(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187324
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】耐火性能推定方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
E04B1/94 D ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095302
(22)【出願日】2021-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 清水建設研究報告 第98号 第57頁から第66頁 発行日 令和2年12月21日 2021年度日本火災学会研究発表会概要集 第134頁から第135頁、日本火災学会研究発表会 発行日 令和3年5月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智紀
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001GA16
2E001GA52
2E001HB02
2E001HC01
2E001HF12
(57)【要約】
【課題】木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を簡易的に推定することができる木鋼ハイブリッド部材の耐火性能推定方法を提供する。
【解決手段】鋼材12と、この鋼材12を耐火被覆する木質被覆材14とを備える木鋼ハイブリッド部材10の耐火性能を推定する方法であって、鋼材12の形状および断面寸法と、木質被覆材14の樹種および被覆厚さから、疑似的な部材温度上昇係数を算出し、算出した疑似的な部材温度上昇係数に基づいて、木鋼ハイブリッド部材10の耐火性能を推定するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、この鋼材を耐火被覆する木質被覆材とを備える木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を推定する方法であって、
鋼材の形状および断面寸法と、木質被覆材の樹種および被覆厚さから、疑似的な部材温度上昇係数を算出し、算出した疑似的な部材温度上昇係数に基づいて、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を推定することを特徴とする耐火性能推定方法。
【請求項2】
疑似的な部材温度上昇係数は、無機系耐火被覆材で被覆された鋼材の温度の上がりやすさを示す指標として算出される部材温度上昇係数において、鋼材表面の熱伝達率と耐火被覆材の熱伝導率を基に算出される熱抵抗係数を1と仮定して算出されるものであることを特徴とする請求項1に記載の耐火性能推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材と鋼材からなる木鋼ハイブリッド部材の耐火性能の推定に好適な耐火性能推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、本特許出願人は、鉄骨部材と木質部材を組み合わせた複合部材を開発している(例えば、特許文献1を参照)。特に、1時間の耐火性能を担保するため、鉄骨梁を木材(以下、木質被覆材という。)で耐火被覆した構造部材である木鋼ハイブリッド梁を開発している(例えば、特許文献2を参照)。この木質被覆材は、火災中に0.7~1.0mm/分程度で燃え進むが、火災後に燃え止まることで、荷重を支持する鉄骨梁の温度上昇を抑制し、崩壊を防ぐ役割を担っている。木鋼ハイブリッド梁のような部材は、木質被覆材の樹種や被覆厚さ、鋼材の形状や断面寸法によって、木質被覆材の燃焼性状や火災終了後の燃え止まりの有無、鋼材の温度推移といった耐火性能が変わってくると考えられる。
【0003】
一方、鋼材の耐火被覆材に吹付けロックウールやケイ酸カルシウム板を使用する場合において、鋼材の形状・断面寸法や耐火被覆材の種類・厚みから、部材温度上昇係数を算出し、火災時における鋼材の最高温度を推定する方法が耐火性能検証法で提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。なお、部材温度上昇係数の値が大きくなるほど、鋼材の温度は上がりやすいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-084037号公報
【特許文献2】特願2020-148315号(現時点で未公開)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】一般財団法人 日本建築センターほか、「2001年版 耐火性能検証法の解説及び計算例とその解説」、pp.85-109、pp.173-188、2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の木鋼ハイブリッド梁を開発するにあたり、本特許出願人は、木質被覆材の樹種や被覆厚さ、鋼材の断面寸法をパラメータとして複数の試験体を作成し、耐火試験によって各仕様の性能を確認している。しかし、耐火試験で性能を確認した仕様とは異なる仕様(具体的には、木質被覆材の樹種や被覆厚さ、鋼材の形状や断面寸法等が異なる仕様)の部材を開発する場合、その都度、耐火試験を実施していると、コストや手間がかかる。このため、耐火試験によらずに、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を簡易的に推定できる方法が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を簡易的に推定することができる木鋼ハイブリッド部材の耐火性能推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る木鋼ハイブリッド部材の耐火性能推定方法は、鋼材と、この鋼材を耐火被覆する木質被覆材とを備える木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を推定する方法であって、鋼材の形状および断面寸法と、木質被覆材の樹種および被覆厚さから、疑似的な部材温度上昇係数を算出し、算出した疑似的な部材温度上昇係数に基づいて、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を推定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る木鋼ハイブリッド部材の耐火性能推定方法は、上述した発明において、疑似的な部材温度上昇係数は、無機系耐火被覆材で被覆された鋼材の温度の上がりやすさを示す指標として算出される部材温度上昇係数において、鋼材表面の熱伝達率と耐火被覆材の熱伝導率を基に算出される熱抵抗係数を1と仮定して算出されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る木鋼ハイブリッド部材の耐火性能推定方法によれば、鋼材と、この鋼材を耐火被覆する木質被覆材とを備える木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を推定する方法であって、鋼材の形状および断面寸法と、木質被覆材の樹種および被覆厚さから、疑似的な部材温度上昇係数を算出し、算出した疑似的な部材温度上昇係数に基づいて、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を推定するので、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を耐火試験によらず簡易的に推定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る木鋼ハイブリッド部材の耐火性能推定方法の実施の形態が適用される部材の概要図であり、(1)は3面加熱の場合の断面図、(2)はその断面斜視図、(3)は4面加熱の場合の断面図、(4)はその断面斜視図である。
【
図2】
図2は、試験体の断面図であり、(1)、(2)は試験体A、(3)、(4)は試験体B、(5)、(6)は試験体Cである。また、(1)、(3)、(5)は梁一般部、(2)、(4)、(6)は被覆材留付部である。
【
図3】
図3は、ヒバ木鋼ハイブリッド梁の鋼材温度推移を示す図である。
【
図4】
図4は、カラマツ木鋼ハイブリッド梁の鋼材温度推移を示す図である。
【
図5】
図5は、疑似部材温度上昇係数と鋼材の最大温度上昇値の関係を示す図であり、(1)はヒバの場合、(2)はカラマツの場合である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る木鋼ハイブリッド部材の耐火性能推定方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
本実施の形態では、木鋼ハイブリッド部材における鋼材の形状・断面寸法と木質被覆材の樹種・被覆厚さから、疑似的な部材温度上昇係数を算出し、鋼材の最高温度や木材の燃え止まりの有無を推定する。そして、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を簡易的に推定する。本実施の形態では、以下の(1)~(4)を想定している。
【0014】
(1)鋼材は、下左右の3方向から加熱を受けるH形鋼(
図1(1)、(2)を参照)、または上下左右4方向から加熱を受けるH形鋼(
図1(3)、(4)を参照)を想定している。
【0015】
(2)木質被覆材の樹種はカラマツおよびヒバを対象としている。
【0016】
(3)木鋼ハイブリッド部材の鋼材の形状・断面寸法と、木質被覆材の被覆厚さから、疑似的な部材温度上昇係数(以下、疑似部材温度上昇係数という。)を算出する。疑似部材温度上昇係数の算出方法は後述する。
【0017】
(4)1時間の耐火性能を確保する木鋼ハイブリッド梁を開発する目的で実施した、複数の耐火試験の結果から、木質被覆材の樹種にカラマツを用いる場合には疑似部材温度上昇係数が0.077以下、木質被覆材の樹種にヒバを用いる場合には疑似部材温度上昇係数が0.065以下であれば、鋼材の最高温度を推定可能であり、かつ木質被覆材が燃え止まることが判明しているため、この試験結果を利用して耐火性能を推定する。
【0018】
なお、
図1(1)、(2)の木鋼ハイブリッド部材10は、H形鋼からなる鉄骨梁12と、その下と左右の3面を被覆する木質被覆材14で構成される。鉄骨梁12の上面には、床材16が設けられる。鉄骨梁12と木質被覆材14は、図示しない固定部材で留付けられ、固定部材を通した木質被覆材14の表面は埋木18で塞がれる。固定部材は、頭部とねじ部を有する棒状体であり、頭部は鉄骨梁12のウェブに配置され、ねじ部はウェブを貫通して木質被覆材14にねじ込まれている。また、
図1(3)、(4)の木鋼ハイブリッド部材10Aは、H形鋼からなる鉄骨梁12と、その上下左右の4面を被覆する木質被覆材14で構成される。
【0019】
(疑似部材温度上昇係数の算出方法)
次に、木鋼ハイブリッド部材における疑似部材温度上昇係数の算出方法を説明する。
耐火性能検証法では、無機系耐火被覆材(吹付けロックウール25mm厚以上、またはケイ酸カルシウム板20mm厚以上)で被覆された鋼材の温度の上がりやすさを示す指標として、部材温度上昇係数hが用いられる。部材温度上昇係数hは鋼材と被覆材の断面形状、被覆材の物性によって次式(1)により算定され、部材温度上昇係数hが高いほど鋼材温度が上昇しやすいとされている。
【0020】
【0021】
ここに、Hs:鋼材の加熱周長[m]、As:鋼材の断面積[m2]、Hi:被覆材の加熱周長[m]、Ai:被覆材の断面積[m2]、Hs/As:鋼材の断面形状係数[m-1]、φ=Hi/Hs:被覆材と鋼材のうち加熱を受ける部分の周長比[-]、K0,R,C:被覆材の物性と鋼材の種類により決まる定数(K0=ht/ρscs:鋼材表面の熱伝達率を鋼材の熱容量で割った基本温度上昇係数[m/min]、R=ht/ki:鋼材表面の熱伝達率を被覆材の熱伝導率で割った熱抵抗係数[m-1]、C=ρici/ρscs:被覆材料と鋼材の熱容量比[-])である。
【0022】
式(1)において、鋼材と被覆材の断面寸法・形状が分かれば、Hs、As、Hi、Ai、φの数値は決まる。一方、被覆材の物性と鋼材の種類により決まる定数K0,R,Cは、試験結果から同定する必要がある。
【0023】
下記の参考文献1によれば、基本温度上昇係数K0は鋼材の形状と加熱面数により一義的に定まるとされる。そこで、上記の非特許文献1に記載の耐火性能検証法で使用される数値を用いて、四面から加熱を受ける場合はK0=0.00089、上面を除く三面から加熱を受ける場合はK0=0.00067を用いることとする。
【0024】
[参考文献1] 鈴木淳一ほか、「火災時における無被覆鋼材の温度上昇簡易予測式」、日本建築学会構造系論文集、第553号、pp.143-148、2002
【0025】
熱容量比Cは、鋼材と被覆材の密度と比熱により決まる。そこで、温度上昇による物性値の変化は考慮せず、常温下での物性値をもとに熱容量比Cを算出する。
【0026】
熱抵抗係数Rは、鋼材表面の熱伝達率と被覆材の熱伝導率を基に算出するが、被覆材に木材を用いる場合の数値は定まっていない(上記の非特許文献1を参照)。そこで便宜上、R=1と仮定する。
【0027】
以上より、R=1と仮定して算出される部材温度上昇係数hを疑似部材温度上昇係数h’と定義すれば、次式(2)が成り立つ。
【0028】
【0029】
(耐火試験による検証)
1時間の耐火性能を確保する木鋼ハイブリッド梁を開発する目的で実施した、複数の耐火試験の結果をもとに、疑似部材温度上昇係数h’による木鋼ハイブリッド梁の鋼材温度と燃え止まりの有無の推定可能性を検証した。
【0030】
耐火試験を実施した仕様を表1に、試験体の仕様を
図2に示す。
図2(1)、(2)は試験体A、(3)、(4)は試験体B、(5)、(6)は試験体Cである。また、耐火試験を実施した各仕様の鋼材温度推移を
図3、
図4に示す。さらに、耐火試験を実施した各仕様における疑似部材温度上昇係数、および耐火試験における、鋼材の初期温度からの温度上昇の最大値、木質被覆材の燃え止まりの有無の結果を表1に示す。
【0031】
[疑似部材温度上昇係数と鋼材の最大温度上昇値・燃え止まりの有無の結果一覧]
【表1】
【0032】
試験で得られた鋼材温度を用いて、上フランジ、下フランジ、ウェブの3か所について、各々の鋼材温度の平均値を時間ごとに算出し、初期温度を引くことで、初期温度からの温度上昇の値を算出した。表1には、初期温度からの温度上昇の最大値ΔT(最大温度上昇値)を示している。試験体2、3、9、13は、試験終了後(1時間加熱と24時間放冷の計25時間経過後)も木質被覆材が燃え止まらず、鋼材温度が上昇していた。そこで、試験終了後に安全のため、試験体に注水して消火・冷却を行った。試験体1は、鋼材の最高温度が450℃以上となり、試験終了時には木質被覆材が燃え尽きていた。燃え止まりの判定において、〇印は燃え止まった試験体、×印は燃え止まらなかった、または燃え尽きた(鋼材の最高温度が450℃以上となった)試験体を示している。
【0033】
表1に示した疑似部材温度上昇係数h’と鋼材の最大温度上昇値ΔTを用いて両者の関係をグラフ化したものを
図5に示す。
図5(1)は木質被覆材にヒバを用いたもの、(2)は木質被覆材にカラマツを用いたものである。図中の〇印は燃え止まった試験体、×印は燃え止まらなかった試験体を示す。また、疑似部材温度上昇係数h’をx、鋼材の最大温度上昇値ΔTをyとして、耐火試験において燃え止まった試験体の結果を回帰分析した回帰直線の式と相関係数Rも図に示している。
【0034】
図5に示すように、ヒバおよびカラマツともに、耐火試験で燃え止まった試験体は、疑似部材温度上昇係数が大きくなるほど、鋼材の最大温度上昇値が大きくなる傾向を示した。したがって、燃え止まる仕様であれば、木質被覆材の仕様ならびに鉄骨梁の断面寸法から疑似部材温度上昇係数を算出することで、鋼材の最大温度上昇値を推定できることがわかる。
【0035】
また、ヒバを用いた木鋼ハイブリッド梁は、試験体9が埋木の長さが短かったために燃え止まらなかったことを考慮すると、疑似部材温度上昇係数が0.065以下であれば燃え止まるものと推定される。
【0036】
一方、カラマツを用いた木鋼ハイブリッド梁は、試験後の試験体の観察から、試験体13が燃え止まらなかった原因として、埋木の施工不良の可能性が考えられた。埋木の施工不良がないことを前提とすれば、カラマツを用いた木鋼ハイブリッド梁は疑似部材温度上昇係数が0.077以下であれば燃え止まるものと推定される。
【0037】
本実施の形態によれば、疑似部材温度上昇係数を算出することで、ヒバおよびカラマツを用いた木鋼ハイブリッド梁の鋼材の最高温度と木質被覆材の燃え止まりの有無を簡易的に推定することができる。このため、耐火試験を行わなくても木鋼ハイブリッド梁の耐火性能を簡易的に推定することができる。そして、耐火試験によるコストや手間の削減、部材開発の効率化を図ることができる。
【0038】
また、他の樹種を木質被覆材に用いた場合の耐火試験のデータが蓄積することで、疑似部材温度上昇係数で推定可能な樹種のバリエーションを増やすことができる。
【0039】
上記の実施の形態においては、鋼材がH形鋼である場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、角形鋼といった他の鋼材形状による耐火試験のデータを蓄積することで、疑似部材温度上昇係数によって推定可能な鋼材形状のバリエーションを拡張可能である。
【0040】
以上説明したように、本発明に係る木鋼ハイブリッド部材の耐火性能推定方法によれば、鋼材と、この鋼材を耐火被覆する木質被覆材とを備える木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を推定する方法であって、鋼材の形状および断面寸法と、木質被覆材の樹種および被覆厚さから、疑似的な部材温度上昇係数を算出し、算出した疑似的な部材温度上昇係数に基づいて、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を推定するので、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能を耐火試験によらず簡易的に推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る耐火性能推定方法は、木鋼ハイブリッド部材の耐火性能の評価に有用であり、特に、耐火性能を簡易的に推定するのに適している。
【符号の説明】
【0042】
10,10A 木鋼ハイブリッド部材
12 鉄骨梁
14 木質被覆材
16 床材
18 埋木