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特開2022-187538非破壊検査システムおよび非破壊検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187538
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】非破壊検査システムおよび非破壊検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/10 20180101AFI20221213BHJP
   G01N 23/06 20180101ALI20221213BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20221213BHJP
   G01N 23/20 20180101ALI20221213BHJP
【FI】
G01N23/10
G01N23/06
G01N23/04
G01N23/20 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095564
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】久米 直人
(72)【発明者】
【氏名】藤牧 拓郎
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA08
2G001BA11
2G001BA14
2G001CA01
2G001CA08
2G001DA06
2G001FA04
2G001FA09
2G001KA06
2G001LA10
(57)【要約】
【課題】物質の種類の識別能力と分解能の双方を高めることができる非破壊検査技術を提供する。
【解決手段】非破壊検査システム1は、X線発生装置4で発生させたX線Rの強度とX線検出器5で検出されたX線Rの強度との差に基づいて、X線Rの透過率を解析するX線透過率解析部15と、透過率の分布に基づいて、対象物2に含まれる物体3の形状毎に分けられる領域である物質領域27を判定する物質領域判定部16と、それぞれのミュオン軌跡検出器6,7を通過したミュオンμの通過座標および通過角度を解析するミュオン通過座標解析部17と、通過座標および通過角度に基づいて、物質領域27を通過したミュオンμの軌跡を抽出するミュオン軌跡データ抽出部18と、軌跡に基づいて、物質領域27で生じたミュオン散乱の散乱角θを解析するミュオン散乱解析部19を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象である対象物に照射するX線を発生させるX線発生装置と、
前記対象物を透過した前記X線を検出するX線検出器と、
前記X線発生装置で発生させた前記X線の強度と前記X線検出器で検出された前記X線の強度との差に基づいて、前記X線の透過率を解析するX線透過率解析部と、
前記透過率の分布に基づいて、前記対象物に含まれる物体の形状毎に分けられる領域である物質領域を判定する物質領域判定部と、
ミュオンを検出し、かつ前記対象物を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器と、
それぞれの前記ミュオン軌跡検出器を通過した前記ミュオンの通過座標および通過角度を解析するミュオン通過座標解析部と、
前記通過座標および前記通過角度に基づいて、前記物質領域を通過した前記ミュオンの軌跡を抽出するミュオン軌跡データ抽出部と、
前記軌跡に基づいて、前記物質領域で生じたミュオン散乱の散乱角を解析するミュオン散乱解析部と、
前記散乱角に基づいて、前記物質領域に存在する物質の種類を識別可能な出力用情報を生成する出力情報生成部と、
前記出力用情報を出力する出力部と、
を備える、
非破壊検査システム。
【請求項2】
前記出力情報生成部は、前記物質領域に存在する前記物質の種類を判定する物質判定部を備え、
少なくとも1つの前記出力用情報は、前記物質の種類の判定結果を示す情報である、
請求項1に記載の非破壊検査システム。
【請求項3】
前記出力情報生成部は、前記対象物の透過画像を生成する透過画像生成部を備え、
少なくとも1つの前記出力用情報は、前記対象物の透過画像である、
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査システム。
【請求項4】
前記物質領域判定部は、
前記X線透過率解析部で解析された前記透過率の分布から、前記透過率が一定の範囲の値に収まる領域を1つの前記物質領域とし、
前記X線の照射により得られる前記対象物の透過画像を複数の前記物質領域に分ける、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非破壊検査システム。
【請求項5】
前記ミュオン軌跡データ抽出部は、
それぞれの前記ミュオン軌跡検出器で一定の時間内に検出された前記ミュオンの前記軌跡を同一の前記ミュオンによるものとし、
前記対象物に対する前記ミュオンの入射時の前記軌跡および出射時の前記軌跡を1つのデータセットとして扱う、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非破壊検査システム。
【請求項6】
前記ミュオン軌跡データ抽出部は、前記ミュオンの前記通過座標および前記通過角度に基づいて、前記ミュオンが通過した前記ミュオン軌跡検出器のそれぞれから延びる仮想の直線を前記軌跡として生成し、
前記ミュオン散乱解析部は、前記直線の交点を前記ミュオン散乱が生じた座標とし、前記散乱角の解析を行う、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非破壊検査システム。
【請求項7】
前記X線発生装置および前記X線検出器を用いたX線検査と前記ミュオン軌跡検出器を用いたミュオン検査とが、検査場所と検査時間の少なくとも一方が異なる条件で行われるものであり、
前記対象物に対して相対的に固定される位置であって前記X線検査と前記ミュオン検査で共通して用いられる位置に設けられる基準部を備え、
前記ミュオン軌跡データ抽出部は、前記X線検査時の前記対象物の座標と前記ミュオン検査時の前記対象物の座標とを、前記基準部の座標に基づいて補正する、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非破壊検査システム。
【請求項8】
前記X線発生装置は、それぞれ異なる複数の方向から前記対象物に前記X線を照射し、
前記X線検出器は、それぞれ異なる複数の方向から前記対象物を透過した前記X線を検出する、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の非破壊検査システム。
【請求項9】
前記X線発生装置は、それぞれ異なるエネルギーを有する前記X線を前記対象物に照射し、
前記物質領域判定部は、前記エネルギー毎に異なる前記X線の前記透過率に基づいて、前記物質領域を判定する、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の非破壊検査システム。
【請求項10】
前記ミュオン散乱解析部は、前記軌跡に基づいて、前記物質領域で生じた前記ミュオン散乱の前記散乱角の統計値を解析する、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の非破壊検査システム。
【請求項11】
前記ミュオン軌跡データ抽出部は、1つの前記物質領域を通過した複数の前記ミュオンの前記軌跡を抽出し、
前記ミュオン散乱解析部は、複数の前記ミュオンの前記軌跡から、それぞれの前記ミュオンの前記散乱角を解析するときに、前記散乱角の平均値、中央値、分散、または任意の値のうちの少なくとも1つの前記統計値を算出する、
請求項10に記載の非破壊検査システム。
【請求項12】
前記出力情報生成部は、前記統計値に対応して予め設定された前記物質を特定し、前記物質領域に存在する前記物質の種類を判定する物質判定部を備える、
請求項10または請求項11に記載の非破壊検査システム。
【請求項13】
X線発生装置が、検査対象である対象物に照射するX線を発生させるステップと、
X線検出器が、前記対象物を透過した前記X線を検出するステップと、
X線透過率解析部が、前記X線発生装置で発生させた前記X線の強度と前記X線検出器で検出された前記X線の強度との差に基づいて、前記X線の透過率を解析するステップと、
物質領域判定部が、前記透過率の分布に基づいて、前記対象物に含まれる物体の形状毎に分けられる領域である物質領域を判定するステップと、
前記対象物を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器が、ミュオンを検出するステップと、
ミュオン通過座標解析部が、それぞれの前記ミュオン軌跡検出器を通過した前記ミュオンの通過座標および通過角度を解析するステップと、
ミュオン軌跡データ抽出部が、前記通過座標および前記通過角度に基づいて、前記物質領域を通過した前記ミュオンの軌跡を抽出するステップと、
ミュオン散乱解析部が、前記軌跡に基づいて、前記物質領域で生じたミュオン散乱の散乱角を解析するステップと、
出力情報生成部が、前記散乱角に基づいて、前記物質領域に存在する物質の種類を識別可能な出力用情報を生成するステップと、
出力部が、前記出力用情報を出力するステップと、
を含む、
非破壊検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非破壊検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
国際的な物流においては、様々な検査が行われている。例えば、輸送される貨物中に含まれる物品が申請された明細書に記載の内容と整合しているか否かの確認、または違法な物質の有無などの確認が行われている。特に、コンテナなどの輸送貨物の内部を開封することなく検査を行う代表的な非破壊検査技術として、X線を用いたラジオグラフィが広く行われている。この技術では、測定対象物(サンプル)にX線を照射し、物質毎に異なるX線の透過率の差に基づいて、測定対象物の2次元の透過画像を作成する。そして、この透過画像を検査官が確認することにより、内部の物品の照合を行っている。また、核物質または放射性物質を見つけることを目的として、ガンマ線または中性子線の検出器が併用される場合もある。
【0003】
近年、その他の検査方法として、宇宙線ミュオンを用いた貨物の検査方法が開発されている。この方法は、ミュオン散乱法またはミュオントモグラフィと称され、上空から降り注ぐ天然の高エネルギー粒子である宇宙線ミュオンを利用するものである。このミュオンが通過した物質中で生じるミュオン散乱を検出することにより、貨物中の物質の分布または種類を判定することができる。この方法は、貨物中に隠蔽されたウランなどの核物質を検出することを目的とし、2000年代に米国ロスアラモス国立研究所で開発された。
【0004】
ミュオントモグラフィの利点としては、X線と異なり人工的な線源が不要であり、かつ天然の粒子を利用するため、被ばく対策および安全にかかわる制限に束縛されない。また、宇宙線ミュオンは、数GeVという高いエネルギーを有するため、高い透過率を有する。さらに、物質毎にミュオンの散乱角が異なるという特徴を利用した物質の種類の識別能力の高さが挙げられる。
【0005】
物質の透過率と物質の種類の識別能力については、ミュオントモグラフィの方がX線ラジオグラフィよりも優れた性能を有している。しかし、ミュオントモグラフィの欠点としては、空間分解能が低いため、得られる透過画像の精度がX線ラジオグラフィよりも低いことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-161485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、物質の種類の識別能力と分解能の双方を高めることができる非破壊検査技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る非破壊検査システムは、検査対象である対象物に照射するX線を発生させるX線発生装置と、前記対象物を透過した前記X線を検出するX線検出器と、前記X線発生装置で発生させた前記X線の強度と前記X線検出器で検出された前記X線の強度との差に基づいて、前記X線の透過率を解析するX線透過率解析部と、前記透過率の分布に基づいて、前記対象物に含まれる物体の形状毎に分けられる領域である物質領域を判定する物質領域判定部と、ミュオンを検出し、かつ前記対象物を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器と、それぞれの前記ミュオン軌跡検出器を通過した前記ミュオンの通過座標および通過角度を解析するミュオン通過座標解析部と、前記通過座標および前記通過角度に基づいて、前記物質領域を通過した前記ミュオンの軌跡を抽出するミュオン軌跡データ抽出部と、前記軌跡に基づいて、前記物質領域で生じたミュオン散乱の散乱角を解析するミュオン散乱解析部と、前記散乱角に基づいて、前記物質領域に存在する物質の種類を識別可能な出力用情報を生成する出力情報生成部と、前記出力用情報を出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態により、物質の種類の識別能力と分解能の双方を高めることができる非破壊検査技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の非破壊検査システムを示す構成図。
図2】非破壊検査システムを示すブロック図。
図3】非破壊検査方法を示すフローチャート。
図4】サンプルの配置形態を示す説明図。
図5】X線による透過画像を示す説明図。
図6】X線による物質領域の判定結果を示す説明図。
図7】ミュオンによる透過画像を示す説明図。
図8】出力情報生成処理の流れの一例を示す説明図。
図9】サンプルの測定結果を示す説明図。
図10】ミュオンの散乱角を示す説明図。
図11】X線透過率とミュオン散乱の強度の比率を示すグラフ。
図12】第2実施形態のX線測定系を示す構成図。
図13】第2実施形態のミュオン測定系を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、非破壊検査システムおよび非破壊検査方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について図1から図11を用いて説明する。
【0012】
図1の符号1は、第1実施形態の非破壊検査システムである。この非破壊検査システム1は、対象物2を破壊することなく検査するためのものである。例えば、対象物2に所定の物体3が存在しているか否かについて検査するために用いられる。検査対象である対象物2としては、コンテナを輸送するトラックなどの車両を例示する。なお、対象物2は、航空機または船舶で輸送されるコンテナ、人力で持ち運びが可能な荷物などであっても良い。
【0013】
本実施形態の非破壊検査システム1は、X線を用いたラジオグラフィ(X線検査)とミュオンを用いたミュオントモグラフィ(ミュオン検査)の双方を用いて対象物2の検査を行う。そして、双方の検査結果を統合することで最終的な判定結果を得る。この非破壊検査システム1は、ラジオグラフィと同等の画像分解能を有しながら、ミュオントモグラフィと同様の物質識別能力を有する。
【0014】
なお、非破壊検査システム1は、少なくとも物質の種類を識別可能であれば良い。また、物質の種類には、物質の元素、物質の組成、物質に含まれる各元素の割合、物質の密度、物質量などが含まれる。
【0015】
ミュオン検査では、荷電粒子であるミュオンμを用いる。ミュオンμは、主に宇宙線として存在する。ミュオンμは、宇宙から地球に入射する一次宇宙線が地球の大気と反応することにより生じる二次宇宙線の一種である。ミュオンμは、正または負の電荷を持ち、平均3~4GeVの高いエネルギーを持つため、高い透過力を有する。また、ミュオンμは、加速器を用いて人工的に発生させることもできる。本実施形態では、宇宙線のミュオンμを用いる形態を例示するが、人工的に発生させたミュオンμを用いても良い。
【0016】
非破壊検査システム1は、X線発生装置4とX線検出器5と第1ミュオン軌跡検出器6と第2ミュオン軌跡検出器7と解析用コンピュータ8とを備える。
【0017】
X線発生装置4は、対象物2に照射するX線Rを発生させる装置である。また、X線検出器5は、対象物2を透過したX線Rを検出する装置である。第1実施形態では、X線発生装置4とX線検出器5とが、対象物2を挟んで互いに向かい合う位置に設けられる。例えば、対象物2を水平方向に挟んで互いに向かい合う位置に設けられる。X線発生装置4は、一定のエネルギーで同一の方向から対象物2にX線Rを照射する。
【0018】
第1ミュオン軌跡検出器6と第2ミュオン軌跡検出器7は、対象物2を挟んで互いに向かい合う位置に設けられる。例えば、対象物2を垂直方向に挟んで互いに向かい合う位置に設けられる。これら1組のミュオン軌跡検出器6,7は、自然界に存在する宇宙線であるミュオンμを検出する装置である。
【0019】
また、X線発生装置4とX線検出器5とミュオン軌跡検出器6,7は、厚いコンクリートなどの遮蔽部材9で覆われた検査室の内部に設置される。対象物2は、検査室の内部に配置される。遮蔽部材9によりX線Rが遮蔽されるため、周辺に居る人員の被ばくを防ぐことができる。なお、ミュオンμは、X線Rよりも高い透過率を有するため、遮蔽部材9を透過する。
【0020】
第1実施形態では、X線発生装置4およびX線検出器5と、1組のミュオン軌跡検出器6,7とが、同じ検査場所に設置されており、X線検査とミュオン検査とを同時に行う態様を例示する。つまり、X線検査とミュオン検査とが、検査場所と検査時間が同じ条件で行われる。
【0021】
次に、非破壊検査システム1のシステム構成を図2に示すブロック図を参照して説明する。
【0022】
X線発生装置4とX線検出器5とミュオン軌跡検出器6,7は、解析用コンピュータ8に接続され、この解析用コンピュータ8により制御される。
【0023】
解析用コンピュータ8は、入力部10と出力部11と通信部12と記憶部13とメイン制御部14とを備える。この解析用コンピュータ8は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の非破壊検査方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0024】
解析用コンピュータ8の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータを用いて1つの解析用コンピュータ8を実現しても良い。例えば、X線発生装置4とX線検出器5を制御するコンピュータと、ミュオン軌跡検出器6,7を制御するコンピュータと、データを解析するためのコンピュータとをそれぞれ個別に設けても良い。
【0025】
入力部10には、解析用コンピュータ8を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部10には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部10に入力される。
【0026】
出力部11は、所定の情報の出力を行う。解析用コンピュータ8には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部11は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体であっても良いし、一体であっても良い。
【0027】
なお、解析用コンピュータ8は、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイに表示される画像の制御を行っても良い。その場合には、他のコンピュータが備える出力部11が、本実施形態の解析結果の出力の制御を行っても良い。
【0028】
なお、本実施形態では、画像の表示を行う装置としてディスプレイを例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、ヘッドマウントディスプレイまたはプロジェクタを用いて情報の表示を行っても良い。さらに、紙媒体に情報を印字するプリンタをディスプレイの替りとして用いても良い。つまり、出力部11が制御する対象として、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタまたはプリンタが含まれても良い。
【0029】
通信部12は、インターネットなどの通信回線を介して他のコンピュータと通信を行う。なお、本実施形態では、解析用コンピュータ8と他のコンピュータがインターネットを介して互いに接続されているが、その他の態様であっても良い。例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されても良い。
【0030】
記憶部13は、非破壊検査を行うときに必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部13は、ミュオン散乱の散乱角の統計値と、それぞれの統計値に対応する物質とを蓄積したデータベースを備える。このデータベースは、メモリ、HDDまたはクラウドに記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。
【0031】
メイン制御部14は、非破壊検査システム1を統括的に制御する。このメイン制御部14は、X線透過率解析部15と物質領域判定部16とミュオン通過座標解析部17とミュオン軌跡データ抽出部18とミュオン散乱解析部19と出力情報生成部20とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。また、出力情報生成部20は、物質判定部21と透過画像生成部22とを備える。
【0032】
次に、非破壊検査システム1を用いて実行される非破壊検査方法について図3のフローチャートを用いて説明する。なお、前述のブロック図(図2)を適宜参照する。さらに、図4から図11を適宜参照する。
【0033】
ここで、図5図6図7図9に示す画像は、発明者らがモンテカルロシミュレーションを実行することにより作成した画像である。例えば、図4に示すように、シミュレーション上の所定の空間23に、所定のサンプルとしてそれぞれ異なる種類の物質で構成される3種類のブロック24,25,26が配置されているものとする。ここでは、鉄のブロック24と鉛のブロック25と金のブロック26が配置されている。そして、シミュレーションにより、X線の発生、透過、減衰を解析し、この解析結果からX線透過画像(図5)を作成している。また、ミュオンの透過、散乱を解析し、この解析結果からミュオン透過画像(図7)を作成している。
【0034】
図3に示すように、まず、ステップS1において、X線発生装置4は、検査対象である対象物2に照射するX線Rを発生させる。
【0035】
次のステップS2において、X線検出器5は、対象物2を透過したX線Rを検出する。ここで、X線透過画像(図5)が得られる。
【0036】
次のステップS3において、X線透過率解析部15は、X線発生装置4で発生させたX線Rの強度とX線検出器5で検出されたX線Rの強度との差に基づいて、X線Rの透過率を解析する。
【0037】
次のステップS4において、物質領域判定部16は、X線透過率解析部15で解析された透過率の分布に基づいて、対象物2に含まれる物体3の形状毎に分けられる領域である物質領域27(図6)を判定する。
【0038】
ここで、物質領域判定部16は、X線透過率解析部15で解析された透過率の分布から、透過率が一定の範囲の値に収まる領域を1つの物質領域27とし、X線Rの照射により得られる対象物2のX線透過画像(図5)を複数の物質領域27(図6)に分ける。このようにすれば、透過率毎に形成される物体3の形状を透過画像に現すことができる。
【0039】
例えば、物体3が、鉄のブロック24と鉛のブロック25と金のブロック26であるとする(図4)。ここで、X線Rの透過率が高い部分の明度を低くし、X線Rの透過率が低い部分の明度を高くすると、図5に示すX線透過画像が得られる。このX線透過画像では、それぞれのブロック24,25,26の形状が明確に写っている。
【0040】
X線RによるX線検査は、画像の分解能が高いため、物体3の形状を詳細に測定することができる。一方、一定以上の厚さの金属製の物体3については、X線Rの透過率が一定となるため、その物体を構成する物質の種類を識別することができない。そこで、X線検査は、物質の種類を判定することには利用せずに、物質の形状を判定するために利用する。
【0041】
物質領域判定部16は、例えば、一定の透過率ごとに物質を識別する線を引くことで、それぞれのブロック24,25,26が存在する領域の識別を行う。例えば、図6に示すように、ブロック24,25,26を設置していない領域であって空気(空間23)が存在する領域と、鉄のブロック24が存在する領域と、鉛のブロック25が存在する領域と、金のブロック26が存在する領域の4通りの物質領域27が存在するものとする。ここで、それぞれの物質領域27の境界に線を引くことで、それぞれのブロック24,25,26の形状が現れる。つまり、物質領域判定部16は、それぞれの物質領域27を判定することができる。ただし、X線検査では、4種類の物質領域27が、それぞれどのような物質に対応するかについては判定できない。そこで、ミュオン検査を利用する。
【0042】
図3に示すように、ステップS1からS4と並列に、ステップS5からS6が実行される。まず、ステップS5において、対象物2を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた1組のミュオン軌跡検出器6,7が、ミュオンμを検出する。
【0043】
次のステップS6において、ミュオン通過座標解析部17は、それぞれのミュオン軌跡検出器6,7を通過したミュオンμの通過座標および通過角度を解析する。
【0044】
特に図示はしないが、それぞれのミュオン軌跡検出器6,7は、円筒形状で軸方向に延びる複数本のドリフトチューブを有する。それぞれのドリフトチューブが平面的に並べられるとともに、この平面的に並べられたドリフトチューブがさらに積層され、1つのユニットが形成される。
【0045】
例えば、それぞれのドリフトチューブには、ミュオンにより電離されるガスが封入されている。ミュオンがドリフトチューブの内部を通過して、ガスの原子を電離させてイオンが生ずると、このイオンがドリフトチューブ内の芯線に移動し、パルス状に電流が流れる。この電流によりミュオンの通過を検出することができる。なお、電流が最短距離を流れる性質を利用し、ドリフトチューブの軸方向のいずれの位置で電離が発生したかを検出することができる。
【0046】
第1ミュオン軌跡検出器6と第2ミュオン軌跡検出器7は、それぞれが同一構成のユニットとなっている。例えば、図10に示すように、第1ミュオン軌跡検出器6をミュオンμの入射側とし、第2ミュオン軌跡検出器7をミュオンμの出射側として説明する。なお、第2ミュオン軌跡検出器7をミュオンμの入射側とし、第1ミュオン軌跡検出器6をミュオンμの出射側であっても良い。
【0047】
ミュオン通過座標解析部17は、第1ミュオン軌跡検出器6における入射時のミュオンμの通過座標および通過角度を示す入射ベクトル28を解析する。また、第2ミュオン軌跡検出器7における出射時のミュオンμの通過座標および通過角度を示す出射ベクトル29を解析する。
【0048】
図3に示すように、ステップS4およびS6の後に進むステップS7において、ミュオン軌跡データ抽出部18は、ミュオン通過座標解析部17が解析したミュオンμの通過座標および通過角度に基づいて、物質領域27(図6)を通過したミュオンμの軌跡を抽出する。
【0049】
ここで、ミュオン軌跡データ抽出部18は、それぞれのミュオン軌跡検出器6,7で一定の時間内(例えば、1マイクロ秒以下の範囲内)に検出されたミュオンμの軌跡を同一のミュオンμによるものとし、対象物2に対するミュオンμの入射時の軌跡(入射ベクトル28)および出射時の軌跡(出射ベクトル29)を1つのデータセットとして扱う(図10)。このようにすれば、ミュオンμを用いた検査に必要なデータの処理が行い易くなる。
【0050】
例えば、第1ミュオン軌跡検出器6を通過したミュオンμの入射ベクトル28は、3次元座標(Px,Py,Pz)および3次元ベクトル(Vx,Vy,Vz)の6つのデータを有する。また、第2ミュオン軌跡検出器7を通過したミュオンμの出射ベクトル29も同様に6つのデータを有する。ここで、ミュオン軌跡検出器6,7は、2基で1組のセットとなっており、一定の時間内で同時に検出されたミュオンμを、同一のミュオンμとみなす。従って、1つのミュオンμを検出する度に、第1ミュオン軌跡検出器6で検出された6つのデータ(Px1,Py1,Pz1,Vx1,Vy1,Vz1)と、第2ミュオン軌跡検出器7で検出された6つのデータ(Px2,Py2,Pz2,Vx2,Vy2,Vz2)の合計12個のデータセットが記録される。このデータセットを用いて、ミュオンμが散乱した座標を得ることができる。
【0051】
また、ミュオン軌跡データ抽出部18は、ミュオンμの通過座標および通過角度に基づいて、ミュオンμが通過したミュオン軌跡検出器6,7のそれぞれから延びる仮想の直線30,31を軌跡として生成する。このようにすれば、ミュオン散乱が生じた座標を特定する処理が行い易くなる。
【0052】
例えば、図10に示すように、入射ベクトル28の方向を延長した仮想の直線30と、出射ベクトル29の方向を延長した仮想の直線31とが交わる位置を特定する。この位置が、ミュオン散乱が生じた座標32を示している。そして、仮想の直線30,31同士がなす角度(軌跡の差分)が、ミュオンμの進行方向が変化したときの角度であり、ミュオンμの散乱角θである。散乱角θは、所謂ミュオンμの散乱の大きさである。
【0053】
図3に示すように、次のステップS8において、ミュオン散乱解析部19は、ミュオンμの軌跡に基づいて、物質領域27で生じたミュオン散乱の散乱角θを解析する。ここで、ミュオン散乱解析部19は、仮想の直線30,31同士の交点をミュオン散乱が生じた座標32とし、ミュオンμの散乱角θの解析を行う。
【0054】
また、ミュオン散乱解析部19は、それぞれの座標位置について、複数のミュオンμによる散乱角θの結果を蓄積して保存する。この蓄積した結果を統計した値を、ミュオンμの散乱が発生した座標32における散乱角θとして解析を行う。つまり、ミュオン散乱解析部19は、ミュオンμの軌跡に基づいて、物質領域27で生じたミュオン散乱の散乱角θの統計値を解析する。このようにすれば、散乱角θの統計値に基づく定量的な解析を行うことができる。
【0055】
例えば、ミュオン軌跡データ抽出部18が、所定の1つの物質領域27を通過した複数のミュオンμの軌跡を抽出した場合において、ミュオン散乱解析部19は、複数のミュオンμの軌跡から、それぞれのミュオンμの散乱角θを解析するときに、散乱角θの平均値、中央値、分散、または任意の値のうちの少なくとも1つの統計値を算出する。このようにすれば、散乱角θに基づく解析の精度を向上させることができる。なお、任意の値は、ユーザが任意に設定できる値である。例えば、散乱角θの60%の値、または、散乱角θの80%の値などを統計値として用いても良い。なお、散乱角θの統計値と、それぞれの統計値に対応する物質の種類とを示すデータが、記憶部13のデータベースに予め蓄積されている。
【0056】
次のステップS9において、出力情報生成部20は、出力用情報の生成処理を実行する。この生成処理は、散乱角θに基づいて、物質領域27に存在する物質の種類を識別可能な出力用情報を生成するものである。
【0057】
例えば、出力情報生成部20の物質判定部21は、物質領域27に存在する物質の種類を判定する。この場合において、出力用情報は、物質の種類の判定結果を示す情報である。このようにすれば、物質の種類の判定を自動的に行うことができる。判定結果は、文章で示しても良いし、所定のグラフで示しても良い。さらに、所定の警告を出力しても良い。例えば、物質の種類がウランなどの核物質または爆薬などの危険物である場合に、所定の警告を出力しても良い。
【0058】
また、出力情報生成部20の物質判定部21は、記憶部13のデータベースを参照し、統計値に対応して予め設定された物質を特定し、物質領域27に存在する物質の種類を判定する。このようにすれば、物質の種類の判定を自動的に行うときの精度が向上する。
【0059】
また、出力情報生成部20の透過画像生成部22は、対象物2の透過画像(図9)を生成する。この場合において、出力用情報は、対象物2の透過画像である。このようにすれば、対象物2の透過画像に基づいてユーザが物質の種類の判定を行うことができる。さらに、対象物2の透過画像では、対象物2に含まれる物体3の形状が明瞭に写るため、物体3が如何なる物であるかをユーザが認識し易くなる。
【0060】
例えば、図7に示すように、ミュオン検査により取得したミュオン透過画像は、X線透過画像(図5)と比較して画像分解能(空間分解能)が低い。そのため、それぞれのブロック24,25,26の形状の輪郭がぼやけた画像となる。一方、ミュオン散乱は、物質の種類に応じて、その散乱角θが変化する。そのため、X線の透過率を用いて物質を識別する場合と比較して、物質毎の違いをより明確に取得することができる。
【0061】
ミュオン散乱の散乱角θは、以下の数式1に示される。ここで、物質の原子番号に固有の放射長Xに依存して散乱角θが変化する。なお、pは、ミュオンの運動量である。βcは、ミュオンの速度である。zは、ミュオンの電荷である。xは、ミュオンが物質中を通過する距離である。
【0062】
【数1】
【0063】
放射長Xは、物質に応じて異なるため、解析された散乱角θから、その散乱が起きた座標32に存在する物質を推定することができる。
【0064】
また、ミュオン散乱の大きさと、物質の種類の関係は、数式1で示した通りである。この数式1を用いて、散乱角θの大きさから、物質の種類に対するXの値を計算することで、物質領域27に存在する物質を推定することができる。
【0065】
ここで、X線とミュオン散乱の物質識別性能の違いを比較する。図11は、X線透過率とミュオン散乱の強度の比率を示すグラフである。このグラフでは、鉄を基準とし、鉛と金の場合のX線透過率とミュオン散乱の強度の比率を示している。
【0066】
X線透過率は、鉄を基準とした場合に、鉛および金で差分が殆ど無い。これに対して、ミュオン散乱は、鉛が鉄の1.5倍であり、金が鉄の1.7倍である。つまり、ミュオン散乱を用いた方が、X線透過率を用いる場合よりも、明確に物質毎の差分が生じ、物質の識別ができることが示されている。
【0067】
図8は、出力情報生成処理の流れの一例を示す。この例では、物質領域27に対するミュオンの散乱角θの抽出手順を示している。
【0068】
例えば、X線検査で得られたX線透過画像33と、ミュオン検査で得られたミュオン透過画像34とを用いる。まず、X線透過画像33に基づいて、それぞれの物質領域27を判定し、物質の種類を判定する対象となる物質領域27を設定する。
【0069】
次に、ミュオン透過画像34から、設定された物質領域27に対応するミュオン散乱のみを特定し、そのミュオン散乱の散乱角θを抽出し、その抽出結果35を得る。そして、抽出された散乱角θの統計値の計算を行い、物質領域27の散乱角θの測定結果36を得る。この手順を実行することにより、X線検査と同等の画像分解能を維持したまま、物質領域27のミュオンの散乱角θを解析することができる。
【0070】
この抽出手順で得られる測定結果36では、散乱角θの統計値に基づいて、物質領域27の明度が平均化される。例えば、図9に示すように、物質領域27に存在する物質の種類毎に色分けされたブロック24,25,26(対象物2)の透過画像を生成することができる。つまり、対象物2の透過画像では、物質領域27に存在する物質の種類毎に異なる態様で表示される。この透過画像の明度の違いに基づいて、ユーザが物質の種類の判定を行うことができる。さらに、物質判定部21が判定を自動的に行っても良い。
【0071】
なお、従来技術のミュオン散乱解析では、ミュオン検査による透過画像の1ピクセルごとに、ミュオン散乱角の平均値を計算するため、統計量が少ない場合には、統計誤差が大きくなってしまうという課題がある。一方、本実施形態では、X線を用いて特定した物質領域全体のミュオン散乱角の平均値を用いるため、統計誤差を低減することができる。
【0072】
図3に示すように、次のステップS10において、出力部11は、出力用情報を出力する。そして、非破壊検査方法を終了する。なお、以上のステップは、非破壊検査方法に含まれる少なくとも一部であり、他のステップが非破壊検査方法に含まれていても良い。
【0073】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0074】
なお、第1実施形態では、X線発生装置4が一定のエネルギーで対象物2にX線Rを照射しているが、その他の態様であっても良い。例えば、X線発生装置4が対象物2に照射するX線Rのエネルギーを一定期間毎に異ならせても良い。
【0075】
例えば、図1に示すように、X線発生装置4が対象物2に同一の方向から対象物2にX線Rを照射する場合に、一定期間毎にエネルギーを変化させたX線Rを照射する。さらに、エネルギー毎にX線透過画像(図5)を取得する。
【0076】
図2に示すように、物質領域判定部16は、エネルギー毎に異なるX線Rの透過率に基づいて、物質領域27(図6)を判定する。このようにすれば、それぞれの物質領域27を詳細に分けることができる。例えば、鉄の場合と鉛の場合では、エネルギー毎にその透過率がそれぞれ異なる。そのため、エネルギーを変えて数パターンのX線透過画像を取得し、これらのX線透過画像を参照することで、対象物2に含まれる物質毎に物質領域27を分ける処理が行い易くなる。このように、X線検査の段階で、ある程度、物質の種類の識別を行うことができ、物質領域27の判定の際に、より高い精度で判定を行うことができる。
【0077】
なお、第1実施形態では、X線検査とミュオン検査とが検査場所と検査時間の双方が同じ条件で行われるが、その他の態様でも良い。例えば、X線検査とミュオン検査とで同一の検査場所を用いる際に、X線検査を行う日時とミュオン検査を行う日時とを異ならせても良い。
【0078】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図12から図13を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0079】
図12に示すように、第2実施形態の非破壊検査システム1Aは、所定の第1検査場所に設けられた第1X線発生装置4Aと第1X線検出器5Aと第2X線発生装置4Bと第2X線検出器5Bとを備える。なお、第1検査場所は、遮蔽部材9で覆われた検査室に設けられている。さらに、図13に示すように、非破壊検査システム1Aは、第1検査場所とは異なる第2検査場所に設けられた1組のミュオン軌跡検出器6,7を備える。
【0080】
第1検査場所と第2検査場所は、互に隣接しているものとして説明する。なお、第2実施形態では、1つの解析用コンピュータ8を用いて、第1検査場所と第2検査場所の各装置類を制御する。なお、第1検査場所と第2検査場所にそれぞれ別個の解析用コンピュータ8を設置し、それぞれの解析用コンピュータ8を互いに通信回線で接続しても良い。
【0081】
第2実施形態では、X線発生装置4およびX線検出器5を用いたX線検査とミュオン軌跡検出器6,7を用いたミュオン検査とが、検査場所と検査時間が異なる条件で行われる。つまり、X線検査とミュオン検査とが、それぞれ個別に行われる。
【0082】
例えば、複数の対象物2として、複数台のトラックがあるとする。ここで、先のトラックが第1検査場所でX線検査をしている間に、後続のトラックが第2検査場所でミュオン検査を行う。つまり、先のトラックのX線検査の待ち時間を利用して、後続のトラックがミュオン検査を行う。
【0083】
X線検査では、遮蔽部材9で遮蔽を行う必要がある。例えば、トラックを遮蔽部材9で覆われた検査室に収容する際には、遮蔽扉の開閉時間と搬入時間が必要となる。さらに、X線検査の終了後には、再度、遮蔽扉を開閉し、搬出するための時間が必要となる。このように、複数台のトラックで連続的にX線検査を行う場合において、後続のトラックは、先のトラックのX線検査が終わるまで所定の待機場所で待機する必要がある。
【0084】
これに対して、ミュオン検査では、遮蔽部材9で遮蔽を行う必要がない。また、宇宙線を利用するため、ミュオンを発生させる装置も必要ない。所定の待機場所に、1組のミュオン軌跡検出器6,7を設置するだけで、第2検査場所を設けることができる。
【0085】
このように、遮蔽部材9で覆われた検査室に先のトラックを収容する時間および取り出す時間を利用して、後続のトラックがミュオン検査を行うことができる。そのため、効率的に2つの種類の検査を行うことができる。
【0086】
また、第2実施形態では、第1X線発生装置4Aと第1X線検出器5Aとが、対象物2を挟んで互いに向かい合う位置に設けられている。ここで、第1X線発生装置4Aから照射されるX線Rは、第1X線検出器5Aで検出される。
【0087】
さらに、第2X線発生装置4Bと第2X線検出器5Bとが、対象物2を挟んで互いに向かい合う位置に設けられている。ここで、第2X線発生装置4Bから照射されるX線Rは、第2X線検出器5Bで検出される。
【0088】
第2実施形態では、第1X線発生装置4Aと第2X線発生装置4Bが、それぞれ異なる複数の方向から対象物2にX線Rを照射する。図13の例では、対象物2としてのトラックの後方(水平方向)から第1X線発生装置4AのX線Rが照射されるとともに、トラックの上方(垂直方向)から第2X線発生装置4BのX線Rが照射される。つまり、2つのX線Rの照射方向が互いに直角に交わる。そして、第1X線検出器5Aと第2X線検出器5Bは、それぞれ異なる複数の方向から対象物2を透過したX線Rを検出する。このようにすれば、X線透過画像の精度を向上させることができる。
【0089】
例えば、水平方向と垂直方向の複数の方向からX線Rを対象物2に照射することで複数のX線透過画像を取得し、これらのX線透過画像を参照することで、対象物2の3次元的な情報を得ることができる。また、ミュオン検査では、一度の検査で対象物2の3次元的な情報を取得することができる。双方を組み合わせることで3次元的な物質の分布を示す情報を得ることができる。
【0090】
なお、X線検査でX線透過画像(2次元データ)が得られる場合には、所定の面積を有する範囲が物質領域27となる。また、X線検査でX線ボリューム画像(3次元データ)が得られる場合には、所定の容積を有する範囲が物質領域27となる。
【0091】
また、第2実施形態の非破壊検査システム1Aは、対象物2に対して相対的に固定される位置であってX線検査とミュオン検査で共通して用いられる位置に設けられる基準部37を備える。さらに、解析用コンピュータ8のミュオン軌跡データ抽出部18(図2)は、X線検査時の対象物2の座標とミュオン検査時の対象物2の座標とを、基準部37の座標に基づいて補正する。このようにすれば、X線検査とミュオン検査で生じる対象物2の位置ずれを補正することができる。
【0092】
例えば、X線検査とミュオン検査をそれぞれ異なる検査場所で行う場合に、取得されるX線透過画像とミュオン透過画像の座標を整合させる必要がある。そのため、座標の基準となる基準部37(座標識別サンプル)を設けるようにする。基準部37には、鉛のブロックなどのように材質が既知の部材を用いる。なお、材質が既知の部材とは、X線の透過率とミュオンの散乱角の少なくとも一方が既知である部材の意味を含む。
【0093】
また、対象物2がトラックである場合には、トラックが載置される台座38に基準部37を設ける。なお、基準部37をトラックのボディに固定させても良い。
【0094】
基準部37の位置(座標)が対象物2に対して相対的に固定される位置(座標)に設けられているため、X線検査とミュオン検査の双方で取得された透過画像のそれぞれの座標を、基準部37を基準として一致させることができる。
【0095】
なお、X線検査とミュオン検査で用いる基準部37は、形状と寸法と材質が同じものであれば良い。つまり、部材(物体)として異なる複数個の基準部37を、X線検査とミュオン検査でそれぞれ用いても良い。
【0096】
なお、第2実施形態では、X線検査とミュオン検査とが検査場所と検査時間の双方が異なる条件で行われるが、その他の態様でも良い。例えば、X線検査とミュオン検査とで同一の検査場所を用いるようにし、X線検査を行う日時とミュオン検査を行う日時とを異ならせても良い。この場合において、取得されるX線透過画像とミュオン透過画像の座標を整合させるために、座標の基準となる基準部37を設けるようにしても良い。
【0097】
非破壊検査システムおよび非破壊検査方法を第1実施形態から第2実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0098】
前述の実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0099】
なお、前述の実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0100】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0101】
なお、前述の実施形態では、1組のミュオン軌跡検出器6,7が、対象物2を垂直方向に挟んで互いに向かい合う位置に設けられているが、その他の態様であっても良い。例えば、2組のミュオン軌跡検出器6,7が、対象物2を垂直方向と水平方向に挟んで互いに向かい合う位置にそれぞれ設けられても良い。また、ミュオン軌跡検出器は、2つで1組である必要はなく、奇数個のミュオン軌跡検出器が設けられても良い。例えば、3つ以上のミュオン軌跡検出器が設けられても良い。
【0102】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、散乱角に基づいて、物質領域に存在する物質の種類を識別可能な出力用情報を生成する出力情報生成部を備えることにより、物質の種類の識別能力と分解能の双方を高めることができる。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0104】
1(1A)…非破壊検査システム、2…対象物、3…物体、4(4A,4B)…X線発生装置、5(5A,5B)…X線検出器、6…第1ミュオン軌跡検出器、7…第2ミュオン軌跡検出器、8…解析用コンピュータ、9…遮蔽部材、10…入力部、11…出力部、12…通信部、13…記憶部、14…メイン制御部、15…X線透過率解析部、16…物質領域判定部、17…ミュオン通過座標解析部、18…ミュオン軌跡データ抽出部、19…ミュオン散乱解析部、20…出力情報生成部、21…物質判定部、22…透過画像生成部、23…空間、24…鉄のブロック、25…鉛のブロック、26…金のブロック、27…物質領域、28…入射ベクトル、29…出射ベクトル、30,31…仮想の直線、32…座標、33…X線透過画像、34…ミュオン透過画像、35…抽出結果、36…測定結果、37…基準部、38…台座、R…X線、θ…散乱角、μ…ミュオン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13