(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187743
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】水素製造装置および水素製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20221213BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20221213BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20221213BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20221213BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221213BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B9/65
C25B15/00 303
C25B1/042
C25B9/00 A
C01B3/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095905
(22)【出願日】2021-06-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 直実
(72)【発明者】
【氏名】岡部 寛史
(72)【発明者】
【氏名】山田 和矢
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC06
4K021CA05
4K021DB40
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
4K021EA06
(57)【要約】
【課題】水素の製造を安定的かつ効率的に実行可能にする。
【解決手段】実施形態の水素製造装置は、電解部と電解電力制御装置とを備える。電解部は、電源から供給される電力を用いて、水を電気分解することによって水素を生成する。電解電力制御装置は、電源から電解部への電力の供給を制御する。ここでは、電解電力制御装置は、電源から電解部への電力の供給が実行されない未供給時間が、予め定めた設定時間を超えたか否かを判断し、未供給時間が設定時間を超えたときには、電源から前記電解部への電力の供給を開始する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給される電力を用いて、水を電気分解することによって水素を生成する電解部と、
前記電源から前記電解部への電力の供給を制御するための電解電力制御装置と
を備え、
前記電解電力制御装置は、前記電源から前記電解部への電力の供給が実行されない未供給時間が、予め定めた設定時間を超えたか否かを判断し、前記未供給時間が前記設定時間を超えたときには、前記電源から前記電解部への電力の供給を開始する、
水素製造装置。
【請求項2】
前記電解部へ供給される前記電力は、電流または電圧の波形が、方形波、正弦波、三角波の少なくとも1つである、
請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記電解部は、複数の電解セルが積層された電解セルスタックを含み、
前記電解電力制御装置は、前記電源から前記電解部への電力の電流について制御するように構成されており、
下記(式1)のように、単一の電解セルへ加える最大電流Amaxと、電解部を構成する電解セルの枚数Nと、ファラデー定数Fとで算出される値Qmax、および、下記(式2)のように、電解部への原料供給速度Qtotalと、電解部を構成する電解セルの枚数Nとで算出される値Qxが、下記(式3)の関係を満たす、
請求項1または2に記載の水素製造装置。
Qmax=(Amax・N)/2F ・・・(式1)
Qx=Qtotal/N ・・・(式2)
100(Qmax/Qx)<90 ・・・(式3)
【請求項4】
電源から供給される電力を用いて、水を電気分解することによって水素を生成する水素製造方法であって、
前記電源から前記電解部への電力の供給が実行されない未供給時間が、予め定めた設定時間を超えたか否かを判断し、前記未供給時間が前記設定時間を超えたときには、前記電源から前記電解部への電力の供給を開始する、
水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素エネルギー社会の実現のために、水素製造装置が注目されている。例えば、高温の水蒸気を電解部で電気分解することによって、水素ガスと酸素ガスを生成する水素製造装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-041202号公報
【特許文献2】特開2005-126792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素製造装置は、例えば、再生可能エネルギー(太陽光、風力など)による電力を用いて電気分解を実行する場合がある。再生可能エネルギーによる電力の供給は、不安定である。このため、水素製造装置においては、再生可能エネルギーによる電力が供給されたときに水素の製造を実行可能なように、電解部を高温に保持する必要がある。
【0005】
再生可能エネルギーによる電力が供給された直後に水素の製造を実行可能にするためには、原料となる水蒸気を電解部に予め供給する必要がある。このとき、電解部において電気分解を実行していない状態では、電解部の水素極が酸化雰囲気に曝されるため、水素極が酸化して劣化が生ずる。これに対して、電解部が電気分解を実行しているときには、電解部の水素極が還元雰囲気に曝されるため、水素極が還元される。しかし、電気分解を実行していないときに水素極が酸化して劣化が進行した場合には、電気分解の実行で水素極が還元雰囲気に曝されても、電解部の性能を十分に回復することが困難である。
【0006】
上記のような事情により、再生可能エネルギーによる電力を用いて電気分解を実行する場合には、水素の製造を安定的かつ効率的に行うことが容易でない。再生可能エネルギーによる電力以外の電力を用いて電気分解を実行する場合も同様に、電解部の水素極が酸化雰囲気に、長時間、曝されたときには、水素極が極度に劣化する場合があるので、水素の製造を安定的かつ効率的に行うことが容易でない場合がある。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、水素の製造を安定的かつ効率的に実行可能な水素製造装置および水素製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の水素製造装置は、電解部と電解電力制御装置とを備える。電解部は、電源から供給される電力を用いて、水を電気分解することによって水素を生成する。電解電力制御装置は、電源から電解部への電力の供給を制御する。ここでは、電解電力制御装置は、電源から電解部への電力の供給が実行されない未供給時間が、予め定めた設定時間を超えたか否かを判断し、未供給時間が設定時間を超えたときには、電源から前記電解部への電力の供給を開始する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、水素の製造を安定的かつ効率的に実行可能な水素製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る水素製造装置1の全体構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る水素製造装置1において、電解電力制御装置100の動作を示すフロー図である(電源10から電解部20への電力の供給が実行されているときの動作)。
【
図3】
図3は、実施形態に係る水素製造装置1において、電解電力制御装置100の動作を示すフロー図である(電源10から電解部20への電力の供給が実行されていないときの動作)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[A]構成
図1は、実施形態に係る水素製造装置1の全体構成を模式的に示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の水素製造装置1は、電源10と電解部20と電解電力制御装置100とを有し、水素の製造を実行するように構成されている。水素製造装置1を構成する各部について順次説明する。
【0013】
[A-1]電源10
電源10は、発電部11および蓄電池12を含み、電解部20へ電力を供給するために設けられている。
【0014】
[A-1-1]発電部11
電源10のうち、発電部11は、例えば、再生可能エネルギー(太陽光、風力など)を用いて発電を行うように構成されている。この他に、発電部11は、再生可能エネルギーでなく、化石燃料を用いて発電を行うように構成されていてもよい。
【0015】
[A-1-2]蓄電池12
電源10のうち、蓄電池12は、発電部11から出力された電力を蓄電するために設けられている。
【0016】
[A-2]電解部20
電解部20は、複数の電解セル21が積層されて電気的に直列に接続された電解セルスタックを含み、電源10から供給される電力を用いて水を電気分解することによって、水素を生成するように構成されている。電解セル21は、たとえば、固体酸化物形電解セルであって、水素極(図示省略)と酸素極(図示省略)との間に固体酸化物の電解質膜(図示省略)が介在するように構成されている。
【0017】
ここでは、電解部20は、電解セルスタック容器22に収容されている。電解セルスタック容器22は、たとえば、電気式の加熱器(図示省略)による加熱によって、600から800℃程度の温度に内部が保持される。
【0018】
電解部20は、水素生成の原料として水蒸気が電解セル21の水素極へ供給される。また、電解部20は、希釈ガスが電解セル21の酸素極へ供給される。そして、電解部20は、電源10を構成する蓄電池12から電力が電解電力制御装置100を介して供給される。これにより、電解セル21において電気分解が実行されることで、水素極で水素が生成され、酸素極で酸素が生成される。
【0019】
具体的には、電解セル21の水素極へ供給される水蒸気は、水供給源40から配管L40を介して水蒸気発生部50に供給された水が、水蒸気発生部50で加熱されることによって発生した水蒸気である。水蒸気発生部50で発生した水蒸気は、熱交換器60が設けられた配管L50(原料供給ライン)を介して、電解部20を構成する電解セル21の水素極へ流入する。そして、水蒸気の電気分解によって水素極において生成された水素は、電気分解がされなかった水蒸気と混合した混合媒体として、配管L21a(生成物排出ライン)を介して、熱交換器60へ流れる。熱交換器60においては、配管L21aから流入した混合媒体は、配管L50を流れる水蒸気と熱交換を行った後に、配管L60を介して、分離部70へ流入する。分離部70においては、混合媒体は、水素と水蒸気とに分離される。分離部70で分離された水素は、配管L70aを介して、分離部70の外部へ排出され、たとえば、貯蔵される。これに対して、分離部70で分離された水蒸気は、配管L40に流入し、水供給源40から配管L40を流れる水に混入する。
【0020】
なお、電解部20の水素極へ原料として流入する水蒸気には、水素極の酸化を防止するために、水素ガスが含有されていることが好ましい。たとえば、原料において水素ガスのモル濃度が0.5モル%以上であることが好ましい。特に、水素ガスのモル濃度が5モル%以上50モル%以下であることが好ましく、10モル%以上30モル%以下であることがより好ましい。たとえば、配管L50において、電解セルスタック容器22と熱交換器60との間で水素ガスの混入を行うように構成することが好ましい。
【0021】
電解セル21の酸素極へ供給される希釈ガスは、酸素を含むガスであって、たとえば、空気である。希釈ガスは、希釈ガス源80から配管L80(希釈ガス供給ライン)を介して、たとえば、電解セル21の酸素極へ供給される。希釈ガスは、電気分解によって酸素極で生成された酸素を希釈するために供給される。希釈ガスと、酸素極で生成された酸素との混合ガスは、配管L21b(生成酸素排出ライン)を介して、電解セル21の外部へ排出される。
【0022】
[A-3]電解電力制御装置100
電解電力制御装置100は、電源10から電解部20への電力の供給を制御するために設けられている。図示を省略しているが、電解電力制御装置100は、例えば、演算器(図示省略)とメモリ装置(図示省略)とを含み、メモリ装置が記憶しているプログラムを用いて演算器が演算処理を行うことによって、各動作の制御を行うように構成されている。
【0023】
ここでは、電解電力制御装置100は、電源10を構成する蓄電池12から電力について電流または電圧の波形を調整し、その波形が調整された電流または電圧を電解部20へ出力する。電解部20へ供給される電力は、電流または電圧の波形が、方形波、正弦波、三角波の少なくとも1つである。特に、波形が方形波であることが好ましい。波形が方形波であることが好ましい理由は、以下の通りである。水の電解は、吸熱反応であるため、セルに印加する電流の増加に伴い、セル温度が低下していく。さらに電流を増加すると、セルのオーム損による発熱反応が吸熱を上回り、セル温度は上昇する。そして、熱中立電圧にて吸熱と発熱がバランスする。熱中立電圧は理論的に算出される値で、おおよそ1.3Vである。電解部20へ供給される電力は、スタックを構成するセル枚数に熱中立電圧となる1.3Vを乗じた電圧になる電流を出力とし、方形波で入力をすることによって、セルに加わる熱負荷をより小さくすることが可能となり、セルの劣化を抑制することができる。
【0024】
また、電解電力制御装置100は、電解部20を構成する電解セルスタックの構成(スタックの数、セルの枚数、セルの電極面積など)に応じて、最大出力の値を調整する。
【0025】
具体的には、電源10から電解部20への電力の電流について電解電力制御装置100が制御する場合、下記(式1)のように、単一の電解セル21へ加える最大電流Amax[A]と、電解部20(電解セルスタック)を構成する電解セル21の枚数N[枚]と、ファラデー定数F[96485C/mol]とで算出される値Qmax[mol/s](最大理論水素製造速度)、および、下記(式2)のように、電解部20への原料供給速度Qtotal[mol/s]と、電解部20を構成する電解セル21の枚数N[枚]とで算出される値Qx(単一の電解セル21への原料供給速度)が、下記(式3)の関係を満たすことが好ましい。本関係を満たさない場合には、電解部20において原料である水蒸気が局所的に枯渇したときに電解セル21が破損する場合があるが、本関係を満たすことによって、この不具合の発生を効果的に抑制することができる。
【0026】
Qmax=(Amax・N)/2F ・・・(式1)
【0027】
Qx=Qtotal/N ・・・(式2)
【0028】
100(Qmax/Qx)<90 ・・・(式3)
【0029】
また、本実施形態では、電解電力制御装置100は、電源10から電解部20への電力の供給が実行された供給時間(運転時間)、および、電源10から電解部20への電力の供給が実行されない未供給時間(待機時間)に応じて、電源10から電解部20への電力の供給を制御するように構成されている。
【0030】
[B]動作
本実施形態の水素製造装置1を構成する電解電力制御装置100の動作について、
図2および
図3を用いて説明する。
【0031】
図2および
図3は、実施形態に係る水素製造装置1において、電解電力制御装置100の動作を示すフロー図である。
図2では、電源10から電解部20への電力の供給が実行されているときの動作を示し、
図3では、電源10から電解部20への電力の供給が実行されていないときの動作を示している。
【0032】
[B-1]電源10から電解部20への電力の供給が実行されているときの動作
図2に示すように、電源10から電解部20への電力の供給が実行されているときには、電源10から電解部20への電力の供給が実行された供給時間が、予め定めた設定時間を超えたか否かを判断する(ST10)。
【0033】
供給時間が設定時間を超えていない場合(No)には、電源10から電解部20への電力の供給を続行する。つまり、電解部20が電気分解の実行を保持する。
【0034】
これに対して、供給時間が設定時間を超えた場合(Yes)には、電源10から電解部20への電力の供給を停止する(ST20)。つまり、電解部20が電気分解の実行を停止する。
【0035】
[B-2]電源10から電解部20への電力の供給が実行されていないときの動作
図3に示すように、電源10から電解部20への電力の供給が実行されていないときには、電源10から電解部20への電力の供給が実行されていない未供給時間が、予め定めた設定時間を超えたか否かを判断する(ST30)。
【0036】
未供給時間が設定時間を超えていない場合(No)には、電源10から電解部20への電力の供給が実行されていない状態を保持する。つまり、電解部20が電気分解の停止を保持する。
【0037】
これに対して、未供給時間が設定時間を超えた場合(Yes)には、電源10から電解部20への電力の供給を開始する(ST40)。つまり、電解部20が電気分解の実行を開始する。
【0038】
未供給時間の設定時間は、電解部20の特性に応じて任意に設定される。未供給時間の設定時間は、電解部20の水素極が酸化して劣化する速度が低い時間に設定される。たとえば、未供給時間の設定時間は、1時間以下であって、好ましくは10分以内、さらに好ましくは10秒以内である。
【0039】
なお、供給時間の設定時間は、電解部20の特性および電源10を構成する蓄電池12の特性に応じて任意に設定される。供給時間の設定時間は、未供給時間の設定時間よりも短いことが好ましい。
【0040】
[C]まとめ
既に述べたように、電源10から電解部20への電力の供給が実行されずに電解部20が電気分解を未実施である状態を保持し続けた場合には、電解部20の水素極が酸化によって極度に劣化する場合がある。
【0041】
しかし、本実施形態の水素製造装置1において、電解電力制御装置100は、電源10から電解部20への電力の供給が実行されない未供給時間が、予め定めた設定時間を超えたか否かを判断し、未供給時間が設定時間を超えたときには、電源10から電解部20への電力の供給を開始する。すなわち、本実施形態では、電源10から電解部20への電力の供給が実行されない未供給時間が設定時間を超えたときには、電解部20が電気分解を未実施である状態から、電解部20が電気分解を実施する状態に自動的に変わる。
【0042】
したがって、本実施形態においては、電解部20の水素極が極度に劣化することを抑制することができる。
【0043】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1:水素製造装置、10:電源、11:発電部、12:蓄電池、20:電解部、21:電解セル、22:電解セルスタック容器、40:水供給源、50:水蒸気発生部、60:熱交換器、70:分離部、80:希釈ガス源、100:電解電力制御装置、L21a:配管、L21b:配管、L40:配管、L50:配管、L60:配管、L70a:配管、L80:配管