(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187335
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/32 20140101AFI20221212BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221212BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C09D11/32
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095319
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 洋彦
(72)【発明者】
【氏名】岡村 大二
(72)【発明者】
【氏名】岸 宏光
(72)【発明者】
【氏名】宮町 尚利
(72)【発明者】
【氏名】小林 悟
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA13
2C056FC01
2H186BA10
2H186BA11
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2H186FB15
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2H186FB29
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2H186FB53
4J039AD03
4J039AD09
4J039BD02
4J039BE02
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA41
4J039EA42
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】発色性及び耐擦過性に優れた蛍光色の画像を記録することが可能な、吐出安定性及び固着回復性に優れた水性インクを提供する。
【解決手段】第1蛍光染料によって染着された第1樹脂粒子、第2蛍光染料によって染着された第2樹脂粒子、及び水溶性樹脂を含有するインクジェット用の水性インクである。第1蛍光染料が、蛍光を示す塩基性染料を含み、第2蛍光染料が、第1蛍光染料と異なる色相を有する、蛍光を示す分散染料又は油溶性染料を含み、第1樹脂粒子及び第2樹脂粒子が、いずれも、芳香族基含有ユニット及びシアノ基含有ユニットを含むコア部と、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを含まないシェル部と、を有し、水溶性樹脂の酸価が、100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1蛍光染料によって染着された第1樹脂粒子、第2蛍光染料によって染着された第2樹脂粒子、及び水溶性樹脂を含有するインクジェット用の水性インクであって、
前記第1蛍光染料が、蛍光を示す塩基性染料を含み、
前記第2蛍光染料が、前記第1蛍光染料と異なる色相を有する、蛍光を示す分散染料又は油溶性染料を含み、
前記第1樹脂粒子及び前記第2樹脂粒子が、いずれも、芳香族基含有ユニット及びシアノ基含有ユニットを含むコア部と、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを含まないシェル部と、を有し、
前記シェル部に占める、前記架橋剤に由来するユニットの割合(質量%)が、30質量%以上80質量%以下であり、
前記水溶性樹脂が、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを有し、
前記水溶性樹脂の酸価が、100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であることを特徴とする水性インク。
【請求項2】
前記第1樹脂粒子の含有量(質量%)が、前記第2樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.125倍以上8.000倍以下である請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記コア部に占める、前記シアノ基含有ユニットの割合(質量%)が、10質量%以上60質量%以下である請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記シェル部に占める、前記アニオン性基含有ユニットの割合(質量%)が、5質量%以上30質量%以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項5】
前記コア部に含まれる前記芳香族基含有ユニットと、前記シェル部に含まれる前記芳香族基含有ユニットが、同種のユニットである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項6】
前記架橋剤が、2種以上の架橋剤を含み、
少なくとも1種の架橋剤が、グリシジル基を有する架橋剤である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項7】
前記第1樹脂粒子に占める、前記第1蛍光染料の割合(質量%)が、4.0質量%以上8.0質量%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項8】
前記第2樹脂粒子に占める、前記第2蛍光染料の割合(質量%)が、3.0質量%以上8.0質量%以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項9】
前記第1樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径及び前記第2樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径が、いずれも、120nm以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項10】
前記水溶性樹脂の含有量(質量%)が、前記第1樹脂粒子の含有量(質量%)と前記第2樹脂粒子の含有量(質量%)の合計に対する質量比率で、0.1倍以上2.0倍以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項11】
前記第1樹脂粒子の含有量(質量%)と前記第2樹脂粒子の含有量(質量%)の合計が、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下である請求項1乃至10のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項12】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項13】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷業界においては、表現可能な色域の拡大が求められている。色域の規格としては、PANTONE認証(X-rite)、Japan Color認証(日本印刷産業機械工業会)、DICカラーガイド認証(DIC)、Kaleido認証(東洋インキ)などを挙げることができる。近年、色域拡大のために、シアン、マゼンタ、及びイエローの基本色以外の特色インクや、高明度の特殊色インクを採用したインクジェット記録装置が利用されるようになっている。
【0003】
印刷業界における他のニーズの一つとして、人目を引くような鮮やかな色合いの記録物の製造を挙げることができる。例えば、ポスターやPOPなどの掲示物、食品や飲料製品の包装などは、顧客の視線を引き付けるために鮮やかな色で記録されていることが要求される。そして、このようなニーズを満たすうえで蛍光色が有効であるといえる。これまでに、塗料やインクなどに適した蛍光材料が提案されている(特許文献1)。しかし、十分なインクジェット適性を有する蛍光材料については、未だ確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、蛍光色の画像を記録する方法としてはオフセット印刷が主流である。但し、オフセット印刷の一度刷りによって蛍光色の画像を記録する場合、鮮やかな発色性を得ることが困難であるので、二度刷り以上の重ね刷りを実施することが一般的であった。このため、発色性に優れた蛍光色の画像を重ね刷りによって記録する方法は、生産性やコスト面で課題を有していた。
【0006】
また、電子写真方式を用いたデジタル記録の場合、液体トナーを用いて発色の高い蛍光色の画像を記録することが可能ではある。しかし、電子写真方式は記録媒体に制約があるため、例えば、テキスタイル記録への適用、大判への展開、厚物素材への適用などが困難である。
【0007】
これに対して、インクジェット方式を用いたデジタル記録は、インクを吐出する記録ヘッドが記録媒体に接触しない(非接触である)ことを生かして、様々な記録媒体に適用することが可能である。但し、力学的エネルギー又は熱エネルギーを作用させてミクロンオーダーの微小なノズルからインクを吐出するため、粘度などのインクの物性の制約を受けやすい。特に、色材や樹脂などのインクの性能を左右する材料の多くは固体であり、これらの材料をインクに添加するには水や有機溶剤などの液媒体に溶解又は分散させる必要があるため、インクへの添加量に制約が生ずる。蛍光染料などの蛍光色材についても同様であり、所望の色域を満足しつつ発色性に優れた画像を記録すべく、十分な量の蛍光色材をインクに添加しようとしても、インクの物性面で制約が生じてしまう。また、インクジェット方式を用いたデジタル記録の場合、オフセット印刷や電子写真方式を用いたデジタル記録と比較して画像層が薄いため、擦過によって記録媒体が露出しやすい。画像の品位を損なわないためには、擦過に耐えうる性能を画像に付与する必要がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、発色性及び耐擦過性に優れた蛍光色の画像を記録することが可能な、吐出安定性及び固着回復性に優れた水性インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、この水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、第1蛍光染料によって染着された第1樹脂粒子、第2蛍光染料によって染着された第2樹脂粒子、及び水溶性樹脂を含有するインクジェット用の水性インクであって、前記第1蛍光染料が、蛍光を示す塩基性染料を含み、前記第2蛍光染料が、前記第1蛍光染料と異なる色相を有する、蛍光を示す分散染料又は油溶性染料を含み、前記第1樹脂粒子及び前記第2樹脂粒子が、いずれも、芳香族基含有ユニット及びシアノ基含有ユニットを含むコア部と、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを含まないシェル部と、を有し、前記シェル部に占める、前記架橋剤に由来するユニットの割合(質量%)が、30質量%以上80質量%以下であり、前記水溶性樹脂が、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを有し、前記水溶性樹脂の酸価が、100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であることを特徴とする水性インクが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発色性及び耐擦過性に優れた蛍光色の画像を記録することが可能な、吐出安定性及び固着回復性に優れた水性インクを提供することができる。また、本発明によれば、この水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。本発明において、樹脂を構成する「ユニット」とは、1の単量体に由来する繰り返し単位を意味する。
【0013】
本発明者らは、発色性に優れた蛍光色の画像を記録しうる、インクジェット適性(吐出安定性、及び吐出口の目詰まりが容易に解消される固着回復性)に優れたインクの構成について検討した。特に、画像の発色性を向上させるうえで、基本色では表現が難しい高明度の領域における色域の拡大に主眼を置いて検討した。高明度の領域における色域を拡大するには、蛍光を示す染料を色材として用いることが好適である。
【0014】
本発明者らは、蛍光染料そのものをインクに添加することを試みた。しかし、所望とするレベルの発色性とするために蛍光染料の添加量を増加させると、画像の彩度は向上するが明度が顕著に低下することがわかった。これは、蛍光材料特有の濃度消光によるものと考えられる。また、当然のごとく、画像の耐水性についても発現することがなかった。以上より、蛍光染料を樹脂粒子に染着させることが必須であることが判明した。蛍光染料を樹脂粒子に染着させると、蛍光染料は樹脂粒子に固定されるので、画像の明度の低下を抑制することができるとともに、画像の耐水性を向上させることができる。
【0015】
蛍光染料を樹脂粒子に染着させる一般的な方法としては、(i)付加縮合塊状樹脂粉砕法と呼ばれる、塊状の樹脂を縮合して染着した後に粉砕して粒子を得る方法;及び(ii)水系で乳化重合により樹脂粒子を作製して染着する方法;がある。(i)の方法によって得られる樹脂粒子は、そのサイズがミクロンオーダーであるとともに、水分散性が低いため、インクジェット記録方法に用いるインクに適用することが困難である。一方、(ii)の方法で得られる樹脂粒子は、水系への適用性を有するとともに、そのサイズもナノオーダーに制御可能であることからインクジェット適性に優れている。しかし、(ii)の方法で作製した従来の樹脂粒子を含有するインクを用いて発色性及び信頼性について検討したところ、いくつかの課題が生ずることがわかった。
【0016】
そこで、本発明者らは、蛍光染料で染着された樹脂粒子を含有するインクで記録した画像の発色性について検討した。蛍光を示す染料の種類はある程度豊富であるものの、所望とする発色性の画像を記録しうる染料は、そのうちの一部であり、具体的には、塩基性染料、油溶性染料、及び分散染料に限定される。このため、任意の色相で高い発色性を表現するには、蛍光を示す染料のうち、高い発色性を有するもの、すなわち、塩基性染料、油溶性染料、及び分散染料を組み合わせて用いる必要があることがわかった。さらに、塩基性染料、油溶性染料、及び分散染料を同一の樹脂粒子に内包させるよりも、各染料をそれぞれ内包する樹脂粒子を組み合わせてインクに含有させる方が、画像の発色性が良好となることもわかった。色相が異なる複数種の蛍光染料を同一の樹脂粒子に内包させた場合、染料分子が近接するため、一方の染料から放出された蛍光が他方の染料に吸収されてしまうと考えられる。
【0017】
さらに、画像の発色性を向上させるには、強い相互作用によって樹脂を蛍光染料で染着することが重要であることがわかった。本発明者らは、プラスに分極した部分を有する蛍光染料と、アニオン性基含有ユニットを含む樹脂とを用い、カチオン-アニオン間で発生する静電作用を利用して樹脂を蛍光染料で染着することを見出した。例えば、カチオン部位を有する塩基性染料と、アニオン性基含有ユニット又はシアノ基含有ユニットを含む樹脂で形成された樹脂粒子とを用いることが好ましいと考えられる。但し、アニオン性基含有ユニットが多く存在すると、樹脂の親水性が過剰に高まり、樹脂粒子の形状が安定に保たれにくくなる場合がある。一方、シアノ基含有ユニットはこのような問題を生じないので、樹脂粒子の形状を安定に保つのに適したユニットであるといえる。
【0018】
また、本発明者らは、疎水性相互作用と双極子相互作用を利用することを見出した。具体的には、油溶性染料や分散染料といった、芳香族基などに代表される疎水部を有する蛍光染料と、芳香族基含有ユニット及び極性基であるシアノ基を含有するユニットを含む樹脂粒子とを併用することを見出した。これにより、蛍光染料と樹脂粒子の疎水性基との疎水性相互作用に加え、蛍光染料の分子中の窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子などの高極性部分と、樹脂粒子中のシアノ基との双極子相互作用により、樹脂粒子が蛍光染料で安定して染着される。油溶性染料や分散染料が芳香族基を有する場合には、これらの作用に加えて、樹脂粒子の芳香族基とのπ-π相互作用も生ずる。このように、複数の強い相互作用によって染着された樹脂粒子を用いることで、画像の発色性を高めることができる。
【0019】
しかし、シアノ基は極性が高いために、水を含むインク中の多くの成分と相互作用しやすいので、インクの固着回復性が低下しやすくなることがわかった。インクジェット用の水性インクは、吐出口からの水分蒸発によって濃縮した場合であっても、予備吐出やキャップを利用した吸引又は加圧などの回復処理によって正常に吐出できるように維持される。しかし、樹脂粒子などの固形分が凝集し、再分散しにくいような状態になると、回復処理によっても元の状態に戻らない場合があり、その結果、インクが正常に吐出されなくなることがある。
【0020】
シアノ基含有ユニットを含む樹脂粒子を含有するインクを蒸発乾固させた後、水性媒体を添加しても、樹脂粒子を再分散させることはほとんどできない。水分蒸発によって濃縮されたインク中では、樹脂粒子中のシアノ基と高極性成分(水や水溶性有機溶剤など)とが強く相互作用するため、再分散しにくくなると考えられる。本発明者らは、シアノ基含有ユニットを含む樹脂粒子を含有しながらも、固着回復性に優れるインクの構成について検討した。その結果、コアシェル構造を有する樹脂粒子を用いるとともに、コア部にのみシアノ基含有ユニットを持たせることで、画像の発色性を高めつつ、インクの固着回復性を向上させうることを見出した。さらに、コア部とシェル部のいずれにも芳香族基含有ユニットを持たせることが重要であることを見出した。芳香族基の疎水性相互作用及びπ-π相互作用によってコア部とシェル部が強固に接触するため、固着回復性の低下を抑制することができると考えられる。
【0021】
しかし、上記のコアシェル構造を有する樹脂粒子を用いた場合であっても、インクの吐出安定性が不十分であることがわかった。インク中の水性媒体に樹脂粒子を馴染ませるため、アニオン性基含有ユニットをシェル部に組み込むことが必要である。検討の結果、樹脂粒子中のアニオン性基含有ユニットの量の調整によって、インクの吐出安定性を向上させることは困難であることが判明した。すなわち、インクの吐出安定性を確保しうる量のアニオン性基含有ユニットをシェル部に組み込むと、シェル部の親水性が高くなりすぎてコア部を十分に被覆することができなくなり、コア部のシアノ基が露出することになる。その結果、露出したシアノ基と高極性成分とが強く相互作用することとなり、インクの吐出安定性が低下すると考えられる。
【0022】
シェル部のアニオン性基は、コア部のシアノ基と相互作用しやすい。このため、シェル部のアニオン性基は、樹脂粒子の分散安定化に寄与すべく、シェル部の表層に存在することが好ましい。しかし、実際には、シェル部のアニオン性基はコア部のシアノ基に誘引され、シェル部の内側へと引き込まれやすい。このため、コアシェル構造を有する従来の樹脂粒子と比較して、コア部にシアノ基を有する樹脂粒子の場合、インクの吐出安定性を確保するのに要する、シェル部のアニオン性基含有ユニットの量が増加する。その結果、シェル部の親水性が過度に高まってコア部を十分に被覆することが困難になると考えられる。以上の通り、コアシェル構造を有する樹脂粒子の組成を工夫することのみでインクの吐出安定性を向上させることは困難である。
【0023】
さらなる検討の結果、本発明者らは、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを有する水溶性樹脂をインクに添加することで、インクの吐出安定性を向上させうることを見出した。水溶性樹脂の芳香族基と、樹脂粒子の芳香族基とが疎水性相互作用及びπ-π相互作用し、樹脂粒子に水溶性樹脂が吸着する。その結果、樹脂粒子の分散を水溶性樹脂が補助することになると考えられる。
【0024】
さらに、水溶性樹脂をインクに添加することで、画像の発色性が向上することが判明した。塩基性染料は、コア部のシアノ基と相互作用することで樹脂粒子を染着している。また、分散染料及び油溶性染料は、染料の分子中の高極性部分がコア部のシアノ基と相互作用することで樹脂粒子を染着している。本発明者らは、塩基性染料が樹脂粒子を染着した状態及び油溶性染料や分散染料が樹脂粒子を染着した状態が、インク中でも保たれていることを確認した。但し、アニオン性基を有する水溶性樹脂と、染着された樹脂粒子とを併用すると、インクを長期間保存した後に、塩基性染料の一部が水溶性樹脂のアニオン性基と静電相互作用して樹脂粒子から離れ、水溶性樹脂の近傍へと移動することがわかった。また、芳香族基を有する水溶性樹脂と、染着された樹脂粒子とを併用すると、インクを長期間保存した後に、油溶性染料や分散染料の一部が水溶性樹脂のアニオン性基と静電相互作用して樹脂粒子から離れ、水溶性樹脂の近傍へと移動することがわかった。
【0025】
本発明者らは、水溶性樹脂の有無による蛍光染料の挙動の違いについて検証した。インクの構成成分を簡易的に分離する方法として、密度勾配を用いた遠心分離法を利用して、水溶性樹脂を含有するインクと含有しないインクについて検証した。その結果、水溶性樹脂を含有するインクの場合、樹脂粒子の着色層に加えて、水溶性樹脂の層にも染料由来の着色層が確認された。これに対して、水溶性樹脂を含有しないインクの場合、樹脂粒子の着色層のみが確認された。以上より、蛍光染料の一部が水溶性樹脂の近傍に移動していることが判明した。
【0026】
樹脂粒子から水溶性樹脂の近傍へと蛍光染料の一部が移動することで、染着された樹脂粒子中の蛍光染料の含有量は低下する。本発明者らは、蛍光染料の含有量が異なる複数の染着された樹脂粒子を調製するとともに、調製したこれらの樹脂粒子を用いてインクを調製した。そして、調製したインクを用いて記録した画像の発色性を評価したところ、蛍光染料の含有量が少ない樹脂粒子を用いて調製したインクで記録した画像の明度が高くなる傾向にあることがわかった。蛍光染料に特有の「濃度消光」という現象に起因して、蛍光染料の含有量が少ない樹脂粒子を用いて調製したインクで記録した画像の明度が高まったと考えられる。系内における蛍光染料の密度が高すぎると、染料分子の励起光と蛍光が干渉しあうため、本来の鮮やかな発色が相殺されやすくなる。一方、系内における蛍光染料の密度が低いと干渉が起こりにくくなり、本来の発色が保たれることになる。すなわち、樹脂粒子を染着していた蛍光染料の一部が水溶性樹脂の近傍へと移動し、樹脂粒子中の蛍光染料の含有量が低下したために濃度消光が抑制され、画像の明度が向上した。さらには、インク中の蛍光染料の量は一定に保たれているので、画像の彩度は変動せず、発色性が向上したと考えられる。
【0027】
さらに、塩基性染料で染着された樹脂粒子と、分散染料又は油溶性染料で染着された樹脂粒子と、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを有する水溶性樹脂とを含有するインクを用いると、耐擦過性に優れた画像を記録しうることが判明した。吐出されたインク中の液体成分が蒸発又は基材に浸透すると、不揮発性成分間の距離が近接する。このような状況下では、水溶性樹脂のアニオン性基と塩基性染料のカチオン部との静電相互作用と、水溶性樹脂の芳香族基と分散染料又は油溶性染料とのπ-π相互作用が生ずる。このため、塩基性染料によって染着された樹脂粒子と、分散染料又は油溶性染料によって染着された樹脂粒子との間が水溶性樹脂によって架橋される。その結果、樹脂粒子と水溶性樹脂が強固な画像層を形成するため、耐擦過性が向上したと考えられる。
【0028】
しかし、樹脂粒子を含有するインクに水溶性樹脂を添加すると、固着回復性が低下することがわかった。水溶性樹脂のアニオン性基に由来するイオンによって、樹脂粒子のシェル部のアニオン性基が中和され、シェル部の親水性が高まる。これにより、シェル部によるコア部の被覆状態が緩み、コア部のシアノ基が露出しやすくなって固着回復性が低下すると考えられる。固着回復性の程度は水溶性樹脂の酸価に依存すること、及び水溶性樹脂の酸価が高いほど固着回復性が低下することがわかった。
【0029】
検討の結果、吐出安定性を高めるには、水溶性樹脂の酸価が100mgKOH/g以上である必要があることが判明した。一方、水溶性樹脂の酸価が100mgKOH/g以上であると、前述の通り、固着回復性が低下しやすくなる。そこで本発明者らは、シェル部によってコア部をより強固に被覆するための要件について検討した。その結果、架橋剤に由来するユニットをシェル部に組み込むこと、及びシェル部に占める、架橋剤に由来するユニットの割合(質量%)を30質量%以上とすることを見出した。これにより、コア部のシアノ基が露出しにくくなり、固着回復性の低下を抑制することができる。一方、架橋剤に由来するユニットの割合(質量%)が80質量%超であると、吐出安定性が低下する。また、架橋剤に由来するユニットの割合に関わらず、水溶性樹脂の酸価が180mgKOH/g超であると、シェル部のアニオン性基の水和が顕著に促進される。このため、シェル部によるコア部の被覆状態が緩みやすくなり、固着回復性の低下を抑制することができなくなる。なお、樹脂粒子を含有するインクに、水溶性樹脂ではなく、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを有する別の樹脂粒子を添加する場合、発色性は向上しうるものの、インクの吐出安定性を向上する効果は得られない。
【0030】
<水性インク>
本発明のインクは、第1蛍光染料によって染着された第1樹脂粒子、第2蛍光染料によって染着された第2樹脂粒子、及び水溶性樹脂を含有するインクジェット用の水性インクである。第1蛍光染料は、蛍光を示す塩基性染料を含む。第2蛍光染料は、蛍光を示す分散染料又は油溶性染料を含み、第1蛍光染料とは異なる色相を有する。第1樹脂粒子及び第2樹脂粒子は、いずれも、芳香族基含有ユニット及びシアノ基含有ユニットを含むコア部と、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを含まないシェル部とを有する。シェル部に占める、架橋剤に由来するユニットの割合(質量%)は、30質量%以上80質量%以下である。また、水溶性樹脂は、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを有する。そして、水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。以下、インクを構成する各成分について、それぞれ説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載によって限定されるものではない。以下「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」と記載した場合は、それぞれ「アクリル酸、メタクリル酸」、「アクリレート、メタクリレート」、「アクリロイル、メタクリロイル」を示すものとする。本発明のインクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。
【0031】
(蛍光染料)
本明細書における「蛍光染料」とは、紫外又は可視部の励起光線によって蛍光を発する染料をいう。ある染料が、蛍光を示す「蛍光染料」であるか否かについては、例えば、以下に示す方法にしたがって判断することができる。染料を溶解しうる液体に染料を溶解させて得た試料に、わずかに目に見える程度の長波長(315~400nm程度)の紫外線(紫外光)をブラックライトなどにより照射する。そして、ブラックライトにより照射される紫外光と異なる色の光が目視にて観測できれば、その染料は蛍光を示す「蛍光染料」であると判断することができる。ブラックライトとしては、市販品(例えば、商品名「SLUV-4」(アズワン製)など)を使用することができる。
【0032】
蛍光染料により染着された樹脂粒子中の蛍光染料については、例えば、以下に示す手順にしたがって分析することができる。常法にしたがってインクから取り出した樹脂粒子を、クロロホルムなどの有機溶剤に溶解させて試料を調製する。HPLC(高速液体クロマトグラフ)を用いて調製した試料から蛍光染料を単離する。単離した染料を、核磁気共鳴(NMR)分光法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)などの一般的な構造解析手法により分析する。
【0033】
塩基性染料は、アミノ基やイミノ基(塩を形成していてもよい)をその分子構造中に有する、蛍光を示す化合物である。アミノ基やイミノ基をその分子構造中に有する化合物としては、「カラーインデックスに示される名称に『ベーシック』が含まれる染料」などを挙げることができる。カラーインデックスは、英国染料染色学会他により構築される色材のデータベースである。染料の骨格としては、キサンテン、アジン、アゾール、チアゾール、アゾ、ジアリールメタン、トリアリールメタン、アクリジン、クマリン、メチンなどを挙げることができる。なかでも、キサンテン、クマリンなどの骨格を有する化合物が好ましく、キサンテン骨格を有する化合物がさらに好ましい。
【0034】
蛍光を示す塩基性染料の具体例をC.I.ナンバー又は一般名称で示すと、C.I.ベーシックレッド1、1:1、2、4、8、11、12、13;C.I.ベーシックバイオレット1、3、10、11、11:1、14;C.I.ベーシックイエロー1、2、9、13、24、37、40、96;C.I.ベーシックオレンジ22;C.I.ベーシックブルー7;C.I.ベーシックグリーン1;C.I.フルオレセントブライトナー363などを挙げることができる。なかでも、発色性に優れるため、C.I.ベーシックレッド1、1:1;C.I.ベーシックバイオレット11、11:1;C.I.ベーシックイエロー40などが好ましい。
【0035】
分散染料は、水溶解性が低い又は水に溶解しない、蛍光を示す化合物である。「分散染料」としては、「カラーインデックスに示される名称に『ディスパース』が含まれる染料」などを挙げることができる。染料の骨格としては、アゾ、クマリン、アントラキノンなどを挙げることができる。なかでも、クマリン、アントラキノンなどの骨格を有する化合物が好ましく、クマリン骨格を有する化合物がさらに好ましい。
【0036】
蛍光を示す分散染料の具体例をC.I.ナンバーで示すと、C.I.ディスパースイエロー82、186;C.I.ディスパースレッド58、60;C.I.ディスパースオレンジ11などを挙げることができる。なかでも、発色性に優れるため、C.I.ディスパースイエロー82などが好ましい。
【0037】
油溶性染料は、水溶解性が低い又は水に溶解しない、蛍光を示す化合物である。油溶性染料としては、「カラーインデックスに示される名称に『ソルベント』が含まれる染料」などを挙げることができる。染料の骨格としては、クマリン、キサンテン、アゾ、アミノケトン、アントラキノンなどを挙げることができる。なかでも、クマリン、キサンテンなどの骨格を有する化合物が好ましく、クマリン骨格を有する化合物がさらに好ましい。
【0038】
蛍光を示す油溶性染料の具体例をC.I.ナンバーで示すと、C.I.ソルベントイエロー7、43、44、85、98、131、160:1、172、196;C.I.ソルベントレッド43、44、45、49、149;C.I.ソルベントオレンジ5、15、45、63、115などを挙げることができる。なかでも、発色性に優れるため、C.I.ソルベントイエロー160:1、196などが好ましい。
【0039】
発色性を良好に保ちながら所望の色域を満足しうる、色相が異なる蛍光染料、すなわち、第1蛍光染料と第2蛍光染料の組み合わせとしては、以下に示す(i)~(iii)の組み合わせなどを挙げることができる。
(i)「カラーインデックスに示される名称に『レッド』が含まれる染料」と、「カラーインデックスに示される名称に『イエロー』が含まれる染料」との組み合わせ
(ii)「カラーインデックスに示される名称に『バイオレット』が含まれる染料」と、「カラーインデックスに示される名称に『イエロー』が含まれる染料」との組み合わせ
(iii)「カラーインデックスに示される名称に『ブルー』が含まれる染料」と、「カラーインデックスに示される名称に『イエロー』が含まれる染料」との組み合わせ
【0040】
なお、「カラーインデックスに示される名称に『レッド』が含まれる染料」と「カラーインデックスに示される名称に『バイオレット』が含まれる染料」の組み合わせは、染料同士の色相が類似している。これに加えて、一方の染料から放出された蛍光が他方の染料によって吸収されにくい。このため、同一の樹脂粒子に内包させても発色性が損なわれることはないので、上記の組み合わせは、本発明における第1染料及び第2染料の組み合わせ(色相が異なる組み合わせ)には含めない。
【0041】
インク中の蛍光染料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。第1樹脂粒子に占める、第1蛍光染料(塩基性染料)の割合(質量%)は、1.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上8.0質量%以下であることがさらに好ましい。また、第2樹脂粒子に占める、第2蛍光染料(分散染料、油溶性染料)の割合(質量%)は、1.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上8.0質量%以下であることがさらに好ましい。樹脂粒子に占める蛍光染料の割合が少なすぎると、画像の発色性(彩度)がやや低下する場合がある。一方、樹脂粒子に占める蛍光染料の割合が多すぎると、濃度消光により画像の発色性(明度)がやや低下する場合がある。
【0042】
(樹脂粒子)
本明細書における「樹脂粒子」とは、水性媒体中に分散し、粒径を有する状態で水性媒体中に存在し得る樹脂を意味する。このため、樹脂粒子はインクに分散した状態、すなわち、樹脂エマルションの状態で存在する。
【0043】
ある樹脂が「樹脂粒子」であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒径を動的光散乱法により測定した場合に、粒径を有する粒子が測定された場合に、その樹脂は「樹脂粒子」であると判断することができる。動的光散乱法による粒度分布測定装置としては粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:真球形、屈折率:1.59、とすることができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。中和した樹脂を用いて粒子径を測定するのは、十分に中和されて粒子をより形成しにくい状態となっても、粒子が形成されていることを確認するためである。このような条件であっても粒子の形状を持つ樹脂は、水性インク中でも粒子の状態で存在する。
【0044】
樹脂粒子としては、コア部と、このコア部を被覆するシェル部とを有する、いわゆるコアシェル構造を有する樹脂粒子を用いる。コア部は、芳香族基含有ユニット及びシアノ基含有ユニットを含む。コア部が芳香族基含有ユニット及びシアノ基含有ユニットを含むことで、蛍光染料と樹脂粒子との間に生ずる相互作用が増大する。このため、樹脂粒子が蛍光染料によって効率的に染着され、蛍光染料本来の発色性が効率よく発揮されることになり、画像の発色性を向上させることができる。アクリル樹脂で形成される樹脂粒子を用いることが好ましい。
【0045】
シェル部は、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含む。また、シェル部は、シアノ基含有ユニットを実質的に含まない。シェル部がシアノ基含有ユニットを含まないため、樹脂粒子の表面にシアノ基が実質的に存在せず、インクの固着回復性を向上させることができる。極性の高いシアノ基が樹脂粒子の表面に露出していると、このシアノ基と、インク中の水や水溶性有機溶剤とが相互作用する。シアノ基と水などが相互作用して樹脂粒子が膜化すると再分散しにくくなるので、インクの固着回復性が低下する。
【0046】
また、シェル部が芳香族基含有ユニットを含むと、コア部の芳香族基との間で疎水性相互作用及びπ-π相互作用が生ずる。これにより、シェル部がコア部から剥がれにくくなり、コア部のシアノ基が樹脂粒子の表面に露出しにくくなるので、インクの固着回復性が向上する。コア部に含まれる芳香族基含有ユニットと、シェル部に含まれる芳香族基含有ユニットが、同種のユニットであることが好ましい。「同種のユニットである」とは、同一のモノマーに由来するユニットであることを意味する。コア部に含まれる芳香族基含有ユニットと、シェル部に含まれる芳香族基含有ユニットが、同種のユニットであると、コアシェル間の相互作用がさらに増強されるため、インクの固着回復性をさらに向上させることができる。
【0047】
重合により芳香族基含有ユニットとなるモノマーとしては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、p-フルオロスチレン、p-クロロスチレン、α-メチルスチレン、2-ビニルナフタレン、9-ビニルアントラセン、9-ビニルカルバゾール、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2,4-ジアミノ-6-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル-1,3,5-トリアジン、2-ナフチル(メタ)アクリレート、9-アントリル(メタ)アクリレート、(1-ピレニル)メチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合により芳香族基含有ユニットとなるモノマーとしては、アニオン性基やシアノ基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、重合の際の反応性が良好であるとともに、得られる樹脂粒子の安定性が優れることから、スチレンやその誘導体がさらに好ましく、スチレン、ビニルトルエンが特に好ましい。
【0048】
重合によりシアノ基含有ユニットとなるモノマーとしては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、2-シアノエチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合によりシアノ基含有ユニットとなるモノマーとしては、アニオン性基や芳香族基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、重合の際の反応性が良好であるとともに、得られる樹脂粒子の安定性が優れることから、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが特に好ましい。
【0049】
アニオン性基含有ユニットにおけるアニオン性基としては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、カルボン酸基、フェノール性ヒドロキシ基、リン酸エステル基などを挙げることができる。なかでも、インク中での樹脂粒子の安定性が良好であるため、カルボン酸基が好ましい。重合によりアニオン性基含有ユニットとなるモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、p-ビニル安息香酸、4-ビニルフェノール、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、リン酸(メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル)エステル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合によりアニオン性基含有ユニットとなるモノマーとしては、芳香族基やシアノ基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。また、アニオン性基含有ユニットにおけるアニオン性基は、カルボン酸基のみであることが好ましい。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。
【0050】
架橋剤に由来するユニットを構成する架橋剤としては、少なくとも1種を用いればよく、2種以上の架橋剤を用いることが好ましい。架橋剤が2種以上の架橋剤を含む場合、少なくとも1種の架橋剤は、グリシジル基を有する架橋剤であることが好ましい。グリシジル基を有する架橋剤は、シェル部に存在するカルボン酸基などのアニオン性基と反応して架橋する。これにより、シェル部の親水性が過剰に高まるのを抑制し、インクの固着回復性をさらに向上させることができる。さらに、2種以上の架橋剤を用いることで、シェル部の親水性が過剰に高まるのをより効率よく抑制しうる、密な架橋構造を形成することができる。
【0051】
重合により架橋剤に由来するユニットとなる架橋剤としては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に2以上有する化合物を挙げることができる。このような架橋剤としては、ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物;1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(モノ-、ジ-、トリ-、ポリ-)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(モノ-、ジ-、トリ-、ポリ-)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(モノ-、ジ-、トリ-、ポリ-)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、プロポシキ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス(4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートなどの2官能性(メタ)アクリレート;トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの3官能性(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能性(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。
【0052】
架橋剤としては、分子量が200超のものが好ましく、分子量が300超のものがさらに好ましく、分子量が400以上のものが特に好ましい。また、架橋剤としては、エチレン性不飽和結合を分子内に2つ有する化合物が好ましい。エチレン性不飽和結合を分子内に2つ有する化合物を架橋剤として用いることで、過度の架橋によって生じる樹脂粒子の凝集が抑制され、より均一な粒子径の樹脂粒子を得ることができる。エチレン性不飽和結合を分子内に2つ有する化合物のなかでも、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0053】
グリシジル基を有する架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。なかでも、高密度の架橋構造を形成可能であり、シェル部の親水性が過剰に高まるのを抑制する効果が大きい点で、エチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
【0054】
樹脂粒子を製造する際には界面活性剤を用いることができる。界面活性剤の存在下で樹脂粒子を製造すると、得られる樹脂粒子の粒径や形状が安定しやすいために好ましい。但し、非反応性の界面活性剤は樹脂粒子から剥がれやすいことがある。インク中で界面活性剤が剥がれると、インクの物性に影響を及ぼして吐出安定性などが低下しやすくなる場合がある。このため、樹脂粒子を製造する際に用いる界面活性剤としては、反応性界面活性剤が好ましい。
【0055】
反応性界面活性剤としては、親水部及び疎水部で構成される分子の内部又は末端に、(メタ)アクリロイル基、マレイル基、ビニル基、アリル基などの重合性官能基が結合している化合物を用いることが好ましい。親水部としては、エチレンオキサイド鎖、プロピレンオキサイド鎖などのポリオキシアルキレン鎖を挙げることができる。また、疎水部としては、アルキル、アリール、これらの組み合わせなどの構造を挙げることができる。親水部と疎水部とは、エーテル基などの連結基を介して結合していてもよい。反応性界面活性剤としては、分子量が200超のものが好ましく、分子量が300超のものがさらに好ましく、分子量が400以上のものが特に好ましい。
【0056】
反応性界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム、α-ヒドロ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル))、α-[1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシポリオキシエチレン、α-スルホ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩、2-ソジウムスルホエチルメタクリレート、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステル塩、アルコキシポリエチレングリコールメタクリレート、アルコキシポリエチレングリコールマレイン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、ビニルエーテルアルコキシレート、アルキルアリルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンメタクリレート硫酸エステル塩、不飽和リン酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、α-スルホ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩(アデカ製の商品名「アデカリアソープ」SR-10S、SR-10、SR-20、SR-3025、SE-10N、SE-20Nなど)が好ましい。
【0057】
樹脂粒子のコア部及びシェル部は、本発明の効果が損なわれない限り、上記のユニット以外のユニットをそれぞれ含んでいてもよい。上記のユニット以外のユニットとしては、重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましく、具体的には、エチレン性不飽和モノマーに由来するユニットなどを挙げることができる。
【0058】
エチレン性不飽和モノマーとしては、エチレンやプロピレンなどのアルケン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレートなどの単環式(メタ)アクリレート類;イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレートなどの2環式(メタ)アクリレート類;アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどの3環式(メタ)アクリレート類;メトキシ(モノ、ジ、トリ、ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートなどの非イオン性親水性基含有(メタ)アクリレート類;を挙げることができる。エチレン性不飽和モノマーとしては、アニオン性基、シアノ基、芳香族基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、炭素数が1以上22以下のアルケン;アルキル基の炭素数が1以上22以下のアルキル(メタ)アクリレートなどが好ましい。また、樹脂粒子の物性を調整しやすく、重合安定性に優れた樹脂粒子を得ることができるため、アルキル基の炭素数が1以上12以下のアルキル(メタ)アクリレートがさらに好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0059】
上述の通り、コア部は、芳香族基含有ユニット及びシアノ基含有ユニットを含む。コア部に占める、芳香族基含有ユニットの割合(質量%)は、25質量%以上90質量%以下であることが好ましく、35質量%以上90質量%以下であることが好ましい。また、コア部に占める、シアノ基含有ユニットの割合(質量%)は、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい。コア部に占めるシアノ基含有ユニットの割合が10質量%未満であると、画像の発色性がやや低下する場合がある。一方、コア部に占めるシアノ基含有ユニットの割合が60質量%超であると、コア部のシアノ基の一部が樹脂粒子の表面に露出しやすくなり、インクの固着回復性がやや低下する場合がある。コア部に占める、その他のユニットの割合(質量%)は、15質量%以下であることが好ましい。コア部における「その他のユニット」は、芳香族基含有ユニット及びシアノ基含有ユニット以外のユニットであるものとする。コア部の「その他のユニット」は、反応性界面活性剤に由来するユニットを含んで構成されることが好ましい。また、コア部は架橋されていないことが好ましい。すなわち、コア部の「その他のユニット」には、架橋剤に由来するユニットが含まれないことが好ましい。
【0060】
また、上述の通り、シェル部は、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを実質的に含まない。シェル部に占める、芳香族基含有ユニットの割合(質量%)は、1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
シェル部に占める、アニオン性基含有ユニットの割合(質量%)は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。シェル部に占めるアニオン性基含有ユニットの割合が5質量%未満であると、インクの吐出安定性がやや低下する場合がある。一方、シェル部に占めるアニオン性基含有ユニットの割合が30質量%超であると、シェル部の親水性が高くなりすぎることがある。このため、コア部からシェル部が剥がれやすくなることがあり、コア部のシアノ基が樹脂粒子の表面に露出しやすく、インクの固着回復性がやや低下する場合がある。
【0062】
シェル部に占める、架橋剤に由来するユニットの割合(質量%)は、30質量%以上80質量%以下であり、40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。シェル部に占める架橋剤に由来するユニットの割合が30質量%未満であると、水溶性樹脂との併用によりシェル部の親水性が過剰に高まるような状況下でコア部のシアノ基が露出しやすくなり、インクの固着回復性が不十分になる。一方、シェル部に占める架橋剤に由来するユニットの割合が80質量%超であると、インクの吐出安定性が不十分になる。
【0063】
シェル部に占める、その他のユニットの割合(質量%)は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。シェル部における「その他のユニット」は、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニット以外のユニットである。シェル部の「その他のユニット」は、反応性界面活性剤に由来するユニットを含んで構成されることが好ましい。
【0064】
樹脂粒子のコア部とシェル部の質量比率は、合計を100とした質量比率で、コア部:シェル部が、50:50~95:5であることが好ましく、60:40~90:10であることがさらに好ましい。
【0065】
樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、120nm以下であることが好ましい。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が120nm超であると、樹脂粒子による光散乱が生じやすくなり、画像の発色性がやや低下する場合がある。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、50nm以上であることが好ましい。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、前述の樹脂粒子であるか否かの判断方法と同様の方法で測定することができる。
【0066】
インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。樹脂粒子の含有量が1.0質量%未満であると、画像の発色性がやや低下する場合がある。一方、樹脂粒子の含有量が10.0質量%超であると、インクの吐出安定性がやや低下する場合がある。
【0067】
インク中の第1樹脂粒子の含有量(質量%)は、第2樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.125倍以上8.000倍以下であることが好ましい。上記の質量比率が0.125倍未満又は8.000倍超であると、画像の耐擦過性がやや低下する場合がある。
【0068】
[染着された樹脂粒子の製造方法]
樹脂粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、シード重合法、転相乳化法などの従来公知の方法にしたがって製造することができる。樹脂粒子の染着方法としては、蛍光染料を溶解させたモノマー混合液を重合して樹脂粒子を形成する方法;樹脂粒子に蛍光染料を添加して加熱する方法;などを挙げることができる。なかでも、より多種類の蛍光染料に適用できることから、樹脂粒子に蛍光染料を添加して加熱する方法が好ましい。なお、加熱の際には、染着補助剤(水溶性樹脂、界面活性剤など)を添加しないことが好ましい。染着補助剤として水溶性樹脂を用いると、水溶性樹脂が造膜して樹脂粒子の再分散を阻害することがあり、インクの固着回復性がやや低下する場合がある。また、染着補助剤として界面活性剤を用いると、インクの物性に影響が及ぶことがあり、インクの吐出安定性がやや低下する場合がある。
【0069】
[樹脂粒子の検証方法]
樹脂粒子の構成については、以下の(i)~(iii)に示す方法にしたがって検証することができる。以下、インクから樹脂粒子を抽出して分析及び検証する方法について説明するが、水分散液などから抽出した樹脂粒子についても同様に分析及び検証することができる。
【0070】
(i)樹脂粒子の抽出
密度勾配遠心分離法により、樹脂粒子を含有するインクから樹脂粒子を分離・抽出することができる。密度勾配遠心分離法のうち、密度勾配沈降速度法では、成分の沈降係数の差によって樹脂粒子を分離・抽出する。また、密度勾配遠心分離法のうち、密度勾配沈降平衡法では、成分の密度の差によって樹脂粒子を分離・抽出する。
【0071】
(ii)層構造の確認と分離
まず、樹脂粒子を四酸化ルテニウムで染色及び固定化した後、エポキシ樹脂に埋め込んで安定に保持する。次いで、エポキシ樹脂に埋め込んだ樹脂粒子をウルトラミクロトームで切断し、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を使用して断面を観察する。樹脂粒子の重心を通って切断した断面を観察することで、樹脂粒子の層構造を確認することができる。エポキシ樹脂に埋め込んだ樹脂粒子を分析試料とし、エネルギー分散型X線分光法(EDX)が併置されたSTEM-EDXにより、樹脂粒子を構成する層(コア部、シェル部)の含有元素を定量分析することができる。
【0072】
(iii)各層の樹脂を構成するユニット(モノマー)の分析
各層の樹脂を分離するための試料とする樹脂粒子は、分散液の状態でもよい。また、樹脂粒子を乾燥して膜化した状態のものを試料としてもよい。試料とする樹脂粒子を有機溶媒に溶解させた後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により各層を分離し、各層を構成する樹脂を分取する。そして、分取した樹脂を燃焼法により元素分析する。これとは別に、酸分解(フッ化水素酸添加)法又はアルカリ融解法により分取した樹脂を前処理した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法により無機成分を定量分析する。元素分析及び無機成分の定量分析の結果と、上記(ii)で得たSTEM-EDXによる元素の定量分析の結果とを比較することで、分取した樹脂が構成していた樹脂粒子の層を知ることができる。
【0073】
また、核磁気共鳴(NMR)分光法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)により、分取した樹脂を分析する。これにより、樹脂を構成するユニット(モノマー)及び架橋性成分の種類や割合を知ることができる。さらに、熱分解ガスクロマトグラフィーによって分取した樹脂を分析することで、解重合で生じたモノマーを直接検出することもできる。
【0074】
(水溶性樹脂)
水溶性樹脂は、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを有する。水溶性樹脂は、アクリル樹脂又はウレタン樹脂であることが好ましく、アクリル樹脂であることがさらに好ましい。芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットとしては、樹脂粒子のシェル部などに含まれる、前述の芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを用いることができる。芳香族基含有ユニットを有する水溶性樹脂が存在すると、水溶性樹脂の芳香族基と樹脂粒子の芳香族基との間で、疎水性相互作用及びπ-π相互作用が生ずる。その結果、樹脂粒子に水溶性樹脂が吸着し、水溶性樹脂が樹脂粒子の分散を補助するため、インクの吐出安定性が向上する。また、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを有する水溶性樹脂の存在下、インク中の液体成分の蒸発又は浸透によって第1及び第2の各樹脂粒子間の距離が近接した状況を想定する。このような状況下では、水溶性樹脂のアニオン性基と塩基性染料のカチオン部との静電相互作用と、水溶性樹脂の芳香族基と分散染料又は油溶性染料とのπ-π相互作用が生ずる。このため、塩基性染料によって染着された樹脂粒子と、分散染料又は油溶性染料によって染着された樹脂粒子との間が水溶性樹脂によって架橋される。その結果、樹脂粒子と水溶性樹脂が強固な画像層を形成するため、画像の耐擦過性が向上する。
【0075】
さらに、インクを長期間保存すると、樹脂粒子に染着している蛍光染料の一部が、水溶性樹脂と相互作用を生ずることで、水溶性樹脂へと移行する。このような現象が生ずると、インク中の蛍光染料の含有量が一定に維持されながら、樹脂粒子に染着している蛍光染料の量が減少することになる。このため、樹脂粒子中の蛍光染料間で生ずる濃度消光が緩和されるため、画像の発色性が向上する。
【0076】
水溶性樹脂への蛍光染料の移行は、上述の密度勾配遠心分離法によって容易に確認することができる。水溶性樹脂を含有しないインクの場合、着色成分として樹脂粒子の1つのバンドしか存在しない。これに対して、水溶性樹脂を含有するインクの場合、樹脂粒子のバンドと、着色した樹脂粒子のバンドの2つのバンドが存在する。
【0077】
水溶性のアクリル樹脂における芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットとしては、上述した芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを用いることができる。水溶性のアクリル樹脂は、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニット以外のユニット(その他のユニット)をさらに有してもよい。その他のユニットを構成するモノマーとしては、アルコキシ基、ヒドロキシ基などの置換基を有するものを含めると、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート;3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;メトキシ(モノ、ジ、トリ、ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレンなどのアルケン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレートなどの単環式(メタ)アクリレート類;イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレートなどの2環式(メタ)アクリレート類;アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどの3環式(メタ)アクリレート類;などを挙げることができる。水溶性のアクリル樹脂は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0078】
水溶性のウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートと、それと反応する成分(酸基を有するポリオール、酸基を有しないポリオール、ポリアミンなど)とを反応させて得られたものを用いることができる。また、鎖延長剤や架橋剤をさらに反応させたものであってもよい。これらの成分の少なくともいずれかとして、芳香族基を有するものを用いる。
【0079】
水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。水溶性樹脂の酸価が100mgKOH/g未満であると、インクの吐出安定性が不十分になる。一方、水溶性樹脂の酸価が180mgKOH/g超であると、水溶性樹脂のアニオン性基に由来するイオンによって、樹脂粒子のシェル部のアニオン性基が中和され、水溶化が促されてコア部への包含状態が緩む。これにより、シアノ基を有するコア部が露出しやすくなり、インクの固着回復性が低下する。
【0080】
水溶性樹脂の重量平均分子量は、5,000以上20,000以下であることが好ましい。水溶性樹脂の重量平均分子量が5,000未満であると、インクの吐出安定性を向上させる効果がやや低下する場合がある。一方、水溶性樹脂の重量平均分子量が20,000超であると、インクの粘度が上昇しやすく、インクの吐出安定性を向上させる効果がやや低下する場合がある。
【0081】
インク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性樹脂の含有量(質量%)は、樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。上記の質量比率が0.1倍未満であると、画像の耐擦過性とインクの吐出安定性を向上させる効果がやや低下する場合がある。一方、上記の質量比率が2.0倍超であると、水溶性樹脂のアニオン性基に由来するイオンによって、樹脂粒子のシェル部のアニオン性基が中和され、シアノ基を有するコア部が露出しやすくなる。これにより、インクの固着回復性の向上効果がやや低下する場合がある。
【0082】
水溶性樹脂の組成、重量平均分子量、及び酸価などの物性値については、従来公知の方法にしたがって測定することができる。具体的には、インクを遠心分離して得られる沈降物及び上澄み液を解析することで、水溶性樹脂の物性値を測定することができる。インクの状態でも水溶性樹脂を解析することはできるが、インクから抽出した水溶性樹脂を解析すると、測定精度を高めることができるために好ましい。具体的には、インクを75,000rpmで遠心分離して得た上澄み液に過剰の酸(塩酸など)を添加した後、析出した樹脂を乾燥したものを解析することが好ましい。
【0083】
インクから分離した樹脂を高温ガスクロマトグラフィー/質量分析計(高温GC/MS)を使用して分析することで、水溶性樹脂を構成するユニットの種類などを確認することができる。また、核磁気共鳴法(13C-NMR)やフーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)によって定量的に分析することで、各ユニットを構成するモノマーの分子量や種類などを確認することができる。
【0084】
水溶性樹脂の酸価は、滴定法により測定することができる。具体的には、水溶性樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定用試料を調製する。そして、調製した測定用試料につき、電位差自動滴定装置を使用し、水酸化カリウムエタノール滴定液を用いて電位差滴定することにより、水溶性樹脂の酸価を測定することができる。電位差自動滴定装置としては、例えば、商品名「AT510」(京都電子工業製)などを使用することができる。
【0085】
水溶性樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。GPCの測定条件は以下に示す通りにすることができる。・装置:Alliance GPC 2695(Waters製)
・カラム:Shodex KF-806Mの4連カラム(昭和電工製)
・移動相:THF(特級)
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40.0℃
・試料溶液の注入量:0.1mL
・検出器:RI(屈折率)
・ポリスチレン標準試料:PS-1及びPS-2(Polymer Laboratories製、分子量:7,500,000、2,560,000、841,700、377,400、320,000、210,500、148,000、96,000、59,500、50,400、28,500、20,650、10,850、5,460、2,930、1,300、580の17種)。
【0086】
(水性媒体)
インクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクである。インクには、水性媒体としてさらに水溶性有機溶剤を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクに一般的に用いられているものをいずれも用いることができる。例えば、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などを挙げることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0087】
(その他の添加剤)
インクは、上記した成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体などの、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。さらに、インクは、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及びその他の樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。インクには、顔料、染料(蛍光を示さない染料、塩基性染料、分散染料、及び油溶性染料以外の蛍光を示す染料を含む)などの色材を含有させることもできるが、通常は、上記のような色材は含有させなくてもよい。
【0088】
(インクの物性)
インクは、インクジェット方式に適用する水性インクであるので、その物性値を適切に制御することが好ましい。具体的には、プレート法により測定される、25℃におけるインクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、25mN/m以上45mN/m以下であることがさらに好ましい。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、25℃におけるインクのpHは、7.0以上10.0以下であることが好ましい。
【0089】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、このインク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明の水性インクである。
図1は、本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、インクカートリッジの底面には、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口12が設けられている。インクカートリッジの内部はインクを収容するためのインク収容部となっている。インク収容部は、インク収容室14と、吸収体収容室16とで構成されており、これらは連通口18を介して連通している。また、吸収体収容室16はインク供給口12に連通している。インク収容室14には液体のインク20が収容されており、吸収体収容室16には、インクを含浸状態で保持する吸収体22及び24が収容されている。インク収容部は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容されるインク全量を吸収体により保持する形態であってもよい。また、インク収容部は、吸収体を持たず、インクの全量を液体の状態で収容する形態であってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0090】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明の水性インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0091】
図2は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。記録媒体32としては、特に制限はないが、普通紙などのコート層を有しない記録媒体、光沢紙やマット紙などのコート層を有する記録媒体などの、紙を基材とした記録媒体を用いることが好ましい。この記録媒体は、転写用途である必要はない。
【実施例0092】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0093】
<樹脂粒子の水分散液の調製>
撹拌装置を取り付けた反応容器を温水槽にセットした。反応容器中に水1,178部を入れ、内温を70℃に保持した。芳香族基含有ユニットとなるモノマー、シアノ基含有ユニットとなるモノマー(対照例としてのモノマーも含む)、及び反応性界面活性剤ユニットとなる反応性界面活性剤を、表1-1及び2-1に示す仕込み量(部)及び内訳(%)で混合した。これにより、コア部用のモノマー混合液を調製した。反応性界面活性剤としては、商品名「アデカリアソープSR-10」(ADEKA製)を用いた。また、過硫酸カリウム1.9部及び水659部を混合して重合開始剤の水溶液1を調製した。コア部用のモノマー混合液及び重合開始剤の水溶液1を、60分かけながら並行して反応容器内に滴下した。滴下終了後、撹拌を継続してさらに30分間反応させて、樹脂粒子のコア部となる粒子を合成した。但し、樹脂粒子I-30及びII-30についてはコア部を合成しなかった。
【0094】
次いで、芳香族基含有ユニットとなるモノマー(対照例としてのモノマーも含む)、アニオン性基含有ユニットとなるモノマー、架橋剤ユニットとなる架橋剤、及び反応性界面活性剤ユニットとなる反応性界面活性剤を用意した。用意したこれらのモノマーを表1-2及び2-2に示す仕込み量(部)及び内訳(%)で混合して、シェル部用のモノマー混合液を調製した。反応性界面活性剤としては、商品名「アデカリアソープSR-10」(ADEKA製)を用いた。また、過硫酸カリウム0.1部及び水133部を混合して重合開始剤の水溶液2を調製した。コア部となる粒子が入った反応容器内に、シェル部用のモノマー混合液及び重合開始剤の水溶液2を10分かけながら並行して滴下した。滴下終了後、80℃で10分間撹拌して反応を継続させてシェル部を合成し、コア部となる粒子がシェル部となる樹脂で被覆された、コアシェル構造を有する樹脂粒子を合成した。但し、樹脂粒子I-29及びII-30についてはシェル部を合成しなかった。
【0095】
その後、8mol/L水酸化カリウム水溶液の適量を反応容器内に添加し、液体のpH8.5に調整した。さらに、表1-3及び2-3に示す仕込み量(部)及び内訳(%)の蛍光染料の粉末を添加し、80℃に昇温した。その後、2時間撹拌し、樹脂粒子に蛍光染料を染着させた。次いで、8mol/L水酸化カリウム水溶液の適量を反応容器内に添加し、液体のpHを8.5に調整した。適量の水をさらに添加して、樹脂粒子の含有量が20%である各樹脂粒子の水分散液を得た。表1-3及び2-3には、得られた樹脂粒子の粒子径(体積基準の累積50%粒子径)を示した。樹脂粒子の粒子径は、動的光散乱方式の粒度分析計(商品名「UPA-EX150」、日機装製)を使用し、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:真球形、屈折率:1.59の条件で測定した。但し、樹脂粒子I-42については染料を染着させなかった。用いた蛍光染料のうち、「C.I.アシッドレッド52」及び「C.I.アシッドイエロー73」は、塩基性染料、分散染料、及び油溶性染料のいずれにも属しない。
【0096】
表1-1~1-3及び2-1~2-3中の略号の意味を以下に示す。
・St:スチレン
・Vt:ビニルトルエン
・AN:アクリロニトリル
・MAN:メタクリロニトリル
・EMA:エチルメタクリレート
・MAA:メタクリル酸
・AA:アクリル酸
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
・DVB:ジビニルベンゼン
・EX-810:エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX-810」、ナガセケムテックス製)
・EX-830:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX-830」、ナガセケムテックス製)
・EX-521:ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX-521」、ナガセケムテックス製)
・BR1:C.I.ベーシックレッド1
・BV11:C.I.ベーシックバイオレット11
・DY82:C.I.ディスパースイエロー82
・AR52:C.I.アシッドレッド52
・BO22:C.I.ベーシックオレンジ22
・DY82:C.I.ディスパースイエロー82
・SY196:C.I.ソルベントイエロー196
・AY73:C.I.アシッドイエロー73
・SO15:C.I.ソルベントオレンジ15
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
<水溶性樹脂の合成>
常法によりモノマーを重合して、表3に示す組成及び特性を有するランダム共重合体である、水溶性のアクリル樹脂を合成した。酸価と等モルの水酸化カリウムを含む水を添加してアニオン性基を中和した後、適量の水をさらに添加して、樹脂の含有量が10.0%である水溶性樹脂の水溶液を得た。水溶性樹脂をテトラヒドロフランに溶解して測定用試料を調製し、電位差自動滴定装置(商品名「AT510」、京都電子工業製)を使用し、水酸化カリウムエタノール滴定液を用いて電位差滴定することにより、水溶性樹脂の酸価を測定した。GPCにより測定したポリスチレン換算の水溶性樹脂の重量平均分子量は、いずれも10,000であった。
【0104】
表3中の略号の意味を以下に示す。
・St:スチレン
・BzMA:ベンジルメタクリレート
・BA:n-ブチルアクリレート
・MAA:メタクリル酸
・AA:アクリル酸
【0105】
【0106】
<インクの調製>
表4-1~4-6の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。表3中、「アセチレノールE100」は川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤の商品名である。表4-1~4-6の下段にはインクの特性を示した。調製したインクのpHは、いずれも8.5~9.0の範囲内であった。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
<評価>
調製した各インクをインクカートリッジに充填し、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(商品名「PIXUS Pro-10」、キヤノン製)にセットした。このインクジェット記録装置では、1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.8ng±10%のインクを8滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義する。記録環境は、温度25℃、相対湿度55%とした。本発明においては、下記の各項目の評価基準で、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表5に示す。
【0114】
(発色性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、記録媒体(光沢紙、商品名「キヤノン写真用紙・微粒面光沢ラスター」、キヤノン製)に、以下の階調パターンを含む画像を記録した。階調パターンは、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、最大で6滴のインクが付与される条件で、インクの付与量を段階的に変化させた2cm×2cmのベタ画像で構成される。記録した画像を1日乾燥させた後、分光測色計(商品名「X-RiteeXact」(M1光源)、エックスライト製)を使用して、Lab表色系における色相角(H)、彩度(C*)、及び明度(L*)を測定した。そして、色相角が0°以上90°未満の画像について、以下に示す評価基準にしたがって画像の発色性を評価した。明度は、彩度50における値で評価した。但し、最大彩度が50に達しない場合は、階調パターンを測色して得たデータを外挿し、得られた明度の計算値で評価した。
A:最大彩度が60以上かつ明度が80以上、又は、最大彩度が50以上かつ明度が85以上であった。
B:最大彩度が50以上60未満かつ明度が80以上85未満であった。
C:最大彩度が50未満、又は、明度が80未満であった。
【0115】
(吐出安定性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、10枚の記録媒体(普通紙、商品名「GF-500」、キヤノン製)に、記録デューティが100%である、19cm×26cmのベタ画像を記録した。5枚目の記録媒体及び10枚目の記録媒体にそれぞれ記録したベタ画像を目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがって吐出安定性を評価した。
A:5枚目では白スジやカスレがなかったが、10枚目で僅かに白スジやカスレがあった。
B:5枚目では白スジやカスレがなかったが、10枚目で白スジやカスレがあった。
C:5枚目で白スジやカスレがあった。
【0116】
(固着回復性)
上記のインクジェット記録装置を使用して以下の操作を行った。プリンタドライバから回復処理(クリーニング)を行った後、インクジェット記録装置のノズルチェックパターンを記録した。その後、キャリッジが動作している途中(記録ヘッドがホームポジション以外の位置にある時点)で電源ケーブルを引き抜いて記録ヘッドがキャッピングされていない状態とした。そして、この状態のまま、インクジェット記録装置を温度30℃、相対湿度10%の環境で14日間放置した。次いで、インクジェット記録装置を温度25℃の環境に6時間載置した後、回復処理(クリーニング)を実施しながらノズルチェックパターンを記録した。記録したノズルチェックパターンを確認し、以下に示す評価基準にしたがって固着回復性を評価した。
A:3~5回の回復処理により、正常に記録できる状態となった。
B:6~10回の回復処理により、正常に記録できる状態となった。
C:回復処理を11回行った時点で正常に記録できる状態とならなかった。
【0117】
(耐擦過性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、記録媒体(光沢紙、商品名「キヤノン写真用紙・微粒面光沢ラスター」、キヤノン製)に、記録デューティが100%である、1.0インチ×0.5インチのベタ画像を記録した。記録してから1日後に、ベタ画像の上にシルボン紙及び面圧40g/cm2の分銅を置き、ベタ画像とシルボン紙を擦り合わせた。シルボン紙及び分銅を取り除いた後、非記録部の汚れの状態を目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐擦過性を評価した。
A:20回擦り合わせても汚れがなかった。
B:10回擦り合わせても汚れがなかったが、20回擦り合わせると汚れが生じた。
C:10回擦り合わせた時点で汚れが生じた。
【0118】