IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187404
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20221212BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20221212BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/21 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095430
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】船見 浩司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 出
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168CA03
4E168CA05
4E168CA13
4E168CB07
4E168DA02
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】レーザ加工における加工状態の評価精度を向上させるレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】発振器からレーザビームを照射しながら走査させ、加工対象となる部材を溶融部によって接合するレーザ加工方法であって、レーザビームの照射によって部材から放射される熱放射光、プラズマ光、反射光のいずれかを含む溶接光の強度を第1測定領域と、第1測定領域とは異なる第2測定領域とのそれぞれにて測定するステップと、第1測定領域及び第2測定領域において、測定されたそれぞれの溶接光の強度に基づき加工状態を評価するステップと、を含み、第1測定領域と第2測定領域とは、レーザビームの走査方向と交差する方向に並ぶ。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器からレーザビームを照射しながら走査させ、加工対象となる部材を溶融部によって接合するレーザ加工方法であって、
前記レーザビームの照射によって前記部材から放射される熱放射光、プラズマ光、反射光のいずれかを含む溶接光の強度を第1測定領域と、前記第1測定領域とは異なる第2測定領域とのそれぞれにて測定するステップと、
前記第1測定領域及び前記第2測定領域において、測定されたそれぞれの前記溶接光の前記強度に基づき加工状態を評価するステップと、
を含み、
前記第1測定領域と前記第2測定領域とは、前記レーザビームの走査方向と交差する方向に並ぶ、レーザ加工方法。
【請求項2】
前記測定するステップは、
前記第1測定領域からの前記溶接光を、光学系を用いて第1光ファイバに集光させ、前記第1光ファイバにより伝送された前記溶接光を第1センサにより測定し、
前記第2測定領域からの前記溶接光を、前記光学系と同じ光学系を用いて第2光ファイバに集光させ、前記第2光ファイバにより伝送された前記溶接光を第2センサにより測定することを含む、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第1測定領域と前記第2測定領域とは、前記走査方向と直交する方向に並ぶ、請求項1または2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
正常溶接時の前記溶融部は、前記走査方向と直交する方向に幅を有し、
前記第1測定領域と前記第2測定領域とは、それぞれ前記溶融部の前記幅以下の直径を有し、
前記第1測定領域が、正常溶接時の前記レーザビームの照射位置を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記第1測定領域と前記第2測定領域とは、前記溶融部の前記幅と同じ大きさの直径を有する、請求項4に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記測定するステップにおいて、前記溶接光の前記強度を、前記第1測定領域及び前記第2測定領域とは異なる第3測定領域で測定し、
前記第1測定領域と前記第2測定領域と前記第3測定領域とは、前記走査方向と直交する方向に隣接して並び、
前記第1測定領域は、正常溶接時の前記レーザビームの照射位置を含み、
前記第2測定領域と、前記第3測定領域とは、前記第1測定領域を挟んで配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記評価するステップは、
前記第1測定領域において測定された前記溶接光の信号強度と、予め設定された第1閾値とを比較し、
前記第2測定領域において測定された前記溶接光の信号強度と、予め設定された第2閾値とを比較し、及び、
前記第3測定領域において測定された前記溶接光の信号強度と、予め設定された第3閾値とを比較することを含む、請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記第1閾値は下限値であり、前記第2閾値は上限値であり、前記第3閾値は上限値であり、
前記評価するステップは、
前記第1測定領域で測定された信号強度が、前記第1閾値より小さく、
前記第2測定領域で測定された信号強度が、前記第2閾値より小さく、
前記第3測定領域で測定された信号強度が、前記第3閾値より大きいと、
前記溶融部の一方側に溶融異常が発生したと判定する、請求項7に記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
前記第1閾値は上限値であり、前記第2閾値は上限値であり、前記第3閾値は上限値であり、
前記評価するステップは、
前記第1測定領域で測定された信号強度が、前記第1閾値より小さく、
前記第2測定領域で測定された信号強度が、前記第2閾値より大きく、
前記第3測定領域で測定された信号強度が、前記第3閾値より大きいと、
前記レーザビームの照射方向に沿って前記レーザビームの焦点位置がずれたと判定する、請求項7に記載のレーザ加工方法。
【請求項10】
レーザビームを照射しながら走査させ、加工対象となる部材を溶融部によって接合するレーザ加工装置であって、
レーザビームを照射する発振器と、
前記レーザビームを前記部材に導く照射光学系と、
前記部材を前記レーザビームに対して相対的に移動させ、前記レーザビームを走査させるステージと、
前記レーザビームの照射によって前記部材から放射される熱放射光、プラズマ光、反射光のいずれかを含む溶接光を、第1測定領域と、前記第1測定領域とは異なる第2測定領域とのそれぞれから導く測定光学系と、
前記第1測定領域から前記測定光学系に導かれた前記溶接光の強度を測定する第1センサと、前記第2測定領域から前記測定光学系に導かれた前記溶接光の強度を測定する第2センサと、
前記第1測定領域及び前記第2測定領域において、測定されたそれぞれの前記溶接光の前記強度に基づき加工状態を評価する判定部と、
を備え、
前記第1測定領域と前記第2測定領域とは、前記レーザビームの走査方向と交差する方向に並ぶ、レーザ加工装置。
【請求項11】
前記第1測定領域から前記測定光学系に導かれた前記溶接光を、前記第1センサに伝送する第1光ファイバと、
前記第2測定領域から前記測定光学系に導かれた前記溶接光を、前記第2センサに伝送する第2光ファイバと、
をさらに備える、請求項10に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ加工方法として、レーザ溶接を行い、リアルタイムで溶接状態の評価を行う方法が知られている。レーザ溶接時に溶融部から発光する熱放射光、プラズマ光、またはレーザ反射光等の溶接光のピーク強度、または発光エネルギに相当する溶接光強度の積分値に基づいて、溶接状態の評価が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1では、レーザ加工ヘッドに取り付けられた溶接光測定光学系を用いて、レーザ溶接時に溶融部から発光される溶接光からレーザ加工を監視している。
【0004】
また、例えば、特許文献2では、レーザ溶接時に溶融部から発光される溶接光を、レーザ加工ヘッドに取り付けられた1本の光ファイバを用いて光伝送させ、その出口に取り付けられた溶接光測定光学系を用いてレーザ溶接状態を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/185973号
【特許文献2】特許第3184969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載のレーザ加工方法では、レーザ照射位置周辺の溶融部の近傍における溶接光が一括して測定される。そのため、レーザ溶融部の詳細状態、及び溶融部の周囲に発生する溶融異常状態を精度良く評価することが困難である。したがって、加工状態の評価精度の向上といった点で未だ改善の余地がある。
【0007】
従って、本開示の目的は、上記従来の課題を解決することにあって、レーザ加工における加工状態の評価精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一の態様のレーザ加工方法は、発振器からレーザビームを照射しながら走査させ、加工対象となる部材を溶融部によって接合するレーザ加工方法であって、レーザビームの照射によって部材から放射される熱放射光、プラズマ光、反射光のいずれかを含む溶接光の強度を第1測定領域と、第1測定領域とは異なる第2測定領域とのそれぞれにて測定するステップと、第1測定領域及び第2測定領域において、測定されたそれぞれの溶接光の強度に基づき加工状態を評価するステップと、を含み、第1測定領域と第2測定領域とは、レーザビームの走査方向と交差する方向に並ぶ。
【0009】
本開示の一の態様のレーザ加工装置は、レーザビームを照射しながら走査させ、加工対象となる部材を溶融部によって接合するレーザ加工装置であって、レーザビームを照射する発振器と、レーザビームを部材に導く照射光学系と、部材をレーザビームに対して相対的に移動させ、レーザビームを走査させるステージと、レーザビームの照射によって部材から放射される熱放射光、プラズマ光、反射光のいずれかを含む溶接光を、第1測定領域と、第1測定領域とは異なる第2測定領域とのそれぞれから導く測定光学系と、第1測定領域から測定光学系に導かれた溶接光の強度を測定する第1センサと、第2測定領域から測定光学系に導かれた溶接光の強度を測定する第2センサと、第1測定領域及び第2測定領域において、測定されたそれぞれの溶接光の強度に基づき加工状態を評価する判定部と、を備え、第1測定領域と第2測定領域とは、レーザビームの走査方向と交差する方向に並ぶ。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係るレーザ加工方法によれば、レーザ加工における加工状態の評価精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る実施形態のレーザ加工装置の模式図
図2A】レーザ加工装置の部分拡大図
図2B図2AにおけるA-A線に沿った断面図
図2C図2AにおけるB-B線に沿った平面図
図3】測定部の模式図
図4A】正常溶接時の溶接状態の断面図
図4B】正常溶接時の溶接状態の断面図
図4C】正常溶接時の溶接状態の断面図
図4D】正常溶接時の照射パワーと時間との関係を示すグラフ
図5】実際の溶融部の外観写真
図6】比較例の熱放射光を測定する測定領域の説明図
図7A】比較例の熱放射光の信号強度の説明図
図7B】比較例の熱放射光の信号強度の説明図
図7C】比較例の熱放射光の信号強度の説明図
図7D】比較例の熱放射光の信号強度の説明図
図8】熱放射光の信号強度の説明図
図9】熱放射光の信号強度の説明図
図10】熱放射光の信号強度の説明図
図11】熱放射光の信号強度の説明図
図12】熱放射光の信号強度の説明図
図13】熱放射光の信号強度の説明図
図14】上限信号強度及び下限信号強度の説明図
図15】溶接状態評価のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の第1態様のレーザ加工方法は、発振器からレーザビームを照射しながら走査させ、加工対象となる部材を溶融部によって接合するレーザ加工方法であって、レーザビームの照射によって部材から放射される熱放射光、プラズマ光、反射光のいずれかを含む溶接光の強度を第1測定領域と、第1測定領域とは異なる第2測定領域とのそれぞれにて測定するステップと、第1測定領域及び第2測定領域において、測定されたそれぞれの溶接光の強度に基づき加工状態を評価するステップと、を含み、第1測定領域と第2測定領域とは、レーザビームの走査方向と交差する方向に並ぶ。
【0013】
このような方法により、2つの測定領域を設けることで、それぞれにおいて測定される溶接光の強度を個別に評価できる。そのため、レーザ加工時における加工状態の評価精度を向上できる。
【0014】
本開示の第2態様のレーザ加工方法において、測定するステップは、第1測定領域からの溶接光を、光学系を用いて第1光ファイバに集光させ、第1光ファイバにより伝送された溶接光を第1センサにより測定し、第2測定領域からの溶接光を、光学系と同じ光学系を用いて第2光ファイバに集光させ、第2光ファイバにより伝送された溶接光を第2センサにより測定することを含んでもよい。
【0015】
このような方法により、それぞれの測定領域において測定される溶接光を、個別に第1センサ及び第2センサに伝送させ、溶接光の強度を評価することができる。そのため、レーザ加工時における加工状態の評価精度をさらに向上できる。また、第1測定領域からの溶接光と第2測定領域からの溶接光とを同じ光学系を用いて光ファイバに集光させることで、レーザ加工方法を実施するための光学系の点数及びコストを減少できる。
【0016】
本開示の第3態様のレーザ加工方法において、第1測定領域と第2測定領域とは、走査方向と直交する方向に並んでもよい。
【0017】
このような方法により、レーザビームの照射位置の側方の領域において発生する溶接光の強度をより精度良く測定できる測定領域の配置が可能になる。
【0018】
本開示の第4態様のレーザ加工方法において、正常溶接時の溶融部は、走査方向と直交する方向に幅を有し、第1測定領域と第2測定領域とは、それぞれ溶融部の幅以下の直径を有し、第1測定領域が、正常溶接時のレーザビームの照射位置を含んでもよい。
【0019】
このような方法により、溶融部において発生する溶接光と、溶融部以外の箇所において発生する溶接光との強度を個別に測定できる。
【0020】
本開示の第5態様のレーザ加工方法において、第1測定領域と第2測定領域とは、溶融部の幅と同じ大きさの直径を有してもよい。
【0021】
このような方法により、溶融部において、より多くの溶接光を測定できる。
【0022】
本開示の第6態様のレーザ加工方法において、測定するステップにおいて、溶接光の強度を第1測定領域及び第2測定領域とは異なる第3測定領域で測定し、第1測定領域と第2測定領域と第3測定領域とは、走査方向と直交する方向に隣接して並び、第1測定領域は、正常溶接時のレーザビームの照射位置を含み、第2測定領域と、第3測定領域とは、第1測定領域を挟んで配置されてもよい。
【0023】
このような方法により、レーザビームの照射位置と、その両側に隣接する領域とにおいて、溶接光の強度を測定し、評価精度をさらに向上できる。
【0024】
本開示の第7態様のレーザ加工方法において、評価するステップは、第1測定領域において測定された溶接光の信号強度と、予め設定された第1閾値とを比較し、第2測定領域において測定された溶接光の信号強度と、予め設定された第2閾値とを比較し、及び、第3測定領域において測定された溶接光の信号強度と、予め設定された第3閾値とを比較することを含んでもよい。
【0025】
このような方法により、それぞれの測定領域における加工状態を評価できる。
【0026】
本開示の第8態様のレーザ加工方法において、第1閾値は下限値であり、第2閾値は上限値であり、第3閾値は上限値であり、評価するステップは、第1測定領域で測定された信号強度が、第1閾値より小さく、第2測定領域で測定された信号強度が、第2閾値より小さく、第3測定領域で測定された信号強度が、第3閾値より大きいと、溶融部の一方側に溶融異常が発生したと判定してもよい。
【0027】
このような方法により、溶融異常の発生領域を特定することができ、レーザ加工における加工状態の評価精度をさらに向上できる。
【0028】
本開示の第9態様のレーザ加工方法において、第1閾値は上限値であり、第2閾値は上限値であり、第3閾値は上限値であり、評価するステップは、第1測定領域で測定された信号強度が、第1閾値より小さく、第2測定領域で測定された信号強度が、第2閾値より大きく、第3測定領域で測定された信号強度が、第3閾値より大きいと、レーザビームの照射方向に沿ってレーザビームの焦点位置がずれたと判定してもよい。
【0029】
このような方法により、焦点位置ずれを判定することができ、レーザ加工時における加工状態の評価精度をさらに向上させることができる。
【0030】
本開示の第10態様のレーザ加工装置は、レーザビームを照射しながら走査させ、加工対象となる部材を溶融部によって接合するレーザ加工装置であって、レーザビームを照射する発振器と、レーザビームを部材に導く照射光学系と、部材をレーザビームに対して相対的に移動させ、レーザビームを走査させるステージと、レーザビームの照射によって部材から放射される熱放射光、プラズマ光、反射光のいずれかを含む溶接光を、第1測定領域と、第1測定領域とは異なる第2測定領域とのそれぞれから導く測定光学系と、第1測定領域から測定光学系に導かれた溶接光の強度を測定する第1センサと、第2測定領域から測定光学系に導かれた溶接光の強度を測定する第2センサと、第1測定領域及び第2測定領域において、測定されたそれぞれの溶接光の強度に基づき加工状態を評価する判定部と、を備え、第1測定領域と第2測定領域とは、レーザビームの走査方向と交差する方向に並ぶ。
【0031】
このような構成により、それぞれの測定領域において測定される溶接光の強度を個別に評価することができる。そのため、レーザ加工時における加工状態の評価精度を向上できる。
【0032】
本開示の第11態様のレーザ加工装置において、第1測定領域から測定光学系に導かれた溶接光を、第1センサに伝送する第1光ファイバと、第2測定領域から測定光学系に導かれた溶接光を、第2センサに伝送する第2光ファイバと、をさらに備えてもよい。
【0033】
このような構成により、それぞれの測定領域において測定される溶接光を、個別に第1センサ及び第2センサに伝送させ、溶接光の強度を評価することができる。そのため、レーザ加工時における加工状態の評価精度をさらに向上できる。
【0034】
以下に、実施形態に係るレーザ加工方法について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
(実施形態)
図1は、本開示に係る実施形態のレーザ加工装置の模式図である。図2Aは、レーザ加工装置100の部分拡大図である。図2B図2AのA-A線に沿った断面図であり、図2C図2AのB-B線に沿った断面図である。図2Aにおいて、便宜上、レーザ加工装置100の一部は省略されている。
【0036】
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザビームL1を照射し、レーザビームL1の照射によって形成される溶融部31を介して、加工対象物である部材6、7を接合する装置である。レーザ加工装置100は、レーザ発振器1と、照射光学系2と、ステージ8と、測定光学系10と、光ファイバ13と、測定部14と、制御部15と、記憶部16とを備える。
【0037】
レーザ発振器1は、レーザビームL1を発振する装置である。レーザ発振器1から発振されたレーザビームL1は、例えば、直接、あるいは光ファイバなどの伝送手段を用いて、照射光学系2へと導かれる。レーザ発振器1は、例えば、1070nmの波長を有するレーザビームL1を発振する。
【0038】
照射光学系2は、レーザ発振器1からのレーザビームL1を加工対象物である部材6、7の表面に導いて集光させる光学系である。照射光学系2は、複数の光学素子により構成され、例えば、コリメートレンズ3と、ダイクロイックミラー4と、集光レンズ5とを有する。レーザビームL1は、コリメートレンズ3によって平行ビームとなり、ダイクロイックミラー4によって直角に折り曲げられ、集光レンズ5によって集光され、部材6の表面に照射される。ダイクロイックミラー4は、レーザビームL1の波長のみが全反射され、それ以外の波長は透過するように、表面がコーティングされている。ただし、本明細書にて、「全反射」は99%以上の反射を意味し、レーザビームL1の残り1%程度はダイクロイックミラー4を透過する。
【0039】
ステージ8は、加工対象物である部材6、7を支持し、照射光学系2によって集光されたレーザビームL1に対して部材6、7を移動させる装置である。ステージ8は、部材7と、照射方向において部材7に重ねて配置される部材6とを支持する。また、ステージ8は、ステージ制御部9によって制御され、ステージ制御部9の制御に従って、部材6、7を搭載した状態で直線状に移動する。ステージ8の移動とレーザビームL1の照射とが同期されると、ある走査方向(Y方向)に沿って溶融部31が形成され、溶融部31によって部材6と部材7とが接合、すなわちレーザ溶接される。本実施の形態では、部材6、7は板状の部材である。部材6、7は、照射対象の領域においてそれぞれの部材6、7を互いに重ね合わせることができるように、部材6、7の厚み方向と直交する面方向において広がる部分を有する部材であればよい。
【0040】
レーザビームL1を部材6、7に照射すると、溶融部31が形成されると共に、部材6の表面から溶接光W0が放射される。図2Aに示すように、溶接光W0は、溶融部31から放射される溶接光W1と、例えば、溶融部31の周囲から放射される溶接光W2、W3とを含む。溶接光W0には、可視光であるプラズマ光、部材6の温度と相関の高い熱放射光、またはレーザビームL1の反射光等が含まれる。部材6から放射された溶接光W0は、例えば、直接、あるいはレンズなどの伝送手段を用いて、測定光学系10へと導かれる。
【0041】
測定光学系10は、加工対象物である部材6の表面からの溶接光W0を、光ファイバ13に導いて結像させる光学系である。図1に示すように、測定光学系10は、複数の光学素子により構成され、例えば、集光レンズ5と、ダイクロイックミラー4と、全反射ミラー11と、結像レンズ12とを有する。本実施形態において、測定光学系10は、ダイクロイックミラー4と集光レンズ5とを、照射光学系2と共有する。また、集光レンズ5とダイクロイックミラー4において、便宜上、レーザビームL1と溶接光W0とをずらして描いているが、実際には、レーザビームL1と溶接光W0とは同軸上となる。溶接光W0は、集光レンズ5とダイクロイックミラー4を通過し、全反射ミラー11によって直角に曲げられ、結像レンズ12によって光ファイバ13の端面に結像される。
【0042】
また、測定光学系10は、照射光学系2と共にレーザ加工ヘッド17に収容される。レーザ加工ヘッド17は、照射光学系2及び測定光学系10を収容する筐体を形成し、レーザビームL1及び溶接光W0が筐体外部に漏れることを防止する。
【0043】
光ファイバ13は、測定光学系10に導かれた溶接光W0を測定部14に伝送させる伝送手段である。本実施形態では、レーザ加工装置100は、3本の光ファイバ13a、13b、13cを備える。図2Aに示すように、光ファイバ13a、13b、13cの一端は、結像レンズ12と対向するようにレーザ加工ヘッド17に接続される。図2Bに示すように、3本の光ファイバ13a、13b、13cの一端は、Z方向に沿って直線状に密接して配置されており、ホルダー18によって固定される。また、図1に示すように、光ファイバ13a、13b、13cの他端は、測定部14に接続される。
【0044】
このような構造によって、レーザ加工装置100は、図2Aに示す3つの異なる測定領域41、42、43から放射されるそれぞれの溶接光W1、W2、W3を測定できる。本明細書にて、「測定領域」とは、溶融部31及びその周囲における部材6の表面の領域であり、正常または異常な溶接において溶接光が発生し得る領域を意味する。測定領域41、42、43が異なるとは、部材6の表面において、相違を有する領域であることを意味する。言い換えると、測定領域41、42、43は一致しない領域である。測定領域41、42、43は、部分的に互いに重なって設けられてもよい。また、測定領域41、42、43は互いに対して間隔を有して設けられてもよい。本実施の形態では、図2Cに示すように、測定領域41、42、43は互いに重ならず、第1測定領域41が第2測定領域42に、接し、第1測定領域41が第3測定領域43に接するように配置される。より具体的には、3つの測定領域41、42、43は、互いに隣接して、走査方向Kと直交する直線状に並ぶ。第1測定領域41は、第2測定領域42と第3測定領域43との間に挟まれて配置される。図2Aに示すように、溶融部31に位置する第1測定領域41から放射される溶接光W1は、第1光ファイバ13aに結像される。溶融部31の一方側に位置する第2測定領域42から放射される溶接光W2は、第2光ファイバ13bに結像される。溶融部31の他方側に位置する第3測定領域43から放射される溶接光W3は、第3光ファイバ13cに結像される。
【0045】
図1及び図2Aに示すように、光ファイバ13aは、溶接光W1を測定部14aに伝送し、光ファイバ13bは、溶接光W2を測定部14bに伝送し、光ファイバ13aは、溶接光W3を測定部14cに伝送する。
【0046】
測定部14は、光ファイバ13によって伝送された溶接光W0の強度を測定し、強度に応じた信号を制御部15に伝送する装置である。本実施形態では、レーザ加工装置100は、3本の光ファイバ13a、13b、13cに対応する3つの測定部14a、14b、14cを備える。測定部14a、14b、14cの詳細構成について、図3を参照しながら説明する。図3は、測定部14aの模式図である。他の測定部14b、14cは、測定部14aと同様な構造を有してもよい。
【0047】
測定部14aは、複数の光学素子及びセンサより構成される。測定部14aは、例えば、コリメートレンズ20、反射ミラー21a、21b、21c、フィルタ22a、22b、22c、結像レンズ23a、23b、23c、受光センサ24a、24b、24c及び増幅器25a、25b、25cを有する。光ファイバ13aを通る溶接光W1は、コリメートレンズ20によって平行光となった後、複数の反射ミラー21a、21b、21cによって波長毎に分離される。本実施形態では、反射ミラー21a、21b、21cは、溶接光W1を3種類の波長に分離する。具体的には、溶接光W1から、反射ミラー21aはプラズマ光W1a(波長400~700nm)を、反射ミラー21bはレーザ反射光W1b(波長1070nm)を、反射ミラー21cは熱放射光W1c(波長1300nm)をそれぞれ分離させる。各反射ミラー21a、21b、21cは、分離させる波長のみを反射し、それ以外の波長を透過させるように、前面にコーティングが施されている。各反射ミラー21a、21b、21cで反射された各溶接光W1a、W1b、W1cは、対応するフィルタ22a、22b、22cを通過する。通過した溶接光W1a、W1b、W1cは、対応する結像レンズ23a、23b、23cによって、対応する受光センサ24a、24b、24cに入射される。各受光センサ24a、24b、24cからの信号は、対応する増幅器25a、25b、25cにて、強度に応じた電気信号に変換され、制御部15に伝送される。
【0048】
制御部15は、レーザ加工装置100全体の制御を司るコントローラである。制御部15は、プログラムを実行することにより所定の機能を実現するCPUまたはMPUのような汎用プロセッサを含む。制御部15は、後述の記憶部16に格納された制御プログラムを呼び出して実行することにより、レーザ加工装置100における各種の制御を実現する。制御部15は、ハードウェアとソフトウェアの協働により所定の機能を実現するものに限定されず、所定の機能を実現する専用に設計されたハードウェア回路でもよい。すなわち、制御部15は、CPU、MPU、GPU、FPGA、DSP、ASIC等、種々のプロセッサで実現することができる。制御部15は、例えば、レーザ発振器1及びステージ制御部9の同期制御を実現する。
【0049】
制御部15は、判定部15Aとして機能するCPUまたはMPUのような汎用プロセッサを含む。判定部15Aは、測定領域41、42、43において測定されるそれぞれの溶接光W1、W2、W3の強度に基づいて、溶接状態を評価する。より具体的には、判定部15Aは、溶接光W1、W2、W3の強度に基づいて、溶接状態の異常が発生したか否かを判定する。溶接状態の異常には、過度な加熱または溶融、不十分な加熱または溶融、及び照射対象である領域以外における照射等が含まれる。例えば、判定部15Aは、溶接光W1、W2、W3の強度信号と、予め設定された基準値とを比較して、測定領域41、42、43において、溶接状態の異常が発生したか否かを判定する。
【0050】
記憶部16は、種々の情報を記録する記録媒体である。記憶部16は、例えば、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Device)、ハードディスク、その他の記憶デバイス又はそれらを適宜組み合わせて実現される。記憶部16には、制御部15が実行する制御プログラム、及び溶接状態の評価のために検知された種々の情報等が格納される。記憶部16には、例えば、溶接光W1、W2、W3の強度信号の演算処理ためのアプリケーション16aが格納される。記憶部16には、溶接光W1、W2、W3に関する予め設定された基準値、例えば、後述の上限信号強度Pau、Pbu、Pcuまたは下限信号強度Pad等が格納されてもよい。
【0051】
ここで、図2Cを参照しながら、測定領域41、42、43についてより詳細に説明する。第1測定領域41は、正常溶接時のレーザビームL1の照射位置30を中心とし、溶融幅D1と同じ直径を有する円形領域である。溶融幅D1は、走査方向Kと直交する方向に測定した後述の正常溶接時における溶融部31の幅である。言い換えると、第1測定領域41は、正常溶接時における溶融部31に内設して形成される。第2測定領域42と、第3測定領域43とは、第1測定領域41の両側において、第1測定領域41と同様に、溶融幅D1と同じ直径を有する円形領域である。第2測定領域42と、第3測定領域43とは、第1測定領域41と同じ寸法を有してもよい。
【0052】
また、測定領域41、42、43の寸法と光ファイバ13a、13b、13cの寸法との関係ついて説明する。本実施形態において、集光レンズ5と結像レンズ12との焦点距離を等しい。この場合、測定光学系10における結像比は1:1となり、測定領域41、42、43の寸法と光ファイバ13a、13b、13cの端面の寸法とが一致する。そのため、光ファイバ13a、13b、13cのコア径によって、測定領域41、42、43の直径を決定することができる。
【0053】
光ファイバ13a、13b、13cのコア径をds、集光レンズ5の焦点距離をf1、光ファイバ13a、13b、13cに対する結像レンズ12の焦点距離をf2とすると、測定領域41、42、43の直径dmは、式(1)で表される。
dm=ds×f1/f2 ・・・(1)
例えば、集光レンズ5の焦点距離f1が150μmであり、光ファイバ13aへの結像レンズ12の焦点距離f2を150μmである場合、コア径300μmの光ファイバ13aを選定すると、第1測定領域41の直径dmを300μmに設定できる。
【0054】
続いて、正常溶接時の溶接状態について、図4A図4Dを参照しながら説明する。正常溶接とは、設計されている加工が実施されて、異常が生じていない溶接を意味する。図4A図4Cは、正常溶接時の溶接状態の断面図であり、図4Dは、正常溶接時の照射パワーと時間との関係を示すグラフである。
【0055】
図4Aに示すように、レーザ溶接開始時では、レーザビームL1が、部材7の上に配置される部材6に照射される。例えば、部材7は厚み1mmのアルミ材料であり、部材6は厚み0.2mmのアルミ材料である。レーザビームL1は、部材6に対して、走査方向Kに沿った直線に相対移動するよう走査される。本実施形態では、部材6、7が搭載されているステージ8(図示せず)が移動することで、レーザビームL1が部材6に対して相対的に移動している。例えば、レーザビームL1のレーザ出力は400Wであり、走査速度は500mm/sである。
【0056】
図4Bに示すように、レーザビームL1照射後における部材6、7には、溶融部31が形成される。図4Cに示すように、走査方向Kから見ると、溶融部31は、略300μmの溶融幅D1と、略400μmの溶融深さD2を有する。
【0057】
図4Dに示すように、レーザビームL1の出力Plの波形設定は、台形波形であり、時間Twにおいて、順にスローアップ部、平坦部、スローダウン部からなる。スローアップ部及びスローダウン部を設けることによって、レーザ溶接時のスパッタや陥没を防止することができる。レーザビームL1の出力Plの波形が台形波形であるため、図4Bのように、溶融部31の断面形状も逆台形形状となる。また、レーザビームL1の全照射時間は例えば4msである。
【0058】
続いて、実際の溶接状態について、図5を参照しながら説明する。図5は、実際の溶融部の外観写真である。
【0059】
図5(a)は、正常溶接時の溶融部外観写真である。正常溶接時、溶融部31はある一定の溶融幅D1を有し、設計されたレーザ溶接に即した形状となる。
【0060】
図5(b)は、溶融部31の中央に溶融異常部33が発生した時の溶融部外観写真である。図5(b)は、溶融異常として、穴あきが発生した例を示す。穴あき異常は、一部の溶融が正常に行われず、部材6に貫通孔が形成される、または溶融部31が凹状に凹んでいる等、溶融の度合いが不十分である状態を示す。不十分な溶融は、例えば、過度な加熱による材料の気化、スパッタの発生、または加工対象物に存在する異物の影響等によって発生し得る。
【0061】
図5(c)は、溶融部31の一方の側方に左側溶融異常部34が発生した時の溶融部外観写真である。左側溶融異常部34は、走査方向Kに対して溶融部31の左側に発生した溶融異常部である。左側溶融異常部34は、例えば、接合界面に樹脂異物などが挟まった時に発生し、過度な溶融により必要でない箇所に溶融部31が形成された状態を示す。したがって、左側溶融異常部34が発生する溶融部31の一部において、溶融部31の溶融幅が大きくなる。
【0062】
図5(d)は、溶融部31の他方の側方に右側溶融異常部35が発生した時の溶融部外観写真である。右側溶融異常部35は、走査方向Kに対して溶融部31の右側に発生した溶融異常部である。右側溶融異常部35は、例えば、接合界面に樹脂異物などが挟まった時に発生し、過度な溶融により必要でない箇所に溶融部31が形成された状態を示す。したがって、右側溶融異常部35が発生する溶融部31の一部において、溶融部31の溶融幅が大きくなる。
【0063】
ここで、比較例として、1つの測定領域を用いたレーザ加工方法について説明する。
【0064】
(比較例)
まず、比較例における測定領域について、図6を参照しながら説明する。図6は、比較例の熱放射光を測定する測定領域の説明図である。
【0065】
図6に示すように、レーザビーム(図示せず)は、部材106上の照射位置130に照射される。照射位置130の周囲で部材106が溶融して溶融部131を形成する。照射位置130の近傍の溶融部131から溶接光(図示せず)が発生する。溶接光は、測定領域132において測定される。測定領域132は、照射位置130を含むように配置され、測定領域132の中心は、照射位置130と一致するように配置されてもよい。測定領域132の直径は、溶融部131の溶融幅より大きく、例えば、溶融幅の3倍である。したがって、溶融部131及びその周囲において放射される溶接光を一括して測定する。
【0066】
続いて、比較例について、図7A図7Dを参照しながら説明する。図7A図7Dは、比較例の熱放射光の信号強度の説明図である。図7A図7Dにおいて、「(i)」が付された図は溶接状態を示し、「(ii)」が付された図は測定領域132において測定された溶接光の信号強度を示す。また、比較例において、溶接光の一例として、熱放射光が測定される。
【0067】
図7Aは、比較例において、正常溶接時に測定される熱放射光の信号強度を示す。図7A(i)に示すように正常にレーザ溶接が行われた場合、部材106が溶融し接合される。また、レーザ照射時には、溶融温度、溶融面積等の溶融状態に応じた熱放射光が放射される。図7A(ii)に示すように、測定領域132において、熱放射光に比例した信号強度が測定される。
【0068】
図7Bは、比較例において、溶融部131の中央に溶融異常部が発生した時に測定される熱放射光の信号強度を示す。図7B(i)に示すように穴あき、突起、凹み等の溶融異常部133が溶融部131の中央部に発生した場合、正常な溶融部131に比べて溶融異常部133が高温になるため、熱放射光の信号強度も急激に増加しピークが形成される。そのため、図7B(ii)に示すように、信号強度におけるピークの形成によって、測定領域132において、溶融異常が発生したことを推定できる。
【0069】
図7Cは、比較例において、溶融部131の一方の側方に溶融異常部が発生した時に測定される熱放射光の信号強度を示す。図7C(i)に示すように左側溶融異常部134が発生した場合、図7B(ii)に示す場合と比較して、熱放射光の信号強度の変化が小さい。そのため、図7C(ii)に示すように、正常時の溶融部131からの熱放射光の変動に埋もれてしまい、溶融異常が発生したことの推定が困難である。
【0070】
図7Dは、比較例において、溶融部131の他方の側方に溶融異常部が発生した時に測定される熱放射光の信号強度を示す。図7D(i)に示すように左側溶融異常部134が発生した場合、図7C(ii)に示す熱放射光の信号強度と同様の信号強度が測定される。そのため、溶融異常部が、左側溶融異常部134でと右側溶融異常部135とのどちらであるかを判定することが困難である。
【0071】
一方で、本実施形態におけるレーザ加工方法においては、3つの測定領域41、42、43を設ける。測定領域41、42、43を用いたレーザ加工方法について、図8図13を参照しながら説明する。図8~13は、熱放射光の信号強度の説明図である。図8~13において、「(a)」が付された図は溶接状態を示し、「(b)」、「(c)」、「(d)」が付された図はそれぞれ、第1測定領域41、第2測定領域42、第3測定領域43において測定された溶接光の信号強度を示す。
【0072】
3つの測定領域41、42、43は、上述のように、レーザビームの走査方向Kに直交する方向に並び、それぞれ溶融部31の溶融幅D1と同じ大きさの直径を有する。また、下記の説明において、溶接光の一例として、熱放射光が測定され、測定領域41、42、43から放出される熱放射光の信号強度をそれぞれ信号強度Pa、Pb、Pcとする。
【0073】
まず、図8は、正常溶接時に測定される熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcを示す。第1測定領域41においては、部材6が溶融し、溶融温度に応じた熱放射光が放出され、信号強度Paが測定される。一方、測定領域42、43では、部材6は溶融しておらず、熱伝導のみによる加熱状態にあるため、測定領域42、43から放出される熱放射光は第1測定領域41から放出される熱放射に対して少ない。そのため、信号強度Pb、Pcは信号強度Paより小さい。
【0074】
図9は、溶融部31の中央に溶融異常部が発生した時に測定される熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcを示す。図9(a)に示すように穴あき、突起、凹み等の溶融異常部33が溶融部31の中央部に発生した場合、正常な溶融部31に比べて溶融異常部33が高温になる。そのため、図9(c)に示すように、信号強度Paは急激に増加しピークが形成される。一方で、図9(b)、(d)に示すように、第2測定領域42、第3測定領域43では、放出される熱放射光が変化しないため、信号強度Pb、Pcは変化しない。熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcより、溶融部31の中央部に溶融異常が発生したことが推定できる。
【0075】
図10は、溶融部31の一方の側方に溶融異常部が発生した時に測定される熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcを示す。図10(a)に示すように左側溶融異常部34が発生した場合、正常な溶融部31に比べて、測定領域41、43から放出される熱放射光が増加する。そのため、図10(b)、(c)に示すように、熱放射光の信号強度Pa、Pcも増加する。一方で、図10(d)に示すように、第2測定領域42では、放出される熱放射光が変化しないため、信号強度Pbは変化しない。熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcより、左側溶融異常部34が発生したことが推定できる。
【0076】
図11は、溶融部31の他方の側方に溶融異常部が発生した時に測定される熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcを示す。図11(a)に示すように右側溶融異常部35が発生した場合、正常な溶融部31に比べて、測定領域41、42から放出される熱放射光が増加する。そのため、図11(c)、(d)に示すように、熱放射光の信号強度Pa、Pbも増加する。一方で、図11(b)に示すように、第3測定領域43では、放出される熱放射光が変化しないため、信号強度Pcは変化しない。熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcより、右側溶融異常部35が発生したことが推定できる。
【0077】
すなわち、本実施形態では、信号強度Pbまたは信号強度Pcの一方の信号強度にピークが現れることで、溶融異常が発生した方向(右側か左側か)が判定できる。
【0078】
図12は、焦点位置ずれが発生した時に測定される熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcを示す。図12(a)に示すように、レーザ溶接の途中から、レーザ照射方向に焦点位置のずれが発生すると、正常の溶融部31に対して、溶融幅が広がった溶融部31aが形成される。そのため、溶融部31のうち溶融幅の広がった領域である溶融部31aからの熱放射光が、第2測定領域42及び第3測定領域43で測定される。図12(b)、(d)に示すように、熱放射光の信号強度Pb、Pcは、溶接途中の溶融幅の広がった時間以降において、より大きい値を取る。熱放射光の信号強度Pb、Pcが、共に同時により大きい値を取ると、焦点位置ずれが発生したことが推定できる。
【0079】
図13は、照射位置ずれが発生した時に測定される熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcを示す。図13(a)に示すように、レーザ溶接の途中から、走査方向Kと交差する方向において、照射位置のずれが発生すると、正常の溶融部31に対して、走査方向Kからずれた溶融部31bが形成される。図13(a)では、走査方向Kに対して左側にずれた溶融部31bを示す。溶融部31bにおいて、主に第1測定領域41において測定された熱放射光が、第3測定領域43で測定される。図13(b)~(d)に示すように、第3測定領域43において測定される信号強度Pcがより大きい値を取り、第1測定領域41及び第2測定領域42において測定される信号強度Pa、Pbがより小さい値を取る。熱放射光の信号強度Pb、Pcの一方がある時間でより大きい値を取り、他の2つの信号強度が同時により小さい値を取ると、一方側へ照射位置ずれが発生したことが推定できる。
【0080】
次に、実施形態におけるレーザ溶接状態の評価方法について説明する。溶接状態の評価は、溶接光W1、W2、W3の強度と、予め設定された基準値との比較によって実施される。本実施形態において、基準値の一例として、上限信号強度及び下限信号強度について説明する。
【0081】
まず、正常溶接時の熱放射光の正常信号強度P0(t)を時間tにおいて測定し、正常信号強度P0(t)に基づいて上限信号強度及び下限信号強度を算出する。時間tは、レーザ照射開始前からレーザ照射完了後までの時間である。正常信号強度P0(t)は、複数回測定され、通常、30回以上測定される。正常信号強度P0(t)は、照射されるレーザビームL1の出力Plの波形に応じて時間tにおいて変化し、図4に示すような台形波形を有する。正常信号強度P0(t)は、正常溶接時において、測定領域41、42、43から放出されるそれぞれの熱放射光の正常信号強度P0a(t)、P0b(t)、P0c(t)を含む。複数回の正常信号強度P0(t)より、平均信号強度Pm(t)、及び正常信号強度P0(t)のバラツキ度合いを示す標準偏差Pσ(t)が算出される。上限信号強度Pu(t)及び下限信号強度Pd(t)は、平均信号強度Pm(t)、標準偏差Pσ(t)、及びシグマレベル係数kを用いて、式(2)、(3)によって算出される。
Pu(t)=Pm(t)+k・Pσ(t)・・・(2)
Pd(t)=Pm(t)-k・Pσ(t)・・・(3)
正常信号強度P0(t)が時間tにおいて変化するため、正常信号強度P0(t)を用いて算出される上限信号強度Pu(t)及び下限信号強度Pd(t)も時間tにおいて変化する。例えば、k=3のときは、上限信号強度Pu(t)=Pm(t)+3Pσ(t)と下限信号強度Pd(t)=Pm(t)-3Pσ(t)の間に信号強度P(t)が含まれる確率は統計学的に99.73%である。また、K=4の場合には、上限信号強度Pu(t)=Pm(t)+4Pσ(t)と下限信号強度Pd(t)=Pm(t)-4Pσ(t)の間に信号強度Pが含まれる確率は統計学的に99.94%である。算出された上限信号強度Pu(t)及び下限信号強度Pd(t)は、溶接光W1、W2、W3の強度に対する基準値として、記憶部16に格納される。
【0082】
図14は、上限信号強度及び下限信号強度の説明図である。
【0083】
図14に示すように、上限信号強度Pau(t)、Pbu(t)、Pcu(t)は、それぞれの測定領域41、42、43において測定される信号強度Pa(t)、Pb(t)、Pc(t)に対して算出される。下限信号強度Pad(t)は、第1測定領域41において測定される信号強度Pa(t)に対して算出される。上限信号強度Pau(t)、Pbu(t)、Pcu(t)、及び下限信号強度Pad(t)は、時間tにおいて、照射されるレーザビームL1の出力Plの波形に応じて、台形波形を有する。上限信号強度Pau(t)、Pbu(t)、Pcu(t)、及び下限信号強度Pad(t)用いて、それぞれの測定領域41、42、43において、溶接状態を評価する。より具体的には、測定した信号強度Pa(t)が、ある特定の時間tに置いて、上限信号強度Pau(t)を超える、または下限信号強度Pad(t)を下回る場合、溶接状態の異常が発生したと判断する。また、測定した信号強度Pb(t)、Pc(t)が、ある特定の時間tにおいて、それぞれの上限信号強度Pbu(t)、Pcu(t)を超える場合、溶接状態の異常が発生したと判断する。一方で、信号強度Pa(t)が上限信号強度Pau(t)以下かつ下限信号強度Pad(t)以上であり、信号強度Pb(t)、Pc(t)が上限信号強度Pbu(t)、Pcu(t)以下であれば、溶接状態の異常が発生していないと判断する。
【0084】
続いて、溶接状態の評価方法について、図15を参照しながらより詳細に説明する。以降の説明及び図15においては、簡略化のために、測定領域41、42、43の信号強度Pa(t)、Pb(t)、Pc(t)をそれぞれPa、Pb、Pcとする。他の各種信号強度についても同様とする。
【0085】
図15は、溶接状態評価のフローチャートである。
【0086】
まず、測定領域41、42、43において、測定部14は、レーザ溶接時の熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcを測定する(ステップS101)。上述のように、第1測定領域41は溶融部31に位置し、第2測定領域42は右側に位置し、第3測定領域43は左側に位置する。
【0087】
次に、判定部15Aは、第2測定領域42から放出された信号強度Pbが、記憶部16に記憶された上限信号強度Pbuより小さいか否かを判定する(ステップS102)。
【0088】
次に、信号強度Pbが上限信号強度Pbuより小さいと(S102でYes)、判定部15Aは、第3測定領域43から放出された信号強度Pcが、記憶部16に記憶された上限信号強度Pcuより小さいか否かを判定する(ステップS103)。
【0089】
次に、信号強度Pcが上限信号強度Pcuより小さいと(S103でYes)、判定部15Aは、第1測定領域41から放出された信号強度Paが、記憶部16に記憶された上限信号強度Pauより小さいか否かを判定する(ステップS104)。
【0090】
そこで、信号強度Paが上限信号強度Pauより小さいと(S104でYes)、判定部15Aは、正常溶接であると判定する。信号強度Paが上限信号強度Pauより大きければ(S104でNo)、溶融部31の中央部での溶融異常(穴あきなど)が発生したと判定する。
【0091】
ステップS103において、信号強度Pcが上限信号強度Pcuより大きいと(S103でNo)、判定部15Aは、信号強度Paが、記憶部16に記憶された下限信号強度Padより大きいか否かを判定する(ステップS105)。
【0092】
そこで、信号強度Paが下限信号強度Padより小さいと(S105でNo)、判定部15Aは、右側に照射位置ずれが発生したと判定する。信号強度Paが下限信号強度Padより大きいと(S105でYes)、判定部15Aは、左側に溶融異常が発生したと判定する。
【0093】
ステップS102において、信号強度Pbが上限信号強度Pbuより大きい場合(S102でNo)、判定部15Aは、信号強度Pcが上限信号強度Pcuより小さいか否かを判定する(ステップS106)。
【0094】
次に、信号強度Pcが上限信号強度Pcuより小さいと(S106でYes)、判定部15Aは、信号強度Paが、記憶部16に記憶された下限信号強度Padより大きいか否かを判定する(ステップS107)。
【0095】
そこで、信号強度Paが下限信号強度Padより小さいと(S107でNo)、判定部15Aは、左側への照射位置ずれが発生したと判定する。信号強度Paが下限信号強度Padより大きいと(S107でYes)、判定部15Aは、右側に溶融異常が発生したと判定する。
【0096】
ステップS106において、信号強度Pcが上限信号強度Pcuより大きい場合(S106でNo)、判定部15Aは、信号強度Paが上限信号強度Pauより小さいか否かを判定する(ステップS108)。
【0097】
そこで、信号強度Paが上限信号強度Pauより小さいとS108でYes)、判定部15Aは、焦点位置ズレが発生したと判定する。信号強度Paが上限信号強度Pauより大きいと(S108でNo)、判定部15Aは、中央溶融異常、右側溶融異常、および左側溶融異常のうち、2種類以上の溶融異常が発生していると判定する。
【0098】
このように、熱放射光の信号強度Pa、Pb、Pcを用いてステップS101~S108を実行することで、レーザ溶接状態の評価を行うことができる。
【0099】
[効果]
実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置100によれば、以下の効果を奏するができる。
【0100】
本実施形態に係るレーザ加工方法は、レーザ発振器1(発振器)からレーザビームL1を照射しながら走査させ、加工対象となる部材6、7を接合するレーザ加工方法である。レーザ加工方法は、測定するステップS101と評価するステップS102~S108とを含む。測定するステップS101では、レーザビームL1の照射によって部材から放射される溶接光W1、W2の強度を第1測定領域41と、第1測定領域41とは異なる第2測定領域42とのそれぞれにて測定する。溶接光W1、W2は、放射される熱放射光、プラズマ光、反射光のいずれかを含む。評価するステップS102~S108では、第1測定領域41及び第2測定領域42において、測定されたそれぞれの溶接光W1、W2の強度に基づき加工状態を評価する。第1測定領域41と第2測定領域42とは、レーザビームL1の走査方向Kと交差する方向に並ぶ。
【0101】
このような方法により、2つの測定領域41、42を設けることで、それぞれにおいて測定される溶接光W1、W2の強度を個別に評価できる。そのため、レーザ加工時における溶接状態の評価精度を向上できる。さらに、溶接状態における異常を精度良く評価することによって、レーザ溶接の後の工程へ溶接異常品の流出を防ぐことができる。
【0102】
本実施形態に係るレーザ加工方法において、測定するステップS101では、第1測定領域41からの溶接光W1を、測定光学系10(光学系)を用いて第1光ファイバ13Laに集光させる。第1光ファイバ13aにより伝送された溶接光W1を測定部14a(第1センサ)により測定する。また、第2測定領域42からの溶接光W2を、測定光学系10を用いて第2光ファイバ13bに集光させ、第2光ファイバ13bにより伝送された溶接光を測定部14b(第2センサ)により測定する。
【0103】
このような方法により、それぞれの測定領域41、42において測定される溶接光W1、W2を、個別に測定部14a、14bに伝送させ、溶接光W1、W2の強度を評価することができる。そのため、レーザ加工時における溶接状態の評価精度をさらに向上できる。また、第1測定領域41からの溶接光W1と第2測定領域42からの溶接光W2とを同じ測定光学系10を用いて光ファイバ13a、13bに集光させることで、レーザ加工方法を実施するための光学系の点数を減少できる。そのため、レーザ加工方法を実施するための光学系の設計が容易になり、また、コストを抑えることができる。
【0104】
本実施形態に係るレーザ加工方法において、第1測定領域41と第2測定領域42とは、走査方向Kと直交する方向に並ぶ。
【0105】
このような方法により、照射位置30の側方の領域において発生する溶接光をより精度よく測定できる測定領域41、42の配置が可能になる。また、溶接光W1、W2を測定部14a、14b及び制御部15に伝送させる測定光学系10をより容易に設計することができる。
【0106】
本実施形態に係るレーザ加工方法において、正常溶接時の溶融部31は、走査方向Kと直交する方向に幅D1を有する。第1測定領域41と第2測定領域42とは、それぞれ溶融部31の幅D1以下の直径を有する。第1測定領域41が、正常溶接時のレーザビームL1の照射位置30を含む。
【0107】
このような方法により、溶融部31において発生する溶接光W1と、他の箇所において発生する溶接光W2とを個別に測定できる。そのため、レーザ加工時における溶接状態の評価精度をさらに向上させることができる。
【0108】
本実施形態に係るレーザ加工方法において、第1測定領域41と第2測定領域42とは、溶融部31の幅D1と同じ大きさの直径を有する。
【0109】
このような方法により、溶融部31において発生する溶接光W1と、他の箇所において発生する溶接光W2とを個別に測定できるとともに、溶融部31において、より多くの溶接光W1を測定できる。そのため、レーザ加工時における溶接状態の評価精度をさらに向上させることができる。
【0110】
本実施形態に係るレーザ加工方法の測定するステップS101において、溶接光W3の強度を、第1測定領域41及び第2測定領域42とは異なる第3測定領域43で測定する。第1測定領域41と第2測定領域42と第3測定領域43とは、走査方向Kと直交する方向に隣接して並ぶ。第1測定領域41は、正常溶接時のレーザビームL1の照射位置30を含む。第2測定領域42と、第3測定領域43とは、第1測定領域41を挟んで配置される。
【0111】
このような方法により、溶融部31が形成される照射位置30と、その両側の隣接する領域とにおいて、溶接光W1、W2、W3をリアルタイムで測定することができる。また、照射位置30以外の周囲の溶融及び凝固現象等も含めた全体的な溶接状態を評価することができる。そのため、レーザ加工時における溶接状態の評価精度をさらに向上させることができる。さらに、照射位置ずれ、焦点位置ずれも評価することができる。
【0112】
本実施形態に係るレーザ加工方法において、第1測定領域41において測定された溶接光W1の信号強度Paと、予め設定された上限信号強度Pauまたは下限信号強度Pad(第1閾値)とを比較する(S104、S105、S107、S108)。さらに、第2測定領域42において測定された溶接光W2の信号強度Pbと、予め設定された上限信号強度Pbu(第2閾値)とを比較する(S102)。さらに、第3測定領域43において測定された溶接光W3の信号強度Pcと、予め設定された上限信号強度Pcu(第3閾値)とを比較する(S103)。
【0113】
このような方法により、溶接状態が正常か否かを評価できる。さらに、溶接状態が正常でない場合、溶接異常、照射位置ずれ、焦点ずれのいずれかであるか特定できる。
【0114】
本実施形態に係るレーザ加工方法において、測定領域41、42、43において、信号強度Pa、Pb、Pcが測定される。信号強度Paが下限信号強度Padより小さく、信号強度Pbが上限信号強度Pbuより小さく、信号強度Pcが上限信号強度Pcuより大きいと、溶融部31の一方側に溶融異常が発生したと判定する。
【0115】
このような方法により、溶融異常の発生箇所を特定することができ、レーザ加工時における溶接状態の評価精度をさらに向上させることができる。
【0116】
本実施形態に係るレーザ加工方法において、測定領域41、42、43において、信号強度Pa、Pb、Pcが測定される。信号強度Paが下限信号強度Padより小さく、信号強度Pbが上限信号強度Pbuより大きく、信号強度Pcが上限信号強度Pcuより大きいと、レーザビームL1の照射方向に沿ってレーザビームL1の焦点位置がずれたと判定する。
【0117】
このような方法により、焦点位置ずれを判定することができ、レーザ加工時における溶接状態の評価精度をさらに向上させることができる。
【0118】
本実施形態に係るレーザ加工装置100は、レーザビームL1を照射しながら走査させ、加工対象となる部材6、7を溶融部31によって接合する。レーザ加工装置100は、レーザ発振器1と、照射光学系2と、ステージ8と、測定光学系10と、測定部14a(第1センサ)と、測定部14b(第2センサ)と、制御部15と、を備える。レーザ発振器1はレーザビームL1を照射する。照射光学系2は、レーザビームL1を部材6、7に導く。ステージ8は、部材6、7をレーザビームL1に対して相対的に移動させ、レーザビームL1を走査させる。測定光学系10は、第1測定領域41と、第1測定領域41と異なる第2測定領域42とのそれぞれから、照射によって部材6、7から放射される溶接光W1、W2を導く。測定部14aは、第1測定領域41から測定光学系10に導かれた溶接光W1の強度を測定する。測定部14bは、第2測定領域42から測定光学系10に導かれた溶接光W2を測定する。制御部15は、第1測定領域41及び第2測定領域42において、測定されたそれぞれの溶接光W1、W2の強度に基づき溶接状態を評価する。第1測定領域41と第2測定領域42とは、レーザビームL1の走査方向Kと交差する方向に並ぶ。
【0119】
このような構成により、2つの測定領域41、42のそれぞれにおいて測定される溶接光W1、W2を個別に評価することができる。そのため、レーザ加工時における溶接状態の評価精度を向上できる。
【0120】
本実施形態に係るレーザ加工装置100は、第1光ファイバ13aと、第2光ファイバ13bと、をさらに備える。第1光ファイバ13aは、第1測定領域41から測定光学系10に導かれた溶接光W1を、測定部14aに伝送する。第2光ファイバ13bは、第2測定領域42から測定光学系10に導かれた溶接光W2を、測定部14bに伝送する。
【0121】
このような構成により、それぞれの測定領域41、42において測定される溶接光W1、W2を、個別に測定部14a、14bに伝送させ、溶接光W1、W2の強度を評価することができる。そのため、レーザ加工時における加工状態の評価精度をさらに向上できる。
【0122】
本開示は、前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。
【0123】
なお、本実施形態では、重ね合わせレーザ溶接を例として説明したが、本開示はこれに限定されない。他種類のレーザまたは他のレーザ加工方法における加工状態の評価にも適用できる。
【0124】
なお、本実施形態では、3つの測定領域41、42、43を用いた例について説明したが、これに限定されない。2つ以上の測定領域において溶接光を測定する場合においても、溶接状態の評価精度を向上させることができる。
【0125】
なお、本実施形態では、3つの測定領域41、42、43が走査方向Kに直交する直線状に並ぶ例について説明したが、これに限定されない。測定領域41、42、43は、走査方向Kと直交する直線に対して角度を有する直線状に配置されてもよい。また、測定領域41、42、43は、曲線状に配置されてもよい。測定領域41、42、43は、溶接光を測定できる配置にあればよい。例えば、1つの測定領域は照射位置30に設けられ、他の測定領域は当該1つの測定領域を中心として円形状に配置されてもよい。
【0126】
なお、本実施形態では、測定領域41、42、43が、溶融幅D1と同じ直径を有する円形領域である例について説明したが、これに限定されない。測定領域41、42、43は、溶接光が放射される領域を含むような形状及び寸法を有していればよい。例えば、レーザビームL1の照射位置30の形状または溶融部31の温度分布に応じて、測定領域41、42、43の形状を変更してもよい。
【0127】
なお、本実施形態では、熱放射による溶接光が測定される例について説明したが、これに限定されない。プラズマ光、レーザ反射光等の他の溶接光を測定した場合でも、溶接状態の評価を行うことができる。特に、レーザ反射光は溶融部の形状に影響を受けるため、レーザ反射光の信号強度を評価することで、溶融部の形状をより詳細に評価することができる。
【0128】
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術に熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、本開示の請求の範囲内に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本開示が適用できるレーザ加工方法は、レーザ照射位置の溶融状態だけではなく、レーザ照射部以外の周囲の溶融部または凝固部も含めた全体的な加工状態を評価することにも適用することができる。
【符号の説明】
【0130】
100 レーザ加工装置
1 レーザ発振器
2 照射光学系
3 コリメートレンズ
4 ダイクロイックミラー
5 集光レンズ
6、7 部材
8 ステージ
9 ステージ制御部
10 測定光学系
11 全反射ミラー
12 結像レンズ
13 光ファイバ
14 測定部
15 制御部
15A 判定部
16 記憶部
17 レーザ加工ヘッド
30 照射位置
31 溶融部
41、42、43 測定領域
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15