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特開2022-187573負極および該負極を備える非水電解質二次電池
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  • 特開-負極および該負極を備える非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187573
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】負極および該負極を備える非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20221213BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20221213BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221213BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221213BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095625
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】森川 有紀
(72)【発明者】
【氏名】辻子 曜
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ12
5H029BJ14
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ04
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB29
5H050DA03
5H050FA02
5H050FA05
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】非水電解質二次電池のサイクル寿命の向上と、急速充放電サイクル後の容量維持率の向上とを両立する負極を提供する。
【解決手段】ここに開示される負極(60)は、負極集電体(62)と、該負極集電体の表面に形成された負極活物質層(64)とを備え、前記負極活物質層は、少なくとも一種のアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を含む。前記負極活物質層は、少なくとも第1層(64A)と第2層(64B)とを含み、前記第1層は、前記第2層と前記負極集電体との間に配置されている。ここで、走査型電子顕微鏡画像を用いたエネルギー分散型X線分析に基づいて算出される前記第2層のアルカリ土類金属量が、前記第1層のアルカリ土類金属量よりも高いことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、該負極集電体の表面に形成された負極活物質層とを備え、
前記負極活物質層は、少なくとも一種のアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を含み、
前記負極活物質層は、少なくとも第1層と第2層とを含み、
前記第1層は、前記第2層と前記負極集電体との間に配置されており、
ここで、走査型電子顕微鏡画像を用いたエネルギー分散型X線分析に基づいて算出される前記第2層のアルカリ土類金属量が、前記第1層のアルカリ土類金属量よりも高いことを特徴とする、二次電池用負極。
【請求項2】
前記第2層の負極活物質を100質量%としたときに、前記第2層は前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素が少なくとも2質量%以上含まれている、請求項1に記載の二次電池用負極。
【請求項3】
前記第1層の負極活物質を100質量%としたときに、前記第1層に含まれる前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素が2質量%未満である、請求項1または2に記載の二次電池用負極。
【請求項4】
前記負極活物質層の平均厚みに対する前記第2層の平均厚みは、20%以上70%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池用負極。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素として、マグネシウムを含む酸化ケイ素および/またはカルシウムを含む酸化ケイ素を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池用負極。
【請求項6】
前記負極活物質層が、炭素材料を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池用負極。
【請求項7】
前記第1層は、前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素に加えて、さらにアルカリ金属を含むケイ素を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池用負極。
【請求項8】
前記第2層は、前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素に加えて、さらに前記アルカリ金属を含むケイ素を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の二次電池用負極。
【請求項9】
前記アルカリ金属を含む酸化ケイ素として、リチウムを含む酸化ケイ素を含む、請求項7または8に記載の二次電池用負極。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の負極と、
正極と、
非水電解質と、
を備える非水電解液二次電池。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極に関する。本発明はまた、当該負極を備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解質二次電池の負極は、一般的に、負極活物質を含む負極活物質層が、負極集電体上に支持された構成を有する。近年では、負極の高容量化等を目的として、電荷担体となる化学種(例えばリチウムイオン)を吸蔵および放出可能なケイ素やケイ素化合物等のケイ素(Si)系負極活物質を用いることが検討されている(例えば、特許文献1および2)。
【0004】
ところで、上述したSi系負極活物質は、高い理論容量を有する一方で、充放電サイクルに伴う負極活物質の膨張収縮(体積変化)が大きいため、充放電サイクル後の容量維持率が低下することが知られている。これに対して、特許文献3においては、MgSiO結晶を含み、表面が炭素物質で被覆された負極材用のシリコン複合酸化物と該酸化物を用いた負極が開示されている。これによって、二次電池の充放電容量と初期充放電効率および容量維持率が改善されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-18663号公報
【特許文献2】特開2016-181331号公報
【特許文献3】特開2018-156922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、MgSiO結晶を含むSi系負極活物質を用いた二次電池は、充放電サイクルによる容量維持率(サイクル寿命)が改善されるものの、急速で充放電サイクルを行った際の容量維持率が大きく低下することを見出した。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、二次電池のサイクル寿命の向上と、急速充放電サイクル後の容量維持率の向上とを両立する負極を提供することにある。また、他の目的は該負極を備える非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される負極は、負極集電体と、該負極集電体の表面に形成された負極活物質層とを備え、前記負極活物質層は、少なくとも一種のアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を含む。前記負極活物質層は、少なくとも第1層と第2層とを含み、前記第1層は、前記第2層と前記負極集電体との間に配置されている。ここで、走査型電子顕微鏡画像を用いたエネルギー分散型X線分析に基づいて算出される前記第2層の前記アルカリ土類金属量が、前記第1層の前記アルカリ土類金属量よりも高いことを特徴とする。
かかる構成によれば、サイクル寿命の向上に貢献し得るアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を、負極活物質層の表層側に配置される第2層に偏在させることにより、急速充放電サイクルを実施した際に負極活物質層の表面近傍でのみ反応が集中することを抑制する。これにより、二次電池のサイクル寿命の向上と急速充放電サイクル後の容量維持率の向上とが実現される負極を提供することができる。
【0009】
ここに開示される負極の好ましい一態様においては、前記第2層の負極活物質を100質量%としたときに、前記第2層は前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素が少なくとも2質量%以上含まれている。かかる構成によれば、二次電池のサイクル寿命をより向上させることができる。
【0010】
ここに開示される負極の好ましい一態様においては、前記第1層の負極活物質を100質量%としたときに、前記第1層に含まれる前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素が2質量%未満である。かかる構成によれば、二次電池のサイクル寿命の向上と急速充放電サイクル後の容量維持率の向上との両立がより好適に実現される負極を提供することができる。
【0011】
ここに開示される負極の好ましい一態様においては、前記負極活物質層の平均厚みに対する前記第2層の平均厚みは、20%以上70%以下である。かかる構成によれば、二次電池の急速充放電サイクル後の容量維持率をより向上させることができる。
【0012】
ここに開示される負極の好ましい一態様においては、前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素として、マグネシウムを含む酸化ケイ素および/またはカルシウムを含む酸化ケイ素を含む。かかる構成によれば、二次電池のサイクル寿命の向上と急速充放電サイクル後の容量維持率の向上との両立がより好適に実現される負極を提供することができる。
【0013】
ここに開示される負極の好ましい一態様においては、前記負極活物質層が、炭素材料を含む。かかる構成によれば、二次電池のサイクル寿命の向上と急速充放電サイクル後の容量維持率の向上との両立がより好適に実現される負極を提供することができる。
【0014】
ここに開示される負極の好ましい一態様においては、前記第1層は、前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素に加えて、さらにアルカリ金属を含むケイ素を含む。また、別の好ましい一態様では、前記第2層は、前記アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素に加えて、さらにアルカリ金属を含むケイ素を含む。かかる構成によれば、二次電池のサイクル寿命の向上と急速充放電サイクル後の容量維持率の向上との両立がより好適に実現される負極を提供することができる。
【0015】
ここに開示される負極の好ましい一態様においては、前記アルカリ金属を含む酸化ケイ素として、リチウムを含む酸化ケイ素を含む。かかる構成によれば、サイクル寿命を好適に向上させるアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素と、Li拡散性が高いリチウムを含む酸化ケイ素とを用いることにより、負極活物質層全体を効率よく電池反応に寄与させることができる。これにより、二次電池のサイクル寿命の向上と急速充放電サイクル後の容量維持率の向上との両立がより好適に実現される。
【0016】
別の側面から、ここに開示される非水電解液二次電池は、正極と、上記に記載の負極と、非水電解液と、を備える。かかる構成によれば、サイクル寿命に優れ、急速充放電サイクル時の容量維持率にも優れる非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る負極の構造を模式的に示す説明図である。
図2】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す断面図である。
図3】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0019】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0020】
図1は、ここに開示される負極を模式的に示す図である。負極60は、図示されるように、負極集電体62と、負極集電体62上に支持された負極活物質層64とを備える。図示例では、負極活物質層64は、負極集電体62の片面上に設けられているが、両面上に設けられていてもよい。負極活物質層64は、好ましくは負極集電体62の両面上に設けられている。
【0021】
負極集電体62としては、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属製のシートまたは箔状体を用いることができ、好適には銅箔が用いられる。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0022】
負極活物質層64は、図示されるように、少なくとも第1層64Aと第2層64Bとを含んでいる。第1層64Aは、第2層64Bと負極集電体62との間に形成されている。第1層64Aは負極集電体62側に位置しており、第2層64Bは負極活物質層64の表層側に位置している。第1層64Aは、典型的には、負極集電体62の表面に形成されている。負極活物質層64は、少なくとも2層の複層構造であればよく、3層以上の複層構造であってよい。
【0023】
負極活物質層64は、負極活物質として少なくとも一種のアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を含んでいる。ここに開示される負極60は、走査型電子顕微鏡画像を用いたエネルギー分散型X線分析に基づく第2層64Bのアルカリ土類金属量が、第1層64Aのアルカリ土類金属量よりも多いことを特徴とする。
【0024】
本明細書における「アルカリ土類金属量(質量%)」は、走査型電子顕微鏡画像を用いたエネルギー分散型X線分析(SEM-EDS)により求めることができる。具体的には、まず、負極活物質層の厚み方向に沿った切断面のSEM画像を撮像する。次いで、当該SEM画像に対してEDS解析を行うことによって、負極活物質層中に含まれる構成元素の各割合(質量%)を算出する。このとき算出されるアルカリ土類金属元素(Mg、Ca等)の割合(すなわち、負極活物質層の全構成元素に対するアルカリ土類金属元素の割合)を、本明細書における「アルカリ土類金属量(質量%)」とする。
第1層および第2層のアルカリ土類金属量(質量%)は、例えば、以下のように算出することができる。負極活物質層の厚み方向に沿った断面において、集電体から活物質層の内部方向に向けての厚み20%を第1層、表層から活物質層の内部方向に向けての厚み20%を第2層と設定する。次いで、上記と同様にして、第1層および第2層のそれぞれに対してEDS解析を行い、各層の構成元素の各割合(質量%)を算出する。第1層の全構成元素に対するアルカリ土類金属元素の割合を、本明細書における「第1層のアルカリ土類金属量(質量%)」、第2層の全構成元素に対するアルカリ土類金属元素の割合を、本明細書における「第2層のアルカリ土類金属量(質量%)」とする。
【0025】
第2層64Bのアルカリ土類金属元素量は、典型的には0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。また、第1層64Aのアルカリ土類金属量は、2質量%未満であってよく、1質量%以下であってよい。なお、典型的には、SEM-EDSによって算出されるアルカリ土類金属量が0.5質量%以上含まれる領域を第2層64Bとする。また、第1層64Aのアルカリ土類金属量は、ここに開示する技術を限定するものでなはない。すなわち、第1層64Aのアルカリ土類金属量は、0質量%であってもよい。第1層64Aおよび第2層64Bのアルカリ土類金属量が、上記範囲内であることにより、二次電池のサイクル寿命向上効果と、急速充放電サイクル後の容量維持率向上効果とを、好適に両立することができる。
【0026】
負極活物質層64の平均厚みは、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。好適な一態様では、負極活物質層64の平均厚みに対する第2層64Bの平均厚みは、15~75%であることが好ましく、20~70%であることがより好ましい。
【0027】
負極活物質層64は、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質を少なくとも含有している。ここに開示される技術においては、負極活物質層64は、負極活物質として少なくとも一種のアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を含んでいる。アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素は、典型的には、アルカリ土類金属(Mg、Ca等)が、ケイ素(Si)および酸素(O)を必須の構成成分として含む酸化ケイ素(SiO)にドープされた状態である。例えば、一般式:MSiO(式中、x、yはそれぞれ、0<x≦0.25、0<y≦2を満たす。Mは、Mg、Ca、Be、Sr、BaおよびRaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)で表される組成を有するものが好ましい。なかでも、Mgを含む酸化ケイ素および/またはCaを含む酸化ケイ素であることが好ましい。
アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素の平均粒子径(メジアン径D50)は、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上15μm以下であってよい。なお、本明細書において、「平均粒子径(メジアン径D50)」は、例えば、レーザ回折散乱法等により求めることができる。
【0028】
Mgを含む酸化ケイ素としては、典型的にはMg-Si-Oの化合物であって、アルカリ土類金属としてのMgがドープされている酸化ケイ素(SiO)である。MgがSiOにドープされている場合には、結晶構造としてはSi相、SiO相、MgSiO相等が生じ得る。Mgを含む酸化ケイ素は、典型的にはMgSiO相を含む。ここに開示される技術においては、Mgを含む酸化ケイ素として、一般式:MgαSiO(式中、α、yはそれぞれ、0<α≦0.25、0<y≦2を満たす。)で表される組成を有するものが好ましい。
同様にして、Caを含む酸化ケイ素としては、典型的にはCa-Si-Oの化合物であって、アルカリ土類金属としてのCaがドープされている酸化ケイ素(SiO)である。ここに開示される技術においては、Caを含む酸化ケイ素として、一般式:CaβSiO(式中、β、γはそれぞれ、0<β≦0.25、0<y≦2を満たす。)で表される組成を有するものが好ましい。
【0029】
第2層64Bに含まれるアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素の質量割合は、第2層64Bの負極活物質を100質量%としたときに、1~20質量%であることが好ましく、1.5~20質量%以下であることがより好ましく、2~20質量%であることが特に好ましい。第1層64Aに含まれるアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素の質量割合は、第1層64Aの負極活物質を100質量%としたときに、2質量%未満であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。なお、第1層64Aにアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素が含まれるか否かは、ここに開示する技術を限定するものでなはない。すなわち、第1層64Aに含まれるアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素は、0質量%であってもよい。
なお、各層に含まれるアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素の質量割合は、例えば上述したように第1層および第2層を設定してICP分析等によって求めることができる。
【0030】
アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を第2層に偏在させることにより、二次電池のサイクル寿命向上効果と、急速充放電サイクル後の容量維持率向上効果とを、好適に両立することができる。特に限定されるものではないが、以下のような理由によって上述した効果が得られるものと推察される。
酸化ケイ素にアルカリ土類金属がドープ等によって含まれることにより、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池においては、リチウムイオン)の拡散が遅くなる傾向にある。アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素のみで負極活物質層を形成した場合には、サイクル後の容量維持率が向上する一方で、急速充放電を繰り返した際には、拡散しきれずに過剰となったリチウムが析出し、急速充放電サイクル後の容量維持率が低下する。これに対してここに開示される技術においては、アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を負極活物質層の表層側である第2層に偏在させている。これにより、集電体側では表層側に比してリチウムイオン拡散が良好であるため、負極活物質層全体を効率よく充放電に寄与させることができ、二次電池のサイクル寿命の向上と急速充放電サイクル時の容量維持率の向上とが実現される。
【0031】
アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素は、例えば、以下の方法によって作製することができる。まず、SiOの粉末と、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)の原料粉末とを準備する。アルカリ土類金属の原料粉末としては、例えばMg粉末、Ca粉末であってよい。SiOの粉末と、アルカリ土類金属の原料粉末とをボールミル等を用いて混合し、混合粉末を得る。該混合粉末をアルゴン(Ar)雰囲気下において、約1000℃程度で約1時間程度加熱する。これにより、SiOにアルカリ土類金属がドープされ得る。
【0032】
負極活物質層64に含まれる負極活物質としては、上述したアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素の他に、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料をさらに含んでいる。黒鉛は、天然黒鉛であっても、人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
炭素材料の性状(平均粒子径やBET比表面積等)は特に限定されるものではない。炭素材料は、典型的には粒子状である。粒子状の炭素材料の平均粒子径D50は、典型的には1μm以上20μm以下であってよく、例えば5μm以上15μm以下であってよい。また、BET法によるBET比表面積は、典型的には0.5cm/g以上3cm/g以下のものを好ましく採用することができる。
【0033】
負極活物質層64には、上述した材料に加えて、さらにアルカリ金属を含む酸化ケイ素を含んでいてもよい。アルカリ金属を含む酸化ケイ素は、典型的にはアルカリ金属(Li、Na等)がケイ素(Si)および酸素(O)を必須の構成成分として含む酸化ケイ素(SiO)にドープされた状態である。例えば、一般式:QγSiO(式中、γ、yはそれぞれ、0<γ≦2、0<y≦2を満たす。Qは、Li、Na、K、Rb、CsおよびFrからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)で表される組成を有するものが好ましい。なかでも、Liを含む酸化ケイ素であることが好ましい。
なお、アルカリ金属を含む酸化ケイ素は、アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素と同様の手法によって作製することができる。
【0034】
第1層64Aに含まれるアルカリ金属を含む酸化ケイ素の質量割合は、第1層64Aの負極活物質を100質量%としたときに、18質量%以下であってよく、9質量%以下であってよく、8質量%以下であってよい。また、第2層64Bに含まれるアルカリ金属を含む酸化ケイ素の質量割合は、第2層64Bの負極活物質を100質量%としたときに、20質量%以下であってよく、18質量%以下であってよく、16質量%以下であってよい。なお、ここに開示される技術において、第1層64Aおよび第2層64B(換言すれば負極活物質層64)におけるアルカリ金属を含む酸化ケイ素の質量割合は、ここに開示する技術を限定するものでなはい。すなわち、負極活物質層64におけるアルカリ金属を含む酸化ケイ素の質量割合は0質量%であってよい。
なお、各層に含まれるアルカリ金属を含む酸化ケイ素の質量割合は、例えば上述したICP分析等によって求めることができる。
【0035】
負極活物質層64は、上述した材料以外にもここに開示される技術の効果を阻害しない範囲内で、その他の負極活物質を含有していてもよい。そのほかの負極活物質としては、例えば、Si系負極活物質が挙げられる。Si系負極活物質としては、例えば、Siの金属単体、Siを構成元素とする酸化物(例えばSiO)、Siを構成元素とする合金;等が挙げられる。
【0036】
特に限定されるものではないが、負極活物質層64中の負極活物質の含有量(すなわち、負極活物質層の全質量に対する負極活物質の割合)は、80~99質量%であってよく、85~98質量%であってよい。負極活物質層64の負極活物質を100質量%としたときに、Si系負極活物質(アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素およびアルカリ金属を含む酸化ケイ素を含む)の質量割合は、1~30質量%であることが好ましく、2~30質量%であることがより好ましい。また、負極活物質層64の負極活物質を100質量%としたときに、炭素材料の質量割合は、70~99質量%であることが好ましく、80~98質量%であることがより好ましい。
【0037】
特に限定されるものではないが、第1層64A中の負極活物質の含有量は、80~99質量%であってよく、85~98質量%であってよい。第1層64Aの負極活物質を100質量%としたときに、Si系負極活物質(アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素およびアルカリ金属を含む酸化ケイ素を含む)の質量割合は、典型的には0~20質量%であってよく、0~10質量%であってよく、1~10質量%であってよい。また、第1層64Aの負極活物質を100質量%としたときに、炭素材料の質量割合は、典型的には80~100質量%であってよく、90~100質量%であってよく、90~99質量%であってよい。
【0038】
特に限定されるものではないが、第2層64B中の負極活物質の含有量は、80~99質量%であってよく、85~98質量%であってよい。第2層64Bの負極活物質を100質量%としたときに、Si系負極活物質(アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素およびアルカリ金属を含む酸化ケイ素を含む)の質量割合は、1~20質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましい。また、第2層64Bの負極活物質を100質量%としたときに、炭素材料の質量割合は、80~99質量%であることが好ましく、80~98質量%であることがより好ましい。
【0039】
負極活物質層64は、上述した負極活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンラバー(SBR)およびその変性体、アクリロニトリルブタジエンゴムおよびその変性体、アクリルゴムおよびその変性体、フッ素ゴム等を使用し得る。なかでも、SBRが好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上3質量%以下である。
【0040】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA)等を使用し得る。なかでも、CMCが好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.3質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以上2質量%以下である。
【0041】
以上のように構成される負極によれば、二次電池のサイクル寿命の向上と急速充放電サイクル時の容量維持率の向上とが実現される。以上のように構成される負極は、公知方法に従い二次電池の負極に用いることができる。したがって、ここに開示される負極は、好適には二次電池用である。当該二次電池は、好適には、非水電解質二次電池である。
【0042】
<非水電解質二次電池>
そこで、別の側面から、ここに開示される非水電解液二次電池は、上述した負極と、正極と、非水電解質と、を備える。
【0043】
以下、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、ここに開示される非水電解質二次電池の一実施形態について詳細に説明するが、ここに開示される非水電解質二次電池をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0044】
図2に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解質(図示せず)とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁32とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0045】
捲回電極体20は、図2および図3に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータ70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分56(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分66(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分56および負極活物質層非形成部分66には、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0046】
負極シート60には、上述の負極が用いられる。
【0047】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属製のシートまたは箔状体を用いることができ、好適にはアルミニウム箔が用いられる。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0048】
正極活物質層54に含まれる正極活物質は、正極活物質としては、特に限定されず、従来から非水電解液二次電池、特に、リチウムイオン二次電池の正極活物質として一般的に使用されているものを1種または2種以上用いることができる。正極活物質としては例えば、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物(例えば、LiFePO)等を好ましく用いることができる。リチウム複合酸化物の例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物(例えば、LiNi0.5Mn1.5)、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3)等が挙げられる。
正極活物質の平均粒子径は、特に限定されないが、概ね0.5μm以上50μm以下であってよく、典型的には1μm以上20μm以下であってよい。
【0049】
正極活物質層54は、正極活物質以外の物質、例えば、導電材やバインダ等を含有していてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料好ましく用いることができる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系のバインダや、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダを好ましく用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、正極活物質層54は、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
【0050】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層の全質量に対する正極活物質の割合)は、エネルギー密度の観点から、概ね70質量%以上であることが好ましい。例えば75質量%~99質量%であることがより好ましく、80質量%~97質量%であることがさらに好ましい。また、正極活物質層54中の導電材の含有量は、例えば、0.1質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~15質量%であることがより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、例えば、0.5質量%~15質量%であることが好ましく、1質量%~10質量%であることがより好ましい。また、増粘剤等の各種添加剤を含ませる場合、正極活物質層54中の添加物の含有量は、例えば、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0052】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0053】
非水電解質は、典型的には、非水溶中に電解質塩(言い換えると、支持塩)を溶解または分散させた液状のもの(非水電解液)が用いられる。あるいは、非水電解液にポリマーが添加され、固体状(典型的にはいわゆるゲル状)となったものでもよい。
非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0054】
電解質塩としては、例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩を用いることができ、なかでも、LiPFが好ましい。電解質塩の濃度は、特に限定されないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。なお、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、オキサラト錯体等の被膜形成剤、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0055】
以上のように構成されるリチウムイオン二次電池100は、サイクル寿命の向上と急速充放電サイクル後の容量維持率の向上とが実現される。リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。なかでも、電気自動車(EV)向けの駆動用電源は、例えば短時間での充電(急速充電)が求められ、かつ、車両の加速の際等に急速放電が頻繁に実施されることから、ここに開示される負極および該負極を備える二次電池がより好適に適用され得る。また、リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0056】
なお、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、ここに開示されるリチウムイオン二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解液二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池、コイン型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。
【0057】
また、公知方法に従い、上記の負極を用いて、非水電解液およびセパレータの代わりに固体電解質層やゲル電解質を含む全固体電池や、ナトリウムイオン二次電池その他の二次電池を構築することもできる。
【0058】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0059】
<例1>
負極活物質としての黒鉛(C)100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水中で混合し、第1負極合材スラリーを調製した。
また、負極活物質として、マグネシウム(Mg)を含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Mgを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水中で混合し、第2負極合材スラリーを調製した。
【0060】
銅箔製の負極集電体の両面に、第1負極合材スラリーを塗布し、乾燥させて、圧延ローラーにより塗膜をプレスして圧延した。次いで、第1負極合材スラリーの乾燥塗膜上に、第2の負極合材スラリーを塗布し、上記と同様に乾燥させて、圧延した。これにより、第1負極合材スラリーによって形成された第1層と、第2負極合材スラリーによって形成された第2層とを含む負極活物質層が、負極集電体上に支持された例1の負極シートを得た。なお、第2負極合材スラリーは、負極活物質層の平均厚みに対する第2層の平均厚みが50%となるように塗布した。
【0061】
また、正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCM:AB:PVdF=97:2:1の質量比で、N-メチルピロリドン(NMP)中で混合し、正極合材スラリーを調製した。この正極合材スラリーを、アルミニウム箔上に塗布した。その後、乾燥を行い、所定の厚みにロールプレスして正極シートを作製した。
【0062】
セパレータとしてPP/PE/PEの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。正極シートと、負極シートとをセパレータが介在するようにしつつ重ね合わせ、捲回して捲回体を得た。この捲回体をプレスして扁平形状の捲回電極体を作製した。
【0063】
電極体に電極端子を取り付け、これをアルミニウムラミネートフィルム製のケースに挿入し、溶着した後、非水電解液を注液した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。その後、ラミネートケースを封止することによって、例1の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0064】
<例2および例3>
第2層に含まれるMgを含む酸化ケイ素の質量割合(質量%)を表1に示すように変更したこと以外は、例1と同様にして、例2および例3の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0065】
<例4>
負極活物質として、Mgを含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Mgを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水中で混合し、第1負極合材スラリーを調製した。第1負極合材スラリー以外は例1と同様にして、例4の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
<例5~例7>
負極活物質として、リチウム(Li)を含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Liを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とをイオン交換水中で混合し、第1負極合材スラリーを調製した。また、第2層中のMgを含む酸化ケイ素の質量割合(質量%)を表1に示すように変更した。これらのこと以外は例1と同様にして、例5~例7の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0067】
<例8および例9>
第1層に含まれるMgを含む酸化ケイ素およびLiを含む酸化ケイ素の質量割合(質量%)を表1に示すように変更したこと以外は、例1と同様にして例8および例9の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0068】
<例10~例12>
負極活物質層の平均厚みに対する第2層の平均厚みを、表1に示す値となるように、第2負極合材スラリーを塗布したこと以外は、例6と同様にして、例10~例12の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0069】
<評価用リチウムイオン二次電池の活性化>
上記作製した例1~例12の評価用リチウムイオン二次電池を25℃の環境下においた。活性化(初回充電)は、定電流-定電圧方式とし、各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で4.1Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。
【0070】
<充放電サイクル試験>
活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の環境下においた。0.5Cの電流値で4.1Vまで定電流充電および0.5Cの電流値で3.0Vまで定電流放電を、1サイクルとする充放電を500サイクル繰り返した。1サイクル目と500サイクル目の放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の割合を容量維持率(%)として算出した。500サイクル後の容量維持率が90%以上であれば「◎」、80%以上90%未満であれば「○」、80%未満であれば「×」と評価して、結果を表1に示す。なお、500サイクル後の容量維持率が良好である場合には、二次電池のサイクル寿命が高いと評価することができる。
【0071】
<急速充放電サイクル試験>
活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の環境下においた。2Cの電流値で4.1Vまで定電流充電および2Cの電流値で3.0Vまで定電流放電を、1サイクルとする充放電を100サイクル繰り返した。1サイクル目と100サイクル目の放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を容量維持率(%)として算出した。急速充放電サイクル後の容量維持率が90%以上であれば「◎」、80%以上90%未満であれば「○」、80%未満であれば「×」と評価して、結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、負極活物質層が少なくとも一種のアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素を含み、第2層のアルカリ土類金属量が第1層のアルカリ土類金属量よりも高い場合には、500サイクル後および急速充放電サイクル後の容量維持率が80%以上であることがわかる。一方で、例4の結果から、第1層と第2層のアルカリ土類金属量が同じである場合には、急速充放電サイクル後の容量維持率が80%未満となることがわかる。
【0074】
また、例3に示すように、第2層の負極活物質を100質量%としたときにアルカリ土類金属を含む酸化ケイ素が少なくとも2質量%以上含まれている場合には、500サイクル後および急速充放電サイクル後の容量維持率がともに90%以上となることがわかる。
例8に示すように、第1層の負極活物質を100質量%としたときに、アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素が2質量%未満である場合には、500サイクル後および急速充放電後の容量維持率がともに90%以上となることがわかる。
例10および例11に示すように、負極活物質層の平均厚みに対する第2層の平均厚みの割合が、20%以上70%以下である場合には、500サイクル後および急速充放電サイクル後の容量維持率がともに90%以上となることがわかる。
【0075】
<例13>
負極活物質として、Mgを含む酸化ケイ素1質量部と、Liを含む酸化ケイ素9質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Mgを含む酸化ケイ素とLiを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水中で混合し、第1負極合材スラリーを調製した。
また、負極活物質として、Mgを含む酸化ケイ素2質量部と、Liを含む酸化ケイ素8質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Mgを含む酸化ケイ素とLiを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水中で混合し、第2負極合材スラリーを調製した。
第1負極合材スラリーおよび第2負極合材スラリーを上述したように負極集電体上に塗布し、乾燥およびプレスを行って、例13の負極シートを作製した。
上記以外は例1と同様にして、例13の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0076】
<例14および例15>
第1層および第2層に含まれるMgを含む酸化ケイ素とLiを含む酸化ケイ素の質量割合(質量%)を、表2に示すように変更したこと以外は例13と同様にして、例14および例15の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0077】
<例16>
負極活物質として、Mgを含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Mgを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水中で混合し、第1負極合材スラリーを調製した。
また、負極活物質として、Liを含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Liを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とをイオン交換水中で混合し、第2負極合材スラリーを調製した。これらのこと以外は例1と同様にして、例16の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0078】
<参考例>
参考例として、Mgを含む酸化ケイ素が含まれない負極活物質層を形成した。具体的には、負極活物質として、Liを含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Liを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とをイオン交換水中で混合し、第1および第2負極合材スラリーを調製した。これらのこと以外は例1と同様にして、参考例の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0079】
上記作製した例13~例16および参考例の各評価用リチウムイオン二次電池を上述したように活性化(初回充電)した。活性化後の各評価用リチウムイオン二次電池を上述した方法と同様にして充放電サイクル試験および急速充放電サイクル試験を実施した。500サイクル後および急速充放電サイクル後の容量維持率が90%以上であれば「◎」、80%以上90%未満であれば「○」、80%未満であれば「×」と評価して、結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示すように、第2層にLiを含む酸化ケイ素が含まれている場合であっても、第2層のアルカリ土類金属量が第1層よりも高く、第2層の負極活物質を100質量%としたときに、アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素が2質量%以上である場合には、500サイクル後および急速充放電サイクル後の容量維持率がともに90%以上であり、二次電池のサイクル寿命および急速充放電サイクル特性が特に良いことがわかる。
【0082】
<例21>
Liを含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Liを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とをイオン交換水中で混合し、第1負極合材スラリーを調製した。
また、Caを含む酸化ケイ素20質量部と、黒鉛(C)80質量部とを混合し、Caを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とをイオン交換水中で混合し、第2負極合材スラリーを調製した。
【0083】
銅箔製の負極集電体の両面に、第1負極合材スラリーを塗布し、乾燥させて、圧延ローラーにより塗膜をプレスして圧延した。次いで、第1負極合材スラリーの乾燥塗膜上に、第2の負極合材スラリーを塗布し、上記と同様に乾燥させて、圧延した。これにより、第1負極合材スラリーによって形成された第1層と、第2負極合材スラリーによって形成された第2層とを含む負極活物質層が、負極集電体上に支持された例21の負極シートを得た。なお、第2負極合材スラリーは、負極活物質層の平均厚みに対して、第2層の平均厚みが50%となるように塗布した。
上記負極シート以外は、例1と同様にして、例21の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0084】
<例22および例23>
第2層中のCaを含む酸化ケイ素の質量割合(質量%)を表3に示すように変更したこと以外は、例1と同様にして、例22および例23の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0085】
<例24>
負極活物質として、Caを含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Mgを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水中で混合し、第1負極合材スラリーを調製した。
また、負極活物質として、Liを含む酸化ケイ素10質量部と、黒鉛(C)90質量部とを混合し、Liを含む酸化ケイ素と黒鉛との混合負極活物質を作製した。該混合負極活物質100質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とをイオン交換水中で混合し、第2負極合材スラリーを調製した。これらのこと以外は例1と同様にして、例24の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0086】
上記作製した例21~例24の各評価用リチウムイオン二次電池を上述したように活性化(初回充電)した。活性化後の各評価用リチウムイオン二次電池を上述した方法と同様にして充放電サイクル試験および急速充放電サイクル試験を実施した。500サイクル後および急速充放電サイクル後の容量維持率が90%以上であれば「◎」、80%以上90%未満であれば「○」、80%未満であれば「×」と評価して、結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3に示すように、アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素の種類を変更しても、表1の例5~例7と同様の傾向がみられた。したがって、アルカリ土類金属を含む酸化ケイ素の種類にかかわらず、サイクル寿命および急速充放電サイクル後の容量維持率に優れる二次電池用負極を提供することができる。
【0089】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0090】
20 捲回電極体
30 電池ケース
32 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
54 正極活物質層
56 正極活物質層非形成部分
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
64 負極活物質層
66 負極活物質層非形成部分
64A 第1層
64B 第2層
70 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3