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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187802
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】カップ部を有する衣類
(51)【国際特許分類】
   A41C 3/12 20060101AFI20221213BHJP
   A41C 3/00 20060101ALI20221213BHJP
   A41C 3/14 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
A41C3/12 C
A41C3/00 A
A41C3/00 Z
A41C3/12 A
A41C3/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095987
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】一場 綾
(72)【発明者】
【氏名】浅野 華帆
(72)【発明者】
【氏名】前田 典子
【テーマコード(参考)】
3B131
【Fターム(参考)】
3B131AA14
3B131AB04
3B131AB05
3B131AB06
3B131AB07
3B131BA21
3B131BA24
3B131BA41
3B131BB03
3B131BB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】着用者の体形の個人差に対応するサイズ適合率の高いカップ部を有する衣類を提供する。
【解決手段】前中心部材102は、一対のカップ部の前中心側に設けられて一対のカップ部を接続し、バック部は、カップ部の脇側に設けられ、カップ部は、バージスラインに沿う形状のカップくりCを有し、カップくりの下縁に保形部材が設けられており、一対の保形部材の前中心側の端部同士は、一定の距離を保つように固定されており、前中心部材は、少なくとも一方向において、伸長回復試験における特定の特性を有し、前中心部材のカップくり上の脇側端点は、バストトップ点Tを通り前中心側に延びる水平線とバストトップ点Tとカップくりの最下点Uとを通る線とがなす角を3等分する線のうち、カップくりの最下点側の線L1とカップくりとの交点Xと、カップくりの最下点Uとの間にある、ことを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ部を有する衣類であって、
一対のカップ部、前中心部材、およびバック部を備え、
前記前中心部材は、前記一対のカップ部の前中心側に設けられて前記一対のカップ部を接続し、
前記バック部は、前記カップ部の脇側に設けられ、
前記カップ部は、バージスラインに沿う形状のカップくりを有し、前記カップくりの下縁に保形部材が設けられており、
一対の前記保形部材の前中心側の端部同士は、一定の距離を保つように固定されており、
前記前中心部材は、少なくとも一方向において、
伸長回復試験における、
200g荷重時の往路と復路の伸びの差が、400g荷重時の往路と復路の伸びの差の1.5倍以上であり、
復路の伸長回復率が、400g荷重時で10%以下、200g荷重時で20%以下であり、
復路の0g荷重時の伸長回復率が、70%以上であり、
600g荷重時の伸び率が、100%以下である特性を有し、
前記前中心部材の前記カップくり上の脇側端点は、
バストトップ点を通り前中心側に延びる水平線とバストトップ点とカップくりの最下点とを通る線とがなす角を3等分する線のうち、前記カップくりの最下点側の線と前記カップくりとの交点と、
前記カップくりの最下点との間にある、
ことを特徴とする、カップ部を有する衣類。
【請求項2】
前記前中心部材は、変形可能な樹脂シートを含み、前記樹脂シートの表面および裏面の少なくとも一方に生地が配置されている、請求項1記載のカップ部を有する衣類。
【請求項3】
前記前中心部材は、着用時の周径方向において前記特性を有している、請求項1または2記載のカップ部を有する衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップ部を有する衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラジャー等のカップ部を有する衣類においては、バストの形状を整え、身体のラインをきれいに見せるため、カップ部の下縁部にワイヤーが設けられているものが広く普及している。カップ部の変形を食い止めてバストの形を美しく保つために、ワイヤーの剛性を利用するものであるが、ワイヤーのサイズは着用者個人のサイズに必ずしも一致するものではなく、いくつかの平均的なサイズの中から着用者のサイズに比較的近いものを選定するのが通常である。したがって、着用者個人のバストのサイズや形と用いられているワイヤーのサイズや形にずれがある場合は、カップやワイヤーの側にバストを合わせることになるが、ワイヤー形状が着用者のバージスラインと合わないと圧迫感を生じさせるといった問題があった。そこで、ワイヤーが身体により食い込みにくくするための技術が各種提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-200556号公報
【特許文献2】実用新案登録第3075543号公報
【特許文献3】特開平7-300703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの技術によると、ワイヤーによる違和感を感じさせずに、着用者の身体の形状を美しく整えたり、身体に馴染むように変形・保形して着用感を良好とすることが可能となるとのことである。例えば、特許文献1においては、カップ部に装着される樹脂ワイヤーとして、中央下底部は、人体の体温未満の温度以上において、形状記憶した形状から変形する性質を有する第1のポリウレタン系形状記憶樹脂にて形成し、身体中心側立部及び腋下側立部は、人体の温度を超える温度未満において、形状記憶した形状に維持する性質を有する第2のポリウレタン系形状記憶樹脂にて形成することで、着用者の身体に馴染むように変形可能であるカップ部用樹脂ワイヤーが提案されている。特許文献2においては、両端部の弾力性を熱処理により低下させることで、着用者の体形に一致する方向に塑性変形を許容するカップワイヤーが提案されている。特許文献3においては、面状に延在するアモルファス樹脂シート状片をカップの縁に沿って設けることで、ワイヤーによって発生する応力を面状に分散させて着用感を良好にすることができる女性用衣類が提案されている。しかし、これらの技術においては、造形性を重視すると着用感が十分ではなく、着用感を重視すると造形性が十分ではない、という課題があった。
【0005】
本発明は、既存の一般的なワイヤー等の保形部材を用いても、衣類と身体との間の隙間の発生や身体へのくいこみといった問題を抑制可能な、着用者の体形の個人差に対応するサイズ適合率の高いカップ部を有する衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のカップ部を有する衣類は、
一対のカップ部、前中心部材、およびバック部を備え、
前記前中心部材は、前記一対のカップ部の前中心側に設けられて前記一対のカップ部を接続し、
前記バック部は、前記カップ部の脇側に設けられ、
前記カップ部は、バージスラインに沿う形状のカップくりを有し、前記カップくりの下縁に保形部材が設けられており、
一対の前記保形部材の前中心側の端部同士は、一定の距離を保つように固定されており、
前記前中心部材は、少なくとも一方向において、伸長回復試験における以下の(1)~(4)の特性を有し、
前記前中心部材の前記カップくり上の脇側端点は、バストトップ点を通り前中心側に延びる水平線とバストトップ点とカップくりの最下点とを通る線とがなす角を3等分する線のうち、前記カップくりの最下点側の線と前記カップくりとの交点と、前記カップくりの最下点との間にある、ことを特徴とする。
(1)200g荷重時の往路と復路の伸びの差が、400g荷重時の往路と復路の伸びの差の1.5倍以上である。
(2)復路の伸長回復率が、400g荷重時で10%以下、200g荷重時で20%以下である。
(3)復路の0g荷重時の伸長回復率が、70%以上である。
(4)600g荷重時の伸び率が、100%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、既存の一般的なワイヤー等の保形部材を用いても、衣類と身体との間の隙間の発生や身体へのくいこみといった問題を抑制可能な、着用者の体形の個人差に対応するサイズ適合率の高いカップ部を有する衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明のカップ部を有する衣類の一例である、第1の実施形態に係るブラジャー100を示す斜視図である。
図2図2は、本発明のカップ部を有する衣類の部位を説明する図である。
図3図3は、伸長回復試験の結果を示すグラフである。
図4図4(A)は本発明のカップ部を有する衣類であるブラジャーにおける、前中心部材の伸びを示す模式図である。図4(B)は非伸縮性材料を前中心部材としてブラジャーに用いた場合の伸びを示す模式図である。
図5図5は、同じ着用者が、3種類のブラジャーを着用したときの位置を評価した図である。図5(A)は本発明のカップ部を有する衣類であるブラジャー、図5(B)は前中心部分に伸縮する素材を使用したブラジャー、図5(C)は、前中心部分に非伸縮の素材を使用したブラジャーでの評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のカップ部を有する衣類において、前記前中心部材は、変形可能な樹脂シートを含み、前記樹脂シートの表面および裏面の少なくとも一方に生地が配置されていることが好ましい。
【0010】
本発明のカップ部を有する衣類において、前記前中心部材は、着用時の周径方向において前記特性を有していることが好ましい。
【0011】
本発明のカップ部を有する衣類は、ブラジャーであることが好ましい。
【0012】
本発明のカップ部を有する衣類について、例をあげて説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されない。なお、以下で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。
【0013】
(第1の実施形態)
図1に、本発明のカップ部を有する衣類の一例である、第1の実施形態に係るブラジャー100を示す。図1は、本実施形態のブラジャー100の斜視図である。以下、図面の記載においては、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。
【0014】
本実施形態のブラジャー100は、一対のカップ部101、前中心部材102、一対のバック部103および一対の肩ストラップ104を備えたブラジャーである。前中心部材102は、一対のカップ部101の前中心側に設けられて、左右のカップ部101を接続している。左右のカップ部101の脇側には、一対のバック部103の一端が取り付けられている。一対のバック部103の他端には、連結係止部(図示せず)が取り付けられて、背中心付近で着脱自在になっている。各々のカップ部101は、バージスラインに沿う形状のカップくりCを有している。カップくりCの下縁には、ワイヤー等の保形部材105が設けられている。左右のカップ部101に設けられた保形部材105の前中心側の端部同士は、一定の距離を保つように固定されている。
【0015】
前中心部材102は、少なくとも一方向において、次の(1)~(4)の特性を有している。
(1)200g荷重時の往路と復路の伸びの差が、400g荷重時の往路と復路の伸びの差の1.5倍以上である。
(2)復路の伸長回復率が、400g荷重時で10%以下、200g荷重時で20%以下である。
(3)復路の0g荷重時の伸長回復率が、70%以上である。
(4)600g荷重時の伸び率が、100%以下である。
【0016】
上記の特性値は、次の測定方法による伸長回復試験によって得られる値であり、(1)~(4)の特性を有する材料は、荷重をかけると線形的に伸びるが、荷重を少し除いても戻りにくく、かつ、荷重を完全に除くと戻る、という特性を有している。
【0017】
従来のワイヤー入りブラジャーは、造形性を重視し前中心部分に伸びない材料を使用している。しかし、前中心部分が伸びないと、前中心形状の個人差に対応することはできず、ワイヤー形状とバージス形状とを一致させることが困難であった。ワイヤー形状とバージス形状とが一致しない場合、ワイヤー下点がバストに対して下に付き、カップ上辺がバストに当たったり、カップ(ブラジャー)がズレ下がったり、ワイヤーの存在を感じやすかったり、カップが傾いて上辺が食い込んだり、脇が浮いたり、といった不具合が発生する。また、ワイヤーがバージスラインに合わないと、圧迫を感じやすくなる。
【0018】
本発明に用いる前中心部材は、伸びるところは伸びるが、伸びないところは伸びないという、体形に応じて変形する材料であることで、ワイヤーを引っ張りバストの形状に合うように必要な部分のみに変形させるだけの力を掛けることができる。すなわち、ワイヤー形状をバージス形状に変形させ、その形状にとどまり安定させる(前中心の個人差を吸収する)ことができる。前中心形状を変形させ、個人差に対応することで、ワイヤー形状をバージス形状に合わせてバストを入れやすくし、ワイヤーブラジャーのサイズ適合率を上げることが可能となる。必要な部分のみが変形することで、他の部分に不具合を生じさせずに、例えば左右のバストの大きさの差などを吸収することもできる。また、個人の体調によるバストサイズ変化への対応も可能となる。
【0019】
前中心部材102は、その領域が狭すぎると十分なサイズ適合性を発揮することができず、また、広すぎると変形が大きくなるためバスト造形性に影響が出ることがある。そのため、前中心部材102の、カップくりC上の脇側端点は、所定の領域にある必要がある。図2は本発明のカップ部を有する衣類の部位を説明する図である。図2に示すように、前記領域は、バストトップ点Tを通り前中心側に延びる水平線とバストトップ点TとカップくりCの最下点Uとを通る線とがなす角を3等分する線L1,L2のうち、カップくりCの最下点U側の線L1とカップくりCとの交点Xと、カップくりCの最下点Uとの間の領域である。この領域でワイヤー形状とバージス形状とを一致させることで、他の部分について合わせやすくなる。なお、カップくりCの下側に土台部が設けられ、前中心部材102の脇側部分に幅がある場合、土台部下辺における端点の位置は、前記カップくりC上の脇側端点の鉛直方向下側である必要はなく、前中心側または脇側にずれても構わない。
【0020】
<前中心部材の特性 測定方法>
本発明における特性の測定においては、JIS等に規定された伸長回復試験とは異なる測定を行っているため、以下にその測定方法を示す。なお、本評価においては、巾が2.5cm、つかみ間隔が5.0cmとなる試料片を用いたが、測定対象の試料片の大きさが足りない場合は、換算することで評価することが可能である。温度35℃、湿度65%に設定した環境下で測定を行う。巾が2.5cm、つかみ間隔が5.0cmとなるように試料を採取する。吸水性バイレック法試験装置に試料をクリップで取り付け、200gの荷重で引張り、1分後の試料長を測定する(往路200g荷重時試料長)。次いで、200gの荷重を追加し計400gの荷重として、1分後の試料長を測定する(往路400g荷重時試料長)。さらに、200gの荷重を追加し計600gの荷重として、1分後の試料長を測定する(600g荷重時試料長)。次に、200gの荷重を取り除き計400gの荷重として、1分後の試料長を測定する(復路400g荷重時試料長)。さらに200gの荷重を取り除き計200gの荷重として、1分後の試料長を測定する(復路200g荷重時試料長)。最後に、200gの荷重を取り除き0gの荷重として、1分後の試料長を測定する(復路0g荷重時試料長)。
【0021】
上記の0g~600g~0gの往復を3回繰り返し、3回目に得られた各試料長の測定値から、200g荷重時の往路と復路の伸びの差、400g荷重時の往路と復路の伸びの差、復路の400g荷重時および200g荷重時の伸長回復率、復路の0g荷重時の伸長回復率、600g荷重時の伸び率を得る。
【0022】
カップ部を有する衣類において、前中心部分に使用される一般的な各種材料と、上記(1)~(4)の特性を有する材料とを比較した結果を示す。使用した材料は、表1に示すとおりである。
【表1】
【0023】
試料1および試料3は、変形可能な樹脂シートとして、三井化学株式会社製の「アブソートマー」(登録商標)をメッシュ状のシートに加工したものを用い、前記樹脂シートの表面および裏面に、ラミネート生地として試料4のスムースを配置したものである。試料1および試料3は、樹脂シートとラミネート生地とを貼り合わせたものである。樹脂シートとラミネート生地との貼り合わせには、接着剤等は使用せず、加熱圧着により樹脂シート表面がラミネート生地に溶けて付着することを利用し、試料1と試料3とでは加熱圧着の条件を変えて作製した。試料2としては、「FINEX」(登録商標)を用いた。
【0024】
伸長回復試験において、3回目に得られた各試料長の測定値をプロットした結果を、図3に示す。また、各試料について得られた前記特性を表2に示す。
【表2】
【0025】
試料1および試料3は、荷重が大きくなるとじわじわ伸び、600gから荷重を外しても、200gの手前までは戻る力はほぼなく(応力緩和)、荷重を外す(0gにする)と急激に戻っていることがわかる。試料2および試料5は、よく伸びて、戻る力も伸びる力とほぼ同等にあることがわかる。試料4は、よく伸びるが、400g荷重付近以上では伸びはほぼ一定になっており、その付近で既に伸びきっていると考えられる。試料1および試料3は、前中心部材として用いると、ワイヤーの前中心側が変形し、ワイヤーがバージスに沿い、前中心部がしわになったりせず、身体に沿いフィット性が良い衣類が得られる。一方、同じ比率で伸びるような素材(試料2、試料5および試料4)では、必要な部分のみならず、伸びてほしくない部分も伸ばされてしまうことになるため、例えば、造形力の低下が生じ得る。
【0026】
前中心部材102は、変形可能な樹脂シートを含み、前記樹脂シートの表面および裏面の少なくとも一方に生地が配置されていることが好ましい。変形可能な樹脂シートとしては、例えば、感温柔軟樹脂シート(「アブソートマー」)等を用いることができる。前記樹脂シートは、発泡させたり、メッシュ状に形成して、伸度を調整することも好ましい。
【0027】
感温柔軟樹脂シートは、形状記憶樹脂を成形したシートであることが好ましい。形状記憶樹脂としては、ノルボルネン系、トランスポリイソプレン系、スチレン-ブタジエン共重合体系、ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、乳酸系、アクリル系、アミド系からなる形状記憶樹脂群から選択される一種または二種以上を含む構造体を使用することができる。
【0028】
前記樹脂シートが感温柔軟樹脂シートである場合、その厚みは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内にあることが好ましい。0.1mmより薄いと、表面および裏面の少なくとも一方に配置される生地の物性値の影響のほうが大きくなり、感温柔軟樹脂シートの性能が発揮できなくなる場合がある。3.0mmより厚いと、縫製が困難になり、デザイン制約が出る場合がある。
【0029】
本発明において、前中心部材102は、少なくとも一方向において特定範囲の伸長回復特性を有することで、サイズ適合率の高いカップ部を有する衣類をを得ることができたものである。なお、前中心部材102は、全方向に変形することは必須ではない。前中心部材102は、特に着用時の周径方向において前記特性を有していると、前中心側の保形部材を変形させ、バストに沿った状態を保つことができる。
【0030】
前記樹脂シートの表面および裏面の少なくとも一方に配置される生地としては、天竺、フライス、スムース、ダブルニット等の緯編組織を有する編物、トリコット、ラッセル等の経編組織を有する編物、不織布(繊維を物理的あるいは化学的に接着または絡み合わせて布状にしたもの)等を好適に用いることができる。前記生地の素材は用途に応じて選択することができる。前記生地の選択によって、肌触りを良くしたり、冷感特性や吸汗性を付与したりすることに加え、前中心部材の意匠性を高めることもできる。また、樹脂シートの表側と裏側とに、異なる生地を使用すると、例えば、表面は意匠性を、裏面は吸汗性や肌触りなどを付与することができる。
【0031】
前記生地と前記樹脂シートとは、接着剤等を用いて貼り合わせることもできるが、シート表面の樹脂を加熱溶融して、前記生地と接着させることもできる。
【0032】
前記樹脂シートと前記生地とを含む本発明における前中心部材は、厚みが0.2mm以上4.0mm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0033】
本実施形態においては、保形部材105として一般的に用いられる金属ワイヤーを用いたが、これに限定されるものではなく、樹脂製のワイヤー等も用いることができる。また、モールドで一体成型したカップ部に、ワイヤーに相当する保形部材を入れ込むことも可能である。あるいは、モールド成型時に、圧縮率を高めて硬くなる部分を設けて保形部材としてもよい。左右のカップ部101に設けられた保形部材105の前中心側の端部同士は、一定の距離を保つように固定されている。前中心の上端において保形部材が留められていることで、この箇所を支点として保形部材を変形させることができる。端部同士を一定の距離を保つように固定するには、保形部材の端部同士を直接固定してもよいし、非伸縮性もしくは難伸縮性の生地等の別部材で留めてもよい。
【0034】
[評価試験1]前中心部材の伸び形状比較
図4(A)は本発明のカップ部を有する衣類であるブラジャーにおける、前中心部材の伸びを示す模式図である。図4(B)は非伸縮性材料(柄マーキゼット)を前中心部材としてブラジャーに用いた場合の伸びを示す模式図である。各図は、各々の前中心部材に伸びがわかるように格子を描き、ブラジャーを評価用のボディーに装着して、格子の形状変化を観察した結果である。図4(A)に示すように、本発明のブラジャーでは、前中心部材の生地の格子が歪み、前中心のワイヤー形状が、バージスに合うように変形して(開いて)入り込んでいることがわかる。一方、図4(B)では、生地の格子が歪まず、前中心のワイヤーは、着用時もほぼワイヤー形状のままで維持されていることがわかる。
【0035】
[評価試験2]着用評価
図5は、同じ着用者が、3種類のブラジャーを着用したときの位置を評価した図である。図5の(A)では、本発明のカップ部を有する衣類であるブラジャーを、(B)では、前中心部分に伸縮する(図3のグラフの符号2の)素材(「FINEX」(登録商標))を使用したブラジャーを、(C)では、前中心部分に非伸縮の素材(柄マーキゼット)を使用したブラジャーを、各々着用した状態を示している。
【0036】
図5の各図には、ブラジャーの着用位置をわかりやすくするために、基準線を付与してある。基準線は、ワイヤー前中心側端点、ワイヤー脇端点、バージスの最下点の3点を結んだ三角形とした。この着用者は、左側のバストのほうが大きい。このような場合、従来は、小さい方のバストにサイズを合わせると、大きい側が合わず入らないので下付きになりやすかった。
【0037】
本発明のカップ部を有する衣類であるブラジャー(A)では、バージスの左右差を前中心部材が吸収することで、カップの付き方が左右均等となっている。前中心部材が変形し、ワイヤーがヌードのバージスラインに近い形に沿い、ワイヤー端点が広がることで、カップがバストに良好にフィットしている(カップが傾かずについている)。バストが大きい左側でも、ワイヤーがバージスラインに沿っており、カップの付き方の左右差は僅かである。バストの造形力は良好である。ブラジャー(A)では、左側のワイヤーが開き、左右のバストそれぞれに合わせてワイヤー形状が変わっていることがわかる。
【0038】
前中心部分に伸縮する素材を使用したブラジャー(B)では、前中心部分の布は変形するが、ワイヤー端点が広がらないため、ワイヤーがサイズの大きな左バストのバージスラインに沿わず、左カップが傾き下付きとなり、カップの付き方に左右差が出ている。また、下付きかつ前中心部分が伸びることで、バストの造形力が低下した。
【0039】
前中心部分に非伸縮の素材を使用したブラジャー(C)では、前中心部分の布が変形せず、ワイヤー端点も広がらないため、左右のバストで、ワイヤーがバージスラインに沿っておらず、左右のカップが下付きとなり、ブラジャー自体が下付きになることで、バストの造形力が低下した。
【0040】
以上のように、本発明のカップ部を有する衣類は、バストの造形性は確保しつつ、左右差等にも対応するオーダーメイド感覚でフィット可能なものであることがわかる。前中心部材の物性を特定のものにすることで、左右のバストの大きさの微妙な差や左右のバスト間距離等の個人差を吸収し、また、個人の体調によるバストサイズ変化への対応も、既存のカップ等を用いたままで可能となる。これは、硬いカップにバストを合わせるという従来の思想とは異なり、バストの形にブラジャー(ワイヤー)が合うようにするものであり、全体の設計ではなく、前中心部材の物性によって合せ込みができることを発見したことによるものである。
【0041】
以上、実施の形態の具体例として、ブラジャーをあげて本発明を説明したが、本発明のカップ部を有する衣類は、具体例で記載されたもののみに限定されるものではなく、種々の態様が可能である。例えば、上記の実施形態のような衣類以外にも、ボディスーツ、ブラキャミソール、ブラスリップ、セパレートタイプの水着のトップ部、レオタード、その他各種のカップ部を有する衣類に適用できる。マタニティ衣類にも好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のカップ部を有する衣類は、種々の態様が可能である。例えば、上記の実施形態のような衣類以外にも、ファンデーション衣類以外にも、スポーツ衣類、アウターなど、各種のカップ部を有する衣類に適用できる。
【符号の説明】
【0043】
100 ブラジャー
101 カップ部
102 前中心部材
103 バック部
104 肩ストラップ
105 保形部材(ワイヤー)

C カップくり
T バストトップ点
U カップくりCの最下点
X 交点
図1
図2
図3
図4
図5