(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187610
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】水中航走体及びその酸素供給システム
(51)【国際特許分類】
B63G 8/36 20060101AFI20221213BHJP
F17C 11/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B63G8/36 B
F17C11/00 A
B63G8/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095688
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊浦 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】藤本 高志
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 良平
(72)【発明者】
【氏名】梅村 友章
(72)【発明者】
【氏名】高見 有一
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB12
3E172BA01
3E172BB13
3E172BD01
3E172EA02
3E172EA12
3E172EA22
3E172EB02
3E172FA07
3E172JA02
3E172JA03
3E172JA04
3E172JA05
3E172KA22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水中航走体の内部空間へ空調用の酸素を供給する酸素供給システムであって、酸素を気体の状態で貯蔵しつつ従来の酸素ガスタンクと比較して単位容器容積当たりの酸素ガス貯蔵量を拡張可能なものを提案する。
【解決手段】水中航走体の内部の有人空間11へ酸素を供給する酸素供給システム2は、少なくとも1つの酸素ガス貯蔵容器と、酸素ガス貯蔵容器30から有人空間へ酸素ガスを送る酸素供給系統7とを備え、酸素ガス貯蔵容器は、容器本体31と、容器本体の内部に配置されて酸素ガスを吸蔵可能な多孔性配位高分子32とを有し、容器本体に圧縮された酸素ガス33が充填されてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中航走体の内部の有人空間へ酸素を供給する酸素供給システムであって、
少なくとも1つの酸素ガス貯蔵容器と、
前記酸素ガス貯蔵容器から前記有人空間へ酸素ガスを送る酸素供給系統とを備え、
前記酸素ガス貯蔵容器は、容器本体と、容器本体の内部に配置されて酸素ガスを吸蔵可能な多孔性配位高分子とを有し、容器本体に圧縮された酸素ガスが充填されてなる、
水中航走体の酸素供給システム。
【請求項2】
前記酸素供給系統に、前記多孔性配位高分子に起因する粉塵を補足し得るフィルタが設けられている、
請求項1に記載の水中航走体の酸素供給システム。
【請求項3】
前記酸素ガス貯蔵容器には前記有人空間の内圧よりも高圧の酸素ガスが充填されており、
前記酸素供給系統には酸素ガスの圧力を前記有人空間の内圧と対応する圧力まで段階的に下げる多段式減圧ユニットが設けられている、
請求項1又は2に記載の水中航走体の酸素供給システム。
【請求項4】
前記酸素供給系統に酸素ガスが貯蔵された予圧用ガスタンクが接続されており、
前記酸素供給系統を流れる酸素ガスが所定の閾値を下回ると前記予圧用ガスタンクから前記酸素供給系統へ酸素ガスが供給される、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水中航走体の酸素供給システム。
【請求項5】
前記酸素供給系統にバッファタンクが接続されており、
前記酸素供給系統を流れる酸素ガスの圧力が所定の閾値を超えると、酸素ガスの一部が前記バッファタンクへ流入する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水中航走体の酸素供給システム。
【請求項6】
前記有人空間の酸素濃度を検出する酸素濃度計と、前記酸素供給系統に設けられた少なくとも1つの供給弁と、制御装置とを更に備え、
前記制御装置は前記酸素濃度計で検出された酸素濃度が所定の閾値を下回ると前記有人空間へ酸素ガスが供給されるように前記供給弁を開放する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水中航走体の酸素供給システム。
【請求項7】
外殻と、
前記外殻の内側に設けられ、内部に有人空間を有する内殻と、
前記有人空間へ酸素を供給する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の水中航走体の酸素供給システムとを備える、
水中航走体。
【請求項8】
前記少なくとも1つの酸素ガス貯蔵容器が前記外殻と前記内殻との間に配置されている、
請求項7に記載の水中航走体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水中航走体(水中ビークルとも称される)において内部の有人空間へ空調用の酸素を供給するシステム及びそれ搭載した水中航走体に関する。
【背景技術】
【0002】
深海探査船などの水中航走体は、外界からの酸素補給ができないため、内部の友人空間へ酸素(又は空気)を供給するシステムを備えている。例えば、特許文献1に開示された潜水船は、耐圧殻内の空気清浄を図る水中換気装置を備え、水中換気装置は耐圧殻内から強制排気する排気シリンダと、耐圧殻外に装備されて耐圧殻内へ減圧した空気を供給する高圧空気タンクとを有する。高圧空気タンクには圧縮された高圧の空気が貯蔵されている。また、特許文献2では、水中航走体に搭載される燃料電池や蒸気機関へ酸素を供給するための酸素供給装置ではあるが、液体の酸素が容器に充填された液体酸素タンクや、所定物質の化学反応により酸素を発生させる酸素発生器が用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1-144195号公報
【特許文献2】特開2006-96580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水中航走体の機体の内部又は外部に液体酸素タンクを搭載する場合には、液体酸素タンクを極低温に温度管理する必要があり、取り扱いが難しくなるという課題があった。また、水中航走体の機体内部に酸素発生器を搭載する場合には、反応によって生じる酸素の他の物質を処理するための装備が必要となる。このため、液体酸素タンクや酸素発生器を搭載する場合と比較して、酸素ガスを貯蔵した酸素ガスタンクを搭載するほうが装備や扱いが簡易となる。しかし、酸素ガスタンクは液体酸素タンクと比較して単位容器容積当たりの酸素ガス貯蔵量が少なく、タンクの装備容積に制約のある水中航走体では長期運用のために十分な量の酸素を確保できないという課題がある。
【0005】
本開示は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、水中航走体の内部空間へ空調用の酸素を供給する酸素供給システムであって、酸素を気体の状態で貯蔵しつつ従来の酸素ガスタンクと比較して単位容器容積当たりの酸素ガス貯蔵量を拡張可能なものを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る水中航走体の酸素供給システムは、水中航走体の内部の有人空間へ酸素を供給する酸素供給システムであって、
少なくとも1つの酸素ガス貯蔵容器と、
前記酸素ガス貯蔵容器から前記有人空間へ酸素ガスを送る酸素供給系統とを備え、
前記酸素ガス貯蔵容器は、容器本体と、容器本体の内部に配置されて酸素ガスを吸蔵可能な多孔性配位高分子とを有し、容器本体に圧縮された酸素ガスが充填されてなることを特徴としている。
【0007】
また、本開示に係る水中航走体は、外殻と、前記外殻の内側に設けられて、内部に有人空間を有する内殻と、前記有人空間へ酸素を供給する前記水中航走体の酸素供給システムとを備えることを特徴としている。
【0008】
上記構成の水中航走体及びその酸素供給システムによれば、酸素ガス貯蔵容器は従来の酸素ガスタンクと比較して単位容器容積当たりの酸素ガス貯蔵量を増やすことができる。それには、従来の酸素ガスタンクに充填される圧縮された酸素ガスと比較して、酸素ガスの高圧化を伴わないことから、酸素ガス貯蔵容器へ酸素ガスを充填する際の発火の恐れを回避することができる。また、酸素ガス貯蔵容器は、酸素を気体の状態で貯蔵することができるので、液体酸素タンクを備える場合と比較して、装備や扱いが簡易となる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、水中航走体の内部空間へ空調用の酸素を供給する酸素供給システムであって、酸素を気体の状態で貯蔵しつつ従来の酸素ガスタンク と比較して単位容器容積当たりの酸素ガス貯蔵量を拡張可能なものを提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示に係る水中航走体の酸素供給システムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して本開示に係る水中航走体1の酸素供給システム2を説明する。
図1は、水中航走体1の酸素供給システム2の概略構成を示す図である。水中航走体1は、有人航行が可能であって、例えば、海洋や湖沼などの水中を潜航しながら情報収集を行うためのものである。水中航走体1は、外形を形成する外殻10と、外殻10の内側に設けられた内殻12とを備え、内殻12の内部には有人空間11が形成されている。内殻12は耐圧殻であってよい。有人空間11の環境は、乗船者が活動できるように空調されている。空調には、有人空間11の環境の酸素濃度(又は酸素分圧)を整えることが含まれ、水中航走体1には有人空間11へ酸素を供給する酸素供給システム2が備えられている。酸素供給システム2は、例えば、有人空間11が閉鎖された状態で稼働する。有人空間11には、有人空間11内の酸素濃度を検出する酸素濃度計55が設けられている。
【0012】
酸素供給システム2は、少なくとも1つの酸素貯蔵ユニット3と、酸素貯蔵ユニット3から有人空間11へ酸素を供給する酸素供給系統7と、制御装置6とを備える。
【0013】
少なくとも1つの酸素貯蔵ユニット3は、外殻10と内殻12の間に配置されている。但し、酸素貯蔵ユニット3は外殻10の外部又は内殻12内に配置されてもよい。或いは、複数の酸素貯蔵ユニット3のうち一部が外殻10の外部に配置され残部が外殻10と内殻12との間に配置されてもよい。
【0014】
酸素貯蔵ユニット3の各々は実質的に同一の構成を有する。酸素貯蔵ユニット3は、酸素ガス貯蔵容器30と、酸素ガス貯蔵容器30の出入口に設けられた容器弁34と、フィルタ35とを備える。容器弁34は、酸素ガス貯蔵容器30の出入口を開閉する弁であり、手動又は自動で開閉動作する。フィルタ35は、酸素ガス貯蔵容器30から容器弁34を通じて酸素供給系統7へ流れ出る酸素ガス33から粉塵などの微粒子を除去するためのものである。
【0015】
酸素ガス貯蔵容器30は、耐圧性を有する容器本体31と、容器本体31内に配置又は充填された多孔性配位高分子32からなる。酸素ガス貯蔵容器30には、常圧よりも高圧の酸素ガス33が充填されている。多孔性配位高分子32(PCP)は、金属有機構造体(MOF)とも呼ばれる。多孔性配位高分子32は、高表面積を持つ多孔質の配位ネットワーク構造を持つ材料であって、そのうち酸素ガス33を吸蔵可能なものが採用されている。酸素ガス貯蔵容器30において、酸素ガス33は多孔性配位高分子32の微細空間に吸着された状態で貯蔵されており、貯蔵された酸素ガス33は高密度となり得る。よって、酸素ガス貯蔵容器30には、従来の酸素ガスタンクと比較して、同じ単位容積当たりでより多くの酸素ガス33を気体の状態で貯蔵することができる。多孔性配位高分子32に吸蔵された酸素ガス33は、減圧及び/又は加熱により多孔性配位高分子32から放出され得る。なお、多孔性配位高分子32からの酸素ガス33の放出方法は、多孔性配位高分子32の構造に拠る。本開示では、減圧により吸蔵している酸素ガス33を放出する多孔性配位高分子32が採用されている。
【0016】
酸素貯蔵ユニット3は酸素供給系統7の上流側端部と接続されている。酸素供給システム2が複数の酸素貯蔵ユニット3を備える場合、複数の酸素貯蔵ユニット3は酸素供給系統7と並列的に接続される。複数の酸素貯蔵ユニット3のうちいずれか一つ又は幾つかの容器弁34が開放されて、それらが酸素供給系統7と選択的に接続される。
【0017】
酸素供給系統7は、外部供給ライン71と内部供給ライン72とを備える。外部供給ライン71は主に外殻10の外側に敷設されている。内部供給ライン72は主に内殻12の内部に配置されている。外部供給ライン71と内部供給ライン72とは接続されており、この接続部分に第1供給弁46が設けられている。第1供給弁46が閉止されているとき、外部供給ライン71から内部供給ライン72への酸素ガス33の流入は阻害される。第1供給弁46が開放されているとき、外部供給ライン71から内部供給ライン72への酸素ガス33の流入が許容される。
【0018】
外部供給ライン71には、充填弁41を介してコネクタ42が接続されている。このコネクタ42には、充填ライン68が着脱可能に接続される。酸素ガス貯蔵容器30の多孔性配位高分子32は酸素の吸蔵と放出を繰り返すことが可能である。酸素ガス貯蔵容器30の酸素ガス33が消尽されれば、酸素ガス貯蔵容器30へ酸素ガス33を再充填することにより、酸素ガス貯蔵容器30を繰り返し使用することができる。充填弁41は、通常時は閉止されており、酸素ガス貯蔵容器30に酸素ガス33が再充填される際に開放される。コネクタ42に充填ライン68が接続され、且つ、充填弁41が開放されると、外部供給ライン71の一部及び充填ライン68を介して酸素ガス貯蔵容器30と高圧酸素源69とが接続され、高圧酸素源69から送られた高圧の酸素ガス33が酸素ガス貯蔵容器30へ充填される。但し、空の酸素ガス貯蔵容器30は、新たな酸素ガス貯蔵容器30と交換されてもよい。
【0019】
外部供給ライン71には、外部供給ライン71を流れる酸素ガス33の圧力を検出する圧力検出器45が設けられている。圧力検出器45で検出された酸素ガス33の圧力は、制御装置6へ出力される。
【0020】
外部供給ライン71には、バッファライン74を介してバッファタンク43が接続されている。バッファタンク43は外殻10の外側に配置されているが、外殻10と内殻12の間、又は、内殻12の内側に配置されていてもよい。バッファライン74には、調整弁44が設けられており、調整弁44の動作は制御装置6によって制御される。制御装置6は、圧力検出器45で検出された圧力が所定の閾値を超えると、調整弁44を一時的に開放する。但し、調整弁44は手動で開閉されてもよい。調整弁44が開放されることにより、外部供給ライン71を流れる酸素ガス33の一部分がバッファタンク43へ送られ、バッファタンク43は酸素貯蔵ユニット3から放出された酸素ガス33を一時的に貯蔵する。その結果、酸素貯蔵ユニット3から酸素ガス33が放出された時の、外部供給ライン71における酸素ガス33の急激な圧力上昇を緩和することができる。バッファタンク43に貯蔵された酸素ガス33は、適時に有人空間11へ放出されてもよい。或いは、バッファタンク43は省略されて、酸素貯蔵ユニット3から酸素ガス33が放出された時に、外部供給ライン71を流れる酸素ガス33が外殻10の外部又は有人空間11へ放出されることにより、外部供給ライン17の急激な圧力上昇を緩和されてもよい。
【0021】
内部供給ライン72において第1供給弁46の酸素ガス33の流れの下流側には、第2供給弁51が設けられている。第2供給弁51の開閉動作は制御装置6によって制御される。
【0022】
内部供給ライン72において第1供給弁46と第2供給弁51との間には、フィルタ47が設けられている。このフィルタ47は、酸素ガス33に同伴する粉塵を捕集して酸素ガス33のみを下流側へ流すものである。酸素ガス33に同伴する粉塵として、例えば、多孔性配位高分子32に起因する細粉などが例示される。内部供給ライン72にフィルタ47が設けられることにより、有人空間11へ吹き出す酸素ガス33を清浄化できる。
【0023】
内部供給ライン72においてフィルタ47と第2供給弁51との間には、圧力検出器50が接続されている。この圧力検出器50で検出された酸素ガス33の圧力は制御装置6へ出力される。
【0024】
内部供給ライン72においてフィルタ47と第2供給弁51との間には、予圧ライン73を介して予圧用ガスタンク48が接続されている。予圧用ガスタンク48には酸素ガスが充填されている。予圧ライン73には、予圧弁49が設けられており、予圧弁49の動作は制御装置6によって制御される。制御装置6は、圧力検出器50で検出された圧力が所定の閾値を下回ると、予圧弁49を一時的に開放する。但し、予圧弁49は手動で開閉されてもよい。予圧弁49が開放されることにより、内部供給ライン72へ酸素ガスが供給されて、内部供給ライン72の圧力が一時的に上昇する。これにより、断熱圧縮による酸素ガス33の温度上昇を抑制することができる。
【0025】
内部供給ライン72において第2供給弁51よりも酸素ガス33の流れの下流側、即ち、第2供給弁51と有人空間11の間には、多段式減圧ユニット52及び圧力検出器54が設けられている。圧力検出器54は、多段式減圧ユニット52よりも酸素ガス33の流れの下流側に設けられている。圧力検出器54で検出された酸素ガス33の圧力は、制御装置6へ出力される。
【0026】
多段式減圧ユニット52は、酸素ガス33を多段階で減圧する。酸素貯蔵ユニット3に貯蔵されている酸素ガス33は圧縮されており、酸素貯蔵ユニット3から外部供給ライン71を通じて内部供給ライン72へ流れ込む酸素ガス33の圧力は、有人空間11の内圧と比較して高い。そこで、圧力検出器54で検出される酸素ガス33の圧力が有人空間11の内圧と対応した値(但し、同一には限られない)となるように、酸素ガス33が多段式減圧ユニット52で減圧される。
【0027】
内部供給ライン72において多段式減圧ユニット52よりも酸素ガス33の流れの下流側、即ち、多段式減圧ユニット52と有人空間11との間には、安全弁53が設けられている。安全弁53は、酸素ガス33の圧力が有人空間11の内圧と対応した所定の閾値を超えると酸素ガス33の一部を内部供給ライン72から排出するように動作する。これにより、有人空間11へ流入する酸素ガス33の圧力が過剰となることが防止される。
【0028】
制御装置6は、所謂コンピュータであって、各種のセンサ(これには、圧力検出器45,50,54、及び酸素濃度計55が含まれる)の検出値を取得して、予め記憶されたプログラムに則って演算を行い、酸素供給システム2の構成要素(これには、容器弁34、調整弁44、第1供給弁46、予圧弁49、及び第2供給弁51が含まれる)の動作を制御する。
【0029】
本明細書で開示する制御装置6の機能は、開示された機能を実行するように構成又はプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせを含む回路、又は、処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路又は回路と見做される。本開示において、回路、ユニット、又は手段は、列挙された機能を実行するハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、或いは、列挙された機能を実行するようにプログラム又は構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【0030】
制御装置6は、次のように酸素供給システム2を動作させる。即ち、制御装置6は、酸素濃度計55で検出された有人空間11の酸素濃度を監視し、酸素濃度計55で検出された酸素濃度が所定の閾値を下回ると、有人空間11へ酸素ガス33が供給されるように第1供給弁46及び第2供給弁51等の酸素供給システム2の構成要素を動作させる。ここで、制御装置6は、有人空間11へ所定量又は所定時間だけ酸素ガス33を供給することもできるし、酸素濃度計55で検出された酸素濃度が所定の値となるまで酸素ガス33の供給を継続することもできる。或いは、制御装置6は、予め決められた時間間隔で又は時刻に、有人空間11へ所定時間又は所定量の酸素ガス33が供給されるように第1供給弁46及び第2供給弁51等の酸素供給システム2の構成要素を動作させてもよい。
【0031】
以上に説明したように、本開示に係る水中航走体1は、外殻10と、外殻10の内側に設けられ、内部に有人空間11を有する内殻12と、有人空間11へ酸素を供給する酸素供給システム2とを備える。そして、酸素供給システム2は、少なくとも1つの酸素ガス貯蔵容器30と、酸素ガス貯蔵容器30から水中航走体1の内部の有人空間11へ酸素ガス33を送る酸素供給系統7とを備え、
酸素ガス貯蔵容器30は、容器本体31と、容器本体31の内部に配置されて酸素ガス33を吸蔵可能な多孔性配位高分子32とを有し、容器本体31に圧縮された酸素ガス33が充填されてなることを特徴としている。少なくとも1つの酸素ガス貯蔵容器30は、外殻10と内殻12との間に配置されていてよい。
【0032】
上記構成の酸素供給システム2によれば、酸素ガス貯蔵容器30は従来の酸素ガスタンクと比較して単位容器容積当たりの酸素ガス貯蔵量を増やすことができる。それには、従来の酸素ガスタンクに充填される圧縮された酸素ガスと比較して、酸素ガス33の高圧化を伴わないことから、酸素ガス貯蔵容器30へ酸素ガス33を充填する際及び有人空間11へ酸素を供給する際の発火の恐れを回避することができる。従来の酸素ガスタンクと装備容積が同じ場合には、酸素ガス貯蔵容器30はより多くの酸素ガスを貯蔵することができる。これにより、水中航走体1の長期の運用を実現できる。また、従来の酸素ガスタンクと同量の酸素ガスが要求される場合には、酸素ガス貯蔵容器30の装備容積を低減することができる。
【0033】
その上、酸素ガス貯蔵容器30では酸素が気体で貯蔵されることから、液体酸素を貯蔵する液体酸素タンクを備える場合と比較して装備や扱いが簡易となる。
【0034】
更に、多孔性配位高分子32は酸素ガス33の吸蔵と放出とを繰り返すことが可能であり、酸素ガス貯蔵容器30に貯蔵された酸素ガス33が消尽しても、酸素ガス貯蔵容器30に酸素ガス33を再充填することで、酸素ガス貯蔵容器30を繰り返し使用することができる。
【0035】
また、本開示に係る水中航走体1の酸素供給システム2では、上記の酸素供給系統7に多孔性配位高分子32に起因する粉塵を補足し得るフィルタ47が設けられている。これにより、酸素ガス貯蔵容器30から酸素供給系統7に多孔性配位高分子32に起因する粉塵が流出しても、それをフィルタ47で捕集することができる。
【0036】
また、本開示に係る水中航走体1の酸素供給システム2では、酸素ガス貯蔵容器30には有人空間11の内圧よりも高圧の酸素ガス33が充填されており、上記の酸素供給系統7には酸素ガス33の圧力を有人空間11の内圧と対応する圧力まで段階的に下げる多段式減圧ユニット52が設けられている。これにより、有人空間11の内圧と酸素ガス貯蔵容器30に充填された酸素ガス33との差圧を吸収することができる。
【0037】
また、本開示に係る水中航走体1の酸素供給システム2では、上記の酸素供給系統7に酸素ガスが貯蔵された予圧用ガスタンク48が接続されており、酸素供給系統7を流れる酸素ガス33が所定の閾値を下回ると予圧用ガスタンク48から酸素供給系統7へ酸素ガスが供給されるように構成されている。これにより、酸素供給系統7の圧力が一時的に上昇して、断熱圧縮による酸素ガスの温度上昇を抑制することができる。
【0038】
また、本開示に係る水中航走体1の酸素供給システム2では、上記の酸素供給系統7にバッファタンク43が接続されており、酸素供給系統7を流れる酸素ガス33の圧力が所定の閾値を超えると、酸素ガス33の一部がバッファタンク43へ流れるように構成されている。これにより、酸素貯蔵ユニット3から酸素ガス33が放出されたときの、酸素供給系統7の一時的な酸素ガス33の圧力の急上昇を緩和することができる。
【0039】
また、本開示に係る水中航走体1の酸素供給システム2では、有人空間11の酸素濃度を検出する酸素濃度計55と、上記の酸素供給系統7に設けられた少なくとも1つの供給弁(第1供給弁46,第2供給弁51)と、制御装置6とを更に備え、制御装置6は酸素濃度計55で検出された酸素濃度が所定の閾値を下回ると有人空間11へ酸素ガスが供給されるように供給弁を開放するように構成されている。これにより、有人空間11への酸素ガス33の供給を有人空間11の酸素濃度に基づいて適時に行うことができる。
【0040】
本開示の前述の議論は、例示及び説明の目的で提示されたものであり、本開示を本明細書に開示される形態に限定することを意図するものではない。例えば、前述の詳細な説明では、本開示の様々な特徴は、本開示を合理化する目的で1つの実施形態にまとめられている。但し、本開示に含まれる複数の特徴は、上記で論じたもの以外の代替の実施形態、構成、又は態様に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 :水中航走体
2 :酸素供給システム
3 :酸素貯蔵ユニット
6 :制御装置
7 :酸素供給系統
10 :外殻
11 :有人空間
30 :酸素ガス貯蔵容器
31 :容器本体
32 :多孔性配位高分子
33 :酸素ガス
34 :容器弁
35 :フィルタ
41 :充填弁
42 :コネクタ
43 :バッファタンク
44 :調整弁
45 :圧力検出器
46 :第1供給弁
47 :フィルタ
48 :予圧用ガスタンク
49 :予圧弁
50 :圧力検出器
51 :第2供給弁
52 :多段式減圧ユニット
53 :安全弁
54 :圧力検出器
55 :酸素濃度計
68 :充填ライン
69 :高圧酸素源
71 :外部供給ライン
72 :内部供給ライン
73 :予圧ライン
74 :バッファライン