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特開2022-187772表面粗さ測定方法、表面粗さ測定装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187772
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】表面粗さ測定方法、表面粗さ測定装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/30 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
G01B11/30 102Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095944
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 義高
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA50
2F065BB01
2F065QQ17
2F065QQ31
2F065QQ34
2F065QQ41
(57)【要約】
【課題】測定対象表面の二次元構造等を認識することなく、粗さ指標を求めることができる表面粗さ測定方法を提供する。
【解決手段】測定対象表面にレーザビームを入射させ、測定対象表面からの散乱光強度の角度分布を検出して散乱光強度の角度分布を測定する。粗さ指標の暫定値を用いて計算により求められた散乱光強度の角度分布と、測定により求められた散乱光強度の角度分布とが、第1フィッティング条件を満たすまで、粗さ指標の暫定値を修正する。第1フィッティング条件が満たされたときの粗さ指標の暫定値を、測定対象表面の粗さ指標の値として決定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象表面にレーザビームを入射させ、前記測定対象表面からの散乱光強度の角度分布を検出して散乱光強度の角度分布を測定し、
粗さ指標の暫定値を用いて計算により求められた散乱光強度の角度分布と、測定により求められた散乱光強度の角度分布とが、第1フィッティング条件を満たすまで、前記粗さ指標の暫定値を修正し、
前記第1フィッティング条件が満たされたときの前記粗さ指標の暫定値を、前記測定対象表面の前記粗さ指標の値として決定する表面粗さ測定方法。
【請求項2】
前記粗さ指標は、二乗平均平方根粗さを含む請求項1に記載の表面粗さ測定方法。
【請求項3】
前記粗さ指標は、前記測定対象表面の形状の表面相関長を含む請求項1または2に記載の表面粗さ測定方法。
【請求項4】
Kコリレーションモデルのパラメータの暫定値を用いて、Kコリレーションモデルにより計算された自己共分散と、前記第1フィッティング条件が満たされたときの前記粗さ指標の暫定値から求めた自己共分散とが、第2フィッティング条件を満たすまで、前記パラメータの暫定値を修正し、
前記第2フィッティング条件が満たされたときの、前記パラメータの暫定値に基づいて、前記測定対象表面の二乗平均平方根傾斜を算出する請求項1に記載の表面粗さ測定方法。
【請求項5】
前記第1フィッティング条件が満たされるか否かの判定において、測定された散乱光強度の角度分布に対して特異スペクトル解析を用いてノイズ除去を行い、ノイズ除去された散乱光強度の角度分布と、計算により求められた散乱光強度の角度分布とを比較する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表面粗さ測定方法。
【請求項6】
測定された散乱光強度の角度分布に対して特異スペクトル解析を用いてノイズ除去を行う際に、特異スペクトル解析に用いる決定係数及び窓サイズを、赤池情報量基準を用いて決定する請求項5に記載の表面粗さ測定方法。
【請求項7】
測定対象表面にレーザビームを入射させて測定された散乱光の強度が入力され、入力された測定値に基づいて、散乱光強度の角度分布を生成する散乱光強度分布実測値算出部と、
粗さ指標の暫定値を用いて計算された散乱光強度の角度分布と、前記散乱光強度分布実測値算出部で生成された散乱光強度の角度分布とが、第1フィッティング条件を満たすまで、前記粗さ指標の暫定値を修正し、前記第1フィッティング条件が満たされたときの前記粗さ指標の暫定値を、前記測定対象表面の前記粗さ指標の値として決定する粗さ指標算出部と
を備えた表面粗さ測定装置。
【請求項8】
前記粗さ指標は、二乗平均平方根粗さを含む請求項7に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項9】
前記粗さ指標は、前記測定対象表面の形状の表面相関長を含む請求項7または8に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項10】
前記粗さ指標算出部は、
Kコリレーションモデルのパラメータの暫定値を用いて、Kコリレーションモデルにより計算された自己共分散と、前記第1フィッティング条件が満たされたときの前記粗さ指標の暫定値から求めた自己共分散とが、第2フィッティング条件を満たすまで、前記パラメータの暫定値を修正し、
前記第2フィッティング条件が満たされたときの、前記パラメータの暫定値に基づいて、前記測定対象表面の二乗平均平方根傾斜を算出する請求項9に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項11】
前記粗さ指標算出部は、
前記第1フィッティング条件が満たされるか否かの判定において、測定された散乱光強度の角度分布に対して特異スペクトル解析を用いてノイズ除去を行い、ノイズ除去された散乱光強度の角度分布と、粗さ指標の暫定値を用いて計算された散乱光強度の角度分布とを比較する請求項7乃至10のいずれか1項に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項12】
前記粗さ指標算出部は、
測定された散乱光強度の角度分布に対して特異スペクトル解析を用いてノイズ除去を行う際に、特異スペクトル解析に用いる決定係数及び窓サイズを、赤池情報量基準を用いて決定する請求項11に記載の表面粗さ測定装置。
【請求項13】
測定対象表面にレーザビームを入射させて前記測定対象表面から散乱した散乱光の強度を測定して得られた散乱光強度の角度分布を取得する手順と、
粗さ指標の暫定値を用いて計算された散乱光強度の角度分布と、測定された散乱光強度の角度分布とが、第1フィッティング条件を満たすまで、前記粗さ指標の暫定値を修正する手順と、
前記第1フィッティング条件が満たされたときの前記粗さ指標の暫定値を、前記測定対象表面の前記粗さ指標の値として出力する手順と
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面粗さ測定方法、表面粗さ測定装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で表面粗さを測定する方法として、白色散乱光の干渉、レーザ反射光などを使用し、表面粗さを二次元構造または三次元構造として認識し、表面形状から粗さ指標を計算する方法が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載された方法では、プレノプティックカメラ(ライトフィールドカメラ)を使用し、測定対象物のプレノプティック画像を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6319329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された表面粗さ測定方法では、対象表面を二次元構造または三次元構造として認識するために、プレノプティックカメラ等の複雑な光学系が必要である。また、解析に使用している散乱光強度モデル(Wardモデル)では、反射光から大きく外れた散乱光分布を扱うことができない。このため、粗さ指標の測定精度を高めることが困難である。
【0005】
本発明の目的は、測定対象表面の二次元構造等を認識することなく、粗さ指標を求めることができる表面粗さ測定方法、表面粗さ測定装置、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
測定対象表面にレーザビームを入射させ、前記測定対象表面からの散乱光強度の角度分布を検出して散乱光強度の角度分布を測定し、
粗さ指標の暫定値を用いて計算により求められた散乱光強度の角度分布と、測定により求められた散乱光強度の角度分布とが、第1フィッティング条件を満たすまで、前記粗さ指標の暫定値を修正し、
前記第1フィッティング条件が満たされたときの前記粗さ指標の暫定値を、前記測定対象表面の前記粗さ指標の値として決定する表面粗さ測定方法が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
測定対象表面にレーザビームを入射させて測定された散乱光の強度が入力され、入力された測定値に基づいて、散乱光強度の角度分布を生成する散乱光強度分布実測値算出部と、
粗さ指標の暫定値を用いて計算された散乱光強度の角度分布と、前記散乱光強度分布実測値算出部で生成された散乱光強度の角度分布とが、第1フィッティング条件を満たすまで、前記粗さ指標の暫定値を修正し、前記第1フィッティング条件が満たされたときの前記粗さ指標の暫定値を、前記測定対象表面の前記粗さ指標の値として決定する粗さ指標算出部と
を備えた表面粗さ測定装置が提供される。
【0008】
本発明のさらに他の観点によると、
測定対象表面にレーザビームを入射させて前記測定対象表面から散乱した散乱光の強度を測定して得られた散乱光強度の角度分布を取得する手順と、
粗さ指標の暫定値を用いて計算された散乱光強度の角度分布と、測定された散乱光強度の角度分布とが、第1フィッティング条件を満たすまで、前記粗さ指標の暫定値を修正する手順と、
前記第1フィッティング条件が満たされたときの前記粗さ指標の暫定値を、前記測定対象表面の前記粗さ指標の値として出力する手順と
をコンピュータに実行させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
測定対象表面の二次元構造等を認識することなく、粗さ指標を求めることができる。散乱光の強度分布を測定することにより、粗さ指標を求めることができるため、測定対象表面の二次元構造等を認識するための複雑な光学系を用いる必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施例による表面粗さ測定装置の概略図である。
図2図2は、測定対象表面の二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの算出方法を示すフローチャートである。
図3図3は、二乗平均平方根傾斜Rdqの算出方法を示すフローチャートである。
図4図4A図4B図4Cは、それぞれフーリエ解析法、多重解像度解析法、特異スペクトル解析法を用いてノイズ除去を行った場合のノイズ除去前及びノイズ除去後の散乱光強度分布実測値の例を示すグラフである。
図5図5は、ノイズ除去前の散乱光強度分布実測値、ノイズ除去後の散乱光強度分布実測値、及び第1フィッティング条件を満たしたときの散乱光強度分布計算値の一例を示すグラフである。
図6図6A図6Cは、それぞれKコリレーションモデルのパラメータa、b、cを変化させたときの二乗平均平方根傾斜Rdqの計算値を、接触式表面粗さ測定器を用いて測定した二乗平均平方根傾斜Rdqの測定値と対比して示すグラフである。
図7図7は、接触式粗さ測定によって求めた二乗平均平方根粗さRqと、実施例による方法で求めた二乗平均平方根粗さRqとの関係を示すグラフである。
図8図8は、他の実施例による表面粗さ測定装置の概略図である。
図9図9は、さらに他の実施例による表面粗さ測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1図6を参照して、本発明による一実施例による表面粗さ測定方法、表面粗さ測定装置、及びプログラムについて説明する。
【0012】
図1は、本実施例による表面粗さ測定装置の概略図である。表面粗さを測定する対象である測定対象表面30Aを有する測定対象物30が、支持機構11に支持されている。レーザ光源10から出力されたレーザビームを、測定対象表面30Aの被測定箇所に入射させる。測定対象表面30Aに入射したレーザビームが散乱され、散乱光33が発生する。
【0013】
測定対象表面30Aからの散乱光33が、光強度分布測定器15に入射する。光強度分布測定器15は、光検出器17と、光検出器17を直線方向に案内するガイド16とを含む。光検出器17をガイド16に沿って移動させることにより、散乱光33の一次元の強度分布が時間変化として得られる。
【0014】
光強度分布測定器15で検出された散乱光33の光強度の測定値が処理装置20に入力される。処理装置20には、例えばコンピュータが用いられ、コンピュータがプログラムを実行することにより、種々の機能が実現される。
【0015】
処理装置20は、データ取得部21、散乱光強度分布実測値算出部22、及び粗さ指標算出部23を含む。入出力装置25から処理装置20に、種々のコマンド及びデータが入力され、処理結果が入出力装置25に出力される。入出力装置25として、例えばキーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、ディスプレイ、通信装置、リムーバブルメディア読み取り書き込み装置等が用いられる。
【0016】
データ取得部21は、光強度分布測定器15で検出された散乱光強度の測定値を取得する。散乱光強度分布実測値算出部22は、データ取得部21に格納された散乱光強度の測定値に基づいて、散乱光強度の角度分布を生成する。散乱光強度分布実測値算出部22が算出した散乱光強度の角度分布を、「散乱光強度分布実測値」ということとする。
【0017】
次に、散乱光強度の角度分布の角度の定義について説明する。レーザ光源10から出力されたレーザビームの測定対象表面30Aに対する入射角をθiと表記する。測定対象表面30Aの法線方向をθ=0°と定義する。レーザビームの入射面(図1の紙面に相当)内で、測定対象表面30Aの法線方向から入射レーザビーム側に傾斜する向きの角度θの符号を正と定義し、反対向きに傾斜する角度θの符号を負と定義する。
【0018】
粗さ指標算出部23は、散乱光強度分布実測値に基づいて、測定対象表面30Aの形状を求めることなく、測定対象表面30Aの粗さ指標を算出する。本実施例においては、測定対象表面30Aの二乗平均平方根粗さRq、及び表面相関長Lcを算出する。
【0019】
次に、図2及び図3を参照して、実施例による粗さ指標の算出方法について説明する。
【0020】
[二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの算出]
図2は、測定対象表面30Aの二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの算出方法を示すフローチャートである。測定対象表面30Aは、ガウシアン自己共分散によって記述されると仮定する。粗面の自己共分散Csは、以下の式で記述される。
【数1】
ここで、rハットは、粗面上に定義された二次元極座標の原点からの距離を、入射レーザビームの波長λでスケーリングしたパラメータである。Lcハットは、表面相関長Lcを入射レーザビームの波長λでスケーリングしたパラメータである。まず、データ取得部21(図1)が、光強度分布測定器15(図1)により測定された散乱光の強度の時間変化を取得する。
【0021】
散乱光強度分布実測値算出部22(図1)が、散乱光強度の時間変化から、散乱光強度分布実測値を算出する(ステップSA2)。散乱光強度分布実測値は、光強度分布測定器15で測定された散乱光強度の測定値に基づいて算出される。
【0022】
次に、粗さ指標の暫定値を決定する(ステップSA3)。本実施例では、粗さ指標として、二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの暫定値を決定する。ここで決定する暫定値は、例えば入出力装置25から初期値として入力しておくとよい。
【0023】
次に、一般化ハーベイシャック理論(GHS理論)による双方向反射率分布関数(BRDF)モデルを用い、二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの暫定値に基づいて、散乱光強度の角度分布を計算により求める(ステップSA4)。ステップSA4で求まる散乱光強度の角度分布を、「散乱光強度分布計算値」ということとする。GHS理論によるBRDFモデルを用いて散乱光強度分布計算値を求める方法については、後に説明する。
【0024】
散乱光強度分布計算値が求まると、ステップSA2で求めた散乱光強度分布実測値と、ステップSA4で算出された散乱光強度分布計算値とを比較し、両者が第1フィッティング条件を満たすか否かを判定する(ステップSA5)。散乱光強度分布実測値と散乱光強度分布計算値とが第1フィッティング条件を満たすか否かの判定方法については、後に説明する。
【0025】
散乱光強度分布実測値と散乱光強度分布計算値とが第1フィッティング条件を満たさない場合、粗さ指標、すなわち二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの暫定値を修正し(ステップSA6)、散乱光強度分布計算値を再算出する(ステップSA4)。第1フィッティング条件が満たされるまで、二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの暫定値を修正する。散乱光強度分布実測値と散乱光強度分布計算値とが第1フィッティング条件を満たす場合は、現時点の粗さ指標、すなわち二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの暫定値を、二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの値として決定する(ステップSA7)。
【0026】
[散乱光強度分布計算値の算出]
次に、GHS理論によるBRDFモデルを用いて散乱光強度分布計算値を算出する方法について簡単に説明する。なお、GHS理論によるBRDFモデルについては、V. E. Johansen, "Preparing the generalized Harvey-Schack rough surface scattering method for use with the discrete ordinates method", J. of Optical Society of America, Vol.32, No.2, February 2015に詳細に説明されている。
【0027】
反射光強度の角度分布Iは、極座標系の極角及び方位角を用いて以下の式で記述することができる。
【数2】
ここで、λは、入射レーザビームの波長である。θ及びφは、それぞれ極座標系の極角及び方位角である。極角θ及び方位角φは、以下の式のように、方向余弦α、β、γで表すことができる。
【数3】
式(3)の3つの変数α、β、γのうち1つは、他の2つの変数を用いて表すことができる。下付き文字のiは入射角を表し、下付き文字のsは散乱角を表す。
【0028】
BRDFは双方向反射率分布関数であり、以下の式で記述される。
【数4】
ここで、R(θ)は、入射角で決まるフレネル反射放射強度である。ASFは、角度広がり関数であり、極角θ及び方位角φに代えて、方向余弦の変数α及びβを用いて記述することが可能である。また、一般性を損なうことなく、β=0と仮定することができる。すなわち、入射レーザビームの方位角φ=0°となるように、座標系を定義する。
【0029】
角度広がり関数ASFは、以下の式で定義される。
【数5】
ここで、下付き文字のoは、鏡面反射角を表す。式(5)の右辺第1項はASFの反射成分を表しており、右辺第2項のKは規格化のための繰込み定数である。右辺第2項のSはASFの散乱成分の分布を表しており、以下の式で定義される。
【数6】
ここで、Bは散乱光成分の比率であり、以下の式で定義される。
【数7】
Fは、フーリエ変換演算子であり、Gは表面形状の関数である。関数Gは、粗面の自己共分散Cs(式(1))を含んでいる。すなわち、粗面の二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcを変数として含んでいる。xハット及びyハットは、粗面上のx座標及びy座標を波長λでスケーリングした変数である。
【0030】
二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcの暫定値を決定すると、散乱光強度の角度分布I(式(2))を計算により求めることができる。
【0031】
[第1フィッティング条件を満たすか否かの判定]
第1フィッティング条件を満たすか否かの判定を行う前に、散乱光強度分布実測値に対してノイズ除去処理を行う。ノイズ除去を行う方法の候補として、フーリエ解析法、多重解像度解析法、特異スペクトル解析法等が挙げられる。
【0032】
図4A図4B図4Cに、それぞれフーリエ解析法、多重解像度解析法、特異スペクトル解析法を用いてノイズ除去を行った場合のノイズ除去前及びノイズ除去後の散乱光強度分布実測値の例を示す。横軸は角度θを表し、縦軸は相対強度を表す。細い折れ線が、ノイズ除去前の散乱光強度分布実測値を示し、太い滑らかな曲線がノイズ除去後の散乱光強度分布実測値を示す。
【0033】
ノイズ除去前の散乱光強度分布実測値とノイズ除去後の散乱光強度分布実測値との決定係数Rは、フーリエ解析法を用いた場合が0.987、多重解像度解析法を用いた場合が0.979、特異スペクトル解析法を用いた場合が0.981であった。第1フィッティング条件を満たすか否かの判定(ステップSA5)の判定精度を高めるために、ノイズ除去前の散乱光強度分布実測値とノイズ除去後の散乱光強度分布実測値との決定係数Rが高くなるノイズ除去方法を採用することが好ましい。
【0034】
フーリエ解析法を用いた場合に、決定係数Rが最も高くなっている。ところが、フーリエ解析法を用いた場合には、ノイズ除去前の散乱光強度分布実測値に対してノイズ除去後の散乱光強度分布実測値にオフセットが生じている。オフセットが発生せず、かつ高い決定係数Rが得られる特異スペクトル解析法を採用してノイズ除去を行うことが好ましい。
【0035】
特異スペクトル解析によって求められたノイズ除去後の散乱光強度分布実測値の良さを評価するために、赤池情報量基準(AIC)を用いる。AICは、以下の式で定義される。
【数8】
ここで、Rは決定係数、kは特異スペクトル解析における窓サイズである。図4Cに示した例に当てはめると、R=0.981、k=0.2であり、このときAIC=0.438になる。図4Cに示したように、AIC=0.438以下のとき、ノイズ除去後の分布は良いと評価することができる。特異スペクトル解析を行ってノイズ除去を行う際には、AICが0.438以下になるような決定係数R及び窓サイズkを使用することが好ましい。
【0036】
図5は、ノイズ除去前の散乱光強度分布実測値、ノイズ除去後の散乱光強度分布実測値、及び第1フィッティング条件を満たしたときの散乱光強度分布計算値の一例を示すグラフである。横軸は角度θを単位「°」で表し、縦軸は散乱光の相対強度を表す。図5において細い実線、太い実線、及び破線が、それぞれノイズ除去前の散乱光強度分布実測値、ノイズ除去後の散乱光強度分布実測値、及び散乱光強度分布計算値を示す。例えば、ノイズ除去後の散乱光強度分布実測値と散乱光強度分布計算値との決定係数Rが判定閾値以上のとき、第1フィッティング条件が満たされると判定する。判定閾値として、例えば0.9を採用することができる。
【0037】
なお、第1フィッティング条件として、2つの信号波形の類似度を評価するその他の方法を用いてもよい。
【0038】
[二乗平均平方根傾斜Rdqの算出]
図3は、二乗平均平方根傾斜Rdqの算出方法を示すフローチャートである。二乗平均平方根傾斜Rdqの算出に、Kコリレーションモデルを用いる。まず、Kコリレーションモデルのパラメータの暫定値を決定する(ステップSB1)。この暫定値の初期値は、例えば入出力装置25から入力される。
【0039】
Kコリレーションモデルにおいて、二次元ガウス分布の自己共分散ACV(r)は、以下の式で記述される。
【数9】
ここで、二次元平面を極座標で表した時の原点からの距離である。Kコリレーションモデルでは、自己共分散ACVは距離rのみの関数である。一次元の分布について解析する場合には、二次元平面をxy直交座標で表し、例えばy=0とおいて、ACVをxのみの関数として記述すればよい。式(9)のΓはガンマ関数であり、Kαは、α次の第2種変形ベッセル関数であり、a、b、cは、Kコリレーションモデルのパラメータである。ステップSB1では、3つのパラメータa、b、cの暫定値を決定する。
【0040】
次に、パラメータa、b、cの暫定値を用いて、式(9)により自己共分散ACV(r)を計算する(ステップSB2)。ステップSB2で計算により求めた自己共分散ACV(r)と、ステップSA7(図2)で決定した二乗平均平方根粗さRq及び表面相関長Lcに基づいて決まる自己共分散Cs(式(1))とを比較し、両者が第2フィッティング条件を満たすか否か判定する(ステップSB3)。例えば、2つの自己共分散のグラフの形状を決定係数Rで比較し、決定係数Rが判定閾値以上の場合、第2フィッティング条件が満たされると判定する。なお、2つの自己共分散のグラフの類似度を評価するその他の方法を用いてもよい。
【0041】
第2フィッティング条件が満たされない場合、パラメータa、b、cの暫定値を修正し(ステップSB4)、Kコリレーションモデルによる自己共分散ACV(r)を再計算する(ステップSB2)。第2フィッティング条件が満たされるまで、パラメータa、b、cの暫定値を修正する。第2フィッティング条件が満たされる場合、現時点のパラメータa、b、cの暫定値に基づいて、二乗平均平方根傾斜Rdqを算出する(ステップSB5)。
【0042】
次に、図6A図6Cを参照して、二乗平均平方根傾斜Rdqの算出方法について説明する。図6A図6Cは、それぞれパラメータa、b、cと二乗平均平方根傾斜Rdqの実測値との関係を示すグラフである。複数の試料の表面粗さを、接触式表面粗さ測定器を用いて測定し、二乗平均平方根傾斜Rdqを求めた。さらに、これらの試料の表面からの散乱光の強度分布を測定し、測定結果からパラメータa、b、cを求めた。各試料について求められたパラメータa、b、cと、二乗平均平方根傾斜Rdqとの関係を丸記号で示している。グラフ中の直線は、回帰直線を示す。
【0043】
図6A図6Cに示したように、二乗平均平方根傾斜Rdqは、パラメータa、cと正の相関関係を有しており、bと負の相関関係を有している。したがって、パラメータa、b、cの少なくとも1つが決定されると、図6A図6Cのいずれかの相関関係から、測定対象表面30Aの二乗平均平方根傾斜Rdqを推定することができる。
【0044】
図6A図6B図6Cの直線近似におけるR2乗値は、それぞれR=0.9142、R=0.8477、R=0.7801であった。パラメータaと二乗平均平方根傾斜Rdqとの関係のR2乗値が最も大きい。したがって、二乗平均平方根傾斜Rdqの推定に、パラメータaを用いることが好ましい。
【0045】
図6A図6Cでは、パラメータa、b、cのそれぞれと二乗平均平方根傾斜Rdqとの相関関係を求めたが、パラメータa、b、cを変数として含む関数f(a,b,c)を定義し、関数f(a,b,c)と二乗平均平方根傾斜Rdqとの相関関係を求めてもよい。二乗平均平方根傾斜Rdqの推定精度を高めるために、関数f(a,b,c)として、R2乗値がなるべく大きくなるようなものを採用するとよい。
【0046】
次に、上記実施例による方法によって求めた測定対象表面30Aの粗さ指標の精度について説明する。上記実施例による方法による算出精度を評価するために、同一の測定対象表面30Aを、接触式粗さ測定方法と、実施例による方法との2つの方法で測定し、二乗平均平方根粗さRqを求めた。
【0047】
図7は、接触式粗さ測定によって求めた二乗平均平方根粗さRqと、上記実施例による方法で求めた二乗平均平方根粗さRqとの関係を示すグラフである。横軸は、接触式粗さ測定方法で求めた二乗平均平方根粗さRqを単位「μm」で表し、縦軸は、実施例による方法で求めた二乗平均平方根粗さRqを単位「μm」で表す。図7のグラフ中の6個の丸記号は、6種類の測定対象表面30Aを測定した結果を示す。
【0048】
図7に示したグラフから、実施例による方法で測定した二乗平均平方根粗さRqは、接触式粗さ測定方法で測定した二乗平均平方根粗さRqとほぼ等しいことがわかる。図7に示した評価結果により、実施例による方法を用いることにより、十分高い精度で二乗平均平方根粗さRqを求めることができることが確認された。
【0049】
次に、図8を用いて他の実施例による表面粗さ測定装置について説明する。以下、図1図7に示した実施例による表面粗さ測定装置と共通の構成については説明を省略する。
【0050】
図8は、本実施例による表面粗さ測定装置の概略図である。図1に示した実施例では、光強度分布測定器15として、ガイド16に案内された直線移動する光検出器17が用いられている。これに対して図8に示した実施例では、光強度分布測定器15が、レンズ18及びカメラ19を含む。測定対象表面30Aで散乱された散乱光33が、レンズ18を通過してカメラ19の撮像面に入射する。
【0051】
図1に示した実施例では、入射レーザビームの反射光の経路と交差するように光検出器17が移動する。すなわち、入射レーザビームの反射光が光検出器17に入射する。これに対して図8に示した実施例では、入射レーザビームの反射光がレンズ18に入射しない。すなわち、入射レーザビームの反射光が光強度分布測定器15に入射しない。
【0052】
通常、散乱光の強度は、反射光の強度に比べて低い。反射光と散乱光とが、カメラ19に同時に入射すると、カメラ19のダイナミックレンジの問題から、散乱光の強度分布を高精度に測定することが困難である。図8に示した実施例では、反射光がカメラ19に入射せず散乱光のみが入射するため、散乱光の強度分布を高精度に測定することができる。GHS理論では、広範囲の散乱角を持つ散乱光の強度分布をモデル化することができるため、反射光を含まない散乱光を検出して測定対象表面の粗さ指標を推定することが可能である。
【0053】
レーザビームの入射位置が撮像面にデフォーカスされるように、レンズ18及びカメラ19が配置される。これにより、散乱光33の二次元強度分布を測定することができる。
【0054】
本実施例においては、散乱光強度分布を一次元分布として取り扱うこともできるし、二次元分布として取り扱うこともできる。散乱光強度分布を一次元分布として取り扱う場合には、散乱角φを0°に設定すればよい。散乱光強度分布を二次元分布として取り扱う場合には、散乱角φを0°以上360°未満の範囲で変化させればよい。
【0055】
次に、図9を参照してさらに他の実施例による表面粗さ測定装置について説明する。以下、図1図7に示した実施例による表面粗さ測定装置と共通の構成については説明を省略する。
【0056】
図9は、本実施例による表面粗さ測定装置の概略図である。図1に示した実施例では、入射レーザビームの反射光の経路と交差するように光検出器17が移動する。これに対して図9に示した実施例では、光検出器17の移動経路が、反射光の経路と交差しない。このため、反射光は光検出器17に入射しない。光検出器17のダイナミックレンジが狭く、反射光の高い強度と散乱光の低い強度との両方を測定できない場合には、本実施例の構成を採用することにより、散乱光強度分布を測定することができる。
【0057】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0058】
10 レーザ光源
11 支持機構
15 光強度分布測定器
16 ガイド
17 光検出器
18 レンズ
19 カメラ
20 処理装置
21 データ取得部
22 散乱光強度分布実測値算出部
23 粗さ指標算出部
25 入出力装置
30 測定対象物
30A 測定対象表面
33 散乱光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9