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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187678
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20221213BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221213BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 7/10 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/22
C08L23/10
C08K5/17
C08K5/521
C08K7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095797
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 健
(72)【発明者】
【氏名】間簔 雅
(72)【発明者】
【氏名】永井 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 陽
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB001
4J002BB021
4J002BB031
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB121
4J002BB141
4J002BB151
4J002BB161
4J002BB171
4J002BB221
4J002BB231
4J002BC022
4J002BG032
4J002BN152
4J002BN162
4J002BP012
4J002CF052
4J002CG012
4J002CJ001
4J002DA027
4J002DA067
4J002DE057
4J002DE067
4J002DE076
4J002DE146
4J002DH026
4J002DH036
4J002DH046
4J002DH056
4J002DJ007
4J002DL007
4J002ES008
4J002EU078
4J002EW006
4J002EW046
4J002EW066
4J002EW126
4J002EW136
4J002EW156
4J002FA047
4J002FB087
4J002FB096
4J002FB097
4J002FB116
4J002FB137
4J002FB146
4J002FB167
4J002FB236
4J002FD040
4J002FD070
4J002FD130
4J002FD170
4J002GA00
4J002GC00
4J002GG00
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、機械的強度、難燃性及び外観に優れる射出成形品を安定した品質で経済的に生産できる射出成形用の樹脂組成物、及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂を含有する射出成形用の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の全量に対して、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種を10~60質量%、NOR型ヒンダードアミン化合物を0.05~5質量%、及びアスペクト比が10以上の繊維状フィラーを1~20質量%、それぞれ含有し、かつ、前記樹脂組成物の全量に対するリン含有量が5質量%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂を含有する射出成形用の樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の全量に対して、
水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種を10~60質量%、
NOR型ヒンダードアミン化合物を0.05~5質量%、及び
アスペクト比が10以上の繊維状フィラーを1~20質量%、それぞれ含有し、
かつ、前記樹脂組成物の全量に対するリン含有量が5質量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン化合物が、リン酸エステル化合物を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記水酸化アルミニウム及び前記水酸化マグネシウムの合計含有量と、前記リン化合物の含有量の質量比が、100:0~75:25の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記繊維状フィラーのアスペクト比が、50以上であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記繊維状フィラーが、ハロイサイトを含むことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリオレフィン樹脂、前記水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種、及び前記NOR型ヒンダードアミン化合物を溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、
前記樹脂混合物及び前記アスペクト比が10以上の繊維状フィラーの原料成分を溶融混練する第2工程と、を有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、機械的強度、難燃性及び外観に優れる射出成形品を安定した品質で経済的に生産できる射出成形用の樹脂組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン樹脂は、軽量で耐薬品性に優れ、高い伸びを有するうえ安価であることから様々な用途で使用されている。ポリオレフィン樹脂は、燃えやすい性質があることから、成形品等に難燃性が求められる場合、当該樹脂に多量の難燃剤を添加した成形用の樹脂組成物が用いられる。しかしながら、難燃剤の添加によりポリオレフィン樹脂の上記特長が損なわれる場合もある。難燃剤としては、従来、ハロゲン系化合物、リン系化合物、金属水和物等の様々な難燃剤が知られている。また、成形品の強度向上のためにポリオレフィン樹脂にガラス繊維等のフィラーを添加することが知られている。
【0003】
難燃性と強度を共に向上させる技術として、特許文献1には、ポリオレフィン樹脂にポリリン酸アンモニウム及び窒素化合物を含有する難燃剤、ガラス長繊維を添加し、剛性、耐衝撃性のバランス特性に優れ、難燃性、伸び特性、寸法安定性が良好で、燃焼時のドリップ防止効果が得られるガラス長繊維含有樹脂組成物が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、長さ2~50mmの長繊維ガラスにポリオレフィン樹脂を含侵させたペレットと、ポリオレフィン樹脂及び特定のリン酸塩の組成物からなるペレットをドライブレンドして、その混合物をガラス長繊維含有難燃性樹脂組成物として直接成形する方法で成形品を得る方法が記載されている。特許文献2には、長さ2~50mmであるポリオレフィン樹脂含浸長繊維ガラスペレットを使用した時に、成形品中でのガラス繊維の平均長は1~6mmになると記載されており、この長さのガラス繊維は酸素指数を向上させると記載されている。
【0005】
しかしながら、これらの技術では、ポリオレフィン樹脂組成物は、比較的硬度の高いガラス繊維等のフィラーを含有しているため、射出成形において金型を摩耗させることが問題であった。特に高せん断速度かつ高圧で樹脂組成物が流動する金型のゲート部では、この問題が顕著であった。また、リン系化合物を用いた難燃剤のように酸性のガスを発生する難燃剤は腐食をともなって金型の摩耗を促進し、金属水酸化物のような難燃剤を用いた場合は、硬度の高いフィラーの量が多くなることによって金型の摩耗が促進されるという問題があった。金型の摩耗は、結果として、成形品の歩留まりの低下及び金型交換による生産コストの増加を招き問題である。
【0006】
また、ヒンダードアミン系光安定剤は光に対する劣化を防ぐ耐光安定剤として様々な分野で用いられているが、NOR型ヒンダードアミン化合物(以下、「NOR型HALS」と示すこともある。)は難燃剤としての作用を有し、効率的に難燃性を高めることができることが知られている(例えば、特許文献3、4を参照)。これらの特許文献では、フィルムやシートあるいは繊維について難燃性や耐候性が向上することが示されているが、それ以外の効果、例えば、射出成形における金型の摩耗や腐食を抑制する効果等については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-338774号公報
【特許文献2】特開2011-88970号公報
【特許文献3】特表2002-507238号公報
【特許文献4】特開2015-189785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、機械的強度、難燃性及び外観に優れる射出成形品を安定した品質で経済的に生産できる射出成形用の樹脂組成物、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、ポリオレフィン樹脂を含有する射出成形用の樹脂組成物に、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種と、NOR型ヒンダードアミン化合物と、アスペクト比が10以上の繊維状フィラーを、それぞれ特定の割合で含有させるとともに、樹脂組成物中のリン含有量を特定量以下とすることで、機械的強度、難燃性及び外観に優れる射出成形品を安定した品質で経済的に生産できる射出成形用の樹脂組成物を提供できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.ポリオレフィン樹脂を含有する射出成形用の樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の全量に対して、
水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種を10~60質量%、
NOR型ヒンダードアミン化合物を0.05~5質量%、及び
アスペクト比が10以上の繊維状フィラーを1~20質量%、それぞれ含有し、
かつ、前記樹脂組成物の全量に対するリン含有量が5質量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【0011】
2.前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする第1項に記載の樹脂組成物。
【0012】
3.前記リン化合物が、リン酸エステル化合物を含むことを特徴とする第1項又は第2項に記載の樹脂組成物。
【0013】
4.前記水酸化アルミニウム及び前記水酸化マグネシウムの合計含有量と、前記リン化合物の含有量の質量比が、100:0~75:25の範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0014】
5.前記繊維状フィラーのアスペクト比が、50以上であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0015】
6.前記繊維状フィラーが、ハロイサイトを含むことを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0016】
7.第1項から第6項までのいずれか一項に記載の樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、前記ポリオレフィン樹脂、前記水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種、及び前記NOR型ヒンダードアミン化合物を溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、前記樹脂混合物及び前記アスペクト比が10以上の繊維状フィラーの原料成分を溶融混練する第2工程と、を有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により、機械的強度、難燃性及び外観に優れる射出成形品を安定した品質で経済的に生産できる射出成形用の樹脂組成物、及びその製造方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、以下のように推察している。
【0018】
本発明者は、射出成形品の機械的強度を得るためにポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物にアスペクト比が10以上の繊維状フィラーの特定量を含有させることが必要と考えた。しかしながら、射出成形においてアスペクト比が10以上の繊維状フィラーが高速・高圧で金型のゲートを通過すれば、金型摩耗が発生する。本発明においては、特定量のNOR型HALSを配合することで、この時の樹脂組成物の溶融粘度を低下させて、金型摩耗を抑制したものである。
【0019】
NOR型HALSはラジカルトラップ効果を有することは一般的に知られている(例えば、特許文献3)。また、NOR型HALSはドリップ促進効果があることが、特開2004-263033号公報に記載されている。NOR型HALSによるドリップ促進効果は、燃焼により急激に温度が上昇した際に、溶融粘度が急激に低下する現象を反映したものと推定される。
【0020】
上記繊維状フィラーを含有する樹脂組成物を射出成形する際に高圧・高速で樹脂組成物が流動するゲート部でもせん断発熱が発生することから、NOR型HALSは、この時の溶融粘度を低下させる作用があると想定している。このようにして、上記繊維状フィラーを含有する樹脂組成物に特定量のNOR型HALSを配合することで金型の摩耗を抑制することができたと考えている。
【0021】
本発明の樹脂組成物においては、さらに難燃剤として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種を特定量、ただし、リン含有量が5質量%以下となるように、含有させることで、上記金型摩耗を抑制する効果を維持しつつ難燃性を付与したものである。ここで、NOR型HALSは、難燃剤としても機能するが、本発明においては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種との組合せにより成形品における難燃性を十分なものとしている。
【0022】
なお、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物についてもそれぞれ上記のとおり金型の摩耗を促進することが懸念されているが、NOR型HALSを組み合わせることで、その含有量を抑えることが可能となった。そして、本発明の樹脂組成物を射出成形に用いれば、金型の摩耗等の射出成形時における装置に対する負荷が軽減されることで、成形品の歩留まりは向上するとともに、金型等の交換にかかる生産コストを抑制できる。
【0023】
このように、本発明の樹脂組成物においては、上記構成とすることで、機械的強度、難燃性及び外観が優れる射出成形品を安定した品質で経済的に生産できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂を含有する射出成形用の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の全量に対して、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種を10~60質量%、NOR型ヒンダードアミン化合物を0.05~5質量%、及びアスペクト比が10以上の繊維状フィラーを1~20質量%、それぞれ含有し、かつ、前記樹脂組成物の全量に対するリン含有量が5質量%以下であることを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に共通する技術的特徴である。
【0025】
本発明の樹脂組成物の実施態様としては、前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であると、本発明の効果がより顕著に発現され好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記リン化合物が、リン酸エステル化合物を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記水酸化アルミニウム及び前記水酸化マグネシウムの合計含有量と、前記リン化合物の含有量の質量比が、100:0~75:25の範囲内であることが好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記繊維状フィラーのアスペクト比が、50以上であることが好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記繊維状フィラーが、ハロイサイトを含むことが好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、本発明の樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、前記ポリオレフィン樹脂、前記水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種、及び前記NOR型ヒンダードアミン化合物を溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、前記樹脂混合物及び前記アスペクト比が10以上の繊維状フィラーの原料成分を溶融混練する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0031】
上記製造方法により、アスペクト比が10以上の繊維状フィラーの原料成分として、溶融混練により、切断等によるアスペクト比の変化を生じやすい材料を用いた場合においても、得られる樹脂組成物において、アスペクト比10以上を達成させることができる。
【0032】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0033】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂を含有する射出成形用の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の全量に対して、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種(以下、成分(A)ともいう。)を10~60質量%、NOR型ヒンダードアミン化合物(以下、成分(B)ともいう。)を0.05~5質量%、及びアスペクト比が10以上の繊維状フィラー(以下、成分(C)ともいう。)を1~20質量%、それぞれ含有し、かつ、前記樹脂組成物の全量に対するリン含有量が5質量%以下であることを特徴とする。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記各成分以外に、ポリオレフィン樹脂以外のその他樹脂、樹脂組成物が一般的に含有する各種添加剤を任意に含有することができる。以下、本発明の樹脂組成物における各成分について説明する。
【0035】
(ポリオレフィン系樹脂)
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを単量体成分の主成分として重合された単独重合体又は共重合体である。なお、本明細書において、「オレフィン」は、二重結合を1つ有する脂肪族鎖式不飽和炭化水素をいう。
【0036】
ここで、樹脂(重合体)を構成する主成分とは、重合体を構成する全単量体成分中、50質量%以上である成分をいう。ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを全単量体成分中、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%含んでなる単独重合体又は共重合体である。
【0037】
オレフィン共重合体には、オレフィンと他のオレフィンとの共重合体、又はオレフィンとオレフィンに共重合可能な他の単量体との共重合体が含まれる。ポリオレフィン系樹脂における上記他の単量体の含有量は、全単量体成分中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは0~20質量%である。
【0038】
オレフィンとしては、炭素数2~12のα-オレフィンが好ましい。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び1-デセン等を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂の重合に際して、オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
オレフィンに共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロペンテン及びノルボルネン等の環状オレフィン、並びに1,4-ヘキサジエン及び5-エチリデン-2-ノルボルネン等のジエン等を挙げることができる。さらに、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ビニルエーテル、無水マレイン酸、一酸化炭素、N-ビニルカルバゾール等の単量体を用いてもよい。上記他の単量体は、ポリオレフィン系樹脂の重合に際して、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0040】
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のエチレンを主成分とするポリエチレン樹脂;ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-ジエン共重合体等のプロピレンを主成分とするポリプロピレン系樹脂;ポリブテン;並びにポリペンテン等を挙げることができる。
【0041】
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、さらに、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体、ポリケトン、メタロセン触媒で製造された共重合体が挙げられる。また、これらの重合体を化学的に反応、変性したもの、具体的にはアイオノマー樹脂、EVAの鹸化物、押出機内で動的加硫を用いて製造されたオレフィン系エラストマーなども含まれる。
【0042】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレンに由来する構造の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、及びアタクチックのいずれでもよい。ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンがさらに好ましい。
【0043】
本発明の樹脂組成物が含有するポリオレフィン系樹脂は、1種であってもよく2種以上であってもよい。ポリオレフィン系樹脂は、市販品を用いてもよい。
【0044】
本発明の樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、樹脂組成物から上記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び任意に含有するその他の成分の含有量を除いた量である。樹脂組成物の全量に対するポリオレフィン系樹脂の含有量は、例えば、20~90質量%の範囲とすることができ、30~80質量%の範囲がより好ましい。
【0045】
(その他の樹脂)
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂以外のその他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂であり、具体的には、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。その他の樹脂は、市販品を用いてもよい。
【0046】
また、その他の樹脂として、増靭剤として機能する樹脂を用いてもよい。増靭剤は、樹脂組成物の柔軟性や加工性、耐衝撃性などを向上させることを目的用いられる、例えば、ゴム弾性を有する樹脂である。上記のとおり、増靭剤を添加すると、その副作用として剛性が低下することが想定される。したがって、使用に際しては、含有量を調整して、本発明の効果を損なわないように留意する。
【0047】
増靭剤として用いられる樹脂は、ブタジエンを含むモノマーの重合体で構成されるソフトセグメントと、スチレンのような芳香族基を有するモノマーの重合体で構成されるハードセグメントとを含む熱可塑性エラストマーであることが好ましく、上記熱可塑性エラストマーの例には、メチルメタアクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、スチレンブタジエンスチレン共重合体(SBS)、及び、ブチルアクリレート-メチルメタアクリレート共重合体、が含まれる。中でも、増靭剤がMBS及びABSからなる群から選ばれる一以上であることは、樹脂組成物の相溶化性及び難燃性や、樹脂組成物における熱可塑性エラストマーの分散性の観点から好ましい。増靭剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0048】
本発明の樹脂組成物における、その他の樹脂の含有量は、例えば、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0~20質量部の範囲とすることができ、より好ましくは、0~10質量部の範囲とすることができ、その他の樹脂を含有しないことが特に好ましい。
【0049】
(成分(A))
成分(A)は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種である。以下、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムを成分(A1)、リン化合物を成分(A2)と記すこともある。本発明の樹脂組成物において、成分(A)は、主として難燃剤として作用する。
【0050】
成分(A)の含有量は、本発明の樹脂組成物の全量に対して10~60質量%である。成分(A)の含有量が10質量%未満であると射出成形品の難燃性が十分でなく、60質量%超であると射出成形品の機械的強度、特に耐衝撃強度が十分でない。樹脂組成物の全量に対する成分(A)の含有量は、10~45質量%の範囲が好ましく、10~25質量%の範囲がより好ましい。
【0051】
なお、本発明の樹脂組成物の全量に対するリン含有量は5質量%以下である。本発明の樹脂組成物においては、成分(A)の含有量を上記範囲内とし、かつリン含有量をその全量に対して5質量%以下とすることが必須の要件である。樹脂組成物の全量に対するリン含有量は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0質量%がさらに好ましい。
【0052】
上記樹脂組成物の全量に対するリン含有量(質量%)は、例えば、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(例えば、JSX-1000S(日本電子社製))を用いて測定できる。
【0053】
成分(A2)であるリン化合物は、ポリオレフィン系樹脂と相溶性が乏しいため、溶融時に分離しやすく、分離したものがブリードアウトして成形品表面に残り、外観の低下を招きやすい。樹脂組成物の全量に対するリン含有量が5質量%以下であれば、成分(A2)のブリードアウトに起因する外観の低下を抑制できる。
【0054】
成分(A)において、成分(A1)と成分(A2)の含有量の質量比は、成分(A1)の含有量:(A2)の含有量として、100:0~30:70の範囲が好ましく、100:0~50:50の範囲がより好ましく、100:0~75:25の範囲がさらに好ましい。成分(A1)と成分(A2)の含有量の質量比が、上記範囲にあることで、射出成形において連続生産におけるバリ等の発生が抑制され、成形品の品質を良好に維持しやすい。
【0055】
本発明の樹脂組成物は射出成形用の樹脂組成物である。射出成形においては、溶融した樹脂組成物が金型キャビティ内を充填していく過程で、もともとキャビティ内にあった空気や、シリンダ内で滞留している際に発生する樹脂組成物中の有機成分の分解ガスや、金型内でゲートを通過するときに、せん断発熱により生じた分解ガスなどが、最終充填部で断熱圧縮されることによって、著しい発熱およびそれに伴う分解が生じる。これを防ぐためのガス逃げとなるよう、例えば、金型の最終充填部にエアベントが配設される。特に、リン化合物は分解物が酸性を示すことから、樹脂組成物がこれを含有する場合、高温となるエアベント部は腐食されやすい。エアベント部の腐食が進行すると、エアベント部の厚さが徐々に拡大され、成形品のバリの発生につながる。
【0056】
成分(A1)と成分(A2)の含有量の質量比を上記範囲とすることで、樹脂組成物におけるリン化合物の含有量を、相対的に低くすることができ、結果として上記エアベント部の腐食を抑制し、射出成形品においてバリ等の発生を抑制する効果が特に顕著に得られる。
【0057】
<成分(A1)>
成分(A1)は水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムである。成分(A1)として水酸化アルミニウムのみ又は水酸化マグネシウムのみを用いてもよく、両者を用いてもよい。上記のとおり、成分(A)における成分(A1)の割合は、30~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、75~100質量%がさらに好ましい。
【0058】
成分(A1)の形態は、粒子が好ましい。粒子の形状は特に制限されず、球状、紡錘状、板状、鱗片状、針状、繊維状等が挙げられる。成分(A1)が粒子の場合、成分(C)と同様にして測定されるアスペクト比は10未満である。
【0059】
樹脂組成物における、成分(A1)は、平均粒径が0.01~100μmの範囲内にあることが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.2~2μmがさらに好ましい。成分(A1)の平均粒径は、樹脂組成物の製造に際して用いられる水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムの粒子(以下、「原料粒子」ともいう。)の一次粒径と同じとして扱うことができる。原料粒子のレーザ回折・散乱法で測定される一次粒径は、体積基準のメジアン径(D50)として測定可能である。
【0060】
成分(A1)の原料粒子は必要に応じて表面修飾剤により表面修飾されていてもよい。表面修飾に用いる表面修飾剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)のようなアルキルシラザン系化合物、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシランのようなアルキルアルコキシシラン系化合物、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランのようなクロロシラン系化合物、シリコーンオイル、シリコーンワニス、各種脂肪酸等を用いることができる。これらの表面修飾剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
<成分(A2)>
成分(A2)はリン化合物である。成分(A2)はリンを含有する化合物であれば特に制限なく使用できる。なお、上記のとおり成分(A)として成分(A2)を用いる場合、樹脂組成物の全量に対するリン含有量が5質量%以下となるように用いる。上記のとおり、樹脂組成物の全量に対するリン含有量は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0質量%がさらに好ましい。このような観点から、成分(A)における成分(A2)の割合は、0~70質量%が好ましく、0~50質量%がより好ましく、0~25質量%がさらに好ましい。
【0062】
リン化合物としては、例えば、ホスフィン酸、ホスホン酸、リン酸等の金属、アンモニウム等との塩、ホスフィン酸、ホスホン酸、リン酸等のエステル化合物等が挙げられる。成分(A2)としては、これらの中でも、難燃性の効果の観点からリン酸エステル化合物(後で詳述する)が好ましい。
【0063】
上記塩として、具体的には、ホスフィン酸金属塩、特にはホスフィン酸アルミニウム及びホスフィン酸亜鉛、ホスホン酸金属塩、特にはホスホン酸アルミニウム、ホスホン酸カルシウム、及びホスホン酸亜鉛、さらにはそれらに相当するホスホン酸金属塩の水和物、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0064】
ホスフィン酸エステル化合物としては、例えば、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が含まれる。
【0065】
ホスホン酸エステル化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2-メチル-プロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチルブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート等が含まれる。
【0066】
また、上記以外のリン化合物として、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン10-オキシド(DOPO)の誘導体、ポリホスホン酸塩(例えば、Nofia(商標)HM1100(FRXPolymers(Chelmsford,USA)製)、亜鉛ビス(ジエチルホスフィネート)、アルミニウムトリス(ジエチルホスフィネート)、メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、メラミンポリ(リン酸アルミニウム)、メラミンポリ(リン酸亜鉛)、メチルホスホン酸メラミン塩、リン酸グアニル尿素、リン酸グアニジン、エチレンジアミンリン酸塩、及びホスファゼン化合物、例えば、フェノキシホスファゼンオリゴマー等を成分(A2)として用いてもよい。
【0067】
リン化合物は、成分(A2)として、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
〔リン酸エステル化合物〕
リン酸エステル化合物は、脂肪族リン酸エステル化合物であっても芳香族リン酸エステル化合物であってもよく、芳香族リン酸エステル化合物が好ましい。芳香族リン酸エステル化合物を成分(A)として使用すると、NOR型HALSがより安定的にラジカルを生成することが考えられ、難燃性の効果をより発揮しやすくなる。
【0069】
リン酸エステル化合物としては、リン酸と脂肪族又は芳香族アルコールを反応させたモノマー型リン酸エステル化合物及びオキシ塩化リンと二価のフェノール系化合物とフェノール(又はアルキルフェノール)との反応生成物である芳香族縮合リン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0070】
リン酸エステル化合物として、具体的には、トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(BADP)、ビスフェノールAビス-ジクレジルホスフェート、ビフェノールAビス-ジフェニルホスフェート、ビフェノールAビス-ジキシレニルホスフェート等が含まれる。
【0071】
また、リン酸エステル化合物は、耐熱性等の観点で、縮合タイプである縮合リン酸エステル化合物であることが好ましい。縮合リン酸エステル化合物としては、例えば、下記化学式(A2)で表される芳香族縮合リン酸エステル化合物が挙げられる。
【0072】
【化1】
【0073】
上記式(A2)中、R~Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、又はハロゲン原子であり、R~Rは同一でも異なっていてもよい。複数(5個)存在するRは、互いに同一でも異なっていてもよい。それぞれ複数(4~5個)存在するR、R、R及びRについても同様である。nは1~30の整数であり、好ましくは1~10の整数である。
【0074】
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アミル基、tert-アミル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0075】
上記シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられる。上記アリール基としては、フェニル基、クレジル基、キシリル基、2,6-キシリル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基等が挙げられる。
【0076】
上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0077】
芳香族縮合リン酸エステル化合物は、上記のとおりオキシ塩化リンと二価のフェノール系化合物とフェノール(又はアルキルフェノール)との反応生成物であり、式(A2)で構造が表される芳香族縮合リン酸エステル化合物は、二価のフェノール系化合物が、置換基を有してもよいレゾシノール(以下、「レゾシノール化合物」ともいう。)である場合の化合物である。芳香族縮合リン酸エステル化合物は、レゾシノール化合物に替えて、4,4´-ビフェノール、ビスフェノールA(それぞれ置換基を有してもよい。)を用いて得られる化合物であってもよい。具体的には、式(A2)において、レゾシノール化合物残基の代わりに、それぞれ置換基を有してもよい、4,4´-ビフェノール残基、又はビスフェノールA残基を有する芳香族縮合リン酸エステル化合物を本発明に用いることができる。
【0078】
リン酸エステル化合物は市販品を用いてもよい。リン酸エステル化合物の市販品としては、例えば、いずれも大八化学工業社製の、PX-200(レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート)、CR-733S(レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート)等が使用できる。
【0079】
(成分(B))
成分(B)は、NOR型HALSである。成分(B)の含有量は、本発明の樹脂組成物の全量に対して0.05~5質量%である。上記のとおり、成分(B)は、射出成形時の樹脂組成物の溶融粘度を低下させる作用を有し、それにより本発明の樹脂組成物は金型摩耗を抑制する効果を有するとされる。成分(B)の含有量が0.05質量%未満であると射出成形に用いた場合に金型の摩耗を抑制する効果が十分に得られない。成分(B)の含有量が5質量%超であると射出成形品の機械的強度、特に曲げ強度が十分でない。樹脂組成物の全量に対する成分(B)の含有量は、0.1~2質量%の範囲が好ましく、0.2~1質量%の範囲がより好ましい。
【0080】
成分(B)は、上記作用と共に射出成形品に難燃性を付与する作用を有する。また、NOR型HALSは、光安定化剤としてよく知られるものであり、添加することにより耐光性を付与することもできる。
【0081】
NOR型HALSはアルコキシイミノ基(>N-OR)を有するHALSである。アルコキシイミノ基とは、イミノ基(>N-H)のN-H部分のHがHのままであるNH型、Hがアルキル基(R(アルコキシ基のRと同じ意味である。)、典型的にはメチル基で置き換わったNR型、典型的にはNメチル型に対して、Hがアルコキシ基で置き換わったN-アルコキシ基の構造を有するものである。このN-アルコキシ基は、アルキルパーオキシラジカル(RO・)を捕捉して容易にラジカルとなり難燃効果を発揮する。また、本発明の樹脂組成物においては、上記金型摩耗を抑制するように機能する。
【0082】
一方、Nメチル型ヒンダードアミン化合物又はNH型ヒンダードアミン化合物の場合は、金型摩耗を抑制する機能に乏しく、さらに、難燃性の効果も低い。
【0083】
上記のアルコキシ基(-OR)におけるRは、置換又は非置換の飽和又は不飽和の炭化水素基を表す。Rとしては、例えば、アルキル基、アラルキル基、アリール基等が挙げられる。アルキル基は直鎖状、分岐鎖状又は環状であってもよく、これらを組み合わせたアルキル基であってもよい。
【0084】
本発明で用いるNOR型HALSとしては、アルコキシイミノ基(>N-OR)の構造を有するものであれば特に限定されない。具体例として、例えば、特表2002-507238号公報、国際公開第2005/082852号、国際公開第2008/003605号等に記載されているNOR型HALS等が好適例として挙げられる。
【0085】
NOR型HALSとしては、例えば、下記式(B)で構造が表される化合物が挙げられる。
【0086】
【化2】
【0087】
[式(B)中、GおよびGは独立して炭素数1~4のアルキル基を表すか、又は一緒になってペンタメチレン基を表す。
およびZは各々メチル基を表すか、又はZとZは一緒になって架橋部分を形成している。該架橋部分はさらにエステル基、エーテル基、アミド基、アミノ基、カルボニル基又はウレタン基を介して有機基に結合されることができる。
Eは炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数5~12のシクロアルコキシ基、炭素数7~25のアラルコキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基を表す。]
【0088】
式(B)で示されるNOR型HALSとしては、高分子タイプのものが好ましい。高分子タイプとは、一般に、オリゴマー状又はポリマー状化合物である。高分子タイプであると、難燃性と耐熱性の点に優れる。上記高分子タイプのオリゴマー状又はポリマー状化合物は、繰り返し単位数としては、2~100が好ましく、より好ましくは5~80である。
【0089】
また、式(B)で示されるNOR型HALSとして、例えば、下記式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0090】
【化3】
【0091】
上記式(1)中、R~Rはそれぞれ水素原子又は下記式(2)の有機基を表す。R~Rの少なくとも1つは下記式(2)の有機基である。
【0092】
【化4】
【0093】
式中、Rは炭素数1~17のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、フェニル基又は炭素数7~15のフェニルアルキル基を表し、R、R、R及びRはそれぞれ炭素数1~4のアルキル基を表す。R10は水素原子、又は炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す。
【0094】
である炭素数1~17のアルキル基のうち、メチル基、プロピル基又はオクチル基が好ましい。また、炭素数5~10のシクロアルキル基のうち、シクロヘキシル基が好ましい。また、フェニル基又は炭素数7~15のフェニルアルキル基のうち、フェニル基が好ましい。
~Rである炭素数1~4のアルキル基うち、メチル基が好ましい。
10である炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基のうち、n-ブチル基が好ましい。
【0095】
式(1)中、R、R、及びRが式(2)の有機基であるもの、又はR、R、及びRが式(2)の有機基であるものが好ましい。
【0096】
NOR型HALSの具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-オクタデシルアミノピペリジン;ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート;2,4-ビス[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ブチルアミノ]-6-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-s-トリアジン;ビス(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アジペート;4,4´-ヘキサメチレンビス(アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)と、2-クロロ-4,6-ビス(ジブチルアミノ)-s-トリアジンで末端キャップされた2,4-ジクロロ-6-[(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ブチルアミノ]-s-トリアジンとの縮合生成物であるオリゴマー性化合物;4,4´-ヘキサメチレンビス(アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)と、2-クロロ-4,6-ビス(ジブチルアミノ)-s-トリアジンで末端キャップされた2,4-ジクロロ-6-[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ブチルアミノ]-s-トリアジンとの縮合性生成物であるオリゴマー性化合物;2,4-ビス[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-ピペリジン-4-イル)-6-クロロ-s-トリアジン;過酸化処理した4-ブチルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンと、2,4,6-トリクロロ-s-トリアジンと、シクロヘキサンと、N,N´-エタン-1,2-ジイルビス(1,3-プロパンジアミン)との反応生成物(N,N´,N´´´-トリス{2,4-ビス[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)n-ブチルアミノ]-s-トリアジン-6-イル}-3,3´-エチレンジイミノジプロピルアミン);ビス(1-ウンデカノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート;1-ウンデシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン;ビス(1-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート。
【0097】
NOR型HALSは市販品を用いてもよい。NOR型HALSの市販品としては、BASF社製、Flamestab NOR116FF、TINUVIN NOR371、TINUVIN XT850FF、TINUVIN XT855FF、TINUVIN PA123、ADEKA社製、LA-81、FP-T80等を例示することができる。NOR型HALSは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
(成分(C))
成分(C)は、アスペクト比が10以上の繊維状フィラーである。成分(C)におけるアスペクト比は、以下の方法で求めた平均アスペクト比である。なお、以下、アスペクト比が10以上の繊維状フィラーを繊維状フィラー(C)ということもある。
【0099】
<アスペクト比の測定方法>
繊維状フィラーのアスペクト比は、繊維状フィラーにおける繊維長(繊維の長さ)を、繊維径(繊維の長さ方向と直交する断面の径のうちの最小径、すなわち、繊維の太さの最小値)で除した値として示される。本発明においては、樹脂組成物中の繊維状フィラーについて、100本の繊維フィラーの繊維長及び繊維径をそれぞれ測定し、各繊維フィラーのアスペクト比を求め、その100本の平均値(平均アスペクト比)を算出して、アスペクト比とする。
【0100】
樹脂組成物を製造する際に原料として用いた繊維状フィラーの形状は、混練、粉砕、成形等の樹脂組成物の製造工程を経ることで変化する。例えば、原料繊維状フィラーは製造過程で折れて繊維長が変化することが多い。したがって、本発明においては、樹脂組成物中に存在する繊維状フィラーの繊維長及び繊維径を計測して、繊維状フィラーのアスペクト比を算出する。
【0101】
具体的には、樹脂組成物を電気炉等で加熱することにより、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂、成分(A)中の有機分、成分(B)等の有機分を燃焼除去し、残渣となった無機分から繊維状フィラーを取り出す。加熱温度は、上記有機分を燃焼できる温度、例えば、500℃以上とする。残渣の無機分には、成分(A)中の無機分と繊維状フィラーが含まれる。成分(A)中の無機分の形状は繊維状ではないため繊維状フィラーと区別できる。無機分からの繊維状フィラー100本の選出は無作為に行う。なお、成分(C)である繊維状フィラー(C)の構成材料は無機材料である。
【0102】
このようにして得られる樹脂組成物中の繊維状フィラーの上記所定数について、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等で観察することにより繊維長及び繊維径を計測する。
【0103】
繊維状フィラー(C)のアスペクト比は10以上である。アスペクト比は20以上が好ましく、50以上がより好ましい。アスペクト比が10未満の繊維状フィラーを用いた場合、樹脂組成物の射出成形品において、十分な機械的強度、特に曲げ強度が得られない。繊維状フィラー(C)のアスペクト比は、射出成形時の樹脂の流動性の観点から、例えば、500以下が好ましく、100以下がよい好ましい。
【0104】
上記方法で求められる繊維状フィラー(C)の平均繊維長としては、例えば、0.01~1mmが好ましく、0.02~0.5mmがより好ましい。また、繊維状フィラー(C)の平均繊維径としては、例えば、0.001~0.05mmが好ましく、0.005~0.02mmがより好ましい。
【0105】
成分(C)の含有量は、本発明の樹脂組成物の全量に対して1~20質量%である。成分(C)の含有量が1%未満であると、射出成形品の機械的強度、特に曲げ強度が十分でなく、20質量%超であると、射出成形に用いた場合に金型の摩耗を抑制する効果が十分に得られない。樹脂組成物の全量に対する成分(C)の含有量は、2~15質量%の範囲が好ましく、5~10質量%の範囲がより好ましい。
【0106】
繊維状フィラー(C)としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、ロックウール、ワラストナイト、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、セピオライト、ハロイサイト、イモゴライト等のうちアスペクト比が10以上のものが挙げられる。これらの繊維状フィラー(C)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用することも可能である。
【0107】
繊維状フィラー(C)としては、アスペクト比が10以上のハロイサイトが、金型摩耗の抑制の観点から好ましい。ハロイサイトは、組成式AlSi(OH)で表され、典型的には、繊維径が数十nm、繊維長が数百~数千nmのチューブ状ナノフィラーとして入手可能である。ハロイサイトは、ナノサイズであり、かつ内部に活性の高いがAl(OH)構造をもつことから、ガスの吸着作用が大きい等のユニークな特徴を有することで知られる。
【0108】
繊維状フィラー(C)としてハロイサイトを用いた場合、上記で説明した射出成形用の金型のエアベント部の腐食を抑制し、射出成形品においてバリ等の発生を抑制する効果が特に顕著に得られる。
【0109】
樹脂組成物を製造する際に用いる繊維状フィラー(以下、樹脂組成物中の繊維状フィラー(C)と区別するために「原料繊維フィラー」ともいう。)は、製造過程での折れ等を勘案して、例えば、繊維状フィラーの構成材料に応じて、繊維状フィラー(C)よりもアスペクト比が大きいものが用いられる。原料繊維フィラーにおけるアスペクト比は、例えば、製造過程での折れ等の発生が想定される構成材料からなる場合、その種類に応じて、20以上が好ましく、100以上がより好ましい。
【0110】
なお、原料繊維状フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、及びエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
【0111】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物は、上記ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂、成分(A)、成分(B)、成分(C)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤として公知の成分を含有することができる。その他の添加剤としては、成分(A)及び成分(B)以外のその他の難燃剤、ドリップ防止剤、酸化防止剤、滑剤等が挙げられる。
【0112】
<その他の難燃剤>
その他の難燃剤は、有機系難燃剤であっても、無機系難燃剤であってもよい。有機系難燃剤の例には、ブロモ化合物等が含まれる。無機系難燃剤の例には、アンチモン化合物や成分(A1)以外の金属水酸化物が含まれる。
【0113】
<ドリップ防止剤>
ドリップ防止剤は、燃焼時に樹脂材料の滴下(ドリップ)を防止し、難燃性を向上させる目的で添加されるものであり、ドリップ防止剤としては、フッ素系ドリップ防止剤やシリコンゴム類、層状ケイ酸塩等が挙げられる。ドリップ防止剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0114】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類等が挙げられる。
【0115】
<滑剤>
滑剤としては、脂肪酸塩、脂肪酸アミド、シランポリマー、固体パラフィン、液体パラフィン、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アミド、シリコーン粉末、メチレンビスステアリン酸アミド及びN,N´-エチレンビスステアリン酸アミドからなる群より選ばれる1種又は2種以上のものが挙げられる。
【0116】
本発明の樹脂組成物におけるその他の添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であり、例えば、樹脂組成物の全量に対して、0.1~30質量%程度の範囲内であり、0.1~20質量%の範囲内が好ましい。また、合計で30質量%以下が好ましい。
【0117】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、上記ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び必要に応じて含有されていてもよいその他の添加剤の原料成分を、上記本発明の樹脂組成物となるように溶融混練して得ることができる。特に、成分(C)では、製造過程において、原料繊維フィラーから繊維状フィラー(C)へとアスペクト比が変化(減少)する場合がある。
【0118】
本発明の樹脂組成物は、例えば、上記アスペクト比の変化を勘案して、原料繊維フィラーの構成材料に応じて、前記ポリオレフィン樹脂、成分(A)、及び成分(B)を溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、前記樹脂混合物及び前記アスペクト比が10以上の繊維状フィラーの原料繊維フィラーを溶融混練する第2工程と、を有する製造方法を適用することが好ましい。
【0119】
本発明の樹脂組成物がその他の樹脂又はその他の添加剤を含有する場合、その他の樹脂又はその他の添加剤は、第1工程において溶融混練されてもよく、第2工程において溶融混練されもよい。
【0120】
また、上記において原料繊維状フィラーをポリオレフィン系樹脂等の樹脂と溶融混練して得られたペレットを用いることがある。樹脂組成物が含有するポリオレフィン系樹脂は少なくとも一部が第1工程で溶融混練されればよく、必要に応じて第2工程で残部が添加されて溶融混錬されてもよい。成分(A)、及び成分(B)についても同様である。
【0121】
本発明の製造方法において、第1工程及び第2工程における溶融混練は、例えば、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、押出機(単軸押出機、多軸押出機(例えば、二軸押出機)等)、及びニーダー等の混練装置を用いて行われる。これらの中でも、生産効率がよいことから、押出機を用いて溶融混練を行うことが好ましい。さらに、高いせん断性を付与できることから、溶融混練は多軸押出機を用いることが好ましく、二軸押出機を用いることがより好ましい。ここで、押出機の用語は、押出混練機を含む範疇で用いられる。
【0122】
本発明の製造方法において、第1工程と第2工程には異なる混練装置を用いてもよいが、両工程とも押出機、特には二軸押出機を用いることが好ましい。
【0123】
溶融混練の際の温度(溶融混練温度)は、第1工程及び第2工程のいずれも、ポリオレフィン系樹脂の溶融温度以上とする。溶融混練温度は、例えば、150~280℃が好ましく、使用するポリオレフィン系樹脂に応じて適宜選択される。ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂を用いる場合、溶融混練温度は、180~270℃が好ましく、より好ましくは180~230℃である。上記温度の範囲内であれば、第1工程及び第2工程における溶融混練温度は、同じであっても異なってもよい。溶融混練に押出機を用いる場合、混練溶融温度はシリンダ温度に相当する。
【0124】
溶融混練に押出機を用いる場合、第1工程及び第2工程のいずれも、スクリュー回転数は、50~300rpmの範囲が好ましい。また、第1工程及び第2工程におけるスクリュー回転数は、同じであっても異なってもよい。第1工程及び第2工程における、押出機からの樹脂混合物又は樹脂組成物の吐出量は、それぞれ1~50kg/hrの範囲が好ましい。
【0125】
本発明においては、第1工程及び第2工程を同じ押出機を用いて連続的に行うことができ、生産性の点から好ましい。例えば、二軸押出機を用い、原料繊維状フィラー以外の原料成分を二軸押出機のシリンダの最後部に設置したホッパーから供給し、原料繊維状フィラーをシリンダの前方、例えば、中央部に設置したサイドフィーダーから供給することで、第1工程及び第2工程を連続的に行うことができる。なお、シリンダの最前部の端部が樹脂組成物の吐出部であり、最後部は吐出部と反対側のシリンダ端部近傍に相当する。
【0126】
なお、第1工程の溶融混練を行う前に、各成分を、例えば、タンブラーやヘンシェルミキサーとして知られた高速ミキサー等の各種混合機を用いて予め混合(ドライブレンド)しておいてもよい。
【0127】
本発明の製造方法においては、第2工程で混練物をストランド状に押し出した後、ストランド状に押し出した混練物をペレット状やフレーク状等の形態に加工することができる。
【0128】
なお、本発明の樹脂組成物は、粉末状、顆粒状、タブレット(錠剤)状、ペレット状、フレーク状、繊維状、及び液状等の各種形態をとることができる。
【0129】
本発明の樹脂組成物を用いれば、射出成形品を、例えば、長期に亘る連続生産において金型のゲート部の摩耗やエアベント部の腐食等が抑制され、安定した品質で経済的に生産できる。また、本発明の樹脂組成物を用いて得られる射出成形品は、外観が優れるとともに、機械的強度(剛性と靭性)、及び難燃性に優れるものである。
【0130】
例えば、本発明の樹脂組成物から成形される射出成形品は、JIS-K7171に準じて実施される曲げ試験において測定される曲げ強度が、25MPa以上であることが好ましく、35MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることがさらに好ましい。曲げ強度が、25MPa以上であれば、成形品の剛性が実用上問題ないと評価できる。
【0131】
例えば、本発明の樹脂組成物から成形される射出成形品は、JIS-K7110に準じて実施されるシャルピー衝撃試験(ノッチ付)において測定されるシャルピー衝撃強度が、8kJ/m以上であることが好ましく、15kJ/m以上であることがより好ましく、20kJ/m以上であることがさらに好ましい。シャルピー衝撃強度が、8kJ/m以上であれば、成形品の靭性が実用上問題ないと評価できる。
【0132】
ここで、難燃性とは、耐燃性の一つで、燃焼する速さは遅いが、ある程度は燃え続ける性質を指す。耐燃性の評価については、JIS、ASTMなどがあるが、一般には、特にUL規格が重視されている。UL規格とはアメリカの「Underwriters Laboratorie社」が定め、同社によって評価される規格である。
【0133】
本発明の樹脂組成物から成形される射出成形品において、所定のサイズの試験片として、上記UL規格で評価された場合に、UL-94に準拠した燃焼試験において、V-2以上と判定されることが好ましく、V-1以上がより好ましく、V-0がさらに好ましい。
【0134】
(成形品)
本発明の樹脂組成物を用いて、射出成形品を作製することができる。この射出成形品を用いることで、上記のとおり、外観が優れるとともに、機械的強度(剛性と靭性)、及び難燃性に優れる製品を得ることができる。
【0135】
射出成形品を製造する際には、従来公知の射出成形機が使用できる。射出成形品は、例えば、シリンダ内で樹脂組成物を溶融させ、溶融させた樹脂組成物を金型に射出した後に、金型を冷却することで製造できる。射出速度及び圧力は適宜調整する。射出成形の条件は、例えば、シリンダ温度(溶融温度)が180~230℃、射出速度が30~200mm/秒、圧力が500~1000kgf/cm、金型温度が40~80℃であるのが好ましい。
【0136】
ここで、射出成型品中の繊維フィラーの繊維長、繊維径及びアスペクト比についは、上記樹脂組成物中の繊維フィラーにおけるのと同様の方法で測定又は算出可能である。本発明の樹脂組成物を用いて得られる射出成型品中の繊維フィラーの繊維長、繊維径及びアスペクト比については、本発明の効果を十分に発揮できる範囲にあることが好ましい。具体的には、繊維フィラーの平均繊維長は0.01~1mm、平均繊維径は0.001~0.05mm、及び平均アスペクト比は10~100の範囲にあることが好ましい。
【0137】
本発明の樹脂組成物から射出成形される射出成形品としては、特に限定されず、例えば、家電製品及び自動車等の分野における電気電子部品、電装部品、外装部品、及び内装部品等、並びに各種包装資材、家庭用品、事務用品、配管、及び農業用資材等を挙げることができる。
【実施例0138】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0139】
[樹脂組成物;実施例1~18、比較例1~8]
各実施例及び比較例の樹脂組成物に含有させる原料成分として、以下の市販品を準備した。
【0140】
<樹脂>
・ポリプロピレン系樹脂:プライムポリプロJ715M(製品名、プライムポリマー社製)
・ポリエチレン系樹脂:HJ560(製品名、日本ポリエチレン社製)
【0141】
<成分(A1)>
・水酸化アルミニウム:KH-101(製品名、KC社製、平均一次粒径が1.0μmの粒子)
・水酸化マグネシウム:マグシーズN-6(製品名、神島化学工業社製、平均一次粒径が1.2μmであり高級脂肪酸により表面修飾された粒子)
【0142】
<成分(A2)>
・リン酸エステル化合物:PX-200(製品名、大八化学工業社製、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート)
・ポリリン酸アンモニウム:タイエンK(製品名、太平化学産業社製)
・ホスホン酸金属塩:ホスホン酸カルシウム(関東化学社製)
【0143】
<成分(B)>
・NOR型HALS:Flamestab NOR116FF:(製品名、BASF社製、N,N´,N´´´-トリス{2,4-ビス[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)n-ブチルアミノ]-s-トリアジン-6-イル}-3,3´-エチレンジイミノジプロピルアミン)
【0144】
<成分(B)以外のHALS>
・NH型HALS:Tinuvin 770DF(BASF社製、ビス(2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート)
・NR(メチル)型HALS:Tinuvin 765(BASF社製、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートとメチル-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル-セバケートの混合物)
【0145】
<成分(C)の原料繊維状フィラー>
・ガラス繊維:ECS03T-430(日本電気硝子社製;平均繊維径13μm、平均繊維長さ3mm)
・ガラス長繊維:ファンクスターLR-24A(日本ポリプロ社製;ガラス長繊維40質量%含有ポリプロピレンマスターバッチペレット;ペレット長10mm)を使用した。表I及び表II中においては、樹脂組成物に配合した上記ペレット(ファンクスターLR-24A)中のガラス長繊維分を成分(C)の欄に記載し、ポリプロピレン分を上記J715Mと併せた量として樹脂成分の欄に記載した。
・ハロイサイト:Doragonite APA:M(ファイマテック社製;平均アスペクト比18)
・ワラストナイト:WFC10(日本タルク社製;平均アスペクト比14)
・チタン酸カリウム:ティスモD(大塚化学社製;平均アスペクト比30)
・炭素繊維:チョップド炭素繊維 HT C413(帝人社製、平均繊維径7μm、平均繊維長6mm)
【0146】
(樹脂組成物の製造)
各実施例及び比較例において、各成分を表I及び表IIに示す含有量(質量%)で用いた。なお、各成分の含有量(質量%)の欄において、空白は当該成分を含有しないことを示す。
【0147】
二軸押出機(日本製鋼所製「TEX30α」)を用い、シリンダ温度200℃、スクリュー回転数150rpmで溶融混錬を行った。比較例1以外については、繊維状フィラー以外の原料成分を予めドライブレンドした後、二軸押出機のシリンダの最後部に設置したホッパーから供給し、繊維状フィラーをシリンダの中央部に設置したサイドフィーダーから供給した。比較例1については、繊維状フィラー含めすべての原料成分を予めドライブレンドした後、二軸押出機のシリンダの最後部に設置したホッパーから供給した。表I及び表IIの樹脂組成物製造方法の欄には、比較例1について「一括」、比較例1以外について「分割」と記載した。
【0148】
押出機より吐出されたストランドをペレタイザーにより切断し、直径2mm×長さ3mmのペレットに加工して、樹脂組成物とした。
【0149】
[樹脂組成物中の成分分析]
(1)繊維状フィラーのアスペクト比測定
上記で得られた各樹脂組成物のペレットを電気炉により600℃で4時間加熱し、有機物を焼却処理することにより残渣を得た。残渣分から、100本の繊維状フィラーを無作為に選択し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、それぞれ繊維長および繊維径を測定し、各繊維状フィラーのアスペクト比を求め、その平均値を算出することにより、平均アスペクト比を求めた。
【0150】
(2)リン濃度(質量%)測定
上記で得られた各樹脂組成物のペレットを用いてリン含有量を測定した。リン含有量(質量%)はエネルギー分散型蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-1000S)を用いて測定した。
【0151】
<評価>
上記で得られた実施例1~18の樹脂組成物、比較例1~8の樹脂組成物について、以下の評価を行い機械的強度(曲げ強度及び衝撃強度)、難燃性、連続成形性及び成形品外観を評価した。結果を表I及び表IIに示す。
【0152】
(試験片の製造条件)
各実施例及び比較例の樹脂組成物のペレットを80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(J140AD-110H、株式会社日本製鋼所製)によって、評価用の成形品を成形した。成形時のシリンダ温度は200℃とし、射出圧力は1次圧1000kgf/cm、2次圧500kgf/cm、射出速度50mm/sec、金型温度は50℃とした。
【0153】
(1)曲げ強度の測定
上述の成形条件で、80mm×10mm×4mmの短冊形試験片を成形し、JIS-K7171に準拠して曲げ試験を行い、曲げ強度[MPa]を測定し、以下の基準で評価した。なお、曲げ強度が、25MPa以上であれば、成形品の強度が実用上問題ないと判断した。
【0154】
(評価基準)
◎:50MPa以上
〇:35MPa以上、50MPa未満
△:25MPa以上、35MPa未満
×:25MPa未満
【0155】
(2)衝撃強度の測定
上述の成形条件で、JIS-K7110に準拠して80mm×10mm×4mmの短冊型試験片(ノッチ付)を作製し、シャルピー衝撃試験(ノッチ付)を行った。シャルピー衝撃強度[kJ/m]を測定し、以下の基準で評価した。なお、シャルピー衝撃強度が8kJ/m以上であれば、成形品の靭性は実用上問題ないと判断した。
【0156】
(評価基準)
◎:20kJ/m以上
〇:15kJ/m以上、20kJ/m未満
△:8kJ/m以上、15kJ/m未満
×:8kJ/m未満
【0157】
(3)燃焼試験(難燃性評価)
上述の成形条件で、125mm×12.5mm×1.6mmの短冊型試験片を作製し、UL-94に準拠して燃焼試験を行い、以下の基準で評価した。なお、燃焼試験の判定がV-2以上となったものは実用上問題ないと判断した。
【0158】
(評価基準)
〇:判定がV-0、V-1、V-2のいずれかとなったもの。
×:判定がV-2に満たなかったもの。
【0159】
(4)連続成形性
(連続成形試験)
曲げ強度の評価に用いた曲げ試験片を作製する金型において、長手方向の端部に入れ子式のゲート部を配設した。当該入れ子の材質は機械構造用炭素鋼S50Cを用いた。ゲートサイズは幅4mm×厚さ1.5mmとし、ランドの長さは4mmとした。さらに、ゲート部と反対側の端部に入れ子式のエアベント部を配設した。当該入れ子の材質は機械構造用炭素鋼S50Cを用いた。エアベントのサイズは、幅4mm×厚さ0.02mmとし、ランドの長さは1mmとした。ランド末端から金型外周に向かって厚さ2mmの導気溝を配設した。
【0160】
上述の成形条件において、各実施例及び比較例の樹脂組成物について、曲げ試験片を5,000ショット連続で成形する連続成形試験を行った。なお、実施例及び比較例の樹脂組成物毎に、成形を開始する際には、ゲート部およびエアベント部の入れ子を新品に交換してから、同様の試験を行った。摩耗によりゲートの断面積が増加すると、成形品の充填量が変化することにより品質が一定にならなかったり、バリが発生しやすくなるという問題につながる。
【0161】
(4-1)連続成形試験後のゲート断面積変化
連続成形試験後にゲート部の入れ子を外しゲートの幅と厚さを光学顕微鏡により測定することにより、成形開始前と5,000ショット成形(連続成形試験)後のゲートの断面積比を求めた。
【0162】
ゲート断面積=ゲート幅×ゲート厚さ
ゲート断面積比(AR)=5,000ショット成形後のゲート断面積/成形開始前のゲート断面積
【0163】
(評価基準)
○:ゲート断面積比(AR)<1.002;(実用上好ましいレベル)
△:1.002≦ゲート断面積比(AR)<1.01;(好ましくはないが実用上問題のないレベル)
×:1.01≦ゲート断面積比(AR);(実用上支障が生じるレベル)
【0164】
(4-2)連続成形試験後のエアベント部のバリ評価
連続成形試験後に、エアベント部の入れ子を外し、外観を目視で観察するとともに、5,000ショット目の成形品のバリの状態を光学顕微鏡で観察した。
【0165】
(評価基準)
◎:金型のエアベント部に変色は見られず、成形品のエアベント加工部にバリの発生は見られなかった(実用上非常に好ましいレベル)。
〇:金型のエアベント部に若干の変色は見られたが、成形品のエアベント加工部にバリの発生は見られなかった(実用上好ましいレベル)。
△:金型のエアベント部に変色がみられ、成形品のエアベント加工部に僅かなバリの発生が見られた(好ましくはないが実用上問題のないレベルレベル)。
【0166】
(5)成形品外観
上述の曲げ試験片成形において、成形品の外観を目視にて確認し、以下の評価基準で評価した。
【0167】
(評価基準)
○:成形品の表面に液状付着物はみられなかった(実用上好ましいレベル)。
×:成形品の表面に液状付着物がみられた(実用上支障が生じるレベル)。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
表I及び表IIから、本発明の樹脂組成物を用いれば、機械的強度、難燃性及び外観に優れる射出成形品を安定した品質で経済的に生産できることがわかる。