(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187698
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】エレベーターのかご位置監視システム、及びかご位置監視方法
(51)【国際特許分類】
B66B 3/02 20060101AFI20221213BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B66B3/02 V
B66B3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095830
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山根 慶大
(72)【発明者】
【氏名】森下 真年
(72)【発明者】
【氏名】溝口 崇子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 恭志
(72)【発明者】
【氏名】西迫 竜一
(72)【発明者】
【氏名】金 政和
【テーマコード(参考)】
3F303
【Fターム(参考)】
3F303BA01
3F303CB04
3F303CB09
3F303CB36
(57)【要約】
【課題】位置ずれと磁束密度に関する情報を人手によらず、自動的に取得することができるエレベーターのかご位置監視システム、及びかご位置監視方法を提供する。
【解決手段】乗りかごと建築物の鉛直方向の位置ずれを許容できる状態に設定した後の所定期間の間の任意の時刻に計測した磁束密度情報と距離情報を保存し、所定期間が終了した状態において、保存された磁束密度情報と距離情報の関係を表す所定の関数を算出し、磁気センサから得られた新たな磁束密度情報と算出された所定の関数に基づいて、乗りかごと建築物との鉛直方向の位置ずれ量を推定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの乗りかごに設置された磁気センサと、建築物の側に設置された磁気マーカーと、前記乗りかごのかご枠と乗りかご本体の鉛直方向の距離を測定する距離センサと、前記磁気センサと前記距離センサから得られた磁束密度情報と距離情報を各々保存するデータ収集部と、前記乗りかごと前記建築物との鉛直方向の位置ずれ量を推定する信号処理部を備え、
前記データ収集部は、通常の運行状態における所定期間の間の任意の時刻に計測した前記磁束密度情報と前記距離情報を保存し、
前記信号処理部は、前記所定期間が終了した状態において、前記データ収集部に保存された前記磁束密度情報と前記距離情報の関係を表す所定の関数を算出し、前記磁気センサから得られた新たな前記磁束密度情報と前記所定の関数に基づいて、前記乗りかごと前記建築物との鉛直方向の位置ずれ量を推定する
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記所定期間は、前記乗りかごと前記建築物の鉛直方向の位置ずれを許容できる状態にされた後に設定される期間である
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記所定の関数は、前記磁束密度情報と前記距離情報の相関を表す相関関数である
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項4】
請求項2に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記信号処理部は、推定された前記位置ずれ量が所定の閾値を超えた場合は、警報を発報する
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項5】
請求項2に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記データ収集部と前記信号処理部は管理サーバに設けられており、前記磁気センサと前記距離センサからの前記磁束密度情報と前記距離情報は、無線、或いは有線で前記管理サーバに送られる
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項6】
請求項2に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記乗りかご本体の底面と前記かご枠の底面の間には、荷重によって伸縮する緩衝部が配置され、前記距離センサは、前記乗りかご本体の底面、或いは前記かご枠の底面に取り付けられている
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項7】
請求項6に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記距離センサの代わりに、前記乗りかご本体の重量を測定する重量センサを用いる
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項8】
請求項1に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記磁気マーカーは、前記建築物の階床毎に設けられており、前記磁束密度情報と前記距離情報は、各階床毎に計測されて前記データ収集部に保存されている
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項9】
請求項8に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記磁束密度情報と前記距離情報は、各階床に対応して紐付けられて前記データ収集部に保存されている
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項10】
請求項9に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記乗りかごは気圧センサを備えており、前記気圧センサによって前記乗りかごの到着階を検出し、前記到着階と前記磁束密度情報と前記距離情報とが紐付けられて前記データ収集部に保存されている
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項11】
請求項6に記載のエレベーターのかご位置監視システムにおいて、
前記建築物の乗り場のホールドアには、ドア用磁気センサが設けられており、前記ドア用磁気センサが、前記任意の時期である前記ホールドアが開かれる時期、或いは閉じられる時期に、前記磁束密度情報と前記距離情報が計測される
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視システム。
【請求項12】
エレベーターの乗りかごに設置された磁気センサと、建築物の側に設置された磁気マーカーと、かご枠と乗りかご本体の鉛直方向の距離を測定する距離センサと、前記磁気センサと前記距離センサから得られた磁束密度情報と距離情報を各々保存するデータ収集部と、前記乗りかごと前記建築物との鉛直方向の位置ずれ量を推定する信号処理部を備えたエレベーターのかご位置監視方法であって、
前記乗りかごと前記建築物の鉛直方向の位置ずれを許容できる状態に設定した後の所定期間の間の任意の時刻に計測した前記磁束密度情報と前記距離情報を前記データ収集部に保存し、
所定期間の終了後において、前記データ収集部に保存された前記磁束密度情報と前記距離情報の関係を表す所定の関数を前記信号処理部で算出し、
所定期間の終了後において、前記磁気センサから得られた新たな磁束密度情報と前記所定の関数に基づいて、前記乗りかごと前記建築物との鉛直方向の位置ずれ量を推定する
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視方法。
【請求項13】
請求項12に記載のエレベーターのかご位置監視方法において、
前記距離センサは、前記所定期間が終了されると前記乗りかごから撤去される
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視方法。
【請求項14】
請求項12に記載のエレベーターのかご位置監視方法において、
前記所定の期間が終了した後で、しかも前記乗りかごと前記建築物の鉛直方向の位置ずれが許容できる状態にあることを条件に、前記所定の関数が前記信号処理部で算出される
ことを特徴とするエレベーターのかご位置監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターに備えられた乗りかごのかご位置を監視するエレベーターのかご位置監視システム、及びこのかご位置監視システムによるかご位置監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレベーターにおいては、バリアフリーや乗客の転倒防止の観点から、乗りかごが建築物の各階の乗り場に到着したときに、乗りかごの床面と乗り場の床面との間に位置ずれ(段差)が発生することを防止できるように、乗りかごの位置制御が行われている。
【0003】
一般に、エレベーターの乗りかごの位置制御には、建築物の各階に設置された、乗りかごの到着位置を検出する位置検出装置が用いられている。例えば、特開2016-155623号公報(特許文献1)には、各階の乗り場へ移動する乗りかごを備えたエレベーターに設けられ、乗り場に対する乗りかごの位置を検出するかご位置検出装置が示されている。
【0004】
この特許文献1における、かご位置検出装置は、乗り場に設けられ、帯磁した永久磁石と、乗りかごに設けられ、乗りかごが乗り場に接近した際に、永久磁石によって形成された磁界の磁束密度の変化を検出する磁束密度検出部と、磁束密度検出部によって検出された磁束密度に基づいて、乗りかごの位置を特定する位置特定部とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エレベーターにおいては、運転状況や異常状況を監視することが必要であるが、最近では、中央管理センタによって、エレベーターの運転状況や異常状況を遠隔監視することが提案されている。
【0007】
ところで、過去に建築された建築物に設置されたエレベーターにおいては、建築時に設置されてからリニューアルされるまでの長期間、例えば数十年に渡って使用されることが往々にしてある。そして、過去の旧式エレベーターは、遠隔監視機能を有しておらず、この旧式エレベーターにおいても、乗りかごのかご位置の遠隔監視を実現するために、新たな乗りかごのかご位置検出手法が必要となる。
【0008】
このため、特許文献1に記載されたようなかご位置検出装置を、建築物の各階に設置することが考えられる。しかしながら、各階毎にかご位置検出装置を構成する永久磁石の設置位置、磁化ばらつき、永久磁石と磁気センサの間の距離のばらつき等によって、磁束密度の特性が変動し、正確な位置ずれ量を推定することが難しいという問題がある。
【0009】
したがって、乗りかごの位置ずれ量(段差の距離)と、この時の位置ずれ量に対応する磁束密度の関係性を把握しておき、検出された磁束密度から乗りかごの位置ずれ量を推定することが必要となる。
【0010】
この磁束密度の変動の影響を対策するためには、乗りかごを少し(例えば、数cm毎)ずつ移動して位置ずれを発生させ、この時の位置ずれと磁束密度に関する情報を取得することで、位置ずれと磁束密度の関係性を把握でき、正確な位置ずれ量を推定することができるようになる。
【0011】
しかしながら、この位置ずれと磁束密度に関する情報の取得作業は、各階毎に作業者の人手によって行われるので、データ取得工数が膨大となり、遠隔監視システムの構築時の作業コストが高くなるといった課題を生じる。
【0012】
本発明の目的は、位置ずれと磁束密度に関する情報を人手によらず、自動的に取得することができるエレベーターのかご位置監視システム、及びかご位置監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
エレベーターの乗りかごに設置された磁気センサと、建築物側に設置された磁気マーカーと、かご枠と乗りかごの鉛直方向の距離を測定する距離センサと、磁気センサと距離センサから得られた磁束密度情報と距離情報を各々保存するデータ収集部と、乗りかごと建築物との鉛直方向の位置ずれ量を推定する信号処理部を備え、
データ収集部は、通常の運行状態における所定期間の間の任意の時刻に計測した磁束密度情報と距離情報を保存し、
信号処理部は、所定期間が終了された状態において、データ収集部に保存された磁束密度情報と距離情報の関係を表す所定の関数を算出し、磁気センサから得られた新たな磁束密度情報と所定の関数に基づいて、乗りかごと建築物との鉛直方向の位置ずれ量を推定する
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位置ずれと磁束密度に関する情報を人手によらず、自動的に取得することができるので、遠隔監視システムの構築時の作業コストを大きく削減できる。尚、、上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2A】乗りかごとエレベーターホールの位置関係を説明するもので、乗客が搭乗していない初期状態を示す説明図である。
【
図2B】乗りかごとエレベーターホールの位置関係を説明するもので、乗客が搭乗している状態を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施形態になるエレベーターのかご位置監視システムの構成を示す構成図である。
【
図4】エレベーターのかご位置監視システムによるかご監視方法を説明する処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0017】
尚、実施形態は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。
【0018】
本発明に係るかご位置監視システムの実施形態は、例えば、
図1に示す建築物に設置されたエレベーター1と組み合わされる。このエレベーター1は、昇降路2内を昇降し、建築物の各階の乗り場3へ移動する乗りかご4と、一端が乗りかご4に取付けられた主ロープ5と、この主ロープ5の他端が取付けられ、昇降路2内に吊り下げられた釣合い錘6とを備えている。
【0019】
また、エレベーター1は、昇降路2の上方に位置する機械室7に設けられ、乗りかご4、及び釣合い錘6を駆動する巻上機8と、この巻上機8の近傍に配置された反らせ車9と、乗りかご4の内壁に設けられ、乗りかご4の運転を操作する乗りかご操作盤10と、機械室7に設けられ、乗りかご4の昇降動作を含むエレベーター1の運転を制御する制御装置11とを備えている。
【0020】
尚、本実施形態では、乗りかご4には、乗りかご4の床面4Aと乗り場3の床面3Aの間の位置を検出する位置検出装置、及び乗りかご4を支えるかご枠の床面と乗りかご4の床面4Aとの距離を検出する距離センサが設けられている。これらの具体的な構成と作用については後述する。
【0021】
巻上機8は、主ロープ5が巻き掛けられた駆動シーブ8Aと、この駆動シーブ8Aを回転させる電動モータ8Bと、駆動シーブ8Aの回転を制動するブレーキ装置(図示せず)とを有している。
【0022】
制御装置11は、乗りかご操作盤10及び巻上機8の電動モータ8Bに接続されており、操作盤10の操作や乗り場3に設置された乗り場釦(図示せず)の操作に応じて、乗りかご4を釣合い錘6に対して相対的に昇降させる。
【0023】
以上のような構成のエレベーターにおいて、本実施形態における乗りかご4の位置を検出する磁気センサと磁気マーカー、及び乗りかごの位置ずれを検出する距離センサの機能について説明する。
【0024】
図2Aは、乗りかご4が所定の階床に到着した状態を示している。乗りかご4は、かご枠20と、このかご枠20の内部に収納された乗りかご本体21から構成されている。かご枠20は、ロープ5の巻上げ/巻下げによって昇降路2内を昇降される。そして、乗りかご本体21の底面21Fとかご枠20の底面20Fの間には、金属製のコイルバネ等からなる緩衝部22が配置されている。
【0025】
この緩衝部22は周知の通り、乗客に対する外部からの衝撃等を緩衝する機能を備え、荷重に応じて伸縮する構成とされている。したがって、乗客が乗りかご4に搭乗すると圧縮され、乗りかご本体21は、かご枠20に対して沈み込むように移動し、乗客が降車すると元に戻る方向に移動する。本実施形態では、この沈み込みによる乗りかご本体21の移動量が、乗りかご4の位置ずれ量と見做している。
【0026】
乗りかご4の移動方向(以下、鉛直方向ということもある)で見て、乗りかご本体21の上面には磁気センサ23が設けられている。この磁気センサ23は、建築物24側に固定された磁気マーカー(永久磁石)25による磁束密度を検出する機能を備えている。
【0027】
また、かご枠20の底面20Fには距離センサ26が設けられており、この距離センサ26は、乗りかご4の移動方向で見て、乗りかご本体21の底面21Fと対向する状態で設けられている。距離センサ26は乗りかご本体21の沈み込み量、言い換えれば、位置ずれ量を検出する機能を備えている。距離センサ26は、乗りかご本体21の底面21Fの側に設けられても良い。要は、乗りかご本体21とかご枠20の間の鉛直方向の距離変化を検出できれば良いものである。
【0028】
一方、乗りかご4と対向する側には、エレベーターホールの乗り場27が存在しており、乗り場27にはホールドア28が設けられている。このホールドア28は、乗りかご4が到着すると開かれ、乗りかご4が出発する時に閉じられる機能を備えている。
【0029】
ホールドア28の上部のドア枠29には、磁気マーカー(永久磁石)25が設けられており、磁界を発生している。この磁気マーカー25による磁界の磁束密度を磁気センサ23によって検出することで、乗りかご4の位置を検出することができる。
【0030】
図2Aにおいては、乗客が搭乗していない初期状態で、磁気マーカー25と磁気センサ23の対向位置が正規の位置の状態にあるときを示している。これから分かるように、乗り場27の床面27Fと乗りかご本体21の床面21Fは、位置ずれ(段差)がない状態に調整されている。そして、乗りかご本体21の上下動幅(沈み込み)に対して、磁気センサ23も同じ上下動幅で追随することになる。
【0031】
尚、位置ずれ(段差)がない状態とは、エレベーターを使用する上で許容できる状態を言いい、使用する上で無視できる段差であれば問題ないものである。また、この状態で、かご枠20の底面20Fと乗りかご本体21の底面21Fの間の距離は、初期状態となっている。この距離が位置ずれ(段差)の基準となる。
【0032】
一方、
図2Bにおいては、乗客が搭乗している状態で、乗りかご本体21が緩衝部22を圧縮して沈み込んでいる状態にあるとき、乗り場27の床面27Fと乗りかご本体21の床面21Fは、位置ずれ(段差)が発生した状態と見做すことができる。この時の位置ずれ量は、距離センサ26で検出することができる。
【0033】
そして、磁気センサ23は、乗りかご本体21に一定的に設けられているので、乗りかご本体21の沈み込みと一緒に鉛直方向に移動され、乗り場27の床面27Fと乗りかご本体21の床面21Fに位置ずれ(段差)が発生した時の磁束密度の変動を検出することができる。
【0034】
したがって、建築物の夫々の階床で、乗客が搭乗した時の位置ずれの距離情報と、この時の磁束密度の情報を検出し、これらの情報の相関をとることで、位置ずれと磁束密度の相関関数として求めることができる。相関関数が求まれば、新たな磁束密度の情報から、相関数を利用して位置ずれ量を導き出すことができるようになる。
【0035】
このように、作業者の人手によらず、エレベーターを運行している状態で、自動的に位置ずれの情報と、この時の磁束密度の情報を検出することができ、遠隔監視システムを構築する場合の作業コストを大幅に削減できる効果を奏する。
【0036】
次に遠隔監視システムの構成について、
図3を用いて説明する。
図3は、乗りかご4に設けたセンサ端末30と、このセンサ端末30に接続された管理サーバ34の構成を示している。
【0037】
上述したように、センサ端末30は磁気センサ23、距離センサ26、及び気圧センサ(図示せず)のようなセンサ部31を備えている。各センサの出力は制御部32によって処理され、磁気センサ23の出力は磁束密度情報、距離センサ26の出力は距離情報、気圧センサの出力は気圧情報として生成される。尚、気圧センサの気圧情報は、気圧から乗りかご4の到着階床を求めるために使用される。これらのセンサ情報は通信部33に送られ、有線、或いは無線によって管理サーバ34に送られる。
【0038】
管理サーバ34は、データ収集部(DB:データベース)35、及び位置ずれ検出部(信号処理部)38を備えている。
【0039】
データ収集部35は、センサ端末30からのセンサ情報を受信する通信部36、及び受信したセンサ情報をセンサ毎に分類して時系列的に記憶するデータ記憶部37を備えている。データ記憶部37では、階床を表す気圧情報毎に、磁束密度情報、及び距離情報が紐付けられている。したがって、階床毎の磁束密度情報と距離情報を関連付けることができる。
【0040】
このように、エレベーターが運行されている過程で、データ収集部35は、磁気センサ23の磁束密度情報、距離センサ26の距離情報、気圧センサの気圧情報を、自動的に取得することができる。
【0041】
先に説明したように、乗客が搭乗している状態で、乗りかご本体21が緩衝部22を圧縮して沈み込んでいるので、乗り場27の床面27Fと乗りかご本体21の床面21Fは、位置ずれ(段差)が発生した状態と見做すことができる。また、磁気センサ23は、乗りかご本体21に一体的に設けられているので、乗りかご本体21の沈み込みと一緒に鉛直方向に移動され、乗り場27の床面27Fと乗りかご本体21の床面21Fに位置ずれ(段差)が発生した場合の、磁束密度の変動を検出することができる。
【0042】
したがって、従来のように作業員による人手によって、位置ずれ量と磁束密度の関係性を把握する必要がなくなり、作業コストを大きく削減することができる。
【0043】
尚、磁束密度情報と距離情報を取り込む時間帯は、乗客が比較的多く、乗りかご本体21が大きく沈み込む時間帯、例えば出勤時間帯が適している。これによって、位置ずれの検出範囲を大きくできる。ただ、この時間帯は建築物の種類や入居者の業態等によって変わるため、適宜設定すればよい。更に、乗客の人数による沈み込み量(サンプル量)を多く抽出するため、複数の時間帯を設定することもできる。
【0044】
また、磁束密度情報と距離情報の取り込みを常時行うのではなく、ホールドア28が開かれる時期、或いは閉じられる時期に、磁束密度情報と距離情報を取り込むようにすれば、管理サーバ34のコンピュータの演算時間を他の演算に使用することができ、コンピュータの資源を有効に活用できることになる。
【0045】
以上の説明は、エレベーターが所定期間だけ運行された場合の処理である。これによって、各階床の磁束密度情報と距離情報の関係性が把握されるので、これ以降は、実際の位置ずれを検出することになる。
【0046】
次に、位置ずれ検出部38は、データ収集部35からのデータを受信する通信部39、及び受信した気圧情報から乗りかご4の到着階を求める階床算出部40、受信した磁束密度情報と距離情報の相関から相関関数を求める相関関数算出部41、及び求められた相関関数と新たな磁束密度情報から、乗りかご4のかご位置を求めるかご位置算出部42を備えている。
【0047】
階床算出部40は、気圧情報から乗りかご4の到着階を求めるものであり、この到着階の磁束密度情報と距離情報を特定して、磁束密度情報と距離情報の相関関数を求めるようにしている。相関関数は、相関関数算出部41によって求められる。更に、この相関関数の他に、近似式で磁束密度情報と距離情報の関係性を求めることもでき、更には、この相関関数は階床毎に求められる。
【0048】
ここで、本実施形態では相関関数として説明しているが、これ以外にも、近似式で磁束密度情報と距離情報の関係性を算出できるので、磁束密度情報と距離情報の関係を表す「所定の関数」として捉えることができる。
【0049】
そして、上述の説明にあるように、磁束密度情報と距離情報の相関関数が求められると、かご位置算出部42は、新たに磁気センサ23から得られる磁束密度情報から、相関関数を利用して位置ずれ量である距離情報を算出することができる。距離情報(位置ずれ量)が算出されると、この距離情報は所定の閾値(許容位置ずれ量に対応)と比較され、この閾値を超えた場合は警報を発するようにすることができる。
【0050】
次に、
図4に基づき上述したかご位置遠隔監システムを旧式エレベーターに構築する場合の説明を行う。
図4に示す処理フローは、かご位置遠隔監視システムを構築して、位置ずれを検出するまでの処理を示したものである。尚、この場合は、磁気センサ23、磁気マーカー25、及び距離センサ26は、事前に設置されていないものとして説明する。以下に説明する処理フローは、或る階床での処理フローであり、これは階床毎に実行される。
【0051】
≪ステップS10≫
ステップS10においては、乗りかご本体21の床面21Fと乗り場27の床面27Fとの高さ(段差)が、許容できる高さ(段差がない状態が望ましい)になるよう設定する(
図2Aの状態)。この高さは上述した位置ずれ、或いは段差を意味する。これによって初期状態が設定される。この初期状態が設定されると、ステップS11の処理に移行する。
【0052】
≪ステップS11≫
ステップS11においては、かご枠20の底面20Fと乗りかご本体21の底面21Fの鉛直方向の距離を測定する距離センサ26を設置する(
図2Aの状態)。この距離センサ26は、かご枠20の底面20F、或いは乗りかご本体21の底面21Fの何れか一方に取り付けられる。距離センサ26の設置が完了すると、ステップS12の処理に移行する。
【0053】
≪ステップS12≫
ステップS12においては、磁気センサ23を乗りかご本体21の上面に設置し、更に磁気マーカー25を建築物側の所定の位置に各々設置する(
図2Aの状態)。本実施形態では、磁気マーカー25は、ホールドア28の上部のドア枠29の部分に設置される。この磁気センサ23と磁気マーカー25の設置位置は、磁気センサ23で検出される磁束密度が最大となる状態が得られる位置とされている。
【0054】
尚、ホールドア28にも図示しないがドア用磁気センサが設けられており、磁気マーカー25は、ホールドア28用の磁気センサの磁気マーカーとして共用されており、エレバーターの製造コストを下げることができる。以上に説明した処理は、各階毎に実施されるものである。磁気マーカー25の設置が完了するとステップS13の処理に移行するが、これ以降は、エレベーターを通常的に運行してデータの取得を実行する。
【0055】
≪ステップS13≫
ステップS13においては、所定期間(イニシャライズ期間)の間において、エレベーターを通常運行しながら、任意の時刻(T)における磁気センサ23の磁束密度情報、及び距離センサ26の距離情報を取り込み、データ記憶部(DB)37に保存する(
図2Bの状態)。通常運行されている状態では乗客が搭乗するので、乗りかご本体21は沈み込み、この時の磁束密度情報、及び距離情報は、位置ずれが生じた時の関係を模擬できる。
【0056】
このデータの保存は先に述べた通り、階床毎に時系列でデータ種別毎に記憶される。そして、階床の情報、磁束密度情報、及び距離情報は、夫々が紐付けられる。夫々の情報が保存されるとステップS14の処理に移行する。
【0057】
≪ステップS14≫
ステップS14においては、予め定めた「所定の期間」が終了したかどうかの判断が行われる。所定の期間を終了していないと判断されると、再びステップS13に戻って同じ処理を繰り返し、所定の期間を終了していると判断されると、ステップS15の処理に移行する。
【0058】
ここで、所定の期間は任意の長さの期間であり、磁束密度情報と距離情報が、充分な相関関係を得ることができるサンプル数が得られる期間に設定されている。特にエレベーターでは、3ヶ月毎の定期点検が定められているので、これを基にスケジュールを決めることができる。
【0059】
例えば、最初の1ヶ月で、ステップS10~ステップS12の作業を行い、残りの2ヶ月でステップS13~ステップS14の処理を実行すればよい。そして、次の定期点検から、ステップS15以降の実際の位置ずれの監視を実行するようにすればよい。
【0060】
≪ステップS15≫
ステップS15においては、実際の位置ずれの監視を実行するため、
図2Aに示した状態にして、乗りかごと乗り場の位置ずれの有無の確認を行い、位置ずれがないと、これ以降は距離センサ26の距離情報は不要であるので、取り外して他のエレベーターのかご位置監視システムで再利用することができる。
【0061】
そして、位置ずれがないことを条件に、データ記憶部(DB)37に保存された磁気センサ23の磁束密度情報、及び距離センサ26の距離情報を相関付ける相関関数の算出を実行する。相関関数は、階床毎に異なることがあるので、階床毎に算出されるが、この相関関数の算出は周知の方法で行うことができる。このように相関関数によって、位置ずれに基づく磁束密度情報、及び距離情報の関係性を把握することができる。相関関数が算出されると、ステップS16の処理を実行する。
【0062】
≪ステップS16≫
ステップS16においては、ステップS14以降の新たに検出された磁気センサ23の磁束密度情報とステップS15で算出された相関関数から、乗りかご本体21の床面21Fと乗り場27の床面27Fとの間の高さ(段差)を推定する。この高さの推定が完了すると、ステップS17の処理に移行する。
【0063】
≪ステップS17≫
ステップS17においては、ステップS16で推定された高さが、所定の閾値(高さ)以上かどうかの判断が行われる。所定の閾値以上ではないと判断されると、再びステップS16に戻って同じ処理を繰り返し、所定の閾値以上と判断されると、ステップS18の処理に移行する。尚、実際ではほとんど位置ずれが発生しない構成とされているので、ステップS16とステップS17を繰り返し実行することになる。
【0064】
≪ステップS18≫
ステップS18においては、ステップS17で推定された高さが、所定の閾値(高さ)以上と判断されているので、警報を発報して注意を喚起する。管理センタの管理員は、この発報を認識するとエレベーターの管理会社等に連絡を行い、エレベーターの管理会社は、この位置ずれに対する処置を行うことになる。
【0065】
このように、本実施形態では、建築物の夫々の階床で、乗客が搭乗した時の位置ずれによる距離情報と、この時の磁束密度の情報を検出し、これらの情報の相関をとることで、位置ずれと磁束密度の関係性を把握することができる。このように、作業者の人手によらず、エレベーターを運行している状態で、自動的に位置ずれの情報と、この時の磁束密度の情報を検出することができ、遠隔監視システムを構築する場合の作業コストを大幅に削減できる効果を奏する。
【0066】
上述の実施形態では、乗りかごの沈み込み距離を、距離センサ26を用いて検出しているが、これに代えて、過重量を検出すると警報を発報する既存の重量センサを用いることも可能である。
【0067】
重量センサは、乗りかごの重量が上限に達した場合に警報を発報するものであり、これは距離センサやひずみセンサを用いて検出された乗りかご本体21とかご枠20の間の距離をもとにしている場合が多い。したがって、元から設置されている重量センサを共用することで、距離センサ26自体のコストや、これの設置コストを削減することができる。
【0068】
また、ホールドア28の開閉を検出するドア用磁気センサを設けることで、ホールドア28の開閉に同期して、磁気センサ23からの磁束密度情報と距離センサ26の距離情報を取得するようにすることができる。
【0069】
これによって、磁束密度情報と距離情報の取り込みを常時行うのではなく、ホールドア28が開かれる時期、或いは閉じられる時期に、磁束密度情報と距離情報を取り込むようにすれば、管理サーバ34のコンピュータの取り込みにかかる演算時間を他の演算に使用することができ、コンピュータの資源を有効に活用できることになる。
【0070】
以上述べたように、本発明は、乗りかごと建築物の鉛直方向の位置ずれを許容できる状態に設定した後の所定期間の間の任意の時刻に計測した磁束密度情報と距離情報を保存し、所定期間が終了した状態において保存された磁束密度情報と距離情報の関係を表す所定の関数を算出し、磁気センサから得られた新たな磁束密度情報と算出された所定の関数に基づいて、乗りかごと建築物との鉛直方向の位置ずれ量を推定する、ことを特徴としている。
【0071】
これによれば、位置ずれと磁束密度に関する情報を人手によらず、自動的に取得することができるので、遠隔監視システムの構築時の作業コストを大きく削減できる。
【0072】
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0073】
1…エレベーター、3…乗り場、3A…床面、4…乗りかご、4A…床面、8…巻上機、8A…駆動シーブ、8B…電動モータ、11…制御装置、20…かご枠、21…乗りかご本体、22…緩衝部、23…磁気センサ、24…建築物、25…磁気マーカー、26…距離センサ、27…乗り場、28…ホールドア、29…ドア枠、30…センサ端末、31…センサ部、32…制御部、33…通信部、34…管理サーバ、35…データ収集部、36…通信部、37…データ収集部、38…位置ずれ検出部、39…通信部、40…階床算出部、41…相関関数算出部、32…かご位置算出部。