IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 一般財団法人生産技術研究奨励会の特許一覧

特開2022-187795めっきされた金属と樹脂との複合部材の製造方法および複合部材
<>
  • 特開-めっきされた金属と樹脂との複合部材の製造方法および複合部材 図1
  • 特開-めっきされた金属と樹脂との複合部材の製造方法および複合部材 図2
  • 特開-めっきされた金属と樹脂との複合部材の製造方法および複合部材 図3
  • 特開-めっきされた金属と樹脂との複合部材の製造方法および複合部材 図4
  • 特開-めっきされた金属と樹脂との複合部材の製造方法および複合部材 図5
  • 特開-めっきされた金属と樹脂との複合部材の製造方法および複合部材 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187795
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】めっきされた金属と樹脂との複合部材の製造方法および複合部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095975
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】801000049
【氏名又は名称】一般財団法人生産技術研究奨励会
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】梶原 優介
(72)【発明者】
【氏名】木村 文信
(72)【発明者】
【氏名】陳 偉彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由華
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 英二
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA34
4F206AD03
4F206AD27
4F206AD28
4F206AD33
4F206AH18
4F206AR12
4F206AR13
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
4F206JM04
4F206JN11
(57)【要約】
【課題】母材と樹脂とを接合してなる複合部材において、母材を構成し得る材料のバリエーションを広げること。
【解決手段】複合部材の製造方法(M10)は、母材(11)と、母材(11)を覆う金属被膜(12)と、金属被膜(12)の表面に接合された樹脂(樹脂部材13)と、を含む複合部材(10)の製造方法であって、金属被膜(12)の表面を覆う酸化膜(自然酸化膜)を除去する除去工程(S12)と、前記表面に熱水処理を施す熱水処理工程(S13)と、前記表面に樹脂を接合する接合工程(S14)と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、当該母材の少なくとも一部を覆う金属被膜と、当該金属被膜の表面に接合された樹脂と、を含む複合部材の製造方法であって、
前記金属被膜の表面を覆う酸化膜を除去する除去工程と、
前記除去工程を実施された前記表面に熱水処理を施す熱水処理工程と、
前記熱水処理工程を実施された前記表面に樹脂を接合する接合工程と、を含む、
ことを特徴とする複合部材の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程は、前記表面に対してブラスト加工を施す工程であり、
当該ブラスト加工において、噴射材の粒子径は、10μm以上710μm以下であり、且つ、噴射圧力は、0.05MPa以上2.0MPa以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程は、前記表面に対して酸処理を施す工程である、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項4】
前記熱水処理工程において、水の温度は、50℃以上100℃以下であり、且つ、処理時間は、10秒以上100分以下である、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項5】
前記熱水処理工程において、水の電気伝導度は、0.05μS/cm以上10μS/cm以下である、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項6】
母材と、
当該母材の少なくとも一部を覆う金属被膜であって、当該金属被膜を構成する金属の水酸化物および酸化物の少なくとも何れかにより構成された針状構造が表面に設けられている金属被膜と、
当該金属被膜の表面に接合された樹脂と、を備えている、
ことを特徴とする複合部材。
【請求項7】
前記表面の算術平均傾斜は、0.10以上0.60以下である、
ことを特徴とする請求項6に記載の複合部材。
【請求項8】
前記表面の二乗平均平方根傾斜は、0.20以上0.70以下である、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の複合部材。
【請求項9】
前記針状構造を含む前記水酸化物および酸化物の少なくとも何れかからなる層の厚みは、50nm以上2000nm以下である、
ことを特徴とする請求項6~8の何れか1項に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材と、母材の少なくとも一部を覆う金属被膜と、金属被膜の表面に接合された樹脂と、を含む複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表面にアルミ水酸化膜が形成されたアルミ部材と、前記アルミ水酸化膜が形成された前記アルミ部材の表面に直接接触する樹脂部材と、を備える複合部材に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1の図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-131492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術を採用する場合、母材を構成する材料は、アルミニウムに限定される。
【0005】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、母材と樹脂とを接合してなる複合部材において、母材を構成し得る材料のバリエーションを広げることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る複合部材の製造方法は、母材と、当該母材の少なくとも一部を覆う金属被膜と、当該金属被膜の表面に接合された樹脂と、を含む複合部材の製造方法である。本複合部材の製造方法は、前記金属被膜の表面を覆う酸化膜を除去する除去工程と、前記除去工程を実施された前記表面に熱水処理を施す熱水処理工程と、前記熱水処理工程を実施された前記表面に樹脂を接合する接合工程と、を含む。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の第6の態様に係る複合部材は、母材と、当該母材の少なくとも一部を覆う金属被膜であって、当該金属被膜を構成する金属の水酸化物および酸化物の少なくとも何れかにより構成された針状構造が表面に設けられている金属被膜と、当該金属被膜の表面に接合された樹脂と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、母材と樹脂とを接合してなる複合部材において、母材を構成し得る材料のバリエーションを広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る複合部材の斜視図である。
図2図1に示した複合部材の断面図である。
図3図1に示した接合領域であって、樹脂を接合する前の状態の接合領域のSEM画像である。上段のSEM画像は、倍率が20,000倍であり、下段のSEM画像は、倍率が40,000倍である。
図4図1に示した複合部材の一変形例の断面図である。
図5】左図は、本発明の第2の実施形態に係る複合部材の製造方法のフローチャートである。右図は、左図に示した複合部材の製造方法に含まれる各工程を実施したあとの接合領域の断面図である。
図6図5の左図に示した複合部材の製造方法に含まれる除去工程の変形例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る複合部材10について、図1図4を参照して説明する。図1は、複合部材10の斜視図である。図2は、複合部材10の断面図であって、図1に示したA-A’線に沿った断面図である。図3は、複合部材10の接合領域122であって、樹脂部材13を接合する前の状態の接合領域122の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。上段のSEM画像は、倍率が20,000倍であり、下段のSEM画像は、倍率が40,000倍である。なお、樹脂部材13を接合する前の状態とは、図5に示した熱水処理工程S13を実施し、且つ、図5に示した接合工程S14を実施していない状態を意味する。なお、熱水処理工程S13および接合工程S14を含む複合部材の製造方法M10については、第2の実施形態において後述する。
【0011】
図1に示すように、複合部材10は、母材11と、金属被膜12と、樹脂部材13と、を備えている。
【0012】
<母材および金属被膜>
図1に示すように、母材11は、板状に成形されている。本実施形態においては、母材11を構成する材料としてハイテン鋼を用いる。ただし、母材11を構成する材料は、ハイテン鋼に限定されず、用途に応じて適宜選択することができる。母材11を構成する材料は、金属、ガラス、セラミック、および樹脂の何れであってもよい。すなわち、複合部材10において、母材11は、発明の名称に記載されためっきされた金属に限定されない。
【0013】
本実施形態において、図1に示すように、母材11を構成する一対の主面のうち一方の主面には、金属被膜12が形成されている。すなわち、本実施形態において、母材11の一部である一方の主面は、金属被膜12により覆われている。ただし、母材11のうち金属被膜12により覆われている領域は、後述する樹脂部材13が接合される領域である接合領域122を包含していればよく、母材11の表面の一部であってもよいし、母材11の表面の全部であってもよい。
【0014】
本実施形態においては、金属被膜12を構成する材料として亜鉛を採用している。また、本実施形態においては、母材11の一方の主面に対して、めっき法を用いて金属被膜12を形成している。ただし、金属被膜12を構成する材料は、金属であればよく亜鉛に限定されない。なお、金属被膜12を構成する材料は、めっき法を用いて金属被膜12を形成可能な材料であることが好ましい。また、母材11の一方の主面に対して金属被膜12を形成する方法は、めっき法に限定されない。すなわち、複合部材10において、金属被膜12は、発明の名称に記載されためっきあるいはめっき膜に限定されない。
【0015】
以上のように、本実施形態では、母材11および金属被膜12として、亜鉛めっきされたSPFC780と呼ばれるハイテン鋼板を用いている。金属被膜12の厚みは限定されないが、典型的には1μm以上50μm以下である。本実施形態においては、金属被膜12の厚みを25μmとする。
【0016】
<樹脂部材>
図1に示すように、樹脂部材13は、直方体状に成形されている。本実施形態においては、樹脂部材13を構成する材料としてポリフェニレンスルファイド(PPS)樹脂を用いる。ただし、樹脂部材13を構成する材料は、樹脂であればPPS樹脂に限定されず、用途に応じて適宜選択することができる。樹脂部材13を構成する材料は、PPS樹脂以外に、エンジニアリングプラスチックであってもよいし、スーパーエンジニアリングプラスチックであってもよいし、ガラス繊維や炭素繊維などを含む繊維強化プラスチックであってもよい。また、樹脂部材13を構成する材料は、接着剤として好適な樹脂であってもよい。接着剤として好適な樹脂の一例としては、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0017】
<接合領域>
以下において、金属被膜12の主面121を主面121の法線方向から見た場合に、金属被膜12と樹脂部材13とが重なる領域を接合領域122と呼ぶ。図1においては、接合領域122を仮想線(二点鎖線)で図示している。
【0018】
第2の実施形態において図5を参照して説明するが、主面121の接合領域122を含む領域には、ブラスト加工を用いた除去工程S12と、熱水処理工程S13とが施されている。
【0019】
ブラスト加工を用いた除去工程S12を接合領域122に施すことによって、接合領域122の表面に生じていた自然酸化膜は除去され、さらに、接合領域122の表面にはマイクロサイズの凹凸構造123が形成される(図2参照)。
【0020】
また、除去工程S12のあとに熱水処理工程S13を実施することによって、接合領域122の凹凸構造123の表面には亜鉛の水酸化物および酸化物により構成された針状構造124が形成される(図2参照)。ただし、針状構造124は、亜鉛の水酸化物および酸化物により構成されていてもよいし、亜鉛の水酸化物および酸化物の少なくとも何れかにより構成されていてもよい。なお、接合領域122の凹凸構造123の表面に形成された針状構造124の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を図3に示す。上段のSEM画像は、倍率が20,000倍であり、下段のSEM画像は、倍率が40,000倍である。
【0021】
亜鉛の水酸化物と亜鉛の酸化物とを比較した場合、亜鉛の水酸化物のほうが樹脂に対する濡れ性が高い。したがって、針状構造124が亜鉛の水酸化物および酸化物により構成されていている場合、針状構造124における水酸化物の割合を高めることによって、金属被膜12と樹脂部材13との間における接合強度を高めることができる。
【0022】
樹脂部材13は、その一部が接合領域122に重なるように射出成形されることによって、接合領域122に対して接合されている。樹脂部材13を構成する樹脂が接合領域122に射出されたとき、その樹脂は流動性を有している。したがって、流動性を有する樹脂は、熱水処理工程S13により生成された針状構造の隙間に充填され、射出された樹脂は、やがて硬化する(図2参照)。
このように、複合部材10においては、母材11の少なくとも一部が金属被膜12により覆われており、金属被膜12の主面121の少なくとも一部である接合領域122に硬化した樹脂である樹脂部材13が接合されている。そのため、母材11を構成する材料は、表面の一部を金属被膜12で覆うことができる材料であればよい。すなわち、母材11の材料は、めっき法により表面に金属被膜12を形成可能な材料であればよい。したがって、母材11を構成する材料は、特許文献1のようにアルミニウムに限定されないので、複合部材10においては、母材を構成し得る材料のバリエーションを広げることができる。また、複合部材10においては、母材11の主面の少なくとも一部が金属被膜12により覆われている場合であっても、特許文献1の技術の場合と同様にアンカー効果を得ることができるので、金属被膜12と樹脂部材13との間における接合強度を、特許文献1の技術の場合と同程度まで高めることができる。
【0023】
(算術平均傾斜および二乗平均平方根傾斜)
接合領域122において、主面121の算術平均傾斜RΔaは、0.10以上0.60以下である、ことが好ましく、0.15以上0.55以下である、ことがより好ましく、0.17以上0.50以下である、ことが特に好ましい。また、接合領域122において、主面121の二乗平均平方根傾斜RΔqは、0.20以上0.70以下である、ことが好ましく、0.25以上0.65以下である、ことがより好ましく、0.27以上0.60以下である、ことが特に好ましい。
【0024】
算術平均傾斜RΔaおよび二乗平均平方根傾斜RΔqは、いずれも、狭い空間にどれだけ傾斜があるかを示す指標として用いられる。
【0025】
算術平均傾斜RΔaが小さくなるほど接合強度は小さくなりやすい。算術平均傾斜RΔaが0.10以上である場合、12MPa程度の実用的な接合強度を得ることができ、算術平均傾斜RΔaが0.15以上である場合、20MPa程度の更に実用的な接合強度を得ることができる。特に、算術平均傾斜RΔaが0.17以上である場合には、自動車等の構造部品の溶接にも十分な接合強度を得ることができる。また、算術平均傾斜RΔaが0.60以下であれば、ブラスト加工による除去工程S12の実施が可能である。特に、算術平均傾斜RΔaが0.55以下である場合、ブラスト可能による除去工程S12の実施が容易であり、算術平均傾斜RΔaが0.50以下である場合、ブラスト加工による粗面化が更に容易である。
【0026】
二乗平均平方根傾斜RΔqの場合も同様に、二乗平均平方根傾斜RΔqが小さくなるほど接合強度は小さくなりやすい。二乗平均平方根傾斜RΔqが0.20以上である場合、12MPa程度の実用的な接合強度を得ることができ、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.25以上である場合、20MPa程度の更に実用的な接合強度を得ることができる。特に、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.27以上である場合には、自動車等の構造部品の溶接にも十分な接合強度を得ることができる。また、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.70以下であれば、ブラスト加工による除去工程S12の実施が可能である。特に、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.65以下である場合、ブラスト加工による除去工程S12の実施が容易であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.60以下である場合、ブラスト加工による除去工程S12の実施が更に容易である。
【0027】
(水酸化物および酸化物からなる層の厚み)
針状構造124を含む水酸化物および酸化物からなる層の厚みt(図2参照)は、50nm以上2000nm以下であることが好ましく、100nm以上1000nm以下であることがより好ましい。本実施形態において、厚みtは、500nmである。
【0028】
厚みtが50nm未満である場合、実用的な接合強度を得ることが難しい。これは、得られるアンカー効果が小さいためである。一方、厚みtが2000nmを上回る場合、水酸化物および酸化物の少なくとも何れかの構造は、針状構造の代わりに多孔質構造をとりやすくなる。その場合、樹脂が多孔質構造の内部に浸透しにくくなるため、実用的な接合強度を得ることが難しい。これも、得られるアンカー効果が小さいためである。したがって、厚みtが50nm以上2000nm以下であることにより、水酸化物および酸化物の構造を、アンカー効果を得るための好適な針状構造にすることができる、結果として、接合強度を高めることができる。
【0029】
厚みtが100nm未満である場合、アンカー効果が十分でなく、実用的な接合強度が得られにくい。また、厚みtが1000nmを上回る場合、水酸化物の膜が脆くなることから荷重がかかった時に水酸化物の膜が破断しやすい。したがって、厚みtが100nm以上1000nm以下であることにより、実用的な接合強度を担保するとともに、荷重により生じ得る水酸化物の膜の破断を生じ難くすることができる。
【0030】
<複合部材の用途>
複合部材10の用途としては、例えば、自動車用の構造用のメンバー(例えば、サスペンションメンバー)や電機部品などがあげられる。
【0031】
複合部材10を構造用のメンバーの一部として用いる場合、母材11および金属被膜12として亜鉛めっきされたハイテン鋼板を用い、樹脂部材13を構成する材料としてはエンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックなどを用いることが好ましい。
【0032】
また、複合部材10を電機部品の一部として用いる場合、端子などの金属製の部品を樹脂でモールドしたものが考えられる。この場合、母材11および金属被膜12として表面にめっき処理を施した銅を用い、樹脂部材13を構成する材料としてPPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、及びPPA(ポリフタルアミド)樹脂の何れかを用いることが好ましい。
【0033】
単純に金属製(例えば銅製)の端子を樹脂でモールドしただけでは、金属と樹脂との界面に隙間が生じやすく、その隙間から大気中の湿気などが侵入しやすい。モータや、パワーコントロールユニットなどの電機部品は、湿気を嫌う。そのため、従来は、湿気の侵入を抑制するために、エポキシ樹脂などを用いて、端子と樹脂との界面をさらに封止していた。複合部材10、アンカー効果により銅と樹脂との界面に隙間が生じにくいので、エポキシ樹脂などを用いた封止を省略することができる。すなわち、端子などの金属製の部品を樹脂でモールドするだけで、モードルの内部を封止でき、かつ、気密性を高めることができる。
【0034】
<変形例>
複合部材10の変形例である複合部材20について、図4を参照して説明する。図4は、複合部材10の一変形例である複合部材20の断面図である。
【0035】
複合部材10においては、金属被膜12の接合領域122に対して、射出成形により成形した樹脂部材13を接合していた。複合部材20では、2組のハイテン鋼板である、母材11Aおよび金属被膜12Aと、母材11Bおよび金属被膜12Bと、を用いる。母材11Aおよび金属被膜12Aと、母材11Bおよび金属被膜12Bとは、何れも、複合部材10の母材11および金属被膜12と同様に構成されている。
【0036】
そのうえで、複合部材20においては、金属被膜12Aにおける接合領域122Aと、金属被膜12Bにおける接合領域122Bとの間に、接着剤として機能する樹脂部材13を介在させることによって、金属被膜12Aと樹脂部材13とを接合し、且つ、金属被膜12Bと樹脂部材13とを接合している。
【0037】
このように、複合部材20は、2組の複合部材10である複合部材10A,10Bであって、共通する樹脂部材13を有する複合部材10A,10Bにより構成されているともいえる。このように構成された複合部材20も、本発明の範疇に含まれる。
【0038】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る複合部材の製造方法M10について、図5および図6を参照して説明する。図5の左図は、複合部材の製造方法M10のフローチャートである。図5の右図は、左図に示した複合部材の製造方法M10に含まれる各工程S11~S14を実施したあとの接合領域122の断面図である。なお、図5の右図においては、接合領域122の符号「122」の図示を省略している。符号「122」については、図2の断面図に図示している。図6は、製造方法M10に含まれる除去工程S12の変形例である除去工程S12Aのフローチャートである。
【0039】
また、以下においては、複合部材の製造方法M10のことを単に製造方法M10と称する。製造方法M10は、第1の実施形態において説明した複合部材10を製造するために好適に用いることができる。複合部材10は、母材11と、母材11の少なくとも一部を覆う金属被膜12と、金属被膜12の表面の少なくとも一部である接合領域122に接合された樹脂部材13と、を含む複合部材である。
【0040】
本実施形態では、複合部材10を製造するものとして製造方法M10を説明する。第1の実施形態において説明したように、母材11としてハイテン鋼板を用いる。
【0041】
図5に示すように、製造方法M10は、めっき工程S11と、除去工程S12と、熱水処理工程S13と、接合工程S14と、を含んでいる。
【0042】
<めっき工程>
めっき工程S11は、母材11の一方の主面にめっき法を用いて金属被膜12を形成する工程である(図5の右図における「S11」の断面図参照)。
【0043】
本実施形態においては、母材11の一部である一方の主面を、金属被膜12により覆う。ただし、母材11のうち金属被膜12により覆われる領域は、図1に示した接合領域122を包含していればよく、母材11の表面の一部であってもよいし、母材11の表面の全部であってもよい。
【0044】
本実施形態においては、金属被膜12を構成する材料として亜鉛を採用している。ただし、金属被膜12を構成する材料は、金属であればよく亜鉛に限定されない。なお、金属被膜12を構成する材料は、めっき法を用いて金属被膜12を形成可能な材料であることが好ましい。ただし、母材11の一方の主面に対して金属被膜12を形成する方法は、めっき法に限定されない。その場合、工程S11は、めっき工程ではなく金属被膜形成工程といえる。
【0045】
なお、母材11の表面にあらかじめ金属被膜12が形成されている金属板(たとえば亜鉛めっきされたハイテン鋼板)を製造方法M10の出発材料として用いる場合には、めっき工程S11を省略することができる。
【0046】
<除去工程>
母材11および金属被膜12が長時間(たとえば3日より長い期間)に亘って大気中に放置されていた場合、金属被膜12の主面121には、自然酸化膜が形成される場合が多い。除去工程S12は、金属被膜12の表面である主面121を覆う自然酸化膜を除去する工程である。なお、自然酸化膜は、酸化膜の一態様である。
【0047】
本実施形態においては、除去工程S12において、自然酸化膜を除去するためにブラスト加工を用いる。ブラスト加工を用いることによって、自然酸化膜を除去しつつ、前記表面にマイクロサイズの凹凸構造123を形成することができる(図5の右図における「S12」の断面図参照)。したがって、金属活性が高く、後述する熱水処理工程S13を実施することにより高いアンカー効果が得られる主面121が得られる。
【0048】
ブラスト加工において、噴射材の粒子径は、10μm以上710μm以下である、ことが好ましく、20μm以上500μm以下である、ことがより好ましく、30μm以上300μm以下である、ことが特に好ましい。また、噴射圧力は、0.05MPa以上2.0MPa以下である、ことが好ましく、0.3MPa以上1.5MPa以下である、ことがより好ましく、0.5MPa以上1.0MPa以下である、ことが特に好ましい。
【0049】
金属被膜12の主面121に、金属被膜12を構成する金属(本実施形態では亜鉛)の自然酸化膜が形成されている場合に、噴射材の粒子径が10μm以上であることにより、主面121にマイクロサイズの凹凸構造123を形成することができる。また、噴射材の粒子径が300μm以下であることにより、ブラスト加工に起因して金属被膜12が破損する可能性を低減することができる。噴射材の粒子径として10μm以上710μm以下を採用する場合、噴射圧力として0.05MPa以上2.0MPa以下を採用することにより、ブラスト加工により自然酸化膜を除去することができ、且つ、主面121にマイクロサイズの凹凸構造123を形成することができ、且つ、金属被膜12が破損する可能性を低減することができる。金属の酸化膜は、樹脂に対する濡れ性が低い場合が多い。したがって、自然酸化膜を除去したあとに熱水処理を実施することによって、複合部材10における接合強度を、特許文献1の技術の場合と同程度まで高めることができる。なお、適切ではない条件でブラスト加工を実施した場合に生じ得る金属被膜12の破損の例としては、噴射材が金属被膜12を貫通すること、および、金属被膜12が母材11の主面から剥離することが挙げられる。なお、ブラスト加工におけるこの条件は、金属被膜12の厚みが1μm以上50μm以下である場合に好適である。金属被膜12の厚みが1μm以上であることにより、マイクロサイズの凹凸構造123を形成しつつ、金属被膜12が破損する可能性を確実に低減することができる。なお、50μmという厚みは、めっき法を用いて作製された金属被膜12の厚みの典型的な上限値である。
【0050】
(除去工程の変形例)
なお、除去工程S12の一変形例である除去工程S12Aにおいては、自然酸化膜を除去するために、ブラスト加工の代わりに酸処理を用いることもできる(図6参照)。除去工程S12Aは、超音波洗浄工程S121と、酸処理工程S122とを含んでいる。
【0051】
超音波洗浄工程S121は、金属被膜12の主面121を超音波洗浄する工程である。
【0052】
酸処理工程S122は、主面121に対して酸処理を施す工程である。なお、酸処理は、酸洗いとも呼ばれる。本変形例では、酸処理において用いる酸性溶液として塩酸を用いる。ただし、酸処理において用いる酸性溶液は、塩酸に限定されず適宜選択することができる。
【0053】
酸処理を用いて自然酸化膜を除去した金属被膜12の主面121は、ブラスト加工を用いて自然酸化膜を除去した主面121と比較して、凹凸のサイズが小さくなりやすい。そのため、金属被膜12の膜厚が薄い場合であっても金属被膜12を破損することなく自然酸化膜を除去することができる。
【0054】
<熱水処理工程>
熱水処理工程S13は、除去工程S12を実施された主面121に対して熱水処理を施す工程である。熱水処理工程S13を実施することによって、主面121を構成する亜鉛が以下の化学式ように水酸化あるいは酸化される。その結果、凹凸構造123が形成されている主面121には、金属被膜12を構成する亜鉛の水酸化物および酸化物の少なくとも何れかにより構成された針状構造が形成される(図5の右図における「S13」の断面図参照)。針状構造については、第1の実施形態において説明したように、図3に示している。
【0055】
Zn+2HO→Zn(OH)+H
Zn(OH)→ZnO+H
【0056】
熱水処理工程S13において用いる水の温度は、50℃以上100℃以下である、ことが好ましく、60℃以上95℃以下である、ことがより好ましく、70℃以上90℃以下である、ことが特に好ましい。また、熱水処理における処理時間は、10秒以上100分以下である、ことが好ましく、30秒以上80分以下である、ことがより好ましく、1分以上60分以下である、ことが特に好ましい。
【0057】
熱水処理工程S13において用いる水の温度が50℃未満である場合、金属被膜を構成する金属の水酸化物および酸化物の少なくとも何れかが十分に成長しない。そのため、得られるアンカー効果が小さくなるため接合強度を高めることが難しい。また、100℃以下の熱水は、大気圧下で得ることができるので、容易に実現することができる。
【0058】
また、熱水処理工程S13における処理時間が10秒未満である場合、金属被膜12を構成する金属(本実施形態においては亜鉛)の水酸化物および酸化物の少なくとも何れかが十分に成長しない。そのため、得られるアンカー効果が小さくなるため接合強度を高めることが難しい。また、金属被膜12を構成する金属の水酸化物および酸化物の少なくとも何れかからなる層の厚みt(図2参照)は、処理時間が100分を超えるあたりから飽和する傾向にあることが分かった。したがって、処理時間を100分以下に定めることによって、熱水処理を効率的に実施することができる。
【0059】
また、熱水処理工程S13において用いる水の電気伝導度は、0.05μS/cm以上10μS/cm以下である、ことが好ましく、0.08μS/cm以上5μS/cm以下である、ことがより好ましく、0.1μS/cm以上1μS/cm以下である、ことが特に好ましい。
【0060】
水の電気伝導度が高いことは、熱水に含まれている不純物(特に金属イオン)の濃度が高いことを意味する。水の電気伝導度が10μS/cmを上回っている場合(すなわち不純物の濃度が高すぎる場合)、熱水処理により形成される亜鉛の水酸化物および酸化物の少なくとも何れかの形状および大きさの再現性が低下しやすくなる。その結果、複合部材10における接合強度が低下しやすくなる。
【0061】
また、水の電気伝導度が低くなればなるほど、上述した接合強度は上昇する。ただし、接合強度は、電気伝導度が0.05μS/cmを下回るあたりから飽和する傾向にあることが分かった。したがって、水の電気伝導度における好ましい範囲の下限値を0.05μS/cmに定めることによって、熱水に含まれている不純物を除去するためのコストが無駄になるのを防ぐことができる。
【0062】
<接合工程>
接合工程S14は、熱水処理工程S13を実施された接合領域122の表面に樹脂部材13を接合する工程である。本実施形態では、射出成形法を用いて、樹脂部材13の一部が接合領域122に重なるように、樹脂部材13を成形する。樹脂部材13を構成する樹脂が接合領域122に射出されたとき、その樹脂は流動性を有している。したがって、流動性を有する樹脂は、熱水処理工程S13により生成された針状構造の隙間に充填され、射出された樹脂は、やがて硬化する(図5の右図における「S14」の断面図参照)。したがって、複合部材10においては、母材11の主面の少なくとも一部が金属被膜12により覆われている場合であっても、特許文献1の技術の場合と同様にアンカー効果を得ることができるので、金属被膜12と樹脂部材13との間における接合強度を、特許文献1の技術の場合と同程度まで高めることができる。
【0063】
接合工程S14において接合領域122の表面に樹脂部材13を接合する手法は、射出成形法に限定されず、例えば、誘導加熱圧着成形法であってもよいし、プレス成形法であってもよい。また、図4を参照して複合部材20について説明したように、エポキシ樹脂などの接着剤として機能する樹脂を用いる方法であってもよい。
【0064】
〔付記事項〕
本発明は上述した第1の実施形態および第2の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0065】
〔第1の実施例および第2の実施例〕
本発明の第1の実施例および第2の実施例について、その効果を第1の実験例および第2の実験例と比較しながら説明する。
【0066】
第1の実施例、第2の実施例、第1の実験例、および第2の実験例では、複合部材を製造する出発原料として亜鉛めっきされたハイテン鋼板を用いた。したがって、母材11は、ハイテン鋼板であり、金属被膜12を構成する材料は、亜鉛である。なお、亜鉛からなる金属被膜12の膜厚は、25μmである。
【0067】
第1の実施例では、図5に示した製造方法M10を実施することにより複合部材10を製造した。すなわち、除去工程S12においてはブラスト加工を用いて自然酸化膜を除去した。また、ブラスト加工における条件は、噴射材の粒子径として106~125μmを採用し、且つ、噴射圧力として1.0MPaを採用した。熱水処理工程S13における熱水処理の条件は、水の温度として75℃を採用し、処理時間として40分を採用した。その結果、針状構造124を含む水酸化物および酸化物からなる層の厚みt(図2参照)は、500nmであった。また、接合工程S14においては、熱水処理工程S13を行った金属被膜12の接合領域122に対して、射出成形法を用いて、PPS樹脂製の樹脂部材13を直接接合した。射出成形の条件としては、金型温度として140℃を採用し、樹脂温度として260℃を採用し、射出速度として10mm/秒を採用し、保持圧力として50MPaを採用し、保持時間として10秒間を採用した。
【0068】
第2の実施例では、製造方法M10をベースにして、除去工程S12の代わりに図6に示した除去工程S12Aを実施した。すなわち、第2の実施例では、金属被膜12の表面に形成された自然酸化膜を除去するために酸処理を用いた。この酸処理においては、ハイテン鋼板を浸漬する塩酸溶液として濃度が10%である塩酸溶液を用いた。また、酸処理の処理時間を10秒とした。
【0069】
第1の実験例においては、第1の実施例をベースにして熱水処理工程S13を省略した。同様に、第2の実験例においては、第2の実施例をベースにして熱水処理工程S13を省略した。
【0070】
このように構成した第1の実施例、第2の実施例、第1の実験例、および第2の実験例を用いて製造された複合部材を用いて、接合強度(せん断強度)をISO 19095に準拠した試験方法で測定した。
【0071】
以下の表1に、第1の実施例、第2の実施例、第1の実験例、および第2の実験例のポイントと、各複合部材におけるせん断強度とを示す。
【0072】
【表1】

熱水処理工程S13を実施した第1の実施例および第2の実施例においては、各複合部材においていずれも25MPa以上となるせん断強度が得られた。
【0073】
ブラスト加工を用いて自然酸化膜を除去し、熱水処理工程S13を省略した第1の実験例においては、複合部材において14MPaのせん断強度が得られた。このせん断強度は、第1の実施例により得られた31MPaというせん断強度と比較して著しく低かった。
【0074】
酸処理を用いて自然酸化膜を除去し、熱水処理工程S13を省略した第2の実験例においては、接合工程S14を実施した直後にハイテン鋼板から樹脂部材が剥離した。すなわち、第2の実験例を用いて製造した複合部材においては、接合不良がみられた。
【0075】
〔第3の実施例および第4の実施例〕
第1の実施例および第2の実施例をベースにして、接合工程S14において射出成形法の代わりにプレス成形法を用いた実施例を第3の実施例および第4の実施例とする。第3の実施例および第4の実施例におけるプレス成形においては、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(東レコーテックス製のCFRTP)製の樹脂部材13を金属被膜12の接合領域122に対して直接接合した。プレス成形の条件としては、成形温度として220℃を採用し、成形圧力として5MPaを採用し、保持時間として5分間を採用した。
【0076】
また、第3の実施例および第4の実施例の各々をベースにして、熱水処理工程S13を省略したものを、それぞれ、第3の実験例および第4の実験例とした。
【0077】
このように構成した第3の実施例、第4の実施例、第3の実験例、および第4の実験例を用いて製造された複合部材を用いて、接合強度(せん断強度)をJIS K6850「引張せん断接着強さ試験」を参考にした試験方法で測定した。なお、接合領域122の幅は25mmであり、接合領域122の長さは12.5mmである。
【0078】
以下の表2に、第3の実施例、第4の実施例、第3の実験例、および第4の実験例におけるせん断強度を示す。
【0079】
【表2】

熱水処理工程S13を実施した第3の実施例および第4の実施例においては、各複合部材においていずれも25MPa以上となるせん断強度が得られた。
【0080】
ブラスト加工を用いて自然酸化膜を除去し、熱水処理工程S13を省略した第3の実験例においては、複合部材において16MPaのせん断強度が得られた。このせん断強度は、第3の実施例により得られた32MPaというせん断強度と比較して著しく低かった。
【0081】
酸処理を用いて自然酸化膜を除去し、熱水処理工程S13を省略した第4の実験例においては、接合工程S14を実施した直後にハイテン鋼板から樹脂部材が剥離した。すなわち、第4の実験例を用いて製造した複合部材においては、接合不良がみられた。
【符号の説明】
【0082】
10,10A,10B 複合部材
11,11A,11B 母材
12,12A,12B 金属被膜
121 主面
122,122A,122B 接合領域
123 凹凸構造
124 針状構造
13 樹脂部材(樹脂)
20 複合部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6