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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187791
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】検体検査用偏光発光粒子
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20221213BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20221213BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20221213BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C09K11/06
G01N33/545 A
G01N21/64 A
G01N21/78 C
C09K11/06 660
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095971
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】掛川 法重
(72)【発明者】
【氏名】増村 考洋
(72)【発明者】
【氏名】榊原 悌互
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 生朗
(72)【発明者】
【氏名】山内 文生
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
【テーマコード(参考)】
2G043
2G054
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA06
2G043EA01
2G043JA01
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA01
2G054AA04
2G054AA06
2G054EA03
2G054GA04
2G054GB02
(57)【要約】
【課題】 体から抗原や抗体などの測定対象物質を検出する際に、検出感度の高い粒子を提供する。
【解決手段】 希土類錯体を含む粒子であって、該粒子の粒度分布が動的光散乱による計測で、多分散指数(pdi)が0.1以下であり、該粒子の表面に親水性ポリマーが存在している事を特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類錯体を含む粒子であって、
該粒子の粒度分布が動的光散乱による計測で、多分散指数が0.1以下であり、
該粒子の表面に親水性ポリマーが存在していることを特徴とする、粒子。
【請求項2】
ポリスチレンと、シロキサン結合を含む粒子であって、
該粒子の表面に親水性ポリマーが存在し、
該粒子の内部に、希土類錯体を含み
該粒子の粒度分布が動的光散乱による計測で、多分散指数が0.1以下
であることを特徴とする、粒子。
【請求項3】
下記数式(4)により求められる偏光異方性<r>が0.1以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子。
【数1】
(式(4)中、
<r>・・・偏光異方性
VV・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
VH・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HV・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HH・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
G ・・・補正値
である)。
【請求項4】
前記希土類錯体が、ユウロピウム、テルビウム、ネオジム、エルビウム、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ツリウム、イッテルビウム、およびスカンジウムからなる群から選択される少なくとも一つの希土類元素を含むことを特徴とする、
請求項1または2に記載の粒子。
【請求項5】
前記粒子の表面にリガンドを結合できる官能基が存在し、
該官能基は
カルボキシ基、アミノ基、チオール基、エポキシ基、マレイミド基、およびスクシニミジル基からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項6】
前記親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドンであることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項7】
前記粒子の平均粒径が50nm以上400nm以下であることを特徴とする、
請求項1から6のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項8】
前記粒子は、16μLの血清を混合した60μLの緩衝液に、0.1重量%の前記粒子の分散液30μLを添加し、
37℃にて5分間放置した前後での、光路10mmにおける、波長572nmの吸収スペクトルの差が0.1以下であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項9】
請求項1または2に記載の粒子の製造方法であって、
少なくとも、スチレンを含むラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、並びに、ピロリドン環を有するユニットとリガンドを結合できる官能基を有するユニットとを含む共重合体を、水系媒体と混合して乳濁液を調製する第一の工程と、
前記乳濁液を撹拌し、前記ラジカル重合性モノマーを重合する第二の工程と、
を有することを特徴とする、粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の粒子を分散媒に分散する工程を含む、検査試薬の製造方法。
【請求項11】
前記検査試薬における前記粒子の平均粒径が50nm以上400nm以下である、請求項10に記載の検査試薬の製造方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の粒子と、リガンドを結合できる官能基に結合したリガンドと、を有するアフィニティー粒子。
【請求項13】
前記リガンドが、抗体、抗原、タンパク質及び核酸からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項12に記載のアフィニティー粒子。
【請求項14】
請求項12または13に記載のアフィニティー粒子と、該アフィニティー粒子を分散させる分散媒と、を有することを特徴とする体外診断用の検査試薬。
【請求項15】
凝集法による検体中の抗原または抗体の検出に用いられる、請求項14に記載の体外診断用の検査試薬。
【請求項16】
請求項14または15に記載の体外診断用の検査試薬と、該検査試薬を内包する筐体とを有することを特徴とする体外診断用の検査キット。
【請求項17】
検体中の標的物質の検出方法であって、
請求項14または15に記載の体外診断用の検査試薬に、検体を混合する工程を有することを特徴とする検出方法。
【請求項18】
蛍光偏光解消法による検体中の標的物質の検出方法であって、
請求項14または15に記載の体外診断用の検査試薬に、検体を混合して混合液を得る工程と、
前記混合液に、偏光光を照射する工程と、
前記混合液に照射された光により発した偏光を検出する工程と、を有することを特徴とする検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体検査用偏光発光粒子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、臨床検査の分野において、血液や採取された臓器の一部などから微量な生体成分を高感度で検出することは、病気の原因を追究するために必要である。生体成分の検出手法の中でも、免疫分析は広く利用されている。免疫分析の一つに、抗原抗体反応を利用したラテックス凝集法がある。ラテックス凝集法とは、生体試料などの液体中の標的物質である抗原を検出する場合、抗原に特異的に結合する抗体などを担持させたラテックス粒子と、液体とを混合して、ラテックス粒子の凝集の程度を測定することにより、標的物質である抗原の検出や定量を行う方法である。
【0003】
ラテックス凝集法では、標的物質である抗原がラテックス粒子に結合した標的結合物質である抗体に捕捉され、捕捉された抗原を介して複数のラテックス粒子が架橋し、その結果、凝集が起きる。つまり、生体試料などの液体試料中の標的物質である抗原の量は、ラテックス粒子の凝集の程度を評価することで定量できる。この凝集の程度は、液体試料を透過、あるいは散乱する光の量の変化を測定し、評価することで定量できる。
【0004】
ラテックス凝集法は、簡便かつ迅速に、標的物質である抗原の定量評価ができる一方、生体試料などの液体試料中における抗原の量が少ないと、検出できないという検出限度に課題があった。
【0005】
標的物質の検出感度を向上させるためには、液体試料に対して透過光を散乱させるシステムをより感度の高い発光特性を利用して検出する方法に置き換えることが挙げられる。具体的には蛍光偏光解消法を利用した検体検査方法などが提案されている(特許文献1、2)。
【0006】
特許文献1では、蛍光偏光解消法の装置を臨床目的で改良した提案がされている。蛍光偏光解消法では、蛍光測定法で問題となる測定物質と未反応の発光物質を事前に分離する、B/F(Bound/Free)分離といわれる洗浄工程を必要としないので、ラテックス凝集法と同じレベルで検体検査が可能となる。更に、測定プロセスも、測定物質と特異的に反応する発光物質を混合するだけなので、ラテックス凝集法と同様の検査システムで測定することが可能であると考えられる。しかし、特許文献1では、フルオレセインなどの単分子を発光材料に用いることを提案していて、原理的に薬物や低分子の抗原などにしか適用ができなかった。
【0007】
特許文献2では、特許文献1の課題である薬物や低分子の抗原などにしか適用ができないという点を解消するために、タンパク質などの高分子に蛍光偏光解消法を適用することを目的とし、発光材料としてラテックス粒子に長寿命の発光特性を有する色素を吸着した材料を用いることを提案している。特許文献2では、蛍光偏光解消法の原理から、粒径が大きくなることに伴う液中の物質の回転ブラウン運動の低下と、発光寿命の長さのバランスをとり、高分子でも測定できることを提案している。しかし、特許文献2では、粒子の表面における非特異吸着を抑制するため生体分子のウシ血清アルブミン(BSA)を担持させることにより、粒度分布が広がることや、タンパク質であるBSAによって、ロット間にばらつきが生じる可能性があった。従って、特許文献2においても、非常に高感度で標的物質である抗原を検出することを実現できているとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3-52575号公報
【特許文献2】特許第2893772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、蛍光偏光解消法で高感度な検体検査を可能とする発光粒子、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る粒子は、
希土類錯体を含む粒子であって、
該粒子の粒度分布が動的光散乱による計測で、多分散指数(pdi値)が0.1以下であり、該粒子の表面に親水性ポリマーが存在していることを特徴とする、粒子である。
【0011】
さらに、本発明に係る粒子は、
ポリスチレンと、シロキサン結合を含む粒子であり、
該粒子の表面に親水性ポリマーが存在し、
該粒子の内部に、希土類錯体を含み
該粒子の粒度分布が動的光散乱による計測で、多分散指数(pdi値)が0.1以下であることを特徴とする、粒子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粒子によれば、粒子が液中で凝集する反応を偏光測定によって高感度で検出することができる。
【0013】
また、粒子表面に親水性の層を形成しておくことで、BSAを用いることなく非特異吸着を抑制する効果が高い粒子であると考えられる。そのため、本発明の粒子を蛍光偏光解消法で用いる場合に感度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る粒子の構造を説明する概略図。
図2】実施例1、2、3、4、および5の試料の蛍光偏光測定の結果、求めた偏光異方性rの値と、粒子サイズの関係を説明する図。
図3】実施例6で評価した、CRP抗体を用いた抗原抗体反応を、蛍光偏光解消法を用いて定量した結果を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
本実施形態に係る粒子の一例について図1を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の粒子は、希土類錯体3を含有する粒子基質1、さらに、その表面を被覆している親水層2から構成される。
【0017】
本実施形態に係る粒子は、粒度分布が小さく、粒子の表面が親水性に被覆されている。該粒子内部には、偏光異方性を示す希土類錯体が存在する。
【0018】
図1は本実施形態に係る粒子の一例を示す概略図である。図1中の粒子(「発光粒子」と呼ぶこともできる)は球状である。発光粒子の平均粒径は25nm以上400nm以下であり、動的光散乱法で測定した時の多分散指数(以下「pdi」と略す。)が0.1以下である。
【0019】
溶液中に分散している粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測する時、粒子はブラウン運動によりその位置を絶えず移動しているため、散乱光の干渉による強度分布も絶えず揺らぐことになる。動的光散乱法は、このブラウン運動の様子を散乱光強度の揺らぎとして観測する測定法である。この時間に対する散乱光の揺らぎを自己相関関数で表し、並進拡散係数を決定する。決定した拡散係数からストークス径を求めて、溶液中に分散している粒子サイズが導き出せる。また、自己相関関数を、キュムラント解析することで、キュムラント径およびpdiを求めることができる。pdiは粒子径分布の多分散度を示すこととなり、この数値が小さいほど、粒度分布が揃っていることを示す。一般にはpdiが0.1以下であると、その粒子は溶媒中で単分散していると考えられている。
【0020】
本実施形態に係る粒子は、pdiが0.1以下である必要があり、できるだけ小さいほうが好適である。pdiが0.1を安定に切ることができる粒子であるためには、該粒子の表面に何も付与しないことが望ましい。しかし、目的以外の物質が粒子に非特異吸着することを防ぐ必要があるため、該粒子の表面を親水性に保つための被覆が必要である。
【0021】
一方で、一般的に使用されるBSAを担持する方法ではpdiが0.1以下を安定に保つことが難しい。BSAの担持法では、ロットばらつきもでることがある。そこで、親水性のポリマーを用いて、粒子サイズに対するpdiが0.1以下になるような粒子表面の被覆が必要である。
【0022】
本実施形態に係る発光粒子は、平均粒径が25nm以上400nm以下、好適には50nm以上400nm以下である。より好適には、平均粒径50nm以上200nm以下、の粒子が用いられる。平均粒径が400nm以上になると、凝集前の偏光異方性が高くなり、凝集反応後の偏光異方性との差が小さくなってしまう。また、平均粒径が25nm以下になると、抗原抗体反応時に粒径の大きさの変化が小さくなり、りん光の蛍光偏光解消では偏光異方性の変化を捉えることが難しくなる。なお、本明細書における平均粒径は数平均粒径であり、平均粒径は動的光散乱法により測定することができる。
【0023】
粒子の粒度分布を小さくすることと、偏光発光を示す希土類錯体を該粒子に導入することで、粒子の液中での分散状態にわずかな変化が起きたとしても、偏光発光特性の変化を捉えることができる。具体的には、溶液中の抗原濃度が1mL当たりナノグラム~ピコグラム程度であったとしても、抗原を介して粒子が凝集するサンドイッチ型の抗原抗体反応が起きたときに、粒子の回転ブラウン運動の変化を偏光異方性の変化として捉えることができる。
【0024】
偏光異方性を示す希土類錯体を用いることで、長寿命のりん光の偏光を発光することができる。ここでいう偏光異方性とは、遷移モーメント(遷移双極子モーメント)に異方性があることを意味する。偏光の発光は、一般に遷移モーメントに異方性がある発光色素の場合、その遷移モーメントに沿った偏光を励起光とすると、発光も同様に遷移モーメントに沿った偏光をすることを意味している。希土類錯体の場合、異方性を有する配位子を励起すると、配位子から中心金属イオンへのエネルギー移動に基づいた蛍光発光を示すため、偏光で配位子を励起することにより偏光を発光する。
【0025】
蛍光偏光解消の原理はこの偏光発光が起きている時間内における発光材料の回転運動による遷移モーメントのズレを計測するものである。発光材料の回転運動は数式(1)で表せる。
Q=3Vη/kT ・・・(1)
ここで、
Q:材料の回転緩和時間
V:材料の体積
η:溶媒の粘度
k:ボルツマン定数
T:絶対温度
である。
材料の回転緩和時間は、cosθ=1/eとなる角度θ(68.5°)を分子が回転するのに要する時間である。
【0026】
この数式1より、発光材料の回転緩和時間は材料の体積、つまり粒径の3乗に比例することがわかる。一方、蛍光偏光解消における材料の発光寿命と偏光度の関係は数式2で表せる。
p0/p=1+A(τ/Q)・・・(2)
ここで、
p0:材料が停止しているとき(Q=∞)の偏光度
p:偏光度
A:定数
τ:材料の発光寿命
Q:回転緩和時間
である。
数式(1)および数式(2)より、偏光度の変化を大きく計測するためには発光材料の発光寿命と回転緩和時間、すなわち発光材料の体積(粒径)の関係が重要であり、発光材料の粒径が大きいほど発光寿命も長くする必要がある。
【0027】
数式(2)で示した発光の偏光度を実験から求める場合、サンプルに偏光を入射し、励起光の進行方向および振動方向と90度方向に発光を検出すればよい。この時、検出光を入射光の偏光と平行と垂直方向の偏光成分に分けて検出し、数式3に示す数式で偏光度を評価すればよい。
r(t)=(I∥(t)―GI⊥(t))/(I∥(t)+2GI⊥(t))・・・(3)
ここで、
r(t):時間tにおける偏光異方性
I∥(t):時間tにおける励起光と平行な発光成分の発光強度
I⊥(t):時間tにおける励起光と垂直な発光成分の発光強度
G:補正値、サンプル測定に使用した励起光と振動方向が90度異なる励起光で計測したI⊥/I∥の比
である。
【0028】
つまり、適切な粒子サイズと発光寿命の範囲で有れば、抗原抗体反応などによる発光材料の粒子サイズの変化を鋭敏に偏光異方性の値として読み取ることが可能となる。なお、偏光異方性とは、Gおよび2Gで補正をした偏光度の値のことであり、偏光度は数式(3)からGおよび2Gを外した値となる。現実の測定では、Gの補正値が必要なので、偏光異方性を求めることとなる。
【0029】
さらに、本発明の発光粒子は、下記数式4により求められる偏光異方性<r>が0.1以上であることが好ましい、
【数1】
数式(4)中、
<r>・・・偏光異方性
VV・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
VH・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HV・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HH・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
G ・・・補正値
である。
【0030】
(粒子基質1)
図1中の粒子基質1は球状である。偏光異方性を示す希土類錯体を安定に取り込める材料であれば特に指定はないが、特にスチレンモノマーを主成分に重合したポリスチレン粒子、前記ポリスチレン粒子にシロキサン結合を含む重合体が含まれている粒子などが好適に用いることができる。ポリスチレン粒子は後述する乳化重合法で非常に粒度分布が揃った粒子を作製することが可能であり、シロキサン結合を含む重合体に存在するシラノールによって、後述する親水層やリガンドを付与することができる。
【0031】
(親水層2)
親水層2は、親水基を含む分子あるいはポリマーで構成されている。親水基を含む分子は、水酸基、エーテル、ピロリドン、ベタイン構造などを有する分子、ポリマーを意味する。具体的には親水層2はポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、スルホベタインやホスホベタインのポリマー、グリシジル基を開環し水酸基を分子の末端に修飾したポリグリシジルメタクリル酸等を主成分とする。あるいは、親水基を有する単分子をシリカ粒子の表面にシランカップリング剤等を用いて直接付与してもよい。親水層2の厚さに限定はないが、親水性を発揮できる厚さ以上に厚くする必要はない。親水層が厚すぎてもヒドロゲルの様になり、溶媒中のイオンの影響で水和した親水層の厚さが変化する可能性がある。親水層の厚さは1nm以上50nm以下が好適である。
【0032】
(希土類錯体3)
発光の波長や強度は周囲の影響を受けにくく、発光が長寿命であるという特徴から本発明における発光色素は偏光異方性を示す希土類錯体を用いる。希土類錯体3は希土類元素と配位子より構成されている。希土類元素は、ユウロピウム、テルビウム、ネオジム、エルビウム、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ツリウム、イッテルビウム、スカンジウムなどから選ばれる。発光寿命や可視の発光波長領域などを考慮すると、ユウロピウム、テルビウムが好適に用いることができる。例えば、ユウロピウムは一般に0.1~1.0msの発光寿命を有する。この発光寿命と、数式1より得られる回転緩和時間を適度に調整する必要がある。水分散液中のユウロピウムの場合、50nmから300nm程度の平均粒径の粒子サイズだと、抗原抗体反応前後において数式3で表される偏光異方性が大きく変化する。
【0033】
希土類錯体3を構成する配位子のうち、少なくとも一つは光集光機能を有した配位子である。光集光機能とは、特定の波長で励起し、エネルギー移動によって錯体の中心金属を励起する作用のことである。更に、光集光機能を有した配位子は遷移モーメントに異方性がある分子が選ばれる。例えばフェナントロリンなどが好適に用いられるが、この限りではない。また、希土類錯体3を構成する配位子にβ-ジケトン等の配位子が存在し、水分子の配位を防いでいることが好ましい。希土類イオンに配位しているβ-ジケトン等の配位子が、溶媒分子等へのエネルギーの移動による失活過程を抑制し、強い蛍光発光が得られる。
【0034】
希土類錯体3は、偏光異方性を示すならば、多核錯体であっても構わない。
希土類錯体3の偏光異方性は数式(3)で示される。媒体中で希土類錯体3のブラウン回転運動が停止しているとみなせる状態の時に、偏光異方性が0.1以上あることが望ましい。ブラウン回転運動が停止しているとみなせる状態とは、粒子の回転緩和時間が希土類錯体3の発光寿命よりも十分に長い状態のことを示す。
【0035】
本実施形態に係る粒子を分散した液体を用いると、高感度で粒子の凝集・分散の挙動に対して偏光発光の異方性を検出することができる。したがって、本実施形態に係る粒子を水溶媒に分散したコロイド液は、蛍光偏光解消法をもちいて高感度な抗体検査試薬として利用することができる。水溶媒には、緩衝液を用いることも可能である。また、本実施形態にかかる粒子を分散した液体の安定性を増すために、水溶媒中に、界面活性剤、防腐剤や増感剤などを添加してもよい。
【0036】
(粒子の製造方法)
次に、本実施形態に係る粒子の製造方法の一例を説明する。
本実施形態に係る粒子の製造方法は、ラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、偏光発光性希土類錯体、並びに、親水性ポリマーを水系媒体と混合して乳濁液を調製する工程を有する(第一の工程)。
【0037】
さらに、乳濁液を加熱し、モノマーを重合する工程(第二の工程)を有する。
本実施形態に係る発光粒子は、ラジカル重合性を有する二重結合を有する化合物を共重合し得られる発光粒子である。
【0038】
更に、後述するリガンドを結合できる官能基を発光粒子表面に付与する工程(第三の工程)を有する。ここで、リガンドを結合できる官能基としては、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、エポキシ基、マレイミド基、スクシニミジル基、または、シリコンアルコキシド基のいずれかを用いることができる。
【0039】
(ラジカル重合性モノマー)
ラジカル重合性モノマーは、少なくともスチレン系モノマーを含むことを特徴とする。更に、アクリレート系モノマー、メタクリレート系モノマーからなる群より選択されるモノマーが含まれていてもよい。例えば、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリロニトリル、アクリル酸メチルなどを挙げることができる。スチレン系モノマーに加えて、上記のモノマーの群より選択される少なくとも一つを用いることができる。すなわち、これらのモノマーの中から、単独であるいは複数種組み合わせて使用できる。また一つの分子内に二重結合を2つ以上有するモノマー、例えばジビニルベンゼンを架橋剤として用いてもよい。
【0040】
また、シロキサン結合を発光粒子に取り入れるために、有機シランを含むラジカル重合性モノマーを用いてもよい。有機シラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。これらのモノマーの群より選択される少なくとも一つを用いることができる。すなわち、これらの有機シラン化合物の中から、単独であるいは複数種組み合わせて使用してもよい。有機シランを含むラジカル重合性モノマーは、合成した発光粒子内で無機酸化物の骨格を作り、発光粒子の物理、化学的安定性を向上する役割がある。更に、発光粒子表面の親水性ポリマーとリガンドを結合できる官能基を有するユニットと、スチレンを含むポリマー微粒子の骨格材料との親和性を高める役割を果たす。
【0041】
更に、有機シランを含むラジカル重合性モノマーを用いることで、発光粒子の表面にシラノール基を付与することが出来る。シラノール基と親水性を示すポリマー、例えばPVポリビニルピロリドンとの水素結合により、ポリビニルピロリドンはより強固に発光粒子表面に吸着する。
【0042】
(ラジカル重合開始剤)
ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物などから広く使用することができる。具体的には、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム(NPS)、過硫酸カリウム(KPS)などをあげることができる。
【0043】
(親水性ポリマー)
非特異吸着を抑制するための親水性ポリマーは、エーテル、ベタイン、ピロリドン環等を有するユニットを含む親水性ポリマーであり、合成した発光粒子に含まれ、主に粒子表面に存在する。以下、ピロリドン環を有するポリマーを、「PVP」と略す。ポリマー微粒子の合成時から上記PVP投入することにより、ポリマー微粒子に非特異吸着抑制能と、リガンド結合能を一度に付与することが可能となる。すなわち、スチレンを含むラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、並びに、ピロリドン環を有するユニットとリガンドを結合できる官能基を有するユニットとを含む共重合体を、水系媒体と混合して乳濁液を調製することでできる。
合成時に投入したPVPは、ラジカル重合性モノマーよりも親水性なので、合成時に溶媒と生成中のポリマー微粒子との界面に存在する。ポリマー微粒子は、合成時にPVPのポリマー鎖を一部巻き込むことや、ピロリドン環とスチレン(ラジカル重合性モノマー)との相互作用などの物理・化学吸着によって、該粒子の表面にPVPを吸着する。また、発光粒子はシロキサン結合を含んでいても良く、スチレンモノマーに対するシロキサン結合を有するユニットの割合が40重量%以下であることが好ましい。
【0044】
PVPの分子量は10000以上100000以下が好ましく、40000以上70000以下がより好適である。分子量が10000未満だと、発光粒子表面の親水性が弱く、非特異吸着を起こし易くなる。分子量が100000より大きいと、発光粒子の表面の親水層が厚くなりすぎて、発光粒子がゲル化して扱いにくくなる。
【0045】
PVPに加えて、発光粒子合成時に保護コロイドとして親水性ポリマーを添加しても構わない。
【0046】
また、上記粒子は、16μLの血清を混合した60μLの緩衝液に、0.1重量%の粒子の分散液30μLを添加し、37℃にて5分間放置した前後で、光路10mmにおける、波長572nmの吸収スペクトルの差が0.1以下である。このような吸収スペクトルの差となる粒子は、血清中の夾雑物の非特異吸着が小さいため、好ましい。
【0047】
(水系媒体)
水溶液(水系媒体)は、媒体中に含まれる水が80%以上100%以下であることが好ましい。水溶液は、水や、水に可溶な有機溶媒、たとえばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンを水に混合した溶液が例示される。水以外の有機溶媒を20%より多く含有させると、発光粒子製造時に重合性モノマーの溶解が生じるおそれがある。
【0048】
また上記水溶液(水系媒体)は、有機シランを含むラジカル重合性モノマーを用いる場合は、pHが6以上9以下に予め調整されていることが好ましい。pHが6未満または9より大きい値であると、有機シラン化合物中のアルコキシド基、シラノール基が発光粒子の形成前に縮重合や他の官能基と反応してしまい、得られる粒子が凝集するおそれがある。本実施形態においては、ポリマー微粒子の形成前にアルコキシドを意図的に縮重合することは行わない。
【0049】
上記pHの調整は、pH緩衝剤を用いて調整することが好ましいが、酸、塩基で調製しても構わない。
【0050】
そのほかに、界面活性剤、消泡剤、塩、増粘剤などを水系媒体に対して10%以下の割合で添加して用いても構わない。
【0051】
本実施形態に係るポリマー微粒子の製造方法としては、まずpHが6乃至9に調整された水系媒体にPVPを溶解する。PVPの含有量は水系媒体に対して0.01重量%から10重量%、好ましくは、0.03重量%から5重量%である。0.01重量%以下だと、ポリマー微粒子への吸着量が少なく、その効果が発現されない。また10重量%以上だと水系媒体の粘度が上昇し、撹拌が十分に行えない可能性がある。
【0052】
続いて、ラジカル重合性モノマー(A)を上記水系媒体中に添加し乳濁液とする。この時、ラジカル重合性モノマー(A)に加えて有機シランを含むラジカル重合性モノマー(B)も上記水系媒体中に添加し乳濁液としてもよい。ラジカル重合性モノマー(A)と有機シランを含むラジカル重合性モノマー(B)の重量比は、6:4から10:0である。更に、調整したモノマー液に偏光発光性希土類錯体を混合する。この時、偏光発光性希土類錯体の溶解度が低い場合は非水溶性の有機溶媒を加えてもよい。偏光発光性希土類錯体とモノマーの重量比は1:1000から1:10である。
【0053】
ラジカル重合性モノマー(A)の比が6以下だと、粒子全体の比重が上がり、粒子の沈降が顕著となるおそれがある。また、有機シランを含むラジカル重合性モノマー(B)は必ずしも添加する必要はないが、PVPと発光粒子の密着性を上げるためには、有機シランを含むラジカル重合性モノマー(B)を添加する方がより好適である。
【0054】
水系媒体とラジカル重合性モノマー(A)、有機シランを含むラジカル重合性モノマー(B)合計量の重量比は、5:5から9.5:0.5が好ましい。水系媒体の比が5以下だと生成される発光粒子の凝集が顕著となるおそれがある。また、水系媒体の比が9.5以上であっても発光粒子の生成には問題ないが、生成量が少なくなるおそれがある。
【0055】
ラジカル重合開始剤は、水、緩衝剤などに溶解させて用いる。ラジカル重合性モノマー(A)、有機シランを含むラジカル重合性モノマー(B)合計の重量に対するラジカル重合開始剤は、0.5質量%から10質量%の間で用いることができる。
【0056】
上記乳濁液を加熱する工程は、乳濁液全体が均一に加熱されればよい。加熱温度は、50℃から80℃、加熱時間は2時間から24時間の間で任意に設定できる。乳濁液を加熱することにより、モノマーが重合される。
【0057】
リガンドを結合できる官能基としては、抗体、抗原、酵素などを結合できる官能基であれば特に限定はないが、例えば、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、エポキシ基、マレイミド基、スクシニミジル基、シリコンアルコキシド基などが挙げられる。リガンドを結合できる官能基を有するシランカップリング剤と、合成した発光粒子を混合することで、前記官能基を発光粒子表面に付与することが可能である。具体的には、カルボキシ基を有するシランカップリング剤の水溶液を用意して、合成した発光粒子分散液に混合することで、発光粒子表面にカルボキシ基を付与することができる。この時、反応溶液にTween20などの分散剤を添加してもよい。反応温度は、0℃から80℃、反応時間は1時間から24時間の間で任意に設定できる。急激なシランカップリング剤の縮合反応を抑えるために、25℃程度の室温からそれ以下の温度で、3時間から14時間程度の反応時間で設定することが好適である。リガンドを結合できる官能基によっては酸、またはアルカリの触媒を添加して、発光粒子表面への反応を促進させることもできる。
【0058】
本実施形態の粒子に各種の抗体などのリガンドを結合させることで、検体検査用粒子として利用することができる。親水層2に存在する官能基を利用して目的の抗体を結合させるための最適な手法を選択すればよい。
【0059】
(リガンド・アフィニティー粒子)
本実施形態では、本実施形態に係る粒子と、反応性官能基に結合したリガンドとを有するアフィニティー粒子を提供できる。
【0060】
本実施形態において、リガンドとは、特定の標的物質が有する受容体に特異的に結合する化合物のことである。リガンドが標的物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。例えば、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体、核酸などが例示されるが、本実施形態におけるリガンドはこれらに限定されない。核酸としてはデオキシリボ核酸などが挙げられる。本実施形態におけるアフィニティー粒子とは、標的物質に対して選択的または特異的に高い親和性(アフィニティー)を有する。本実施形態におけるリガンドは、抗体、抗原、および核酸のいずれかであることが好ましい。
【0061】
本実施形態において、本実施形態に係る粒子が有する反応性官能基とリガンドとを化学結合する化学反応は、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。また、リガンドをアミド結合させる場合は、1-[3-(ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド]等の触媒を適宜用いることができる。
【0062】
本実施形態におけるアフィニティー粒子が、リガンドとして抗体(抗原)、標的物質として抗原(抗体)を用いる場合、臨床検査、生化学研究等の領域において広く活用されている免疫ラテックス凝集測定法に好ましく適用できる。
【0063】
(体外診断用の検査試薬)
本実施形態における体外診断用の検査試薬、すなわち体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるための検査試薬は、本実施形態に係るアフィニティー粒子と、アフィニティー粒子を分散させる分散媒とを有する。本実施形態における検査試薬中に含有される本実施形態に係るアフィニティー粒子の量は、0.000001質量%から20質量%が好ましく、0.0001質量%から1質量%がより好ましい。本実施形態に係る検査試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、本実施形態に係るアフィニティー粒子の他に、溶剤やブロッキング剤などの第三物質を含んでも良い。溶剤やブロッキング剤などの第三物質は2種類以上を組み合わせて含んでも良い。本実施形態において用いる溶剤の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液などの各種緩衝液が例示されるが、本実施形態における検査試薬に含まれる溶剤はこれらに限定されない。
【0064】
本実施形態における検査試薬を、検体中の抗原または抗体の検出に用いる場合は、リガンドは、抗体または抗原を用いることができる。
【0065】
(検査キット)
本実施形態における体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるための検査キットは、上記試薬と、上記試薬を内包する筐体とを有する。本実施形態に係るキットとしては、抗原抗体反応時における粒子の凝集を促進させる増感剤を含有させても良い。増感剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。また、本実施形態に係る検査キットは、陽性コントロール、陰性コントロール、血清希釈液などを備えていても良い。陽性コントロール、陰性コントロールの媒体として、測定しうる標的物質が含まれていない血清、生理食塩水の他、溶剤を用いても良い。本実施形態に係る検査キットは、通常の体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットと同様にして、本実施形態に係る標的物質の検出方法に使用できる。また、従来公知の方法によって標的物質の濃度も測定することができ、特に、ラテックス凝集法による検体中の標的物質の検出に用いることが好適である。
【0066】
(検出方法)
本実施形態における体外診断による検体中の標的物質の検出方法は、本実施形態に係るアフィニティー粒子と、標的物質を含む可能性のある検体とを混合する工程を有する。また、本実施形態に係るアフィニティー粒子と検体との混合は、pH3.0からpH11.0の範囲で行われることが好ましい。また、混合温度は20℃から50℃の範囲であり、混合時間は1分から60分の範囲である。また、本検出方法は、溶剤を使用することが好ましい。また、本実施形態に係る検出方法における本実施形態に係るアフィニティー粒子の濃度は、反応系中、好ましくは0.000001質量%から1質量%、より好ましくは0.00001質量%から0.001質量%である。本実施形態に係る検体中の標的物質の検出方法は、本実施形態に係るアフィニティー粒子と検体との混合の結果として生じる凝集反応を蛍光偏光解消法にて検出することが好ましい。具体的には、検査試薬に、検体を混合して混合液を得る工程と、混合液に、偏光光を照射する工程と、混合液中のアフィニティー粒子の発光の偏光成分を分けて検出する工程を有する。
【0067】
混合液において生じる上記凝集反応を光学的に検出することで、検体中の標的物質が検出され、更に標的物質の濃度も測定することができる。
【実施例0068】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0069】
(1)発光粒子1~8の作製
pH7のMES(2-モルホリノエタンスルホン酸)緩衝液(キシダ化学社製)にポリビニルピロリドン(PVP-K30:東京化成工業社製)、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製、以下SDSと略)を溶解して溶媒Aを調整した。偏光発光希土類錯体[トリス(2-セノイルトリフルオロアセトナト)(1,10-フェナントロリンユウロピウム(III)]([Tris(2-thenoyltrifluoroacetonato)(1,10-phenanthroline)europium(III)])(セントラルテクノ株式会社製、以下「Eu(TTA)Phen」と略)、スチレンモノマー(キシダ化学社製)、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、以下「MPS」と略す。)を混合して反応液Bを調整した。溶媒Aを含む4つ口フラスコ中に、反応液Bを添加してメカニカルスターラーを300rpmに設定して攪拌を行った。窒素フロー条件下で30分攪拌後、用意していた油浴の温度を70℃に設定して更に30分窒素フローを行った。混合液を加熱攪拌後、過硫酸カリウム(以下、「KPS」と略す。)(アルドリッチ社製)が溶解した水溶液を反応溶液内に加えて10時間乳化重合を行った。重合反応後、得られた懸濁液を遠心分離して上清を除去し、更に純水で沈殿物を再分散させた。この遠心分離と再分散の操作を3回繰り返して生成物の洗浄を行った。得られた沈殿物を純水で再分散して、発光粒子1~8の分散液を得た。上記発光粒子1~8の作製で使用した各試薬の質量比を表1に示す。
【0070】
ただし、発光粒子5の作製では、SDSをPVP-K30と共に添加している。さらに、発光粒子7および発光粒子8の作製では、パラスチレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業社製、以下PSSNaと略)を質量比で0.008添加している。
【0071】
【表1】
【0072】
乳化重合により得られた発光粒子1~8の分散液を分取してTween20(キシダ化学社製)が1質量%溶解している水溶液に添加した。10分間攪拌後、シランカップリング剤、X12-1135(信越化学工業社製)を添加して一晩攪拌した。攪拌後、分散液を遠心分離し、上清を除去して沈殿物を純水で再分散した。遠心分離と再分散の作業を3回以上行い、生成物を洗浄した。洗浄後の沈殿物を純水に再分散させて、発光粒子1~8を得た。仕込んだ発光粒子、純水、X12-1135の質量比は、1:300:2とした。
【0073】
(実施例1)
合成した発光粒子5に相当する試料を、0.001mg/mLの濃度に純水で希釈した粒子分散液を調整した。
【0074】
(実施例2)
合成した発光粒子1に相当する試料を、0.001mg/mLの濃度に純水で希釈した粒子分散液を調整した。
【0075】
(実施例3)
合成した発光粒子2に相当する試料を、0.001mg/mLの濃度に純水で希釈した粒子分散液を調整した。
【0076】
(実施例4)
合成した発光粒子3に相当する試料を、0.001mg/mLの濃度に純水で希釈した粒子分散液を調整した。
【0077】
(実施例5)
合成した発光粒子4に相当する試料を、0.001mg/mLの濃度に純水で希釈した粒子分散液を調整した。
【0078】
(実施例6)
(抗CRP抗体修飾アフィニティー粒子の作製)
合成した発光粒子6に相当する1.2wt%の発光粒子分散液を0.25mL分取し、1.6mLのpH6.0のMES緩衝液で溶媒を置換した。発光粒子MES緩衝液に: 1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミドおよびN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウムを0.5wt%添加し、25℃、で1時間反応させた。反応後、分散液をpH5.0のMES緩衝液で洗浄し、抗CRP抗体を100μg/mL添加し、25℃で2時間抗CRP抗体を粒子に結合させた。結合後、粒子をpH8のTris緩衝液で洗浄した。反応後、粒子をリン酸緩衝液で洗浄し、0.3wt%濃度の抗CRP抗体修飾アフィニティー粒子を得た。
【0079】
粒子に抗体が結合していることは、抗体を加えた緩衝液中の抗体濃度の減少量をBCAアッセイで測定することで確認した。
【0080】
得られた抗CRP抗体修飾アフィニティー粒子を、MES緩衝液で希釈したCRP抗原と混合する前後で蛍光偏光の変化を観察した。抗CRP抗体修飾アフィニティー粒子は0.0001mg/mLに固定して、CRPの抗原濃度は0~1000pg/mLで検討した。観察温度は常温で行った。蛍光偏光の測定方法は後述する。
【0081】
(比較例1)
発光粒子7をリン酸緩衝液に分散し、0.01mg/mL濃度の分散液を調整した。分散液にBSAを0.1wt%添加し25℃で一晩反応させた。反応後遠心分離を行い、上清を洗浄、沈殿を再分散することで0.001mg/mLの粒子分散液を得た。
【0082】
(比較例2)
発光粒子8をリン酸緩衝液に分散し、0.01mg/mL濃度の分散液を調整した。分散液にBSAを0.1wt%添加し25℃で一晩反応させた。反応後遠心分離を行い、上清を洗浄、沈殿を再分散することで0.001mg/mLの粒子分散液を得た。
【0083】
(比較例3)
粒子サイズ400nmの、ユウロピウム錯体を含む発光粒子(多摩川精機社製)を純水にて0.001mg/mLに希釈して粒子分散液を得た
【0084】
(生成物の評価)
実施例および比較例における生成物は、以下の様な評価を行った。
生成物の形状は、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー製 S5500)を用いて評価した。
【0085】
生成物の平均粒径は、動的光散乱(マルバーン製 ゼータサイザー ナノS)を用いて評価した。
【0086】
生成物を分散した懸濁液の濃度は、重量分析装置(リガク製 サーモプラス TG8120)を用いて評価した。
【0087】
生成物の蛍光スペクトルは、励起光340nmで、励起側と発光側の光路に偏光子を入れて測定した。偏光子の向きは、励起側を固定して、発光側を励起側に対して平行あるいは垂直の向きに設置して測定を行った。装置は日立ハイテクサイエンス製 分光蛍光光度計F-4500を用いた。偏光発光を解析する観察光のピーク波長は、611nmとした。得られた偏光発光のデータを上記した数式3で解析することで、偏光度(偏光異方性)rを求めた。
【0088】
生成物の非特異凝集抑制評価は以下の通りに行った。
実施例1~5及び比較例1~3で作製した各発光粒子分散液(3mg/mL)を30μlの緩衝液で15倍に希釈した人血清溶液60μlを添加し、37℃で5分保温した。保温の前後で527nmの吸光度を測定し、保温前後での吸光度の変化量を3回測定した。表2に3回の平均値を示す。吸光度×10000の値の変化量が1000未満を非特異凝集が抑制されているとし、1000以上を非特異凝集が起こっていると評価した。
【0089】
(性能評価)
非特異凝集抑制評価の結果、実施例1~5および比較例1~3の全てにおいて吸光度の変化が、規定の数値以下すなわち、0.01以下であり、非特異吸着を抑制することができる発光粒子であることを確認した。
【0090】
実施例1~5および比較例1~3の粒子材料の構造と物性を表2に示す。
【表2】
【0091】
実施例1、2、3、4、および5の発光粒子の粒子サイズは、それぞれ25、105、204、269、349nmであり、pdiの値もそれぞれ0.086、0.077、0.01、0.09、0.082と、0.1を切る単分散な粒子であることを確認した。偏光測定の結果求めた偏光異方性rの値と、粒子サイズの関係を図2に示す。
【0092】
図2より、粒子サイズと偏光異方性に極めて高い相関があることを確認した。一方、比較例1および2の発光粒子のサイズは、140nmおよび206nmではあるが、pdiが0.129および0.173であり、粒度分布が広いことを確認した。更に、比較例1および2では偏光異方性rが、図2に示す近似曲線よりも高い位置にあり、粒度分布が広いことで偏光異方性と粒子サイズの線形な相関から外れていることを確認した。
【0093】
比較例3の発光粒子の粒子サイズは400nmであり、動的光散乱法で測定した時の多分散指数pdiは0.23であった。この発光粒子の偏光異方性rは0.05となり、図2に示す近似曲線よりも低い位置にあることを確認した。ユウロピウムの発光寿命(0.1~1ミリ秒)と400nmの粒子の回転緩和時間(約6.4ミリ秒)を考慮すると、比較例3の試料は十分な偏光異方性を発現する粒子サイズであり、偏光異方性が高いことが予測できる。しかしながら、偏光異方性の値が低いということは、ユウロピウム錯体の偏光異方性が小さい粒子であることを意味している。
【0094】
表3および図3に、実施例6で評価した、抗CRP抗体を用いた抗原抗体反応を、蛍光偏光解消法を用いて定量した結果を示す。
【表3】
【0095】
表3および図3より、CRP抗原の濃度に応じて、抗原抗体反応前後での偏光異方性の変化量が変化していることを確認した。CRPの抗原濃度は極めて小さく、通常のラテックス凝集法(ng/mLオーダー)では検出できない領域である。また、BSAを用いた発光粒子では、粒度分布の広さに起因して偏光異方性の数値が予測から外れるため、低濃度の標的物質を検出する場合、正確に変化率を計測することが困難である。
【0096】
以上のことから、本実施例に係る発光粒子材料は、高い粒子精度を有している偏光発光性の材料であることが明らかとなった。
【0097】
よって、本実施例に係る粒子を用いると、極めて検出感度が高い、偏光蛍光解消法用の検体検査用粒子を提供することができる。特に、検出する偏光異方性のブレを小さくする効果に優れているため、低濃度の標的物質の検出に適している。
【符号の説明】
【0098】
1 粒子基質
2 親水層
3 希土類錯体
図1
図2
図3