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特開2022-187445梅毒トレポネーマ菌の表面抗原の混合物を用いる、抗梅毒トレポネーマ体液抗体の測定
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187445
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】梅毒トレポネーマ菌の表面抗原の混合物を用いる、抗梅毒トレポネーマ体液抗体の測定
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20221212BHJP
   G01N 33/571 20060101ALI20221212BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20221212BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20221212BHJP
   C07K 17/02 20060101ALI20221212BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/571
G01N33/531 B
G01N33/543 521
C07K17/02 ZNA
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095495
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】521133621
【氏名又は名称】株式会社セテカ
(74)【代理人】
【識別番号】100103160
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 光春
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗近
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA60
4H045CA11
4H045DA86
4H045EA52
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】より高い感度をもって、梅毒トレポネーマ菌による感染を検出する手段を提供すること。
【解決手段】本発明者は、梅毒トレポネーマ菌の人工表面抗原である、遺伝子組換えカイコの繭糸又は絹糸腺由来のTpN47抗原、及び、同遺伝子組換えTpN15-TpN17融合抗原、の混合物を用いて、体液検体中の抗梅毒トレポネーマ抗体を免疫学的測定方法によって測定することにより、測定感度が実用レベルで、ネイティブの梅毒トレポネーマ菌抗原をも超えて明らかに向上することを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅毒トレポネーマ菌の人工表面抗原である、TpN47遺伝子で形質転換がなされた遺伝子組換えカイコの繭糸又は絹糸腺に由来する遺伝子組換えTpN47抗原、及び、同TpN15遺伝子とTpN17遺伝子の融合遺伝子で形質転換がなされた遺伝子組換えカイコの繭糸又は絹糸腺に由来する遺伝子組換えTpN15-TpN17融合抗原、の混合物を、体液検体と接触させて、該体液検体中の抗梅毒トレポネーマ抗体を、上記抗原の混合物との結合シグナルとして免疫学的測定方法により測定する、体液抗体の測定方法。
【請求項2】
体液検体は、血液検体である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
免疫学的測定方法は、酵素免疫測定法、免疫比濁法、放射性免疫測定法、ラテックス凝集若しくは比濁法、血球若しくは粒子凝集法、又は、イムノクロマトグラフィー法である、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記遺伝子組換えTpN47抗原、及び、遺伝子組換えTPN15-TPN17融合抗原の混合物の、固相における定着物が用いられる、請求項1-3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
梅毒トレポネーマ菌の人工表面抗原である、TpN47遺伝子で形質転換がなされた遺伝子組換えカイコの繭糸又は絹糸腺に由来する遺伝子組換えTpN47抗原、及び、同TpN15遺伝子とTpN17遺伝子の融合遺伝子で形質転換がなされた遺伝子組換えカイコの繭糸又は絹糸腺に由来する遺伝子組換えTpN15-TpN17融合抗原、の混合物が固相において定着している、体液検体中の抗梅毒トレポネーマ抗体の測定に用いる、抗原が定着した固相。
【請求項6】
梅毒トレポネーマ菌の人工表面抗原である、TpN47遺伝子で形質転換がなされた遺伝子組換えカイコの繭糸又は絹糸腺に由来する遺伝子組換えTpN47抗原、及び、同TpN15遺伝子とTpN17遺伝子の融合遺伝子で形質転換がなされた遺伝子組換えカイコの繭糸又は絹糸腺に由来する遺伝子組換えTpN15-TpN17融合抗原、の混合物、の固相化領域が設けられており、
該固相化領域と体液検体との接触により形成され、水相により媒介される毛細管現象により連続相中を移動する、上記抗原の混合物と体液検体中の抗梅毒トレポネーマ抗体の複合体を検出する領域が、上記固相化領域の下流に設けられている、
梅毒トレポネーマ測定用イムノクロマトデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換え生物から得られる原料を用いる体液抗体の測定手段に関する発明である。より具体的には、本発明は、遺伝子組換えカイコ由来の梅毒トレポネーマ菌表面抗原の混合物を用いる、梅毒の体液抗体の測定手段に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
梅毒は古くからある性感染症の代表的な疾患であり、近年特に急増している。1999-2012年頃までは年間約600-800例程度の報告となっており、ごく一部の医療関係者を除いて、日常診療ではあまり注目されない疾患となっていた。しかし、2013年に1228例と1000例を超えたあとは右肩上がりに増加を続け、2018年では7000例を超えた。2019年第46週までの速報値では5817例となっており、未だ減少傾向に転じたとは言えない。
【0003】
梅毒はTreponema pallidum(トレポネーマ・パリダム:以下、梅毒トレポネーマ又はTP、という)による局所から全身へ拡大する慢性の感染症で、感染部位に生じる第1期梅毒疹、その後全身性に第2期梅毒疹が生じる。1期疹、2期疹ともに無治療でも自然に消褪し無症状(無症候梅毒)となり、症状の寛解と増悪を繰り返しながら進行していく。感染から数年の経過で晩期症状(晩期梅毒)を呈するようになるとされる。梅毒に感染したとしても、すべての患者が顕症梅毒となるわけではなく、また臨床症状が出現した者で、特に治療をなされなかった者も無症候梅毒となる時期がある。現在、抗生物質により十分に治療可能になっている反面で、このような無症状状態が併存するため、患部からの検体取得よりも、血清学的な検査が主流となりつつある。
【0004】
このような梅毒診断法の一つに、患者体液中に産生される抗体(体液抗体)を検出する方法がある。この抗体検出法では、梅毒トレポネーマ菌を家兔睾丸で培養し、界面活性剤等で可溶化・抽出し、さらに種々の方法を用いて不溶物の除去・必要成分の精製を行ったものが抗原として用いられてきた。しかし、家兔を用いた抗原の製造方法であるため、大量に安定的に且つ同一品質の物を取得するには難しい面があった。また、動物愛護の観点からも問題視されつつあった。その様な点を解消するため、近年、遺伝子組換え技術により大腸菌で産生した梅毒トレポネーマ菌表面抗原(TP抗原)を用いる方法も行われている(特許文献1,非特許文献1)。
【0005】
一方、最近になり、遺伝子組み換え技術を用いてカイコ(組換えカイコ)に有用タンパク質を産生させる技術が確立されている(非特許文献2,3,4,5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-192089号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】V.Sambri,et al.,Western Immunoblotting with Five Treponema pallidum Recombinant Antigens for Serologic Diagnosis of Syphilis Clin.Diagno.Labo.Immuno.,8(3) p.534-539(2001)
【非特許文献2】分子昆虫学,pp.36-45, 共立出版
【非特許文献3】Dev. Growth Differ., 56, 14-25, 2011
【非特許文献4】J. Biotechnol. Biomater, S9, 004, 2012
【非特許文献5】Targeted Gene Expression Using the GAL4/UAS System in the Silkworm Bombyx mori Morikazu Imamura,etal. Genetics, 165, 1329- 1340 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、現在、梅毒は抗生物質によって十分治療可能である反面、無症状状態が併存する。従って、その感染を、可能な限り正確に診断し、早期に治療を行う判断を行う必要性は依然として高く、より高い感度をもって、梅毒トレポネーマ菌による感染を検出する手段の提供が求められている。その点で、現在提供されている遺伝子組換えTP抗原を用いた体液検体中の抗TP抗体の測定における感度性能をさらに向上させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題の解決に向けて検討を行った。そして、TPの人工表面抗原である、遺伝子組換えカイコの繭糸又は絹糸腺由来のTpN47抗原、及び、同遺伝子組換えTpN15-TpN17融合抗原、の混合物を用いて、体液検体中の抗TP抗体を免疫学的測定方法によって測定することにより、測定感度が実用レベルで、ネイティブのTP抗原をも超えて明らかに向上することを見出した。
【0010】
(1)本発明の概要
すなわち本発明は、梅毒トレポネーマ菌(TP)の人工表面抗原である、TpN47遺伝子で形質転換がなされた遺伝子組換えカイコ(以下、47組換えカイコともいう)の繭糸又は絹糸腺に由来する遺伝子組換えTpN47抗原(以下、47抗原ともいう)、及び、同TpN15遺伝子とTpN17遺伝子の融合遺伝子で形質転換がなされた遺伝子組換えカイコ(以下、15-17組換えカイコともいう)の繭糸又は絹糸腺に由来する遺伝子組換えTpN15-TpN17融合抗原(以下、15-17抗原ともいう)、の混合物(以下、本発明のTP抗原混合物、又は、TP抗原混合物、ともいう)を、体液検体と接触させて、該体液検体中の抗梅毒トレポネーマ抗体を、上記抗原の混合物との結合シグナルとして免疫学的測定方法により測定する、体液抗体の測定方法(以下、本発明の測定方法ともいう)を提供する発明である。
【0011】
TP遺伝子で形質転換されたカイコは、既に提供されている技術を用いて生産することが可能である。本実施例では、専門企業に注文をして、47組換えカイコ由来の繭と、15-17組換えカイコ由来の繭を、それぞれ購入して、該繭の繭糸を、47抗原と15-17抗原の原料として用いている。しかしながら、本発明者が知る限り、該繭糸から取得された遺伝子組換えTpN47抗原と、同TpN15-TpN17抗原は、非公知である。
【0012】
(2)梅毒トレポネーマ菌(TP)
TPは、スピロヘータの一種で、TP抗原タンパク質として複数のタンパク質が報告されており(The Journal of Immunology, Vol.129, p.833-838, 1982; The Journal of Immunology, Vol.129, p.1287-1291, 1982; Journal of Clinical Microbiology, Vol.21, p.82-87, 1985; Journal of Clinical Microbiology, Vol.30, p.115-122, 1992)、TP表面抗原タンパク質として、分子量が47kdのTpN47;15kdのTpN15;17kdのTpN17が、代表的なTP表面抗原タンパク質として知られており、その遺伝子の塩基配列ならびにアミノ酸配列も決定されている(Microbiological. Reviews, Vol.57,p.750-779; Infection and Immunity, Vol.61, p.1202-1210, 1993; Journal of Bacteriology, Vol.162, p.1227-1237, 1992; Infection and Immunity, Vol.57, p.3708-3714, 1989)。
【0013】
(3)遺伝子組換えTP抗原
<遺伝子のクローンニング>
遺伝子組換え大腸菌を用いて得られた、遺伝子組換えTpN47抗原、及び、遺伝子組換えTpN15-TpN17融合抗原は既に知られており(特許文献1等)、その生産は遺伝子工学における常法によって行うことができる。すなわち、目的とするTpN47遺伝子ないしTpN15-TpN17融合遺伝子をクローニングし、得られたTp抗原をコードするDNA配列をベクターに組み込んだ後、該ベクターを宿主である大腸菌に導入する。そして、該ベクターが導入されて形質転換がなされた大腸菌を培養して、該ベクターのTp抗原をコードするDNA配列の発現を行うことにより、所望する上記2種類のTP抗原を大量に得ることが可能である。さらに、これらの大腸菌由来の遺伝子組換えTP抗原は、市販もなされている。しかしながら、上記したように、カイコ由来の遺伝子組換えTP抗原については、本発明者の知る限り、非公知である。
【0014】
上記遺伝子のクローニングについては、大腸菌、カイコ(後述)等の遺伝子導入が予定されている宿主を問わずに、PCR法、リコンビナントPCR法等の遺伝子増幅方法によって好適に行われる。また、必要に応じて遺伝子化学合成法を用いることができる。
【0015】
PCR法を用いる場合は、ネイティブのTP抗原遺伝子に、TpN47遺伝子のコーディング領域の両端を挟んだフォワードプライマーとリバースプライマーを用いて、該TP抗原領域を特異的に増幅させた遺伝子増幅産物として、所望するTP抗原遺伝子断片を得ることができる。ネイティブのTP抗原遺伝子は、ウサギ睾丸で培養した梅毒菌(Treponema pallidum, Nicols strain )からジェノミックDNAを抽出することにより得ることができる。
【0016】
リコンビナントPCR法は、TpN15-TpN17融合遺伝子、を得る場合に好適に用いることができる。すなわち、TpN15遺伝子と、TpN17遺伝子を、上記したPCR法等の遺伝子増幅方法により、それぞれ別々に得て、一方のDNA断片のうち他方を結合させたい末端に、該他方のDNA断片の結合させたい側の末端近傍に対して相補的な配列を付加合成し、該末端付加を行った一方の遺伝子断片と、それに結合させたい他方の遺伝子断片、の両者を混合して、企図する融合遺伝子の両端に対して相補的なプライマーを用いたPCR法による遺伝子増幅を行うことにより、所望するTpN15-TpN17融合遺伝子断片を得ることができる。
【0017】
ここで、少なくともカイコに関して、PCR法を用いてTpN47遺伝子をクローニングする場合、及び、リコンビナントPCRを用いてTpN15-TpN17融合遺伝子をクローニングする場合に用いられる遺伝子増幅用プライマーの例示を行う。これらの例示は、公知のPCR法ないしリコンビナントPCR法の知見に、TP抗原の各配列を当て嵌めることにより容易に導かれる事項である。ここで例示する遺伝子増幅用プライマーに関して、塩基配列下線部分は、遺伝子の各末端配列である。各例示のように、3’末端の付加配列には、終止コドンが付加されていることが好適である。また、5’末端配列及び3’末端配列には、所定の制限酵素認識部位が設けられていることが好適である。例えば、5’末端にはBamHI認識配列の付加、3’末端配列にはNotI認識配列の付加が例示されるが、これらに限定されるものではない。組み込まれるベクター、例えば後述するバイナリ発現系における制限酵素部位等に応じて自由に選択することができる。
【0018】
(a)PCR法を用いて、TpN47遺伝子をクローニングする場合には、上記TPジェノミックDNAに対して、TpN47用プライマーとして、例えば;
47Kプライマー1:
5’末端 GATCC GGATCC GGCTCGTCTCATCATGAG(配列番号1)、
47Kプライマー2:
3’末端 TAGCC GCGGCCGC CTA AGACACACGGGATAGGAC(配列番号2)、
が例示される。これらを用いて、TpN47遺伝子のクローニングを行うことができる。
【0019】
(b)リコンビナントPCR法を用いて、TpN15-TpN17融合遺伝子をクローニングする場合には、上記TPジェノミックDNAに対して、先ずTpN17用プライマーとして、例えば;
17Kプライマー1:
5’末端 GATCC GGATCC TGTGTCTCGTGCACAACC(配列番号3)、
17Kプライマー2:
3’末端 TAGCCGCGGCCGCCTATTTCTTTGTTTTTTTGAGCAC(配列番号4)、
が例示される。これらを用いて、TpN17遺伝子のクローニングを行うことができる。
【0020】
次に、TpN15用プライマーとして、例えば;
15Kプライマー1:
5’末端 GATCC GGATCCTGTTCATTTAGTTCTATC(配列番号5)
15Kプライマー2:
3’末端 TAGCC GCGGCCGCCTACCTGCTAATAATGGCTT(配列番号6)
が例示される。これらを用いて、TpN15遺伝子のクローニングを行うことができる。
【0021】
そして、上記のようにして得られた、TpN17遺伝子とTpN15遺伝子を用いて、TpN15-TpN17融合遺伝子のクローニングを行うことができる。
【0022】
すなわち、これらの遺伝子断片と、フラグメント融合増幅に用いるプライマーを適宜共存させて、PCR反応を行うことにより、所望のTpN15-TpN17融合遺伝子のクローニングを行うことができる。具体例を示せば、例えば;
第1に、15Kフラグメント1用プライマーとして、配列番号5と下記配列番号7の増幅用プライマーのペア:
配列番号5の5’末端の15Kプライマー1と、
17K-5’末端+15K-3’末端プライマーとして、
TGTGCACGAGACACACCTGCTAATAATGGCTTCCT(配列番号7)
を準備し、上記で得たTpN15遺伝子を鋳型にしたPCR反応を行って、15K接続フラグメントのクローニングを行い;
第2に、17Kフラグメント2用プライマーとして、下記配列番号8配列番号4の増幅用プライマーのペア:
5’末端 TGTGTCTCGTGCACAACCGT(配列番号8)と、
配列番号4の3’末端の17Kプライマー2
を準備し、上記で得たTpN17遺伝子を鋳型にしたPCR反応を行って、17K接続フラグメントのクローニングを行い;
第3に、15K-17K増幅用プライマーとして、上記配列番号4配列番号5の増幅用プライマーのペアを準備して、上記第1、第2で得た15K接続フラグメント17K接続フラグメントを鋳型としたPCR反応を行う;
ことにより、所望のTpN15-TpN17融合遺伝子のクローニングを行うことができる。
【0023】
得られたTP抗原遺伝子断片の、プラスミドベクターへの組込は、ライゲーション法、リンカーライゲーション法等の常法を用いて行うことができる。
【0024】
<遺伝子組換えカイコ>
遺伝子組換えカイコは、カイコをTP抗原遺伝子で形質転換することにより得ることができる。カイコ(Bombyx mori)は、約5千年ともいわれる養蚕の歴史の中で、野生種のクワコ(Bombys mandarina)から飼い慣らされた種であり、品種改良が続けられた家畜昆虫である。カイコでは、形質転換法が既に提供されており、さらに全ゲノム情報も明らかにされている(Goldsmith,M.R. et al.,Annu.Rev.Entomol.,50:71-100,2005)。
【0025】
上記形質転換法としては、例えば、トランスポゾンを利用したベクター、バイナリ(二元)発現系等を用いる方法が代表的であるが、他に、TALEN、CRISPR/CAS9等を用いて、TP抗原遺伝子のノックインを行うことで、形質転換を行うことも可能である。
【0026】
トランスポゾンを利用したベクターを用いる方法としては、トランスポゾンであるpiggy Bacを用いたプラスミドベクターが良く知られている。該プラスミドベクターは、上記トランスポゾンpiggy Bacの両末端に存在する2つの逆向きの反復配列を含んでおり、カイコの染色体中に組み込むべきTP抗原遺伝子を該反復配列間に挿入する。これをトランスポゼース発現ヘルパープラスミドと共に、カイコの卵に微量注入すると、トランスポゼースの働きで上記反復配列間のTP抗原遺伝子領域が転移するので、染色体中にTP抗原遺伝子が組み込まれたカイコを得ることができる。ただし、piggy Bacを用いた場合は、カイコゲノム中の塩基配列TTAAにほぼランダムにTP抗原遺伝子が挿入されることと、挿入し得るDNA断片のサイズが、ほぼ20kb以下に限定されること等の限界がある。
【0027】
バイナリ発現系としては、GAL4/UAS系、IE1/hr3系、Tet-On/Off系等が挙げられる。これらのうち、GAL4/UAS系は、既にカイコにおいて用いられている(M.Imamura et al.,Genetics 165:1329-1340,2003:非特許文献5)。
【0028】
GAL4/UAS系では、基本プロモーター下にGAL4遺伝子を配置させたコンストラクト(トラップコンストラクト)を作成し、さまざまなゲノム領域に組込む。組込まれたトラップコンストラクトがあるエンハンサーの支配下にある場合、セリシン1プロモーター等の基本プロモーターが、そのエンハンサーをトラップして、酵母由来の転写活性因子であるGAL4が発現する。エンハンサーが、特定のカイコの細胞群でのみ活性を示す場合、GAL4はその細胞群のみで発現する。上記のセリシン1プロモーターは、カイコの中部絹糸腺におけるセリシン1の発現において働く。セリシン1は、セリシン1-3の3種のセリシンのうち、最も分泌量の多いセリシン1である。そして、本発明の対象であるTP抗原遺伝子がカイコの中部絹糸腺で発現し、TP抗原が繭糸のセリシン層に分泌されれば、セリシンは水溶性であることから、リン酸緩衝液等の水性溶媒で溶解可能であり、上記TP抗原の抽出が容易で、活性も損なわれにくい。このような理由から、上記のセリシン1プロモーターは、本発明にGAL4/UAS系を適用させる場合において、最も好適に用いられる基本プロモーターである。ただし、セリシン1プロモーターに、目的遺伝子であるTP抗原遺伝子を直接つないだ場合には、発現量が不十分なため、その発現を増強させるバイナリ発現系を用いることが好適となる。例えば、GAL4の認識配列であるUAS(upstream activator sequence)の下流に、TP抗原遺伝子を配置させたコンストラクトをゲノムに組込むと、発現したGAL4をUASが認識することにより活性化し、該TP抗原遺伝子が効率的に発現する。
【0029】
このようなGAL4/UAS系を利用した遺伝子異所発現は、GAL4トランスジェニック個体(ドライバー)である遺伝子組換えカイコと、UASトランスジェニック個体(エフェクター)である遺伝子組換えカイコを交配させて得られる、二重トランスジェニック個体としてのカイコにおいて行うことができる。
【0030】
IE1/hr3系は、昆虫に感染するバキュロウイルスが持つIE1トランスアクチベーターと、hr3エンハンサーが、宿主の昆虫の遺伝子の発現をコントロールする性質を利用して、目的遺伝子であるTP抗原遺伝子の発現量を上昇させる系である。セリシン1プロモーターで発現させたIE1が、hr3を活性化することにより、目的タンパク質であるTP抗原タンパク質の発現量が増強される。
【0031】
Tet-On/Off系では、大腸菌のテトラサイクリン制御活性化因子が、転写調節応答エレメント配列の下流につないだ導入遺伝子であるTP抗原遺伝子の発現を活性化するが、テトラサイクリンやドキシサイクリンを与えると活性化因子に結合して阻害するため、これらの薬剤投与によりTA抗原遺伝子の発現をオンオフできる。
【0032】
目的とする遺伝子、例えば、GAL4遺伝子やTP抗原遺伝子がカイコに導入され、発現されているか否かの確認は、GAL4遺伝子やTP抗原遺伝子等の導入を目的とする遺伝子の下流にマーカー遺伝子を導入することにより行うことができる。該マーカー遺伝子としては、蛍光タンパク質の遺伝子を用いることが好適である。蛍光タンパク質の遺伝子は、必要に応じて2種類以上の色彩の蛍光タンパク質の遺伝子を用いることができる。例えば、赤色蛍光タンパク質の遺伝子を一方(例えば、ドライバーカイコ)のマーカーとし、緑色蛍光タンパク質の遺伝子を他方(エフェクターカイコ)のマーカーとして用いると、交配により両者が導入されたカイコからは赤色と緑色が合わさった黄色蛍光が観察できるので、この黄色蛍光を指標として、ドライバー遺伝子とエフェクター遺伝子の両者が導入されたカイコを選抜することができる。
【0033】
(4)本発明のTP抗原混合物
上記の通り、本発明のTP抗原混合物は、47-抗原と15-17抗原の混合物である。47-抗原と15-17抗原の混合比は、47-抗原:15-17抗原(質量比)が、4:6-6:4であることが好適である。本発明のTP混合物は、水性溶媒中に溶解した状態の水性組成物の形態であってもよいし、凍結乾燥品等であってもよいし、固相に固定化された状態であってもよい。水性組成物における、本発明のTP抗原混合物の濃度は、該混合物の使用目的に応じて自由に設定可能である。
【0034】
(5)体液検体
本発明の測定方法に供される体液検体は、梅毒罹患により、抗TP抗体が含まれ得る体液の検体であれば限定されない。例えば、血液検体、唾液検体、尿検体等が例示される。これらの中でも、特に血液検体が好適である。血液検体としては、全血検体、血清検体、血漿検体等が挙げられ、血清検体又は血漿検体がさらに好適である。必要に応じて抗凝固剤等の添加や、TP Reiter株の培養液加熱上清で非特異抗体の吸収処理を行って得られる血清も許容される。また、適宜生理食塩水や緩衝液による希釈も行われる。
【0035】
(6)免疫学的測定方法
本発明の測定方法において行われる免疫学的測定方法は、体液検体中の抗TP抗体と、本発明のTP抗原混合物の間の抗原抗体反応によって、該体液検体中の抗TP抗体を測定できる手段であれば限定されない。その限りにおいて、酵素免疫測定法、免疫比濁法、放射性免疫測定法、ラテックス凝集法若しくは比濁法(以下、ラテックス凝集法・比濁法と記載する)、血球若しくは粒子凝集法(以下、血球・粒子凝集法と記載する)、イムノクロマトグラフィー法等を用いることができる。
【0036】
酵素免疫測定法としては、例えば、EIA(酵素免疫測定法:Enzyme Immunoassay)、ELISA(酵素免疫測定法:Enzyme-Linked immunosorbent assay)、FEIA(蛍光酵素免疫測定法:Fluorescence Enzyme Immunoassay)、CLEIA(CLIA)(化学発光・酵素免疫測定法:Chemiluminescent Enzyme Immunoassay)、CLIA(化学発光免疫測定法:Chemiluminescent Immunoassay)等が挙げられる。なお、略語CLIAは、CLEIAの意味で用いられる場合が多い。
【0037】
免疫比濁法としては、例えば、ネフェロメトリー(Nephelometry)、IA(免疫比濁法:Turbidimetric Immunoassay)等が挙げられる。
【0038】
放射性免疫測定法としては、例えば、RIA(放射性免疫測定法:Radio Immunoassay)、CPBA(競合性蛋白結合分析法:Competitive Protein Binding Assay)等が挙げられる。
【0039】
ラテックス凝集法・比濁法としては、例えば、LA(ラテックス凝集反応:Latex Agglutination)、LA(ラテックス凝集比濁法:Latex Agglutination turbidimetric Immunoassay)、LPIA(ラテックス近赤外比濁法:Latex Photometric Immunoassay)、KIMS(マイクロパーティクル比濁法:Kinetic Interaction of Microparticles)、金コロイド免疫測定法(Colloidal Gold Immunoassay)等が挙げられる。
【0040】
血球・粒子凝集法としては、例えば、PA(粒子凝集反応:Particle Agglutination)、PHA(受身赤血球凝集反応:Passive Hemagglutination)等が挙げられる。
【0041】
本発明の測定方法においては、具体的には、上記の各免疫学的測定方法における、体液検体中の抗TP抗体を捕捉するためのTP抗原として、本発明のTP抗原混合物を適用する。該適用の具体的な形態は、適用する測定方法に応じて自由に選択が可能である。
【0042】
本発明の測定方法において、酵素免疫測定法を行う場合、例えば、ELISAでは、固相として用いられる96ウェルプレートのウェルに、TP抗原混合物を定着させて、これに体液検体を接触させて、体液検体中の抗TP抗体を、ウェルに定着されているTP抗原混合物に該抗体を結合させる工程を行い、その後、所定の酵素標識が付加された抗ヒト抗体を、ウェル上の体液検体中の抗TP抗体が結合したTP抗原混合物に接触させて、上記酵素標識から得られる発色シグナルによって、体液検体中の抗TP抗体を測定することができる。他の酵素免疫測定法においても、それぞれの測定法に応じた固相、例えば、所定の粒子等を固相として、本発明のTP抗原混合物を定着させ、体液検体中の抗TP抗体を接触させ、測定方法の種類に応じた標識を行った抗ヒト抗体を、上記固相に定着している抗TP抗体が結合したTP抗原混合物、に結合させて、上記所定の標識、例えば、蛍光基質(FEIA)、化学発光基質(CLEIA又はCLIA)等によるシグナルによって、体液検体中の抗TP抗体を測定することができる。
【0043】
免疫比濁法を用いる場合には、液相において、体液検体と本発明のTP抗原混合物を接触させて、該液相に対して、光の錯乱強度(ネフェロメトリー)や透過率(IA)を測定することで、体液検体中の抗TP抗原を測定することができる。
【0044】
放射性免疫測定法を用いる場合には、例えば、RIAにおいては、一定量の本発明のTP抗原混合物に対して、RI標識した抗体と体液検体中の抗TP抗体との競合的抗原抗体反応を行い、抗原と結合した標識抗体(結合型:Bound)と抗原と結合していない標識抗体(遊離型:Free)を分離し、その割合を放射活性から抗TP抗体の濃度として測定することができる。抗原抗体複合体を第2抗体で沈澱させる2抗体法、硫酸アンモニウム(硫安)で沈澱させる硫安塩析法、PEG沈澱させる方法がある。CPBA法では、RI標識した抗体と、固相に定着された本発明のTP抗原混合物との反応に対して、RIを標識していない体液検体中の抗TP抗体を競合反応させた後、結合抗体と遊離抗体を分離してその放射能を測定することができる。
【0045】
ラテックス凝集法・比濁法を用いる場合には、例えば、ラテックス凝集反応は、本発明のTP抗原混合物を、固相であるラテックス粒子に感作させて、該感作ラテックス粒子と体液検体中の抗TP抗体と抗原抗体反応を行い、抗原抗体反応による凝集の有無により体液検体中の抗TP抗体の存在を判定する方法である。主にスライドガラス上で反応させて、その白濁状態を観測する。ラテックス凝集比濁法は、上記のラテックス凝集反応における、感作ラテックスの凝集に伴う反応液の濁度変化に基づいて、体液検体中の抗TP抗原を測定する方法であり、自動化がなされている。ラテックス近赤外比濁法は、上記のラテックス凝集反応における、感作ラテックスの凝集に伴う反応液の濁度を、近赤外光を照射して、透過率に基づいて、体液検体中の抗TP抗原を測定する方法である。マイクロパーティクル比濁法は、本発明のTP抗原混合物を結合させたマイクロパーティクルを固相として用いて、体液検体中の抗TP抗体との抗原抗体反応を行ない、該抗原抗体反応による凝集の濁度を透過率から測定して、体液検体中の抗TP抗原を測定する方法である。金コロイド免疫測定法は、本発明のTP抗原混合物との抗原抗体反応により捕捉した体液検体中の抗TP抗体に、さらに金コロイド標識したTP抗原を反応させ、金コロイドの呈色により体液検体中の抗TP抗原の存在を判定する方法である。イムノクロマト法においてもこの原理が用いられることがある。
【0046】
血球・粒子凝集法を用いる場合には、例えば、粒子凝集反応は、本発明のTP抗原混合物を吸着(結合)させたゼラチン粒子等を固相として、体液検体中の抗TP抗原と該感作粒子との抗原抗体反応を行ない、該反応による凝集の有無により、体液検体中の抗TP抗体の存在を判定する方法である。受身赤血球凝集反応は、赤血球の表面に、本発明のTP抗原混合物を固定させた感作赤血球を用いて、体液検体中の抗TP抗体を反応させ、抗原抗体反応による凝集の有無により、体液検体中の抗TP抗体の存在を判定する方法である。
【0047】
イムノクロマトグラフィー法は、液体をニトロセルロース膜等に滴下すると毛細管現象により膜上を移動する性質を利用した免疫学的測定法である。まず体液検体と標識を行った、本発明のTP抗原混合物を接触させて、標識付きの抗原抗体複合体を形成させ、該抗原抗体複合体が膜を移動する過程で、下流に固相化したTP抗原によって該抗原抗体複合体を捕捉し、標識の有無で、体液検体中の抗TP抗原の有無を判断することができる。臨床現場即時検査(POCT)のツールとしても用いられている。詳しくは、後述する。
【0048】
本発明は、TP抗原混合物の、固相における定着物が用いられる態様の上記測定方法を提供する。固相における定着物とは、上述したTP抗原混合物が定着しているチューブ、カラム等;96ウェルプレート等の多穴プレート;ラテックス粒子、ゼラチン粒子、マイクロパーティクル等の粒子;等である。本発明は、これらの定着物(以下、本発明の固相ともいう)も提供する。
【0049】
さらに本発明は、TP抗原混合物の固相化領域が設けられており、
該固相化領域と体液検体との接触により形成され、水相により媒介される毛細管現象により連続相中を移動する、上記抗原の混合物と体液検体中の抗TP抗体の複合体を検出する領域が、上記固相化領域の下流に設けられている、
梅毒トレポネーマ測定用イムノクロマトデバイス(以下、本発明のデバイスともいう)を提供する。
【0050】
(7)データの提供方法など
本発明の測定方法は、例えば、本発明のTP抗原混合物、と体液検体を接触させ、該体液検体中の抗TP抗体を、上記TP抗原混合物との結合をシグナルとして測定し、該シグナルを検体提供者の梅毒罹患のデータとして取得するデータの取得方法、とも表現され得るものである。
【0051】
また、本発明は、本発明の固相を要素として含む、本発明の測定方法を行うためのキット(以下、本発明のキットともいう)を提供する。本発明のキットには、その他、具体的な免疫学的測定方法に応じた、測定に際して用いられる希釈液、標識第2抗体、標識顕在化試薬等を、自由にキット要素として含ませることが可能である。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、測定感度が実用レベルで明らかに従来品よりも向上した、体液検体中の抗TP抗体の測定手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の測定方法を、イムノクロマト法により行う場合のデバイスの一例を示した図面である。
図2】本発明の測定方法を、イムノクロマト法により行う場合の測定原理の一例を示した図面である。
図3】本発明の測定方法を、ELISA法等の酵素免疫測定法により行う場合の測定原理を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0055】
図1は、本発明の測定方法を、イムノクロマト法により行う場合のデバイスの一例を示した図面である。イムノクロマトデバイス10(以下、デバイス10)は、パッキングシート5の上に、水分吸収相1、移動相2、検体滴下・反応相3が固定されて構成されており、水分吸収相1、移動相2及び検体滴下・反応相3は、互いに水分が流通可能な形態で接触している。移動相2には、発色エリア21が設けられている。体液検体を検体滴下・反応相3に滴下すると、検体中の抗TP抗体は、検体滴下・反応相3に含まれているTP抗原混合物と反応し、抗TP抗体-TP抗原複合体の結合物を形成する。この結合物は、3→2→1の方向で毛細管現象により移動し、抗TP抗体-TP抗原複合体の捕捉手段とシグナル発色手段が設けられた発色エリア21において捕捉され、所定の発色が惹起される。上記毛細管現象による移動を促進するために、別途展開液が、検体滴下・反応相3に直接、又は、その上流から添加されてもよい。フリーのTP抗原や展開液は、水分吸収相1においてトラップされる。水分吸収相1は、該トラップ機能の他、毛細管現象の整流作用も担っており、コットンや濾紙等の吸水力の強い素材が好適である。上記の所定の発色が、体液検体中に抗TP抗体が存在するシグナルとなる。発色すれば、体液検体中に抗TP抗体が存在し(陽性)、発色しなければ該抗TP抗体は存在しない(陰性)が判明する。
【0056】
図2は、デバイス10を用いる測定原理の一例を示した図面である。デバイス10における基本的な反応原理は、体液検体中の抗TP抗体と、本発明のTP抗原混合物との抗原抗体反応である。図2に示した検体滴下・反応相3には、粒子61に対して「15-17抗原52と47抗原53との混合物であるTP抗原混合物50」が感作された感作粒子41、が、水分で媒介される毛細管現象により移動可能な状態で付着している。粒子61としては、例えば、色付きラテックス粒子、蛍光粒子、金コロイド等の金属コロイド粒子等が挙げられる。また、粒子61を用いずに、例えば、TP抗原混合物50に直接、発色酵素等の標識を担持させたものを用いることも可能である。上記金属コロイドとしては、金コロイド以外に、銀コロイド、セレニウムコロイド等の異なる金属のコロイドを用いることも可能である。また、発色酵素等の標識は、発色エリア21において該発色酵素に対する基質等の標識顕在化試薬を反応させることにより、所定のシグナルを発生させる。該標識顕在化試薬は、別途発色エリア21に向けて滴下することも可能であるが、例えば、予め該顕在化試薬を発色エリア21に付着させて、毛細管現象により移動した水分の介在により、自動的にシグナルの発生が惹起される機構を、発色エリア21において設けることが好適である。
【0057】
抗TP抗体51が含有され得る体液検体としては、上述した通り、血液検体が好適である。血液検体としては、全血検体、血清検体、血漿検体等が挙げられ、血清検体又は血漿検体が好適である。体液検体中の抗TP抗体51は、被験者がTPに感染することによる、液性免疫反応として生成される抗体であるから、体液検体中の抗TP抗体51の存在は、被験者の梅毒罹患に関するシグナル、すなわち、被験者が梅毒に罹患している、又は、少なくとも罹患していたことのシグナルとなる。
【0058】
検体滴下・反応相3の素材は、感作抗原41等を、乾燥時に付着させることが可能であり、かつ、体液検体、展開液等による液相中では、TP抗原混合物中のTP抗原、又は、抗TP抗体-TP抗原複合体が解離する素材であれば限定されない。例えば、グラスファイバー、コットン、濾紙等が例示される。また、検体滴下相(図示せず)と反応相が別途設けられていても良い。この場合、検体滴下相は、感作粒子41等が付着している反応相の上流に配置される。上記のように、添加されることがある展開液は、抗原抗体反応を阻害せず、デバイス10における毛細管現象で3→2→1の進行が可能である限り限定されず、各種の水性溶媒、例えば、水、緩衝液、生理食塩液等が例示される。
【0059】
デバイス10においては、先ず、検体滴下・反応相3に付着している感作粒子41表面に感作されているTP抗原混合物50(多数の15-17抗原52と多数の47抗原53で構成されている)に、体液検体中の抗TP抗体51が接触して(図2(1))、抗原抗体反応により、抗TP抗体-TP抗原複合体を担持した粒子42(複合体担持粒子42)が形成される(図2(2))。
【0060】
移動相2は、水分で媒介される毛細管現象により、TP抗原混合物中のTP抗原、又は、複合体担持粒子42、が移動し得る素材であり、発色エリア21を設けることが可能な素材であれば特に限定されず、例えば、ニトロセルロースメンブレン、セルロースナノファイバー、グラスファイバー、シリカゲル等が挙げられる。毛細管現象により、発色エリア21に到達した複合体担持粒子42は、発色エリア21において捕捉される。捕捉手段は、発色手段と一体となっている。具体的には、発色エリア21は、ライン状にTP抗原が固定化されている。該固定化は、水分によって移動・拡散しない強固な固定化である必要がある。また、発色エリア21において固定化されたTP抗原は、TP抗原混合物50であることが好適であるが、他のTP抗原、例えばネイティブのTP抗原であっても、異なる宿主において形質転換されたTP抗原であってもよい。また、ライン状以外の形状、例えば、点状、円状等の任意のデザインであってもよく、全く限定されない。毛細管現象によって移動してきた複合体担持粒子42は、かかる発色エリア21において固定化されたTP抗原と、該複合体担持粒子42上の抗TP抗原51との抗原抗体反応による結合により捕捉され、「固定化TP抗原-抗TP抗体-TP抗原」というサンドイッチ複合体の結合物43を形成する(図2(3))。
【0061】
かかるサンドイッチ複合体43が、企図された作用で発色エリア21において発色することにより顕在化し、これにより、体液検体中の抗TP抗体の存在の測定が行われる。例えば、着色ラテックス等の着色粒子や金コロイドであれば、発色エリア21において上記サンドイッチ複合体43が形成されることにより、ラテックスの着色や金コロイドの赤色が視覚的に顕在化する。また、アルカリフォスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ等の発色酵素であれば、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸二ナトリウム塩、DAB(3,3’-ジアミノベンジジン四塩酸塩)等の発色基質との接触によって、視覚的に顕在化する。上記のように、このデバイス10の方式により、抗TP抗体が陽性であれば、検体提供者は梅毒に罹患している、又は、罹患していた可能性が高くなり、陰性であれば、梅毒には感染していないか、又は、様子見状態であることを示している。梅毒は、長期間における経過観察が必要であるため、高感度で手軽に用いることができるデバイス10を用いて経時的にモニタリングすることにより、梅毒の確定診断のためのデータを、信頼性を伴って得ることが可能である。
【0062】
図3は、本発明の測定方法を、ELISA法等の酵素免疫測定法により行う場合の測定原理を示した図面である。図3において、固相62は、その内壁において、本発明の測定方法に係わる抗原抗体反応を行う構造になっている。例えば、96ウェルプレート等の多穴プレートのウェルが典型的であるが、これに限定されるものではなく、あくまでも例示であり、他の態様、例えば、カラム表面、粒子、チューブ等であってもよい。いずれにしても、固相62において定着されているTP抗原混合物50に対して、体液検体中の抗TP抗体51を接触させて抗原抗体反応を行うのが第1ステップである(図3(1))。
【0063】
この第1ステップにより形成された、固相定着TP混合物50-抗TP抗体51の複合体501に対して、さらに、抗TP抗体51に対する抗ヒト抗体に発色酵素等の標識物質を担持した第2抗体54を接触させるのが、第2ステップである(図3(2))。
【0064】
この第2ステップにより形成された、固相定着TP混合物50-抗TP抗体51の複合体501-第2抗体からなるサンドイッチ複合体502に対して、反応基質等の標識顕在化試薬55を作用させて発色させる発色工程が、第3ステップである(図3(3))。
【0065】
この第3ステップによる発色等のシグナル56を測定することにより、体液検体中の抗TP抗体51の測定を行うことができる。図3(4)に示すように、シグナル強度と抗TP抗体量を関連付けた検量線を用いることにより、定性のみならず定量を行うことが可能である。
【実施例0066】
以下、本発明にかかわる試験例ないし実施例を開示する。
【0067】
[製造例1] 組換えTP抗原の精製
リムコ株式会社(沖縄県うるま市)からオンデマンド注文を行って購入した、47組換えカイコと、15-17組換えカイコが、それぞれ産生した100個ほどの繭を用いて、カイコ遺伝子組換えTP抗原の抽出と精製を行った。これらの繭は、ハサミで5mmほどの大きさに切断し、PBS-1%Tritonx-100に浸潤し、一昼夜4℃下でスターラー攪拌した。次に、ろ紙(ワットマン社)で不溶物を濾別し、抽出液を得た。抽出液は遠心濃縮器(サルトリウス社 ビバスピン20)にて濃縮し、Sephacryl S-200HR XK50/60(GE社)カラム、トリス塩酸緩衝液にてゲルろ過した。抗原分画は遠心濃縮器で濃縮し、精製組換え抗原とした。表1に精製結果を示した。
【0068】
【表1】
【0069】
[参考例1] ELISAによる反応性比較
96ウェルELISAプレート(BECTON DICKINSON社)の各ウェルに、ネイティブ抗原、及び、組換えカイコ抗原(TpN47,TpN15-17)それぞれを、10mMリン酸緩衝液で希釈し、5μg/mLの濃度で100μL/ウェルで分注し、一晩4℃に放置することにより各ウェル壁を感作した。感作後、1%ウシ血清アルブミンを含む10mMリン酸緩衝液で37℃2時間ブロッキング後、洗浄、乾燥し、各抗原の感作ELISAプレートとした。
【0070】
各ウェルに、種々の濃度の抗TP抗体標準液(積水メディカル)を50μL分注し、室温で60分インキュベートした。0.05%トリトンX100-10mMリン酸緩衝液で洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG(DAKO社製)を50μL加え、室温で1.5時間インキュベートした。0.05%トリトンX100-10mMリン酸緩衝液で洗浄後、過酸化水素水とTMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)の混合溶液を50μL加えて3分間発色させた。反応を停止した後、分光光度計で450nmの吸光度を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
[実施例1] イムノクロマト法テストデバイスによる試験
(1)テストデバイスの作製
図1に示すイムノクロマトデバイスを作製した。
【0073】
組換えカイコTpN47抗原および組換えカイコTpN15-17抗原を、それぞれ1mg/mlリン酸緩衝液溶液として、等容量混合して、混合抗原原液を調製した。混合抗原混合原液中の各抗原濃度は、0.5mg/mlである。この混合抗原混合原液1容を、赤色ラテックス粒子(Bangs Laboratory)を、同じくリン酸緩衝液に懸濁したラテックス懸濁液9容に加えて、4℃で5時間転倒混和した。1%BSAを含むリン酸緩衝液でブロッキング処理し、混合抗原感作ラテックス粒子含有液を得た。
【0074】
小片に裁断されたグラスファイバーシート(Millipor)に、上記の抗原感作ラテックス粒子懸濁液を均一に塗布し、減圧乾燥装置に入れ20時間減圧乾燥して、図1のデバイス10における検体滴下・反応相3に相当するコンジュゲートパッドを作製した(以下、コンジュゲートパッドという)。図1の移動相2該当する、イムノクロマト用ニトロセルロースメンブレン(IMMUNOPORE)の上に、上記の組換え抗原混合物溶液を点着機(BIODOT XYZ3050)を用いて塗布し、発色エリア21に相当する線状の発色ラインを設けた(以下、ライン塗布メンブレンという)。図1の水分吸収相としては、濾紙(ワットマン製)を用いた。適切な幅、長さに切断したコンジュゲートパッド、塗布メンブレン、濾紙を、図1の如く組み合わせて測定用のテストデバイスを作製した(以下、本品と称する)。
【0075】
体液検体を、コンジュゲートパッドに滴下すると、体液検体中の抗TP抗体は、コンジュゲートパッドに含まれるTP抗原感作赤色ラテックスビーズと反応し、抗TP抗体-TP抗原感作ラテックスビーズの複合体を形成する。この複合体は、移動相であるライン塗布メンブレン上を移動して、下流側に固相化された線状の発色ラインとして固相化されたTP抗原と結合し、固相化TP抗原-抗TP抗体-TP抗原感作赤色ラテックスビーズのサンドイッチタイプの複合体を形成する。なお、上記メンブレン上の移動に際して、展開液はあっても無くてもよい。これにより顕在化するラテックスビーズの赤色のラインの有無により、検体提供者の梅毒罹患に関するシグナルが陽性か否かを判定することができる。赤色ラインが現れた場合は、梅毒シグナル陽性である。
【0076】
(2)組換えカイコ抗原を用いたテストデバイスの市販検査試薬との比較
本試験は、ヒト血清を体液検体として用いた。また、上記複合体のメンブレン移動用の展開液は用いていない。抗TP抗体の濃度が18.75mIU/mLの血清を、抗TP抗体陰性の健常人血清で2倍希釈系列を作製した。この希釈血清をセロディアTPPA(富士レビオ)と、上記のように赤色ラテックスビーズに感作させた組換えカイコ抗原を用いた、上記のテストデバイス(本品)で測定した。セロディアTPPAは添付文書の処方に従い、また、本品は血清100μLを、コンジュゲートパッドに滴下し、メンブレンに展開し、15分後に赤色ラインの出現の有無で陰陽を判定した。結果を表3に示す。表3において、「+」は陽性、「-」は陰性、「±」は判定保留を示している。
【0077】
【表3】
【0078】
セロディアTPPAは32倍希釈(9.38mIU/mL)で保留判定となったが、本品では128倍希釈(2.34mIU/mL)まで陽性判定であった。このように、明らかに本品の感度が高いことが示された。抗TP抗体測定の標準法であるセロディアTPPAはネイティブ抗原を使用しているが、それにもかかわらず組換えカイコ由来のTP抗原混合物の優位性が認められた。
【0079】
(3)梅毒セロコンバージョンパネル測定による市販検査試薬との比較
上述したように、梅毒は潜伏性を伴うので、検査試薬の性能を実用レベルで確かめるためには経時的な効果の検討が必要であり、セロコンバージョンパネルによる試験が適合する。TP感染後、体液抗体の産生は一度に起こるのではなく、少量から徐々に増加する。従って、感度の高い試薬は、より少量の体液抗体から測定できるので、TP感染後、より早い段階から、TP感染の診断に寄与することが可能となる。かかる観点からの試薬の性能を、セロコンバージョンパネルを用いることにより検討することが可能である。これは言い換えれば、実用レベルの試薬性能の検討と位置付けられる。
【0080】
市販されているセロコンバージョンパネル(PSS901/SeraCare)を、イムノクロマトデバイスを含む試薬であるエスプラインTPAb(富士レビオ)と、上記のセロディアTPPAおよび本品で測定した。エスプラインTPAbは大腸菌組換え抗原を使用し、TpN15-17およびTpN47それぞれに個別に判定する事ができる測定デバイスを含む試薬であり、添付文書の処方に従い実施した。本品は、上記(2)と同様の操作で行った。結果は、表4に示した。表4における「+」「-」「±」の意義は、表3と同様である。
【0081】
【表4】
【0082】
エスプラインTPAbのTp15-17は45日目で保留判定、48日目で陽性、TpN47は52日目で陽性と判定された。また、セロディアTPPAでは45日目に陽性となった。一方、本品は31日目に陽性判定となり、他の2法に比べ明らかに早期に抗TP抗体を捕捉できた。一般的に感染後30日ほど経過すると血中にIgMが出現し、45日ほど過ぎるとIgGが出現すると言われているが、本品はIgMとも反応したと考えられる。抗TP抗体測定における組換えカイコ抗原の使用は、IgMの捕捉が難しいと言われているにもかかわらず、本発明のTP抗原混合物を用いた本品においては可能であることが示された。
【0083】
[実施例2] ELISA法による試験
96ウェルELISAプレート(BECTON DICKINSON社)の各ウェルに、ネイティブ抗原(常盤化学)、及び、上記実施例1(1)にて調製したカイコ由来の組換抗原(TpN47,TpN15-17)の混合物(TP抗原混合物)原液、それぞれを10mMリン酸緩衝液で希釈し、5μg/mLの濃度で、100μL/ウェルで分注し一晩4℃に放置することにより感作した。感作後1%ウシ血清アルブミンを含む10mMリン酸緩衝液で、37℃2時間ブロッキング後、洗浄、乾燥し、各抗原の感作ELISAプレートとした。
【0084】
各ウェルに種々の濃度の抗TP抗体標準液(積水メディカル)を50μL分注し、室温で60分インキュベートした。洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG(DAKO社製)を50μL加え、室温1.5時間インキュベートした。洗浄後、過酸化水素水とTMB(3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine)の混合溶液を50μL加えて、3分間発色させた。硫酸溶液で反応を停止させた後、分光光度計で450nmの吸光度を測定した。結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
この結果より、本発明のTP抗原混合物を用いた場合、ELISAにおいても、ネイティブ抗原と比べて、極めて高感度に体液検体中の抗TP抗体を測定できることが明らかになった。
【0087】
そして実施例1と実施例2の結果より、イムノクロマトグラフィー法やELISA法をはじめとする免疫学的測定方法を用いた、体液検体における抗TP抗体の測定に用いることにより、梅毒のより早期の診断への寄与が可能となることが明らかになった。
【符号の説明】
【0088】
1:水分吸収相
2:移動相
21:発色エリア
3:検体滴下・反応相
10:イムノクロマトデバイス
41:感作粒子
42:複合体担持粒子
43,502:サンドイッチ複合体
50:TP抗原混合物
501:固相定着TP混合物-抗TP抗体の複合体
51:抗TP抗体
52:15-17抗原
53:47抗原
54:第2抗体
55:標識顕在化試薬
56:シグナル
61:粒子
62:固相
図1
図2
図3
【配列表】
2022187445000001.app