(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187576
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 7/06 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
G01B7/06 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095633
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠 洋介
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
(72)【発明者】
【氏名】足立 重之
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063CA10
2F063DA02
2F063DA05
2F063EC03
2F063EC05
2F063EC15
2F063EC20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐ひずみ性を向上可能なひずみゲージを提供する。
【解決手段】ひずみゲージ1は、可撓性を有する基材10と、基材10上に、Cr、CrN、及びCr
2Nを含む膜から形成された抵抗体30と、を有し、測定対象物のひずみ方向Eに対して、抵抗体30のグリッド方向が直交するように、前記測定対象物に貼り付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基材と、
前記基材上に、Cr、CrN、及びCr2Nを含む膜から形成された抵抗体と、を有し、
測定対象物のひずみ方向に対して前記抵抗体のグリッド方向が直交するように、前記測定対象物に貼り付けられる、ひずみゲージ。
【請求項2】
前記基材上に形成され、配線を介して前記抵抗体と電気的に接続された一対の電極を有し、
前記電極は、前記抵抗体を挟んで前記ひずみ方向と直交する方向の両側に配置されている、請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記基材上に形成され、配線を介して前記抵抗体と電気的に接続された一対の電極を有し、
前記電極は、前記抵抗体を挟んで前記ひずみ方向の両側に配置されている、請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
前記配線は、前記抵抗体のグリッド方向に対して傾斜する部分を含む、請求項2又は3に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記配線は、前記抵抗体のグリッド方向に対して垂直方向に伸びる部分を含む、請求項3又は4に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
可撓性を有する基材と、
前記基材上に、Cr、CrN、及びCr2Nを含む膜から形成された抵抗体と、
前記基材上に形成され、配線を介して前記抵抗体と電気的に接続された一対の電極と、を有し、
前記配線は、前記抵抗体のグリッド方向に対して傾斜する部分を含む、ひずみゲージ。
【請求項7】
前記配線は、前記抵抗体のグリッド方向に対して垂直方向に伸びる部分を含む、請求項6に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
測定対象物のひずみ方向に対して前記抵抗体のグリッド方向が平行になるように、前記測定対象物に貼り付けられる、請求項6又は7に記載のひずみゲージ。
【請求項9】
前記電極は、前記抵抗体を挟んで前記ひずみ方向と直交する方向の両側に配置されている、請求項8に記載のひずみゲージ。
【請求項10】
前記配線は、前記電極と接続される部分に折り返し部を有する、請求項6乃至9の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項11】
ゲージ率が10以上である、請求項1乃至10の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項12】
前記抵抗体に含まれるCrN及びCr2Nの割合は、20重量%以下である、請求項1乃至11の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項13】
前記CrN及び前記Cr2N中の前記Cr2Nの割合は、80重量%以上90重量%未満である請求項1乃至12の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、ひずみを検出する抵抗体を備えており、抵抗体は、例えば、絶縁性樹脂上に形成されている。抵抗体は、例えば、配線を介して、電極と接続されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ひずみゲージは起歪体へ貼り付けられ、起歪体の動きに追従し伸び縮みすることで、起歪体のひずみ量を検出する。そのため、より大きなひずみ量を検出するためには、伸び縮みの過程でひずみゲージ自身が破損してはならず、より高い耐ひずみ性が求められている。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、耐ひずみ性を向上可能なひずみゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ひずみゲージは、可撓性を有する基材と、前記基材上に、Cr、CrN、及びCr2Nを含む膜から形成された抵抗体と、を有し、測定対象物のひずみ方向に対して前記抵抗体のグリッド方向が直交するように、前記測定対象物に貼り付けられる。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、耐ひずみ性を向上可能なひずみゲージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
【
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
【
図4】ひずみゲージの貼り付け方向について説明する図(その1)である。
【
図5】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その3)である。
【
図6】第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図7】ひずみゲージの貼り付け方向について説明する図(その2)である。
【
図8】第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する平面図(その1)である。
【
図9】第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する平面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、
図1のA-A線に沿う断面を示している。
図3は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)であり、
図1のB-B線に沿う断面を示している。なお、
図1に示す矢印Eは、ひずみゲージ1が貼り付けられる測定対象物のひずみ方向(伸縮方向)を示している。
【0011】
図1~
図3を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、配線40と、電極50と、カバー層60とを有している。なお、
図1~
図3では、便宜上、カバー層60の外縁のみを破線で示している。なお、カバー層60は、必要に応じて設ければよい。
【0012】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体30が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗体30が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体30が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。又、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0013】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の厚さが5μm~200μmであると、接着層等を介して基材10の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0014】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0015】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0016】
基材10の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO2、ZrO2(YSZも含む)、Si、Si2N3、Al2O3(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO3、BaTiO3)等の結晶性材料が挙げられ、更に、それ以外に非晶質のガラス等が挙げられる。また、基材10の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。この場合、金属製の基材10上に、例えば、絶縁膜が形成される。
【0017】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、
図1では、便宜上、抵抗体30を濃い梨地模様で示している。
【0018】
抵抗体30は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(
図1のA-A線の方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(
図1のB-B線の方向)となる。ひずみゲージ1は、測定対象物のひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向が直交するように、測定対象物に貼り付けられる。
【0019】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e1及び30e2を形成する。抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e1及び30e2は、配線40を介して、電極50と電気的に接続されている。言い換えれば、配線40は、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e1及び30e2と各々の電極50とを電気的に接続している。
【0020】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0021】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0022】
抵抗体30の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上であると、抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましい。また、抵抗体30の厚さが1μm以下であると、抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。抵抗体30の幅は、抵抗値や横感度等の要求仕様に対して最適化し、かつ断線対策も考慮して、例えば、10μm~100μm程度とすることができる。
【0023】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0024】
また、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
【0025】
また、CrN及びCr2N中のCr2Nの割合は80重量%以上90重量%未満であることが好ましく、90重量%以上95重量%未満であることが更に好ましい。CrN及びCr2N中のCr2Nの割合が90重量%以上95重量%未満であることで、半導体的な性質を有するCr2Nにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
【0026】
一方で、膜中に微量のN2もしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
【0027】
配線40は、基材10上に形成され、抵抗体30及び電極50と電気的に接続されている。配線40は直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線40は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、
図1では、便宜上、配線40及び電極50を抵抗体30よりも薄い梨地模様で示している。
【0028】
電極50は、基材10上に形成され、配線40を介して抵抗体30と電気的に接続されており、例えば、配線40よりも拡幅して略矩形状に形成されている。
図1~
図3の例では、電極50は、抵抗体30を挟んでひずみ方向Eと直交する方向(グリッド方向)の両側に配置されている。電極50は、抵抗体30の、ひずみにより生じる抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。
【0029】
なお、抵抗体30と配線40と電極50とは便宜上別符号としているが、これらは同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、抵抗体30と配線40と電極50とは、厚さが略同一である。
【0030】
配線40及び電極50上に、抵抗体30よりも低抵抗の材料から形成された導電層を積層してもよい。積層する導電層の材料は、抵抗体30よりも低抵抗の材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。導電層の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、3μm~5μm程度とすることができる。
【0031】
このように、配線40及び電極50上に、抵抗体30よりも低抵抗の材料から形成された導電層を積層すると、配線40は抵抗体30よりも抵抗が低くなるため、配線40が抵抗体として機能してしまうことを抑制できる。その結果、抵抗体30によるひずみ検出精度を向上できる。
【0032】
言い換えれば、抵抗体30よりも低抵抗な配線40を設けることで、ひずみゲージ1の実質的な受感部を抵抗体30が形成された局所領域に制限できる。そのため、抵抗体30によるひずみ検出精度を向上できる。
【0033】
特に、抵抗体30としてCr混相膜を用いたゲージ率10以上の高感度なひずみゲージにおいて、配線40を抵抗体30よりも低抵抗化して実質的な受感部を抵抗体30が形成された局所領域に制限することは、ひずみ検出精度の向上に顕著な効果を発揮する。また、配線40を抵抗体30よりも低抵抗化することは、横感度を低減する効果も奏する。
【0034】
カバー層60は、基材10上に形成され、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出する。配線40の一部は、カバー層60から露出してもよい。抵抗体30及び配線40を被覆するカバー層60を設けることで、抵抗体30及び配線40に機械的な損傷等が生じることを防止できる。また、カバー層60を設けることで、抵抗体30及び配線40を湿気等から保護できる。なお、カバー層60は、電極50を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0035】
カバー層60は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成することができる。カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0036】
[ひずみ限界]
ひずみゲージ1は、起歪体を介して、あるいは起歪体を介さず直接に、測定対象物に貼り付けられて、測定対象物のひずみを検出する。ひずみゲージ1がより大きなひずみ量を検出するためには、抵抗体30が伸び縮みする過程で抵抗体30自身が破損(断線等)してはならないため、ひずみ限界(耐ひずみ性)をできるだけ向上することが好ましい。なお、ひずみ限界とは、ひずみゲージにひずみを与えたときに、クラック又は断線が生じ始める機械的ひずみの値である。
【0037】
発明者らが鋭意検討したところ、
図1~
図3に示す構造のひずみゲージ1は、ひずみゲージ1を測定対象物に貼り付ける際に、測定対象物のひずみ方向と抵抗体30のグリッド方向との位置関係により、ひずみ限界が大きく異なることを見出した。なお、検討では、ひずみゲージ1において、基材10としては、膜厚25μmのポリイミド樹脂製のフィルムを用いた。また、抵抗体30には、Cr混相膜を用いた。
【0038】
具体的には、発明者らは、
図1に示すように、測定対象物のひずみ方向E(伸縮方向)に対して抵抗体30のグリッド方向が直交するように、ひずみゲージ1を測定対象物に貼り付けたサンプルを複数個作製した。そして、各サンプルにひずみを与えてクラックや断線の発生について調べ、ひずみ限界を測定した。その結果、
図1に示す配置では、各サンプルのひずみ限界は10900με以上であった。
【0039】
一方、発明者らは、比較例として、
図4に示すように、測定対象物のひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向が平行になるように、ひずみゲージ1を測定対象物に貼り付けたサンプルを複数個作製した。そして、各サンプルにひずみを与えてクラックや断線の発生について調べ、ひずみ限界を測定した。その結果、
図4に示す配置では、各サンプルのひずみ限界は2300με以上であった。
【0040】
すなわち、ひずみゲージ1を、測定対象物のひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向が直交するように貼り付ける仕様とすることで、測定対象物のひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向が平行になるよう貼り付ける仕様とする場合よりも、ひずみ限界を4倍以上向上できる。なお、ひずみゲージ1を実際に使用するにあたっては、5000με程度以上のひずみ限界が要求される。
【0041】
このように、測定対象物のひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向が直交するように貼り付ける仕様とすることで、測定対象物がひずみ方向Eに伸縮しても、抵抗体30は伸縮の影響を受けにくくなると考えられる。つまり、基材10は、基材10の長手方向は伸縮しづらく、短手方向は伸縮しやすい特性がある。
図1に示すように、ひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向(基材10の長手方向)が直交する場合、基材10は、伸縮しやすい基材10の短手方向に伸縮する。一方、
図4に示すように、ひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向(基材10の長手方向)が平行である場合、基材10は、伸縮しづらい基材10の長手方向に伸縮する。この場合、基材10は伸縮に対して追従できず、基材10の破断及びそれに伴う抵抗体30の断線が引き起こされやすくなると考えられる。
【0042】
[ひずみゲージの製造方法]
ここで、ひずみゲージ1の製造方法について説明する。ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体30、配線40、及び電極50となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体30、配線40、及び電極50の材料や厚さと同様である。
【0043】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0044】
ゲージ特性を安定化する観点から、金属層Aを成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により所定の膜厚の機能層を真空成膜することが好ましい。
【0045】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能や、基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0046】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に金属層AがCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が金属層Aの酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0047】
機能層の材料は、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0048】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。また、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si3N4、TiO2、Ta2O5、SiO2等が挙げられる。
【0049】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/20以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
【0050】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
【0051】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
【0052】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0053】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.8μmとすることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
【0054】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
【0055】
なお、機能層の平面形状は、例えば、
図1に示す抵抗体の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層の平面形状は、抵抗体の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層が絶縁材料から形成される場合には、抵抗体の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層は少なくとも抵抗体が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。あるいは、機能層は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0056】
また、機能層が絶縁材料から形成される場合に、機能層の厚さを50nm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材10側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ1において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0057】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0058】
ただし、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0059】
機能層の材料と金属層Aの材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、金属層Aとしてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0060】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、金属層Aを成膜できる。あるいは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、金属層Aを成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nの割合、並びにCrN及びCr2N中のCr2Nの割合を調整できる。
【0061】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。また、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0062】
なお、金属層AがCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、金属層Aの結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0063】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上できる。
【0064】
次に、フォトリソグラフィによって金属層Aをパターニングし、抵抗体30、配線40、及び電極50を形成する。
【0065】
その後、必要に応じ、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するカバー層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。カバー層60は、例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層60は、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0066】
なお、抵抗体30、配線40、及び電極50の下地層として基材10の上面10aに機能層を設けた場合には、ひずみゲージ1は
図5に示す断面形状となる。符号20で示す層が機能層である。機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の平面形状は、例えば、
図1と同様となる。但し、前述のように、機能層20は、基材10の上面10aの一部又は全部にベタ状に形成される場合もある。
【0067】
〈第1実施形態の変形例〉
第1実施形態の変形例では、配線の引き回しや電極の配置等が異なるひずみゲージの例を示す。なお、第1実施形態の変形例において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0068】
図6は、第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図6を参照すると、ひずみゲージ1Aは、ひずみゲージ1と同様に、測定対象物のひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向が直交するように貼り付けられる仕様である。ただし、配線40Aの引き回しと電極50の配置が、ひずみゲージ1(
図1~
図3等参照)と相違する。
【0069】
ひずみゲージ1Aにおいて、各配線40Aは、配線40とは異なり、1つの屈曲部を有しており、抵抗体30のグリッド方向に対して垂直方向に伸びる部分を含んでいる。ただし、垂直方向には限定されず、配線40Aは、抵抗体30のグリッド方向に対して傾斜する部分を含んでいてもよい。ひずみゲージ1Aでは、電極50は、抵抗体30を挟んでひずみ方向Eの両側に配置されている。なお、配線40Aが抵抗体30のグリッド方向に対して垂直方向に伸びる部分を含む場合は、配線40Aが抵抗体30のグリッド方向に対して傾斜する部分を含む場合の一例であり、傾斜角度が90度の場合である。他の配線についても同様である。
【0070】
発明者らが、ひずみゲージ1と同様の方法でひずみゲージ1Aのひずみ限界を調べたところ、
図6に示す配置では、各サンプルのひずみ限界は7200με以上であった。この結果は、
図4の配置(2300με以上)よりは大幅に良い値であり、十分実用に耐え得る値であるが、
図1の配置(10900με以上)には及ばない。
【0071】
これは、
図6の配置では、測定対象物のひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向が直交するようにひずみゲージ1Aを貼り付けることで、測定対象物がひずみ方向Eに伸縮しても、抵抗体30は伸縮の影響を受けにくくなるものの、抵抗体30は電極50の応力の影響を受けると考えられる。
【0072】
すなわち、測定対象物がひずみ方向Eに伸縮すると、電極50ではひずみ方向Eに応力が発生する。
図6の配置では、電極50は抵抗体30を挟んでひずみ方向Eの両側に配置しているため、電極50で発生した応力が直線状に抵抗体30まで伝わり、抵抗体30のひずみ限界を低下させたと考えられる。一方、
図1の配置では、電極50は抵抗体30を挟んでひずみ方向Eと直交する方向の両側に配置しているため、電極50の応力の影響を受けにくい分、
図6の配置よりもひずみ限界が高いと考えられる。
【0073】
また、発明者らの検討によれば、
図7に示す配置では、各サンプルのひずみ限界は6900με以上であった。この結果は、
図6の配置(7200με以上)よりはやや低いが、ほぼ同等の値であり、十分実用にえ得る値である。
【0074】
図7の配置では、ひずみ方向Eに対して抵抗体30のグリッド方向が平行である点は
図6の配置よりも不利ではあるが、電極50が抵抗体30を挟んでひずみ方向Eと直交する方向の両側に配置されているため、電極50の応力の影響を受けにくい点が有利に働き、このような結果が得られたと考えられる。
【0075】
なお、
図8及び
図9に示すひずみゲージ1Bのような配線40Bの引き回しや電極50の配置としてもよい。ひずみゲージ1Bを
図8に示す配置とした場合は、ひずみゲージ1を
図1に示す配置とした場合と同程度のひずみ限界が得られる。また、ひずみゲージ1Bを
図9に示す配置とした場合は、ひずみゲージ1Aを
図7に示す配置とした場合と同程度のひずみ限界が得られる。
【0076】
なお、ひずみゲージ1Bの配線40Bは、3つの屈曲部を有している。すなわち、配線40Bは、電極50と接続される部分に、抵抗体30から離れる方向に屈曲する配線と、抵抗体30と平行に伸びる配線と、抵抗体30に近づく方向に屈曲する配線を含む折り返し部を有する。この折り返し部のばね効果により、電極50で発生した応力が緩和されて抵抗体30に伝わりにくくなるため、ひずみ限界の向上に有利である。なお、折り返し部は4つ以上の屈曲部を有してもよく、この場合もばね効果を発揮する。また、配線40Bは、抵抗体30のグリッド方向に対して傾斜する部分を含んでいてもよい。
【0077】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0078】
1,1A,1B ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、20 機能層、30 抵抗体、30e1、30e2 終端、40,40A,40B 配線、50 電極、60 カバー層