(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187495
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ブリモニジンの液体製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/498 20060101AFI20221212BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221212BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20221212BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20221212BHJP
A61K 31/315 20060101ALI20221212BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221212BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20221212BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221212BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
A61K31/498
A61P43/00 121
A61P27/06
A61P43/00 111
A61K31/4745
A61K31/315
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092453
(22)【出願日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2021095257
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】吉田 侑美
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD22
4C076DD22Z
4C076DD24
4C076DD24Q
4C076DD30
4C076DD30Z
4C076DD60
4C076DD60Q
4C076FF11
4C076FF36
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC52
4C086CB22
4C086GA07
4C086GA13
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4C086MA05
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4C086NA03
4C086NA05
4C086ZA33
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB02
4C206KA14
4C206KA15
4C206MA02
4C206MA03
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4C206MA05
4C206MA37
4C206MA78
4C206NA03
4C206NA05
4C206ZA33
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】ブリモニジン及び/又はその塩を含む眼科用液体製剤において、安定性を向上させることを目的とする。
【解決手段】消炎・収れん剤を添加することにより、安定性を向上させることがきることを見出した。これにより、ブリモニジン及び/又はその塩、消炎・収れん剤を含む眼科用液体製剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01w/v%~0.05w/v%のブリモニジン及び/又はその塩、並びにベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1の消炎・収れん剤を含有する眼科用液体製剤。
【請求項2】
前記ベルベリン及び/又はその塩が、ベルベリン硫酸塩である、請求項1に記載の眼科用液体製剤。
【請求項3】
ベルベリン及び/又はその塩の濃度が、0.005~0.025w/v%である、請求項1又は2に記載の眼科用液体製剤。
【請求項4】
pHが、5.0~9.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼科用液体製剤。
【請求項5】
前記亜鉛塩が、乳酸亜鉛又は硫酸亜鉛である、請求項1に記載の眼科用液体製剤。
【請求項6】
前記亜鉛塩の濃度が、0.05~0.25w/v%である、請求項1又は4に記載の眼科用液体製剤。
【請求項7】
pHが5.0~7.0である、請求項1、5及び6のいずれか一項に記載の眼科用液体製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブリモニジン及び/又はその塩を含有する液体製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリモニジン及びその塩は、α-2アドレナリン受容体アゴニストとして知られている。ヒトの眼は、多くのα-2アドレナリン受容体(以下、α-2受容体と略す場合がある)を有しており、α-2受容体のアゴニストは、眼房水産生抑制と共にぶどう膜強膜流出路を介した眼房水の流出を促進することによって、眼圧を低下させる作用を有する。この作用に基づき、α-2受容体アゴニストは、従来、緑内障や高眼圧症の治療に使用されている。また、α-2受容体のアゴニストは、α-2受容体集中細動脈、特に終末細動脈の内腔サイズの低減を引き起こす作用を有する。この作用により、血管収縮が生じ、目の赤みを低減し、そして白みを増加させ、眼の審美的外観を改善することができる(特許文献1:特許第5671459号公報;特許文献2:特許第5738890号公報)。
【0003】
ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩を併用した製剤について、製剤安定性に着目した製剤化技術が検討されている。例えば、特許文献3(特表2009-533462号公報)には、約1~4.5mMのブリモニジン及び約2~16mMのチモロールを含有し、pHが約7~8.5である組成物は、分解生成物の生成を抑制でき、安定性が向上していることが開示されている。また、特許文献4(特開2017-222707号公報)には、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにブリンゾラミド及び/又はその塩を含む点眼薬を、波長360~460nmの光の最大透過率が67%以下であり、且つ波長600~680nmの光の最大透過率が78%以下である透明収容体に収容することにより、ブリモニジン及び/又はその塩の光暴露による分解を抑制でき、製剤安定性を確保できることが開示されている。さらに、特許文献5(特開2020-33290号公報)には、ブリモニジンを含有する水性組成物に、クロルヘキシジンに代表されるアミノ化合物を含有せしめることにより、水性組成物中のブリモニジンの高温保存時の含量低下を抑制できることが開示されている。
【0004】
点眼薬として製剤化する際には、1又は複数の有効成分とともに、周知の添加物が添加される。製剤化にあたり有効成分や添加物を任意に組み合わせることができるわけでなく、有効成分間の相性、有効成分と添加物との相性を鑑みて、製剤全体としての安定性、有効性、安全性などを評価する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5671459号公報
【特許文献2】特許第5738890号公報
【特許文献3】特表2009-533462号公報
【特許文献4】特開2017-222707号公報
【特許文献5】特開2020-33290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブリモニジン及び/又はその塩を目の充血を緩和又は抑制する眼科用液体製剤として製剤化するためには、高い安定性を有している必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らが、ブリモニジン及び/又はその塩の安定性を向上する成分について、検討したところ、ベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1の消炎・収れん剤を配合することで、ブリモニジン及び/又はその塩の安定性を向上できることを見出した。
【0008】
本発明の一実施形態として、下記に示す眼科用液体製剤を提供する。
[1]0.01w/v%~0.05w/v%のブリモニジン及び/又はその塩、並びにベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1の消炎・収れん剤を含有する眼科用液体製剤。
[2]前記ベルベリン及び/又はその塩が、ベルベリン硫酸塩である、項目1に記載の眼科用液体製剤。
[3]ベルベリン及び/又はその塩の濃度が、0.005~0.025w/v%である、項目1又は2に記載の眼科用液体製剤。
[4]pHが、5.0~9.0である、項目1~3のいずれか一項に記載の眼科用液体製剤。
[5]前記亜鉛塩が、乳酸亜鉛又は硫酸亜鉛である、項目1に記載の眼科用液体製剤。
[6]前記亜鉛塩の濃度が、0.05~0.25w/v%である、項目1又は4に記載の眼科用液体製剤。
[7]pHが5.0~7.0である、項目1、5及び6のいずれか一項に記載の眼科用液体製剤。
【0009】
また、本発明の一実施形態として、下記に示す光安定化方法を提供する。
[8] 0.01~0.05w/v%のブリモニジン及び/又はその塩を含有する眼科用液体製剤において、ベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1の消炎・収れん剤を配合することを特徴とする、眼科用液体製剤中におけるブリモニジン及び/又はその塩の光安定化方法。
【0010】
また、本発明の一実施形態として、下記に示す光安定化剤を提供する。
[9] 0.01~0.05w/v%のブリモニジン及び/又はその塩を含有する眼科用液体製剤に使用される、ブリモニジン及び/又はその塩の光安定化剤であって、ベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1の消炎・収れん剤を含有する、前記光安定化剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブリモニジン及び/又はその塩を含む眼科用液体製剤に対し、消炎・収れん剤のうち、ベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1を添加することで、安定性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解される。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で特定される数値範囲は、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0013】
(定義)
本明細書において、「ブリモニジン」は、IUPAC名:5-ブロモ-N-(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-イル)キノキサリン-6‐アミン(5-Bromo-N-(4,5-dihydro-1H-imidazol-2-yl)quinoxalin-6-amine)の化合物を指す。また、本明細書において、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度は、特に明記しない限り、ブリモニジン酒石酸塩に換算された濃度である。
【0014】
本明細書において、「低濃度のブリモニジン」とは、0.05w/v%以下の濃度のブリモニジンを指す。
【0015】
本明細書において、「眼科用液体製剤」とは、水を基剤とする水性液体製剤であり、眼科用製剤、特に点眼に用いられる製剤を指す。
【0016】
本明細書において、「光安定性」とは、眼科用液体製剤を一定量の光に曝露した後の製剤中のブリモニジン及び/又はその塩の含量が維持された度合いを指す。
【0017】
本明細書において、「光安定化」とは、眼科用液体製剤中の一定量の光の曝露による眼科用液体製剤中のブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の残存率をより高く維持することをいう。一例としてブリモニジン及び/又はその塩を含有する眼科用液体製剤を無色ガラスアンプルに充填し、白色光60万lx・hrに曝露した後に、ベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1の消炎・収れん剤を含有していない場合と比較して、ブリモニジン及び/又はその塩の含量が維持されていること、すなわちブリモニジン及び/又はその塩の残存率がより高いことを意味する。
【0018】
本明細書において、「光安定化方法」とは、眼科用液体製剤中の一定量の光の曝露による眼科用液体製剤中のブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の残存率をより高く維持するために行われる方法を意味する。
【0019】
本明細書において、「光安定化剤」とは、一定量の光の曝露による眼科用液体製剤中のブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の残存率をより高く維持するために配合される剤を意味する。
【0020】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0021】
本発明の一実施形態である眼科用液体製剤は、ブリモニジン及び/又はその塩を含有し、さらにベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1の消炎・収れん剤を含む。
【0022】
ブリモニジンの塩としては、医薬として許容される塩であれば任意の塩が挙げられる。ブリモニジンの医薬として許容される塩として、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、サリチル酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、アスコルビン酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、酒石酸塩および当業者に周知の他の無機カルボン酸塩が挙げられ、好ましくは酒石酸塩である。
【0023】
本発明において、低濃度のブリモニジンとは、0.05w/v%以下の濃度のブリモニジンを指す。一例として、濃度の上限は、副作用を予防する観点から0.04w/v%、又は0.03w/v%であってもよい。濃度の下限は、ブリモニジンが含有される限り限定されないが、0.01w/v%が用いられてもよく、一例として本剤の効果を鑑み、0.015w/v%、又は0.02w/v%が用いられてもよい。
【0024】
本発明において消炎・収れん剤としては、ベルベリン及び/又はその塩、及び亜鉛塩から選択されうる。ベルベリンの塩としては、医薬として許容される塩であれば任意の塩が挙げられる。ベルベリンの医薬として許容される塩として、塩化物、塩酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、サリチル酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、アスコルビン酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、酒石酸塩および当業者に周知の他の無機カルボン酸塩が挙げられる。一例として、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、タンニン酸ベルベリンが使用されうる。ベルベリン及び/又はその塩は、水和物であってもよい。亜鉛塩として、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、酢酸亜鉛が使用されうる。点眼剤へ配合する観点から、一例として硫酸亜鉛、乳酸亜鉛が使用されうる。亜鉛塩は、水和物であってもよい。
【0025】
消炎・収れん剤の濃度は、その種類に応じて適宜選択することができ、より好ましくは点眼剤への配合が許容されている範囲で選択することができる。ベルベリン及び/又はその塩としては、0.001~0.05w/v%で配合することができる。安定性の向上及び消炎・収れん効果を発揮する観点から、ベルベリン及び/又はその塩の濃度の下限として、例えば0.002w/v%、0.005w/v%、又は0.0125w/v%を選択することができる。点眼剤へ配合する観点から、ベルベリン及び/又はその塩の濃度の上限として0.03w/v%、又は0.025w/v%を選択することができる。亜鉛塩の濃度としては、0.025~0.5w/v%で配合することができる。安定性の向上及び消炎・収れん効果を発揮する観点から、亜鉛塩の濃度の下限として、例えば0.05w/v%、0.02w/v%、又は0.125w/v%を選択することができる。点眼剤へ配合する観点から、亜鉛及び/又はその塩の濃度の上限として0.3w/v%、又は0.25w/v%を選択することができる。
【0026】
結膜は、白目である強膜上を覆い、かつ瞼の内側を覆う膜であり、結膜上皮細胞から主に構成される。結膜の上皮層には血管、繊維組織、リンパ管が含まれる。結膜は白目と黒目の境界で角膜と接しており、角膜と結膜は外界にさらされる目の最外層を構成する。結膜は外界にさらされていることから、細菌やウイルスなどに侵されやすく、炎症が生じやすい。また炎症が起こっていない場合であっても、寝不足や目の酷使により、目に酸素や栄養を供給するために血流量が増えて充血する。本発明においてブリモニジン及び/又はその塩が、充血緩和、目の赤みの低減又は白化という作用を発揮するためには、点眼投与された製剤の有効成分が、結膜内の毛細血管に到達して作用することが必要となる。
【0027】
本発明において眼科用液体製剤は、水を基剤とする水性液体製剤であるが、点眼薬に使用しうる任意の液体基剤をさらに含んでいてもよい。本発明の眼科用液体製剤は、点眼薬として許容されるpH、浸透圧を有するように調製される。眼科用液体製剤のpHは、配合成分に応じてpH調整剤を使用して5.0~9.0に調整することができ、一例として5.5~8.5である。眼科用液体製剤にベルベリン及び/又はその塩を配合する場合、pH5.0~9.0に調整することができ、さらにはpH5.5~8.5を選択することができる。一方、眼科用液体製剤に亜鉛塩を配合する場合、高pHでは析出が生じるため、5.0~7.5に調整することができ、一例として、pH5.0~7.0、さらにはpH5.5~6.5を選択することができる。眼科用液体製剤の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5~2.5、より好ましくは0.7~1.5になるように眼科用液体製剤に添加する成分量を調節される。
【0028】
本発明の眼科用液体製剤は、好ましくは点眼薬である。本発明の眼科用液体製剤は、目の充血を緩和するまたは抑制する液体製剤であってもよい。目の充血を緩和するまたは抑制するとは、白目部分の白みを増加させることを言い、目のホワイトニングともいうことができる。目の充血を緩和するまたは抑制する観点から、本発明の眼科用液体製剤は、低濃度のブリモニジン及び/又はその塩を含むことが好ましい。
【0029】
充血の原因の一つとして炎症が挙げられる。一方で、ブリモニジン及び/又はその塩は、α-2受容体を介して作用し、血管を収縮して充血を除去するものであり、原因を取り除くわけではない。したがって、充血を緩和又は抑制するブリモニジン及び/又はその塩を含有する眼科用液体製剤において、原因である炎症を抑制する観点で、消炎・収れん剤を配合することが好ましい。
【0030】
光安定性の低い液体製剤については、遮光容器を用いることができる。しかしながら、点眼薬は開封後、一定の期間にわたって使用されるものである。点眼薬として遮光容器を用いると、残存量や内容物の異変の確認が難しくなることから、点眼薬は透明容器を使用することが望まれている。したがって、光安定性の高い製剤の提供が重要になる。また、遮光容器の代わりに着色された透明容器を用いることもできる。
【0031】
本発明の眼科用液体製剤は、点眼薬に使用しうる任意の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。本発明の有効成分であるブリモニジン酒石酸塩とは別に、任意の有効成分及び添加物などの任意的成分を含んでもよい。このような任意的成分としては、充血除去剤、ピント調節機能改善剤、消炎・収れん剤、抗ヒスタミン剤、ビタミン類、保水・栄養成分、サルファ剤、保存剤、pH調整剤、等張化剤、増粘剤、抗酸化剤、溶解補助剤、安定化剤、界面活性剤、香料または清涼化剤などが挙げられるが、これらに限定されることを意図するものではない。これらの有効成分及び添加剤は、それぞれ各カテゴリーの中から1種類のみを用いてもよいし、複数の種類を組み合わせて使用することができる。以下に、任意的成分を説明するが、列挙された作用以外の作用を目的として使用されてもよい。例えば清涼化剤として用いられるエタノールは、保存剤として眼科用液体製剤に添加されていてもよい。本発明において使用される消炎・収れん剤が、任意的成分の一例として列挙されているが、これらの成分が任意的に用いられることを意味するものではなく、本発明の眼科用液体製剤に含まれる消炎・収れん剤とは異なる他の成分が消炎・収れんの目的でさらに配合されうることを意味する。
【0032】
ビタミン類とは、生物の生存又は生育に微量に必要な栄養素のうち、その生物の体内で十分な量を合成できない炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物の総称である。ビタミン類は、水溶性ビタミン類と、脂溶性ビタミン類に大別される。水溶性ビタミン類としては、ビタミンB類及びビタミンC(アスコルビン酸)が挙げられる。脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA類、ビタミンD類、ビタミンE類、及びビタミンK類が挙げられる。一般用医薬品製造(輸入)承認基準では、点眼薬に配合されるビタミン類が規定されており、この観点から、特にビタミンA類、ビタミンB類、又はビタミンE類が好ましい。
【0033】
ビタミンA類としては、レチノール、及びその関連物質が使用されうる。レチノール関連物質として、レチナール、レチノイン酸、パルミチン酸レチノールやその他のレチノイド、例えばイソトレチノイン、アリトレチノイン、アシトレチン、エトレチナート、アダパレン、タザロテン、及びベキサロテン等も挙げられる。点眼薬として配合する観点からパルミチン酸レチノール、又は酢酸レチノールが好ましい。ビタミンA類は上皮細胞に作用し増殖を誘導することから、角膜や結膜保護等を目的として点眼薬に配合されうる。夜盲症、結膜乾燥症、角膜乾燥症、角膜軟化症等の眼科系疾患の治療のためにも点眼薬に配合されうる。
【0034】
ビタミンB類としては、ビタミンB1(チアミン等)、ビタミンB2、ビタミンB3(ナイアシン等)、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7(ビオチン等)、ビタミンB9(葉酸等)、又はビタミンB12が使用されうる。ビタミン類には、誘導体であるプロビタミンや医薬として許容される塩を包含する。ビタミンB類の中でも、特に点眼薬に配合される観点から、ビタミンB2、B5、B6、又はB12が好ましい。
【0035】
ビタミンB2としてはリボフラビン、リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、酢酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、又は薬学的に許容されるそれらの塩等が使用されうる。塩としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等が挙げられる。点眼薬として配合される観点からフラビンアデニンジヌクレイオチドナトリウムが好ましい。ビタミンB2は、酸化還元に直接関与し、点眼薬として使用されると角膜・結膜細胞の酵素呼吸代謝を促進し、角膜・結膜の保護作用を有する。またビタミンB2は、ビタミンB2欠乏または代謝障害が関与すると推定される角膜炎に対して治療のために点眼薬に配合されうる。
【0036】
ビタミンB5としてはパンテノール、パントテン酸又はそれらの誘導体又はそれらの塩が使用されうる。一例として、パンテノール、パントテン酸の他に、誘導体又はそれらの塩として、パンテチン、パンテテイン、パントテニールアルコール、パントテニールエチルエーテル、パンテテインパントテニールアルコール、パントテン酸カルシウム、及びパントテン酸ナトリウム等が挙げられる。点眼薬として使用される観点から、ビタミンB5としてはパンテノール、パントテン酸カルシウム、又はパントテン酸ナトリウムが好ましい。
【0037】
ビタミンB6としては、ピリドキサール、ピリドキサミン、ピリドキシン又はそれらの医薬として許容される塩が使用されうる。点眼薬として使用される観点から、ピリドキシン塩酸塩が好ましい。ビタミンB6は、生体内でアミノ酸脱炭酸酵素及びアミノ基転移酵素の補酵素として、タンパク質の代謝に関わっており、眼精疲労の抑制のために点眼薬に配合されうる。
【0038】
ビタミンB12はコリン環にコバルトが配位した構造を有する化合物であり、具体的には、シアノコバラミン、メコバラミン(メチルコバラミン)、ヒドロキソコバラミン、アデノシルコバラミン、塩酸ヒドロキソコバラミン、及び酢酸ヒドロキソコバラミン等が挙げられる。ビタミンB12は疲れ目や眼精疲労の改善等の薬理作用のために点眼薬に配合されうる。
【0039】
ビタミンE類としては、トコフェロール、トコトリエノール、トコフェルソラン、又はそれらの誘導体が使用されうる。トコフェロール及びトコトリエノールは、α-、β-、γ-、δ-のいずれであってもよく、また、d体、dl体のいずれであってもよい。点眼薬として使用される観点から、一例として酢酸d-α-トコフェロールが挙げられる。
【0040】
ビタミンCとしては、アスコルビン酸又はその塩が挙げられる。ビタミンD類としては、ビタミンD2(エルゴステロール、エルゴカルシフェロール)、D3(7-デヒドロコレステロール)、プレビタミンD3(コレカルシフェロール、25-ヒドロキシコレカルシフェロール、カルシトリオール(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)、カルシトロン酸)、ビタミンD4(ジヒドロエルゴカルシフェロール)、及びビタミンD5(ジヒドロタキステロール・カルシポトリオール・タカルシトール・パリカルシトール)等が挙げられる。ビタミンK類としては、フィロキノン(K1)、メナキノン(K2)、及びメナジオン(K3)が挙げられる。
【0041】
充血除去剤としては、エピネフリン、エフェドリン、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、フェニレフリン、メチルエフェドリン、又はそれらの塩が使用されうる。
【0042】
ピント調節機能改善剤としては、メチル硫酸ネオスチグミンが使用されうる。
【0043】
消炎・収れん剤としては、ε-アミノカプロン酸又はその塩、アラントイン、アズレンスルホン酸又はその塩、グリチルリチン酸又はその塩、又は塩化リゾチームが使用されうる。
【0044】
抗ヒスタミン剤としては、塩酸ジフェンヒドラミン、又はマレイン酸クロルフェニラミンが使用されうる。
【0045】
保水・栄養成分としては、アミノ酸類又はその塩、コンドロイチン硫酸エステルナトリウムが使用されうる。本発明においてアミノ酸類は、安定性の向上及び結膜移行性の向上を目的として眼科用液体製剤に配合されるが、保水・栄養成分として同一又は異なるアミノ酸類を配合することもできる。アミノ酸類とは、アミノ酸以外に、アミノ酸のカルボキシル基の代わりに硫酸基を有する物質、例えばタウリンにも関する。アミノ酸としては、一例として、グリシン、アラニン、メチオニン、バリン、トレオニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、フェニルアラニン、トリプトファン、アルギニン、プロリン、チロシン、及びセリンが挙げられる。アミノ酸としては、好ましくはアスパラギン酸、メチオニン、及びグリシンが挙げられる。グリシンを除くアミノ酸は、L体のアミノ酸であってもよいし、D体のアミノ酸であってもよいし、又はDL体のアミノ酸であってもよい。
【0046】
サルファ剤としては、スルファメトキサゾール、スフファメトキサゾールナトリウム、スフルイソキサゾール、又はスルフイソミジンナトリウムが使用されうる。
【0047】
保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、ベンザルコニウム塩化物、クロロブタノール、亜塩素酸ナトリウム、ベンゾドデシニウム臭化物、クロルヘキシジングルコン酸塩、ソルビン酸塩、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸塩、ベンジルアルコール、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、ポリヘキサメチレンビグアニド、ホウ酸、又はホウ砂などが使用されうる。
【0048】
pH調整剤としては、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤などの緩衝剤とともに、例えば、塩酸、酢酸、ホウ酸、炭酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酒石酸などの酸や、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどの塩基が使用されうる。
【0049】
等張化剤としては、糖類や塩類が挙げられ、塩類としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどが用いられうる。糖類としては、任意の単糖類又は多糖類を使用することができ、一例としてグルコース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、又はマンニトール等を使用することができる。
【0050】
増粘剤としては、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリビニルピロリドンなど又はそれらの塩が使用されうる。
【0051】
溶解補助剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、チロキサポール、プルロニック等の非イオン性界面活性剤;グリセリン、又はマクロゴール等の多価アルコール等が使用されうる。
【0052】
安定化剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、エデト酸塩、タウリン、又はトコフェロール等が使用されうる。
【0053】
界面活性剤としては、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン塩、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;又はアルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ポリヘキサメチレンビグアニド塩等の陽イオン界面活性剤等が使用されうる。特にベンザルコニウム塩、アルキルジアミノエチルグリシン塩、ポリヘキサメチレンビグアニド塩、ベンゼトニウム塩、又はジアルキルジメチルアンモニウム塩等は殺菌性界面活性剤として使用されうる。
【0054】
香料又は清涼化剤としては、メントール、エタノール、カンフル、ゲラニオール、ボルネオール、メントール、リュウノウ、ウイキョウ油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ水、ハッカ油、ペパーミント油、ベルガモット油、ユーカリ油、又はローズ油等が使用されうる。
【0055】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0056】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0057】
[試験例1]ブリモニジン酒石酸塩の安定性の測定
1.試験点眼液の調製
精製水にホウ酸(富士フイルム和光純薬株式会社)及びブリモニジン酒石酸塩(Hinewy Pharma. Tech. Co., Ltd.)を添加して溶解し、さらに適宜ベルベリン塩化物水和物(東京化成工業株式会社)または硫酸亜鉛水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)を添加して溶解した。溶解後、pH調整剤(塩酸又は水酸化ナトリウム水溶液)によりpHを調整し、表1~5に示す組成の溶液を調製し、比較例1~6並びに実施例1~22の試験点眼液を得た。なお、表中の数値は、pHと残存率を除きw/v%である。
【0058】
2.光安定性試験
1.で調製された試験点眼液5mLをガラスアンプルに封入し、光安定性試験装置(LT-120A-WCD、ナガノサイエンス株式会社製)に入れ、白色光60万lx・hrに暴露させ、劣化品を得た。比較例及び実施例の各試験点眼液についての劣化品及び劣化前品のブリモニジン酒石酸塩含量を、以下に示す条件で高速液体クロマトグラフシステム(HPLC、島津製作所社製)によって測定した。以下に示す算出式に従ってブリモニジン酒石酸塩の残存率(%)を算出した。
【数1】
【0059】
3.ブリモニジン酒石酸塩含量の測定
各試験点眼液の劣化前品及び劣化品について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を以下の条件で用いて、ブリモニジン酒石酸塩含量を測定した。
カラム: 内径4.6mm×長さ15cm オクタデシルシリル化シリカゲル(「AA12S05-1506WT」ワイエムシィ社製)
検出器: 紫外吸光光度計(測定波長:264nm)
カラム温度: 40℃
移動相: リン酸二水素アンモニウム5.175gを900mLの水に溶かし、液体クロマトグラフィー用アセトニトリル100mLを加える。
流速: 約1mL/min
【0060】
【表1】
0.01~0.05w/v%の濃度のブリモニジン酒石酸塩を含む試験点眼液に、0.025w/v%のベルベリン塩化物水和物又は0.25w/v%の硫酸亜鉛水和物を配合することにより、ブリモニジン酒石酸塩の光安定性が向上した。
【0061】
【表2】
0.025w/v%のブリモニジン酒石酸塩を含む試験点眼液に、0.005~0.025w/v%のベルベリン塩化物水和物又は0.05~0.25w/v%の硫酸亜鉛水和物を配合することにより、ブリモニジン酒石酸塩の光安定性が向上した。
【0062】
【表3】
0.01w/v%又は0.05w/v%の濃度のブリモニジン酒石酸塩を含む試験点眼液に、0.005~0.025w/v%のベルベリン塩化物水和物を配合することにより、ブリモニジン酒石酸塩の光安定性が向上した。
【0063】
【表4】
0.01w/v%又は0.05w/v%の濃度のブリモニジン酒石酸塩を含む試験点眼液に、0.05~0.25w/v%の硫酸亜鉛水和物を配合することにより、ブリモニジン酒石酸塩の光安定性が向上した。
【0064】
【表5】
0.025w/v%の濃度のブリモニジン酒石酸塩及び0.025w/v%のベルベリン塩化物水和物又は0.25w/v%の硫酸亜鉛水和物を含む試験点眼液において、pHを変化させた。ベルベリン塩化物水和物を配合した場合には5.5~8.5において、ブリモニジン酒石酸塩の光安定性が向上した。硫酸亜鉛水和物を配合した場合には、5.5~6.5において、ブリモニジン酒石酸塩の光安定性が向上した。一方、硫酸亜鉛水和物を配合し、高pHとすると析出を形成した。