(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187549
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】移動体
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20221213BHJP
【FI】
G05D1/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095586
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若山 裕記
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG08
5H301GG11
5H301KK02
5H301KK04
5H301KK08
5H301KK18
5H301KK19
(57)【要約】
【課題】建物内に配置され、多機能に亘ったサービスが提供可能なる移動体を提供する。
【解決手段】ロボット100(移動体)の案内経路取得部131は、建物50の内部構造データを参照し、自機位置を起点として利用者待機位置を経由して目的地を終点とする案内経路を取得する。内部構造データには、建物50内に設置された手摺51の配置情報が含まれる。利用者の現在位置が案内経路において手摺51の無い位置である場合には、自律走行制御部136は、当該利用者の側方に所定の近接距離を維持した状態で利用者と並行移動するように、移動機構101-103を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自機が配置された建物の内部構造データを記憶可能な内部構造記憶部と、
前記内部構造データを参照し、自機位置を起点として利用者待機位置を経由して目的地を終点とする案内経路を取得する経路取得部と、
前後左右への移動が可能な移動機構と、
前記移動機構を制御する移動制御部と、
利用者との離隔距離を測定可能な測距部と、
を備え、
前記内部構造データには、前記建物内に設置された手摺の配置情報が含まれ、
前記利用者の現在位置が前記案内経路において前記手摺の無い位置である場合には、前記移動制御部は、当該利用者の側方に所定の近接距離を維持した状態で前記利用者と並行移動するように、前記移動機構を制御する、
移動体。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体であって、
前記利用者の現在位置が前記案内経路において前記手摺のある位置である場合には、前記移動制御部は、前記利用者より所定の離隔距離分、前記案内経路を先行して移動するように前記移動機構を制御する、
移動体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の移動体であって、
上方からの荷重を検知する荷重センサを備え、
前記利用者と並行移動中に前記荷重センサが上方からの荷重を検知しない場合に、自機を支えとすることを推奨する案内情報を出力する出力部を備える、
移動体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の移動体であって、
幅方向に並ぶように分割された一対の分割体から構成された本体部と、
一対の前記分割体を、当接状態と幅方向に離隔された離隔状態とに設定可能な分割体制御部と、
一対の前記分割体間に設けられ、一対の前記分割体が前記当接状態から前記離隔状態に移行するに連れて展開される折り畳み型の椅子と、
を備える、移動体。
【請求項5】
請求項4に記載の移動体であって、
前記椅子の展開完了時に、前記椅子に取り付けられたターゲットを検知可能な検知部と、
自機周辺を撮像可能な撮像部と、
前記撮像部による撮像画像を認識する画像認識部と、
を備え、
前記建物には、出入り口を引き戸とする居住スペースが複数設けられ、
前記画像認識部が、前記撮像部による撮像画像から前記引き戸を認識したときに、前記移動制御部は、前記引き戸の取手の側方に自機を移動させるように前記移動機構を制御し、
前記分割体制御部は、前記取手の側方に自機がいるときに、一対の前記分割体を前記当接状態から前記離隔状態に展開させて前記分割体を前記取手に当接させることで前記引き戸を開放方向に付勢する戸開制御を実行する、
移動体。
【請求項6】
請求項5に記載の移動体であって、
前記戸開制御の開始時点から所定時間経過しても前記検知部が前記ターゲットを検知しない場合に、前記分割体制御部は、前記引き戸が施錠されていると判定する、
移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、建物内で自律移動可能な移動体が開示される。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1のように、従来から、建物内にて道案内や警備を行う移動体(ロボット)が知られている。この移動体は経路探索部及びカメラを備える。移動体は、探索された経路に沿って移動する際に、周囲の様子が撮像された画像に基づいて、進行方向に存在する障害物や人物等を認識し、それらを避けながら自律的に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書では、建物内に配置される移動体であって、多機能に亘ったサービスが提供可能な、移動体が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する移動体は、内部構造記憶部、経路取得部、移動機構、移動制御部、及び測距部を備える。内部構造記憶部は、自機が配置された建物の内部構造データを記憶可能となっている。経路取得部は、内部構造データを参照し、自機位置を起点として利用者待機位置を経由して目的地を終点とする案内経路を取得する。移動機構は、前後左右への移動が可能となっている。移動制御部は、移動機構を制御する。測距部は、利用者との離隔距離を測定可能となっている。内部構造データには、建物内に設置された手摺の配置情報が含まれる。利用者の現在位置が案内経路において手摺の無い位置である場合には、移動制御部は、当該利用者の側方に所定の近接距離を維持した状態で利用者と並行移動するように、移動機構を制御する。
【0006】
上記構成によれば、利用者に目的地への経路を案内する案内サービスの実行時に、手摺の無い領域では移動体自身が手摺の役割を果たし、利用者の安全な移動が図られる。
【0007】
また上記構成において、利用者の現在位置が案内経路において手摺のある位置である場合には、移動制御部は、利用者より所定の離隔距離分、案内経路を先行して移動するように移動機構を制御してもよい。
【0008】
上記構成によれば、手摺のある領域では移動体が利用者に先行して移動することで、目的地までの経路が示される。
【0009】
また上記構成において、移動体は、上方からの荷重を検知する荷重センサを備えてもよい。また移動体は、利用者と並行移動中に荷重センサが上方からの荷重を検知しない場合に、自機を支えとすることを推奨する案内情報を出力する出力部を備えてもよい。
【0010】
上記構成によれば、移動体を支えとすることを躊躇する利用者に対して、積極的な利用が促される。
【0011】
また上記構成において、移動体は、本体部、分割体制御部、及び椅子を備えてもよい。本体部は、幅方向に並ぶように分割された一対の分割体から構成される。分割体制御部は、一対の分割体を、当接状態と幅方向に離隔された離隔状態とに設定可能となっている。椅子は、一対の分割体間に設けられ、一対の分割体が当接状態から離隔状態に移行するに連れて展開される、折り畳み型となっている。
【0012】
上記構成によれば、移動体を椅子及び車椅子として機能させることが可能となる。
【0013】
また上記構成において、移動体は検知部、撮像部、及び画像認識部を備えてもよい。検知部は、椅子の展開完了時に、椅子に取り付けられたターゲットを検知可能となっている。撮像部は、自機周辺を撮像可能となっている。画像認識部は、撮像部による撮像画像を認識する。建物には、出入り口を引き戸とする居住スペースが複数設けられる。画像認識部が、撮像部による撮像画像から引き戸を認識したときに、移動制御部は、引き戸の取手の側方に自機を移動させるように移動機構を制御する。分割体制御部は、取手の側方に自機がいるときに、一対の分割体を当接状態から離隔状態に展開させて分割体を取手に当接させることで引き戸を開放方向に付勢する戸開制御を実行する。
【0014】
上記構成によれば、巡回サービスの実行時に、移動体が自力で引き戸を開けることが可能となる。
【0015】
また上記構成において、戸開制御の開始時点から所定時間経過しても検知部がターゲットを検知しない場合に、分割体制御部は、引き戸が施錠されていると判定してもよい。
【0016】
上記構成によれば、移動体による巡回サービスの実行中に、引き戸の開錠/施錠が判定可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本明細書で開示される移動体によれば、建物内に配置された際に、多機能に亘ったサービスが提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る移動体であるロボットを含むロボットサービスシステムの概要を説明する図である。
【
図2】センターサーバ及びロボットのハードウェア構成を例示する図である。
【
図3】センターサーバ及びロボットの、案内サービスの提供時に用いられる機能ブロックを例示する図である。
【
図6】建物の内部構造データである平面図を例示する図である。
【
図7】本実施形態に係る移動体であるロボットの、当接状態の外観を例示する斜視図である。
【
図8】本実施形態に係るロボットの、離隔状態の外観を例示する斜視図である。
【
図9】本実施形態に係るロボットの、ライダーセンサ及びカメラの視野範囲を例示する平面図である。
【
図10】ビーコンによる位置検知システムを例示する図である。
【
図11】本実施形態に係るロボットによる、案内サービスフローを例示する図(1/2)である。
【
図12】本実施形態に係るロボットによる、案内サービスフローを例示する図(2/2)である。
【
図15】センターサーバ及びロボットの、巡回サービスの提供時に用いられる機能ブロックを例示する図である。
【
図16】本実施形態に係るロボットによる、巡回サービスフローを例示する図である。
【
図17】本実施形態に係るロボットによる、戸開制御実行時の動作例(戸開準備)を示す斜視図である。
【
図18】本実施形態に係るロボットによる、戸開制御実行時の動作例(戸開実行)を示す斜視図である。
【
図19】本実施形態に係るロボットによる、戸開制御実行時の動作例(室内移動)を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<ロボットサービスシステムの概要>
以下、図面を参照して、本実施形態に係る移動体であるロボット100を含む、ロボットサービスシステムが説明される。
図1には、ロボットサービスシステムの概要が例示される。本実施形態に係るロボットサービスシステムでは、建物50に移動体であるロボット100が配置される。一棟の建物50に複数台のロボット100が配置されてよい。
【0020】
また、建物50には、当該建物50に配置されている複数台のロボット100を管理するセンターサーバ10が設置される。センターサーバ10は例えば建物50の中央管理室に設置される。または、ロボット100の管理会社にセンターサーバ10が設置される。
【0021】
後述されるように、ロボット100は利用者を目的地に案内する案内サービスを提供可能となっている。加えてロボット100は、案内サービスの提供中に、手摺の無い領域を利用者が移動しているときには、利用者の傍らに寄り添って移動する並行移動が可能となっている。この並行移動中に利用者がロボット100を支えにして、言い換えるとロボット100を手摺代わりにすることで、利用者の移動の安全が図られる。
【0022】
また後述されるように、ロボット100は、建物50内の住戸を巡回して居住者の安否を確認する巡回サービスを提供可能となっている。加えてロボット100は、巡回サービスの提供時に、各住戸の出入り口に設けられた引き戸を自力で開放可能となっている。したがって、住戸訪問時に、居住者に引き戸の開放を依頼するような手間が省かれる。
【0023】
案内サービス及び巡回サービスは、特に高齢者にとって有用なサービスとなる。このことから、建物50は、高齢者が居住する集合住宅や施設であってよい。例えば建物50は、介護サービスの提供を受けることのできる高齢者向けの賃貸住宅である、サービス付き高齢者住宅や、老人ホームであってよい。
【0024】
<センターサーバ>
図2に、センターサーバ10のハードウェア構成が例示される。また
図3には、センターサーバ10の、主に案内サービスの提供に用いられる機能ブロックが例示される。センターサーバ10は、コンピュータ(電子計算機)であってよい。
【0025】
センターサーバ10は、そのハードウェア構成として、入出力コントローラ11、CPU12、ROM13、RAM14、ハードディスクドライブ15(HDD)、入力部16及び表示部17を備え、これらの構成部品が内部バス18に接続される。入力部16は、例えば
図1に例示されるようなキーボード16Aやマウス16Bを含む。また表示部17は例えばディスプレイである。
【0026】
ROM13、ハードディスクドライブ15、または、DVD等の非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された、案内サービス用プログラムをCPU12が実行することで、センターサーバ10には
図3に例示される機能ブロックが構成される。すなわちセンターサーバ10は、送受信部20、ロボット管理部21、利用者情報記憶部22、ロボット情報記憶部23、及び施設構造データ記憶部24を備える。
【0027】
利用者情報記憶部22には、本実施形態に係るロボットサービスの利用者情報が記憶される。
図4には、利用者情報記憶部22に記憶される項目が表形式で纏められた利用者情報テーブルが例示される。なお利用者とは、ロボット100による案内サービスの提供を受ける権限を有するものであって、例えば建物50の居住者が利用者に含まれる。
【0028】
利用者情報テーブルは、個別の利用者ごとに管理され、その項目として、利用者ID、利用者氏名、年齢、性別、居住室、主担当スタッフ、基礎疾患、家族連絡先、かかりつけ医、端末ID、及び利用者の顔画像が記録される。この利用者情報テーブルは、センターサーバ10が設置された建物50の管理室スタッフにより閲覧可能となっている。
【0029】
端末IDとは、利用者が使用できる情報端末機器(利用者端末)の識別番号を表している。例えばこの情報端末機器はタブレット型のコンピュータであってよい。後述されるように、案内サービスの利用に際して、利用者が当該情報端末機器に案内サービスの提供要請と、目的地とを入力することで、案内サービスを受けることが出来る。顔画像データは、ロボット100が利用者を認識するために用いられる。なお、利用者の現在位置を把握するために、利用者端末は後述されるビーコン受信器を備えていてもよい。
【0030】
図3を参照して、ロボット情報記憶部23には、建物50内の複数台のロボット100の情報が記憶される。
図5には、ロボット情報記憶部23に記憶される項目が表形式で纏められたロボットテーブルが例示される。ロボットテーブルは、個別のロボット100ごとに管理され、その項目として、ロボットID、稼働開始日、充電状態、及びスケジュールが記録される。このロボットテーブルは、センターサーバ10が設置された建物50の管理室スタッフにより閲覧可能となっている。
【0031】
スケジュールには、例えば後述される巡回サービスや定期メンテナンスの予定日時や実施階等が設定される。例えば実行中のスケジュールには、ハイライト表示枠33Aが施される。
【0032】
後述されるように、利用者から案内サービスの提供要請をセンターサーバ10が受信すると、センターサーバ10は、受信時点及びそこから所定時間(例えば1時間)に亘ってスケジュールが空いているロボット100を抽出し、その中から案内サービスを提供するロボット100を選択する。
【0033】
図3を参照して、施設構造データ記憶部24には、建物50の内部構造データが記憶される。例えばこの内部構造データは、
図6に例示されるような、建物50の各階の平面図が示された2D-CADデータであってよい。または、内部構造データは、3D-CADデータやBIMデータであってもよい。
【0034】
図6を参照して、この内部構造データには、水平面上で直交するX軸及びY軸と、鉛直軸であるZ軸とからなる直交座標系が設定される。そして内部構造データの各点は、この直交座標系上の座標点として認識される。例えば
図6では建物50の3階の平面図が示されており、左下の点A(0,0,10000)や右上の点B(30000,17000,10000)等が図示されている。各座標点の単位は例えばmmが用いられる。
【0035】
建物50には、高齢者が生活する居住スペース52が複数戸設けられる。これらの居住スペース52の出入り口には引き戸54が設けられる。後述されるように、引き戸54の取手56(
図17-
図19参照)にロボット100が当接することで引き戸54が開放される。
【0036】
また建物50の廊下には、移動補助のための手摺51が設けられる。
図6の内部構造データには、このような手摺51の配置情報も含まれる。後述されるように、ロボット100による案内サービスを受ける利用者が移動している領域に手摺があるか否かが、
図6のような内部構造データに基づいて判断される。
【0037】
図3に戻り、ロボット管理部21は、ロボット100のスケジュール管理や、案内サービスを提供するロボット100の選出等を行う。例えばロボット管理部21は、建物50内の巡回サービスの実施スケジュールを、建物50内の複数のロボット100に均等に割り振る。また、ロボット管理部21は、定期メンテナンスのスケジュールを、それぞれのロボット100の稼働時間に応じて設定する。
【0038】
さらに、ロボット管理部21は、建物50の居住者である利用者から案内サービスの要請を受けたときに、それぞれのロボット100のスケジュールをロボット情報記憶部23から参照する。そしてロボット管理部21は、案内サービスの要請受信時点及びそこから所定時間(例えば1時間)に亘ってスケジュールが空いているロボット100を抽出する。さらにロボット管理部21は、抽出されたロボット100の中から、最も利用者の近くにいるものを、案内サービスを提供するロボット100として選択する。
【0039】
<移動体>
図7、
図8には、本実施形態に係る移動体であるロボット100の外観が例示される。なお、
図7では分割体142,144が当接した当接状態が例示され、
図8では、分割体142,144が幅方向に離隔された離隔状態が例示される。また、
図7、
図8では、ロボット100の前方を正方向とするFR軸、ロボット100の鉛直方向を正方向とするUP軸、及び、ロボット100の幅方向をRW軸とする直交座標系が示される。
【0040】
ロボット100はパーソナルモビリティとも呼ばれる個人向けの移動体であり、その大きさは例えばLサイズ(60~79L)のスーツケースほどの大きさであってよい。また、案内サービスの提供中に手摺の代役として利用者を補助可能となるように、ロボット100の上面140Aの床からの高さは例えば60cm以上100cm以下となるように定められる。
【0041】
また、手摺の代役として利用者を支持可能となるように、ロボット100は十分な耐荷重性能を備える。例えばロボット100は、上方からの耐荷重上限が150kg以上250kg以下となるように、骨格部材等の剛性が定められる。
【0042】
なお、ロボット100の本体部140の上面140Aには、上方からの荷重を検知する荷重センサ114が設けられる。なお、上面140Aに荷重センサ114を設ける代わりに、ロボット100のサスペンション機構(図示せず)に荷重センサ114が設けられてよい。
【0043】
<移動体の移動機構>
図2には、ロボット100の移動機構が例示される。この移動機構は、いわゆる4輪独立駆動型のものであってよく、車輪101A~101D、回転電機102A~102D、及びインバータ103A~103Dを備える。
【0044】
車輪101A~101Dは、例えばメカナムホイール(登録商標)である。メカナムホイールの構造は既知のためここでは簡単に説明すると、ホイールの外周面に複数のローラが取り付けられる。このローラは、右前輪の車輪101B及び左後輪の101Cについては、車輪軸に対して+45°の角度でホイールに取り付けられる。一方、左前輪の車輪101A及び右後輪の車輪101Dについては、車輪軸に対して-45°の角度でローラがホイールに取り付けられる。いずれのローラも、ホイールに対して空転可能となっている。
【0045】
このような車輪の配置で、例えば右前輪101Bと左後輪101Cを回転電機102B,102Cで前方回転させると、ロボット100が左斜め前方に進む。同様にして、左前輪101Aと右後輪101Dを回転電機102A,102Dで前方回転させると、ロボット100が右斜め前方に進む。
【0046】
さらに全ての車輪101A-101Dを前方回転させると、斜め方向の推進力が打ち消し合ってロボット100が前進する。同様にして全ての車輪101A-101Dを後方回転させると、ロボット100は後退する。
【0047】
さらに、左前輪101A及び右後輪101Dを前方回転させ、右前輪101B及び左後輪101Cを後方回転させると、ロボット100は姿勢を維持したまま(前を向いたまま)右に進む。同様にして左前輪101A及び右後輪101Dを後方回転させ、右前輪101B及び左後輪101Cを前方回転させると、ロボット100は姿勢を維持したまま左に進む。
【0048】
さらに、右前輪101B及び右後輪101Dを前方回転させ、左前輪101A及び左後輪101Cを後方回転させると、ロボット100は姿勢を変えながら反時計周りに回転する。同様にして、右前輪101B及び右後輪101Dを後方回転させ、左前輪101A及び左後輪101Cを前方回転させると、ロボット100は姿勢を変えながら時計周りに回転する。
【0049】
このように車輪101A-101Dの回転をそれぞれ独立に変化させることで、ロボット100は前後左右移動及び回転移動することが出来る。インバータ103A-103Dを通じて回転電機102A-102Dの駆動を制御することで、車輪101A-101Dの回転がそれぞれ独立に制御可能となる。
【0050】
加えて、左前輪101A及び左後輪101Cをロックして、右前輪101Bを後方回転、右後輪101Dを前方回転させると、
図7から
図8のように、分割体142が分割体144から幅方向に離隔される。このような分割体142,144の展開に当たり、車輪101A-101Dを確実にロック可能とするために、例えばロック機構が回転電機102A-102Dに設けられてよい。
【0051】
また、車輪101A-101Dは、メカナムホイールに限らない。例えば車輪101A-101Dを通常のゴム車輪として、これらの車輪101A-101Dにそれぞれ独立の操舵機構が設けられてもよい。
【0052】
<移動体の椅子機構>
図7、
図8に例示されるように、ロボット100の本体部140は、幅方向に並ぶように分割された分割体142,144を備える。さらに分割体142,144の間には折り畳み型の椅子150が設けられる。
【0053】
例えばこの椅子150は、一対の椅子セグメント152A,152Bと、ヒンジ機構(図示せず)を備える。例えば椅子セグメント152A,152Bの幅方向外端に、分割体142,144のそれぞれと接続されるヒンジ機構が設けられる。さらに椅子セグメント152A,152Bの幅方向内側に、互いを接続するヒンジ機構が設けられる。例えばこれらのヒンジ機構による回転軸は前方軸(FR軸)と平行となる。また分割体142,144のそれぞれ対向面には、椅子セグメント152A,152Bを収納可能な収納スペース155が設けられる。
【0054】
また例えば、椅子セグメント152Aの底面であって、その幅方向端部には、ターゲット157が設けられる。ターゲット157は例えば永久磁石を備える。さらに分割体142の、分割体144との対向面142Bには、磁気センサ115が設けられる。例えば収納スペース155の下方に磁気センサ115が設けられる。
【0055】
磁気センサ115は椅子150の展開が完了したか否かを判定する検知部として機能する。
図8に例示されるように、分割体142,144が当接状態(
図7)から離隔状態(
図8)に展開されることで、折り畳まれた状態の椅子150が展開する。
図8のように椅子150の展開が完了すると、ターゲット157と磁気センサ115とが近接対向し、磁気センサ115はターゲット157を検知する。ロボット100の制御部120(
図2参照)は、磁気センサ115からの磁気検知信号を受信すると、利用者に対して着座を促すアナウンス音声をスピーカ116から出力する。
【0056】
また、
図8を参照して、ロボット100を車椅子として利用することを念頭に、ロボット100にはフットレスト160A,160Bが設けられていてもよい。このフットレスト160A,160Bは、ばね等の付勢手段により、分割体142,144の展開に伴って自動で展開されてもよいし、また利用者により手動で引き出されてもよい。
【0057】
<移動体のセンサ機構>
図2を参照して、ロボット100は、自律移動を可能とするためのセンサ機構として、カメラ111A,111B、ライダーセンサ112A-112D、及びビーコン受信機113を備える。
【0058】
ライダーセンサ112A-112Dは、ロボット100の周辺にある物体との距離を測定する測距部である。ライダーセンサ112A-112Dは、ライダー(LiDAR、Light Detection and Ranging)、すなわちレーザー光を用いて周辺物体との距離を測定する技術が用いられる。
【0059】
ライダーセンサ112A-112Dは、例えばソリッドステート型であって、赤外線のレーザー光を車外に向かって照射するエミッタと、その反射光を受光するレシーバ、並びにレーザー光の照射角を制御するレンズ及びミラーが、半導体基板上に実装される。
【0060】
図9には、ライダーセンサ112A-112D及びカメラ111A,111Bのそれぞれの視野角が例示される。ライダーセンサ112A-112Dは、ロボット100の四隅に設けられ、ロボット100の幅方向(側方)に視野角が設定される。さらに
図7を参照して、ライダーセンサ112A-112Dは、例えばロボット100のいわゆる足元に取り付けられる。具体的には、本体部140の、各車輪101A-101Dを覆うホイールスカートにライダーセンサ112A-112Dが設けられる。つまりロボット100の足元の4隅にライダーセンサ112A-112Dが設けられる。ライダーセンサ112A-112Dの床からの高さは例えば5cm以上20cm以下であってよい。
【0061】
ライダーセンサ112A-112Dをこのようにロボット100の足元に設置することで、後述される
図14のような並行移動の際に、利用者80の足からの離隔距離が精度よく測定可能となり、巻き込みが防止できる。
【0062】
ロボット100は、カメラ111A,111Bにより、自機周辺を撮像可能となる。カメラ111A,111Bは、それぞれロボット100の前後に取り付けられる撮像部である。カメラ111A,111Bは、例えばCMOSセンサやCCDセンサ等のイメージセンサを備える。さらにカメラ111A,111Bは、視野内の物体の距離(奥行情報)を測定可能となるように、例えばいわゆるRGB-Dカメラであってよい。例えばRGB-Dカメラは、ステレオカメラであったり、RGBカメラに測距用の赤外線センサが付加されたカメラであってよい。
【0063】
ライダーセンサ112A-112D及びカメラ111A,111Bにより、ロボット100の周辺状況が認識可能となる。
図9に例示されるように、ロボット100の幅方向の視野は、近距離用のライダーセンサ112A-112Dによってカバーされる。またロボット100の前後方向の視野は、遠距離用のカメラ111A,111Bによってカバーされる。
【0064】
また、後述される、案内サービス提供時における並行移動において、利用者80の足元からの離隔距離を測定可能となるように、距離d1で示されるライダーセンサ112A-112Dの死角は、並行移動時の離隔距離k2[cm](後述される)よりも短くなるように、ライダーセンサ112A-112Dの視野角及び配置が定められる。
【0065】
図2を参照して、ビーコン受信機113は、建物50内のどこにロボット100が位置するかを検知するための自己位置検知手段である。
図10を参照して、ビーコン受信機113は、屋内測位装置のビーコン発信機52A-52Iからの信号を受信する。ビーコン発信機52A-52Iは、建物50の各フロアに複数均等配置される。ビーコン発信機52A-52Iのそれぞれから、自機が設置された場所の3次元座標を含む位置信号が送信される。この位置信号をビーコン受信機113が受信する。また、各ビーコン発信機52A-52Iからの位置信号の受信強度に基づけば、発信機間の位置も推定可能となる。
【0066】
<移動体の制御部>
図2を参照して、ロボット100は、電子コントロールユニットとして制御部120を備える。例えば制御部120はコンピュータから構成される。制御部120は、外部の機器と通信するためのインターフェースとして、入出力コントローラ121を備える。また制御部120は、演算素子として、CPU122、GPU123(Graphics Processing Unit)、及びDLA124(Deep Learning Accelerators)を備える。また制御部120は、記憶部として、ROM125、RAM126、及びハードディスクドライブ127(HDD)を備える。これらの構成部品は内部バス128に接続される。
【0067】
ROM125、ハードディスクドライブ127、または、DVD等の非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された、自律移動制御を行うためのプログラムを実行することで、制御部120には
図3に例示される機能ブロックが構成される。なお
図3では、主に案内サービスの提供に要する機能ブロックが図示されており、当該サービスの提供時には利用されない機能ブロックについては適宜図示が省略される。
【0068】
また、ロボット100が建物50内の複数階に亘って移動する場合には、建物50のエレベータを管理する管理装置と通信可能なエレベータ通信部(図示せず)が制御部120に設けられる。
【0069】
図3に例示されるように、制御部120は、機能ブロックとして送受信部130、案内経路取得部131、荷重判定部132、画像認識部133、ライダーデータ解析部134、自己位置推定部135、及び自律走行制御部136(移動制御部)を備える。また制御部120は、記憶部として、内部構造記憶部137及び利用者情報記憶部138を備える。
【0070】
内部構造記憶部137には、ロボット100が配置された建物50の内部構造データが記憶される。また利用者情報記憶部138には、案内サービスの利用者を認識するための、利用者認識情報(顔画像、氏名)が記憶される。例えばこれらの内部構造データ及び利用者認識情報は、センターサーバ10から送信される。
【0071】
画像認識部133は、ロボット100の周辺物体の属性認識及び離隔距離測定が可能となっている。画像認識部133は、カメラ111A,111Bが撮像した撮像画像を取得する。画像認識部133は、取得した撮像画像に対して、教師有り学習を用いたSSD(Single Shot Multibox Detector)やYOLO(You Only Look Once)といった既知のディープラーニング手法を利用した画像認識を行う。この画像認識により、撮像画像内の物体検出とその属性(人物、構造物等)の認識が行われる。
【0072】
さらに画像認識部133は、カメラ111A,111Bから奥行情報である測距データを取得し、検出された物体の、ロボット100からの離隔距離を求める。例えば画像認識部133には、ディープラーニングを用いた画像認識が可能となるように、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が実装されている。
【0073】
ライダーデータ解析部134は、ロボット100の幅方向(側方)の物体との距離を求める。また例えばカメラ111A,111Bとの解析結果を応用して、ライダーセンサ112A-112Dが捉えた物体の属性を推定する。
【0074】
例えばロボット100が走行中に、カメラ111Aによる撮像画像に基づいて、画像認識部133が前方にいる人物を認識した際に、その人物の3次元座標点(より正確に言えば3次元座標点群)が取得される。この3次元座標点は、例えば建物50の所定の点を原点に取るワールド座標系に基づく座標点であってよい。
【0075】
ロボット100がその人物を横切り、カメラ111Aの視界から当該人物が外れる。このとき、ライダーデータ解析部134は、カメラ111Aの視界から人物が外れた直後のライダーセンサ112A-112Dが測定した3次元座標点を取得する。さらにライダーデータ解析部134は、取得した3次元座標点のうち、カメラ111Aの視界から外れる直前の人物の3次元座標に最も近似した座標点を、当該人物の位置を示す3次元座標点と推定する。
【0076】
自己位置推定部135は、ビーコン受信機113が受信した、ビーコン発信機52A-52I(
図10参照)の信号強度を解析して、ロボット100の自己位置を求める。この自己位置は、上述したワールド座標系における3次元座標で示される。
【0077】
自律走行制御部136は、車輪101A-101D、回転電機102A-102D、インバータ103A-103Dを含む移動機構を制御する移動制御部である。自律走行制御部136は、画像認識部133からロボット100の前後方向の物体属性及び離隔距離情報を取得する。また自律走行制御部136は、ライダーデータ解析部134から、ロボット100の幅方向(側方)の物体との離隔距離情報を取得する。さらに自律走行制御部136は、自己位置推定部135から、建物50内における自己位置情報(3次元座標情報)を取得する。
【0078】
加えて自律走行制御部136は、案内経路取得部131が作成した案内経路(後述される)と自己位置をもとに、大域的な進路を定める。さらに自律走行制御部136は、画像認識部133及びライダーデータ解析部134から得られた周辺データに基づいて、前方の障害物を避ける等の、局所的な進路を定める。自律走行制御部136は、これらの進路に従って、インバータ103A-103Dを駆動させるスイッチング信号を生成及び出力する。
【0079】
<案内サービスフロー>
図11、
図12には、本実施形態に係るロボットサービスシステムによる、案内サービスの提供フローが例示される。なお
図11、
図12には、それぞれのステップの実行主体が示される。センターサーバ10により実行されるステップは<S>で示され、ロボット100により実行されるステップは<R>で示される。
【0080】
このフローでは、
図13のように、ロボット100が利用者80を目的地まで案内する。この案内の過程で、利用者80の現在位置が、建物50内の手摺51のある位置である場合には、ロボット100は利用者80の前を走行し、利用者を先導する。
【0081】
一方、
図14のように、利用者80の現在位置が、建物50内の手摺51の無い位置である場合には、ロボット100は利用者80の側方に、所定の近接距離を維持した状態で、利用者80と並行移動する。利用者80の傍らにロボット100が付き添うことで、利用者80はロボット100を支えとして、つまり手摺の代わりとして利用することが出来る。
【0082】
図3及び
図11を参照して、建物50の居住者である利用者80が、自身が所有する利用者端末を操作して、案内サービスの要請及び目的地を入力する。利用者端末から、案内サービスの要請指令を受けたセンターサーバ10の送受信部20は、利用者ID、利用者の現在位置、及び目的地の情報を利用者端末から受信する(S10)。
【0083】
または、利用者80は、建物50の管理者やスタッフに対して、電話等により、案内サービスの要請、氏名、現在地及び目的地を伝えることで、
図11のフローが開始されてもよい。この場合、電話を受けたスタッフが、利用者80の氏名、現在地及び目的地をセンターサーバ10に入力する。
【0084】
センターサーバ10のロボット管理部21は、利用者80の現在位置(利用者待機位置)を送受信部20から取得する。さらにロボット管理部21は、ロボット情報記憶部23に記憶された各ロボット100のスケジュールを参照して、案内サービス要請を受けた受信時点から所定の時間(例えば1時間)に亘ってスケジュールが空いている、つまり待機状態のロボット100を抽出する。さらにロボット管理部21は、待機状態のロボット100と通信して、それぞれの現在位置を取得し、利用者待機位置に最も近い位置にいるロボット100を案内役に指定する(S12)。
【0085】
例えばロボット管理部21は、各ロボット100及び利用者待機位置の3次元座標と、施設構造データ記憶部24に記憶された、建物50の内部構造データに基づいて、利用者待機位置までの走行距離が最も短いロボットを探索し、当該ロボット100を案内役に指定する。指定されたロボット100のID(ロボットID)が送受信部20に送られる。
【0086】
さらに送受信部20は、利用者情報記憶部22に記憶された利用者情報から、利用者端末から受信した利用者IDを持つ利用者80の顔画像及び氏名のデータ(利用者認識情報)を取得する。
【0087】
送受信部20は、利用者待機位置、目的地、及び利用者認識情報を含む、案内サービス提供指令を、案内役に指定されたロボット100に送信する(S14)。これを受けてロボット100の案内経路取得部131は、内部構造記憶部137に記憶された建物50の内部構造データを参照して、自身の現在位置(自機位置)を起点とし、利用者待機位置をピックアップ地点(経由地点)として、目的地を終点とする案内経路を作成する(S16)。この案内経路は、例えば
図6に例示される平面図に案内動線が記されたものであってよい。
【0088】
なお、ロボット100の制御部120が案内経路を作成する代わりに、センターサーバ10が案内経路を作成し、これをロボット100に送信してもよい。
【0089】
自律走行制御部136は、取得した案内経路に基づいて、利用者待機位置まで移動する(S18)。利用者待機位置に到着すると、画像認識部133は、カメラ111A,111Bが撮像した撮像画像に対して画像認識を行い、利用者80の有無を判定する(S20)。
【0090】
例えば画像認識部133は、撮像画像から、人物を認識された画素領域を抽出する。さらに画像認識部133は、利用者情報記憶部138に記憶された利用者80の顔画像を入力したときの出力が、利用者80の氏名(確度100%)とするニューラルネットワークを構築する。さらに画像認識部133は、撮像画像から人物として抽出された複数の画素領域を当該ニューラルネットワークにそれぞれ入力して、出力層において、利用者80の氏名の確度が最大のものを抽出し、さらにその確度が所定割合以上(例えば80%以上)である場合に、利用者80を認識したものと判定する。
【0091】
上記の認識処理において、利用者80を認識できなかった場合には、画像認識部133は送受信部130を介してセンターサーバ10に不在通知を送信する(S22)。センターサーバ10では建物50の管理者の端末機器等に、利用者80の不在により案内サービスの提供ができない旨の異常報告を送る(S24)。
【0092】
一方、ステップS20にて画像認識部133が利用者80を認識できた場合には、自律走行制御部136は、案内開始通知を出力して案内走行を開始する(S26)。案内開始通知として、自律走行制御部136は、例えば案内開始のアナウンス音声をスピーカ116から出力する。
【0093】
自律走行制御部136は、自己位置推定部135から取得した自己位置と、カメラ111A,111B及びライダーセンサ112A-112Dから得られた、ロボット100と利用者80との離隔距離とに基づいて、利用者80の現在位置(3次元座標)を求める。さらに自律走行制御部136は、内部構造記憶部137に記憶された建物50の内部構造データを参照して、利用者80の現在位置が建物50内の手摺51(
図13参照)有りの領域に含まれるか否かを判定する(S28)。
【0094】
利用者80の現在位置が手摺51有りの領域に含まれる場合、荷重判定部132は、荷重センサ114が上方からの荷重を検知したか否かを判定する(S30)。これは、利用者80がロボット100を手摺代わりに利用している場合に、手を放してもらう必要があるためである。荷重判定部132が上方からの荷重を検知した場合、例えば1kg以上の荷重を検知した場合に、自律走行制御部136は、建物50の手摺51の使用を促す通知を出力する(S32)。例えば自律走行制御部136は、手摺51の使用を促すアナウンス音声をスピーカ116から出力する。その後ステップS30に戻り、荷重判定部132による荷重判定が再度行われる。
【0095】
荷重センサ114が上方からの荷重を検知しない場合、例えば荷重センサ114の計測値が1kg未満である場合に、自律走行制御部136は、ロボット100に対して、利用者80を先導する先導走行を行わせる。
【0096】
すなわち自律走行制御部136は、ロボット100を、利用者80の足元から所定の離隔距離k1[cm]を保って、利用者80に先行して走行させる(S34)。離隔距離k1[cm]は例えば80cm以上1m50cm以下であってよい。利用者80の足元との離隔距離はライダーセンサ112A~112Dやカメラ111A,111Bにより測定される。
【0097】
さらに自律走行制御部136は、自己位置推定部135から取得した自己位置(3次元座標)及び案内経路の目的地(3次元座標)を比較して、ロボット100が目的地に到着したか否かを判定する(S36)。まだ目的地に着いていない場合には案内サービスフローがステップS28まで戻る。目的地に到着した場合には、自律走行制御部136は、案内終了通知を出力する(S38)。例えば自律走行制御部136は、目的地に到着した旨のアナウンス音声をスピーカ116から出力する。
【0098】
ステップS28に戻って、利用者80の現在位置が手摺51無しの領域に含まれる場合、自律走行制御部136は、ロボット100に対して、利用者80の側方を並行移動させる。
【0099】
具体的に自律走行制御部136は、カメラ111A,111B及びライダーセンサ112A-112Dにより、利用者80の足元から離隔距離k2[cm]を保って、利用者80の側方を並走する(S40)。なお、離隔距離k2[cm]は、例えば10cm以上30cm以下の値に設定される。
【0100】
このとき、荷重判定部132は、上方からの荷重の有無を判定する(S42)。例えば、荷重センサ114が1kg以上の荷重を検知したか否かを判定する。上方からの荷重有りと荷重判定部132により判定されると、
図12のフローはステップS36に進む。
【0101】
一方、ステップS42にて、上方からの荷重無し(例えば検知した荷重が1kg未満である)と判定されると、自律走行制御部136は、ロボット100を手摺代わりに利用することを促す案内情報を出力する(S44)。例えば自律走行制御部136は、ロボット100を手摺代わりに利用することを進めるアナウンス音声を、出力部であるスピーカ116から出力する。
【0102】
このように、本実施形態に係るロボットサービスシステムでは、利用者を目的地まで案内する案内サービスに加えて、ロボット100が手摺51の代役を果たす。これにより、手摺51の無い領域における利用者の安全が図られる。
【0103】
なお、ロボット100を手摺代わりとして利用する並行移動の際には、利用者を案内するために、例えば自律走行制御部136は、経路を案内するアナウンス音声をスピーカ116から出力する。
【0104】
<巡回サービス>
本実施形態に係るロボットサービスシステムでは、上記のような案内サービスに加えて、建物50内を巡回する巡回サービスの提供が可能となっている。巡回サービスでは、建物50内の居住者の安否確認が行われる。
図15には、主に巡回サービスの提供に要する、センターサーバ10及びロボット100の機能ブロックが例示される。
【0105】
ここで、
図2を参照して、ROM13,125、ハードディスクドライブ15,127、または、DVD等の非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された、案内サービス用プログラムをCPU12,122が実行することで、センターサーバ10及びロボット100には、
図15に例示される機能ブロックが構成される。
【0106】
図15の機能ブロックのうち、
図3と重複するものは、その機能が同一であることから、ここでは適宜説明が省略される。
図3との差異点として、
図15のセンターサーバ10では、施設構造データ記憶部24の図示が省略される。またロボット100では、荷重センサ114の代わりに磁気センサ115及び時計117が図示される。また制御部120では、荷重判定部132に代えて椅子判定部171及び分割体制御部170が設けられる。後述されるように、分割体制御部170は、分割体142,144を当接状態(
図7)と離隔状態(
図8)とに設定可能となっている。また制御部120では、案内経路取得部131に代えて、巡回経路取得部172が設けられる。
【0107】
また、図示は省略されるが、巡回の範囲が建物50内の複数階に亘る場合には、建物50のエレベータを管理する管理装置と通信可能なエレベータ通信部(図示せず)が制御部120に設けられる。
【0108】
センターサーバ10では、ロボット管理部21が管理下にある複数のロボット100に対して、巡回サービスを含むスケジュールを立てる。このスケジュールには、巡回の対象フロアや訪問する住戸の部屋番号等が記録される。
【0109】
ロボット管理部21は、このスケジュールを各ロボット100に送信する。スケジュールの送信に当たり、訪問先の住戸について、部屋番号、居住者の顔画像、及び氏名等の利用者情報もロボット100に送信される。
【0110】
ロボット100は、時計117の時刻を参照し、巡回サービスの開始時刻に至ると、
図16に例示される巡回サービスフローを実行する。まずロボット100は、巡回対象フロアに移動する(S40)。例えば図示しないエレベータ通信部がエレベータの管理装置と通信して、ロボット100が現在所在するフロア及び目的地フロアを管理装置に送信する。管理装置は使用するエレベータの機器番号をエレベータ通信部に送信する。受信した機器番号のエレベータまでロボット100が移動すると、エレベータが巡回対象フロアまでロボット100を運ぶ。
【0111】
さらに巡回経路取得部172は、内部構造記憶部137に記憶された、建物50の内部構造データを参照して、巡回対象フロアにおける居住スペース52の位置や住戸数を確認する。さらに巡回経路取得部172は、センターサーバ10から送られた、利用者の部屋番号から、巡回対象住戸を設定する(S42)。例えば巡回経路取得部172は、巡回対象フロアにおける空き部屋を、巡回対象住戸から除外した、巡回経路データを作成して、自律走行制御部136に送信する。巡回経路データは、例えば
図6の平面図データに、巡回の動線が加えられたデータであってよい。
【0112】
なお、ロボット100の制御部120が巡回経路データを作成する代わりに、センターサーバ10が巡回経路データを作成し、これをロボット100に送信してもよい。
【0113】
自律走行制御部136は、巡回経路データに基づいて巡回走行を開始する。巡回走行中に、画像認識部133が、巡回対象住戸の玄関ドアである引き戸54(
図17参照)を画像認識する(S44)と、自律走行制御部136は、引き戸54の取手56にロボット100を横付け移動する(S46)。
【0114】
取手56への横付けに際して、画像認識部133により、引き戸54が右引き型であるか左引き型であるかが判定される。例えば画像認識部133は、引き戸54の板面に対する取手56の位置に応じて、引き戸54が右引き型であるか左引き型であるかを判定する。引き戸54が右引き型である場合には、自律走行制御部136は、取手56の左側にロボット100を横付け移動させる。同様にして、引き戸54が左引き型である場合には、自律走行制御部136は、取手56の右側にロボット100を横付け移動させる。
【0115】
さらに分割体制御部170は、椅子展開を利用した戸開制御を実行する(S48)。具体的には、分割体制御部170は、自律走行制御部136を介して、分割体144を固定するために、左前輪101A(
図7参照)及び左後輪101Cをロックする。さらに分割体制御部170は、自律走行制御部136を介して、右前輪101Bを後方回転させかつ右後輪101Dを前方回転させ、分割体142を幅方向(横方向)に移動させる。
【0116】
これにより、固定された分割体144に対して分割体142が幅方向に離隔される。このとき、分割体142の側面142Aに取手56が当接する。この状態でさらに本体部140の展開が進行すると、
図18に例示されるように、引き戸54が開放方向に付勢される。
【0117】
このとき、椅子判定部171は、磁気センサ115(
図8参照)がターゲット157を検知したか否か、つまり椅子150の展開が完了したか否かを判定する(S50)。
【0118】
磁気センサ115がターゲット157を検知しない場合、椅子判定部171は、ステップS50の判定時点が、戸開制御の実行開始時点から所定の待機時間を経過したものであるか否かを判定する(S70)。判定時点が待機時間を経過したものでない場合、
図16のフローはステップS50まで戻る。
【0119】
一方、判定時点が待機時間を超過したものである場合、施錠された引き戸54の取手56に分割体142が引っ掛かり、本体部140の展開が妨げられているおそれがある。このような場合には、椅子判定部171は引き戸54が施錠され、椅子展開が出来なかった旨の信号を分割体制御部170に送信する。さらに分割体制御部170は送受信部130を介して、センターサーバ10に、訪問先の部屋番号と施錠通知を送信する(S72)。
【0120】
さらに自律走行制御部136は、全ての巡回対象住戸を巡回したか否かを判定し(S66)、巡回が完了している場合には
図16の巡回フローが終了する。一方、巡回対象住戸が残っている場合には、次の巡回対象住戸に移動し(S68)、巡回フローはステップS44まで戻る。
【0121】
ステップS50に戻り、磁気センサ115がターゲット157を検知した場合、椅子判定部171は分割体制御部170に、椅子150の展開が完了した旨の信号を分割体制御部170に送信する。分割体制御部170は、引き戸54が開放された旨の信号を自律走行制御部136に送信する。またこれに加えて、ロボット100の前方のカメラ111Aの撮像画像を取得して、画像認識部133により、居住スペース52内の画像が撮像されているか否かが判定されることで、引き戸54の開放有無が判定されてもよい。
【0122】
自律走行制御部136は、引き戸54の開放を受けて、ロボット100を離隔状態(展開状態)から当接状態(収容状態)に戻す。具体的には、分割体142側の車輪である、右前輪101B及び右後輪101Dがロックされる。さらに分割体144側の車輪である、左前輪101Aが前方回転され、かつ、左後輪101Cが後方回転される。このような車輪駆動により分割体144が分割体142側に移動する。
【0123】
分割体144が分割体142と当接すると、
図19に例示されるように、自律走行制御部136は、出入口57から居住スペース52に進入する(S52)。さらに画像認識部133は、居住スペース52内の居住者を画像認識する(S54)。画像認識後、自律走行制御部136は、声掛けを実行する(S56)。例えば自律走行制御部136は、居住者の氏名を呼びかけるアナウンス音声をスピーカ116から出力する。
【0124】
さらに画像認識部133は、声掛けに対する居住者の反応有無を判定し、その判定結果をセンターサーバ10に送信する(S58)。その後自律走行制御部136は、ロボット100を玄関ドアである引き戸54の、室内側の取手56に横付け移動して(S60)、上述のような戸開制御を実行する(S62)。引き戸54が開放されると、分割体制御部170は、分割体142,144を当接状態に戻す。さらに自律走行制御部136は、出入口からロボット100を、巡回対象住戸である居住スペース52の外に、つまり廊下に退出させる(S64)。
【0125】
上記の巡回サービスによれば、巡回対象住戸への訪問及び退出に当たり、ロボット100が自力で引き戸54を開放する。これにより、居住者に引き戸54の開放を依頼する必要が無くなる。さらに引き戸54の開放に当たり、椅子150の展開に用いられる機構がそのまま利用され、引き戸54を開放するために、ロボット100に部品を新規に追加する必要が無い。
【0126】
<椅子機構の別例>
上述した実施形態では、左側の車輪101A,101Cと、右側の車輪101B,101Dの一方をロック状態とし、他方を回転させることで椅子150の展開を図っていたが、本実施形態に係るロボット100(移動体)は、この形態に限られない。例えば、椅子セグメント152A,152Bの折り畳みや展開を行うモータが別途設けられてもよい。この場合、椅子150の展開時には、展開を妨げないように、車輪101A~101Dはフリー状態に制御される。
【0127】
また、引き戸54の開放時には、引き戸54が右開きの場合には、左側の車輪101A,101Cがロック状態に制御されるとともに、右側の車輪101B,101Dがフリー状態となる。同様にして、引き戸54が左開きの場合には、右側の車輪101B,101Dがロック状態に制御されるとともに、左側の車輪101A,101Cがフリー状態となる。
【符号の説明】
【0128】
10 センターサーバ、21 ロボット管理部、22,138 利用者情報記憶部、23 ロボット情報記憶部、24 施設構造データ記憶部、50 建物、51 手摺、52 居住スペース、52A-52I ビーコン発信機、54 引き戸、56 取手、57 出入口、80 利用者、100 ロボット(移動体)、101A-101D 車輪、102A-102D 回転電機、103A-103D インバータ、111A,111B カメラ(撮像部)、112A-112D ライダーセンサ(測距部)、113 ビーコン受信機、114 荷重センサ、115 磁気センサ(検知部)、116 スピーカ(出力部)、120 制御部、131 案内経路取得部、132 荷重判定部、133 画像認識部、134 ライダーデータ解析部、135 自己位置推定部、136 自律走行制御部(移動制御部)、137 内部構造記憶部、142,144 分割体、150 椅子、152A,152B 椅子セグメント、157 ターゲット、170 分割体制御部、171 椅子判定部、172 巡回経路取得部。