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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187745
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】航空機用降着装置昇降ギア構造
(51)【国際特許分類】
   B64C 25/20 20060101AFI20221213BHJP
   F16D 1/06 20060101ALI20221213BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20221213BHJP
   H02K 7/06 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B64C25/20
F16D1/06 220
H02K7/116
H02K7/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095907
(22)【出願日】2021-06-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】金田 直己
【テーマコード(参考)】
5H607
【Fターム(参考)】
5H607BB01
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE31
5H607EE36
5H607EE52
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、緊急時にモータの出力と電動リニアアクチュエータとの接続を解除して降着装置を下降させることができる、航空機用降着装置昇降ギア構造を提供する。
【解決手段】ギア結合解除構造40は、モータに接続された第1ギア41と、第1ギア41に接続され第1ギア41の軸方向に垂直な方向に延びる嵌合ピン44と、嵌合ピン44が嵌合可能なピン挿入溝を有する輪状ピンガイド46と、輪状ピンガイド46と、電動リニアアクチュエータとに接続された第2ギア42と、第1ギア41、輪状ピンガイド46及び第2ギア42の径方向内側に設けられ、嵌合ピン44が接続されたスライドシャフト43とを備える。スライドシャフト43は、軸方向に沿って、嵌合ピン44と輪状ピンガイド46とが嵌合される第1位置と、嵌合ピン44と輪状ピンガイド46との嵌合が解除される第2位置とに移動可能に構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用降着装置を格納位置と降下位置との間で昇降させるアクチュエータ(10)と、前記アクチュエータ(10)を駆動するモータ(20)との間に設けられた航空機用降着装置昇降ギア構造であって、
前記航空機用降着装置昇降ギア構造は、
前記モータ(20)に接続された第1ギア(41)と、
前記第1ギア(41)に接続され前記第1ギア(41)の軸方向に垂直な方向に延びる嵌合ピン(44)と、
前記嵌合ピン(44)が嵌合可能なピン挿入溝(74)を有する輪状ピンガイド(46)と、
前記輪状ピンガイド(46)と、前記アクチュエータ(10)とに接続された第2ギア(42)と、
前記第1ギア(41)、前記輪状ピンガイド(46)及び前記第2ギア(42)の径方向内側に設けられ、前記嵌合ピン(44)が接続されたスライドシャフト(43)と
を備え、
前記スライドシャフト(43)は、軸方向に沿って、前記嵌合ピン(44)と前記輪状ピンガイド(46)とが嵌合される第1位置と、前記嵌合ピン(44)と前記輪状ピンガイド(46)との嵌合が解除される第2位置とに移動可能である航空機用降着装置昇降ギア構造。
【請求項2】
前記スライドシャフト(43)を前記第1位置に付勢する弾性部材(47)をさらに備える請求項1に記載の航空機用降着装置昇降ギア構造。
【請求項3】
前記第1ギア(41)に接続されたブレーキドラム(49)と、前記第2ギア(42)に接続されたブレーキシュー(50)とを有する遠心ブレーキ(45)をさらに備える請求項1又は2に記載の航空機用降着装置昇降ギア構造。
【請求項4】
前記第2ギア(42)に対する前記第1ギア(41)の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ(54)をさらに備える請求項1~3のいずれか一項に記載の航空機用降着装置昇降ギア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は航空機用降着装置昇降ギア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機に用いられる引込み式の降着装置を昇降させる構造として、例えば特許文献1に記載されているようなアクチュエータ構造が知られている。この特許文献1に記載されている構造では、電気モータにより駆動するアクチュエータの伸縮により、引込み式の降着装置を格納位置と下降位置との間で昇降させる。
【0003】
また、この特許文献1には、降着装置を昇降させる油圧機械式アクチュエータ構造が故障した場合の緊急用の降着装置下降手段として、重力により降着装置を下降させるフリーフォールシステムを備える構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-528495号公報
【0005】
また、引込み式の降着装置を昇降させるために用いられる従来のアクチュエータ構造として、図9に示すアクチュエータ構造100が知られている。このアクチュエータ構造100では、モータ20の駆動によりモータ出力軸21に出力されたモータ出力が、ギアボックス30内部のモータギア22,第3ギア31,第4ギア33,第5ギア34,第6ギア36及びアクチュエータ入力ギア12を経由してアクチュエータ入力シャフト11に入力されることで、電動リニアアクチュエータ10が伸縮して降着装置が昇降する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図9に示す従来のアクチュエータ構造100を用いた引込み式の降着装置では、モータ20のモータ出力軸21と電動リニアアクチュエータ10のアクチュエータ入力シャフト11とが、ギアボックス30内部のモータギア22,第3ギア31,第4ギア33,第5ギア34,第6ギア36及びアクチュエータ入力ギア12を介して常時接続されており、これにより、モータ20の保持力によりアクチュエータ入力シャフト11が保持される。そのため、フリーフォールシステムにより降着装置を下降させるためには、モータ20による保持が生じないように、モータ20を電動リニアアクチュエータ10から切り離す構造をアクチュエータ構造100にさらに設ける必要があるため、引込み式の降着装置を昇降させる構造が複雑になるという問題点があった。
【0007】
この発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、簡単な構成で、緊急時にモータの出力と電動リニアアクチュエータとの接続を解除して降着装置を下降させることができる、航空機用降着装置昇降ギア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明に係る航空機用降着装置昇降ギア構造は、航空機用降着装置を格納位置と降下位置との間で昇降させるアクチュエータと、アクチュエータを駆動するモータとの間に設けられ、航空機用降着装置昇降ギア構造は、モータに接続された第1ギアと、第1ギアに接続され第1ギアの軸方向に垂直な方向に延びる嵌合ピンと、嵌合ピンが嵌合可能なピン挿入溝を有する輪状ピンガイドと、輪状ピンガイドと、アクチュエータとに接続された第2ギアと、第1ギア、輪状ピンガイド及び第2ギアの径方向内側に設けられ、嵌合ピンが接続されたスライドシャフトとを備え、スライドシャフトは、軸方向に沿って、嵌合ピンと輪状ピンガイドとが嵌合される第1位置と、嵌合「ピンと輪状ピンガイドとの嵌合が解除される第2位置とに移動可能な構成である。
【0009】
また、スライドシャフトを第1位置に付勢する弾性部材をさらに備えてもよい。
また、第1ギアに接続されたブレーキドラムと、第2ギアに接続されたブレーキシューとを有する遠心ブレーキをさらに備えてもよい。
また、第2ギアに対する第1ギアの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る航空機用降着装置昇降ギア構造は、スライドシャフトと、第1ギアに接続された嵌合ピンと、ピン挿入溝を有し第2ギアに接続された輪状ピンガイドとを有し、スライドシャフトが嵌合ピンと輪状ピンガイドとが嵌合される第1位置と、嵌合ピンと輪状ピンガイドとの嵌合が解除される第2位置とに移動可能であるため、簡単な構成で、緊急時にモータの出力と電動リニアアクチュエータとの接続を解除して降着装置を下降させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係るアクチュエータ構造の部分断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係るギア結合解除構造の正面断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る第1ギアの正面断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る輪状ピンガイドの斜視図である。
図5】本発明の実施の形態に係る輪状ピンガイドの正面図である。
図6】本発明の実施の形態に係る輪状ピンガイドの右側面図である。
図7】本発明の実施の形態の遠心ブレーキの概略図である。
図8】スライドシャフトが第2位置に移動したときのギア結合解除構造の正面断面図である。
図9】従来のアクチュエータ構造の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を添付図面の図1図8に基づいて説明する。なお、図9に示す従来例と同一又は同等部分には同一符号を付して説明する。
図1は、この実施の形態に係るアクチュエータ構造の部分断面図である。アクチュエータ構造1は既知の図示しない引込み式の航空機用降着装置に接続されている。アクチュエータ構造1には、軸方向に伸縮自在に設けられた電動リニアアクチュエータ10と、電動リニアアクチュエータ10を駆動するための駆動力を出力するための電気モータであるモータ20と、モータ20から電動リニアアクチュエータ10に駆動力を伝達するための複数のギアを含むギアボックス30とが設けられている。モータ20の端部及び電動リニアアクチュエータ10の端部は、ギアボックス30の外壁に取り付けられている。
【0013】
アクチュエータ構造1に設けられた電動リニアアクチュエータ10は、アクチュエータ入力シャフト11を有しており、アクチュエータ入力シャフト11の回転方向に応じて伸長又は収縮する。電動リニアアクチュエータ10は、伸縮することにより図示しない航空機用降着装置を所定の格納位置と下降位置との間で昇降させる。なお、航空機用降着装置は、電動リニアアクチュエータ10が伸長することにより航空機用降着装置が下降し電動リニアアクチュエータ10が収縮することにより航空機用降着装置が上昇する構成か、又は電動リニアアクチュエータ10が収縮することにより航空機用降着装置が下降し電動リニアアクチュエータ10が伸長することにより航空機用降着装置が上昇する構成の、いずれか一方の構成を取り得る。
【0014】
ギアボックス30の内部には、略円柱状のギア結合解除構造40と、第1ギアシャフト32と、第2ギアシャフト35とがそれぞれ回転自在に支持されている。モータ20のモータ出力軸21に設けられたモータギア22には、ギア結合解除構造40の側面に周方向に沿って形成された第1ギア41の歯部が噛合している。ギア結合解除構造40の側面には、更に周方向に沿って第2ギア42が形成されており、この第2ギア42の歯部には第1ギアシャフト32に固定された第3ギア31が噛合している。第1ギアシャフト32には更に第4ギア33が固定されており、この第4ギア33には第2ギアシャフト35に固定された第5ギア34が噛合している。第2ギアシャフトには更に第6ギア36が固定されており、この第6ギア36にはアクチュエータ入力シャフト11に固定されたアクチュエータ入力ギア12が噛合している。なお、ギア結合解除構造40は航空機用降着装置昇降ギア構造を構成している。
【0015】
ギア結合解除構造40には、スライドシャフト43が設けられている。スライドシャフト43は、モータ20が取り付けられていない側に、ギアボックス30の壁部を貫通して突出している。
【0016】
モータ20のモータ出力は、モータギア22,第1ギア41,第2ギア42,第3ギア31,第4ギア33,第5ギア34,第6ギア36及びアクチュエータ入力ギア12を経由して電動リニアアクチュエータ10に入力される。また、電動リニアアクチュエータ10及びモータ20は、電動リニアアクチュエータ10のアクチュエータ入力シャフト11の延びる方向と、モータ20のモータ出力軸21の延びる方向とが、略平行に互いに離隔するように設けられている。
【0017】
ギアボックス30には、ギア結合解除構造40の軸方向に略平行に延びる、円柱状のリリース構造60が設けられている。リリース構造60には、軸方向にリリース構造60を貫通して延びるリリースシャフト61が設けられている。リリースシャフト61には、リリースレバー62の一端部62aが接続されている。また、リリースシャフト61は、航空機用降着装置を備える航空機内の例えば操縦室内に設けられた、図示しない非常用降着装置下降レバーに接続されている。ギア結合解除構造40のスライドシャフト43は、リリースレバー62の他端部62bに接続されている。
【0018】
リリースレバー62は、支点63を中心に回動可能にギアボックス30に支持されており、リリースシャフト61が矢印A方向に移動したときに一端部62aが矢印A方向に移動し、他端部62bが矢印B方向に移動する。また、リリースレバー62は、リリースシャフト61が矢印B方向に移動したときに一端部62aが矢印B方向に移動し、他端部62bが矢印A方向に移動する。
【0019】
図2は、図1に記載の実施の形態に係るギア結合解除構造40の正面断面図である。なお、図2の矢印A及び矢印Bは、図1の矢印A及び矢印Bと同じ方向を示している。第1ギア41は、スライドシャフト43の中心軸Lと同軸に配置され、中心軸Lの延びる方向に沿ってスライドシャフト43の外側に延びるとともに、図中の矢印B方向の一端においては径方向外側に広がる輪状形状を有している。第1ギア41の輪状形状部分には、径方向外側に第1ギア歯部41aが形成されている。
【0020】
第1ギア41の矢印B方向の端部においては、径方向中心部に、矢印A方向にスライドシャフト43を付勢するコイルばね47が設けられている。スライドシャフト43の矢印B方向の端部には角穴51が形成されており、角穴51には角柱状の嵌合ピン44が固定されている。嵌合ピン44は、中心軸Lの延びる方向に対して垂直な方向に延びている。すなわち、第1ギア41の中心軸に対応する中心軸Lの延びる方向に対して垂直な方向に延びている。なお、コイルばね47は弾性部材を構成している。
【0021】
第1ギア41には、スライドシャフト43の中心軸Lと同軸に配置された輪状のブレーキドラム49がリベット53により固定されている。ブレーキドラム49の径方向内側には、全体として輪状のブレーキシュー50が設けられている。ブレーキシュー50の径方向内側には、中心軸Lと同軸に配置された輪状ピンガイド46が設けられている。ブレーキシュー50及び輪状ピンガイド46に対して矢印A方向には、中心軸Lと同軸に配置された第2ギア42が設けられている。ブレーキシュー50、輪状ピンガイド46及び第2ギア42は、リベット52により互いに固定されている。第2ギア42の外周表面には、第2ギア歯部42aが設けられている。ブレーキドラム49とブレーキシュー50とは、遠心ブレーキ45を構成している。
【0022】
第2ギア42の径方向内側には、第1ギア41の径方向外側と第2ギア42の径方向内側とを接続するワンウェイクラッチ54が圧入されて設けられている。ワンウェイクラッチ54は、第1ギア41に対する第2ギア42の回転方向を、航空機用降着装置が下降する方向のみに制限する。
【0023】
図3は、図2に記載の実施の形態の第1ギア41の正面断面図である。第1ギア41には、第1ギア歯部41aに対する径方向内側に、軸方向に沿って延びる長穴48が形成されている。長穴48は、スライドシャフト43の嵌合ピン44(図2参照)が挿入されて摺動可能に形成されている。第1ギア41とスライドシャフト43とは、長穴48に挿入された嵌合ピン44により接続されている。
【0024】
図4は、図2に記載の実施の形態の輪状ピンガイド46の斜視図である。また、図5は、図2に記載の輪状ピンガイド46を図2の正面図の方向から見た正面図であり、図6図2に記載の輪状ピンガイド46を図2の正面図における右側面から見た右側面図である。図4図6を参照すると、輪状ピンガイド46は、周方向に沿って形成され、中心軸L(図5参照)の延びる方向から見て弧状に形成された2個の突起部71,71を有している。各突起部71,71は端部にそれぞれ中心軸Lに対して傾斜した平面である第1傾斜部72と第2傾斜部73とを有している。第1傾斜部72と中心軸Lとがなす角の角度は、第2傾斜部73と中心軸Lとがなす角の角度よりも大きくなるように形成されている。各突起部71,71同士の間には、嵌合ピン44(図2参照)が挿入されるピン挿入溝74が形成されている。輪状ピンガイド46の径方向外側には、リベット52(図2参照)が貫通する取付穴76を有する取付部75が周方向に120度置きに3個形成されている。
【0025】
図7は、図2に記載の実施の形態の遠心ブレーキ45の概略図である。遠心ブレーキ45には、輪状のブレーキドラム49の内側に、120度置きにリベット52にて取り付けられた3個のブレーキシュー50が設けられている。各ブレーキシュー50は、リベット52を支点として矢印E方向、すなわち径方向外側に回動し、ブレーキドラム49のドラム内壁49aに摺動可能に設けられている。
【0026】
次に、本実施の形態のギア結合解除構造40の動作について説明する。
(通常時の降着装置の昇降動作)
最初に、通常時の航空機用降着装置の昇降動作における、本実施の形態のギア結合解除構造40を含むアクチュエータ構造1の動作について説明する。
通常時において、航空機に設けられた図示しない航空機用降着装置は、地上滞在時、地上走行時及び離着陸時等には機外の所定の下降位置に下降され、巡航時等の飛行時には機内の所定の格納位置に格納される。また、通常時において航空機用降着装置を昇降させるときには、航空機内の操縦室内に設けられた、図示しない降着装置昇降レバーを操縦者が操作する。これにより、図1に示すようにモータ20が駆動し、モータ20の出力がモータギア22からギアボックス30内部に設けられたギア結合解除構造40の第1ギア41に伝達される。
【0027】
通常時においては、図2に示すようにギア結合解除構造40のスライドシャフト43は、コイルばね47により矢印A方向に付勢されている。このため、スライドシャフト43の角穴51に挿入された四角柱状の嵌合ピン44は、第1ギア41に設けられた長穴48の矢印A方向に近い側の内壁に接触して押圧されている。これにより、スライドシャフト43は図2に示す位置である第1位置に保持されている。
【0028】
このとき、図4図6に示す輪状ピンガイド46のピン挿入溝74に嵌合ピン44が挿入されて嵌合しているため、図2に示すように第1ギア41と輪状ピンガイド46とは嵌合ピン44を介して接続されている。さらに、輪状ピンガイド46は第2ギア42に接続されているため、第1ギア41が回転すると、出力が嵌合ピン44を介してスライドシャフト43、輪状ピンガイド46及び第2ギア42に伝達されてそれぞれ回転する。すなわち、第1ギア41は嵌合ピン44及び輪状ピンガイド46を介して第2ギア42に接続されている。
【0029】
さらに、図1に示すように第2ギア42が回転することにより、第3ギア31,第4ギア33,第5ギア34,第6ギア36及びアクチュエータ入力ギア12の順にモータ20の出力が伝達される。これにより、モータ20の出力が、電動リニアアクチュエータ10のアクチュエータ入力シャフト11に入力される。モータ20の出力が入力された電動リニアアクチュエータ10は伸長又は収縮し、この電動リニアアクチュエータ10の伸長又は収縮により航空機用降着装置が所定の格納位置と所定の下降位置との間で上昇又は下降する。
【0030】
また、通常時の航空機用降着装置では、第1ギア41と第2ギア42とが接続されているため、第1ギア41に接続されたブレーキドラム49と第2ギア42に接続されたブレーキシュー50とは、同一方向に同一速度で回転する。そのため、ブレーキドラム49とブレーキシュー50との間に動摩擦力が発生せず、遠心ブレーキ45により第2ギア42が制動されない。
【0031】
(非常時の降着装置の下降動作)
次に、飛行時において非常時に重力により航空機用降着装置を下降させる場合の、ギア結合解除構造40の動作について説明する。
航空機用降着装置が格納位置に位置している航空機の飛行時において、モータ20の故障等の理由によりモータ20が正常に駆動しない場合には、通常時の方法で航空機用降着装置を下降位置に下降させることができない。また、駆動しないモータ20に接続された第1ギア41と、第2ギア42とが接続されているため、モータ20の保持力により、第2ギア42に間接的に接続されているアクチュエータ入力シャフト11が回転しない。これにより、電動リニアアクチュエータ10が駆動せず、航空機用降着装置が下降しない状態となる。
【0032】
このような非常時には、航空機の操縦者は航空機用降着装置を重力により下降位置に下降させるために、航空機内の例えば操縦室内に設けられた、図示しない非常用降着装置下降レバーを通常時の位置から非常時の位置へと操作する。
【0033】
操縦者が非常用降着装置下降レバーを非常時の位置へ操作すると、リリースシャフト61が矢印A方向に移動する。これにより、図1に示すように、リリースシャフト61に接続されたリリースレバー62が支点63を中心にして、一端部62aが矢印A方向に移動し、他端部62bが矢印B方向に移動するように回動する。他端部62bが矢印B方向に移動することにより、他端部62bに接続されたスライドシャフト43が矢印B方向に移動する。
【0034】
図8は、図1に示すスライドシャフト43が第2位置に移動したときのギア結合解除構造40を示す図である。スライドシャフト43が矢印B方向に移動すると、スライドシャフト43によりコイルばね47が圧縮される。このとき、スライドシャフト43の角穴51に挿入されている嵌合ピン44が、図4図6に示す輪状ピンガイド46のピン挿入溝74の内側から外側に移動して嵌合が解除される。これにより、図8に示すように第1ギア41と輪状ピンガイド46との嵌合ピン44を介した接続が解除されるため、嵌合ピン44及び輪状ピンガイド46を介しての第1ギア41と第2ギア42との接続が解除される。
【0035】
また、スライドシャフト43の矢印B方向への移動により、嵌合ピン44が第1ギア41に設けられた長穴48の矢印B方向に近い側の内壁に接触して押圧される。これにより、スライドシャフト43はこの図8に示す位置である第2位置に保持される。
【0036】
第1ギア41と第2ギア42との接続が解除されることにより、図1に示すように第2ギア42に間接的に接続された電動リニアアクチュエータ10が自由に伸縮可能となる。そのため、電動リニアアクチュエータ10に接続された航空機用降着装置が重力により下降位置に下降(フリーフォール)する。
【0037】
(遠心ブレーキの動作)
非常時に航空機用降着装置が重力により下降しているときには、電動リニアアクチュエータ10のアクチュエータ入力シャフト11が回転することにより、第2ギア42が航空機用降着装置の下降速度に対応して回転する。これにより、第2ギア42に接続されたブレーキシュー50が航空機用降着装置の下降速度に対応して回転する。一方、駆動しない第1ギア41に接続されているブレーキドラム49は回転せず停止している。
【0038】
図7に示すように、停止しているブレーキドラム49に対してブレーキシュー50が回転することにより、遠心力によって矢印E方向に回動したブレーキシュー50がドラム内壁49aに接触するため、ドラム内壁49aとブレーキシュー50との間の動摩擦力によりブレーキシュー50に接続された第2ギア42(図8参照)が制動される。ドラム内壁49aとブレーキシュー50との間の動摩擦力の強さは、第2ギア42の回転速度に対応してブレーキシュー50にかかる遠心力の強さに対応するため、第2ギア42の回転速度に応じて第2ギア42に適切な制動力が印加される。第2ギア42が制動されることにより、電動リニアアクチュエータ10が制動されて伸縮速度が抑制され、航空機用降着装置の下降速度が抑制される。
【0039】
もし、ギア結合解除構造40に遠心ブレーキ45が設けられていなければ、航空機用降着装置を下降させたときに重力により下降する航空機用降着装置の下降速度が抑制されないため、高速で下降した航空機用降着装置が降下位置において機体の一部に衝突し、又は高速で下降した航空機用降着装置の構成部品同士が降下位置において衝突することにより、過大な衝撃が発生する場合がある。一方、本実施の形態のギア結合解除構造40においては、遠心ブレーキ45により航空機用降着装置の下降速度が抑制されるため、航空機用降着装置を下降させたときに降下位置において過大な衝撃が発生することを防止することが可能である。
【0040】
(ワンウェイクラッチの動作)
本実施の形態のギア結合解除構造40には、第1ギア41に対して第2ギア42の回転方向を航空機用降着装置が下降する方向にのみ制限するワンウェイクラッチ54が設けられている。ワンウェイクラッチ54は、非常時に航空機用降着装置が重力により下降するときに、航空機用降着装置が下降する向きに第2ギア42が回転することを許容するが、航空機用降着装置が上昇する向きに第2ギア42が回転することを防止する。これにより、ギア結合解除構造40は、非常時に航空機用降着装置が上昇することを防止することが可能であり、且つ航空機用降着装置が下降することを妨げることがない。
【0041】
もし、ギア結合解除構造40にワンウェイクラッチ54が設けられていなければ、非常時に航空機用降着装置が重力により下降して下降位置に到達したときに、反動により航空機用降着装置が上昇して再度機内に引き込まれてしまう可能性がある。一方、本実施の形態のギア結合解除構造40においては、ワンウェイクラッチ54により航空機用降着装置が上昇する向きに第2ギア42が回転することを防止するため、非常時に航空機用降着装置が機内に引き込まれてしまうことを防止することが可能である。
【0042】
(スライドシャフトの復帰動作)
次に、重力による航空機用降着装置の下降が完了したときのギア結合解除構造40の動作を説明する。重力による航空機用降着装置の下降が完了したときには、図8に示すようにスライドシャフト43が第2位置に保持されている。その後、航空機が非常時を脱して通常時となったときに、操縦者が非常用降着装置下降レバーを通常時の位置に戻すと、図1に示すようにリリースシャフト61が矢印Bで示す方向に移動する。これにより、リリースシャフト61に接続されたリリースレバー62が支点63を中心にして、一端部62aが矢印B方向に移動し、他端部62bが矢印A方向に移動するように回動する。
【0043】
このリリースレバー62の回動により、図8に示すようにスライドシャフト43に対する矢印B方向への付勢が無くなる。そして、コイルばね47がスライドシャフト43を矢印A方向に付勢しているため、スライドシャフト43及び嵌合ピン44が矢印A方向に移動し、図2に示す第1位置に移動する。次に、嵌合ピン44が図4図6に示す輪状ピンガイド46の第1傾斜部72及び第2傾斜部73に沿ってピン挿入溝74に挿入される。
【0044】
スライドシャフト43が第1位置に復帰して、嵌合ピン44がピン挿入溝74に挿入されることにより、図2に示すように第1ギア41と第2ギア42とが嵌合ピン44及び輪状ピンガイド46を介して接続され、航空機が通常時におけるギア結合解除構造40の状態に復帰する。
【0045】
このように、本実施の形態に係るギア結合解除構造40は、航空機用降着装置を格納位置と降下位置との間で昇降させる電動リニアアクチュエータ10と、電動リニアアクチュエータ10を駆動するモータ20との間に設けられたギア結合解除構造40であって、ギア結合解除構造40は、モータ20に接続された第1ギア41と、第1ギア41に接続され第1ギア41の軸方向に垂直な方向に延びる嵌合ピン44と、嵌合ピン44が嵌合可能なピン挿入溝74を有する輪状ピンガイド46と、輪状ピンガイド46と、電動リニアアクチュエータ10とに接続された第2ギア42と、第1ギア41、輪状ピンガイド46及び第2ギア42の径方向内側に設けられ、嵌合ピン44が接続されたスライドシャフト43とを備え、スライドシャフト43は、軸方向に沿って、嵌合ピン44と輪状ピンガイド46とが嵌合される第1位置と、嵌合ピン44と輪状ピンガイド46との嵌合が解除される第2位置とに移動可能であるため、簡単な構成で、緊急時にモータ20の出力と電動リニアアクチュエータ10との接続を解除して降着装置を下降させることができる。
【0046】
また、本実施の形態に係るギア結合解除構造40は、スライドシャフト43を第1位置に付勢するコイルばね47をさらに備えるため、非常用降着装置下降レバーを通常時の位置に戻したときに、スライドシャフト43を第1位置に復帰させることができる。
【0047】
また、本実施の形態に係るギア結合解除構造40は、第1ギア41に接続されたブレーキドラム49と、第2ギア42に接続されたブレーキシュー50とを有する遠心ブレーキ45をさらに備えるため、航空機用降着装置の下降速度が抑制し、航空機用降着装置を下降させたときに降下位置において過大な衝撃が発生することを防止することができる。
【0048】
また、本実施の形態に係るギア結合解除構造40は、第1ギア41の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ54をさらに備えるため、非常時に航空機用降着装置が上昇することを防止することができる。
【0049】
なお、本実施の形態のアクチュエータ構造は、電動リニアアクチュエータ10及びモータ20は、電動リニアアクチュエータ10のアクチュエータ入力シャフト11と、モータ20のモータ出力軸21とが、平行に離隔して延びるように設けられていたが、アクチュエータ入力シャフト11とモータ出力軸21とが同一線上に配置されたアクチュエータ構造を用いる場合であっても、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
また、本実施の形態のギアボックス30の構成に含まれている第3ギア31,第1ギアシャフト32,第4ギア33,第5ギア34,第6ギア36及び第2ギアシャフトの構成及び配置は一例であって、モータ出力軸21からアクチュエータ入力シャフト動力が伝達されるのであればこれ以外の構成及び配置であってもよく、これにより、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、本実施の形態の航空機用降着装置のアクチュエータ構造1は、モータ20の駆動力により駆動する電動リニアアクチュエータ10を用いていたが、これ以外の例えば油圧アクチュエータを更に備える航空機用降着装置のアクチュエータ構造であってもよい。このような航空機用降着装置のアクチュエータ構造では、例えば通常時には油圧アクチュエータを用いて航空機用降着装置を昇降させ、予備的な装置として電動リニアアクチュエータ10を用いて航空機用降着装置を昇降させ、これらの油圧アクチュエータ及び電動リニアアクチュエータ10により航空機用降着装置を下降させることができない非常時には代替的な手段として重力により航空機降着装置下降させることができる。
【0052】
また、本実施の形態の輪状ピンガイド46は、突起部71,71の第1傾斜部72と中心軸との角度が、第2傾斜部73と中心軸との角度よりも大きくなるように形成されていたが、これ以外の形状に形成されていてもよい。たとえば、第1傾斜部72と中心軸との角度が、第2傾斜部73と中心軸との角度よりも小さくなるように形成されていてもよいし、第1傾斜部72と中心軸との角度と、第2傾斜部73と中心軸との角度とが同じ角度となるように形成されてもよい。すなわち、突起部71,71の第1傾斜部72と中心軸との角度とは、嵌合ピン44に対する輪状ピンガイド46の回転方向等を考慮して、嵌合ピン44がピン挿入溝74に容易に挿入可能となる角度に適宜設定されてもよい。これにより、第1傾斜部72及び第2傾斜部73を、スライドシャフト43が第1位置に復帰するときに、輪状ピンガイド46に嵌合ピン44が嵌合しやすくするために適当な傾斜角に形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の航空機用降着装置昇降ギア構造であるギア結合解除構造40によると、航空機用降着装置において、航空機の飛行時にモータ20が正常に駆動せず、電動リニアアクチュエータ10による航空機用降着装置を下降させることができない非常時であっても、モータ20の出力と電動リニアアクチュエータ10との接続を解除して重力により航空機用降着装置を下降させることができるため、電動リニアアクチュエータ10を用いて航空機用降着装置を昇降させる航空機において使用させる用途に適している。
【符号の説明】
【0054】
10 電動リニアアクチュエータ(アクチュエータ)
20 モータ
41 第1ギア
42 第2ギア
43 スライドシャフト
44 嵌合ピン
45 遠心ブレーキ
46 輪状ピンガイド
47 コイルばね(弾性部材)
49 ブレーキドラム
50 ブレーキシュー
54 ワンウェイクラッチ
74 ピン挿入溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9