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特開2022-187821対話型意図情報抽出プログラム、装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187821
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】対話型意図情報抽出プログラム、装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 16/90 20190101AFI20221213BHJP
   G06Q 10/00 20120101ALI20221213BHJP
【FI】
G06F16/90 100
G06Q10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096018
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】320005501
【氏名又は名称】株式会社電通
(71)【出願人】
【識別番号】500242258
【氏名又は名称】ソフネック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 壽見子
(72)【発明者】
【氏名】松山 宏之
(72)【発明者】
【氏名】堀田 高大
(72)【発明者】
【氏名】水津 龍耶
(72)【発明者】
【氏名】竹内 栄
(72)【発明者】
【氏名】本永 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】石井 明久
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大輔
【テーマコード(参考)】
5B175
5L049
【Fターム(参考)】
5B175EA01
5B175GC03
5L049AA01
(57)【要約】
【課題】チャット形式のユーザーとの対話から、ユーザーの意図情報を抽出することができる対話型意図情報抽出プログラム、装置及び方法を提供する。
【解決手段】コンピュータに実装するプログラムであって、コンピュータを、ユーザーによる自由な回答文を対話形式で取り込むテキスト入力手段11と、ユーザーの回答文に含まれているユーザーの意図を顕す意図情報を比較表現データベース21を用いて抽出する意図情報抽出手段12と、抽出された意図情報が属する比較表現データベース21内の分類と、対話シナリオデータベース23を参照して、ユーザーとの対話の進行を制御する対話制御手段13と、対話履歴を分析し集計するログ分析手段14として動作させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーに対する多段階質問を介して、その意図情報を抽出するプログラムであって、
コンピュータを、
ユーザーによる自由な回答文を対話形式で取り込むテキスト入力手段と、
ユーザーの回答文に含まれているユーザーの意図を顕す意図情報を比較表現データベースを用いて抽出する意図情報抽出手段と、
前記抽出された意図情報が属する前記比較表現データベース内の分類と、対話シナリオデータベースを参照して、ユーザーとの対話の進行を制御する対話制御手段として
動作させることを特徴とする対話型意図情報抽出プログラム。
【請求項2】
前記コンピュータを、
さらに、対話履歴を分析し集計するログ分析手段として
動作させることを特徴とする請求項1に記載の対話型意図情報抽出プログラム。
【請求項3】
前記比較表現データベースは、対話の目的毎に1個以上任意個数に分類された関心領域を有し、各関心領域に比較対象文が登録されており、
ユーザーの回答文の全部又は一部といずれかの前記比較対象文とのマッチングが成立するとき、該比較対象文を意図情報とみなすことを特徴とする請求項1に記載の対話型意図情報抽出プログラム。
【請求項4】
前記対話シナリオデータベースには、対話の進行と、ユーザーに対する多段階質問を構成する個々の深掘り質問を規定するルールが格納されていることを特徴とする請求項1に記載の対話型意図情報抽出プログラム。
【請求項5】
前記対話の進行の基本態様は、ユーザーに対して発する一次設問に対する一次回答から開始し、一次回答から抽出した意図情報の個数分の多段階質問を実行し、多段階質問を構成する深掘り質問への回答から意図情報を抽出することにあることを特徴とする請求項4に記載の対話型意図情報抽出プログラム。
【請求項6】
前記比較表現データベースは、ユーザーが無関心であることを表す比較対象文が属する関心領域を有し、
これに属する比較対象文が抽出されたとき、前記対話制御手段は、対話を終了させることを特徴とする請求項3に記載の対話型意図情報抽出プログラム。
【請求項7】
ユーザーに対する多段階質問を介して、その意図情報を抽出する装置であって、
ユーザーによる自由な回答文を対話形式で取り込むテキスト入力手段と、
ユーザーの回答文に含まれているユーザーの意図を顕す意図情報を比較表現データベースを用いて抽出する意図情報抽出手段と、
前記抽出された意図情報が属する前記比較表現データベース内の分類と、対話シナリオデータベースを参照して、ユーザーとの対話の進行を制御する対話制御手段とを
備えることを特徴とする対話型意図情報抽出装置。
【請求項8】
ユーザーに対する多段階質問を介して、その意図情報を抽出する方法であって、
コンピュータが、
ユーザーによる自由な回答文を対話形式で取り込むステップと、
ユーザーの回答文に含まれているユーザーの意図を顕す意図情報を比較表現データベースを用いて抽出するステップと、
前記抽出された意図情報が属する前記比較表現データベース内の分類と、対話シナリオデータベースを参照して、ユーザーとの対話の進行を制御するステップとを
実行することを特徴とする対話型意図情報抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
チャット形式のユーザーとの対話から、ユーザーの意図情報を抽出することができる対話型意図情報抽出プログラム、装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種アンケートや市場調査などで多段階質問が頻繁に行われるが、これらは従来人手を介して行っていた。そのため、手間も費用もかかり、作問から被験者などへの質問、さらに入手したデータの集計まで煩雑な処理を必要としていた。ところで、昨今情報処理技術の進展に伴い各種のAI(人工知能)技術が社会の諸分野へ導入されるようになってきており、アンケートなどにもAIが活用される場面が見られるようになった。例えば、特許文献1には、多彩に展開されるユーザーとの対話の中から適切な情報を抽出することを目的とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-193533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、AIの利用による省力化を図るものであるが、処理にとって不可欠でシステムの成否にかかわる日本語解析の詳細が全く記載されていない。そのため、Yes/Noタイプあるいはメニュー形式を用いた多段階質問ならば実現可能であるとしても、ユーザーに自由な回答をさせる質問タイプの実現は困難であると思われる。
かかる問題を解決するために、文の構造的比較を利用した日本語処理技術を使うことにより、間違いやすいキーワードマッチングや煩雑なメニュー形式を用いずに、使う人にとってわかりやすくかつ管理しやすい多段階質問を実現することを、本発明の課題とする。
この多段階質問は、さまざまな分野で活用が期待されるが、その一分野としてラダリングがある。ラダリングとは、調査対象者に対して商品やブランド等について次々と質問を投げかけることにより、ハシゴ(ladder)を上っていくように商品のもたらす効用や価値などを明らかにしていくマーケティング調査方法のことである。
本発明では、このラダリング調査を、AIを使って実施し、調査対象者からの自由な回答の中からターゲットとなっている商品等の特徴・要素を抽出するだけでなく、それらがどのように繋がりあって価値を生み出しているのかを明らかにすることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題解決のために、本発明の対話型意図情報抽出プログラムは、
ユーザーに対する多段階質問を介して、その意図情報を抽出するプログラムであって、
コンピュータを、
ユーザーによる自由な回答文を対話形式で取り込むテキスト入力手段と、
ユーザーの回答文に含まれているユーザーの意図を顕す意図情報を比較表現データベースを用いて抽出する意図情報抽出手段と、
前記抽出された意図情報が属する前記比較表現データベース内の分類と、対話シナリオデータベースを参照して、ユーザーとの対話の進行を制御する対話制御手段として
動作させることを特徴とする。
さらに、対話履歴を分析し集計するログ解析手段として動作させることも好ましい。
ユーザーの回答文は、日本語で発話されており、文(単文、重文、複文、重複文のいずれでもよい)でも、単語でも、形容詞と名詞の組合せでも何でもよい。
【0006】
ここで、意図情報とは、ユーザーの発話を聞き取る側が、ある目的をもって抽出したいと考えるユーザーの発話に含まれる情報のことである。たとえば、ビールについて質問をしたときに「私はアルコールならワインでもビールでも何でも飲みます。ラザニアを食べるときはワインですね。ビールは暑い日に焼き鳥を食べながら飲むのが最高です。」と長々と答えたとする。聞き手はビールについて市場調査をしているならば、「暑い日は焼き鳥とビール」という情報が聞き手側にとっての関心事であり、ワインについての話は聞き流すだけである。このように聞き手が発話内容から抽出したいと考える情報が意図情報なのである。発話者は、自分の好きなお酒であるワインとビールについて話すことを意図しているが、聞き手にとっては関心のあるビールについての言及のみが自分の意図に合致するのである。このように、本発明の意図情報とは、聞き手側の立場から解釈されるものであって、発話者側の「考えていること。おもわく。」(広辞苑)という一般的な「意図」の意味とは、ずれがあるのである。
そしてビールについての市場調査というテーマでは、比較表現データベースにはビールに関する表現が多数登録されている必要がある。そして、この表現(文でも単語でもよい)を本発明では「ファクタ(要素)」と呼ぶのである。
【0007】
比較表現データベースは、対話の目的毎に1個以上任意個数に分類された関心領域を有し、各関心領域に比較対象文が登録されており、ユーザーの回答文の全部又は一部といずれかの前記比較対象文とのマッチングが成立するとき、該比較対象文を意図情報とみなすことが好ましい。
「関心領域」とは、下記の実施の形態では「レイア」に相当し、「比較対象文」は「ファクタ」に相当する。
比較対象文も、日本語で記述されており、文(単文、重文、複文、重複文のいずれでもよい)でも、単語でも、形容詞と名詞の組合せでも何でもよい。
【0008】
対話シナリオデータベースには、対話の進行と、ユーザーに対する多段階質問を構成する個々の深掘り質問を規定するルールが格納されていることが好ましい。
対話の進行の基本態様としては、ユーザーに対して発する一次設問に対する一次回答から開始し、一次回答から抽出した意図情報の個数分の多段階質問を実行し、多段階質問を構成する深掘り質問への回答から意図情報を抽出することが好ましい。
【0009】
比較表現データベースは、ユーザーが無関心であることを表す比較対象文が属する関心領域を有し、これに属する比較対象文が抽出されたとき、対話制御手段は、対話を終了させることが好ましい。
【0010】
本発明は、コンピュータに対話型意図情報抽出プログラムを実装し、対話型意図情報抽出装置として動作させたり、あるいは対話型意図情報抽出装置の動作方法として実現することもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ユーザーとの対話の中から、AIが自動的に意図情報を抽出できるので、アンケート等でYes/Noタイプや複数の選択肢から選択させるタイプに留まらず、自由な入力テキストで回答してもらうことができる。また、自由入力文タイプのアンケート類は人手による集計が容易ではなかったが、本発明はこれもAIが自動的に行い分析結果を見やすい図表で表現できる。
さらに、比較表現データベースを入れ替えるだけで、多様な分野のテーマでの対話を可能とする道も開ける。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態の処理概要を説明する図である。
図2】本発明の実施形態の意図情報抽出状態遷移図である。
図3】本発明の実施形態のファクタリストに登録されている比較対象文(ファクタ)を示す図である。
図4】本発明の実施形態の意図情報抽出装置の機能ブロック図である。
図5】本発明の実施形態のファクタリストの構造を示す図である。
図6】本発明の実施形態の深掘り質問決定ルールを例示する図である。
図7】本発明の実施形態の基本的なラダー移動状態(アップ、ダウン、スライド)を説明する図である。
図8】本発明の実施形態のラダリングの動作例を説明する図である。
図9】本発明の実施形態のファクタ抽出処理を説明する図である。
図10】本発明の実施形態の全体処理フロー図である。
図11】本発明の実施形態の一次回答フェーズの処理フロー図である。
図12】本発明の実施形態のラダリングフェーズの処理フロー図である。
図13】本発明の実施形態の遷移先レイアのファクタ制限を説明する図である。
図14】本発明の実施形態の抽出されたファクタの連鎖図である。
図15】本発明の実施形態の抽出されたファクタの文脈マップである。
図16】本発明の実施形態の抽出されたファクタをクラスタリングして可視化した図である。
図17】本発明の実施形態の抽出されたファクタをラダー接続率とファクタの出現数とから分析して可視化した図である。
図18】本発明の実施形態の抽出されたファクタを異なるブランド間で比較して可視化した図である。
図19】本発明の実施形態のユーザーの抽出ファクタの遷移を正規化して可視化する図である。
図20】本発明をヘルスケアなどのマーケティング以外の領域に活用する例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて説明する。以下の説明では、比較表現データベースを「ファクタリスト」と呼び、比較対象文すなわちファクタリストに登録されている単語や文のそれぞれを「ファクタ」と呼ぶことにする。「ユーザー」とは発話者のことであるが、「被験者」とか「調査対象者」とかを意味することもある。また、ユーザーに質問し回答を得る主体を「システム」というが、「聞き手」や「読み手」と呼ぶこともある。
【0014】
≪1.本システムの概要≫
まず、図1を参照して対話型意図情報抽出プログラムを実装した対話型意図情報抽出装置(以下、「本装置」という)1を用いた処理システム(以下、「本システム」という)の概要を説明する。本装置1へ、〔1〕日本語のユーザー入力文が入力されると、〔2〕この入力文と、外部からアップロードされたファクタリストの各ファクタとが読み込まれ、入力文の中にファクタと類似する表現が見つかれば、このファクタを意図情報として抽出する。ユーザーの意図を把握するために多段階の質問をすることが本システムの特徴なので、〔3〕どのような深掘り質問をするのか、それとも対話を打ち切るのか対話を制御し、ユーザーに新たな質問をしたり終了メッセージを送ったりする。ユーザーへの質問とその回答および抽出されたファクタ等の対話履歴はログファイルに格納される。そして、〔4〕ログファイルを参照してデータを集計・分析し、分かりやすく視覚的に出力する。
【0015】
本システムを、データ遷移の観点から概観すると図2に示すようになる。
すなわち、1個の質問文に対する回答である入力文とレイアとが対応づけられる。ファクタリストは所定の観点からいくつかにグループ化されるが、この各グループをレイアという。図3の例では、ファクタリストには「属性」という観点からファクタを集めたレイアA、「機能」という観点からファクタを集めたレイアB、「情緒」という観点からファクタを集めたレイアCの3つのレイアからなる。(なお、レイアZについては後述する。)
各レイアは、レイア毎に1つまたは複数の意図情報すなわちユーザーの意図を顕す表現を持つ。例えば、レイアA(属性)は「商品のパッケージ」「商品のロゴ」などの意図情報を持ち、レイアB(機能)は「うまい」「おいしい」などの意図情報を持ち、レイアC(情緒)は「明るい」「楽しい」などの意図情報を持っているが、これが本システムでいう「ファクタ」なのである。
つまり、レイアとはユーザーの意図情報と関連付けられるグループをいう。
ユーザー入力文に含まれるファクタによりレイアが決定する。例えば、「おいしい」というファクタが抽出されたときは、ユーザーの回答がレイアB(機能)に属すると判定され、深掘り質問決定ルールによって、次に質問するべきレイアおよび質問内容が決定される。通常は、抽出ファクタ「おいしい」の属するレイアBに隣接するレイアCかレイアAが質問するべきレイアとなる。これが、後述するラダーアップ、あるいはラダーダウンである。
【0016】
以上、本システムの処理及びデータ遷移の概要について説明した。
次に、図面を参照しながら、本システムの構成と動作を詳しく説明する。
【0017】
≪2.本システムの機能ブロック構成≫
図4は、本装置1の機能ブロック図である。
本装置1は、テキスト入力部11と、意図情報抽出部12と、対話制御部13と、ログ分析部14とを有する。これらの機能構成部は、本装置1に搭載されたコンピュータプログラムを実行することによって実現できる。
【0018】
テキスト入力部11は、ユーザーUから送信される日本語によるテキストを入力する。ユーザーUは、ユーザーが使用する携帯端末でもパーソナルコンピュータでも何でもよい。また入力形式はキーボードやタッチパネルからの文字入力でも、音声入力でも何でもよい。音声入力の場合は、本装置1は音声認識部(図示せず)を備えている必要がある。また、ユーザーUへの質問も音声によることが通常と考えられ、音声合成部(図示せず)も必要である。
入力されたテキストは、1個あるいは2個以上の文でも、1個の単語でも、あるいは2個以上の単語の羅列でも何でもよい。また、文は、単文、重文、複文、重複文のいずれでもよい。
【0019】
意図情報抽出部12は、外部から比較表現データベースであるファクタリスト21を参照して入力テキストからマッチングが成立するファクタを抽出するファクタ抽出部121と、ファクタが抽出される都度それを保存する抽出ファクタファイル122と抽出されたファクタから適宜選択する抽出ファクタフィルタリング部123からなる。なお、「マッチングが成立」とは、一字一句が一致することをいうのではなく、ほぼ一致することをいう。たとえば、入力テキストが「友達にビールを買って行く」であり、ファクタが「ビールを友達に買って行く」であれば、マッチングが成立する。また入力テキストが「ビールのようだ」であり、ファクタが「ビールみたい」であれば、マッチングが成立する。
選択された抽出ファクタやレイアなどの情報は、対話制御部13への入力となる。
【0020】
対話制御部13は、抽出されたファクタからレイアを取得し、これら取得した情報と履歴ファイル22の今までの対話履歴情報とに基づいて次に遷移するレイアを特定したりラダリングの終了などを判断するラダリング処理部131と、ラダリング処理部131からの情報及び対話シナリオDB23を参照して、ユーザーUへの次回の質問を特定する深掘り質問特定部132と、ユーザーUへの次の質問文あるいはメッセージ文をユーザーUへ送信する対ユーザー出力部133からなる。
【0021】
ログ分析部14は、履歴ファイル22に格納されているデータを集計・分析し、これを表や図の形式で画面出力したり、印刷したり、通信回線を介して外部のコンピュータに送信したりする。
【0022】
次に、本システムの実行に必要なデータを格納しているファクタリスト21と対話シナリオDB23について説明する。
【0023】
ファクタリスト21は、本システムがユーザーUから得たいと考える情報の性質に鑑み、入れ替える必要があるので、本システムの処理開始時にその都度外部からアップロードされる。このファクタリスト21は、本システムとは別の外部システムによって作成されるので、作成の仕方の説明は省略する。ファクタリスト21は、1個以上のファクタからなるレイアの集合であることは既に述べたとおりである。ここでは、図5を用いて1個のレイアのデータ構造を説明する。
【0024】
図5のように、同じようなファクタは同じファクタIDで纏められる。また、ファクタIDごとにラベルが付される。それらの上位の集合がグループ(=レイア)である。図中indexは同じファクタIDが付されたファクタを区別するためのものである。各ファクタは日本語によるテキストで表される。
ファクタラベル「CM」には、ファクタ「CM」とファクタ「CMが面白い」が含まれている。この場合、「CMが面白い」は「CM」と「面白い」という2つの自立語を含み、「CM」は1つの自立語からなる。
一つのファクタリスト21には複数のレイアを含めることができるので、図3に例示したレイアA、レイアB、レイアCは一つのファクタリスト21を構成する。
ファクタリスト21には図3に示すように、「無関心」の意図を表すファクタを集めたレイアZも登録しておくとよい。
【0025】
対話シナリオDB23には、対話制御に必要なルール類が格納されている。
その一つが、図6(1)に例示する深掘り質問決定ルールである。
深掘り質問決定ルールには、現在のレイア、直前のレイアからのラダリングの向き、質問選択の場合分け、具体的な質問例などを記述している。
図6(1)において、(※1)が付された行は、未だレイアが定まっていない開始段階にあって、「▲▲▲について、あなたはどのようなイメージをお持ちですか。」という最初の質問(一次設問)が用意されていることを示す。
(※2)が付された行は、レイアA(属性)にラダーダウンで遷移してきたこと、およびレイアA(属性)に関するファクタを取得するための最初の質問として「そう感じた要因は何ですか?」が用意されていることを示す。
(※3)が付された行は、レイアA(属性)にラダーダウンで遷移してきたこと、およびレイアA(属性)に関するファクタを取得することを期待していたが、他のレイア(BかC)のファクタが得られたこと、およびレイアA(属性)に関するファクタを取得するための同じ内容の質問(ただし、表現は異なる)が用意されていることを示す。
(※4)が付された行は、レイアA(属性)にレイアA(属性)からスライドしてきたこと、およびレイアA(属性)に関するファクタを取得するための最初の質問として「他にもご存知のことはありますか?」が用意されていることを示す。
【0026】
深掘り質問決定ルールには、図6(2)に例示するように、質問に対して意図しない回答、すなわちファクタリスト21に該当するファクタが見当たらない場合、もしくは、無関心を表す回答があった場合に尋ねる質問も用意している。なお、深掘り質問決定ルールもファクタリスト21と同様に、本システムがユーザーUから得たいと考える情報の性質に鑑み、入れ替える必要があるので、本システムの起動時にその都度外部からアップロードされる。
【0027】
深掘り質問を特定するためにラダリング、すなわち各レイアからファクタを抽出するための一連の対話の向きが重要な情報となっている。
ユーザーから意図情報を適切かつ効率的に取得するために、本システム側では、望ましいと考えるレイア間の遷移が想定されている。図7に示す、「レイアA(属性)」→「レイアB(機能)」→「レイアC(情緒)」の順が望ましく、この方向の遷移をラダーアップと名づける。この逆に「レイアC(情緒)」→「レイアB(機能)」→「レイアA(属性)」の順の遷移をラダーダウンと名づける。ただし、1回分のラダリングが終了して次の回のラダリングを開始する場合、同じレイアに遷移することも許容され、これをラダースライド(横移動)と名づける。
これらのラダーアップ、ラダーダウン、ラダースライドは、後に説明する対話制御処理において極めて重要な概念なので、ここで要点を説明することとする。
【0028】
ラダリングは、次のルールに従って行われる。このルールも対話シナリオDB23に格納しておくとよい。
★ラダリング1回目のルール★
・ラダリングは開始からアップ(ダウン)で始まる。
・一次回答で取得したファクタ(以後、「一次回答ファクタ」という。ラダリング中に取得した「ファクタ」と区別するためである)によるレイアからその先がなくなるまでアップ(ダウン)する。
・アップ(ダウン)先がなくなると、空きレイアを探して、ダウン(アップ)する。
★ラダリング2回目のルール★
・一次回答ファクタが複数ある場合、その一次回答ファクタによるレイアから
その先がなくなるまでアップ(ダウン)する。つまりラダリング1回目と同様。
・一次回答ファクタが一つしかない場合、始めのレイア(最初にファクタを取得したレイア)に戻って、スライドする。
つまり、同じレイアのファクタを抽出するように設問する。
★その後のラダリング★
・可能な範囲でラダリングを試みるが、失敗した時点でラダリングが2回完了
していれば、スライドはしないで、終了する。
【0029】
このラダリングルールに従う具体的な動作例は、図8に示すとおりである。
ラダーアップのみからラダリングが成立する場合は、図8の左側の列に示すように、深掘り質問決定ルールから一次設問を取得し、ユーザーから一次回答を得てラダリングが開始されるのである。例えば、「○○ビール株式会社の『ビール日和』について、あなたはどのようなイメージをお持ちですか?」という一次設問(図6の(※1)行を参照)に対して、ユーザーから「ビールはいつも○○ビールの製品を買っています。好きなメーカーです。」という一次回答が返ってきたとする。
この一次回答からレイアA(属性)に属する「好きなメーカー」というファクタ(図3の(※a)参照)が一次回答ファクタとして取得できた。レイアAからラダーアップするのはレイアBなので、レイアB(機能)に対応づけられた最初の質問「そのことから、どんな良いことがありますか?」を取得する(図6の(※5)行を参照)。この質問をユーザーに投げかけ、「○○ビールの製品なので、おいしいはず」という回答が返ってきたとする。この回答からレイアB(機能)のファクタ「おいしい」(図3の(※b)参照)が取得できたので、続いてレイアBからラダーアップするレイアC(情緒)に対応づけられた最初の質問「そのことで、どんな気持ちになりますか?」を取得する(図6の(※6)行を参照)。この質問をユーザーに投げかけ、「明日も頑張ろう、と前向きな気持ちになれます」という回答が返ってきたとする。この回答から「前向きな気持ちになれる」というレイアC(情緒)のファクタ(図3の(※c)参照)が取得できたので、1回分のラダリングは成功である。
このように、ラダリングは通常開始からアップで始まる。レイアA、レイアB、レイアCの順にファクタを取得し、レイアCの先のレイアがなくなると、ファクタを未抽出のレイアが存在しないので、1回分のラダリングを終了する。
【0030】
図8の中央の列に示すのは1回分のラダリングにラダーアップとラダーダウンが混在している場合である。一次設問に対する回答からレイアB(機能)の一次回答ファクタを取得したならば、その先のレイアC(情緒)に対応づけられた最初の質問を取得する。この質問をユーザーに投げかけ、レイアC(情緒)のファクタが取得できたならば、もはや次のアップ先のレイアがない。アップ先がなくなると、未だファクタが抽出できていないレイアを探してダウンする。レイアA(属性)からファクタを抽出していないので、レイアA(属性)の質問を取得する。これはレイアCからレイアAへのラダーダウンである。レイアA(属性)の質問をユーザーに投げかけ、レイアA(属性)のファクタが取得できたならば、1回分のラダリングは成功である。
【0031】
ラダーダウンのみからラダリングが成立する場合は、図8の右側の列に示すように、ラダーアップ(図8の左側の列)とレイアの順序が逆なだけで考え方は同様である。
【0032】
以上、本装置1のブロック構成と、ファクタリスト21および対話シナリオDB23について説明した。
続いて、本装置1の動作について、
(1)ファクタ抽出、(2)深掘り質問の特定を含む対話制御、(3)ログデータの分析の3点にフォーカスして説明する。
【0033】
≪3.本システムの動作≫
≪3.1 ファクタ抽出≫
図9を参照しながら、ファクタ抽出部121による処理を説明する。
ユーザーの入力文を構文解析器にかけ、解析結果に基づいてマッチング処理が容易になるように変換する。例えば、元の入力テキストが複文や重文であれば複数の単文に分割する。その際、「彼はコンビニへ行って缶ビールを買った。」を「彼はコンビニへ行った。」と「彼は缶ビールを買った。」のように、第2の文には「彼は」という主語を追加する。これは、構造を補完し冗長性を持たせる一例である。
【0034】
ファクタリスト21の各レイアに属するファクタも構文解析器にかけられ、例えば、『休日に新発売のビールをたくさん飲んだ』というファクタは、次のように分解される。
飲む 《述語》
<------- たくさん 《述語を修飾》
<--休日 《補語》
<--ビール 《補語》
<-- 新発売 《補語を修飾》
このように、付属語(助詞、助動詞)を除外する。接続詞を除外することもある。構文解析の結果、冗長化されるユーザーの入力文に比べ、ファクタが簡素化されるのはマッチングを正確に行うためである。
【0035】
ファクタ抽出処理の基本となるのは、どのような日本語文が入力されても文の構造的比較を利用して処理可能な日本語処理である。この日本語処理として既存の技術があるので、これを利用すればよい。例えば、本年5月8日に出願した特願2021-79401に開示した技術はその一例である。
【0036】
抽出されたファクタは、その意図するところが重複していたり、他のファクタの一部として含まれていたりすることもあるので、抽出ファクタフィルタリング部123は、次のような処理をする。
まず、同じ意図情報を含む異なるファクタが複数検出された場合、重複を除去したい。そのための方法はいろいろと考えられるが、例えば制約が強いファクタを選択する。具体的には、1つのファクタに含まれる自立語の個数を数え、個数が最も多いファクタを選択するとよい。あるいは文字数の最も多いファクタを選択してもよい。要は、どのような方法であれ、複数のファクタから適切なものを選択すればよいのである。
同じ情報のファクタが複数検出された場合は、最初に見つかったものを選択する。例えば、ファクタ「昭和」が1回の入力文の中から「昭和」「昭和」「昭和」と計3回検出されたときは、最初の「昭和」のみを残す。
【0037】
フィルタリングにより選択されたファクタは、ラダリング処理部131へ出力されるとともに、履歴ファイル22にも記憶される。インタビュー最初の質問への回答であれば、履歴ファイル22には、当該ユーザーの識別情報とともに、必要ならば個人情報も登録する。もし、音声入力であれば、ユーザーの声によって性別やおおよその年齢を自動的に判定してもよい。抽出ファクタについては、回答した質問の連番やそのファクタの属するレイアやファクタIDなどを記録する。これらが次の質問を特定するうえで必須の情報となるのである。
【0038】
≪3.2 対話制御≫
最初にユーザーとの対話処理の開始から終了までを、図10に従い概観する。
対話処理全体は、フェーズ1とフェーズ2の2つに大別される。
フェーズ1は、ラダリング調査の始まりであるインタビューに相当し、インタビューはチャット画面が表示されるところから始まる。このチャット画面に最初に表示される設問を一次設問といい、フェーズ1では、一次設問に対するユーザーの回答の中から一次回答ファクタを抽出する(ステップF1)。つまり、一次設問とはラダリングするための一次回答ファクタの取得を目的としたユーザーへの質問のことである。
後続のフェーズ2は、ここで抽出された一次回答ファクタから始まるラダリング処理のことであって、フェーズ1はフェーズ2のラダリングとは区別される。なお、フェーズ2におけるユーザーへの質問のことを「深掘り質問」と呼び、上記の「一次設問」とは区別する。
【0039】
フェーズ1について、図11の処理フロー図を参照しながら説明する。
インタビューの開始時に、ユーザーへ発せられた一次設問に対する回答を一次回答という。この一次回答から一次回答ファクタを抽出する(ステップS11)。抽出された一次回答ファクタは複数個あることもある。抽出ファクタがあった場合(ステップS12でYes),これを一次回答ファクタとして記憶する(ステップS13)。仮に、ファクタA(属性)、ファクタB(機能)の2つの一次回答ファクタが抽出されたとする。この場合、ファクタA、ファクタBの順にラダリングが開始されることになる。
抽出された一次回答ファクタの属するレイアを取得する(ステップS14)。ここでは、一次回答ファクタAからラダリングが開始されるので、レイアA(属性)が取得される。
レイアA(属性)の次の遷移先はラダーアップによりレイアB(機能)であると判断し、レイアB(機能)のファクタを抽出できるような設問を深掘り質問決定ルールから取得し、ユーザー端末のチャット画面に表示させる(ステップS15)。フェーズ2は、この深掘り質問をユーザーに発するところから開始する(図10のステップF2を参照)。
【0040】
ステップS12で一次回答ファクタ数が0の場合(ステップS12でNo)、一次設問を再発出するが、発出済みの一次設問の回数が3回以上ならば(ステップS16でYes)、インタビューを終了する(ステップS17)。フェーズ2へ遷移することなく、つまりラダリングを1回も実行せずに多段階質問は終了する。
もし、一次設問の回数が3回未満であれば(ステップS16でNo),一次設問を再取得しチャット画面に表示させる(ステップS18)。
なお、ステップS14の結果から、まずレイアA(属性)のファクタが取得できたとして1回目のラダリングを実行し、これが終了すると次にファクタB(機能)のラダリング(2回目のラダリング)が続く。もし、ステップS12で3つ以上の一次回答ファクタが抽出された場合は、一次回答ファクタの個数分のラダリングが実行される。図10のフェーズ1で複数の一次回答ファクタが取得できた場合、フェーズ2では1つ1つを別個にラダリングすることになる。これらを1回目のラダリング、2回目のラダリング(、3回目のラダリング・・・)という。
【0041】
図10のフェーズ2では、一次回答ファクタを使って1回目のラダリングが行われる。一次回答ファクタの個数分だけフェーズ2のラダリングが繰り返されるが、取得した一次回答ファクタが1つしかない場合は、この一次回答ファクタを使って横移動が行われる。すなわち一次回答ファクタが1つしか取得できなかったときの2回目のラダリングは、1回目と同じ一次回答ファクタを使い回すために横移動が行われるということである。
【0042】
再び、図10に戻り、フェーズ2の説明をする。
インタビュー開始時の一次回答からレイアA(属性)の一次回答ファクタが抽出されたものとする。
対話シナリオDB23を参照して深掘り質問を取得し(ステップF2)、ユーザーから返ってきた回答の中にレイアB(機能)に属するファクタが抽出された(ステップF3)、あるいはレイアC(情緒)に属するファクタが抽出された(ステップF4)場合は、ラダーアップ設問が成功したことになる。一方、レイアB(機能)のファクタもレイアC(情緒)のファクタも抽出できないとき、すなわち「ファクタ無し」のときは失敗と判定し、ラダーアップ質問を再度投げかける。これを最大3回繰り返し(ステップF5)、ファクタが抽出できないときは、この回のラダリングを終了する。
なお、「ファクタ無し」とは、例えばレイア(属性)についての回答を期待して質問したにもかかわらず、抽出されたファクタは別のレイア(機能あるいは情緒)にあった場合をいい、レイア(属性)の回答を得るまで3回質問を繰り返す。ただし、この回数は変更可能である。
【0043】
ステップF3でレイアB(機能)のファクタが抽出できたときは深掘り質問決定ルールに従いラダーアップ設問を取得し(ステップF6)、ユーザーから返ってきた回答の中にレイアC(情緒)に属するファクタが抽出された(ステップF7)場合は、ラダーアップ設問が成功したことになる。一方、「ファクタ無し」のときは最大3回質問を繰り返し(ステップF8)、ファクタが抽出できないときは、この回のラダリングを終了する。
ステップF4でレイアC(情緒)のファクタが抽出できたときは深掘り質問決定ルールに従いラダーダウン設問を取得し(ステップF9)、ユーザーから返ってきた回答の中にレイアB(機能)に属するファクタが抽出された(ステップF10)場合は、ラダーダウン設問が成功したことになる。一方、「ファクタ無し」のときは最大3回質問を繰り返し(ステップF11)、ファクタが抽出できないときは、この回のラダリングを終了する。
【0044】
ステップF7に至ったときは、レイアA(属性)では一次回答ファクタが抽出され、レイアB(機能)およびレイアC(情緒)のいずれからもラダリング中にファクタが抽出されていた。このように、すべてのレイアからファクタが抽出済みとなってこの回のラダリングは終了する(ステップF12)。
ステップF10に至ったときも、レイアA(属性)、レイアC(情緒)およびレイアB(機能)のいずれのレイアからもファクタが抽出済みとなってこの回のラダリングは終了する(ステップF12)。
ここで、一次回答(F1)で取得した一次回答ファクタの個数が2個以上であり、かつ各一次回答ファクタに対応するラダリングが終了したとき(ステップF13)は一連の対話処理を終了させる。
【0045】
一方、ラダリング回数が2回未満であって(ステップF14)、フェーズ1(ステップF1)で取得した一次回答ファクタが2つ未満のとき(ステップF15)、ラダースライド設問を深掘り質問決定ルールから取得し(ステップF16)、2回目のラダリングを始める(ステップF17)。ラダリングは少なくても2回は行うのであるが、フェーズ1で2つ目の一次回答ファクタが取得できていないので、1つ目の一次回答ファクタのスライドからラダリングを行うのである。
ラダリング回数が2回未満であって(ステップF14)、フェーズ1(ステップF1)で2つ以上の一次回答ファクタを取得したときは、2回目のラダリングを始める(ステップF18)。
もし、レイアZ(無関心)に属するファクタが抽出された(ステップF19)ときは、一連の対話処理を終了させる。ラダリングは、抽出ファクタ無しや無関心回答が続いたときは、ラダリング失敗で終了する。このように、ラダリングには、1回も完了しない終わり方もあるわけである。
【0046】
続いて、図12の処理フローに従い、図10のフェーズ2について詳しく説明する。
深掘り質問に対するユーザーの回答からファクタを抽出する(ステップS101)。抽出ファクタがあれば(ステップS102でYes)、そのファクタが期待するレイアに属するか確認する(ステップS103)。抽出ファクタが期待レイアにあれば(ステップS104でYes)、次の遷移先レイアを取得する(ステップS105)。すべてのレイアにファクタが入っていればもはや遷移先レイアは存在しないが、未だ遷移先がのこっていれば(ステップS106でYes)、次の深掘り質問を特定してチャット画面に表示させる(ステップS107)。
ステップS107において、深掘り質問決定ルールを参照すると、次の深掘り質問も定まるのである。例えば、期待レイアが(属性)であって、次の遷移先が(機能)であるならば、図6(1)より、レイア列から(機能)、ラダリング列から(アップ)を取り出し、対応する深掘り質問「そのことから、どんな良いことがありますか?」が特定される。
【0047】
ステップS102で抽出ファクタが無い場合、あるいはステップS104で期待するレイアが無い場合はステップS115に移行し、深掘り質問の回数が3回以上のとき(ステップS115でYes)、インタビューを終了する(ステップS116)。一つのレイア内での深掘り質問の合計は3回とし、これを超えてもファクタが取得できなければインタビューは終了となるのである。設問回数が3回未満のとき(ステップS115でNo)は、深掘り質問を再取得する(ステップS117)。
「抽出ファクタ無し」の場合(ステップS102でNo)の深掘り質問としては、図6(2)に例示している「もう少し具体的に教えて頂けますか?」などがある。
この「抽出ファクタ無し」とは、質問者の意図とユーザーの回答とが食い違う場合に生じるのであり、そのために表現を変えて3回を上限に深掘り質問を繰り返す。それでも質問者が意図する回答が得られないときは、インタビューは終了する。(ステップS116)。
【0048】
ステップS106にて遷移先レイアが残っていないとき、つまりすべてのレイアにファクタが入ったときは、この回のラダリングを終了させる(ステップS108)。一次回答ファクタであってラダリング未実行のものがあれば、それを取得する(ステップS109)。
もし、未実行の一次回答ファクタがあれば(ステップS110でYes)、新たな回のラダリング、つまり図10のフェーズ2を先頭から開始する(ステップS111)。未実行の一次回答ファクタが無ければ(ステップS110でNo),履歴ファイル23を参照して実行済みのラダリング回数を取得する(ステップS112)。ラダリング完了回数が2回未満であれば(ステップS113でYes),スライド設問を取得する(ステップS114)。ラダリング完了回数が2回以上であれば(ステップS113でNo)、インタビューを終了する(ステップS116)。
【0049】
ところで、図12のステップS104で遷移先レイアが取得できた場合、現レイアで抽出されたファクタにより、予定遷移先レイアのファクタを制限するとよい。
例えば、図13の楕円で囲んだ(属性)のファクタ、(機能)のファクタ、(情緒)のファクタはその意味に関連性がある。すなわちラダリング先でこれとは異なるファクタが選ばれた場合は、失敗の扱いとすることにより、より精度の高いラダリングが期待できる。
ファクタリスト21の構造の観点からは、現レイアで抽出されたファクタのファクタIDにタグを付け、予定遷移先レイアのファクタのファクタIDにもタグを付けて、これらのタグを紐づけるとよい。タグが紐づいているかの判定は図12のステップS104で行われる。
図13のファクタリスト21を参照して具体的に説明すると、ユーザーがレイアA(属性)でファクタ「缶でも飲める。瓶でも飲める。」を意図したとき、次にレイアB(機能)でファクタ「飲みやすい」を意図すれば、より自然な応答が実現できる。しかし、レイアB(機能)でファクタ「おいしい」を意図したとすれば、この属性の機能とは言えず、自然な応答とはいえない。
この場合は、対話制御部13は、期待する回答が得られないときの制御として、設定回数の範囲内で異なる表現の質問を繰り返す方が自然な回答が得やすい。
【0050】
対話制御部13は、ユーザーとの対話全般を制御する。ラダリング回数や同じラダー内の再質問回数などは本装置1の記憶部(図示せず)に、パラメータとして設定しておけばよい。ユーザーのチャット画面に表示される一次設問、深掘り質問、対話終了のメッセージなどは、対ユーザー出力部133を介して、ユーザーUに送信される。
対話制御部13は、ユーザーへの質問、ユーザーからの回答、その回答から抽出されたレイア及びファクタなどの一連の対話内容を履歴ファイル22に記憶する。従来のアンケート調査などでは、アンケート用紙を回収し、それをキーボード入力やOCRによってシステムに取り込んでいた。しかし、本システムでは、ユーザーとの対話の進展に伴い、自動的にシステムに取り込まれるのである。
【0051】
≪3.3 ログ分析≫
ログ分析部14は、履歴ファイル22を参照してファクタの連鎖を可視化する。図14に示すのは、表示例である。
ファクタ(要素)の連鎖を可視化する仕組みは次のとおりである。(図14では、可視化の説明の便宜上、新たにレイアD(生活)を設けた。)
属性、機能、情緒、生活をレイアに持つラダリングにおいて、User1~User10の10名との対話で検出されたファクタをAn,Fn,En,Lnとし、円の大きさによってファクタの検出個数を表すとする。図14ではレイア内で最も多かったファクタ順に上から並べている。
各ファクタ間の連鎖を図14のように図形化すると、下記のようなことが直ちに理解できる。例えば、レイアD(生活)で最も重視されたファクタはL2で次はL3であることが分かる。またこれらを重視するユーザーが、レイアC(情緒)ではファクタE8とE10を重視していることが分かる。同様にして、レイアB(機能)、レイアA(属性)のファクタの連鎖も確認できる。
【0052】
図14では、抽出されたファクタ数を円の大きさで降順に表しているが、表を用いて出現ランキングを表してもよい。いずれの表現方法であっても頻出ファクタの分析ができる。
さらに、ラダー階層別だけでなく、デモグラフィック(人口統計学的属性)なども掛け合わせることで、様々な切り口での集計が可能となる。
【0053】
ファクタの連鎖という観点からは、図15のようなファクタ付近の文脈を可視化してもよい。たとえば、「お酒の味が強め」というファクタは、形態素解析により、「お酒」、「味」、「強め」という単語に分解されるが、このファクタの中ではこれらの単語は共起と呼ばれる。図15では、共起している単語の少なくても一つを共通して持っているファクタは関係性があると推定し、マップ化するのである。
【0054】
出現するファクタのクラスター分析を行うことで、ファクタ間の類似性に基づきグルーピングし、可視化してもよい。図16(1)のデンドログラムや、図16(2)のマッピング図は可視化の一例である。
【0055】
抽出したファクタを、特定ラダーへの接続率とファクタ自体の出現数などの2軸から分析することで、マーケティングやプロモーションへの示唆を導出することができる。
図17は、(1)分析結果の可視化表示と(2)マーケティング解釈例とを示している。
【0056】
上記の図14図17は、同一の製品について取得したファクタを対象として視覚化したものである。これを、複数の製品(同一企業の異なるブランド、競合企業のブランド等)を対象とした調査で得られたファクタを集計して視覚化することもマーケティングに役立つ。図18(1)は、異なるブランド間で出現したファクタ数を比較しグラフにしている。ファクタ数は、抽出された全ファクタの合計でも、特定のファクタ毎の集計数でもよい。
また、図18(2)のように、ファクタの多様度指数を比較しグラフ化してもよい。たとえば、「CMのインパクトがある」とか「CMが面白い」といったCMの好感度に関係するファクタが傑出して多く抽出され、他のファクタはわずかしか抽出されなかったときは多様度指数は低い値をとる。一方、CM、外観、味覚などいろいろなファクタが満遍なく抽出されたときの多様度指数は高い値となる。
【0057】
図19は、ログに保存した履歴から、特定のユーザー別の遷移を正規化して可視化した例を示すものである。
User6は、A9→F8→ L5 →E8と遷移してラダリングが成功した場合、遷移の順序はラダーアップで正規化されているため、連鎖は図中破線の円と矢印で表されたようになる。
ところで、ファクタの取得順序は、ラダーアップ、ラダーダウンなどによって異なる。しかし、ラダリング毎の取得順序は集計処理において問題とせず、一連の値をもって、当該ユーザーの回答とする。個々のユーザーのファクタ抽出の順序まで考慮して集計・分析すると煩雑となって、全体の傾向が掴みづらくなるからである。
【0058】
対話履歴の集計結果は、上記の他にもさまざまな切り口から分析し可視化することが考えられる。
【0059】
以上、本発明の一実施の形態の説明を終える。
ただし、上記の実施の形態は例示にすぎない。したがって、上記のファクタリストなどのデータベースの構造や格納されるデータ内容、処理フロー、集計結果の表示法などは例示にすぎない。
例えば、上記の実施の形態では、ラダリングとしては、属性レイアから始まって情緒レイアまで深掘りすることを標準としているが、実際の調査では、レイアの個数はまちまちである。また、レイア属性→レイア機能→レイア情緒の順をラダーアップと呼んでいるが、この順序は人為的な取り決めであって、柔軟に変えてもよい。レイアの名称(属性、機能など)も限定しない。
入力文とファクタのいずれも日本語による記述を前提としていたが、他の言語に適用が不可能なわけではない。
【0060】
要は、人手を介さずにAIがユーザーとの対話を自動的に行い、聞き手にとっての関心領域にある情報を対話の中から掬い上げることができるということが重要なのである。
さらに、アンケートや市場調査などでは収集したデータの集計や分析に多大な労力を要するのが常であったが、これもAIが代わって行うことも重要なのである。
このような特徴を備えている本発明は、上記の実施形態のようなラダリングだけでなく、多方面へ適用することが可能である。
適用例の一部を列挙すると、次のようなものがある。
・カスタマージャーニーを描く
・レビューの深掘りによる口コミの収集
・メンタルケア(不安の深掘りによる不安の解消)
・ブレインダンプツール
・コーチングチャットボット
・自動ナビゲーション
・対話型レコメンドサービス
・診断・占い・マッチング等のコンテンツ開発
いずれの適用例も、自由な入力文から意味があると考えられる情報を自動抽出できるので、実施主体にとってもユーザーにとっても満足のいくサービスが実現しうる。
【0061】
図20は、メンタルケアへの本発明の適用を説明する図である。
ヘルスケアや心理学等の特定領域においては、特定ファクタが検出された者の回答内容をその分野の有識者と連携することで分析し診断する際のツールとして本発明を活用しうる。
図20に示す例では、一部の回答者から「関心がない」とか「どうでもよい」といったネガティブな傾向のあるファクタが検出された。これらの回答者について履歴ファイルを参照すると、「お酒の味が控えめなので、飲んだ気がしない」、「名前が長くて覚えられない」、「香りがきつくて、頭が痛くなる」等を回答していることがわかったとする。このような回答者を対象に、産業医や臨床心理のプロが専門的な視点から分析・診断をすることで、回答者への適切なアプローチをとることが可能となる。
この場合、分析や診断は専門家である人間が行うのであるが、問題を抱えていそうな回答者を抽出する予備的作業は本発明すなわちAIが担当するのである。
【0062】
自由な入力文を自動的に処理できることの利便性について、多枝選択式(2択も含む)のアンケートを例に付言したい。仮に、「本日の講習について『1.たいへん良い、2.良い、3.ふつう、4.悪い、5.たいへん悪い』のいずれかを選択してください」という問いがあったとする。「本日の講習」には良い点も悪い点もあったならば、選択に困る。また、「1.たいへん良い」と「2.良い」のいずれを選択するかは回答者の主観であって、明確な基準などない。さらに、適当な選択枝が無いと、無回答もありうる。
このような多枝選択式アンケートの限界を、本発明であれば克服できるのである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
日本語による対話処理を正確に且つ省力化して行えるシステムとして、本発明は多方面に活用される可能性を秘めている。消費者の嗜好調査、各種イベントや講演終了後のアンケートなどは勿論のこと、学習塾などでの習熟度確認などにも活用しうる。
【符号の説明】
【0064】
1:対話型意図情報抽出装置
12:意図情報抽出部
13:対話制御部
14:ログ分析部
21:比較表現データベース(ファクタリスト)
22:履歴ファイル
23:対話シナリオデータベース(ラダリングルール、深掘り質問決定ルールなど)
図1
図2
図3
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図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
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図19
図20