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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187408
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】車両用の熱管理システム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20221212BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20221212BHJP
   H01M 8/04 20160101ALN20221212BHJP
【FI】
B60H1/22 651A
F25B1/00 381H
F25B1/00 399Y
H01M8/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095434
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 博信
【テーマコード(参考)】
3L211
5H127
【Fターム(参考)】
3L211BA60
3L211CA13
5H127AB04
5H127CC10
5H127FF07
(57)【要約】
【課題】複数の流路の流れを制御する切換弁の微開状態を検出する。
【解決手段】
熱管理システムは、第1および第2流路が分離されている第1モードと、第1および第2流路の一部が接続されて第3流路を形成する第2モードと、を切り換える切換弁を備える。第2流路の熱媒の温度は、第1流路の熱媒の温度よりも高い。第1モードにおいて、制御部は、第1および第2温度の少なくとも一方が上昇を開始した時点から所定時間が経過した第1所定時刻において、第1流路の第1温度および第2流路の第2温度の測定値を取得する。制御部は、切換弁が微開状態でない場合における、第1所定時刻での第1および第2温度の推定値を取得する。制御部は、第1温度の推定値に対して第1温度の測定値が所定閾値を超えて大きいとともに、第2温度の推定値に対して第2温度の測定値が所定閾値を超えて小さい場合に、切換弁が微開状態であると判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の熱管理システムであって、
熱媒が流通する第1流路と、
前記第1流路上に配置され、前記第1流路に前記熱媒を循環させる第1ポンプと、
前記第1流路上に配置され、前記熱媒の第1温度を測定可能な第1温度センサと、
前記熱媒が流通する第2流路と、
前記第2流路上に配置され、前記第2流路に前記熱媒を循環させる第2ポンプと、
前記第2流路上に配置され、前記熱媒の第2温度を測定可能な第2温度センサと、
前記第1流路および前記第2流路が分離されている第1モードと、前記第1流路の一部および前記第2流路の一部が接続されていることで第3流路を形成する第2モードと、の間で切り換え可能に構成されている切換弁と、
前記切換弁が微開状態であるか否かを判定する制御部と、
を備え、
前記第2流路の前記熱媒の温度は、前記第1流路の前記熱媒の温度よりも高く、
前記第1モードにおいて、前記制御部は、
前記第1温度および前記第2温度の少なくとも一方が上昇を開始した時点から所定時間が経過した第1所定時刻において、前記第1温度の測定値を前記第1温度センサから取得するとともに、前記第2温度の測定値を前記第2温度センサから取得し、
前記切換弁が微開状態でない場合における、前記第1所定時刻での前記第1温度の推定値および前記第2温度の推定値を取得し、
前記第1温度の推定値に対して前記第1温度の測定値が所定閾値を超えて大きいとともに、前記第2温度の推定値に対して前記第2温度の測定値が前記所定閾値を超えて小さい場合に、前記切換弁が微開状態であると判定する、
熱管理システム。
【請求項2】
前記熱管理システムは、前記第3流路上に配置され、前記熱媒の第3温度を測定可能な第3温度センサをさらに備えており、
前記第1温度センサは、前記第3流路を形成していない前記第1流路上に配置されており、
前記第2温度センサは、前記第3流路を形成していない前記第2流路上に配置されており、
前記第3流路の前記熱媒の温度は、前記第1流路および前記第2流路の前記熱媒の温度よりも高く、
前記第2モードにおいて、前記制御部は、
前記第3温度が上昇を開始した時点から所定時間が経過した第2所定時刻において、前記第1温度の測定値を前記第1温度センサから取得し、前記第2温度の測定値を前記第2温度センサから取得し、前記第3温度の測定値を前記第3温度センサから取得し、
前記切換弁が微開状態でない場合における、前記第2所定時刻での前記第1温度の推定値、前記第2温度の推定値および前記第3温度の推定値を取得し、
前記第1温度の推定値に対して前記第1温度の測定値が前記所定閾値を超えて大きく、前記第2温度の推定値に対して前記第2温度の測定値が前記所定閾値を超えて大きく、前記第3温度の推定値に対して前記第3温度の測定値が前記所定閾値を超えて小さい場合に、前記切換弁が微開状態であると判定する、
請求項1に記載の熱管理システム。
【請求項3】
前記熱管理システムは、前記第1流路から前記第3流路の各々に存在する発熱源の各種動作状態における発熱量を示す発熱マップを備えており、
前記第1温度の推定値、前記第2温度の推定値および前記第3温度の推定値は、前記発熱マップに基づいて求められる、請求項2に記載の熱管理システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1モードにおいて前記切換弁が前記微開状態であると判定された場合に、
前記切換弁の前記第1流路側の圧力である第1圧力と前記切換弁の前記第2流路側の圧力である第2圧力との間の圧力差が小さくなるように前記第1ポンプおよび前記第2ポンプの少なくとも一方の流量を調整する流量調整処理を実行し、
前記流量調整処理を実行している状態で、前記第1モード以外のモードに対応する状態に前記切換弁を変更してから前記第1モードに対応する状態に前記切換弁を戻す処理を実行し、
前記流量調整処理を終了する処理を実行する、請求項1~3の何れか1項に記載の熱管理システム。
【請求項5】
前記流量調整処理では、
前記第1圧力が前記第2圧力よりも高い場合には、前記第1ポンプの流量を低下させる処理、または、前記第2ポンプの流量を増加させる処理、の少なくとも一方を実行し、
前記第2圧力が前記第1圧力よりも高い場合には、前記第2ポンプの流量を低下させる処理、または、前記第1ポンプの流量を増加させる処理、の少なくとも一方を実行する、請求項4に記載の熱管理システム。
【請求項6】
前記流量調整処理では、前記第1圧力と前記第2圧力とが略平衡するように、前記第1ポンプおよび前記第2ポンプを停止する、請求項4に記載の熱管理システム。
【請求項7】
前記切換弁は、前記第1モードにおいて弁座と接触する弁体を備えており、
前記弁体の一方の面には前記第1圧力が印加されており、前記弁体の他方の面には前記第2圧力が印加されており、
前記流量調整処理では、前記弁体が前記弁座に向かう方向の圧力差を発生させるように、前記第1ポンプおよび前記第2ポンプの少なくとも一方の流量を調整する、請求項4または5に記載の熱管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、車両用の熱管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の流路の接続状態を切り換えることが可能な車両用熱管理システムが開示されている。流路の切り換えのために、複数の流路の流れ方を制御する切換弁を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-30289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の流路の流れを制御する場合には、切換弁の異常を検出することが重要となる。切換弁が故障して動作が停止した場合には、熱媒の温度挙動が明らかに異常となるため、検出は容易である。しかし、弁体が中途半端な動作で止まり、隙間から熱媒が漏れるという、微開状態となる場合がある。この微開状態は、故障に比して検出が困難である。本明細書は、このような問題を解決できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する熱管理システムは、車両に用いられる。熱管理システムは、熱媒が流通する第1流路と、第1流路上に配置され、第1流路に熱媒を循環させる第1ポンプと、第1流路上に配置され、熱媒の第1温度を測定可能な第1温度センサと、を備える。熱管理システムは、熱媒が流通する第2流路と、第2流路上に配置され、第2流路に熱媒を循環させる第2ポンプと、第2流路上に配置され、熱媒の第2温度を測定可能な第2温度センサと、を備える。熱管理システムは、第1流路および第2流路が分離されている第1モードと、第1流路の一部および第2流路の一部が接続されていることで第3流路を形成する第2モードと、の間で切り換え可能に構成されている切換弁を備える。熱管理システムは、切換弁が微開状態であるか否かを判定する制御部を備える。第2流路の熱媒の温度は、第1流路の熱媒の温度よりも高い。第1モードにおいて、制御部は、第1温度および第2温度の少なくとも一方が上昇を開始した時点から所定時間が経過した第1所定時刻において、第1温度の測定値を第1温度センサから取得するとともに、第2温度の測定値を第2温度センサから取得する。制御部は、切換弁が微開状態でない場合における、第1所定時刻での第1温度の推定値および第2温度の推定値を取得する。制御部は、第1温度の推定値に対して第1温度の測定値が所定閾値を超えて大きいとともに、第2温度の推定値に対して第2温度の測定値が所定閾値を超えて小さい場合に、切換弁が微開状態であると判定する。
【0006】
第1モードにおいて切換弁が微開状態の場合には、第1流路と第2流路との間でわずかに熱媒が混合する。従って、第2流路の高温の熱媒から第1流路の低温の熱媒へ、熱量が移動する。この熱移動によって、第1流路の熱媒の温度は、切換弁が微開状態でない場合に推定される温度よりも高くなる。また第2流路の熱媒の温度は、切換弁が微開状態でない場合に推定される温度よりも低くなる。従って、第1温度の測定値が第1温度の推定値に対して所定閾値を超えて大きいこと、および、第2温度の測定値が第2温度の推定値に対して所定閾値を超えて小さいことを検出することによって、切換弁が微開状態であることを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】熱管理システム100を示す図である。
図2】熱管理システム100を示す図である。
図3】第1モードにおける熱媒の温度グラフである。
図4】故障時の温度グラフの例である。
図5】第1モードにおける熱媒の温度グラフである。
図6】第2モードにおける熱媒の温度グラフである。
図7】微開状態の修正プロセスを説明するフロー図である。
図8】第1圧力P1および第2圧力P2の算出例である。
図9】変形例の低温ラジエータ回路10aを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本技術の一実施形態では、熱管理システムは、第3流路上に配置され、熱媒の第3温度を測定可能な第3温度センサをさらに備えていてもよい。第1温度センサは、第3流路を形成していない第1流路上に配置されていてもよい。第2温度センサは、第3流路を形成していない第2流路上に配置されていてもよい。第3流路の熱媒の温度は、第1流路および第2流路の熱媒の温度よりも高くてもよい。第2モードにおいて、制御部は、第3温度が上昇を開始した時点から所定時間が経過した第2所定時刻において、第1温度の測定値を第1温度センサから取得し、第2温度の測定値を第2温度センサから取得し、第3温度の測定値を第3温度センサから取得してもよい。制御部は、切換弁が微開状態でない場合における、第2所定時刻での第1温度の推定値、第2温度の推定値および第3温度の推定値を取得してもよい。制御部は、第1温度の推定値に対して第1温度の測定値が所定閾値を超えて大きく、第2温度の推定値に対して第2温度の測定値が所定閾値を超えて大きく、第3温度の推定値に対して第3温度の測定値が所定閾値を超えて小さい場合に、切換弁が微開状態であると判定してもよい。
【0009】
第2モードにおいて切換弁が微開状態の場合には、第3流路を形成していない第1流路および第2流路と、第3流路との間で、わずかに熱媒が混合する。従って、第3流路の高温の熱媒から第1流路および第2流路の低温の熱媒へ、熱量が移動する。この熱移動によって、第3流路の熱媒の温度は、切換弁が微開状態でない場合に推定される温度よりも低くなる。また第1流路および第2流路の熱媒の温度は、切換弁が微開状態でない場合に推定される温度よりも高くなる。従って、第3温度の測定値が第3温度の推定値に対して所定閾値を超えて小さいこと、および、第1温度および第2温度の測定値が第1温度および第2温度の推定値に対して所定閾値を超えて大きいことを検出することによって、切換弁が微開状態であることを検出することができる。
【0010】
本技術の一実施形態では、熱管理システムは、第1流路から第3流路の各々に存在する発熱源の各種動作状態における発熱量を示す発熱マップを備えていてもよい。第1温度の推定値、第2温度の推定値および第3温度の推定値は、発熱マップに基づいて求められてもよい。このような構成によると、第1モードや第2モードの開始後における、第1温度から第3温度の各々の上昇率を、正確に推定することが可能となる。
【0011】
本技術の一実施形態では、制御部は、第1モードにおいて切換弁が微開状態であると判定された場合に、切換弁の第1流路側の圧力である第1圧力と切換弁の第2流路側の圧力である第2圧力との間の圧力差が小さくなるように第1ポンプおよび第2ポンプの少なくとも一方の流量を調整する流量調整処理を実行してもよい。制御部は、流量調整処理を実行している状態で、第1モード以外のモードに対応する状態に切換弁を変更してから第1モードに対応する状態に切換弁を戻す処理を実行してもよい。制御部は、流量調整処理を終了する処理を実行してもよい。切換弁は、一般的に、ばねなどの押し付け力によって弁体を閉じる機構を備えている。弁体を閉じる際には、第1圧力と第2圧力との圧力差を受ける。この圧力差は、第1流路および第2流路の動作状況に応じて様々に変動する。すると圧力変動の状況によっては、弁体が斜めにずれたまま閉じるなど、弁体が完全に閉まらず微開状態となってしまう場合がある。本技術では、第1圧力と第2圧力との圧力差を小さくした状態で、弁体を閉じなおすことができる。圧力差の影響が小さい状態で弁体を閉じることができるため、微開状態から回復することが可能となる。
【0012】
本技術の一実施形態では、流量調整処理では、第1圧力が第2圧力よりも高い場合には、第1ポンプの流量を低下させる処理、または、第2ポンプの流量を増加させる処理、の少なくとも一方を実行してもよい。流量調整処理では、第2圧力が第1圧力よりも高い場合には、第2ポンプの流量を低下させる処理、または、第1ポンプの流量を増加させる処理、の少なくとも一方を実行してもよい。このような構成によると、第1圧力と第2圧力との圧力差を小さくすることが可能となる。
【0013】
本技術の一実施形態では、流量調整処理では、第1圧力と第2圧力とが略平衡するように、第1ポンプおよび第2ポンプを停止してもよい。このような構成によると、第1圧力と第2圧力との圧力差がない状態で、弁体を閉じなおすことができる。微開状態から確実に回復することが可能となる。
【0014】
本技術の一実施形態では、切換弁は、第1モードにおいて弁座と接触する弁体を備えていてもよい。弁体の一方の面には第1圧力が印加されており、弁体の他方の面には第2圧力が印加されていてもよい。流量調整処理では、弁体が弁座に向かう方向の圧力差を発生させるように、第1ポンプおよび第2ポンプの少なくとも一方の流量を調整してもよい。このような構成によると、弁体を弁座に押し付ける動作を、第1圧力と第2圧力との圧力差によってアシストすることができる。微開状態から確実に回復することが可能となる。
【実施例0015】
(熱管理システム100の構造)
図面を参照して、実施例の熱管理システム100について説明する。本実施例の熱管理システム100は電動車両に搭載され、不凍液や冷媒といった熱媒を循環させることで、電動車両に設けられた構成要素の加熱及び冷却や、車内の空調等を行う。図1に示すように、熱管理システム100は、低温ラジエータ42を有する低温ラジエータ回路10と、高温ラジエータ94を有する高温ラジエータ回路30と、その二つのラジエータ回路10、30の間へ熱的に介挿されたヒートポンプ回路20と、制御装置98と、を備える。これらの回路10、20、30は、熱的に接続されている一方で、熱媒の流れる経路は互いに独立している。特に限定されないが、二つのラジエータ回路10、30では、熱媒として、例えばロングライフクーラントといった不凍液が採用されている。一方、ヒートポンプ回路20では、熱媒として、ハイドロフルオロカーボンといった冷媒(冷凍サイクル用の熱媒)が採用されている。
【0016】
低温ラジエータ回路10とヒートポンプ回路20との間は、チラー70を介して熱的に接続されている。ヒートポンプ回路20と高温ラジエータ回路30との間は、コンデンサ84を介して熱的に接続されている。チラー70は、ヒートポンプ回路20において蒸発器として機能し、低温ラジエータ回路10の熱媒から、ヒートポンプ回路20の熱媒へ熱を伝達することができる。コンデンサ84は、ヒートポンプ回路20において蒸発器として機能し、ヒートポンプ回路20の熱媒から、高温ラジエータ回路30の熱媒へ熱を伝達することができる。
【0017】
(低温ラジエータ回路10の構成)
低温ラジエータ回路10は、車両用二次電池(以下、単にバッテリという。)66を冷却する第1回路12と、熱関連機器を冷却する第2回路16と、を有している。
【0018】
第1回路12は、チラー70とバッテリ66との間で、熱媒を循環させる循環経路である。第1回路12は、主に、バッテリ経路13と、チラー経路14と、を有している。バッテリ経路13は、上流側から、ヒータ64、バッテリ66及び第1温度センサ61を備えている。第1温度センサ61は、バッテリ66の出口側で熱媒温度を検出するためのセンサである。バッテリ66は、後述するSPU56及びPCU58を介して、トランスアクスル48に内蔵されたモータに電力を供給する。バッテリ66は、バッテリ経路13を流れる熱媒との熱交換によって冷却される。ヒータ64は、電気式のヒータであり、必要に応じてバッテリ経路13の熱媒を加熱することで、バッテリ66を温めることができる。
【0019】
チラー経路14は、その上流側から、熱媒を循環させる第1ポンプ68、チラー70を備えている。バッテリ経路13の上流端とチラー経路14の下流端とは、切換弁40を介して接続されている。また、バッテリ経路13の下流端とチラー経路14の上流端とは、リザーバタンク69を介して接続されている。リザーバタンク69は、熱媒から気泡を除去するための熱媒貯留部を備えている。
【0020】
第2回路16は、主に、低温ラジエータ経路17と、熱関連機器経路18と、を有している。低温ラジエータ経路17の上流端と熱関連機器経路18の下流端とが、切換弁40を介して接続されている。低温ラジエータ経路17の下流端と熱関連機器経路18の上流端とは、リザーバタンク69を介して接続されている。低温ラジエータ42は、第1回路12と第2回路16との間で共用されている。こうすることで、低温ラジエータ回路10を効率的に構成することができる。
【0021】
低温ラジエータ経路17は、上流側から、低温ラジエータ42と、熱媒温度を検出するための第3温度センサ63と、を備えている。熱関連機器経路18は、上流側から、DC-DCコンバータを含むSPU56(Smart Power Unit)、インバータを含むPCU58(Power Control Unit)、熱媒を循環させるための第2ポンプ60、熱媒温度を検出するための第2温度センサ62、オイルクーラ54、を備えている。オイルクーラ54は、熱交換器の一種であり、オイル循環路50を介してトランスアクスル48と熱的に接続されている。トランスアクスル48は、車輪を駆動する走行用モータや、走行用モータと車輪との間に介挿された減速機等を有する。オイル循環路50は、オイルポンプ52を有しており、オイルクーラ54とトランスアクスル48との間で、熱媒であるオイルを循環させる。これにより、トランスアクスル48の熱がオイルクーラ54へ伝達され、さらにオイルクーラ54から第2回路16の熱媒へと伝達される。
【0022】
第2回路16は、さらに、バイパス経路19を備えている。バイパス経路19は、低温ラジエータ42をバイパスしている。バイパス経路19は、低温ラジエータ経路17と熱関連機器経路18との接続部位にある切換弁40において分岐し、低温ラジエータ42をバイパスして低温ラジエータ経路17の下流端にあるリザーバタンク69に合流している。
【0023】
制御装置98は、少なくとも一つのプロセッサとメモリとを備える、いわゆるコンピュータとして構成されている。メモリには、微開状態判定プログラム、および、発熱マップが格納されている。微開状態判定プログラムは、切換弁40が微開状態であるか否かを判定するためのプログラムである。プロセッサは、微開状態判定プログラムを実行することより、切換弁40の微開状態を判定する一連のプロセスを実行する。発熱マップは、第1流路C1、第2流路C2、第3流路C3の各々に存在する発熱源の、各種動作状態における発熱量を示すマップである。また制御装置98は、第1温度センサ61~第3温度センサ63の各々から、第1温度測定値T1m~第3温度測定値T3mの各々を取得する。
【0024】
(切換弁40の機能)
切換弁40は、5方流調弁であり、第1回路12の二つ経路13、14の他、第2回路16の3つの経路17、18及び19を接続している。切換弁40は、制御装置98に接続されており、その動作は制御装置98によって制御される。切換弁40の構造は特に限定されず、様々な構造であってよい。
【0025】
切換弁40によって、第1モードおよび第2モードの間で流路を切り換えることができる。図1に、第1モードを示す。第1モードは、第1流路C1および第2流路C2が分離されているモードである。第1流路C1と第2流路C2とは、互いに独立して動作可能である。第1流路C1は、チラー70とバッテリ66との間で、第1ポンプ68を用いて熱媒を循環させる流路である。第1流路C1によって、バッテリ66を冷却することができる。また第2流路C2は、低温ラジエータ42と、いくつかの熱関連機器(オイルクーラ54、SPU56、PCU58)との間で、第2ポンプ60を用いて熱媒を循環させる流路である。第2流路C2によって、熱関連機器を冷却することができる。熱関連機器の方が、バッテリ66よりも発熱量が大きい。従って、第2流路C2の熱媒の温度は、第1流路C1の熱媒の温度よりも高くなる。
【0026】
図2に、第2モードを示す。第2モードは、第1流路C1の一部および第2流路C2の一部が接続されていることで第3流路C3を形成するモードである。第3流路C3は、低温ラジエータ42とチラー70との間で、第1ポンプ68を用いて熱媒を循環させる流路である。第3流路C3によって、低温ラジエータ42で外気から吸収された熱を、チラー70へ供給することができる。
【0027】
図1に示すように、第1ポンプ68は第1流路C1上に配置されており、第2ポンプ60は第2流路C2上に配置されている。また図2に示すように、第1温度センサ61は、第3流路C3を形成していない第1流路C1上に配置されている。第2温度センサ62は、第3流路C3を形成していない第2流路C2上に配置されている。第3温度センサ63は、第3流路C3上に配置されている。
【0028】
(ヒートポンプ回路20の構成)
ヒートポンプ回路20は、主に、メイン回路22と、冷房用経路24とを有する。メイン回路22は、チラー70とコンデンサ84との間で熱媒(冷媒)を循環させる循環経路である。メイン回路22は、膨張弁72やコンプレッサ82をさらに有しており、いわゆる冷凍サイクルを構成している。メイン回路22では、熱媒が図1において反時計回りに循環する。メイン回路22は、チラー70に接続された低温ラジエータ回路10から、コンデンサ84に接続された高温ラジエータ回路30へ、熱を伝達する。
【0029】
冷房用経路24は、チラー70に対して並列に設けられており、チラー70をバイパスしている。冷房用経路24には、膨張弁78、冷房用のエバポレータ76、及び、EPR74(エバポレータプレッシャレギュレータ)が設けられている。冷房用経路24の上流端には、切換弁80が設けられている。冷房用のエバポレータ76では、車内の空気(外気から導入されたものも含む)から、ヒートポンプ回路20の熱媒への吸熱が行われ、これによって車内が冷房される。エバポレータ76で吸収された熱は、コンデンサ84から高温ラジエータ回路30へ伝達される。
【0030】
(高温ラジエータ回路30の構成)
高温ラジエータ回路30は、主に、メイン回路32と、暖房用経路34とを有する。高温ラジエータ回路30のメイン回路32は、コンデンサ84と高温ラジエータ94との間で熱媒を循環させる循環経路である。メイン回路32には、熱媒を循環させるための第3ポンプ88が設けられている。メイン回路32は、熱媒を循環させることによって、ヒートポンプ回路20から伝達された熱を、高温ラジエータ94から外気へ放出する。なお、メイン回路32には、ヒータ86がさらに設けられている。
【0031】
暖房用経路34は、高温ラジエータ94に対して並列に設けられており、高温ラジエータ94をバイパスしている。暖房用経路34には、ヒータコア92が設けられている。暖房用経路34の上流端には、切換弁90が設けられている。ヒータコア92では、暖房用経路34を流れる熱媒から、車内の空気への放熱が行われ、車内が暖房される。
【0032】
(第1モードにおける微開状態の判定処理(第1の例))
第1モードにおいて、切換弁40が微開状態である場合における、微開状態判定プログラムの処理内容を説明する。第1の例として、第1流路C1および第2流路C2の両方に熱媒が循環する場合を、図3を用いて説明する。図3の横軸は時間であり、縦軸は熱媒の温度である。第1温度T1は、第1温度センサ61の測定値である。第2温度T2は、第2温度センサ62の測定値である。
【0033】
時刻tt0において、第1流路C1および第2流路C2が分離するように切換弁40が切り換えられる(図1参照)。時刻tt1において、第1ポンプ68および第2ポンプ60が動作し始めることで、第1温度T1および第2温度T2が上昇を開始する。
【0034】
時刻tt1から所定時間Pt経過後の時刻tt2において、第1温度測定値T1mが第1温度センサ61から取得されるとともに、第2温度測定値T2mが第2温度センサ62から取得される。所定時間Ptは、予め定めることができる任意の時間である。
【0035】
また、第1温度推定値T1eおよび第2温度推定値T2eが取得される。第1温度推定値T1eは、切換弁40が微開状態でない場合における、第1温度T1の時刻tt2での想定される温度である。第2温度推定値T2eは、切換弁40が微開状態でない場合における、第2温度T2の時刻tt2での想定される温度である。第1温度推定値T1eおよび第2温度推定値T2eは、前述した発熱マップや、第1ポンプ68および第2ポンプ60の動作の有無に基づき求めることができる。第1温度推定値T1eおよび第2温度推定値T2eの求め方は、様々であってよい。本実施例では、図3の点線に示すように、推定グラフG1およびG2を求める。推定グラフG1およびG2は、切換弁40が微開状態でない場合における、第1温度T1および第2温度T2の上昇傾きの推定値である。そして、推定グラフG1およびG2に基づき、時刻tt2における第1温度推定値T1eおよび第2温度推定値T2eを求める。
【0036】
次に、第1温度測定値T1mが、第1温度推定値T1eに対して所定閾値TH1を超えて大きいか否かが判断される。具体的には、第1温度測定値T1mが第1温度推定値T1eよりも大きいか否か、および、第1温度測定値T1mと第1温度推定値T1eとの差分値DV1が予め定められた所定閾値TH1よりも大きいか否かが判断される。また第2温度測定値T2mが、第2温度推定値T2eに対して所定閾値TH2を超えて小さいか否かが判断される。具体的には、第2温度測定値T2mが第2温度推定値T2eよりも小さいか否か、および、第2温度測定値T2mと第2温度推定値T2eとの差分値DV2が予め定められた所定閾値TH2よりも大きいか否かが判断される。そして、第1温度測定値T1mが第1温度推定値T1eに対して所定閾値TH1を超えて大きいとともに、第2温度測定値T2mが第2温度推定値T2eに対して所定閾値TH2を超えて小さい場合には、微開状態であると判定することができる。
【0037】
微開状態の判定原理を説明する。切換弁40が微開状態の場合には、第1流路C1と第2流路C2との間でわずかに熱媒が混合する。従って、第2流路C2の高温の熱媒から第1流路C1の低温の熱媒へ、熱量が移動する。この熱移動によって、第2流路C2の熱媒温度の実測される上昇傾き(第2温度T2の傾き)は、切換弁40が正常である場合に推定される上昇傾き(推定グラフG2の傾き)よりも小さくなる。一方、第1流路C1の熱媒温度の実測される上昇傾き(第1温度T1の傾き)は、切換弁40が正常である場合に推定される上昇傾き(推定グラフG1の傾き)よりも大きくなる。
【0038】
すなわち、第2温度T2の上昇率が正常時よりも小さくなるとともに、第1温度T1の上昇率が正常時よりも大きくなるという、傾き変化の組み合わせを検出することで、第2流路C2から第1流路C1への熱量の移動が発生したことを検出することができる。そして、第2温度T2の上昇率の低下量が所定閾値TH2を超えていること、および、第1温度T1の上昇率の増加量が所定閾値TH1を超えていることを検出することで、無視できない程度の熱量の移動が発生していることを検出することができる。その結果、切換弁40が微開状態であることを判定することができる。
【0039】
なお、所定閾値TH1およびTH2は、第1流路C1および第2流路C2の熱容量などに基づいて予め定めればよい。例えば、所定時間Ptの間に第2流路C2から第1流路C1に移動することが許容される最大熱量である許容熱量を求める。そして、許容熱量が第1流路C1に与えられた場合の熱媒の温度上昇量を第1流路C1の熱容量から求めるとともに、許容熱量が第2流路C2から奪われた場合の熱媒の温度低下量を第2流路C2の熱容量から求める。この温度上昇量を所定閾値TH1にするとともに、温度低下量を所定閾値TH2としてもよい。
【0040】
また、切換弁40が故障しており、第1流路C1と第2流路C2とが導通している場合は、微開状態とは容易に区別可能である。図4に、故障時の温度グラフの例を示す。時刻tt1において、第1ポンプ68および第2ポンプ60が動作し始めると、第2流路C2の高温の熱媒と第1流路C1の低温の熱媒が混合するため、第2温度T2が瞬間的に低下する(領域R1参照)。そして時刻tt3において、第1温度T1と第2温度T2が同等になり飽和する。このような特徴的な温度変化を検出することで、切換弁40の故障を判定することができる。
【0041】
(第1モードにおける微開状態の判定処理(第2の例))
第1モードにおける第2の例として、第1流路C1が停止しており、第2流路C2のみに熱媒が循環する場合における、微開状態判定プログラムの処理内容を説明する。
【0042】
図5の時刻tt1において、第2ポンプ60が動作し始める。時刻tt2において、点線に示すように、推定グラフG1およびG2が求められる。推定グラフG2は、第2ポンプ60が動作しているため、熱回収により上昇する。一方、推定グラフG1は、第1ポンプ68が停止しているため、初期温度のまま
一定値である。しかし切換弁40が微開状態であるため、第2流路C2の熱媒温度の実測される上昇傾き(第2温度T2の傾き)は、切換弁40が正常である場合に推定される上昇傾き(推定グラフG2の傾き)よりも小さくなる。一方、第1流路C1の熱媒温度の実測される上昇傾き(第1温度T1の傾き)は、切換弁40が正常である場合に推定される上昇傾き(推定グラフG1の傾き)よりも大きくなる。そして、第1温度測定値T1mが第1温度推定値T1eに対して所定閾値TH1を超えて大きいとともに、第2温度測定値T2mが第2温度推定値T2eに対して所定閾値TH2を超えて小さいことが判断される。
【0043】
以上より、第1流路C1および第2流路C2の一方が停止している場合においても、微開状態においては、第2温度T2の上昇率が正常時よりも小さくなるとともに、第1温度T1の上昇率が正常時よりも大きくなるという、傾き変化の組み合わせを検出することができることが分かる。よって、切換弁40が微開状態であることを判定することが可能である。
【0044】
(第2モードにおける微開状態の判定処理)
第2モードにおいて、切換弁40が微開状態である場合における、微開状態判定プログラムの処理内容を説明する。例として、第3温度センサ63で測定される第3温度T3が、第1温度T1および第2温度T2よりも十分に高い場合を説明する。また、第3流路C3を形成していない第1流路C1および第2流路C2において、熱媒が循環しない場合を説明する。
【0045】
図6の時刻tt0において、第3流路C3(図2参照)が形成されるように切換弁40が切り換えられる。時刻tt11において、第1ポンプ68が動作し第3流路C3に熱媒が循環し始めることで、第3温度T3が上昇を開始する。
【0046】
時刻tt12において、点線に示すように、推定グラフG1~G3が求められる。推定グラフG1~G3は、切換弁40が正常である場合における、第1温度T1~第3温度T3の上昇傾きの推定値である。第3流路C3に熱媒が循環しているため、推定グラフG3は上昇する。一方、第1流路C1および第2流路C2には熱媒が循環していないため、推定グラフG1およびG2は初期温度のまま一定値である。また、第1温度測定値T1m~第3温度測定値T3m、および、第1温度推定値T1e~第3温度推定値T3eが取得される。これらの値の取得方法は、前述した内容と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
そして、第3温度測定値T3mが第3温度推定値T3eに対して所定閾値TH3を超えて小さく、第1温度測定値T1mが第1温度推定値T1eに対して所定閾値TH1を超えて大きく、第2温度測定値T2mが第2温度推定値T2eに対して所定閾値TH2を超えて大きい場合には、微開状態であると判定することができる。これは、切換弁40が微開状態の場合には、第3流路C3の高温の熱媒から第1流路C1および第2流路C2低温の熱媒へ、熱量が移動するためである。この熱移動によって、第3温度T3の上昇率が正常時よりも小さくなるとともに、第1温度T1および第2温度T2の上昇率が正常時よりも大きくなるという、傾き変化の組み合わせが発生する。この傾き変化の組み合わせを検出することで、切換弁40が微開状態であることを判定することができる。
【実施例0048】
実施例2では、微開状態の修正プロセスを説明する。微開状態の修正プロセスは、実施例1において切換弁40が微開状態であると判定された場合に、微開状態を修正するための処理である。本処理は、制御装置98の微開状態判定プログラムによって実行される。例として、第1モードにおいて微開状態であると判定された場合の処理を、以下に説明する。
【0049】
制御装置98のプロセッサは、第1モードにおいて微開状態であると判定された場合に、図7に示すフローを開始する。ステップS2において、プロセッサは、第1ポンプ68および第2ポンプ60を停止可能であるか否かを判断する。例えば、第1温度測定値T1mおよび第2温度測定値T2mが、熱媒温度要求値に対して十分なマージンを有する場合に、停止可能と判断することができる。停止可能でない場合には、ステップS8へ進む。
【0050】
ステップS8において、圧力算出処理が行われる。具体的には、切換弁40の第1流路C1側の圧力である第1圧力P1と、第2流路C2側の圧力である第2圧力P2が求められる。第1圧力P1は、「第1圧力P1=(第1ポンプ68の吐出圧D1)-(第1ポンプ68から切換弁40までの圧損DR1)」の関係を用いて求めることができる。圧損DR1は、第1ポンプ68から切換弁40までの経路上の部品(チラー70)による部品圧損と、配管(第1回路12)による配管圧損の和である。同様に、第2圧力P2は、「第2圧力P2=(第2ポンプ60の吐出圧D2)-(第2ポンプ60から切換弁40までの圧損DR2)」の関係を用いて求めることができる。圧損DR2は、第2ポンプ60から切換弁40までの経路上の部品(オイルクーラ54)による部品圧損と、配管(熱関連機器経路18)による配管圧損の和である。吐出圧、部品圧損、配管圧損は、デューティ(流量)と熱媒温度で決定される値である。
【0051】
図8に、第1圧力P1および第2圧力P2の算出例を示す。図8では、第1圧力P1が第2圧力P2よりも高い場合の例である。第1圧力P1と第2圧力P2との差が、圧力差PDである。
【0052】
ステップS10~S16において、流量調整処理が行われる。流量調整処理は、圧力差PDが小さくなるように、第1ポンプ68および第2ポンプ60の少なくとも一方の流量を調整する処理である。圧力差PDを小さくする制御は、様々であってよい。例えば、圧力差PDが予め定められた閾値よりも小さくなるように制御してもよいし、圧力差PDが所定割合だけ小さくなるように制御してもよいし、圧力差PDがほぼ無くなるように制御してもよい。具体的に説明する。
【0053】
ステップS10において、第1圧力P1および第2圧力P2のうち、圧力が高い側のポンプが、フルデューティであるか否かが判断される。否定判断される場合(S10:NO)には、ステップS14へ進み、圧力が高い側のポンプの流量を低下させることで、圧力差PDを小さくする。図8の例では、第1ポンプ68の流量を低下させて第1圧力P1を低下させることで、圧力差PDを小さくする。一方、肯定判断される場合(S10:YES)には、熱媒温度要求に対して余裕がなく、圧力が高い側のポンプの流量を低下することが困難な場合であると判断され、ステップS12へ進む。
【0054】
ステップS12において、圧力が低い側のポンプが、フルデューティであるか否かが判断される。否定判断される場合(S12:NO)には、ステップS16へ進み、圧力が低い側のポンプの流量を増加させることで、圧力差PDを小さくする。図8の例では、第2ポンプ60の流量を増加させて第2圧力P2を上昇させることで、圧力差PDを小さくする。一方、肯定判断される場合(S12:YES)には、圧力が低い側のポンプの流量を増加することが困難な場合であると判断され、ステップS14へ進む。ステップS14において、圧力が高い側のポンプの流量を低下させることで、圧力差PDを小さくする。そしてステップS20へ進む。
【0055】
一方、ステップS2において、第1ポンプ68および第2ポンプ60を停止可能であると判断された場合には、ステップS18へ進み、第1ポンプ68および第2ポンプ60を停止する。これにより、第1圧力P1および第2圧力P2が発生しなくなるため、圧力差PDを平衡にすることができる。そしてステップS20へ進む。
【0056】
ステップS20において、切換弁40の開閉制御が行われる。具体的には、圧力差PDが小さくされている状態で、第1モード以外のモードに対応する状態に切換弁40を変更してから、第1モードに対応する状態に切換弁40を戻す処理を実行する。これにより切換弁40を、微開状態から正常状態に回復させることができる。そしてステップS22へ進み、第1ポンプ68および第2ポンプ60を規定の動作状態に戻す。これにより、微開状態の修正プロセスが完了する。
【0057】
ステップS20の開閉制御の効果を説明する。切換弁は、一般的に、ばねなどの押し付け力によって弁体を閉じる機構を備えている。回転構造およびスリットを備える構造においても、同様である。弁体を閉じる際には、第1圧力P1と第2圧力P2との圧力差PDを受ける。この圧力差PDは、第1流路C1および第2流路C2の動作状況に応じて様々に変動する。例えば、第1ポンプ68および第2ポンプ60の両方が動作している場合には、切換弁40に近い側のポンプの圧力が、常に切換弁40に印加される。また一方のポンプのみが動作している場合には、動作中のポンプによる圧力のみが切換弁40に印加される。そして、第1ポンプ68および第2ポンプ60が細かい流量制御を行う場合には、第1圧力P1および第2圧力P2は過渡的に変動する。弁体は第1圧力P1および第2圧力P2を受けながら閉じ切りなどを行う必要があるため、弁体の動作が過渡的となってしまい、弁体が斜めにずれたまま閉じるなど、弁体が完全に閉まらず微開状態となってしまう場合がある。微開状態は故障ではないため、修正可能である。そこで、圧力差PDを小さくする処理(ステップS10~S18)を行った上で、弁体を開閉する処理(ステップS20)行うことで、圧力差PDの影響が小さい状態で弁体を閉じ直すことができるため、微開状態から回復することが可能となる。
【0058】
以上では、第1モードにおける微開状態の修正プロセスを説明したが、第2モードにおける微開状態の修正プロセスについても同様である。すなわちステップS8では、第3流路C3を形成していない第1流路C1側の第1圧力P1、第3流路C3を形成していない第2流路C2側の第2圧力P2、第3流路C3側の圧力である第3圧力P3、を算出すればよい。そしてステップS10~S16において、第1圧力P1~第3圧力P3の間の圧力差PDが小さくなるように、第1ポンプ68の流量を制御すればよい。その他の処理内容は、第1モードにおける修正プロセスと同様であるため、説明を省略する。
【0059】
(実施例2の変形例)
切換弁40が、第1モードにおいて弁座と接触する弁体を備えていてもよい。また、弁体の一方の面には第1圧力P1が印加され、弁体の他方の面には第2圧力P2が印加されていてもよい。そして流量調整処理では、弁体が弁座に向かう方向の圧力差PDを発生させるように、第1ポンプ68および第2ポンプ60の少なくとも一方の流量を調整してもよい。
【0060】
例えば、弁体が第1圧力P1から受ける力の向きが、弁体が弁座から離れる向きであり、弁体が第2圧力P2から受ける力の向きが、弁体が弁座に向かう向きである場合を想定する。この場合に、図8に示すように第1圧力P1の方が第2圧力P2よりも大きい場合には、圧力差PDによって弁体が開くような力が発生するため、微開状態になりやすい。従って流量調整処理では、第2圧力P2の方が第1圧力P1よりも大きくなるように制御すればよい。これにより、圧力差PDによって弁体が閉じる力を発生させることができる。弁体を弁座に押し付ける動作を、圧力差PDによってアシストすることができるため、微開状態から確実に回復することが可能となる。
【0061】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は、複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で、技術的な有用性を持つものである。
【0062】
(変形例)
本実施例では、第1および第2モードの切り換えを、5方流調弁である切換弁40で行う場合を説明したが、これに限定するものではない。切換弁の数や配置位置は、自由に設定することができる。例えば図9に示す低温ラジエータ回路10aのように、第1および第2モードの切り換えを、2つの第1切換弁221および第2切換弁222で行ってもよい。第1切換弁221および第2切換弁222は、3方流調弁である。第1切換弁221は、第1回路12と接続回路210との接続部位に備えられている。第2切換弁222は、第2回路16のバイパス経路19の分岐部に備えられている。図6のような切換弁の配置においても、微開状態の判定処理(実施例1)や、微開状態の修正プロセス(実施例2)を適用することが可能である。
【0063】
本実施例では、第1回路12と第2回路16とをリザーバタンク69を介して接続する構造を説明したが、この構造に限られず、様々な接続構造を用いることができる。例えば、リザーバタンク69に代えて、3WAY配管を用いて接続してもよい。
【0064】
第1温度推定値T1e~第3温度推定値T3eを取得する方法は、推定グラフG1~G3を用いる方法に限られず、様々な方法を用いることができる。例えば、グラフを用いずに、温度推定値のマップを用いてもよい。
【0065】
図7のフローに示す流量調整処理では、第1ポンプ68および第2ポンプ60の一方の流量を調整する場合を説明したが、この形態に限られない。第1ポンプ68および第2ポンプ60の両方の流量を調整してもよい。
【0066】
本実施例における第1温度センサ61~第3温度センサ63の配置位置は一例であり、これに限定するものではない。
【0067】
熱管理システム100は、電動車両に搭載されるものとしたがこれに限定するものではない。定置型の熱管理システム100としても用いることができる。また、熱管理システム100では、電池としてバッテリ66を冷却する電池冷却回路(電池冷却システム)を備えるものとしたが、燃料電池などの他の電池の冷却システムとしても用いることができる。
【0068】
熱管理システム100では、ヒートポンプ回路20及び高温ラジエータ回路30を備えるものとしたが、これらを必ずしも備えていなくてもよい。電池冷却という意図を含むシステムであればよい。
【0069】
制御装置98は、制御部の一例である。時刻tt2は、第1所定時刻の一例である。時刻tt12は、第2所定時刻の一例である。
【符号の説明】
【0070】
10:低温ラジエータ回路 12:第1回路 16:第2回路 40:切換弁 60:第2ポンプ 61:温度センサ 62:第2温度センサ 63:第3温度センサ 68:第1ポンプ 98:制御装置 100:熱管理システム C1:第1流路 C2:第2流路 C3:第3流路 T1m~T3m:第1温度測定値~第3温度測定値 T1e~T3e:第1温度推定値~第3温度推定値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9