(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187727
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】プレス機およびプレス機の制御方法
(51)【国際特許分類】
B30B 15/14 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B30B15/14 A
B30B15/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095874
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】友定 仁
【テーマコード(参考)】
4E089
【Fターム(参考)】
4E089EA01
4E089EB01
4E089EC03
4E089FC03
(57)【要約】
【課題】プレス機において、加工速度と加工精度を両立させる。
【解決手段】プレス機(10)は、ワークをプレスするために対向している2つの金型(11a・11b)と、該2つの金型の少なくとも一方を駆動するための第1駆動部および第2駆動部と、を備え、第1駆動部は第2駆動部に比べて高速に駆動可能であり、第2駆動部は第1駆動部に比べて高精度に駆動可能であり、第1駆動部の駆動状況に基づき、第2駆動部によって駆動される金型の停止位置を変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークをプレスするために対向している2つの金型と、
該2つの金型の少なくとも一方を駆動するための第1駆動部および第2駆動部と、
前記第1駆動部および前記第2駆動部を制御する制御部と、を備え、
第1駆動部は、第2駆動部に比べて高速に駆動可能であり、
第2駆動部は、第1駆動部に比べて高精度に駆動可能であり、
前記制御部は、前記第1駆動部の駆動状況に基づき、前記第2駆動部によって駆動される前記金型の停止位置を変更するプレス機。
【請求項2】
前記2つの金型の一方は、前記第1駆動部にて駆動され、前記2つの金型の他方は、前記第2駆動部にて駆動される請求項1に記載のプレス機。
【請求項3】
前記2つの金型の一方は、前記第1駆動部および前記第2駆動部にて駆動され、
前記2つの金型の他方は固定されている請求項1に記載のプレス機。
【請求項4】
前記第1駆動部の駆動状況は、前記第1駆動部によって駆動される前記金型の位置または速度である請求項1から3のいずれか1項に記載のプレス機。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1駆動部が停止した後に、前記第2駆動部を停止させる請求項1から4のいずれか1項に記載のプレス機。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2駆動部によって駆動される前記金型の停止位置を、前記ワークの弾性係数、塑性係数、降伏応力または耐力、前記2つの金型のそれぞれの温度、前記ワークの温度、および環境温度の少なくとも1つに基づき、変更する請求項1から5のいずれか1項に記載のプレス機。
【請求項7】
前記制御部は、1度のプレス中に少なくとも1回、前記第2駆動部によって駆動される前記金型の停止位置を変更する請求項1から6のいずれか1項に記載のプレス機。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1駆動部によって駆動される前記金型の停止位置を制御できる請求項1から7のいずれか1項に記載のプレス機。
【請求項9】
ワークをプレスするために対向している2つの金型を備えるプレス機の制御方法であって、
前記プレス機は、
該2つの金型の少なくとも一方を駆動するための第1駆動部および第2駆動部と、
前記第1駆動部および前記第2駆動部を制御する制御部と、を備え、
第1駆動部は、第2駆動部に比べて高速に駆動可能であり、
第2駆動部は、第1駆動部に比べて高精度に駆動可能であり、
第1駆動部の駆動状況を取得するステップと、
該駆動状況に基づき、第2駆動部の停止位置を変更するステップと、を含むプレス機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス機に関する。
【背景技術】
【0002】
上下の金型でワークを挟み込み、圧縮力を加え、ワークを加工するプレス機がある。プレス機にはさまざまな駆動機構およびプレス機構が存在し、それぞれ長所短所がある。
【0003】
特許文献1には、プレス機において、金型を高速に上下動作させるためにサーボモータを用いて、ワークをプレスする。また、ロードセルで測定した荷重が不足した場合に、サーボモータの先端に取り付けられた油圧シリンダによってさらに加圧する。すなわち、サーボモータと油圧シリンダとを多段で連結し、それぞれの機構の役割を異ならせたプレス機が開示されている。
【0004】
特許文献2には、プレス機において、空隙部が設けられた金型でワークを挟み込みワークを閉じ込めた上で、別の駆動機構で駆動させるパンチにて当該空隙部のワークを打ち抜くプレス機が開示されている。
【0005】
特許文献3には、プレス機において、サーボモータを複数同期制御することで、金型全体の上下動作と、金型内の一部の駆動部を高速駆動させることができるプレス機が開示されている。
【0006】
以上のように、複数の連動する駆動機構を用いたプレス機が開示されており、これらプレス機は、金型全体を上下動作させる場合に用いられたり、金型全体と当該金型の一部分とを個別に動作させる場合に用いられたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-55932号公報
【特許文献2】特開2011-224576号公報
【特許文献3】特開2006-142374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のプレス機として、モータによってカムを駆動させることで、高速に金型を上下動作させるカム方式と、サーボモータにより金型を上下動作させるサーボプレス方式とがある。
【0009】
カム方式では、プレスのサイクルを高速にすることが可能であるが、金型の下死点位置はカムによって機械的に定まるため、ワークまたは環境に応じたプロファイルによって調整されたプレスを行うことが困難である。
【0010】
対して、サーボプレス方式では、金型の下死点位置にあたる停止位置を高精度に制御することが可能なため、ワークまたは環境に応じたプロファイルによって調整されたプレスを行うことが可能である。しかしながら、サーボプレス方式では高速動作させるためには、ボールネジのリードを大きくする必要があり、精度が低下することにつながる。
【0011】
すなわち、プレス機における加工速度と加工精度はトレードオフの関係がある。そこで、本発明の一態様は、加工速度と加工精度を両立させるプレス機を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るプレス機は、ワークをプレスするために対向している2つの金型と、該2つの金型の少なくとも一方を駆動するための第1駆動部および第2駆動部と、前記第1駆動部および前記第2駆動部を制御する制御部と、を備え、第1駆動部は、第2駆動部に比べて高速に駆動可能であり、第2駆動部は、第1駆動部に比べて高精度に駆動可能であり、前記制御部は、前記第1駆動部の駆動状況に基づき、前記第2駆動部によって駆動される前記金型の停止位置を変更する。
【0013】
上記の構成によれば、2つの金型の一方は、第1駆動部により高速に駆動できる。しかしながら、第1駆動部によって駆動される金型の停止位置の精度は低い。そこで、第1駆動部の駆動状況に基づき、第2駆動部によって駆動される金型の停止位置が変更される。これにより、前記2つの金型のギャップの精度を向上できる。その結果、プレス機において、加工速度と加工精度を両立させることができる。
【0014】
前記2つの金型の一方は、前記第1駆動部にて駆動され、前記2つの金型の他方は、前記第2駆動部にて駆動されてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、2つの金型をそれぞれ第1駆動部および第2駆動部で個別に駆動することができる。
【0016】
前記2つの金型の一方は、前記第1駆動部および前記第2駆動部にて駆動され、前記2つの金型の他方は固定されてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、2つの金型の一方は第1駆動部および第2駆動部によって駆動され、固定された他方の金型に向かってプレスすることができる。
【0018】
前記第1駆動部の駆動状況は、前記第1駆動部によって駆動される前記金型の位置または速度であってもよい。
【0019】
上記の構成によれば、第1駆動部の駆動状況としては、金型の位置または速度に基づき、第2駆動部の停止位置を変更することができる。
【0020】
前記制御部は、前記第1駆動部が停止した後に、前記第2駆動部を停止させてもよい。
【0021】
上記の構成によれば、第1駆動部が停止してから、より高精度に動作できる第2駆動部によって、第1駆動部で発生したギャップの誤差を低減することができる。
【0022】
前記制御部は、前記第2駆動部によって駆動される前記金型の停止位置を、前記ワークの降伏応力または耐力、前記2つの金型のそれぞれの温度、前記ワークの温度、および環境温度の少なくとも1つに基づき、変更してもよい。
【0023】
上記の構成によれば、様々な温度や、ワークの厚みの個体差などを考慮して、ワークごとに異なる停止位置に調整することで、高精度な製品を生産することができる。
【0024】
前記制御部は、1度のプレス中に少なくとも1回、前記第2駆動部によって駆動される前記金型の停止位置を変更してもよい。
【0025】
上記の構成によれば、プレス中に停止位置を動的に変更して、微調整することができる。
【0026】
前記制御部は、前記第1駆動部によって駆動される前記金型の停止位置を制御できてもよい。
【0027】
上記の構成によれば、第1駆動部によって駆動される金型も停止位置を制御することができる。そのため、2つの金型の間のギャップを制御することが容易になる。
【0028】
上記の課題を解決するために、本発明の別の態様に係るプレス機の制御方法は、ワークをプレスするために対向している2つの金型を備えるプレス機の制御方法であって、前記プレス機は、該2つの金型の少なくとも一方を駆動するための第1駆動部および第2駆動部と、前記第1駆動部および前記第2駆動部を制御する制御部と、を備え、第1駆動部は、第2駆動部に比べて高速に駆動可能であり、第2駆動部は、第1駆動部に比べて高精度に駆動可能であり、第1駆動部の駆動状況を取得するステップと、該駆動状況に基づき、第2駆動部の停止位置を変更するステップと、を含む。
【0029】
上記の制御方法によれば、上述と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様によれば、加工速度と加工精度を両立させたプレス機ができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施形態1に係るプレス機の要部の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態1に係るプレス機の機械的な構成を表す概要図である。
【
図3】実施形態1に係るプレス機の動作の流れを表すフローチャートである。
【
図4】実施形態1に係る第1金型および第2金型の位置の変化を表すグラフである。
【
図5】実施形態1に係る第1金型および第2金型の位置の変化を表す別のグラフである。
【
図6】実施形態2に係るプレス機の機械的な構成を表す概要図である。
【
図7】実施形態3に係るプレス機の要部の構成を示すブロック図である。
【
図8】実施形態3に係るプレス機の機械的な構成を表す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0033】
§1.適用例
図1は、実施形態1に係るプレス機10の要部の構成を示すブロック図である。
図2は、実施形態1に係るプレス機10の機械的な構成を表す概要図である。プレス機10は、ワーク40の上面に対向した第1金型11aと、ワークの下面に対向した第2金型11bとで、ワーク40を上下からプレスする。
【0034】
プレス機10は、第1金型11aの温度を計測する第1温度計14aと、第2金型11bの温度を計測する第2温度計14bと、ワークの温度を計測するワーク温度計15と、環境温度を計測する環境温度計16と、ワークのプレス前後(加工前後)の厚みを計測するワーク厚みセンサ17とを備える。そのため、プレス機10はプレスに際し、様々な温度およびワークの加工前の厚みに基づき、ワーク40に対するプレス量を微細に調整することで、精度良い製品を加工する。
【0035】
第1金型11aおよび/または第2金型11bは、第1駆動部および第2駆動部によって駆動できる。第1駆動部および第2駆動部は、駆動速度および位置精度が異なっている。第1駆動部は、位置精度が荒い代わりに、駆動速度が速い。対して、第2駆動部は、駆動速度が遅い代わりに、位置精度が高い。特徴が異なる第1駆動部と第2駆動部とを用いることで、プレス機10は、第1駆動部で高速にワーク40を圧縮した後に、第2駆動部で所望の寸法精度まで合わせこむ制御を行い、製品に加工できる。
【0036】
§2.構成例
(プレス機10の概要)
プレス機10は、第1金型11aと、第2金型11bと、第1サーボモータ12aと、第2サーボモータ12bと、第1ボールネジ13aと、第2ボールネジ13bと、第1温度計14aと、第2温度計14bと、ワーク温度計15と、環境温度計16と、ワーク厚みセンサ17と、本体19と、プレスコントローラ20とを備える。
【0037】
図2に示すように、第1金型11aはワーク40の上面に対向し、第2金型11bはワーク40の下面に対向し、第1金型11aと第2金型11bとの間にワーク40を挟み込み、上下から外力をワーク40に加えプレスする。すなわち、第1金型11aと第2金型11bは互いに対向している。
【0038】
(プレス機10の機械構成)
本体19は、いわゆる筐体であり、可動しない部品が固定されている。
【0039】
第1金型11aおよび第2金型11bは、ワーク40を実際にプレスする金型であり、ワーク40に対し適切な外力を印加できる形状に形成されている。
【0040】
第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bは、停止位置を制御可能なモータであり、本体19に固定されている。また、第1ボールネジ13aおよび第2ボールネジ13bは、それぞれ第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bのモータ軸に対し鉛直方向に固定されており、モータの回転に応じて、各ボールネジも回転する。第1ボールネジ13aの可動部は第1金型11aに固定されており、第2ボールネジ13bの可動部は第2金型11bに固定されている。
【0041】
第1金型11aは、第1駆動部で上下動作する。すなわち、第1サーボモータ12aが回転することにより、第1ボールネジ13aが回転し、第1ボールネジ13aによって、第1金型11aが上下に駆動する。また、第2金型11bは、第2駆動部で上下動作する。すなわち、第2サーボモータ12bが回転することにより、第2ボールネジ13bが回転し、第2ボールネジ13bによって、第2金型11bが上下に駆動する。
【0042】
また、第1サーボモータ12aと第1ボールネジ13aとを併せて、第1駆動部に対応する。第2サーボモータ12bと第2ボールネジ13bとを併せて、第2駆動部に対応する。
【0043】
第1ボールネジ13aおよび第2ボールネジ13bは、ボールネジに限定されず、チェーンまたはプーリおよびベルトなどによる何等かの駆動力を伝達する手段であればよい。
【0044】
第2ボールネジ13bのリードは、第1ボールネジ13aのリードよりも短い。また、第2ボールネジ13bの精度は、第1ボールネジ13aの精度よりも高い。そのため、第2ボールネジ13bによる第2金型11bの精度は、第1ボールネジ13aによる第1金型11aの精度よりも、分解能が細かく、かつ繰返し再現性が高い。すなわち、第2駆動部は第1駆動部よりも高精度であるといえる。また、第2サーボモータ12bは、第1サーボモータ12aよりも高精度(高分解能および/または高い繰返し再現性)に制御できてもよい。
【0045】
(プレス機10の計測器)
第1温度計14aおよび第2温度計14bは、それぞれ第1金型11aおよび第2金型11bの温度を計測する温度計である。また、ワーク温度計15はワーク40の温度を計測する温度計であり、環境温度計16は、プレス機10の設置環境の環境温度を計測する温度計である。さらに、ワーク厚みセンサ17は、ワーク40の加工前後の厚みを計測する。
【0046】
(プレスコントローラ20の構成)
プレスコントローラ20は、位置取得部21と、温度取得部22と、厚み取得部23と、駆動制御部24と、制御部30とを備える。制御部30は、枚葉処理部31と、停止位置指令部32とを備える。
【0047】
位置取得部21は、第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bのそれぞれのエンコーダからそれぞれのモータの位置を取得し、それぞれのボールネジとの関係を考慮し、第1金型11aおよび第2金型11bの位置を取得する。
【0048】
位置取得部21は、エンコーダから位置を取得することに限定されない。すなわち、第1サーボモータおよび第2サーボモータに取り付けられたポテンショメータまたはレゾルバから取得してもよい。また、第1駆動部および第2駆動部の可動端(または第1ボールネジ13aおよび第2ボールネジ13bの可動部)に取り付けられたリニアエンコーダから、直接第1金型11aおよび第2金型11bの位置を取得してもよい。位置取得部21は、取得した位置を停止位置指令部32に出力する。また、位置取得部21は、駆動制御部24にフィードバック用の各サーボモータの位置出力を行う。さらに位置取得部21は、枚葉処理部31および停止位置指令部32に位置出力を行う。
【0049】
温度取得部22は、第1温度計14aと、第2温度計14bと、ワーク温度計15と、環境温度計16とからそれぞれの部位における温度を取得する。温度取得部22は、取得した温度を枚葉処理部31に出力する。
【0050】
厚み取得部23は、ワーク厚みセンサ17からワーク40の厚みを取得する。厚み取得部23は、取得したワーク40の厚みを枚葉処理部31に出力する。
【0051】
駆動制御部24は、いわゆるサーボドライバであり、第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bを入力された位置に制御する。つまり、第1駆動部および第2駆動部もしくは第1金型11aおよび第2金型11bを指定された位置で停止させる。また、駆動制御部24は、第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bが出力しているトルクを取得し、各サーボモータの負荷を推測する。さらに、駆動制御部24は、推測した負荷を枚葉処理部31に出力する。
【0052】
(制御部30の構成)
枚葉処理部31は、枚葉処理によって、プレス機10の前回のプレスの結果を次のプレスに反映する機能ブロックである。具体的には、加工前後におけるワーク40の厚みの変化、各部の温度、各サーボモータの負荷、ならびに材料ごとの応力および歪みの関係から、現在の温度状態における金型の摩耗量および熱変形量、を推測する。ここで、枚葉処理とは、複数ワークをまとめて処理するバッチ処理ではなく、ワーク1つごとに行う処理である。
【0053】
また、材料ごとの応力および歪みの関係を予めプレス機10に与えられない場合は、加工前後における負荷と厚みの変化量から、応力および歪みの関係を推測してもよい。また、合わせて、弾性係数、塑性係数、ならびに降伏応力または耐力などを推測してもよい。
【0054】
また、枚葉処理部31は、加工前のワーク40の厚みも入力する。枚葉処理部31は、金型の摩耗量および熱変形量、ワーク40の弾性係数、塑性係数、降伏応力または耐力、ならびにワーク40の厚みをまとめた情報として、停止位置指令部32に出力する。
【0055】
停止位置指令部32は、プレスごとの枚葉処理部31の情報に加え、プレス中における第1金型11aと第2金型11bとの位置の情報から、第1駆動部および第2駆動部の停止位置を決定する機能ブロックである。停止位置指令部32は、決定した停止位置を駆動制御部24に出力する。
【0056】
§3.動作例
図3は、実施形態1に係るプレス機10の動作の流れを表すフローチャートである。
【0057】
S11において、枚葉処理部31は、新しいワーク40の厚みと温度を計測する。枚葉処理部31は、計測した結果に基づき、新しいワーク40の弾性係数を導出し、弾性係数と厚みを停止位置指令部32に出力する。
【0058】
S12において、停止位置指令部32は、枚葉処理部31から取得した、前回の金型の摩耗量および熱変形量と、ワーク40の弾性係数、塑性係数、耐力または降伏応力、ならびに厚みなどの各種情報を取得する。停止位置指令部32は、当該各種情報に加え、位置取得部21から取得した第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bの位置から、第1金型の停止位置と、第2金型の停止位置とを決定する。その後、停止位置指令部32は、停止位置を駆動制御部24に出力する。次に、S21およびS23の処理を並列して行う。
【0059】
S21において、駆動制御部24は、入力された停止位置を目標位置として、第1サーボモータ12aを制御する。
【0060】
S22において、位置取得部21は、第1サーボモータのエンコーダから、第1サーボモータの位置を取得し、第1金型11aの位置を計測する。
【0061】
S23において、駆動制御部24は、入力された停止位置を目標位置として、第2サーボモータ12bを制御する。
【0062】
S24において、位置取得部21は、第2サーボモータのエンコーダから、第2サーボモータの位置を取得し、第2金型11bの位置を計測する。
【0063】
S31において、停止位置指令部32は、第1金型11aおよび第2金型11bの位置から第1金型11aおよび第2金型11bがともに目標位置に到達したかを判断する。目標位置に到達した場合(S31においてYes)、S32に進む。目標位置に到達しなかった場合(S31においてNo)、S12に戻る。すなわち、停止位置指令部32は、第1金型11aおよび第2金型11bがともに目標位置に到達するまで、第1駆動部および第2駆動部は、第1金型11aおよび第2金型11bを駆動する。また、第2駆動部は動的に目標位置を変更し続ける。ここで、目標位置に到達したかどうかは、各駆動部において、各金型の位置と目標位置との偏差が所定の閾値以下になったことによって判断する。
【0064】
S32において、第1金型11aおよび第2金型11bを目標位置で所定時間待機させる。この時間を停止時間Twaitとする。
【0065】
S33において、枚葉処理部31は、位置取得部21から取得した第1金型11aおよび第2金型11bの位置から、第1金型11aおよび第2金型11b間のギャップを算出する。
【0066】
S34において、枚葉処理部31は、第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bのトルクから、第1金型11aおよび第2金型11bがワーク40に印加している負荷を推測する。
【0067】
S35において、駆動制御部24は、第1金型11aおよび第2金型11bを動作させ、金型を開く。
【0068】
S36において、厚み取得部23は、加工後の計測したワーク40の厚みを取得する。
【0069】
S37において、温度取得部22は、第1温度計14aと、第2温度計14bと、環境温度計16とを計測する。ここで、ワーク温度計15によってワーク温度を再度計測していた場合、温度による計測量の補正および温度によるワークの変形量の補正を行うことができ、金型の摩耗量および熱変形量を算出する精度、局所的な弾性係数または塑性係数を導出する精度等を向上させる効果がある。
【0070】
S38において、枚葉処理部31は、第1金型11aおよび第2金型11bの摩耗量および熱変形量を算出する。
【0071】
S39において、ワーク40を排出し、次のワーク40の投入を準備する。
【0072】
§4.作用・効果
S31の条件が成立するまで、S12からS31の処理を繰り返すことにより、第1金型11aおよび第2金型11bを目標位置で停止させることができる。ここで、第1金型11aを駆動させる第1駆動部の方が、第2金型11bを駆動させる第2駆動部よりも、駆動速度が速いが、分解能および/または繰返し再現性が悪い特徴を有する。
【0073】
そのため、第1金型11aを先に停止させ、第1金型11aの停止位置を考慮して、第2金型の停止位置を決定することができる。したがって、第1駆動部で発生した誤差を、第2駆動部で補正することができ、第1金型と第2金型との間のギャップを高精度に制御することができる。ギャップが高精度なため、プレス機10によるプレスされた製品(ワーク40)も高精度になる。
【0074】
図4は、実施形態1に係る第1金型11aおよび第2金型11bの位置の変化を表すグラフである。
図5は、実施形態1に係る第1金型11aおよび第2金型11bの位置の変化を表す別のグラフである。
【0075】
図4および
図5において、破線が理想的な目標位置の変化を表す。
図4および
図5の破線が示すように、第1金型11aと第2金型11bは同時に動作を開始し、第1金型は下降し、第2金型は上昇する。目標位置においては、第1金型11aおよび第2金型11bは、同時に停止位置で停止する。第1金型11aおよび第2金型11bが停止した後、所定の時間動作を停止し、ワーク40に外力を加え、その後、第1金型が上昇し、第2金型が下降して、金型を開き、ワーク40を取り出せるようにする。
【0076】
図4において、実線は実際の位置の変化である。
図4の実線が示すように、第1金型が理想的な目標位置の変化よりも下側に行き過ぎてしまった状態で第1金型停止位置で停止する。そのため、第2金型は、理想的な目標位置よりも下側に目標位置を修正し、第2金型停止位置で停止する。そのため、第2金型は第1金型よりも遅れて停止する。
【0077】
図5において、実線は実際の位置の変化である。
図5の実線が示すように、第1金型が理想的な目標位置の変化に到達せず上側の第1金型停止位置で停止する。そのため、第2金型は、理想的な目標位置よりも上側に目標位置を修正し、第2金型停止位置で停止する。そのため、第2金型は第1金型よりも遅れて停止する。
【0078】
図4および
図5に示すように、第1駆動部の駆動速度が速く、第2駆動部よりは高精度ではないため、目標位置からずれた第1金型停止位置で第1金型は停止してしまう。そのため、第1金型の目標位置と第1金型停止位置との誤差を解消するために、第1駆動部の駆動状況に基づき、第2駆動部は、第1駆動部が停止した後も動作を続け、第2金型停止位置で第2金型を停止させる。この動作により、実施形態1に係るプレス機10は、加工速度と加工精度を両立させることができる。この加工速度と加工精度を両立させるために、第1駆動部および第2駆動部は異なる特徴を有している。
【0079】
ここで、第1駆動部の駆動状況としては、第1駆動部によって駆動される第1金型の位置、または速度などの情報である。また、第2駆動部は、第1駆動部の駆動状況に合わせて、誤差を低減するように第2金型の位置を第1金型に追従させて、停止位置を補正する。すなわち、第1金型が第1駆動部によって停止した1度のみ、第2駆動部の目標位置を変更するのではなく、プレス中に動的に誤差を低減するように第2駆動部の目標位置を変更していく。
【0080】
第1駆動部および第2駆動部の異なる特徴は、例えば、ボールネジのリードの長さまたはボールネジの加工精度が挙げられる。ボールネジのリードが長い場合、駆動速度が速くなるが、その分だけ停止位置の分解能が低下する。対して、ボールネジのリードが短い場合、駆動速度が遅くなるが、その分だけ停止位置の分解能が向上する。また、ボールネジの加工精度が高いほど、繰返し再現性が高くなり、ばらつきが少ない製品を生産することができる。
【0081】
ここで、第1駆動部と第2駆動部の駆動速度または精度(分解能および繰返し再現性)の関係に関しては、上述と異なっていてもよい。つまり、第1駆動部が第2駆動部よりも高精度で駆動でき、第2駆動部が第1駆動部よりも高速で駆動できてもよい。つまり、2つの金型の一方を第1駆動部が駆動し、他方の金型を第2駆動部が駆動し、第1駆動部と第2駆動部では、片方が他方に比べ高速に駆動可能であり、他方が片方に比べ高精度に駆動可能であればよい。
【0082】
また、様々な温度およびワークの加工前後の厚みを計測し、プレスごとに反映することによって、高精度な製品を生産することができる。
【0083】
また、プレス時の第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bのトルクから負荷を推定し、ワーク40ごとの加工前後の変形量から、ワーク40の降伏応力または耐力を含めた応力と歪みの関係を推測し、次のプレスに適用し補正することができる。そのため、補正によって高精度な製品を生産することができる。この時、第1サーボモータ12aおよび第2サーボモータ12bのトルクから負荷を推測するのではなく、ロードセルなどを用いて、負荷を実測しても構わない。
【0084】
(金型温度に応じた補正)
枚葉処理部31における、第1温度計14aによる第1金型の温度および第2温度計14bによる第2金型の温度に応じて、目標位置を補正することにより、高精度な製品を生産できる。
【0085】
第1金型および第2金型の温度が高いほど、金型自体が熱膨張しているため、必要なギャップ(第1金型と第2金型との距離)を狭くとるようにすることで、所定の寸法の製品を得ることができる。
【0086】
(環境温度に応じた補正)
枚葉処理部31における、環境温度計16による環境温度に応じて、第1ボールネジ13aおよび第2ボールネジ13bも熱膨張する。そのため、高精度な製品を生産するためには、目標位置(必要なギャップ)を環境温度に応じて補正する必要がある。
【0087】
環境温度が高いほど、第1ボールネジ13aおよび第2ボールネジ13bのリードは大きくなるため、必要なギャップを狭くとるようにすることで、所定の寸法の製品を得ることができる。
【0088】
また、ワーク40自体の応力と歪みの関係が温度に応じて変化し、温度に応じて降伏応力または耐力も変化する。そのため、ワーク温度が高いほど、ワーク40自体の弾性領域における弾性係数および、塑性領域になる降伏応力または耐力も低下する。これらの変化を考慮することにより、所定の寸法の製品を得ることができる。
【0089】
(ワーク40の弾性係数に応じた補正)
ワーク40の弾性係数が高いほど、印加すべき応力が高くなるため、必要なギャップを小さくする必要がある。また、ワーク40の弾性係数が高いほど、時間をかけてワーク40を塑性変形させる必要があるために、停止時間Twaitを大きくする必要がある。これらの補正を行うことにより、所定の寸法の製品を得ることができる。
【0090】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0091】
(プレス機10aの機械構成)
図6は、実施形態2に係るプレス機10aの機械的な構成を表す概要図である。プレス機10aは、プレス機10と異なり、第2駆動部が駆動する対象が異なり、第2駆動部は第1駆動部を駆動する。また、プレス機10aでは、プレス機10と異なり、ワーク40の下面に対向した第2金型11bは本体19に固定されている。第1金型11aは、第1駆動部によって駆動される点は変わらない。
【0092】
具体的には、第2サーボモータは本体19に固定されており、第1サーボモータは本体19に固定されていない。第2ボールネジ13bは、第1サーボモータ12aを駆動するように組み立てられている。そのため、第2サーボモータ12bが第2ボールネジ13bを回転させることで、第1サーボモータ12aと第1ボールネジ13aと第1金型11aとは上下動作する。また、第1サーボモータ12aが第1ボールネジ13aを回転させることで、第1金型11aは上下動作する。したがって、第1金型11aは、第1駆動部および第2駆動部で駆動し、その移動量は、第1駆動部および第2駆動部の移動量の足し合わせになる。
【0093】
(プレス機10aの作用・効果)
また、プレス機10aでも、プレス機10と同様に、第1駆動部および第2駆動部の駆動速度、分解能、および繰返し再現性などは異なっている。第2駆動部は、第1駆動部よりも高分解能でありかつ繰返し再現性が高い(高精度な)特徴を有する。対して、第1駆動部は、第2駆動部よりも駆動速度が速い特徴を有する。
【0094】
そのため、プレス機10aでもプレス機10と同様に、駆動速度が速い第1駆動部でもって、高速に第1金型11aと第2金型11bとのギャップを縮める。その後、高精度に駆動する第2駆動部でもって、精度良く第1金型11aと第2金型11bとのギャップを微調整し、高精度なギャップにする。
【0095】
したがって、実施形態2に係るプレス機10aでも、実施形態1に係るプレス機10と同様に、加工速度と加工精度を両立することができる。また、プレス機10aでは、第1駆動部および第2駆動部がともに第1金型11aを上方から下方に下ろす動作をするため、ボールネジで発生するバックラッシの影響によるガタが発生し辛い特徴も有する。
【0096】
ここで、第1駆動部と第2駆動部との駆動速度または精度(分解能および繰返し再現性)の関係に関しては、上述と異なっていてもよい。つまり、第1駆動部が第2駆動部よりも高精度で駆動でき、第2駆動部が第1駆動部よりも高速で駆動できてもよい。すなわち、2つの金型の一方が、互いに連結した第1駆動部および第2駆動部によって駆動し、他方の金型が固定されていればよい。ここで、第1駆動部と第2駆動部では、片方が他方に比べ高速に駆動可能であり、他方が片方に比べ高精度に駆動可能であればよい。
【0097】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0098】
(プレス機10bの機械構成)
図7は、実施形態3に係るプレス機10bの要部の構成を示すブロック図である。
図8は、実施形態3に係るプレス機10bの機械的な構成を表す概要図である。プレス機10bは、プレス機10と異なりギャップセンサ18を備え、プレスコントローラ20に代わりプレスコントローラ20bを備える点が異なる。プレスコントローラ20bは、プレスコントローラ20と異なり、ギャップ取得部25を備える。
【0099】
ギャップセンサ18は、第1金型11aと第2金型11bとの間隔(ギャップ)を計測するセンサである。ギャップセンサ18としては、マイクロメータなどが挙げられる。
【0100】
ギャップ取得部25は、ギャップセンサ18が計測したギャップを取得する。ギャップ取得部25は、取得したギャップを枚葉処理部31および停止位置指令部32に出力する。
【0101】
(プレス機10bの動作)
枚葉処理部31は、実施形態1では、位置取得部21から取得した第1金型11aおよび第2金型11bの位置からギャップを推測し補正に用いたが、実施形態3では、実際にギャップを計測し補正に用いる。そのため、第1駆動部および第2駆動部で発生する機械的なガタおよび金型の熱膨張の影響を実測した補正が可能になり、より高精度な製品を作成できる。
【0102】
停止位置指令部32でも、枚葉処理部31と同様に、第1金型11aおよび第2金型11bの位置による制御ではなく、第1金型11aと第2金型11bとのギャップによる制御を行い、第1駆動部および第2駆動部を駆動することができる。そのため、第1駆動部および第2駆動部で発生する機械的なガタおよび金型の熱膨張の影響を実測した補正が可能になり、より高精度な製品を作成できる。
【0103】
(変形例1)
実施形態3に係るプレス機10bでは、第1金型11aと第2金型11bとのギャップによって、制御をおこなうため、第1駆動部は位置制御を行わないシリンダでもよい。この場合でも、第2駆動部は、第1駆動部で発生した誤差を補間するように動作する。そのため、第1駆動部が位置制御を行わなくても、ギャップセンサ18と第2駆動部で第1金型11aと第2金型11bとのギャップを制御できるため、高精度な製品を作成できる。
【0104】
(変形例2)
上述した実施形態に係るプレス機では、第1金型および第2金型によって、ワークが上下方向でプレスされる構成に関して示したが、この構成に限定されない。例えば、第1金型および第2金型によって、ワークが左右方向でプレスされる構成であってもよい。
【0105】
具体的には、第1金型および第2金型の各対向面は、上段部および下段部を備えた段状となっている。第1金型の上段部を第2金型の上段部に当接させ、第1金型の下段部を第2金型の下段部に当接させて、第1金型および第2金型を、互いに接近するように左右方向にスライドさせる。これにより、第1金型の下段部と第2金型の上段部との間でワークが左右方向にプレスされる。
【0106】
また、上述した実施形態では、第1金型および第2金型が上下方向に移動する構成であったが、これに限定されず、例えば、上下方向に対し斜めの方向に第1金型および第2金型が移動する構成であってもよい。
【0107】
また、上述した実施形態では、第1金型および第2金型は対向面が水平平面上に設けられる構成であったが、これに限定されず、例えば、鉛直平面上に設けられてもよい。
【0108】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
10、10a、10b プレス機
11a 第1金型
11b 第2金型
12a 第1サーボモータ(第1駆動部)
12b 第2サーボモータ(第2駆動部)
13a 第1ボールネジ(第1駆動部)
13b 第2ボールネジ(第2駆動部)
14a 第1温度計
14b 第2温度計
15 ワーク温度計
16 環境温度計
17 ワーク厚みセンサ
18 ギャップセンサ
19 本体
20、20b プレスコントローラ
21 位置取得部
22 温度取得部
23 厚み取得部
24 駆動部
25 ギャップ取得部
30 制御部
31 枚葉処理部
32 停止位置指令部
40 ワーク