(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187488
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ヒメマツタケ菌糸体亜臨界水抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/07 20060101AFI20221212BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221212BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221212BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20221212BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20221212BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20221212BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
A61K36/07
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/39
A23L33/10
A23L19/00 101
C12N1/14 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091672
(22)【出願日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021095067
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000141381
【氏名又は名称】株式会社岩出菌学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガバザ エステバン
(72)【発明者】
【氏名】河岸 洋和
(72)【発明者】
【氏名】小堀 一
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4B065
4C085
4C088
【Fターム(参考)】
4B016LC07
4B016LG14
4B016LP02
4B018LB10
4B018MD82
4B018ME08
4B018ME14
4B018MF14
4B065AA71X
4B065AC14
4B065BD16
4B065CA41
4B065CA44
4C085AA03
4C085AA38
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4C085FF21
4C085GG01
4C088AA07
4C088AC17
4C088BA05
4C088CA05
4C088MA17
4C088MA44
4C088MA52
4C088MA66
4C088NA14
4C088ZB09
4C088ZB26
(57)【要約】
【課題】ヒメマツタケ抽出物を取得するための作業の負担を軽減し、かつ低コストの方法を提供する。
【解決手段】ヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)菌糸体を無菌的に培養し、培養液又はその乾燥物から熱水抽出及び/又は亜臨界水抽出することを特徴とする、ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び亜臨界水抽出物の製造方法、ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物を有効成分として含有する抗癌剤耐性抑制剤及び樹状細胞活性化剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)菌糸体を無菌的に培養し、培養液又はその乾燥物から熱水抽出及び/又は亜臨界水抽出することを特徴とする、ヒメマツタケ菌糸体抽出物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法によって得られる、ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物又は亜臨界水抽出物。
【請求項3】
ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物を有効成分として含有する抗癌剤耐性抑制剤。
【請求項4】
免疫チェックポイント分子の発現及び/又は機能を阻害する、請求項3記載の抗癌剤耐性抑制剤。
【請求項5】
免疫チェックポイント分子がPD-L1及び/又はPD-L2である、請求項4記載の抗癌剤耐性抑制剤。
【請求項6】
AXLの発現及び/又は機能を阻害する、請求項3記載の抗癌剤耐性抑制剤。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか1項記載の抗癌剤耐性抑制剤を含有する抗癌剤。
【請求項8】
ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物を有効成分として含有する樹状細胞活性化剤。
【請求項9】
請求項8記載の樹状細胞活性化剤を含有するワクチンアジュバント。
【請求項10】
請求項2記載の抽出物、請求項3~6のいずれか1項記載の抗癌剤耐性抑制剤、又は請求項8記載の樹状細胞活性化剤を含有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒメマツタケ菌糸体亜臨界水抽出物及び熱水抽出物の製造方法、及びヒメマツタケ菌糸体亜臨界水抽出物及び/又は熱水抽出物を有効成分とする抗癌剤耐性抑制剤及び樹状細胞活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キノコの培養物から分離される成分に各種の薬理作用があることが報告されている。本発明者等のグループでは、その中で、ヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)の子実体から分離される水溶性成分、及び子実体から熱水抽出を行った後の水不溶性画分に抗腫瘍活性が見られることを報告している。
【0003】
近年では、ヒメマツタケ子実体の水不溶性抽出物中に樹状細胞活性化作用を有する成分が含まれ、一方、ヒメマツタケ子実体のアルカリ抽出物又は亜臨界水抽出物中に抗癌剤耐性抑制作用を有する成分が含まれることが見出されている(特許文献1及び2)。
【0004】
一方、ヒメマツタケ菌糸体に関しても種々検討され、抗腫瘍作用を有する成分が含まれること、機能性食品としての利用等について開示されている(特許文献3~9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6292657号
【特許文献2】特開2018-83807号
【特許文献3】特許第1442647号
【特許文献4】特許第1442648号
【特許文献5】特許第1802776号
【特許文献6】特許第1928213号
【特許文献7】特許第4057107号
【特許文献8】特許第4010519号
【特許文献9】特開平02-211846号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のキノコの主たる用途は、機能性食品を含む食品としての用途であり、従って、その種類によって特徴的な形態を有し、栽培によって大量に製造できる子実体を利用することが主流であった。ヒメマツタケの場合、最初に採取されたブラジルのような高温・高湿度条件を備えた気候が栽培に適していることから、その効率的な栽培のために国外の農場に栽培を委託することが行われていた。
【0007】
しかしながら、栽培のための堆肥製造や床入れ、発生操作等に大幅な手間が掛かる上に、外気温や天候等の外部環境の影響を受けやすく、コンタミネーションのリスクも高いものであった。これは、食品だけでなく、医薬としての利用を考慮すれば大きな課題となっており、またコストがかかるという問題も有していた。また、近年の世界的な地球温暖化に伴う気候変動により、安定的に大規模栽培が行える地域も徐々に縮小している。
【0008】
更に、現在、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大によって、国外におけるキノコ栽培、及び栽培されたキノコ子実体の輸入等の行為も困難な状況となってきている。
【0009】
従って、有効成分を含有するヒメマツタケ抽出物を取得するための作業の負担を軽減し、かつ低コストで外部環境に影響されずに国内にて実施できる方法が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、従来のような栽培に依存せずに有効成分を取得する方法について検討する中で、通年を通して安定的に製造が可能である大型培養タンクを利用した菌糸体培養を利用することを検討した。その結果、ヒメマツタケを菌糸体培養し、得られた菌糸体から熱水及び/又は亜臨界水を利用した抽出処理によって、抗癌剤耐性抑制効果及び樹状細胞活性化効果を有する画分を効果的に取得することができることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1. ヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)菌糸体を無菌的に培養し、培養液又はその乾燥物から熱水抽出及び/又は亜臨界水抽出することを特徴とする、ヒメマツタケ菌糸体抽出物の製造方法。
2. 上記1記載の方法によって得られる、ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物又は亜臨界水抽出物。
3. ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物を有効成分として含有する抗癌剤耐性抑制剤。
4. 免疫チェックポイント分子の発現及び/又は機能を阻害する、上記3記載の抗癌剤耐性抑制剤。
5. 免疫チェックポイント分子がPD-L1及び/又はPD-L2である、上記4記載の抗癌剤耐性抑制剤。
6. AXLの発現及び/又は機能を阻害する、上記3~5のいずれか記載の抗癌剤耐性抑制剤。
7. 上記3~6のいずれか記載の抗癌剤耐性抑制剤を含有する抗癌剤。
8. ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物を有効成分として含有する樹状細胞活性化剤。
9. 上記8記載の樹状細胞活性化剤を含有するワクチンアジュバント。
10. 上記2記載の抽出物、上記3~6のいずれか記載の抗癌剤耐性抑制剤、又は上記8記載の樹状細胞活性化剤を含有する組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ヒメマツタケ菌糸体から抗癌剤耐性抑制効果及び樹状細胞活性化効果を有する画分を取得することができた。本発明の方法を用いることにより、培養温度等の条件がすべてコントロール可能な大型培養タンクで菌糸体を培養し、得られた菌糸体から無菌的かつ安定的に有効成分を含有する画分を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明において使用可能なヒメマツタケ菌糸体熱水/亜臨界水抽出物の取得方法の一例を示す。
【
図2】本発明の抽出物(G、H、I)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。AXL mRNAの発現(A)、PD-L1 mRNAの発現(B)及びPD-L2 mRNAの発現(C)をグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAの発現に対する比として算出し、NC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図3】本発明の抽出物(G、H、I)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。AXL mRNAの発現(A)、PD-L1 mRNAの発現(B)及びPD-L2 mRNAの発現(C)をNC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図4】本発明の抽出物(G、H、I)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。ウェスタンブロッティングにより測定されるAXL 免疫チェックポイント分子の発現(A)、PD-L1 免疫チェックポイント分子の発現(B)及びPD-L2 免疫チェックポイント分子の発現(C)をβ-アクチンの発現に対する比として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図5】本発明の抽出物(G、H、I)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。AXL mRNAの発現(A)、PD-L1 mRNAの発現(B)及びPD-L2 mRNAの発現(C)をグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAの発現に対する比として算出し、NC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図6】本発明の抽出物(G、H、I)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。AXL mRNAの発現(A)、PD-L1 mRNAの発現(B)及びPD-L2 mRNAの発現(C)をNC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図7】本発明において使用可能なヒメマツタケ菌糸体亜臨界水抽出液を更に分画するスキームの例を示す。
【
図8】画分G-1~G-4(1~4)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。AXL mRNAの発現(A)、PD-L1 mRNAの発現(B)及びPD-L2 mRNAの発現(C)をグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAの発現に対する比として算出し、NC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。
【
図9】画分G-1~G-4(1~4)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。AXL mRNAの発現(A)、PD-L1 mRNAの発現(B)及びPD-L2 mRNAの発現(C)をNC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。
【
図10】画分G-3-1~G-3-7による免疫チェックポイント阻害効果を示す。PD-L1 mRNAの発現(A)、PD-L2 mRNAの発現(B)及びAXL mRNAの発現(C)をグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAの発現に対する比として算出し、SAL:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図11】画分G-3-1~G-3-7による免疫チェックポイント阻害効果を示す。PD-L1 mRNAの発現をSAL:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。
【
図12】画分G-3-1~G-3-7による樹状細胞活性化効果をMHCクラスIIの発現を指標として示す。A:平均蛍光強度(MFI)、B:活性化した細胞数(%High)。SAL:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図13】画分G-3-1~G-3-7による樹状細胞活性化効果をCD86の発現を指標として示す。A:平均蛍光強度(MFI)、B:活性化した細胞数(%High)。SAL:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図14】画分G-3-1~G-3-7による樹状細胞活性化効果をCD80の発現を指標として示す。A:平均蛍光強度(MFI)、B:活性化した細胞数(%High)。SAL:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図15】画分G-3-4を更に分画するスキームの例を示す。
【
図16】画分G-3-4-CHCl
3(C)、G-3-4-Supernatant(S)、及びG-3-4-Precipitate(P)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。AXL mRNAの発現(A)、PD-L1 mRNAの発現(B)及びPD-L2 mRNAの発現(C)をグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAの発現に対する比として算出し、Saline:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図17】画分G-3-4-Pを更に分画するスキームの例を示す。
【
図18a】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。PD-L1 mRNAの発現をNC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図18b】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。PD-L2 mRNAの発現をNC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図18c】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。AXL mRNAの発現をNC:陰性対照(抽出物添加なし)の値を1.0とした場合の相対値で示す。PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図19a】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。ウェスタンブロッティングにより測定されるPD-L1 免疫チェックポイント分子の発現をβ-アクチンの発現に対する比として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図19b】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。ウェスタンブロッティングにより測定されるPD-L2 免疫チェックポイント分子の発現をβ-アクチンの発現に対する比として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図19c】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による免疫チェックポイント阻害効果を示す。ウェスタンブロッティングにより測定されるAXL 免疫チェックポイント分子の発現をβ-アクチンの発現に対する比として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図20a】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をMHCクラスIIの発現(平均蛍光強度(MFI))を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図20b】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をMHCクラスIIの発現(活性化した細胞数(%High))を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図21a】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をCD86の発現(平均蛍光強度(MFI))を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図21b】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をCD86の発現(活性化した細胞数(%High))を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図22a】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をCD80の発現(平均蛍光強度(MFI))を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図22b】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をCD80の発現(活性化した細胞数(%High))を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図23a】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をTNF-αの分泌量を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図23b】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をIL-12p70の分泌量を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【
図23c】画分G-3-4-P-A(A)~G-3-4-P-C(C)による樹状細胞活性化効果をIFN-γの分泌量を指標として示す。NC:陰性対照(抽出物添加なし)、PC:陽性対照(ヒメマツタケ子実体抽出物添加)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ヒメマツタケ菌糸体抽出物の製造方法>
本発明は、ヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)菌糸体を無菌的に培養し、培養液又はその乾燥物から熱水抽出及び/又は亜臨界水抽出することを特徴とする、ヒメマツタケ菌糸体抽出物の製造方法を提供する。
【0015】
ヒメマツタケ菌糸体の取得
本発明で使用するヒメマツタケ(Agaricus blazei Murrill)は、ハラタケ属のキノコであり、別名カワリハラタケともいう。その担子菌はブラジル国サンパウロ州ピエダーテ市郊外で採取されたものであり、工業技術院生命工学工業技術研究所に微工研菌第4731号として寄託されていたが、現在では、例えば株式会社岩出菌学研究所から岩出101株として容易に入手可能である。
【0016】
ヒメマツタケの菌糸体培養は、すべて滅菌済みの培地および培養容器を使用し、かつ操作は無菌的に行う。例えば、培養は、保存菌株より復元させた菌糸を寒天培地上に蔓延させ、コルクボーラー等で打ち抜いて三角フラスコ内に調製した液体培地に接種し、種培養を旋回振盪培養によって行うことができる。
【0017】
培養条件は、特に限定するものではないが、例えばIto H. et al., Anticancer Res., 17, 227-284 (1997) 及びMizuno M. et al., Biochem. Mol. Biol. Int., 47, 707-714 (1999) に記載された条件を用いて好適に行うことができる。
【0018】
種培養が完了した菌糸体培養液を、培地を充填した小型ジャーファーメンター、中型発酵タンク、大型発酵タンクの順に、温度、pH、DO等のパラメーターを随時モニタリングしながら、通気撹拌条件下で拡大培養を行うことで、短期間で大量の菌糸体培養液を得ることができる。得られた菌糸体培養液から、ろ過・遠心分離などの方法により菌糸体のみを取り出し、そのまま、または凍結品や乾燥品として抽出などに利用することができる。
本発明の方法は、菌糸体の大量製造にも適しており、例えば大型タンクを使用して培養した場合、保存菌株復元から1~3か月で最大60トン規模で菌糸体培養液を得ることができる。
【0019】
ヒメマツタケ菌糸体からの抽出
本発明において用いるヒメマツタケ抽出物は、具体的には上記で取得したヒメマツタケ菌糸体を熱水及び/又は亜臨界水による抽出処理に供して得られる抽出物である。
【0020】
熱水による抽出は、例えば80-100℃、好ましくは90-95℃の熱水を用いて抽出することが好ましい。抽出時間は例えば30分間~6時間、好ましくは1~5時間の範囲内であり得る。従って、本発明の一態様は、ヒメマツタケ菌糸体を90-95℃の熱水で3時間の抽出処理に供して得られる抽出物である。
【0021】
亜臨界水による抽出は、気圧2-5MPa、温度120-200℃の亜臨界水を用いて抽出することが好ましい。抽出時間は例えば1~10分間、好ましくは3~8分間の範囲内であり得る。従って、本発明の一態様は、ヒメマツタケ菌糸体を3.0 MPaで160℃の亜臨界水で5分間の抽出処理に供して得られる抽出物である。
【0022】
本発明のヒメマツタケ抽出物はまた、上記の熱水抽出において抽出されずに残った残渣を更に亜臨界水抽出に供して得られる亜臨界水抽出物であり得る。この場合の亜臨界水による抽出も、上記と同様、気圧2-5MPa、温度120-200℃の亜臨界水を用いて抽出することが好ましい。抽出時間は例えば1~10分間、好ましくは3~8分間の範囲内であり得る。従って、本発明の一態様は、ヒメマツタケ菌糸体を熱水抽出に供した抽出残渣を更に3.0 MPaで160℃の亜臨界水で5分間の抽出処理に供して得られる抽出物である。
更に、上記の熱水抽出物及び亜臨界水抽出物を合わせて使用することもできる。
【0023】
本発明の抽出物は、上記の抽出処理によって得られる抽出液をそのまま用いることができるが、乾燥して得られる固形の抽出物として用いても良い。例えば、ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物は、乾燥重量で50gの菌糸体を1Lの熱水による抽出操作に供した場合に15~20gの固形抽出物として取得することができる(収率約30~40%)。また、ヒメマツタケ菌糸体亜臨界水抽出物は、乾燥重量で50gの菌糸体を1Lの亜臨界水による抽出操作に供した場合に20~25gの固形抽出物として取得することができる(収率約40~50%)。更に、熱水抽出残渣を更に亜臨界水抽出に供した場合、乾燥重量で50gの抽出残渣を1Lの亜臨界水による抽出操作に供した場合に3~10gの固形抽出物として取得することができる(収率約6~20%)。
【0024】
本発明の抽出物は、例えば
図1に示すスキームによって得ることができる。実施例において効果が実証されている亜臨界水抽出物Gは、ヒメマツタケ菌糸体を温風乾燥後に160℃の亜臨界水で5分間の抽出処理を行い、凍結乾燥して得られる抽出物である。
【0025】
一方、熱水抽出物Hは、ヒメマツタケ菌糸体を温風乾燥後に90-95℃の熱水で3時間の抽出処理を行い、凍結乾燥して得られる抽出物である。また、亜臨界水抽出物Iは、熱水抽出残渣に対して更に160℃の亜臨界水で5分間の抽出処理を行い、凍結乾燥して得られる抽出物である。
【0026】
上記のスキームに沿って得られる亜臨界水抽出物G、熱水抽出物H、亜臨界水抽出物Iは、単独で、又は組み合わせてヒメマツタケ菌糸体抽出物として用いることができる。すなわち、亜臨界水抽出物Gと熱水抽出物Hとの混合物、亜臨界水抽出物Gと亜臨界水抽出物Iとの混合物、熱水抽出物Hと亜臨界水抽出物Iとの混合物、亜臨界水抽出物G、熱水抽出物H、亜臨界水抽出物Iの混合物を、ヒメマツタケ菌糸体抽出物として好適に用いることができる。
【0027】
しかしながら、本発明の抽出物を得るための抽出方法は様々であり得るため、抽出条件は実施例において例示されたものに特に限定されるものではない。
本発明はまた、上記の製造方法によって得られたヒメマツタケ抽出物を提供する。
【0028】
上記の製造方法によって得られたヒメマツタケ菌糸体抽出物は、そのまま、あるいは更に精製・濃縮・乾燥等の工程を経た後に抗癌剤耐性抑制剤及び/又は樹状細胞活性化剤として使用することができる。
【0029】
本発明のヒメマツタケ菌糸体抽出物における有効成分を単離・同定することは困難であるが、実施例において示すように、分画分子量が異なる複数の透析膜を用いて検討した結果、抗癌剤耐性抑制効果及び樹状細胞活性化効果を有する成分は、分子量5万~10万、あるいは10万以上の高分子であることが示唆されている。従って、本発明のヒメマツタケ菌糸体抽出物は、分子量5万~10万、あるいは10万以上の高分子を抗癌剤耐性抑制効果及び樹状細胞活性化効果を有する有効成分として含有し得る。
【0030】
本発明者等は更に、上記した分子量10万以上の高分子を含有するヒメマツタケ菌糸体抽出物を溶媒中の塩濃度を変えて陰イオン交換クロマトグラフィーで分画した結果、1 M NaCl濃度までで溶出した画分のいずれもが抗癌剤耐性抑制効果及び樹状細胞活性化効果を有することを確認した。
【0031】
更に、上記した分子量10万以上の高分子を含有するヒメマツタケ菌糸体抽出物をギ酸処理によってタンパク質部分と多糖体部分に分離して検討した結果、多糖体部分が中心となる画分が最も強い活性を有し、タンパク質部分が中心となる画分は活性を示さなかったことから、本発明のヒメマツタケ菌糸体抽出物における抗癌剤耐性抑制効果及び樹状細胞活性化効果の有効成分は多糖体であることが判明した。更に、構成糖分析の結果、この多糖体は、グルコース90~95%、マンノース5~10%からなるものであった。
【0032】
以前の報告(Carbohydrate Polymers 12 (1990) 393-403)では、ヒメマツタケ子実体由来の糖タンパク質複合体であるFIII-2b画分を同様の方法でタンパク質部分と多糖体部分に分離して抗腫瘍活性試験に供した結果、タンパク質部分がその活性に必須であることが報告されており、本発明における有効成分は報告されたものと異なることが示唆された。
【0033】
<抗癌剤耐性抑制剤>
本発明はまた、ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物を有効成分として含有する抗癌剤耐性抑制剤を提供する。
本発明の抗癌剤耐性抑制剤は、一態様において、免疫チェックポイント分子の発現及び/又は機能を阻害することができる。
本発明の抗癌剤耐性抑制剤は、一態様において、AXLの発現及び/又は機能を阻害することができる。
【0034】
抗癌剤耐性抑制効果の確認
本発明において、その発現及び/又は機能が阻害される免疫チェックポイント分子としては、限定するものではないが、例えばPD-1、PD-L1及びPD-L2が挙げられる。
【0035】
PD-L1(CD274とも呼ばれる)及びPD-L2(CD273とも呼ばれる)は免疫グロブリンファミリーに属する55kDのI型膜タンパク質であるPD-1(programmed cell death 1)のリガンドとして知られている。ヒトPD-L1 cDNAの塩基配列情報等はGenBank accession No. AF233516(NCBIデータベース等でGene ID: 29126)又はNM_014143、ヒトPD-L2 cDNAの塩基配列情報等はGenBank accession No.NM_025239(Gene ID: 80380)からそれぞれ取得することができる。
【0036】
AXL(AXL receptor tyrosine kinase)は、受容体チロシンキナーゼファミリーのメンバーで、細胞増殖や分化の制御に関与する複雑なシグナル伝達ネットワークに関わっており、発癌にも関与することが知られている。ヒトAXL cDNAの塩基配列情報等はNCBIデータベース等でGenBank accession No.NM_001699又はGene ID: 558、マウスAXL cDNAの塩基配列情報等はGene ID: 26362として取得することができる。
【0037】
上記の分子の発現の阻害は、これらの分子を発現する細胞を含むin vitro又はin vivoの系で確認することができる。in vitroの系としては、PD-1を発現する活性化T細胞及び/又はPD-L1若しくはPD-L2を発現する標的細胞を含む系を利用することができる。AXLについても、AXLを発現する標的細胞を含む系を利用することができる。
あるいはまた、これらの分子の発現の阻害は、例えば癌を発症させた動物モデルを用いて確認することができる。
【0038】
本発明者等のグループでは、ヒトEGFR変異型(ヒト[L858R]EGFR)肺癌モデルマウスを独自に開発し、研究を行っている。このマウスは、ドキシサイクリンの存在下において肺特異的にヒト[L858R]EGFRが活性化するため、人為的に肺癌を発症させることができ、本発明の効果の確認に使用することができる(WO 2017/026383 A1)。
【0039】
しかしながら、意図的に癌を発症させた動物モデルは数多く知られており、使用可能な動物モデルは、上記のものに限定されるものではない。例えば、このようなマウスの作製は、例えばPoliti K. et al., Genes & Development 20: 1496-1510, 2006; Ji H. et al., Cell 2006 Jun; 9(6): 485-95に記載されている。
【0040】
in vitro及びin vivoにおけるタンパク質の発現は、特に限定するものではないが、例えばRT-PCR(逆転写PCR)やリアルタイムPCRによって測定することができる。具体的には、例えば上記のin vitro又はin vivoの実験系を用いて本発明の抽出物を添加(投与)したサンプル及び添加(投与)していないサンプルからmRNAを抽出し、目的のタンパク質分子をコードするポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づいて作製したプライマーを用いたPCR法によるmRNAの増幅を行った後、mRNAの量を決定することで測定することができる。プライマーはまた、プライマーセットとして市販されているものを使用することもできる。この場合、当分野において通常行われているように、発現量が一定であると考えられるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対する比として発現量を表すことができる。本発明の抽出物によるこれらの分子の発現の阻害の有無は、本発明の抽出物を添加(投与)しない場合との比較によって決定することができる。
【0041】
また、これらの分子の機能の阻害の有無は、in vitro又はin vivoにおける実験系において、上記の発現の阻害が認められた場合の免疫応答を、in vitro又はin vivoにおいて、例えば活性化T細胞からのサイトカインの放出、標的細胞の生存率の変化、腫瘍組織の顕微鏡画像等によって確認することで決定することができる。
【0042】
<癌治療剤>
本発明はまた、上記の抗癌剤耐性抑制剤を含有する癌治療剤を提供する。免疫チェックポイントは、あらゆる癌細胞に対する免役応答において見られるメカニズムである。従って、本発明の癌治療剤は、免疫チェックポイント分子等の免疫系で抑制的に作用するタンパク質の発現及び/又は機能を阻害して、標的細胞である癌細胞に対する免疫応答を増強することができる。従って、本発明の癌治療剤の対象となる疾患は、胃癌、肺癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、膵臓癌、肝臓癌、白血病、リンパ腫、骨髄腫、皮膚癌等が挙げられ、特に限定するものではない。
【0043】
<樹状細胞活性化剤>
本発明はまた、ヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物を有効成分として含有する樹状細胞活性化剤を提供する。
【0044】
樹状細胞活性化効果の確認
樹状細胞は、生体内の種々の組織に存在することが確認されているが、骨髄の造血幹細胞に由来する造血骨髄前駆細胞から分化・誘導することができる。樹状細胞は、いくつかの種類(骨髄細胞、形質細胞様樹状細胞、ランゲルハンス細胞等)に分類され、これらは全て骨髄中や、臍帯血中のCD34+造血幹細胞から作られる。in vitroで樹状細胞を操作するためには、特に限定するものではないが、例えば骨髄、脾臓、血液中の前駆細胞を顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の存在下で培養することによって取得することができる。あるいはまた、胸腺等の前駆細胞を特定のサイトカインの存在下で培養することによって取得することもできる。樹状細胞の同定は、その特殊な形状と、CDllc、MHCクラスII等の特定の表面マーカーの存在によって行うことができる。
【0045】
樹状細胞のex vivo(in vitro)における培養は、限定するものではないが、例えばRPMI 1640+10% FBS+0.000375% 2-ME+1% ペニシリン中、5%CO2存在下、37℃で培養することができる。
【0046】
未成熟な樹状細胞は、強力な貪食作用・弱い抗原提示・MHC分子の低発現等の特徴を有し、また細胞接着分子や共刺激分子の発現が低いため、T細胞の活性化能はあまり強くない。しかしながら、抗原等を貪食した後に樹状細胞は活性化され、MHC、CD86、CD86、CD40等の表面マーカーが高発現になる。成熟樹状細胞は最も強力な抗原提示細胞として獲得免疫応答を誘導するとともに様々なサイトカイン産生を通じて自然免疫応答も活性化する。
【0047】
本発明の抽出物をin vitroにおいて樹状細胞の培養液中に添加して培養したところ、樹状細胞における成熟細胞表面マーカーの発現が上昇し、また樹状細胞から分泌される各種のサイトカイン量の非常に高い上昇が検出され、極めて有効な活性化能が確認された。
【0048】
本明細書において「樹状細胞の活性化」とは、未熟樹状細胞から成熟樹状細胞への成熟の促進、または樹状細胞の機能の増強を意味する。例えば、成熟樹状細胞の細胞表面マーカーの発現の上昇、または成熟樹状細胞からのサイトカインの分泌の増大、あるいは成熟樹状細胞によって活性化されるTh1細胞および/もしくはTh2細胞の細胞表面マーカーの発現の上昇またはサイトカインの分泌の増大を意味する。活性化の対象となる樹状細胞は、未成熟の樹状細胞でも、成熟樹状細胞でも良い。
【0049】
樹状細胞の活性化は、例えば樹状細胞を、本発明の抽出物と共に培養した後、樹状細胞上に発現する表面マーカーの発現量を測定することによって確認することができる。具体的には、例えばフローサイトメトリー解析により複数のマーカーの発現量を同時に測定することが可能である。樹状細胞の活性化に従って発現量が増加するマーカーとしては、例えばCD40、CD80、CD86、MHCクラスII分子が挙げられる。本発明の抽出物を添加しない対照サンプルと比較して、上記の成熟樹状細胞表面マーカーの1以上の発現が10%以上、好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上上昇した場合に、樹状細胞を活性化させたと判定される。
【0050】
樹状細胞の活性化はまた、樹状細胞を本発明の抽出物と共に培養した後、上記のマーカーCD40、CD80、CD86、及び/又はMHCクラスII分子が活性化した細胞数(%High)の比率を算出することによって確認することができる。具体的には、本発明の抽出物を添加しない対照サンプルと比較して、上記のいずれかのマーカーで確認して活性化した細胞(%High)が10%以上、好ましくは20%以上となった場合に、樹状細胞を活性化させたと判定される。
【0051】
樹状細胞の活性化はまた、樹状細胞を本発明の抽出物と共に培養した後、樹状細胞からのサイトカイン、例えばTNF-α、IL-12(IL-12p70等)、IFN-γ等の分泌量を測定することによって確認することができる。具体的には、本発明の抽出物を添加しない対照サンプルと比較して、サイトカインの分泌量が増大した場合に、樹状細胞を活性化させたと判定される。
【0052】
生体内の樹状細胞を活性化させることができれば、その生体の免疫能を向上させることができる。具体的には、未熟樹状細胞が成熟樹状細胞となることによって抗原提示能が向上し、ナイーブT細胞を活性化させることができる。従って、本発明のヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物を有効成分として含有する樹状細胞活性化剤は、様々な腫瘍の他、免疫能が低下したことに起因する各種の疾患の治療または予防のために使用することができる。
【0053】
ex vivoにおいて樹状細胞を活性化させる場合には、特に限定するものではないが、樹状細胞1×106個に対して本発明の抽出物を乾燥重量で1~100μg、より好ましくは2~25μgの範囲で使用することが好適である。あるいはまた、樹状細胞の活性化のために使用する培地に対し、1~100μg/ml培地、好ましくは5~25μg/ml培地の範囲の量で使用することができる。
【0054】
<ワクチンアジュバント>
本発明はまた、樹状細胞活性化剤を含有するワクチンアジュバントを提供する。本発明の樹状細胞活性化剤は、各種のワクチンと組み合わせてアジュバントとして投与することができる。従来知られているワクチンは、ヒト等の動物に接種して細菌感染症やウイルス感染症等の感染症の予防に用いるものであり、病原性の微生物やウイルスを無毒化、弱毒化して投与し生体の免疫力を上げるものである。本発明の抽出物は、これらのワクチンと共に、または別個に投与して、樹状細胞を効率的に活性化し、免疫力の更なる増強を期待することができる。
【0055】
また、最近では、抗腫瘍療法の一つとしてワクチン療法が使用されるようになりつつある。ワクチン療法において本発明の抽出物を使用する場合、例えばペプチドワクチン療法では、抗原ペプチドと共に、または抗原ペプチドと別個に投与することができる。一方、樹状細胞ワクチン療法では、樹状細胞をex vivoで抗原刺激してから投与するものであるため、この刺激時に本発明の抽出物を添加することができる。
【0056】
<組成物>
本発明はまた、上記の本発明のヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物、抗癌剤耐性抑制剤、又は樹状細胞活性化剤を含有する組成物を提供する。
【0057】
本発明のヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物は、単独で抗癌剤耐性抑制剤又は樹状細胞活性化剤として使用することも可能であるが、医薬組成物の有効成分として使用することもできる。こうした医薬組成物には、更なる有効成分、例えば限定するものではないが抗癌剤、抗ウイルス剤、抗生物質、抗炎症剤、解熱剤、鎮痛剤等を含めることもできる。本発明の抽出物と更なる有効成分とは、別個に投与することもでき、また同時に、例えば単一の医薬組成物として配合することもできる。医薬組成物の形態、投与経路等は特に限定するものではなく、当分野において通常用いられる形態、投与経路を適宜選択することができるが、好ましくは経口投与、静脈注射等である。医薬組成物として製剤化する場合には、調剤において通常使用される賦形剤、増量剤、崩壊剤、防腐剤、着色料、甘味料、香料、被膜形成剤等を適宜配合することができる。注射剤として投与する場合、溶解補助剤等の使用、エマルジョン形態を利用することも可能である。また、例えば炎症等の疾患が局所的である場合には、経皮的に塗布することができ、喉の炎症等に対して噴霧剤として投与することも可能である。
【0058】
抗癌剤耐性抑制剤若しくは樹状細胞活性化剤として、または医薬組成物として投与する場合、投与量は、投与経路、患者の年齢、体重、症状など、種々の要因を考慮して、適宜設定することができ、特に限定されないが、一般に1日当たり乾燥重量(粉末状態)として0.2~8mg/kg体重、好ましくは1日当たり0.4~4mg/kg体重の用量で使用可能である。投与の回数、頻度等は治療・予防が予期される疾患により、また投与対象者の体調等によって適宜調製し得る。
【0059】
本発明のヒメマツタケ菌糸体熱水抽出物及び/又は亜臨界水抽出物、抗癌剤耐性抑制剤及び樹状細胞活性化剤はまた、保健機能食品や病者用食品等の健康食品またはサプリメントとして使用することができる。健康食品またはサプリメントとして使用する場合、本発明の抽出物のヒトにおける推奨摂取量は、1日あたり乾燥重量として好ましくは0.2mg~5g、より好ましくは20mg~2gの範囲である。健康食品またはサプリメントの形態は、粉末、錠剤、カプセル剤、液剤等のいずれの形態であっても良く、特に限定するものではない。この場合、医薬組成物と同様に、通常使用される賦形剤、増量剤、崩壊剤、防腐剤、着色料、甘味料、香料、被膜形成剤等を適宜配合することができる。また、一般的な食品と共に摂取するための形態とし、また食品中に混合することも可能である。更に、イヌ、ネコ、ラット、モルモット、フェレット等のペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜動物の免疫力向上のために、それらの飼料中に含めることもできる。
【実施例0060】
以下に本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1 ヒメマツタケ菌糸体のタンク培養]
保存菌株より復元させたヒメマツタケ菌糸体をポテトデキストロース寒天平板培地に植菌し、平板培地に菌糸体が蔓延するまで、孵卵器内で培養を行った。蔓延した菌糸体をコルクボーラーで打ち抜き、三角フラスコ内に調製した液体培地に植菌し、旋回振盪培養によって種培養を行った。
【0062】
種培養が完了した菌糸体培養液を、培地を充填した小型ジャーファーメンター、中型発酵タンク、大型発酵タンクの順に、温度、pH、DO等のパラメーターを随時モニタリングしながら、通気撹拌条件下にて拡大培養を行い、保存菌株復元から3か月で約60トンの菌糸体培養液を得た。
【0063】
以上の操作については、すべて滅菌済みの培地および培養容器を使用し、植菌などの操作は無菌的に実施した。得られた菌糸体培養液から、ろ過・遠心分離などの方法により菌糸体のみを取り出し、温風乾燥して菌糸体乾燥品を取得した。
【0064】
[実施例2 ヒメマツタケ菌糸体熱水/亜臨界水抽出物の製造]
実施例1で得られたヒメマツタケ菌糸体、もしくはその乾燥物をアクアイリュージョンSG-2(東西化学産業株式会社製品)により、3.0 MPaで160℃、5分間の亜臨界水抽出(以下、G)又は90~95℃で3時間の熱水抽出(以下、H)に供した。また、熱水抽出残渣を更に上記と同様の条件の亜臨界水抽出(以下、I)に供した。この抽出スキームを
図1に示す。
【0065】
G、H、I、それぞれを抽出後、ろ過することにより残渣を除去し、凍結乾燥して、各抽出物を乾燥物として取得した。画分G、H及びIの取得条件及び収量を表1に示す。熱水抽出(H)及び亜臨界水抽出(I)を組み合わせることで、亜臨界水抽出(G)のみの場合と比較して手間及びコストが増大するが、収率を上昇させることができた。
【0066】
【0067】
[実施例3 樹状細胞活性化試験]
実施例2で得られたG、H、Iの抽出物をそれぞれ、樹状細胞活性化試験に供した。ヒメマツタケ子実体(南米パラグアイの栽培企業から入手)を熱水抽出(90~95℃で3時間)し、その抽出残渣を亜臨界水抽出(3.0 MPaで160℃、5分間)に供して得られる抽出液を凍結乾燥したものを陽性対照(PC)として用いた。
【0068】
8週齢の雌C57BL/6マウスを、ネンブタール麻酔下に犠死させた後、大腿骨および腓骨より骨髄細胞を採取した。溶血、洗浄の後、2.0×106個に調整し、これを2,000UのGM-CSF(Peprotech, Frankfurt, Germany)を添加した10mlのDC培養液(RPMI1640+10% FBS+0.000375% 2-ME+1%ペニシリン)にて、5%CO2存在下に37℃で培養した。培養3日目に、2,000UのGM-CSFを添加した10mlの培養液を加えた。培養6日目に90%以上の細胞が樹状細胞(CDllc MHCクラスII)の表現型を示した。これらの樹状細胞を1.2×106個/mlに調整した後、G、H、IまたはPCを最終濃度が乾燥重量20μg/mlとなるように添加し、5%CO2存在下に37℃で48時間培養した。培養後、細胞と培養上清に分離した。
【0069】
得られた樹状細胞について、以下の成熟化細胞表面マーカー:CD80、CD86、およびMHCクラスII分子の発現をフローサイトメトリー解析によって検出した。結果は平均蛍光強度(Mean Fluorescence Intensity:MFI)および各マーカーの発現によって活性化したことが示される細胞数(%High)について、抽出物を添加しない陰性対照(NC)の結果を100とした場合の増加率(%)で示した。
【0070】
【0071】
表2に示す通り、樹状細胞活性化試験の結果、G、H、IおよびPCのすべてが、NCと比較して顕著に樹状細胞を活性化させることが確認された。特に、熱水抽出物Hを添加した場合に、いずれのマーカーの発現もPCを添加した場合と同等またはPCよりも大きく上昇し、樹状細胞活性化の有効成分が多く含まれることが示された。
【0072】
[実施例4 免疫チェックポイント阻害活性試験]
実施例2で得られたG、H、Iの抽出物をそれぞれ、免疫チェックポイント阻害活性試験に供した。陽性対照として、ヒメマツタケ子実体熱水抽出残渣の亜臨界水抽出物(PC)を使用した。
【0073】
ヒト肺癌細胞株A549(American Type Culture Collection (Rockville, MD, USA))を10%FBS含有のDMEM培地中で37℃、5%CO2下で前培養後、12プレート上に、1×106個/ウェルとなるように調整した。プレート上に、G、H、IまたはPCの最終濃度がそれぞれ乾燥重量20μg/mlとなるように添加し、37℃、5%CO2下で24時間培養した。
【0074】
培養した細胞を1,500rpm、4℃、5分間の遠心分離に供し、A549細胞のペレットを回収した。細胞よりtotal RNAを抽出し、逆転写酵素を用いてRNAを鋳型としたDNAを合成し、そのDNAを鋳型としてAXL、PD-L1、及びPD-L2のmRNAの存在を調べるために表3に示すプライマーを用いてPCRを行った。PCR産物をアガロース電気泳動した後、エチジウムブロマイド染色してImageJ(画像解析ソフトウェア)でバンドの濃さを定量化した。
【0075】
【0076】
図2に細胞あたりのAXL、PD-L1及びPD-L2のmRNAの発現をグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対する比として示したものを、
図3にリアルタイムPCR法による相対的な発現量(RQ)で比較したものを示した。
【0077】
図4には、ウェスタンブロッティング法による細胞あたりのAXL、PD-L1及びPD-L2の免疫チェックポイント分子の発現をβ-アクチン(Cell signaling technology)の発現に対する比として示した。
【0078】
その結果、GAPDHとの比較では、G、H、IおよびPCのすべてが、NCに対して有意に免疫チェックポイント分子(AXL、PD-L1及びPD-L2)の発現を抑制し、HのAXLに対する結果を除き、有意であった。特に、GおよびPCの活性が強かった。リアルタイムPCRにおける相対的な発現量の比較では、G、H、IおよびPCのすべてが、NCに対して有意に免疫チェックポイント分子の発現を抑制した。
【0079】
本実施例により、特に、亜臨界水抽出物GがPCと同等以上の強い活性を有することが認められ、免疫チェックポイント阻害活性を有する有効成分が樹状細胞活性化の有効成分と異なる可能性も示唆された。
【0080】
[実施例5 ヒメマツタケ菌糸体熱水/亜臨界水抽出物の大量製造]
大量製造での実施のために、一回の運転で検体4kg/80L水の抽出が可能な大型実機を用い、
図1のスキームに従い、実施例2と同様の抽出物の製造を行った。
【0081】
抽出温度、時間は実施例2と同じであるが、大型であるため、昇温や降温の時間が3倍程度長いものとなる。また、抽出圧力は約1/5以下となる。事実上異なる条件となるため、再度抽出物の収量を測定し、活性試験を実施した。抽出物の収量は表4に示す。
【0082】
各抽出物の収量及び収率は、実施例2の結果から予想される数値よりも、G、H、Iともにやや増加した。これは、昇温や降温時間の増加したことによる影響であると考えられる。
【0083】
【0084】
[実施例6 樹状細胞活性化試験]
実施例5で大型実機により得られた抽出物G、H、Iをそれぞれ、実施例3と同様の樹状細胞活性化試験に供した。
【0085】
結果は平均蛍光強度(MFI)および各マーカーの発現によって活性化したことが示される細胞数(%High)について、培養初日の値を100とした場合の増加率(%)で示した。
【0086】
【0087】
その結果、G、H、IおよびPCのすべてが、NCに対して有意に樹状細胞を活性化させた。特に、熱水抽出物Hの活性が強いことがわかった。
【0088】
[実施例7 免疫チェックポイント阻害活性試験]
実施例4で大型実機により得られた抽出物G、H、Iについて、実施例4と同様の免疫チェックポイント阻害活性試験に供した。
【0089】
図5に細胞あたりのAXL、PD-L1及びPD-L2のmRNAの発現をグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対する比として示したものを、
図6にリアルタイムPCR法による相対的な発現量(RQ)で比較したものを示した。
【0090】
その結果、免疫チェックポイント阻害活性試験の結果は、GAPDHとの比較において、GのAXLに対する結果を除き、G、H、IおよびPCのすべてが、NCに対して有意に免疫チェックポイント分子の発現を抑制した。特に、HおよびIの活性が強かった。リアルタイムPCRにおける相対的な発現量の比較では、AXLに対する全ての結果を除き、G、H、IおよびPCのすべてが、NCに対して有意に免疫チェックポイント分子の発現を抑制した。特に、熱水抽出物Hおよび亜臨界水抽出物Iの活性が強い傾向にあった。
【0091】
[実施例8 亜臨界水抽出液の分画及び活性の確認]
スキーム1に従って得られる抽出物G、H、Iはいずれも樹状細胞活性化活性及び免疫チェックポイント阻害活性が十分に強いことが明らかとなった。この中から、収量の多さと製造の容易さから、抽出物Gを用い、有効成分の濃縮・単離を目的として透析膜を利用した分画を実施した。
【0092】
実施例4で得られた抽出物G(1.5kg)を利用し、
図7に示すスキームの通り、分画分子量8,000~10,000の透析膜および分画分子量100,000の透析膜の二種類の透析膜(バイオテックセルロースエステル(CE)メンブレン、spectrum labs)を使用して、分画を実施した。
その結果、画分G-1~G-4を表6に示す収量で得ることができた。
【0093】
【0094】
得られた画分G-1~G-4をそれぞれ、実施例6及び7と同様の免疫チェックポイント阻害活性試験に供した。
【0095】
図8に細胞あたりのAXL、PD-L1及びPD-L2のmRNAの発現をグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対する比として示したものを、
図9にリアルタイムPCR法による相対的な発現量(RQ)で比較したものを示した。
【0096】
その結果、画分G-3(分子量100,000以上)にのみ、免疫チェックポイント阻害活性が確認された。従って、画分Gにおける免疫チェックポイント阻害活性を有する物質は分子量10万以上の高分子であることが示唆された。
【0097】
[実施例9 陰イオン交換クロマトグラフィーによる分画及び活性の確認]
実施例8で得た画分G-3(分画分子量10万以上)15 gを溶媒中の塩濃度を変えて陰イオン交換クロマトグラフィー(TOYOPEARL DEAE-650M、東ソー株式会社)に供し、更にG-3-1~G-3-7画分に分画した。表7に、各画分の溶出に使用したNaCl濃度と収量を示す。
【0098】
【0099】
画分G-3-1~G-3-7をそれぞれ乾燥重量20μg/mlで使用して、実施例4と同様の免疫チェックポイント阻害活性試験に供した。その結果、
図10及び11に示すように、すべての画分に活性が見られ、特に、リアルタイムPCRの結果を示す
図11から明らかなように、全ての画分にPD-L1の発現に対する強い抑制効果が認められた。
また、実施例3と同様の樹状細胞活性化試験に供したところ、
図12~14に示すように、全ての画分にマウス骨髄由来樹状細胞に対する強い活性化効果が認められた。
【0100】
[実施例10 ギ酸分解及び活性の確認]
実施例9において免疫チェックポイント阻害活性及び樹状細胞活性化作用が認められた画分G-3-4をギ酸分解に供して、タンパク質成分と多糖体成分に分離した。
具体的には、
図15に示すように、画分G-3-4(100mg)を80%ギ酸5mlに溶解し、85℃で90分間処理した。室温で放冷後、分液ロートに移しクロロホルム-ブタノール(5:1=V/V)1mlを加え、30分間振とうした。上層の水層を集め、下層の有機溶媒層は再び分液ロートに移し、水洗し、水層とクロロホルム層との間にタンパク質のゲルが生じなくなるまで繰り返した。洗液は最初の水層と合わせた。
【0101】
クロロホルム層はナスフラスコに移し、エバポレーターで濃縮乾固して水洗し、その洗液を翌日まで凍結乾燥し、それを画分G-3-4-CHCl3(G-3-4-C)とした。
一方、水層は3倍容のエタノールを加え、10,000rpmで5分間遠心分離し、上清と沈殿に分けた。上清はエバポレーターで減圧濃縮した後、水で溶解させ翌日まで凍結乾燥して画分G-3-4-Supernatant(G-3-4-S)とした。沈殿物は水を加えて溶解させ、翌日まで凍結乾燥した。凍結乾燥が完了した沈殿物と水が50mg:1mlとなるように加え、100℃で6時間加熱して脱ホルミル化した。室温まで放冷後、それを翌日まで凍結乾燥して画分G-3-4-Precipitate(G-3-4-P)とした。
【0102】
凍結乾燥が完了した各画分をD2Oに溶解してNMR測定に供し、画分G-3-4-Cにはタンパク質成分、画分G-3-4-Pには多糖体成分、画分G-3-4-Sにはタンパク質及び多糖体の混合物が含まれることが明らかとなった(データは示さない)。
NMR測定完了後、各画分を回収して再度凍結乾燥し、実施例4と同様の免疫チェックポイント阻害活性試験に供した。
【0103】
その結果、
図16及び表8に示すように、多糖体成分が含まれる画分G-3-4-Pが最も強い免疫チェックポイント阻害活性を有した。一方、タンパク質成分が含まれる画分G-3-4-Cは活性を示さなかったことから、免疫チェックポイント阻害活性の有効成分は多糖体成分であることが示唆された。
【0104】
【0105】
[実施例11 分子量による分画及び活性の確認]
実施例10で免疫チェックポイント阻害活性が認められた画分G-3-4-Pを超純水に溶解し、
図17のスキームに沿って分子量の異なる画分に分けた。
具体的には、遠心分離(10,000 G, 30分間)して水可溶部を得た後、水可溶部を限外濾過に供し、30k以下(極めて微量のため活性試験に供さず)、30k~50k(G-3-4-P-A)、50k~100k(G-3-4-P-B)、100k以上(G-3-4-P-C)の画分に分画した。
【0106】
画分G-3-4-P-A~Cを実施例4と同様にして免疫チェックポイント阻害活性試験に供したところ、
図18及び表9に示すように、いずれの画分にも免疫チェックポイント阻害活性が認められ、C>B>Aの順に活性が強かった。
【0107】
【0108】
また、実施例4と同様にしてウェスタンブロット法による活性評価も行ったところ、
図19及び表10に示すように、いずれの画分にも免疫チェックポイント阻害活性が認められた。
【0109】
【0110】
更に、画分G-3-4-P-A~Cを実施例3と同様にして樹状細胞活性化試験に供した結果、
図20~22及び表11に示すように、いずれの画分にも樹状細胞活性化作用が認められた。
【0111】
【0112】
本実施例では更に、樹状細胞からのサイトカインの分泌量に対する画分G-3-4-P-A~Cの効果を検討した。
具体的には、C57BL/6マウスの大腿骨及び脛骨から骨髄を採取し、赤血球を除去後、200 ng/mLのマウスFlt3リガンド(Peprotech, Rocky Hill, NJ, USA)を含む10%FBS添加RPMM-1640培地を用い、5% CO
2、37℃の条件下、6穴プレート(Nunc, Wiesbaden, Germany)で7-9日間培養した(骨髄由来樹状細胞)。
ピペッティングによって細胞を回収し、10% FBS添加RPMI-1640培地中に2×10
6cells/mLとなるよう懸濁し、24穴プレート(Nunc, Wiesbaden, Germany)に0.5 mLずつ播種し、乾燥重量20μg/mL(終濃度)の各画分を細胞に添加して24時間培養した後、上清中のTNF-α、IL-12 p70及びIFN-γ濃度をELISA法により測定した(ELISAキット:R&D systems, Minneapolis, MN, USA)。
その結果、
図23及び表12に示すように、いずれのサイトカインも画分G-3-4-P-Cの存在下で顕著に分泌量が増加し、骨髄由来樹状細胞が活性化されることが示された。
【0113】
【0114】
[実施例12 活性成分分析]
実施例11で免疫チェックポイント阻害活性及び樹状細胞活性化作用が認められた画分G-3-4-P-Bについて、以下の手順で構成糖分析を行った。
【0115】
A. 検体の硫酸分解
・G-3-4-P-B 500μg、1 mgに対して72%硫酸を20μL添加し、30分毎にタッピングしながら常温で4時間半反応させた。
・超純水460μLを加え、3%の希硫酸に調整してソニックで攪拌し、1500 rpmで1分間遠心した。
・アルミでガラスチューブに蓋をしてオートクレーブ(121℃)で1時間反応させた。
・室温まで冷却後、内部標準として6 mg/mL 2-デオキシ-D-グルコース(1 mL水で溶かす)を8μL添加した。
・飽和水酸化バリウムを加えてリトマス試験紙で確認しながら中和(pH 5.5)した後、遠心分離 (13,200×g、4℃、5分間) を行った。
・フィルターで濾過して不純物を除去し、1.5 mLエッペンチューブに移した。
・上清を別の合成用ガラスチューブに10μL取り、真空デシケーターで一晩乾固した。
【0116】
B. 標品の調製・オキシム化・トリメチルシリル(TMS)化
・グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、リボース、フコース、ラムノースをそれぞれ、2.5 mg/mlとなるように秤量・超純水に溶解し、それらを1μL分注した。
・分注した糖溶液にピリジン中20 mg/mLのO-メチルヒドロキシルアンモニウムクロリド(富士フイルム和光純薬)を50μL添加し、アルミビーズバスNHP-B077 (NISSIN) を用いて70℃で1時間加熱した(オキシム化)。
・室温まで冷却後、BSTFA(東京化成工業株式会社)50μLとピリジン50μLを加え、70℃で30分間再度加熱した(TMS化)。
【0117】
C. 硫酸分解後検体の調製・オキシム化・TMS化
・一晩乾固が完了したAにおける硫酸分解後の検体を、Bと同様にしてオキシム化及びTMS化した。
【0118】
D. 構成糖分析
・オキシム化およびTMS化が完了した標品および検体を室温まで冷却後、1μLをGC 2010 QP2010 SE(SHIMADZU)に供してGC/MS分析した。
【0119】
内部標準法により定量分析を実施した結果、画分G-3-4-P-Bに含まれる多糖体成分は構成糖としてグルコース約91.8%、マンノース約8.2%を含有することが確認された。
本発明により、抗癌剤耐性抑制効果及び樹状細胞活性化効果を有するヒメマツタケ抽出物を無菌的、安定的に、かつ低コストで提供することができる。本発明の方法は、従来行われていた実験室レベルの方法とは異なって、パイロットスケールで培養条件をモニタリングしながら大規模に安定的かつ確実な培養が可能であり、産業上非常に有用である。