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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187332
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】積層部材及び防護用被服
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/10 20060101AFI20221212BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20221212BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221212BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20221212BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B32B5/10
B32B27/12
B32B27/32 Z
B32B27/32 E
B32B27/04 Z
A41D13/05 118
A41D13/05 125
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095312
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】521248545
【氏名又は名称】株式会社コミヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100144130
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 実
(72)【発明者】
【氏名】中山 昇
(72)【発明者】
【氏名】中込 光彦
(72)【発明者】
【氏名】常前 洋
【テーマコード(参考)】
3B011
4F100
【Fターム(参考)】
3B011AA01
3B011AB01
3B011AC04
4F100AD11B
4F100AD11D
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK03C
4F100AK03D
4F100AK03E
4F100AK05B
4F100AK05D
4F100AK45A
4F100AK45C
4F100AK45E
4F100AK47B
4F100AK47D
4F100AK52A
4F100AK52C
4F100AK52E
4F100AN00A
4F100AN00C
4F100AN00E
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA08B
4F100BA08C
4F100BA08D
4F100DG01B
4F100DG01D
4F100DG15B
4F100DG15D
4F100DH01B
4F100DH01D
4F100DH02B
4F100DH02D
4F100EJ172
4F100EJ422
4F100GB72
4F100JB13B
4F100JB13D
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JB16C
4F100JB16D
4F100JB16E
4F100JK01
4F100JK10
4F100JK17A
4F100JK17C
(57)【要約】
【課題】物が当たっても被保護体を充分に保護することができ、仮に破損しても被保護体及び周囲の人、動物や物を傷つけ難い積層部材及びこれを用いた防護用被服を提供する。
【解決手段】積層部材101は、被保護体90を保護するためのものであって、最外層の一対の可撓性樹脂層10,10の間に、プラスチックと繊維とを含む繊維強化プラスチック層11が配置されているものである。前記可撓性樹脂層10が、熱可塑性樹脂で形成されていることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被保護体を保護するための積層部材であって、最外層の一対の可撓性樹脂層の間に、プラスチックと繊維とを含む繊維強化プラスチック層が配置されていることを特徴とする積層部材。
【請求項2】
前記可撓性樹脂層が、熱可塑性樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層部材。
【請求項3】
前記可撓性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の積層部材。
【請求項4】
前記可撓性樹脂層が、シリコン樹脂又はゴムで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層部材。
【請求項5】
前記プラスチックが、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の積層部材。
【請求項6】
前記プラスチックである熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の積層部材。
【請求項7】
前記プラスチックが、熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の積層部材。
【請求項8】
前記繊維強化プラスチック層は、前記繊維としてアラミド繊維を含むアラミド繊維強化プラスチック層であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の積層部材。
【請求項9】
前記繊維強化プラスチック層は、前記繊維として炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック層であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の積層部材。
【請求項10】
複数層の前記繊維強化プラスチック層を有することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の積層部材。
【請求項11】
前記繊維としてアラミド繊維を含むアラミド繊維強化プラスチック層と、前記繊維として炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック層とを有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の積層部材。
【請求項12】
隣り合う前記繊維強化プラスチック層の間に、可撓性樹脂層が配置されていることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の積層部材。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の積層部材が、被服本体に配置されていることを特徴とする防護用被服。
【請求項14】
前記被服本体は、前記積層部材を着脱可能に装着できる装着部材を有することを特徴とする請求項13に記載の防護用被服。
【請求項15】
被保護体を保護するための積層部材の製造方法であって、重ねた複数のシート状の樹脂原材料の間にシート状の繊維を配置し、加熱及び加圧して、前記樹脂原材料を前記繊維に含侵させて繊維強化プラスチック層を形成すると共に、最外層になる可撓性樹脂層を形成することを特徴とする積層部材の製造方法。
【請求項16】
複数のシート状の前記繊維と複数のシート状の前記樹脂原材料を互い違いに配置して、前記加熱及び加圧することで、複数の繊維強化プラスチック層を形成すると共に、隣接する繊維強化プラスチック層の間に可撓性樹脂層を形成することを特徴とする請求項15に記載の積層部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被保護体に当たる物から被保護体を保護するための積層部材及びこれを用いた防護用被服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人、動物、物などの被保護体(保護対象)に物が当たると被保護体が損傷する場合がある。被保護体に当たる物(以下、衝突体ともいう)から被保護体を保護するために、衝突体と被保護体との間に保護部材を配置することが行われている。保護部材は、被保護体の表面に配置されたり、衝突体の表面に配置されたり、被保護体と衝突体との間のいずれかの位置に配置されたりして用いられる。
【0003】
衝突体には種々のものがある。衝突体の一例を示すと、鋭利な飛来物が挙げられる。飛来物による事故の具体例として、熱間鍛造時のバリの飛翔が報告されている。バリは非常に先鋭利な形状を持ち、高速で飛翔する。作業者は鍛造機械の近くで作業を行っているため、バリが当たると死傷事故につながる危険性がある。実際にプレス加工機の破損により金属片が人体腹部に飛来し、腸管内に埋入した事例も報告されている。そのため、作業時に人体を保護する防具が求められている。
【0004】
バリは非常に高速で飛翔してくるため、防具には耐衝撃性だけでなく特に耐刺突性が必要である。また、バリは人体の脇下から膝の範囲に飛翔してくることが予想される。バリの飛翔が原因ではないが、大腿内側を杙創したことで、大量出血、ショック状態をきたした事例が報告されている。大腿動脈を損傷すると事後重大な後遺症が残る危険性もある。以上のことから、先端が鋭利なバリが飛翔してきた際に、動脈を損傷すると大きな事故につながる可能性が考えられる。例えば、鋭利な飛来物から被保護体を保護するためには、耐刺突性に優れた保護部材が必要である。
【0005】
また、この例の他にも、様々な製造現場や機械の作動現場、爆破・解体といった破壊現場などで、鋭利な飛来物が生じて、人、ペット、家畜などの動物や物を傷つける可能性がある。また、衝突体としては、鋭利な物に限られず、サイズ、形状、質量など様々なものが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-172950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献1には、被保護体の表面に配置される複合材料シートであって、被保護体側に配置される、ポリカーボネートから形成された非繊維強化プラスチック層と、非繊維強化プラスチック層の被保護体とは反対の側に配置される、アラミド繊維または炭素繊維と樹脂とを含む繊維強化プラスチック層とを有する複合材料シートが記載されている。繊維強化プラスチック層に用いられる樹脂として、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を用いることが記載されている。
【0008】
この複合材料シートの他にも、被保護体を保護することのできる積層部材(保護部材)の開発が望まれている。また、仮に積層部材が破損したとしても、被保護体を傷つけないだけでなく、周囲の動物や物を傷つけない積層部材の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、物が当たっても被保護体を充分に保護することができ、仮に破損しても被保護体及び周囲の人、動物や物を傷つけ難い積層部材及びこれを用いた防護用被服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の積層部材は、被保護体を保護するための積層部材であって、最外層の一対の可撓性樹脂層の間に、プラスチックと繊維とを含む繊維強化プラスチック層が配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の積層部材は、請求項1に記載のものであり、前記可撓性樹脂層が、熱可塑性樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の積層部材は、請求項2に記載のものであり、前記可撓性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の積層部材は、請求項1に記載のものであり、前記可撓性樹脂層が、シリコン樹脂又はゴムで形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の積層部材は、請求項1から4のいずれかに記載のものであり、前記プラスチックが、熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の積層部材は、請求項5に記載のものであり、前記プラスチックである熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の積層部材は、請求項1から4のいずれかに記載のものであり、前記プラスチックが、熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の積層部材は、請求項1から6のいずれかに記載のものであり、前記繊維強化プラスチック層は、前記繊維としてアラミド繊維を含むアラミド繊維強化プラスチック層であることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の積層部材は、請求項1から6のいずれかに記載のものであり、前記繊維強化プラスチック層は、前記繊維として炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック層であることを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の積層部材は、請求項1から9のいずれかに記載のものであり、複数層の前記繊維強化プラスチック層を有することを特徴とする。
【0020】
請求項11に記載の積層部材は、請求項1から6のいずれかに記載のものであり、前記繊維としてアラミド繊維を含むアラミド繊維強化プラスチック層と、前記繊維として炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック層とを有することを特徴とする。
【0021】
請求項12に記載の積層部材は、請求項1から11のいずれかに記載のものであり、隣り合う前記繊維強化プラスチック層の間に、可撓性樹脂層が配置されていることを特徴とする。
【0022】
請求項13に記載の防護用被服は、請求項1から12のいずれかに記載の積層部材が、被服本体に配置されていることを特徴とする。
【0023】
請求項14に記載の防護用被服は、請求項13に記載のものであり、前記被服本体は、前記積層部材を着脱可能に装着できる装着部材を有することを特徴とする。
【0024】
請求項15に記載の積層部材の製造方法は、被保護体を保護するための積層部材の製造方法であって、重ねた複数のシート状の樹脂原材料の間にシート状の繊維を配置し、加熱及び加圧して、前記樹脂原材料を前記繊維に含侵させて繊維強化プラスチック層を形成すると共に、最外層になる可撓性樹脂層を形成することを特徴とする。
【0025】
請求項16に記載の積層部材の製造方法は、請求項15に記載のものであり、複数のシート状の前記繊維と複数のシート状の前記樹脂原材料を互い違いに配置して、前記加熱及び加圧することで、複数の繊維強化プラスチック層を形成すると共に、隣接する繊維強化プラスチック層の間に可撓性樹脂層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
被保護体を保護するための積層部材が最外層の一対の可撓性樹脂層の間に繊維強化プラスチック層が配置されている場合、物が当たっても被保護体を充分に保護することができ、仮に積層部材が破損しても被保護体及び周囲の人、動物や物を傷つけ難い。
【0027】
可撓性樹脂層が熱可塑性樹脂で形成されている場合、熱硬化性樹脂よりも耐衝撃性に優れるため破損し難い。可撓性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、柔軟で軽量なため、周囲の人、動物や物をより傷つけ難く、軽量な積層部材とすることができる。可撓性樹脂層がシリコン樹脂又はゴムで形成されている場合、柔軟であるため、周囲の人、動物や物をより傷つけ難い。
【0028】
繊維強化プラスチック層のプラスチックが熱可塑性樹脂である場合、熱硬化性樹脂よりも耐衝撃性に優れるため破損し難い。プラスチックである熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、柔軟で軽量なため、周囲の人、動物や物をより傷つけ難く、軽量な積層部材とすることができる。プラスチックが熱硬化性樹脂である場合、硬質であるため、耐衝撃性及び耐刺突性に優れた積層部材とすることができる。
【0029】
繊維強化プラスチック層がアラミド繊維を含むアラミド繊維強化プラスチック層である場合、軽量で且つ耐衝撃性が向上するという効果がある。繊維強化プラスチック層が炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック層である場合、曲げ弾性率や縦弾性率が向上するという効果がある。複数層の繊維強化プラスチック層を有する場合、耐衝撃性に更に優れる。アラミド繊維を含むアラミド繊維強化プラスチック層と、炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック層との両方を有する場合、より耐衝撃性に優れる。隣り合う繊維強化プラスチック層の間に、可撓性樹脂層が配置されている場合、より耐衝撃性に優れる。
【0030】
本発明の積層部材が被服本体に配置されている場合、軽量でありながら耐衝撃性に優れた防護用被服になる。被服本体が積層部材を着脱可能に装着できる装着部材を有する場合、仮に一部の積層部材が破損したとしても、その積層部材だけを簡便・迅速に交換することができる。
【0031】
本発明の積層部材の製造方法は、重ねた複数のシート状の樹脂原材料の間にシート状の繊維を配置し、加熱及び加圧して、樹脂原材料を繊維に含侵させて繊維強化プラスチック層を形成すると共に、最外層になる可撓性樹脂層を形成することで、簡便に積層部材を製造することができる。複数のシート状の繊維と複数のシート状の樹脂原材料を互い違いに配置して加熱及び加圧することで、繊維強化プラスチック層及び可撓性樹脂層を簡便かつ迅速に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明を適用する積層部材の使用状態を表す模式的な拡大断面図である。
図2】積層部材を加熱加圧して製造する場合に使用するホットプレス機の模式図である。
図3】本発明を適用する積層部材の製造方法を示す模式図である。
図4】本発明を適用する別の積層部材の使用状態を表す模式的な拡大断面図である。
図5】本発明を適用する別の積層部材の製造方法を示す模式図である。
図6】本発明を適用するさらに別の積層部材の使用状態を表す模式的な拡大断面図である。
図7】本発明を適用するさらに別の積層部材の製造方法を示す模式図である。
図8】本発明を適用する防護用被服の使用状態を表す模式図である。
図9】本発明を適用する防護用被服の横断面図である。
図10】実施例1の成形時の積層構成を示す模式図である。
図11】刺突試験に使用する衝撃試験機の概略構成図である。
図12】刺突試験に使用するストライカと試験片(積層部材)の固定方法を示す概略構成図である。
図13】実施例1の刺突試験後の外観を撮影した写真である。
図14】実施例2の成形時の積層構成を示す模式図である。
図15】実施例2の刺突試験後の外観を撮影した写真である。
図16】実施例3の成形時の積層構成を示す模式図である。
図17】実施例3の刺突試験後の外観を撮影した写真である。
図18】実施例4の成形時の積層構成を示す模式図である。
図19】実施例4の刺突試験後の外観を撮影した写真である。
図20】実施例5の成形時の積層構成を示す模式図である。
図21】実施例6の成形時の積層構成を示す模式図である。
図22】実施例6の刺突試験後の外観を撮影した写真である。
図23】実施例7の成形時の積層構成を示す模式図である。
図24】実施例7の刺突試験後の外観を撮影した写真である。
図25】比較例1の刺突試験後の外観を撮影した写真である。
図26】比較例1の刺突試験後の破断面を拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0034】
(第1実施形態)
図1に、本発明の積層部材101の使用状態を表す模式的な拡大断面図を示す。積層部材101は、被保護体90に当たる物(図示省略。衝突体ともいう)から被保護体90の損傷を防止するために配置されている。被保護体90は、人や動物(被保護動物)、物(被保護物)である。同図には、積層部材101が、被保護体90の表面に配置されている例を示している。衝突体は、積層部材101の被保護体90とは逆側(図の上部側)から積層部材101(被保護体90)に当たる。積層部材101は、衝突体の表面に配置されていてもよいし、衝突体と被保護体90との間の任意の位置に配置されていてもよい。後述するように、積層部材101は、人が着用する防護用被服に配置されていてもよい。
【0035】
積層部材101は、被保護体90を保護するためのものであり、最外層の一対の可撓性樹脂層10,10の間に、プラスチックと繊維とを含む繊維強化プラスチック層11が配置されているものである。繊維強化プラスチック層11は、単一の層であってもよいし、複数の層からなる積層構造であってもよい。
【0036】
可撓性樹脂層10は、可撓性樹脂によって層状に形成されている。可撓性樹脂層10は、衝突体が当たった際に弾性変形するという特性を有している。そのため、衝突体が当たった際に柔軟に変形して破損し難い。仮に積層部材101(特に繊維強化プラスチック層11)が損傷したとしても、被保護体90や周囲の人、動物や物を傷つけることを防止できる。可撓性樹脂層10は、割れ難いものであることが好ましい。可撓性樹脂層10は、延性破壊する延性材料で形成されている場合、仮に破損したとしてもバリが発生せず、破片が飛散しないため、好ましい。衝突体として先端が鋭利な物が想定される場合、耐刺突性に優れたものであることが好ましい。
【0037】
可撓性樹脂層10に用いる樹脂は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂よりも耐衝撃性に優れ破損しにくいため、好ましく用いることができる。
【0038】
可撓性樹脂層10に用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、EVA樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、PET樹脂およびメタクリル樹脂、さらにこれらのブレンドポリマーを例示することができる。
【0039】
可撓性樹脂層10に用いる熱可塑性樹脂として、特に、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂は軽量なため、好ましく用いることができる。ポリオレフィン系樹脂の中でも、ポリエチレンは軽量でありながら耐衝撃性に優れるため、特に好ましく用いることができる。ポリエチレンには、種々の特性のものがあるが必要性に応じていずれを使用してもよい。例えば、ポリエチレンには、一般的な分類として、高密度ポリエチレン (HDPE, High Density Polyethylene)、低密度ポリエチレン(LDPE,Low Density Polyethylene)、超低密度ポリエチレン(VLDPE, Very Low Density Polyethylene / ULDPE, Ultra Low Density Polyethylene)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE, Linear Low density Polyethylene)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE, Ultra-High Molecular Weight Polyethylene)がある。インターネット上のフリー百科事典ウィキペディアによる分類では、高密度ポリエチレンは比重0.92 - 0.96、荷重たわみ温度130℃以下のもの、低密度ポリエチレンは比重0.91 - 0.92、荷重たわみ温度100℃以下のもの、超低密度ポリエチレンは比重 < 0.9のもの、直鎖状低密度ポリエチレンは比重 < 0.94のもの、超高分子量ポリエチレンは一般に分子量150万以上のものである。超高分子量ポリエチレンは、比重0.92 - 0.94と軽量でありながら非常に高い耐衝撃性を持つため、より好ましく用いることができる。
【0040】
可撓性樹脂層10に用いる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、およびポリウレタン樹脂を例示することができる。
【0041】
また、可撓性樹脂層10に用いる樹脂は、シリコン樹脂(シリコーン)又はゴムであってもよい。
【0042】
可撓性樹脂層10の厚さは任意である。衝突体側の一方の可撓性樹脂層10の厚さと、被保護体90側の他方の可撓性樹脂層10の厚さとが同じであっても良いし異なっていてもよい。一例を示すと、可撓性樹脂層10の厚さは、0.1mm以上10.0mm以下である。
繊維強化プラスチック層11の厚さは任意である。一例を示すと、繊維強化プラスチック層11の厚さは、0.1mm以上10.0mm以下である。
積層部材101の厚さは任意である。一例を示すと、積層部材101の厚さは、0.3mm以上30mm以下である。
【0043】
繊維強化プラスチック層11は、プラスチックに繊維を複合して強度を向上させた複合材料である。この繊維の例として、アラミド繊維又は炭素繊維が挙げられる。繊維強化プラスチック層11は、前記繊維としてアラミド繊維を含む場合、アラミド繊維強化プラスチック層である。繊維強化プラスチック層11は、前記繊維として炭素繊維を含む場合、炭素繊維強化プラスチック層である。繊維強化プラスチック層11は、割れ難いものであることが好ましい。繊維強化プラスチック層11は、延性破壊する延性材料で形成されていることが好ましい。繊維強化プラスチック層11が脆性破壊するものである場合、外層の可撓性樹脂層10が延性破壊するものであることが好ましい。繊維強化プラスチック層11は、衝突体として先端が鋭利な物が想定される場合、耐刺突性に優れたものであることが好ましい。
【0044】
繊維強化プラスチック層11に用いるプラスチックは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。
【0045】
繊維強化プラスチック層11に用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、EVA樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、PET樹脂およびメタクリル樹脂、さらにこれらのブレンドポリマーを例示することができる。
【0046】
繊維強化プラスチック層11に用いる熱可塑性樹脂として、特に、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を好ましく用いることができる。ポリオレフィン系樹脂の中でも、ポリエチレンは軽量でありながら耐衝撃性に優れるため、特に好ましく用いることができる。ポリエチレンには、種々の特性のものがあるが必要性に応じていずれを使用してもよい。例えば、ポリエチレンには、一般的な分類として、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンがある。各分類は、前記したとおりである。超高分子量ポリエチレンは、比重0.92 - 0.94と軽量でありながら非常に高い耐衝撃性を持つため、より好ましく用いることができる。
【0047】
繊維強化プラスチック層11に用いる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、およびポリウレタン樹脂を例示することができる。
【0048】
可撓性樹脂層10の可撓性樹脂と、繊維強化プラスチック層11のプラスチックとが同種の樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい。また、一方(例えば図の上部側)の可撓性樹脂層10と、他方(例えば図の下部側)の可撓性樹脂層10とが、同種の樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい。
【0049】
積層部材101は、両方の最外層に可撓性樹脂層10,10が設けられている。可撓性樹脂層10は、弾性を有するため衝突体が当たっても変形して破損し難い。繊維強化プラスチック層11は、プラスチックが繊維で強化されているため、衝突体が当たっても破損し難い。そのため、物が当たっても被保護体を充分に保護することができる。また、衝突体が当たって、仮に内部の繊維強化プラスチック層11が破損したとしても可撓性樹脂層10,10が設けられているため、破損した繊維強化プラスチック層11が外部に表出し難い。そのため、仮に破損しても被保護体及び周囲の人、動物や物を傷つけることを防止できる。
【0050】
積層部材101の製造方法は、シート状の可撓性樹脂層10、シート状の繊維強化プラスチック層11、シート状の可撓性樹脂層10を積層して、例えば、加熱加圧することで一体化して製造する。または、シート状の可撓性樹脂層10、シート状の繊維強化プラスチック層11、シート状の可撓性樹脂層10を接着して一体化して製造してもよい。繊維強化プラスチック層11として公知のプリプレグを用いたプリプレグ製造法により製造してもよい。プリプレグとは、繊維に前もって樹脂(マトリックス)を含浸させた中間材料である。プリプレグには、熱可塑性樹脂をマトリックスとするものと、熱硬化性樹脂をマトリックスとするものがある。いずれを使用してもよい。プリプレグを加熱(加熱加圧)することで成形できる。
【0051】
図2に、積層部材101を加熱加圧して製造する場合に使用するホットプレス機601の模式図を例示する。
【0052】
ホットプレス機601は、一例として、加熱加圧部材611,612、金型615,616、及び温度計618を備えている。加熱加圧部材611は、一例として、加熱器を内部に備える固定台である。加熱加圧部材612は、一例として、加熱器を内部に備える移動台である。同図中に対の矢印で示す方向に金型615,616を加圧するように、加熱加圧部材612が加熱加圧部材611に向かって移動可能に構成されている。
【0053】
金型615、616は、積層部材101を所望の任意の形状に成形するための型である。金型615には、金型615(積層部材101)の温度を測定するための温度計618が設けられている。温度計618の計測する温度が所望の温度になるように、加熱加圧部材611,612の温度を制御可能に構成されている。
【0054】
積層部材101は、シート状の可撓性樹脂層10、シート状の繊維強化プラスチック層11、シート状の可撓性樹脂層10が金型615、616に収容され、金型615、616が加熱加圧部材611,612によって加熱加圧されることで、所定の温度、圧力が印加され、一体的に成形されて、製造される。
【0055】
積層部材101の可撓性樹脂層10,10の可撓性樹脂、及び繊維強化プラスチック層11のプラスチックのいずれにも同種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が用いられている場合、一例として、次のように積層部材101を製造することができる。例えば、積層部材101の製造方法は、重ねた複数のシート状の樹脂原材料の間にシート状の繊維を配置し、加熱及び加圧して、樹脂原材料を繊維に含侵させて繊維強化プラスチック層11を形成すると共に、最外層になる可撓性樹脂層10,10を形成する。以下具体的に説明する。
【0056】
図3に、積層部材101の製造方法を表す模式図を示す。図3(a)に示すシート状の樹脂原材料(樹脂原材料シート)10a,10aは、可撓性樹脂層10,10、及び繊維強化プラスチック層11のプラスチックの原材料である。シート状の繊維(繊維シート)11aは、繊維強化プラスチック層11の繊維の原材料である。繊維11aは、アラミド繊維又は炭素繊維である。同図に示すように、積層部材101の層構成に合わせた順番になるように、シート状の樹脂原材料10a、シート状の繊維11a、シート状の樹脂原材料10aを重ねて、ホットプレス機601(図2参照)の金型615、616にセットする。
【0057】
ホットプレス機601の加熱加圧部材611,612で金型615、616を加熱加圧する。樹脂原材料10aが熱可塑性樹脂の場合、熱で溶融して流動性を有するようになる。樹脂原材料10aが熱硬化性樹脂の場合、硬化温度以下の加温で流動性を有するようになる。流動性を有するようになった樹脂原材料10a,10aは、加圧により繊維11aの繊維間に含侵(浸透)する。樹脂原材料10aが熱硬化性樹脂の場合、含侵後に硬化温度まで加熱する。加圧を継続した状態で加熱を停止して、金型615、616を冷却すると、樹脂原材料10aが硬化して、図3(b)に示す積層部材101が完成する。樹脂原材料10a,10aには、所定の厚さの可撓性樹脂層10,10及び繊維強化プラスチック層11が形成できる分量のものを使用する。
【0058】
(第2実施形態)
図4に、本発明の積層部材102の使用状態を表す模式的な拡大断面図を示す。なお、既に説明した構成については同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0059】
積層部材102は、被保護体90に当たる物(図示省略)による被保護体90の損傷を防止するためのものである。同図には、積層部材102が、被保護体90の表面に配置されている例を示しているが、衝突体の表面に配置されていてもよいし、衝突体と被保護体90との間の任意の位置に配置されていてもよい。
【0060】
積層部材102は、最外層の一対の可撓性樹脂層10,10の間に、プラスチックと繊維とを含む繊維強化プラスチック層11が配置されている。積層部材102は、複数層の繊維強化プラスチック層11を有する。同図に示すように、積層部材102は、隣り合う繊維強化プラスチック層11の間に、可撓性樹脂層10を有していてもよい。
【0061】
必要とする所望の強度に応じて、繊維強化プラスチック層11の数や厚さ、内層の可撓性樹脂層10の数や厚さを設定すればよい。
【0062】
可撓性樹脂層10は、前述したように、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、シリコン樹脂及びゴムのいずれかで形成されている。可撓性樹脂層10を構成する熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0063】
繊維強化プラスチック層11は、前述したように、アラミド繊維強化プラスチック又は炭素繊維強化プラスチックであることが好ましい。プラスチックは、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂で形成されている。繊維強化プラスチック層11を構成する熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0064】
積層部材102は、複数の繊維強化プラスチック層11を有するため、積層部材101よりも耐衝撃性及び耐刺突性に優れている。さらに、積層部材102は、隣り合う繊維強化プラスチック層11の間に可撓性樹脂層10を有するため、積層部材101よりも耐衝撃性及び耐刺突性に優れている。
【0065】
複数の繊維強化プラスチック層11は、いずれも同種のものであってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、全ての繊維強化プラスチック層11がアラミド繊維強化プラスチック層であってもよいし、全ての繊維強化プラスチック層11が炭素繊維強化プラスチック層であってもよい。複数の繊維強化プラスチック層11としてアラミド繊維強化プラスチック層及び炭素繊維強化プラスチック層の両方が配置されていてもよい。その材質、配置、数、各層の厚さなどの構成は任意である。
【0066】
なお、最外層になる可撓性樹脂層10,10の間の任意の位置に、樹脂を含まないシート状の繊維(繊維シート)が積層されていてもよい。
【0067】
複数の可撓性樹脂層10は、いずれも同種のものであってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、全ての可撓性樹脂層10が熱可塑性樹脂層であってもよいし、全ての可撓性樹脂層10が熱硬化性樹脂層であってもよい。複数の可撓性樹脂層10として熱可塑性樹脂層及び熱硬化性樹脂層の両方が配置されていてもよい。その材質、配置、数、各層の厚さなどの構成は任意である。
【0068】
複数の繊維強化プラスチック層11の全ての隣り合う繊維強化プラスチック層11の間に可撓性樹脂層10を備えていなくてもよい。つまり、一部又は全部の隣り合う繊維強化プラスチック層11同士が接触していてもよい。
【0069】
積層部材102の製造方法は、複数のシート状の可撓性樹脂層10、複数のシート状の繊維強化プラスチック層11を積層部材102の積層構成で積層して、例えば、加熱加圧して一体化したり、接着して一体化したりして製造する。加熱加圧する場合、図2に示したホットプレス機601を使用すればよい。繊維強化プラスチック層11として公知のプリプレグを用いたプリプレグ製造法により製造してもよい。
【0070】
積層部材102の可撓性樹脂層10の可撓性樹脂、及び繊維強化プラスチック層11のプラスチックのいずれにも同種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が用いられている場合、次のように積層部材102を製造することができる。例えば、積層部材102の製造方法は、重ねた複数のシート状の樹脂原材料の間にシート状の繊維を配置し、加熱及び加圧して、樹脂原材料を繊維に含侵させて繊維強化プラスチック層11を形成すると共に、最外層になる可撓性樹脂層10,10を形成する。このときに、複数のシート状の繊維と複数のシート状の樹脂原材料を互い違いに配置して、加熱及び加圧することで、複数の繊維強化プラスチック層を形成すると共に、隣接する繊維強化プラスチック層の間に可撓性樹脂層を形成してもよい。以下具体的に説明する。複数のシート状の熱可塑性樹脂が全て同種のものであることが好ましい。
【0071】
図5に、積層部材102の製造方法を示す模式図を示す。図5(a)に示すシート状の樹脂原材料10aは、可撓性樹脂層10及び繊維強化プラスチック層11のプラスチックの原材料である。シート状の繊維11aは、繊維強化プラスチック層11の繊維の原材料である。シート状の繊維11aは、アラミド繊維シート又は炭素繊維シートである。同図に示すように、積層部材102の層構成に合わせた順番になるように、複数のシート状の樹脂原材料10a、複数のシート状の繊維11aを互い違いに重ねて、ホットプレス機601(図2参照)の金型615、616にセットする。
【0072】
ホットプレス機601の加熱加圧部材611,612で金型615、616を加熱加圧する。樹脂原材料10aが熱可塑性樹脂の場合、熱で溶融して流動性を有するようになる。樹脂原材料10aが熱硬化性樹脂の場合、硬化温度以下の加温で流動性を有するようになる。流動性を有するようになった樹脂原材料10aは、加圧により複数の繊維11aの繊維間に含侵する。樹脂原材料10aが熱硬化性樹脂の場合、含侵後に硬化温度まで加熱する。加圧を継続した状態で加熱を停止して、金型615、616を冷却すると、樹脂原材料10aが硬化して図5(b)に示す積層部材102が完成する。樹脂原材料10aとして、所定の厚さの可撓性樹脂層10及び繊維強化プラスチック層11が形成できる分量のものを使用する。
【0073】
(第3実施形態)
図6に、本発明の積層部材103の使用状態を表す模式的な拡大断面図を示す。なお、既に説明した構成については同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0074】
積層部材103は、被保護体90に当たる物(図示省略)による被保護体90の損傷を防止するためのものである。同図には、積層部材103が、被保護体90の表面に配置されている例を示しているが、衝突体の表面に配置されていてもよいし、衝突体と被保護体90との間の任意の位置に配置されていてもよい。
【0075】
積層部材103は、最外層の一対の可撓性樹脂層10,10の間に、プラスチックと繊維とを含む繊維強化プラスチック層11,12が配置されている。積層部材103は、複数層の繊維強化プラスチック層11,12を有する。積層部材103は、一例として、繊維強化プラスチック層11と繊維強化プラスチック層12とが隣接している。
【0076】
可撓性樹脂層10は、前述したように、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、シリコン樹脂及びゴムのいずれかで形成されている。可撓性樹脂層10を構成する熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0077】
繊維強化プラスチック層11と繊維強化プラスチック層12は、同種のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。異なる種類である場合、例えば、繊維強化プラスチック層11は熱可塑性樹脂(例えばポリエステル)をアラミド繊維で強化したアラミド繊維強化プラスチック層であり、繊維強化プラスチック層12は熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂)を炭素繊維で強化した炭素繊維強化プラスチック層である。
【0078】
なお、図示しないが、最外層になる可撓性樹脂層10,10の間の任意の位置に、さらに樹脂を含まないシート状の繊維(繊維シート)が積層されていてもよい。
【0079】
積層部材103の製造方法は、シート状の可撓性樹脂層10、シート状の繊維強化プラスチック層11、シート状の繊維強化プラスチック層12を積層部材103の積層構成で積層して、例えば、加熱加圧して一体化したり、接着して一体化したりして製造する。加熱加圧する場合、図2に示したホットプレス機601を使用すればよい。繊維強化プラスチック層12として公知のプリプレグを用いたプリプレグ製造法により製造してもよい。
【0080】
積層部材103の繊維強化プラスチック層12がプリプレグで形成されたものである場合、次のように積層部材103を製造することができる。例えば、積層部材103の製造方法は、重ねた複数のシート状の樹脂原材料の間にシート状の繊維及びシート状のプリプレグを配置し、加熱及び加圧して、樹脂原材料を繊維に含侵させて繊維強化プラスチック層11を形成すると共にプリプレグから繊維強化プラスチック層12を形成し、さらに最外層になる可撓性樹脂層10,10を形成する。以下具体的に説明する。
【0081】
図7に、積層部材103の製造方法を示す模式図を示す。図7(a)に示すシート状の樹脂原材料10aは、図7(b)に示す可撓性樹脂層10の原材料である。樹脂原材料10aは、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である。図7(a)に示すシート状の樹脂原材料10aは、図7(b)に示す可撓性樹脂層10及び繊維強化プラスチック層11のプラスチックの原材料である。樹脂原材料10aは、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である。シート状のプリプレグ12aは、繊維に前もって樹脂(マトリックス)を含浸させた中間材料である。プリプレグ12aの繊維は、アラミド繊維又は炭素繊維である。プリプレグ12aの樹脂は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である。
【0082】
シート状の繊維(繊維シート)11aは、繊維強化プラスチック層11の繊維の原材料である。シート状の繊維11aは、アラミド繊維シート又は炭素繊維シートである。同図に示すように、積層部材103の層構成に合わせた順番になるように、樹脂原材料10a、プリプレグ12a、繊維11a、樹脂原材料10aを積層して、ホットプレス機601(図2参照)の金型615、616にセットする。
【0083】
ホットプレス機601が金型615、616を加熱加圧すると、樹脂原材料10aは、流動性を有するようになり可撓性樹脂層10が成形される。また、プリプレグ12aが加熱加圧により繊維強化プラスチック層12が成形される。また、加熱によって流動性を有するようになった樹脂原材料10aは、加圧により繊維11aの繊維間に含侵して、繊維強化プラスチック層11及び可撓性樹脂層10が成形される。樹脂原材料10a及び樹脂原材料10aの少なくとも一方が熱硬化性樹脂の場合、含侵後に硬化温度まで加熱する。加圧を継続した状態で加熱を停止して、金型615、616を冷却すると、図7(b)に示す積層部材103が完成する。樹脂原材料10aとして、所定の厚さの可撓性樹脂層10が形成できる分量のものを使用する。樹脂原材料10aとして、所定の厚さの可撓性樹脂層10及び繊維強化プラスチック層11が形成できる分量のものを使用する。図7(a)に示す例では、樹脂原材料10aは、可撓性樹脂層10及び繊維強化プラスチック層11を形成することから、可撓性樹脂層10だけを形成する樹脂原材料10aよりも厚いものが使用されている。
【0084】
(第4実施形態)
図8に、本発明の防護用被服31の使用状態を表す模式図を示す。同図には、人91が防護用被服31を着用している状態を図示している。なお、既に説明した構成については同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0085】
防護用被服31は、本発明の積層部材101が、被服本体33に配置されているものである。防護用被服31に積層部材102又は積層部材103が配置されていてもよい。被服本体33は、積層部材101を着脱可能に装着できる装着部材35を有することが好ましい。
【0086】
防護用被服31(被服本体33)は、人91が着用するものである。同図では、被服の一例としてエプロンを図示している。防護用被服31は、人91が着用するものであればこれに限定されず、例えば、衣服、上着、下着、トップス、ボトムス、ジャンパー、ズボン、スカート、帽子、マスク、フェイスマスク、目出し帽、手袋、靴、靴下、腹巻、首巻、膝掛、膝当て、手甲、耳当て、ベルト、眼鏡、装身具などであってもよい。
【0087】
装着部材35は、一例として、積層部材101を着脱可能に収容できるポケットである。装着部材35には、ポケットの開口部を開閉可能なファスナー、ボタンなどの開閉部材(図示省略)が設けられていることが好ましい。開閉部材が設けられていると、装着部材35から積層部材101が脱落せず、積層部材101を簡便に装着部材35に着脱することができる。
【0088】
装着部材35は、積層部材101及び被服本体33の対向し合う部位に互いに設けられている、対の面ファスナー、ホックボタン、嵌り合う留め具など、公知の着脱可能な取付部材であってもよい。
【0089】
同図に示すように、積層部材101は人91の右側部側の装着部材35に装着され、積層部材101は人91の中央部側の装着部材35に装着され、積層部材101は人91の左側部側の装着部材35に装着されている。
【0090】
図9に、防護用被服31の横断面図を示す。人91の体形にフィットするように、中央部の積層部材101は緩やかな曲面で形成され、側部の積層部材101、101は、積層部材101よりも曲がり具合のきつい曲面で形成されている。積層部材101として、二次的に形状を変形できるものである場合、人91の体形に合わせて曲がり具合などの形状を変えることができるため好ましい。また、例えば、平坦な積層部材101を製造しておき、使用する部位に合わせた形状に二次的に成形して使用するようにしてもよい。
【0091】
例えば、積層部材101(102,103)を構成する可撓性樹脂層10,10及び繊維強化プラスチック層11(12)が全て熱可塑性樹脂で形成されている場合、加熱することで形状を変形させて成形することができるため、使用する部位の形状に合わせることができ好ましい。例えば、積層部材101(102,103)として、可撓性樹脂層10及び繊維強化プラスチック層11(12)の樹脂として熱可塑性樹脂であるポリエチレンを用い、繊維強化プラスチック層11(12)の繊維としてアラミド繊維(炭素繊維)を用いると、加熱により二次的に成形することができるため好ましい。特に、ポリエチレン及びアラミド繊維を用いた積層部材101(102,103)は軽量であるため人91が着用しても負担が小さく、かつ、耐衝撃性及び耐刺突性に優れるため、より好ましい。
【0092】
なお、積層部材101(102,103)は、被服以外の任意の物に配置することができる。例えば、自動車、車いす、家具、建具、建材、電化製品、木工製品、工業製品、ガラス製品などに配置してもよい。
【実施例0093】
以下、試作した実施例1~11について説明する。これらの実施例1~11に対し、衝突体として先端が鋭利な飛来物を高速で衝突させる刺突試験(耐刺突性試験)を実施した。
【0094】
[実施例1]
実施例1は、図4に示した積層部材102の例であり、同図の上から以下の順の9層の積層構造に構成したものである。
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
繊維強化プラスチック層11:アラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
繊維強化プラスチック層11:アラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
繊維強化プラスチック層11:アラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
繊維強化プラスチック層11:アラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
【0095】
1.特徴
アラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)は熱可塑性樹脂である超高分子量ポリエチレン(Ultra-High Molecular Weight Polyethylene : UHMWPE)をアラミド繊維(Aramid Fiber : AF)で強化した複合材料である。UHMWPEは軽量で耐衝撃性に優れる。AFは耐衝撃性、耐切創性に優れる。
【0096】
2.成形方法
成形時(製造時)の積層構成を図10に示す。超高分子量ポリエチレンUHMWPE(Saxin ニューライト,作新工業(株))は厚さ0.5mmのフィルムを使用した。アラミド繊維織物AF(Kevlar,東レ・デュポン)は綾織の厚さ0.5mmを使用した。図5(a)、具体的には図10に示すように超高分子量ポリエチレンUHMWPE(樹脂原材料10a)、アラミド繊維AF(繊維11a)を積層した。超高分子量ポリエチレンとアラミド繊維織物を交互に積層し、UHMWPE5枚、AF4枚の計9枚で[0f4]の積層構成とした。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して(ホットプレスして)成形した。完成した積層部材102(成形体)の厚さは3.65mm、密度は0.91g/cm3である。
【0097】
3.刺突試験方法
耐刺突性の評価は、ガス銃を用いた衝撃試験機により行った。図11に衝撃試験機701の概略を示す。一例として、衝撃試験機701はエアーコンプレッサ(空気圧縮機)702、レギュレータ(圧力調整器)703、圧力計704、電磁弁705、衝突体を模擬したストライカ707、及びストライカを挿入するバレル(銃身)706から構成される。エアーコンプレッサ702からレギュレータ703と電磁弁704とを介してバレル706が接続されている。レギュレータ703と電磁弁705との間に圧縮空気の圧力を測定する圧力計704が設けられている。電磁弁704を開くことでバレル706内に圧縮空気が解放されストライカ707を押し出し、バレル706の先端に配置された試験片708(積層部材102)に衝突させる。ストライカ707の速度vはv=35m/s以上とし、運動エネルギKはK=10J以上で試験を行った。
【0098】
図12にストライカ707の形状と試験片708(積層部材102)の固定方法を示す。ストライカ707は先端角度αがα = 30°の鋭利な形状を有している板厚2mmの板である。刺突試験はJIS K 7084:1993の3点曲げ衝撃試験を参考にして、支持台721に試験片708をセットして行った。衝撃負荷時に曲げ変形となるように、一対の支点722による両端自由支持で試験片708を固定した。試験片寸法は100x10x3.65mmの短冊形状とし、アラミド繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。また、被保護体が人体であっても使用可能なように、試験片708の後ろに人体を模擬したシリコーンゴム723を配置した。
【0099】
4.試験結果
実施例1に対する刺突試験後の外観観察を図13に示す。ストライカはわずかに試験片を貫通したが、被保護体に重篤な被害を与えるほどではない。また、実施例1では延性材料の超高分子量ポリエチレンUHMWPEとアラミド繊維AFを用いているため、UHMWPE/AFの破壊形態は延性破壊であった。例えば、エポキシ樹脂を母材とした炭素繊維強化プラスチックCFRPではぜい性破壊するが、その場合、バリの発生や破片の飛散から二次被害の恐れがある。UHMWPE/AFは延性破壊であるため、破壊した材料による被保護体への二次被害の観点からも被保護体を傷つけることがない。
よって、実施例1は密度が0.91g/cm3であるため軽量であり、さらに衝撃吸収性に優れ、延性破壊のため破断しにくいことが特徴である。また、実施例1は熱可塑性樹脂を使用しており熱を加えると変形するため、二次加工性に優れる利点がある。
【0100】
[実施例2]
実施例2は、図4に示す積層部材102の例であり、可撓性樹脂10として超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、繊維強化プラスチック層11として炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/CF)を用いて交互に積層し、以下のように同図の上から順に29層の積層構造に構成したものである。
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/CF)
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/CF)
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)



繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/CF)
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
【0101】
1.特徴
炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/CF)は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を炭素繊維(Carbon Fiber : CF)で強化した複合材料である。超高分子量ポリエチレンUHMWPEは軽量で耐衝撃性に優れる。炭素繊維CFは比強度、比剛性に優れる。
【0102】
2.成形方法
成形時の積層構成を図14に示す。超高分子量ポリエチレンUHMWPE(Saxin ニューライト,作新工業(株))は厚さ0.13mmのフィルムを使用した。炭素繊維織物CF(トレカクロスCO6142,東レ(株))は平織の厚さ0.15mmを使用した。図5(a)、具体的には図14に示すように、超高分子量ポリエチレン(樹脂原材料10a)と炭素繊維織物(繊維11a)を交互に積層し、UHMWPE15枚,CF14枚の計29枚[0f14]の積層構成とした。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して成形した。完成した積層部材102(成形体)の厚さは3.17mm,密度は1.11g/cm3である。
【0103】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x3.17mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0104】
4.試験結果
実施例2に対する刺突試験後の外観観察を図15に示す。ストライカはわずかに試験片を貫通したが、被保護体に重篤な被害を与えるほどではない。また、UHMWPE/CFの母材には延性材料の超高分子量ポリエチレンUHMWPEを用いているため、UHMWPE/CFの破壊形態は延性破壊であった。例えば、エポキシ樹脂を母材とした炭素繊維強化プラスチックCFRPのようなぜい性破壊の場合、バリの発生や破片の飛散から二次被害の恐れがある。本材料では延性破壊であるため、破壊した材料による二次被害の観点からも被保護体を傷つけることがない。
よって、実施例2は、密度が1.11g/cm3と軽量であり、さらに強度に優れ、衝撃吸収性が良い。また、実施例2は熱可塑性樹脂を使用しており熱を加えると変形するため、二次加工性に優れる利点がある。
【0105】
[実施例3]
実施例3は、図1に示す積層部材101の例であり、同図の上から以下の順の3層の積層構造に構成したものである。
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRP)
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
【0106】
1.特徴
実施例3(UHMWPE+CFRP+UHMWPE)は、炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics : CFRP)を中心として、衝突体側と被保護体側に超高分子量ポリエチレンUHMWPEで挟み込んだサンドイッチ構造の積層部材である。この積層部材をUHMWPE+CFRP+UHMWPEと表記する。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは強度が高く、耐刺突性に優れる。一方、ぜい性材料であるため耐衝撃性に劣り、破断面が鋭利になりやすい。そこで、耐衝撃性に優れ、延性材料である超高分子量ポリエチレンUHMWPEをCFRPの両表面に配置している。
【0107】
2.成形方法
成形時の積層構成を図16に示す。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは、一方向繊維のプリプレグ16枚を[(0/±45/90)2]sの積層構成で成形した材料を用いた。炭素繊維強化プラスチックは炭素繊維(T1100GC,東レ(株))にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ材(P17045G-12,東レ(株))を使用した。図16に示すように、このCFRPをCFRPより少しサイズが大きめの超高分子量ポリエチレンUHMWPEで衝突体側、被保護体側を挟み込み、サンドイッチ構造とした。超高分子量ポリエチレンUHMWPE(Saxin ニューライト,作新工業(株))は厚さ0.5mmのフィルムを使用した。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して成形した。完成した積層部材101(成形体)の厚さは2.67mm,密度は1.37g/cm3である。
【0108】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x2.67mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0109】
4.試験結果
実施例3の刺突試験後の外観観察を図17に示す。実施例3において被保護体側への貫通は見られなかった。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPはぜい性材料のため、破壊時にバリの発生や破片の飛散が伴う。そのため、CFRPの破壊による二次被害の恐れがある。しかし、衝突体側と保護対象側に延性材料である熱可塑性樹脂UHMWPEで挟み込んでいるため、CFRPによるバリや破片の飛散を抑制している。そのため、破壊した材料による二次被害の観点からも被保護体を傷つけることがない。
実施例3は、強度が高い炭素繊維強化熱硬化性プラスチックにより耐刺突性が高く、さらに延性材料である超高分子量ポリエチレンUHMWPEで挟み込んでいるため延性破壊となり、被保護体を傷つけない利点がある。
【0110】
[実施例4]
実施例4は、図1に示す積層部材101の例であり、同図の上から以下の順の3層の積層構造に構成したものである。
可撓性樹脂10:ポリカーボネート(PC)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRP)
可撓性樹脂10:ポリカーボネート(PC)
【0111】
1.特徴
実施例4(PC+CFRP+PC)は、コア材として炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRP)を熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(Polycarbonate : PC)で挟み込みサンドイッチ構造とした積層部材である。この積層部材をPC+CFRP+PCと表記する。
【0112】
2.成形方法
成形時の積層構成を図18に示す。コア材である炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは一方向繊維のプリプレグ16枚を[(0/±45/90)2]sの積層構成で成形した材料を用いた。炭素繊維強化プラスチックCFRPは炭素繊維(T1100GC,東レ(株))にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ材(P17045G-12,東レ(株))を使用した。図18に示すように、このCFRPをポリカーボネートPCで挟み込みこんだサンドイッチ構造とした。ポリカーボネートPCは厚さ0.5mmのフィルムを使用した。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して成形した。完成した積層部材101(成形体)の厚さは2.67mm,密度は1.47g/cm3である。
【0113】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x2.67mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0114】
4.試験結果
実施例4の刺突試験後の外観観察を図19に示す。実施例4において被保護体側への貫通は見られなかった。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPはぜい性材料のため、破壊時にバリの発生や破片の飛散が伴う。そのため、材料の破壊による二次被害の恐れがある。二次被害を抑えるため、延性材料であるPCでCFRPを挟み込んだサンドイッチ構造としたが、被保護体側のPCは衝撃により割れてしまった。しかし、本試験では、試験片作製の都合上、試験片の長手方向側面が樹脂で覆われていない。実際の使用では全ての側面が樹脂で覆われた状態であるため、本試験のような被保護体側のPCのはく離や割れは衝突体側と同様に生じにくいと考えられる。
実施例4は、強度が高い炭素繊維強化熱硬化性プラスチックで耐刺突性が高く、さらに延性材料であるポリカーボネートPCで挟み込んでいるため延性破壊となり、被保護体を傷つけない利点がある。
【0115】
[実施例5]
実施例5は、図1に示す積層部材101の例であり、同図の上から以下の順の3層の積層構造に構成したものである。
可撓性樹脂10:ポリカーボネート(PC)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維熱可塑性プラスチック(UHMWPE/CF)
可撓性樹脂10:ポリカーボネート(PC)
【0116】
1.特徴
実施例5(PC+UHMWPE/CF+PC)は、コア材として超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を炭素繊維(CF)で強化した炭素繊維熱可塑性プラスチック(UHMWPE/CF)をポリカーボネート(PC)で挟み込みサンドイッチ構造とした積層部材である。この積層部材をPC+UHMWPE/CF+PCと表記する。
【0117】
2.成形方法
成形時の積層構成を図20に示す。コア材であるUHMWPE/CFは厚さ0.13mmの超高分子量ポリエチレンUHMWPE(Saxin ニューライト,作新工業(株))に炭素繊維織物CF(トレカクロスCO6142,東レ(株),平織の厚さ0.15mm)を、図5(a)、具体的には図14に示すように超高分子量ポリエチレンと炭素繊維織物を交互に積層し、UHMWPE15枚、CF14枚の計29枚[0f14]の積層構成により成形した。さらに、図20に示すように、このUHMWPE/CFをポリカーボネートPCで挟み込みこんだサンドイッチ構造とした。ポリカーボネートPCは厚さ0.5mmのフィルムを使用した。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して成形した。完成した積層部材101(成形体)の厚さは4.17mm,密度は1.13g/cm3である。
【0118】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x4.17mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0119】
4.試験結果
実施例5では、多少刺突するが、被保護体に重大な被害を与えなかった。また、UHMWPE/CFの母材には延性材料の超高分子量ポリエチレンUHMWPEを用いているため、UHMWPE/CFの破壊形態は延性破壊であった。例えば、エポキシ樹脂を母材とした炭素繊維強化プラスチックCFRPのようなぜい性破壊の場合、バリの発生や破片の飛散から二次被害の恐れがある。本材料では延性破壊であるため、破壊した材料による二次被害の観点からも被保護体を傷つけることがない。
【0120】
[実施例6]
実施例6は、図6に示す積層部材103の例であり、同図の上から以下の順の4層の積層構造に構成したものである。
可撓性樹脂層10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
繊維強化プラスチック層12:炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRP)
繊維強化プラスチック層11:アラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)
可撓性樹脂層10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
【0121】
1.特徴
実施例6(UHMWPE+CFRP+UHMWPE/AF+UHMWPE)は炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRP)の衝突体側に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、被保護体側にアラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)と超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)が配置された積層部材である。この積層部材をUHMWPE+CFRP+ UHMWPE/AF+UHMWPEと表記する。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは強度が高く、耐刺突性に優れる。一方、ぜい性材料であるため耐衝撃性に劣り、破断面が鋭利になりやすい。そこで、耐衝撃性に優れ、延性材料である超高分子量ポリエチレンと耐衝撃性、耐切創性にすぐれるアラミド繊維をCFRPの表面に配置している。
【0122】
2.成形方法
成形時の積層構造を図21に示す。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは一方向繊維のプリプレグ16枚を[(0/±45/90)2]sの積層構成で成形した材料を用いた。炭素繊維強化プラスチックは炭素繊維(T1100GC,東レ(株))にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ材(P17045G-12,東レ(株))を使用した。図21に示すように、このCFRPをアラミド繊維AFと積層させ、さらに超高分子量ポリエチレンUHMWPEで挟み込みサンドイッチ構造とした。超高分子量ポリエチレンUHMWPE(Saxin ニューライト,作新工業(株))は厚さ0.5mmのフィルムを使用した。アラミド繊維織物AF(Kevlar,東レ・デュポン)は綾織の厚さ0.5mmを使用した。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して成形した。完成した積層部材103(成形体)の厚さは2.98mm,密度は1.28g/cm3である。
【0123】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x2.98mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。また、積層部材の表裏(上下)を逆にして同様の試験を行った。
【0124】
4.試験結果
実施例6(UHMWPE+CFRP+UHMWPE/AF +UHMWPE)の刺突試験後の被保護体側の外観観察を図22に示す。図22(a)が図6に示すような「アラミド繊維AFが被保護体側に積層されている条件」、図22(b)が図6の表裏(上下)を逆にした「アラミド繊維AFが衝突体側に積層されている条件」である。どちらの条件においても被保護体側への貫通は見られなかった。したがって、アラミド繊維の積層位置による違いは見られなかった。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPはぜい性材料のため、破壊時にバリの発生や破片の飛散が伴う。そのため、材料の破壊による二次被害の恐れがある。しかし、衝突体側と被保護体側に延性材料である熱可塑性樹脂UHMWPEと耐切創性や耐衝撃性が高いアラミド繊維織物AFで挟み込んでいるため、CFRPによるバリや破片の飛散を抑制している。そのため、破壊した材料による二次被害の観点からも被保護体を傷つけない利点がある。
【0125】
[実施例7]
実施例7は、図4に示す積層部材102の例であり、同図の上から以下の順の7層の積層構造に構成されているものである。
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、
繊維強化プラスチック層11:アラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)、
可撓性樹脂10として超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRP)、
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、
繊維強化プラスチック層11:アラミド繊維強化熱可塑性プラスチック(UHMWPE/AF)、
可撓性樹脂10:超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)
【0126】
1.特徴
実施例7(UHMWPE/AF+CFRP+UHMWPE/AF)は炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPを、超高分子量ポリエチレンUHMWPEをアラミド繊維AFで強化したアラミド繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/AFで挟み込んでサンドイッチ構造とした積層部材である。この積層部材をUHMWPE/AF+CFRP+UHMWPE/AFと表記する。なお、UHMWPE/AFとCFRPとの間にUHMWPEの層が形成されていると共に、CFRPとUHMWPE/AFとの間にUHMWPEの層が形成されている。また、実施例7の両最外層にUHMWPEの層が形成されている。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは強度が高く、耐刺突性に優れるが、ぜい性材料であるため耐衝撃性に劣り、破断面が鋭利になりやすい。そこで、耐衝撃性に優れ、延性材料であるアラミド繊維強化熱可塑性プラスチックをCFRPの表面に配置した。
【0127】
2.成形方法
成形時の積層構成を図23に示す。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは一方向繊維のプリプレグ8枚を[0/±45/90]sの積層構成で成形した材料を用いた。炭素繊維強化プラスチックは炭素繊維(T1100GC,東レ(株))にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ材(P17045G-12,東レ(株))を使用した。図23に示すように、このCFRPを、超高分子量ポリエチレンUHMWPEをアラミド繊維AFで強化したアラミド繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/AFで挟み込んでサンドイッチ構造とした。超高分子量ポリエチレンUHMWPEとアラミド繊維織物AFを交互に積層し、UHMWPE2枚、AF1枚の計3枚で[0f1]の積層構成とした。超高分子量ポリエチレンUHMWPE(Saxin ニューライト,作新工業(株))は厚さ0.5mmのフィルムを使用した。アラミド繊維織物AF(Kevlar,東レ・デュポン)は綾織の厚さ0.5mmを使用した。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して成形した。完成した積層部材102(成形体)の厚さは3.39mm,密度は1.09g/cm2である。
【0128】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x3.39mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0129】
4.試験結果
実施例7の刺突試験後の外観観察を図24に示す。実施例7において被保護体側への貫通は見られなかった。炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPはぜい性材料のため、破壊時にバリの発生や破片の飛散が伴う。そのため、材料の破壊による二次被害の恐れがある。しかし、衝突体側と被保護体側に延性材料であり、耐切創性や耐衝撃性が高いアラミド繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/AFで挟み込んでいるため、CFRPによるバリや破片の飛散を抑制している。そのため、破壊した材料による二次被害の観点からも被保護体を傷つけない利点がある。
【0130】
[実施例8]
実施例8は、図1に示す積層部材101の例であり、同図の上から以下の順の3層の積層構造に構成されているものである。
可撓性樹脂10:シリコーンゴム(Silicone:シリコン樹脂)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRP)
可撓性樹脂10:シリコーンゴム(Silicone:シリコン樹脂)
【0131】
1.特徴
実施例8(Silicone+CFRP+Silicone)は炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPをシリコーンゴム(シリコン樹脂)で挟み込んでサンドイッチ構造とした積層部材である。
本材料は強度が高く、耐刺突性に優れるコア材の炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPをさらに高強度なシリコーンゴムで挟み込んでサンドイッチ構造としたことにより、コア材であるCFRPが破壊しても、被保護体を傷つけない利点がある。
【0132】
2.成形方法
コア材になる炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは、一方向繊維のプリプレグ16枚を[(0/±45/90)2]sの積層構成で成形した材料を用いた。炭素繊維強化プラスチックは炭素繊維(T1100GC,東レ(株))にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ材(P17045G-12,東レ(株))を使用した。このCFRPをシリコーンゴム(KE-1300T,信越化学工業(株))で挟み込んでサンドイッチ構造とする。シリコーンゴムは先にモノマーと硬化剤を混合させ板状のシリコーンゴムに成形したあとでCFRPに貼り付け成形した。なお、型の中にCFRPを設置して硬化していないシリコーンゴムを流し込み炉内で固めて成形しても良い。
【0133】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x17.6mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0134】
4.試験結果
炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPはぜい性材料のため、破壊時にバリの発生や破片の飛散が伴う。そのため、CFRPの破壊による二次被害の恐れがある。しかし、衝突体側と被保護体側を延性材料であるシリコーンゴムで挟み込んでいるため、CFRPによるバリや破片の飛散を抑制する。そのため、破壊した材料による二次被害の観点からも被保護体を傷つけることがない。
実施例8は、強度が高い炭素繊維強化プラスチックで耐刺突性が高く、さらに延性材料であるシリコーンゴムで挟み込んでいるため被保護体を傷つけない利点がある。
【0135】
[実施例9]
実施例9は、図1に示す積層部材101の例であり、同図の上から以下の順の積層構造に構成されているものである。
可撓性樹脂10:シリコーンゴム(Silicone:シリコン樹脂)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/CF
可撓性樹脂10:シリコーンゴム(Silicone:シリコン樹脂)
【0136】
1.特徴
実施例9(Silicone+UHMWPE/CF+Silicone)は、超高分子量ポリエチレンUHMWPEを炭素繊維CFで強化した炭素繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/CFを、シリコーンゴムで挟み込んでサンドイッチ構造とした積層部材である。
本材料は強度が高く、耐刺突性に優れるコア材の炭素繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/CFをさらに高強度なシリコーンゴムで挟み込んでサンドイッチ構造としたことにより、コア材である炭素繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/CFが破壊しても、被保護体を傷つけない利点がある。
【0137】
2.成形方法
成形時の積層構成を図14に示す。超高分子量ポリエチレンUHMWPE(Saxin ニューライト,作新工業(株))は厚さ0.13mmのフィルムを使用した。炭素繊維織物CF(トレカクロスCO6142,東レ(株))は平織の厚さ0.15mmを使用した。図5(a)、具体的には図14に示すように、超高分子量ポリエチレン(樹脂原材料10a)と炭素繊維織物(繊維11a)を交互に積層し、UHMWPE15枚,CF14枚の計29枚[0f14]の積層構成とした。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して成形した。このUHMWPE/CFをシリコーンゴム(例えばKE-1300T,信越化学工業(株))で挟み込んでサンドイッチ構造とする。シリコーンゴムは先にモノマーと硬化剤を混合させ板状のシリコーンゴムに成形したあとでUHMWPE/CFに貼り付け成形する場合と、型の中にUHMWPE/CFを設置して硬化していないシリコーンゴムを流し込み炉内で固めても良い。
【0138】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x19.2mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0139】
4.試験結果
炭素繊維CFはぜい性材料のため、破壊時にバリの発生や破片の飛散が伴う。そのため、炭素繊維CFの破壊による二次被害の恐れがある。しかし、衝突体側と被保護体側を延性材料であるシリコーンゴムで挟み込んでいるため、炭素繊維CFによるバリや破片の飛散を抑制する。そのため、破壊した材料による二次被害の観点からも被保護体を傷つけることがない。
実施例9は、強度が高い炭素繊維強化プラスチックで耐刺突性が高く、さらに延性材料であるシリコーンゴムで挟み込んでいるため被保護体を傷つけない利点がある。
【0140】
[実施例10]
実施例10は、図1に示す積層部材101の例であり、同図の上から以下の順の積層構造に構成されているものである。
可撓性樹脂10:ポリプロピレン(PP)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRP
可撓性樹脂10:ポリプロピレン(PP)
【0141】
1.特徴
実施例10(PP+CFRP+PP)は、炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPを、熱可塑性樹脂であるポリプロピレンPPで挟み込んでサンドイッチ構造とした積層部材である。
【0142】
2.成形方法
コア材になる炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは、一方向繊維のプリプレグ16枚を[(0/±45/90)2]sの積層構成で成形した材料を用いた。炭素繊維強化プラスチックは炭素繊維(T1100GC,東レ(株))にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ材(P17045G-12,東レ(株))を使用した。このCFRPをPP(例えばPPクラフトシート,アクリサンデー(株))で挟み込んでサンドイッチ構造とする。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内金型に挿入し、加熱しながら加圧して成形する。
【0143】
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x3.10mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0144】
4.試験結果
コア材の炭素繊維強化熱硬化性プラスチックCFRPは強度が高く、耐刺突性に優れているが、PPは耐衝撃性が悪く、衝撃が負荷された場合、簡単に割れる。したがって、飛翔体などをコア材であるCFRPで貫通させないようにすることができても、表面に存在するPPが割れやすい。しかし、PPはぜい性破壊ではなく延性破壊なため、割れてバリが発生したとしても、それによってケガなどの二次被害が起こる可能性は少ない。
【0145】
[実施例11]
実施例11は、図1に示す積層部材101の例であり、同図の上から以下の順の積層構造に構成されているものである。
可撓性樹脂10:ポリプロピレン(PP)
繊維強化プラスチック層11:炭素繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/CF
可撓性樹脂10:ポリプロピレン(PP)
【0146】
1.特徴
実施例11(PP+UHMWPE/CF+PP)は超高分子量ポリエチレンUHMWPEを炭素繊維CFで強化した炭素繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/CFを熱可塑性樹脂であるポリプロピレンPPで挟み込んでサンドイッチ構造とした積層部材である。
【0147】
2.成形方法
成形時の積層構成を図14に示す。超高分子量ポリエチレンUHMWPE(Saxin ニューライト,作新工業(株))は厚さ0.13mmのフィルムを使用した。炭素繊維織物CF(トレカクロスCO6142,東レ(株))は平織の厚さ0.15mmを使用した。図5(a)、具体的には図14に示すように、超高分子量ポリエチレン(樹脂原材料10a)と炭素繊維織物(繊維11a)を交互に積層し、UHMWPE15枚,CF14枚の計29枚[0f14]の積層構成とした。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内に挿入し、加熱しながら加圧して成形した。このUHMWPE/CFをPP(例えばPPクラフトシート,アクリサンデー(株))で挟み込んでサンドイッチ構造とする。これらを図2に示すホットプレス機601の金型615、616内金型に挿入し、加熱しながら加圧して成形する。
3.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x4.67mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。
【0148】
4.試験結果
コア材の炭素繊維強化熱可塑性プラスチックUHMWPE/CFは強度が高く、耐刺突性に優れているが、PPは耐衝撃性が悪く、衝撃が負荷された場合、簡単に割れる。したがって、飛翔体などをコア材であるUHMWPE/CFで貫通させないようにすることができても、表面に存在するPPが割れやすい。しかし、PPはぜい性破壊ではなく延性破壊なため、割れてバリが発生したとしても、それによってケガなどの二次被害が起こる可能性は少ない。
【0149】
[比較例1]
比較例1(CFRP)として繊維強化プラスチック層のみで形成したシートを試作し、刺突試験を実施した。比較例1は繊維強化プラスチック層単体であり、両側に可撓性樹脂層を設けていない。
【0150】
1.成形方法
比較例1には、一方向繊維のプリプレグ8枚を[0/±45/90]sの積層構成で成形した材料を用いた。炭素繊維強化プラスチックは炭素繊維(T1100GC,東レ(株))にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ材(P17045G-12,東レ(株))を使用した。
【0151】
2.試験方法
実施例1と同様の刺突試験を行った。試験片寸法は100x10x0.8mmの短冊形状とし、炭素繊維織物の配向0°に対して平行に取り出している。また、試験時のストライカ速度vはv = 54m/sである。
【0152】
3.試験結果
刺突試験後の外観観察を図25に示す。ストライカが貫通し、試験片が破断していることが分かる。試験片の破断面を拡大した写真を図26に示す。図26より、CFRPの破断面が非常に鋭利なことが分かる。この鋭利なバリにより、被保護体を傷つけ、二次被害の恐れがある。
【0153】
[参考例1、2]
参考例1として鉄(試験片寸法は100x10x0.5mmの短冊形状)、及び参考例2としてアルミニウム(試験片寸法は100x10x0.5mmの短冊形状)に対する同様の刺突試験を実施した。
【0154】
実施例1~11、比較例1、及び参考例1,2の刺突試験結果及び各実施例の密度を表1に示す。
【0155】
【表1】
耐刺突性の評価基準
◎:完全に刺突しない。もしくは被保護体に被害を与えない。
○:多少刺突するが、被保護体に重大な被害を与えない。
△:刺突し、被保護体が軽微な破壊もしくは怪我をする可能性がある。
×:刺突し、被保護体に重大な被害。

二次被害の評価基準
◎:二次被害の原因となる材料のバリや破片の飛散が発生しない。
○:二次被害の原因となる材料のバリや破片の飛散が発生する可能性がある。
△:二次被害が発生し、被保護体が軽微な破壊もしくは怪我をする可能性がある。
×:二次被害により被保護体に重大な被害。
【符号の説明】
【0156】
10は可撓性樹脂層、10aは樹脂原材料(樹脂原材料シート)、11は繊維強化プラスチック層、11aは繊維(繊維シート)、12aはプリプレグ、31は防護用被服、33は被服本体、35は装着部材、90は被保護体、91は人、101・102・103は積層部材、601はホットプレス機、611は加熱加圧部材(固定台)、612は加熱加圧部材(移動台)、615・616は金型、618は温度計、701は衝撃試験機、702はエアーコンプレッサ(空気圧縮機)、703はレギュレータ(圧力調整器)、704は圧力計、705は電磁弁、707はストライカ、706はバレル(銃身)、708は試験片、721は支持台、722は支点、723はシリコーンゴム、αはストライカの先端角度である。
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