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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187358
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】スリット入りラベル
(51)【国際特許分類】
   G09F 3/03 20060101AFI20221212BHJP
   G09F 3/10 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G09F3/03 F
G09F3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095352
(22)【出願日】2021-06-07
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304005587
【氏名又は名称】株式会社タナックス
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 善昭
(57)【要約】
【課題】長手方向の引っ張りに強い一方、貼付対象物からの剥離時には確実に破断させることが可能であるとともに破断後の残片を糊残りなく貼付対象物から除去することができる、スリット入りラベルを提供すること。
【解決手段】長手方向と短手方向とを有する基材1と、剥離時に貼付対象物に残らないように剥離可能である粘着層2とを有し、それらを厚み方向に貫通するスリットが形成されたスリット入りラベルにおいて、スリットは基材の外形線より内側の領域に長手方向に形成された縦断スリット3と、縦断スリット3と基材1の長手方向の外形線との間の領域に縦断スリット3に対して傾斜して形成された傾斜スリット4とからなり、傾斜スリット4は、その一端が縦断スリット3から離間するとともに、他端が基材1の長手方向の外形線から離間して形成され、縦断スリット3に沿って前記傾斜スリット4を複数並設した。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と粘着層とを有し、それらを厚み方向に貫通するスリットが形成されたスリット入りラベルにおいて、
前記基材は長手方向と短手方向とを有し、
前記粘着層は剥離時に貼付対象物に残らないように剥離可能であるとともに、前記基材の一方の面における少なくとも一部に形成され、
前記スリットは前記基材の外形線より内側の領域に長手方向に形成された縦断スリットと、前記縦断スリットと前記基材の長手方向の外形線との間の領域に前記縦断スリットに対して傾斜して形成された傾斜スリットとからなり、
前記傾斜スリットは、その一端が前記縦断スリットから離間するとともに、他端が前記基材の長手方向の外形線から離間して形成され、
前記縦断スリットに沿って前記傾斜スリットが複数並設されていることを特徴とする、スリット入りラベル。
【請求項2】
長手方向にロール状に巻回されてなる請求項1に記載のスリット入りラベルにおいて、
前記傾斜スリットは前記基材の長手方向の外形線側の一端がロール先端側に向くように傾斜していることを特徴とする、スリット入りラベル。
【請求項3】
前記基材は略長方形状であり、
前記縦断スリットは前記基材の短手方向の外形線における中心同士を結ぶ線に沿って配置され、
前記傾斜スリットは前記縦断スリットの両側に形成され、少なくとも一箇所の隣接する前記傾斜スリット間においては前記縦断スリットが途切れていないことを特徴とする、請求項1または2に記載のスリット入りラベル。
【請求項4】
前記傾斜スリットの両端部において、前記縦断スリット側の一端と該縦断スリットとの距離よりも、前記基材の長手方向の外形線側の一端と該外形線との距離のほうが大きいことを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載のスリット入りラベル。
【請求項5】
前記傾斜スリットは全て同一の傾斜方向であることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載のスリット入りラベル。
【請求項6】
前記傾斜スリットは前記傾斜スリット間の距離が一定であることを特徴とする、請求項1から5の何れか1項に記載のスリット入りラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、販売に供される商品ないし包装(以下、「商品等」という)に貼付するラベルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スーパーや量販店等の小売店(以下、「小売店等」という)においては、消費期限が近い等の理由により商品の値引きを行う場合に、通常価格の商品と区別するために、値引き品であることを証明するラベルやテープ(以下、「ラベル等」という)を商品等に貼付することがある。
また、購入した商品の大きさや量によっては、会計時に、それが購入済みであることを証明するため、購入済みであることが一目で判別できるようなラベルを商品等に貼付することもある。
【0003】
しかし、値引きされた型落ち品から値引きラベルを剥離し、定価で販売されている同種の新商品に対して再貼付して、あたかも値引き品であるかのように装って購入するという不正が行われることが頻発している。
また、安価な商品を購入したうえで購入済みラベルを剥離し、売り場に戻ってより高額な商品に再貼付するという不正も行われている。
【0004】
これらの問題を解決するため、従来においては不正貼り替えを防止するシールの技術が開示されている。
例えば参考文献1の不正貼り替え防止用シールに関する技術は、貼付面に接着剤が塗布されたシール片にV字形状の一対の破断用切込みを形成したことを特徴とする技術とされている。
【0005】
特許文献1の技術を概説すると、該シールは、シール片を貼付物に貼付することにより購入済みの証明として使用できるというものである。
ここで、シール片(ア)には、図11に示すようにシール面から貼付面に達する破断用切込み(イ)が形成されている。破断用切込み(イ)について詳述すると、シール片(ア)の略中央位置で、その幅方向にV字形状の一対の破断用切込み(イ)が形成されている。貼付物に貼付されたシール片(ア)をその端部から剥離していくと、破断用切込み(イ)のV字形状部分(ウ)は貼付物に貼付された状態が維持され、破断用切込み位置(エ)に破断応力が生じてシールが破断される。
そのため、再使用できず、代金未払い商品に貼り替える等の不正貼り替え行為が行われないというものである。
【0006】
一方、近年、海洋プラスチックごみの削減等の目的のため、小売店等におけるいわゆるレジ袋の有料化が実施された。それに伴い、消費者はエコバッグやマイかごを持参して買い物をするようになり、広く定着しつつある。
このように持参されたエコバッグやマイかごは多種多様であり、店舗従業員はその中に入っている商品は購入済みであると認識せざるを得ない。しかし近年、この点を悪用し、購入後に再度売り場に戻り、エコバッグやマイかごに未払いの商品を入れて持ち去るという不正が多発している。
【0007】
このような不正は、従前レジ袋を無償で提供していた時には、会計時にレジ袋の開口部をテープで止めることでレジ袋内に商品が入れにくくなるため、ある程度は抑止されていたという事情がある。そこで、エコバッグやマイかごに対しても、持ち手部分同士をラベル等で止める等の対応をしている小売店等が増加している。
【0008】
しかし、ラベル等の粘着剤が消費者の私物であるエコバッグやマイかごに残る、いわゆる糊残りが発生すると、手で触れた時に不快であるとともに汚れが蓄積して不衛生になる。そのため、エコバッグやマイかごの持ち主からのクレームの原因になるという問題があった。
【0009】
そこで、従来においては不正貼り替えを防止するシールにおいて、剥離したとしても貼付対象物に糊残りの発生しにくい、再剥離性ないし弱粘着性の粘着剤を用いた技術が開示されている。
例えば、特許文献2のシールに関する技術は、弱粘着剤層を仮着したシール片(カ)に貼替え防止用カット(キ)を形成したことを特徴とする技術とされている。
概説すると、該シールは、シール片の裏面側に塗布する粘着剤を弱粘着性とすることで、購入後に糊残りなく剥離することが容易とされている。
また、貼替え防止カット(キ)は、図12に示すように菱形状の構成となっている。これにより、剥がす際には、貼替え防止用カット(キ)が起点となって破れるため、剥がしたシールを再利用することができなくなり、不正貼り付けを防止することができるというものである。
ここで、貼替え防止用カット(キ)の菱形の上下の角部には、切れ目が途切れた部分であるアンカット部(ク)を残した構成としている。アンカット部(ク)が設けてあることにより、シール片(カ)は全体として一体性を維持しつつ損傷することなく剥離されるため、貼り付けた物品の損傷を防止することが可能となっているというものである。
【0010】
剥離時の破れやすさの観点に着目すると、特許文献2の技術では、剥離時のアンカット部(ク)が貼り替え防止用カットである菱形の端部(ケ・ケ’)同士、つまり菱形の一方の辺の端部(ケ)と他方の辺の相対する端部(ケ’)とで所定の間隔を置いて離間した形状となっている。そのため、シール片の長手方向(菱形の左右方向)に剥離する場合には、アンカット部(ク)があったとしても、応力の集中しやすい端部(ケ・ケ’)同士の間に容易に亀裂が入って破れやすくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7-146651号公報
【特許文献2】特開2014-235230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献2の技術では、シール片を斜め方向に剥離する場合には問題が生じる。すなわち、斜め方向に剥離する場合には、該菱形の端部に生ずる応力のベクトルが、相対する端部とは異なる方向を向くことになる。そのため、剥離の角度によってはシール片の長手方向に剥離する場合と比べて破れにくくなり、原形を維持したまま剥離が可能となってしまうという問題がある。
この問題は、特許文献1の場合であっても同様のことがいえる。
【0013】
一方、例えば家電量販店における家電製品の箱等のように大きな商品等に貼付する場合、貼付するラベル等も長大なものとなるときがある。この場合、貼り付けの際には横に引っ張って皺が寄らないようにしたり、箱に貼る際には天面に貼付した後ピンと張って側面に跨ぐようにしたりして貼付することが行われる。
また、ロール状に巻回されたラベル等を用いる場合、ロールから繰り出すときには所定の力で引っ張り出す必要がある。それに加えて、特定の長さで切り取る場合には、長手方向に引っ張った状態でカッターに押し当てたり、切り取り線に対して捩じる等の操作を加えたりして切り取ることとなる。
このように、ラベル等の使用時には、長手方向に対しての引張り荷重が作用する態様で使用される。
【0014】
この点、再剥離性や弱粘着性の粘着剤を用いたラベル等においては、強粘着性のラベル等と比較してラベル等の基材を破ることなく綺麗に剥離しやすい。一方でこの特徴は欠点でもあり、スリットを有していたとしても原形を維持したまま剥離しやすくなることでもある。そのため、再剥離性や弱粘着性の粘着剤を用いたラベル等においては、貼り替え防止用カット等のスリット同士の間隔をなるべく狭くして破断しやすくするのが一般的である。
【0015】
しかし、上述のように使用時にラベル等の長手方向に対して引っ張り荷重を作用させると、スリット同士の間隔が狭すぎる場合には、スリット同士の間隙がいずれの方向を向いているかに関わらず、若干の応力が生じただけで容易に破断してしまい、使用できなくなるという問題がある。
前記特許文献1は弱粘着性の粘着剤を用いたものであるが、この点については何らの検討もなされていない。
【0016】
本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、長手方向の引っ張りに強い一方、貼付対象物からの剥離時には確実に破断させることが可能であるとともに破断後の残片を糊残りなく貼付対象物から除去することができる、スリット入りラベルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段は以下のとおりである。
(基本構成)
本発明のスリット入りラベルは、基材と粘着層とを有し、それらを厚み方向に貫通するスリットが形成された構成を基本構成としている。これらの構成を備えていれば、平面状に配置されたものやロール状に巻回されたものも含まれる。
なお、スリットとは、幅方向の間隔のない切れ目だけでなく、所定の幅を有する長穴状のものも含むものである。
【0018】
平面状に配置された構成とした場合には、平面的に重ねて嵩張らずに保管することができ、すでに一定形状にカットされた状態で剥離可能であるため、貼付作業が容易である。
一方ロール状に巻回した場合には、ロールから繰り出して任意の長さで切り取ることができ、商品等の大きさに応じて使用サイズを適宜調整して使用することができる。また、剥離紙を用いない構成とした場合には、ごみが出ず環境にも優しい。
【0019】
(基材の構成)
前記基本構成のうち、前記基材は長手方向と短手方向とを有している。詳述すると、使用時におけるスリット入りラベル単体として、長手方向と短手方向とを有していればよく、平面的な形状や大きさは特に限定されない。
【0020】
前記基材の形状を長手方向と短手方向とを有するように配置することにより、剥離して不正な再使用を企図する場合に、短手方向あるいはその角部から、長手方向あるいは斜め方向に向かって剥離させるように誘導することができ、原形を維持したまま剥離されることを防止することができる。
【0021】
(粘着層の構成)
また、前記粘着層は剥離時に貼付対象物に残らないように剥離可能であるとともに、前記基材の一方の面における少なくとも一部に形成されている。
ここで、剥離時に貼付対象物に残らないように剥離可能であるとは、貼付対象物に全く粘着剤が残らないことに限定されるものではなく、多少の糊残りが発生したとしても、簡単に除去ができる場合や、実質的に貼付対象物の品位を損なわない場合を含むものとする。
【0022】
剥離可能な粘着剤は、粘着強度や貼付対象物との化学的な接着性の相性を考慮して選択することができる。これにより、貼付対象物から剥離する際に貼付対象物表面に糊残りが発生しなくなるか、仮に発生したとしても多量に付着することがない。
【0023】
(スリットの構成)
一方、前記スリットは、以下のように構成される。
すなわち、前記スリットは、前記基材の外形線より内側の領域に長手方向に形成された縦断スリットと、前記縦断スリットと前記基材の長手方向の外形線との間の領域に前記縦断スリットに対して傾斜して形成された傾斜スリットとからなる。
長手方向に形成とは、全体として外観した場合、前記基材の外形線の長手方向と同一の方向に向かって形成されていることを意味する。ただし、一部が短手方向に向かう部分を含んでいることを除外するものではなく、複数の縦断スリットを有するものも含まれる。
【0024】
また、前記傾斜スリットは、その一端が前記縦断スリットから離間するとともに、他端が前記基材の長手方向の外形線から離間して形成され、前記縦断スリットに沿って前記傾斜スリットが複数並設されている。
前記縦断スリットに沿って前記傾斜スリットが複数並設とは、縦断スリットに沿って並設された傾斜スリットが複数あることを意味する。ただし、一部に縦断スリットに沿わない傾斜スリットが含まれることを除外するものではない。
【0025】
前記傾斜スリットの傾斜方向に関して、前記縦断スリットに対して傾斜して形成されているとは、前記傾斜スリットが、縦断スリットにおける傾斜スリットの端部に最も近接する部分の接線方向に対して180度までの任意の角度をもって傾斜していることを意味する。ただし、傾斜スリットの一部が傾斜していればよく、傾斜スリットが直線的であり全体が一定の角度で傾斜していることに限定されるものではない。
傾斜スリットを縦断スリットに対して傾斜して形成することで、長手方向のみならず、斜め方向からの剥離であっても、剥離方向が傾斜スリットに垂直な方向に近づく。このため、傾斜スリットを開口する方向に荷重が作用して、傾斜スリットの両端部に応力が集中するため、容易に破断することができる。
また、引っ張り時においては、引っ張り荷重が傾斜スリットに対して垂直に作用せず、一定の角度をもって作用するため、傾斜スリットに垂直な方向、すなわちスリットを開口させる方向の成分が減少し、傾斜スリットの両端部に応力が集中することがない。
【0026】
前記傾斜スリットを複数並設することに関して、前記縦断スリットに沿って複数の傾斜スリットが存在することで、引っ張りに対して各傾斜スリットの開口部が均等に開いて、各傾斜スリットの両端に作用する応力を分散することができる。
また、複数の傾斜スリットを有することで、引っ張り時において各傾斜スリットの開口部が均等に開いてスリット入りラベル全体として良く伸びることとなる。
剥離時においては、傾斜スリットが複数あることにより、いずれかの傾斜スリットが綺麗に剥離されてしまった場合であっても、残余のいずれかの傾斜スリットが破断することとなり、スリット入りラベル全体として、確実に破断しやすくなる。
【0027】
(スリットの作用)
ここで、縦断スリット及び傾斜スリットの作用について詳述する。
一般的に、長手方向と短手方向とを有するラベル等を長手方向に引っ張る場合、素材のもつ弾性により長手方向に引き伸ばされる。引っ張りによる伸びは、断面積(ラベル等においては厚みが僅少であるため実質的に短手方向の幅に相当)に反比例するため、幅が狭い方が良く伸びることとなる。
本発明においては、縦断スリットがあることにより短手方向が複数に分割されることとなる。これにより、基材の短手方向の幅がみかけ上減少するため、同じ引っ張り荷重の場合には伸びが比較的大きくなる。また、分割された領域にいずれにも連結していない独立した傾斜スリットが配置されていることにより、各傾斜スリットが均等に開口することでよく伸びるようになる。
【0028】
この点、同じ引っ張り荷重に対してあまり伸びない素材や形状の場合には、スリット入りラベルの貼付の際にピンと貼る操作をすると、その引っ張り荷重は、指で摘まんだ部分に最も近い傾斜スリットに短時間で伝わり、衝撃荷重として傾斜スリットの両端部に大きな応力が発生して破れてしまう。
しかし、各傾斜スリットが均等に伸びて、スリット入りラベル全体が比較的よく伸びる場合には、伸びにより傾斜スリットへ荷重が掛かる時間が長く引き伸ばされるため、傾斜スリットに作用する荷重は衝撃荷重ではなく、静荷重のようになる。そのため、伸びが少ない場合に作用する衝撃荷重と比較して、指で摘まんだ部分に最も近い傾斜スリットの両端部に発生する応力が低減される。また、各傾斜スリットが均等に開口することで、各傾斜スリットの両端部には均等な応力が発生することとなり、一部の傾斜スリットの端部に応力が集中することがない。
【0029】
ところで、一般的に粘着剤は短時間で剥離するためにはより大きな荷重を必要とするが、ゆっくり剥がせば弱い力で剥離できる性質を有する。
スリット入りラベルをロール状に巻回した場合においては、ロールから繰り出す際には、長手方向の先端側を指で摘まんで引き出すため、先端側の短辺中央部が荷重点となる。一方、他端側は、その短辺全体がロール状に巻回された部分からの剥離の境界線であるため所定の粘性抵抗により固定端のように見ることができるが、実際には荷重点を引っ張ると他端側は順次剥離していく。
【0030】
これを踏まえ、本発明では、前述のように全体が比較的大きく伸びるため、勢いよく繰り出した場合であってもロール状に巻回された部分からの剥離の境界線にかかる荷重の変化が時間的に緩やかになる。その結果、ロール状に巻回された部分から剥離されていくときに必要になる力、すなわち引っ張り荷重が小さくてすむため、各傾斜スリットの端部に発生する応力も小さくなる。
【0031】
また、スリット入りラベルをロール状に巻回した場合には、繰り出した部分を所定の長さで切り取る必要がある。縦断スリットが無い場合には、引っ張り荷重に対する反力が境界線の短辺の中央部付近(指で摘まんだ部分に対応する反対側の位置)に集中し、境界線の両長辺側付近の反力は比較的小さくなってしまう。そのため、繰り出した部分を大きく捩じったり斜めにずらしたりしなければ切り取りの起点となる長辺側の亀裂が発生しない。もしくは、先端における長手方向のいずれか寄りの部分を摘まんで大きく捩じったり斜めにずらしたりしなければならない。
このように、傾斜スリットの端部に余計な力が掛かったり、応力が居所的に集中したりして傾斜スリットが破断してしまうこととなる。
【0032】
しかし、本発明では、分割した領域に沿って応力が発生するため、固定端とみなしたロール体からの剥離の境界線には均等な反力ないし両長辺側付近に比較的大きな反力が発生する。そのため、軽く引っ張った状態で繰り出した部分を少し捩じったり斜めにずらしたりするだけで、容易に切り取りの起点となる長辺側の亀裂が発生しやすい。これは、切取線や切欠き等を形成した場合にはより顕著である。
したがって、傾斜スリットの端部に余計な力が掛かることがなく、傾斜スリットのいずれかの端部に応力が集中することがない。
【0033】
さらに、縦断スリットと傾斜スリットとを所定の条件で配置することの作用について詳述すると、本発明では、傾斜スリットは、その一端が前記縦断スリットから離間して形成されていることにより、傾斜スリットの一端と縦断スリットとは、該傾斜スリットの一端と、該縦断スリットのライン部分とが所定の間隔を置いて離隔している状態となっている。
【0034】
傾斜スリットの端部を縦断スリットあるいは外形線に接続した場合には、引っ張りの際に、傾斜スリットの接続されていない側の端部に大きな応力が集中するため、引っ張りによって容易に破断してしまう。
しかし、本発明では、傾斜スリットを、その一端を前記縦断スリットから離間するとともに、他端を前記基材の長手方向の外形線から離間して形成することにより、いずれかの端部に応力が集中するのを防止している。
【0035】
他方、貼付したスリット入りラベルを剥離する場合について説明すると、剥離の際には、長手方向の稜線から短手方向に向かって剥離することは考えにくい。そのため、想定される態様としては、短手方向の稜線から長手方向へ剥離する方向、及び4つの角部から斜め方向に剥離する方向が想定される。
【0036】
斜め方向に剥離する場合には、傾斜スリットのうち、剥離方向と垂直に近い方の傾斜スリットの両端部に剥離方向と同一方向の亀裂を生じさせるようなベクトルの応力が発生する。この場合には、傾斜スリットと外形線もしくは縦断スリットとは所定の間隔で離間しているものの、傾斜スリット端部から外形線もしくは縦断スリットの任意の部分との距離は、剥離の角度がいかなる角度であったとしても比較的近い状態である。そのため、傾斜スリットの両端部と外形線もしくは縦断スリットの任意の部分との間で容易に破断することとなる。
【0037】
また、長手方向に剥離する場合には、実際には長手方向に正確に平行に剥離することは不可能であり、部分的には必ず若干の角度をもって剥離していくこととなる。そのため、長手方向に剥離する場合であっても、傾斜スリット端部から外形線もしくは縦断スリットの任意の部分との距離が比較的近い状態であるため、傾斜スリットの端部と外形線もしくは縦断スリットの任意の部分との間で容易に破断することとなる。
【0038】
これらのように、剥離時に傾斜スリット端部に発生する応力がいかなる方向のベクトルであったとしても、傾斜スリット端部と縦断スリットとの距離が近いために、傾斜スリットの両端部と外形線もしくは縦断スリットの任意の部分との間で容易に破断することとなる。
この点は、傾斜スリットの他端が前記基材の長手方向の外形線から離間していることにより、他端側についても同様の作用を有する。
【0039】
以上のように、本発明において縦断スリットと傾斜スリットとを設けたことで、スリット入りラベル全体が比較的よく伸びるうえ、傾斜スリットに発生する応力が均等になる。そのため、使用時における引っ張り荷重に対しては破断しにくいが、再使用を企図した剥離時には容易に破断しやすくなるという作用を生じる。
【0040】
(他の構成による手段)
本発明による課題を解決するための手段のうち、基本的な構成によるものについては上記のとおりであるが、本発明においては、下記の手段を用いることも可能である。
一例として、スリット入りラベルをロール状に巻回した構成の場合には、傾斜スリットは前記基材の長手方向の外形線側の一端がロール先端側に向くように傾斜することも可能である。ただし、傾斜スリットの全部または一部が縦断スリット側の他端がロール先端側に向くように傾斜するものを除外するものではない。
【0041】
ロール状に巻回した構成において、傾斜スリットを前記基材の長手方向の外形線側の一端がロール先端側に向くように傾斜した場合には、荷重点である先端の中央部から、直近の傾斜スリットの両端部までの距離の差が小さくなる。
すると、引っ張り荷重のうち、傾斜スリットに垂直な方向の成分により、直近の傾斜スリットが均等に開口するように変形し、それに伴い隣接する各傾斜スリット間で区画された領域も均等に変位する。これが順次伝播し、複数の傾斜スリット全体が均等に変形する。
これにより、全体がより均等に伸びやすくなり、複数の傾斜スリットの端部に発生する応力もより均等になる。なお、傾斜スリットに垂直な方向の成分は、引っ張り荷重の一部であるため、それにより直ちに傾斜スリットの両端部に応力が集中するわけではない。
【0042】
また、前記基材は、略長方形とすることも可能である。
これにより、角部から、長手方向あるいは斜め方向に向かって剥離させるように誘導する作用を増大させることができる。
【0043】
前記縦断スリットにおける形成方向については、前記基材の短手方向の外形線における中心同士を結ぶ線に沿って形成することも可能である。ただし、必ずしも直線であるや中心線に沿って配置されることに限定されるものではない。
前記基材の短手方向の外形線における中心同士を結ぶ線に沿って形成した場合には、分割された両側の領域が同一の幅となるため、引っ張り時の応力の均等化がより図られ、剥離時においても剥離方向毎の破断のしやすさが均等になる。
【0044】
このとき、少なくとも一箇所の隣接する前記傾斜スリット間においては前記縦断スリットが途切れていないように形成することが可能である。ただし、一部において途切れていたり、縦断スリットが断続的であったりするものを除外するものではない。
少なくとも一箇所の隣接する前記傾斜スリット間においては前記縦断スリットが途切れていないように形成した場合には、斜め方向あるいは長手方向に剥離したとき、より広範な剥離方向において、傾斜スリットの端部と縦断スリットの途切れていない部分、すなわちスリット部分に向かって亀裂が入りやすくなる。
【0045】
また、傾斜スリットの配置に関しては、傾斜スリットは縦断スリットの片側のみに配置することも両側に配置することも可能である。
傾斜スリットを縦断スリットの両側に配置した場合には、分割された両方の領域に発生する応力がより均等になる。また、剥離時に、より広範な剥離方向や剥離角度において、傾斜スリットが容易に破断しやすくなる。
【0046】
他方、傾斜スリットの両端部の配置については、前記傾斜スリットの両端部において、前記縦断スリット側の一端と該縦断スリットとの距離よりも、前記基材の長手方向の外形線側の一端と該外形線との距離のほうを大きくすることが可能である。ただし、一部に縦断スリットとの距離よりも、前記基材の長手方向の外形線側の一端と該外形線との距離のほうが小さいものが含まれることを除外するものではない。
前記縦断スリット側の一端と該縦断スリットとの距離よりも、前記基材の長手方向の外形線側の一端と該外形線との距離のほうを大きくした場合には、剥離時には傾斜スリットにおける縦断スリットよりの端部がより破断しやすくなる。また、外形線側の一端と該外形線との距離が大きいことにより、引っ張り時に破れにくくなる。
【0047】
また、複数の傾斜スリットは、全て同一の傾斜方向とすることが可能であるが、傾斜方向は傾斜スリットごとに異なる角度とすることを除外するものではない。
複数の傾斜スリットを全て同一の傾斜方向とした場合には、引っ張り時における分割された領域の伸びが全体を通して均等になり、分割された領域に発生する応力もより均等になる。
【0048】
また、複数の傾斜スリット間の距離を一定とすることも可能であるが、必ずしも全ての傾斜スリット間で距離が一定であることに限定されるものではない。
複数の傾斜スリット間の距離を一定とした場合には、分割された両方の領域に発生する応力が、傾斜スリットの位置に関わらずより均等になる。
【発明の効果】
【0049】
本発明では、スリット入りラベルの使用の際に長手方向にピンと引っ張る場合において、引っ張り荷重が傾斜スリットに対して垂直に作用せず、一定の角度をもって作用するため、傾斜スリットに垂直な方向、すなわちスリットを開口させる方向の成分が減少し、傾斜スリットの両端部に応力が集中することがない。そのため、長手方向の引っ張りに強くなるという効果がある。
【0050】
縦断スリットと傾斜スリットとを設けた点については、スリット入りラベルにおけるスリットを、基材の外形線より内側の領域に長手方向に形成された縦断スリットと、縦断スリットと基材の長手方向の外形線との間の領域に縦断スリットに対して傾斜して形成された傾斜スリットとにより構成し、縦断スリットに沿って前記傾斜スリットを複数並設したことにより、スリット入りラベル全体が比較的よく伸びる。その伸びにより荷重が印加される時間が長く引き伸ばされるため、傾斜スリットに作用する荷重は静荷重のようになる。そのため、傾斜スリットの両端部に発生する応力が低減される。
【0051】
また、スリット入りラベルをロール状に巻回した場合には、スリット入りラベル全体が比較的よく伸びることにより、ロールから剥離されていくときに必要になる力、すなわち引っ張り荷重が小さくてすむため、各傾斜スリットの端部に発生する応力も小さくなる。
【0052】
さらに、繰り出した部分を所定の長さで切り取る際、引っ張った状態においては分割した領域に沿って引っ張り荷重が均等に伝わり、固定端であるロール体からの剥離境界線には均等ないし両端寄りの反力が発生する。そのため、軽く引っ張った状態で繰り出した部分を少し捩じったり斜めにずらしたりするだけで、容易に切り取りのきっかけとなる長辺側の亀裂が発生することとなり、傾斜スリットの端部に余計な力を掛けることがない。
【0053】
加えて、縦断スリットと傾斜スリットの配置については、傾斜スリットの一端を縦断スリットから離間するとともに、他端を基材の長手方向の外形線から離間して形成したことにより、引っ張りの際にいずれかの端部に応力が集中するのを防止している。
【0054】
これらのように、使用時にスリット入りラベルに引っ張り荷重を作用させた場合であっても、長手方向の引張りに強く、容易に破断して使用不能になることがないという効果がある。
【0055】
一方、不正を企図した剥離の場合には、傾斜スリットを縦断スリットに対して傾斜して形成することで、長手方向のみならず、斜め方向からの剥離であっても容易に破断させることができる。そのため、貼付対象物からの剥離時には確実に破断させることができるという効果がある。
【0056】
また、縦断スリットに対して傾斜した傾斜スリットを縦断スリット及び外形線から離間して配置したことにより、長手方向あるいは4つの角部からの斜めの剥離の際に、傾斜スリット端部と縦断スリットもしくは外形線との距離が近いために、容易に破断させることができる。
そのため、貼付対象物からの剥離時には確実に破断させることが可能となるという効果がある。
【0057】
他方、粘着層に再剥離可能な粘着剤を用いたことにより、貼付対象物から剥離する際に貼付対象物表面に糊残りが発生しなくなるか、仮に発生したとしても多量に付着することがない。
そのため、贈答等でスリット入りラベルを綺麗に剥離する必要がある場合や、エコバッグやマイかごに貼付されたスリット入りラベルを、次の使用のために剥離する必要がある場合に、破断後の残片を糊残りなく貼付対象物から除去することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明のスリット入りラベルを表す正面図及び側面図である。
図2】本発明のスリット入りラベルを引っ張った場合の変形及び応力分布の様子を表す説明図である。
図3】本発明のスリット入りラベルを貼付対象物から剥離する場合の亀裂の生じ方を表す正面図である。
図4】本発明のスリット入りラベルを貼付対象物から剥離した後の状態を表す正面図である。
図5】本発明の変形例1を表す正面図及び平面図である。
図6】本発明の変形例1を引っ張った場合の変形及び応力分布の様子を表す説明図である。
図7】本発明の変形例2を表す正面図及び平面図である
図8】本発明の変形例3を表す正面図である。
図9】本発明の変形例4を表す正面図である。
図10】本発明の変形例5表す正面図である。
図11】特許文献1の従来例を表す正面図である。
図12】特許文献2の従来例を表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明を実施するための形態について、図1図4に基づいて以下に説明する。
なお、図1において、符号Lの方向を左右方向、符号Sの方向を上下方向、紙面の表側から裏側に向かう方向を前方向、紙面の裏側から表側に向かう方向を後方向とする。
【0060】
(基本構成)
本発明のスリット入りラベル100は、図1に示すように、薄いシート状の基材1と、基材1の一方の面に設けられた粘着層2とを有する。なお、図1の側面図は層構造の理解のために各構成物の厚さを強調して示している。
粘着層2は基材1の裏面全体に設けるのが好ましいが、必要に応じて非粘着部を部分的に設けてもよい。
【0061】
また、粘着層2における基材1の反対側の面には、基材1よりも一回り大きな形状の剥離紙を設けるようにしてもよい(図示せず)。
図1ではひとつのスリット入りラベル100のみしか表示していないが、剥離紙に複数のスリット入りラベル100・100…を並設して配置するようにしてもよい。
【0062】
(基材の構成)
基材1は、正面視において、長手方向を左右方向Lの方向とし、短手方向を上下方向Sの方向とした略長方形の薄いシート状の部材である。
材質としてはアート紙等の紙を好適に用いることができるが、薄いシート状のもので貼付と剥離が可能であり、破断しやすい物性であれば、低密度ポリエチレン等の薄い樹脂フィルム等を用いることもでき、材質は特に限定されない。
基材1の表面は所定の印刷を施すことができ、更にコーティング加工等を施すことも可能である。
【0063】
(粘着層の構成)
粘着層2は剥離時に貼付対象物に残らないような強度と粘着性を有する粘着剤が形成されたものであり、基材レスのアクリル系粘着剤を用いて塗布することで形成することができる。なお、貼付対象物に残らないものであれば、ウレタン系のものや基材を有する両面テープを用いてもよく、貼付対象物の表面の物性に応じて適宜選択することができる。
【0064】
(縦断スリットの構成)
縦断スリット3は、図1の正面図に示すように、基材1の短辺12・12’の中央同士を結んだ線、すなわち基材1の短手方向Sにおける中心線に沿って長手方向に形成され設けられており、基材1及び粘着層2を厚み方向に貫通したスリットである。
縦断スリット3の長さは、基材1の長辺11・11’の長さの半分以上あるのが望ましく、複数の縦断スリット3・3を縦列して構成する場合には、それらの合計の長さが基材1の長辺11・11’の長さの半分以上であるとよい。
【0065】
また、縦断スリット3の端部31は、端部31と基材1の短辺12との間隙32が設けられている。同様に、縦断スリット3の端部31’は、端部31’と基材1の短辺12’との間隙32’が設けられている。
このように、縦断スリット3は基材1の外形線11・11’・12・12’よりも内側の領域に形成されており、外形線11・11’・12・12’とはいずれにも接続されていない。
【0066】
この縦断スリット3により、基材1の中央部の幅13は上下に分割され、分割された領域の幅14・14’は均等になる。
【0067】
(傾斜スリットの構成)
傾斜スリット4a・4a’・4b・4b’…(4)は、縦断スリット3と基材1の長辺11・11’との間の領域、すなわち、縦断スリット3によって分割された領域の幅14・14’の間に9個ずつ形成されており、それぞれが縦断スリット3に沿って並設されている。
傾斜スリット4は縦断スリット3の接線方向と所定の傾斜角度45で傾斜しており、各傾傾斜スリット4は全て45度で統一されている。
【0068】
また、傾斜スリット4は、縦断スリット側の端部41と、長辺側の端部42とを有している。すなわち、傾斜スリット4は、縦断スリット3と縦断スリット側の端部41・41’との間隙43・43’と、長辺11・11’と長辺側の端部42・42’との間隙44・44’とを有しており、傾斜スリット4と縦断スリット3及び長辺11・11’とは離間しているため、いずれにも接続されていない。
【0069】
傾斜スリット4の傾斜の方向については、長辺側の端部42・42’が左側、縦断スリット側の端部41・41’が右側となるように配置されており、各傾斜スリット4は全て同一の方向で配置されている。
【0070】
縦断スリット側の端部41及び長辺側の端部42の配置については、縦断スリット3と縦断スリット側の端部41・41’との間隙43・43’よりも長辺11・11’と長辺側の端部42・42’との間隙44・44’の方が大きくなるように形成している。
【0071】
また、各傾斜スリット4同士の間隙は、長辺側の端部42・42’において法線を縦断スリット3側に延長した場合に隣接する傾斜スリット4と重なる程度の距離で離間しており、すべて同一となるように統一している。
このような距離で離間することで、剥離時に縦断スリット側の端部41・41’または長辺側の端部42・42’から発生した亀裂が、隣接する傾斜スリット4と接続されやすくなり、綺麗に剥離することを防止する効果がより顕著になる。
【0072】
(引っ張り時の変形及び応力)
次に、本発明のスリット入りラベル100を左右に引っ張って貼付対象物に貼付する場合において、スリット入りラベル100がどのように変形し、どのような応力が作用するのかについて、図2に基づいて説明する。
【0073】
スリット入りラベル100を左右にピンと引っ張る場合には、図2(a)に示すように、短辺12・12’の中央部付近を指で摘まむことになるため、ある程度の面積に対して左右方向に荷重を作用させる状態となる。このときの引張り荷重は左右方向に平行な荷重であって、荷重範囲5・5’には同一の引張り荷重が互いに反対方向に作用する。
【0074】
この条件で左右に引っ張ると、スリット入りラベル100は、図2(b)に示すように、左右に伸びることとなる。なお、図2(b)は変形の様子を拡大強調して表示している。
短辺12・12’においては、荷重範囲5・5’の部分が若干膨出した形状となる一方で、長辺11・11’は中央部が弓なりにくびれたような形状となる。
【0075】
ここで、縦断スリット3は、上下の稜線が重なり、いずれかの稜線が前側となり、他方の稜線が後側となる。
このように、縦断スリット3が重なることにより、長辺11・11’の中央部が大きく撓むことが可能となるが、分割された領域の幅14・14’は、変形前とあまり変わらない。すなわち、分割された領域の幅14・14’に発生する応力は、図2(c)に示すように、幅方向に沿って比較的均等な応力となる。なお、図2(c)は、変形前の外形図に対して応力分布を表示している。
【0076】
また、傾斜スリット4は開口するように変形するが、その開口量は各傾斜スリット4a・4a’・4b・4b’…(4)で略同等である。これにより、大きく伸びた状態において、各傾斜スリット4の縦断スリット側の端部41と長辺側の端部42とに発生する応力は、図2(c)に示すように、比較的均等な応力となる。
【0077】
一方、縦断スリット3が無いスリット入りラベル100の場合には、幅方向の寸法が広いため、同じ引っ張り荷重で左右に引っ張ったとしても、あまり伸びない。そのため、ピンと引っ張った直後は衝撃荷重として作用するため、静荷重のように、荷重が全体でつり合う前に、荷重範囲5に近い傾斜スリット4a・4a’、及び荷重範囲5’に近い傾斜スリット4i・4i’に瞬間的に応力が集中することとなる。
したがって、縦断スリット3が無い場合には、傾斜スリット4が破断して使用不可能となってしまう。
【0078】
(剥離時の破断の態様)
次に、本発明のスリット入りラベル100を貼付対象物に貼付したあと、不正使用を企図して剥離しようとする場合について、図3に基づいて説明する。
剥離する場合の態様については、短手方向の稜線から長手方向へ剥離する方向、及び4つの角部から斜め方向に剥離する方向が想定される。
【0079】
図3(a)には、左上から剥離する場合の剥離方向を黒塗りの矢印で示し、右下から剥離する場合の方向を白抜きの矢印で示している。ここで、左下から剥離する場合は、左上から剥離する場合と上下方向に対称であるため省略する。同様に、右上から剥離する場合は、右下から剥離する場合と上下方向に対称であるため、省略する。
また、図3(b)には、左から右方向に剥離する場合の剥離方向を黒塗りの矢印で示し、右から左方向に剥離する場合の方向を白抜きの矢印で示している。
【0080】
まず、左上から剥離する場合、剥離の方向に対して略平行に配置されている傾斜スリット4aについては、スリットを開口する方向の変形が生じないため、剥離境界線6が傾斜スリット4aを通過したとしても、縦断スリット側の端部41a及び長辺側の端部42aには応力が作用せず、きれいに剥離されていくこととなる。
【0081】
しかし、剥離境界線6が進行し、傾斜スリット4a’を通過した場合には、傾斜スリット4a’が剥離方向に対して略垂直(剥離境界線6と略平行)であるため、スリットを開口するような荷重が作用し、縦断スリット側の端部41a’及び長辺側の端部42a’に剥離方向に平行な方向の応力が発生する。
そのため、縦断スリット側の端部41a’からは隣接する傾斜スリット4b’に向かって亀裂が生じて破断することとなる。また、長辺側の端部42a’からは長辺11’に向かって亀裂が生じて破断することとなる。
【0082】
なお、剥離の角度によって、剥離境界線6が縦断スリット3の端部31を通過した場合に、端部31に斜め方向の応力が作用して、端部31から傾斜スリット4a’に向かって亀裂が生じて破断することもある。
【0083】
一方、右下から剥離する場合、まず傾斜スリット4i’を通過した場合には、傾斜スリット4i’が剥離方向に対して略垂直(剥離境界線6と略平行)であるため、スリットを開口するような荷重が作用し、縦断スリット側の端部41i’及び長辺側の端部42i’に剥離方向に平行な方向の応力が発生する。
そのため、縦断スリット側の端部41i’からは縦断スリット3に向かって亀裂が生じて破断することとなる。また、長辺側の端部42i’からは隣接する傾斜スリット4h’に向かって亀裂が生じて破断することとなる。
なお、剥離境界線6が縦断スリット3の端部31’を通過した場合に、端部31’に斜め方向の応力が作用するため、端部31’から傾斜スリット4iの縦断スリット側の端部41iに向かって亀裂が生じて破断することもある。
【0084】
次に、左から右方向に剥離する場合、短辺12は所定の長さを有していることから、指で摘まんで剥離する場合においては、短辺12に沿って平行に剥離していくことは不可能である。そのため、まず、いずれかの角を少し剥離し、その後短辺12に沿って剥離していくことなり、図3(b)に示すように、剥離境界線6はダンラムに波打ったような状態となる。
【0085】
まず、左から右方向に剥離する場合、剥離の方向に対して略平行に配置されている縦断スリット3については、スリットを開口する方向の変形が生じないため、剥離境界線6が縦断スリット3の端部31を通過したとしても、端部31には応力が作用せず、きれいに剥離されていくこととなる。
【0086】
しかし、剥離境界線6が傾斜スリット4a・4a’を通過した場合には、傾斜スリット4a・4a’は所定の角度で傾斜しているうえ、剥離境界線6が短辺12に対して波打って平行ではないため、傾斜スリット4a・4a’の縦断スリット側の端部41a・41a’及び長辺側の端部42a・42a’には斜め方向の応力が作用する。これにより、縦断スリット側の端部41a・41a’から縦断スリット3に向かって亀裂が生じて破断することとなる。また、長辺側の端部42・42’から長辺11・11’に向かって亀裂が生じて破断することとなる。
【0087】
ここで、隣接する傾斜スリット4a・4b間、あるいは傾斜スリット4a’・4b’間においては縦断スリット3が途切れておらず、連続しているため、生じた亀裂が確実に縦断スリット3と接続され、破断しやすくなる。
【0088】
右から左方向に剥離する場合においても同様であり、剥離の方向に対して略平行に配置されている縦断スリット3については、スリットを開口する方向の変形が生じないため、剥離境界線6が縦断スリット3の端部31’を通過したとしても、端部31’には応力が作用せず、きれいに剥離されていくこととなる。
【0089】
しかし、剥離境界線6が傾斜スリット4i・4i’を通過した場合には、傾斜スリット4i・4i’は所定の角度で傾斜しているうえ、剥離境界線6が短辺12’に対して波打って平行ではないため、傾斜スリット4i・4i’の縦断スリット側の端部41i・41i’及び長辺側の端部42i・42i’には斜め方向の応力が作用する。これにより、縦断スリット側の端部41i・41i’から縦断スリット3に向かって亀裂が生じて破断することとなる。また、長辺側の端部42i・42i’から長辺11・11’に向かって亀裂が生じて破断することとなる。
【0090】
このように、本発明のスリット入りラベル100においては、不正使用を企図して剥離しようとする場合に、いずれの方向から剥離しようとしても確実に破断されることとなる。
また、傾斜スリット4を複数並設していることにより、万が一ひとつの傾斜スリット4が綺麗に剥がされてしまったとしても、並設されたいずれかの傾斜スリット4によって破断が起きることとなる。そのため全ての傾斜スリット4を綺麗に剥がすことは、相当な困難を要する。
【0091】
そして、本発明のスリット入りラベル100を剥離した後は、図4に示すような状態となる。斜めに剥離した場合には、図4(a)に示すように、残余の傾斜スリット4により山型となった残片7が残る。また、左右方向に剥離した場合には、図4(b)に示すように、矢印型の残片7が残る。
これら残片7・7…は、粘着層2が貼付対象物に残らないような強度と粘着性を有する粘着剤により形成されていることにより、容易に綺麗に剥がすことができる。
【0092】
このように、本発明のスリットイリラベル100は、長手方向の引っ張りに強いため、使用時に誤って破断させて使用不能になってしまうことがない。その一方で、貼付対象物からの剥離時には確実に破断させることが可能であるとともに破断後の残片を糊残りなく貼付対象物から除去することができるものである。
【0093】
『変形例1』
次に、本発明の本発明のスリット入りラベルの変形例について、図5及び図6に基づいて説明する。なお、同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0094】
(基本構成)
本変形例のスリット入りラベル101は、図5に示すように、スリット入りラベルをロール状に巻回して構成されている。
【0095】
また、基材1は、表面に剥離性のコーティングがされており、ロール状に巻回するに当たって、上側となる粘着層2と下側となる基材1との間の剥離紙を不要としている。
したがって、使用の際には、先端側の短辺12を指で摘まんで引っ張ることで、巻回された部分が順次剥離されて繰り出されていく。
【0096】
本変形例においては、スリット入りラベルが、切取線8を介して連続して接続されており、使用者は切取線8・8の間の間隔をひとつの単位として、任意の長さで切り取って使用することができる。
この切取線8は、所定間隔でスリット加工されたミシン目であるが、長辺11・11’にV字の切れ込みを設けるような方法や、ハーフカットのようなものであってもよい。
【0097】
また、傾斜スリット4は長辺側の端部42がロール先端側に向くように傾斜しており、すべての傾斜スリット4において方向が統一されている。
【0098】
(引っ張り時の変形及び応力)
ところで、本変形例においては、ロールから繰り出す場合には、ロールから剥離する部分が直線状の剥離境界線6となる。この場合、ロールから繰り出すときに発生する引っ張り荷重は、図6(a)に示すように、剥離境界線6である短辺12’の全体を固定した状態で、相対する短辺12の中央部を荷重範囲5として左方向に引っ張る状態となる。
【0099】
この条件で左右に引っ張ると、スリット入りラベル101は、図6(b)に示すように、左右に伸びることとなる。なお、図6(b)は変形の様子を拡大強調して表示している。
短辺12においては、荷重範囲5・5’の部分が若干膨出した形状となる一方で、固定端である短辺12は変形しない。また、長辺11・11’は中央部が弓なりにくびれたような形状となるが、そのくびれの中心はやや左寄りとなっている。
【0100】
ここで、縦断スリット3は、上下の稜線が重なり、いずれかの稜線が前側となり、他方の稜線が後側となる。
すなわち、両端を指で摘まんで引っ張る場合と同様、縦断スリット3が重なることにより、長辺11・11’の中央部が大きく撓むことが可能となるが、分割された領域の幅14・14’は、変形前とあまり変わらない。すなわち、分割された領域の幅14・14’に発生する応力は、図6(c)に示すように、幅方向に沿って比較的均等な応力となる。なお、図6(c)は、変形前の外形図に対して応力分布を表示している。
【0101】
また、傾斜スリット4は均等に開口するように変形する。これは、傾斜スリット4は長辺側の端部42がロール先端側に向くように傾斜させたことで、荷重範囲5と直近の傾斜スリット4a・4a’における縦断スリット側の端部41a・41a’との距離、及び荷重範囲5と長辺側の端部42a・42a’との距離が同程度となることによる。
すなわち、縦断スリット側の端部41a・41a’と長辺側の端部42a・42a’とには左右対称のベクトルで同程度の荷重が作用することとなる。そのため、傾斜スリット4a・4a’が均等に引っ張られ、その変位が隣接する傾斜スリット4b・4b’…に順次伝播する。
これにより、開口量は各傾斜スリット4a・4a’・4b・4b’…(4)で略同等となるため、大きく伸びやすい。また、各傾斜スリット4の縦断スリット側の端部41と長辺側の端部42とに発生する応力は、図6(c)に示すように、比較的均等な応力となる。
【0102】
したがって、ロールから繰り出すときに勢いよく引っ張ったとしても、伸びにより粘着剤がゆっくり剥離されるため、ロールから剥離されていくときに必要になる力、すなわち引っ張り荷重が小さくてすみ、各傾斜スリットの端部に発生する応力も小さくなる。
【0103】
また、繰り出した部分を所定の長さで切り取る際、引っ張った状態においては分割した領域に沿って引っ張り荷重が均等に伝わり、固定端であるロール体からの剥離境界線6には両端寄りの反力が発生する。そのため、軽く引っ張った状態で繰り出した部分を少し捩じったり斜めにずらしたりするだけで、容易に切り取り線8に亀裂が発生し、傾斜スリット4を破断させることなく切り取ることができる。
【0104】
『変形例2』
次に、本発明の本発明のスリット入りラベルの他の変形例について、図7に基づいて説明する。なお、同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0105】
本変形例のスリット入りラベル102は、図7に示すように、ロール状に巻回されたスリット入りラベルにおいて、長辺11・11’が直線状ではなく、鋸歯状になっている。
このように鋸歯状とすることで、別途の切取線を設けることなく、任意の位置で切り取ることができるため、商品等の大きさに合わせて、貼付するスリット入りラベルの大きさを細かく調整することができる。
【0106】
『変形例3』
次に、本発明の本発明のスリット入りラベルの他の変形例について、図8に基づいて説明する。なお、同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0107】
本変形例のスリット入りラベル103は、図8に示すように、平面状のスリット入りラベルにおいて、短辺12・12’が直線状ではなく、弓なりにくびれた形状となっている。
このようにくびれた形状とすることで、剥離の際に必ず角部から剥離するように誘導することができ、より確実に傾斜スリット4の位置で破断させることができる。
【0108】
また、本変形例では縦断スリット3・3を2つ連続して設けられており、所定の縦断スリット3・3間の間隙33が設けられている。
これにより、スリット入りラベル103全体が良く伸びるという効果を維持したまま、中央部の強度を向上することができるため、使用時に誤って破断させることを防止することができる。
【0109】
『変形例4』
次に、本発明の本発明のスリット入りラベルの他の変形例について、図9に基づいて説明する。なお、同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0110】
本変形例のスリット入りラベル104は、図9に示すように、平面状のスリット入りラベルにおいて、傾斜スリット4の傾斜方向が、ひとつ置きに交互になるように配置している。
このようにひとつ置きに交互に配置することにより、上下方向及び左右方向いずれにおいても対称形状となるため、引っ張りに対する強度や剥離方向による破断のしやすさが均等となる。
【0111】
『変形例5』
次に、本発明の本発明のスリット入りラベルの他の変形例について、図10に基づいて説明する。なお、同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0112】
本変形例のスリット入りラベル105は、図10に示すように、縦断スリット3が基材1の短辺12・12’の中央同士を結んだ線から下方向にずれた位置に配置されている。
【0113】
また、傾斜スリット4a・4b…の傾斜角度や傾斜方向が全て異なるものとして配置されている。また、一部の傾斜スリット4d・4eは互いに一部が交差して配置されている。
このように、傾斜スリット4をランダムに配置することで、いずれの方向から剥離された場合であっても、いずれかの傾斜スリットによって破断することができる。
【0114】
本発明のスリット入りラベルは、上記の形態に限られず、例えば縦断スリット3は長手方向に斜めに形成することもできる。また、縦断スリット3・3を二つ平行に設けることもできる。
別の例としては、縦断スリット3の一部を湾曲ないし屈曲させたり、ジグザグ形状にしたりしてもよいし、縦断スリットをミシン目状に断続的に設けても良い。
【0115】
傾斜スリット4については、例えば全体として傾斜していれば、直線状ではなく曲線状であってもよく、一部がミシン目状に形成されていてもよい。
また、傾斜スリット4は、縦断スリット3によって分割された領域のひとつの領域にのみ形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0116】
100,101,102,103,104,105 スリット入りラベル
1 基材
11 長辺
12 短辺
13 中央部の幅
14 分割された領域の幅
2 粘着層
3 縦断スリット
31 端部
32 端部と基材の短辺との間隙
33 縦断スリット間の間隙
4 傾斜スリット
41 縦断スリット側の端部
42 長辺側の端部
43 縦断スリットと縦断スリット側の端部との間隙
44 長辺と長辺側の端部との間隙
45 傾斜角度
46 傾斜スリット同士の間隙
5 荷重範囲
6 剥離境界線
7 残片
8 切取線
L 左右方向
S 上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12