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特開2022-187499熱可塑性炭素繊維樹脂基材を用いたスピーカー用部品およびスピーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187499
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】熱可塑性炭素繊維樹脂基材を用いたスピーカー用部品およびスピーカー
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/02 20060101AFI20221213BHJP
   H04R 7/12 20060101ALI20221213BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H04R7/02 D
H04R7/02 G
H04R7/12 K
H04R1/02 104Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087420
(22)【出願日】2021-05-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000222406
【氏名又は名称】東レプラスチック精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩田 凌太郎
【テーマコード(参考)】
5D016
5D017
【Fターム(参考)】
5D016AA09
5D016CA05
5D016EA05
5D016EC02
5D017AF10
(57)【要約】
【課題】振動減衰効果が高く、広範囲に渡り音の良く通るスピーカー用部品およびその製造方法、並びにスピーカーを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂基材から構成されると共に、複合材料の損失係数が0.025以上かつ、前記炭素繊維を5重量%~60重量%含有し、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が60重量%以上で、かつ同心円に沿って15%以上の炭素繊維が設定された素材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂基材から構成されると共に、前記複合材料の損失係数が0.025以上かつ、前記炭素繊維を5重量%~60重量%含有し、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が60重量%以上で、かつ同心円に沿って15%以上の炭素繊維が設定され、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の厚さが0.05mm~10.0mmで、かつ複数の貫通孔を有する多孔シートであり、前記貫通孔の孔径が0.1mm~100mm、かつ貫通孔の開口部面積の合計がシート全面に対して5%~75%で、スピーカーカバーであることを特徴とするスピーカー用部品。
【請求項2】
熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂基材から構成されると共に、前記複合材料の損失係数が0.025以上かつ、前記炭素繊維を5重量%~60重量%含有し、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が60重量%以上で、かつ同心円に沿って15%以上の炭素繊維が設定され、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の厚さが0.05mm~2.0mmであるスピーカーコーンであることを特徴とするスピーカー用部品。
【請求項3】
請求項1および2において、素材の中央部50%以上において、炭素繊維15%以上が同心円に集中していることを特徴とするスピーカー用部品。
【請求項4】
請求項1~3の同心円において、炭素繊維の配向が紡錘形であることを特徴とするスピーカー用部品。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のスピーカー用部品を製造する方法であって、溶融シート押出成形後に炭素繊維が一方向に配列しているシートを、真空成形、真空圧空成形、熱プレス成形により前記熱可塑性炭素繊維樹脂基材から部品を成形することを特徴とするスピーカー用部品の製造方法。
【請求項6】
前記の熱可塑性炭素繊維樹脂基材を凸型金型にて冷却成形する際に、その片側の面を金属賦形面と接触させ、前記の熱可塑性炭素繊維樹脂基材における前記金属賦形面との非接触面にスプリングバックを生起させることを特徴とする請求項5に記載のスピーカー用部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のスピーカー用部品を組み立てることで得られること特徴とするスピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動減衰率が高く、明瞭な音響を広範囲に伝えると共に、2次加工による熱曲げ加工が可能なスピーカー用部品およびその製造方法、並びにスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スピーカー用部品には木材や金属、繊維、樹脂等の材料が、形状の成形し易さや音響性能の観点から選択され、使用されている。また、スピーカー用部品は見た目上の意匠も重要である。しかしながら、使用される材料によっては、発生された音の振動が残音として長時間残り、これが次に発せられる音と重なって、明瞭な音を伝えにくいものもある。
【0003】
特に、屋外において広い空間に音や人間の音声を伝える際、残音は障害となる。また、遊園地での迷子の連絡や、駅、ホーム、バスターミナル、空港でのダイヤの遅延や事故の情報を遠くまで的確に伝えることは非常に重要である。さらに、豪雨、洪水、鉄砲水、土砂災害、火山噴火、火砕流、泥流、豪雪、地滑り、雪崩、地震、津波、火災、原発事故、紛争、テロ等の災害情報を広範囲に伝える必要がある際に、残音の残るスピーカーでは災害情報を正確に伝えることができず、人命救助に繋がらないこともある。特に、電気やラジオ、テレビ放送、インターネットが寸断された際には、屋外のスピーカーが重要視されることが多々ある。
【0004】
これに対して、特許文献1は、軽量でかつ高強度、高弾性の材料として高減衰能炭素繊維強化樹脂複合材料を提案する。しかしながら、このような熱硬化性の炭素繊維強化樹脂複合材料は後加工性に課題が多く、一旦熱的に賦形すると後加工することは難しく、熱を加えても変形しないため熱的な後加工が難しい。また、このような炭素繊維強化樹脂複合材料からなる成形体に多数の貫通孔をあけようとすると、割れの発生、バリの発生、或いは炭素繊維の粉塵による電気設備のショートの虞があるため、穿孔による加工は制限される。
【0005】
さらに、特許文献2は、芳香族ポリアミドの粒子とマトリックス樹脂と炭素繊維からなる繊維強化樹脂構造物を提案する。しかしながら、特許文献2に開示された繊維強化樹脂構造物は、損失係数が0.022 以下であるため、屋外のスピーカーに用いるには振動減衰性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-144371号公報
【特許文献2】特開2013-203788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、振動減衰効果が高く、広範囲に渡り音の良く通るスピーカー用部品およびその製造方法、並びにスピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明のスピーカー用部品は以下の構成を有する。
【0009】
(1)熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂基材から構成されると共に、前記複合材料の損失係数が0.025 以上かつ、前記炭素繊維を5重量%~60重量%含有し、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が60重量%以上で、かつ同心円に沿って15%以上の炭素繊維が設定され、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の厚さが0.05~10.0mmで、かつ複数の貫通孔を有する多孔シートであり、前記貫通孔の孔径が0.1mm~100mm、かつ貫通孔の開口部面積の合計がシート全面に対して5%~75%で、スピーカーカバーであることを特徴とするスピーカー用部品。
【0010】
(2)熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む複合材料からなる熱可塑性炭素繊維樹脂基材から構成されると共に、前記複合材料の損失係数が0.025以上かつ、前記炭素繊維を5重量%~60重量%含有し、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が60重量%以上で、かつ同心円に沿って15%以上の炭素繊維が設定され、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の厚さが0.05mm~2.0mmであるスピーカーコーンであることを特徴とするスピーカー用部品。
【0011】
(3)前記(1)~(2)において、素材の中央部50%以上において、炭素繊維15%以上が同心円に集中していることを特徴とするスピーカー用部品。
【0012】
(4)前記(1)~(3)の同心円において、炭素繊維の配向が紡錘形であることを特徴とするスピーカー用部品。
【0013】
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載のスピーカー用部品を製造する方法であって、溶融シート押出成形後に炭素繊維が一方向に配列しているシートを、真空成形、真空圧空成形、熱プレス成形により前記熱可塑性炭素繊維樹脂基材から部品を成形することを特徴とするスピーカー用部品の製造方法。
【0014】
(6)前記熱可塑性炭素繊維樹脂基材を凸型金型にて冷却成形する際に、その片側の面を金属賦形面と接触させ、前記の熱可塑性炭素繊維樹脂基材における前記金属賦形面との非接触面にスプリングバックを生起させることを特徴とする(5)に記載のスピーカー部品の製造方法。
【0015】
(7)前記(1)~(6)のいずれかに記載のスピーカー用部品を組み立てることで得られることを特徴とするスピーカー。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスピーカー用部品によれば、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の振動減衰率が高いので、残音が少なく明瞭な音であって、広範囲に渡り良く音を通すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の熱賦形されたスピーカーカバーの実施形態の一例を示した斜視図である。
図2】本発明の熱賦形されたスピーカーカバーの炭素繊維の配向の一例を示した概略図である。
図3】本発明の熱賦形されたスピーカーコーンの実施形態の一例を示した斜視図である。
図4】本発明の熱賦形されたスピーカーコーンの炭素繊維の配向の一例を示した概略図である。
図5】振動減衰性の測定に用いる装置の一例を概略的に示す説明図である。
図6】振動減衰性の測定データの一例を示す説明図である。
図7図6の減衰振動波形の極大値をプロットした説明図である。
図8】実施例1のスピーカー用部品のもととなるシート振動減衰性の測定結果を示す説明図である。
図9】比較例1のスピーカー用部品のもととなるシート振動減衰性の測定結果を示す説明図である。
図10】本発明の一実施態様に係る熱可塑性炭素繊維複合材料を用いてなるスピーカーの部品の上面を電子顕微鏡において、炭素繊維の配向方向を観察した結果を示す模式図である。
図11】本発明の一実施態様に係る熱可塑性炭素繊維複合材料を用いてなるスピーカーの部品の断面を電子顕微鏡において、炭素繊維の配向方向を観察した結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のスピーカー用部品は熱可塑性炭素繊維樹脂基材で構成され、この熱可塑性炭素繊維樹脂基材は熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む複合材料、いわゆる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物により形成される。
【0019】
複合材料を構成する炭素繊維として、例えばポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維が挙げられるが、いずれの炭素繊維でも良い。炭素繊維の単繊維径は、特に制限されるものではないが、好ましくは5μm~10μm、より好ましくは6μm~8μmが良い。なお、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の調製に使用する炭素繊維は、長繊維(ロービング)、短繊維(チョップドストランド)のいずれでも良いが、好ましくは短繊維である。
【0020】
複合材料のマトリックスとなる熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリスチレン)、ポリアミド(例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、芳香族ナイロン)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルフォキサイド、ポリテトラフルオロエチレン、アクロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリオキシメチレン等が挙げられる。また、これら熱可塑性樹脂の誘導体や変性体、これら熱可塑性樹脂の共重合体、さらにそれらの混合物でも良い。
【0021】
熱可塑性樹脂としてはポリアミドが好ましく、ナイロン6、ナイロン66、それらの誘導体もしくは共重合体、またはこれらの少なくとも1つを含む混合物がより好ましく、ナイロン6、ナイロン66がさらに好ましい。
【0022】
また、熱可塑性樹脂としてはポリオレフィンも好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、それらの誘導体もしくは共重合体、またはこれらの少なくとも1つを含む混合物がより好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがさらに好ましい。さらに、アクロニトリルブタジエンスチレン共重合体、その誘導体もしくは共重合体、またはこれを含む混合物も好ましい。さらに、ポリフェニレンサルファイド、その誘導体もしくは共重合体、または上記のいずれかを含む混合物も好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂は、互いに粘度の異なる第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を少なくとも含むと良い。互いに粘度の異なる2以上の熱可塑性樹脂を含むことにより、溶融成形時にスプリングバックを起こすことができる。本発明では、熱可塑性樹脂の融点から20~50℃の高い所定温度において、第2の熱可塑性樹脂の粘度が第1の熱可塑性樹脂の粘度の3~70倍であることが好ましく、5~50倍であることがより好ましく、10~30倍であることがさらに好ましい。第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂は、分子量や共重合成分を相違させた同じ種類の熱可塑性樹脂であると良い。
【0024】
上記スピーカー用部品では、粘度の高い樹脂と粘度の低い樹脂の一方が極端に多く含まれていると、スプリングバックが大き過ぎ、破れやシート自体の強度が低下する。その一方で、粘度の高い樹脂が極端に多い場合、樹脂と炭素繊維との密着性が悪く、割れの原因になる。また、粘度の高い樹脂を用いての溶融混練は、樹脂温度が上がりすぎて、樹脂が分解してしまう。これは、炭素繊維とガラス繊維の双方で同じ傾向にあり、特に炭素繊維と高粘度の樹脂を混合すると発熱が高く分解し易い。さらに、射出成形において、炭素繊維と樹脂とを混合したものを射出成形しても、流動性が低いため、薄物を作製することは難しい。
【0025】
同時に、ガラス繊維と粘度の高い樹脂とを用いて、たとえ樹脂ができてもシート化する際にロール表面を傷つけて、シートを連続して作製することができない。また、流動性が低いため、射出成形しにくい。特に、薄物の射出成形においては困難である。粘度の低い樹脂とガラス繊維とを組合せて射出成形することは可能であるが、これも流動性の観点から薄物を作製することは難しい。よって、射出成形で製品を得ることもできるが、流動性に劣るため、1mm以上の厚手の板しかできず、連続的に生産することができず、かつウエルドによる割れも発生し易い。
【0026】
上述したスピーカー用部品において、熱可塑性炭素繊維樹脂基材における粘度の異なる樹脂の比率は、重量で低粘度樹脂が高粘度樹脂に対して0.3~5.0倍であることが好ましく、0.5~2.0倍であることがより好ましい。
【0027】
熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む複合材料100 重量%中、炭素繊維が好ましくは5重量%~60重量%、より好ましくは10重量%~40重量%であると良い。さらに好ましくは、20重量~40重量%の炭素繊維の含有量をこのような範囲内にすることにより、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の振動減衰特性を安定させることができる。
【0028】
熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む複合材料は、その対数振動減衰率が0.07~0.30である。複合材料の対数振動減衰率が0.07未満であると、スピーカー用部品の振動が長時間残り、音が重なって聞き取りにくくなる。また、対数振動減衰率が0.30を超えると、スピーカー用部品の振動が過度に抑えられてしまい、音が伝わりにくくなる。複合材料の対数振動減衰率は、0.08~0.30の範囲が好ましく、0.10~0.30の範囲がより好ましく、0.15~0.30の範囲がさらに好ましい。
【0029】
対数振動減衰率と損失係数の関係として、対数振動減衰率は損失係数に円周率π を掛けたものに等しい(対数振動減衰率=損失係数×π)。複合材料の対数振動減衰率が、同じ厚さの金属、例えばステンレスと比べて5倍である場合、この複合材料を用いたスピーカー用部品の振動はステンレス製のものと比べて1/5の時間に短縮される。すなわち、スピーカーからの残音が5倍早く消えるため、次に発せられる音が非常に明瞭に聞こえる。
【0030】
一方、金属は同じ厚さの複合材料と比べて対数振動減衰率が小さいので、金属からなるスピーカー用部品の振動は比較的残り易い。そのため、金属からなるスピーカー用部品は長時間に渡って残音が残るので、スピーカーから発せられる音は聞きとりにくい上に遠くまで伝わらない。
【0031】
また、本発明におけるスピーカー用部品において、複合材料の損失係数は0.02以上で、さらに0.025以上である。複合材料の損失係数は、0.03以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましく、0.06以上が最も好ましい。
【0032】
複合材料の損失係数が、同じ厚さの金属、例えばステンレスと比べて5倍である場合、この複合材料を用いたスピーカー用部品の振動はステンレス製のものと比べて1/5の時間に短縮される。すなわち、スピーカーからの残音が早く消えるため、次に発せられる音が非常に明瞭に聞こえる。
【0033】
一方、金属は同じ厚さの複合材料と比べて損失係数が小さいので、金属からなるスピーカー用部品の振動は比較的残り易い。そのため、金属からなるスピーカー用部品は残音が長時間残るので、スピーカーから発せられる音は聞きとりにくい上に遠くまで伝わらない。
【0034】
本発明のスピーカー用部品は、上述した複合材料により形成された熱可塑性炭素繊維樹脂基材からなる。このスピーカー用部品は、振動を早期に抑えることができるので、残音が少なく、明瞭に音を遠くまで細かく伝えることが可能となる。よって、本発明のスピーカー用部品はハイレゾリューション用のスピーカー等に用いることが好適である。また、金属に比べて錆びに強くメンテナンス交換の間隔が長いため、長期間に渡って使用することができる。さらに、軽量であるので取り付けが容易であり、金属のような錆びも無いため、屋外高所からの落下の危険性を軽減することができる。
【0035】
本発明における熱可塑性炭素繊維樹脂基材は、炭素繊維を含有するので、炭素繊維を含有しない樹脂製品と比べて静電気の発生を抑えることができる。そのため、冬場における静電気の発生によるトラブルも少ない。また、本発明における熱可塑性炭素繊維樹脂基材はパンチング加工時に破損し難く、加工性に優れている。さらに、熱可塑性炭素繊維樹脂基材は、ベースが熱可塑性樹脂であるため塗装も容易であり、顔料や染料に関係なく塗布することができる。特に、含フッ素塗料や、ガラスコートを用いることで、耐水性能や耐汚性能を向上し、剛性を向上することもできる。
【0036】
本発明のスピーカー用部品はスピーカーカバーとして用いることができる。その場合、図1に示すように、スピーカーカバー1は複数の貫通孔3を有する熱可塑性炭素繊維樹脂基材2であり、熱可塑性炭素繊維樹脂基材2の厚さは0.05mm~10.0mmで、貫通孔3の孔径は0.1mm~100.0mm、複数の貫通孔3の開口部面積の合計はシート全面の面積に対して5%~75%であることが好ましい。さらに、熱可塑性炭素繊維樹脂基材2の厚さは0.1mm~2.0mmで、貫通孔3の孔径が0.5mm~10.0mm、複数の貫通孔3の開口部面積の合計はシート全面の面積に対して20%~70%であることがより好ましい。さらに好ましくは、複数の貫通孔3の開口部面積の合計はシート全面の面積に対して30%~60%である。
【0037】
スピーカーカバーの貫通孔の孔径が、小さ過ぎると音を遮断する。一方で、大き過ぎると外部からの物理的影響によりスピーカーコーン等が破壊される。また、スピーカーカバーの貫通孔の開口率(シートの総面積に対する貫通孔の開口部の総面積の比率) が、小さ過ぎると音が伝わりにくく、開口率が大き過ぎるとスピーカーカバーの強度を保つことができない。一方、貫通孔のピッチについても開口率と同様であり、ピッチが広過ぎると音が遮断され、ピッチが狭過ぎるとスピーカーカバーの強度が下がる傾向にある。
【0038】
また、図3に示すように、上記スピーカー用部品はスピーカーコーン11として用いることができる。その場合、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の厚さは0.05mm~2.0mmであることが好ましい。より好ましくは0.1mm~0.5mmである。
【0039】
スピーカーコーンとしてはできるだけ厚さが薄いものが好適である。厚さが薄いと音が伝わり易く、スピーカーコーンとしてある程度の強度を保つために、一定の厚さが必要ある。
【0040】
上述したスピーカー用部品において、熱可塑性炭素繊維樹脂基材において、同心円に配向された炭素繊維は、80重量%以上が、図10図11に示すように同一方向30°以内に配向していることが好ましい。
【0041】
さらに50%以上の炭素繊維が設定されていることが好ましく、さらに35%以上の炭素繊維が設定されていることが好ましく、さらに15%以上の炭素繊維が設定されていることが好ましい。
【0042】
さらに、同一方向15°以内に配向していることがより好ましく、同一方向10°以内に配向していることがさらに好ましい。炭素繊維が同心円に向いており、振動減衰性が向上し、配向方向の比弾性も向上し、音の伝達性も向上する。
【0043】
これにより同心円に配置された炭素繊維は、周りの炭素繊維と同じ方向に振動するので、振動のクロスが抑えられることで、音のエネルギーをロスなく伝えることができる。さらに同心円に配置されることで、スピーカーの中心方向に集めて音が伝えられる。
【0044】
炭素繊維が同心円に集まりやすくなる理由は、一般的に溶融押出成形で成形されたシートは、シート中において、樹脂圧の影響で炭素繊維の配向は、流れ方向の一方向に強く配向されるからである。
【0045】
ここで、強く配向されたシートを用いて真空成形をはじめとする成形方法において、特に金型を凸型にすることで、炭素繊維の配向が傾き、その効果が顕著になる。凸型にするとドローダウンした樹脂が、凸の金型の側面に周りに吸い付くように回り込む。この結果、樹脂の流れに沿って、炭素繊維も金型の側面に流れ込む結果、スピーカーの中央から見ると、炭素繊維が回り込むような形状に配置する。特に樹脂表面は動きやすいので樹脂が移動しやすく、結果、炭素繊維も回り込む。
【0046】
さらに、凸の金型の側面に周りに吸い付くように回り込む樹脂の量は、凸型金型、シートの厚さ、樹脂の種類、粘度、炭素繊維の量によって変わるので、同心円と紡錘形の形状になる。
【0047】
上述した熱可塑性炭素繊維樹脂基材には短繊維の炭素繊維が所定の割合で含まれているので、スピーカー用部品として十分な硬さを保つことができる。
【0048】
また、所定範囲の繊維長の炭素繊維が含まれておりかつ、同一方向に炭素繊維が配向されているシート状または、パンチングシートを用いて熱プレスまたは真空成形、圧空真空成形といった後加工を行うことで、同心円に炭素繊維を配置することが可能となる。
【0049】
これらの炭素繊維が同心円や紡錘形など特徴的に配向することによって、樹脂のシートの強度が一定に保たれるので、安定した音を提供することができる。
【0050】
上述したスピーカー用部品で、素材の中央部50%において、さらに50%以上の炭素繊維が設定されていることが好ましく、さらに35%以上の炭素繊維が設定されていることが好ましく、さらに15%以上の炭素繊維が設定されていることが好ましい。
【0051】
さらに、炭素繊維の配向が同心円より、紡錘形であることを特徴とするスピーカー用部品が好ましい。
【0052】
さらに、本発明は、上記に記載のスピーカー用部品を組み立てることで得られること特徴とするスピーカーである。
【0053】
次に、上記スピーカー用部品の製造方法について、以下に説明する。
【0054】
上記記載のスピーカー用部品は、溶融シート押出成形後に、炭素繊維が一方向に配列しているシートを、真空成形、真空圧空成形、熱プレス成形することにより、前記熱可塑性炭素繊維樹脂基材から成形される。
【0055】
さらに、前記の熱可塑性炭素繊維樹脂基材を凸型の金型にて成形する際に、その片側の面を金属賦形面と接触させ、前記の熱可塑性炭素繊維樹脂基材における前記金属賦形面との非接触面にスプリングバックを生起させることを特徴とするスピーカー用部品の製造方法である。
【0056】
本発明におけるスピーカー用部品の製造方法は、上記スピーカー用部品を製造する方法であって、溶融異形押出成形、溶融シート押出成形、射出成形、真空成形またはブロー成形により、複合材料から熱可塑性炭素繊維樹脂基材を成形する製造方法である。
【0057】
特に、溶融シート押出により成形することが好ましい。この溶融シート押出およびこれをパンチングした成形品をもとに後加工成形した場合、真空成形、熱プレス、熱曲げといった後加工となる。また、金属と同等の強度を有すると共に、軽量で振動減衰率の高い熱可塑性炭素繊維樹脂基材を得ることができる。さらに、この熱可塑性炭素繊維樹脂基材からスピーカー用部品を成形することで、残音の少ない明瞭な音を伝えることができるスピーカー用部品を得ることができる。
【0058】
また、パンチングシートについて、PPフィルムなどを上にかぶせて真空成形することで、立体状のスピーカーカバーが得られる。この結果、カバーの開口率が単純なパンチングシート単板よりも大きくなるので、音響が良くなる。さらに立体的になり意匠性も向上する。
【0059】
また、パンチングだけでなく、メッシュ状のシートも用いて、成形することもできる。
【0060】
上述したスピーカー用部品の製造方法において、熱可塑性炭素繊維樹脂基材を冷却する際に、その片側の面を金属賦形面と接触させ、熱可塑性炭素繊維樹脂基材における金属賦形面との非接触面にスプリングバックを生起させることが好ましい。これにより、スピーカー用部品の表面は均一な鏡面とならずに凹凸面が形成される。このように表面に凹凸があるスピーカー用部品は振動の抑制効果が高い。
【0061】
特に、熱可塑性炭素繊維樹脂基材を冷却する際に、その片側の面を金属賦形面と接触させて急冷し、金属賦形面との非接触面においてスプリングバックが生起した状態で熱可塑性炭素繊維樹脂基材を固化させることがより好ましい。これにより、スピーカー用部品の表面にはより複雑な凹凸が形成され、さらにはアンダーカットが生じる。このように複雑な凹凸面を有すると共に、アンダーカットが生じたスピーカー用部品は振動の抑制効果が高い。
【0062】
最後に、本発明のスピーカーについて説明する。本発明におけるスピーカーは、上記スピーカー用部品から構成されている。また、本発明のスピーカー用部品以外を一部に含んで構成することもできる。高い振動減衰性を有する上記スピーカー用部品を組み合わせて構成されているので、音が籠らずに遠くまで伝わる高音質のスピーカーを得ることができる。
【実施例0063】
次に、実施例について説明する。各実施例および比較例において、使用した材料および測定方法は以下の通りである。
【0064】
(1)使用した材料
(A)炭素繊維
A1:繊維径が7μmの炭素繊維である。
(B)第1の熱可塑性樹脂
B1:ナイロン6(融点225℃、275℃における粘度:80poise)
B2:ナイロン66(融点:255℃、305℃における粘度:250poise)
B3:PP(融点:170℃、220℃における粘度:70poise)
B4:ABS(ガラス転移点(軟化点):190℃、240℃における粘度:120poise)
B5:PPS(融点:285℃、335℃における粘度:260poise)
B6:PC(軟化点:146℃、290℃における粘度:125poise)
(C)第2の熱可塑性樹脂
C1:ナイロン6(融点:225℃、275℃における粘度:1,100pois e)
C2:ナイロン66(融点:255℃、305℃における粘度:5,500poise)
C3:PP(融点:170℃、220℃における粘度:1,770poise)
C4:ABS(軟化点:190℃、240℃ における粘度:2,520poise)
C5:PPS(融点:255℃、335℃における粘度:8,060poise)
C6:PC(軟化点:146℃、290℃における粘度:1,890poise)
(D)複合材料
D1:A1を25重量%、B1を50重量%、C1を25重量%含有
D2:A1を35重量%、B1を25重量%、C1を40重量%含有
D3:A1を30重量%、B2を55重量%、C2を15重量%含有
D4:A1を25重量%、B3を35重量%、C3を40重量%含有
D5:A1を35重量%、B4を25重量%、C4を40重量%含有
D6:A1を40重量%、B5を30重量%、C5を30重量%含有
D7:A1を30重量%、B6を30重量%、C6を40重量%含有
(E)金属
E1:ステンレス(SUS304)。
【0065】
(2)炭素繊維の繊維長の測定
炭素繊維の繊維長の測定には、マイクロフォーカスX線透過透視装置(島津製作所製のSMX-1000 PLUS)を用いた。
【0066】
(3)振動減衰特性の測定
振動減衰特性は図5に示す試験方法により測定した。この方法はJIS G0602(1993年度)に基づくものである。具体的には、片端固定打撃加振法によるもので、測定条件を片持ち梁の突出し長さを100mmとし、加振位置を片持ち梁自由端側とし、加振方法をステップ弛緩加振として測定を行った。また、測定装置として、CCDレーザー変位計はキーエンス社製のLK-G30、FFTアナライザはエアブラウン社製のフォトンIIを用いた。さらに、試験片については、特許第5608818号公報の炭素繊維複合材料の製造方法により得られた厚さ1.0mmのシートを、厚さ1.0mm、幅20mm、長さ250mm のサイズに裁断して作製した。
【0067】
(4)損失係数および対数振動減衰率の算出
損失係数は下記式(1)により算出した。また、得られた損失係数に円周率πを乗じて対数振動減衰率を算出した。
【0068】
η=2×ln(tanθ)/√((2π)+[ln(tanθ)]) (1)
式中、ηは減衰振動率、θは図7に示すグラフの原点を通り各点を結ぶ直線の傾きである。なお、図7図6の減衰振動波形の極大値をプロットしたグラフであり、さらに詳しくは、図6に示す減衰自由振動波形から応答変位の極大値X0、X1・・・を読み取り、横軸にXk+1、縦軸にXkとしたグラフ、すなわち、点(X2,X1)、(X3,X2)、(X4,X3)をプロットしたグラフである。
【0069】
(5)評価試験
健聴者20名をパネラーとして、屋外に設置した評価用のスピーカーから音を流し、スピーカーから10m離れた場所で聞き取られた音に対して評価試験を行った。スピーカーから発せられた音が、はっきり良く聞こえる場合は◎(優)、聞こえるが明瞭でない場合は○(良)、聞こえる時と聞こえない時がある場合は△(可)、ほとんど聞こえないまたは全く聞こえない場合は×(不可)とした。
【0070】
使用したスピーカーはUSB音源マルチメディアスピーカー(サンワサプライ製 のMM-SPL10UBK)を用いて、スピーカーカバー、スピーカーコーン、ス
ピーカー筐体の素材を代えて評価した。なお、音量は常に一定とした。
【0071】
[実施例1]
上記複合材料D1を用いて、厚さ1.0mmのシートを作製した。得られたシー
トにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.25mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が65重量%、損失係数は0.054、また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の同一方向への配向は98%であった(表1)。
【0072】
上記シートを用いて、孔径が2mm、開口率が40%、ピッチが3mmの60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製し、さらにこれにPPフィルムを重ねて250℃で加熱し真空成形を行い、凸型の金型を用いΦ50mmの高さ10mmのドーム状のスピーカーカバーを得た。また、素材の中央部50%に、同心円に沿って炭素繊維が35%集中していた。この結果か開口率が61%まで広がった(表1)。
【0073】
評価用のスピーカーのカバーを上記パンチング材に代えて評価した。その結果、パネラー20人中20人が◎(優)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、錆びの発生は無く、貫通孔は埋まらなかった。さらに、図8に示すように、実施例1のスピーカーは、後述する比較例1に比べて早期に変位が減衰しており、振動が早期に抑制されている(表1)。
【0074】
以下、各実施例について、シート特性、後加工内容、スピーカー特性について表1に示す。
【0075】
[比較例1]
上記金属E1を用いて、厚さ1.0mmのシートを作製した。得られたシートの
損失係数は0.011であった(表2)。
【0076】
上記シートを用いて、孔径が2mm、開口率が40%、ピッチが3mmの60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製した(表2)。
【0077】
評価用のスピーカーのカバーをステンレス製の上記パンチング材に代えて評価した。その結果、パネラー20人中5人が△(可)であり、15人が×(不可)であった。また海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、錆びが発生し、貫通孔は全体の70%以上が錆びで埋まっていた。さらに、図9に示すように、比較例1のスピーカーは、変位が減衰するのに時間がかかり、実施例1に比べて振動の抑制効果は低い(表2)。
【0078】
以下、各比較例について、シート特性、後加工内容、スピーカー特性について表2に示す。
【0079】
[実施例2]
上記複合材料D2を用いて、厚さ0.3mmのシートを作製した。得られたシー
トにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.31mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が70重量%、損失係数は0.082であった。また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の同一方向への配向は97%であった。
【0080】
上記シートを250℃で加熱し真空成形してΦ50mmの高さ15mmのスピーカーコーン得られた。また、素材の中央部50%に、同心円に沿って炭素繊維が17%集中していた。
【0081】
スピーカーカバーを付けないで評価した。その結果、パネラー20人中20人が◎(優)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、スピーカーコーンの破れは発生しなかった。
【0082】
[比較例2]
上記第1の熱可塑性樹脂B1にガラス繊維を35%含む樹脂を用いて、厚さ1.
0mmのシートを射出成形で作製した。さらに、得られたシートを切削加工して0.3mmまで薄くした。最終的に得られたシートにおいて、損失係数は0.022であった。
【0083】
上記射出成形で得たシートを用いて真空成形によりスピーカーコーンを得ようとしたが、柔らかく得ることができなかった。そこで、厚さ1.0mmのΦ50mmのスピーカーコーンを射出成形で作製した。
【0084】
評価用のスピーカーにおいて、そのスピーカーのコーンを上記射出成形で得たスピーカーコーンに代えて、スピーカーカバーを付けないで評価した。その結果、パネラー20人中、4人が△(可)であり、16人が×(不可) であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、破れは発生しなかったが、小さな割れが発生した。なお、この小さな割れは射出成形時のウエルドによるものと考えられる。
【0085】
[実施例3]
上記複合材料D3を用いて、厚さ0.5mmのシートを作製した。得られたシー
トにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.45mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が68重量%、損失係数は0.040であった。また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の同一方向への配向は98%であった。
【0086】
上記シートを用いて、孔径が6.0mm、開口率が51%、ピッチが8.0mm の60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製した。さらにこれにPPフィルムを重ねて280℃真空成形を行い、Φ50mmの高さ10mmのドーム状のスーカーカバーを得た。また、素材の中央部50%に、同心円に沿って炭素繊維が37%集中していた。この結果か開口率が75%まで広がった。
【0087】
評価用のスピーカーのカバーを上記パンチング材に代えて評価した。その結果、パネラー20人中20人が◎(優)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、錆びの発生は無く、貫通孔は埋まらなかった。
【0088】
[比較例3]
上記第1の熱可塑性樹脂B2にガラス繊維を30%含む樹脂からなる厚さ1.0mmのシートを射出成形で作製した。さらに、得られたシートを切削加工して0.5mmまで薄くした。最終的に得られたシートにおいて、損失係数は0.013であった。
【0089】
上記シートを用いて、孔径が6.0mm、開口率が51%、ピッチが8.0mm の60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製しようとしたが、割れ、破れが発生してパンチング材を得ることができなかった。
【0090】
[実施例4]
上記複合材料D4を用いて、厚さ1.5mmのシートを作製した。得られたシー
トにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.2mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が71重量%、損失係数は0.045であった。また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の同一方向への配向は95%であった。
【0091】
上記シートを用いて、孔径が1.5mm、開口率が23%、ピッチが3.0mm の60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製した。さらにこれにPEフィルムを重ねて200℃で真空成形を行い、Φ50mmの高さ10mmのドーム状のスピーカーカバーを得た。また、素材の中央部50%に、同心円に沿って炭素繊維が20%集中していた。この結果か開口率が36%まで広がった。
【0092】
評価用のスピーカーのカバーを上記パンチング材に代えて評価した。その結果、パネラー20人中20人が◎(優)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、錆びの発生は無く、貫通孔は埋まらなかった。
【0093】
[比較例4]
上記第1の熱可塑性樹脂B3にガラス繊維を25% 含む樹脂からなる厚さ1.5m m のシートを射出成形で作製した。得られたシートにおいて、損失係数は0.020であった。
【0094】
上記シートを用いて、孔径が1.5mm、開口率が23%、ピッチが3.0mmの60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製しようとしたが、割れ、破れが発生してパンチング材を得ることができなかった。
【0095】
[実施例5]
上記複合材料D5を用いて、厚さ1.0mmのシートを作製した。得られたシー
トにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.2mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が66重量%、損失係数0.115であった。また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の同一方向への配向は88%であった。
【0096】
上記シートを用いて、孔径2.0mm、開口率が40%、ピッチ3.0mmの60° 千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製した。さらにこれにPPフィルムを重ねて200℃で真空成形を行い、Φ50mmの高さ10mmのドーム状のスピーカーカバーを得た。また、素材の中央部50%に、同心円に沿って炭素繊維が39%集中していた。この結果か開口率が48%まで広がった。
【0097】
評価用のスピーカーのカバーを上記熱可塑性炭素繊維樹脂基材のパンチング材に代えて評価した。その結果、パネラー20人中20人が◎(優)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、錆びの発生は無く、孔も埋まらなかった。
【0098】
[比較例5]
上記第1の熱可塑性樹脂B4にガラス繊維を35%含む樹脂からなる厚さ1.0mmのシートを射出成形で作製した。得られたシートにおいて、損失係数は0.021であった。
【0099】
上記シートを用いて、孔径2.0mm、開口率が40%、ピッチ3.0mmの60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製しようとしたが、割れ、破れが発生してパンチング材を得ることができなかった。
【0100】
[実施例6]
上記複合材料D6を用いて、厚さ0.8mmのシートを作製した。得られたシー
トにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.23mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が80重量%、損失係数0.026であった。また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の同一方向への配向は97%であった。
【0101】
上記シートを用いて、孔径が3.0mm、開口率が51%、ピッチが4.0mmの60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製した。さらにこれにPPフィルムを重ねて300℃で真空成形を行い、Φ50mmの高さ10mmのドーム状のスピーカーカバーを得た。また、素材の中央部50%に、同心円に沿って炭素繊維が30%集中していた。この結果、開口率が55%まで広がった。
【0102】
評価用のスピーカーのカバーを上記パンチング材に代えて評価した。その結果、パネラー20人中、18人が◎(優)であり、2人が○(良)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、錆びの発生は無く、貫通孔は埋まらなかった。
【0103】
[比較例6]
上記第1の熱可塑性樹脂B5にガラス繊維を40%含む樹脂からなる厚さ1.5mmのシートを射出成形で作製した。得られたシートにおいて損失係数は0.012であった。
【0104】
上記シートを用いて、孔径が3.0mm、開口率が51%、ピッチが4.0mmの60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製しようとしたが、破れが発生
してパンチング材を得ることができなかった。
【0105】
[実施例7]
上記複合材料D7を用いて、厚さ0.5mmのシートを作製した。得られたシー
トにおいて、炭素繊維の平均繊維長は0.32mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維の割合が76重量%、損失係数は0.041であった。また、炭素繊維の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維の同一方向への配向は91%であった。
【0106】
上記シートを200℃に加熱し真空成形して得られたΦ50mmの高さ15mmのスピーカーコーンは、素材の中央部50%に、かつ紡錘状に沿って炭素繊維が26%集中していた。
【0107】
得られたスピーカーコーンをスピーカーカバーを付けないで評価した。その結果、パネラー20人中、18人が◎(優)であり、2人が○(良)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、割れや変色はなかった。
【0108】
[比較例7]
上記第1の熱可塑性樹脂B6にガラス繊維を40%含む樹脂を用いて、厚さ2.0mmからなるΦ50mmの高さ15mmのスピーカーコーンを、250℃にて射出成形で作製した。
【0109】
なお、同時に平坦な厚さ2.0mmのシートを作成し、損失係数を測定した結果、0.0047であった。
【0110】
評価用のスピーカーにおいて、そのスピーカーのコーンを上記射出成形で得たスピーカーコーンに代えて、スピーカーカバーを付けないで評価した。その結果、パネラー20人中、17人が△(可)であり、3名が×(不可)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、割れはなかったが黄色く変色した。
【0111】
[実施例8]
実施例6と同様にシートを作製した。
【0112】
評価用のスピーカーのコーンを、上記シートを300℃に加熱し真空成形して得られたΦ50mmの高さ15mmのスピーカーコーンが得られた。また、素材の中央部50%に、同心円に沿って炭素繊維が18%集中していた。
【0113】
評価用のスピーカーにおいて、そのスピーカーのコーンを代えて、スピーカーカバーを付けないで評価した。その結果、パネラー20人中、20人が◎(優)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、スピーカーコーンに破れは発生しなかった。
【0114】
[比較例8]
比較例6で得られたシートを用いて真空成形し、スピーカーコーンを得ようとしたが、柔らかく得ることができなかった。そこで、比較例6と同じ原料にて300℃で射出成形により得られたスピーカーコーンを得た。厚さ1.5mmのΦ50mmのスピーカーコーンを射出成形で作製した。
【0115】
評価用のスピーカーにおいて、そのスピーカーのコーンを上記射出成形で得たスピーカーコーンに代えて、スピーカーカバーを付けないで評価した。その結果、パネラー20人中、2人が△(可)であり、18人が×(不可)であった。また、海から100m付近の沿岸部において長期間使用した結果、破れは発生しなかったが、小さな割れが発生した。なお、この小さな割れは射出成形時のウエルドによるものと考えられる。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【符号の説明】
【0118】
1 スピーカーカバー
2 熱可塑性炭素繊維樹脂基材
3 貫通孔
4 炭素繊維
5 熱可塑性樹脂
11 スピーカーコーン
25 振動減衰測定機
26 固定治具
27 試験片
28 レーザー変位計
29 AMP
30 FTTアナライザイー
31 PC
41 変位
42 時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11