(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187652
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】鋳造装置の位置決め機構
(51)【国際特許分類】
B22C 21/10 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B22C21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095752
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰嗣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳也
【テーマコード(参考)】
4E094
【Fターム(参考)】
4E094BB01
4E094BB13
4E094BB41
(57)【要約】
【課題】構造が簡単でありながら使用寿命を従来の2倍とすることができる鋳造装置の位置決め機構を提供する。
【解決手段】対をなす模型定盤または金枠を、それらの両側に設けた位置決めピン4と位置決めブッシュ5により位置決めする鋳造装置の位置決め機構である。位置決めピン4は基準側、反基準側ともに共通の丸ピンとし、位置決めブッシュは基準側を丸ブッシュ、反基準側を長孔ブッシュとし、反基準側の位置決めピン5と位置決めブッシュ5bとの取付け位置を、相対的にオフセットさせた。摩耗時に反基準側の位置決めブッシュ5bを反転させることにより、使用寿命を2倍とすることができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
模型定盤または金枠を、それらの両側に設けた位置決めピンと位置決めブッシュにより位置決めする鋳造装置の位置決め機構であって、
位置決めピンは基準側、反基準側ともに共通の丸ピンとし、
位置決めブッシュは基準側を丸ブッシュ、反基準側を長孔ブッシュとし、
反基準側の位置決めピンと位置決めブッシュとの取付け位置を相対的にオフセットさせたことを特徴とする鋳造装置の位置決め機構。
【請求項2】
長孔ブッシュの摩耗時に、長孔ブッシュを180°反転させて丸ピンに対する当たり位置を変更可能としたことを特徴とする請求項1に記載の鋳造装置の位置決め機構。
【請求項3】
位置決めピンの軸を円柱形とし、模型定盤または金枠に形成された円筒形のボスに差し込んで固定したことを特徴とする請求項1または2に記載の鋳造装置の位置決め機構。
【請求項4】
長孔ブッシュ側の位置決めピンの摩耗時に、円筒形のボスに対する位置決めピンの固定角度を変更可能としたことを特徴とする請求項3に記載の鋳造装置の位置決め機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用の模型定盤または金枠の位置決めに用いられる鋳造装置の位置決め機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造ラインにおいては、上下鋳型をそれぞれ造型するための金枠(上枠、下枠)や、模型を取付けその上に各金枠を載せて造型する模型定盤が用いられている。金枠どうしの位置決めや金枠と模型定盤との位置決めのために、従来から
図1に示すように位置決めピン4と位置決めブッシュ5とを組み合わせた位置決め機構が用いられている。位置決めピン4と位置決めブッシュ5は模型定盤または金枠の前後又は左右の両側に設けられており、その一方が基準側であり、他方が反基準側である。
【0003】
位置決めピン4は基準側、反基準側ともに、消耗品の種類を削減するために共通の丸ピンを使用している。また基準側では、位置決めの基準とするため、位置決めブッシュ5aもこの丸ピンに対応する丸孔である。しかし反基準側では、金枠の熱膨張を吸収するために、
図9に示すように位置決めブッシュ5bを平面部5cを持つ長孔ブッシュとしている。ところが長孔ブッシュである位置決めブッシュ5bの平面部5cに丸ピンである位置決めピン4が点当たりすることが繰り返されるので、丸ピンと長孔ブッシュとの双方ともに、局所摩耗の進行が速いという問題がある。摩耗が進行すると位置決め精度が低下するため、長時間にわたり鋳造ラインを停止して交換する必要が生じる。
【0004】
そこで特許文献1には
図10に示すように、反基準側の位置決めピン4を、長孔ブッシュの平面部5cに対向する部分に平面部4cを形成した面付ピンとし、平面部4c、5cどうしを面接触させることにより局部摩耗を防止した鋳造装置の位置決め機構が提案されている。なお特許文献1では、面付ピンの取付け角度を規制するために、2本のボルトを利用した複雑な取付部が採用されている。
【0005】
しかし実際には、面付ピンをその平面部4cが長孔ブッシュの平面部5cと平行になるようにボルトで固定する作業は容易ではない。何故ならば、面付ピンを位置決めするためのインロー部があるため、ボルト穴を隙間がないリーマボルト用リーマ穴とすることはできず、隙間を設けたバカ穴にしておく必要がある。このため、面付ピンの平面部4cが長孔ブッシュの平面部5cと平行となるように取り付けるためには、面付ピンを取り付ける模型定盤または金枠側に基準にする平面部を設け、隙間ゲージなどを用いてその平面部と面付ピンの平面部4cが平行になるように組付ける必要がある。
【0006】
この組付け作業は容易ではなく、もし正確に平行が出せない場合には、面付ピンの平面部4cの角が長孔ブッシュの平面部5cに点当たりとなる。この結果、
図9に示された長孔ブッシュの平面部5cに丸ピンが接触する場合以上に、早期摩耗が発生する可能性がある。しかも面付ピンは精度が必要な平面部4cおよび複雑な形状の取付部の加工が必要なため、消耗品である位置決めピン4の加工コストが高価となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、構造が簡単でありながら使用寿命を従来よりも長くすることができる鋳造装置の位置決め機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、対をなす模型定盤または金枠を、それらの両側に設けた位置決めピンと位置決めブッシュにより位置決めする鋳造装置の位置決め機構であって、位置決めピンは基準側、反基準側ともに共通の丸ピンとし、位置決めブッシュは基準側を丸ブッシュ、反基準側を長孔ブッシュとし、反基準側の位置決めピンと位置決めブッシュとの取付け位置を相対的にオフセットさせたことを特徴とするものである。
【0010】
なお、長孔ブッシュの摩耗時に、長孔ブッシュを180°反転させて丸ピンに対する当たり位置を変更可能とすることができる。また、位置決めピンの軸を円柱形とし、模型定盤または金枠に形成された円筒形のボスに差し込んで固定する構造とすることが好ましい。さらに、長孔ブッシュ側の位置決めピンの摩耗時に、円筒形のボスに対する位置決めピンの固定角度を変更可能とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鋳造装置の位置決め機構は、反基準側の位置決めブッシュを長孔ブッシュとし、反基準側の位置決めピンと位置決めブッシュとの取付け位置を相対的にオフセットさせた構造であるから、長孔ブッシュの平面部のうち、センターから片側にオフセットした位置が位置決めピンとの接触位置になり、先ずその位置で摩耗が生ずる。しかし摩耗が進行した際に長孔ブッシュを180°反転させれば、摩耗した位置が長孔ブッシュのセンターを挟んだ反対側に移動し、位置決めピンは長孔ブッシュの摩耗していない平面部と新たに接触することになる。このように、長孔ブッシュの摩耗時に、長孔ブッシュを180°反転させて丸ピンに対する当たり位置を変更可能とすることによって、長孔ブッシュの使用寿命を従来より長くすることができる。
【0012】
また、位置決めピンは丸ピンであるが、長孔ブッシュとの接触頻度の高い部位から摩耗が進行する。しかし位置決めピンの摩耗時に、位置決めピンを回転させて固定角度を変更し、長孔ブッシュとの接触を変えることにより使用寿命を延ばすことができ、その交換頻度を長孔ブッシュと同等とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】鋳造用の金枠同士の位置決め機構を示す図である。
【
図2】上枠と模型定盤との間の位置決め機構を示す図である。
【
図3】下枠と模型定盤との間の位置決め機構を示す図である。
【
図5】反基準側位置決めブッシュと位置決めピンとの取合いを示す平面図である。
【
図6】位置決めピンの取付け構造を示す断面図である。
【
図7】基準側、反基準側の位置決めピンと位置決めブッシュの位置関係図である。
【
図8】反基準側の位置決めピンを回転取付する場合の、摩耗幅と回転角度の関係を示す説明図である。
【
図10】特許文献1に記載の従来技術を示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は鋳造用の金枠同士の位置決め機構を示す図であり、(A)は平面図、(B)は下枠の平面図、(C)は上枠と下枠を組み合わせた状態の断面図である。
図1において、1aは上枠、1bは下枠である。これらの金枠の両側には位置決めピン4と位置決めブッシュ5a、5bとからなる位置決め機構が形成されている。本実施形態においては、
図1の左側を基準側、右側を反基準側として説明する。
【0015】
図2は上枠1aと模型定盤2との間の位置決め機構を示す図であり、(A)は平面図、(B)は模型定盤2の平面図、(C)は上枠1aと模型定盤2を組み合わせた状態の断面図である。同様に
図3は下枠1bと模型定盤2との間の位置決め機構を示す図である。
図2の(C)に示されるように、上枠用模型定盤2aの上に模型3と上枠1aを取付け、鋳型が造型される。同様に
図3の(C)に示されるように、下枠用模型定盤2bの上に模型3と下枠1bを取付け、鋳型が造型される。模型定盤2と上枠1aとの間、及び模型定盤2と下枠1bとの間に、位置決めピン4と位置決めブッシュ5a、5bとからなる位置決め機構が形成されている。
【0016】
位置決めピン4は基準側、反基準側ともに共通の丸ピンを使用している。位置決めブッシュ5aは従来と同様の丸ブッシュとし、反基準側の位置決めブッシュ5bを
図4に示す長孔ブッシュとしている。長孔ブッシュは内面に平面部(ストレート部)5cを備え、上面に取付フランジ7を備えている。長孔ブッシュは金枠1や模型定盤2に設けた穴6に嵌め込まれている。この取付フランジ7には対向する2か所に切欠き8が形成され、座金9とボルト10によって金枠1や模型定盤2に取付けられている。
【0017】
従来、
図9、
図10に示したように反基準側の位置決めピン4は長孔ブッシュの中心にセットされていたのであるが、本発明では反基準側の位置決めピン4は、位置決めブッシュ5bの中心に対して数mm意識的にオフセットさせてある。実施形態ではオフセット量は1~10mmの範囲とし、何れの側にずらしてもよい。ただし
図5に示したように、位置決めピン4のオフセット位置は、位置決めピン4と長孔ブッシュとの間に、熱膨張吸収用隙間を確保できるように決定する。なお、長孔ブッシュの嵌め合い幅は位置決めピン4の直径と略等しく、長孔ブッシュの平面部(ストレート部)5cの両側の曲率半径は位置決めピン4の半径と等しくしておくことが好ましい。
【0018】
図6に位置決めピン4の取付構造を示す。位置決めピン4の軸4aを円筒形とし、模型定盤2または金枠1に形成された円筒形のボス12に差し込んでボルト13により固定した構造とすることが好ましい。このような構造とすれば、ボルト13を緩めることにより、位置決めピン4をその中心軸の回りに任意の角度回転させて固定することができる。
【0019】
図7に、本発明の位置決め機構の全体を示す。この図に示すように、基準側の位置決めブッシュ5aも反基準側の位置決めブッシュ5bも基準ピッチの位置にあるが、位置決めピン4は反基準側では基準ピッチの位置からオフセットされた位置にある。
図7では位置決めピン4のオフセット量は基準ピッチに対してプラス2mmであるが、マイナス側にオフセットさせることもできる。
【0020】
上記のように構成された本発明の位置決め機構においては、位置決めピン4は長孔ブッシュの平面部5cの中心よりもオフセットされた位置において長孔ブッシュの平面部5cと接触する頻度が高くなるため、長孔ブッシュの平面部5cは
図5において中心よりも右側位置で摩耗が進行し、位置決め精度が低下する。従来はその段階で位置決めブッシュ5bを交換する必要が生じたが、本発明ではボルト10を緩めて位置決めブッシュ5bを180°反転させれば、位置決めピン4は中心線の反対側において長孔ブッシュの平面部5cと接触することとなる。これにより位置決めブッシュ5bの寿命を従来の2倍と長くすることができる。
【0021】
また、位置決めピン4も特定部位が長孔ブッシュの平面部5cと繰り返し接触するため、特定部位において摩耗が進行し、位置決め精度が低下する。しかしボルト13を緩め、位置決めピン4をその中心軸の回りに回転させて固定することにより、摩耗していない部位を長孔ブッシュとの接触部位とすることができる。
【0022】
図8はその具体例を示す図である。例えば位置決めピン4の直径を40mmとし、許容できる摩耗量を片側0.1mmとした場合の摩耗幅は3.99mmである。
図8のように位置決めピン4を30°回転させれば、摩耗幅同士が干渉しない取合いとすることができる。従って同一の位置決めピン4でありながら、位置決めピン4を6回交換した場合と同様の効果を得ることができる。
【0023】
本発明によれば、次の通りの顕著な作用効果を得ることができる。
(1)点当たりとなるため消耗が速い反基準側の長孔ブッシュの使用寿命を、2倍とすることができる。
(2)平面で接する長孔ブッシュよりも円弧で接する位置決めピンの方が摩耗量が大きいが、位置決めピンはその取付角度を任意に変更できる構造であるため、摩耗量に応じて取付角度を変更することにより、交換頻度を長孔ブッシュと同等とすることができる。
(3)位置決めピンは基準側、反基準側ともに共通の丸ピンとしたので、1種類の消耗品を維持管理すればよい。
(4)位置決めピンは丸ピンとしたので、相手側の長孔ブッシュと平行を合わせる必要がなく、取付部も単純形状の円柱形にすることができ、取付も容易となる。
(5)位置決めピンの精度が必要な部分は取付部の嵌め合い部と相手側ブッシュとの位置決め部であるが、両方とも加工が容易な円柱形であるので、消耗品である位置決めピンのの製作コストが安価となる。
【0024】
以上に説明した通り、本発明の鋳造装置の位置決め機構は、簡単な構造でありながら使用寿命を従来の2倍とすることができ、しかも優れた位置決め精度を得ることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 金枠
1a 上枠
1b 下枠
2 模型定盤
2a 上枠用模型定盤
2b 下枠用模型定盤
3 模型
4 位置決めピン
4a 軸
4c 平面部
5a 位置決めブッシュ(基準側丸穴)
5b 位置決めブッシュ(反基準側長孔)
5c 平面部
6 穴
7 取付フランジ
8 切欠き
9 座金
10 ボルト
12 ボス
13 ボルト