(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187545
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ガラス母材の製造装置、およびガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20221213BHJP
C03B 37/014 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C03B20/00 E
C03B37/014 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095577
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆成
【テーマコード(参考)】
4G014
4G021
【Fターム(参考)】
4G014AH21
4G021CA13
(57)【要約】
【課題】ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化を抑制できるガラス母材の製造装置、およびガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス母材の製造装置は、未処理母材を収容可能な炉心管と、前記炉心管の外側に設けられるヒータと、前記炉心管の少なくとも一部および前記ヒータを収容する炉体と、前記炉体内にガスを供給する複数の供給口と、前記炉体内からガスを排出する排気口と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理母材を収容可能な炉心管と、
前記炉心管の外側に設けられるヒータと、
前記炉心管の少なくとも一部および前記ヒータを収容する炉体と、
前記炉体内にガスを供給する複数の供給口と、
前記炉体内からガスを排出する排気口と、を備えるガラス母材の製造装置。
【請求項2】
少なくとも1つの前記供給口および前記排気口は、前記炉心管の軸方向において前記ヒータを挟むように配されている、請求項1に記載のガラス母材の製造装置。
【請求項3】
前記複数の供給口は、前記炉心管の周方向において略等間隔を空けて配されている、請求項1または2に記載のガラス母材の製造装置。
【請求項4】
前記排気口を複数備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス母材の製造装置。
【請求項5】
前記複数の排気口は、前記炉心管の周方向において略等間隔を空けて配されている、請求項4に記載のガラス母材の製造装置。
【請求項6】
前記炉体に収容される断熱材をさらに備え、
前記複数の供給口の少なくとも一部は、前記断熱材の外周面よりも前記炉心管の径方向における外側に位置する、請求項1から5のいずれか一項に記載のガラス母材の製造装置。
【請求項7】
前記炉体に収容される断熱材をさらに備え、
前記複数の供給口の少なくとも一部は、前記断熱材の外周面よりも前記炉心管の径方向における内側に位置する、請求項1から6のいずれか一項に記載のガラス母材の製造装置。
【請求項8】
ガラス母材の製造装置を用い、未処理母材に対して熱処理を行うガラス母材の製造方法であって、
前記ガラス母材の製造装置は、
前記未処理母材を収容可能な炉心管と、
前記炉心管の外側に設けられるヒータと、
前記炉心管の少なくとも一部および前記ヒータを収容する炉体と、
前記炉体内にガスを供給する複数の供給口と、
前記炉体内からガスを排出する排気口と、を備える、ガラス母材の製造方法。
【請求項9】
前記未処理母材は堆積されたガラス微粒子を有し、
前記熱処理によって前記ガラス微粒子を焼結させる、請求項8に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理を行う際に、前記炉心管の内部で前記未処理母材を回転させる、請求項8または9に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項11】
前記炉心管の軸方向における各位置において、前記炉心管の外周面の周方向における温度の最大値と最小値との差が10℃以下に保たれる、請求項8から10のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス母材の製造装置、およびガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガラス母材(光ファイバ母材)の製造装置が開示されている。このガラス母材の製造装置は、未処理母材を収容可能な炉心管と、ヒータと、炉心管およびヒータを収容する炉体と、炉体内にガスを供給する供給口と、炉体内からガスを排出する排気口と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、供給口を通じて炉体内に供給されるガスの温度は、ヒータの温度と異なることが多い。特許文献1のように炉体内にガスを供給する供給口が1つしか設けられていない場合、当該供給口近傍の温度と、当該供給口近傍以外の部分の温度との間に差が生じ、炉心管に温度むらを生じやすくなっていた。炉心管の温度むらは、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化の原因となり得る。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化を抑制できるガラス母材の製造装置、およびガラス母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るガラス母材の製造装置は、未処理母材を収容可能な炉心管と、前記炉心管の外側に設けられるヒータと、前記炉心管の少なくとも一部および前記ヒータを収容する炉体と、前記炉体内にガスを供給する複数の供給口と、前記炉体内からガスを排出する排気口と、を備える。
【0007】
また、本発明の一態様に係るガラス母材の製造方法は、ガラス母材の製造装置を用い、未処理母材に対して熱処理を行うガラス母材の製造方法であって、前記ガラス母材の製造装置は、前記未処理母材を収容可能な炉心管と、前記炉心管の外側に設けられるヒータと、前記炉心管の少なくとも一部および前記ヒータを収容する炉体と、前記炉体内にガスを供給する複数の供給口と、前記炉体内からガスを排出する排気口と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記態様によれば、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化を抑制可能なガラス母材の製造装置、およびガラス母材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るガラス母材の製造装置の断面図である。
【
図3】第2実施形態に係るガラス母材の製造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係るガラス母材の製造装置およびガラス母材の製造方法について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ガラス母材の製造装置1Aは未処理母材Mを収容可能な炉心管10と、ヒータ20と、炉体30と、断熱材40と、を備える。炉心管10は、炉心管下面10bおよび炉心管外周面(炉心管の外周面)10cを有する有底筒状に形成されている。炉心管10の開口端部には蓋Lが取り付けられる。
【0011】
ここで本実施形態では、炉心管10の中心軸線Oに沿う方向を軸方向という。軸方向に沿って、蓋L側を上方といい、炉心管下面10b側を下方という。軸方向における位置を単に高さという。軸方向に垂直な断面を横断面という。軸方向からみて、中心軸線Oに交差する方向を径方向といい、中心軸線Oまわりに周回する方向を周方向という。横断面視において、中心軸線Oに接近する向きを径方向内側、中心軸線Oから離反する向きを径方向外側という。
【0012】
未処理母材Mは、堆積されたガラス微粒子を有するガラス多孔質体である。未処理母材Mに含まれるガラス微粒子に対して焼結等の熱処理を行うことにより、ガラス母材が得られる。未処理母材Mは、例えばVAD法やOVD法等のスート法を用いて製造されたガラス多孔質体であってもよい。
スート法を用いて未処理母材Mを製造する場合、まず、反応容器内に設置されたバーナから、酸素ガス、水素ガス、不活性ガス等を流し、これらのガスを反応させた火炎中に、SiCl4等のガラス原料ガスを投入する。これにより、ガラス微粒子が生成される。このガラス微粒子を、反応容器内で回転するターゲットに付着させることで、ターゲットの外周にスートが堆積する。これにより、ガラス多孔質体(未処理母材M)が得られる。
【0013】
ガラス母材の製造装置1Aは、例えば光ファイバ母材の製造装置であってもよい。この場合、上記したターゲットは光ファイバのコアとなる部分を含んでいてもよい。また、上記したターゲットのうち、スートが堆積していない部分は、後述の支持部50として用いられてもよい。
【0014】
炉心管下面10bは下方を向いており、炉心管外周面10cは径方向外側を向いている。炉心管10の材質としては、例えば石英ガラス等を採用できる。本実施形態の炉心管外周面10cは、横断面視において円形状に形成されている。炉心管10には、不図示の炉心管用ガス供給口および炉心管用ガス排出口が設けられていてもよい。炉心管用ガス供給口は、未処理母材Mが収容される空間(炉心管10内部)にガスを供給するためのガス供給口である。炉心管用ガス排出口は、未処理母材Mが収容される空間(炉心管10内部)からガスを排気するためのガス排出口である。蓋Lは、炉心管10の開口端部(上端部)に開閉自在に取り付けられる。使用者は、蓋Lを開くことで、未処理母材Mを炉心管10内に挿入したり、焼結済みの母材(ガラス母材)を炉心管10から取り出したりすることができる。蓋Lが閉じられると、炉心管10が閉塞され、炉心管10内に不要なガスが流入することが抑制される。
【0015】
未処理母材Mは、支持部50を介して炉心管10内に支持される。支持部50は、蓋Lの中心部を貫通している。詳細な説明は省略するが、蓋Lは、支持部50が貫通した状態で、炉心管10内をシールすることができるように構成されている。また、支持部50は蓋Lに対して回転可能に構成されていてもよい。この場合、支持部50を回転させることで、未処理母材Mを炉心管10内で回転させることができる。つまり、未処理母材Mは、炉心管10に対する中心軸線Oまわりの回転が許容された状態で炉心管10内に支持される。ヒータ20によって未処理母材Mを加熱する際、未処理母材Mを回転させることで、未処理母材Mに対する熱の加わり方を周方向において均すことができる。なお、未処理母材Mは炉心管10内において回転可能に支持されていなくてもよい。
【0016】
ヒータ20は、炉心管10の外側に設けられている。本実施形態においてヒータ20は円筒状であり、炉心管10を周方向において取り囲むように配置されている。ヒータ20は、炉心管10を介して未処理母材Mを加熱する。ヒータ20は、例えば電気ヒータ等であってもよい。ヒータ20は、径方向外側を向くヒータ外周面20cおよび径方向内側を向くヒータ内周面20dを有する。ヒータ内周面20dは、炉心管10の炉心管外周面10cと径方向において対向する。なお、本実施形態においてヒータ20は単一の円筒状であるが、ヒータ20は複数に分かれていてもよい。この場合、複数のヒータ20が炉心管10を周方向において取り囲んでいてもよい。また、複数のヒータ20が軸方向に並べて配置されてもよい。
【0017】
炉体30は、本実施形態において中空円柱状の容器であり、炉心管10の少なくとも一部およびヒータ20を収容している。なお、炉体30は炉心管10の全体を収容していてもよい。炉体30は、上端部である炉体上壁30aと、下端部である炉体下壁30bと、炉体上壁30aおよび炉体下壁30bを接続する炉体周壁30cと、を有する。炉体上壁30aの中心部および炉体下壁30bの中心部にはそれぞれ、炉体30内に連通する貫通孔33が形成されている。各貫通孔33には、炉心管10が挿通される。使用者は、貫通孔33を介して炉心管10を炉体30に挿通したり、炉体30から炉心管10を引き抜いたりすることができる。
【0018】
貫通孔33の縁部には、環状のシール機構Sが設けられている。シール機構Sは、炉心管10を貫通孔33に挿通した際に貫通孔33に生じ得る隙間を塞ぎ、貫通孔33を介して炉体30からガスが流出したり、炉体30にガスが流入したりすることを抑制する。なお、ガラス母材の製造装置1Aは、シール機構Sを備えていなくてもよい。
【0019】
炉体周壁30cには、径方向外側に向けて延びる供給管31が4本設けられている。なお、供給管31の本数は適宜変更可能であり、2本以上であれば何本であってもよい。また、炉体周壁30cには、径方向外側に向けて延びる排気管32が4本設けられている。排気管32の本数は適宜変更可能であり、1~3本または5本以上であってもよい。供給管31は、炉体30の外部から炉体30内にガスGを供給する際に用いられる管である。排気管32は、炉体30内から炉体30の外部にガスGを排出する際に用いられる管である。供給管31を通して炉体30に供給されるガスGは、主として不活性ガス(例えばアルゴン、ヘリウム、窒素等)である。ガスGを炉体30内に供給することで、炉体30内の酸素を排出し、ヒータ20や断熱材40の酸化、および酸化に伴う劣化を抑制することができる。
【0020】
各供給管31のうち、径方向内側の端部を供給口31aという。同様に、各排気管32のうち、径方向内側の端部を排気口32aという。本実施形態において、各供給口31aおよび各排気口32aは、炉体周壁30c上に位置する。各供給管31のうち、供給口31aとは反対側に位置する端部は、不図示のガス供給装置に連結されている。なお、例えば、1つのガス供給装置に対して4本すべての供給管31が連結されていてもよいし、4つのガス供給装置に対して1本ずつ供給管31が連結されていてもよい。つまり、各供給管31を通じて炉体30内にガスGを供給できるのであればガス供給装置の構成は任意である。また、各排気管32のうち、排気口32aとは反対側に位置する端部は、炉体30の外部に位置する。
【0021】
本実施形態において、4つの供給口31aと、4つの排気口32aとは、軸方向においてヒータ20を挟むように配されている。より具体的には、各供給口31aはヒータ20よりも下方に設けられ、各排気口32aはヒータ20よりも上方に設けられている。
【0022】
各供給口31aからガスGを供給し、各排気口32aからガスGを排出することで、炉体30から酸素を排出することができる。これにより、ヒータ20や断熱材40の酸化、および酸化に伴う劣化を抑制することができる。
【0023】
ガスGの温度は、ヒータ20の温度、炉心管10の温度、および未処理母材Mの温度と異なる場合が多い。例えば、ガスGの温度が室温程度である場合には、ガスGの温度は、ヒータ20の温度、炉心管10の温度、および未処理母材Mの温度よりも低くなりやすい。したがって、炉心管外周面10cのうち各供給口31aと径方向において対向する部分の温度と、炉心管外周面10cの当該部分以外の部分の温度との間には、差が生じやすい。言い換えれば、炉心管外周面10cには温度むらが生じやすい。
【0024】
これに対して本実施形態のガラス母材の製造装置1Aは、4つの供給口31aが炉心管10の中心軸線Oに関して略回転対称に配されている(
図2参照)。言い換えれば、4つの供給口31aは、周方向において略等間隔を空けて配されている。これにより、ガスGの供給が周方向において分散され、炉心管外周面10cの周方向における温度むらを抑制することができる。また、炉心管外周面10cの周方向における温度分布の対称性が高めることができる。したがって、未処理母材Mに対して熱処理を行うことで得られるガラス母材の偏心(コアの位置ずれ)や、ガラス母材の断面形状の非円化を抑制することができる。なお、「略回転対称」「略等間隔」には、製造誤差を取り除けば回転対称または等間隔とみなせる場合や、完全な回転対称または等間隔でなくとも上記した偏心や非円化を抑制する効果が期待できる場合も含む。
【0025】
また、ガスGは排気口32aから排出されるため、炉心管外周面10cのうち各排気口32aと径方向において対向する部分の温度と、炉心管外周面10cの当該部分以外の部分の温度との間には、差が生じやすい。したがって、炉心管外周面10cには、各供給口31aの位置に起因した温度むらだけでなく、各排気口32aの位置に起因した温度むらも生じ得る。これに対して本実施形態のガラス母材の製造装置1Aは、4つの排気口32aが炉心管10の中心軸線Oに関して略回転対称に配されている。言い換えれば、4つの排気口32aは、周方向において略等間隔を空けて配されている。これにより、ガスGの排出が周方向において分散され、炉心管外周面10cの周方向における温度むらをさらに抑制することができる。また、炉心管外周面10cの周方向における温度分布の対称性をさらに高めることができる。したがって、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化をさらに抑制することができる。なお、「略回転対称」「略等間隔」には、製造誤差を取り除けば回転対称または等間隔とみなせる場合や、完全な回転対称または等間隔でなくとも上記した偏心や非円化を抑制する効果が期待できる場合も含む。
【0026】
断熱材40は、炉心管10の熱が炉体30の外部へ逃げるのを抑制する部材である。断熱材40としては例えば、カーボンシートを層状に重ねたものや、シリコンスポンジ等を採用することができる。本実施形態において、断熱材40は円筒状に形成されており、炉心管10およびヒータ20を周方向において取り囲んでいる。断熱材40は、径方向外側を向く断熱材外周面(断熱材の外周面)40cと、径方向内側を向く断熱材内周面40dと、を有する。断熱材内周面40dは、炉心管外周面10cと径方向において対向する。断熱材内周面40dには、ヒータ20が配置される凹部41が形成されている。凹部41は、軸方向における断熱材40の中央部に位置し、断熱材内周面40dから径方向外側に窪んでいる。なお、凹部41を設けず、例えば断熱材内周面40dと炉心管外周面10cとの間の隙間にヒータ20を配置してもよい。断熱材40は、多孔質材(例えばスポンジ状の材質)によって形成されていてもよい。この場合、ガスGが断熱材40内を透過しやすくなる。これにより、炉体30内の酸素をより効率的に排気することができる。
【0027】
断熱材外周面40cは、炉体周壁30cと径方向において対向する。特に、本実施形態における各供給口31aは、断熱材外周面40cよりも径方向外側に位置している。これにより、各供給口31aから供給されるガスGが炉心管外周面10cに直接当たることが防止され、ガスGに起因する炉心管外周面10cの温度むらを生じにくくすることができる。
【0028】
(ガラス母材の製造方法)
次に、以上のように構成されたガラス母材の製造装置1Aを用いたガラス母材の製造方法について説明する。
【0029】
まず、未処理母材Mが用意される。未処理母材Mは、例えば先述のターゲットに対してガラス微粒子を堆積させたもの等が採用できる。
次に、未処理母材Mが炉心管10内に挿入され、炉心管10の中心軸線Oに沿って配置される。
次に、蓋Lによって炉心管10が閉塞される。
【0030】
次に、不図示のガス供給装置から、各供給管31を通して炉体30内部にガスGが供給される。ガスGの供給は、継続的に行われる。これにより、炉体30内の酸素を炉体30の外部へと排出し、ヒータ20や断熱材40の酸化、および酸化に伴う劣化を抑制することができる。またこのとき、炉体30内の気圧が外気圧よりも高くなるようにガスGが供給されてもよい。なおこの場合、炉体30内部に不図示の圧力計測手段(例えば気圧センサ等)が設けられ、炉体30内の気圧の測定値に基づいてガスGの供給量が制御されてもよい。炉体30内を昇圧することで、後述する熱処理工程において熱によって軟化した炉心管10が径方向外側に向けて屈曲することが抑制される。
なお、以降特段の言及がない限り、ガスGの供給は継続される。
【0031】
以下、ガスGの流動経路を説明する。まず、各供給口31aから供給されたガスGは、断熱材40の内部を浸透し、あるいは断熱材40と炉体30の内面との間の隙間を通って断熱材内周面40dと炉心管外周面10cとが対向する領域に到達する。当該領域に到達したガスGは、
図2に示すように、周方向において等方的に広がる。これと同時に、炉体30内の軸方向における気圧差によってガスGは下方から上方に向けて流動する(
図1参照)。次に、ガスGは断熱材40の内部を浸透し、あるいは断熱材40と炉体30の内面との間の隙間を通って各排気口32aに到達し、炉体30の外部へと排出される。ここで、本実施形態における排気口32aおよび供給口31aはヒータ20を軸方向において挟むように配されている。より具体的には、供給口31aはヒータ20より下方に位置し、排気口32aはヒータ20より上方に位置している。このため、ヒータ20の近傍においてガスGが流れる方向が、上方に向けて安定し、ヒータ20周辺の酸素を効率的に排出することができる。したがって、ヒータ20の酸化および劣化を効果的に抑制することができる。
【0032】
ガスGが炉体30内に供給され始めてから所定の時間が経ったのち、未処理母材Mへの熱処理が開始される。より具体的には、ヒータ20が稼働され、未処理母材Mが炉心管10を介して加熱される。未処理母材Mに対して熱処理を行うことで、ガラス母材が得られる。なお、炉体30内に設けられた不図示の酸素濃度計を用いて炉体30内の酸素濃度が計測され、当該計測値が所定の濃度値を下回ったのちに熱処理が開始されてもよい。
【0033】
ところで、ヒータ20が稼働されるとガスGは熱膨張する。密度が小さくなったガスGは、重力の影響により、上方に向かおうとする。このため、ガスGの下方から上方へ向けた流動が促進される。ここで、本実施形態における各排気口32aは各供給口31aよりも上方に位置しているため、ガスGの熱膨張による上方移動を利用した効率的な排気を行うことができる。したがって、ヒータ20や断熱材40の酸化および劣化をより効果的に抑制することができる。
【0034】
また、未処理母材Mの熱処理が行われている際に、未処理母材Mが炉心管10の内部で炉心管10の中心軸線Oまわりに適宜回転されてもよい。この場合、周方向における未処理母材Mの温度むらが抑制され、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化を抑制する効果が得られる。この効果は、未処理母材Mの回転速度が大きいほど高まると考えられる。一方で、未処理母材Mの回転速度が大きいほど、未処理母材Mに生じる遠心力が大きくなり、未処理母材Mの径方向における振れが大きくなる。特に、未処理母材Mの一部が炉心管10の内周面に触れるほど大きな振れが生じた場合、未処理母材Mに損傷が生じる可能性がある。これに対し、本実施形態のガラス母材の製造装置1Aは供給口31aを複数設ける等の工夫がなされているため、未処理母材Mの回転速度を高めなくとも上記の偏心および非円化を抑制する効果を得ることができる。
【0035】
熱処理は、例えば未処理母材Mに含まれるガラス微粒子を焼結させる焼結工程であってもよい。焼結工程ではガラス微粒子がガラス転移温度(約1400~1500℃)まで昇温されるが、当該温度付近において、ガラス微粒子の透明度や粘性をはじめとする種々の物性が温度に対して著しく変化する。したがって、焼結工程で未処理母材Mの温度むらが生じると、未処理母材Mの物性が不均一になりやすくなる。このため、焼結工程では特にガラス母材の偏心や非円化が生じやすい。これに対し、本実施形態のガラス母材の製造装置1Aは供給口31aを複数設ける等の工夫がなされているため、焼結工程における偏心および非円化を抑制することができる。なお、「熱処理」は、脱水処理やドープ処理等であってもよい。焼結工程の前に、脱水処理やドープ処理が行われてもよい。
【0036】
ガラス母材の製造方法が特に光ファイバ母材の製造方法である場合には、上記した工程に加えて、光ファイバ母材から光ファイバを得る線引き工程が行われてもよい。線引き工程では、光ファイバ母材が溶融され、溶融した光ファイバ母材が長手方向において引き延ばされることで、光ファイバが得られる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態のガラス母材の製造装置1Aは、未処理母材Mを収容可能な炉心管10と、炉心管10の外側に設けられるヒータ20と、炉心管10の少なくとも一部およびヒータ20を収容する炉体30と、炉体30内にガスGを供給する複数の供給口31aと、炉体30内からガスGを排出する排気口32aと、を備える。
【0038】
また、本実施形態のガラス母材の製造方法は、上記したガラス母材の製造装置1Aを用い、未処理母材Mに対して熱処理を行う。
【0039】
これらの構成により、例えば供給口31aが1つしか設けられていない場合と比べて、炉心管外周面10cの周方向における温度むらを抑制することができる。したがって、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化を抑制することができる。
【0040】
また、少なくとも1つの供給口31aおよび排気口32aは、軸方向においてヒータ20を挟むように配されている。この構成により、ヒータ20周辺の酸素が効率的に排気され、ヒータ20の酸化および劣化を効果的に抑制することができる。
【0041】
また、複数の供給口31aは、周方向において略等間隔を空けて配されている。この構成により、炉心管外周面10cの周方向における温度分布の対称性が高まり、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化を効果的に抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態のガラス母材の製造装置1Aは、排気口32aを複数備える。この構成により、炉心管外周面10cの周方向における温度むらがさらに抑制され、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化をさらに抑制することができる。
【0043】
また、複数の排気口32aは、周方向において略等間隔を空けて配されている。この構成により、炉心管外周面10cの周方向における温度分布の対称性がさらに高まり、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化をより効果的に抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態のガラス母材の製造装置1Aは、炉体30に収容される断熱材40をさらに備え、複数の供給口31aのそれぞれは、断熱材外周面40cよりも径方向外側に位置する。この構成により、各供給口31aと炉心管外周面10cとが遠ざかり、炉心管外周面10cにおいて局所的な温度変化が生じるのを抑制できる。したがって、ガラス母材の偏心やガラス母材の断面形状の非円化を生じにくくすることができる。
【0045】
また、本実施形態のガラス母材の製造方法において、未処理母材Mは堆積されたガラス微粒子を有し、熱処理によってガラス微粒子を焼結させてもよい。本実施形態のガラス母材の製造装置1Aによれば、熱処理として焼結を採用した場合においても、ガラス母材の偏心およびガラス母材の断面形状の非円化を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態のガラス母材の製造方法において、熱処理を行う際に、炉心管10の内部で未処理母材Mを回転させてもよい。本実施形態のガラス母材の製造装置1Aによれば、未処理母材Mの回転速度を高めなくとも、ガラス母材の偏心およびガラス母材の断面形状の非円化を抑制することができる。したがって、未処理母材Mが炉心管10の内周面と接触して未処理母材Mに損傷が生じるのを抑制することができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図3に示すように、本実施形態のガラス母材の製造装置1Bでは、各供給口31aおよび各排気口32aが、断熱材外周面40cよりも径方向内側に位置している。
図3および
図4の例では、各供給管31および各排気管32が断熱材40を径方向において貫通し、各供給口31aおよび各排気口32aが断熱材内周面40d上に配置されている。これにより、ヒータ内周面20dと炉心管外周面10cとが対向する領域へのガスGの供給速度が向上し、炉体30内の酸素を除去する速度を向上することができる。したがって、ヒータ20や断熱材40の酸化、および酸化に伴う劣化を効果的に抑制できる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態のガラス母材の製造装置1Bは、炉体30に収容される断熱材40を備え、複数の供給口31aのそれぞれは、断熱材外周面40cよりも径方向内側に位置する。この構成により、炉体30内の酸素を除去する速度が向上し、ヒータ20や断熱材40の酸化および劣化を効果的に抑制することができる。
【実施例0049】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0050】
(比較例)
直径が900mm、軸方向における寸法が1200mmの炉体と、直径300mmの炉心管と、断熱材と、を有するガラス母材の製造装置を2つ用意した。比較例1は、供給管および排気管を1つずつ備え、供給口および排気口は炉体周壁上に位置していた。比較例2は供給管および排気管を1つずつ備え、供給口および排気口は断熱材内周面上に位置していた。
【0051】
(実施例)
第2実施形態に係るガラス母材の製造装置1Bを用意した。実施例は、4本の供給管31および4本の排気管32を備え、各供給口31aおよび各排気口32aは断熱材内周面40d上に位置していた。
【0052】
比較例1、2と実施例のそれぞれについて、炉体を密閉した状態で各供給管からアルゴンガスを供給し、炉体内の酸素が十分に排出されるのに要した時間を計測した。より具体的には、排気口近傍に設けられた酸素濃度計を用いて酸素濃度を計測し、アルゴンガスの供給開始から酸素濃度が210ppm(体積百万分率)に達するまでの時間を計測した。
【0053】
次に、同一の未処理母材Mに対して焼結処理を行い、光ファイバ母材の製造を行った。未処理母材Mは、光ファイバのコアとなる部分を有するターゲットに対してガラス微粒子を堆積させたガラス多孔質体であった。なお、焼結処理最中のアルゴンガス供給速度は、比較例1、2および実施例のいずれにおいても、全供給管の合計値で2.0L/m(リットル毎分)であった。得られた光ファイバ母材のそれぞれについて、軸方向200mm間隔で断面形状を測定し、偏心量の最大値を評価した。なお、(偏心量)=(光ファイバ母材中心とコア中心との間のずれ量)/(光ファイバ母材外径)と定義した。
【0054】
上記の実験で得られた酸素排出所要時間および偏心量の最大値を以下の表1にまとめた。なお、比較例2および実施例の酸素排出所要時間における「6以下」とは、6時間経過時点で既に酸素濃度が210ppmを下回っていたことを意味する。
【0055】
【0056】
表1において、実施例と比較例1、2との対比からわかるように、供給管および排気管が複数ずつ設けられている場合、供給管および排気管が1つずつ設けられている場合と比べて光ファイバ母材の偏心量が小さくなっている。このように、供給管および排気管を複数設けることにより、光ファイバ母材の偏心を抑制できることが確認された。
なお、比較例1、2を比べると、供給口が断熱材外周面よりも径方向内側に位置する場合、供給口が断熱材外周面よりも径方向外側に位置する場合に比べて酸素排出に要する時間が短くなっている。このように、供給口を断熱材内周面に近づけることにより、酸素排出効率を向上できることも確認された。
【0057】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0058】
例えば、各供給管31および各排気管32は、炉体上壁30aまたは炉体下壁30bに設けられていてもよい。
また、排気管32を設けず、例えば2つのシール機構Sの一方または両方を無くし、貫通孔33と炉心管10との間の隙間を排気口32aとして用いてもよい。
【0059】
また、各供給口31aおよび各排気口32aは断熱材40の内部に位置していてもよい。
【0060】
また、前記実施形態の炉心管外周面10cは横断面視において円形状であったが、横断面視において多角形状であってもよい。同様に、断熱材40および炉体周壁30cは横断面視において多角形状であってもよい。
【0061】
また、ガラス母材の製造方法における熱処理工程の際に、炉心管外周面10cの温度むらが大きく生じないように、ガスGの供給量の制御が行われてもよい。例えば、各高さにおいて、炉心管外周面10cの周方向における温度の最大値と最小値との差が10℃に保たれるようにガスGの供給量が調節されてもよい。この場合、炉体30内に炉心管外周面10cの温度を測定する温度測定手段(例えば温度センサ等)が設けられ、炉心管外周面10cの温度の測定値に基づいてガスGの供給量が制御されてもよい。これらの構成を採用した場合、ガラス母材の偏心およびガラス母材の断面形状の非円化をより確実に抑制することができる。
【0062】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
例えば第1実施形態および第2実施形態を組み合わせて、複数の供給口31aのうちの一部が断熱材外周面40cよりも径方向外側に位置し、残りの供給口31aが断熱材外周面40cよりも径方向内側に位置してもよい。
1…ガラス母材の製造装置 10…炉心管 10c…炉心管外周面(炉心管の外周面) 20…ヒータ 30…炉体 31a…供給口 32a…排気口 40…断熱材 40c…断熱材外周面(断熱材の外周面) M…未処理母材 G…ガス