(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187570
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
H05B 33/12 20060101AFI20221213BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H05B33/12 C
H05B33/14 A
H05B33/22 B
H05B33/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095619
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼谷 格
(72)【発明者】
【氏名】塩原 悟
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107BB03
3K107BB04
3K107BB08
3K107CC33
3K107CC45
3K107DD52
3K107DD53
3K107DD72
3K107DD75
3K107DD76
3K107DD80
3K107DD84
3K107DD86
3K107EE03
3K107EE22
3K107EE28
3K107EE61
3K107EE63
3K107EE68
3K107FF14
3K107GG04
(57)【要約】
【課題】扱いが容易なアルカリ金属化合物を用い、良好な電子注入性を有する中間層を備えた積層型の有機EL素子を提供する。
【解決手段】本開示は、陽極3と陰極4との間に、中間層20を挟んで2層の有機エレクトロルミネッセンス層10a,10bを有する積層型の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、中間層20がアルカリ金属化合物、前記アルカリ金属化合物の還元体、周期律表第2族金属元素とを含有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極間に配置された、中間層を介して重なる少なくとも2層の有機エレクトロルミネッセンス層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層が、アルカリ金属化合物と、前記アルカリ金属化合物の還元体と、周期律表第2族金属元素と、を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記中間層が、前記アルカリ金属化合物と前記第2族金属元素との共蒸着層であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記中間層が、前記アルカリ金属化合物と、前記アルカリ金属化合物の還元体と、前記第2族金属元素のみからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記中間層よりも陽極側に位置する前記有機エレクトロルミネッセンス層が、前記中間層に接する電子注入層を有し、前記電子注入層は、前記中間層に含有されるアルカリ金属化合物と、前記アルカリ金属化合物の還元体と、を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記電子注入層は、前記アルカリ金属化合物の単独蒸着層であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記中間層に含まれる前記第2族金属元素が75体積%以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記アルカリ金属化合物が、ハロゲン化リチウム、リチウムキノリノール錯体のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記アルカリ金属化合物が、フッ化リチウム、フッ化カリウムのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記アルカリ金属化合物が、炭酸セシウムであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記第2族金属元素がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記第2族金属元素がマグネシウムであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記中間層よりも陰極側に位置する前記有機エレクトロルミネッセンス層が、前記中間層に接する正孔注入層を有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有することを特徴とする電子写真方式の画像形成装置の露光光源。
【請求項14】
複数の画素を有し、前記複数の画素の少なくとも一つが、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする表示装置。
【請求項15】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子に接続されたトランジスタを有することを特徴とする請求項14に記載の表示装置。
【請求項16】
複数のレンズを有する光学部と、前記光学部を通過した光を受光する撮像素子と、前記撮像素子が撮像した画像を表示する表示部と、を有し、
前記表示部は請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項17】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する表示部と、前記表示部が設けられた筐体と、前記筐体に設けられ、外部と通信する通信部と、を有することを特徴とする電子機器。
【請求項18】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する光源と、前記光源が発する光を透過する光拡散部、光学フィルターの少なくとも一方と、を有することを特徴とする照明装置。
【請求項19】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する灯具と、前記灯具が設けられた機体と、を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光素子の一つである有機エレクトロルミネッセンス素子と、該素子を用いた機器、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、一対の電極と、該一対の電極間に挟持された発光層と、を有する有機EL層に通電させることにより光を放出する発光素子である。近年、白色発光の有機EL素子と、赤、緑、青のカラーフィルターとを組み合わせたフルカラー発光アレイの開発が行われている。白色発光の有機EL素子は、1つの有機EL層の中に赤、緑、青にそれぞれ発光する発光ドーパントを共存させて白色発光を得る単層型の有機EL素子と、赤、緑、青それぞれに発光する有機EL層を積層した積層型の有機EL素子に大別される。積層型の有機EL素子においては、複数層の有機EL層同士を直列で接続するため、2層の有機EL層間に電荷発生層もしくは中間電極層と呼ばれる中間層を介在させる構成が知られている。白色発光の有機EL素子は、画素毎に塗り分けられていないため、中間層が電気的に低抵抗の場合、該中間層を通じて隣接する画素が発光してしまうため、高抵抗の中間層の開発が進められている。
特許文献1には、中間層に導電性有機化合物や、アルカリ金属をドープした有機化合物を用いた構成が開示されている。また、特許文献2には、アルカリ金属化合物をドープした有機化合物層と、周期律表第2族金属元素をドープした有機化合物層の積層構成を有することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-45676号公報
【特許文献2】特表2015-518287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている有機EL素子では、中間層としてアルカリ金属を用いているが、アルカリ金属は大気中の水分と反応しやすく扱いが難しいという問題がある。これに対して、特許文献2で開示されている有機EL素子では、中間層として取り扱いが容易なアルカリ金属化合物をドープした有機化合物層を形成し、次いで第2族金属をドープした有機化合物層を積層している。この場合、第2族金属によってアルカリ金属化合物を還元し、電子注入性を発現させていると考えられる。また、第2族金属を有機化合物にドープして用いることにより、金属元素を単独で用いるよりも高抵抗の中間層となっている。
詳術すると、有機EL層に電子を注入するにはアルカリ金属を用いることが好ましいが、アルカリ金属は大気中の水分と反応しやすく扱いが難しい。そこで、フッ化リチウムやリチウムキノリノール錯体などの扱いが容易なアルカリ金属化合物層を形成し、次いでアルミニウムや第2族金属など還元性を有する金属を蒸着することで、蒸着時の熱でアルカリ金属化合物の一部を還元し、電子注入性を発現させる。この手法で重要なのは、アルカリ金属化合物層と、還元性を有する金属層との密着性である。アルミニウムはアルカリ金属化合物層との密着性が高いが、電気抵抗が低く、高抵抗が望まれる中間層としては好ましくない。また、第2族金属を単独で蒸着した場合には、下地層への密着性が低く、成膜性に劣るため、陰極などに用いる場合には、下地層への密着性を高めるために、銀などと共蒸着される場合が多い。しかしながら、第2族金属と銀とを共蒸着した層は電気抵抗が低く、高抵抗が望まれる中間層としては好ましくない。
特許文献2では、有機化合物層同士の密着性が高いことを利用し、アルカリ金属化合物、第2族金属をそれぞれ有機化合物にドープした有機化合物層として積層することで、密着性を高めている。しかしながら、有機化合物と第2族金属とは相溶性が低く、有機化合物と第2族金属とを共蒸着しても、有機化合物層中に第2族金属が取り込まれにくい。そのため、下地の有機化合物層中のアルカリ金属化合物が還元されにくく、電子注入性の発現が十分に得られないおそれがある。
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、扱いが容易なアルカリ金属化合物を用い、良好な電子注入性を有する中間層を備えた積層型の有機EL素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、一対の電極と、前記一対の電極間に配置された、中間層を介して重なる少なくとも2層の有機エレクトロルミネッセンス層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層が、アルカリ金属化合物と、前記アルカリ金属化合物の還元体と、周期律表第2族金属元素と、を含有することを特徴とする。
本発明の第二は、上記本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を有することを特徴とする、露光光源、表示装置、撮像装置、照明装置、移動体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、扱いが容易なアルカリ金属化合物と第2族金属との共蒸着層を中間層とすることで、十分な電子注入性を有し、且つ、高抵抗の中間層を有する積層型の有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の有機EL素子の構成を示す厚さ方向の断面模式図である。
【
図2】本発明の有機EL素子の好ましい実施形態の構成を示す厚さ方向の断面模式図である。
【
図3】本発明の露光光源の一実施形態の構成を示す模式図である。
【
図4】本発明の表示装置の一実施形態の画素構成を示す厚さ方向の断面模式図である。
【
図5】本発明の表示装置の一実施形態の全体構成を示す分解斜視図である。
【
図6】本発明の表示装置の他の実施形態を模式的に示す正面図である。
【
図7】本発明の撮像装置、電子機器の一実施形態を模式的に示す正面図である。
【
図8】本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す分解斜視図である。
【
図9】本発明の移動体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図10】本発明の表示装置を用いた眼鏡の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図11】本発明の実施例1及び実施例2の有機EL素子の電圧-電流特性を示すグラフである。
【
図12】本発明の比較例1及び比較例2の有機EL素子の電圧-電流特性を示すグラフである。
【
図13】本発明の比較例3及び比較例4の有機EL素子の電圧-電流特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と記す)は、1対の電極間に少なくとも2層の有機エレクトロルミネッセンス層(以下、「有機EL層」と記す)を有する積層型の有機EL素子である。そして、2層の有機EL層間には中間層が介在し、該中間層は、アルカリ金属化合物と、該アルカリ金属化合物の還元体と、周期律表第2族金属元素(以下、「第2族金属」と記す)と、を含有する。
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明のEC素子の構成について、好適な実施の形態を例示して詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成、相対配置等は、特に記載がない限り、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0010】
〔有機EL素子〕
図1は本発明の有機EL素子の構成を示す、厚さ方向(積層方向)の断面模式図である。図中、1は有機EL素子、2は基板、3は陽極、4は有機化合物層、5は陰極、10は有機EL層、20は中間層である。尚、本発明に係る有機化合物層4中には、中間層20等、有機化合物を含まない層も含まれるが、本明細書中においては陽極3と陰極5との間に介在する積層体を便宜上「有機化合物層」と記す。
【0011】
本発明の有機EL素子1は、
図1に示すように、有機EL層10を複数層、中間層20を介して積層された有機化合物層4を備えている。本発明の有機EL素子1においては、有機EL層10を3層とし、それぞれ、赤、緑、青のいずれかを発光し、全体で白色発光としても良いし、有機EL層10を2層とし、一方を赤、緑の2色発光、他方を青の1色発光として、全体で白色発光としても良い。また、複数の有機EL層10のそれぞれの発光色を同色として、複数倍の発光を得て高輝度とすることも可能である。例えば、有機EL層10が2層の場合には、1層の場合の2倍の発光が得られる。
【0012】
本発明においては、有機EL層10は3層以上でも可能であるが、電極間に印加する電圧が高くなり、素子の発熱量が増加するため、2層とすることが好ましい。
図2は、有機EL層10を2層構成とした実施形態の構成を示す厚さ方向の断面模式図である。以下の説明においては、便宜上、陽極側の有機EL層10aを第1有機EL層、陰極側の有機EL層10bを第2有機EL層と記す。尚、陽極3と陰極5の位置は逆でも良いが、後述するように、電子注入層15a、15bをアルカリ金属化合物で構成する場合には、該アルカリ金属化合物を還元するために、基板2側を陽極3として、陽極3から陰極5に向かって順に形成してもよい。
【0013】
本発明に係る中間層20は、アルカリ金属化合物と第2族金属とを共蒸着してなる共蒸着層である。本発明の中間層20に用いるアルカリ金属化合物は、ハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、有機配位化合物など、アルカリ金属が陽イオンとなって陰イオンと結合した物質である。アルカリ金属化合物はアルカリ金属とは異なり、大気中の水分と激しく反応することがなく、大気中でも安定で、扱いが容易な物質である。また、イオン性の物質であるため元来絶縁性の物質であり、そのままでは電子注入性を有することはない。このようなアルカリ金属化合物を成膜し、その上にアルミニウム(Al)や第2族金属など還元性を有する金属を蒸着すると、アルカリ金属化合物の一部が還元されて電子注入性を発現する。しかしながら、Alは電気抵抗が低いため、中間層を通じて隣接する画素が発光してしまう問題が生じる。また、第2族金属を単独で蒸着した場合には下地層への密着性が低く、膜が形成されにくいため、下地層への密着性が高い銀(Ag)などと共蒸着する必要がある。しかしながら、Alと同じくAgは電気抵抗が低いため、中間層を通じて隣接する画素が発光してしまう問題が生じる。0℃におけるAlの抵抗率は2.50×10-8Ωm、Agは1.47×10-8Ωmであることが知られており、例えば第2族金属に分類されるマグネシウム(Mg)の3.94×10-8Ωmよりも抵抗が低い傾向がある。
【0014】
本発明では、AlやAgを用いずに還元するために、アルカリ金属化合物を第2族金属と共蒸着し、蒸着中にアルカリ金属化合物を還元することが好ましい。アルカリ金属化合物を第2族金属と共蒸着すると、アルカリ金属化合物の一部が第2族金属によって還元され、電子注入性が発現する。また、本発明に係る中間層20は、絶縁性の物質であるアルカリ金属化合物と、該アルカリ金属化合物の還元体と、金属としては抵抗が高い第2族金属が混ざりあった層となるため、電気的に高抵抗である。アルカリ金属化合物と第2族金属を共蒸着して中間層20を形成すると、アルカリ金属化合物と、該アルカリ金属化合物の還元体と、第2族金属のみからなる中間層20が得られる。
【0015】
本発明においては、有機EL層10a,10bは、少なくとも発光層13a,13bを備えている。発光層13a,13bは、それぞれ複数の発光層が積層された構成でも、単層構成でも良く、上述したように、2色の発光ドーパントを含有する2色発光層としても、3色の発光ドーパントを含有する白色発光層としても良い。
【0016】
また、有機EL層10a,10bは、
図2に示すように、発光層13a,13bの陽極3側に正孔注入層11a,11b、正孔輸送層12a,12bを、陰極5側に電子輸送層14a,14b、電子注入層15a,15bを備えていても良い。さらに、それぞれ必要に応じて、電子ブロック層や正孔ブロック層を有していても良い。
【0017】
本発明において、中間層20に含まれる第2族金属は、75体積%以下であることが好ましい。第2族金属の含有量が75体積%を超えると中間層20の抵抗が低くなり、中間層20を通じて隣接する画素が発光してしまう問題が生じ易くなるため、好ましくない。また、アルカリ金属化合物を還元する上で、第2族金属は、30体積%以上含まれていることが好ましい。第2族金属の含有量は、アルカリ金属化合物と第2族金属とを蒸着する際の蒸着速度で制御することができる。
【0018】
本発明において、中間層20を形成するアルカリ金属化合物は、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)のイオン性の化合物である。中でも、Liは原子量が最も小さいため、Li化合物は物質量が最も小さく蒸着温度が低い傾向があるため好ましく、ハロゲン化リチウム、もしくはリチウムキノリノール錯体(Liq)であることが好ましい。アルカリ金属のハロゲン化物やLiqは蒸着温度が低く、好ましい。ハロゲン化リチウムとしては、フッ化リチウム(LiF)が好ましい。また、フッ化カリウム(KF)も好ましく用いられる。ハロゲン化物の中ではフッ化物は物質量が小さく蒸着温度が低いため好ましく、本発明において用いられるアルカリ金属化合物としては、LiFが最も好ましい。
【0019】
また、Cs化合物は、Li化合物よりも蒸着温度は高くなる傾向があるが、電子注入性が高いため好ましく、また炭酸セシウム(Cs2Co3)は他のセシウム化合物に比べ蒸着温度が低く、また潮解性が低く水分を含有しにくいため蒸着材料として好ましい。
【0020】
本発明において、中間層20を形成する第2族金属は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)のいずれかを指す。これら第2族金属はいずれもがアルカリ金属化合物の上に蒸着した時に該アルカリ金属化合物を還元しうる性質を持つと考えられる。しかしながら、アルカリ金属化合物と第2族金属の組合せにより、中間層20の電子注入性が異なり、Mg、Ca、Srは良好な電子注入性が得られる。この中でもMgは融点が最も低く、安価で、毒性がなく、大気中で安定であることから最も好ましい。
【0021】
本発明においては、中間層20よりも陽極3側に位置する第1有機EL層10aが、中間層20に接する電子注入層15aを有し、該電子注入層15aを、中間層20を構成するアルカリ金属化合物の単独蒸着層としておくことが好ましい。アルカリ金属化合物で電子注入層15aを成膜した後に該アルカリ金属化合物と第2族金属を共蒸着して中間層20を形成することにより、中間層20蒸着時に、電子注入層15aのアルカリ金属化合物の一部が還元され、電子注入層15aの電子注入性が発現する。即ち、電子注入層15aは、アルカリ金属化合物と、該アルカリ金属化合物の還元体とを含む層となる。
【0022】
本発明における中間層20は第1有機EL層10aへの電子注入性を有するものであるため、電子注入層15aは必ずしも必要ない。しかしながら、中間層20に接して電子注入層15aを有し、中間層20と電子注入層15aが同一のアルカリ金属化合物を用いて形成されていることは好ましい形態である。この場合、中間層20と電子注入層15aの密着性が高く、中間層20の電子注入性に加えて、電子注入層15aに含まれるアルカリ金属化合物の還元体によって電子輸送層14aや発光層13aへの電子注入性をさらに強めることができる。
【0023】
また本発明では、電子注入層15aを有する場合であっても、中間層20のアルカリ金属化合物と第2族金属の組み合わせは、有機化合物と第2族金属の組み合わせよりも電子注入性が発現しやすいことを見出している。これは、アルカリ金属化合物と第2族金属の組み合わせが、有機化合物と第2族金属の組み合わせよりも相溶性が高く、共蒸着した際に混合膜として形成されやすいことに起因すると考えられる。
【0024】
本発明では、中間層20よりも陰極5側に位置する第2有機EL層10bが中間層20に接する正孔注入層11bを有することが好ましい。中間層20にはアルカリ金属化合物の還元体と第2族金属とが含まれるためイオン化ポテンシャルが小さくなり、イオン化ポテンシャルが小さい金属からは正孔輸送層12bや、発光層13bへの正孔注入性が低い。よって、中間層20に接して正孔注入層11bを有することが好ましい。正孔注入層11bを形成する材料としては、陽極から正孔輸送層に正孔を注入するため従来から知られている材料が用いられ、後述のH16乃至H19に示すようなシアノ基を有する有機化合物、酸化モリブデン、フタロシアニン類などが用いられる。
【0025】
本発明の有機EL素子1は、
図1、
図2に示すように、基板2上に形成され、該基板2としては、石英、ガラス、シリコンウエハ、樹脂、金属など、いずれを用いてもよい。また、基板2上には、トランジスタなどのスイッチング素子や配線を備え、その上に絶縁層を備えてもよい。絶縁層としては、陽極3と配線の導通を確保するために、コンタクトホールを形成可能で、尚かつ未接続の配線との絶縁を確保できれば、何れを用いてもよい。例えば、ポリイミド等の樹脂、酸化シリコン、窒化シリコンなどを用いることができる。
【0026】
陽極3の構成材料としては仕事関数がなるべく大きいものが良い。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、チタン、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン、等の金属単体やこれらを含む混合物、或いはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。
【0027】
これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極3は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。反射電極として用いる場合には、例えばクロム、アルミニウム、銀、チタン、タングステン、モリブデン、又はこれらの合金、酸化物、窒化物、積層したものなどを用いることができる。また、透明電極として用いる場合には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛などの酸化物透明導電層などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
電極の形成には、フォトリソグラフィ技術を用いることができる。
【0028】
本発明の有機EL素子1は、中間層20を挟んで、少なくとも第1有機EL層10a、第2有機EL層10bを有する。第1有機EL層10a、第2有機EL層10bはそれぞれ同じ材料を用いて形成してもよい。また更に第3有機EL層を積層するなど、三層以上の積層も可能である。以下、これらを形成する材料について説明する。
【0029】
陽極3側の第1有機EL層10aにおいて、陽極3に接して設けられる正孔注入層11aには、陽極3からの正孔の注入を容易にすることができる材料が好ましく、上述した中間層20に接する正孔注入層11bと同様の材料を用いることができる。即ち、後述のH16乃至H19に示すようなシアノ基を有する有機化合物、酸化モリブデン、フタロシアニン類などが用いられる。
【0030】
また、正孔輸送層12a、12bについては、注入された正孔を発光層13a,13bへ輸送できるように正孔移動度が高い材料が好ましい。また有機EL素子1中において結晶化等の膜質の劣化を抑制するために、ガラス転移点温度が高い材料が好ましい。正孔移動度が高い低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、アリールカルバゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。また正孔注入層11a,11bと同様の材料を用いることもできる。
【0031】
以下に正孔注入層11a,11b、正孔輸送層12a,12bに用いられる材料の具体例HT1乃至HT19を示すが、これらに限定されるものではない。
【0032】
また、正孔輸送層12a,12bと発光層13a,13bとの間には、電子ブロック層(不図示)を有していてもよく、電子ブロック層を形成する場合は、同様の材料を用いることができる。電子ブロッキング材料としてはカルバゾール基を含むHT7、HT8乃至HT12が好ましい。カルバゾール基を含むことでHOMOが深くなり、正孔輸送材料、正孔ブロッキング材料及び発光層の順に段階的にHOMOが深くなる準位を作ることができ、正孔を発光層13a,13bへ低電圧で注入できる。
【0033】
【0034】
発光層13a,13bは、ホスト材料に発光ドーパントを含有した構成が好ましく、ホスト材料の具体例EM1乃至EM40を以下に示す。
【0035】
【0036】
赤色発光ドーパント材料の具体例RD1乃至RD10を以下に示す。赤色発光ドーパント材料のドープ濃度としては、0.1質量%以上、5質量%未満が好ましく、より好ましくは0.1%以上、0.5質量%未満である。濃度が低すぎると赤色の発光強度の低下を招き、逆に濃度が濃すぎると濃度消光を起こすため好ましくない。
【0037】
【0038】
緑色発光ドーパント材料の具体例GD1乃至GD15を以下に示す。緑色発光ドーパント材料のドープ濃度としては、0.1質量%以上、10質量%未満が好ましく、より好ましくは1質量%以上、5質量%未満である。
【0039】
【0040】
青色発光ドーパント材料の具体例BD1乃至BD31を以下に示す。青色発光ドーパント材料のドープ濃度としては、0.1質量%以上、5質量%未満が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上、3質量%未満である。
【0041】
【0042】
本発明では、ホスト材料に複数の発光色のドーパントを含有させたり、積層したりして用いてもよく、発光層13aと13bとは同じ色でも異なっていてもよい。
【0043】
電子輸送層14a,14bには、電子を発光層13a,13bへ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、クリセン誘導体、アントラセン誘導体、フルオランテン誘導体等)が挙げられる。電子輸送層14a,14bに用いられる材料の具体例ET1乃至ET23を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0044】
【0045】
また、本発明では、発光層13a,13bと電子輸送層14a,14bとの間に、正孔ブロック層(不図示)を設けてもよく、上記の電子輸送性材料は、正孔ブロック層にも好適に使用される。尚、例示した電子輸送性材料のうち、正孔ブロッキング材料としては、結合安定性の観点から、炭化水素のみからなる化合物であることが好ましい。電子輸送層14a、14bとしてはET1乃至ET8のようなピリジル基、フェナントリル基を置換基に持つ材料が好ましい。アルカリ金属化合物などの電子注入材料や電極材料と相互作用し、電子注入障壁を下げる効果があるためである。
【0046】
本発明では、陰極5側の有機EL層10bが発光層13bよりも陰極5側に電子注入層15bを有していても良い。また、該電子注入層15として、中間層20に用いられるLiFやCs2CO3などのアルカリ金属化合物が好ましく用いられ、該アルカリ金属化合物は、陰極5の蒸着時に還元されて電子注入性を発現する。
【0047】
陰極5としては、仕事関数の小さなものがよい。しかし、Li等のアルカリ金属は大気中で不安定であるため好ましくなく、Ca,Mg等の第2族金属や、第2族金属にAl、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、Ag、鉛(Pb)、クロム(Cr)等を混合した混合物、合金も使用することができる。例えばMg-Ag、Mg-Al等が使用できる。また、ITO等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極5は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0048】
陰極5は、薄膜のAgやAg合金、ITOなどの酸化物導電層を使用してトップエミッション素子とすることも好ましい。
陰極5の形成方法としては、特に限定されないが、直流及び交流スパッタリング法や、蒸着法が挙げられる。
【0049】
陰極5形成後に、不図示の封止部材を設けてもよい。例えば、陰極5上に吸湿剤を設けたガラスを接着することで、有機EL層10a,10bに対する水等の浸入を抑え、表示不良の発生を抑えることができる。また、陰極5上に酸化アルミニウムや窒化ケイ素等のパッシベーション膜を設け、有機EL層10a,10bに対する水等の浸入を抑えてもよい。例えば、陰極5形成後に真空を破らずに別のチャンバーに搬送し、CVD法で厚さ2μmの窒化ケイ素膜を形成することで、封止膜としてもよい。
【0050】
また、各画素にカラーフィルターを設けてもよい。例えば、画素のサイズに合わせたカラーフィルターを別の基板上に設け、有機EL素子を設けた基板と貼り合わせてもよいし、窒化ケイ素等の封止膜上にフォトリソグラフィ技術を用いて、カラーフィルターをパターニングしてもよい。
【0051】
本発明の有機EL素子1を構成する有機化合物層4に含まれる層のうち、中間層20以外は、次に示す方法で形成される。例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマ等のドライプロセスで形成することができる。またドライプロセスに代えて、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成するウェットプロセスを用いることもできる。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。中間層20は、アルカリ金属を還元体として有するので、蒸着で形成されることが好ましい。蒸着以外の方法であっても、アルカリ金属を還元体の状態で中間層20を形成できる場合は、蒸着に限定されない。
【0052】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0054】
〔有機EL素子を用いた装置〕
本発明の有機EL素子は、表示装置や照明装置等の構成部材として用いることができる。他にも、電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト、白色光源とカラーフィルターとを有する発光装置等の用途がある。
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する画像入力部を有し、入力された情報を処理する情報処理部を有し、入力された画像を表示部に表示する画像情報処理装置でもよい。
【0055】
また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部は、タッチパネル機能を有していてもよい。このタッチパネル機能の駆動方式は、赤外線方式、静電容量方式、抵抗膜方式、電磁誘導方式のいずれでもよく、特に限定されない。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
以下、本発明の有機EL素子を用いた各種機器、装置について、実施形態を挙げて説明する。
【0056】
(画像形成装置)
図3(a)は本発明の露光装置を備えた画像形成装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。本実施形態の画像形成装置は、感光体27、露光光源28、現像部21、帯電部26、転写器22、搬送部23、定着部25を有する電子写真方式の画像形成装置である。
【0057】
露光光源28から光29が照射され、感光体27の表面に静電潜像が形成される。この露光光源28が本発明の有機EL素子を有する。現像部21はトナー等を有し、帯電部26は感光体27を帯電させる。転写器22は現像された画像を紙等の記録媒体24に転写し、搬送部23が記録媒体24を搬送する。定着部25は記録媒体24に形成された画像を定着させる。
【0058】
図3(b)及び
図3(c)は、発光部として本発明の有機EL素子1が長尺状の基板に複数配置された露光光源28の構成を模式的に示す図である。図中の矢印は、感光体27の軸に平行な方向であり、有機EL素子1が配列されている列方向を表わす。この列方向は、感光体27が回転する軸の方向と同じであり、感光体27の長軸方向と呼ぶこともできる。
【0059】
図3(b)は有機EL素子1を感光体の長軸方向に沿って配置した形態である。
図3(c)は、(b)とは異なる形態であり、第1の列と第2の列のそれぞれにおいて有機EL素子1が列方向に交互に配置されている形態である。第1の列と第2の列は行方向に異なる位置に配置されている。第1の列は、複数の有機EL素子1が間隔をあけて配置されている。第2の列は、第1の列の有機EL素子1同士の間隔に対応する位置に有機EL素子1を有する。即ち、行方向にも、複数の有機EL素子1が間隔をあけて配置されている。
図3(c)の配置は、有機EL素子1が例えば格子状に配置されている状態、千鳥格子に配置されている状態、或いは市松模様と言い換えることもできる。
【0060】
(表示装置)
図4は、本発明の表示装置の一実施形態の厚さ方向の断面模式図である。本発明の表示装置は、複数の画素を有し、該複数の画素の少なくとも一つが、本発明の有機EL素子である。
【0061】
図4(a)は、本発明の有機EL素子を用いた表示装置の一実施形態の1画素の構成を示す断面模式図である。本実施形態は、1画素が3つの副画素35を有し、その発光により、35R(赤発光)、35G(緑発光)、35B(青発光)に分けられている。本実施形態においては、有機EL素子1は白色発光であり、有機EL素子1から出射された白色光を、カラーフィルター34R(赤),34G(緑),34B(青)を通過させることにより、それぞれの発光色を得ている。副画素35R,35G,35Bは、層間絶縁層31を基板としてその上に有機EL素子1を有している。本実施形態において、陽極3は副画素35毎に形成され、絶縁層32によって個々の陽極3が電気的に絶縁されている。
【0062】
本実施形態においては、カラーフィルター34R,34G,34Bを設けた側から光が出射されるため、陰極5は透明電極であり、陽極3は反射電極である。有機化合物層4及び陰極5は複数画素に共通している。有機EL素子1の陽極3と陰極5は、いずれが層間絶縁層31側に配置されていても良い。有機化合物層4に含まれる電子注入層をアルカリ金属化合物で形成する場合には、該アルカリ金属化合物を還元するため、陽極3を層間絶縁層31側に形成し、陽極3から陰極5に向かって順次形成してもよい。
【0063】
図4(a)中、33は保護層である。絶縁層32はバンク、画素分離膜とも呼ばれ、陽極3の、該絶縁層32で覆われていない領域が有機化合物層4と接し、発光領域となる。保護層33は、有機化合物層4に水分が浸透することを低減する。保護層33は、一層であっても、複数層であってよい。複数層の場合には、層毎に無機化合物層、有機化合物層があってよい。
【0064】
カラーフィルター34R,34G,34Bは、不図示の平坦化膜上に形成されてよい。また、カラーフィルター34R,34G,34B上に不図示の樹脂保護層を有してよい。カラーフィルター34R,34G,34Bは、ガラス基板等の対向基板上に設けられた後に、貼り合わせられていてもよい。
【0065】
絶縁層32で囲まれた発光領域の大きさは、5μm以上、15μm以下が好ましく、より具体的には、11μm、9.5μm、7.4μm、6.4μm等であってよい。また、副画素間の間隔は、10μm以下であってよく、具体的には、8μm、7.4μm、6.4μmであってよい。
【0066】
画素は、平面図において、公知の配置形態をとりうる。例えは、ストライプ配置、デルタ配置、ペンタイル配置、ベイヤー配置であってよい。副画素の平面図における形状は、公知のいずれの形状をとってもよい。例えば、長方形、ひし形等の四角形、六角形等である。もちろん、正確な図形ではなく、長方形に近い形をしていれば、長方形に含まれる。副画素の形状と、画素配列と、を組み合わせて用いることができる。
【0067】
図4(b)は、本発明の有機EL素子を用いた表示装置の他の実施形態の画素の構成を示す断面模式図である。本実施形態においては、有機EL素子1に、トランジスタ48が接続されている。
図4(b)のトランジスタ48は、薄膜トランジスタ(TFT)であるが、TFT以外のトランジスタ或いはトランジスタ以外の能動素子であってもよい。
【0068】
本実施形態では、ガラス、シリコン等の基板41とその上部に絶縁層42が設けられ、該絶縁層42の上にトランジスタ48が配されている。トランジスタ48は、ゲート電極43、ゲート絶縁膜44、半導体層45、ドレイン電極46、ソース電極47で構成されている。トランジスタ48の上部には絶縁膜49が設けられ、該絶縁膜49に設けられたコンタクトホール50を介して有機EL素子1の陽極3と、トランジスタ48のソース電極47とが接続されている。
【0069】
尚、有機EL素子1に含まれる電極(陽極3、陰極5)とトランジスタ48に含まれる電極(ソース電極47、ドレイン電極46)との電気接続の方式は、
図4(b)に示される態様に限られるものではない。つまり陽極3又は陰極5のうちいずれか一方とTFTのソース電極47又はドレイン電極46のいずれか一方とが電気接続されていればよい。有機EL素子1の陽極3と陰極5は、いずれがトランジスタ48側に配置されていても良い。有機化合物層4に含まれる電子注入層をアルカリ金属化合物で形成する場合には、該アルカリ金属化合物を還元するため、陽極3を基板41側に形成し、陽極3から陰極5に向かって順次形成してもよい。
図4(b)において、51,52は有機EL素子1の劣化を低減するための保護層である。
【0070】
トランジスタ48としては、基板41の絶縁性表面上に活性層(半導体層45)を有するTFTに限らず、単結晶シリコンウエハを用いたトランジスタでもよい。活性層としては、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、微結晶シリコンなどの非単結晶シリコン、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物等の非単結晶酸化物半導体が挙げられる。よって、本実施形態においても、トランジスタ48は、Si基板等の基板41内に形成されていてもよい。ここで基板41内に形成されるとは、Si基板等の基板41自体を加工してトランジスタを作製することを意味する。つまり、基板41内にトランジスタを有することは、基板41とトランジスタ48とが一体に形成されていると見ることもできる。基板41内にトランジスタを設けるか、基板41上にTFTを用いるかは、表示部の大きさによって選択され、例えば0.5インチ程度の大きさであれば、Si基板上に有機EL素子1を設けることが好ましい。
【0071】
本実施形態に係る有機EL素子1はスイッチング素子の一例であるトランジスタ48により発光輝度が制御され、複数の有機EL素子1を面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。
【0072】
本実施形態において、有機EL素子1は、画素回路に組み込まれていてもよい。画素回路は、有機EL素子1を独立に発光制御するアクティブマトリックス型であってよい。アクティブマトリックス型の回路は電圧プログラミングであっても、電流プログラミングであってもよい。駆動回路は、画素毎に画素回路を有する。画素回路は、有機EL素子1の発光輝度を制御するトランジスタ、発光タイミングを制御するトランジスタ、発光輝度を制御するトランジスタのゲート電圧を保持する容量、有機EL素子1を介さずにGNDに接続するためのトランジスタを有してよい。
【0073】
表示装置は、表示領域と、表示領域の周囲に配されている周辺領域とを有する。表示領域には画素回路を有し、周辺領域には表示制御回路を有する。画素回路を構成するトランジスタの移動度は、表示制御回路を構成するトランジスタの移動度よりも小さくてよい。
画素回路を構成するトランジスタの電流電圧特性の傾きは、表示制御回路を構成するトランジスタの電流電圧特性の傾きよりも小さくてよい。電流電圧特性の傾きは、いわゆるVg-Ig特性により測定できる。
【0074】
図5は、本発明の表示装置の一実施形態の全体構成を示す分解斜視図である。表示装置60は、上部カバー61と下部カバー69との間に、タッチパネル63、表示パネル65、フレーム66、回路基板67、バッテリー68、を有している。タッチパネル63及び表示パネル65には、フレキシブルプリント回路(FPC)62、64が接続されている。回路基板67には、トランジスタがプリントされている。バッテリー68は、表示装置が携帯機器でなければ、設けなくてもよいし、携帯機器であっても、別の位置に設けてもよい。
【0075】
図6は、本発明の表示装置の他の実施形態を模式的に示す正面図である。
図6(a)は、テレビモニタやPCモニタ等の表示装置である。表示装置70は、額縁71と表示部72とを有する。表示部72には、本発明の有機EL素子が用いられている。
また、表示装置70は、額縁71と、表示部72を支える土台73を有している。土台73は、
図6(a)の形態に限られず、額縁71の下辺が土台を兼ねてもよい。また、額縁71及び表示部72は、曲がっていてもよく、その曲率半径は、5000mm以上6000mm以下が好ましい。
【0076】
図6(b)の表示装置80は、折り曲げ可能に構成された、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置80は、第1表示部81、第2表示部82、筐体83、屈曲点84を有する。第1表示部81と第2表示部82とは、本発明の有機EL素子を用いて構成されている。第1表示部81と第2表示部82とは、つなぎ目のない1枚の表示装置であってよい。第1表示部81と第2表示部82とは、屈曲点84で分けることができる。第1表示部81、第2表示部82は、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、第1及び第2表示部とで一つの画像を表示してもよい。
【0077】
(撮像装置)
本発明の有機EL素子は、複数のレンズを有する光学部と、当該光学部を通過した光を受光する撮像素子とを有する撮像装置の表示部に用いられる。撮像装置は、撮像素子が取得した情報を表示する表示部を有する。また、表示部は、撮像装置の外部に露出した表示部であっても、ファインダ内に配置された表示部であってもよい。撮像装置としては、デジタルカメラやデジタルビデオカメラが挙げられる。
【0078】
図7(a)は、本発明の撮像装置の一実施形態を模式的に表す正面図である。本実施形態の撮像装置90は、ビューファインダ91、背面ディスプレイ92、操作部93、筐体94を有しており、ビューファインダ91が、本発明の有機EL素子を有する表示部である。ビューファインダ91は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示等を表示してもよい。環境情報には、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性等であってよい。
【0079】
撮像に好適なタイミングはわずかな時間なので、少しでも早く情報を表示した方がよい。有機EL素子は応答速度が速いため、本発明の有機EL素子を用いることで、速い表示が実現し、表示速度が求められる場合に、液晶表示装置よりも好適に用いられる。
【0080】
撮像装置90は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、筐体94内に収容されている撮像素子に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。撮像装置は光電変換装置と呼ばれてもよい。光電変換装置は逐次撮像するのではなく、前画像からの差分を検出する方法、常に記録されている画像から切り出す方法等を撮像の方法として含むことができる。
【0081】
(電子機器)
本発明の有機EL素子は、携帯端末の表示部に用いられてもよい。その際には、表示機能と操作機能との双方を有してもよい。携帯端末としては、スマートフォン等の携帯電話、タブレット、ヘッドマウントディスプレイ等が挙げられる。
【0082】
図7(b)は、本発明の電子機器の一実施形態を模式的に示す斜視図である。電子機器100は、表示部101と操作部102と筐体103とを有する。筐体103は、回路、当該回路を有するプリント基板、バッテリー、通信部、を有しており、操作部102は、ボタンであってもよいし、タッチパネル方式の反応部であってもよい。操作部102は、指紋を認識してロックの解除等を行う生体認識部であってもよい。通信部を有する電子機器は通信機器ということもできる。電子機器は、レンズと、撮像素子とを備えることでカメラ機能をさらに有していてもよい。カメラ機能により撮像された画像が表示部に映される。電子機器としては、スマートフォン、ノートパソコン等が挙げられる。
【0083】
(照明装置)
図8は、本発明の照明装置の一実施形態を示す分解斜視図である。本実施形態の照明装置110は、筐体111と、光源112と、回路基板113と、光源112からの光を透過する光学フィルター114と光拡散部115と、を有している。光源112は、本発明の有機EL素子と該有機EL素子に接続される電源回路とを用いて構成されている。電源回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。光学フィルター114は光源112の演色性を向上させるフィルターであってよい。光拡散部115は、ライトアップ等、光源112の光を効果的に拡散し、広い範囲に光を届けることができる。光学フィルター114、光拡散部115は、照明の光出射側に設けられている。必要に応じて、最外部にカバーを設けてもよい。
【0084】
照明装置110は例えば室内を照明する装置である。照明装置110は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってもよく、また、それらを調光する調光回路を有していてもよい。白とは色温度が4200Kで、昼白色とは色温度が5000Kである。照明装置110はカラーフィルターを有してもよい。
【0085】
また、照明装置110は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属、液体シリコン等が挙げられる。
【0086】
(移動体)
本発明の移動体は、船舶、航空機、ドローン等であってよい。移動体は、機体と当該機体に設けられた灯具を有しており、該灯具が本発明の有機EL素子を有し、機体の位置を知らせるための発光を担っている。
【0087】
図9は、本発明の移動体の一実施形態である自動車を模式的に示す斜視図である。本実施形態の自動車120は、灯具であるテールランプ121を有し、ブレーキ操作等を行った際に、テールランプ121を点灯する。自動車120は、車体123と、車体123に取り付けられている窓122とを有している。本実施形態においては、テールランプ121、窓122の少なくとも一方が本発明の有機EL素子を有している。
【0088】
また、テールランプ121は、有機EL素子を保護する保護部材を有していてもよい。保護部材はある程度高い強度を有し、透明であれば材料は問わないが、ポリカーボネート等で構成されることが好ましい。ポリカーボネートにフランジカルボン酸誘導体、アクリロニトリル誘導体等を混ぜてよい。
【0089】
窓122は、自動車の前後を確認するための窓でなければ、透明なディスプレイであってもよい。当該透明なディスプレイが本発明の有機EL素子を有している場合、有機EL素子が有する電極等の構成材料は透明な部材で構成される。
【0090】
(撮像表示装置)
本発明の有機EL素子を有する撮像表示装置は、例えば眼鏡(スマートグラス)、HMD、スマートコンタクトのようなウェアラブルデバイスとして装着可能なシステムに適用できる。このような適用例に使用される撮像表示装置は、可視光を光電変換可能な撮像装置と、可視光を発光可能な表示装置とを有する。
【0091】
図10(a)は、撮像表示装置の適用例の1つである眼鏡140について説明する。眼鏡140のレンズ141の表面側に、CMOSセンサやSPADのような撮像装置142が設けられている。また、レンズ141の裏面側には、本発明の有機EL素子を有する表示装置(不図示)が設けられている。
【0092】
眼鏡140は、制御装置143をさらに備える。制御装置143は、撮像装置142と各実施形態に係る表示装置に電力を供給する電源として機能する。また、制御装置143は、撮像装置142と表示装置の動作を制御する。レンズ141には、撮像装置142に光を集光するための光学系が形成されている。
【0093】
図10(b)も眼鏡であるが、
図10(a)とは構成が若干異なる。
図10(b)の眼鏡150は、制御装置152を有しており、制御装置152に、
図10(a)の撮像装置142に相当する撮像装置と、本発明の有機EL素子を有する表示装置とが搭載されている。レンズ151には、制御装置152内の撮像装置と、表示装置からの発光を投影するための光学系が形成されており、レンズ151には画像が投影される。制御装置152は、撮像装置及び表示装置に電力を供給する電源として機能すると共に、撮像装置及び表示装置の動作を制御する。制御装置152は、装着者の視線を検知する視線検知部を有してもよい。視線の検知は赤外線を用いていてもよい。赤外発光部は、表示画像を注視しているユーザーの眼球に対して、赤外光を発する。発せられた赤外光の眼球からの反射光を、受光素子を有する撮像部が検出することで眼球の撮像画像が得られる。平面視における赤外発光部から表示部への光を低減する低減手段を有することで、画像品位の低下を低減する。
【0094】
赤外光の撮像により得られた眼球の撮像画像から表示画像に対するユーザーの視線を検出する。眼球の撮像画像を用いた視線検出には任意の公知の手法が適用できる。一例として、角膜での照射光の反射によるプルキニエ像に基づく視線検出方法を用いることができる。
より具体的には、瞳孔角膜反射法に基づく視線検出処理が行われる。瞳孔角膜反射法を用いて、眼球の撮像画像に含まれる瞳孔の像とプルキニエ像とに基づいて、眼球の向き(回転角度)を表す視線ベクトルが算出されることにより、ユーザーの視線が検出される。
【0095】
本実施形態の撮像表示装置は、受光素子を有する撮像装置を有し、撮像装置からのユーザーの視線情報に基づいて表示装置の表示画像を制御してもよい。具体的には、表示装置は、視線情報に基づいて、ユーザーが注視する第1の視界領域と、第1の視界領域以外の第2の視界領域とを決定する。第1の視界領域、第2の視界領域は、表示装置の制御装置が決定してもよいし、外部の制御装置が決定したものを受信してもよい。表示装置の表示領域において、第1の視界領域の表示解像度を第2の視界領域の表示解像度よりも高く制御してよい。つまり、第2の視界領域の解像度を第1の視界領域よりも低くしてよい。
【0096】
また、表示領域は、第1の表示領域、第1の表示領域とは異なる第2の表示領域とを有し、視線情報に基づいて、第1の表示領域及び第2の表示領域から優先度が高い領域を決定される。第1の視界領域、第2の視界領域は、表示装置の制御装置が決定してもよいし、外部の制御装置が決定したものを受信してもよい。優先度の高い領域の解像度を、優先度が高い領域以外の領域の解像度よりも高く制御してもよい。つまり優先度が相対的に低い領域の解像度を低くしてもよい。
【0097】
尚、第1の視界領域や優先度が高い領域の決定には、AIを用いてもよい。AIは、眼球の画像と当該画像の眼球が実際に視ていた方向とを教師データとして、眼球の画像から視線の角度、視線の先の目的物までの距離を推定するよう構成されたモデルであってよい。AIプログラムは、表示装置が有しても、撮像装置が有しても、外部装置が有してもよい。外部装置が有する場合は、通信を介して、表示装置に伝えられる。
【0098】
視認検知に基づいて表示制御する場合、外部を撮像する撮像装置を更に有するスマートグラスに好ましく適用できる。スマートグラスは、撮像した外部情報をリアルタイムで表示することができる。
【実施例0099】
(実施例1)
本実施例では、
図2に示した層構成に加えて、有機EL層10a,10bがいずれも電子ブロック層と正孔ブロック層とを備えたトップエミッション型の有機EL素子を作製した。第1有機EL層10a、第2有機EL層10bは共に青色の発光層を有するものを作製した。
【0100】
シリコン基板上に、陽極3としてスパッタリング法でTiを40nm成膜し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、画素ピッチが4.2μmになるように正六角形のTi画素配列と配線を形成した。更にTi上に窒化シリコン(SiN)の絶縁層を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いてTiが露出した画素配列と、それを区画するSiN絶縁層の幅が1μmになるようパターニングした。
【0101】
続いて、真空蒸着装置に水洗浄済みの絶縁層までを形成した基板と材料を取り付け、1.0×10-4Pa(1×10-6Torr)まで排気した後、UV/オゾン洗浄を施した。その後、下記表1に示される層構成で第1有機EL層10aまで成膜を行った。
【0102】
次にモリブデン製の蒸着ボートからLiFとMgをそれぞれ0.1Å/sの蒸着速度で共蒸着し、体積比がLiF:Mg=50:50で厚さが2μmの中間層20を形成した。
【0103】
次に表1に示される層構成で第2有機EL層10b、陰極5までを成膜した後、基板をグローブボックスに移し、窒素雰囲気中で乾燥剤を入れたガラスキャップにより封止し、有機EL素子を得た。
【0104】
【0105】
次に電圧印加装置を接続し、その特性を評価した。全ての画素に電圧を印加し、顕微鏡で発光状態を確認したところ、絶縁層上の発光は確認されず、発光ムラのない良好な有機EL素子であった。
【0106】
得られた有機EL素子の電圧-電流特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計「4140B」で測定し、発光スペクトル及び発光輝度の取得はトプコン製「SR-3」を用いて行った。通電された電流値と発光輝度から求まる電流効率は2.2cd/Aであり、CIE色度x=0.14、y=0.10であった。
図11(a)に電圧-電流特性を示す。また、比較のため、中間層20と第2有機EL層10bとを除いた、有機EL層が単層の有機EL素子を作製し、電圧-電流特性を求めた。
【0107】
その結果、本実施例の有機EL素子は、単層の有機EL素子に対して、同じ電流密度を得るために素子に印加する電圧は2.5倍程度になっており、電流効率は約2倍になっていた。従って、第1有機EL層10aと第2有機EL層10bの両方が発光していることが推測され、中間層20の電子注入性が機能し、抵抗の高い中間層20を有する積層型の有機EL素子であると言える。
【0108】
(実施例2)
第1有機EL層10aの電子注入層15aを形成しなかった以外は実施例1と同様にして、積層型の有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子の電流効率は2.3cd/Aであり、CIE色度x=0.14、y=0.10であった。
図11(b)に電圧-電流特性を示す。
【0109】
本実施例の有機EL素子では、同じ電流密度を得るための電圧が、実施例1よりもやや低電圧となったが、顕微鏡で発光状態を確認したところ、絶縁層上の発光は確認されず、発光ムラのない良好な有機EL素子であった。また実施例1と同等の発光効率であった。
【0110】
(比較例1)
中間層20として、タングステン製ボートからAg、Mgをそれぞれ0.1Å/sの蒸着速度で共蒸着し、体積比がAg:Mg=50:50で厚さが2μmの中間層20を形成した以外は実施例1と同様に積層有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子の電流効率は2.5cd/Aであり、CIE色度x=0.14、y=0.11であった。
図12(a)に電圧-電流特性を示す。
【0111】
本比較例の有機EL素子では、同じ電流密度を得るための電圧が、実施例1よりも大幅に低くなり、顕微鏡で発光状態を確認したところ、絶縁層上も発光していた。また、一部の画素のみ電圧を印加した場合は隣接画素にも発光が見られ、中間層20をAgとMgの金属のみで形成したため、中間層20の抵抗が低くなり、中間層20の面方向に電流が流れることで絶縁層上や隣接画素も発光する素子となったと考えられる。
【0112】
(比較例2)
中間層20として、電子輸送層14aに用いた有機化合物ET2とMgとをそれぞれ0.1Å/sの蒸着速度で共蒸着し、体積比がET2:Mg=50:50で厚さが2μmの中間層20を形成した以外は実施例1と同様にして積層型の有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子の電流効率は1.2cd/Aであり、CIE色度x=0.14、y=0.09であった。
図12(b)に電圧-電流特性を示す。
【0113】
本比較例の有機EL素子では、同じ電流密度を得るための電圧が、実施例1とほぼ同等であるが、電流効率が実施例1に対して半減した。これは第1有機EL層10aの電子注入層15a及び中間層20で電子注入性が発現していないためと考えられ、正孔が第1有機EL層10a及び中間層20を通過し、第2有機EL層10bのみで正孔と電子の再結合が起きていることを示していると考えられる。中間層20が電子注入性を発現しない理由としては、電子注入層15aに用いたLiFを還元できていないことが想定される。MgをLiF上に蒸着したにも関わらず還元できていない理由としては、中間層20を形成する際に、有機化合物ET2とMgの相溶性が低く、Mgが膜にならなかったためと推測される。
【0114】
(比較例3)
第1有機EL層10aの電子注入層15aを成膜しなかった以外は比較例1と同様にして積層型の有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子の電流効率は1.2cd/Aであり、CIE色度x=0.14、y=0.10であった。
図13(a)に電圧-電流特性を示す。
【0115】
本比較例の有機EL素子の特性は比較例2とほぼ同様になっており、中間層20の電子注入性が発現していない有機EL素子であった。電子注入層15aがない場合、中間層20に用いたAgとMgだけでは電子注入性が発現せず、アルカリ金属化合物が必要なことを示している。
【0116】
(比較例4)
第1有機EL層10aの電子注入層15aを成膜しなかった以外は比較例2と同様に積層有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子の電流効率は1.3cd/Aであり、CIE色度x=0.14、y=0.09であった。
図13(b)に電圧-電流特性を示す。
【0117】
本比較例の有機EL素子の特性は比較例2、比較例3とほぼ同様になっており、中間層20の電子注入性が発現していない有機EL素子であった。電子注入層15aがない場合、中間層20に用いた有機化合物ET2とMgだけでは電子注入性が発現せず、アルカリ金属化合物が必要であると考えられる。しかしながら、電子注入層15aにLiFを用いた比較例2でも同様の結果であることから、有機化合物ET2とMgの相溶性が低く、Mgが膜にならなかった可能性の方が高いと推測できる。
【0118】
(実施例3)
第1有機EL層10aの電子注入層15aをKFで形成し、中間層20に用いるアルカリ金属化合物にもKFを用いた。また電子輸送層14a,14bにはET5を用い、膜厚は10nmとした。それ以外は実施例1と同様にして積層型の有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子の発光状態を顕微鏡で確認したところ、絶縁層上の発光は確認されず、発光ムラのない良好な有機EL素子であった。また実施例1と同等の電流効率であった。
【0119】
(実施例4)
中間層20に用いる第2族金属をCaとし、正孔輸送層12a,12bにはHT19を用い、膜厚は3nmとした。それ以外は実施例1と同様にして積層型の有機EL素子を作製した。Caの蒸着温度が高く、投入電力が高くなった以外は実施例1と大きな差はなかった。
得られた有機EL素子の発光状態を顕微鏡で確認したところ、絶縁層上の発光は確認されず、発光ムラのない良好な有機EL素子であった。また実施例1と同等の電流効率であった。
【0120】
(実施例5)
LiFの蒸着速度を0.05Å/s、Mgの蒸着速度を0.20Å/sとして共蒸着し、体積比がLiF:Mg=5:20で厚さが2μmの中間層20を形成した以外は実施例1と同様にして積層型の有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子の発光状態を顕微鏡で確認したところ、絶縁層上の発光が確認されたが、一部の画素のみ電圧を印加した場合は隣接画素には発光が見られず、良好な有機EL素子であった。また実施例1と同等の電流効率であった。
【0121】
(実施例6)
第1有機EL層10aの電子注入層15aをLiqで形成し、中間層20に用いるアルカリ金属化合物にもLiqを用いた。また、正孔輸送層12a,12bにはHT19を用い、膜厚は3nmとした。それ以外は実施例1と同様にして積層型の有機EL素子を作製した。
絶縁層上の発光は確認されず、発光ムラのない良好な積層有機EL素子であった。また実施例1と同等の電流効率であった。
【0122】
(実施例7)
第1有機EL層10aの発光層13aが赤緑の2色発光、第2有機EL層10bの発光層13bが青色発光で、全体として白色発光の積層型の有機EL素子を作製した。層構成を表2に示す。
【0123】
【0124】
本実施例の有機EL素子においては、赤緑青の3つのドーパントからの発光が確認され、中間層20の電子注入性が機能し、第1有機EL層10aと第2有機EL層10bの両方が発光していることが判った。
得られた有機EL素子の発光状態を顕微鏡で確認したところ、絶縁層上の発光は確認されず、発光ムラのない良好な有機EL素子であった。
【0125】
(実施例8)
第1有機EL層10aの電子注入層15aをCs2CO3で形成し、中間層20に用いるアルカリ金属化合物にもCs2CO3を用いた以外は実施例7と同様にして積層型の有機EL素子を作製した。Cs2CO3は白金製のセルに詰め、該セルをタングステン製ボートに乗せて加熱し蒸着した。蒸着後の黒化など分解は認められなかった。
【0126】
本実施例の有機EL素子においても、実施例7と同様に赤緑青の3つのドーパントからの発光が確認され、中間層20の電子注入性が機能し、第1有機EL層10aと第2有機EL層10bの両方が発光していることが判った。
得られた有機EL素子の発光状態を顕微鏡で確認したところ、絶縁層上の発光は確認されず、発光ムラのない良好な有機EL素子であった。
10,10a,10b:有機EL層、20:中間層、15a,15b:電子注入層、12a,12b:正孔注入層、48:トランジスタ、90:撮像装置、100:電子機器、01:表示部、103:筐体、110:照明装置、112:光源、114:光学フィルター、115:光拡散部