(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187826
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】核酸送達キャリア、その製造方法、核酸送達方法、細胞製造方法、細胞検出方法及びキット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/88 20060101AFI20221213BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221213BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALI20221213BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20221213BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221213BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221213BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221213BHJP
C07D 295/15 20060101ALI20221213BHJP
C07C 229/24 20060101ALI20221213BHJP
C07C 219/10 20060101ALI20221213BHJP
A61K 31/7088 20060101ALN20221213BHJP
A61K 9/14 20060101ALN20221213BHJP
A61K 9/51 20060101ALN20221213BHJP
A61K 9/127 20060101ALN20221213BHJP
A61K 47/22 20060101ALN20221213BHJP
A61K 47/18 20060101ALN20221213BHJP
A61K 47/32 20060101ALN20221213BHJP
A61K 47/34 20170101ALN20221213BHJP
A61K 48/00 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C12N15/88 Z
C12N5/10
C12Q1/6897 Z
C12Q1/04
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C07D295/15
C07C229/24
C07C219/10
A61K31/7088
A61K9/14
A61K9/51
A61K9/127
A61K47/22
A61K47/18
A61K47/32
A61K47/34
A61K48/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096025
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 絵美
(72)【発明者】
【氏名】赤星 英一
(72)【発明者】
【氏名】石原 美津子
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C084
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR74
4B063QR77
4B063QS36
4B063QX01
4B065AA01X
4B065AA57X
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4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA05
4C076AA19
4C076AA31
4C076AA65
4C076AA95
4C076DD49
4C076DD60H
4C076EE09
4C076EE10
4C076EE11
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4C076EE30
4C076EE37
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA24
4C084MA38
4C084MA41
4C084NA13
4C084ZB21
4C086EA16
4C086MA24
4C086MA38
4C086MA41
4C086NA13
4C086ZB21
4H006AA02
4H006AA03
4H006BP10
4H006BT12
4H006BU32
(57)【要約】
【課題】 本発明が解決しようとする課題は、核酸を細胞に送達し、細胞内で遺伝子の発現をより促進することができる核酸送達キャリア、その製造方法、核酸送達方法、細胞製造方法、細胞検出方法及びキットを提供することである。
【解決手段】 実施形態に従う核酸送達キャリアは、脂質粒子と、脂質粒子に内包された核酸及びアニオン性ポリマーとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質粒子と、
前記脂質粒子に内包された核酸及びアニオン性ポリマーと
を含む核酸送達キャリア。
【請求項2】
前記アニオン性ポリマーは、中性pHにおいて正味の負電荷をもつポリマーである、請求項1に記載のキャリア。
【請求項3】
前記アニオン性ポリマーは、スルホン酸基、カルボキシ基又はリン酸基を少なくとも1つを含む、請求項1に記載のキャリア。
【請求項4】
前記アニオン性ポリマーは、水溶性である、請求項1に記載のキャリア。
【請求項5】
前記アニオン性ポリマーは、ヘパリン、ヘパリン硫酸、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸又はポリスルホンアミドから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のキャリア。
【請求項6】
前記脂質粒子は、その材料として下記式(1-01)の化合物、式(1-02)の化合物及び/又は式(2-01)の化合物
【化1】
を含む、請求項1~5の何れか1項に記載のキャリア。
【請求項7】
脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された核酸及びアニオン性ポリマーとを含む核酸送達キャリアの製造方法であって、
前記核酸及び前記アニオン性ポリマーを混合して核酸混合物を得ること、及び
前記核酸混合物と、脂質とを混合すること
を含む、製造方法。
【請求項8】
前記脂質は有機溶媒中に含まれた脂質溶液の状態で前記核酸混合物と混合され、
前記核酸混合物と前記脂質との混合の後、
得られた混合液の前記有機溶媒の濃度を低下させて前記脂質の粒子化を促進することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸混合物と前記脂質溶液との混合の後、
前記核酸送達キャリアを含む溶液を濃縮することを更に含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸送達キャリアの品質を向上することを更に含む、請求項7~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
マイクロ流路を用いて行われる、請求項7~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された核酸及びアニオン性ポリマーとを含む核酸送達キャリアを用いて細胞に前記核酸を送達する方法であって、
前記核酸送達キャリアを前記細胞に接触させることを含む、
核酸送達方法。
【請求項13】
前記接触の前に、請求項7~11の何れか1項に記載の方法で前記核酸送達キャリアを製造することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された核酸及びアニオン性ポリマーとを含む核酸送達キャリアを細胞に接触させること、
前記細胞を培養すること、及び
培養された前記細胞のうち、前記核酸が導入された細胞を選択すること
を含む、
細胞製造方法。
【請求項15】
前記接触の前に、請求項7~11の何れか1項に記載の方法で前記核酸送達キャリアを製造することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された、レポーター遺伝子を含む核酸及びアニオン性ポリマーとを含む核酸送達キャリアを用いて細胞を検出する方法であって、
前記核酸送達キャリアを細胞に接触させること、
前記レポーター遺伝子からの信号を検出することと、
前記信号から前記細胞の特性を判定することと
を含む細胞検出方法。
【請求項17】
前記核酸は、前記細胞の特性に関与する遺伝子のプロモーターの下流に前記レポーター遺伝子が連結されたレポーター遺伝子発現カセットを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記接触の前に、請求項7~11の何れか1項に記載の方法で前記核酸送達キャリアを製造することを更に含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された、レポーター遺伝子を含む核酸及びアニオン性ポリマーとを含む核酸送達キャリア、並びに
前記レポーター遺伝子からの信号を検出するための試薬
を含む細胞検用のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、核酸送達キャリア、その製造方法、核酸送達方法、細胞製造方法、細胞検出方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子治療や遺伝子検査等の分野において、核酸等の小分子を細胞に送達する技術の開発が行われている。核酸を細胞へ送達する方法の一例として、核酸をリポソームなどの脂質膜に封入し、エンドサイトーシス等により核酸を細胞に送達する方法が挙げられる。送達した核酸に含まれる遺伝子を細胞内でより効率的に発現させる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、核酸を細胞に送達し、細胞内で遺伝子の発現をより促進することができる核酸送達キャリア、その製造方法、核酸送達方法、細胞製造方法、細胞検出方法及びキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に従う核酸送達キャリアは、脂質粒子と、脂質粒子に内包された核酸及びアニオン性ポリマーとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態の核酸送達キャリアの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の核酸送達キャリアで核酸を細胞に送達する様子の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態の核酸送達キャリアの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態の核酸送達キャリアの製造方法の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施形態の核酸送達キャリアの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施形態の核酸送達キャリアの製造方法に用いられるマイクロ流路の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態の核酸送達方法の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態の細胞製造方法の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態の細胞検出方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
以下、実施形態に従う核酸送達キャリア、その製造方法、核酸送達方法、細胞製造方法、細胞検出方法及びキットについて説明する。
【0009】
・核酸送達キャリア
例えば
図1の(a)に示す通り、核酸送達キャリア1は、脂質粒子2と、脂質粒子2に内包された核酸3及びアニオン性ポリマー4とを含む。
【0010】
脂質粒子2は脂質分子が配列して形成された脂質膜から構成され、中空の略球状である。脂質粒子2の内腔2aには、核酸3及びアニオン性ポリマー4が内包されている。アニオン性ポリマー4は、
図1の(b)に示すように脂質粒子2に内包されたうえで、更に脂質粒子2を構成する脂質膜中にも存在してもよい。
【0011】
核酸送達キャリア1は例えば核酸3を細胞内に送達するために用いられ得る。
図2に示すように、核酸送達キャリア1を細胞20に接触させることで、核酸送達キャリア1は細胞20に取り込まれ、脂質粒子2から核酸3が細胞20内に放出される。核酸3は例えば核21内に移行し、例えばそこにコードされた遺伝子が発現する。
【0012】
核酸送達キャリア1がアニオン性ポリマー4を含むことにより、細胞20における核酸3に含まれる遺伝子の発現強度が向上する。例えば、核酸3単独又はカチオン性の試薬を用いた場合と比較して2倍~4倍発現量が向上し得る。その理由の一つとして、アニオン性ポリマー4が存在することにより核酸3同士が適度な距離を保ち、核酸3の凝集又はねじれ等の変形が防止され、その結果、遺伝子発現に至るまで核酸3の立体構造が維持され、発現が促進されることが考えられる。
【0013】
以下、核酸3、アニオン性ポリマー4、脂質粒子2について詳しく説明する。
【0014】
核酸3は、例えばDNA、RNA及び/又は他のヌクレオチドを含む核酸である。核酸3は、例えば特定の遺伝子を含み、遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)、遺伝子をコードするDNA、遺伝子とプロモーター等の遺伝子を発現するためのその他の配列とを含む遺伝子発現カセットを含むDNA等であり得る。核酸3はベクターであってもよい。核酸送達キャリア1に内包される核酸3は1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0015】
アニオン性ポリマー4は、中性pHにおいて正味の負電荷をもつポリマーである。アニオン性ポリマー4は、例えばスルホン酸基、カルボキシ基又はリン酸基を少なくとも1つを含むことが好ましい。また、アニオン性ポリマー4は水溶性であることが好ましい。その場合、水性溶媒中でよく分散し、凝集を作らないため取り扱いやすい。
【0016】
アニオン性ポリマー4は、天然ポリマーであってもよいし、合成ポリマーであってもよい。天然ポリマーの例は、ヘパリン、ヘパリンナトリウム塩、ヘパリン硫酸、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸を含む多糖等を含む。合成ポリマーの例は、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸、ポリスルホンアミド等を含む。アニオン性ポリマー4は、生体適合性を有する、即ち生体に毒性又は悪影響がないものを用いることが好ましい。それは例えば天然ポリマーであり得る。
【0017】
アニオン性ポリマー4は、上記ポリマーから選択される1種類であってもよいし、複数種類のポリマーの混合物であってもよい。
【0018】
脂質粒子2の材料となる脂質は、例えば生体膜の主成分の脂質であってもよい。また、脂質は人工的に合成したものであってもよい。脂質は、例えば、リン脂質又はスフィンゴ脂質、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、ケファリン又はセレブロシド、或いはこれらの組み合わせ等のベース脂質を含み得る。
【0019】
例えば、ベース脂質として、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、
1,2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DPPC)、
1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、
1,2-ジ-O-オクタデシル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、
1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、
1,2-ジミリストイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(14:0 DAP)、
1,2-ジパルミトイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(16:0 DAP)、
1,2-ジステアロイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(18:0 DAP)、
N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイロキシ)プロパン(DOBAQ)、
1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホクロリン(DOPC)、
1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホクロリン(DLPC)、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、又は
コレステロール、
或いはこれらの何れかの組み合わせ等を用いることが好ましい。特にDOTAP及び/又はDOPEを用いることが好ましい。
【0020】
脂質は、生分解性脂質である第1の脂質化合物及び/又は第2の脂質化合物を更に含むことが好ましい。第1の脂質化合物はQ-CHR2の式で表すことができる。
(式中、
Qは、3級窒素を2つ以上含み、酸素を含まない含窒素脂肪族基であり、
Rは、それぞれ独立に、C12~C24の脂肪族基であり、
少なくとも一つのRは、その主鎖中又は側鎖中に、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-S-C(=O)-、-C(=O)-S-、-C(=O)-NH-、及び-NHC(=O)-からなる群から選択される連結基LRを含む)。
【0021】
第1の脂質化合物は、例えば下記式で表される構造を有する脂質である。
【0022】
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】
特に、式(1-01)の脂質化合物及び/又は式(1-02)の脂質化合物を用いることが好ましい。
【0023】
第2の脂質化合物は、P-[X-W-Y-W’-Z]2の式で表すことができる。
(式中、
Pは、1つ以上のエーテル結合を主鎖に含むアルキレンオキシであり、
Xは、それぞれ独立に、三級アミン構造を含む2価連結基であり、
Wは、それぞれ独立に、C1~C6アルキレンであり、
Yは、それぞれ独立に、単結合、エーテル結合、カルボン酸エステル結合、チオカルボン酸エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、カルバメート結合及び尿素結合からなる群から選ばれる2価連結基であり、
W’は、それぞれ独立に、単結合又はC1~C6アルキレンであり、
Zは、それぞれ独立に、脂溶性ビタミン残基、ステロール残基、又はC12~C22脂肪族炭化水素基である)。
【0024】
第2の脂質化合物は、例えば下記式で表される構造を有する脂質である。
【0025】
【化2-1】
【化2-2】
【化2-3】
特に、式(2-01)の化合物を用いることが好ましい。
【0026】
第1の脂質化合物及び第2の脂質化合物を含む場合、脂質粒子2への核酸3の内包量を増加させ、核酸3の細胞への導入効率を高めることが可能である。また、導入した細胞の細胞死も低減することができる。
【0027】
ベース脂質は、脂質材料の全体に対して30%~約80%(モル比)含まれることが好ましい。或いは、100%近くがベース脂質から構成されていてもよい。第1及び第2の脂質化合物は、脂質材料の全体に対して約20%~約70%(モル比)で含まれることが好ましい。
【0028】
脂質は、脂質粒子2同士の凝集を防止する脂質を含むこともまた好ましい。例えば、凝集を防止する脂質は、PEG修飾した脂質、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)ジミリストイルグリセロール(DMG-PEG)、オメガ-アミノ(オリゴエチレングリコール)アルカン酸モノマーから誘導されるポリアミドオリゴマー(米国特許第6,320,017号)又はモノシアロガングリオシド等を更に含むことが好ましい。このような脂質は、脂質粒子2の脂質材料全体に対して約1%~約10%(モル比)で含まれることが好ましい。
【0029】
脂質は、毒性を調整するための相対的に毒性の低い脂質;脂質粒子2に配位子を結合させる官能基を有する脂質;ステロール、例えばコレステロール等の内包物の漏出を抑制するための脂質等の脂質を更に含んでもよい。特に、コレステロールを含ませることが好ましい。
【0030】
例えば、脂質粒子2は、式(1-01)若しくは式(1-02)の化合物及び/又は式(2-01)の化合物と、DOPE及び/又はDOTAPと、コレステロールと、DMG-PEGとを含むことが好ましい。
【0031】
脂質の種類及び組成は、目的とする脂質粒子2の酸解離定数(pKa)若しくは脂質粒子2のサイズ、内包物の種類、或いは導入する細胞中での安定性等を考慮して適切に選択される。
【0032】
脂質粒子2は、マイクロ又はナノサイズの粒子であり得る。例えば、脂質粒子2は脂質ナノ粒子、リポソーム又はベシクル等と呼ばれる粒子であり得る。
【0033】
核酸送達キャリア1は、必要に応じて他の試薬を含んでもよい。他の試薬は、例えばpH調整剤、浸透圧調整剤、薬剤活性化剤及び/又は機能向上剤等であり得る。pH調整剤は、例えば、クエン酸等の有機酸及びその塩等である。浸透圧調整剤は、糖又はアミノ酸等である。薬剤活性化剤は、例えば核酸3の発現又は合成されたタンパク質の活性を補助する試薬である。機能向上剤は、詳しくは後述するが、核酸送達キャリア1の用途に応じて使用が求められる試薬である。
【0034】
・核酸送達キャリアの製造方法
核酸送達キャリア1の製造方法は、例えば
図3示す次の工程を含む:
核酸及びアニオン性ポリマーを混合して核酸混合物を得ること(第1混合工程S1)、及び
核酸混合物と、脂質とを混合すること(第2混合工程S2)。
【0035】
【0036】
(第1混合工程)
第1混合工程S1において、まず核酸3を含む核酸溶液5と、アニオン性ポリマー4を含むポリマー溶液6と用意する。核酸溶液5及びポリマー溶液6の溶媒は、例えば、水性溶媒であり、例えば、水、生理食塩水のような食塩水、グリシン水溶液又は緩衝液等である。
【0037】
次に、核酸溶液5及びポリマー溶液6を混合し、核酸混合物7を得る。混合した際はよく撹拌することが好ましい。核酸混合物7中の核酸3の濃度は、例えば0.01%~1.0%(重量)であることが好ましい。核酸混合物7における核酸3に対するアニオン性ポリマー4の混合比は限定されるものではないが、1:0.125~1:1(モル比)であれば、遺伝子発現がより促進されるためより好ましい。
【0038】
必要に応じて核酸送達キャリアに含まれ得る他の試薬は第1混合工程S1の前に核酸溶液5及び/又はポリマー溶液6に添加してもよいし、第1混合工程S1の後に添加してもよい。
【0039】
(第2混合工程S2)
第2混合工程S2において、まず核酸混合物7と、脂質8とを用意する。
【0040】
脂質8は、例えば有機溶媒に溶解した脂質溶液9の状態であり得る。有機溶媒は、例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、エーテル、クロロホルム、ベンゼン又はアセトン等である。脂質溶液9中の脂質8の濃度は、例えば0.1%~0.5%(重量)であることが好ましい。脂質粒子2を構成する脂質8の組成を所望の比率とするためには、脂質溶液9に含まれる脂質8の組成をその比率に設定すればよい。
【0041】
次に核酸混合物7と脂質8とを混合する。この時よく撹拌することが好ましい。混合により核酸3及びアニオン性ポリマー4を内包する脂質粒子2、即ち、核酸送達キャリア1が生成し、核酸送達キャリア1を含む溶液(以下、「脂質粒子溶液10」と称する)が得られる。
【0042】
核酸送達キャリア1が生成する過程で、
図1の(b)に示すような脂質膜中にアニオン性ポリマー4が存在する脂質粒子2が形成されるかどうかは、核酸混合物7のアニオン性と脂質8のカチオン性との中和の度合いに依存し得る。より中和状態に近い場合、一部のアニオン性ポリマー4は脂質8と相互作用したまま脂質粒子2の形成に参加する。その結果、脂質膜中にアニオン性ポリマー4が存在する核酸送達キャリア1が生成し得る。一方、核酸3については、アニオン性ポリマー4と比べて分子サイズが大きい(10~100倍)ため、核酸3と脂質8とが相互作用したまま脂質粒子2が形成されることは難しく、核酸3が脂質粒子2内に内包された状態のものが生成し得る。
【0043】
更なる実施形態において、
図5に示すように、第2混合工程S2の後、必要時応じて粒子化促進工程S3、濃縮工程S4及び品質向上工程S5を行ってもよい。
【0044】
粒子化促進工程S3は、第2混合工程S2の後、脂質粒子溶液10の有機溶媒の濃度を低下させて脂質8の粒子化をより促進する。例えば、第2混合工程S2で得られた混合液に水溶液を多量に添加することにより有機溶媒濃度を相対的に低下させることが好ましい。例えば、混合液の3倍量の水溶液を添加する。水溶液として、上記水性溶媒と同じものを用いることができる。この操作を行うことにより脂質8の粒子化がより促進され、より効率的に核酸送達キャリア1を得ることができる。
【0045】
濃縮工程S4は、脂質粒子溶液10を濃縮する。濃縮は、例えば脂質粒子溶液10から溶媒の一部及び/又は余った脂質8と核酸3とを除去することにより行われる。濃縮は、例えば限外ろ過により行うことができる。限外ろ過には、例えば細孔径2nm~100nmの限外ろ過フィルタを用いることが好ましい。例えばフィルタとしてAmicon(登録商標)Ultra-15(メルク)等を用いることができる。濃縮を行うことにより純度及び濃度の高い脂質粒子溶液10を得ることができる。濃縮後の脂質粒子溶液10の核酸送達キャリア1の濃度は1×1013個/mL~5×1013個/mL程度であることが好ましい。
【0046】
品質向上工程S5は、核酸送達キャリア1の品質を向上するための処理を行う。品質の向上とは、例えば核酸3の脂質粒子2からの漏出の防止、核酸3の脂質粒子2への内包量の向上、核酸3を内包する脂質粒子2の割合(内包率)の向上、核酸送達キャリア1同士の凝集の低減及び防止、及び/又は核酸送達キャリア1のサイズのばらつきの軽減等であり得る。例えば、品質を向上するために脂質粒子溶液10を冷却する処理を行ってもよい。
【0047】
このようにして、実施形態の核酸送達キャリア1を製造することができる。
【0048】
上記各工程は、例えば流路を用いて行ってもよい。
図6は流路の一例を示す。
図6の(a)は第1混合工程S1を行うための構成を有する第1混合用流路構造101を示し、
図6の(b)は第2混合工程S2を行うための構成を有する第2混合用流路構造102を示し、
図6の(c)は粒子化促進工程S3を行うための構成を有する粒子化促進用流路構造103を示し、
図6の(d)は濃縮工程S4を行うための構成を有する濃縮用流路構造104を示し、
図6の(e)は品質向上工程S5(冷却)を行うための構成を有する冷却用流路構造105を示す。
【0049】
第1混合用流路構造101はY字型の流路であり、分岐した一方の流路111の上流の端は、流路111にアニオン性ポリマー4を含むポリマー溶液6を注入するための注入口112を備える。分岐した他方の流路113の上流の端は、核酸3を含む核酸溶液5を流路113に注入するための注入口114を備える。
【0050】
流路111にポリマー溶液6を流し、流路113に核酸溶液5を流すと、流路111と流路113とが合流する流路115内でポリマー溶液6と核酸溶液5とが混合され、核酸混合物7が得られる。
【0051】
第2混合用流路構造102はY字型の流路であり、分岐した一方の流路121の上流の端は、流路115と連結している。分岐した他方の流路122の上流の端は、脂質溶液9を流路122に注入するための脂質注入口123を備える。
【0052】
流路121に核酸混合物7を流し、流路122に脂質溶液9を流すと、流路121と流路122とが合流する流路124内で脂質溶液9と核酸混合物7とが混合され、核酸送達キャリア1を含む脂質粒子溶液10が得られる。流路124は例えば蛇行流路又は分岐再合流路等、混合を促進する流路構造となっており、そこを通過することで2つの溶液がよく混合及び撹拌される。
【0053】
粒子化促進用流路構造103はY字型の流路であり、分岐した一方の流路131の上流の端は、第2混合用流路構造102の流路124と連結している。分岐した他方の流路132の上流の端は、水溶液を流路132に注入するための注入口133を備える。
【0054】
流路131に脂質粒子溶液10を流し、流路132に水溶液を流すと、流路131と流路132とが合流する流路134内で脂質粒子溶液10に水溶液が混合される。その結果、脂質粒子溶液10の有機溶媒の濃度が相対的に低下し、脂質8の粒子化がより促進される。
【0055】
濃縮用流路構造104は、流路141と、流路141の壁面に設けられたフィルタ142とを備える。流路141の上流の端は、粒子化促進用流路構造103の流路135と連結している。
【0056】
フィルタ142は例えば流路141の一部の壁面に代えて設けられている。フィルタ142として上で説明した何れかの限外ろ過用のフィルタを用いることができる。
【0057】
脂質粒子溶液10を流路141に流すことによって、残留した材料及び余分な溶媒等がフィルタ142を通過して流路141外に排出され、核酸送達キャリア1は流路141内に残り下流へと流れることで脂質粒子溶液10が濃縮される。
【0058】
冷却用流路構造105は、流路151と、流路151の周囲に設けられた温度調節機構152とを備える。流路151の上流の端は、流路141と連結している。温度調節機構152は、所望の冷却速度で流路151内の脂質粒子溶液10を自動的に冷却するように構成され及び制御されている。また、冷却後に融解を行うように構成され及び制御されていてもよい。流路151の下流の端は、冷却後の脂質粒子溶液10を回収するための排出口153を備える。
【0059】
上記の各流路は、例えばマイクロ流路であり、幅100μm~1000μm程であることが好ましい。
【0060】
流路内の液体の流れ、液体の流路内への注入、タンクからの液体の取り出し及び/又は脂質粒子溶液10の容器への収容等は、例えばこれらの操作が自動的に行われるように構成され及び制御されたポンプ又は押し出し機構等により行われ得る。
【0061】
以上に説明した流路を用いることにより、自動で且つ密閉状態で簡単に核酸送達キャリア1を製造することができる。加えて、流路内の限られた空間で反応が行われることから成分同士が遭遇しやすく反応が起こりやすいため、より効率よく核酸送達キャリア1を製造することが可能である。また用いられる溶液量が少量でよいことから、材料の節約になる。
【0062】
・核酸送達方法
次に実施形態の核酸送達キャリア1を用いた核酸送達方法について説明する。核酸送達方法は、例えば
図7の(a)に示すように、核酸送達キャリアを細胞に接触させること(接触工程S10)を含む。核酸送達キャリア1は予め製造されたものを入手して用意してもよく、又は核酸送達方法の実施者が製造してもよい。実施者が製造する場合、核酸送達方法は、
図7の(b)に示す通り、第1混合工程S1、第2混合工程S2、及び接触工程S10を含む。第1混合工程S1及び第2混合工程S2は、先に説明した手順と同様に行うことができる。
【0063】
以下、接触工程S10について説明する。
【0064】
まず、細胞20を用意する。細胞20は、ヒトの細胞であることが好ましいが、他の動物又は植物由来の細胞等であってもよい。細胞20は、生体外に取り出された細胞であることが好ましい。生体外に取り出された細胞は、例えば、対象から採取された血液、血球、尿、便、汗、唾液、口腔内粘膜、喀痰、リンパ液、髄液、涙液、母乳、羊水、精液、組織、バイオプシー、培養細胞等の生体物質、或いはそれらを材料として用いて調製された調製物等の試料に含まれる細胞であり得る。細胞20を含む試料をそのまま使用してもよいし、単離細胞、培養細胞又は株化細胞を培地、緩衝液又は生理食塩水等に懸濁した細胞懸濁液を使用してもよい。
【0065】
核酸送達キャリア1の細胞20への接触は、例えば、細胞20を含む試料、細胞懸濁液又は培地等に核酸送達キャリア1を添加することにより行われ得る。核酸送達キャリア1を添加した後、穏やかに撹拌することが好ましい。
【0066】
接触の前又は後に、細胞20の細胞膜に細孔を開ける処理を行ってもよい。例えば、処理は細胞20に電圧を印加する電気穿孔法又は超音波を印加する超音波穿孔法より行うことができる。この処理を行うことにより、核酸送達キャリア1が細胞20に取り込まれやすくなり、核酸送達効率が向上し得る。
【0067】
細胞20は、生体内の細胞であってもよい。その場合、例えばその生体に核酸送達キャリア1を含む組成物を注射又は点滴等により投与することで細胞20との接触を行うことができる。
【0068】
接触によって、例えばエンドサイトーシスにより核酸送達キャリア1が細胞20に取り込まれる。
【0069】
実施形態の核酸送達方法によれば、このように核酸3を細胞20内に送達することが可能であり、またアニオン性ポリマー4の使用により細胞20内での核酸3に含まれる遺伝子を高発現させることが可能である。
【0070】
・細胞製造方法
更なる実施形態によれば、アニオン性ポリマー4を用いて細胞20を製造する方法が提供される。本方法は、例えば
図8の(a)に示す次の工程を含む:
核酸送達キャリアを細胞に接触させること(接触工程S10)、
細胞を培養すること(培養工程S11)、及び
培養された細胞のうち、核酸が導入された細胞を選択すること(選択工程S12)。
【0071】
接触工程S10は、先に説明した手順と同様に行うことができる。核酸送達キャリア1は予め製造されたものを入手して用意してもよく、又は細胞製造方法の実施者が製造してもよい。実施者が製造する場合、細胞製造方法は、
図8の(b)に示すように第1混合工程S1、第2混合工程S2、接触工程S10、培養工程S11及び選択工程S12を含む。第1混合工程S1及び第2混合工程S2は、先に説明した手順と同様に行うことができる。
【0072】
培養工程S11において、接触工程S10で得られた細胞20を培養する。培養は、細胞20の生存に適するように設定された条件、例えば培地成分、温度条件及び二酸化炭素条件の下で行われればよい。培養は、例えば約4時間~約12時間以上に亘り行うことが好ましい。
【0073】
次に、選択工程S12において、核酸3が導入された細胞20を選択する。限定されるものではないが、例えば、核酸3に薬剤耐性遺伝子発現カセット又はレポーター遺伝子発現カセットを挿入しておくことで、核酸3が導入された細胞20を容易に選択することができる。薬剤耐性遺伝子発現カセットを用いた場合、細胞20を対応する薬剤で処理し、核酸3が導入されていない細胞20を死滅させることで選択を行うことできる。レポーター遺伝子発現カセットを用いる場合、レポーター遺伝子からの信号を検出し、信号が得られた細胞20を核酸3が導入された細胞20として取り出す、残す又は記録すること等によって選択を行うことできる。
【0074】
以上の工程を行うことにより、核酸3が導入された細胞20を製造することができる。当該細胞製造方法によれば、アニオン性ポリマー4の使用により細胞20内での核酸3に含まれる遺伝子の発現をより高発現する細胞20を得ることができる。
【0075】
以上に説明した核酸送達方法及び細胞製造方法は、例えば、限定されるものではないが、細胞の検出、細胞の機能改変、細胞の死滅及び細胞における物質生産等の分野において用いることができる。
【0076】
「細胞の検出」は、詳しくは後述の細胞の検出方法の項目において説明するが、例えば、レポーター遺伝子発現カセットを含む核酸3を、核酸送達キャリア1を用い細胞に導入し、レポーター遺伝子からの信号を検出することによって、所望の特性を有する細胞を検出することをいう。実施形態の核酸送達キャリア1を用いることで、遺伝子の発現量がより多いため、より感度の高い検出が可能である。
【0077】
「細胞の機能改変」は、例えば、細胞の機能を改変するための遺伝子を含む核酸3を、核酸送達キャリア1を用いて細胞に導入することによって、弱まった若しくは失われた細胞の正常な活性を補うこと、有害な細胞の活性を抑制すること又は細胞を分化させること等である。実施形態の核酸送達キャリア1を用いることで、遺伝子の発現量がより多いため、効率よく細胞の機能を改変することができる。細胞の機能改変は、例えば、遺伝子治療又は再生医療の分野等において行われてもよい。その場合、より治療の効果が高まる。再生医療に用いる場合は分化を促す遺伝子を高発現させて、所望の細胞への分化をより促進することができる。
【0078】
「細胞の死滅」とは、例えば、細胞を細胞死に導くことができる遺伝子を含む核酸3を、核酸送達キャリア1を用いて細胞に導入することによって、その細胞を死滅させることである。細胞の死滅は選択的であってもよく、例えば特定の性質を有する細胞を死滅させることであってもよい。或いは、遺伝子導入した細胞が選択的に死滅する薬剤を更に投与することによって細胞を死滅させてもよい。実施形態の核酸送達キャリア1を用いることで、遺伝子の発現量がより多いため、より効率よく細胞を死滅させることが可能である。細胞の死滅は、例えば遺伝子治療の分野等においても用いることが可能であり、より治療の効果が高まる。
【0079】
「細胞における物質生産」とは、例えば、所望の物質をコードする遺伝子を含む核酸を、核酸送達キャリア1を用いて細胞に導入することによって、細胞に所望の物質を生産させることである。実施形態の核酸送達キャリア1を用いることで、遺伝子の発現量がより多いため、より多くの物質を生産することができる。
【0080】
核酸送達キャリア1は、上記用途に応じて、所望の機能向上剤を含み得る。細胞の検出に用いる場合、機能向上剤は、例えば、レポーター遺伝子からの信号を検出するための試薬であり得る。この試薬は、例えば、レポータータンパク質の基質等を含む。細胞の機能改変に用いる場合、機能向上剤は、例えば、対象の細胞が引き起こす病害を予防、治療又は処置するための薬剤、例えば、抗癌剤、低分子若しくは抗体等、又は分化を促進する薬剤、或いはこれらの組み合わせ等を含む。細胞の死滅に用いる場合、機能向上剤は、例えば、アクチノマイシンD、シスプラチン、ベンダムスチン塩酸塩(Bendamustine hydrochloride)又はベツリン酸(Betulinic acid)、或いはこれらの組み合わせ等を含む。細胞における物質生産に用いる場合、機能向上剤は、例えば、転写促進剤等を含む。
【0081】
核酸送達キャリア1を上記用途以外に用いる場合もまた、機能向上剤は、その用途において用いられる所望の薬剤等を含んでもよい。これらの機能向上剤は、核酸3とともに脂質粒子内に内包されていてもよいし、核酸送達キャリア1を含む組成物に添加されてもよい。
【0082】
・細胞の検出方法
実施形態の核酸送達キャリア1を用いて細胞20を検出する方法について以下説明する。本方法は、例えば
図9の(a)に示す次の工程を含む:
核酸送達キャリアを細胞に接触させて核酸を細胞に送達すること(接触工程S10)、
核酸に含まれるレポーター遺伝子からの信号を検出すること(検出工程S13)、及び
信号の検出結果から細胞の特性を判定すること(判定工程S14)。
【0083】
本方法においては、例えば、細胞20の特性に関与する遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子が連結されたレポーター遺伝子発現カセットを含む核酸3を用いる。
【0084】
接触工程S10は、先に説明した手順と同様に行うことができる。核酸送達キャリア1は予め製造されたものを入手して用意してもよく、又は細胞製造方法の実施者が製造してもよい。実施者が製造する場合、細胞製造方法は、
図9の(b)に示すように第1混合工程S1、第2混合工程S2、接触工程S10、検出工程S13及び判定工程S14を含む。第1混合工程S1及び第2混合工程S2は、先に説明した手順と同様に行うことができる。
【0085】
検出工程S13において、レポーター遺伝子からの信号を検出する。レポーター遺伝子は、レポータータンパク質をコードする遺伝子であればよく、例えば青色蛍光タンパク質遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子又は赤色蛍光タンパク質遺伝子等の蛍光タンパク質の遺伝子;ホタルルシフェラーゼ遺伝子、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子又はNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ遺伝子等の発光酵素タンパク質の遺伝子;キサンチンオキシダーゼ遺伝子又は一酸化窒素合成酵素遺伝子等の活性酸素生成酵素の遺伝子;或いはβ-ガラクトシダーゼ遺伝子又はクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子等の発色酵素タンパク質の遺伝子等である。
【0086】
信号は、例えば、レポータータンパク質からの信号であり得る。信号の検出は、信号の有無の検出であってもよいし、信号の強度の検出であってもよい。信号の検出は、レポータータンパク質の種類及び/又は信号の種類に応じて選択された何れかの公知の装置を用いて行えばよい。装置の例は、発光測定装置、蛍光測定装置、X線測定装置、電子スピン共鳴装置、核医学診断装置、磁気共鳴イメージング装置及び/又は発光/蛍光顕微鏡等であり得る。この時、必要に応じて、上述した機能向上剤、例えば、レポータータンパク質の基質、また賦形剤、安定剤、希釈剤及び/又は補助剤等が用いられる。
【0087】
次に、判定工程S14において、信号の検出結果から細胞20の特性を判定する。信号の有無又は強度によってプロモーター活性の有無又は強弱を予測し、細胞20の特性を判定することができる。必要に応じて、細胞20の特性が既知の対象細胞から得られたレポータータンパク質からの信号強度(基準値)と検出工程S13で得られた信号強度とを比較することによって細胞20の特性を判定してもよい。
【0088】
信号の有無又は量は、例えば、検出された信号を自動的に数値化する公知の装置によって得てもよいし、発光/蛍光顕微鏡等を用いて細胞20を観察することにより得てもよい。細胞20の特性を判定することにより、所望の特性を有する細胞20を検出することができる。
【0089】
細胞20の特性とは、例えば細胞20が特定の機能を有するか否か、又は細胞20が異常な状態か否か等で有り得る。異常な状態とは、正常とは異なる機能を有する状態であり、例えば特定の疾患に罹患している状態であってもよい。疾患の例は、癌、精神疾患、生活習慣病、神経疾患、自己免疫疾患、及び循環器疾患等であってもよく、或いは前疾患状態、例えば、前癌状態、前糖尿病状態等であってもよい。例えば、疾患の細胞20を検出した場合には、細胞20を採取した対象がその疾患に罹患していると判定してもよい。したがって、本細胞の検出方法は疾患の診断にも用いることが可能である。
【0090】
当該方法によれば、アニオン性ポリマー4の使用によりレポーター遺伝子の発現量が多いため、細胞20の特性を高感度且つ高精度で判定し、所望の細胞20をより高感度且つ高精度で検出することができる。例えば、疾患の診断に用いる場合には、例えば疾患を早期に、また高感度に検出することも可能である。
【0091】
・キット
更なる実施形態によれば、核酸送達キャリア1を含むキットが提供される。キットは、上述の何れかの核酸送達キャリア1と、好ましくは機能向上剤を含む。
【0092】
核酸送達キャリア1は、溶媒と共に容器に封入されてキットに含まれ得る。溶媒は、例えば、HEPES緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝溶液、生理食塩水、或いは水等であり得る。キットは、複数種類の核酸送達キャリア1を含んでいてもよい。機能向上剤は、上述の何れかの機能向上剤である。キットは、複数種類の機能向上剤を含んでいてもよい。当該核酸送達キャリア及び機能向上剤は、個別に又は何れかが組み合わされて容器に含まれて提供され得る。
【0093】
キットは、細胞を検出するためのキットであってもよい。その場合、核酸送達キャリア1は、レポーター遺伝子発現カセットを含む核酸3を含み、機能向上剤は、レポーター遺伝子からの信号を検出するための試薬を含む。
【0094】
キットは、細胞20の機能を改変するためのキットであってもよい。その場合、核酸送達キャリア1は、細胞20の機能を改変するための遺伝子、例えば、新たな細胞20の機能を付加するための遺伝子、弱まった若しくは失われた細胞20の正常な機能を補うための遺伝子、細胞20内の有害な効果を抑制する遺伝子又は細胞20を分化させるための遺伝子等を含む遺伝子発現カセットを含む核酸3を含み、機能向上剤は、対象の細胞20が引き起こす病害を予防、治療又は処置するための薬剤、例えば、抗癌剤、低分子若しくは抗体等、又は分化を促進する薬剤、或いはこれらの組み合わせ等を含む。
【0095】
キットは、細胞20を死滅させるためのキットであってもよい。その場合、核酸送達キャリアに含まれる核酸は、細胞20を細胞20死に導く遺伝子を含む遺伝子発現カセットを含み、機能向上剤は、アクチノマイシンD、シスプラチン、ベンダムスチン塩酸塩又はベツリン酸、或いはこれらの組み合わせ等を含む。
【0096】
キットは、細胞20における物質生産を行うためのキットであってもよい。その場合、核酸送達キャリアに含まれる核酸は、細胞20に所望の物質を生産させるための遺伝子を含む遺伝子発現カセットを含み、機能向上剤は、転写促進剤等を含む。
【0097】
[例]
以下、実施形態の核酸送達キャリアを作成し、使用した例について説明する。
【0098】
・例1 脂質粒子の作製
脂質粒子に内包する核酸として、EGFP遺伝子をレポーター遺伝子として含むレポーターベクターを使用した。当該核酸は、遺伝子発現用プロモーターとしてのCMVプロモーターを含み、その下流にEGFP遺伝子と、シミアンウイルス40のポリA付加シグナル配列を含む。
【0099】
当該核酸と混合試薬とを混合して核酸混合物を作成した。混合試薬として、カチオン性ペプチドであるmHP、アニオン性ポリマーであるヘパリンナトリウム塩(シグマアルドリッチ製)、又はアニオン性ポリマーであるポリアクリル酸(サンフレッシュ(登録商標)、三洋化成製)を用いた。下記の表1に示す通り、核酸を単独で含む比較例1の核酸混合物、核酸とmHPとを混合した比較例2の核酸混合物、核酸とヘパリンナトリウム塩とを異なる比で混合した実施例1~5の核酸混合物、及び核酸とポリアクリル酸とを異なる比で混合した実施例6~10の核酸混合物を作成した。
【0100】
【表1】
次にFFT-20、DOPE、DOTAP、コレステロール及びDMG-PEGをそれぞれ32:5:9:51:3のモル比でエタノール中に溶解し脂質溶液9を得た。マイクロチューブに分注した脂質溶液9をボルテックスミキサーで撹拌しながら、等量の上記各核酸混合物を滴下して混合し、粒子化した。当該各脂質粒子溶液10を10mMHEPES(pH7.3)で10倍に希釈した後、限外濾過フィルタ(Amicon(登録商標)Ultra 0.5 Ultracel-50、Merck製)で濃縮し、比較例1、比較例2、実施例1~10の核酸送達キャリアを得た。
【0101】
・例2 内包核酸濃度の測定
例1で作製した各核酸送達キャリアの内包核酸濃度を、Quant-iTTMPicoGreen(登録商標)dsDNAアッセイキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いて測定した。測定は、キットに添付のマニュアルに従って行った。
【0102】
図10に、各核酸送達キャリアの内包核酸濃度を示す。比較例2(mHP使用)の内包核酸濃度は約140ng/μlであり、比較例1(核酸単独)の内包核酸濃度約80ng/μlの約1.7倍であった。実施例1~10(アニオン性ポリマー使用)は、比較例1と同等の内包核酸濃度を示した。
【0103】
・例3 遺伝子発現強度の測定
TexMACS培地(ミルテニーバイオテク製)で培養したヒトT細胞性白血病細胞(Jurkat、ATCC(登録商標)製)を遠心で回収した後、96ウェルプレートに2×105細胞/ウェルになるように播種した。核酸の総添加量が0.5μg/ウェルになるように、例1で作製した各核酸送達キャリアをウェルに添加した。その後、培養プレートをインキュベーターに収容し、細胞を37℃、5%CO2雰囲気で培養した。
【0104】
核酸送達キャリアの添加から24時間後、培養プレートをインキュベーターから取り出し、培養液全量をマイクロチューブに回収して、EGFP遺伝子から発現するGFPタンパク質の蛍光強度をフローサイトメーター(FACSVerse(登録商標)、BD製)で測定した。測定は、フローサイトメーターに添付のマニュアルに従って行った。
【0105】
図11にGFPタンパク質の蛍光測定の結果を示す。実施例1(核酸単独)の核酸送達キャリアを添加したJurkatでは約1500RLUの強度が得られたのに対して、比較例2(mHP使用)の核酸送達キャリアを添加したJurkatでは約2000RLUで、比較例1の約1.2倍の蛍光強度が測定された。一方、実施例1~10(アニオン性ポリマー使用)の核酸送達キャリアを添加したJurkatでは約3000~4800RLUで、比較例1の約2~3倍、比較例2の約1.5~2.4倍の高い蛍光強度が測定された。以上の結果から、アニオン性ポリマーと共に核酸を細胞に導入することで、細胞における遺伝子発現強度が向上することが示された。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1…核酸送達キャリア、2…脂質粒子、3…核酸、
4…アニオン性ポリマー、5…核酸溶液、6…ポリマー溶液、
7…核酸混合物、8…脂質、9…脂質溶液、10…脂質粒子溶液、
20…細胞、21…核。