(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187439
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】接合方法、それに用いる金属粉末、および、接合体
(51)【国際特許分類】
B23K 26/342 20140101AFI20221212BHJP
B29C 65/44 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B23K26/342
B29C65/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095484
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】514173744
【氏名又は名称】輝創株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165331
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 智昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】小橋 眞
【テーマコード(参考)】
4E168
4F211
【Fターム(参考)】
4E168BA33
4E168BA83
4E168BA85
4E168BA87
4E168BA89
4E168BA90
4E168CB03
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA32
4E168DA43
4F211AA04
4F211AA11
4F211AA13
4F211AA15
4F211AA23
4F211AA29
4F211AD03
4F211AD24
4F211AD28
4F211AD32
4F211AG03
4F211TA01
4F211TC03
4F211TD02
4F211TD11
4F211TH17
4F211TH24
4F211TN07
4F211TQ04
(57)【要約】
【課題】鋼材と樹脂基材との接合強度を高めることができる技術を提供する。
【解決手段】鋼材と樹脂基材の接合方法であって、前記鋼材の表面に、少なくとも、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズと、を含む金属粉末を配置する工程と、前記金属粉末にレーザーを照射して、前記金属粉末を溶融させることにより、前記鋼材の表面に、微細な凹凸構造が形成された接合層を形成する工程と、前記接合層の上に前記樹脂基材を積層して加熱押圧することにより軟化した前記樹脂基材の一部を前記接合層の前記凹凸構造に入り込ませる工程と、を備える接合方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と樹脂基材の接合方法であって、
前記鋼材の表面に、少なくとも、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズと、を含む金属粉末を配置する工程と、
前記金属粉末にレーザーを照射して、前記金属粉末を溶融させることにより、前記鋼材の表面に、微細な凹凸構造が形成された接合層を形成する工程と、
前記接合層の上に前記樹脂基材を積層して加熱押圧することにより軟化した前記樹脂基材の一部を前記接合層の前記凹凸構造に入り込ませる工程と、
を備える、接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の接合方法であって、
前記金属粉末には、前記炭素が炭化ホウ素として混合されている、接合方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の接合方法であって、
前記金属粉末は、さらに、銅を含む、接合方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接合方法であって、
前記金属粉末における前記チタンと、前記炭素と、前記ニッケルのモル比は、3:1:1である、接合方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の接合方法であって、
Xを1より小さい任意の実数とするとき、
前記金属粉末における前記チタンと、前記炭素と、前記ニッケルと、前記スズのモル比は、3:1:1:Xである、接合方法。
【請求項6】
鋼材と樹脂基材との接合の際に、前記鋼材の表面に配置され、レーザーが照射されることにより、前記鋼材の表面に微細な凹凸構造が形成された接合層を構成するために用いられる金属粉末であって、少なくとも、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズと、を含む、金属粉末。
【請求項7】
鋼材と、樹脂基材と、前記鋼材と前記樹脂基材とを接合する接合層と、を備え、
前記接合層は、少なくとも、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズと、を含む金属によって構成されるとともに、前記樹脂基材との間に、前記樹脂基材の一部が入り込んでいる微細な凹凸構造を有する、接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材と樹脂基材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材と樹脂基材とを接合する方法としては、例えば、本願発明の発明者によって提案された下記の特許文献1,2の技術がある。特許文献1,2の技術は、いわゆるレーザークラッディングの技術を利用して、アルミニウム等の金属の表面に微細な凹凸構造を有する層を肉盛りし、その凹凸構造に対するアンカー効果を利用して、プラスチック等の樹脂基材を接合している。この技術によれば、金属基材の表面に対するブラスト処理やエッチング処理等の時間や手間を要する表面処理を施すまでもなく、金属基材と樹脂基材との機械的接合強度を簡易かつ低コストで高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-130003号公報
【特許文献2】特開2017-190521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、自動車やその部品等の製造技術では、金属基材として鋼材が多く用いられ、鋼材に対して樹脂基材が接合される場合も多い。従来から、鋼材が多く用いられる製品の製造技術においては、鋼材と樹脂基材とを、より簡易に、高い強度で接合できることが望まれてきた。本願発明の発明者は、上記の接合技術の研究を重ねるうちに、鋼材と樹脂基材との接合技術については、さらなる工夫により、その接合強度をさらに高めることが可能であることを見出した。本発明は、鋼材と樹脂基材との接合強度を高めることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態は、鋼材と樹脂基材の接合方法として提供される。この形態の接合方法は、前記鋼材の表面に、少なくとも、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズと、を含む金属粉末を配置する工程と、前記金属粉末にレーザーを照射して、前記金属粉末を溶融させることにより、前記鋼材の表面に、微細な凹凸構造が形成された接合層を形成する工程と、前記接合層の上に前記樹脂基材を積層して加熱押圧することにより軟化した前記樹脂基材の一部を前記接合層の前記凹凸構造に入り込ませる工程と、を備える。
この形態の接合方法によれば、複数の金属を混合した金属粉末を鋼材の表面に配置してレーザーを照射する簡易な処理により、鋼材と樹脂基材との接合を媒介し、接合強度を高めることができる接合層を形成することができる。チタンと炭素とニッケルとスズとを含む金属粉末を用いて接合層を形成することにより、接合層と鋼材との間の高い一体性を実現でき、かつ、樹脂基材に対するアンカー効果を発揮できる凹凸構造を接合層の表面に形成することができる。よって、この接合方法によれば、鋼材と樹脂基材との間の接合強度を、さらに高めることが容易にできる。
【0007】
(2)上記形態の接合方法において、前記金属粉末には、前記炭素が炭化ホウ素として混合されてよい。
この形態の接合方法によれば、金属粉末中への炭素の混合を、比較的扱いやすい炭化ホウ素によって行うため、作業効率が高められる。
【0008】
(3)上記の形態の接合方法において、前記金属粉末は、さらに、銅を含んでよい。
この形態の接合方法によれば、金属粉末に含まれる銅の作用により、鋼材と樹脂基材との間の接合強度を、さらに高めることが可能な接合層を得ることができる。
【0009】
(4)上記の形態の接合方法において、前記金属粉末における前記チタンと、前記炭素と、前記ニッケルのモル比は、3:1:1であることが望ましい。
この形態の接合方法により、炭素の含有比率を一定程度に抑え、接合層にクラックが生じることを防止できる。
【0010】
(5)上記形態の接合方法において、Xを1より小さい任意の実数とするとき、前記金属粉末における前記チタンと、前記炭素と、前記ニッケルと、前記スズのモル比は、3:1:1:Xであってよい。
この形態の接合方法によれば、スズの使用量を抑えることにより、接合層の凹凸構造を、より緻密に形成することができる。よって、金属粉末の鋼材と樹脂基材との間の接合強度を、さらに高めることができる接合層の形成が可能である。
【0011】
(6)本発明の一形態は、鋼材と樹脂基材との接合の際に、前記鋼材の表面に配置され、レーザーが照射されることにより、前記鋼材の表面に微細な凹凸構造が形成された接合層を構成するために用いられる金属粉末として提供される。この形態の金属粉末は、少なくとも、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズと、を含む。
この形態の金属粉末を用いれば、鋼材との一体性が高く、かつ、樹脂基材に対するアンカー効果を発揮できる凹凸構造を有する接合層を鋼材の表面に簡易に形成することができる。
【0012】
(7)本発明の一形態は、接合体として提供される。この形態の接合体は、
鋼材と、樹脂基材と、前記鋼材と前記樹脂基材とを接合する接合層とを備え、前記接合層は、少なくとも、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズと、を含む金属によって構成されるとともに、前記樹脂基材との間に、前記樹脂基材の一部が入り込んでいる微細な凹凸構造を有する。
この形態の接合体によれば、鋼材と樹脂基材との間に、鋼材との一体性が高く、樹脂基材との間にアンカー効果が得られる凹凸構造が形成されている接合層を有しているため、鋼材と樹脂基材との間の高い接合強度を実現できる。
【0013】
本発明は、鋼材と樹脂基材の接合方法や、その接合方法に用いられる金属粉末、鋼材と樹脂基材の接合体以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、鋼材と樹脂基材の接合体の製造方法、樹脂基材を接合するための接合層を鋼材に形成する方法、鋼材と樹脂基材を接合する装置、鋼材に接合層を形成する装置、それら装置の制御ユニットや制御プログラム等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】鋼材と樹脂基材との接合方法の工程を示すフローチャート。
【
図2】鋼材に対して接合層を形成する工程の様子を示す模式図。
【
図4A】ホットプレスによって樹脂基材を接合している様子を示す模式図。
【
図4B】レーザー照射装置を用いて樹脂基材を接合する工程を示す模式図。
【
図6】金属粉末の製造例の組成をまとめた表を示す説明図。
【
図7】接合層の表面の凹凸構造を撮影した顕微鏡画像の一覧を示す説明図。
【
図8】比較例としての接合層の顕微鏡画像を示す説明図。
【
図9A】試験対象として作成した接合体の構成を示す概略平面図。
【
図9B】接合体の製造例の材料と接合強度の評価結果とをまとめた表を示す説明図。
【
図9C】製造例の接合強度の測定結果のグラフを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、鋼材と樹脂基材との接合方法の工程を示すフローチャートである。
図2は、鋼材に対して接合層を形成する工程の様子を示す模式図である。
図2を参照図として、
図1に示す工程P1~P3の処理工程を説明する。
【0017】
工程P1では、樹脂基材30が接合される鋼材10を準備する。鋼材10としては、例えば、冷間圧延鋼板や、亜鉛めっき鋼板、炭素工具鋼、炭素鋼、ステンレス鋼、一般軟鋼材、超高張力鋼等を用いることができる。鋼材10は、前述のものに限定されることはなく、種々の鋼によって構成された部材でよい。
【0018】
工程P2では、工程P1で準備した鋼材10の表面に金属粉末20を配置する。金属粉末20には、少なくとも、チタン(Ti)と、炭素(C)と、ニッケル(Ni)と、スズ(Sn)と、が含まれている。金属粉末20に含まれる金属は、それぞれ単体の金属の粉末として混合されていてもよいし、前述の金属原子を含む化合物や合金の粉末として混合されていてもよい。例えば、炭素は、金属粉末20に、カーボンブラックや、カーボンナノチューブとして混合されていてもよい。前記のカーボンブラックは、ケッチェンブラックとしてもよい。また、炭素は、金属粉末20に、炭化ホウ素(B4C)や、炭化タングステン(WC)等の炭素化合物として混合されてもよい。なお、炭化ホウ素であれば扱いやすく、作業効率を高めることが可能である。チタンやニッケル、スズについても同様に、金属粉末20中に化合物や合金の状態で混合されていてもよい。金属粉末20を構成する各粒子は、1μm以上100μm以下の粒子径を有していることが好ましい。金属粉末20は、粒径の分布の状態が概ね同一になるように混合されていることが好ましい。金属粉末20に含まれる各金属の量の好適な比については後述する。
【0019】
金属粉末20には、前記の金属以外に、銅(Cu)が含まれていてもよいし、マンガン(Mn)や、亜鉛(Zn)が含まれていてもよい。金属粉末20には、その他に、シリコン(Si)や、バナジウム(V)、ステライト(登録商標)等が含まれていてもよい。
【0020】
本実施形態では、金属粉末20は、各材料が事前に混合され、粉末の状態のままで鋼材10の表面に配置される。他の実施形態としては、金属粉末20は、従来からレーザークラッディングで用いられているようなクラッディング用粉体送給装置等による吹き付けによって鋼材10の表面に配置されてもよい。金属粉末20を構成する複数種類の金属の粉体は、予め混合されていなくてもよく、鋼材10の表面に配置されるときに鋼材10の表面上で混合されてもよい。
【0021】
工程P3は、レーザークラッディングの技術を利用して接合層21を形成する工程に相当する。工程P3では、レーザー照射装置LSによって、鋼材10の表面に配置された金属粉末20にレーザーを照射して金属粉末20を溶融させることにより、鋼材10の表面に肉盛りされた接合層21を形成する。工程P3において金属粉末20を照射するレーザーとしては、例えば、半導体レーザーを用いることができる。工程P3で用いられるレーザーは、半導体レーザーに限定されることはなく、レーザークラッディングの技術において一般に用いられるものでよい。工程P3では、例えば、ファイバーレーザーや、Nd:YAGレーザー、炭酸ガスレーザー等を用いることが可能である。
【0022】
レーザー照射装置LSは、光学系素子により、レーザーを、例えば、直径0.5~5mmのスポットビームに成形して照射する。レーザー照射装置LSは、例えば、200~500W程度のレーザー出力でレーザーを照射する。また、レーザー照射装置LSは、例えば、10~70mm/sの走査速度でレーザーを走査する。レーザーの繰り返し周波数は、例えば、800~1500Hzとしてよい。また、レーザーの波長は、例えば、400~1200nmとしてよい。
【0023】
なお、工程P2で説明した、クラッディング用粉体送給装置等による吹き付けによって金属粉末20を鋼材10の表面に配置する構成の場合には、金属粉末20を鋼材10の表面に吹き付けながら、レーザー照射装置LSによってレーザーを照射してもよい。つまり、工程P2と工程P3とは平行して実行されてもよい。
【0024】
図3は、工程P3で形成される接合層21の断面構成の一例を示す模式図である。接合層21は、鋼材10の表面に肉盛りされて隆起している基層22を有し、基層22の表面には、微細な凹凸構造23が形成されている。基層22は、鋼材10と一体化するように形成されており、基層22の下端部には、溶融した鋼材10の一部が混在している。凹凸構造23は、後述する工程において接合される樹脂基材に対してアンカー効果を発揮することが可能な構成を有する。凹凸構造23を構成する凹部24または凸部25のそれぞれの基層22の表面に沿った方向における幅の最大値は、例えば、10~200μm程度であることが好ましい。
【0025】
凹凸構造23は、凹部24の内壁面に、さらに微細な微小凹部24aや微小凸部24bが形成されている構造や、凸部25の表面に、さらに微細な微小凹部25aや微小凸部25bが形成されている構造を含むことが好ましい。このように、凹部24や凸部25に、微小凹部24a,25aや微小凸24b,25bが重畳的に形成されている構造を「重畳的微細粒子構造」とも呼ぶ。接合層21の表面に、重畳的微細粒子構造を含む凹凸構造23が形成されていれば、樹脂基材に対して、より高いアンカー効果を発揮することができる。なお、接合層21の凹凸構造23では、全ての凹部24や凸部25が重畳的微細粒子構造になっていなくてもよく、一部の凹部24や凸部25が重畳的微細粒子構造になっている構成であってもよい。
【0026】
他の実施形態では、凹凸構造23は、重畳的微細粒子構造を含んでいなくてもよい。凹凸構造23は、種々の方向に突起する微小な凸部や種々の方向に窪む凹部がランダムに密に配列された構造や、種々の方向に三次元的に絡み合う細孔が密に形成された多孔質構造によって構成されていてもよい。
【0027】
本願発明の発明者が独自の実験によって得た知見によれば、チタンと炭素とニッケルとスズを組み合わせた金属粉末20を用いた鋼材10に対するレーザークラッディングによれば、上述したような凹凸構造23を有する接合層21を容易に形成できる。また、金属粉末20に銅を混ぜられていれば、その銅の作用によって、より緻密で好適な凹凸構造23を簡易に形成することも可能である。
【0028】
また、金属粉末20は、チタンと、炭素と、ニッケルのモル比が、3:1:1であることが好ましい。チタンやニッケルに対する炭素の量が多くなりすぎると、接合層21にクラックが生じやすくなる可能性があるためである。また、金属粉末20では、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズのモル比が、3:1:1:Xであることが好ましい。ここで、Xは、1より小さい任意の実数である。このモル比であれば、原子量が他より大きいスズが金属粉末20中に含まれる量を抑えることができるため、金属粉末20の混ざり具合を改善することができ、接合層21の凹凸構造23を、より緻密に形成することが容易になる。
【0029】
なお、金属粉末20に含まれる各金属の量の比は、上記のモル比に限定されることはない。金属粉末20に含まれる各金属の量の比は、鋼材10の種類や、工程P3でのレーザーの照射条件、接合層21の狙いとする構造等に応じて適宜、調整されればよい。
【0030】
図4Aを参照して、工程P4,P5を説明する。
図4Aは、ホットプレスによって樹脂基材30を接合している様子を示す模式図である。工程P4では、鋼材10に形成された接合層21の上に樹脂基材30を積層する。樹脂基材30は、例えば、プラスチック基材など、熱可塑性樹脂や、その他の加熱によって軟化する合成樹脂材料によって構成される。樹脂基材30は、例えば、ABS樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、塩化ビニール等によって構成することができる。
【0031】
工程P5では、加熱によって軟化させた樹脂基材30の一部を、押圧することで接合層21の凹凸構造23に入り込ませることにより、樹脂基材30を鋼材10に接合する。工程P5において、樹脂基材30の一部が接合層21の凹凸構造23に入り込むことによって、樹脂基材30と接合層21との間の接合強度を高めるアンカー効果が得られる。
【0032】
本実施形態では、樹脂基材30の接合は、図示しないヒータによって昇温されるプレートPLによって樹脂基材30を加熱しながら鋼材10の接合層21に向かって押圧するホットプレスによって行われる。プレートPLによる加熱温度は、例えば、120~280℃としてよい。加熱温度は、樹脂基材30の融点に応じて適宜定められればよい。プレートPLによる押圧力は、例えば、0.1~5.0MPa程度でよい。なお、工程P5における加熱による樹脂基材30の接合は、上述したホットプレスによる方法には限定されない。樹脂基材30の接合は、例えば、以下の方法により実現することも可能である。
【0033】
図4Bは、レーザー照射装置LSを用いて樹脂基材30を接合する工程を示す模式図である。この方法では、レーザー照射装置LSを用いて、樹脂基材30を透過する波長のレーザーを照射する。樹脂基材30を透過したレーザーは、接合層21の表層を昇温させて樹脂基材30を軟化させる。この軟化した樹脂基材30の一部を凹凸構造23に入り込ませる。レーザーとしては、例えば、半導体レーザーや、ファイバーレーザー、Nd:YAGレーザー、炭酸ガスレーザー等を用いることが可能である。
【0034】
工程P5での樹脂基材30の接合は、複数の加熱方法を組み合わせて実行されてもよい。例えば、工程P5では、
図4Aに示すホットプレスの後に、さらに、
図4Bに示すレーザーの照射を実行してもよい。また、工程P5では、ホットプレスやレーザーによる加熱の代わりに、例えば、鋼材10の裏面の摩擦により鋼材10を加熱して樹脂基材30を軟化させる摩擦攪拌接合によって樹脂基材30を鋼材10に接合してもよい。
【0035】
以上のように、本実施形態の接合方法によれば、鋼材10の表面に配置した金属粉末20をレーザーで照射する簡易な処理により、接合層21を容易に形成できる。チタンと炭素とニッケルとスズとを含む金属粉末20を用いて接合層21を形成することにより、接合層21と鋼材10との間の高い一体性を実現でき、かつ、樹脂基材30に対するアンカー効果を発揮できる凹凸構造23を接合層21に形成することができる。よって、この接合方法によれば、鋼材10と樹脂基材30との間の接合強度を、さらに高めることが容易にできる。
【0036】
図5は、上記の接合方法によって得られる鋼材10と樹脂基材30との接合体40の構成を示す概略断面図である。接合体40は、鋼材10と、樹脂基材30と、鋼材10と樹脂基材30とを接合する接合層21と、を有する。接合層21は、少なくとも、チタンと、炭素と、ニッケルと、スズと、を含む金属によって構成される。また、接合層21は、樹脂基材30との間に、樹脂基材30の一部が入り込んでいる微細な凹凸構造23を有する。接合体40によれば、鋼材10と樹脂基材30との間に、鋼材10との一体性が高く、樹脂基材30との間にアンカー効果が得られる凹凸構造23が形成されている接合層21を有しているため、鋼材10と樹脂基材30との間の高い接合強度が実現されている。
【実施例0037】
以下、本願発明の発明者が行った具体的な実施例を詳細に説明する。
【0038】
<金属粉末の製造例>
図6の表には、接合層の形成に用いる金属粉末の製造例T1~T6の組成を示してある。製造例T1~T5は、チタンの粉末と、炭素原料としての炭化ホウ素の粉末と、ニッケルの粉末と、スズの粉末と、を混合して作製した。製造例T4は、さらに、銅の粉末を混合して作製した。製造例T6は、比較例として作製したものであり、チタンの粉末と、炭化ホウ素の粉末と、アルミニウムの粉末と、を混合して作製した。
【0039】
製造例T1~T5では、チタン、炭化ホウ素つまり炭素、ニッケルのモル比を、3:1:1とした。また、製造例T1~T5では、前記のチタン、炭素、ニッケルのモル比に対して、スズのモル比をそれぞれ、0.5、0.3、0.7、0.3、0.1とした。製造例T4では、さらに、前記のチタン、炭素、ニッケル、スズのモル比に対して、銅のモル比を、0.5とした。製造例T6では、チタン、炭素、アルミニウムのモル比を、3:1:1とした。製造例T1~T6のいずれについても、粒子径は、1μm以上100μm以下に調整した。
【0040】
<接合層の実施例>
図7は、製造例T1~T4の金属粉末を用いて各種の鋼材に形成した接合層の表面の凹凸構造を撮影した顕微鏡画像の一覧である。
図8は、製造例T6の金属粉末を用いて、鋼材に、レーザーの走査速度を変えて形成した接合層の表面の凹凸構造を撮影した顕微鏡画像の一覧である。
【0041】
<
図7の接合層の形成条件>
鋼材としては、冷間圧延鋼板であるSPCC、溶融亜鉛メッキ鋼板であるSGCC、炭素工具鋼であるSK、炭素鋼であるS45C、ステンレス鋼であるSUS304、270MPa級の一般軟鋼板、980MPa級の超高張力鋼板(超ハイテン材)を用いた。270MPa級の一般軟鋼板、および、980MPa級の超高張力鋼板については、それぞれ表中において、「270」、「980」と表記してある。
【0042】
製造例T1~T4を、上述した各種の鋼材で構成された板材の表面に塗布し、膜厚100μmの層を形成した。その塗布膜に対して、以下の条件でレーザーを照射して接合層を形成した。
・ビームスポットのサイズ:直径1.2[mm]
・レーザー出力:300[W]
・繰り返し周波数:1000[MHz]
・走査速度:50[mm/s]
【0043】
<
図8の接合層の形成条件>
製造例T6を高張力鋼(ハイテン鋼)で構成された板材の表面に塗布し、膜厚100μmの3つの層を形成した。各塗布膜に対して、走査速度を変えてレーザーを照射し、
図8に示す3つの接合層を形成した。レーザーの照射条件は、レーザー出力を350Wとした。走査速度はそれぞれ、30[mm/s]、50[mm/s]、80[mm/s]とした。それ以外のレーザーの照射条件は、上述の条件と同じとした。
【0044】
図7および
図8の各写真に写っている粒状の影は、接合層表面の凹凸構造を示している。
図7の写真が示す通り、チタン、炭素、ニッケル、スズを含む製造例T1~T4を用いることによって、種々の鋼材に対して、接合層表面の全体にわたって緻密な凹凸構造が形成された。この凹凸構造を構成する凸部と凹部はいずれも、接合層の表面に沿った方向の幅の最大値が、10~200μm程度であった。製造例T1~T4によって形成されたいずれの接合層も、
図8に示す製造例T6によって形成された接合層よりも、凹凸構造が明らかに密に形成されている。これは、樹脂基材を接合したときに、より高いアンカー効果が得られることを示している。
【0045】
<接合体の実施例>
図9A~
図9Cを参照して、
図6の製造例T1~T5の金属粉末を用いて接合した接合体の製造例S1~S5、および、接合層を設けなかった比較例としての接合体の製造例S6の接合強度の試験結果を説明する。
図9Aは、試験対象として作成した接合体40の構成を示す概略平面図である。
図9Bは、接合体40の製造例S1~S6を作製するのに用いた材料と、接合強度の評価結果と、をまとめた表である。
図9Cは、
図9Bに示した製造例S1~S4の接合強度の測定結果のグラフを示す説明図である。
【0046】
製造例S1~S6の接合体40は、長方形形状の板状部材として構成された鋼材10と樹脂基材30とを接合層21を介して接合した構成を有している。鋼材10と樹脂基材30とはそれぞれの長手方向が揃うように配置した。また、樹脂基材30を、一方の端部が、鋼材10の短辺の中央から鋼材10の外方に延び出る状態で鋼材10の上に配置した。
【0047】
製造例S1~S6の鋼材10は、SPCCによって構成され、その寸法を、長辺50mm、短辺20mm、厚さ1mmとした。製造例S1~S4,S6の樹脂基材30は、MXDナイロン(GF30%)によって構成し、製造例S5の樹脂基材30は、PPS樹脂(GF30%)によって構成した。
【0048】
製造例S1~S5では、接合層21はそれぞれ、製造例T1~T5の金属粉末を用いて、
図7で示したのと同様な条件で形成した。製造例S1~S4では、接合層21は、鋼材10の表面において、1.2mm×16mmの長方形形状の領域に形成した。製造例S5では、1mm×6mmの長方形形状の領域に形成した。なお、接合層21の長手方向を、鋼材および樹脂基材30の短手方向に一致させた。製造例S6では、接合層21を形成することなく、鋼材10と樹脂基材30とを接合した。製造例S1~S6では、鋼材10と樹脂基材30との接合は、ホットプレスにより行った。製造例S1~S5では、ホットプレスの開始温度を230℃とし、終了温度を180℃とした。
【0049】
接合強度の評価は、引張試験によって行った。引張試験では、樹脂基材30を、固定された鋼材10に対して、矢印TDで示すせん断方向に引っ張り、鋼材10と樹脂基材30とが分離するのに要する力を接合力として測定した。各製造例S1~S6に対して複数回の引張試験を実施し、接合力の平均値を求めた。
【0050】
図9Bの表、および、
図9Cのグラフにおける「接合力」の「差分」の値は、接合層21を設けなかった製造例S6の接合力の平均値との差である。「接合強度」は、接合力の平均値を接合面積で除した値に相当する。接合面積は、接合層21の面積に相当し、製造例S1~S4では19mm
2であり、製造例S5では6mm
2であった。接合層21を設けなかった製造例S6での接合面積は、鋼材10と樹脂基材30とが重なり合っていた面積に相当し、400mm
2であった。
図9Bの表の「評価」の項目では、接合強度の値が10MPa未満を「D」、10MPa以上20MPa未満を「C」、20MPa以上30MPa未満を「B」、30MPa以上50MPa未満を「A」、50MPa以上を「AA」とした。
【0051】
チタン、炭素、ニッケル、スズを含む金属粉末によって形成された接合層21を有する製造例S1~S5はいずれも、接合層21を有していない製造例S6よりも高い接合力を示した。製造例S1~S5で用いられた金属粉末ではいずれも、チタン、炭素、ニッケルのモル比が3:1:1であり、そのモル比に対するスズのモル比は1未満の値であった。特に、チタン、炭素、ニッケル、スズのモル比が3:1:1:0.1の金属粉末を使用した製造例S5では、評価が「AA」となる著しく高い接合力が実現された。また、金属粉末に銅を混合させた製造例S4においても、接合力の評価が「A」となり、非常に高い接合力が得られた。
【0052】
以上のように、本発明によれば、少なくともチタンと炭素とニッケルとスズを含む金属粉末を用いて鋼材表面に接合層を形成することにより、鋼材と樹脂基材との接合強度を、従来よりもさらに高めることが可能である。