(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018781
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】硫化物全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20220120BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220120BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220120BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220120BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/66 A
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122130
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 元
(72)【発明者】
【氏名】永松 茂隆
(72)【発明者】
【氏名】堀江 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 利文
(72)【発明者】
【氏名】堤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】河村 道雄
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 悠真
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017DD05
5H017EE04
5H017HH00
5H017HH05
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM12
5H029BJ12
5H029DJ07
5H029EJ01
5H029HJ00
5H029HJ12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】硫化が起こり難く、密着性の高い負極集電体を有する硫化物全固体電池を提供する。
【解決手段】正極層10、負極層30、及び正極層と負極層との間に配置される硫化物固体電解質層20を備え、負極層は負極合材層31、及び該負極合材層の硫化物固体電解質層側の面とは反対の面に負極集電体32を有しており、負極集電体は他の元素を実質的に含まない電解鉄箔であり、負極集電体の表面粗度Raが0.2μm~0.6μmであり、表面粗度Rzが2μm~6μmである、硫化物全固体電池100である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、負極層、及び前記正極層と前記負極層との間に配置される硫化物固体電解質層を備え、
前記負極層は負極合材層、及び該負極合材層の前記硫化物固体電解質層側の面とは反対の面に負極集電体を有しており、
前記負極集電体は他の元素を実質的に含まない電解鉄箔であり、
前記負極集電体の表面粗度Raが0.2μm~0.6μmであり、表面粗度Rzが2μm~6μmである、
硫化物全固体電池。
【請求項2】
前記負極集電体の伸び率が5%~12%である、請求項1に記載の硫化物全固体電池。
【請求項3】
前記負極集電体の表面硬度が1090~2050である、請求項1又は2に記載の硫化物全固体電池。
【請求項4】
正極層、負極層、及び前記正極層と前記負極層との間に配置される硫化物固体電解質層を備え、
前記負極層は負極合材層、及び該負極合材層の前記硫化物固体電解質層側の面とは反対の面に負極集電体を有しており、
前記負極集電体は他の元素を実質的に含まない電解鉄箔であり、
前記負極集電体の表面硬度が1090~2050である、
硫化物全固体電池。
【請求項5】
正極層、負極層、及び前記正極層と前記負極層との間に配置される硫化物固体電解質層を備え、
前記負極層は負極合材層、及び該負極合材層の前記硫化物固体電解質層側の面とは反対の面に負極集電体を有しており、
前記負極集電体は他の元素を実質的に含まない電解鉄箔であって、表面にNiがめっきされており、
前記負極集電体の表面粗度Raが0.55μm~0.75μmであり、表面粗度Rzが5μm~8μmである、
硫化物全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は硫化物全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の分野において、安全性を高める観点から固体電解質を用いたリチウムイオン電池が開発されている。また、固体電解質として、出力向上の観点から硫化物固体電解質を用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-310147号公報
【特許文献2】特開2002-83578号公報
【特許文献3】特開平7-335206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、全固体電池は各電極層の粒子同士を接触させ電池性能を確保する観点から、非常に高い圧力でプレスを行って製造されている。しかし、固体電解質として硫化物固体電解質を用いた場合、例えばCu等の金属箔を集電体として用いると、集電体と硫化物固体電解質とが反応し、集電体が硫化され、これにより電極内で短絡が起こる虞があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記実情を鑑み、硫化が起こり難く、密着性の高い負極集電体を有する硫化物全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる問題を解決するために、本発明者らは、硫化物固体電解質による硫化が起こり難い電解鉄に着目した。電解鉄は比較的安価であるため、電池分野において集電体や電池の外装体等に用いられている(特許文献1~3)。
【0007】
例えば、特許文献1は、原材料費低減の観点から厚さ35ミクロン以下の電解鉄箔を負極集電体に用いたリチウム二次電池を開示しており、同文献には電解質として非水電解液を用いたリチウム二次電池を主な形態として記載されている。また、固体電解質を用いる形態についても記載されているが、リチウムイオン電導性で電気絶縁性の固体電解質であれば何を用いても良いとしている。
【0008】
しかしながら、特許文献1は電解鉄箔と固体電解質との密着性について着目していない。後述するように、本発明者らは電解鉄箔であれば必ずしも硫化物固体電解質に密着するわけではないことを見出している。特許文献1のリチウム二次電池は非水電解液を電解質に用いた形態を主としているため、かかる形態では全固体電池のように高いプレス圧を必要としておらず、また性能への影響も小さいことから、プレス後の電極と集電体との密着性について検討されていない。
【0009】
本発明者らは、電解鉄箔と固体電解質との密着性について検討し、電解鉄箔の表面粗度や表面硬度を厳密に調整することにより、電極層との密着性が向上することを知見した。そして、当該知見に基づいて、本開示の硫化物全固体電池を完成させた。以下、本開示の硫化物全固体電池について説明する。
【0010】
本願は、上記課題を解決するための一つの手段として、正極層、負極層、及び正極層と負極層との間に配置される硫化物固体電解質層を備え、負極層は負極合材層、及び該負極合材層の硫化物固体電解質層側の面とは反対の面に負極集電体を有しており、負極集電体は他の元素を実質的に含まない電解鉄箔であり、負極集電体の表面粗度Raが0.2μm~0.6μmであり、表面粗度Rzが2μm~6μmである、硫化物全固体電池を開示する。
【0011】
上記硫化物全固体電池において、負極集電体の伸び率は5%~12%であることが好ましく、負極集電体の表面硬度が1090~2050であることが好ましい。
【0012】
また、本願は、上記課題を解決するための一つの手段として、正極層、負極層、及び正極層と負極層との間に配置される硫化物固体電解質層を備え、負極層は負極合材層、及び該負極合材層の硫化物固体電解質層側の面とは反対の面に負極集電体を有しており、負極集電体は他の元素を実質的に含まない電解鉄箔であり、負極集電体の表面硬度が1090~2050である、硫化物全固体電池を開示する。
【0013】
さらに、本願は、上記課題を解決するための一つの手段として、正極層、負極層、及び正極層と負極層との間に配置される硫化物固体電解質層を備え、負極層は負極合材層、及び該負極合材層の硫化物固体電解質層側の面とは反対の面に負極集電体を有しており、負極集電体は他の元素を実質的に含まない電解鉄箔であって、表面にNiがめっきされており、負極集電体の表面粗度Raが0.55μm~0.75μmであり、表面粗度Rzが5μm~8μmである、硫化物全固体電池を開示する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の硫化物全固体電池によれば、負極集電体に他の元素を実質的に含まない電解鉄箔を採用することにより、硫化物固体電解質による負極集電体の硫化が抑制され、電極内部における短絡を抑制することができる。また、負極集電体の特性を所定の範囲内に調整することにより、負極合材層との密着性を向上することができる。負極集電体と負極合材層との密着性が向上することにより、硫化物全固体電池の内部抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】硫化物全固体電池100の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0017】
[硫化物全固体電池100]
本開示の硫化物全固体電池について、一実施形態である硫化物全固体電池100を用いて説明する。
図1は硫化物全固体電池100の概略断面図である。
図1の通り、硫化物全固体電池100は正極層10、負極層30、及び正極層10と負極層30との間に配置される硫化物固体電解質層20を備えている。
図1には示されていないが、硫化物全固体電池100は保護層などのその他の層がさらに積層されていても良い。
【0018】
(正極層10)
正極層10は正極合材層11と正極集電体12とを備えている。正極集電体12は正極合材層11の硫化物固体電解質層20側とは反対の面に配置されている。
【0019】
正極合材層11は正極活物質を少なくとも含む。また、任意に固体電解質やバインダー、導電助材等を含んでも良い。
【0020】
正極活物質としては、リチウム二次電池に用いられる正極活物質であれば特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li1+xMn2-x-yMyO4(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等であってよい。
【0021】
また、正極活物質は表面に被覆層を有していても良い。被覆層の材料はリチウムイオン電導性能を有し、かつ、活物質や固体電解質と接触しても流動しない形態維持性能を有する材料であれば特に限定されない。例えば、LiNiO3、Li4Ti5O12、Li3PO4等を挙げることができる。このような被覆層は、例えば転動流動式コーティング装置により正極活物質の表面に形成することができる。
【0022】
固体電解質としては、リチウム二次電池に用いることができる固体電解質であれば特に限定されない。例えば、酸化物固体電解質であっても良く、硫化物固体電解質であっても良い。酸化物固体電解質としては、Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3Zr1-xNbxO12、Li7-3xLa3Zr2AlxO12、Li3xLa2/3-xTiO3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3、Li3PO4、又はLi3+xPO4-xNx(LiPON)等が挙げられる。硫化物固体電解質としては、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI―LiBr―Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5等を挙げることができる。
【0023】
バインダーとしては、リチウム二次電池に用いることができるバインダーであれば特に限定されない。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよい。
【0024】
導電助材としては、リチウム二次電池に用いることができる導電助剤であれば特に限定されない。例えば、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)やカーボンナノ繊維等の炭素材、又は金属材等であってよい。
【0025】
正極合材層11における各成分の含有量は従来と同様とすればよい。例えば、正極合材層11における正極活物質の含有量は10wt%~99wt%としてよい。正極合材層11の形状も従来と同様としてよいが、リチウムイオン電池100を容易に構成できる観点から、シート状であることが好ましい。この場合、正極合材層11の厚みは、例えば0.1μm以上1mm以下としてよい。
【0026】
正極集電体12としては、リチウム二次電池に用いることができる正極集電体であれば特に限定されない。例えば、SUS、Ni、Cr、Au、Pt、Al、Fe、Ti、Zn等を挙げることができる。
【0027】
正極層10の製造方法は公知の方法を採用することができる。例えば、正極合材層11を構成する材料を有機分散媒中に分散してスラリーとし、当該スラリーを正極集電体12に塗布し乾燥することにより、正極層10を形成することができる。或いは、正極合材層11を構成する材料を乾式で混合し、混合された混合物を正極集電体12に対してプレス成形等することにより正極層10を形成することができる。
【0028】
(硫化物固体電解質層20)
硫化物固体電解質層20は、少なくとも硫化物固体電解質を含む。また、任意にバインダー等を含んでも良い。硫化物固体電解質としては、リチウム二次電池に用いることができる硫化物固体電解質であれば特に限定されない。例えば、上述した硫化物固体電解質を用いることができる。バインダーとしては、リチウム二次電池に用いることができるバインダーであれば特に限定されない。例えば、上述したバインダーを用いることができる。硫化物固体電解質層20における各成分の含有量は従来と同様とすればよい。硫化物固体電解質層20の形状も従来と同様とすればよいが、リチウムイオン電池100を容易に構成できる観点から、シート状であることが好ましい。この場合、正極合材層11の厚みは、例えば0.1μm以上1mm以下としてよい。
【0029】
硫化物固体電解質層20の製造方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、上述した正極層10と同様の方法を採用することにより製造することができる。
【0030】
(負極層30)
負極層30は負極合材層31と負極集電体32とを備えている。負極集電体32は、負極合材層31の硫化物固体電解質層20側の面とは反対の面に備えられている。
【0031】
負極合材層31は負極活物質と硫化物固体電解質とを含んでおり、任意にその他の固体電解質、バインダー、導電助材を含んでも良い。
【0032】
負極活物質としては、リチウム二次電池に用いることができる負極活物質であれば特に限定されない。例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、SiもしくはSi合金、チタン酸リチウム(Li2TiO3)、TiNbO7、NbWO系の負極活物質を挙げることができる。
【0033】
硫化物固体電解質としては、リチウム二次電池に用いることができる硫化物固体電解質であれば特に限定されない。例えば、上述した硫化物固体電解質を用いることができる。その他の固体電解質としては、酸化物固体電解質を挙げることができる。酸化物固体電解質としては、リチウム二次電池に用いることができる酸化物固体電解質であれば特に限定されない。例えば、上述した酸化物固体電解質を用いることができる。バインダーとしては、リチウム二次電池に用いることができるバインダーであれば特に限定されない。例えば、上述したバインダーを用いることができる。導電助材としては、リチウム二次電池に用いることができる導電助剤であれば特に限定されない。例えば、上述した導電助剤を用いることができる。
【0034】
負極合材層31における各成分の含有量は従来と同様とすればよい。例えば、負極合材層31における負極活物質の含有量は10wt%~99wt%としてよい。負極合材層31の形状も従来と同様としてよいが、リチウムイオン電池100を容易に構成できる観点から、シート状であることが好ましい。この場合、負極合材層31の厚みは、例えば0.1μm以上1mm以下としてよい。
【0035】
負極集電体32は他の元素を実質的に含まない電解鉄箔、または他の元素を実質的に含まない電解鉄箔であって、表面にNiがめっきされているものである。以下、「他の元素を実質的に含まない電解鉄箔」を単に「電解鉄箔」ということがある。
【0036】
「他の元素を実質的に含まない電解鉄箔」とは、純鉄の電解鉄箔を意味する。ただし、製造上の誤差等を許容するものであり、鉄以外の元素が含まれていたとしても、その影響を無視できる程度の極微量であれば許容される。具体的には、電解鉄箔は鉄の純度(含有量)が99.9%以上である。好ましくは99.95%以上であり、より好ましくは99.97%以上である。鉄は硫化物固体電解質による硫化が起こり難いため、電解鉄箔の鉄の含有量が高いほど電極内部における短絡を抑制することができる。
【0037】
また、「表面にNiがめっきされている」とは、少なくとも負極集電体32と負極合材層31とが接する面にNiがめっきされていることを意味する。ただし、電解鉄箔の両面にNiがめっきされていてもよい。電解鉄箔にNiめっきを施すことにより、耐内容物、および輸送・保管時の一次防錆機能を付与することが可能である。また、めっき条件を制御することにより電解鉄箔よりも粗い表面とすることができる。負極集電体32の厚みは特に限定されないが、10μm~15μmであることが好ましい。
【0038】
負極集電体32が電解鉄箔である場合、負極集電体32は(1)表面粗度Raが0.2μm~0.6μm、表面粗度Rzが2μm~6μmであるか、又は(2)表面硬度が1090~2820であるものとする。
【0039】
表面粗度が上記の範囲にある(1)の負極集電体32の場合、伸び率は5~12%であることが好ましく、5~7%であることがより好ましい。また、表面硬度が1090~2820であることが好ましく、1090~2050であることがより好ましい。
【0040】
(1)の負極集電体32の場合、負極集電体32の表面粗度が上記の範囲内にあることにより、製造時において高いプレス圧が必要な全固体電池の電極であっても、負極集電体32と負極合材層31との密着性を向上することができる。密着性が向上することにより、硫化物全固体電池の内部抵抗を低減することができる。また、負極集電体32の伸び率が上記の範囲内にあることにより、比較的低いプレス圧(例えば、25kN/cm)であっても、負極集電体32と負極合材層31とを密着させることができる。通常、プレス圧が低くなると、負極合材層31への負極集電体32の食い込みが減り、プレス時に負極合材層31の伸びと負極集電体32の伸びとに差が生じて剥離しやすくなるが、上記の伸び率の範囲内であれば、適切に密着し剥離し難くなる。さらに、負極集電体32の表面硬度が上記の範囲内にあることにより、電池の内部抵抗を低減することができる。これは、負極合材層31が負極集電体32に食い込み易くなり、負極合材層31と負極集電体32との接触面積が増大するためと考えられる。
【0041】
表面硬度が上記の範囲にある(2)の負極集電体32の場合、表面粗度Ra、Rzが(1)の表面粗度Ra、Rzよりも小さい場合であっても、負極集電体32と負極合材層31とを密着させることができる。
【0042】
(3)負極集電体32が電解鉄箔であって、表面にNiがめっきされているものである場合、負極集電体32の表面粗度Raは0.55μm~0.75μmであり、表面粗度Rzは5μm~8μmとする。この場合、負極集電体32の表面粗度が上記の範囲内にあることにより、低いプレス圧であっても、負極集電体32と負極合材層31との密着性を向上することができる。
【0043】
負極集電体32は(1)~(3)のいずれの場合であっても、平均結晶粒面積が3.0μm2であることが好ましい。より好ましくは4.0μm2以上であり、さらに好ましくは5.0μm2以上である。平均結晶粒面積が3.0μm2未満であると、十分な密着性が得られない可能性がある。なお、電解鉄箔を焼鈍した場合、この平均結晶粒面積は顕著に大きくなり、比較的低いプレス圧力においても密着性を得られやすくなる。平均結晶粒面積は、電解鉄箔のハンドリングの観点から1000μm2以下が好ましく、より好ましくは800μm2以下であり、さらに好ましくは600μm2以下である。
【0044】
ここで、表面粗度Ra、RzはJIS B0601:2013に準拠して測定された値を用いる。伸び率はJIS Z2241(金属材料引張試験方法)に準拠して測定された値を用いる。表面硬度はISO14577に準拠して測定されたマルテンス硬さを用いる。平均結晶粒面積は電解鉄箔の断面観察像からJIS G0551:2013に準拠して求められた値を用いる。
【0045】
このような負極集電体32は次のように製造することができる。すなわち、電解鉄箔を形成するための支持体としてTi材を用意し、前記Ti材を酸洗や水洗等の前処理で清浄化した後、その表面に鉄を電析することによって電解鉄箔を得ることができる。
【0046】
電析は、塩化鉄四水和物を800~1000g/Lおよび塩酸を20~40g/Lを含むめっき浴を用い、温度80~110℃、pH1.0以下、電流密度5~15A/dm2の条件で行うことが好ましい。
【0047】
めっき浴においては、塩化鉄四水和物が少なすぎると析出効率が悪くなり、多すぎると浴管理が困難になる。浴にその他の添加剤を含んでいても良いが、鉄以外の金属元素を含むめっき浴で析出すると、結晶粒径が小さくなり、結果硬質となるために十分な密着性が得られない場合がある。または異常析出により箔が得られない可能性がある。そのため、得られる電解鉄箔99.9%以上の純鉄となる程度に留めることが好ましい。
【0048】
上記めっき浴組成において、電流密度を上記範囲とすることにより、硫化物全固体電池100を製造する際の高いプレス圧においても負極合材層31との十分な密着性を有する電解鉄箔が得られる。15A/dm2を超えると電解鉄箔が硬質となりすぎる、つまり負極集電体32の表面硬度が高くなりすぎる結果、負極合材層31との密着性が不十分となる可能性がある。また、電流密度を上記範囲のように低い範囲とすることにより、伸び率が高くなりやすく、さらに、表面粗度も高くなりやすい。より密着性を向上させるという点から電流密度は5~10A/dm2がより好ましい。
【0049】
また、負極集電体32の密着性を向上させることを目的として、電解鉄箔に熱処理を施しても良い。熱処理条件は制限されないが、例えば600~800℃の真空雰囲気下で1~6時間の熱処理を施すことが好ましい。上記範囲の熱処理を施すことにより、表面硬度を1090~2050としやすくなり、負極合材層31との密着性を向上することが可能となる。600℃未満は軟質化効果が得にくい。800℃を超えると軟質化しすぎて千切れやすくなる可能性がある。
【0050】
さらに、Niめっきを施す場合には、電解鉄箔の表面に酸洗および水洗の前処理を施した後、電解Niめっき層を形成させ、その上に粗化Niめっき層を形成させることが好ましい。
【0051】
電解Niめっき層を形成するためのめっき条件は例えば、硫酸Ni六水和物200~350g/L、塩化Ni五水和物10~60g/Lおよびホウ酸10~50g/Lからなるめっき浴を用いて、温度50~65度、pH4~6、電解電流密度5~30A/dm2の条件で、付着量が1.0~13.5g/m2の範囲のNiめっき層を形成することが好ましい。尚、得られた電解鉄箔表面を乾燥させることなく連続してNiめっき処理する場合、前処理は必ずしも実施する必要はない。付着量が1.0g/m2より少ない場合、耐内容物、および輸送・保管時の一次防錆機能が不十分となる可能性があるため好ましくない。また付着量が13.5g/m2より多い場合、表面に比較的硬質な層が厚膜化することで負極合材層31との密着が不十分となる可能性があるため好ましくない。
【0052】
粗化Niめっき層を形成するためのめっき条件は例えば、硫酸Ni六水和物5~35g/L、硫酸アンモニウム10g/L、クエン酸アンモニウム10g/Lのめっき浴を用いて、浴温35~45度、pH2.2~4.5、電解電流密度10~50A/dm2で行い、付着量が9.0~45.0g/m2の範囲の粗化Niめっき層を形成することが好ましい。硫酸Ni六水和物が5g/Lより少ない場合にはめっき不良を起こして粗化Niめっき層が形成され難い可能性があり、硫酸Ni六水和物が35g/Lより多い場合には粗化され難くなる(正常な析出状態に近づいてレベリング作用が高くなり凹凸状に析出しなくなる)ため好ましくない。また、電解電流密度が10A/dm2より低くても粗化され難くなり(正常な析出状態に近づいてレベリング作用が高くなり凹凸状に析出しなくなる)、50A/dm2より高いとめっき不良を起こして粗化Niめっき層自体が形成され難くなるため好ましくない。さらに、付着量が9.0g/m2より少ないと粗化が不十分となり負極合材層31との密着性を向上させる効果が低いため好ましくなく、付着量45g/m2よりも多いと生産性が悪くなるほかコストが高くなるため好ましくない。
【0053】
このような粗化Niめっき層を形成することにより、金属箔の表面粗度を高くすることができ、負極合材層31との密着性を高めることができる。なお、Niめっき層および粗化Niめっき層の付着量は例えば蛍光X線装置を用いた測定など既知の測定方法にて測定可能である。
【0054】
負極層30の製造方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、上述した正極層10と同様の方法を採用することにより製造することができる。
【0055】
(硫化物全固体電池100)
硫化物全固体電池は、例えば正極層10、硫化物固体電解質層20、負極層30をこの順で積層し、プレスすることにより作製することができる。作製された硫化物全固体電池100は、所定の電池ケース等に封入しても良く、またその際、電池に必要な端子等を接続しても良い。硫化物全固体電池100はリチウム二次電池として使用することが好ましい。
【実施例0056】
以下、実施例を用いて、本開示の硫化物全固体電池について説明する。
【0057】
<評価用電池の作製>
(正極層の作製)
転動流動式コーティング装置(パウレック製)を用いて、大気環境において正極活物質(Li1.15Ni1/3Co1/3Mn1/3W0.005O2)にLiNbO3をコーティングし、大気環境において焼成を行った。
【0058】
次に、PP(ポリプロピレン)製容器に酪酸ブチル、PVdF系バインダー(クレハ製)の5wt%酪酸ブチル溶液、硫化物固体電解質(LiI、LiBrを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミック、平均粒子径0.8μm)、及び導電助剤(VGCF、昭和電工製)を加え、超音波分散装置(エスエムテー製、UH-50)で30秒間攪拌した。そして、容器を振盪器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で3分間振盪させ、さらに超音波分散装置で30秒間攪拌した。振盪器で3分間振とうした後、上記正極活物質を加え、超音波分散と振盪を同様の条件で2回ずつ行った。ここで、各材料の混合比は正極活物質:硫化物固体電解質:バインダー:導電助剤=88:10:0.7:1.3(wt%)であった。最後に、アプリケーターを使用してブレード法にてAl箔(日本製箔製)上に塗工し、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより正極層を得た。
【0059】
(硫化物固体電解質層の作製)
PP製容器にヘプタン、BR系バインダー(JSR製)の5wt%ヘプタン溶液、硫化物固体電解質(LiI、LiBrを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミック、平均粒子径0.8μm)を加え、超音波分散装置(エスエムテー製、UH-50)で30秒間攪拌した。各材料の混合比は硫化物固体電解質:バインダー=99.5:0.5(wt%)であった。次に、容器を振盪器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振盪させ、さらに超音波分散装置で30秒間攪拌した。振盪器で3分間振とうした後、アプリケーターを使用してブレード法にてAl箔上に塗工した。塗工した電極は、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより硫化物固体電解質層を得た。
【0060】
(負極層の作製)
PP製容器に酪酸ブチル、PVdF系バインダー(クレハ製)の5wt%酪酸ブチル溶液、硫化物固体電解質(LiI、LiBrを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミック、平均粒子径0.8μm)導電助剤(VGCF、昭和電工製)に加え、超音波分散装置(エスエムテー製、UH-50)で30秒間攪拌した。次に、容器を振盪器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振盪させ、さらに超音波分散装置で30秒間攪拌した。振盪器で3分間振とうした後、負極活物質(シリコン、Elkem製)を加え、超音波分散と振盪を同様の条件で2回ずつ行った。ここで、各材料の混合比は負極活物質:硫化物固体電解質:バインダー:導電助剤=63:30:2:5(wt%)であった。最後に、アプリケーターを使用してブレード法にて表1の電解鉄箔若しくはNiめっき電解鉄箔上に塗工し、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより負極層を得た。
【0061】
(電極層のロールプレス)
正極層と硫化物固体電解質層とを2cm×7cmに切り出し、正極合材層を硫化物固体電解質層とが向き合う形で張り合わせ、SUS箔に挟んで長手方向に圧力100kN、温度150℃でロールプレスを実施した。
【0062】
また、負極層と硫化物固体電解質層負極合材層とを2cm×7cmに切り出し、負極合材層と硫化物固体電解質層とが向き合う形で貼り合わせ、SUS箔に挟んで長手方向に表1の圧力、温度150℃でロールプレスを実施した。このとき、ロールプレス後の負極合材層と負極集電体との密着性について目視で評価した。プレスによる剥離がない場合を「○」、一部剥離した場合を「△」、全面剥離した場合を「×」とした。結果を表1に示した。
【0063】
(電極層の積層)
ロールプレス後の負極層を1.08cm2の円形に打抜き、負極合材層/硫化物固体電解質層上に、1.08cm2に円形に打抜いた硫化物固体電解質層を合わせて1ton/cm2でプレスし、電解質層側のAl箔を剥がした。続いて1cm2に円形に打抜いた正極合材層/硫化物固体電解質層を合わせて3ton/cm2でプレスする事により電池を作製した。作製した電池はアルミラミネートで挟み、ラミネートセルを評価用電池として評価を実施した。
【0064】
<表面粗度Ra、Rz>
評価用電池に用いた負極集電体の表面粗度Ra及びRzを測定した。結果を表1に示した。測定方法はJIS B0601:2013に準拠して行った。具体的には、レーザ顕微鏡(オリンパス社製、型番:OLS3500)を用いて、観察視野97μm(縦)×129μm(横)、観察倍率×100(対物レンズMPLAPO 100×408:レンズ倍率×100、光学ズーム:×1)、測定視野幅129μmとして、負極集電体の表面をスキャンした。得られた画像を、解析ソフト(ソフト名:LEXT-OLS、解析モード:線粗さ解析)を用いて解析し、表面粗度Ra及びRzを測定した。ここで、当該測定においてカットオフ値は設定せず、またN=5の平均を測定値とした。
【0065】
<伸び率>
評価用電池に用いた負極集電体の伸び率を測定した。結果を表1に示した。測定方法はJIS Z2241(金属材料引張試験方法)に準拠して行った。具体的には、SD型レバー式試料裁断器(株式会社ダンベル製、型式:SDL-200)により、JIS K6251に準じたカッター(型式:SDK-400)を用いて、JIS K6251のダンベル4号形の金属片の打ち抜きを行い、金属試験片を得た。そして、得られた金属試験片をJIS Z 2241に準じて引張試験を行った。引張試験は引張試験機(ORIENTEC製 万能材料試験機 テンシロンRTC-1350A)を用い、室温、引張速度10mm/minの条件で行った。伸び率は(引張試験機のストローク距離)/(原標点距離)×100から算出し、N=3の平均を測定値とした。
【0066】
<表面硬度>
評価用電池に用いた負極集電体の表面硬度(マルテンス硬さ)を測定した。結果を表1に示した。測定方法はISO14577に準じて行った。具体的には、超微小押し込み硬さ試験機度計(株式会社エリオニクス製、型番:ENT-1100a)を用いて、三角錐圧子による荷重が1mNとなる条件で負極集電体の表面に荷重をかけて表面硬度(マルテンス硬さ)を測定した。測定値は任意の10点の平均値とした。
【0067】
<平均結晶粒面積>
評価用電池に用いた負極集電体のうち、実施例1~5の負極集電体について平均結晶粒面積を測定した。結果を表1に示した。測定方法はJIS G0551:2013に準拠して行った。具体的には、電解鉄箔の断面観察像から次の式を用いて算出した。
図2に実施例1の断面画像を例として示した。
図2の点線で囲まれた範囲が分析対象視野であり、当該視野内に存在する結晶粒数をカウントし、平均結晶粒面積を算出した。
平均結晶粒面積=分析対象視野面積/視野内の結晶粒数
分析対象視野面積=電解鉄箔の厚み(μm)×幅10μm
【0068】
<内部抵抗>
上記により作製した実施例1~6の評価用電池のうち、100kNロールプレス品のみ内部抵抗を測定した。測定方法は次の通りである。評価用電池を25℃に保ち、3.77VにSOC調整を行い、10sec間、7Cの電流を流して電池の内部抵抗測定を実施した。結果を表1に示した。表1では実施例1を基準とし、実施例1の内部抵抗を100に指数化して示した。
【0069】
【0070】
<結果>
実施例1~4、及び比較例1、2を対比すると、実施例1~4は100kNのプレスにより負極合材層と負極集電体とが密着することが確認できたが、比較例1、2は一部若しくは全面剥離した。この結果から、負極集電体の表面粗度Raが0.2μm~0.6μmであり、表面粗度Rzが2μm~6μmであると、負極集電体と負極合材層とが密着すると考えられる。また、実施例1~4のうち、実施例2~4は50kNのプレスであっても、より負極合材層と負極集電体とが密着することが確認できた。この結果から、伸び率が5~12%であると密着性がより高いと考えられる。これは、伸び率の増加により、プレス時における負極合材層と負極集電体との間の伸びの差が小さくなり、剥離し難くなったためと推測される。さらに、実施例3、4は実施例1、2に比べて内部抵抗が大きく低下していた。この結果から、負極集電体の表面硬度が1090~2050であると、より密着性が高くなり、内部抵抗が低下したと考えられる。実施例1、2に比べるとは実施例3、4は表面硬度が小さく、軟らかいため、負極集電体が負極合材層に食い込みやすくなり、接触面積が増加したため、内部抵抗が低下したと推測される。
【0071】
また、実施例7、8の結果から、負極集電体の表面粗度が実施例3、4に比べて小さい場合であっても、表面硬度が1090~2050であると、密着性が良いことが確認できた。
【0072】
一方でNiめっきを施した電解鉄箔を負極集電体に用いた場合、実施例5、6、及び比較例3の結果から、負極集電体の表面粗度Raが0.55μm~0.75μmであり、表面粗度Rzが5μm~8μmであると、いずれのプレス圧でも密着性が良いことが確認できた。
【0073】
さらに平均結晶粒面積と内部抵抗との関係性について検討すると、平均結晶粒面積が大きくなるほど内部抵抗が低減する傾向があった。このことから、平均結晶粒面積が大きくなるほど密着性が向上すると考えられる。ただし、実施例3、4の結果から平均結晶粒面積が5.0μm2以上になると、内部抵抗の結果が同等となり、密着性にそれほど違いがみられなかった。