3HCC1遺伝子をコードする領域の一塩基多型rs2272761、EDEM3遺伝子をコードする領域の一塩基多型rs9425343について、TaqMan(登録商標)probe法により、上記解析対象の臨床サンプルにて検証を行った。ゲノムDNA10ngにTaqMan SNP Assays_ Human(Applied Biosystems社製)及びLightCycler(登録商標)480 Probe Master(Roche Diagnostics社製)、Universal ProbeLibrary(Roche Diagnostics社製)、LightCycler480 System II(Roche Diagnostics社製)を用いてジェノタイピングを行った。95℃10分間のインキュベーションの後、PCRを55サイクル、(1サイクルあたり92℃15秒、60℃60秒)行い、PCR産物の蛍光を測定した。
【0043】
(結果)
それぞれの遺伝子多型の頻度と膵がんmFOLFIRINOX療法施行症例における副作用(グレード3以上の好中球減少)頻度との統計解析結果を表1に示す。表1におけるC-A trend testはコクラン・アーミテージ傾向検定の結果であり、Fisher’s exact testはフィッシャーの正確確率検定を行った結果である。表1中、Odd ratioはフィッシャーの正確確率検定によるオッズ比を算出したものである。
【0044】
【0045】
APCDD1L遺伝子をコードする領域の一塩基多型rs1980576においてC-A trend testにおけるP Valueが0.035、Fisher’s exact testにおけるOdd ratio(A/A vs A/G,G/G)が6.52、P Valueが0.046であった。したがって、一塩基多型rs1980576と膵がんに対するmFOLFIRINOX療法による副作用頻度との間に有意な線形傾向(相関)及び頻度の差がみられた。また、膵がんmFOLFIRINOX症例における副作用発生リスクに関して、リファレンス型ホモ(A/A)の場合には副作用の発生リスクが低く、ヘテロ(A/G)又はバリアントホモの場合には副作用の発生リスクが高いとの予測を補助できることが判明した。
【0046】
R3HCC1遺伝子をコードする領域の一塩基多型rs2272761においてC-A trend testにおけるP Valueが0.013、Fisher’s exact testにおけるOdd ratio(G/G vs G/A,A/A)が9.81、P Valueが0.009であった。したがって、一塩基多型rs2272761と膵がんに対するmFOLFIRINOX療法による副作用頻度との間に有意な線形傾向及び頻度の差がみられた。また、膵がんmFOLFIRINOX症例における副作用発生リスクに関して、リファレンスホモ(G/G)又はヘテロ(A/G)の場合には副作用の発生リスクが低く、バリアントホモの場合には副作用の発生リスクが高いとの予測を補助できることが判明した。
【0047】
上記特許文献1に記載されたFOLFIRI療法においては、R3HCC1遺伝子をコードする領域の一塩基多型rs2272761に関してカットオフとしてリファレンス型ホモ(G/G)の場合には副作用の発生リスクが低い、すなわち除外診断に用いることが可能であった。さらに、ヘテロ(G/A)及びバリアントホモ(A/A)の場合には副作用の発生リスクが高いとする程の副作用頻度は見られなかった。ところが、膵がんmFOLFIRINOX症例における副作用発生リスクの予測を補助する場合には、カットオフとしてバリアントホモ(A/A)の場合には副作用の発生リスクが高い、すなわち確定診断に用いることも可能であることが明らかとなった。
【0048】
EDEM3遺伝子をコードする領域の一塩基多型rs9425343においてC-A trend testにおけるP Valueが0.001、Fisher’s exact testにおけるOdd ratio(T/T vs T/G,G/G)がInf.(無限)、P Valueが0.005であった。したがって、一塩基多型rs9425343と膵がんに対するmFOLFIRINOX療法による副作用頻度との間に非常に有意な線形傾向及び頻度の差がみられた。すなわち、膵がんmFOLFIRINOX症例における副作用発生リスクに関して、リファレンス型ホモ(T/T)の場合には副作用の発生リスクが低く、バリアントホモ(G/G)の場合には副作用の発生リスクが高いとの予測を補助できることが判明した。
【0049】
上記特許文献1のFOLFIRI療法においては、リファレンス型ホモ(T/T)の場合には副作用の発生リスクが高く、バリアントホモ(G/G)の場合には副作用の発生リスクが低いとしていたが、上記mFOLFIRINOX療法の場合には、リファレンス型ホモ(T/T)の場合には副作用の発生リスクが低いという逆の結果であることは驚くべきことであった。
【0050】
[参考例]
上記実施例では3種類の一塩基多型とmFOLFIRINOX療法における副作用の発生リスクの予測について調べたが、同じ3種類の一塩基多型と膵がん治療におけるGem/nab-PTX療法における副作用の発生リスクの予測についても調べた。
【0051】
解析対象としてGem/nab-PTX療法を行った41症例とした以外は上記実施例と同様に3種類の一塩基多型(rs1980576、rs2272761、rs9425343)と副作用(好中球減少)との関係を調べた。結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
表2から明らかなように、Gem/nab-PTX療法においては、何れの遺伝子多型も副作用の発生との間に有意な相関はみられなかった。
本発明によると、膵がんに対してmFOLFIRINOX療法、FOLFIRINOX療法、又はそれらの改変レジメンを行った場合における副作用の発生リスクの予測を補助することが可能となることから、医療分野で利用可能である。