(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018768
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】簡易鼻腔粘膜表面付着粘液の採取方法および該検体中の被検出物を検出するための検査キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220120BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220120BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20220120BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20220120BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/48 S
G01N33/569 L
C12Q1/6844 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122106
(22)【出願日】2020-07-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.Triton
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 恭
(72)【発明者】
【氏名】田 智方
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA28
2G045CB21
2G045CB30
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045HA06
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ10
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
(57)【要約】
【課題】本発明は、点鼻デバイスを用いることで非侵襲的に簡便に鼻腔粘膜表面の付着粘液を採取し、これを検体として用いることで、迅速かつ簡便で精度の高い検体中の被検出物の分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄して得られた鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液を検体として用いて、感染症を検出する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄して得られた鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液を検体として用いて、感染症を検出する方法。
【請求項2】
鼻腔内に添加する洗浄液の量が200~800μLである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鼻腔内に洗浄液を添加する方法が噴霧である、請求項1または2の方法。
【請求項4】
感染症がインフルエンザウイルス感染症である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
免疫学的検出法である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子増幅法である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄して得られた鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液を検体として用いる感染症を検出するための検査キットであって、感染症を検出するための検査試薬、および鼻腔粘膜を洗浄するための洗浄液を含む点鼻デバイスを含む検査キット。
【請求項8】
点鼻デバイスは1回使い切りタイプの点鼻デバイスであり、該デバイス中に、鼻腔内に添加する洗浄液が1回分として200~800μL含まれる、請求項7記載の検査キット。
【請求項9】
鼻腔内に洗浄液を添加する方法が噴霧である、請求項7または8に記載の検査キット。
【請求項10】
感染症がインフルエンザウイルス感染症である、請求項7~9のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項11】
免疫学的検査キットである、請求項7~10のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項12】
遺伝子増幅用検査キットである、請求項7~10のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項13】
感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄することにより、鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液を含む検体を採取する方法。
【請求項14】
鼻腔内に添加する洗浄液の量が200~800μLである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
鼻腔内に洗浄液を添加する方法が噴霧である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
感染症がインフルエンザウイルス感染症である、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点鼻デバイスを用いて得られる鼻腔粘膜表面の付着粘液を検体として採取する方法および該方法により得られた検体中の被検出物を検出するための分析方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、臨床検査、感染症等の検査を実施するために人体から検体を採取する場合、検体種として、血液、唾液、便、生検組織、角結膜ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、鼻かみ鼻汁液など、様々な検体が利用されている。
【0003】
例えば、インフルエンザウイルスを代表とする感染症の検査においては、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻腔吸引液、鼻かみ鼻汁液が広く利用され、採取した検体を用いた検査キットにより検体中のインフルエンザウイルス抗原の有無を迅速且つ簡便に判定できるため、インフルエンザウイルスの流行期には日常的に検体が採取され、検査に利用されている(特許文献1を参照)。
【0004】
鼻腔ぬぐい液は、医科用の滅菌綿棒を用いた採取が一般的であるが、綿棒を用いた検体採取は低侵襲性であると言われている一方で、検査に十分な検体を得るために鼻咽頭まで綿棒を入れ、且つ粘膜から十分な検体を採取するために強く擦過する必要があり、時に強い痛みと出血を伴うことがある。また、咽頭ぬぐい液の採取においては、口蓋扁桃や咽頭後壁を十分に擦過して検体を採取する必要があり、時に嘔吐反射を起こし、嘔吐とともに十分な量の検体を採取することは困難な場合がある。また、鼻腔吸引液は専用の吸引装置を持つ一部の医療機関でしか利用できず、また、患者の状態によっては鼻水がほとんどなく、十分な量の検体を採取することが困難な場合がある。鼻腔洗浄液はシリンジで液体を多量に鼻腔内部に挿入し、流れ出てくる液体を紙コップや鼻腔吸引液と同様に吸引装置を使って回収するが、多量に液体を鼻腔内に入れることで患者は息苦しく感じ、場合によっては挿入した液体が鼻から喉に流れてしまうことがあり、その採取は容易ではない。鼻かみ鼻汁液は鼻をかむことのできる年齢以上の患者に対してしか利用できず、鼻腔吸引液と同様に患者の状態によっては十分な量の検体を採取することが困難な場合がある。上記の理由より、インフルエンザウイルスの検査に利用される上記の鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液および鼻かみ鼻汁液の5つの検体種およびその採取方法は、総じて患者への負担は決して軽いものではなく、また、患者の状態によっては所定の検体量が得られず、検査の精度への影響があるため、より侵襲性が低く、一定量の検体を安定的に採取できる検体の採取方法、検査キットが求められていた。
【0005】
また、上記のインフルエンザウイルスの検査に利用される5つの検体種およびその採取方法は、生体成分の持ち込み量が多くなり、生体成分による偽陽性、偽陰性または判定不可といった非特異反応が起きやすく、特に鼻腔洗浄液は多量の洗浄液により検体が希釈化され感度が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2005/121794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、点鼻デバイスを用いることで非侵襲的に簡便に鼻腔粘膜表面の付着粘液を採取し、これを検体として用いることで、迅速かつ簡便で精度の高い検体中の被検出物の分析方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、点鼻デバイスを用いて所定量の生理食塩水液を鼻腔内に噴霧し、鼻腔粘膜表面を洗って得られる付着粘液を採取することで、非侵襲的に簡便かつ安定的に該検体を採取することができ、該採取物を検体として検体中の病原体を検出するときに十分な感度が得られる測定系を確立することで、該検体の臨床検体としての有用性を見出し、簡便かつ非侵襲的な検体採取による検体中の被検出物の分析が可能となる本発明を完成した。
【0009】
本発明の態様は、以下のとおりである。
[1] 感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄して得られた鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液を検体として用いて、感染症を検出する方法。
[2] 鼻腔内に添加する洗浄液の量が200~800μLである、[1]の方法。
[3] 鼻腔内に洗浄液を添加する方法が噴霧である、[1]または[2]の方法。
[4] 感染症がインフルエンザウイルス感染症である、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] 免疫学的検出法である、[1]~[4]のいずれかの方法。
[6] 遺伝子増幅法である、[1]~[4]のいずれかの方法。
[7] 感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄して得られた鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液を検体として用いる感染症を検出するための検査キットであって、感染症を検出するための検査試薬、および鼻腔粘膜を洗浄するための洗浄液を含む点鼻デバイスを含む検査キット。
[8] 点鼻デバイスは1回使い切りタイプの点鼻デバイスであり、該デバイス中に、鼻腔内に添加する洗浄液が1回分として200~800μL含まれる、[7]の検査キット。
[9] 鼻腔内に洗浄液を添加する方法が噴霧である、[7]または[8]の検査キット。
[10] 感染症がインフルエンザウイルス感染症である、[7]~[9]のいずれかの検査キット。
[11] 免疫学的検査キットである、[7]~[10]のいずれかの検査キット。
[12] 遺伝子増幅用検査キットである、[7]~[10]のいずれかの検査キット。
[13] 感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄することにより、鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液を含む検体を採取する方法。
[14] 鼻腔内に添加する洗浄液の量が200~800μLである、[13]の方法。
[15] 鼻腔内に洗浄液を添加する方法が噴霧である、[13]または[14]の方法。
[16] 感染症がインフルエンザウイルス感染症である、[13]~[15]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、鼻腔粘膜表面を洗って得られる付着粘液を含む検体から感染症の診断をおこなう方法を確立することができた。
【0011】
本発明の方法で、鼻腔粘膜表面を洗って得られる付着粘液を検体として用いて感染症の診断を行った場合、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液および鼻かみ鼻汁液を検体として用いて感染症の診断を行った場合と同程度か、あるいはよりよい感度で感染症の診断を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は点鼻デバイスにより所定量の生理食塩水液等の洗浄液を鼻腔内に噴霧し、鼻腔粘膜表面を洗って得られる付着粘液を検体として採取することを特徴とする。ここで、付着粘液とは鼻腔粘膜表面に付着している粘液をいう。
【0013】
例えば、問診等により感染症の疑われる患者である被験体に対し、予め洗浄液を充填した点鼻デバイスを用いて、その鼻腔内に所定量の洗浄液を噴霧または滴下により添加する。噴霧または滴下後、洗浄液により鼻腔粘膜表面を洗って、鼻の入り口付近に流れ出てきた付着粘液を含む洗浄液を検体として回収する。このようにして得られた検体を用いて、各種検査を実施する。
【0014】
本発明は鼻腔内に洗浄液を噴霧することにより洗浄液により鼻腔粘膜表面を洗って、鼻の入り口付近に流れ出てきた付着粘液を含む洗浄液を検体として回収することができる。
【0015】
鼻腔内にスポイトやノズルのついた器具で洗浄液を流し込むと鼻腔内を局所的に洗浄するので、広い範囲の鼻腔粘膜表面粘液を採取できなくなる。
【0016】
それに対し、鼻腔内に洗浄液を噴霧することにより、広い範囲の鼻腔粘膜表面粘液を採取することができる。
【0017】
また、鼻腔内にスポイトやノズルのついた器具で洗浄液を流し込むと、洗浄液が流し込まれる勢いから鼻腔を通過して喉へ流れ、洗浄液を効率よく回収できなくなる。
【0018】
それに対し、鼻腔内に洗浄液を噴霧することにより、洗浄液が鼻腔を通過して喉へ流れることを防ぐことができ、洗浄液を効率よく回収できる。
【0019】
また、鼻腔内にスポイトやノズルのついた器具で洗浄液を流し込むと、鼻腔内を局所的に洗浄液が流し込まれる勢いから、鼻腔内に負担がかかり、被験者(特に小児)が痛みや息苦しさ等を感じることが多い。
【0020】
それに対し、鼻腔内に洗浄液を噴霧することにより、鼻腔内の負担が軽減でき、被験者(特に小児)が痛みや息苦しさ等を感じにくくなる。
【0021】
本発明において、点鼻デバイスは生理食塩水液等の洗浄液を充填した容器をいう。本発明の点鼻デバイスは点鼻容器として市販されているものや噴霧装置、医科用の噴霧デバイス等を利用できるがこれに限定されない。
【0022】
また、洗浄液として例えば生理食塩水液が挙げられる。生理食塩水も日本薬局方の生理食塩水で市販されているものや日本薬局方の処方により調製したもの等が利用できるがこれに限定されない。また、洗浄液としてリンゲル液、乳酸リンゲル液、ブドウ糖液等の等張液を用いることもできる。
【0023】
鼻腔内の洗浄は、200~800μL、好ましくは400~700μL、さらに好ましくは300~500μLの洗浄液を点鼻デバイスにより鼻腔内に噴霧または滴下すればよい。
【0024】
鼻の入り口付近に流れ出てきた付着粘液を含む液体を検体として回収する方法には、種々の採取器具により採取する方法が挙げられ、採取器具として、綿棒、スワブ、ブラシ、先端が網目状の器具、スポンジ状の器具、布状等の吸収体など、液体を担持することができる器具を利用することができる。付着粘液を含む液体をこれらの器具に吸収させて採取すればよい。
【0025】
本発明においては、このようにして採取した検体を簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体と呼ぶ。
【0026】
採取器具で採取した検体を、例えば、液体中に溶解または懸濁させて得られた液体を検体試料とすればよい。採取器具で採取した検体は、採取器具の付着粘液を含む液体を吸収した部分、例えば綿棒の先端の綿部を液体中に揉みだしたり、しごいたり、こすったりすることにより液体中に溶解または懸濁させることができる。検体を溶解または懸濁させる液体として、緩衝液を用いることができる。
【0027】
本発明においては、検体を濃縮、培養操作等の処理をせずに直接試料として用いることができる。また、緩衝液と混合し試料としてもよい。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液を用いることができ、Tween20等の界面活性剤や血清アルブミンを含んでいてもよい。例えば、メンブレンを用いたラテラルフロー式の免疫測定法であるイムノクロマト法でアッセイを行う場合、綿棒で採取された検体を緩衝液に浮遊し検体試料として用いる。
【0028】
本発明において検出する感染症は、ウイルス、細菌、原生動物、真菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア等の病原体による感染症であり、この中でも特にウイルスによる感染症の検出を目的とする。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス;SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2などのコロナウイルス;RSウイルス;アデノウイルス;ヒトメタニューモウイルス等が挙げられる。これらの感染症の原因となる病原体を被検出物として検出すればよい。
【0029】
本発明を用いた被検出物の検出方法としては、免疫測定法(免疫学的測定法)、遺伝子検査法、分離培養・同定法等が挙げられる。
【0030】
免疫測定法においては、検体中のウイルスを抗体抗原反応を利用して分析する。具体的には、ウイルスの抗原に特異的な抗体を用いて分析することができる。ウイルスの抗原に対する抗体は公知の方法により得ることができる。免疫測定法としては、免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法を含む)、電気泳動法による分離と蛍光、酵素、放射性同位元素などによる検出方法とを組み合わせた方法(ウエスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法を含む)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、ドット・ブロッティング法、ラテックス凝集法(LA:Latex Agglutination-Turbidimetric Immunoassay)、イムノクロマト法など、当業者にとって周知のいずれの方法も用いることができる。なお、本発明において、「分析」には、定量、半定量、検出のいずれもが包含される。
【0031】
上記の免疫測定法の中でも、サンドイッチ法が好ましい。サンドイッチ法自体は免疫測定の分野において周知であり、例えばラテラルフロー式に免疫測定を行うイムノクロマト法やELISA法により行うことができる。これらのサンドイッチ法自体はいずれも周知であり、本発明の方法は周知のサンドイッチ法により行うことができる。
【0032】
サンドイッチ法を検出原理とする免疫測定において、抗体が固定化される固相としては、抗体を公知技術により固定可能なものは全て用いることができ、例えば、毛細管作用を有する多孔性薄膜(メンブレン)、粒子状物質、試験管、樹脂平板など公知のものを任意に選択できる。また、抗体を標識する物質としては、酵素、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色粒子、コロイド粒子などを用いることができる。また、2種類以上の抗体を用いてもよい。2種類以上の抗体は、サンドイッチ法に用いられ、互いに異なるエピトープを認識する抗体であることが好ましい。
【0033】
前述の種々の材料による免疫測定法の中でも、特に臨床検査の簡便性と迅速性の観点から、メンブレンを用いたラテラルフロー式の免疫測定法であるイムノクロマト法が好ましい。
【0034】
本発明の方法によるラテラルフロー式免疫測定法は、測定対象物(抗原)を捕捉する抗体(抗体1)が固定化された検出領域を有する支持体、着色ポリスチレン粒子や金コロイド等の適当な標識物質で標識した移動可能な標識抗体(抗体2)を有する標識体領域、検体を滴加するサンプルパッド、展開された検体液を吸収する吸収帯、これら部材を1つに貼り合わせるためのバッキングシートから成る免疫測定器具を用いて行うことができる。該方法においては、感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄して得られた鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液である検体をサンプルパッドに滴加し、抗体1を固定化した固相支持体に毛管現象を利用して、着色ポリスチレン粒子や金コロイド等の適当な標識物質で標識した被検出物質(標識試薬)と結合し得る抗体2と被検出物質の複合体を展開移動させる。この結果、固定化した物質-被検出物質-標識試薬の複合体が固相支持体上に形成され、該複合体から発する標識試薬のシグナル(金コロイドの場合は、被検出物質と結合し得る物質を固定化した固相支持体部分が赤くなる)を検出することにより、被検出物質を検出することができる。該免疫測定方法は、5~35℃、好ましくは室温で行うことができ、検体処理液による前処理を実施する場合もこの温度範囲内で行えばよい。
【0035】
なお、検出領域の数および標識体領域に含まれる標識抗体の種類は1に限られるものではなく、複数の測定対象物に対応する抗体を用いることで、2以上の抗原を同一の免疫測定器具にて検出することができる。
【0036】
本発明は、検体中の被検出物を分析し、感染症を検出するための上記の免疫測定器具である免疫測定試薬、および免疫測定試薬と点鼻デバイスを含む免疫測定キットである検査キットも包含する。
【0037】
ウイルス等の被検出物の数が少ない場合は、分離培養・同定法により培養して増やしてから分析してもよい。
【0038】
遺伝子検査法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、LAMP(Loop Mediated Isothermal Amplification)法、TMA(Transcription Mediated Amplification)法、SDA (Strand Displacement Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric Primer-initiated Amplification of Nucleic Acids)法等の遺伝子増幅法が挙げられる。この中でもPCR法を好適に用いることができる。感染症の疑われる被験体の鼻腔内に洗浄液を添加して鼻腔粘膜表面を洗浄して得られた鼻腔粘膜表面付着粘液を含む洗浄液を検体とし、該検体中に含まれる病原体の遺伝子を増幅すればよい。PCR法は、Taq DNA polymerase反応を利用して特定の配列を有するプライマーで囲まれた遺伝子領域をin vitro で増幅させる方法である。遺伝子増幅反応はフォワードプライマーとリバースプライマーの1対プライマーを用い、a) 二本鎖DNAの熱変性、ii) プライマーのアニーリング、iii) 伸長反応の3ステップの熱サイクルを30~40回繰り返すことによって行われる方法である。いずれの方法も公知である。
【0039】
本発明は、検体中の被検出物を分析し、感染症を検出するための上記の遺伝子増幅用試薬、および遺伝子増幅用試薬と点鼻デバイスを含む遺伝子増幅用キットである検査キットも包含する。該キットの点鼻デバイスは、鼻腔内に添加する洗浄液を含んでいる。該点鼻デバイスは使い切りタイプであってもよく、1回使い切りタイプの点鼻デバイスは、1回分の鼻腔内に添加する洗浄液200~800μL、好ましくは400~700μL、さらに好ましくは300~500μLを含んでいる。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明は実施例だけに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
1.点鼻デバイスの作製
20mL容量の点鼻容器(金鵄製作所製)に生理食塩液(大塚製薬製)を10mL充填し、点鼻デバイスとした。
2.簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体の採取
成人健常者3名に点鼻デバイスを用いて、200μL、300μL、400μL、500μL、600μL、700μL、800μL噴霧し、鼻の入り口に流れ出てきた液体をExスワブ003Tに吸わせて採取し、これを簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体とした。
3.採取時の官能試験
2.で簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体を採取する際に成人健常者3名に各噴霧量での採取のしやすさ、息苦しさ、喉への流れにくさの3つの観点で評価を行った。
4.比較検討
表1の結果より、個人差はあるものの、噴霧量300~500μLが最適な噴霧量と考えられた。ただし、成人健常者であるため、小児では変わる可能性があり、また、人種によっても変わる可能性があるため、これに限定されるものではない。
【0042】
【0043】
[実施例2]
1.簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体のSDS-PAGE解析
実施例1の2.で採取した簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体を200μLの生理食塩水に浮遊した。この一部を分取し、終濃度が62.5mM Tris-HCl(pH6.5)、10(w/v)%グリセロール、2.3(w/v)%SDS、0.05(w/v)%BPB(色素)となるように各試薬を添加し、95℃で5分間加熱変性処理を行い、定法のSDS-PAGEを行った。
2.デンシトメトリー分析装置による総タンパク量解析
デンシトメトリー分析装置(バイオ・ラッド社製)を用いて、上記1.のSDS-PAGEのCBB染色済みのゲルを解析し、各レーン毎に全てのバンドのDensityを測定し、総Densityの値をDensity Scoreとする。
3.比較検討
Density Scoreの測定結果を表2に示した。表2の結果より、個人差はあるものの、噴霧量400~700μLで採取した簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体中のタンパク量が多いことが明らかになった。ただし、成人健常者であり、有症状者や小児では変わる可能性があり、また、人種によっても変わる可能性があるため、これに限定されるものではない。
【0044】
【0045】
[実施例3]
1.鼻腔吸引液検体と簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体のSDS-PAGE解析
鼻腔吸引液検体10検体より、メンティップP1503(日本綿棒株式会社製)を用いて検体を採取し、200μLの生理食塩水に浮遊し、SDS-PAGE用のサンプルとした。また、実施例1の2.で採取した健常者3名の400μL噴霧による簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体を混合し、SDS-PAGE用のサンプルとした。各サンプルを分取し、終濃度が62.5mM Tris-HCl(pH6.5)、10(w/v)%グリセロール、2.3(w/v)%SDS、0.05(w/v)%BPB(色素)となるように各試薬を添加し、95℃で5分間加熱変性処理を行い、定法のSDS-PAGEを行った。
2.デンシトメトリー分析装置による総タンパク量解析
デンシトメトリー分析装置(バイオ・ラッド社製)を用いて、上記1.のSDS-PAGEのCBB染色済みのゲルを解析し、各レーン毎の全てのバンドの総Density(Density Score)を測定した。
3.比較検討
Density Scoreの測定結果を表3に示した。表3の結果より、検体毎に差はあるものの、それぞれ混合した条件での比較では、鼻腔吸引液検体と簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体で採取できるタンパク量には大きな差はなかった。このことから、本発明の簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体を用いてインフルエンザウイルスの検査を行うことは可能であると考えられた。
【0046】
【0047】
[実施例4]
1.抗A型インフルエンザウイルス抗体の作製
不活化したA型インフルエンザウイルスをBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol. 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3X63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、ヘリコバクター・ピロリから抽出した抗原を固相したプレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。
得られた腹水からプロティンAカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー法により、それぞれIgGを精製し、2種類の精製抗A型インフルエンザウイルス抗体を得た。
【0048】
2.抗B型インフルエンザウイルス抗体の作製
不活化したB型インフルエンザウイルスをBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol. 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3X63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、ヘリコバクター・ピロリから抽出した抗原を固相したプレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。
得られた腹水からプロティンAカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー法により、それぞれIgGを精製し、2種類の精製抗B型インフルエンザウイルス抗体を得た。
【0049】
3.標識抗A型インフルエンザウイルス抗体の作製
抗A型インフルエンザウイルス抗体のうち1種類を50mM MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate;同仁化学社)緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、O.D.280nm=0.5になるように同じ緩衝液で希釈した溶液を10mL調製した。次に10(W/V)%青色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.45μm、表面官能基はカルボキシル基、官能基密度65Å2/COOH基;Magsphere社)と液量比40:1になるように混合し、反応させた。次に、1(w/v)%のEDAC(N-(3-Dimethlaminopropyl)-N'-ethylcarbodiimide hydrochloride;Sigma社)を最終濃度0.1%になるように添加した後、2時間反応させた。洗浄後、最終浮遊液(5mM Tris,0.04(w/v)% BSA(ウシ血清アルブミン),0.4Mトレハロース,0.2(v/v)% TritonX-100)20mL中に浮遊し、超音波分散装置(オリンパス社)にかけ、ラテックス粒子を分散させた。
【0050】
4.標識抗B型インフルエンザウイルス抗体の作製
抗B型インフルエンザウイルス抗体のうち1種類を50mM MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate;同仁化学社)緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、O.D.280nm=0.5になるように同じ緩衝液で希釈した溶液を10mL調製した。次に10(w/v)%青色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.45μm、表面官能基はカルボキシル基、官能基密度65Å2/COOH基;Magsphere社)と液量比40:1になるように混合し、反応させた。次に、1(w/v)%のEDAC(N-(3-Dimethlaminopropyl)-N'-ethylcarbodiimide hydrochloride;Sigma社)を最終濃度0.1%になるように添加した後、2時間反応させた。洗浄後、最終浮遊液(5mM Tris,0.04(w/v)% BSA(ウシ血清アルブミン),0.4Mトレハロース,0.2(v/v)% TritonX-100)20mL中に浮遊し、超音波分散装置(オリンパス社)にかけ、ラテックス粒子を分散させた。
【0051】
5.ラテックス粒子標識抗体乾燥パッドの作製
上記3.および4.で得られたラテックス粒子標識抗A型およびB型インフルエンザウイルス抗体を混合し、陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて8μL/cmの塗布量でリール状に巻いた幅15mmのセルロース不織布全面に噴霧した。噴霧後、50℃の温風を1分間吹きつけて乾燥させ、ラテックス粒子標識抗体乾燥パッドを作製した。
【0052】
6.メンブレン固相用抗体の調製
上記1.で作製した精製抗A型インフルエンザウイルス抗体のうち標識に用いなかった方を、固相液(10mM Tris-HCl(pH8.0))に透析し、透析後に0.22μmろ過を行い、O.D.280nm=3.0になるように固相液で希釈して固相用抗A型インフルエンザウイルス抗体を調製した。
上記2.で作製した精製抗B型インフルエンザウイルス抗体のうち標識に用いなかった方を、固相液(10mM Tris-HCl(pH8.0))に透析し、透析後に0.22μmろ過を行い、O.D.280nm=3.0になるように固相液で希釈して固相用抗B型インフルエンザウイルス抗体を調製した。
【0053】
7.インフルエンザウイルス検出用ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置の作製
メンブレンは、幅3cm×長さ10cmのニトロセルロースメンブレン(孔径12μm;ワットマン社製)シート(白色)を用いた。その長軸側の一端(この端を上流端、反対側を下流端とする)から6mm離れた位置に固相用抗A型インフルエンザウイルス抗体、8mm離れた位置に固相用抗B型インフルエンザウイルス抗体をそれぞれ1μL/cmの塗布量で陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて線状に塗布し、長軸側の一端から13mm離れた位置に抗マウスIgG抗体をO.D.280nm=1.0に希釈し、1μL/cmの塗布量で陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて線状に塗布した。塗布後、45℃の温風を30分間吹き付けて乾燥した。
次に、部材を固定し、かつ強度を増すため、メンブレンの抗体塗布面(この面を上面とする)の反対側(この面を下面とする)にプラスチック製バッキングシート(BioDot社製)を接着した。
次に、上記5.で作製したラテックス粒子標識抗体乾燥パッドを幅15mm×長さ10cmに切断し、メンブレンの上面に、メンブレンの上流端が2mm重なる様に配置して貼り付け、さらに幅23mm×長さ10cmのセルロースろ紙(ワットマン社)をラテックス粒子標識抗体乾燥パッドの上面に13mm重なる様に配置して貼り付け、サンプル滴加パッドとした。
次に、幅30mm×長さ10cmのセルロースろ紙(ワットマン社)をメンブレンの上面に、メンブレンの下流端と5mm重なる様に配置して貼り付け、サンプル吸収パッドとした。
次にサンプル滴下パッドの上流端の幅5mmを除いて、上面全面を透明プラスチックラミネート(Adhesive Research社)で被覆した。
最後に長軸方向に沿って、5mmずつ切断し、メンブレンアッセイ装置を作製した。
【0054】
8.インフルエンザウイルスの検出
インフルエンザウイルス抗原キットであるクイックナビ(商標)-Flu2(デンカ生研製)を用いて鼻腔ぬぐい液を採取してインフルエンザウイルス感染診断を行い、総合所見にてA型インフルエンザウイルス陽性(+)と診断された患者(5名)、B型インフルエンザウイルス陽性(+)と診断された患者(5名)およびインフルエンザウイルス陰性(-)と診断された患者(5名)を対象として、対象者の鼻腔に実施例1の1.で作製した点鼻デバイスを用いて生理食塩水を400μL噴霧し、鼻の入り口に流れ出てきた液体をExスワブ003T(デンカ生研製)に吸わせて採取し、これを簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体とした。
検体を採取した綿棒の綿球を検体浮遊用緩衝液(Tween20 0.05(w/v)%およびウシ血清アルブミン0.1(w/v)%を含むリン酸緩衝液(pH7.4))0.2mL中に浸けて、先端付着物を揉みだして検体浮遊用緩衝液中に抽出してこれを検体試料とした。
検体試料に7.で作製したインフルエンザウイス検出用ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置のサンプル滴加パッド側を液に浸した。10分後、アッセイ装置を観察し、抗マウスIgG抗体を塗布した位置(コントロールライン)に発色が認められた場合を有効とし、固相用抗A型インフルエンザウイルス抗体を塗布した位置に発色が認められた場合にはA型インフルエンザウイルス陽性(+)、固相用抗B型インフルエンザウイルス抗体を塗布した位置に発色が認められた場合にはB型インフルエンザウイルス陽性(+)、いずれの位置にも発色が認められない場合は陰性(-)と判定した。またコントロールラインの位置に発色が認められない場合を無効とした。
【0055】
9.比較検討
アッセイ結果を表4に示した。表4の結果より、クイックナビ-Flu2を用いて鼻腔ぬぐい液を採取して実施した検査結果および総合所見と比較し、本発明による検体を用いた検査結果は全て一致することが確認された。
【0056】
【0057】
[実施例5]
1.インフルエンザウイルス量の比較のための検体採取
インフルエンザウイルス抗原キットであるクイックナビ(商標)-Flu2(デンカ生研製)を用いて鼻腔ぬぐい液を採取してインフルエンザウイルス感染診断を行い、総合所見にてA型インフルエンザウイルス陽性(+)と診断された患者1名より、実施例1の1.で作製した点鼻デバイスを用いて生理食塩水を400μL噴霧し、鼻の入り口に流れ出てきた液体をExスワブ003T(デンカ生研製)に吸わせて簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体を採取し、これを200μLの生理食塩水に浮遊し、qPCR用サンプルとした。対照として、同一患者のクイックナビ-Flu2の鼻腔ぬぐい液検査残液をサンプルとした。
2.Real-time PCRによる解析
QIAamp Viral RNA Mini Kit(核酸抽出キット、QIAGEN製)を用いて1.の2つのサンプルの核酸を抽出し、所定のPCR用試料を添加しApplied Biosystems QuantStudio(商標) 3(thermo fisher scientific社製)のPCR装置で測定した。
3.比較検討
測定結果を表5に示した。表5より、簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体のウイルス量が1.39x106copies/mL相当、一方、対照法の鼻腔ぬぐい液検体のウイルス量が1.31x105 copies/mL相当という結果が得られた。従来法である鼻腔ぬぐい液検体と比較し、簡易鼻腔粘膜表面付着粘液検体の方がウイルス量が多かったことから、鼻腔ぬぐい液よりも安定的にウイルスの採取が可能であり、臨床検査に利用できることが明らかになった。
【0058】