IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特開2022-187336水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法
<>
  • 特開-水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法 図1
  • 特開-水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187336
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/32 20140101AFI20221212BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221212BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C09D11/32
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095320
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】岡村 大二
(72)【発明者】
【氏名】岸 宏光
(72)【発明者】
【氏名】宮町 尚利
(72)【発明者】
【氏名】小林 悟
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 洋彦
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FC01
2H186BA10
2H186BA11
2H186DA12
2H186DA14
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB53
4J039AD03
4J039AD09
4J039BD02
4J039BE02
4J039CA06
4J039EA28
4J039EA38
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】蛍光強度及び耐水性に優れた蛍光色の画像を記録することが可能な、吐出安定性に優れた水性インクを提供する。
【解決手段】染着されていない樹脂粒子の表面に蛍光染料が付着した蛍光樹脂粒子、遊離染料、及び界面活性剤を含有し、蛍光染料が第1油溶性染料又は第1分散染料である、蛍光を示すインクジェット用の水性インクである。樹脂粒子が、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを含み、遊離染料が、蛍光を示す第2油溶性染料又は第2分散染料を含み、遊離染料の色相が、蛍光染料の色相と同一である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染着されていない樹脂粒子の表面に蛍光染料が付着した蛍光樹脂粒子、遊離染料、及び界面活性剤を含有し、前記蛍光染料が第1油溶性染料又は第1分散染料である、蛍光を示すインクジェット用の水性インクであって、
前記樹脂粒子が、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを含み、
前記遊離染料が、蛍光を示す第2油溶性染料又は第2分散染料を含み、
前記遊離染料の色相が、前記蛍光染料の色相と同一であることを特徴とする水性インク。
【請求項2】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤である請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記樹脂粒子は、さらにシアノ基含有ユニットを含み、前記樹脂粒子に占める前記シアノ基含有ユニットの割合(質量%)が、10.0質量%以上60.0質量%以下である請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記樹脂粒子に占める、前記アニオン性基含有ユニットの割合(質量%)が、1.0質量%以上30.0質量%以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項5】
前記蛍光樹脂粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項6】
前記遊離染料の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.01質量%以上0.5質量%以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項7】
前記蛍光樹脂粒子に占める、前記蛍光染料の割合(質量%)が、3.0質量%以上8.0質量%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項8】
前記遊離染料の含有量(質量%)が、前記蛍光樹脂粒子の全質量を基準として、0.1質量%以上50.0質量%以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項9】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項10】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷業界においては、表現可能な色域の拡大が求められている。色域の規格としては、PANTONE認証(X-rite)、Japan Color認証(日本印刷産業機械工業会)、DICカラーガイド認証(DIC)、Kaleido認証(東洋インキ)などを挙げることができる。近年、色域拡大のために、シアン、マゼンタ、及びイエローの基本色以外の特色インクや、高明度の特殊色インクを採用したインクジェット記録装置が利用されるようになっている。
【0003】
印刷業界における他のニーズの一つとして、人目を引くような鮮やかな色合いの記録物の製造を挙げることができる。例えば、ポスターやPOPなどの掲示物、食品や飲料製品の包装などは、顧客の視線を引き付けるために鮮やかな色で記録されていることが要求される。そして、このようなニーズを満たすうえで蛍光色が有効であるといえる。これまでに、塗料やインクなどに適した蛍光材料が提案されている(特許文献1)。しかし、十分なインクジェット適性を有する蛍光材料については、未だ確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-161688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、蛍光色の画像を記録する方法としてはオフセット印刷が主流である。但し、オフセット印刷の一度刷りによって蛍光色の画像を記録する場合、鮮やかな蛍光強度を得ることが困難であるので、二度刷り以上の重ね刷りを実施することが一般的であった。このため、蛍光強度に優れた蛍光色の画像を重ね刷りによって記録する方法は、生産性やコスト面で課題を有していた。
【0006】
また、電子写真方式を用いたデジタル記録の場合、液体トナーを用いて発色の高い蛍光色の画像を記録することが可能ではある。しかし、電子写真方式は記録媒体に制約があるため、例えば、テキスタイル記録への適用、大判への展開、厚物素材への適用などが困難である。
【0007】
これに対して、インクジェット方式を用いたデジタル記録は、インクを吐出する記録ヘッドが記録媒体に接触しない(非接触である)ことを生かして、様々な記録媒体に適用することが可能である。但し、力学的エネルギー又は熱エネルギーを作用させてミクロンオーダーの微小なノズルからインクを吐出するため、粘度などのインクの物性の制約を受けやすい。蛍光染料などの蛍光色材についても同様であり、蛍光強度に優れた画像を記録すべく、十分な量の蛍光色材をインクに添加しようとしても、インクの物性面で制約が生じてしまう。
【0008】
また、蛍光色材は、特定波長の光を吸収して励起状態に移行した後、基底状態へと戻る際のエネルギーを変換して発光する特性を有する。この特性により、染料が高濃度の状態になると、濃度消光によって蛍光強度が低下するといった問題を抱えている。したがって、蛍光色材が有する蛍光強度のポテンシャルを十分に発揮するための材料設計が必要である。加えて、ある種の蛍光色材を含有するインクを用いて記録した画像は、蛍光強度が良好である一方で耐水性が劣るといった課題がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、蛍光強度及び耐水性に優れた蛍光色の画像を記録することが可能な、吐出安定性に優れた水性インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、この水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、染着されていない樹脂粒子の表面に蛍光染料が付着した蛍光樹脂粒子、遊離染料、及び界面活性剤を含有し、前記蛍光染料が第1油溶性染料又は第1分散染料である、蛍光を示すインクジェット用の水性インクであって、前記樹脂粒子が、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを含み、前記遊離染料が、蛍光を示す第2油溶性染料又は第2分散染料を含み、前記遊離染料の色相が、前記蛍光染料の色相と同一であることを特徴とする水性インクが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蛍光強度及び耐水性に優れた蛍光色の画像を記録することが可能な、吐出安定性に優れた水性インクを提供することができる。また、本発明によれば、この水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。本発明において、樹脂を構成する「ユニット」とは、1の単量体に由来する繰り返し単位を意味する。
【0014】
本発明者らは、蛍光強度に優れた蛍光色の画像を記録しうる、インクジェット適性(吐出安定性)に優れたインクの構成について検討した。特に、画像の蛍光強度を向上させるうえで、蛍光色特有の濃度消光をいかに低減することができるか、という点に主眼を置いて検討した。蛍光強度を向上するには、蛍光を示す染料を色材として用いることが好適である。
【0015】
本発明者らは、蛍光染料そのものをインクに添加することを試みた。しかし、所望とするレベルの蛍光強度とするために蛍光染料の添加量を増加させると、蛍光色特有の濃度消光により十分な蛍光強度を得ることが困難となった。また、蛍光染料で染着した樹脂粒子を用いた場合には、蛍光染料は樹脂粒子に固定されるものの、ある一定の染着量を超えると濃度消光が生じてしまい、樹脂粒子への染着量に限界があることがわかった。また、蛍光染料で染着した樹脂粒子をインクに多く配合することで、画像の蛍光強度を向上させることはできるが、樹脂粒子が一定量を超えると吐出安定性が低下することがわかった。以上のことから、蛍光染料単独又は蛍光染料で染着した樹脂粒子単独で用いた場合には、十分な蛍光強度を示す画像を記録することが困難であることがわかった。
【0016】
本発明者らは、蛍光染料と、蛍光染料で染着した樹脂粒子(蛍光樹脂粒子)とをある特定の範囲内で組み合わせて用いることで、蛍光強度に優れた画像を記録可能であることを見出した。具体的には、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを含む樹脂粒子を蛍光染料で染着した蛍光樹脂粒子と、蛍光を示す油溶性染料又は分散染料とを組み合わせるとともに、界面活性剤をさらに用いることにで、所望の蛍光強度を達成した。
【0017】
十分な蛍光強度を発現させるには、蛍光染料を可能な限り局在化させず、均一な分布状態とすることが重要である。そのためには、蛍光染料で染着した樹脂粒子同士が反発し、凝集体の形成が阻害されるように設計する必要がある。したがって、樹脂粒子を構成するユニットとして、静電反発力を発現するためのアニオン性基含有ユニットが必要である。また、蛍光染料を単独で用いる場合、非イオン性(ノニオン性)の油溶性染料又は分散染料を用いる必要がある。これに対して、塩基性染料を用いると、画像を記録する段階で樹脂粒子のアニオン性部位と塩基性染料が静電的相互作用するため、塩基性染料が樹脂粒子の近傍に局在化し、濃度消光を生じさせることになる。また、酸性染料を用いると、画像の耐水性が低下することになる。但し、油溶性染料や分散染料は水性インク中での溶解性が低いため、会合・凝集状態を形成しやすい。このような状態を抑制するべく、インク中に界面活性剤を含有させる必要がある。界面活性剤による分散安定効果により、油溶性染料や分散染料の会合・凝集が抑制されるだけでなく、画像記録時にもこれらの染料が均一に存在するため、濃度消光を抑制することができる。
【0018】
蛍光を示す油溶性染料又は分散染料を樹脂粒子の表面に染着させるために、樹脂粒子は、染料分子との疎水性相互作用及びπ-π相互作用を発現するための芳香族基含有ユニットを含む必要がある。芳香族基含有ユニットを含まない樹脂粒子を用いると、樹脂粒子の表面に付着した染料はインク中に容易に遊離する。このため、インク中の遊離染料の濃度が上昇し、遊離染料同士による濃度消光が生じやすくなる。
【0019】
蛍光染料は、染着されていない樹脂粒子の表面に付着した状態で存在していることが必要である。蛍光染料がその表面に付着せずに樹脂粒子の内部に存在している(内包されている)だけであると、蛍光を発するための励起光が樹脂粒子を構成するユニットの屈折率によって蛍光染料に到達しにくくなり、蛍光強度に優れた画像を記録することが困難になる。また、樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料(第1油溶性染料又は第1分散染料)の色相と、インク中に遊離した遊離染料(第2油溶性染料又は第2分散染料)の色相と同一であることが重要である。樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料と、インク中の遊離染料との色相が同一である場合、励起波長と蛍光波長が近似した波長領域に分布しているため、互いの光を干渉する可能性が低い。一方、樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料と、インク中の遊離染料との色相が異なる場合、励起波長と蛍光波長が相違するため、互いの光を干渉する可能性が高くなり、蛍光強度が低下することになる。
【0020】
<水性インク>
本発明のインクは、蛍光樹脂粒子、遊離染料、及び界面活性剤を含有する、蛍光を示すインクジェット用の水性インクである。蛍光樹脂粒子は、染着されていない樹脂粒子の表面に蛍光染料が付着したものである。蛍光染料は、第1油溶性染料又は第1分散染料である。樹脂粒子は、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを含む。遊離染料は、蛍光を示す第2油溶性染料又は第2分散染料を含む。そして、遊離染料の色相は、蛍光染料の色相と同一である。以下、インクを構成する各成分について、それぞれ説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載によって限定されるものではない。以下「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」と記載した場合は、それぞれ「アクリル酸、メタクリル酸」、「アクリレート、メタクリレート」、「アクリロイル、メタクリロイル」を示すものとする。本発明のインクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。
【0021】
(蛍光染料)
本明細書における「蛍光染料(蛍光を示す染料)」とは、紫外又は可視部の励起光線によって蛍光を発する染料をいう。ある染料が、蛍光を示す「蛍光染料」であるか否かについては、例えば、以下に示す方法にしたがって判断することができる。染料を溶解しうる液体に染料を溶解させて得た試料に、わずかに目に見える程度の長波長(315~400nm程度)の紫外線(紫外光)をブラックライトなどにより照射する。そして、ブラックライトにより照射される紫外光と異なる色の光が目視にて観測できれば、その染料は蛍光を示す「蛍光染料」であると判断することができる。ブラックライトとしては、市販品(例えば、商品名「SLUV-4」(アズワン製)など)を使用することができる。
【0022】
蛍光を示す染料が、樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料と遊離染料のいずれかであるかについては、インクを遠心分離処理し、沈殿層中の樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料と、上澄み層中の遊離染料とに分離することによって確認することができる。
【0023】
蛍光染料が樹脂粒子の表面に付着しているか否かについては、以下に示す方法にしたがって吸光度を測定して検証することができる。まず、インクと蛍光染料の良溶媒とを、1:1~1:39の質量比、好ましくは1:19の質量比で混合する。遊離染料、樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料、及び樹脂粒子の内部に存在する蛍光染料の量比は、まず、インクと良溶媒を混合してから一定時間毎に吸光度を測定する。次いで、全ての染料が良溶媒中に溶出した際の濃度を「1」として、時間毎の染料の溶出比率をプロットして求める。また、全ての染料の溶出に長時間を要する場合には、同量の染料を良溶媒に直接溶解した際の濃度を「1」とすればよい。吸光度の測定に際しては、測定液を強く撹拌又は振とうせず、撹拌する場合には、マグネチックスターラーを使用して100rpm以下の回転速度で撹拌するとよい。
【0024】
良溶媒による染料の溶出は、第一段階でインク中の遊離染料が急速に溶出し、第二段階で樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料が溶出する。次いで、第三段階で樹脂粒子の内部に存在する蛍光染料が溶出する。したがって、溶出速度曲線の変化から、遊離染料、樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料、及び樹脂粒子の内部に存在する蛍光染料の量比を算出することができる。なお、第一段階から第二段階へと移行する際に溶出速度曲線の傾きが変化するが、それ以降に傾きが変化することはない。すなわち樹脂粒子の内部に染料が存在していないことを意味する。
【0025】
蛍光染料の良溶媒は、20℃において蛍光染料を1~200g/L、好ましくは30~100g/L溶解する溶剤である。蛍光染料の良溶媒としては、疎水性溶剤から親水性溶剤まで種々の溶剤を用いることができる。蛍光染料の種類によって好適な良溶媒は相違するが、一般的には相溶性パラメータ(SP値)が染料に近いものが好ましい。良溶媒の具体例としては、酢酸エチル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、アセトンなどを挙げることができる。蛍光染料のSP値を考慮すると、疎水性溶剤を用いることが好ましく、酢酸エチルを用いることがさらに好ましい。水と相分離する疎水性溶剤を用いると、吸光度から染料の溶出率を測定することが容易である。一方、水溶性溶剤を用いる場合には分離操作が必要となる。分離操作としては、例えば、ろ過、塩析、酸析、遠心分離、抽出などの、溶剤と分散固形分との一般的な分離操作を挙げることができる。
【0026】
樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料については、例えば、以下に示す手順にしたがって分析することができる。常法にしたがってインクから取り出した樹脂粒子を、クロロホルムなどの有機溶剤に溶解させて試料を調製する。HPLC(高速液体クロマトグラフ)を用いて調製した試料から蛍光染料を単離する。単離した染料を、核磁気共鳴(NMR)分光法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)などの一般的な構造解析手法により分析する。遊離染料についても同様の手法により分析する。
【0027】
樹脂粒子の表面に付着させる蛍光染料は、第1油溶性染料又は第1分散染料である。また、インク中に遊離した蛍光を示す遊離染料は、第2油溶性染料又は第2分散染料を含む。第1油溶性染料と第2油溶性染料は、同一であっても異なっていてもよい。また、第1分散染料と第2分散染料は、同一であっても異なっていてもよい。本明細書中、単に「油溶性染料」というときは、「第1油溶性染料」及び「第2油溶性染料」のいずれをも意味し、単に「分散染料」というときは、「第1分散染料」及び「第2分散染料」のいずれをも意味する。分散染料は、水溶解性が低い又は水に溶解しない、蛍光を示す化合物である。「分散染料」としては、「カラーインデックスに示される名称に『ディスパース』が含まれる染料」などを挙げることができる。染料の骨格としては、アゾ、クマリン、アントラキノンなどを挙げることができる。なかでも、クマリン、アントラキノンなどの骨格を有する化合物が好ましく、クマリン骨格を有する化合物がさらに好ましい。
【0028】
蛍光を示す分散染料の具体例をC.I.ナンバーで示すと、C.I.ディスパースイエロー82、186;C.I.ディスパースレッド58、60;C.I.ディスパースオレンジ11などを挙げることができる。なかでも、蛍光強度に優れるため、C.I.ディスパースイエロー82などが好ましい。
【0029】
油溶性染料は、水溶解性が低い又は水に溶解しない、蛍光を示す化合物である。油溶性染料としては、「カラーインデックスに示される名称に『ソルベント』が含まれる染料」などを挙げることができる。染料の骨格としては、クマリン、キサンテン、アゾ、アミノケトン、アントラキノンなどを挙げることができる。なかでも、クマリン、キサンテンなどの骨格を有する化合物が好ましく、クマリン骨格を有する化合物がさらに好ましい。
【0030】
蛍光を示す油溶性染料の具体例をC.I.ナンバーで示すと、C.I.ソルベントイエロー7、43、44、85、98、131、160:1、172、196;C.I.ソルベントレッド43、44、45、49、149;C.I.ソルベントオレンジ5、45、63、115などを挙げることができる。なかでも、蛍光強度に優れるため、C.I.ソルベントイエロー160:1、196などが好ましい。
【0031】
インク中の遊離染料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。遊離染料の含有量が0.01質量%未満であると、画像の蛍光強度が低下する場合がある。一方、遊離染料の含有量が0.5質量%超であると、濃度消光により画像の蛍光強度が低下する場合がある。
【0032】
蛍光樹脂粒子に占める、蛍光染料の割合(質量%)は、3.0質量%以上8.0質量%以下であることが好ましい。蛍光染料の割合が3.0質量%未満であると、画像の蛍光強度が低下する場合がある。一方、蛍光染料の割合が8.0質量%超であると、濃度消光により画像の蛍光強度が低下する場合がある。
【0033】
インク中の遊離染料の含有量(質量%)は、蛍光樹脂粒子の全質量を基準として、0.1質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。遊離染料の含有量が、蛍光樹脂粒子の全質量を基準として0.1質量%未満であると、画像の蛍光強度が低下する場合がある。一方、遊離染料の含有量が、蛍光樹脂粒子の全質量を基準として50.0質量%超であると、濃度消光により画像の蛍光強度が低下する場合がある。
【0034】
(樹脂粒子)
本明細書における「樹脂粒子」とは、水性媒体中に分散し、粒径を有する状態で水性媒体中に存在し得る樹脂を意味する。このため、樹脂粒子はインクに分散した状態、すなわち、樹脂エマルションの状態で存在する。
【0035】
ある樹脂が「樹脂粒子」であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒径を動的光散乱法により測定した場合に、粒径を有する粒子が測定された場合に、その樹脂は「樹脂粒子」であると判断することができる。動的光散乱法による粒度分布測定装置としては粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:真球形、屈折率:1.59、とすることができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。中和した樹脂を用いて粒子径を測定するのは、十分に中和されて粒子をより形成しにくい状態となっても、粒子が形成されていることを確認するためである。このような条件であっても粒子の形状を持つ樹脂は、水性インク中でも粒子の状態で存在する。
【0036】
樹脂粒子は、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニットを含む。芳香族基含有ユニットを含むことで、樹脂粒子表面に蛍光染料が付着するための疎水性相互作用が生ずる。この相互作用によって、樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料はインク中に遊離しにくくなる。また、アニオン性基含有ユニットを含むことで、蛍光樹脂粒子の分散性が向上し、インクの吐出安定性が向上する。
【0037】
樹脂粒子は、さらにシアノ基含有ユニットを含むことが好ましい。シアノ基含有ユニットを含む樹脂粒子を用いると、蛍光染料との間で生ずる双極子相互作用が増大する。このため、樹脂粒子に蛍光染料が効率的に付着して、蛍光染料本来の蛍光強度が効率よく発揮されることになり、画像の蛍光強度をより向上させることができる。
【0038】
重合により芳香族基含有ユニットとなるモノマーとしては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、p-フルオロスチレン、p-クロロスチレン、α-メチルスチレン、2-ビニルナフタレン、9-ビニルアントラセン、9-ビニルカルバゾール、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2,4-ジアミノ-6-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル-1,3,5-トリアジン、2-ナフチル(メタ)アクリレート、9-アントリル(メタ)アクリレート、(1-ピレニル)メチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合により芳香族基含有ユニットとなるモノマーとしては、アニオン性基やシアノ基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、重合の際の反応性が良好であるとともに、得られる樹脂粒子の安定性が優れることから、スチレンやその誘導体がさらに好ましく、スチレン、ビニルトルエンが特に好ましい。
【0039】
アニオン性基含有ユニットにおけるアニオン性基としては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、カルボン酸基、フェノール性ヒドロキシ基、リン酸エステル基などを挙げることができる。なかでも、インク中での樹脂粒子の安定性が良好であるため、カルボン酸基が好ましい。重合によりアニオン性基含有ユニットとなるモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、p-ビニル安息香酸、4-ビニルフェノール、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、リン酸(メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル)エステル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合によりアニオン性基含有ユニットとなるモノマーとしては、芳香族基やシアノ基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。また、アニオン性基含有ユニットにおけるアニオン性基は、カルボン酸基のみであることが好ましい。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。
【0040】
樹脂粒子に占める、アニオン性基ユニットの割合(質量%)は、1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。アニオン性基ユニットの割合が1.0質量%未満であると、インクの吐出安定性が低下する場合がある。一方、アニオン性基ユニットの割合が30.0質量%超であると、樹脂粒子の親水性が高まりすぎてエマルジョンが形成されにくくなり、樹脂粒子が溶解して、吐出安定性が低下しやすくなる場合がある。
【0041】
重合によりシアノ基含有ユニットとなるモノマーとしては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、2-シアノエチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合によりシアノ基含有ユニットとなるモノマーとしては、アニオン性基や芳香族基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、重合の際の反応性が良好であるとともに、得られる樹脂粒子の安定性が優れることから、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが特に好ましい。
【0042】
樹脂粒子に占めるシアノ基含有ユニットの割合(質量%)は、10.0質量%以上60.0質量%以下であることが好ましい。シアノ基含有ユニットの割合が10.0質量%未満であると、画像の蛍光強度が低下する場合がある。一方、シアノ基含有ユニットの割合が60.0質量%超であると、シアノ基の高い極性によってエマルジョンが形成されにくくなり、樹脂粒子が溶解して、吐出安定性が低下しやすくなる場合がある。
【0043】
樹脂粒子は、本発明の効果が損なわれない限り、上記のユニット以外のユニットをそれぞれ含んでいてもよい。上記のユニット以外のユニットとしては、重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましく、具体的には、エチレン性不飽和モノマーに由来するユニットなどを挙げることができる。
【0044】
エチレン性不飽和モノマーとしては、エチレンやプロピレンなどのアルケン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレートなどの単環式(メタ)アクリレート類;イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレートなどの2環式(メタ)アクリレート類;アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどの3環式(メタ)アクリレート類;メトキシ(モノ、ジ、トリ、ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートなどの非イオン性親水性基含有(メタ)アクリレート類;を挙げることができる。エチレン性不飽和モノマーとしては、アニオン性基、シアノ基、芳香族基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、炭素数が1以上22以下のアルケン;アルキル基の炭素数が1以上22以下のアルキル(メタ)アクリレートなどが好ましい。また、樹脂粒子の物性を調整しやすく、重合安定性に優れた樹脂粒子を得ることができるため、アルキル基の炭素数が1以上12以下のアルキル(メタ)アクリレートがさらに好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0045】
樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、120nm以下であることが好ましい。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)が120nm超であると、樹脂粒子による光散乱が生じやすくなり、画像の蛍光強度がやや低下する場合がある。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、50nm以上であることが好ましい。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、前述の樹脂粒子であるか否かの判断方法と同様の方法で測定することができる。
【0046】
インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。樹脂粒子の含有量が1.0質量%未満であると、画像の蛍光強度がやや低下する場合がある。一方、樹脂粒子の含有量が10.0質量%超であると、インクの吐出安定性がやや低下する場合がある。
【0047】
[蛍光樹脂粒子の製造方法]
蛍光樹脂粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、シード重合法、転相乳化法などの従来公知の方法にしたがって製造することができる。樹脂粒子への染料の付着方法としては、樹脂粒子に蛍光染料を添加して加熱する方法が好ましい。樹脂粒子に蛍光染料を添加して加熱することで、樹脂粒子の表面に効率的に蛍光染料を付着させることができる。樹脂粒子は、コアシェル構造を有する樹脂粒子であってもよい。コアシェル構造を有する樹脂粒子を用いる場合には、シェル部を形成した後に染料を付着させることが好ましい。シェル部の形成後に染料を付着させることで、樹脂粒子の表面に効率的に蛍光染料を付着させることができる。
【0048】
[樹脂粒子の検証方法]
樹脂粒子の構成については、以下の(i)~(iii)に示す方法にしたがって検証することができる。以下、インクから樹脂粒子を抽出して分析及び検証する方法について説明するが、水分散液などから抽出した樹脂粒子についても同様に分析及び検証することができる。
【0049】
(i)樹脂粒子の抽出
密度勾配遠心分離法により、樹脂粒子を含有するインクから樹脂粒子を分離・抽出することができる。密度勾配遠心分離法のうち、密度勾配沈降速度法では、成分の沈降係数の差によって樹脂粒子を分離・抽出する。また、密度勾配遠心分離法のうち、密度勾配沈降平衡法では、成分の密度の差によって樹脂粒子を分離・抽出する。
【0050】
(ii)層構造の確認と分離
まず、樹脂粒子を四酸化ルテニウムで染色及び固定化した後、エポキシ樹脂に埋め込んで安定に保持する。次いで、エポキシ樹脂に埋め込んだ樹脂粒子をウルトラミクロトームで切断し、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を使用して断面を観察する。樹脂粒子の重心を通って切断した断面を観察することで、樹脂粒子の層構造を確認することができる。エポキシ樹脂に埋め込んだ樹脂粒子を分析試料とし、エネルギー分散型X線分光法(EDX)が併置されたSTEM-EDXにより、樹脂粒子を構成する層(コア部、シェル部)の含有元素を定量分析することができる。
【0051】
(iii)各層の樹脂を構成するユニット(モノマー)の分析
各層の樹脂を分離するための試料とする樹脂粒子は、分散液の状態でもよい。また、樹脂粒子を乾燥して膜化した状態のものを試料としてもよい。試料とする樹脂粒子を有機溶媒に溶解させた後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により各層を分離し、各層を構成する樹脂を分取する。そして、分取した樹脂を燃焼法により元素分析する。これとは別に、酸分解(フッ化水素酸添加)法又はアルカリ融解法により分取した樹脂を前処理した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法により無機成分を定量分析する。元素分析及び無機成分の定量分析の結果と、上記(ii)で得たSTEM-EDXによる元素の定量分析の結果とを比較することで、分取した樹脂が構成していた樹脂粒子の層を知ることができる。
【0052】
また、核磁気共鳴(NMR)分光法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)により、分取した樹脂を分析する。これにより、樹脂を構成するユニット(モノマー)及び架橋性成分の種類や割合を知ることができる。さらに、熱分解ガスクロマトグラフィーによって分取した樹脂を分析することで、解重合で生じたモノマーを直接検出することもできる。
【0053】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどの炭化水素系界面活性剤;パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などのフッ素系界面活性剤;ポリエーテル変性シロキサン化合物などのシリコーン系界面活性剤;などを用いることができる。また、アニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤を用いることもできる。これらの界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、界面活性剤としてノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。イオン性界面活性剤は、イオン反発によって、ノニオン性界面活性剤に比してミセルを形成しにくい。このため、イオン性界面活性剤を用いると、記録媒体上で浸透効果が瞬時に発現しやすく、樹脂粒子が記録媒体上に残存しにくくなることがあり、画像の蛍光強度が低下する場合がある。
【0054】
インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.01質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。なかでも、0.1質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0055】
(水性媒体)
インクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクである。インクには、水性媒体としてさらに水溶性有機溶剤を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクに一般的に用いられているものをいずれも用いることができる。例えば、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などを挙げることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0056】
(その他の添加剤)
インクは、上記した成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体などの、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。さらに、インクは、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及びその他の樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。インクには、顔料、染料(蛍光を示さない染料、塩基性染料、分散染料、及び油溶性染料以外の蛍光を示す染料を含む)などの色材を含有させることもできるが、通常は、上記のような色材は含有させなくてもよい。
【0057】
(インクの物性)
インクは、インクジェット方式に適用する水性インクであるので、その物性値を適切に制御することが好ましい。具体的には、プレート法により測定される、25℃におけるインクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、25mN/m以上45mN/m以下であることがさらに好ましい。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、25℃におけるインクのpHは、7.0以上10.0以下であることが好ましい。
【0058】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、このインク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明の水性インクである。図1は、本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、インクカートリッジの底面には、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口12が設けられている。インクカートリッジの内部はインクを収容するためのインク収容部となっている。インク収容部は、インク収容室14と、吸収体収容室16とで構成されており、これらは連通口18を介して連通している。また、吸収体収容室16はインク供給口12に連通している。インク収容室14には液体のインク20が収容されており、吸収体収容室16には、インクを含浸状態で保持する吸収体22及び24が収容されている。インク収容部は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容されるインク全量を吸収体により保持する形態であってもよい。また、インク収容部は、吸収体を持たず、インクの全量を液体の状態で収容する形態であってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0059】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明の水性インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0060】
図2は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。記録媒体32としては、特に制限はないが、普通紙などのコート層を有しない記録媒体、光沢紙やマット紙などのコート層を有する記録媒体などの、紙を基材とした記録媒体を用いることが好ましい。この記録媒体は、転写用途である必要はない。
【実施例0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0062】
<蛍光樹脂粒子の水分散液の調製>
(蛍光樹脂粒子1~23)
撹拌装置を取り付けた反応容器を温水槽にセットした。反応容器中に水1,178部を入れ、内温を70℃に保持した。芳香族基含有ユニットとなるモノマー、アニオン性基含有ユニットとなるモノマー、シアノ基含有ユニットとなるモノマー、及び反応性界面活性剤ユニットとなる反応性界面活性剤3.0部を、表1に示す仕込み量(部)及び内訳(%)で混合した。これにより、モノマー混合液を調製した。反応性界面活性剤としては、商品名「アデカリアソープSR-10」(ADEKA製)を用いた。また、過硫酸カリウム1.9部及び水659部を混合して重合開始剤の水溶液を調製した。モノマー混合液及び重合開始剤の水溶液を、60分かけながら並行して反応容器内に滴下した。滴下終了後、撹拌を継続してさらに30分間反応させて、樹脂粒子を合成した。
【0063】
その後、8mol/L水酸化カリウム水溶液の適量を反応容器内に添加し、液体のpH8.5に調整した。さらに、表1に示す仕込み量(部)及び割合(%)の蛍光染料の粉末を添加し、80℃に昇温した。その後、2時間撹拌し、樹脂粒子の表面に蛍光染料を付着させた。次いで、8mol/L水酸化カリウム水溶液の適量を反応容器内に添加し、液体のpHを8.5に調整した。適量の水をさらに添加して、蛍光樹脂粒子の含有量が20%である各蛍光樹脂粒子の水分散液を得た。但し、樹脂粒子23については染料を付着させなかった。
【0064】
(蛍光樹脂粒子24)
上記で得られた樹脂粒子23の水分散液を乾固させ、固体の樹脂粒子23を得た。酢酸エチル40.0部に樹脂粒子23 6.0部を溶解させた後、C.I.ディスパースイエロー82 0.3部を加えて溶解させ、溶液Aを得た。次に、純水100.0部にドデシル硫酸ナトリウム0.05部を溶解させて溶液Bを得た。溶液Aに溶液Bを添加して撹拌した後、超音波ホモジナイザーを使用し、比表面積が3×10-1になるまで混合して乳化した。減圧して酢酸エチルを除去した後、固形分の含有量が20%になるまでさらに減圧して水を除去し、蛍光樹脂粒子24の水分散液を得た。
【0065】
表1中の略号の意味を以下に示す。
・St:スチレン
・Vt:ビニルトルエン
・EMA:エチルメタクリレート
・MAA:メタクリル酸
・AA:アクリル酸
・AN:アクリロニトリル
・MAN:メタクリロニトリル
・DY82:C.I.ディスパースイエロー82
・SY160:1:C.I.ソルベントイエロー160:1
・SR43:C.I.ソルベントレッド43
・SO5:C.I.ソルベントオレンジ5
【0066】
【0067】
<インクの調製>
表2-1~2-4の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。表2-1~2-4中、「アセチレノールE100」は川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤の商品名である。また、「NIKKOL BC-20」は日光ケミカルズ製のノニオン性界面活性剤の商品名である。表2-1~2-4の下段にはインクの特性を示した。調製したインクのpHは、いずれも8.5~9.0の範囲内であった。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
<蛍光染料の存在箇所の確認>
実施例及び比較例のインク(実施例15、19、比較例1、10を除く)中の樹脂粒子における蛍光染料の存在箇所(染着位置)を以下に示す方法により確認した。
【0073】
各インクと酢酸エチルを1:19の比で混合するとともに、マグネチックスターラーを使用し、回転速度100rpmで撹拌を開始した。5分毎にサンプリングして吸光度を測定し、吸光度が変化しなくなるまで継続して測定した後、時間軸に対して吸光度をプロットしたグラフを作成した。時間軸に対する吸光度の傾きから変曲点を求め、変曲点の数が「1」の場合は、最初の傾きが遊離染料に由来すると解釈し、2番目の傾きが樹脂粒子の表面に付着した蛍光染料に由来すると解釈した。一方、変曲点の数が「2」の場合は、3番目の傾きが樹脂粒子に内包された蛍光染料に由来すると解釈した。
【0074】
実施例1~34及び比較例3~9のインクは、変曲点の数が「1」であることを確認した。これにより、実施例1~34及び比較例3~9のインクには、遊離染料と、樹脂粒子の表面に蛍光染料が付着した蛍光樹脂粒子とが含まれていると判断した。また、比較例2のインクは、変曲点を有しなかった。比較例2のインクには遊離染料が含まれておらず、溶出した染料は樹脂粒子の表面に付着していた蛍光染料に由来するものと判断した。さらに、比較例11のインクは、変曲点の数が「2」であることを確認した。これにより、比較例11のインクには、遊離染料と、樹脂粒子の表面及び内部に蛍光染料が存在する蛍光樹脂粒子とが含まれていると判断した。
【0075】
吸光度は、分光光度計(商品名「U-3300」、日立製作所製)を使用し、サンプリング間隔0.1nm、スキャン速度30nm/minの条件で測定した。測定セルには1cm石英セルを使用した。
【0076】
<評価>
調製した各インクをインクカートリッジに充填し、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(商品名「PIXUS Pro-10」、キヤノン製)にセットした。このインクジェット記録装置では、1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.8ng±10%のインクを8滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義する。記録環境は、温度25℃、相対湿度55%とした。本発明においては、下記の各項目の評価基準で、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表3に示す。
【0077】
(蛍光強度)
上記のインクジェット記録装置を使用し、記録媒体(光沢紙、商品名「キヤノン写真用紙・微粒面光沢ラスター」、キヤノン製)に、以下の階調パターンを含む画像を記録した。階調パターンは、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、最大で6滴のインクが付与される条件で、インクの付与量を段階的に変化させた2cm×2cmのベタ画像で構成される。記録した画像を1日乾燥させた後、分光測色計(商品名「X-RiteeXact」(M1光源)、エックスライト製)を使用して分光反射率を測定し、以下に示す評価基準にしたがって画像の蛍光強度を評価した。なお、分光反射率は、測色機の光源から発した光の強度(入射光強度)に対する、画像から反射した光の強度(反射光強度)の比率である。分光反射率が1を超える場合、入射光強度より反射光強度が強いことを意味する。反射光強度が1を超える場合、画像による発光現象が起こっていることが示唆される。このような発光現象は、蛍光を有する画像に生ずる特有な現象であることから、最大反射光強度を、蛍光強度の指標として採用した。
A:最大反射光強度が1.1以上であった。
B:最大反射光強度が1.0以上1.1未満であった。
C:最大反射光強度が1.0未満であった。
【0078】
(吐出安定性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、10枚の記録媒体(普通紙、商品名「GF-500」、キヤノン製)に、記録デューティが100%である、19cm×26cmのベタ画像を記録した。5枚目の記録媒体及び10枚目の記録媒体にそれぞれ記録したベタ画像を目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがって吐出安定性を評価した。
A:5枚目では白スジやカスレがなかったが、10枚目で僅かに白スジやカスレがあった。
B:5枚目では白スジやカスレがなかったが、10枚目で白スジやカスレがあった。
C:5枚目で白スジやカスレがあった。
【0079】
(耐水性)
蛍光強度の評価の際に得たベタ画像を1日放置した後、分光測色計(商品名「FD-7」、コニカミノルタ製)を使用して光学濃度(耐水性試験前の光学濃度)を測定した。このベタ画像をイオン交換水中に10分間浸漬した後、1日放置して乾燥した。その後、再度ベタ画像の光学濃度(耐水性試験後の光学濃度)を測定した。
得られた耐水性試験前後の光学濃度の値から、光学濃度の残存率(%)=(耐水性試験後の光学濃度/耐水性試験前の光学濃度)×100を算出し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐水性を評価した。
A:光学濃度の残存率が90%以上であった。
B:光学濃度の残存率が80%以上90%未満であった。
C:光学濃度の残存率が80%未満であった。
【0080】
図1
図2