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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187805
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】車両用の空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/34 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B60H1/34 671A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095990
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新美 康彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 貴央
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA01
3L211DA14
3L211DA82
3L211EA33
3L211FA31
3L211FA35
3L211GA11
(57)【要約】
【課題】車両用の空調装置において、モード変更操作により空調装置の作動が変化した場合に、乗員が空調装置の作動の変化をより明確に体感できるようにする。
【解決手段】空調装置は、フェイス吹出口42からの空調風の風向を調整する風向調整部材と、モード変更操作に基づいて空調装置の作動状態を変化させるエアコンECUを備える。エアコンECUは、モード変更操作を受け付けたことにより、モードの変更後の風向の目標である目標風向64を決定し、モード変更操作を受け付ける直前における風向である基準風向61から目標風向64まで風向が変化するよう、風向調整部材を駆動する。その際、エアコンECUは、風向が、基準風向61から目標風向64まで、基準風向61と目標風向64との間の通常遷移範囲内の風向と、通常遷移範囲から外れた風向62、63とを経て、変化するよう、風向調整部材を駆動する。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の空調装置であって、
車両の車室内に送る空気に対して空調処理を行い、前記空調処理を行った結果得られた空調風を、前記車室内に開口する吹出口(42)から前記車室内に吹き出す空調ユニット(5)と、
前記吹出口から前記車室内に吹き出る前記空調風の風向を調整する風向調整部材(110)と、
当該空調装置の作動状態に関するモードを変更するモード変更操作を受け付ける操作受付部(21)と、
前記操作受付部が前記モード変更操作を受け付けたことに基づいて、当該空調装置の作動状態を変化させるモード変更部(S120~S180、201b)を備え、
前記モード変更部は、前記操作受付部が前記モード変更操作を受け付けたことに基づいて、前記モードの変更後の前記風向の目標である目標風向(64)を決定し、前記モード変更操作を受け付ける直前における前記風向である基準風向(61)から前記目標風向まで前記風向が変化するよう、前記風向調整部材を駆動する認知促進部(S175、S180、S220)を有し、
前記認知促進部は、前記風向が、前記基準風向から前記目標風向まで、前記基準風向と前記目標風向を両端とする通常遷移範囲(60)内の風向と、前記通常遷移範囲から外れた風向(62、63)とを経て、変化するよう、前記風向調整部材を駆動する、空調装置。
【請求項2】
前記操作受付部は、前記風向のモードを変更する操作を前記モード変更操作として受け付ける、請求項1に記載の空調装置。
【請求項3】
前記操作受付部は、前記風向と間接的に関係するモードを変更する操作を前記モード変更操作として受け付ける、請求項1に記載の空調装置。
【請求項4】
前記認知促進部は、前記基準風向と前記目標風向が同じ場合、前記風向が、前記基準風向から前記目標風向まで、前記基準風向とは異なる風向を経て、変化するよう、前記風向調整部材を駆動する、請求項3に記載の空調装置。
【請求項5】
前記認知促進部は、前記基準風向と前記目標風向が異なる場合、前記風向が、前記基準風向から前記目標風向まで、前記通常遷移範囲内の風向を経て、前記通常遷移範囲から外れた風向を経ずに、変化するよう、前記風向調整部材を駆動する、請求項4に記載の空調装置。
【請求項6】
前記認知促進部は、前記通常遷移範囲から外れた風向として、前記車両の乗員の頭部へ向かう風向を経る、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の空調装置。
【請求項7】
前記認知促進部は、前記通常遷移範囲から外れた風向として、前記車両の乗員の頭上へ向かう風向を経る、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の空調装置。
【請求項8】
前記認知促進部は、前記通常遷移範囲から外れた風向として、前記風向調整部材による調整で可能な範囲内で最も上方向に吹き出す風向と最も下方向に吹き出す風向を経る、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の空調装置。
【請求項9】
前記認知促進部は、前記モード変更操作によって変更された後の前記モードに応じて、前記基準風向から前記目標風向までの風向の変化パターンを異ならせる、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の空調装置において、モード変更操作があったことに基づいて空調装置の作動が変化することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-189619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者の検討によれば、モード変更操作により空調装置の作動が変化することを、乗員が明確に体感できない場合がある。例えば、車室内の温度変化は緩やかな場合が多いので、乗員が明確に体感できない場合が多い。温度変化以外でも同様のことがあり得る。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、モード変更操作により空調装置の作動が変化した場合に、乗員が空調装置の作動の変化をより明確に体感できるようにすることを目的とする。
ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、
車両用の空調装置であって、
車両の車室内に送る空気に対して空調処理を行い、前記空調処理を行った結果得られた空調風を、前記車室内に開口する吹出口(42)から前記車室内に吹き出す空調ユニット(5)と、
前記吹出口から前記車室内に吹き出る前記空調風の風向を調整する風向調整部材(110)と、
当該空調装置の作動状態に関するモードを変更するモード変更操作を受け付ける操作受付部(21)と、
前記操作受付部が前記モード変更操作を受け付けたことに基づいて、当該空調装置の作動状態を変化させるモード変更部(S120~S180、201b)と、を備え、
前記モード変更部は、前記操作受付部が前記モード変更操作を受け付けたことに基づいて、前記モードの変更後の前記風向の目標である目標風向(64)を決定し、前記モード変更操作を受け付ける直前における前記風向である基準風向(61)から前記目標風向まで前記風向が変化するよう、前記風向調整部材を駆動する認知促進部(S175、S180、S220)を有し、
前記認知促進部は、前記風向が、前記基準風向から前記目標風向まで、前記基準風向と前記目標風向を両端とする通常遷移範囲(60)内の風向と、前記通常遷移範囲から外れた風向(62、63)とを経て、変化するよう、前記風向調整部材を駆動する、空調装置である。
【0007】
このように、モード変更操作によって空調装置の作動状態が変化したときに、通常遷移範囲から外れた風向も経て風向が変化する。したがって、風向が通常よりも大きく変化するので、乗員が空調装置の作動の変化をより明確に体感できる。
【0008】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態における車室内を示す模式図である。
図2】空調ケースおよびその周辺の機器の構成図である。
図3】空調装置の電気的構成を示すブロック図である。
図4】エアコンECUが実行する処理のフローチャートである。
図5】4つのモードを示す図である。
図6】リラックスモードに対応する目標温熱感分布のグラフである。
図7】フォーカスモードに対応する目標温熱感分布のグラフである。
図8】スリープモードに対応する目標温熱感分布のグラフである。
図9】エナジーモードに対応する目標温熱感分布のグラフである。
図10】温熱感の目標値と目標SET*対応関係を示すグラフである。
図11】認知促進制御のフローチャートである。
図12】風向の通常遷移範囲を例示する図である。
図13】認知促進制御による風向の制御の一例を示す図である。
図14】認知促進制御による風向の制御の一例を示す図である。
図15】第2実施形態における空調装置の電気的構成を示すブロック図である。
図16】空調制御処理のフローチャートである。
図17】風向制御処理のフローチャートである。
図18】第3実施形態においてエアコンECUが実行するフローチャートである。
図19】第4実施形態における認知促進制御のパターンを例示する表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。本実施形態に係る車両用の空調装置は、図1に示す車両1の車室内において運転席2に座る乗員3の温熱感を調整する。空調装置は、ダッシュボード4の内部に配置される空調ユニット5、運転席2に取り付けられる腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8、サーモカメラ9を備える。以下、上、下、左、右は、車両を基準とする上、下、左、右をいう。
【0011】
空調ユニット5は、温度調整された空気を、ダッシュボード4の表面に取り付けられたデフロスタ吹出口41、フェイス吹出口42、フット吹出口43から車室内に吹き出す装置である。
【0012】
腰部ヒータ6は、運転席2のシートバックの上下方向中央部よりも下方において、シートバックの前面側に設けられている電気ヒータである。腰部ヒータ6は、主に乗員3の腰部36を加熱する。大腿部ヒータ7は、運転席2のシートクッションにおいて、シートクッションの上面側に設けられている電気ヒータである。大腿部ヒータ7は、主に乗員3の左右大腿部37を加熱する。下腿部ヒータ8は、運転席2のシートクッションにおいて、シートクッションの前面側に設けられている電気ヒータである。下腿部ヒータ8は、主に乗員3の左右下腿部38を加熱する。
【0013】
空調ユニット5、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8、サーモカメラ9は、全体として、乗員3に対して温熱刺激を加える1つの温熱刺激部に対応する。温熱刺激とは、乗員3が皮膚に熱的な刺激が与えられたことを感じ得る刺激のことである。
【0014】
サーモカメラ9は、あらかじめ決められた撮影範囲内から放射される赤外線を取得し、取得した赤外線に基づいて、当該撮影範囲内の位置毎の表面温度を画素値として表す画像を生成して出力するセンサである。サーモグラフィの撮影範囲内には、乗員3の体全体が含まれる。
【0015】
空調ユニット5は、空調ケース11、内外気切替ドア12、送風ファン131、エバポレータ14、ヒータコア15、エアミックスドア16、フェイスドア17、フットドア18を備えている。また、空調ユニット5は、フェイスダクト51、フットダクト52、デフロスタダクト53、風向調整部材110を備えている。また、空調ユニット5は、ファンアクチュエータ131a、エアミックスアクチュエータ16a、吹出モードアクチュエータ17a、内外気モードアクチュエータ12a、風向アクチュエータ110a等を備えている。
【0016】
空調ケース11は、温度調整されて車室内に吹き出される空気が通る通風路111を囲む。内外気切替ドア12は、内気導入口112の開口面積と、外気導入口113の開口面積を調整する部材である。内外気切替ドア12は、内気導入口112と外気導入口113のうち、一方の開口部を開くほど他方の開口部を閉じるように回転動作する。これにより、内外気切替ドア12は、通風路111に導入される内気の風量と外気の風量の割合(すなわち、内外気比率)を調整することが可能である。ここで、内気は、車室内空気であり、外気は、車室外空気である。内外気モードアクチュエータ12aは、内外気切替ドア12を駆動するアクチュエータであり、図3に示すように、エアコンECU40によって制御される。エアコンECU40も、空調装置の構成要素である。
【0017】
送風ファン131は、回転することで、内気導入口112が開口していればそこから内気を、外気導入口113が開口していればそこから外気を、通風路111内に導入し、導入した空気を、通風路111内における送風ファン131の空気流れ下流側に送る。ファンアクチュエータ131aは、送風ファン131を駆動するアクチュエータであり、図3に示すように、エアコンECU40によって制御される。
【0018】
エバポレータ14は、通風路111内で、送風ファン131の空気流れ下流に、配置される。エバポレータ14は、送風ファン131から送られた空気を冷却する。エバポレータ14は、図示していない圧縮機、凝縮器および膨張弁などと共に周知の冷凍サイクルを構成している。この冷凍サイクルも、空調装置の構成要素である。当該冷凍サイクルを流れる冷媒がエバポレータ14内を通る際、冷媒と空気が熱交換する。この熱交換により、冷媒が蒸発し、空気が冷やされる。エバポレータ14で空気が冷やされるのは、空調処理の一例である。
【0019】
ヒータコア15は、通風路111内で、エバポレータ14の空気流れ下流に、配置されている。ヒータコア15は、エバポレータ14を通過した空気を加熱する。ヒータコア15には、エンジン冷却水が流れ、このエンジン冷却水と空気とが熱交換することで空気が加熱される。なお、ヒータコア15は、エバポレータ14を通過した空気を加熱電気ヒータに置き換えられてもよい。ヒータコア15で空気が加熱されるのは、空調処理の一例である。
【0020】
エアミックスドア16は、エバポレータ14とヒータコア15との間に設けられている。エアミックスドア16は、エバポレータ14を通過した後にヒータコア15を迂回して流れる冷風の風量と、エバポレータ14を通過した後にヒータコア15を通過する暖風の風量との割合すなわちエアミックス比率を調整するドアである。エアミックスアクチュエータ16aは、エアミックスドア16を駆動するアクチュエータであり、図3に示すように、エアコンECU40によって制御される。
【0021】
図2に示すように、空調ケース11には、通風路111の空気流れ方向下流側に、通風路111から車室内に空気を送風するためのフェイス開口部114、フット開口部115、デフロスタ開口部116が形成されている。通風路111のうち、ヒータコア15を迂回した空気とヒータコア15を通った空気とが混合されるエアミックス空間から、これらフェイス開口部114、フット開口部115、デフロスタ開口部116に空気が流れる。
【0022】
フェイス開口部114、フット開口部115およびデフロスタ開口部116には、それぞれの開口部を開閉するためのモード切替ドアが設けられている。モード切替ドアは、フェイスドア17、フットドア18およびデフロスタドア19により構成されている。フェイスドア17は、フェイス開口部114を開閉する。フットドア18は、フット開口部115を開閉する。デフロスタドア19は、デフロスタ開口部116を開閉する。
【0023】
吹出モードアクチュエータ17aは、これらフェイスドア17、フットドア18、デフロスタドア19を駆動するアクチュエータであり、図3に示すように、エアコンECU40によって制御される。エアミックスアクチュエータ16aによって、吹出口モードが制御される。吹出口モードには、例えば、フェイスモード、フットモード、デフロスタモード、バイレベルモードがある。フェイスモードは、フェイスドア17が開いてフットドア18、デフロスタドア19が閉じる吹出口モードである。フットモードは、フットドア18が開いてフェイスドア17、デフロスタドア19が閉じる吹出口モードである。デフロスタモードは、デフロスタドア19が開いてフェイスドア17、フットドア18が閉じる吹出口モードである。バイレベルモードは、デフロスタドア19が閉じてフェイスドア17、フットドア18が開くモードである。
【0024】
フェイスダクト51は、一端がフェイス開口部114に接続され、他端であるフェイス吹出口42が空調ユニット5において運転席2のシートバックに対向する位置に開口している。通風路111からフェイス開口部114を通った空調風はフェイスダクト51内を通った後、フェイス吹出口42から車室内に吹き出される。フェイス吹出口42から吹き出された空調風は、運転席2に着座する乗員3の上半身、腰、大腿部またはその周囲に向けて流れる。
【0025】
フットダクト52は、一端がフット開口部115に接続され、他端であるフット吹出口43がダッシュボード4において運転席2のシートクッションの前方の足元空間に対向して開口している。通風路111からフット開口部115を通った空調風はフットダクト52内を通った後、フット吹出口43から車室内に吹き出される。フット吹出口43から吹き出された空調風は、運転席2に着座する乗員3の左右の足先およびその周囲に向けて流れる。
【0026】
デフロスタダクト53は、一端がデフロスタ開口部116に接続され、デフロスタ吹出口41がダッシュボード4においてフロントガラスに対向して開口している。通風路111からデフロスタ開口部116を通った空調風はデフロスタダクト53内を通った後、デフロスタ吹出口41から車室内に吹き出される。デフロスタ吹出口41から吹き出された空調風は、フロントガラスまたはその周囲に向けて流れる。
【0027】
このように、デフロスタ吹出口41、フェイス吹出口42、フット吹出口43は、車室内の異なる位置に開口している。そして、乗員3の身体部位のうち、上半身に属する身体部位は、フェイス吹出口42から吹き出される空気の影響を最も強く受ける。また、乗員3の身体部位のうち、左右の足先は、フット吹出口43から吹き出される空気の影響を最も強く受ける。
【0028】
また、図2に示すように、フェイス吹出口42には、風向調整部材110が取り付けられている。風向調整部材110は、フェイス吹出口42から車室内に吹き出される空気を導くことで、当該空気の向きを調整する。具体的には、風向調整部材110の姿勢が変化することで、フェイス吹出口42から吹き出される空気の流れの向きが、車幅方向および車両上下方向に変わる。風向調整部材110は、板形状の部材であってもよいし、他の形状であってもよい。風向アクチュエータ110aは、風向調整部材110を駆動するアクチュエータであり、図3に示すように、エアコンECU40によって制御される。
【0029】
また、図3に示すように、空調装置は、外気温センサ22、内気温センサ23、日射センサ24、操作受付部21を備えている。外気温センサ22は、外気の温度に応じた検出信号を出力する。内気温センサ23は、内気の温度に応じた検出信号を出力する。日射センサ24は、車室内への日射量に応じた検出信号を出力する。
【0030】
操作受付部21は、乗員3の入力操作を受け付ける装置である。具体的には、操作受付部21は、それぞれが個別に操作可能な4つのスイッチ211、212、213、214を有している。操作受付部21は、押しボタン式等のメカニカルなスイッチ機構であってもよいし、タッチパネル等であってもよい。
【0031】
エアコンECU40は、処理部401、記憶部402等を有する。記憶部402は、RAM、ROM、フラッシュメモリ等の各種メモリを含む。RAMは、書き込み可能な揮発性記憶媒体である。ROMは、書き込み不可能な不揮発性記憶媒体である。フラッシュメモリは、書き込み可能な不揮発性記憶媒体である。CPUに相当する処理部401は、ROM、フラッシュメモリに記憶された不図示のプログラムを実行し、その実行の際にRAMを作業領域として用いることで、後述する種々の処理を実現する。RAM、ROM、フラッシュメモリは、いずれも、非遷移的実体的記憶媒体である。以下、簡単のため、処理部401が行う処理を、エアコンECU40が行う処理であるとして説明する。
【0032】
なお、空調ユニット5、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8から構成される温熱刺激部は、乗員3に与える温熱刺激の身体部位別の分布を変更可能に構成されている。実際、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8は、エアコンECU40によって互いに独立に出力調整が可能である。また、そして、空調ユニット5が車室内に送る空気の温度および風量も、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8の作動とは独立にエアコンECU40によって調整可能である。また、エアコンECU40は、吹出口モードを変更することで、空気をフェイス吹出口42から吹き出すかフット吹出口43から吹き出すかを切り換えることができる。また、エアコンECU40は、風向調整部材110の向きを制御することで、フェイス吹出口42から吹き出される空気の方向を調整することができる。これによって、例えば、乗員3の複数の身体部位30~39のどれに対しても、その身体部位に最も強い温熱刺激が与えられるよう、温熱刺激の身体部位別の分布が調整可能である。
【0033】
以下、上記のように構成された空調装置の作動について説明する。エアコンECU40は、乗員3の精神の状態または身体の状態を達成すべき状態に導くために、乗員3の複数の身体部位に個別に必要に応じて温熱感を与える。
【0034】
このために、エアコンECU40は、図4に示す処理を実行する。エアコンECU40は、図4の処理を、車両1のメインスイッチがオンの場合に実行する。メインスイッチとは、車両1の主電源のオン、オフを切り換えるスイッチである。メインスイッチがオンのとき、車両1の主電源がオンとなる。図4の処理が実行されているとき、車両1は走行している場合もあれば、停止している場合もある。
【0035】
エアコンECU40は、図4の処理において、まずステップS110で、4つのモードから1つのモードを選択する。ここで、モードとは、乗員3について達成したい精神または身体の状態を表すモードをいう。4つのモードは、具体的には、図5に示すように、リラックスモードM1、フォーカスモードM2、スリープモードB1、エナジーモードB2である。
【0036】
リラックスモードM1は、乗員の精神を安静化させるモードである。後述するように、リラックスモードM1では、空調装置は、乗員3がリラックスできるように、乗員3へ温熱刺激を与える。例えば、車両1が停止しているときや、乗員3の運転操作を全く必要としない自動運転を車両1が実行している場合に、リラックスモードM1が選択可能である。
【0037】
フォーカスモードM2は、乗員の精神を活性化させるモードである。後述するように、フォーカスモードM2では、空調装置は、乗員3が車両1の運転操作等の知的作業に集中できるように、乗員3へ温熱刺激を与える。
【0038】
スリープモードB1は、乗員の身体を安静化させるモードである。後述するように、スリープモードB1では、空調装置は、乗員3が仮眠できるように、乗員3へ温熱刺激を与える。例えば、車両1が停止しているときや、乗員3の運転操作を全く必要としない自動運転を車両1が実行している場合に、スリープモードB1が選択可能である。
【0039】
エナジーモードB2は、乗員の身体を活性化させて疲労感を回復させるモードである。後述するように、エナジーモードB2では、空調装置は、乗員3が車両1の運転操作に集中できるように、乗員3へ温熱刺激を与える。
【0040】
このように、リラックスモードM1およびフォーカスモードM2は、乗員3について達成したい精神の状態を表し、スリープモードB1およびエナジーモードB2は、乗員3について達成したい肉体の状態を表す。また、リラックスモードM1およびスリープモードB1は、安静状態または安定状態を表し、フォーカスモードM2およびエナジーモードB2は、活性状態または覚醒状態を表す。
【0041】
エアコンECU40は、操作受付部21への乗員3の操作内容に基づいて、これら4つのモードのうちから1つを選択する。具体的には、乗員3によってスイッチ211が操作された場合は、現在のモードからリラックスモードM1へ変更する。また、乗員3によってスイッチ212が操作された場合は、現在のモードからフォーカスモードM2へ変更する。また、乗員3によってスイッチ213が操作された場合は、現在のモードからスリープモードB1へ変更する。また、乗員3によってスイッチ214が操作された場合は、現在のモードからエナジーモードB2へ変更する。このようになっていることで、乗員3は、自らが望む精神状態または身体状態に誘導されるよう、車室内の環境を調整することができる。このように、操作受付部21に対して操作を行うことは、空調装置の作動状態に関するモードを変更するモード変更操作である。
【0042】
続いてエアコンECU40は、ステップS120で、乗員3の複数の身体部位の各々に対する目標SET*を、ステップS110で決定した変更後のモードに基づいて決定する。ここで、乗員3の複数の身体部位は、図1に示すように、頭部30、首31、胸部32、左右上腕部33、左右前腕部34、左右手35、腰部36、左右大腿部37、左右下腿部38、左右足先39を含んでいる。
【0043】
具体的には、エアコンECU40は、まず、ステップS110で決定した変更後のモードに応じて、図6図7図8図9に示すように、目標温熱感分布を設定する。目標温熱感分布は、複数の身体部位30~39のそれぞれを対象とする複数の温熱感の目標値を表すデータである。各モードの目標温熱感分布は、エアコンECU40のROMまたはフラッシュメモリ等の記憶部402にあらかじめ標準温熱感分布として記憶されている。エアコンECU40は、当該記憶部402から、決定したモードに応じた目標温熱感分布を読み出すことで、当該目標温熱感分布を設定する。
【0044】
図6図7図8図9は、それぞれ、リラックスモードM1、フォーカスモードM2、スリープモードB1、エナジーモードB2に対応する目標温熱感分布の一例である。図6図9において、縦軸は身体部位を表し、横軸は、対応する身体部位の温熱感の目標値を表す。温熱感の目標値が大きいほど、対応する身体部位における温熱感はより暖かいものになる。温熱感の目標値が小さいほど、対応する身体部位における温熱感はより涼しいものになる。なお、図6図9の分布は、あくまでも例であって、各モードの目標温熱感分布はこのような分布に限定されるわけではない。
【0045】
各モードに対応した目標温熱感分布は、そのモードの精神状態または身体状態において乗員3が快適に感じると想定される分布として、作成されている。これら分布は、不特定多数の乗員を平均的に満足させるものとしてあらかじめ実験により決定されている。このように作成されていることで、あるモードについての目標温熱感分布が実現すれば、そのモードの精神状態または身体状態が実現するよう、乗員3の状態が誘導される。
【0046】
4つのモードは、複数の身体部位30~39に亘る温熱感の目標値の分布が、互いに異なる。また、4つのモードのいずれにおいても、頭部30、首31における温熱感の目標値よりも、左右大腿部37、左右下腿部38、左右足先39における温熱感の目標値の方が、大きい。
【0047】
また、頭部30の温熱感の目標値は、4つのモードのうちどの2つを取っても互いに異なっている。具体的には、頭部30の温熱感の目標値は、スリープモードB1、リラックスモードM1、エナジーモードB2、フォーカスモードM2の順に大きい。また、スリープモードB1における身体部位30~39の温熱感の目標値は、いずれも、他のモードにおける同じ身体部位の温熱感の目標値と同じかそれより大きい。
【0048】
また、リラックスモードM1よりもフォーカスモードM2の方が、左右足先39を除く各身体部位の温熱感の目標値が、大きい。また、スリープモードB1よりもエナジーモードB2の方が、各身体部位の温熱感の目標値が、大きい。これは、精神または身体を活性化させるためには、安静化させる場合よりも体感温度を低くする方が望ましいからである。
【0049】
ステップS120で更にエアコンECU40は、上述のように決定した目標温熱感分布に含まれる複数の身体部位の温熱感の目標値から、図10に示す対応テーブルを用いて、複数の身体部位のSET*を特定する。そして、特定したSET*を目標SET*とする。つまり、10個の温熱感の目標値から、それぞれに対応する10個の目標SET*を特定する。図10においては、横軸がSET*を表し、縦軸が身体部位の温熱感の目標値である。ここでエアコンECU40が使用するこの対応テーブルは、エアコンECU40のROMまたはフラッシュメモリ等の記憶部402にあらかじめ記憶されている。
【0050】
ここで、SET*について説明する。SET*は、標準新有効温度と呼ばれる温度指標である。SET*は、環境側の気温、湿度、放射、気流と人体側の代謝量、着衣量の6要素を考慮して求められる。SET*ではASHRAEの標準環境というものが定義される。実在環境にいた人が、当該標準環境に移動した時に、当該実在環境と体感的に同じと感じた時の当該標準環境の気温が、当該実在環境におけるSET*である。SET*の詳細については、周知技術であるので説明を割愛する。SET*は、目標温熱感分布に示されている温熱感と1対1の対応関係を有している。したがって、SET*も、温熱感を表す指標である。
【0051】
続いてエアコンECU40は、ステップS130で、乗員3の複数の身体部位30~39の各々におけるSET*を算出する。ここで算出する10個のSET*は、目標値ではなく、現在の値、すなわち、現在SET*である。
【0052】
SET*の値の算出方法は周知であるので、詳細な説明を省略する。例えばエアコンECU40は、種々のセンサから、乗員3の身体部位30~39の各々における現在のSET*を算出する。種々のセンサとしては、サーモカメラ9、外気温センサ22、内気温センサ23、日射センサ24、および、フェイス吹出口42およびフット吹出口43から吹き出る空気の温度を検出する不図示の温度センサ、不図示の湿度センサ等がある。また、エアコンECU40は、身体部位30~39の各々における現在のSET*を算出するために、種々のアクチュエータの作動内容の情報を用いてもよい。種々のアクチュエータとしては、ファンアクチュエータ131a、エアミックスアクチュエータ16a、吹出モードアクチュエータ17a、内外気モードアクチュエータ12a、風向アクチュエータ110a等がある。また、SET*の算出において、乗員3の身体部位毎の着衣量および代謝量は、あらかじめ固定的に定められていてもよいし、乗員3によって設定されてもよい。続いてエアコンECU40は、ステップS140で、ステップS120で算出した身体部位30~39の目標SET*と、ステップS130で算出した身体部位30~39のSET*との差を算出する。算出される差は、同じ身体部位について目標SET*からSET*を減算することで行われる。この結果、身体部位30~39の各々について、目標SET*とSET*との差が算出される。
【0053】
続いてエアコンECU40は、ステップS150で、ステップS140で算出された差のうち、絶対値が最大になるものを、1つ選択する。つまり、温熱刺激の対象として優先順位が最も高い身体部位を1つ選択する。
【0054】
続いてエアコンECU40は、ステップS160で、ステップS150で選択された差の絶対値が許容範囲内であるか否かを判定する。許容範囲は、当該差の絶対値を敢えて低減するまでもないとみなす範囲である。したがって、許容範囲は、ゼロ以上かつ基準値以下の範囲である。エアコンECU40は、当該範囲が許容範囲内であると判定した場合、ステップS180で認知促進制御を行った後、ステップS170をバイパスしてステップS110に戻る。この認知促進制御については後述する。
【0055】
ステップS180に続いてステップS110を実行する場合、エアコンECU40は、乗員3が前回のステップS110以降に操作受付部21を操作していれば、スイッチ211、212、213、214のうち操作されたスイッチに対応するモードを選択する。これにより、モードが変化する。操作していなければ、前回のステップS110で選択したのと同じモードを選択する。
【0056】
なお、ステップS180からステップS110に戻るということは、ステップS170をバイパスするということである。ステップS180からステップS110に戻った後、モード変更操作が行われずモードが同じ状態においては、車室内の温度等の状況の変化に応じて、ステップS160からステップS170を経てステップS175が実行される。すなわち、その時点のモードに応じた空調作動が実現する。つまり、モード変更操作が行われた直後にステップS180が実行されてステップS170がバイパスされたとしても、その後にステップS170が実行されるのだから、当該モード変更操作は、空調装置の作動状態の変化の起因となっている。なお、空調作動の変化は、空調風の吹き出し方向の変化のみならず、空調風の温度変化、空調風の風量変化、内外気比率の変化、吹出モードの変化、ヒータ6、7、8の出力変化も該当する。
【0057】
エアコンECU40は、ステップS160で、当該範囲が許容範囲内でないと判定した場合、ステップS175で認知促進制御を行った後、ステップS170に進む。この認知促進制御については後述する。ステップS170では、エアコンECU40は、ステップS150で選択した差の絶対値に対応する最優先の身体部位、すなわち、目標SET*とSET*の差の絶対値が最大となる身体部位を、対象の身体部位として選ぶ。そして、対象の身体部位に対して、個別に、温熱刺激を与える。対象の身体部位に対して個別に温熱刺激を与えるとは、身体部位30~39のうち他の身体部位よりも、対象の身体部位のSET*が大きく変化するよう、主に対象の身体部位に温熱刺激を与えることをいう。
【0058】
例えば、対象の身体部位が頭部30、首31、胸部32、左右上腕部33、左右前腕部34、左右手35、腰部36のうちいずれかであったとする。その場合、エアコンECU40は、吹出モードアクチュエータ17aを制御して吹出口モードをフェイスモードにする。更にエアコンECU40は、フェイス吹出口42から吹き出される空気(すなわち、空調風)が対象の身体部位に主に当たるよう、風向アクチュエータ110aを制御して風向調整部材110の姿勢を変化させる。
【0059】
更にエアコンECU40は、フェイス吹出口42から対象の身体部位に吹き出される空気の温度を調整することで、対象の身体部位に主に温熱刺激を与える。例えば、対象の身体部位における目標SET*とSET*の差が正の値であれば、SET*を増大させるよう、内気温センサ23によって検出された車室内の温度よりも高い温度に、目標吹出温度TAOを設定する。また、対象の身体部位における目標SET*とSET*の差が負の値であれば、SET*を減少させるよう、内気温センサ23によって検出された車室内の温度よりも高い温度に、目標吹出温度TAOを設定する。
【0060】
頭上、頭部30、首31、胸部32、左右上腕部33、左右前腕部34、左右手35、腰部36の各々が対象の身体部位であったときに風向調整部材110の姿勢をどのようにするかを示す姿勢データは、あらかじめ、エアコンECU40に記録されている。具体的には、エアコンECU40のROMまたはフラッシュメモリ等の記憶部402に記録されている。エアコンECU40は、その姿勢データを用いて、風向調整部材110の姿勢を決定する。なお、姿勢データの値は、乗員3の設定操作によって修正されてもよい。また、姿勢データの値は、サーモカメラ9に写された上記身体部位30~36の位置に基づいて修正されてもよい。
【0061】
なお、エアコンECU40は、目標吹出温度TAOに応じて、周知の方法で、送風ファン131の送風量、エアミックス比率、内外気比率を決定する。そして、決定した量を実現するよう、ファンアクチュエータ131a、エアミックスアクチュエータ16a、内外気モードアクチュエータ12aを制御する。目標吹出温度TAOが高いほど、より暖かいと乗員が感じる温熱感が与えられるよう送風空気の状態が調整される。また、目標吹出温度TAOが低いほど、より涼しいと乗員が感じる温熱感が与えられるよう送風空気の状態が調整される。
【0062】
また例えば、対象の身体部位が腰部36、左右大腿部37、左右下腿部38のいずれかであった場合は、エアコンECU40は、対象の身体部位に対応するヒータの出力を調整することで、対象の身体部位に主に温熱刺激を与える。
【0063】
具体的には、対象の身体部位における目標SET*とSET*の差が正の値であれば、SET*を増大させるよう、対応するヒータの出力を増大させる。また、対象の身体部位における目標SET*とSET*の差が負の値であれば、SET*を減少させるよう、対応するヒータの出力を減少させる。なお、腰部36、左右大腿部37、左右下腿部38に対応するヒータは、それぞれ、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8である。
【0064】
なおこのとき、エアコンECU40は、ファンアクチュエータ131aを制御して送風ファン131を停止させることで、デフロスタ吹出口41、フェイス吹出口42、フット吹出口43から乗員3に空気が流れないようにしてもよい。
【0065】
また例えば、対象の部位が左右足先39であった場合は、エアコンECU40は、吹出モードアクチュエータ17aを制御して吹出口モードをフットモードにする。更にエアコンECU40は、フット吹出口43から左右足先39に吹き出される空気の温度を調整することで、左右足先39に主に温熱刺激を与える。温熱刺激を与えるときの目標吹出温度TAOの設定は、頭部30、首31、胸部32、左右上腕部33、左右前腕部34、左右手35の各々が対象の身体部位であったときと、同等である。
【0066】
ステップS170の後、エアコンECU40は、ステップS110に戻る。ステップS170に続いてステップS110を実行する場合、エアコンECU40は、乗員3が前回のステップS110以降に操作受付部21を操作していれば、スイッチ211、212、213、214のうち操作されたスイッチに対応するモードを選択する。これにより、モードが変化する。操作していなければ、前回のステップS110で選択したのと同じモードを選択する。
【0067】
エアコンECU40は、このような処理により、各時点において目標SET*とSET*の差の絶対値が最も大きい身体部位に個別に温熱刺激を与えることで、当該差の絶対値を低減させる。これが繰り返されることで、目標SET*とSET*の差の絶対値が最も大きい身体部位が、時々刻々と変化していく。したがって、身体部位30~39の各々において、個別に、目標SET*とSET*の差の絶対値が低減されていく。その結果、どの身体部位についても、目標SET*とSET*の差の絶対値が許容範囲内に治まるようになる。つまり、SET*の身体部位別の分布と目標SET*の身体部位別の分布の類似度が高くなっていく。その結果、ステップS110で決定されたモードに対応する精神状態または身体状態に、乗員3が誘導されていく。
【0068】
このとき、ステップS110で決定されたモードが異なる場合、目標温熱感分布が異なるので、ステップS170の温熱刺激によって実現される身体部位30~39のSET*の分布も異なる。
【0069】
特に、頭部30の温熱感の目標値は、4つのモードのどの2つを取っても互いに異なっている。したがって、同じ車内環境において、ステップS110で選択されたモードが異なれば、頭部30に与えられる温熱刺激が異なる。他の身体部位31~39についても同様である。すなわち、ある身体部位について、或るモードと、別のモードとで、温熱感の目標値が異なっていたとする。その場合、同じ車内環境において、ステップS110で選択されたモードが当該或るモードであったときと当該別のモードであったときとでは、頭部30に与えられる温熱刺激が異なる。
【0070】
このように、エアコンECU40は、モード別に、乗員3の身体部位ごとの温熱感を検出し、モード毎にかつ身体部位毎に異なる目標温熱感をめざすように、空調ユニット5、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8を制御することができる。
【0071】
以上の通り、エアコンECU40は、リラックスモードM1、フォーカスモードM2、スリープモードB1、エナジーモードB2から1つのモードを選択する。そして、選択した1つのモードに対応する1つの目標温熱感分布に基づいて、空調ユニット5、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8の作動を制御する。そして、エアコンECU40は、選択されるモードが異なれば、少なくとも1つの身体部位に対して異なる温熱刺激を与える。このようになっていることで、達成したい乗員3の精神の状態または身体の状態に応じて、乗員3の身体部位30~39の温熱感の分布を調整することができる。
【0072】
ここで、ステップS175、S180でエアコンECU40が行う認知促進制御について説明する。エアコンECU40は、ステップS175、S180のどちらにおいても、図11に示す処理を行う。図11の処理では、まずステップS610でモード変更操作があったか否かを判定し、あった場合はステップS620で風向調整部材110を駆動した後に認知促進制御を終了し、なかった場合はステップS620をバイパスして認知促進制御を終了する。
【0073】
ステップS610では、モード変更操作があったか否かは、直前のステップS110でそれまでのモードとは違うモードを選択する操作が行われたか否かにより、判定される。したがって、ステップS620は、操作受付部21に対してモード変更操作があった直後に実行される処理である。
【0074】
エアコンECU40は、ステップS620では、フェイス吹出口42から出る空調風の風向が、通常遷移範囲を超えて動くよう、風向アクチュエータ110aを制御して風向調整部材110を駆動する。通常遷移範囲とは、基準風向と目標風向との間の範囲全体である。基準風向と目標風向との間とは、基準方向と目標風向も含む範囲である。すなわち、通常遷移範囲とは基準風向と目標風向を両端とする一続きの風向範囲である。
【0075】
基準風向は、モード変更操作を受け付ける直前においてフェイス吹出口42から出る空調風の風向である。つまり、基準風向は、今回の認知促進制御の開始時点におけるフェイス吹出口42からの風向である。目標風向は、モード変更直後のフェイス吹出口42からの風向の目標である。
【0076】
ステップS180で実行される認知促進制御においては、基準風向と目標風向が同じである。これは、温熱刺激の対象として最優先の身体部位でも目標SET*とSET*との差の絶対値が許容範囲内なので、風向を変化させる必要がなく、実際変化させないからである。基準風向と目標風向が同じ場合は、通常遷移範囲は、当該基準風向(すなわち当該目標風向)のみを含む。なお、既に説明した通り、風向を変化させる必要がないというのは、モード変更操作が行われた直後においてはであって、その後同じモードにおいてステップS170で当該モードに応じた風向変化、空調風の温度変化等の空調作動が行われる場合がある。
【0077】
ステップS175で実行される認知促進制御では、温熱刺激の対象として最優先の身体部位に対して個別の温熱刺激を与える。この際、温熱刺激の対象の身体部位が頭上、頭部30、首31、胸部32、左右上腕部33、左右前腕部34、左右手35、腰部36のうちいずれかの身体部位である場合、そのフェイス吹出口42から当該身体部位また頭上への風向が、目標風向となる。
【0078】
ステップS620における制御の一例として、基準風向がフェイス吹出口42から胸部32への風向61であり、目標風向がフェイス吹出口42から腰部36への風向64である場合について、図12図13を用いて説明する。この場合、図12に示すように、通常遷移範囲は、風向61から風向64までの範囲60となる。基準風向から目標風向に風向を変化させる場合、上記通常遷移範囲内の一端側から他端側まで風向が変化するよう、風向調整部材110を駆動することで足りるが、ステップS620では、そのようにしない。
【0079】
すなわち、ステップS620では、その通常遷移範囲に加え、通常遷移範囲を超えた範囲も経て、基準風向から目標風向まで風向が変化するよう、風向調整部材110を駆動する。例えば、図12の例であれば、エアコンECU40は、図13に示すように風向が変化するよう、風向アクチュエータ110aを制御して風向調整部材110を駆動する。
【0080】
図13の例では、風向は、胸部32への風向61から頭部30への風向62まで上向きに変化し、風向62から胸部32と腰部36を通り越して左右下腿部38への風向63まで下向きに変化し、更に風向63から腰部36への風向64まで上向きに変化する。なお、頭部30への風向までの上向きの風向変化は、乗員の頭上への風向までの上向きの風向変化に置き換えられてもよい。なお、他の例として、風向は、風向61、風向62、風向63、風向64の順に変化するのではなく、風向61、風向63、風向62、風向64の順に、すなわち、上下の順が逆になるよう、変化してもよい。
【0081】
また、ステップS620における制御の他の一例として、基準風向も目標風向もフェイス吹出口42から胸部32への風向61である場合について、図14を用いて説明する。この場合、通常遷移範囲は、風向61のみを含む。この場合、ステップS620では、エアコンECU40は、図14に示すように風向が変化するよう、風向アクチュエータ110aを制御して風向調整部材110を駆動する。
【0082】
図14の例では、風向は、胸部32への風向61から頭部30への風向62まで上向きに変化し、風向62から胸部32と腰部36を通り越して左右下腿部38への風向63まで下向きに変化し、更に風向63から胸部32への風向61まで上向きに変化する。すなわち、フェイス吹出口42からの風向が、胸部32に向かう風向61から同じ風向61まで、風向61以外の範囲も通って、変化する。つまり、図14の例では、エアコンECU40は、風向が、基準風向から目標風向まで、当該基準風向とは異なる(すなわち目標風向とも異なる)風向とを経て、変化するよう、風向調整部材110を駆動する。なお、他の例として、風向は、風向61、風向62、風向63、風向61の順に変化するのではなく、風向61、風向63、風向62、風向61の順に、すなわち、上下の順が逆になるよう、変化してもよい。
【0083】
図13図14の例のような通常遷移範囲を超えた風向の制御は、例えば、風向調整部材110の可動範囲の一端から他端までの全範囲を動くことで実現されてもよい。すなわち、風向調整部材110による調整で可能な風向の範囲内で最も上方向に吹き出す風向と最も下方向に吹き出す方向とその間の方向を含め、風向が変化する。例えば、風向調整部材110による調整で可能な風向の範囲の上端が風向61で下端が風向63である場合には、これが成り立つ。このような場合、風向の変化量が大きいので、空調装置の作動の変化を乗員に体感させる効果が高まる。
【0084】
あるいは、図13図14の例のような通常遷移範囲を超えた風向の制御は、例えば、風向調整部材110の可動範囲の一端から他端までの全範囲のうち一部のみを動くことで実現されてもよい。例えば、風向調整部材110による調整で可能な風向の範囲の上端が風向61よりも上向きの風向である場合、下端が風向63より下向きの風向である場合、およびその両方である場合には、これが成り立つ。このように、認知促進制御において風向調整部材110が可動範囲よりも狭い範囲で動くことにより、風向アクチュエータ110aの寿命が延びる。
【0085】
以上説明した通り、エアコンECU40は、風向が、基準風向から目標風向まで、通常遷移範囲内の風向と、通常遷移範囲から外れた風向とを経て、変化するよう、風向調整部材110を駆動する。
【0086】
このように、モード変更操作によって空調装置の作動状態が変化したときに、風向が通常遷移範囲から外れた風向も経て変化する。したがって、風向が通常よりも大きく変化するので、乗員が空調装置の作動の変化をより明確に体感できる。
【0087】
(1)また、操作受付部21は、風向と間接的に関係するモードを変更する操作をモード変更操作として受け付ける。実際、操作受付部21に対するモード変更操作は、上述の通り、リラックスモード、フォーカスモード、スリープモード、エナジーモードという4つのモードから1つを選択する操作なので、風向と直接的に関係するモードを選択しているわけではない。
【0088】
これら4つのモードの1つから他の1つにモードが変化したとしても、風向が変化しない場合がある。例えば、繰り返しステップS160からステップS180に進む場合がそうである。また例えば、ステップS160からステップS175に進む場合でも、温熱刺激を加える対象の身体部位が変化しない場合は、風向が変化しない。また、ステップS170で風向ではなくヒータ16、17、18の制御のみが変化する場合も、風向が変化しない。
【0089】
もちろん、これら4つのモードの1つから他の1つにモードが変化したタイミングで、風向が変化する場合がある。例えば、ステップS160からステップS175に進み、温熱刺激を加える対象の身体部位が頭部30、首31、胸部32、左右上腕部33、左右前腕部34、左右手35、腰部36のうち1つから他の1つに変化した場合が該当する。
【0090】
このように、上記4つのモード間の遷移があることに起因して風向も変化する場合があり、かつ、4つのモード間の遷移があっても風向が変化しない場合がある。このことからも、上記4つのモードは、風向と間接的に関係するモードであることがわかる。
【0091】
このように、エアコンECU40は、風向と間接的に関係するモードを変更するモード変更操作に起因して、ステップS175またはステップS185で認知促進制御を行う。このようにすることで、風向の変更を直接の目的としないモード変更操作に対しても、風向の変化により、モード変更操作に応じた空調装置の作動の変化をより明確に乗員に体感させることができる。
【0092】
(2)また、エアコンECU40は、ステップS175、ステップS180で、基準風向と目標風向が同じ場合に、図14に示すように、風向が、基準風向から目標風向まで、基準風向とは異なる風向を経て、変化するよう、風向調整部材110を駆動する。
【0093】
モードが変化してもそのタイミングで風向が変化しないと、モードの変化に伴う空調装置の作動の変化を乗員が体感し難い場合が多い。例えば、モードが変化して風向が変わらず車室内の温度変化が緩やかに実現する場合が該当する。そのような、空調の目的のためには風向を変化させる必要がない場合に、風向を敢えて変化させると、モード変更操作に応じた空調装置の作動の変化を乗員に体感させることが、効果的に実現できる。
【0094】
(3)また、エアコンECU40は、認知促進制御において、図13図14に示すように、通常遷移範囲から外れた風向として、車両の乗員の頭部30へ向かう風向を含む。頭部30は、胴体および下半身に比べて、人の肌が露出している可能性が高い。したがって、空調風が頭部30へ当たり始めたり当たらなくなったりする変化を、乗員は体感し易い。通常遷移範囲から外れた風向としてそのような身体部位の方向を採用することで、空調のためだけであれば当たらないはずであった頭部30へ空調風が当たることになる。したがって、モード変更操作に応じた空調装置の作動の変化を乗員に強く体感させることができる。
【0095】
これは、モード変更操作の結果、目標風向が基準風向と同じになった場合でも効果がある。また、モード変更操作の結果、目標風向が基準風向と異なる場合で、通常遷移範囲が胸部32、腰部36、左右大腿部37の範囲内である場合には、更なる効果がある。すなわち、空調のためだけであれば肌が露出してない箇所にしか空調風が当たらないところを、敢えて肌が露出している可能性が高い箇所にまで空調風が当たるので、モード変更操作に応じた空調装置の作動の変化を乗員により明確に体感させることができる。
【0096】
(4)また、エアコンECU40は、認知促進制御において、図13図14に示すように、通常遷移範囲から外れた風向として、車両の乗員の頭上へ向かう風向を含む。このように設定することで、通常遷移範囲に頭部30への方向が含まれていても、含まれていなくても、認知促進制御で変化する風向の範囲に、頭部30への風向が含まれることになる。
【0097】
(5)また、エアコンECU40は、通常遷移範囲から外れた風向として、風向調整部材110による調整で可能な範囲内で最も上方向に吹き出す風向と最も下方向に吹き出す風向を含む。このようになっていることで、そうでない場合に比べて、風向の変化量、風向の変化にかかる時間等が大きいので、モード変更操作に応じた空調装置の作動の変化を乗員に強く体感させることができる。
【0098】
(第2実施形態)
次に第2実施形態について、図15図16図17を用いて説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、モード変更操作の形態が異なっている。本実施形態の空調装置のハードウェア構成は、図15に示すように、第1実施形態の空調装置に対して、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8が廃され、エバポレータ温度センサ28、水温センサ29が追加され、操作受付部21の構成が変更される。ただし、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8が廃されない例があってもよい。
【0099】
エバポレータ温度センサ28は、エバポレータ14の温度を検出するセンサである。水温センサ29は、ヒータコア15を流れるエンジン冷却水の温度を検出する。
【0100】
本実施形態の操作受付部21は、図15に示すように、それぞれが個別に操作可能な4つのスイッチ221、222、223、224を有している。これら4つのスイッチの各々は、風向を直接的に指示するためのスイッチである。具体的には、スイッチ221、222、223、224は、それぞれ、フェイス吹出口42からの空調風の風向を頭部30、胸部32、腰部36、左右大腿部37に向けさせるためのスイッチである。これらスイッチは、変化前の風向に対する風向の相対変化量を指定するスイッチではなく、変化後の風向の絶対位置を指定するスイッチである。各スイッチには、そのスイッチが指定する絶対位置に対応した名称(例えば頭部)が表示されている。
【0101】
また、操作受付部21は、これらスイッチ221~224以外にも、車室内の温度を設定するための温度設定スイッチ、腰部ヒータ6、大腿部ヒータ7、下腿部ヒータ8のオン、オフを操作するヒータスイッチ等の、乗員が操作可能なスイッチを有している。操作受付部21は、これらスイッチのうち1つに対する操作があったときに、当該操作に対応する操作信号をエアコンECU40に出力する。操作受付部21は、押しボタン式等のメカニカルなスイッチ機構であってもよいし、タッチパネル等であってもよい。
【0102】
また、エアコンECU40は、第1実施形態の図4に示す処理に代えて、図15に示すように、空調制御処理401a、風向制御処理401bを、同時並行で実行する。
【0103】
空調制御処理401aにおいてエアコンECU40は、図16に示す処理を実行する。エアコンECU40は、図16の処理において、車両1のメインスイッチがオンの場合に、ステップS20~S90の処理を繰り返し一定周期(例えば1秒周期)で実行する。各回のS20~S90の実行において、エアコンECU40は、まずステップS20において、外気温センサ22、内気温センサ23、日射センサ24、エバポレータ温度センサ28、水温センサ29からの検出信号および操作受付部21からの操作信号を読み込む。続いてエアコンECU40は、これら読み込んだ信号に基づいて車室内へ吹き出す空気の目標吹出温度TAOを算出する。
【0104】
具体的には、目標吹出温度TAOは、下記数式F1により算出される。
TAO=Kset×Tset-Kr×Tr-Kam×Tam-Ks×Ts+C…(F1)
ここで、Tsetは操作パネルに含まれる不図示の温度設定スイッチによって設定された車室内の設定温度である。Trは内気温センサ23によって検出された内気温である。Tamは外気温センサ22によって検出された外気温である。Tsは日射センサ24によって検出される日射量である。また、Kset、Kr、Kam、Ksは所定の制御ゲインである。また、Cは補正用の定数である。
【0105】
続いてエアコンECU40は、ステップS40で、目標吹出温度TAOに基づいて、予め記憶部402に記憶された制御マップを参照して送風ファン131の送風量を決定する。続いてエアコンECU40は、ステップS50で、目標吹出温度TAOに基づいて、吹出口モードを決定する。つまり、目標吹出温度TAOに基づいて、フェイスドア17、デフロスタドア19、フットドア18による各開口部114、116、115の開閉状態を決定する。
【0106】
続いてエアコンECU40は、ステップS60で吸込口モードを決定する。つまり、内外気切替ドア12による内気導入口112および外気導入口113の開閉状態を、決定する。例えば、エアコンECU40は、目標吹出温度TAOが基準温度より低い場合は吸込口モードを内気モードに決定し、高い場合は、内気温Tr、外気温Tam、設定温度Tsetの関係に基づいて吸込口モードを決定する。
【0107】
続いてエアコンECU40は、ステップS70で、エアミックスドア16のエアミックス比率を決定する。エアミックス比率は、エバポレータ温度センサ28が検出したエバポレータ14の温度、水温センサ29が検出したエンジン冷却水の温度等により決定する。
【0108】
続いてエアコンECU40は、ステップS80で、冷凍サイクルの圧縮機の目標の回転数を決定する。目標吹出温度TAO、現在の回転数等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップに基づいて、目標の回転数を決定する。続いてエアコンECU40は、ステップS90を実行する。ステップS90では、ステップS40~S80で決定された制御量および制御状態が実現するよう、ファンアクチュエータ131a、エアミックスアクチュエータ16a、吹出モードアクチュエータ17a、内外気モードアクチュエータ12a等を制御する。
【0109】
次に、上述の通り、空調制御処理401aと同時並行で実行される風向制御処理401bについて説明する。風向制御処理は、認知促進制御の処理でもある。風向制御処理401bにおいてエアコンECU40は、図17に示すように、まずステップS210で、風向変更操作があったか否かを判定する。風向変更操作は、操作受付部21のスイッチ221~224のうち、フェイス吹出口42の現在の風向と異なる風向を指示するスイッチに対する操作である。この風向変更操作は、空調装置の作動状態に関するモードを変更するモード変更操作である。ここでいうモードは、フェイス吹出口42からの風向が頭部30を向くモード、胸部32を向くモード、腰部36を向くモード、左右大腿部37を向くモードである。
【0110】
例えば、フェイス吹出口42からの風向が胸部32を向くよう制御されている状態において、腰部36に対応するスイッチ223が操作される場合、それは、風向変更操作である。そして、例えば、フェイス吹出口42からの風向が胸部32を向くよう制御されている状態において、胸部32に対応するスイッチ222が操作される場合、それは、風向変更操作ではない。
【0111】
エアコンECU40は、風向変更操作がないと判定した場合、ステップS210の判定を繰り返し、風向変更操作があったと判定した場合、ステップS220に進む。ステップS220では、エアコンECU40は、フェイス吹出口42から出る空調風の風向が、現在の基準方向から目標風向まで、通常遷移範囲を超えて動くよう、風向アクチュエータ110aを制御して風向調整部材110を駆動する。通常遷移範囲は、第1実施形態と同様、基準風向から目標風向までの間の範囲、すなわち、基準風向と目標風向を両端とする1続きの範囲である。
【0112】
基準風向は、風向変更操作を受け付ける直前においてフェイス吹出口42から出る空調風の風向である。つまり、基準風向は、今回の認知促進制御の開始時点におけるフェイス吹出口42からの風向である。目標風向は、風向変更操作の直後のフェイス吹出口42からの風向の目標である。例えば、直前のステップS210で腰部36に対応するスイッチ223が操作されたことが検出された場合、目標風向はフェイス吹出口42から腰部36に向かう方向である。
【0113】
エアコンECU40は、直前に操作されたスイッチに対応する身体部位を向くよう、目標風向を決定する。頭部30、胸部32、腰部36、左右大腿部37の各々が目標風向であったときに風向調整部材110の姿勢をどのようにするかを示す姿勢データは、あらかじめ、エアコンECU40に記録されている。具体的には、エアコンECU40のROMまたはフラッシュメモリ等の記憶部402に記録されている。エアコンECU40は、その姿勢データを用いて、風向調整部材110の姿勢を決定する。なお、姿勢データの値は、乗員3の設定操作によって修正されてもよい。また、姿勢データの値は、サーモカメラ9に写された上記身体部位30、32、36、37の位置に基づいて修正されてもよい。
【0114】
ステップS220において、基準風向と目標風向が決まった後は、ステップS620と同じである。すなわち、ステップS220では、通常遷移範囲に加え、通常遷移範囲を超えた範囲も経て、基準風向から目標風向まで風向が変化するよう、風向調整部材110を駆動する。したがって、例えば、基準風向がフェイス吹出口42から胸部32への風向61であり、目標風向がフェイス吹出口42から腰部36への風向64である場合、図13で示したようにフェイス吹出口42からの風向が制御される。ステップSS20の後は、ステップS210の処理に戻る。
【0115】
以上説明した通り、エアコンECU40は、風向が、基準風向から目標風向まで、通常遷移範囲内の風向と、通常遷移範囲から外れた風向とを経て、変化するよう、風向調整部材110を駆動する。したがって、風向が通常よりも大きく変化するので、乗員が風向の変化をより明確に体感できる。
【0116】
(1)そして、本実施形態の操作受付部21は、風向のモードを変更する操作をモード変更操作として受け付けている。すなわち、風向に直接関係するモードを変更する操作をモード変更操作として受け付けている。このような場合、風向の変化を強調することで、風向の変化をより明確に乗員に体感させることができる。
【0117】
(2)また、基準風向と目標風向が異なる場合にのみ、ステップS220で風向が、基準風向から目標風向まで、通常遷移範囲内の風向を経て、且つ、通常遷移範囲から外れた風向を経て、変化するよう、エアコンECU40が風向調整部材110を駆動する。また、本実施形態と第1実施形態で共通する構成および作動からは、共通する効果が得られる。
【0118】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、図18を用いて説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、認知促進制御を実行する場合をより制限している。本実施形態の空調装置は、第1実施形態の空調装置とハードウェア構成が同じである。
【0119】
また、本実施形態のエアコンECU40は、第1実施形態で示した図4の処理に代えて、図18に示す処理を実行する。図18の処理は図4の処理に対して、ステップS175が廃されている。従って、本実施形態のエアコンECU40は、ステップS160で肯定判定が為されたときに限り、認知促進制御が実行される。すなわち、エアコンECU40は、ステップS160で、ステップS150にて選択された差の絶対値が許容範囲内でないと判定した場合は、認知促進制御をバイパスしてステップS170に進む。ステップS150の判定内容は、第1実施形態と同じである。
【0120】
ステップS110~S150、S170、およびステップS180の処理内容は、第1実施形態と同じである。ステップS180においては、第1実施形態で説明した通り、基準風向と目標風向が同じなので、通常遷移範囲が基準風向(すなわち目標風向)のみを含む。そして、ステップS180では、フェイス吹出口42から出る空調風の風向が、通常遷移範囲を超えて動くよう、例えば図14で示したように、風向アクチュエータ110aを制御して風向調整部材110を駆動する。
【0121】
これに対し、ステップS160からステップS170を実行する場合、基準風向と目標風向が異なるので、通常遷移範囲が基準風向でも目標風向でもない風向(すなわち、両者に挟まれた風向)を含む。そして、ステップS170では、フェイス吹出口42から出る空調風の風向が、通常遷移範囲内のみを動いて、基準風向から目標風向まで変化する。
【0122】
(1)このように、本実施形態のエアコンECU40は、基準風向と目標風向が同じ場合にのみ、ステップS180で、風向が、基準風向から目標風向まで、基準風向とは異なる風向を経て、変化するよう、風向調整部材110を駆動する。そしてエアコンECU40は、基準風向と目標風向が異なる場合、風向が、基準風向から目標風向まで、通常遷移範囲内の風向を経て、通常遷移範囲から外れた風向を経ずに、変化するよう、風向調整部材110を駆動する。
【0123】
このように、風向変更を伴わないモード変更操作が行われた際に認知促進制御を行い、風向変更を伴うモード変更操作が行われた際に認知促進制御を行わないことで、効果が特に高い場面に限定して認知促進制御を実行することができる。しかも、風向アクチュエータ110aを作動させる時間が低減されるので、風向アクチュエータ110aの寿命が延びる。また、本実施形態において第1実施形態と同様の構成および作動からは、同様の効果が得られる。
【0124】
なお、ステップS160からステップS170が実行される場合も、第1実施形態で説明した通り、そのステップS170で風向が変化しない場合がある。その場合において、エアコンECU40は、ステップS180と同様に認知促進制御を行ってもよい。
【0125】
(第4実施形態)
次に第4実施形態について図19を用いて説明する。本実施形態は、第1、3実施形態に対して、認知促進制御の内容が変更されたものである。本実施形態の空調装置のハードウェア構成は、第1、第3実施形態と同じである。
【0126】
また、本実施形態においては、図4図18におけるステップS175、S180の一方または両方の認知促進制御の内容が変更される。具体的には、図11のステップS620の内容が変更される。
【0127】
すなわち、第1、第3実施形態では、ステップS620では、モード変更操作によって指定された変更後のモードによらず、フェイス吹出口42からの風向の変化パターンが、基準風向、目標風向に応じて、決まる。これに対し、本実施形態のステップS620では、エアコンECU40は、モード変更操作によって指定された変更後のモードが異なると、基準風向と目標風向が同じであっても、フェイス吹出口42からの風向の変化パターンが、異なる。
【0128】
例えば、図19に示すように、変更後のモードがリラックスモードであれば、風向の変更パターンは、以下の通りである。風向が、まず、基準風向から上側風向まで変化し、更に、上側風向から下側風向まで変化し、更に、下側風向から目標風向まで変化する。
【0129】
また例えば、変更後のモードがフォーカスモードであれば、風向の変更パターンは、以下の通りである。風向が、まず、基準風向から下側風向まで変化し、更に、下側風向から上側風向まで変化し、更に、上側風向から目標風向まで変化する。
【0130】
ここで、上側風向は、基準風向よりも目標風向よりも上方を向いた風向(例えば、乗員の頭上を向く風向)であり、下側風向は、基準風向よりも目標風向よりも下方を向いた風向(例えば、左右大腿部37を向く方向)である。したがって、上側風向、下側風向とも、基準風向から目標風向までの通常遷移範囲から外れた風向である。この上側風向、下側風向は、それぞれ、風向調整部材110による調整で可能な風向の範囲内で最も上方向に吹き出す風向、最も下方向に吹き出す方向であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0131】
また、変更後のモードがリラックスモードであれば、風向の変更パターンは、以下の通りである。風向が、まず、基準風向から左側風向まで変化し、更に、左側風向から右側風向まで変化し、更に、右側風向から目標風向まで変化する。また、変更後のモードがエナジーモードであれば、風向の変更パターンは、以下の通りである。風向が、まず、基準風向から右側風向まで変化し、更に、右側風向から左側風向まで変化し、更に、左側風向から目標風向まで変化する。
【0132】
ここで、左側風向は、基準風向よりも目標風向よりも車両幅方向左側を向いた風向(例えば、肌が露出する乗員の左手を向く風向)であり、右側風向は、基準風向よりも車両幅方向右側を向いた風向(例えば、肌が露出する乗員の右手を向く風向)である。したがって、左側風向、右側風向とも、基準風向から目標風向までの通常遷移範囲から外れた風向である。
【0133】
この左側風向、右側風向は、それぞれ、風向調整部材110による調整で可能な風向の範囲内で最も左方向に吹き出す風向、最も右方向に吹き出す方向であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0134】
(1)このように、エアコンECU40は、モード変更操作によって変更された後のモードに応じて、基準風向から目標風向までの風向の変化パターンを異ならせる。このようにすることで、乗員は、モード変更操作によって空調装置の作動状態が変化したことを体感するだけでなく、どのモードに切り替わったかを風向の変化パターンで確認することができる。また、本実施形態において第1、第3実施形態と同様の構成および作動からは、同様の効果が得られる。
【0135】
なお、各実施形態において、エアコンECU40が、ステップS120~S180または風向制御処理201bを実行することでモード変更部として機能し、ステップS175、S180、S220を実行することで認知促進部として機能する。
【0136】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記実施形態において、センサから車両の外部環境情報(例えば車外の湿度)を取得することが記載されている場合、そのセンサを廃し、車両の外部のサーバまたはクラウドからその外部環境情報を受信することも可能である。あるいは、そのセンサを廃し、車両の外部のサーバまたはクラウドからその外部環境情報に関連する関連情報を取得し、取得した関連情報からその外部環境情報を推定することも可能である。特に、ある量について複数個の値が例示されている場合、特に別記した場合および原理的に明らかに不可能な場合を除き、それら複数個の値の間の値を採用することも可能である。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。また、本発明は、上記各実施形態に対する以下のような変形例および均等範囲の変形例も許容される。なお、以下の変形例は、それぞれ独立に、上記実施形態に適用および不適用を選択できる。すなわち、以下の変形例のうち任意の組み合わせを、上記実施形態に適用することができる。
【0137】
また、本開示に記載のエアコンECU40およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のエアコンECU40およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のエアコンECU40およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0138】
(変形例1)
上記第1~第3実施形態では、認知促進制御において、風向を上下に変化させることで、通常遷移範囲から外れた風向を実現している。しかし、必ずしもこのようになっておらずともよく、風向を車両幅方向に変化させることで、通常遷移範囲から外れた風向を実現してもよい。
【0139】
(変形例2)
上記第1、第3、第4実施形態の認知促進制御および第2実施形態の風向制御処理401bでは、エアコンECU40は、風向を基準風向から目標風向に変化させている途中、風量を一定にしてもよいし、変動させてもよい。
【0140】
変動させる場合は、例えば、乗員の頭部30、右手、左手等の肌が露出している可能性が高い部位に風向が向いている場合は、それら以外の部位(例えば胸部32、腰部36)を風向が向いている場合に比べて、風量を増大させてもよい。このようにすることで、モード変更操作に応じた空調装置の作動の変化を乗員により強く体感させることができる。
【0141】
なお、風量を増減させる方法としては、ファンアクチュエータ131aの出力を増減させる方法を採用してもよいし、フェイスドア17の開度を増減させる方法を採用してもよい。あるいは、吹出モードアクチュエータ17aを制御して吹出口モードを変更する方法を採用してもよい。例えば、吹出口モードがバイレベルモードからフェイスモードに切り替わると、フェイス吹出口42から吹き出される風量が増大する。
【0142】
(変形例3)
上記第1、第3、第4実施形態の認知促進制御および第2実施形態の風向制御処理401bでは、エアコンECU40は、風向を基準風向から目標風向に変化させている途中、送風空気の温度を一定にしてもよいし、変動させてもよい。変動させる方法としては、例えば、エアミックスアクチュエータ16aを制御してエアミックスドア16を駆動させることでエアミックス比率を変化させる方法がある。温度の変動のさせ方としては、例えば、風向を基準風向から目標風向に変化させている途中、温度の上昇と下降からなる1サイクルを1回以上行う方法を採用してもよい。
【0143】
(変形例4)
上記第1、第3、第4実施形態の認知促進制御および第2実施形態の風向制御処理401bでは、エアコンECU40は、風向を基準風向から目標風向に変化させている途中、フェイス吹出口42から吹き出る空調風を集中、拡散の間で変化させてもよい。これを実現するために、例えば、風向調整部材110は、独立に姿勢変化する複数枚の板を有していてもよい。そして、これら複数枚の板の姿勢により、フェイス吹出口42から出る空調風の吹きだし範囲が狭められたり広げられたりすることで、空調風の集中、拡散が実現されてもよい。
【0144】
(変形例5)
上記第1、第3、第4実施形態の認知促進制御および第2実施形態の風向制御処理401bでは、エアコンECU40は、フェイス吹出口42から吹き出る空調風の風向を変化させている。しかし、通常遷移範囲を超えて風向を変化させるのは、フェイス吹出口42以外の吹出口から出る空調風の風向であってもよい。
【0145】
(変形例6)
上記実施形態では、操作受付部21が受け付けるモード変更操作は、リラックスモード、フォーカスモード、スリープモード、エナジーモード間の変更を受け付ける操作、または、4つの風向の間の変更を受け付ける操作であった。操作受付部21が受け付けるモード変更操作は、このようなものに限られず、空調装置の作動状態に関するモードを変更する操作であれば、どのようなものでもよい。例えば、操作受付部21は、車室内の設定温度を変更する操作を、モード変更操作として受け付けてもよい。この場合、設定温度の変更が、モードの変更に該当する。その場合、エアコンECU40は、変更された設定温度が実現するよう空調装置の各種アクチュエータを制御すると共に、フェイス吹出口42から吹き出す空調風の風向を、通常遷移範囲から超えて変化させる。
【0146】
(変形例7)
上記実施形態では、空調処理の例として、エバポレータ14による空気の冷却、ヒータコア15による空気の加熱が例示されている。しかし、空調処理は、冷却、加熱のみならず、空気の除湿、空気の除菌、空気からの埃除去、空気への香り成分負荷、空気の帯電化等であってもよい。
【0147】
(変形例8)
上記第4実施形態では、モード変更操作による変更後のモードが異なると、認知促進制御の風向の変化パターンを異ならせるようになっている。このような手法としては、第4実施形態で例示した手法以外を採用してもよい。例えば、変更後のモードがフォーカスモードであり、かつ、通常遷移範囲が頭部30への風向を含まない場合、エアコンECU40は、認知促進制御において、風向を基準風風向から目標風向まで、頭部30を経て、変化させる。この際、エアコンECU40は、頭部30に風向が向いているときは、基準風向、目標風向等の他の風向が実現している場合に比べて、風量を増大させてもよい。そして例えば、変更後のモードがリラックスモードまたはフェイスモードであり、かつ、通常遷移範囲が頭部30への風向を含まない場合、エアコンECU40は、認知促進制御において、風向を基準風風向から目標風向まで、頭部30を経ず、変化させる。このようにすることで、集中が必要な場面では積極的に空調風を頭部30に当て、リラックスや睡眠が必要な場合は空調風が頭部30に当たることを避けることができる。
【符号の説明】
【0148】
5 空調ユニット
21 操作受付部
40 エアコンECU
42 フェイス吹出口
110 風向調整部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19